説明

ルペオール含有医薬組成物、食品及び飼料

【課題】植物中に含まれるトリテルペンであり、抗菌作用を持つことが以前から知られているルペオール又はその誘導体を有効成分として含有する医薬組成物の提供。
【解決手段】ルペオール又はその誘導体を含有する内臓脂肪増加抑制用、抗肥満用、超低比重リポタンパク質中性脂肪増加抑制用、若しくは血圧降下用医薬組成物。ルペオール又はその誘導体を含有する食品、及びルペオールを含有する飼料特に家畜用飼料又は愛玩動物用飼料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルペオールを含有する医薬組成物、食品、及び飼料に関する。本発明の医薬組成物等は、メタボリックシンドロームの予防及び改善に有用である。
【背景技術】
【0002】
ルペオールは、植物中に含まれるトリテルペンであり、抗菌作用を持つことが以前から知られている。また、ルペオールの脂肪酸エステルには、メラニン産生促進作用があることも知られている(特許文献1)。更に、最近、Sudhaharらは、ルペオールやその誘導体にコレステロールや中性脂肪の低下効果があることを報告している(非特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2004-345959号公報
【非特許文献1】Varatharajan Sudhahar, Sekar Ashok Kumar, Palaninathan Varalakshmi Life Sciences 78 (2006) 1329-2335
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Sudhaharらは、上述したようにルペオールと、コレステロール及び中性脂肪との関連性について述べているが、ルペオールと内臓脂肪や肥満との関連性については何ら言及していない。また、中性脂肪の中でも超低比重リポタンパク質中に含まれる中性脂肪は「悪玉中性脂肪」と呼ばれているが、Sudhaharらの論文では、超低比重リポタンパク質などの各々のリポタンパク質中に含まれる中性脂肪量の測定は行われていない。
【0005】
本発明は、以上の技術的背景の下、ルペオールの新たな用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ルペオールが、1)内臓脂肪増加抑制効果、2)超低比重リポタンパク質中に含まれる中性脂肪の増加抑制効果、3)血圧降下効果を持つことを見出し、これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(7)を提供するものである。
【0008】
(1)ルペオール又はその誘導体を有効成分として含有する内臓脂肪減少若しくは増加抑制用医薬組成物。
(2)ルペオール又はその誘導体を有効成分として含有する抗肥満用医薬組成物。
(3)ルペオール又はその誘導体を有効成分として含有する超低比重リポタンパク質中性脂肪減少若しくは増加抑制用医薬組成物。
(4)ルペオール又はその誘導体を有効成分として含有する血圧降下用医薬組成物。
(5)ルペオールを有効成分として含有する食品。
(6)ルペオールを有効成分として含有する飼料。
(7)飼料が、家畜用飼料又は愛玩動物用飼料である(6)に記載の飼料。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、内臓脂肪の増加、肥満、及び超低比重リポタンパク質中性脂肪の増加の抑制、並びに血圧降下が可能になる。内臓脂肪の増加等は、糖尿病、動脈硬化、高血圧などの疾患を引き起こす原因となる。本発明の医薬組成物等により、内臓脂肪の増加等を抑制することにより、これらの疾患の予防及び改善につながる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の医薬組成物は、ルペオール又はその誘導体を有効成分として含有するものであり、内臓脂肪の減少若しくは増加抑制、抗肥満、超低比重リポタンパク質中性脂肪の減少若しくは増加抑制、血圧降下のために用いられる。
【0012】
本発明の医薬組成物には、薬事法によって規定される医薬品が含まれるが、医薬品には含まれないサプリメントのような医薬品と同様の機能及び形態をとるものも含まれる。
【0013】
ルペオール誘導体としては、下記の式(I)又は(II)で表される化合物を例示できる。
【0014】
【化1】

〔式中、Rは炭素数7〜22のアシル基を表す。〕
【0015】
【化2】

アシル基を構成する炭化水素は、二重結合等の不飽和結合を含んでも、また直鎖状でも分岐鎖状であってもよく、また、芳香環などの環を含んでもいてもよい。鎖状のアシル基の具体例としては、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、オレオイル基、イソステアロイル基、ベヘノイル基、リノレオイル基等が挙げられる。芳香環を含むアシル基の具体例としては、ベンゾイル基、メチルベンゾイル基、フェニルアセチル基、3−フェニルプロパノイル基、3−フェニルアクリロイル基、ナフトイル基等が挙げられる。一般式(I)におけるRは、好適には、飽和の炭化水素を有する炭素数14〜18のアシル基であり、炭化水素は直鎖状でも分岐鎖状でも構わないが、直鎖状が好ましい。特に、飽和の炭化水素を有する炭素数16のアシル基が好ましい。さらに、パルミトイル基が最も好ましい。
