ループアンテナ装置
【課題】スルーホールを不要にして装置のコストダウンを可能にする。
【解決手段】片面印刷配線基板1上にアンテナ素子2を印刷形成するループアンテナ装置にあって、上記アンテナ素子2を、1本の導体パターンを2回渦巻き状に巻回することにより形成されるループパターン21,22と、上記1本の導電パターンの両端部位を上記ループパターン21,22からそのループ外へ互いに並行する状態に引き出すことにより形成される一対の引出パターン21a,22aと、上記ループパターン21,22の中間部位を上記一対の引出パターン22aを迂回させるようにコ字型に突出形成される突出パターン23とを備える構成としたものである。
【解決手段】片面印刷配線基板1上にアンテナ素子2を印刷形成するループアンテナ装置にあって、上記アンテナ素子2を、1本の導体パターンを2回渦巻き状に巻回することにより形成されるループパターン21,22と、上記1本の導電パターンの両端部位を上記ループパターン21,22からそのループ外へ互いに並行する状態に引き出すことにより形成される一対の引出パターン21a,22aと、上記ループパターン21,22の中間部位を上記一対の引出パターン22aを迂回させるようにコ字型に突出形成される突出パターン23とを備える構成としたものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばRFID(Radio Frequency Identification)用のアンテナとして用いられるループアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、RFIDは一般にRFタグと呼ばれ、定期券や身分証カード等の非接触カードのほか携帯電話機やPDA(Personal Digital Assistant)等の携帯端末にも設けられるようになっている。RFタグとリーダとの間の信号伝達方式には、タグのコイルとリーダのアンテナコイルとを磁束結合させて電力及び信号を伝達する電磁誘導方式と、タグのアンテナとリーダのアンテナとの間で電磁波を送受信することにより電力及び信号を伝達する電波方式とがある。このうち、電磁誘導方式を採用したRFタグのアンテナとしてはループアンテナが使用される。
【0003】
この種のループアンテナは、従来例えば図12に示すように1本の導体パターンを複数回渦巻き状に巻回してループパターン51,52を形成し、かつ上記導体パターンの両端部をループの外へ平行に引き出してその先端部を給電端子51b,52bとするように構成される(例えば、非特許文献1を参照。)。
【非特許文献1】Klaus Finkenzeller, 「RFIDハンドブック」,日刊工業新聞社,2004年5月31日,p17
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、このような従来のループアンテナでは、内側のループパターン52の端部をループ外へ引き出す際に、例えば図13に示すように外周側のループパターン51と交差する位置で上記内側のループパターン51のブリッジ53を構成している。具体的には、上記ループパターンを形成する両面印刷配線基板にスルーホールを設け、このスルーホールを介して上記ループパターン52を導くことによりブリッジを構成している。
【0005】
このため、両面印刷配線基板を使用し、さらにこの基板にスルーホールを設ける必要があることから、装置部品のコストアップを招くと共に製造コストも高くなる。また、例えばループパターンを端末のカバーに直接印刷形成する要求があっても、端末カバーにはスルーホールを設けることができないため、上記要求に応えることができない。
【0006】
この発明は上記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、スルーホールを不要にして装置のコストダウンを可能にしたループアンテナ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためにこの発明の一観点は、絶縁性を有する基材の面上にアンテナ素子を印刷形成するループアンテナ装置にあって、上記アンテナ素子を、1本の導体パターンを複数回渦巻き状に巻回することにより形成されるループパターン部と、上記1本の導電パターンの両端部位を上記ループパターン部からそのループ外へ互いに並行する状態に引き出すことにより形成される一対の引出パターン部と、上記ループパターン部の中間部位を上記一対の引出パターン部の一方を迂回させるように突出形成される突出パターン部を備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
したがって、内側に位置するループパターンの端部を引出パターンとして引き出す際に、外周側に位置するループパターンと交差させる必要がなくなり、これによりブリッジ構造が不要となる。この結果、スルーホールを設ける必要がなくなり、また片面印刷配線基板を用いることが可能となるため、部品コスト及び製造コストを低減して装置のコストダウンを図ることが可能となる。
