説明

レアメタル、白金系金属抽出剤及びそれを用いたレアメタル、白金系金属抽出方法

【課題】本発明は、従来のレアメタル、白金系金属抽出剤にない全く新しい構造を有し、優れた抽出性能を有するレアメタル、白金系金属抽出剤及びそれを用いたレアメタル、白金系金属抽出方法を提供することにある。
【解決手段】本発明のレアメタル、白金系金属抽出剤は、
一般式(1)
【化1】


(式中、Xは水酸基、シアノ基、カルボン酸基、アシル基、カルボキシアルキル基、カルボモイルアルキル基であり、Yは炭化水素基であり、Zはスルフィド基、スルフィニル基、またはスルホニル基であり、nは4以上の整数である。)で表される環状フェノール硫化物を含有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なレアメタル、白金族系金属抽出剤及びそれを用いたレアメタル、白金族系金属抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新規なレアメタル、白金系金属、例えばコバルト(Co)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、銀(Ag)、カドミニウム(Cd)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ネオジウム(Nd)、ユーロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)、金(Au)、水銀(Hg)、ウラン(U)などは触媒をはじめとして、水素貯蔵合金、電池、磁石など用途は多岐に渡っている。
日本では、これら金属のほとんどは輸入に頼っており、資源の安定的な供給、環境保護の観点から、リサイクルが重要な課題となっている。
【0003】
現在、工場廃水等からの効率的他金属の回収方法として溶媒抽出法がある。
その溶媒抽出の抽出剤として様々な抽出剤が販売され、利用されている。
しかし、工場等からの排水は様々なpH、金属濃度・種類が存在しており、このような廃液から選択的に金属を抽出することは多段階的且つ様々な抽出剤を複合して使用するなど、時間やコストがかかる原因となっている。
本発明者らは、先に基本骨格にフェノール骨格を4以上有する、環状フェノール硫化物の様々な誘導体を合成し、その金属イオンに関するセンシング能力、及び金属分離回収剤として有用であることを見出した(特許文献2、特許文献4を参照)。
本発明者は、前記環状フェノール硫化物群が様々なレアメタル、白金系金属を含有する溶液から選択的な金属の抽出が行えるものと考え、鋭意検討を重ねた結果、環状フェノール硫化物が様々な金属種を含有している溶液から選択的に特定の金属種を抽出することを見出し、本発明を完成するに至った。
【特許文献1】特開平11−179104号公報
【特許文献2】特開平11−199581号公報
【特許文献3】特開2000−107505号公報
【特許文献4】特開2000−178271号公報
【特許文献5】特開2001−149884号公報
【非特許文献1】Chem.Lett.,6,2001. Talanta 62,337,2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、従来のレアメタル、白金系金属抽出剤にない全く新しい構造を有し、優れた抽出性能を有するレアメタル、白金系金属抽出剤及びそれを用いたレアメタル、白金系金属抽出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のレアメタル、白金系金属抽出剤は、
一般式(1)
【0006】
【化1】

(式中、Xは水酸基、シアノ基、カルボン酸基、アシル基、カルボキシアルキル基、カルボモイルアルキル基であり、Yは炭化水素基であり、Zはスルフィド基、スルフィニル基、またはスルホニル基であり、nは4以上の整数である。)で表される環状フェノール硫化物を含有するものである。
本発明のレアメタル、白金族系金属抽出方法は、上記レアメタル、白金族系金属抽出剤によりレアメタル、白金族系金属を選択的に抽出するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のレアメタル、白金族系金属抽出剤は、効率良く、工場等からの廃液中に含まれているレアメタルや白金族系金属を効率良く抽出することができ、尚且つ土壌や海水中からのレアメタルなどの有用な金属の回収に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明におけるレアメタル、白金系金属抽出剤は下記一般式(1)の環状フェノール硫化物を溶解させた溶液に数種のレアメタル、白金系金属が溶解した溶液を接触させることにより、レアメタル、白金系金属が環状フェノール硫化物溶液に移行し、レアメタル、白金系金属が抽出される。
一般式(1)
【0009】
【化2】

環状フェノール硫化物溶液に使用する溶媒とレアメタル、白金系金属溶液に使用する溶媒は、お互い溶けにくい溶媒が使用される。
これらの溶媒の好適な組み合わせとしては、環状フェノール硫化物溶液の溶媒が非水溶性の溶媒であり、レアメタル、白金系金属溶液の溶媒が水である組合せである。
この組合せによると、環状フェノール硫化物を非水溶性の溶媒に溶解させた溶液を、レアメタル、白金系金属が溶解した水溶液に接触させ、水溶液中のレアメタル、白金系金属を抽出することができる。
溶媒に対する一般式(1)で表される環状フェノール硫化物の濃度は該環状フェノール硫化物それぞれの溶解度によって上限が限定される以外は特に制限は無い。
【0010】
被抽出溶媒に溶解しているレアメタル、白金系金属の濃度は特に制限無く、通常は1000ppmが望ましい。
レアメタル、白金系金属水溶液のpHは特に制限は無いが、好ましくはpHが1〜11である。
抽出温度は使用する溶媒の沸点以下であれば特に制限は無い。
通常室温付近で行えばよい。
抽出操作は該環状フェノール硫化物を溶解させた溶液とレアメタル、白金系金属が溶解した溶液を振とう、攪拌などにより互いに接触させることにより行われる。
振とう、攪拌の条件は特に制限は無いが、振とうは通常毎分60〜200回程度行えばよい。
【実施例1】
【0011】
次に本発明を各実施例により、さらに詳細に説明する。
但し、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものでない。
【0012】
(製造例1)
【化3】

