説明

リン酸イオンの定性・定量法およびリン酸イオンセンサ

(1)リン酸イオンの存在によって酵素触媒反応が起こり、酸化物を生成するような基質と酸化還元酵素、その他反応に必要とされる物質および酸化型メディエーターを用い、リン酸から還元型メディエーターを発生させ、さらにこれを酸化し、生ずる酸化電流を測定することにより、試料液中のリン酸イオンを測定する方法または(2)リン酸イオンを、リン酸イオンと反応して最終的にβ−D−グルコースを生成する基質と、このβ−D−グルコースを生成するための各反応を触媒する酵素の存在下で反応させてβ−D−グルコースを生成させ、さらに生成したβ−D−グルコースを、酸化還元酵素の存在下で酸化型メディエーターと反応させ、生じた還元型メディエーターをさらに酸化することにより生じた電流を測定する方法および(3)基板上に作用極、対極を備えたセンサにおいて、これらの酵素および試薬が作用極上および/またはその付近に配置されたリン酸イオンセンサ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸イオンの定性・定量法およびリン酸イオンセンサに関する。さらに詳しくは、電子伝達を利用するメディエーターを使用し、試料液中のリン酸イオンを電気化学的に検出し、定性または定量可能なリン酸イオンの定性・定量法およびそれに用いられるリン酸イオンセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リン酸イオンの定量法としては、吸光光度法、容量法、原子吸光法、重量法、バイオセンサ法等の測定方法が知られている。吸光光度法の中には、モリブドリン酸法、モリブデンブルー法、バナドモリブドリン酸法等がある。これらの測定法は、各試薬をリン酸に反応させた後、それぞれの反応物質に特有な波長の吸収光を照射して吸光度を測り、その結果からリン酸イオンの含有量を測定する方法である。また、容量法は、反応の終点まで濃度既知の塩基を加えその容量を測定することにより、リン酸イオンの含有量を測定する方法であって、中和滴定やキレート滴定等がある。さらに、原子吸光法は、一旦リン酸をモリブデン酸アンモニウムとして沈澱させ、これをろ過し、再び溶解させてモリブデンを原子吸光で定量する方法であり、重量法は、マグネシア混液中でマグネシウムと沈澱を生じさせた後、焼成してMgを秤量する方法である。
【0003】
しかしながら、上記吸光光度法では、測定物質の固有波長に近似した波長を有する他の物質の影響を受けるため、正確な測定値を得られ難いという不具合がある。一方、容量法、原子吸光法、重量法などは正確な定量を行えるが、操作に熟練を要するため使用者の制限があり、さらに携帯ができないため、オンサイトモニタリング(現場測定)など、現場での簡便かつ迅速な測定が不可能であるという不具合がある。さらに、上記のいずれの方法も、リン酸イオンを測定するための化学反応に重金属イオンなど、環境に負荷を与える物質を使用するという問題点があった。
【0004】
こうした問題を解決するために、バイオセンサが注目されるようになった。バイオセンサを使用するリン酸イオンの測定には、材料として生体認識素子など、生体由来の材料が多く使用され、環境への影響が少ないため、極めて優れた方法であるといえる。そのために、これまで多くのバイオセンサが提案されている。そして、リン酸イオン計測用の卓上型自動計測装置も研究開発され、その成果が報告されている。
【0005】
バイオセンサ法によるリン酸イオンの定量法には、これまでに多くの報告がある。まず、最初に報告されたのはアルカリホスファターゼとグルコースオキシダーゼを組み合わせたリン酸イオンセンサである。

この酵素反応系では、試料液中のリン酸イオンによってアルカリホスファターゼ反応(1)が阻害される。この阻害の度合いが、グルコースオキシダーゼ反応(2)で消費される酸素量として求められる。これらの酵素は、白金電極上に膜を使用して固定化されており、酸素消費量からリン酸イオン濃度が求められる。
【0006】
その後、微細藻類や植物を用いるリン酸イオン計測用バイオセンサが提案された。このセンサは、緑藻類の一種であるChlorella vulgarisを認識素子として用い、これと酸素電極を組み合わせた微生物センサによりリン酸イオン計測を行った。この微生物センサは、Chlorella vulgarisがリン酸イオンの存在下で、光合成による酸素発生量が著しく増加することを利用したものであり、Chlorella vulgarisを酸素電極上の光透過性膜に吸着固定し、この電極と反射ランプとを組み合わせ、酸素増加量を電気化学的に測定するという原理に基づいている。
【0007】
また、植物を利用した方法としては、酸性ホスファターゼを多く含むSolanum tuberosumの組織切片にグルコースオキシダーゼを加え、リン酸イオンによる阻害作用の原理を利用してリン酸イオン濃度を電気化学的に計測するセンサシステムとしたものがある。さらに、同じ原理で酸性ホスファターゼ反応の阻害を利用した方法が、ジャガイモの組織切片を用いて行われている。
【0008】
一方、ヌクレオシドホスフォリラーゼとキサンチンオキシダーゼ反応を組み合わせた酵素センサの開発も広く行われている。

これらの酵素反応系を用いた最初のセンサは、2つの酵素反応(3)、(4)によって生成した過酸化水素を電極で測定して、リン酸イオン濃度を計測するものである。
【0009】
尿酸と渦酸化水素の2つの反応生成物を同時に測定するセンサも提案され、高感度化に成功した。さらに、アルカリホスファターゼ反応を用いて、リン酸イオンを増幅して高感度化を図り、またフローインジェクション分析(FIA)法によって、あるいはFIA法と化学発光法を組み合わせて、それぞれリン酸イオンを高感度に計測可能としている。このように(3)と(4)の反応を組み合わせた多くのセンサが報告されている。
【0010】
ピルビン酸オキシダーゼ反応と電極法、化学発光法を利用したリン酸イオンセンサも提案されており、ピルビン酸オキシダーゼの反応式は以下の如くである。

この酵素反応ではこれまで開発されたセンサとは異なり、1種類の酵素のみが反応に寄与する特徴を有している。しかし、電極法を用いた電流測定型センサは、ピルビン酸オキシダーゼ反応(5)で消費された酸素の濃度を測定して、リン酸イオン濃度を計測している。
【0011】
次に化学発光法に着目し、FIA型酵素センサの開発が行われ、このセンサは送液ポンプとインジェクター、酵素固定化カラム、ミキシングジョイント、化学発光検出部、レコーダーから構成されている。このセンサでは、ピルビン酸オキシダーゼをグルタルアルデヒドによる共有結合法を用いて多孔性ガラスビーズに固定化し、これをカラムに充填しており、発光試薬液としては発光体としてルミノールと、その反応を触媒するペルオキシダーゼとが使用されている。
【0012】
しかしながら、リン酸イオン測定用バイオセンサでは、酵素反応によって減少する酸素濃度または生成する過酸化水素濃度を測定する方式に限られていたため、溶存酸素濃度の影響が避けられない。さらに、酸素濃度または過酸化水素濃度を電極で計る場合には、電極間の印加電圧の設定を高くする必要があり、印加電圧を上げることは、例えば夾雑物質を多く含む環境水や食品、体液などに含まれる還元性の物質の影響を受けやすく、正確な測定を困難にするという問題がみられる。同様に、過酸化水素濃度をルミノールの化学発光法により測定することで、リン酸イオン濃度を測定するセンサにおいても、高感度ではあるが特異性に劣る化学発光法を用いることにより、還元性の物質などを始めとする種々の夾雑物質の影響を避けることができない。
【0013】
さらに、測定感度および得られる信号の再現性を向上させるために、使用する酵素をカラム内に充填したビーズに多量に固定化する必要があり、その固定化に煩雑な操作と酵素の扱いについての熟練を要するなどの問題があった。
【0014】
以上で述べたリン酸イオンの測定法およびリン酸イオンセンサは全て、試料液中の夾雑物質および溶存酸素の影響が避けられず、さらに測定には家庭用の電源を要すること、装置が持ち運びできないこと、使い捨て型でないために、カラムや電極表面に固定化した酵素は繰り返しの使用に耐え得る程度の安定性が要求されていたことなど、共通した多くの問題点を有している。
【0015】
最近になって、新しい酵素反応系を用いる化学発光とFIAシステムを組み合わせたリン酸イオン計測用バイオセンサが提案された。この反応系では、マルトースとリン酸イオンを基質とするマルトースホスフォリラーゼ反応から始まり、その生成物であるα−D−グルコースはムタロターゼによってβ−D−グルコースになり、グルコースオキシダーゼ反応によって過酸化水素を生成するので、過酸化水素を含む接触液にペルオキシダーゼ/ルミノール系検出試薬を混合して生ずる化学発光の発光量を測定して、リン酸イオン濃度を測定している。このセンサのリン酸イオンの検出下限は10nM(0.001ppm)であり、環境計測には十分な感度であった。しかるに、あくまで過酸化水素を測定するものであるため、妨害物質の影響を受けやすいといった問題点があった。また、FIA法を用いているため、センサを携帯することは難しかった。
【0016】
【特許文献1】特公平08−020401号公報
【特許文献2】特開平05−093692号公報(特許第2,595,141号公報)
【特許文献3】特開平09−220085号公報
【特許文献4】特開平11−290096号公報
【非特許文献1】Talanta 第50巻,第799−807頁(1999年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、被検査試料液中の溶存酸素濃度や塩分、夾雑物質等の影響を受けることなく、リン酸イオンを正確に測定することが可能なリン酸イオン濃度の測定法およびそれに用いられる携帯可能な使い捨てタイプのリン酸イオンセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
かかる本発明の目的は、(1)リン酸イオンと反応して酸化物となる基質とこの酸化物を生成するための反応を触媒する酸化還元酵素の存在下で反応させるに際し、酸化型メディエーターを共存させることにより生じた還元型メディエーターをさらに酸化することにより生じた電流を測定する方法または(2)リン酸イオンを、リン酸イオンと反応して最終的にβ−D−グルコースを生成する基質と、このβ−D−グルコースを生成するための各反応を触媒する酵素の存在下で反応させてβ−D−グルコースを生成させ、さらに生成したβ−D−グルコースを、酸化還元酵素の存在下で酸化型メディエーターと反応させ、生じた還元型メディエーターをさらに酸化することにより生じた電流を測定する方法および(3)基板上に作用極、対極を備えたセンサにおいて、これらの酵素および試薬が作用極上および/またはその付近に配置されたリン酸イオンセンサよって達成される。
【発明の効果】
【0019】
本発明方法により、メディエーターを用いることで、試料液中の夾雑物質、塩分や溶存酸素の影響を受けず、例えば前記過酸化水素系に比べて大きな出力値を得ることができるので、リン酸イオンを始めとする種々の測定対象物質を正確に測定することが可能となる。また、本発明方法(1)では単純な酵素反応系を用いているため、使用する酵素の数が少なく、簡便にセンサを製造・使用することが可能であり、製造・操作コスト的にも有利である。さらに繰り返し再現性の高いセンサの構築も可能となる。
【0020】
また、オンサイトモニタリングを実現する使い捨てバイオセンサに本発明方法を応用することにより、携帯可能(on−site monitoring)な使い捨てタイプのリン酸イオンセンサが提供される。さらに、本発明方法(1)および(2)において、リン酸イオン以外の基質を十分に存在させた場合には、酸性ホスファターゼ活性が測定可能であり、前立腺の腫瘍マーカーの検出に用いることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明方法(1)においては、リン酸イオンの存在によって酵素触媒反応が起こり、酸化物を生成するような基質と酸化還元酵素、その他反応に必要とされる物質および酸化型メディエーターを用い、リン酸から還元型メディエーターを発生させ、さらにこれを酸化し、生ずる酸化電流を測定することにより、試料液中のリン酸イオンが測定される。
【0022】
酸化物を生成するような触媒反応系としては、例えば前記式(5)に示されるようなものが挙げられる。
(1)ピルビン酸オキシダーゼ系

