説明

レジストパターンの形成方法およびそれを利用した基板の加工方法

【課題】化学増幅型のレジスト材料を用いたレジストパターン形成において、よりレジストパターン倒れを抑制することを可能とする。
【解決手段】化学増幅型のレジスト材料の基板1への塗布、露光および現像の各工程を経て、アスペクト比ARが1.5以上の所定のレジストパターンをレジスト材料からなるレジスト膜2に形成するレジストパターン形成方法において、基板1とレジスト膜2との密着性を向上せしめる密着処理を制御して、レジスト膜2の残膜3の厚さが1nm以上かつ1.83×AR+1.73nm以下となるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気転写用マスターディスクおよびナノインプリント用モールド等の製造工程におけるレジストパターン形成方法およびそれを利用した基板の加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、2次元的または3次元的なパターン転写を効率的に行う磁気転写方法およびナノインプリント方法が開発されている。
【0003】
磁気転写は、磁気記録媒体の製造で行われる転写技術であり、微細な磁化パターンを表面に有する磁気転写用マスターディスクをスレーブ媒体(被転写媒体ともいう。)に密着させた状態で、転写用磁界を印加して、磁化パターンに対応した情報(例えばサーボ信号)をスレーブ媒体に転写する技術である。一方、ナノインプリントは、ディスクリートトラックメディア(DTM)やビットパターンドメディア(BPM)等の製造で行われる転写技術であり、微細な凹凸パターンを表面に有するナノインプリント用マスター担体を熱可塑性樹脂、光硬化樹脂等に押し当て、その凹凸パターンを樹脂に転写する技術である。
【0004】
通常上記のようなマスターモールド(上記マスターディスクや上記マスター担体を含む)は、マスターモールドのパターンに対応したパターンを有するガラスやSiウェハ等の原盤を用いた電鋳により、金属材料を当該原盤に析出させて形成される。したがって、記録密度の向上に伴うパターンの狭ピッチ化に対応したマスターモールドを製造するため、上記原盤のパターンの狭ピッチ化も要求されている。特に、上記のような次世代記録媒体等の製造においては、60nm以下のピッチを有するパターンが要求されている
しかし、上記原盤の基となる基板上にレジスト膜を形成し、レジスト膜に所定のパターンを電子線描画し、現像する工程において、上記のような狭ピッチ化に伴う現像液のキャピラリー応力の増大や、基板とレジスト膜との接触面積の減少により、レジストパターン倒れの問題が顕在化してきている。
【0005】
そこで、レジストパターン形成技術において改善が求められ、基板とレジスト膜との密着性の向上が必要不可欠な課題となってきている。例えば特許文献1および2に示されるように、一般にSiウェハ等では、レジストとの密着性をあげるために、HMDS(ヘキサメチルジシラザン:(CHSiNHSi(CH)による基板表面のメチル化ないしは疎水化処理が用いられている。
【0006】
また、例えば特許文献3に示されるように、密着処理の密着処理剤としてシランカップリング剤を用いて、LB(ラングミュア−ブロジェット)法等によりレジスト膜形成面に極めて薄い有機分子層を形成する方法も開示されている。特許文献3の方法は、特に基板と結合力の大きい官能基を有する有機分子を基板表面に予め化学修飾させて、基板とレジスト膜との密着性を向上させる方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−92694号公報
【特許文献2】特開平8−76352号公報
【特許文献3】特開平9−54440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、HMDSを密着処理剤として用いた密着処理では、近年のパターンの微細化に伴い、密着力が不足しているのが現状である。特に、アスペクト比が1.5以上のレジストパターンの形成においては、前述したパターン倒れの問題が顕著に表れる。一方、特許文献3のように、密着処理剤としてシランカップリング剤を用いることにより、密着性はある程度向上するが、それでもなおパターン倒れが生じる場合がある。これは、現像液や洗浄液等の処理液が、基板とレジスト膜の隙間に浸入することにより、密着処理の効果を低減しているためと考えられる。
【0009】
また、狭ピッチ化がさらに進めば、基板とレジストパターン凸部との接触面積自体が減少するため、基板とレジスト膜との密着性を向上させるという観点からパターン倒れを抑制するには限界がある。
【0010】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、化学増幅型のレジスト材料を用いたレジストパターン形成において、よりレジストパターン倒れを抑制することを可能とするレジストパターン形成方法を提供することを目的とするものである。
