説明

リン酸イオン含有排水を用いたリン酸金属塩粒子の製造方法

【課題】硝酸イオン、硫酸イオン、ヨウ素イオンなどのイオンとリン酸イオンとを含有する排水を用いて、簡便に、純度の高いリン酸金属塩粒子を製造し得るリン酸金属塩粒子製造方法を提供することにある。
【解決手段】硝酸イオン、硫酸イオン、ヨウ素イオンから選ばれる少なくとも一種と、リン酸イオンとを含む排水と、硝酸ニッケル、硝酸アルミニウムおよび硝酸カルシウムのいずれかの硝酸金属塩とを用いて所定の工程を実施してリン酸金属塩粒子を製造することを特徴とするリン酸金属塩粒子製造方法を提供する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸イオンを含む排水を用いたリン酸金属塩粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示板などの基板としては、絶縁材料上にアルミニウムの単層や、アルミニウムとモリブデンとの二層からなる導電層のパターンを形成したものが用いられている。
この導電層のパターンを形成するのに際して、硝酸、リン酸、酢酸の混合物からなるエッチング液にてエッチングする方法が従来用いられている。
このような液晶表示板などの基板の製造において、発生するエッチング液の廃液は、濃度が高くリサイクルしやすいことから他用途に転用し易い。一方、エッチング後の液晶基板を洗浄した排水は、エッチング液の廃液に比べ、リン酸イオンが低濃度となるため、リサイクルはされず、その他の廃液と同様に生物学的処理がされている。この生物学的処理では、単位時間あたりに消費されるリン酸イオンの量は、ほぼ一定であることから、排水中に含まれるリン酸イオン濃度に応じて水面積負荷が変更されている。すなわち、排水によって単位時間あたりの処理量を変更させて処理が行われている。
【0003】
ところで、近年の環境意識の高まりから、このエッチング後の液晶基板を洗浄した排水のようなイオン濃度が低濃度な排水についてもリサイクルされることが望まれている。特にリン成分は、利用価値が高いことから排水中のリン酸イオンを選択的に回収してリン酸金属塩粒子を製造することが検討されており、特許文献1には、リン酸を含む排水をリン酸のみを吸着する吸着剤中を流通させ、リン酸を吸着させた後、水酸化ナトリウム水溶液を注入してリン酸を脱着し、脱着した脱着液を冷却してリン酸ナトリウム塩を析出させる方法が開示されている。
【0004】
しかし、特許文献1に記載の方法ではリン酸の回収率が低く、液晶排水等の処理に適用した場合、処理後の排水中にリン酸が残存するとともに、排水中には硝酸等も含有されているため、排水をリサイクルするためには別途処理設備が必要であった。また、回収したリン酸塩の再利用に関しても、リン酸塩の純度が低く、肥料としての利用が主となり、他の用途に利用し難いという問題を有している。
なお、このような問題は、液晶基板を洗浄した排水のごとくリン酸イオンが低濃度に含まれる排水のみならず、硝酸イオン、硫酸イオン、ヨウ素イオンなどのイオンとリン酸イオンとを含有する排水からリン酸金属塩粒子の製造を行う製造方法全般に共通する問題である。
【0005】
【特許文献1】特開2002−370086号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記問題点に鑑み、硝酸イオン、硫酸イオン、ヨウ素イオンなどのイオンとリン酸イオンとを含有する排水を用いて、簡便に、純度の高いリン酸金属塩粒子を製造し得るリン酸金属塩粒子製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
リン酸イオンは、硝酸イオン、硫酸イオン、ヨウ素イオンなどのアニオンと同じくアニオン交換樹脂にてイオン交換されやすいものであり、通常、これらのイオンとリン酸イオンとをアニオン交換樹脂により分離することは、従来、行われていない。
しかし、この点について本発明者は、鋭意検討を行い排水が酸性である場合にはリン酸イオンを、硝酸イオン、硫酸イオン、ヨウ素イオンなどのアニオンに比べ、アニオン交換樹脂にてイオン交換されにくいものとすることができて、このような硝酸イオン、硫酸イオン、ヨウ素イオンなどとリン酸イオンとを含有する排水を酸性状態でアニオン交換樹脂に接触させて、硝酸イオン、硫酸イオン、ヨウ素イオンの内、前記排水に含まれるイオンをイオン交換させた後に、再びアニオン交換樹脂に接触させることにより前記アニオン交換樹脂にリン酸イオンを選択的にイオン交換させ得ることを見出した。
【0008】
また、このリン酸イオンがイオン交換された前記アニオン交換樹脂とアルカリ金属塩水溶液とを接触させて前記アニオン交換樹脂からリン酸イオンを脱離させてリン酸アルカリ金属塩水溶液を作製し、該作製された前記リン酸アルカリ金属塩水溶液と、硝酸ニッケル、硝酸アルミニウムおよび硝酸カルシウムのいずれかとを混合することにより、リン酸ニッケル、リン酸アルミニウムおよびリン酸カルシウムのいずれかの状態でリン酸金属塩を純度の高い状態で析出させ得ることを見出し、本発明の完成に到ったのである。
【0009】
即ち、本発明は、前記課題を解決すべく、硝酸イオン、硫酸イオン、ヨウ素イオンから選ばれる少なくとも一種と、リン酸イオンとを含む排水と、硝酸ニッケル、硝酸アルミニウムおよび硝酸カルシウムのいずれかの硝酸金属塩とを用いて下記1)〜3)の工程を実施してリン酸金属塩粒子を製造することを特徴とするリン酸金属塩粒子製造方法を提供する。
1)前記排水を酸性状態でアニオン交換樹脂に接触させて、硝酸イオン、硫酸イオン、ヨウ素イオンの内で前記排水に含まれるイオンをイオン交換させた後に、再び、アニオン交換樹脂に接触させることにより前記アニオン交換樹脂にリン酸イオンをイオン交換させるイオン交換工程。
2)前記イオン交換工程においてリン酸イオンがイオン交換された前記アニオン交換樹脂とアルカリ金属塩水溶液とを接触させて前記アニオン交換樹脂からリン酸イオンを脱離させてリン酸アルカリ金属塩水溶液を作製するリン酸イオン脱離工程。
3)前記リン酸イオン脱離工程により作製された前記リン酸アルカリ金属塩水溶液と、硝酸ニッケル、硝酸アルミニウムおよび硝酸カルシウムのいずれかとが混合されている混合液を作製することによりリン酸ニッケル、リン酸アルミニウムおよびリン酸カルシウムのいずれかのリン酸金属塩を前記混合液中に析出させるリン酸金属塩析出工程。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、硝酸イオン、硫酸イオン、ヨウ素イオンから選ばれる少なくとも一種と、リン酸イオンとを含む排水を酸性状態でアニオン交換樹脂に接触させて、硝酸イオン、硫酸イオン、ヨウ素イオンの内、前記排水に含まれるイオンをイオン交換させた後に、再び、アニオン交換樹脂に接触させることにより前記アニオン交換樹脂にリン酸イオンをイオン交換させることから、アニオン交換樹脂に選択的にリン酸イオンをイオン交換させ得る。
したがって、このリン酸イオンをイオン交換させたアニオン交換樹脂とアルカリ金属塩水溶液とを接触させることでリン酸アルカリ金属塩水溶液の状態でアニオン交換樹脂から脱離させることができ、しかも、排水に含まれていたリン酸イオン以外のアニオンの混入を抑制してリン酸アルカリ金属塩水溶液を作製し得る。
さらに、このリン酸アルカリ金属塩水溶液と、硝酸ニッケル、硝酸アルミニウムおよび硝酸カルシウムのいずれかとを混合することにより、リン酸ニッケル、リン酸アルミニウムおよびリン酸カルシウムのいずれかのリン酸金属塩の析出物を形成させ得る。しかも、これらのリン酸金属塩を、純度の高い状態で析出させることができる。