この反応は、リン酸イオンを酸化還元酵素であるピルビン酸オキシダーゼと基質であるピルビン酸、補酵素としてのフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、チアミンピロリン酸(TPP)および活性化剤としてのマグネシウムイオンの存在下で反応させるものである。ここで反応に際し、電子伝達体としての酸化型メディエーターを共存させると、還元型メディエーターが発生するため、この還元型メディエーターをさらに酸化することにより生じた電流を測定することで基質であるリン酸イオンの定性・定量が可能となる。
【0023】
メディエーターとしては、フェリシアン化カリウム、フェロセン、パラベンゾキノンなどが用いられる。メディエーターとして、フェリシアン化カリウムKFe(CN)を用いた場合には、ピルビン酸等との反応は次のように進行する。

この際発生したフェロシアンイオンは、作用極で酸化されて酸化電流を生ずる。

【0024】
また、メディエーターとしてフェリシアン化カリウムの代わりにパラベンゾキノンを用いた場合には、ピルビン酸オキシダーゼ存在下でのピルビン酸とパラベンゾキノンとの反応でヒドロキノンが生成し、この際生成したヒドロキノンは作用極で酸化され、酸化電流を生ずるのでその値が測定される。

【0025】
ピルビン酸がピルビン酸オキシダーゼ等の酵素の存在下で酸化されてアセチルリン酸を生成させ、そのとき発生するHを作用極上で酸化し、その際の酸化電流値を測定することにより、リン酸イオン濃度を間接的に求める方法は従来技術で述べた如くである。しかしながら、かかる方法では、測定液が海水など妨害物質を含む場合には正確なリン酸濃度を測定することができない。しかるに、メディエーターをピルビン酸オキシダーゼ等と共に用いると、妨害物質に影響を受けることなくリン酸濃度を正確に測定することが可能となる。
【0026】
リン酸イオンの測定には、基板上に作用極および対極、さらに必要に応じて参照極を設け、作用極上および/またはその付近に測定に必要な酵素および試薬を配したセンサが好んで用いられる。このようなセンサとしては、例えばセラミックス、ガラス、プラスチック、紙、生分解性材料(例えば、微生物生産ポリエステル等)などの絶縁性基板にスクリーン印刷法、蒸着法、スパッタリング法などによって白金、金、カーボン等から形成された各電極が形成され、作用極上および/またはその付近に架橋法、共有結合法、イオン結合法等により酵素および試薬を固定化したものなどが用いられる。
【0027】
かかるリン酸濃度の測定に際しては、既製のメディエーターを使用しているバイオセンサ、例えばグルコースオキシダーゼ(EC1.1.3.4.)、グルコースデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.47、1.1.1.118、1.1.1.119、1.1.99.10.)またはピロロキノリンキノングルコースデヒドロゲナーゼなどの酸化還元酵素およびメディエーターを使用する血糖センサ、血中乳酸センサおよび食品用のグルコースセンサ等を用いることができ、これらとしては市販のもの、例えば血糖センサとしては、アークレイ製品グルテストPRO R(グルコースオキシダーゼおよびフェリシアン化カリウム使用)、同社製品グルテストNeo(グルコースデヒドロゲナーゼおよびフェリシアン化カリウム使用)、TheraSense社製品フリースタイル(ピロロキノリンキノングルコースデヒドロゲナーゼおよびオスウミウム複合体使用)等を、血中乳酸センサとしては、京都第一科学製品ラクテート・プロ(乳酸オキシダーゼとフェリシアン化カリウムを使用)およびグルコースセンサとしては、NOK製品グルコースメーターGM1000(食品用、グルコースオキシダーゼとフェリシアン化カリウムを使用)等をそのまま用いることもできる。すなわち、市販の血糖センサに配されているメディエーターおよび電極等を使用することにより、簡便にリン酸イオンの定性・定量が可能となる。ただしこの場合には、予めグルコースオキシダーゼまたはグルコースデヒドロゲナーゼなどを使用して、試料液中のグルコースを消去しておく必要がある。
【0028】
血糖センサは、グルコースを測定することを目的とするものであって、一般には、上記の如き絶縁性基板に白金、金、カーボン等から形成された各電極が形成され、作用極上および/またはその付近にグルコースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼなどの酸化還元酵素およびメディエーターを配置したものである。市販の血糖センサは、センサ自身は包装により湿気や光などの影響を絶った状態で保存されているため持ち運びに便利であり、センサの反応検出部における電極表面は試薬層により保護されているため、それを用いた場合には、場所を選ぶことがなく手軽に測定が可能であるというバイオセンサの新しい特徴が発揮される。このような血糖センサは、近年の開発競争の激化によって、測定の精度や再現性などが年々向上している。また、血糖センサは、夾雑物質に富んだ血液(全血)中にわずかに溶けているグルコースを選択的に測定するために、基質特異性に優れた酵素であるグルコースオキシダーゼまたはグルコースデヒドロゲナーゼを使用して触媒反応を進行させ、その際に生成する電子を電子伝達体(メディエーター;Med)を介して電極に伝える仕組みとなっており、従来の溶存酸素および過酸化水素測定型のグルコースセンサと比べて血液中に僅かに溶けている溶存酸素や妨害物質、塩分(0.9%NaCl)の影響を受けないという極めて優れた特徴を有している。さらに、市販の血糖センサを使用することによって、通常の電極チップを測定に用いる場合とは異なり、電極表面を使用前に処理する必要がない、すなわち通常の電極をバイオセンサに応用する場合には、電極表面の洗浄および酸化皮膜を除去するための何らかの処理が必要であったが、近年市販されている血糖センサを使用すればその必要はないという、実際の操作上において非常に優れた利便性を兼ね備えている。
【0029】
市販の血糖センサは、使い捨てタイプのバイオセンサ(血糖センサ)本体と血糖センサからの電気信号を処理する測定器の2つの組み合わせで構成されている。携帯用の血糖センサは通常は使い捨てタイプであり、平面基板上に導電性材料でパターン化された2本ないし3本の電極が配置され、検出部を成す部分の電極表面上には主に酵素とメディエーターが展開されている。
【0030】
この血糖センサを測定器に接続し、血液試料などをこの血糖センサの試料導入口から検出部内部へ導入させることにより、酵素反応が開始し、所定の時間を置いた後に電気化学的に測定することで、試料液中のグルコース濃度の測定ができる。市販の血糖センサの場合、人体における血中グルコース濃度の範囲の測定が可能であれば良く、そのため血糖センサにおけるグルコースの測定範囲はおよそ2mMから30mMである。他方、血糖センサの中には試料液の必要量が僅か0.3μlであるものや、測定時間が僅か5秒間であるものもある。
【0031】
このような血糖センサを本発明の反応系に応用すれば、かかるセンサと同様の性能を維持した状態で、リン酸イオンを測定できる。また、高性能あるいは小型化されたバイオセンサが今後市販されれば、そのバイオセンサのリン酸イオン検出への応用も効果的に行うことができ、これらの特徴を利用することで、例えば後述するような極く限られた試料液中のSNPsの迅速な検出も可能となる。また逆に、リン酸イオン等の基質を十分に存在させることで、ピルビン酸オキシダーゼ活性の測定も可能となる。
【0032】
このような血糖センサには、必要に応じて脱塩処理したピルビン酸オキシダーゼ0.1〜100U、好ましくは0.2〜20Uを、最終濃度がそれぞれピルビン酸ナトリウム1〜5000mM、好ましくは50〜1000mM、マグネシウムイオン0.1〜100mM、好ましくは1〜50mM、FAD 0〜1000μM、好ましくは1〜50μM、TPP 1〜5000μM、好ましくは100〜1000μMとなるようにpH7.0、100mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液に溶解した試薬混合溶液5μlを、5μlのリン酸測定試料液とよく混合した後、血糖センサに導入し、正確に0〜20分間、好ましくは1〜10分間反応させた後、例えばPCで制御されている電気化学アナライザー(BAS社製品ALS701)を使用し、電気化学測定法、例えばサイクリックボルタンメトリー法、ポテンシャルステップクロノアンペロメトリー法、クーロメトリー法などを用い、例えばサイクリックボルタンメトリー法の場合、掃引速度1〜500mV/sec、好ましくは10〜100mV/sec、初期電位0V、最大負電位−1〜0V、好ましくは、−0.5〜0V、最大正電位+0.1〜+1V、好ましくは、+0.15〜+0.7V、反応(待機)時間0〜20分間、好ましくは0〜10分間でピルビン酸オキシダーゼのリン酸イオンの触媒反応で生じる還元型メディエーターに対する応答を確認することにより行われる。
【0033】
上述のようなバイオセンサを用いて測定する場合には、測定装置に上記バイオセンサを取り付け、バイオセンサに生じた電気的な値を測定する。この測定装置には、バイオセンサの電極における電気的な値を計測する計測部と、計測された値を表示する表示部が備えられる。この計測部における計測方法としては、上述した如くポテンシャルステップクロノアンペロメトリー法またはクーロメトリー法またはボルタンメトリー法などを用いることができる。
【0034】
また、この装置には計測値を保存するためのメモリーを備えることもできる。さらに、測定値を遠隔的に管理する場合には、バイオセンサの計測部に計測データを送信する無線手段、好ましくは非接触型ICカードまたは短距離無線通信(例えば、ブルートゥース;登録商標)などの無線手段を搭載することもできる。
【0035】
一方、淡水及び海水などの環境水中に含まれるリン酸イオン濃度は、尿(約20mM)や食品(<20mM)などと比較すると極めて低い値であり、貧栄養湖の場合0.06〜0.6μM Pi、富栄養化が進んだ湖沼の水の場合でも20μM Piを超える程度である。この場合、(1)ピルビン酸オキシダーゼ系と共に、以下に示す(2)基質増幅反応系を用いることで測定対象物質の高感度測定が可能となる。
【0036】
(2)基質増幅反応系:
(i)ピルビン酸オキシダーゼ−ホスファターゼ〔酸性ホスファターゼ(EC3.1.3.2.)またはアルカリ性ホスファターゼ(EC3.1.3.1.)〕系;