1000mL三口フラスコにp-tert-butylphenol300g(2.0mol)、ジフェニルエーテル64.0ml、エチレングリコール56.0mL(1.0mol)を入れ、窒素下加熱攪拌し、60℃に達したら、酸化カルシウム28.0g(0.5mol)を投入し、約20分で120℃まで昇温させ2時間反応させた。
【0013】
反応後、エチレングリコール、生成した水を減圧溜去し、その時に同時に溜去してしまったジフェニルエーテルを追加後、窒素下加熱攪拌し、100℃に達したら硫黄95.9g(3.0mol)を全量加え、230℃まで昇温させて3時間反応させた。
【0014】
反応終了後、放冷し温度が110℃に達したらトルエン250mLを徐々に加えて、反応液の粘性を下げていき、4Nの硫酸500mL中に反応液を注ぎクエンチした。
析出した硫酸カルシウムを濾過し、濾液を飽和硫酸ナトリウム水溶液にて洗浄後、濃縮し、80℃に加温しておく。
別に準備しておいた酢酸1Lを80℃に加温しておき、そこに濃縮した反応液を注ぎ、約1時間80℃で攪拌後、室温で一晩放置した。
析出した沈殿を蒸留水にて洗浄後、未洗浄の酢酸を除くため、大量のクロロホルムに溶解させ、硫酸ナトリウム水溶液で洗浄した。
その後、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、濃縮し、一晩減圧乾燥させ、目的物であるポリアルキルフェノールスルフィド(PAPS)、環状フェノール硫化物中間体オリゴマーを得た。
【0015】
(製造例2)
【化4】

製造例1で得られた環状フェノール硫化物中間体オリゴマー30g、ジフェニルエーテル64.0mL、水酸化ナトリウム3.99g、酢酸1.62gをこの順に500mLの三口フラスコに入れ窒素下加熱攪拌し、100℃で硫黄2.14gを全量加え約1時間で230℃まで昇温させ、4時間反応させた。
【0016】
反応終了後、放冷し2Nの硫酸(100mL)を反応液に注ぎクエンチし、n-ヘプタン(100mL)を加え約10分間攪拌した。
その後、無水硫酸ナトリウム水溶液で硫酸を洗浄し水層と有機層に分け、有機層内のジフェニルエーテルを減圧溜去し、アセトンを加えて沈殿を析出させた。
析出した沈殿を濾取し減圧乾燥後、環状フェノール硫化物の粗結晶を得た。
粗結晶をクロロホルムに溶解させて再結晶化により生成を行い、目的物である5,11,17,23,29,35−tert−ブチル−37,38,39,40,41,41−ヘキサヒドロキシ−チアカリックス[6]アレンを得た。
【0017】
(製造例3)
【化5】

アセトン150mLに製造例2で得られた化合物0.813g(0.75mmol)とヨードメタン3.192g(22.5mmol)、炭酸カリウム0.840g(6.08mmol)を入れ、窒素下で約24時間攪拌し還流させた。
【0018】
反応終了後、反応混合物を室温まで放冷し、アセトンを減圧下で溜去した。
クロロホルムを加えて溶解させ、クロロホルム不溶物をろ過し、クロロホルムを減圧下で溜去し、目的物である5,11,17,23,29,35−tert−ブチル−37,38,39,40,41,41−ヘキサメトキシ−チアカリックス[6]アレンを得た。
【0019】
(製造例4)
【化6】

製造例2で得られた化合物1077.13mg(1mmol)、炭酸セシウム2935.71mg(9mmol)を500mLの二口フラスコに入れ、窒素雰囲気にし、アセトン(100mL)を加え攪拌する。
その後、ブロモ酢酸エチル1335μL(12mmol)を加え加熱攪拌し、リフラックスで3時間反応させる。
【0020】
反応終了後、濃縮しアセトンを溜去する。
その後、未反応のブロモ酢酸エチルを除くために60℃で数時間減圧乾燥させる。
その後、クロロホルム(約100mL)に溶解させ、副生成物の塩を除くために、硫酸ナトリウム水溶液にて3回洗浄する。
得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ濃縮し、減圧下で十分乾燥させ粗生成物を得る。
得られた組成生物をエタノールからの再結晶により精製を行い、目的物である5,11,17,23,29,35−tert−ブチル−37,38,39,40,41,41−ヘキサカルボキシエトキシ−チアカリックス[6]アレンを得た。
【0021】
(製造例5)
【化7】