また、ここでは排水中のリン酸イオン濃度が、1%以下の低濃度、例えば、数ppmの排水にまで適応が可能である。
すなわち、リン酸ニッケル、リン酸アルミニウムおよびリン酸カルシウムのいずれかの状態で、簡便に、純度の高いリン酸金属塩粒子を製造し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の好ましい実施の形態について説明する。
本実施形態のリン酸金属塩粒子製造方法においては、硝酸イオン、硫酸イオン、ヨウ素イオンから選ばれる少なくとも一種と、リン酸イオンとを含む排水と、硝酸ニッケル、硝酸アルミニウムおよび硝酸カルシウムのいずれかの硝酸金属塩とを用いる。
また、本実施形態のリン酸金属塩粒子製造方法においては、1)前記排水を酸性状態でアニオン交換樹脂に接触させて、硝酸イオン、硫酸イオン、ヨウ素イオンの内で前記排水に含まれるイオンをイオン交換させた後に、再び、アニオン交換樹脂に接触させることにより前記アニオン交換樹脂にリン酸イオンをイオン交換させるイオン交換工程と、2)前記イオン交換工程においてリン酸イオンがイオン交換された前記アニオン交換樹脂とアルカリ金属塩水溶液とを接触させて前記アニオン交換樹脂からリン酸イオンを脱離させてリン酸アルカリ金属塩水溶液を作製するリン酸イオン脱離工程と、3)前記リン酸イオン脱離工程により作製された前記リン酸アルカリ金属塩水溶液と、硝酸ニッケル、硝酸アルミニウムおよび硝酸カルシウムのいずれかとが混合されている混合液を作製することによりリン酸ニッケル、リン酸アルミニウムおよびリン酸カルシウムのいずれかのリン酸金属塩を前記混合液中に析出させるリン酸金属塩析出工程とを実施する。
【0012】
第一の実施の形態として、エッチング液によりエッチング処理された液晶基板を純水にて洗浄して生じた酸性排水(以下単に「排水」ともいう)を用いて、リン酸ニッケル粒子を製造する場合を例に説明する。
まず、このリン酸ニッケル粒子の製造に用いる装置について説明する。
【0013】
リン酸ニッケル粒子の製造には、酸性状態の前記排水をアニオン交換樹脂に接触させて、硝酸イオン、硫酸イオン、ヨウ素イオンの内、排水に含まれるイオンをイオン交換させた後に、再び、アニオン交換樹脂に接触させる前記イオン交換工程を実施するための排水処理装置と、前記排水処理装置にてリン酸イオンがイオン交換されたアニオン交換樹脂とアルカリ金属塩水溶液とを接触させて前記アニオン交換樹脂からリン酸イオンを脱離させてリン酸アルカリ金属塩水溶液を作製するリン酸イオン脱離工程とを実施するためのアニオン交換樹脂再生装置と、前記リン酸イオン脱離工程により作製された前記リン酸アルカリ金属塩水溶液と硝酸ニッケルとを混合してリン酸ニッケルを析出させるリン酸金属塩析出工程を実施するための沈殿回収装置が用いられる。
【0014】
イオン交換工程の前記排水処理装置は、図1に示すように、排水をアニオン交換樹脂に接触させて、硝酸イオン、硫酸イオン、ヨウ素イオンなどのイオンをイオン交換させる第一アニオン交換塔1と、該第一アニオン交換塔1を通過後の排水を一旦貯留する第一貯留槽13と、前記第一アニオン交換塔1を通過した排水を再びアニオン交換樹脂に接触させて、リン酸イオンをイオン交換させる第二アニオン交換塔2と該第二アニオン交換塔2を通過後の排水を一旦貯留する第二貯留槽23とを備えている。
また、前記排水処理装置は、前記第一アニオン交換塔1に排水を導入するための注水パイプ3と、第一アニオン交換塔1のアニオン交換樹脂と接触させた排水を、第二アニオン交換塔2へ導入するため連結パイプ4と、第二アニオン交換塔2でアニオン交換された排水を系外に排出する排水パイプ5とを備えている。
さらに、前記排水処理装置は、第一アニオン交換塔1を通過後の排水を再び、第一アニオン交換塔1に戻す第一還流パイプ14と第二アニオン交換塔2を通過後の排水を再び、第二アニオン交換塔2に戻す第二還流パイプ24とを備えている。
【0015】
前記第一アニオン交換塔1には、注水口と排水口とを備えた容器に弱塩基性アニオン交換樹脂が充填された、二台のアニオン交換器11,12が備えられている。また、該二台のアニオン交換器11,12は、一方のアニオン交換器を用いて排水処理を行い、排水処理の進行に伴いアニオン交換樹脂のアニオンイオン交換性能が低下してきた場合に、他方のアニオン交換器に排水の流れを切り替えて、継続して排水処理を行うことができるように、それぞれのアニオン交換器の注水口と注水パイプとが連結されており、電磁弁6にてそれぞれのアニオン交換器へと排水の流れを切り替えるよう構成されている。また、それぞれの排水口は、排水を前記第一貯留槽13へ導入する第一排水パイプ15に連結されている。なお、図1の電磁弁6以外の個所には符号が付記されていないが図1の電磁弁6と同じ記号が用いられている個所には、電磁弁が用いられていることを表す。
【0016】
また、前記第二アニオン交換塔2も、前記第一アニオン交換塔1と同様の構成を有しており、2台のアニオン交換器21,22は、その注水口と連結パイプ4とを連結させ、排水口が第二排水パイプ25と連結している。
また、注水パイプ3、第一排水パイプ15及び第二排水パイプ25には、全有機炭素(TOC)測定器が備えられ、第一排水パイプ15と第二排水パイプ25には、電気伝導度(EC)測定器がさらに備えられ、パイプを流れる排水のTOCとECとを測定し、各パイプを流れる排水に含まれているイオンの判定に用いられている。
このようなアニオン交換器に充填される弱塩基性アニオン交換樹脂としては、イオン交換容量1.1〜1.7eq/L−resinのものを用いることができる。
また、その形態は特に限定されるものではなく、通常、直径数mm以下のビーズ状に形成されたものを用いることができる。
【0017】
次に、このような、排水処理装置を用いて、エッチング液によりエッチング処理された液晶基板を純水にて洗浄して生じた酸性排水を用いたイオン交換工程について、第一排水パイプと第二排水パイプを流れる排水のイオン濃度の時間変化を示した図2を参照して述べる。
【0018】
液晶基板を純水にて洗浄して生じた酸性排水には、通常、リン酸イオンが100〜1000ppm、硝酸イオンが5〜50ppm含有され、さらに、酸性排水中のリン酸イオンよりもさらにアニオン交換樹脂にイオン交換されにくい酢酸イオンが10〜100ppm含有されpHが約2の値となっている。
この酸性排水に含まれる各イオンのイオン濃度については、酸性排水の通水量からアニオン交換器のイオン交換状況を把握するために予めイオン濃度計などで測定する。その後、酸性排水を、一般的な液体搬送手段、例えばポンプ(図示せず)などによって、前記排水処理装置に導入させる。
導入した酸性排水は、前記電磁弁により、注水パイプ、第一アニオン交換塔の第一のアニオン交換器、第一貯留槽、連結パイプ、第二アニオン交換塔の第一のアニオン交換器、第二貯留槽、排出パイプの順に排水処理装置を通して処理する。
【0019】
そして、前記酸性排水の処理開始後は、図2中の時間0〜aとして示すように、第一アニオン交換塔の第一のアニオン交換器において硝酸イオン、リン酸イオン、酢酸イオンのすべてをイオン交換させ、第一排水パイプからは、純水を排出させる。このように、すべてのイオンが第一アニオン交換塔においてイオン交換されていることは、第一排水パイプのTOC、ECがともに低い値、例えばTOC<0.1ppm、EC<1μS/cmとなって観測されることから判定することができる。
【0020】