【0037】
上記反応(5)では、Piとマグネシウムイオン、フラビンアデニンジヌクレオチド、チアミンピロリン酸、ピルビン酸および酸化型メディエーターの存在下、ピルビン酸オキシダーゼの作用により、生成物の一つであるアセチルリン酸が生成し、これからは反応(9)により酢酸とPiを生成する。ここで言う基質増幅反応系では、測定対象であるリン酸イオンが一段目の反応により一方の基質の分解物にリン酸化された後、次の反応によって再生され、元の一段目の反応の基質となる。この反応は繰り返されることからサイクリング反応とも呼ばれる。この反応系を利用する場合、一方の基質であるピルビン酸が十分に存在すれば、極わずかなリン酸イオンの存在によっても増幅反応が進行することができ、高感度なリン酸イオンの検出が可能となる。また逆に、リン酸イオン以外の基質を十分に存在させることで、前立腺の腫瘍マーカーである血中酸性ホスファターゼ活性の測定も可能となる。
【0038】
他方、上記(1)〜(2)のリン酸イオン検出系の触媒反応に下記の(10)式の触媒反応を組み合わせることよって、ピロリン酸イオンの検出が可能となる。
(3)無機ピロホスファターゼ(EC3.6.1.1.)系:

【0039】
上記(10)式のリン酸イオン検出反応系への応用によって、種々の核酸(DNAやRNA)の検出が可能となる。その例を、以下に示す。
【0040】
(4)SNP検出反応系:
(i)DNAリガーゼ(EC6.5.1.1.、6.5.1.2.)系;

上記反応系(11)では、長鎖側の1本鎖DNAがSNPの検出対象であり、その塩基配列の中心部分にSNP(変異型とする;●)が含まれている。その配列に、相補的な2種類の1本鎖DNA(プライマー)を左辺に示すように二本鎖形成(ハイブリダイズ)させたものに、連結に必要なエネルギーの供与体であるアデノシン5′−三リン酸(ATP)の存在下で、連結酵素として知られるDNAリガーゼを作用させると、その反応は右辺に進む。この場合、2種のプライマーが測定対象の塩基配列上で5′−末端と3′−末端が連結されるには、長鎖側の1本鎖DNAの5′−末端側に相補的にハイブリダイズするプライマーの5′−末端がリン酸化されている必要がある。この反応により生成したピロリン酸イオンを、上記の方法により測定することで、SNPの検出ができる。一方、測定対象である長鎖側の1本鎖DNAが野生型であれば、この場合DNAリガーゼ反応は進行しない。この方法でSNPを検出する場合、2種のプライマーの内、一方のSNP部分に相補的な塩基配列、すなわち3′−末端の塩基の種類を変えることによって、上記の方法とは反対に、野生型の場合にDNAリガーゼ反応を進行させることもできる。このSNP検出反応に使用するDNAリガーゼとしては、T4 DNAリガーゼまたは大腸菌リガーゼが好適である。
【0041】
(ii)DNAポリメラーゼ(EC2.7.7.7.)系A;

上記1塩基対伸長反応系(12)においても、長鎖側の1本鎖DNAがSNPの検出対象であり、その塩基配列の中心部分にSNP(変異型とする;●)が含まれている。その長鎖の5′−末端からSNPの塩基配列の1塩基手前までの配列に、相補的な1本鎖DNAプライマーを左辺に示すように長鎖とハイブリダイズさせたものに、基質であるデオキシリボヌクレオチド5′−三リン酸(dNTP)の存在下で、DNAポリメラーゼを作用させると、その反応は右辺に進む。この反応により生成したピロリン酸イオンを、上記の方法により測定することで、SNPの検出ができる。一方、測定対象である長鎖側の1本鎖DNAが野生型であれば、この場合にはDNAポリメラーゼ反応は進行しない。この方法でSNPを検出する場合、プライマーのSNP部分に相補的な塩基配列、すなわち5′−末端の塩基の種類を変えることによって、上記の方法とは反対に、野生型の場合にDNAポリメラーゼ反応を進行させることもできる。このSNP検出反応に使用するDNAポリメラーゼとしては、クレノーDNAポリメラーゼ(DNAポリメラーゼIラージフラグメント)およびT4 DNAポリメラーゼ、T7 DNAポリメラーゼ、好ましくは3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を喪失させたクレノーDNAポリメラーゼが好適である。
【0042】
(iii)DNAポリメラーゼ系B;

上記多塩基対伸長反応系(13)において、長鎖側の1本鎖DNAがSNPの検出対象であり、その塩基配列の中心部分にSNP(変異型とする;●)が含まれている。その長鎖の5′−末端からSNPの塩基配列までが相補的なDNAプライマーを左辺に示すように長鎖とハイブリダイズさせたものに、基質であるdNTPsの存在下でDNAポリメラーゼを作用させると、その反応は右辺に進む。この反応により生成したピロリン酸イオンを上記の方法により測定することで、SNPの検出ができる。一方、測定対象である長鎖側の1本鎖DNAが野生型であれば、この場合はDNAポリメラーゼ反応は進行しない。この方法でSNPを検出する場合、プライマーのSNP部分に相補的な塩基配列、すなわち5′−末端の塩基の種類を変えることによって、上記の方法とは反対に、野生型の場合にDNAポリメラーゼ反応を進行させることもできる。この反応系の場合、測定対象である長鎖側の1本鎖DNAのSNP部位から3′−末端の間の塩基配列を長くすることで、反応系(12)よりも少ない量の測定対象DNAから、多くのピロリン酸イオンを生成することができるという特徴がある。このSNP検出反応に使用するDNAポリメラーゼとしては、反応系(12)の場合と同様にクレノーDNAポリメラーゼおよびT4 DNAポリメラーゼ、T7 DNAポリメラーゼ、好ましくは3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を除去してあるクレノーDNAポリメラーゼが好適である。
【0043】
(iv)DNAポリメラーゼ系C;

上記多塩基対伸長反応系(14)において、長鎖側の1本鎖DNAがSNPの検出対象であり、その塩基配列の中心部分にSNP(変異型とする;●)が含まれている。その長鎖の5′−末端からSNPの塩基配列までが相補的で、続く1塩基または2塩基が長鎖側の塩基配列に対して相補的でないDNAプライマーを左辺に示すように長鎖とハイブリダイズさせたものに、基質であるdNTPsの存在下でDNAポリメラーゼを作用させると、その反応は右辺に進む。この反応により生成したピロリン酸イオンを上記の方法により測定することで、SNPの検出ができる。一方、測定対象である長鎖側の1本鎖DNAが野生型であれば、この場合はDNAポリメラーゼ反応は進行しない。この方法でSNPを検出する場合、プライマーのSNP部分に相補的な塩基配列、すなわち5′−末端の塩基の種類を変えることによって、上記の方法とは反対に、野生型の場合にDNAポリメラーゼ反応を進行させることもできる。この反応系の場合、測定対象である長鎖側の1本鎖DNAのSNP部位から3′−末端の間の塩基配列を長くすることで、反応系(12)よりも少ない量の測定対象DNAから、多くのピロリン酸イオンを生成することができるという特徴がある。このSNP検出反応に使用するDNAポリメラーゼとしては、反応系(12)の場合と同様にクレノーDNAポリメラーゼおよびT4 DNAポリメラーゼ、T7 DNAポリメラーゼ、好ましくはエンドヌクレアーゼ活性および3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を除去してあるクレノーDNAポリメラーゼが好適である。
【0044】
(5)一本鎖ゲノム検出反応系:
DNAポリメラーゼ系(ランダムプライマー法);