すなわち、この発明によればスルーホールを不要にして装置のコストダウンを可能にしたループアンテナ装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照してこの発明の実施形態を説明する。
(第1の実施形態)
図1は、この発明に係わるループアンテナ装置の第1の実施形態を示す斜視図である。この実施形態のループアンテナ装置は、片面印刷配線基板1上にアンテナ素子2を構成する導体パターンを印刷形成したものである。
【0010】
アンテナ素子2は図2に示すように、1本の導体パターンを渦巻き状に2回巻回することにより形成される正方形又は長方形をなす2つのループパターン21,22を有する。また、上記1本の導体パターンの両端部21a,22aは、上記ループパターン21,22の一辺中央部から当該ループパターン21,22の外方向へ互いに並行する状態に引き出され、その先端部には給電端子21b,22bが設けられる。さらに、上記ループパターン21,22のうち外周側に位置するループパターン21は、上記両端部位21a,22aのうち内側のループパターン22から引き出された引出パターン22aを迂回するために、図3に拡大して示すように中間部位23がコ字型に突出形成されている。
【0011】
このような構成であるから、導体パターンの両端部21a,22aは互いに対をなすように相互に並行する状態に引き出されるため、給電端子21b,22bを無線回路に近い位置に配置することが可能となる。このため、無線回路から上記給電端子21b,22bに無線送信電力を供給する給電パターンの長さを短くし、かつパターン形状を簡単なものにすることができ、これにより高い給電効率を保持することができる。
【0012】
しかも、上記導体パターンの端部22aをループ外へ引き出すために、外周側のループパターン21の中間部位をコ字型に突出形成し、このコ字型突出パターン23を形成して上記引出パターン22aを迂回するようにしている。このため、外周側のループパターン21と内周側のループパターン22から引き出される引出パターン22aとの間に交差部分がなくなってブリッジ構造が不要となり、これにより両面印刷配線基板が不要になると共に、基板にスルーホールを設ける必要もなくなる。したがって、装置の構造が簡単化されて信頼性の向上を図ることが可能となり、さらに部品コスト及び製造コストが低減されて装置のコストダウンを図ることが可能となる。
【0013】
なお、上記引出パターン22aを迂回するためにループパターン21の中間部位にコ字型突出パターン23を設けたが、これによるアンテナ特性の低下は生じない。図4は本発明者によるループ法線方向の磁界強度分布の解析結果を模式的に示したものである。同図から明らかなように、図12及び図13に示した従来のブリッジ構造を採用したループアンテナのループ法線方向における磁界強度分布(図5)と比べても、特性にほとんど差がないことが分かる。図6は、アンテナ位置に対する近傍磁界強度分布を本実施例と従来とで対比して示したものである。同図からも明らかなように、両者の近傍磁界強度分布はアンテナのどの位置を見てもほぼ等しくなる。
【0014】
(第2の実施形態)
この発明の第2の実施形態は、引出パターン及びコ字型突出パターンを、ループパターンの中心線に対し非対称となる位置に形成すると共に、コ字型突出パターンの突出端の位置がループアンテナの中性点となるように、コ字型突出パターンの形成位置を設定したものである。
【0015】
図7はこの発明の第2の実施形態におけるアンテナパターンを示す図である。同図に示すように、ループパターン31,32からはそれぞれ引出パターン31a,32aが引き出され、その先端部にはそれぞれ給電端子31b,32bが設けられる。また、外周側のループパターン31はその中間部位33が上記引出パターン32を迂回するようにコ字型に突出形成されている。これらの引出パターン31a,32a及びコ字型に突出形成されたパターン(コ字型突出パターン)33の形成位置は、ループパターン31,32の中心線に対し非対称となるように設定されている。
【0016】
また、上記コ字型突出パターン33は、その突出端の位置が上記ループパターン31,32等を構成する1本の導体パターンの両端から等距離にある位置、つまりループアンテナの中性点となるように形成される。この突出端には接地端子33aが設けられ、この接地端子33aは基板1の接地パターンに接続される。
【0017】
このような構成であるから、コ字型突出パターン33を形成して上記引出パターン32aを迂回するようにしている。このため、前記第1の実施形態と同様に外周側のループパターン31と内周側のループパターン32から引き出される引出パターン32aとの間に交差部分がなくなってブリッジ構造が不要となり、これにより両面印刷配線基板が不要になると共に、基板にスルーホールを設ける必要もなくなる。したがって、装置の構造が簡単化されて信頼性の向上を図ることが可能となり、さらに部品コスト及び製造コストが低減されて装置のコストダウンを図ることが可能となる。
