説明

リポソーム

本発明によれば、リポソームの内腔に水溶性物質が封入され、リポソームの粒径が300nm以下であるリポソームを容易に作製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リポソームの内腔に水溶性物質が封入され、リポソームの粒径が300nm以下であって、トリグリセロールを含有するリポソームに関するものである。
【背景技術】
【0002】
リポソームは、脂質2重膜の閉鎖小胞であり、リポソーム内腔の水層に水溶性物質を保持し、脂質膜中に脂溶性物質を保持することができる。また、数10nm程度の小さい一枚膜リポソーム(SUV)、数100nm程度の大きい一枚膜リポソーム(LUV)または多重層リポソーム(MLV)等種々の形態および粒径のリポソームを用途に応じて作製することができる。
【0003】
リポソームは生体由来の生分解性脂質で構成されていることから、ドラッグデリバリーシステム(DDS)への応用が提唱されている。近年においては、リポソーム表面をポリエチレングリコールで修飾することにより生体内安定性を改善したリポソームの研究や、抗体等のリガンドを結合したリポソームの研究もなされている。
【0004】
リポソームのDDSへの実用化を考える場合には、内腔に封入する水溶性物質のリポソーム化効率(リポソームへの水溶性物質の封入率をいう。以下「封入率」と記載することがある)、リポソームの形態および粒径を考慮することが重要である。
【0005】
高い封入率を得る方法としては、シュナイダーのダブルエマルジョンを介した方法(W/O/W法)が挙げられる(特許文献1)。具体的には、水と不混和性の有機溶媒に、リン脂質あるいはリン脂質とコレステロールを溶解し、これに薬剤水溶液を混和し、この混合液を乳化することでwater in oil(W/O)エマルジョンを形成させる(1次乳化)。さらに、このエマルジョンを水相に移すことでwater in oil in water(W/O/W)エマルジョンを形成させる(2次乳化)。このW/O/Wエマルジョンから有機溶媒を除去し、リポソームを形成する。この方法に従うとインシュリン、トリプシン、アクチノマイシンD、アラビノースシトシン等を50〜80%という高い封入率でリポソーム化することができると考えられている。
【0006】
しかしながら、シスプラチンに代表されるような水溶性物質をW/O/W法に従って、リポソームの内腔に封入したところ内容物が漏れ出すという問題が生じた。
【0007】
W/O/W法において使用できる脂質として、上記特許文献1には、レシチン、フォスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミン等のリン脂質、コレステロール等のステロールに加え、ステアリルアミン等リンを含有しない脂質、ポリエトキシレート化された脂肪酸アミド等に加え複合脂質、グリセライド、セライド、エストライドが列挙されている。
【0008】
Kimらは、グリセライドの一種であるトリオレインをリポソームの構成成分として用い、通常のリポソームに比べて、粒径の大きいリポソーム(非特許文献1)や、巨大なリポソームが多くの小区画に分かれたマルチコンパートメントリポソーム(非特許文献2)を得ている。
【0009】
リポソームをDDSに応用する場合においては、リポソームの粒径が機能に大きな影響を与えることが知られている。例えば癌組織の血管は、正常組織の血管と異なりサブミクロンサイズのポアを有しており(非特許文献3)、リポソームが癌組織に選択的に到達するためには、リポソームの粒径が、正常組織の血管のポアサイズよりも大きく、癌組織の血管のポアサイズよりも小さい必要がある。血管内に各種サイズのリポソームを投与して癌組織への到達性を比較した実験(非特許文献4)では粒径が200nm以下のリポソームで良好な癌組織集積性を認めた。また、リポソーム等の経口吸収に関する研究においては、Janiら(非特許文献5)は、消化管粘膜から取り込まれる微粒子の割合は粒径に依存していることを示した。小さな粒子ほど消化管粘膜から吸収されやすく、リポソームの粒径が300nm以下になると経口投与したリポソームが血液中にも観察された。
【0010】
このように、リポソームをDDSに応用する為には、その用途に合わせて粒径をコントロールすることが重要である。
【0011】
しかしながら従来技術では、リポソームの粒径を300nm以下にコントロールすることは困難であった。
【特許文献1】米国特許第4224179号明細書
【非特許文献1】Biochim Biophys Acta, 646,1 (1981)
【非特許文献2】Biochim Biophys Acta, 728,339 (1983)
【非特許文献3】Proc.Natl.Acac.Sci.USA 95 (1998) 4607-4612
【非特許文献4】Inter.J.Pharm. 190 (1999)49-56
【非特許文献5】J.Pharm.Pharmacol 42(1990)821-826, Inter.J.Pharm. 86 (1992)239-246
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、リポソームの内腔に水溶性物質が封入され、リポソームの粒径が300nm以下であるリポソームを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者らは、従来の問題点を解決する為に誠意検討した結果、驚くべきことに、リポソーム作製時に少量のトリグリセロールを加えることで粒径が300nm以下であるリポソームを容易に作製できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)水溶性物質を内腔に封入し、粒径が300nm以下およびトリグリセロールを含有したリポソーム。
(2)水溶性物質を内腔に封入し、粒径が200nm以下およびトリグリセロールを含有したリポソーム。
(3)水溶性化合物の内腔への封入率が60%以上である上記1または2に記載のリポソーム。
(4)水溶性化合物の内腔への封入率が70%以上である上記1または2に記載のリポソーム。
(5)水溶性物質が、水溶性低分子化合物、蛋白質、核酸類、多糖類および/または指示薬である上記1から4のいずれかに記載のリポソーム。
(6)水溶性物質が、水溶性低分子化合物および多糖類である上記1から4のいずれかに記載のリポソーム。
(7)水溶性物質が、水溶性低分子化合物である上記1から4のいずれかに記載のリポソーム。
(8)水溶性低分子化合物がネダプラチン、シスプラチン、カルボプラチン、ゲムシタビンまたはAra-Cである上記5から7のいずれかに記載のリポソーム。
(9)多糖類がキトサン誘導体またはカルボキシル基を有する多糖類である上記5または6に記載のリポソーム。
(10)カルボキシル基を有する多糖類がカルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、コンドロイチンまたはコンドロイチン硫酸である上記9に記載のリポソーム。
(11)トリグリセロールがトリオレインである上記1から10のいずれかに記載のリポソーム。