上記反応系(15)、(16)は、1本鎖のゲノムを持つウィルスや細菌などの検出に好適である。反応式(15)は、ランダムな塩基配列からなる複数のプライマーを測定対象である一本鎖DNAとハイブリダイズさせる反応である。反応式(16)では、測定対象の1本鎖ゲノムと部分的にハイブリダイズしたプライマー同士をDNAポリメラーゼによって連結することで、完全な2本鎖DNAが合成される。このとき、dNTPsがDNA鎖の構成材料として取り込まれ、ピロリン酸イオンが生成される。この反応系で使用するDNAポリメラーゼとしては、大腸菌由来のDNAポリメラーゼIまたはクレノーDNAポリメラーゼ、T4 DNAポリメラーゼ、T7 DNAポリメラーゼ、好ましくはクレノーDNAポリメラーゼなどが好適である。さらに、この方法では、ゲノムに1本鎖RNAをもつウィルスなどの検出も逆転写酵素(RNA依存性DNAポリメラーゼ)とDNAのランダムプライマー、dNTPsの使用、またはRNAポリメラーゼ(EC2.7.7.6.)、RNAのランダムプライマー、NTPsの使用により可能である。
【0045】
(6)二本鎖ゲノム検出反応系:
DNAポリメラーゼ−DNアーゼ系(ニックトランスレーション法);

上記の反応系(17)〜(19)は、ゲノムに二本鎖DNAを持つウィルスや細菌などの検出に好適である。反応式(17)では、デオキシリボヌクレアーゼ(DNアーゼ)により、二本鎖DNA上に無数の切れ目(ニック)が入る。この場合、DNアーゼIを使用することにより、二本鎖DNAの1本鎖部分のみにニックが入るため、二本鎖が切断されることはない。続いて、反応式(18)では、二本鎖DNA上に入ったニックをDNAポリメラーゼが認識し、DNAポリメラーゼが持つエキソヌクレアーゼ活性によって、ニックの周囲の数十塩基を削除する。さらに、反応式(19)では、同酵素のポリメラーゼ活性によって、二本鎖DNAは元の状態に修復される。この場合のDNアーゼとしてはDNアーゼI(EC3.1.21.1)が、またDNAポリメラーゼとしては大腸菌由来のDNAポリメラーゼIが好適である。この反応系では、例えば1個のウィルス由来のゲノムでも存在すれば、その反応系の一方の基質であるdNTPsが消費されるまでこの反応は進むため、原理的にウィルスの検出は可能である。さらに、二本鎖ゲノムは熱変性またはアルカリ変性などにより、1本鎖を形成させることで、前記ランダムプライマー法による検出も可能である。この方法によればゲノムに二本鎖RNAをもつウィルスなどの検出も可能である。
【0046】
上記リン酸イオン反応系、ピロリン酸イオン反応系およびこれらの反応系は、核酸などのリン酸イオンおよびピロリン酸イオンが関与する一連の生体関連の反応として、本発明のバイオセンサに応用することが可能である。前記応用例のほかにも、核酸のシークエンス(パイロシークエンス法など)、核酸増幅反応(PCR)法、RAC(rolling circle amplification)法、SDA(Standard displacement amplification)法、NASBA(nucleic acid sequence base amplification)法など)および受容体の挙動(GTPを消費してピロリン酸イオン生成するGプロテインの挙動など)のモニタリング、その他リン酸イオンおよびピロリン酸イオンが触媒反応に関与する酵素の活性測定への応用も可能である。この場合、使用する酵素が粗精製であったり、リン酸塩を含む懸濁液に溶解している状態であれば、限外ろ過による脱塩およびカラムクロマトグラフィーによる精製などの前処理を行うことが望ましい。特にリン酸イオンを基質サイクルとする増幅反応系では、市販の血糖センサの反応検出部分にもリン酸塩が存在しないことが望ましい。
【0047】
本発明方法(2)においては、リン酸イオンの存在によって酵素触媒反応が起こり、最終的にβ−D−グルコースを生成するような基質と酵素、酸化型メディエーターおよびグルコースオキシダーゼによって代表される酸化還元酵素を用い、リン酸から還元型メディエーターを発生させ、さらにこれを酸化し、生ずる酸化電流を測定することにより、試料液中のリン酸イオンを測定することもできる。なお、試料液中にグルコースが存在する場合は、予めグルコースオキシダーゼなどを使用して試料液中のグルコースを消去しておく必要がある。
【0048】
最終的にβ−D−グルコースを生成するような触媒反応系群としては次のものが挙げられる。
(7)単純反応系:
(i)マルトースホスホリラーゼ(EC2.4.1.8.)−ムタロターゼ(EC5.1.3.3.)系;

(ii)スクロースホスホリラーゼ(EC2.4.1.7.)−グルコースイソメラーゼ(EC5.3.1.18.)系;

【0049】
β−D−グルコースは、以下の反応等により還元型メディエーターを発生させる。

【0050】
酸化還元酵素としては、グルコースオキシダーゼ(EC1.1.3.4.)のほかグルコースデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.47、1.1.1.118、1.1.1.119、1.1.99.10.)、ピロロキノリンキノン・グルコースデヒドロゲナーゼなどが用いられ、メディエーターとしては、フェリシアン化カリウム、フェロセン、パラベンゾキノンなどが用いられる。メディエーターとして、フェリシアン化カリウムKFe(CN)を用いた場合には、グルコース等との反応は次のように進行する。

この際発生したフェロシアンイオンは、作用極で酸化されて酸化電流を生ずる。

【0051】
また、メディエーターとしてフェリシアン化カリウムの代わりにパラベンゾキノンを用いた場合には、GOD存在下でのグルコースとパラベンゾキノンとの反応でヒドロキノンが生成し、この際生成したヒドロキノンは作用極で酸化され、酸化電流を生ずるのでその値が測定される。

【0052】
β−D−グルコースがグルコースオキシダーゼ等の作用により酵素の存在下で酸化されてグルコノラクトンを生成させ、そのとき発生するHを作用極上で酸化し、その際の酸化電流値を測定することにより、グルコース濃度を間接的に求める方法は従来技術で述べた如くである。しかしながら、係る方法では、測定液が海水など妨害物質を含む場合には正確なリン酸濃度を測定することができない。しかるに、メディエーターをグルコースオキシダーゼ等と共に用いると、妨害物質に影響を受けることなくリン酸濃度を正確に測定することが可能となる。
【0053】
リン酸イオンの測定は、基板上に作用極および対極、さらに必要に応じて参照極を設け、作用極上に測定に必要な酵素および試薬を配したセンサが好んで用いられる。このようなセンサとしては、前述の如きものなどが用いられる。
【0054】
かかるリン酸濃度の測定に際しては、既製の血糖センサまたは食品用のグルコースセンサ等を用いることができ、これらとしては市販のものをそのまま用いることができる。例えば、血糖センサ、グルコースセンサとしては、前述の如き市販品等をそのまま用いることもできる。
【0055】
本発明方法(1)と同様に、本発明方法(2)においても、血糖センサを測定器に接続し、血液試料などをこの血糖センサの試料導入口から検出部内部へ導入させることにより、酵素反応が開始し、所定の時間を置いた後に電気化学的に測定することで、試料液中のグルコース濃度の測定ができる。このような血糖センサを本発明方法(2)の上記(7)単純反応系に応用すれば、このセンサと同じ濃度範囲のリン酸イオンを測定できる。また、このような測定範囲内であれば、血液、尿、食品などに含まれるリン酸イオンの測定に使用できる。
【0056】
このような血糖センサには、必要に応じて脱塩処理したマルトースホスホリラーゼおよびムタロターゼまたはスクロースホスホリラーゼおよびグルコースイソメラーゼを、それぞれ0.01〜100U、好ましくは0.1〜20Uを緩衝液に溶解し、これとリン酸測定試料液および25nmole以上、好ましくは125nmole〜5μmoleのリン酸以外の基質液、すなわちマルトースまたはスクロール溶液をよく混合した後、血糖センサに導入し、正確に0〜20分間、好ましくは1〜10分間反応させた後、例えばPCで制御されている電気化学アナライザー(BAS社製品ALS701)を使用し、電気化学測定法、例えばサイクリックボルタンメトリー法、ポテンシャルステップクロノアンペロメトリー法、クーロメトリー法などを用い、例えばサイクリックボルタンメトリー法の場合、掃引速度1〜500mV/sec、好ましくは10〜100mV/sec、初期電位0V、最大負電位−1〜0V、好ましくは、−0.5〜0V、最大正電位+0.1〜+1V、好ましくは、+0.15〜+0.7V、反応(待機)時間0〜20分間、好ましくは0〜10分間でグルコースに対する応答を確認することにより行われる。
【0057】
上述のようなバイオセンサを用いて測定する場合には、測定装置に上記バイオセンサを取り付け、バイオセンサに生じた電気的な値を測定すること、用いられる測定装置の詳細および測定方法は、前述の通りである。
【0058】
一方、淡水及び海水などの環境水中に含まれるリン酸イオン濃度は、食品(<20mM)や尿(約20mM)などと比較すると極めて低い値であり、貧栄養湖の場合0.06〜0.6μM Pi、富栄養化が進んだ湖沼の水の場合でも20μM Piを超える程度である。この場合、(7)単純反応系の代わりに、以下に示す(8)基質増幅反応系および(9)複合反応系を用いることで測定対象物質の高感度測定が可能となる。
【0059】
(8)基質増幅反応系:
(i)マルトースホスホリラーゼ−ホスファターゼ〔酸性ホスファターゼ(EC3.1.3.2.)またはアルカリ性ホスファターゼ(EC3.1.3.1.)〕系;