次いで、時間aにおいては、第一アニオン交換塔の第一のアニオン交換器に備えられたイオン交換樹脂を硝酸イオン、リン酸イオン、および酢酸イオンで飽和させている。続く、時間a〜bにおいても酸性排水を第一アニオン交換塔でイオン交換させることにより、イオン交換の選択性の低いイオンがイオン交換の選択性の高いイオンと置換され排出される状態とすることができる。すなわち、酸性排水に含まれる硝酸イオンとリン酸イオンとにより前記アニオン交換樹脂にイオン交換している酢酸イオンを脱離させ、代わりに硝酸イオンとリン酸イオンとを酢酸イオンの脱離したアニオン交換樹脂にイオン交換させることができる。
このように、第一排水パイプには元の酸性排水に含まれている酢酸イオンとアニオン交換樹脂から脱離した酢酸イオンとが排出されるため、第一排水パイプのTOCは、一旦、注水パイプのTOCより高くなりやがて時間bにおいて、アニオン交換樹脂からの酢酸イオンの脱離が完了すると両者のTOCは同じ値を示すようになる。
【0021】
このとき、酢酸が排出され始めたことは、第一排水パイプのTOC、ECの値は、わずかに上昇することから判定できる(例えば、TOC=0.7ppm、EC=4μS/cm)。しかし、第一アニオン交換塔から排出された酢酸イオンは、第二アニオン交換塔にイオン交換させることができるため排出パイプからは、純水を排出させることができる。
【0022】
さらに、時間b以降も排水処理を継続させ、酸性排水に含まれる硝酸イオンが第一アニオン交換塔のアニオン交換樹脂にてイオン交換しているリン酸イオンを脱離させ、代わりに酸性排水に含まれる硝酸イオンをアニオン交換樹脂にイオン交換させる。
このとき、第一アニオン交換塔からは、リン酸イオンと酢酸イオンとが排出されるため、酢酸イオンとリン酸イオンとにより、第一排水パイプのECの値が、例えばEC=100μS/cmのように、大きく上昇する。
また、ここでも第一排水パイプには元の酸性排水に含まれているリン酸イオンとアニオン交換樹脂から脱離したリン酸イオンとが排出されるため酸性排水中のリン酸イオンよりリン酸イオン濃度の高い排水が流れることとなる。
また、この時も第一アニオン交換塔から排出させたリン酸イオンは、酢酸イオンとともに第二アニオン交換塔にてイオン交換させることができるため排出パイプからは、依然純水を排出させることができる。
【0023】
さらに、排水処理を継続させ時間cに到ると、第二アニオン交換塔のイオン交換樹脂がリン酸イオンと酢酸イオンとで飽和された状態とすることができ、連結パイプから第二アニオン交換塔に導入した酢酸イオンが、第二アニオン交換塔を通過して第二排水パイプに排出される状態とすることができ、さらに、排水処理を継続させて第二アニオン交換塔のアニオン交換樹脂にすでにイオン交換された酢酸イオンを脱離させて、代わりにリン酸イオンをイオン交換させることができる。
このときも、第二排水パイプには元の酸性排水に含まれている酢酸イオンとアニオン交換樹脂から脱離した酢酸イオンとが排出されるため、第二排水パイプのTOCは、一旦、第一排水パイプのTOCより高くなりやがて時間dにおいて、アニオン交換樹脂からの酢酸イオンの脱離が完了すると両者のTOCは同じ値を示すようになる。
即ち、時間dにおいて第二アニオン交換塔の第一のアニオン交換器は、リン酸イオンで飽和された状態であるとみなすことができ、該アニオン交換器を回収することでリン酸イオンを選択的に回収することができる。
また、この時間c〜dにおいては、酢酸イオンとともにわずかにリン酸イオンが排出される場合があるが、要すれば、排出パイプと第二還流パイプとの電磁弁の開閉を切り替え、第二貯留槽の排水を排出パイプに流さずに第二アニオン交換塔にて再度イオン交換を行わせることで、リン酸イオンを系外に排出させることなく回収できる。また、排出させた酢酸イオンについては、生物学的処理の栄養源として用いることもできる。
【0024】
また、第二アニオン交換塔におけるこのようなリン酸イオンの選択的な回収は、第一アニオン交換塔のアニオン交換器が硝酸イオンで飽和する時間eまでの期間においては、第二アニオン交換塔の電磁弁を用いて、第二アニオン交換塔で排水をイオン交換させるアニオン交換器を切り替えることにより繰り返し行うことができる。
即ち、図3に示したt2、t4、t6、t8の時点で第二アニオン交換塔のアニオン交換器を切り替えた場合の第二排水パイプから排出される排水のイオン濃度を示すグラフからも判るように、アニオン交換器を切り替えることで、0〜t1、t2〜t3、t4〜t5、t6〜t7において純水を回収しつつ、t2、t4、t6、t8の時点でリン酸イオンが飽和したアニオン交換器を新しいものに交換したり、アルカリ性水溶液などアニオン交換樹脂からリン酸イオンを脱離させたりしてリン酸イオンの回収を行うことができる。
ここで、t1〜t2、t3〜t4、t5〜t6、t7〜t8においては、リン酸イオンと酢酸イオンとが排出されることとなるが、この場合も第二貯留槽の排水を排出パイプに流さずに第二アニオン交換塔にて再度イオン交換を行わせることで、リン酸イオンを系外に排出させることなく回収できる。
さらに、図2での時間eとなるまでに、第一アニオン交換塔で酸性排水の処理を行うアニオン交換器を切り替えれば、上記した一連の処理(0〜t8)を反復して実施することができ、処理を中断させずに連続的な排水処理を行うことができる。
【0025】
なお、ここで例示したイオン交換工程では確認のためにTOC、ECを設けているが、実際の第一アニオン交換塔でのアニオン交換器の前記切り替えは、事前に測定された排水中の各イオンのイオン濃度と通水量から定められる。ただしこの方法に限定されず、要すれば、ECやTOCの値を参照して前記切り替え時期を定めることも可能である。例えば、通水量を一定に保っておき、第一排水パイプのECの値から図2に示す時間bとなっていることを判定して、その後、タイマーなどで時間eの状態となる前に第一アニオン交換塔で排水のイオン交換をさせるアニオン交換器を切り替えて第一貯留槽あるいは第二アニオン交換塔に硝酸イオンが流入することを抑制させることも可能である。
また、同様に第二アニオン交換塔でのアニオン交換器の切り替え時期も通水量を一定に保ってタイマーで定めることも可能である。
【0026】
次いで、リン酸イオン脱離工程に用いるアニオン交換樹脂再生装置とリン酸イオン脱離工程について説明する。
アニオン交換樹脂再生装置100には、図4に示すように、アルカリ金属塩水溶液を貯留するアルカリ貯留槽101と、該アルカリ貯留槽101からアルカリ金属塩水溶液を吸引して再びアルカリ貯留槽101に還流させるための還流経路103が形成されており、該還流経路103にアルカリ金属塩水溶液搬送ポンプ102が備えられており、しかも、前記イオン交換工程でリン酸イオンがイオン交換されたアニオン交換樹脂が収容されているアニオン交換器をこの還流経路103に設置して、該アニオン交換器を前記アルカリ金属塩水溶液が通過してアルカリ金属塩水溶液によりリン酸イオンがイオン交換されたアニオン交換樹脂を再生させるとともにリン酸アルカリ金属塩水溶液を作製し得るように、アニオン交換器を設置するためのアニオン交換器設置部104が還流経路103に形成されている。
【0027】