(12)リガンドおよび/または水溶性合成高分子を有する上記1から11のいずれかに記載のリポソーム。
(13)リガンドを有する上記1から11のいずれかに記載のリポソーム。
(14)リガンドがターゲット細胞またはターゲット分子に結合するものである上記12または13に記載のリポソーム。
(15)リガンドが抗体または抗体のフラグメントである上記12から14のいずれかに記載のリポソーム。
(16)水溶性合成高分子が、ポリアルキレングリコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドンと無水マレイン酸との共重合体から選ばれる上記12に記載のリポソーム。
(17)水溶性合成高分子が、ポリアルキレングリコールである上記12または16に記載のリポソーム。
(18)ポリアルキレングリコールがポリエチレングリコールである上記16または17に記載のリポソーム。
(19)リガンドおよび/または水溶性合成高分子がリポソームの外部表面のみに結合している上記12から18に記載のリポソーム。
(20)上記1から19のいずれかに記載のリポソームを含有する医薬組成物。
(21)上記1から19のいずれかに記載のリポソームを含有する癌の診断および/または治療剤。
【発明の効果】
【0015】
上記のようにリポソームの形成脂質として少量のトリグリセロールを加えることによって、粒径が300nm以下のリポソームを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、透過型電子顕微鏡(ネガティブ染色)で観察した、蛍光物質封入リポソームの形態を示す写真である。A:トリオレイン含有リポソームを示す。B:トリオレイン不含有リポソームを示す。
【図2】図2は、リポソームの粒径および封入率に及ぼすトリオレイン量の影響を示す図である。A:縦軸はリポソームの封入率、横軸はトリオレインの添加量を総脂質に対するmol%として示す。B:縦軸はリポソームの粒径、横軸はトリオレインの添加量を総脂質に対するmol%として示す。ここで、リポソームの粒径は、動的光散乱法により測定した平均粒径を示す。
【図3】図3は、蛍光物質を封入したリポソームと細胞の反応性をフローサイトメトリーにより測定した結果を示す図である。図3中、1はリポソームを添加しない細胞の蛍光量のシフトを示す。図3中、2から5は、脂質量1.0 mg/ml、0.5 mg/ml、0.25 mg/ml、0.125 mg/mlからなる各リポソームと細胞を反応して得られた蛍光量のシフトを示す。A:蛍光物質を封入したTAT結合リポソームとヒト肺癌細胞との反応性を測定した結果を示す。B:TATを結合していない蛍光物質を封入したリポソームとヒト肺癌細胞との反応性を測定した結果を示す。
【図4】図4はネダプラチン封入TAT結合PEGリポソーム(▲)およびネダプラチン封入PEGリポソーム(■)のヒト肺癌細胞に対する抗腫瘍効果を示す図である。横軸はネダプラチンの濃度を示す。縦軸は対照(薬剤濃度0)の細胞数を100%とした生細胞率を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明における水溶性物質としては、水溶性低分子化合物、蛋白質、核酸類、多糖類または指示薬が挙げられる。水溶性低分子化合物としては、医薬品、診断薬が挙げられる。医薬品としては、ジクロフェナクナトリウム、ドブラマイシン等の抗炎症薬、リン酸ヒドロコルチゾンナトリウム、レボフロキサシン、シプロフロキサシン等の抗菌薬、アシクロビル、3TC、AZT等の抗ウイルス薬、サララシン、テノーミン、塩酸アモスラロール等の降圧薬、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、ゲムシタビン、Ara-C等の抗腫瘍薬が挙げられる。蛋白質としては、アルブミン、サイトカイン類、腫瘍抗原類または毒素類が挙げられる。サイトカイン類としてはTNF、インターフェロンまたはインターロイキン等が挙げられ、腫瘍抗原類としてはHer-2、CEAまたはAFP等が挙げられ、毒素類としてはジフテリアトキシンまたはリシンA鎖等が挙げられる。核酸としては、TNFなどのサイトカインをコードしたDNA類、p53などの腫瘍抑制遺伝子類をコードしたDNA類、チミジンキナーゼなどの自殺遺伝子類をコードしたDNA類、アンチセンスRNAまたはRNAi(RNA interference)作用を有するRNA類等が挙げられる。
【0018】
本発明における多糖類としては、キトサン誘導体またはカルボキシル基を有する多糖類等が挙げられる。カルボキシル基を有する多糖類としては、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、コンドロイチンまたはコンドロイチン硫酸が挙げられ、好ましくはカルボキシメチルセルロースが挙げられる。
【0019】
本発明における指示薬としては、蛍光色素や放射性元素が挙げられ、具体的にはインジウム、テクネシウムのイメ−ジング薬剤やホ−スラディシュパ−オキシダ−ゼ、アルカリフォスファタ−ゼ等の酵素、ガドリニュ−ムを含有するMRI造影剤、ヨ−ソを含有するX線造影剤、CO等の超音波造影剤、ユ−ロピウム誘導体、カルボキシフルオレッセイン等の蛍光体またはN−メチルアクリジウム誘導体等の発光体が挙げられる。
【0020】
また、水溶性低分子化合物、蛋白質、核酸類、多糖類または指示薬をそれぞれ単独でリポソームに封入しても良く、これらを組み合わせてリポソームに封入しても良い。例えば、水溶性低分子化合物および多糖類を組み合わせてリポソームに封入することが挙げられる。
【0021】
本発明における粒径としては、リポソームの平均粒径が300nm以下が挙げられ、好ましくは200nm以下が挙げられる。
【0022】
さらに、本発明におけるリポソームとしては、粒径が1μm以上のリポソームが5%以上混入しないもの、1μm以上のリポソームが1%以上混入しないもの、好ましくは1μm以上のリポソームが混入しないものが挙げられる。
【0023】
または、粒径が350nm以上のリポソームが20%以上混入しないもの、粒径が350nm以上のリポソームが10%以上混入しないもの、より好ましくは粒径が350nm以上のリポソームが混入しないものが挙げられる。
【0024】
さらに、粒径が250nm以上のリポソームが10%以上混入しないもの、最も好ましくは粒径が250nm以上のリポソームが混入しないものが挙げられる。
【0025】
リポソーム粒径の測定法としては、例えば、動的光散乱法が挙げられる(Liposome Technology, 2nd Edition Vol.1 Chapter 15 p254-269 (1993); CRC Press, Edited by Gregory Gregoriadis )。
【0026】
リポソームの粒径が著しく不均一である場合は、大粒径リポソームの混入が正確に反映されないため、動的光散乱法で測定するのは困難である。そのため、リポソームの粒径が著しく不均一である場合は、例えば、透過型電子顕微鏡を用いたネガティブ染色法(Biochimica et Biophysica Acta, 601(1980)559-571)、凍結電子顕微鏡撮影(Liposome Technology, 2nd Edition Vol.2 Chapter 14 p250-252 (1993); CRC Press, Edited by Gregory Gregoriadis)または原子間力顕微鏡(Thin solid films 273 (1996) 297-303)により観察することが好ましい。