【0018】
また、引出パターン31a,32a及びコ字型突出パターン33がループパターン31,32の中心線に対し非対称となる位置に形成されている。この結果、例えば同一構造のループアンテナ装置を備えた2台の端末を重ね合わせて接近させた場合でも、両ループアンテナ間の結合損失を低減して両端末を正常に動作させることができる。
【0019】
さらに、コ字型突出パターン33の突出端の位置にループアンテナの中性点が設定されるようにコ字型突出パターン33の形成位置が設定され、かつこの突出端に接地端子33aが設けられる。このように構成すると、中性点の位置を無線回路の接地パターンに近接させることができ、上記ループアンテナの中性点を引出線を介さずに基板1の接地パターンに接地することが可能となる。すなわち、図8の等価回路に示すように、中性点(仮想接地点)と接地パターンとの間を引出線によるインダクタンスを介することなく直接接続することが可能となる。
【0020】
この結果、ループアンテナは平衡回路として動作することになる。このため、無線回路とループアンテナ装置との間に平衡不平衡変換回路(バラン)を設ける必要がなくなり、これによりアンテナ給電系の回路構成の簡単小型化が図れる。また、中性点と接地パターンとの間が引出線によるインダクタンスを介さずに直接接続される。このため、中性点の電位は0Vに固定されることになり、例えば同一端末に移動通信用の高周波帯で共振する他のアンテナが設けられている場合でも、アンテナ間の干渉の発生を低減することができる。
【0021】
因みに、ループアンテナの両端に設けられる2つの給電端子の一方を接地する場合には、アンテナは平衡回路として動作しない。このため、平衡型の無線回路から送信電力を供給するためには、無線回路とループアンテナの給電端子との間にバランを介在させる必要があり、アンテナ給電系の回路構成が複雑かつ大型化する。
【0022】
一方、ループアンテナを平衡回路として動作させるためにループパターン上の中性点を接地する場合、中性点が例えばループパターン31,32上に存在すると、この中性点を引き出し線を介して基板の接地パターンに接地しなければならない。このような構成であると、中性点と接地パターンとの間には引出線によるインダクタンスが介在することになり、このインダクタンスにより回路が2つの固有値を持つことになる。これは、インダクタンスにより分割された2つのループがミューチャルカップリングされた状態と等価になる。このため、引出線がループサイズに比べて長い場合や、同一端末内に移動通信用の高周波帯で共振する他のアンテナが設けられている場合には、干渉の増加を招くおそれがある。
【0023】
(第3の実施形態)
この発明の第3の実施形態は、筐体カバーにループアンテナのパターンを直接印刷形成する場合に、ループパターン部分を筐体カバーの表面側に印刷形成し、引出パターン及びコ字型突出パターンを筐体カバーの端部で折り返して当該筐体カバーの裏面側に印刷形成するように構成したものである。
【0024】
図9乃至図11は、この発明の第3の実施形態に係わるループアンテナ装置の構成を示すもので、図9はその表面側の構成を示す平面図、図10は裏面側の構成を示す平面図、図1は表面側から裏面側への折り返し部分の構成を示す斜視図である。
絶縁体からなる筐体カバー10の表面には、図9に示すように1本の可撓性を有する導体パターンを3回渦巻き状に巻回したループパターン41,42,43が印刷形成される。また、上記導体パターンの両端部はそれぞれ、図11に示すように筐体カバー10の端部において裏面側に折り返され、図10に示すように筐体カバー10の裏面に引出パターン41a,43aとして印刷形成される。この引出パターン41a,43aの先端部にはそれぞれ給電端子41b,43bが設けられる。さらに、上記引出パターン43aを迂回するために、上記ループパターン41,42,43のうち最外周に位置するループパターン41及びその内側に隣接するループパターン42の中間部も、図11に示すように筐体カバー10の端部において裏面側に折り返され、図10に示すように筐体カバー10の裏面にコ字型突出パターン45,46として印刷形成される。
【0025】
このような構成であるから、スルーホールを設けることなく筐体カバー10の裏面側に給電端子41b,43bを形成することができる。このため、筐体カバー10の表面面積に限りがありループアンテナのすべてのパターンを筐体カバー10の表面に形成することが困難な場合でも、筐体カバー10の防塵及び防水性を損なうことなく、筐体カバー10の裏面を有効利用してループアンテナを形成することができる。
【0026】
(その他の実施形態)