このアニオン交換樹脂再生装置100を用いて前記イオン交換工程においてリン酸イオンがイオン交換された前記アニオン交換樹脂とアルカリ金属塩水溶液とを接触させて前記アニオン交換樹脂からリン酸イオンを脱離させてリン酸アルカリ金属塩水溶液を作製する方法について説明すると、まず、前記イオン交換工程においてリン酸イオンがイオン交換された前記アニオン交換樹脂が備えられているアニオン交換器を前記アニオン交換器設置部104に設置し、前記アルカリ貯留槽101に例えば水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ金属塩水溶液を導入し貯留させる。その後、前記アルカリ金属塩水溶液搬送ポンプ102を作動させてこの水酸化ナトリウム水溶液をアルカリ貯留槽101からアニオン交換器を通って再びアルカリ貯留槽101に還流させる。
【0028】
このときリン酸イオンがイオン交換された前記アニオン交換樹脂と、水酸化ナトリウム水溶液とが接触し、アニオン交換樹脂がこの水酸化ナトリウム水溶液により再生されるとともに、リン酸イオンが脱離されてアルカリ貯留槽101にはリン酸ナトリウム水溶液が貯留されることとなる。
このとき、より高濃度の水酸化ナトリウム水溶液を用いることで、リン酸ナトリウム水溶液の濃度を高めることができ、リン酸ナトリウム水溶液の搬送に要する費用を削減し得る。
なお、このようなアニオン交換樹脂再生装置100を用いる方法に代えて、単に、水酸化ナトリウム水溶液中に、リン酸イオンがイオン交換されているアニオン交換樹脂を投入して、漬け洗い状態にてリン酸ナトリウム水溶液を作製することも可能である。
【0029】
また、このようにして得られるリン酸ナトリウム水溶液は、通常、リン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムとが混在した状態となる。このときアルカリ貯留槽のpHを調整することでリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムまたは、リン酸三ナトリウムの含有率を高めることができる。
より、具体的には、pHを4.3〜4.9とすることでリン酸二水素ナトリウム水溶液とでき、pHを9.0〜9.6とすることでリン酸水素二ナトリウム水溶液とでき、pHを11.5〜12.5とすることでリン酸三ナトリウムとさせ得る。
また、リン酸水素二ナトリウムは、リン酸二水素ナトリウムよりも析出を起こし易いことから、リン酸二水素ナトリウムの状態とすることが好ましい。
即ち、リン酸ナトリウム水溶液としては、pH4.3〜4.9の範囲とすることが好ましい。
なお、このpHの調整は、用いる水酸化ナトリウム水溶液の量などを調整することにより行うことができる。
【0030】
また、水酸化ナトリウム水溶液に代えて、水酸化カリウムを利用することもでき、この場合も同様に、得られるリン酸カリウム水溶液としては、通常、リン酸二水素カリウムとリン酸水素二カリウムとの混合物となるが、リン酸カリウム水溶液のpHを調整することでリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウムまたは、リン酸三カリウムの含有率を高めることができる。
より具体的には、pHを4.4〜4.9とすることでリン酸二水素カリウム水溶液とでき、pHを8.7〜9.3とすることでリン酸水素二カリウム水溶液とでき、pHを11.5〜12.5とすることでリン酸三カリウム水溶液とさせ得る。
【0031】
さらに、前記リン酸金属塩析出工程に用いる沈殿回収装置200とリン酸金属塩回収工程について、図5を参照しつつ説明する。
前記沈殿回収装置200には、前記リン酸イオン脱離工程にて作製されたリン酸ナトリウム水溶液を貯留し、該リン酸ナトリウム水溶液に硝酸ニッケルが添加されてリン酸ニッケルが析出される沈殿槽201が用いられる。この沈殿槽201は、すり鉢状に傾斜した底面202を有し、このすり鉢状の底面202の最下端部に沈殿物を引き抜くための引き抜き孔203が形成されている。
【0032】
この沈殿回収装置200にてリン酸ニッケル粒子を沈殿回収させるには、まず、前記リン酸イオン脱離工程にて作製されたリン酸ナトリウム水溶液を前記沈殿槽201に貯留し、ここに、硝酸ニッケル水溶液を添加して混合液を作製し、該混合液を静置することにより混合液中にリン酸ニッケルを析出させて沈殿させる。この沈殿させたリン酸ニッケル粒子を前記引き抜き孔203から引き抜いて回収する。
また、この沈殿回収装置を用いてリン酸ニッケル粒子を沈殿回収させる方法に代えて、精密ろ過膜などにて濾過する方法を採用することも可能である。
また、遠心分離などの方法も用いることができる。
【0033】
さらに、このリン酸金属塩析出工程にて製造されたリン酸ニッケル粒子は、さらに、加熱工程や粒度調整工程などを実施して所望の状態のリン酸ニッケル粒子とすることができる。
【0034】
なお、通常、前記混合液から析出させたリン酸ニッケル粒子にはリン酸アンモニウムニッケル(NH4NiPO4)に近い組成が形成されるが、例えば、200℃以上での加熱処理を行うことで、この組成を非晶質なリン酸アンモニウムニッケルとすることができ、400℃以上での加熱処理により非晶質なリン酸ニッケル(Ni227)とすることができる。さらに700℃付近での加熱処理を行う場合には結晶質のリン酸ニッケルとすることができる。
【0035】
なお、上記のように、硝酸イオン、硫酸イオン、ヨウ素イオンから選ばれる少なくとも一種と、リン酸イオンとを含む排水を酸性状態でアニオン交換樹脂に接触させて、硝酸イオン、硫酸イオン、ヨウ素イオンの内、前記排水に含まれるイオンをイオン交換させた後に、再び、アニオン交換樹脂に接触させることにより前記アニオン交換樹脂にリン酸イオンをイオン交換させることから、アニオン交換樹脂に選択的にリン酸イオンをイオン交換させることができる。
しかも、このリン酸イオンをイオン交換させたアニオン交換樹脂とアルカリ金属塩水溶液とを接触させて作製したリン酸アルカリ金属塩水溶液と、硝酸ニッケルとが混合されることにより純度の高いリン酸ニッケル粒子を析出させることができる。
なお、上記においては、硝酸ニッケルを用いてリン酸ニッケル粒子を析出させているが、硝酸ニッケルに代えて硝酸アルミニウムを用いることでリン酸アルミニウム粒子を製造でき、硝酸カルシウムを用いることでリン酸カルシウム粒子を製造させ得る。
しかも、この硝酸ニッケル、硝酸アルミニウムおよび硝酸カルシウムを用いることで他の硝酸金属塩を用いる場合や、硫酸ニッケル、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウムなど他のニッケル化合物、アルミニウム化合物、カルシウム化合物を用いる場合よりも高純度のリン酸金属塩粒子を得ることができる。
【0036】
さらに、上記のリン酸金属塩粒子の製造方法においては、高いエネルギーコストも必要とせず、排水中のリン酸イオン濃度が、1%以下の低濃度、例えば、数ppmの排水にまで適応が可能である。
さらに、本方法で回収したリン酸ニッケルはカドミウムイエローの代替顔料として再利用することができ、リン酸アルミニウムは還元、クラッキング、脱水、異性化などの反応における触媒として、リン酸カルシウムはハイドロキシアパタイトやリン酸三カルシウム(TCP)といった生体材料として好適に再利用することができる。
【0037】
次いで、第二の実施形態として図6に基づき説明する。