【0027】
本発明におけるリポソームの形態としては、例えば、小さな一枚膜リポソーム(SUV)、大きな一枚膜リポソーム(LUV)、または多重層リポソーム(MLV)等が挙げられ、好ましくはSUVまたはLUVが挙げられる。
【0028】
本発明におけるトリグリセロールとしては、トリカプロイン(Tricaproin)、トリカプリリン(Tricaprylin)、トリカプリン(Tricaprin)、トリミリステイン(Trimyristin)、トリパルミチン(Tripalmitin)、トリリノレイン(Trilinolein)、トリオレイン(Triolein)が挙げられるが、好ましくはトリオレイン(Triolein)が挙げられる。トリグリセロールの添加量としては、総脂質の1〜15mol%が挙げられ、好ましくは2〜7mol%であり、さらに好ましくは3〜6mol%である。
【0029】
また、本発明におけるリポソームを形成し得る脂質としては、例えば、天然フォスファチジルコリン、合成フォスファチジルコリン、天然フォスファチジルエタノールアミン、合成フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルグリセロール、フォスファチジルセリン、フォスファチジルイノシトール、フォスファチジン酸等のリン脂質、スフィンゴ糖脂質またはグリセロ糖脂質等の糖脂質等が挙げられる。また、天然フォスファチジルコリンとしては、卵黄ホスファチジルコリン(EPC)または大豆ホスファチジルコリンが挙げられ、合成フォスファチジルコリンとしては、ジパルミトイルフォスファチジルコリン(DPPC)、ジミリストイルフォスファチジルコリン(DMPC)、ジステアロイルフォスファチジルコリン(DSPC)またはジオレオイルフォスファチジルコリン(DOPC)等が挙げられ、天然フォスファチジルエタノールアミンとしては、卵黄ホスファチジルエタノールアミン等が挙げられ、合成フォスファチジルエタノールアミンとしては、ジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミン等が挙げられ、フォスファチジルグリセロールとしては、ジパルミトイルフォスファチジルグリセロール等が挙げられる。これらの脂質は単独または2種以上、あるいはこれらの脂質とコレステロール等の非極性物質と組み合わせて用いられることもある。また、リン脂質とコレステロールを組み合わせて用いる場合はそのモル比は2:1から1:1程度が好ましいが、比率はこれに限定されない。さらに、本発明におけるリポソームには、上記の脂質成分に加え、必要に応じて乳化剤を混合することができる。乳化剤としては、オクチルグルコシドまたはコール酸等が挙げられる。
【0030】
また、本発明におけるリポソームの作製方法としては、本発明の目的が達成されるものであれば、いかなる既知の作製方法を用いても良いが、好ましくはエマルジョンを介した方法が挙げられる。具体的には、逆相蒸発法またはダブルエマルジョンを介した方法(W/O/W法)を用いることができる。例えば、W/O/W法においては、水と不混和性の有機溶媒に、リン脂質およびトリグリセロール、あるいはリン脂質とコレステロールおよびおよびトリグリセロールを溶解し、その後、薬剤水溶液と混合する。この混合液を乳化するとwater in oil(W/O)エマルジョンを形成し(1次乳化)、さらにこのW/Oエマルジョンを水相に移すことでwater in oil in water(W/O/W)エマルジョンが形成される(2次乳化)。さらに、2段階の乳化で得られたW/O/Wエマルジョンから有機溶媒を除去するとリポソームを形成することができる。
【0031】
また、ダブルエマルジョンを作製しリポソーム化する別の方法としては、転相乳化法(J.Colloid Interface Sci., 94, 362 (1983))が挙げられる。その他、1段階乳化法(特開昭59−193901)により得られたダブルエマルジョンからリポソームを作製しても良い。好ましくは2段階乳化で得られたダブルエマルジョンからリポソームを作製する方法等が挙げられる。
【0032】
ここで、2段階乳化のダブルエマルジョンからリポソームを作製する場合を例に挙げ、詳細に説明するが本発明はこれに限定されるものではない。
【0033】
2段階乳化のダブルエマルジョンからリポソームを作製する場合においては、まず、一次乳化に用いる有機溶媒に、リポソームを形成しうる脂質、必要に応じたリガンド結合用脂質および/または乳化剤を加えた有機溶媒相を調整した後に、封入すべき水溶性物質を含む水相を添加する。
【0034】
一次乳化に用いる有機溶媒としては水と混和しない、または、混和しにくい有機溶媒を用いることができ、例えばクロロホルム、ヘキサン、エーテル類、ベンゼン、エステル類、フロン類、超臨界状態のCO、ジクロロメタン、四塩化炭素等が挙げられる。これらの有機溶媒は単独または組み合わせて用いることができる。有機溶媒を組み合わせる場合には、有機溶媒相の比重がリポソームに封入すべき水溶液の比重に近いように混合比を調整することが望ましい。
【0035】
一次乳化の水相にリポソームに封入すべき物質を溶解する。この水相にはリン酸緩衝液のような緩衝液を用いることができる。また、緩衝液には必要に応じて塩化ナトリウムや低分子の糖(ショ糖、トレハロース、乳糖等)を加えて浸透圧および比重を調整したものを使用することができるが、10%程度の二糖類を加えた緩衝液を用いることが好ましく、10%程度のトレハロースを含有した中性の緩衝液を使用することがさらに好ましい。
【0036】
有機溶媒相と水相を混合する際には、水相は有機溶媒相より少ないことが必要である。好ましくは有機溶媒1容に対して0.01容から0.9容以下、より好ましくは0.01容から0.5容以下、さらに好ましくは0.1容から0.4容、最も好ましくは0.2容から0.3容を用いる。
【0037】
次に、これらの混合液を乳化しW/Oエマルジョンを作製する(一次乳化)。乳化はいかなる乳化技術を用いて行なっても良いが、例えば、超音波照射による乳化、激しい攪拌、ホモジナイザーあるいは高圧乳化装置を用いて行なうことができる。超音波照射はバス型のものやプローブ型あるいは連続型を用いることができる。また高圧乳化装置はナノマイザー(吉田機械興業)あるいはマイクロフルイダイザー(みずほ工業)の名称で市販されており、これらの装置を用いることができ、好ましくは超音波照射が挙げられ、より好ましくは高圧乳化装置が挙げられる。
【0038】
一次乳化により得られるW/Oエマルジョンのサイズとしては、好ましくは10nmから150nmであることが挙げられ、より好ましくは30nmから100nmであることが挙げられ、最も好ましくは40nmから80nmであることが挙げられる。
【0039】
また、一次乳化においては、乳化する温度をリポソームを形成しうる脂質の相転移温度より高い温度で行なうことが望ましい。例えばリン脂質としてDPPCを用いる場合は42℃以上で行なうことが望ましい。