前記第3の実施形態において、コ字型突出パターン46の突出端にループアンテナの中性点が設定されるように各ループパターン41,42,43の形成位置を調整し、この中性点を接地パターンに直接接地するようにしてもよい。このように構成すると、第2の実施形態と同様に、無線回路とループアンテナ装置との間にバランを設ける必要がなくなり、これによりアンテナ給電系の回路構成の簡単小型化が図れる。また、中性点と接地パターンとの間が引出線によるインダクタンスを介さずに直接接続されるため、同一端末に移動通信用の高周波帯で共振する他のアンテナが設けられている場合でも、アンテナ間の干渉の発生を低減することができる。
【0027】
また、前記第1及び第2の実施形態では2個のループパターンを形成し、また第3の実施形態では3個のループパターンを形成した場合を例示したが、ループパターンの数は4個以上でもよい。さらに、ループパターンの形状は第1及び第2の実施形態で例示した正方形や長方形などの方形や、第3の実施形態で例示した台形以外に、六角形以上の多角形や円形、楕円形等であってもよい。また、突出パターンの形状は必ずしもコ字型に限ることはなく、U字形や卵形などであってもよい。さらに、ループアンテナのパターンを形成する基材面は必ずしも平面でなくてもよく、湾曲した面であってもよい。
【0028】
また、前記各実施形態では、RFID用のループアンテナを携帯端末に設けた場合を例にとって説明したが、携帯端末以外にもクレジットカードや定期券、身分証カードに設けるループアンテナにも本発明を適用することができ、またRFID以外の通信用途のループアンテナにも本発明は適用可能である。
【0029】
要するにこの発明は、上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、各実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明に係わるループアンテナ装置の第1の実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示したループアンテナ装置のアンテナパターンの形状を拡大して示す図である。
【図3】図2に示したアンテナパターンの要部構成を拡大して示す斜視図である。
【図4】図1に示したループアンテナ装置におけるループ法線方向の磁界強度分布を示す図である。
【図5】図12に示す従来のループアンテナ装置におけるループ法線方向の磁界強度分布を示す図である。
【図6】図1に示したループアンテナ装置及び図12に示した従来のループアンテナ装置の近傍磁界分布特性を対比して示す図である。
【図7】この発明に係わるループアンテナ装置の第2の実施形態を示すアンテナパターン図である。
【図8】図7に示したループアンテナ装置の等価回路を示す図である。
【図9】この発明に係わるループアンテナ装置の第3の実施形態を示すもので、その表面側の構成を示す図である。
【図10】図9に示したループアンテナ装置の裏面側の構成を示す図である。
【図11】図9に示したループアンテナ装置の表面側から裏面側への折り返し部分の構成を示す斜視図である。
【図12】従来のループアンテナ装置のアンテナパターンを示す図である。
【図13】図12に示したアンテナパターンの要部構成を拡大して示す斜視図である。
【符号の説明】
【0031】
1…片面印刷配線基板、2…アンテナ素子、21,31…外周側のループパターン、22,32…内側のループパターン、21a,22a,31a,32a…引出パターン、21b,22b…給電点、23,33…迂回用のコ字型突出パターン、33a…接地端子、10…筐体カバー、41,42,43…ループパターン、41a,43a…引出パターン、41b,43b…給電端子、45,46…迂回用のコ字型突出パターン。
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばRFID(Radio Frequency Identification)用のアンテナとして用いられるループアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、RFIDは一般にRFタグと呼ばれ、定期券や身分証カード等の非接触カードのほか携帯電話機やPDA(Personal Digital Assistant)等の携帯端末にも設けられるようになっている。RFタグとリーダとの間の信号伝達方式には、タグのコイルとリーダのアンテナコイルとを磁束結合させて電力及び信号を伝達する電磁誘導方式と、タグのアンテナとリーダのアンテナとの間で電磁波を送受信することにより電力及び信号を伝達する電波方式とがある。このうち、電磁誘導方式を採用したRFタグのアンテナとしてはループアンテナが使用される。
【0003】
この種のループアンテナは、従来例えば図12に示すように1本の導体パターンを複数回渦巻き状に巻回してループパターン51,52を形成し、かつ上記導体パターンの両端部をループの外へ平行に引き出してその先端部を給電端子51b,52bとするように構成される(例えば、非特許文献1を参照。)。