この第二の実施形態と、先述の第一の実施形態とは、この第二実施形態のイオン交換工程に用いる排水処理装置には、第一の実施形態に備えられていた第一貯留槽13、第二貯留槽23が備えられておらず第一アニオン交換塔1と第二アニオン交換塔2とが直接パイプで連結され、第二アニオン交換塔2から排出される排水は直接排水パイプ5から系外に排出される点において異なっている。また、第一還流パイプ14および第二還流パイプ24といった第一、第二貯留槽から排水を還流させる手段も備えられていない。すなわち、第二の実施形態の排水処理装置は、第一排水パイプ15が連結パイプ4と直接連結され、第二排水パイプ25が排水パイプ5と直接連結されている。しかし、第一アニオン交換塔1、第二アニオン交換塔2の二塔のアニオン交換塔の各アニオン交換塔にアニオン交換器が二台ずつ備えられている点においては、この第二の実施形態と、先述の第一の実施形態とは共通している。また、一つのアニオン交換塔に備えられた二台のアニオン交換器を切り替えて使用し得るよう構成されている点においても共通している。さらに、図示していないが、注水パイプ3、第一排水パイプ15及び第二排水パイプ25には、全有機炭素(TOC)測定器が備えられ、第一排水パイプ15と第二排水パイプ25には、電気伝導度(EC)測定器がさらに備えられ、パイプを流れる排水のTOCとECとを測定し、各パイプを流れる排水に含まれているイオンの確認に用いられている点、および、各イオン交換塔におけるイオン交換器の切り替えが予め排水中の各イオン濃度を測定し、この測定値とイオン交換塔への排水の流入量により計算し、行われる点についても第一の実施形態の排水処理装置と同じである。
この第二の実施形態の排水処理装置は、さらに第一、第二アニオン交換塔のアニオン交換器を純水で逆洗浄し得るよう構成されている点において第一の実施形態と異なっている。
【0038】
また、第一の実施形態においては、イオン交換工程に用いる排水処理装置とは別に、アニオン交換樹脂再生装置を用いてリン酸イオン脱離工程を実施する場合を例示したが、この第二の実施形態においては、イオン交換工程に用いる排水処理装置に水酸化ナトリウム水溶液を流通させて、この排水処理装置でリン酸イオン脱離工程をも実施させる点において第一の実施形態と異なっている。すなわち、この第二の実施形態に用いる排水処理装置には、第一、第二アニオン交換塔のアニオン交換器に水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ金属塩水溶液を通過させてリン酸イオンがイオン交換されたアニオン交換樹脂からリン酸イオンを脱離させてアニオン交換樹脂を再生し得るよう構成されている。
【0039】
前記逆洗浄のための設備としては、逆洗浄のための純水を貯留する逆洗用純水槽16,26と、該逆洗用純水槽16,26の純水を各アニオン交換器11,12,21,22に導入する逆洗水導入パイプ17a,27aと、さらに各アニオン交換器11,12,21,22から逆洗水を排出させるための逆洗水排出パイプ17b,27bと、該逆洗パイプ17b,27bにより各アニオン交換器11,12,21,22から排出させた逆洗浄排水を貯留するための逆洗排水貯留槽18,28が備えられている。
そして、前記逆洗水導入パイプ17a,27aは、各アニオン交換器11,12,21,22の下流側(排水口側)に連結され、前記逆洗水排出パイプ17b,27bは各アニオン交換器11,12,21,22の上流側(注水口側)に連結され、各アニオン交換器11,12,21,22に下流側から上流側に洗浄水を流して洗浄し得るよう構成されている。
【0040】
また、リン酸イオンがイオン交換されたアニオン交換樹脂からリン酸イオンを脱離させてアニオン交換樹脂を再生させるための設備としては、イオン交換されたアニオン交換樹脂を再生するためのアルカリ金属塩水溶液(以下「アルカリ再生液」ともいう)を貯留するアルカリ再生液貯留槽19,29と、該アルカリ再生液により再生された後に各アニオン交換器11,12,21,22に残留するアルカリ再生液を洗い流すための純水が貯えられた純水貯留槽110,210と、これらアルカリ再生液貯留槽19,29や純水貯留槽110,210からアルカリ再生液や純水を各アニオン交換器11,12,21,22に導入する再生液導入パイプ111a,211aと、さらに各アニオン交換器11,12,21,22からアルカリ再生液や純水を排出させるための再生液排出パイプ111b,211bと、該再生液排出パイプ111b,211bにより各アニオン交換器11,12,21,22から排出されたアルカリ再生液及び純水を貯留する再生排水貯留槽112,212が備えられている。
そして、前記再生液導入パイプ111a,211aは、各アニオン交換器11,12,21,22の上流側(注水口側)に連結され、前記再生液排出パイプ111b,211bは各アニオン交換器11,12,21,22の下流側(排水口側)に連結され、各アニオン交換器11,12,21,22に上流側から下流側にアルカリ再生液あるいは純水を流してアニオン交換器のアニオン交換樹脂をアルカリ再生液で再生したり、アニオン交換器中のアルカリ再生液を純水で洗浄したりし得るよう構成されている。
【0041】
次に、このような、排水処理装置を用いたイオン交換工程およびリン酸イオン脱離工程についてエッチング処理された液晶基板を純水にて洗浄して生じた酸性排水をアニオン交換樹脂でイオン交換させ、アニオン交換樹脂にイオン交換されたリン酸イオンを水酸化ナトリウム水溶液を用いてアニオン交換樹脂から脱離させてアニオン交換樹脂の再生を実施するとともに、リン酸ナトリウム水溶液(リン酸アルカリ金属塩水溶液)を作製する場合を例に説明する。
【0042】
ここでは、第一、第二アニオン交換塔から排出される排水を第一貯留槽13や第二貯留槽23に一旦貯留させたり、これら第一、第二の貯留槽に貯留させた排水をそれぞれ第一、第二還流パイプで還流させたりしない点を除けば、第二アニオン交換塔2のアニオン交換器21をリン酸イオンで飽和させるまでのイオン交換工程の手順は、前述の第一の実施形態と同じである。
【0043】
この第二アニオン交換塔2の一方のアニオン交換器21がリン酸イオンで飽和された場合には、この飽和されたアニオン交換器21の注水口側、排水口側に設けられた電磁弁を閉止させるとともに、他方のアニオン交換器22の注水口側、排水口側の電磁弁を開口させることにより連結パイプ4から導入させる排水の流路を他方のアニオン交換器22に切り替え、このアニオン交換器22でイオン交換を継続させる。そして、リン酸イオンで飽和されたアニオン交換器21には、逆洗パイプ27aと逆洗水排出パイプ27bとに設けられた電磁弁を開口させ、逆洗用純水槽26に設けられたポンプを作動させるとともに該ポンプ出口の電磁弁を開いてアニオン交換器21中に逆洗用の純水を供給し、アニオン交換器21中に残留する排水を排出させ、逆洗排水貯留槽28に貯留させる。
【0044】
この逆洗浄が終了した後は、逆洗用純水槽26のポンプを停止させ、該ポンプ出口の電磁弁と、逆洗パイプ27a、逆洗水排出パイプ27bの両パイプの電磁弁とを閉止させ、アルカリ再生液貯留槽29のポンプを作動させるとともに該ポンプ出口に設けられた電磁弁と再生液導入パイプ211a、再生液排出パイプ211bの電磁弁を開いて、再生液導入パイプ211aを通じて水酸化ナトリウム水溶液をアニオン交換器21に導入させる。そして、アニオン交換器21のアニオン交換樹脂を再生しつつこのアニオン交換樹脂にイオン交換されているリン酸イオンを脱離させリン酸ナトリウム水溶液としてアニオン交換器21から再生液排出パイプ211bを通じて排出させてリン酸イオン脱離工程を実施し、再生排水貯留槽212にこのリン酸ナトリウム水溶液として貯留する。