【0040】
次に、得られたW/Oエマルジョンを攪拌しながら第二の水相に添加することによってダブルエマルジョン(W/O/W)を形成する。
【0041】
第二の水相としては、純水または緩衝液を用いることができる。緩衝液には必要に応じて塩化ナトリウムや低分子の糖(ショ糖、トレハロース、乳糖等)を加えて浸透圧および比重を調整したものを使用することができるが、10%程度の二糖類を加えた緩衝液を用いることが好ましく、10%程度のトレハロースを含有した中性の緩衝液を使用することがさらに好ましい。このとき、塩化ナトリウムや低分子の糖は、リポソームの内部水相および/または外部水相に存在してもよい。好ましくは、塩化ナトリウムや低分子の糖が、リポソームの内部水相および外部水相に存在していることが挙げられる。
【0042】
得られたダブルエマルジョンをさらに攪拌しながら、有機溶媒を除去することでリポソームを形成する。
【0043】
有機溶媒の除去は、ダブルエマルジョンに空気、窒素ガスやアルゴンガスのような不活性ガスを吹きつけることによって行なうことができるが、より好ましくは不活性ガスを吹きつけながら減圧することによって行なう。必要に応じて溶液の温度を40℃〜60℃にして行なうこともできる。このようにして得られたリポソーム溶液はそのまま、あるいは限外濾過膜やゲル濾過により精製して用いることができる。
【0044】
本発明において水溶性物質の内腔への封入率としては、60%以上であることが挙げられ、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、最も好ましくは80%以上であることが挙げられる。
【0045】
また、本発明においては、リガンドや水溶性合成高分子をリポソーム表面に結合させて使用することも可能である。
【0046】
本発明のリガンドとしては、ターゲット細胞またはターゲット分子に結合するものが挙げられ、例えば、単糖、オリゴ糖、多糖などの糖類、ペプチド、各種抗体、線維芽細胞成長因子(FGF)、上皮細胞成長因子(EGF)等の成長因子または増殖因子等のタンパク質が挙げられるが、好ましくは抗体が挙げられる。本発明における抗体としては、抗体自体および抗体フラグメントのほか、誘導体化または修飾した抗体などを包含しており、最も広義に解釈しなければならない。
【0047】
また、抗体としては各種動物のポリクロ−ナル抗体、マウスモノクロ−ナル抗体、ヒト−マウスキメラ抗体またはヒト型モノクロ−ナル抗体およびヒトモノクローナル抗体が挙げられるが、好ましくはヒトモノクロ−ナル抗体が挙げられる。さらに好ましくは癌反応性のヒトモノクロ−ナル抗体が挙げられる。
【0048】
ここでターゲット細胞とは、リポソームを用いて封入した物質を送達させようとする細胞であり、例えば癌細胞、癌組織の血管内皮細胞、癌組織の間質細胞等が挙げられる。ターゲット分子とは、ターゲット細胞の細胞質内の分子、核内の分子、あるいは細胞表面の分子等いかなる分子でも良いが、好ましくは細胞表面の分子である。ターゲット分子の別の形態として、細胞から放出された分子が挙げられる。例えば、癌細胞や癌組織の間質細胞の分泌物や構築物であってもが挙げられ、具体的には腫瘍マーカーや細胞間の構造物等が挙げられる。
【0049】
本発明における水溶性合成高分子としては、ポリアルキレングリコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドンと無水マレイン酸との共重合体が挙げられる。ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール等が挙げられ、好ましくはポリエチレングリコールが挙げられる。ここで、ポリエチレングリコールを用いる場合には、分子量が2,000〜7,000ダルトン程度のものが挙げられ、好ましくは約5,000ダルトン程度のものが挙げられる。
【0050】
水溶性合成高分子は、リポソームの内部および/または外部のいずれに結合していてもよいが、好ましくはリポソームの外部のみに結合している場合が挙げられる。
【0051】
リポソームにリガンドを結合する際には、公知あるいは今後考案されるいかなる方法を用いてリガンドを結合しても良い。
【0052】
例えば、リポソームを形成しうる脂質として、マレイミド基やスクシンイミド基等の官能基を有する脂質と、他のリポソームを形成しうる脂質を用いてリポソームを作製した後、当該官能基と結合しうるチオール基やアミノ基等の反応性部分を有するリガンドを添加することにより、リガンド結合リポソームを作製することができる。リポソームを形成しうる脂質の官能基とリガンドの反応性部分の組み合わせとしては、リポソームとリガンドの結合を達成しうる如何なる組み合わせを用いても良く、限定されるものではないが、マレイミド基とチオール基、スクシンイミド基とアミノ基、アミノオキシ基またはヒドラジド基とアルデヒド基等の組み合わせを挙げることができる。好ましくはマレイミド基とチオール基の組み合わせが挙げられる。
【0053】
限定されるものではないが、官能基を有する脂質としてε―マレイミドカプロイルジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミンのようなマレイミド基を有する脂質によりリポソームを作製する場合は、反応性部分としてチオール基を有するリガンドを中性pH付近で反応させることで容易にリガンド結合リポソームを作製することができる。
【0054】
ここで、リガンドに反応性部分としてチオール基を導入する方法としては、本発明の目的が達成されるものであればいかなる方法を用いてもよいが、本発明のリガンドがペプチドの場合はペプチド配列の一部にシステインを挿入する方法が挙げられる。
【0055】
リガンドが抗体の場合は、抗体にイミノチオランを反応させチオール基を導入する方法、S-アセチルチオグリコール酸N-ヒドロキシスクシンイミドを反応させた後、ヒドロキシルアミンで処理することによりチオール基を導入する方法、抗体を酵素処理した後、還元することでFab’フラグメントを作製し、抗体の内在性チオール基を利用する方法等が挙げられる。
【0056】
また、別の実施形態として、先にリガンドを結合させたリガンド結合脂質を合成し、これと他のリポソームを形成しうる脂質を用いてリポソームを作製することで、リガンド結合リポソームを作製する方法が挙げられる。
【0057】
さらに別の形態として、リポソームとリガンドの間に水溶生合成高分子を結合させる方法が挙げられる。水溶性合成高分子のうちPEGを用いる場合は、FEBS letter 413(1997)177―180、Biochemistry36(1997)66―75、Biochimica Et Biophysica Acta 1513(2001)207-216、欧州特許第0903152号明細書等に記載の方法に従い作製することができる。
【0058】
本発明においては、リガンドを単独でリポソームに結合しても良く、リガンドおよび水溶性合成高分子の両方をリポソームに結合しても良く、あるいは水溶性合成高分子のみをリポソームに結合しても良いが、リガンドと水溶性合成高分子の両方を結合したリポソームが好ましい。