【0060】
上記反応(20)では、Piとマルトースの存在下、マルトースホスホリラーゼの作用により、生成物の一つであるβ−D−グルコース−1−リン酸が生成し、これからは反応(29)によりβ−D−グルコースとPiを生成する。ここで言う基質増幅反応系では、測定対象であるリン酸イオンが一段目の反応により一方の基質の分解物にリン酸化された後、次の反応によって再生され、元の一段目の反応の基質となる。この反応は繰り返されることから基質リサイクリング反応とも呼ばれる。この反応系を利用する場合、一方の基質であるマルトースが十分に存在すれば、極わずかなリン酸イオンの存在によっても増幅反応が進行することができ、高感度なリン酸イオンの検出が可能となる。また逆に、リン酸イオン以外の基質を10mM以上、好ましくは50〜2000mMの濃度で存在させることで、前立腺の腫瘍マーカーである血中酸性ホスファターゼ活性の測定も可能となる。
【0061】
(ii)スクロースホスホリラーゼ−ホスファターゼ(酸性ホスファターゼまたはアルカリ性ホスファターゼ)−ムタロターゼ系;

上記反応も、一段目のスクロースホスホリラーゼ反応とそれに続くホスファターゼ反応との組み合わせによって、(i)のマルトースホスホリラーゼ−ホスファターゼ系と同様の効果を得ることができる。
【0062】
(9)複合反応系
(i)マルトースホスホリラーゼ−ホスファターゼ(酸性ホスファターゼまたはアルカリ性ホスファターゼ)−ムタロターゼ系;

(ii)スクロースホスホリラーゼ−ホスファターゼ(酸性ホスファターゼまたはアルカリ性ホスファターゼ)−ムタロターゼ−グルコースイソメラーゼ系;

上記(9)複合反応系における2種(i)〜(ii)の反応系は(7)単純反応系と(8)基質増幅反応系を組み合わせたもので、基質増幅反応系よりも高感度なリン酸イオンの検出が可能である。
【0063】
他方、上記(7)〜(9)のリン酸イオン検出系の触媒反応に下記の(10)式の触媒反応を組み合わせることよって、ピロリン酸イオンの検出が可能となる。
(10)無機ピロホスファターゼ(EC3.6.1.1.)系:

【0064】
また、(10)無機ピロホスファターゼ系を前述した(4)SNP検出反応系、(5)一本鎖ゲノム検出反応系および(6)二本鎖ゲノム検出反応系などのリン酸イオン検出反応系へ応用することによって、種々の核酸(DNAやRNA)の検出が可能となる。
【実施例】
【0065】
次に、本発明方法を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に制限されるものではない。
【0066】
参考例1
絶縁性のプラスチック基板(7mm×22mm)上に幅1mmの白金箔が0.5mmの間隔を置いて2本平行して配列しており、リン酸塩を含まない作用極上にグルコースオキシダーゼおよびフェリシアン化カリウムが配されているバイオセンサに、グルコースを含む試料液(pH7.0、100mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液)を、毛管現象により作用極上に到達させ、試料液中のグルコースに対する電気信号を、バイオセンサの端子に接続された専用のコネクターを介して、PCで制御されている電気化学アナライザー(BAS社製ALS701)を用いて検出した。電気化学測定法としてはサイクリックボルタンメトリー法を用い、掃引速度50mV/sec、初期電位0V、最大電位+0.7V、反応(待機)時間60秒間でグルコースに対する応答を確認した。その結果、2mMから100mMグルコースの範囲において、+0.2V付近にメディエーター特有の電流値のピークが現れた。そのピーク値は図1に示される如くグルコース濃度に対し、ほぼ比例関係を示しており、このバイオセンサはグルコースに対する測定範囲が広く、本発明に関わる実施に好適であることがわかった。
【0067】
[実施例1]
参考例1で用いられたバイオセンサを使用して、(1)ピルビン酸オキシダーゼ系を用いてリン酸イオンの測定を行った。ピルビン酸オキシダーゼ(アエロコッカスビリダンス由来)200unitsは氷冷中の250μlの反応試薬液I、すなわち、40mMマグネシウムイオンおよび48μM FADを含むpH7.0、100mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液に溶解した。反応試薬液IIとしては、800mMピルビン酸ナトリウムおよび0.96mM TPPを、氷冷中にて250μlのpH7.0、100mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液に溶解したものが用いられた。測定試料液としては、400mMリン酸二水素カリウムを含むpH7.0、100mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液を調製して用いた。測定は、2unitのピルビン酸オキシダーゼを含む反応試薬液12.5μLと反応試薬液II2.5μL、測定試料液5μlとを充分に混合したものを血糖センサに導入し、正確に3分間反応させた後、グルコースの測定時と同条件下、サイクリックボルタンメトリー法でリン酸イオンの測定を行った。
【0068】
比較例1
実施例1において、TPPが用いられなかった。
【0069】
比較例2
実施例1において、FADが用いられなかった。
【0070】
比較例3
実施例1において、マグネシウムイオンが用いられなかった。
【0071】
比較例4
実施例1において、測定試料液として、100mMリン酸二水素カリウムを含まないpH7.0、100mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液が用いられた。
【0072】
以上の実施例1および比較例1〜4で得られた結果は、図2に示される。なお、各数値は、n=3の平均値を示している。リン酸イオンに対する本バイオセンサの応答は、反応試薬液の成分としてFADが含まれない場合を除いて、リン酸イオンに対する応答は得られなかった。一方、FADを除いた場合では、通常の反応試薬組成で得られたリン酸イオンに対する応答に比べ、およそ半分程度の応答を示した。これは、ピルビン酸オキシダーゼは本来FADを備えているが、使用したピルビン酸オキシダーゼの中に精製の過程でFADが離脱したものが含まれていたためであると考えられる。以上より、ピルビン酸オキシダーゼ系においては、マグネシウムイオン、FAD、およびTPPが必要とされることが確認された。
【0073】
[実施例2]
参考例1で用いられたバイオセンサを使用して、(1)ピルビン酸オキシダーゼ系における、TPP濃度とセンサ応答との関係を調べた。氷冷中のpH7.0、100mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液250μlに100unitsのピルビン酸オキシダーゼ(アエロコッカスビリダンス由来)と、20mMマグネシウムイオンおよび24μM FADが含まれる反応試薬液Iと、同じく氷冷中のpH7.0、100mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液250μlに400mMリン酸二水素カリウムと、400mMピルビン酸ナトリウムおよび所定の濃度のTPPを含む反応試薬液IIをそれぞれ2.5μlずつ充分に混合し、この混合液を血糖センサに導入し、正確に10分間反応させた後、グルコースの測定時と同条件下、サイクリックボルタンメトリー法により電流値の測定が行われた。
【0074】
得られた結果は、図3に示される。なお、各数値は、n=3の平均値を示している。TPPに対する本バイオセンサの応答は、48〜240μMの範囲で得られた。以上より、TPPの濃度が48μMよりも低い場合、リン酸イオンに対する本バイオセンサの応答が著しく低下することを示された。
【0075】
[実施例3]
参考例1で用いられたバイオセンサを使用して、(1)ピルビン酸オキシダーゼ系におけるピルビン酸濃度とセンサ応答との関係を調べた。実施例2で用いられた反応試薬液Iと、氷冷中のpH7.0、100mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液250μlに400mMリン酸二水素カリウムと、0.48mM TPPおよび所定の濃度のピルビン酸ナトリウムを含む反応試薬液IIをそれぞれ2.5μlずつ充分に混合し、この混合液を血糖センサに導入し、正確に10分間反応させた後、グルコースの測定時と同条件下、サイクリックボルタンメトリー法により電流値の測定が行われた。
【0076】
得られた結果は、図4に示される。なお、各数値は、n=3の平均値を示している。ピルビン酸に対する本バイオセンサの応答は、4〜400mMの範囲で得られた。以上より、4〜400mMの範囲であれば、本センサーがピルビン酸の測定にも応用が可能であることが示された。
【0077】
[実施例4]
参考例で用いられたバイオセンサを使用して、(1)ピルビン酸オキシダーゼ系におけるピルビン酸オキシダーゼ活性とセンサ応答との関係を調べた。氷冷中のpH7.0、100mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液250μlに所定単位のピルビン酸オキシダーゼ(アエロコッカスビリダンス由来)と、20mMマグネシウムイオンおよび24μM FADが含まれる反応試薬液Iと、同じく氷冷中のpH7.0、100mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液250μlに400mMリン酸二水素カリウムと、400mMピルビン酸ナトリウムおよび0.48mM TPPを含む反応試薬液IIをそれぞれ2.5μlずつ充分に混合し、それを血糖センサに導入し、正確に10分間反応させた後、グルコースの測定時と同条件下、サイクリックボルタンメトリー法により電流値の測定が行われた。
【0078】
得られた結果は、図5に示される。なお、各数値は、n=3の平均値を示している。ピルビン酸オキシダーゼ活性に対する本バイオセンサの応答は、6〜200m units/μlの範囲で高い相関関係(r=0.9991)が得られた。以上より、6〜200m units/μlの範囲であれば、本センサーがピルビン酸オキシダーゼ活性の測定にも応用が可能であることが示された。
【0079】
[実施例5]
参考例1で用いられたバイオセンサを使用して、(1)ピルビン酸オキシダーゼ系における、リン酸イオンとセンサ応答との関係を調べた。実施例1で用いられた反応試薬液Iおよび反応試薬液IIを使用し、測定試料液としては、所定の濃度のリン酸二水素カリウムを含むpH7.0、100mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液を調製して用いた。測定は、2unitのピルビン酸オキシダーゼを含む反応試薬液I2.5μLと反応試薬液II2.5μL、測定試料液5μlを充分に混合したものを血糖センサに導入し、正確に10分間反応させた後、グルコースの測定時と同条件下、サイクリックボルタンメトリー法により電流値の測定が行われた。
【0080】
得られた結果は、図6に示される。なお、各数値は、n=3の平均値を示している。リン酸イオンに対する本バイオセンサの応答は、1mM付近から100mMの範囲で得られ、食品や尿などに含まれているリン酸の測定に好適であることが確認された。
【0081】
[実施例6]
参考例1で用いられたバイオセンサを使用して、(1)ピルビン酸オキシダーゼ反応系を用いて環境水中に溶解させたリン酸イオンの測定を行った。実施例1で用いられた反応試薬液Iおよび反応試薬液IIを使用し、測定試料液としては、添加するリン酸二水素カリウムの濃度が5、10、15、20mMとなるように環境水中に溶解したものを使用した。環境水としては、東京工科大学敷地内にある日本庭園、カスケードおよび溜池から採取した。環境水のpHはそれぞれ、7.65,7.64,7.93、リン酸イオン濃度はそれぞれ、0.073μM,0.67μM,5.4μM(JIS K 0102準拠:アスコルビン酸還元によるモリブデン青吸光光度法)であった。本発明のバイオセンサ法ではまず、pH7.0、100mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液およびこれに25mMのリン酸イオンを添加した溶液に対するセンサー応答を検量線の値として求めた上で、リン酸イオンを添加した各環境水の応答を前記検量線に当てはめて各環境水中のリン酸イオン濃度を求めた。アスコルビン酸還元によるモリブデン青吸光光度法からもこれと同様に各環境水中のリン酸イオン濃度を求め、その値を従来法で求めた値とした。
【0082】
得られた結果は、図7a,b,cに示される。なお、各数値は、n=3の平均値を示している。このときのバイオセンサの応答の変動係数の平均は日本庭園が7.6%、カスケードが9.1%,溜池が8.8%であった。日本庭園a、カスケードbおよび溜池cの順に、含まれるリン酸イオンの濃度が高い環境水ほど、センサー応答値は従来法に比べ高い値を示した。この原因としては、リン酸イオンの濃度が高い環境水ほどその他の夾雑物質を多く含み、それらがリン酸イオンと相互作用することが考えられる。すなわち、従来法ではリン・モリブデン錯体を形成させるべく、溶液を強酸性に調製する必要があるため、リン酸イオンは夾雑物質との相互作用の影響を受けにくいが、ピルビン酸オキシダーゼが触媒できるのは、真に溶存状態であるリン酸イオンだけであることから、このような結果に結びついたものと考えられる。
【0083】
[実施例7]
参考例1で用いられたバイオセンサを使用して、(2)増幅反応系の(i)ピルビン酸オキシダーゼ−酸性ホスファターゼ系におけるpHとセンサ応答との関係を調べた。氷冷した所定のpHの緩衝溶液250μlに100unitsのピルビン酸オキシダーゼ(アエロコッカスビリダンス由来)と、40mMマグネシウムイオンおよび48μM FADが含まれる反応試薬液Iと、氷冷した所定のpHの緩衝溶液250μlに400mMリン酸二水素カリウムと、400mMピルビン酸ナトリウムおよびの0.48mM TPPを含む反応試薬液II、氷冷した所定のpHの緩衝溶液50μlに20unitsの酸性ホスファターゼ(ポテト由来)が含まれる反応試薬液IIIをそれぞれ2.5μl、5μl、2.5μlずつ充分に混合し、それを血糖センサに導入し、正確に60秒間反応させた後、グルコースの測定時と同条件下、サイクリックボルタンメトリー法により電流値の測定が行われた。
【0084】
得られた結果は、図8に示される。なお、各数値は、n=3の平均値を示している。この図が示すように、酸性ホスファターゼ活性における最適pHが存在する酸性側よりも、ピルビン酸オキシダーゼ活性における最適pH(pH7.0)付近で、リン酸イオンに対する応答が最も高いことが分かった。また、この結果より、ピルビン酸オキシダーゼのみの(1)単純反応系と比較して、(2)基質増幅反応系であるピルビン酸オキシダーゼ−酸性ホスファターゼ系のほうが、リン酸イオンに対する応答が遥かに良くなることが示された。
【0085】
参考例2
絶縁性のプラスチック基板(7mm×22mm)上に幅1mmの白金箔が0.5mmの間隔を置いて2本平行して配列しており、リン酸塩を含まない作用極上にグルコースオキシダーゼおよびフェリシアン化カリウムが配されているバイオセンサに、所定濃度のグルコースを含むpH6.5、20mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液2.5μlを、毛管現象により作用極上に到達させ、試料液中のグルコースに対する電気信号を、バイオセンサの端子に接続された専用のコネクターを介して、PCで制御されている電気化学アナライザー(ALS701)を用いて検出した。電気化学測定法としてはサイクリックボルタンメトリー法を用い、掃引速度50mV/sec、初期電位0V、最大電位+0.7V、反応(待機)時間60秒間でグルコースに対する応答を確認した。その結果、2mMから100mMグルコースの範囲において、+0.2V付近にメディエーター特有の電流値のピークが現れた。そのピーク値は図9に示される如くグルコース濃度に対し、ほぼ比例関係を示しており、このバイオセンサはグルコースに対する測定範囲が広く、本発明に関わる実施に好適であることがわかった。
【0086】
[実施例8]
前記(7)単純反応系の(i)マルトースホスホリラーゼ−ムタロターゼ系を参考例2で用いられたバイオセンサに応用し、リン酸イオン濃度に対する応答を調べた。マルトースホスホリラーゼ(ラクトバチルス ブレビス由来)、ムタロターゼ(豚腎臓由来)およびグルコースオキシダーゼ(アスペルギウス ニガー由来)は、分画分子量1万の限外ろ過フィルターを使用して脱塩処理を行った後、氷冷中のpH6.5、20mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液に0.4unit/μlとなるように溶解した。なお、グルコースオキシダーゼは、参考例2に記載される如くバイオセンサに予め配されているものの、使用したバイオセンサがロットによりバラツキが見られることから、再現性を確実なものとするため本実施例以降追加して使用することとした。また、基質液としては、400mMマルトースを含むpH6.5、20mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液が、測定試料液としては、所定濃度のリン酸二水素カリウムを含むpH6.5、20mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液が用いられた。次に、各酵素を含む溶液2.5μl、基質液2.5μlおよび測定試料液5μlとを充分に混合したものをバイオセンサに導入し、正確に3分間反応させた後、グルコースの測定時と同条件下でサイクリックボルタンメトリー法により電流値の測定が行われた。
【0087】
得られた結果は、図10に示される。なお、各数値は、n=3の平均値を示している。リン酸イオンに対する本バイオセンサの応答は、0.2mM付近から20mMの範囲で得られ、食品や尿などに含まれているリン酸の測定に好適であることが確認された。
【0088】
[実施例9]
実施例8において、ムタロターゼの代わりに酸性ホスファターゼ(ポテト由来)が同活性量で用いられ、また反応時間が10分間に変更されて電流値の測定が行われ、前記(8)基質増幅反応系の(i)マルトースホスホリラーゼ−酸性ホスファターゼ系におけるリン酸イオン濃度に対する応答を調べた。ここで、アルカリ性ホスファターゼではなく酸性ホスファターゼを使用したのは、グルコースオキシダーゼが弱酸性条件下で至適であるためである。
【0089】
得られた結果は、図11に示される。なお、各数値は、n=3の平均値を示している。リン酸イオンに対する本バイオセンサの応答は実施例8に示される単純反応系の結果と比較して約10倍の20μMから2mMの範囲で応答が得られ、富栄養化が進んだ環境水であれば本センサでのリン酸イオンの定量が可能であることが確認された。
【0090】
比較例5
実施例9において、酸性ホスファターゼが用いられなかった。その結果、各種濃度のリン酸イオンに対する本バイオセンサの応答は、いずれも約15μAであった。この値はリン酸イオンが存在しない場合のセンサ応答値と等しいことから、反応に十分な量の基質が存在していたとしても、マルトースホスホリラーゼのみではグルコースオキシダーゼ反応が進行しないことが確認された。
【0091】
[実施例10]
前記(9)複合反応系の(i)マルトースホスホリラーゼ−酸性ホスファターゼ−ムタロターゼ系を血糖センサに応用して、リン酸イオンの濃度を一定として、pHとセンサ応答との関係を調べた。実施例8で用いられたマルトースホスホリラーゼ、ムタロターゼ、グルコースオキシダーゼおよび実施例9で用いられた酸性ホスファターゼは分画分子量1万の限外ろ過フィルターを使用して脱塩処理を行った後、氷冷中のpH6.5、20mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液に0.4unit/μlとなるように溶解した。また、基質液としては、400mMマルトースを含むpH6.5、20mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液が、測定試料液としては、1mMリン酸二水素カリウムを含むpH4.0のフタル酸緩衝溶液および各pHが5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5の0.2Mトリス−マレイン酸緩衝溶液がそれぞれ用いられた。次に、各酵素を含む溶液2.5μl、基質液2.5μlおよび測定試料液5μlとを充分に混合したものをバイオセンサに導入し、10分間反応させた後、サイクリックボルタンメトリー法により電流値の測定が行われた。
【0092】
得られた結果は、図12に示される。なお、各数値は、n=3の平均値を示している。ここで、横軸に示している値は、各酵素を含む溶液、マルトース液および測定試料液が混ざった状態の血糖センサの反応検出部におけるpHで示してある。これにより、pHの影響を調べたところ、この複合反応系における最適なpHは6.5付近であることが示された。また、pHが8付近でセンサの応答が著しく低下した。これは、増幅反応を行う酸性ホスファターゼの活性の低下が原因として考えられる。
【0093】
[実施例11]
実施例10において、測定試料液として2mMリン酸二水素カリウムを含むpH6.5、20mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液が用いられ、所定時間反応させた際の電流値の測定を行い、この複合反応系における反応時間とセンサ応答との関係を調べた。
【0094】
得られた結果は、図13に示される。なお、各数値は、n=3の平均値を示している。リン酸イオンに対する本バイオセンサの応答は反応時間の長さと比例して大きくなっており、マルトースが十分に存在する反応条件下であれば、この複合反応系がリン酸イオンの存在によって増幅反応を起こすことが示された。
【0095】
[実施例12]
実施例10において、基質液としては、400mMリン酸二水素カリウムを含むpH6.5、20mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液が、測定試料液としては、所定濃度のマルトースを含むpH6.5、20mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液が用いられ、マルトース濃度に対する応答を調べた。
【0096】
得られた結果は、図14に示される。なお、各数値は、n=3の平均値を示している。マルトースに対する本バイオセンサの応答は、1〜300mMの範囲で得られた。
【0097】
[実施例13]
実施例8において、マルトースホスホリラーゼ、ムタロターゼ、グルコースオキシダーゼに加えて実施例9で用いられた酸性ホスファターゼが用いられ、また反応時間が10分間に変更されて電流値の測定が行われ、前記(9)複合反応系の(i)マルトースホスホリラーゼ−酸性ホスファターゼ−ムタロターゼ系におけるリン酸イオン濃度に対する応答を調べた。
【0098】
得られた結果は、図15に示される。なお、各数値は、n=3の平均値を示している。リン酸イオンに対する本バイオセンサの応答は実施例8に示される単純反応系の結果と比較して約20倍の10μMから2mMの範囲で応答が得られ、また、実施例9に示される基質増幅反応系の結果と比較して約2倍の応答が得られ、富栄養化が進んだ環境水であれば本センサでのリン酸イオンの定量が可能であることが確認された。
【0099】
[実施例14]
実施例13において、マルトースホスホリラーゼの代わりに、脱塩処理されたスクロースホスホリラーゼ(ルーコノストック メセントロイデス由来)が同活性量で用いられ、前記(8)基質増幅反応系の(ii)スクロースホスホリラーゼ−酸性ホスファターゼ−ムタロターゼ系におけるリン酸イオン濃度に対する応答を調べた。
【0100】
得られた結果は、図16に示される。なお、各数値は、n=3の平均値を示している。リン酸イオンに対する本バイオセンサの応答は0.1〜30mMの範囲で応答が得られ、富栄養化が進んだ環境水であれば本センサでのリン酸イオンの定量が可能であることが確認された。
【0101】
[実施例15]
実施例14において、基質液として、400mMリン酸二水素カリウムを含むpH6.5、20mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液が、測定試料液としては、所定濃度のスクロースを含むpH6.5、20mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液が用いられ、スクロース濃度に対する応答を調べた。
【0102】
得られた結果は、図17に示される。なお、各数値は、n=3の平均値を示している。スクロースに対する本バイオセンサの応答は、0.3〜30mMの範囲で得られた。
【0103】
[実施例16]
実施例13において、測定試料液として以下の物質を超純水に溶解したものが用いられた。
・コントロール:2mMリン酸イオン
・10mMアセトアミノフェンおよび2mMリン酸イオン
【0104】
得られた結果は、次の表1および図18に示される。