このアニオン交換樹脂の再生が終了した後には、アルカリ再生液貯留槽29のポンプを停止させ、該ポンプ出口に設けられた電磁弁を閉止し、代わりに純水貯留槽210のポンプを作動させるとともに該ポンプ出口に設けられた電磁弁を開口させて、アニオン交換器21に純水を導入させる。そして、アニオン交換器21中に残留する水酸化ナトリウム水溶液を排出させ、アニオン交換器21内をリン酸イオンをイオン交換する前の状態(初期状態)に戻して、純水貯留槽210のポンプを停止させる。そして、純水貯留槽210のポンプポンプ出口に設けられた電磁弁と、再生液導入パイプ211a、再生液排出パイプ211bの各パイプに設けられた電磁弁とを閉止させる。なお、この純水でアニオン交換器21から排出させた水酸化ナトリウム水溶液も再生液排出パイプ211bを通じて、再生排水貯留槽212に貯留させる。
【0045】
前述のようにこのアニオン交換器21の再生の間、他方のアニオン交換器22ではリン酸イオンのイオン交換を実施させるため、酸性排水の処理を中断させることなく連続的に実施させることができる。
なお、アニオン交換器21の再生は、全てのアニオン交換樹脂が水酸化ナトリウム水溶液で再生された場合に終了させることとなるが、全てのアニオン交換樹脂が水酸化ナトリウム水溶液で再生されているか否かについては、アニオン交換樹脂のイオン交換能と再生に用いる水酸化ナトリウム水溶液の濃度ならびに量から判定することができる。
【0046】
また、アニオン交換器21のアニオン交換樹脂を水酸化ナトリウム水溶液で再生する際に、アニオン交換器21から排出される水酸化ナトリウム水溶液(リン酸ナトリウム水溶液)の温度を測定してアニオン交換器21内でのアニオン交換樹脂の再生の様子をより詳しく判定する方法を用いても良い。すなわち、水酸化ナトリウム水溶液が、アニオン交換樹脂からリン酸イオンが脱離させる場合、発熱反応となることから、アニオン交換器21から排出される水酸化ナトリウム水溶液の温度が上昇することとなるが、やがて、アニオン交換樹脂からのリン酸イオンの脱離が進行するにともなってアニオン交換器21から排出される水酸化ナトリウム水溶液の温度が低下することとなる。したがって、アニオン交換器21から排出される水酸化ナトリウム水溶液の温度を測定することでアニオン交換器21内でのアニオン交換樹脂の再生の様子をより詳しく判定し得る。
このアニオン交換器21から排出される水酸化ナトリウム水溶液の温度測定については、アニオン交換器21の排水口直後の再生液排出パイプ211bに熱電対を設けるなどすればよい。この温度測定に用いられる温度計測器としては、通常、0.1K程度の精度があればアニオン交換樹脂の再生の様子の判定に用いることができる。
【0047】
また、他方のアニオン交換器22のアニオン交換樹脂がリン酸イオンで飽和した場合にも、同様にしてリン酸ナトリウム水溶液の回収を行うことができる。
【0048】
この回収されたリン酸ナトリウム水溶液と硝酸ニッケル水溶液とを混合した混合液を作製して、混合液中にリン酸ニッケルを析出させるリン酸金属塩析出工程については、第一の実施形態と同様の方法を採用することができる。
【0049】
さらに、この第二実施形態においては、第一アニオン交換塔1にも逆洗浄およびアニオン交換樹脂の再生のための設備が備えられているために、第一アニオン交換塔1のアニオン交換器が硝酸イオンで飽和された場合にも第二アニオン交換塔2のアニオン交換器がリン酸イオンで飽和された場合と同様に、酸性排水の処理を実施しつつアニオン交換器の再生を実施させることができる。なお、この第一アニオン交換塔1のアニオン交換樹脂の再生により再生排水貯留槽112に貯留される硝酸ナトリウム水溶液は、別途、廃棄処理が行われる。なお、この廃棄処理においては、硝酸ナトリウム水溶液を蒸発濃縮などで濃縮処理することが処理対象物の減容化がなされる点において好ましい。
【0050】
なお、上記の第一および第二の実施形態においては、硝酸イオン、リン酸イオン、酢酸イオン以外に浮遊物や、カチオンなどをほとんど含有せず、排出パイプに酢酸イオンが排出されるまでに排出される排出水を純水として再利用し得るという有利な点においてエッチング液によりエッチング処理された液晶基板を純水にて洗浄して生じた酸性排水を用いて排水処理を行ったが、本発明においては、このような、液晶基板を洗浄して生じた酸性排水に限定されるものではない。
【0051】
また、酸性を呈する排水中でリン酸イオンよりもアニオン交換樹脂にイオン交換しやすいものとして硝酸イオンを含有する排水を用いたが、本発明においては、前記硝酸イオン以外に硫酸イオン、ヨウ素イオンが含有される排水を用いることもできる。
【0052】
さらに、上記の第一および第二の実施形態においては、第二アニオン塔に硝酸イオンが導入されることをより確実に抑制し得る点、および、第二アニオン交換塔の排出水を純水として再利用する際に酢酸イオンが混入することを抑制し得る点において、事前に排水中に含まれる各イオンのイオン濃度を測定して前記測定したイオン濃度の値とアニオン交換樹脂の量から第一アニオン交換塔でのアニオン交換器の切り替えを行う処理水量または処理時間を求めて処理を行っているが、事前のイオン濃度測定を実施せずTOC測定器やEC測定器を用いて判定することも可能で、要すれば、pH計を利用してpHの測定を行い、その地点における排水のイオンの状況を判定してもよい。
【0053】
また、アニオン交換樹脂として弱塩基性アニオン交換樹脂、強塩基性アニオン交換樹脂のどちらを用いてもよい。
【0054】
また、イオン交換工程あるいは、イオン交換工程とリン酸イオン脱離工程との両方に用いる排水処理装置として、排水処理の中断を防止し得る点から、第一、第二アニオン交換塔にそれぞれ二台のアニオン交換器を用いる方法を採用しているが、本発明においては、一台のアニオン交換器を用いて、バッチ処理を行う排水処理装置を採用してもよい。また、三台以上のアニオン交換器を用いて実施することも可能である。
さらに、アニオン交換塔についても、二塔に限定されるものではなく、二塔以上の多段に備えることも可能である。
要すれば、1塔のアニオン交換塔を用いてリン酸イオンよりもイオン選択性の高いイオンを予め除去した後に、該アニオン交換塔のアニオン交換樹脂を再生し、次いでリン酸イオンのイオン交換を行うことも可能である。
これら、アニオン交換器、アニオン交換塔の数や大きさなどは処理する排水の量に応じて適宜変更することが可能である。
なお、アニオン交換樹脂をより多段に備えた場合においては、リン酸イオンのみをより確実に回収し得るものとなる。
【0055】
また、排水の流路を切り替えるために、電磁弁を用いているが、本発明においては、イオン交換工程あるいは、イオン交換工程とリン酸イオン脱離工程との両方に用いる排水処理装置として、電磁弁が用いられているものに限定されるものではなく、一般的な流路を切り替えるための手段を採用することができ、また、これらの手段を用いないことも可能である。
【0056】
また、要すれば、排水を予めカチオン交換するためのカチオン交換器、浮遊微粒子などを除去するための膜分離装置などを備えさせてこれらカチオン交換や浮遊微粒子除去などの前処理を実施することも可能である。
【0057】
また、上記第一、第二の実施形態においては、リン酸脱離工程におけるアルカリ金属塩水溶液として水酸化ナトリウムを用いて、リン酸ナトリウム水溶液を作製する場合を例に説明したが、本発明においては、アルカリ金属塩水溶液として水酸化ナトリウム水溶液に限定するものではない。
【実施例】
【0058】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
<実施例1>
<リン酸ナトリウム水溶液の回収>