【0059】
ここでリガンドおよび/または水溶性合成高分子をリポソームに結合させる方法や順番は特に限定されるものではないが、好ましくは欧州特許第0903152号明細書等に記載の方法に従うことが挙げられる。
【0060】
リポソームに水溶性合成高分子を結合させる方法としては、水溶性合成高分子に脂質部分を導入した誘導体を作製し、これを他のリポソームを形成しうる脂質と共に用いてリポソームを作製する方法(FEBS letters 268(1990)235-237)、あるいは上述したチオール基やアミノ基等の反応性部分を導入した水溶性合成高分子を、リポソームと反応させる方法等を用いることができるが、好ましくは、反応性部分を導入した水溶性合成高分子をリポソームと反応させる方法が挙げられる。
【0061】
例えばポリエチレングリコールを例に挙げて説明すると、欧州特許出願公開第526700号明細書に記載のチオール基を有するPEGを、ε―マレイミドカプロイルジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミンを有するリポソームと結合することで容易にPEG化リポソームを作製することができる。
【0062】
本発明で得られたリポソームは、例えば、欧州特許出願公開第526700号明細書または欧州特許出願公開第520499号明細書に記載の方法により製剤化することができ、該複合体を、癌等の各種疾患の治療のために、血管内投与、膀胱投与、腹腔内投与、局所投与等の方法で患者に投与することができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
実施例1
卵黄ホスファチジルコリン(EPC)およびコレステロールは、日本油脂社より入手した。トリオレイン(Triolein)および5 (6)-カルボキシフルオレセイン(5(6)
-Carboxyfluorescein)はシグマ社より購入した。
【0065】
W/O emulsionの調製(1次乳化)
EPC 59.7 mg(81.4μmol)、コレステロール15.75 mg(40.7μmol)およびトリオレイン4.1μmolをジクロロメタンに溶解後、窒素気流下に乾燥し乾燥脂質混合物を調整した。
【0066】
調製した脂質乾固物を、クロロホルム/ヘキサン (1:1、V/V)混液1mLに溶解した。この脂質溶液に5 (6)-
Carboxy fluorescein(CF)溶液(PBSに溶解した8mM CF200μLに70%シュクロース33μLを加えたもの:シュクロースの終濃度10%)233μLを添加した。これを55℃の湯浴で温めながら、ホモジナイザー(ポリトロン; KINEMATICA GmbH, PCU1, Ser nr 5239)を用いて、出力5で20分間予備乳化を行なった。次に、プローブ型ソニケーター(Branson Sonifier 450)を用いてPower= 1; cycle= 50 %で30分間超音波照射することで1次乳化を行なった。
【0067】
W/O/W emulsionの調製(2次乳化)
バイアルビンに、分散相となるリン酸緩衝シュクロース水溶液(9mM リン酸、0.13M NaCl、10%ショ糖溶液(pH7.4))を入れて55℃に合わせ、撹拌しながら、一次乳化サンプルを10分間かけて滴下した。W/O emulsionが分散相の中に全部出たところで、窒素を15mL/minでふきつけながら真空ポンプで減圧することにより、溶媒を除去した。サンプルの透明度が増加した時点で、さらに100mmHgまで減圧し、有機溶媒のトレースを除去した。生成したリポソームサンプルは、15 mLのポリプロピレン製のチューブに移し氷上で保管した。
【0068】
封入率の算出
蛍光色素の封入率を下記のように算出した。すなわち、リポソーム原液50 μLに4% SDS/PBS溶液を50 μL加え、55℃で2分加温後、バス型ソニケーターで30秒間の超音波処理を二回繰り返した。軽く遠心し溶液を集めた後、2% SDS/PBSを900μL加え、同様に超音波処理を2度繰り返した。可溶化したリポソームサンプルを20℃、15,000rpmで20分間遠心して、上清の492nmの吸光度を測定した。この値をCFの検量線から定量し全CF濃度([ALL])を算出した。
【0069】
非封入CF量は限外濾過装置を用いて測定した。すなわち、PBSで適宜希釈したリポソーム溶液300μLをスピンカラム(Ultrafree(登録商標)-0.5 Biomax-100、ミリポア社)に入れて、0℃、5000 rpmで遠心することにより、限外濾過液約200μLを分離した。得られた濾過液100μLに4% SDS/PBSを100μL加え、さらに2% SDS/PBSを800μL加えてよく混合し、492nmにおける吸光度を測定した。検量線から算出したCF濃度と希釈率から、リポソームに封入されなかったCF量([Pass])を算出した。
【0070】
封入率(%)は([ALL]-[PASS])x100/[ALL] で算出した。
【0071】
動的光散乱法による粒径測定
リポソーム溶液をPBSで希釈し、動的光散乱法(Photal ELS-800 大塚電子)により粒径を測定した。粒径はキュムラント法により算出された平均粒径(以下、単に粒径と記す場合がある)で表示した。
【0072】
上述のようにトリオレインを含有する脂質を用いて、ダブルエマルジョンを介する方法によりリポソームを形成させた結果、リポソームの動的光散乱法による平均粒径は181nmであり、封入率は69%であった。
【0073】
実施例2
DPPC/Chol/MC−DPPE(モル比18:10:0.5)からなる脂質混合物PL -M1 (日本油脂社)75mg(総脂質122.1μmol、DPPC:77.2μmol,Chol:42.9μmol,MC-DPPE:2.1μmol)に、コレステロールの10mol%に相当する4.3μmolのトリオレインを添加した脂質混合物を用い、超音波照射時間を20分にすること以外は、実施例1と同様にしてリポソームを形成し、リポソームの粒径と封入率を測定した。
【0074】
その結果、リポソームの平均粒径は174nm でありCFの封入率は73%であった。
【0075】
さらに電子顕微鏡による観察を行なった。コロジオン膜付メッシュにリポソーム試料を接触させた後、脱塩水で希釈し、ろ紙で水分を吸着した。直ちに2%酢酸ウラニル染色液に接触し(約10秒)、再度ろ紙で水分を吸収した。自然乾燥させた後、透過型電子顕微鏡(日立H−9000NA、100kV、対物絞り3)で観察したところ、図1のAに見られるように小粒径のリポソームが観察され、350nm以上のリポソームの混在は認められなかった。
【0076】
対照例1
実施例2の対照例としてトリオレインを含有しない脂質組成で同様にリポソームを作製した。
【0077】
その結果、リポソームの平均粒径は239nm でありCFの封入率は55%であった。さらに電子顕微鏡で形態を観察したところ、図1のBに見られるように350nm以上のリポソームの混在が認められた。実施例2および対照例1の結果より、トリオレインを添加することにより、高い封入率でサイズの小さなリポソームが得られることが示された。
【0078】
実施例3