【0016】
一般式(I)で表される化合物は、ルペオールを常法に従ってアシル化することによって得ることができる。一般式(II)で表される化合物は、ルペオールを常法に従って酸化することによって得ることができる。また、一般式(I)及び(II)で表される化合物は、植物中に含まれるので、その植物から抽出、精製して得てもよい。
【0017】
本発明の医薬組成物は、有効成分であるルペオール又はその誘導体の他、賦形剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、吸収促進剤、pH調整剤、界面活性剤、稀釈剤、担体、溶解助剤、矯味剤、保存剤、芳香剤、着色剤、コーティング剤などの添加成分や水などを含むものであってもよい。添加成分の具体例としては、でん粉、乳糖等の糖類、硫酸マグネシウム、タルク、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体、大豆油、ゴマ油等の植物油、動物油若しくは合成油、ガム類、エタノール、1,3−ブチレングリコール、ポリアルキレングリコール等のアルコール類などを挙げることができる。
【0018】
本発明の医薬組成物は、経口投与、非経口投与いずれの投与方法をも採用することができ、それぞれに適した医薬製剤の形態とすることができる。医薬製剤としては、例えば、液剤、シロップ剤、注射剤、液状吸入剤、乳剤等の液状剤、錠剤、粉剤、顆粒剤、カプセル剤、軟膏剤、固形吸入剤、座剤等の固形剤などを挙げることができる。
【0019】
本発明の医薬組成物中のルペオール又はその誘導体の含有量は、用途、剤型、配合目的等によって異なるが、一般的には、組成物全量中0.1〜20質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜10質量%である。
【0020】
本発明の医薬組成物の投与量は、投与対象者の年齢、体重、投与方法などに応じて適宜決めればよい。例えば、通常成人1日当たりルペオール又はその誘導体0.01〜2000mg、好ましくは、0.1〜1000mgを1日1回又は数回に分けて投与することができる。
【0021】
本発明の食品は、ルペオールを有効成分として含有するものである。
【0022】
食品の種類は特に限定されず、菓子、清涼飲料水、茶などの飲料、野菜又は果実加工品、畜肉製品、調味料、乳製品、乳飲料、食用油、調理品、パン・シリアル、麺類などに広く適用可能である。特に好ましい食品としては、清涼飲料水、茶、調味料などを挙げることができる。
【0023】
本発明の食品は、製造工程中にルペオール又はその誘導体を添加すること以外はその食品の通常の製造方法と同様に製造することができる。
【0024】
本発明の食品中のルペオール又はその誘導体の含有量は、食品の種類などによって異なるが、一般には、全量中0.01〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜2質量%である。
【0025】
本発明の飼料は、ルペオールを有効成分として含有するものである。
【0026】
対象とする動物は特に限定されず、イヌ、ネコ、観賞用鳥類(カナリア、インコなど)、観賞用魚類(キンギョ、熱帯魚など)などの愛玩動物、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマなどの家畜、ニワトリなどの家禽、ブリ、マダイ、ヒラメなどの養殖魚などを挙げることができる。これらの動物の中でも、ヒト同様に内臓脂肪の蓄積、肥満などが問題となるイヌやネコなどの愛玩動物や肉中に脂肪分が少ない方が好まれるニワトリなどを好ましい動物として挙げることができる。
【0027】
本発明の飼料は、製造工程中にルペオール又はその誘導体を添加すること以外はその飼料の通常の製造方法と同様に製造することができる。
【0028】
本発明の飼料中のルペオール又はその誘導体の含有量は、飼料の種類などによって異なるが、一般には、全量中0.01〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜2質量%である。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0030】
〔実施例1〕
試験概要
高脂肪食(High Fat Diet 32)を負荷したマウス(C57BL/6)にルペオールを投与し、内臓脂肪増加抑制効果、血清脂質低下効果の有無を調べる。
【0031】
処理群
コントロール群:高脂肪食負荷のみ
ルペオール経口投与群:ルペオール経口投与(30mg/kg)+高脂肪食
シンバスタチン経口投与群:シンバスタチン経口投与(30mg/kg)+高脂肪食
処理期間
6週齢から2週間高脂肪食で予備飼育後、群分けし、8週齢から10週齢まで2週間処理を行った。