【非特許文献1】Klaus Finkenzeller, 「RFIDハンドブック」,日刊工業新聞社,2004年5月31日,p17
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、このような従来のループアンテナでは、内側のループパターン52の端部をループ外へ引き出す際に、例えば図13に示すように外周側のループパターン51と交差する位置で上記内側のループパターン51のブリッジ53を構成している。具体的には、上記ループパターンを形成する両面印刷配線基板にスルーホールを設け、このスルーホールを介して上記ループパターン52を導くことによりブリッジを構成している。
【0005】
このため、両面印刷配線基板を使用し、さらにこの基板にスルーホールを設ける必要があることから、装置部品のコストアップを招くと共に製造コストも高くなる。また、例えばループパターンを端末のカバーに直接印刷形成する要求があっても、端末カバーにはスルーホールを設けることができないため、上記要求に応えることができない。
【0006】
この発明は上記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、スルーホールを不要にして装置のコストダウンを可能にしたループアンテナ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためにこの発明の一観点は、絶縁性を有する基材の面上にアンテナ素子を印刷形成するループアンテナ装置にあって、上記アンテナ素子を、1本の導体パターンを複数回渦巻き状に巻回することにより形成されるループパターン部と、上記1本の導電パターンの両端部位を上記ループパターン部からそのループ外へ互いに並行する状態に引き出すことにより形成される一対の引出パターン部と、上記ループパターン部の中間部位を上記一対の引出パターン部の一方を迂回させるように突出形成される突出パターン部を備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
したがって、内側に位置するループパターンの端部を引出パターンとして引き出す際に、外周側に位置するループパターンと交差させる必要がなくなり、これによりブリッジ構造が不要となる。この結果、スルーホールを設ける必要がなくなり、また片面印刷配線基板を用いることが可能となるため、部品コスト及び製造コストを低減して装置のコストダウンを図ることが可能となる。
すなわち、この発明によればスルーホールを不要にして装置のコストダウンを可能にしたループアンテナ装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照してこの発明の実施形態を説明する。
(第1の実施形態)
図1は、この発明に係わるループアンテナ装置の第1の実施形態を示す斜視図である。この実施形態のループアンテナ装置は、片面印刷配線基板1上にアンテナ素子2を構成する導体パターンを印刷形成したものである。
【0010】
アンテナ素子2は図2に示すように、1本の導体パターンを渦巻き状に2回巻回することにより形成される正方形又は長方形をなす2つのループパターン21,22を有する。また、上記1本の導体パターンの両端部21a,22aは、上記ループパターン21,22の一辺中央部から当該ループパターン21,22の外方向へ互いに並行する状態に引き出され、その先端部には給電端子21b,22bが設けられる。さらに、上記ループパターン21,22のうち外周側に位置するループパターン21は、上記両端部位21a,22aのうち内側のループパターン22から引き出された引出パターン22aを迂回するために、図3に拡大して示すように中間部位23がコ字型に突出形成されている。
【0011】
このような構成であるから、導体パターンの両端部21a,22aは互いに対をなすように相互に並行する状態に引き出されるため、給電端子21b,22bを無線回路に近い位置に配置することが可能となる。このため、無線回路から上記給電端子21b,22bに無線送信電力を供給する給電パターンの長さを短くし、かつパターン形状を簡単なものにすることができ、これにより高い給電効率を保持することができる。
【0012】
しかも、上記導体パターンの端部22aをループ外へ引き出すために、外周側のループパターン21の中間部位をコ字型に突出形成し、このコ字型突出パターン23を形成して上記引出パターン22aを迂回するようにしている。このため、外周側のループパターン21と内周側のループパターン22から引き出される引出パターン22aとの間に交差部分がなくなってブリッジ構造が不要となり、これにより両面印刷配線基板が不要になると共に、基板にスルーホールを設ける必要もなくなる。したがって、装置の構造が簡単化されて信頼性の向上を図ることが可能となり、さらに部品コスト及び製造コストが低減されて装置のコストダウンを図ることが可能となる。