【0105】
比較例6
実施例16において、バイオセンサとして、バイオセンサ上のメディエーターを含む試薬層が水で洗い流されたものが用いられた。
【0106】
得られた結果は、次の表2および図19に示される。

【0107】
以上の結果に示されているように、過酸化水素系(比較例6)では、メディエーター系(実施例16)に比べて著しい応答の減少がみられた。また、フェリシアン化カリウムをメディエーターとして使用することにより、試料液中の溶存酸素をメディエーターとする過酸化水素系に比べて大きな出力値を得ることができ、測定の精度が向上することが確認された。
【0108】
[実施例17]
実施例13において、測定試料液として以下の物質を超純水に溶解したものが用いられ、環境水をはじめ食品および体液などに含まれる夾雑物質のセンサ応答への影響を調べた。
・コントロール:2mMリン酸イオン
・人工海水:2.65%NaCl,0.326%MgCl,0.207%MgSO,0.136%CaSO,0.0714%KClおよび2mMリン酸イオン
・0.3mMアスコルビン酸および2mMリン酸イオン
・1ppm尿酸および2mMリン酸イオン
・1ppmアンモニウムイオンおよび2mMリン酸イオン
・1ppmドデシル硫酸ナトリウムおよび2mMリン酸イオン
・1ppm塩化ベンザルコニウムおよび2mMリン酸イオン
・1ppmリグニンおよび2mMリン酸イオン
・4ppm無機陰イオン:1ppmF,1ppmNO,1ppmNO,1ppmSO2−および2mMリン酸イオン
・5ppm重金属:1ppmCu2+,1ppmZn2+,1ppmMn2+,1ppmCr3+,1ppmFe3+および2mMリン酸イオン
【0109】
得られた結果は、次の表3および図20に示される。これらの結果に示されているように重金属イオンおよび人工海水に含まれるリン酸イオンに対するセンサ応答がコントロールと比べてやや低い応答を示しているものの、それらの応答比は何れも90%程度であった。この結果より、従来の溶存酸素および過酸化水素検出系の電気化学的な方法や化学発光を用いる方法と比べて夾雑物質の影響を確実に低く抑えられることが示された。


【0110】
[実施例18]
つづいて、このバイオセンサを使用して、前記(8)基質増幅反応系の(i)マルトースホスホリラーゼ−酸性ホスファターゼ系を参考例2で用いられたバイオセンサに応用し、基質であるマルトースおよびリン酸イオンが十分に存在する条件下、酸性ホスファターゼ活性とセンサ応答値との関係を調べた。実施例8と同様に脱塩処理されたマルトースホスホリラーゼおよびグルコースオキシダーゼを、氷冷中のpH6.5、20mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液に0.4unit/μlとなるように溶解した。また、基質液としては、400mMマルトースおよび400mMリン酸二水素カリウムを含むpH6.5、20mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液が、測定試料液としては、実施例9と同様に脱塩処理された酸性ホスファターゼを所定濃度となるように氷冷中のpH6.5、20mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液に溶解したものが用いられた。次に、マルトースホスホリラーゼおよびグルコースオキシダーゼを含む溶液2.5μlと反応基質液2.5μlとを良く混合した後、測定試料液5μlを混合したものをバイオセンサに導入し、正確に10分間反応させた後、サイクリックボルタンメトリー法により電流値の測定が行われた。
【0111】
得られた結果は、図21に示される。なお、各数値は、n=3の平均値を示している。酸性ホスファターゼ活性とセンサ応答値との関係は試料液中の酵素活性が0.02〜0.2unit/lの範囲で直線的な応答を示した。これらの結果から、本センサでのリン酸イオンの定量法を応用することで前立腺の腫瘍マーカーである血中酸性ホスファターゼ活性の測定に用いることが可能であることが確認された。
【0112】
[実施例19]
実施例8において、測定試料液として所定濃度のピロリン酸イオンを含むpH6.5、20mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液2.5μlおよび脱塩された無機ピロホスファターゼ(パン酵母由来)を0.4unit/μlとなるようにpH6.5、20mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液に溶解したもの2.5μlとを混合し、5分間反応させたものが用いられ、前記(10)無機ピロホスファターゼ系のピロリン酸イオン濃度に対する応答を調べた。
【0113】
得られた結果は、図22に示される。なお、各数値は、n=3の平均値を示している。ピロリン酸イオンに対する本バイオセンサの応答は、1〜100mMの範囲で得られた。
【0114】
[実施例20]
実施例19において、測定試料液として10mMピロリン酸イオン、10mM ATPまたは10mM dNTPsを含むpH6.5、20mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液2.5μlおよび脱塩された無機ピロホスファターゼを0.4unit/μlとなるようにpH6.5、20mMクエン酸ナトリウム緩衝溶液に溶解したもの2.5μlとを混合し、5分間反応させたものが用いられた。
【0115】
得られた結果は、表4および図23に示される。これより、核酸検出の基質として必要とされるATPおよびdNTPには無機ピロホスファターゼが反応しないことが確認された。