第一、第二のアニオン交換塔それぞれにアニオン交換樹脂としてバイエルケミカルズ社の「レバチットMP62WS」空塔速度SV=(処理量/樹脂量)=10[1/h]ずつ配置し、処理する排水としてリン酸イオン300ppm、酢酸イオン25ppm、硝酸イオン8ppm含有する酸性排水を3L/minの流量で第一、第二のアニオン交換塔に連続的に通過させてイオン交換工程を実施した後、純水洗浄を行い、さらに、10wt%の水酸化ナトリウム水溶液2倍当量にてリン酸イオン脱離工程を実施し、リン酸ナトリウム水溶液を得た。
結果、上記回収により、排水中のリン酸イオンを8wt%のリン酸ナトリウム塩水溶液として80%以上回収することができた。また、前記リン酸ナトリウム塩をイオンクロマトグラフィー分析によりリンとナトリウムとのモル比を測定したところほぼ1.5となったことから、回収されたリン酸ナトリウム塩がリン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムの混合物であることが確認できた。
さらに、リン酸ナトリウム塩水溶液を槽に貯留して、循環用ポンプを用いてカチオン交換樹脂であるダウケミカルズ社「650C−H」にてイオン交換させpHが4.5となった時点で循環ポンプを停止させ、回収した前記リン酸ナトリウム塩をイオンクロマトグラフィー分析によりリンとナトリウムとのモル比を測定したところほぼ1となったことから、リン酸ナトリウム塩をリン酸二水素ナトリウムの状態で回収できることが確認できた。
このリン酸二水素ナトリウム水溶液の濃度は、25816ppmであった。
【0060】
<リン酸ニッケル粒子の製造>
このリン酸二水素ナトリウム水溶液に、リンとニッケルとのモル比が(リン:ニッケル)=2:3となるように硝酸ニッケル水溶液を加えてリン酸ニッケルを析出させて沈殿させた後、ろ過によって固液分離させた。
このリン酸ニッケルを析出させ、固液分離した後の上澄液のリン濃度を高周波誘導結合プラズマ発光分析装置にて分析したところ2.1ppmであることが確認され、リン酸二水素ナトリウム水溶液中の99.9%のリン元素をリン酸ニッケル粒子の製造に利用できたことが確認された。
また、得られたリン酸ニッケル粒子を高周波誘導結合プラズマ発光分析装置にて元素分析したところほとんどNaが含有されておらず、高純度のリン酸ニッケル粒子が製造されていることが確認された。
【0061】
<リン酸アルミニウム粒子の製造>
このリン酸二水素ナトリウム水溶液に、リンとアルミニウムとのモル比が(リン:アルミニウム)=1:1となるように硝酸アルミニウム水溶液を加えてリン酸アルミニウムを析出させて沈殿させ、固液分離した。
このリン酸アルミニウムを析出させ固液分離した後の上澄液のリン濃度を高周波誘導結合プラズマ発光分析装置にて分析したところ89.8ppmであることが確認され、リン酸二水素ナトリウム水溶液中の99.6%のリン元素をリン酸アルミニウム粒子の製造に利用できたことが確認された。
また、得られたリン酸アルミニウム粒子を高周波誘導結合プラズマ発光分析装置にて元素分析したところNaが含有されているものの、比較的高純度のリン酸アルミニウム粒子が製造されていることが確認された。
【0062】
<リン酸カルシウム粒子の製造>
このリン酸二水素ナトリウム水溶液に、リンとカルシウムとのモル比が(リン:カルシウム)=2:3となるように硝酸ニッケル水溶液を加えてリン酸カルシウムを析出させて沈殿させ、固液分離した。
このリン酸カルシウムを析出させ、固液分離した後の上澄液のリン濃度を高周波誘導結合プラズマ発光分析装置にて分析したところ10.5ppmであることが確認され、リン酸二水素ナトリウム水溶液中の99.9%のリン元素をリン酸カルシウム粒子の製造に利用できたことが確認された。
また、得られたリン酸カルシウム粒子を高周波誘導結合プラズマ発光分析装置にて元素分析したところほとんどNaが含有されておらず、高純度のリン酸カルシウム粒子が製造されていることが確認された。
【0063】
<実施例2>
<リン酸ナトリウム水溶液の回収>
水酸化ナトリウムで回収した後のリン酸ナトリウム塩水溶液をカチオン交換樹脂でイオン交換しない点以外は、実施例1と同様にイオン交換工程とリン酸イオン脱離工程を実施してリン酸ナトリウムの回収を行った。
結果、上記回収により、排水中のリン酸イオンを8wt%リン酸ナトリウム塩水溶液として80%以上回収することができた。
また、回収したリン酸ナトリウム塩をイオンクロマトグラフィー分析によりリンとナトリウムとのモル比を測定したところほぼ1.5となったことから、回収されたリン酸ナトリウム塩がリン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムの混合物であることが確認できた。なお、このリン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウム混合液の濃度は23647ppmであった。
【0064】
<リン酸ニッケル粒子の製造>
このリン酸二水素ナトリウム/リン酸水素二ナトリウム混合水溶液に、リンとニッケルとのモル比が(リン:ニッケル)=2:3となるように硝酸ニッケル水溶液を加えてリン酸ニッケルを析出させて沈殿させた後、ろ過によって固液分離させた。
このリン酸ニッケルを析出させ、固液分離した後の上澄液のリン濃度を高周波誘導結合プラズマ発光分析装置にて分析したところ3.3ppmであることが確認され、リン酸二水素ナトリウム水溶液中の99.9%のリン元素をリン酸ニッケル粒子の製造に利用できたことが確認された。
また、得られたリン酸ニッケル粒子を高周波誘導結合プラズマ発光分析装置にて元素分析したところほとんどNaが含有されておらず、高純度のリン酸ニッケル粒子が製造されていることが確認された。
【0065】
<リン酸アルミニウム粒子の製造>
このリン酸二水素ナトリウム/リン酸水素二ナトリウム水溶液に、リンとアルミニウムとのモル比が(リン:アルミニウム)=1:1となるように硝酸アルミニウム水溶液を加えてリン酸アルミニウムを析出させて沈殿させ、固液分離した。
このリン酸アルミニウムを析出させ固液分離した後の上澄液のリン濃度を高周波誘導結合プラズマ発光分析装置にて分析したところ108.6ppmであることが確認され、リン酸二水素ナトリウム水溶液中の99.5%のリン元素をリン酸アルミニウム粒子の製造に利用できたことが確認された。
また、得られたリン酸アルミニウム粒子を高周波誘導結合プラズマ発光分析装置にて元素分析したところNaが含有されているものの、比較的高純度のリン酸アルミニウム粒子が製造されていることが確認された。
【0066】
<リン酸カルシウム粒子の製造>
このリン酸二水素ナトリウム/リン酸水素二ナトリウム水溶液に、リンとカルシウムとのモル比が(リン:カルシウム)=2:3となるように硝酸ニッケル水溶液を加えてリン酸カルシウムを析出させて沈殿させ、固液分離した。
このリン酸カルシウムを析出させ、固液分離した後の上澄液のリン濃度を高周波誘導結合プラズマ発光分析装置にて分析したところ16.9ppmであることが確認され、リン酸二水素ナトリウム水溶液中の99.9%のリン元素をリン酸カルシウム粒子の製造に利用できたことが確認された。
また、得られたリン酸カルシウム粒子を高周波誘導結合プラズマ発光分析装置にて元素分析したところほとんどNaが含有されておらず、高純度のリン酸カルシウム粒子が製造されていることが確認された。
【0067】
<実施例3>
<リン酸ナトリウム水溶液の回収>