【0013】
なお、上記引出パターン22aを迂回するためにループパターン21の中間部位にコ字型突出パターン23を設けたが、これによるアンテナ特性の低下は生じない。図4は本発明者によるループ法線方向の磁界強度分布の解析結果を模式的に示したものである。同図から明らかなように、図12及び図13に示した従来のブリッジ構造を採用したループアンテナのループ法線方向における磁界強度分布(図5)と比べても、特性にほとんど差がないことが分かる。図6は、アンテナ位置に対する近傍磁界強度分布を本実施例と従来とで対比して示したものである。同図からも明らかなように、両者の近傍磁界強度分布はアンテナのどの位置を見てもほぼ等しくなる。
【0014】
(第2の実施形態)
この発明の第2の実施形態は、引出パターン及びコ字型突出パターンを、ループパターンの中心線に対し非対称となる位置に形成すると共に、コ字型突出パターンの突出端の位置がループアンテナの中性点となるように、コ字型突出パターンの形成位置を設定したものである。
【0015】
図7はこの発明の第2の実施形態におけるアンテナパターンを示す図である。同図に示すように、ループパターン31,32からはそれぞれ引出パターン31a,32aが引き出され、その先端部にはそれぞれ給電端子31b,32bが設けられる。また、外周側のループパターン31はその中間部位33が上記引出パターン32を迂回するようにコ字型に突出形成されている。これらの引出パターン31a,32a及びコ字型に突出形成されたパターン(コ字型突出パターン)33の形成位置は、ループパターン31,32の中心線に対し非対称となるように設定されている。
【0016】
また、上記コ字型突出パターン33は、その突出端の位置が上記ループパターン31,32等を構成する1本の導体パターンの両端から等距離にある位置、つまりループアンテナの中性点となるように形成される。この突出端には接地端子33aが設けられ、この接地端子33aは基板1の接地パターンに接続される。
【0017】
このような構成であるから、コ字型突出パターン33を形成して上記引出パターン32aを迂回するようにしている。このため、前記第1の実施形態と同様に外周側のループパターン31と内周側のループパターン32から引き出される引出パターン32aとの間に交差部分がなくなってブリッジ構造が不要となり、これにより両面印刷配線基板が不要になると共に、基板にスルーホールを設ける必要もなくなる。したがって、装置の構造が簡単化されて信頼性の向上を図ることが可能となり、さらに部品コスト及び製造コストが低減されて装置のコストダウンを図ることが可能となる。
【0018】
また、引出パターン31a,32a及びコ字型突出パターン33がループパターン31,32の中心線に対し非対称となる位置に形成されている。この結果、例えば同一構造のループアンテナ装置を備えた2台の端末を重ね合わせて接近させた場合でも、両ループアンテナ間の結合損失を低減して両端末を正常に動作させることができる。
【0019】
さらに、コ字型突出パターン33の突出端の位置にループアンテナの中性点が設定されるようにコ字型突出パターン33の形成位置が設定され、かつこの突出端に接地端子33aが設けられる。このように構成すると、中性点の位置を無線回路の接地パターンに近接させることができ、上記ループアンテナの中性点を引出線を介さずに基板1の接地パターンに接地することが可能となる。すなわち、図8の等価回路に示すように、中性点(仮想接地点)と接地パターンとの間を引出線によるインダクタンスを介することなく直接接続することが可能となる。
【0020】
この結果、ループアンテナは平衡回路として動作することになる。このため、無線回路とループアンテナ装置との間に平衡不平衡変換回路(バラン)を設ける必要がなくなり、これによりアンテナ給電系の回路構成の簡単小型化が図れる。また、中性点と接地パターンとの間が引出線によるインダクタンスを介さずに直接接続される。このため、中性点の電位は0Vに固定されることになり、例えば同一端末に移動通信用の高周波帯で共振する他のアンテナが設けられている場合でも、アンテナ間の干渉の発生を低減することができる。
【0021】
因みに、ループアンテナの両端に設けられる2つの給電端子の一方を接地する場合には、アンテナは平衡回路として動作しない。このため、平衡型の無線回路から送信電力を供給するためには、無線回路とループアンテナの給電端子との間にバランを介在させる必要があり、アンテナ給電系の回路構成が複雑かつ大型化する。
【0022】