【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明に係るリン酸イオン濃度の測定法を用いることにより、例えば海水中に含まれるリン酸イオンを、妨害物質の影響を受けることなく測定することが可能となり、環境測定、医療、食品などの各分野において有効に利用することができる。また血糖センサの応用により、環境水中のリン酸イオンの測定を目的としたセンサを製作することができ、また、ピロリン酸イオンを測定することにより、携帯型のSNP診断、超高感度ウィルス検出にも有効に利用することができる。さらに、リン酸イオン以外の基質を十分に存在させた場合には、酸性ホスファターゼの活性の測定が可能となり、前立腺の腫瘍マーカーの検出による診断への応用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0117】
[図1]血糖センサのグルコースに対する応答性を示すグラフである
[図2]ピルビン酸オキシダーゼ系における、TPP、FADおよびマグネシウムイオンの要否を検討した結果を示すグラフである
[図3]ピルビン酸オキシダーゼ系における本バイオセンサのTPPに対する応答性を示すグラフである
[図4]ピルビン酸オキシダーゼ系における本バイオセンサのピルビン酸に対する応答性を示すグラフである
[図5]ピルビン酸オキシダーゼ系における本バイオセンサのピルビン酸オキシダーゼ活性に対する応答性を示すグラフである
[図6]ピルビン酸オキシダーゼ系における本バイオセンサのリン酸イオンに対する応答性を示すグラフである
[図7]ピルビン酸オキシダーゼ系における本バイオセンサと従来法との比較を示すグラフである(a)日本庭園、b)カスケードc)溜池)
[図8]基質増幅反応系であるピルビン酸オキシダーゼ−酸性ホスファターゼ系における本バイオセンサのpHに対する応答性を示すグラフである
[図9]血糖センサのグルコースに対する応答性を示すグラフである
[図10]単純反応(マルトースホスホリラーゼ−ムタロターゼ)系における本バイオセンサのリン酸イオンに対する応答性を示すグラフである
[図11]基質増幅反応(マルトースホスホリラーゼ−酸性ホスファターゼ)系におけるリン酸イオンに対する応答性を示すグラフである
[図12]複合反応(マルトースホスホリラーゼ−酸性ホスファターゼ−ムタロターゼ)系における本バイオセンサのpHの影響を示すグラフである
[図13]複合反応(マルトースホスホリラーゼ−酸性ホスファターゼ−ムタロターゼ)系における反応時間と本バイオセンサの応答性との関係を示すグラフである
[図14]複合反応(マルトースホスホリラーゼ−酸性ホスファターゼ−ムタロターゼ)系における本バイオセンサのマルトースに対する応答性を示すグラフである
[図15]複合反応(マルトースホスホリラーゼ−酸性ホスファターゼ−ムタロターゼ)系における本バイオセンサのリン酸イオンに対する応答性を示すグラフである
[図16]基質増幅反応(スクロースホスホリラーゼ−酸性ホスファターゼ−ムタロターゼ)系における本バイオセンサのリン酸イオンに対する応答性を示すグラフである
[図17]基質増幅反応(スクロースホスホリラーゼ−酸性ホスファターゼ−ムタロターゼ)系における本バイオセンサのスクロースに対する応答性を示すグラフである
[図18]複合反応(マルトースホスホリラーゼ−酸性ホスファターゼ−ムタロターゼ)系における本バイオセンサのアセトアミノフェンの影響を示すグラフである
[図19]過酸化水素系におけるアセトアミノフェンの影響を示すグラフである
[図20]複合反応(マルトースホスホリラーゼ−酸性ホスファターゼ−ムタロターゼ)系における本バイオセンサの各種夾雑物質の影響を示すグラフである
[図21]基質増幅反応(マルトースホスホリラーゼ−酸性ホスファターゼ)系における酸性ホスファターゼ活性に対する応答性を示すグラフである
[図22]無機ピロホスファターゼ系における本バイオセンサのピロリン酸イオンに対する応答性を示すグラフである
[図23]無機ピロホスファターゼ系における本バイオセンサのATPおよびdNTPに対する応答性を示すグラフである
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】

【図23】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸イオンを、リン酸イオンと反応して酸化物となる基質とこの酸化物を生成するための反応を触媒する酸化還元酵素の存在下で反応させるに際し、酸化型メディエーターを共存させることにより生じた還元型メディエーターをさらに酸化することにより生じた電流を測定することを特徴とするリン酸イオンの定性・定量法。
【請求項2】
リン酸イオンを、ピルビン酸オキシダーゼ、マグネシウムイオン、フラビンアデニンジヌクレオチド、チアミンピロリン酸および酸化型メディエーターの存在下でピルビン酸と反応させ、アセチルリン酸と共に生じた還元型メディエーターをさらに酸化することにより生じた電流を測定することを特徴とするリン酸イオンの定性・定量法。
【請求項3】
アセチルリン酸に酸性ホスファターゼまたはアルカリ性ホスファターゼを作用させ、リン酸を再生することを特徴とする請求項2記載のリン酸イオンの定性・定量法。
【請求項4】
リン酸イオンを、リン酸イオンと反応して最終的にβ−D−グルコースを生成する基質と、このβ−D−グルコースを生成するための各反応を触媒する酵素の存在下で反応させてβ−D−グルコースを生成させ、さらに生成したβ−D−グルコースを、酸化還元酵素の存在下で酸化型メディエーターと反応させ、生じた還元型メディエーターをさらに酸化することにより生じた電流を測定することを特徴とするリン酸イオンの定性・定量法。
【請求項5】
リン酸イオンを、マルトースホスホリラーゼの存在下でマルトースと反応させてβ−D−グルコース−1−リン酸を生成させ、さらに生成したβ−D−グルコース−1−リン酸を酸性ホスファターゼまたはアルカリ性ホスファターゼを用いて、β−D−グルコースおよびリン酸を生成させ、得られたβ−D−グルコースをグルコースオキシダーゼおよび/またはグルコースデヒドロゲナーゼの存在下で酸化型メディエーターと反応させ、生じた還元型メディエーターをさらに酸化することにより生じた電流を測定することを特徴とするリン酸イオンの定性・定量法。
【請求項6】
リン酸イオンを、マルトースホスホリラーゼおよびマルトースと共に、またはこれらの代わりに、スクロースホスホリラーゼの存在下でスクロースと反応させてα−D−グルコース−1−リン酸を生成させ、生成したα−D−グルコース−1−リン酸を酸性ホスファターゼまたはアルカリ性ホスファターゼを用いて、α−D−グルコースおよびリン酸を生成させ、さらに生成したα−D−グルコースにムタロターゼを作用させてβ−D−グルコースを生成させ、得られたβ−D−グルコースをグルコースオキシダーゼおよび/またはグルコースデヒドロゲナーゼの存在下で酸化型メディエーターと反応させ、生じた還元型メディエーターをさらに酸化することにより生じた電流を測定することを特徴とするリン酸イオンの定性・定量法。
【請求項7】
酸性ホスファターゼまたはアルカリ性ホスファターゼを用いて、β−D−グルコースおよびリン酸を生成させると共に、またはこれの代わりに、β−D−グルコース−1−リン酸と共に得られたα−D−グルコースにムタロターゼを作用させてβ−D−グルコースを生成させる請求項5記載のリン酸イオンの定性・定量法。
【請求項8】
酸性ホスファターゼまたはアルカリ性ホスファターゼを用いて、α−D−グルコースおよびリン酸を生成させると共に、またはこれの代わりに、α−D−グルコース−1−リン酸と共に得られたフルクトースにグルコースイソメラーゼを作用させてβ−D−グルコースを生成させる請求項6記載のリン酸イオンの定性・定量法。
【請求項9】
酵素反応の基質であるリン酸イオンを、基質のリサイクル反応を起こす組み合わせによって検出することを特徴とする請求項3、5または6記載のリン酸イオンの検出方法。
【請求項10】
酸化型メディエーターとして、フェリシアン化カリウム、フェロセンまたはパラベンゾキノンが用いられる請求項1乃至9のいずれかに記載のリン酸イオンの定性・定量法。
【請求項11】
リン酸イオンとして、ピロリン酸イオンに無機ピロホスファターゼを作用させたものが用いられる請求項1乃至10のいずれかに記載のリン酸イオンの定性・定量法。
【請求項12】
核酸の検出、核酸特異配列または核酸のシークエンス、核酸増幅反応および受容体の挙動のモニタリング、リン酸イオンまたはピロリン酸イオンが触媒反応に関与する酵素の活性測定に用いられる請求項1乃至11のいずれかに記載のリン酸イオンの定性・定量法。
【請求項13】
リン酸イオンが触媒反応に関与する酵素がピルビン酸オキシダーゼまたは前立腺の腫瘍マーカーである血中酸性ホスファターゼである請求項12記載のリン酸イオンの定性・定量法。
【請求項14】
リン酸イオン以外の基質が10mM以上の濃度で用いられる請求項13記載のリン酸イオンの定性・定量法。
【請求項15】
連結酵素(リガーゼ)の触媒作用により生成するピロリン酸イオンを検出することで、遺伝子多型(SNPs)の検出を可能とする請求項11記載のリン酸イオンの定性・定量法。
【請求項16】
リン酸イオンの検出に、酸化型メディエーターを使用した既製のセンサが用いられる請求項1乃至15のいずれかに記載のリン酸イオンの定性・定量法。
【請求項17】
酸化型メディエーターを使用した既製のセンサが血糖センサである請求項16記載のリン酸イオンの定性・定量法。
【請求項18】
基板上に作用極、対極を備えたセンサにおいて、請求項1乃至15記載のいずれかに記載の酵素および試薬が作用極上および/またはその付近に配置されたリン酸イオンセンサ。
【請求項19】
請求項18記載のバイオセンサと、バイオセンサの電極における電気的な値を計測する計測部と、計測部における計測値を表示する表示部と、計測値を保存するメモリー部とを備えたバイオセンサ装置。
【請求項20】
計測部における計測方法としてポテンシャルステップクロノアンペロメトリー法、クーロメトリー法またはサイクリックボルタンメトリー法が適用される請求項19記載のバイオセンサ装置。
【請求項21】
さらにバイオセンサの計測部に計測データを送信する無線手段を備え、無線手段が非接触型ICカードまたは短距離無線通信である請求項19または20記載のバイオセンサ装置。

【国際公開番号】WO2005/073399
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【発行日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517431(P2005−517431)
【国際出願番号】PCT/JP2005/000828
【国際出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】