【0011】
また、本発明は、基板の加工において、高精度で歩留まりよく基板を加工することを可能とする基板の加工方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係るレジストパターン形成方法は、
化学増幅型のレジスト材料の基板への塗布、露光および現像の各工程を経て、アスペクト比ARが1.5以上の所定のレジストパターンをレジスト材料からなるレジスト膜に形成するレジストパターン形成方法において、
基板とレジスト膜との密着性を向上せしめる密着処理を制御して、レジスト膜の残膜の厚さが1nm以上かつ1.83×AR+1.73nm以下となるように制御することを特徴とするものである。本明細書において、ARは、レジストパターンのアスペクト比を表す。
【0013】
本明細書において、「アスペクト比が1.5以上」のレジストパターンとは、レジスト材料が残っている部分のパターン(パターン凸部)の幅に対するレジスト膜の厚さの比が1.5以上であるレジストパターンを意味する。レジストパターンの中にそのような比が1.5以上となる部分が含まれていればよい。
【0014】
そして、本発明に係るレジストパターン形成方法において、密着処理に用いる密着処理剤として、アミノ基を有するアミノ系シランカップリング剤を用い、
アミノ系シランカップリング剤の希釈溶液を塗布して上記密着処理を実施することが好ましい。
【0015】
そして、希釈溶液におけるアミノ系シランカップリング剤の濃度を制御して、上記密着処理を制御することが好ましい。
【0016】
そして、残膜の厚さを、1〜4nmとすることが好ましい。
【0017】
さらに、本発明に係る基板の加工方法は、
上記に記載のレジストパターン形成方法により、所定のレジストパターンを有するレジスト膜を基板上に形成し、
レジスト膜の残膜を除去し、
その後、レジスト膜をマスクとしてエッチングを行うことにより、レジストパターンに対応した凹凸パターンを基板上に形成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るレジストパターン形成方法は、化学増幅型のレジスト材料の基板への塗布、露光および現像の各工程を経て、アスペクト比ARが1.5以上の所定のレジストパターンをレジスト材料からなるレジスト膜に形成するレジストパターン形成において、基板とレジスト膜との密着性を向上せしめる密着処理を制御して、レジスト膜の残膜の厚さが1nm以上かつ1.83×AR+1.73nm以下となるように制御するから、従来よりも厚めに設計された残膜の存在により現像液等の処理液が基板とレジスト膜の隙間に侵入することを抑制することができる。さらに、上記のように厚めに設計された残膜は、レジストパターン凸部の支えとしても機能する。この結果、化学増幅型のレジスト材料を用いたレジストパターン形成方法において、よりレジストパターン倒れを抑制することが可能となる。
【0019】
さらに、本発明の基板の加工方法は、マスクとして、上記に記載のレジストパターン形成方法によりレジストパターン倒れが抑制されたレジスト膜を用いてドライエッチングを行っているから、高精度で歩留まりよく基板を加工することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のレジストパターン形成方法が適用されて基板上に形成された、所定の厚さの残膜を有するレジスト膜を示す概略断面図である。
【図2】(a)シランカップリング剤により密着された基板とレジスト膜との密着界面の様子を示す概略断面図である。(b)HMDSにより密着された基板とレジスト膜との密着界面の様子を示す概略断面図である。
【図3】表5に基づいて、残膜の範囲の下限値および上限値のそれぞれについてプロットしたグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。なお、視認しやすくするため、図面中の各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0022】
「レジストパターン形成方法」
本実施形態のレジストパターン形成方法は、レジスト膜2の残膜3の厚さが1nm以上かつ1.83×AR+1.73nm以下となるように濃度が制御された、密着処理剤を含有する希釈溶液を用意し、当該希釈溶液を基板1上に塗布して密着処理を実施し、密着処理を施した基板表面に化学増幅型のレジスト材料を塗布してレジスト膜2を形成し、アスペクト比ARが1.5以上の所定のレジストパターンに対応して、基板1上のレジスト膜2を電子線描画により露光し、そして現像液によりレジスト膜2を現像する工程からなる。
【0023】