水酸化ナトリウムで回収した後のリン酸ナトリウム塩水溶液をカチオン交換樹脂でイオン交換しない点以外は、実施例1と同様にイオン交換工程とリン酸イオン脱離工程を実施してリン酸ナトリウムの回収を行った。回収したリン酸ナトリウム塩水溶液に酢酸ナトリウムが5wt%となるように添加し、リン酸ナトリウム塩と酢酸ナトリウム塩の混合溶液を作成した。
また、回収したリン酸ナトリウム塩をイオンクロマトグラフィー分析によりリンとナトリウムとのモル比を測定したところほぼ1.5となったことから、回収されたリン酸ナトリウム塩がリン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムの混合物であることが確認できた。なお、このリン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウム混合液の濃度は23647ppmであった。
【0068】
<リン酸ニッケル粒子の製造>
このリン酸二水素ナトリウム/リン酸水素二ナトリウム、酢酸ナトリウム混合水溶液に、リンとニッケルとのモル比が(リン:ニッケル)=2:3となるように硝酸ニッケル水溶液を加えてリン酸ニッケルを析出させて沈殿させた後、 によって固液分離させた。
このリン酸ニッケルを析出させ、固液分離した後の上澄液のリン濃度を高周波誘導結合プラズマ発光分析装置にて分析したところ9.4ppmであることが確認され、リン酸二水素ナトリウム水溶液中の99.9%のリン元素をリン酸ニッケル粒子の製造に利用できたことが確認された。
また、得られたリン酸ニッケル粒子を高周波誘導結合プラズマ発光分析装置にて元素分析したところほとんど酢酸塩やNaが含有されておらず、高純度のリン酸ニッケル粒子が製造されていることが確認された。
【0069】
<リン酸アルミニウム粒子の製造>
このリン酸二水素ナトリウム/リン酸水素二ナトリウム、酢酸ナトリウム水溶液に、リンとアルミニウムとのモル比が(リン:アルミニウム)=1:1となるように硝酸アルミニウム水溶液を加えてリン酸アルミニウムを析出させて沈殿させ、固液分離した。
このリン酸アルミニウムを析出させ固液分離した後の上澄液のリン濃度を高周波誘導結合プラズマ発光分析装置にて分析したところ60.9ppmであることが確認され、リン酸二水素ナトリウム水溶液中の99.7%のリン元素をリン酸アルミニウム粒子の製造に利用できたことが確認された。
また、得られたリン酸アルミニウム粒子を高周波誘導結合プラズマ発光分析装置にて元素分析したところほとんど酢酸塩が含有されておらず、比較的高純度のリン酸アルミニウム粒子が製造されていることが確認された。
【0070】
<リン酸カルシウム粒子の製造>
このリン酸二水素ナトリウム/リン酸水素二ナトリウム、酢酸ナトリウム水溶液に、リンとカルシウムとのモル比が(リン:カルシウム)=2:3となるように硝酸ニッケル水溶液を加えてリン酸カルシウムを析出させて沈殿させ、固液分離した。
このリン酸カルシウムを析出させ、固液分離した後の上澄液のリン濃度を高周波誘導結合プラズマ発光分析装置にて分析したところ10.2ppmであることが確認され、リン酸二水素ナトリウム水溶液中の99.9%のリン元素をリン酸カルシウム粒子の製造に利用できたことが確認された。
また、得られたリン酸カルシウム粒子を高周波誘導結合プラズマ発光分析装置にて元素分析したところほとんど酢酸塩やNaが含有されておらず、高純度のリン酸カルシウム粒子が製造されていることが確認された。
上記のごとく、排水中に酢酸が混入しているような場合であっても、排水中からリン酸と酢酸の混合液としてリン酸を取り出し硝酸ニッケル、硝酸アルミニウム、硝酸カルシウムのいずれかでリン酸塩を析出させ固液分離することにより、酢酸の影響を受けずにリン酸塩のみを回収することができる。
この結果からも、硝酸とリン酸以外に酢酸が含有されてなるエッチング液によりエッチング処理された液晶基板の純水洗浄排水など、リン酸イオンが低濃度でしかも酢酸イオンが混入する可能性のある場合において本発明のリン酸金属塩粒子製造方法がより顕著にその効果を奏することがわかる。
特に、上記に例示したようにイオン交換塔を利用してリン酸を回収する場合に、回収したリン酸ナトリウム中に酢酸が混入していても問題なくリン酸塩を取り出せるため、リン酸を回収するイオン交換塔の運転管理を厳密に行わなくとも良いという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】第一の実施形態に使用される排水処理装置を示すブロック図。
【図2】第一の実施形態の第一、第二アニオン交換塔の排出水状況を示すイオン濃度変化グラフ。
【図3】第一の実施形態の第二アニオン交換塔の排出水状況を示すイオン濃度変化グラフ。
【図4】第一の実施形態のアニオン交換樹脂再生装置を示すブロック図。
【図5】第一の実施形態の沈殿回収装置を示すブロック図。
【図6】第二の実施形態に使用される排水処理装置を示すブロック図。
【符号の説明】
【0072】
1:第一アニオン交換塔、2:第二アニオン交換塔、3:注水パイプ、4:連結パイプ、5:排水パイプ、6:電磁弁、11,12:アニオン交換器、21,22 アニオン交換器、19,29:アルカリ再生液貯留槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸イオン、硫酸イオン、ヨウ素イオンから選ばれる少なくとも一種と、リン酸イオンとを含む排水と、硝酸ニッケル、硝酸アルミニウムおよび硝酸カルシウムのいずれかの硝酸金属塩とを用いて下記1)〜3)の工程を実施してリン酸金属塩粒子を製造することを特徴とするリン酸金属塩粒子製造方法。
1)前記排水を酸性状態でアニオン交換樹脂に接触させて、硝酸イオン、硫酸イオン、ヨウ素イオンの内で前記排水に含まれるイオンをイオン交換させた後に、再び、アニオン交換樹脂に接触させることにより前記アニオン交換樹脂にリン酸イオンをイオン交換させるイオン交換工程。
2)前記イオン交換工程においてリン酸イオンがイオン交換された前記アニオン交換樹脂とアルカリ金属塩水溶液とを接触させて前記アニオン交換樹脂からリン酸イオンを脱離させてリン酸アルカリ金属塩水溶液を作製するリン酸イオン脱離工程。
3)前記リン酸イオン脱離工程により作製された前記リン酸アルカリ金属塩水溶液と、硝酸ニッケル、硝酸アルミニウムおよび硝酸カルシウムのいずれかとが混合されている混合液を作製することによりリン酸ニッケル、リン酸アルミニウムおよびリン酸カルシウムのいずれかのリン酸金属塩を前記混合液中に析出させるリン酸金属塩析出工程。
【請求項2】
前記排水を多段に配置されたアニオン交換樹脂を通過させることにより該アニオン交換樹脂に前記排水を連続的に接触させて、二番目以降に配置されたアニオン交換樹脂にリン酸イオンをイオン交換させて前記イオン交換工程を実施する請求項1に記載のリン酸金属塩粒子製造方法。
【請求項3】
前記リン酸イオン脱離工程に用いられるアルカリ金属塩水溶液が水酸化ナトリウム水溶液である請求項1または2に記載のリン酸金属塩粒子製造方法。
【請求項4】
前記排水は、硝酸とリン酸とを含むエッチング液によりエッチング処理された液晶基板が純水で洗浄されて生じた酸性の排水である請求項1乃至3のいずれかに1項に記載のリン酸金属塩粒子製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−284271(P2007−284271A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−111158(P2006−111158)
【出願日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】