【0032】
処理方法
各群、1日1回、ルペオール経口投与、シンバスタチン経口投与する。高脂肪食(High Fat Diet 32)は自由摂食させた。
【0033】
測定項目
体重、血清脂質(総コレステロール量、中性脂肪量、並びにカイロミクロン、超低比重リポタンパク質、低比重リポタンパク質、及び高比重リポタンパク質中のコレステロール量及び中性脂肪量)については、処理前後で測定した。肝臓重量、腸間膜脂肪重量、精巣周囲脂肪重量については処理終了後に測定した。
【0034】
測定結果
各測定項目の結果を図1〜図15に示す。
【0035】
図6に示すように、ルペオール投与群は、コントロール群に比べ、超低比重リポタンパク質中の中性脂肪量の増加が少なかった。このことから、ルペオールには超低比重リポタンパク質中性脂肪増加抑制効果があると考えられる。
【0036】
図13〜15に示すように、ルペオール投与群は、コントロール群に比べ、高脂肪食負荷後の腸管膜周囲脂肪重量及び精巣周囲脂肪重量の増加が少なかった。このことから、ルペオールには内臓脂肪増加抑制効果、抗肥満があると考えられる。
【0037】
〔実施例2〕
試験概要
脳卒中易発性高血圧自然発症ラット(SHRSP/Izm)にルペオールを投与し、血圧低下効果の有無を調べる。
【0038】
処理群
コントロール群:蒸留水強制経口投与
ルペオール20mg/kg群:ルペオール(20mg/kg)強制経口投与
ルペオール40mg/kg群:ルペオール(40mg/kg)強制経口投与
処理方法
脳卒中易発性高血圧自然発症ラット(SHRSP/Izm、12週齢雄)に16時間の絶食の後、ルペオール水溶液を強制経口投与した(20および40 mg/kg体重)。コントロール群には、蒸留水を同様に投与した。
【0039】
測定方法
投与前、投与2,4,6時間後に経時的に収縮期血圧を測定した。
【0040】
測定結果
図16に示すように、コントロール群に比べ、40 mg/kg体重投与群では2時間後に、また、20 mg/kg体重投与群では4時間後に、有意に血圧の低下が観察された。
【0041】
このことからルペオールには血圧低下効果があると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】ルペオールを投与したマウスの体重の推移を示す図。
【図2】ルペオールを投与したマウスの中性脂肪量の推移を示す図。
【図3】ルペオールを投与したマウスの総コレステロール量の推移を示す図。
【図4】ルペオールを投与したマウスのカイロミクロン中の中性脂肪量の推移を示す図。
【図5】ルペオールを投与したマウスのカイロミクロン中のコレステロール量の推移を示す図。
【図6】ルペオールを投与したマウスの超低比重リポタンパク質中の中性脂肪量の推移を示す図。
【図7】ルペオールを投与したマウスの超低比重リポタンパク質中のコレステロール量の推移を示す図。
【図8】ルペオールを投与したマウスの低比重リポタンパク質中の中性脂肪量の推移を示す図。
【図9】ルペオールを投与したマウスの低比重リポタンパク質中のコレステロール量の推移を示す図。
【図10】ルペオールを投与したマウスの高比重リポタンパク質中の中性脂肪量の推移を示す図。
【図11】ルペオールを投与したマウスの高比重リポタンパク質中のコレステロール量の推移を示す図。
【図12】ルペオールを投与したマウスの肝臓重量の推移を示す図。
【図13】ルペオールを投与したマウスの腸管膜周囲脂肪重量の推移を示す図。
【図14】ルペオールを投与したマウスの精巣周囲脂肪重量の推移を示す図。
【図15】ルペオールを投与したマウスの腸管膜周囲脂肪重量及び精巣周囲脂肪重量の推移を示す図。
【図16】ルペオール投与後のラットの収縮期血圧の変化を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルペオール又はその誘導体を有効成分として含有する内臓脂肪減少若しくは増加抑制用医薬組成物。
【請求項2】
ルペオール又はその誘導体を有効成分として含有する抗肥満用医薬組成物。
【請求項3】
ルペオール又はその誘導体を有効成分として含有する超低比重リポタンパク質中性脂肪減少若しくは増加抑制用医薬組成物。
【請求項4】
ルペオール又はその誘導体を有効成分として含有する血圧降下用医薬組成物。
【請求項5】
ルペオールを有効成分として含有する食品。
【請求項6】
ルペオールを有効成分として含有する飼料。
【請求項7】
飼料が、家畜用飼料又は愛玩動物用飼料である請求項6に記載の飼料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2009−29778(P2009−29778A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134199(P2008−134199)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(503201335)株式会社スカイライト・バイオテック (4)
【出願人】(591108178)秋田県 (126)
【Fターム(参考)】