一方、ループアンテナを平衡回路として動作させるためにループパターン上の中性点を接地する場合、中性点が例えばループパターン31,32上に存在すると、この中性点を引き出し線を介して基板の接地パターンに接地しなければならない。このような構成であると、中性点と接地パターンとの間には引出線によるインダクタンスが介在することになり、このインダクタンスにより回路が2つの固有値を持つことになる。これは、インダクタンスにより分割された2つのループがミューチャルカップリングされた状態と等価になる。このため、引出線がループサイズに比べて長い場合や、同一端末内に移動通信用の高周波帯で共振する他のアンテナが設けられている場合には、干渉の増加を招くおそれがある。
【0023】
(第3の実施形態)
この発明の第3の実施形態は、筐体カバーにループアンテナのパターンを直接印刷形成する場合に、ループパターン部分を筐体カバーの表面側に印刷形成し、引出パターン及びコ字型突出パターンを筐体カバーの端部で折り返して当該筐体カバーの裏面側に印刷形成するように構成したものである。
【0024】
図9乃至図11は、この発明の第3の実施形態に係わるループアンテナ装置の構成を示すもので、図9はその表面側の構成を示す平面図、図10は裏面側の構成を示す平面図、図1は表面側から裏面側への折り返し部分の構成を示す斜視図である。
絶縁体からなる筐体カバー10の表面には、図9に示すように1本の可撓性を有する導体パターンを3回渦巻き状に巻回したループパターン41,42,43が印刷形成される。また、上記導体パターンの両端部はそれぞれ、図11に示すように筐体カバー10の端部において裏面側に折り返され、図10に示すように筐体カバー10の裏面に引出パターン41a,43aとして印刷形成される。この引出パターン41a,43aの先端部にはそれぞれ給電端子41b,43bが設けられる。さらに、上記引出パターン43aを迂回するために、上記ループパターン41,42,43のうち最外周に位置するループパターン41及びその内側に隣接するループパターン42の中間部も、図11に示すように筐体カバー10の端部において裏面側に折り返され、図10に示すように筐体カバー10の裏面にコ字型突出パターン45,46として印刷形成される。
【0025】
このような構成であるから、スルーホールを設けることなく筐体カバー10の裏面側に給電端子41b,43bを形成することができる。このため、筐体カバー10の表面面積に限りがありループアンテナのすべてのパターンを筐体カバー10の表面に形成することが困難な場合でも、筐体カバー10の防塵及び防水性を損なうことなく、筐体カバー10の裏面を有効利用してループアンテナを形成することができる。
【0026】
(その他の実施形態)
前記第3の実施形態において、コ字型突出パターン46の突出端にループアンテナの中性点が設定されるように各ループパターン41,42,43の形成位置を調整し、この中性点を接地パターンに直接接地するようにしてもよい。このように構成すると、第2の実施形態と同様に、無線回路とループアンテナ装置との間にバランを設ける必要がなくなり、これによりアンテナ給電系の回路構成の簡単小型化が図れる。また、中性点と接地パターンとの間が引出線によるインダクタンスを介さずに直接接続されるため、同一端末に移動通信用の高周波帯で共振する他のアンテナが設けられている場合でも、アンテナ間の干渉の発生を低減することができる。
【0027】
また、前記第1及び第2の実施形態では2個のループパターンを形成し、また第3の実施形態では3個のループパターンを形成した場合を例示したが、ループパターンの数は4個以上でもよい。さらに、ループパターンの形状は第1及び第2の実施形態で例示した正方形や長方形などの方形や、第3の実施形態で例示した台形以外に、六角形以上の多角形や円形、楕円形等であってもよい。また、突出パターンの形状は必ずしもコ字型に限ることはなく、U字形や卵形などであってもよい。さらに、ループアンテナのパターンを形成する基材面は必ずしも平面でなくてもよく、湾曲した面であってもよい。
【0028】
また、前記各実施形態では、RFID用のループアンテナを携帯端末に設けた場合を例にとって説明したが、携帯端末以外にもクレジットカードや定期券、身分証カードに設けるループアンテナにも本発明を適用することができ、またRFID以外の通信用途のループアンテナにも本発明は適用可能である。
【0029】
要するにこの発明は、上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、各実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明に係わるループアンテナ装置の第1の実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示したループアンテナ装置のアンテナパターンの形状を拡大して示す図である。
【図3】図2に示したアンテナパターンの要部構成を拡大して示す斜視図である。
【図4】図1に示したループアンテナ装置におけるループ法線方向の磁界強度分布を示す図である。
【図5】図12に示す従来のループアンテナ装置におけるループ法線方向の磁界強度分布を示す図である。