75mg(総脂質122.1μmol、DPPC:77.2μmol,Chol:42.9μmol)のPL-M1に、コレステロールの10mol%に相当する4.3μmolのトリカプリリン(Tricaprylin:シグマ社)を添加した脂質混合物を用い、実施例2と同様にしてリポソームを形成し、リポソームの粒径と封入率を測定した。
【0079】
その結果、粒径は178.5nm でありCFの封入率が65%のリポソームが得られた。
【0080】
実施例4
75mg(総脂質122.1μmol、DPPC:77.2μmol,Chol:42.9μmol)のPL-M1に、コレステロールの10mol%に相当する4.3μmolのトリカプリン(Tricaprin:シグマ社)を添加した脂質混合物を用い、実施例2と同様にしてリポソームを形成し、リポソームの粒径と封入率を測定した。
【0081】
その結果、粒径は169.7 nm でありCFの封入率が65%のリポソームが得られた。
【0082】
実施例5
75 mg(総脂質122.1μmol、DPPC:77.2μmol,Chol:42.9μmol)のPL-M1に、コレステロールの10mol%に相当する4.3μmolのトリミリスチン(Trimyristin:シグマ社)を添加した脂質混合物を用い、実施例2と同様にしてリポソームを形成し、リポソームの粒径と封入率を測定した。
【0083】
その結果、粒径は170.5 nm でありCFの封入率が60%のリポソームが得られた。
【0084】
実施例6
75 mg(総脂質122.1μmol、DPPC:77.2μmol,Chol:42.9μmol)のPL-M1に、コレステロールの10mol%に相当する4.3μmolのトリパルミチン(Tripalmitin:シグマ社)を添加した脂質混合物を用い、実施例2と同様にしてリポソームを形成し、リポソームの粒径と封入率を測定した。
【0085】
その結果、粒径は170.5 nm でありCFの封入率が65%のリポソームが得られた。
【0086】
実施例7
75 mg(総脂質122.1μmol、DPPC:77.2μmol,Chol:42.9μmol)のPL-M1にトリオレインを総脂質のmol%として0、 1.8、 3.6、7.0、14.0(コレステロールに対するmol%としては0、5.0、10.0、20.0、40.0)混合し、実施例2と同様にしてCF封入リポソームを作成した。得られたリポソームの粒径と封入率を同様に測定した。
【0087】
その結果を図2に示す。CFの封入率はトリオレインの添加量が総脂質の1.8mol%(コレステロールの5mol%)程度から向上し、総脂質の3.6mol%(コレステロールの10mol%)程度で70%を超えほぼプラトーに達した。リポソームの粒径に関しても総脂質の1.8mol%から14mol%まで200nm未満であった。
【0088】
この結果より、封入率および粒径の点からトリオレイン量が脂質総量の3.6mol%から7.0mol%が効果を発揮するのに良好であると考えられた。
【0089】
実施例8
リポソーム構成脂質として、DPPC/コレステロール/MC-DPPE/トリオレイン(1.8:1:0.05:0.1 モル比)からなる脂質混合物30、45、60、75、90、105 mgを用い実施例1と同様にしてCF封入リポソームを作製した。その結果、CFの封入率は脂質量の増加に従い増加し、75mgの脂質量まで急激に封入率が増加し、その後の脂質量の増加では封入率の増加の程度はゆるやかであった。脂質量75mg以上では封入率>70%が得られた。一方、トリオレイン不含で同様にして作製したリポソームの場合は、使用する脂質量に従い封入率の増加が見られたものの、トリオレイン含有のものより封入率は低く、脂質量75mgでの封入率は約55%であった。
【0090】
この結果より、本スケールでの脂質混合物の量は75mgが適していることが明らかとなった。
【0091】
実施例9
75 mg(総脂質122.6 μmol、DPPC:78.8 μmol,Chol:43.8μmol)のPL-M1に、コレステロールの10mol%に相当する4.3μmolのトリオレインを添加した脂質混合物を用い、封入する水溶液をシスプラチン水溶液(1.5 mg/mLでPBSに溶解)に変更した以外は実施例1と同様にしてリポソームを作製し、リポソームの粒径を測定した。作製したリポソームとフリーのシスプラチンをNAP-5カラム(Amersham社)により分画した。元のリポソームとリポソーム画分内のシスプラチンの含有量をICP-AES法で、脂質の量をHPLC法(L-Column, THF:AcCN:H2O = 2:1:2 0.1% TFA, 215 nm, 1 mL/min)により定量し、単位脂質当たりのシスプラチンの量を算出することにより封入率を求めた。
【0092】
その結果、粒径は134 nm でありシスプラチンの封入率が70%のリポソームが得られた。
【0093】
実施例10
75 mg(総脂質122.1μmol、DPPC:77.2μmol,Chol:42.9μmol)のPL-M1に、コレステロールの10mol%に相当する4.3μmolのトリオレインを添加した脂質混合物を用い、封入する水溶液をアラビノースシトシン水溶液(100 mg/mLでPBSに溶解)に変更した以外は実施例1と同様にしてリポソームを作製し、リポソームの粒径を測定した。実施例1と同様にして、フリーのアラビノースシトシンとリポソームを分けた。
【0094】
アラビノースシトシンの量は、サンプルをSDSで可溶化した後、270 nmにおける吸光度を測定することで行なった。また脂質量はリン脂質定量キット(和光純薬)により定量した。
【0095】
その結果、粒径が170 nmで封入率が80%のリポソームが得られた。
【0096】
実施例11
75 mg(総脂質122.1μmol、DPPC:77.2μmol,Chol:42.9μmol)のPL-M1に、コレステロールの10mol%に相当する4.3μmolのトリオレインを添加した脂質混合物を用い、封入する水溶液をブルーデキストラン水溶液(100mg/mLでPBSに溶解、Pharmacia社)に変更した以外は実施例1と同様にしてリポソームを作製し、リポソームの粒径を測定した。作製したリポソームサンプルをPBSで等倍希釈し、4℃、15,000 rpmで一時間遠心した。この遠心後のサンプルの上澄みと元のサンプル内に含まれるブルーデキストランの量を比較することにより封入率を算出した。
【0097】
その結果、粒径は232 nmで、封入率は72.3%のリポソームが得られた。
【0098】
実施例12
1.5 g(総脂質2442μmol、DPPC:1544 μmol, Chol:858 μmol, MC-DPPE 40 μmol)のPL-M1に、コレステロールの10mol%に相当する86 μmolのトリオレインを添加した脂質混合物を20 mLのクロロホルム/ヘキサン 1:1混液に溶解した。この脂質溶液にカルセイン(Calcein)溶液(PBSに溶解した10 mM Calcein 4000μLに70%シュクロース666μLを加えたもの:シュクロースの終濃度10%)4666mlを添加した。これを55℃の湯浴で温めながら、ホモジナイザーを用いて、出力5で20分間予備乳化を行なった。次に高圧乳化機 (超微粒化卓上実験装置 YSNM-1500-0005、吉田機械興業株式会社)を用いて、吐出圧が30 MPaぐらいになるように調節しながら衝突型ジェネレーターを4回、6回または8回通すことによって一次乳化を行った。