製造例2で得られた化合物1081.93mg(1mmol)、炭酸カリウム1246.38mg(9mmol)を500mLの二口フラスコに入れ、窒素雰囲気下で攪拌し、アセトン(100mL)を加える。
その後、ブロモ酢酸メチル1245μL(12mmol)を加え加熱攪拌し、リフラックスで24時間反応させる。
【0022】
反応終了後、濃縮しアセトンを溜去する。その後、未反応のブロモ酢酸メチルを除くために60℃で数時間減圧乾燥させる。
その後、クロロホルム(約100mL)に溶解させ、副生成物の塩を除くために、硫酸ナトリウム水溶液にて3回洗浄する。
得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ濃縮し、減圧下で十分乾燥させ粗生成物を得る。
得られた組成生物をエタノールからの再結晶により精製を行い、目的物である5,11,17,23,29,35−tert−ブチル−37,38,39,40,41,41−ヘキサカルボキシメトキシ−チアカリックス[6]アレンを得た。
【0023】
(抽出実験1)
製造例2、3で得られた環状フェノール硫化物誘導体によるレアメタル、白金族系金属抽出実験を行った。
抽出実験は上記環状フェノール硫化物をそれぞれクロロホルムに溶解させ2.70mMとした有機相24mLとレアメタル、白金族系金属として自動車触媒製造時により回収されたPGMを塩酸、過酸化水素水の混合溶液に浸出させたPGM(Platinum-Group Metals)溶液(Rh264.3ppm,Pd737.8ppm,Pt434.1ppm,Zr198.2ppm,Ce>3840.5ppm,Ba2118.2ppm,Al2272.5ppm,La666.9ppm,Y36.3ppm)を準備し、それを50倍に希釈したPGM溶液15mLを準備した。
準備した有機相と金属水溶液を100mLの分液ロートに入れ、約30分間浸透攪拌した。
その後、水層中の金属濃度をICP発光分析装置により分析し、その得られた結果をもとに抽出率(E%)を下記の式にて求めた。
【0024】
【数1】

【0025】
ただし、A0:抽出前の水層中の金属濃度(ppm)、A:抽出後の水層中の金属濃度(ppm)抽出結果を図1に示す。
【0026】
この結果から環状フェノール硫化物(TC6A)はパラジウム(Pd)とジルコニア(Zr)に対して選択的に抽出能力があり、環状フェノール硫化物(TC6AOMe)はジルコニウム(Zr)に対して選択的に高い抽出能力を示した。
【0027】
(抽出実験2)
製造例4、5で得られた環状フェノール硫化物誘導体によるレアメタル、白金族系金属抽出実験を行った。
抽出実験は上記環状フェノール硫化物をそれぞれクロロホルムに溶解させ2.70mMとした有機相24mLとレアメタル、白金族系金属として自動車触媒製造時により回収されたPGMを塩酸、過酸化水素水の混合溶液に浸出させたPGM(Platinum-Group Metals)溶液(Rh264.3ppm,Pd737.8ppm,Pt434.1ppm,Zr198.2ppm,Ce>3840.5ppm,Ba2118.2ppm,Al2272.5ppm,La666.9ppm,Y36.3ppm)を準備し、それを50倍に希釈したPGM溶液15mLを準備した。
準備した有機相と金属水溶液を100mLの分液ロートに入れ、約30分間浸透攪拌した。
その後、水層中の金属濃度をICP発光分析装置により分析し、その得られた結果をもとに抽出率(E%)を下記の式にて求めた。
【0028】
【数2】

【0029】
ただし、A0:抽出前の水層中の金属濃度(ppm)、A:抽出後の水層中の金属濃度(ppm)抽出結果を図2に示す。
【0030】
この結果から環状フェノール硫化物(TC6A-メチルエステル)がジルコニウム(Zr)に対して選択的に抽出能力があることが明らかとなった。
【0031】
本発明の金属抽出剤は効率良く、工場等からの廃液中に含まれているレアメタルや白金族系金属を効率良く抽出することができ、尚且つ土壌や海水中からのレアメタルなどの有用な金属の回収に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】製造例2、3の環状フェノール硫化物(TC6A)及び環状フェノール硫化物(TC6AOMe)の抽出率(E%)を示すグラフ図である。
【図2】製造例4、5の環状フェノール硫化物(TC6A-メチルエステル)等の抽出率(E%)を示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、Xは水酸基、シアノ基、カルボン酸基、アシル基、カルボキシアルキル基、カルボモイルアルキル基であり、Yは炭化水素基であり、Zはスルフィド基、スルフィニル基、またはスルホニル基であり、nは4以上の整数である。)で表される環状フェノール硫化物を含有することを特徴とするレアメタル、白金族系金属抽出剤。
【請求項2】
請求項1に記載されたレアメタル、白金族系金属抽出剤によりレアメタル、白金族系金属を選択的に抽出することを特徴とするレアメタル、白金族系金属抽出方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−239066(P2007−239066A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−65839(P2006−65839)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【Fターム(参考)】