【図6】図1に示したループアンテナ装置及び図12に示した従来のループアンテナ装置の近傍磁界分布特性を対比して示す図である。
【図7】この発明に係わるループアンテナ装置の第2の実施形態を示すアンテナパターン図である。
【図8】図7に示したループアンテナ装置の等価回路を示す図である。
【図9】この発明に係わるループアンテナ装置の第3の実施形態を示すもので、その表面側の構成を示す図である。
【図10】図9に示したループアンテナ装置の裏面側の構成を示す図である。
【図11】図9に示したループアンテナ装置の表面側から裏面側への折り返し部分の構成を示す斜視図である。
【図12】従来のループアンテナ装置のアンテナパターンを示す図である。
【図13】図12に示したアンテナパターンの要部構成を拡大して示す斜視図である。
【符号の説明】
【0031】
1…片面印刷配線基板、2…アンテナ素子、21,31…外周側のループパターン、22,32…内側のループパターン、21a,22a,31a,32a…引出パターン、21b,22b…給電点、23,33…迂回用のコ字型突出パターン、33a…接地端子、10…筐体カバー、41,42,43…ループパターン、41a,43a…引出パターン、41b,43b…給電端子、45,46…迂回用のコ字型突出パターン。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性を有する基材と、
この基材の面上に印刷形成されるアンテナ素子と
を具備し、
前記アンテナ素子は、
1本の導体パターンを複数回渦巻き状に巻回することにより形成されるループパターン部と、
前記1本の導電パターンの両端部位を前記ループパターン部からそのループ外へ互いに並行する状態で引き出すことにより形成される一対の引出パターン部と、
前記ループパターン部の中間部位を前記一対の引出パターン部の一方を迂回させるように突出形成される突出パターン部と
を備えることを特徴とするループアンテナ装置。
【請求項2】
前記一対の引出パターン部及び突出パターン部は、前記ループパターン部の中心線に対し非対称となる位置に形成されることを特徴とする請求項1記載のループアンテナ装置。
【請求項3】
前記突出パターン部は、その突出端がループアンテナの中性点となるように前記1本の導体パターンの両端から等距離となる部位を突出させることにより形成され、当該突出端が接地されることを特徴とする請求項1又は2記載のループアンテナ装置。
【請求項4】
前記基材が、表面を構成する第1の面及び裏面を構成する第2の面を有する板状体から構成される場合に、
前記ループパターン部は、前記基材の第1の面に印刷形成され、
前記一対の引出パターン部及び突出パターン部は、前記基材の端部で折り返されて前記第2の面に印刷形成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のループアンテナ装置。
【請求項1】
絶縁性を有する基材と、
この基材の面上に印刷形成されるアンテナ素子と
を具備し、
前記アンテナ素子は、
1本の導体パターンを複数回渦巻き状に巻回することにより形成されるループパターン部と、
前記1本の導電パターンの両端部位を前記ループパターン部からそのループ外へ互いに並行する状態で引き出すことにより形成される一対の引出パターン部と、
前記ループパターン部の中間部位を前記一対の引出パターン部の一方を迂回させるように突出形成される突出パターン部と
を備えることを特徴とするループアンテナ装置。
【請求項2】
前記一対の引出パターン部及び突出パターン部は、前記ループパターン部の中心線に対し非対称となる位置に形成されることを特徴とする請求項1記載のループアンテナ装置。
【請求項3】
前記突出パターン部は、その突出端がループアンテナの中性点となるように前記1本の導体パターンの両端から等距離となる部位を突出させることにより形成され、当該突出端が接地されることを特徴とする請求項1又は2記載のループアンテナ装置。
【請求項4】
前記基材が、表面を構成する第1の面及び裏面を構成する第2の面を有する板状体から構成される場合に、
前記ループパターン部は、前記基材の第1の面に印刷形成され、
前記一対の引出パターン部及び突出パターン部は、前記基材の端部で折り返されて前記第2の面に印刷形成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のループアンテナ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−236416(P2008−236416A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−73630(P2007−73630)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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