【0099】
一次乳化産物1 mLずつをサンプリングし、実施例1と同様にしてリポソームの調製を行い、リポソームの粒径と封入率を測定した。4回、6回、8回の処理それぞれにおいて、粒径は117.3 nm、118.8 nm、121.7 nmで、封入率は82%、72.9%、74.3%のリポソームが得られた。
【0100】
実施例13
EPC 4.0mmolとコレステロール2.0mmolおよびトリオレイン0.2mmolをジクロロメタンに溶解後、窒素気流下に乾燥し乾燥脂質混合物を調整した。
【0101】
調製した脂質乾固物を、クロロホルム/ヘキサン (1:1、V/V)混液50mLに溶解した。この脂質溶液に実施例1と同様にして調整したショ糖を含有したCF溶液 11.7mlを添加した。混合した後、高圧乳化機(貫通型ジェネレーター装着ナノマイザー、吉田機械興業製)に3回通すことで1次乳化を行なった。
【0102】
その一部を用い、実施例1と同様に2次乳化およびリポソーム化を行なった。
【0103】
得られたリポソームの粒径を動的光散乱法により測定したところ161.3nmであった。また封入率は73.4%であった。
【0104】
実施例14
実施例12で作製したリポソームの10.2 μmol(総脂質量、マレイミド量としては178.2 nmol)にアミノ酸配列GRKKRRQRRRPPQCからなるペプチド(以下TATペプチドと記載する)11.1 nmolを加えて一晩反応させた後、セファロースCL4B(登録商標)カラム(アマシャムバイオサイエンス社)を用いてリポソーム画分を精製した。得られたリポソームの脂質量をリン脂質定量キット(和光純薬)を用いて定量した。リポソームサンプルをDMEM/F12培地で希釈し(脂質濃度として0.125, 0.25, 0.5, 1.0 mg/ml)、ヒト肺癌細胞株(HLC)と37℃で1.5時間インキュベートした。細胞を洗浄後、フローサイトメター(FCM)および共焦点蛍光顕微鏡で細胞を観察した。FCM解析結果を図3に示す。TATを結合していないリポソームは細胞と反応しなかったが、TATを結合したリポソームは細胞と反応していることが確認された。また、同様に共焦点蛍光顕微鏡観察でもTAT非結合リポソームに比べTATリポソームで明らかな細胞との結合が観察され、一部の細胞はTATリポソームを細胞内に取り込んでいる様子が観察された。
【0105】
実施例15
CFに換えて8.6mg/mlのウシ血清アルブミン溶液11.7ml(リン酸緩衝シュクロース水溶液に溶解)を用いること以外は、実施例13と同様にしてリポソームを作製した。得られたリポソームは、セファロースCL6B(登録商標)カラム(アマシャムバイオサイエンス社)を用いて精製することで非封入のアルブミンを除いた。得られたリポソームの粒径を動的光散乱法で測定したところ平均粒径は183nmであった。また、リポソームの一部をSDS電気泳動に供しCBBで染色した。同様に既知量のアルブミンを電気泳動し検量線を作成し、アルブミン量を定量した。また、脂質量はリン脂質定量キット(和光純薬)を用い定量した。
【0106】
その結果、リポソームへの封入率は69%であった。
【0107】
実施例16
DPPC 1.58mmol、コレステロール878 μmolおよびトリオレイン 88 μmolを添加した脂質混合物を30 mLのクロロホルム/ヘキサン1:1混液に溶解した。
カルボキシメチルセルロース(ICN Biomedicals Inc、Low viscosity)(12.5mg/mlのPBS溶液)6mlにシスプラチン60mgを添加して加温し溶解した。このシスプラチン/カルボキシメチルセルロース溶液4mlに70%シュクロース666μLを加え薬剤溶液とした。この薬剤溶液を上記脂質溶液に添加し予備乳化を行った後、実施例12と同様にナノマイザーに6回通すことで一次乳化を行った。得られたエマルジョン用いて、実施例1と同様に2次乳化およびリポソーム化を行った。
【0108】
その結果、得られたリポソームの粒径を動的光散乱法により測定したところ163.8 nmであった。また封入率は77.6%であった。
【0109】
実施例17
DPPC 58mg、コレステロール17mgおよびトリオレイン3.9μLにジイソプロピルエーテル1mlを加えた。これにカルセイン溶液233μLを添加した。これを60℃の湯浴で温めながら、実施例1と同様にプローブ型ソニケーター(Branson Sonifier 450)を用いてPower= 1; cycle= 50 %で20分間超音波照射することで1次乳化を行なった。さらに実施例1と同様に、2次乳化を行ないポソーム形成後、封入率およびリポソームサイズを測定した。
【0110】
その結果、封入率は71%、リポソームサイズは156nmであった。
【0111】
実施例18
溶媒をジイソプロピルエーテルとヘキサンの混合溶液(ジイソプロピルエーテル1.5mLおよびヘキサン0.2mL)に換えること以外は実施例17と同様にしてリポソームを作製した。
【0112】
その結果、封入率は77%、リポソームサイズが239nmであった。
【0113】
実施例19
溶媒を、ジイソプロピルエーテルにし、高圧乳化装置に5回通すこと以外は実施例12と同様にしてカルセイン封入リポソームを作製した。
【0114】
その結果、得られたリポソームのカルセイン封入率は70%、サイズは175nmであった。
【0115】
実施例20
ネダプラチン(シオノギ製薬:アクプラR)溶液(20 mg/mL:9mM リン酸、0.13M NaCl、10%トレハロース溶液(pH7.4))を用い、高圧乳化装置に5回通すこと以外は実施例12と同様にして1次乳化を行なった。得られたW/Oエマルジョン10mLを56mLのリン酸緩衝液(9mM リン酸、0.13M NaCl、10%トレハロース溶液(pH7.4))に加え、乳化した後、55℃で減圧下に窒素ガスを吹き付けることでリポソームを形成した。
【0116】
その結果、得られたリポソームのネダプラチン封入率は77%、サイズは136nmであった。
【0117】
実施例21
分子量5000のポリエチレングリコールの一方の末端にマレイミド基を、他方の末端にジステアリルフォスファチジルエタノールアミンを結合した化合物(DSPE-050MA)を日本油脂から入手した。DSPE-050MAおよび等モルのTAT(実施例14に記載)を、1mM EDTAを含有した100mMリン酸緩衝液(pH6.0)中で反応した。反応液をTLCプレートで展開し(クロロホルム:メタノール 3:1、ヨウ素発色)、マレイミド基にTATが結合した目的物(TAT-PEG-DSPE)がほぼ定量的に生成していることを確認した。TATに換えてシステインを用いることで、同様にマレイミド基にシスチンが結合した目的物(Cys-PEG―DSPE)を作製した。
【0118】
実施例20と同様にして作製したネダプラチン封入リポソームに、TAT-PEG-DSPEあるいはCys-PEG―DSPEを添加し(総脂質の0.05mol%)、60℃で10分間の加熱を二回繰り返すことでリポソームに組み込んだ。このリポソームに、総脂質の3.4mol%に相当するチオール基を有するPEG(欧州特許出願公開第526700号明細書に記載)を添加し4℃で一晩反応した。得られたリポソームをセファロースCL-4B(アマシャムバイオサイエンス社)を充填したカラムで精製してネダプラチン封入TAT結合PEGリポソームあるいはネダプラチン封入PEGリポソームを得た。
【0119】
両リポソームに対する抗腫瘍活性をヒト肺癌細胞(HLC-1)
を用いて比較した。HLC-1を96 ウェルプレートに播種し、5%牛胎児血清含有培地(DMEM/F-12)で一日培養した後、各リポソームを0.635μM、1.25μM、2.5μM、5μM、10μM、20μMのネダプラチン濃度(図4参照)となるように添加した。翌日ネダプラチン入り培地を除去し、ネダプラチンを含有しない培地でさらに5日間培養後MTTアッセイにより生細胞率(%)を測定した。
【0120】
その結果、ネダプラチン封入TAT結合PEGリポソームは、ネダプラチン封入PEGリポソームに比べてより強い増殖抑制活性を示すことが明らかになった。
【0121】
実施例22
カルボキシメチルデキストラン(CMD-D40、五徳薬品)(10 mg/mlのPBS溶液)5 mlにシスプラチン50 mgを添加して加温し溶解した。このシスプラチン/カルボキシメチルデキストラン溶液4mlに70%シュクロース666μLを加え薬剤溶液とした。この薬剤溶液を脂質溶液(DPPC 1.58 mmol、コレステロール878 μmol、トリオレイン 88 μmolを30 mLのクロロホルム/ヘキサン1:1混液に溶解)に添加し予備乳化を行った後、実施例20と同様にリポソーム化を行った。
【0122】
その結果、得られたリポソームのシスプラチン封入率は87.9%、サイズは152.4 nmであった。
【0123】
実施例23
1.19 gのEPC、0.31gのコレステロールおよび72μLのトリオレインに、ジエチルエーテル15mlおよびジクロロフルオロエタン15mLを加えた。この脂質溶液に胸腺由来のDNA溶液(Calf Thymas DNA、R&D systems社)(Tris-EDTA (pH 7.4)を溶解した1.0 mg/mL DNA水溶液4mLに70%シュクロース666μLを加え、シュクロースの終濃度を10%にしたもの)を添加した。室温でバス型ソニケーターを用い軽く超音波処理した後、高圧乳化機を用いて、一次乳化を行った。その内10mLを56mLのリン酸緩衝シュクロース水溶液に加え、乳化した後、室温で減圧下に窒素ガスを吹き付けることでリポソームを形成した。その結果、得られたDNAの封入率は67.1 %、サイズは198.2nmであった。
【0124】
これらの結果より、トリオレインを含有するリポソームは、トリオレインを含有しないリポソームに比べて、リポソームの粒径のコントロールが容易であり、リポソーム内腔への水溶性物質の封入率も高いことが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明によれば、水溶性物質をリポソームの内腔に封入し、リポソームの粒径が300nm以下であるリポソームを提供することができる。
【0126】
なお、本出願は、日本特許出願 特願2003−400986号を優先権主張して出願されたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性物質を内腔に封入し、粒径が300nm以下およびトリグリセロールを含有したリポソーム。
【請求項2】
水溶性物質を内腔に封入し、粒径が200nm以下およびトリグリセロールを含有したリポソーム。
【請求項3】
水溶性化合物の内腔への封入率が60%以上である請求の範囲1または2に記載のリポソーム。
【請求項4】
水溶性化合物の内腔への封入率が70%以上である請求の範囲1または2に記載のリポソーム。
【請求項5】
水溶性物質が、水溶性低分子化合物、蛋白質、核酸類、多糖類および/または指示薬である請求の範囲1から4のいずれかに記載のリポソーム。
【請求項6】
水溶性物質が、水溶性低分子化合物および多糖類である請求の範囲1から4のいずれかに記載のリポソーム。
【請求項7】
水溶性物質が、水溶性低分子化合物である請求の範囲1から4のいずれかに記載のリポソーム。
【請求項8】
水溶性低分子化合物がネダプラチン、シスプラチン、カルボプラチン、ゲムシタビンまたはAra-Cである請求の範囲5から7のいずれかに記載のリポソーム。
【請求項9】
多糖類がキトサン誘導体またはカルボキシル基を有する多糖類である請求の範囲5または6に記載のリポソーム。
【請求項10】
カルボキシル基を有する多糖類がカルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、コンドロイチンまたはコンドロイチン硫酸である請求の範囲9に記載のリポソーム。
【請求項11】
トリグリセロールがトリオレインである請求の範囲1から10のいずれかに記載のリポソーム。
【請求項12】
リガンドおよび/または水溶性合成高分子を有する請求の範囲1から11のいずれかに記載のリポソーム。
【請求項13】
リガンドを有する請求の範囲1から11のいずれかに記載のリポソーム。
【請求項14】
リガンドがターゲット細胞またはターゲット分子に結合するものである請求の範囲12または13に記載のリポソーム。
【請求項15】
リガンドが抗体または抗体のフラグメントである請求の範囲12から14のいずれかに記載のリポソーム。
【請求項16】
水溶性合成高分子が、ポリアルキレングリコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドンと無水マレイン酸との共重合体から選ばれる請求の範囲12に記載のリポソーム。
【請求項17】
水溶性合成高分子が、ポリアルキレングリコールである請求の範囲12または16に記載のリポソーム。
【請求項18】
ポリアルキレングリコールがポリエチレングリコールである請求の範囲16または17に記載のリポソーム。
【請求項19】
リガンドおよび/または水溶性合成高分子がリポソームの外部表面のみに結合している請求の範囲12から18に記載のリポソーム。
【請求項20】
請求の範囲1から19のいずれかに記載のリポソームを含有する医薬組成物。
【請求項21】
請求の範囲1から19のいずれかに記載のリポソームを含有する癌の診断および/または治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【国際公開番号】WO2005/053643
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【発行日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515918(P2005−515918)
【国際出願番号】PCT/JP2004/017694
【国際出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(000006725)三菱ウェルファーマ株式会社 (92)
【Fターム(参考)】