本発明において、レジストパターンのアスペクト比ARが1.5以上であれば、従来法に比してその効果が顕著に表れる。したがって、本発明において、レジストパターンのアスペクト比ARは、好ましくは1.5以上であり、より好ましくは1.5以上かつ4.0以下、特に好ましくは1.5以上かつ3.0以下である。アスペクト比ARは、図1に示すように、レジスト材料が残っている部分のパターン(パターン凸部)の幅wに対するレジスト膜2の厚さhの比である。一般的に、アスペクト比ARが大きい方がパターン倒れの問題が生じやすい。
【0024】
本発明のレジストパターン形成方法は、特にレジスト膜2の残膜3の厚さが1nm以上かつ1.83×AR+1.73nm以下となるように、密着処理を制御する。残膜3の厚さが、1nm未満であるとパターン倒れの抑制効果が弱まり、1.83×AR+1.73nmを超えるとエッチングによる基板加工工程後の基板のパターンの形成性が低下するためである。
【0025】
残膜3とは、図1に示すように、現像工程において除去しきれなかった、レジストパターンの凹部の底に残るレジスト膜2の一部を意味する。本発明において残膜3の厚さは、従来よりも厚くなるように設計される。効果が得られる具体的な厚さの範囲は、レジストパターンのアスペクト比ARに応じて決定される。すなわち、本発明における残膜3の厚さは、所望のレジスト膜2の厚さh、そして所望のレジストパターンのパターン凸部の幅wが総合的に考慮されて決定される。
【0026】
密着処理の制御は、密着処理剤の材料の選択、希釈溶液中の密着処理剤の濃度、およびその他処理条件を制御することにより行うことができる。
【0027】
密着処理剤の材料は、特に限定されないが、基板との結合性およびレジスト材料との結合性の観点から、アミノ系シランカップリング剤が好ましい。アミノ系シランカップリング剤としては、公知の種々の材料を使用することができる。具体的には例えば、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン(KBE9103:信越化学工業株式会社製)、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM573:信越化学工業株式会社製)、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン(KBM602:信越化学工業株式会社製)、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM903:信越化学工業株式会社製)、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(Z6094:東レ・ダウコーニング株式会社製)、およびアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン(Z6026:東レ・ダウコーニング株式会社製)等を使用することができる。
【0028】
密着処理剤を希釈する溶媒としては、特に限定されないが、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)やプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)等を使用することができる。
【0029】
基板は、本発明の基板の加工方法における加工対象となる被加工物である。Si、Cr、C、Sn、Mo、Hfあるいはそれらの酸化物からなるものである。
【0030】
密着処理は、密着処理剤をスピンコート法および浸漬法等により塗布し、加熱乾燥することにより実施する。ここで、ある程度の厚さを持つ残膜を形成するために、本発明における密着処理層(密着処理によって基板表面に形成される層)はある程度の厚さを有する。その厚さは、1〜6nmであることが好ましく、1〜2nmであることがより好ましい。
【0031】
レジスト材料は、特に限定されないが、高感度化が可能な化学増幅型のレジスト材料であることが好ましい。化学増幅型のレジスト材料とは、ポリマーに光酸発生剤が混合され、遠紫外光照射により光酸発生剤から発生するブレンステッド酸を触媒として、ポリマーの脱離反応、ポリマーの加水分解反応あるいはポリマー分子間の架橋反応が連鎖的に生じることにより、ポジ型あるいはネガ型レジスト材料として機能するものである。ここで、光酸発生剤としては、ジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩、またはそれらの誘導体などがある。なお、ネガ型化学増幅レジスト材料は、樹脂及び酸発生剤の混合物、または樹脂、酸発生剤及び架橋剤の混合物より構成される。一方、ポジ型化学増幅レジスト材料は、上記ネガ型化学増幅レジスト材料の混合物における架橋剤の替わりに溶解抑止剤が混合されたものである。
【0032】
露光および現像については、特に限定されず、公知の手法を用いることができる。
【0033】
以下本発明の作用を説明する。
本発明では、密着処理を制御することにより、レジスト膜の残膜の厚さが1nm以上かつ1.83×AR+1.73nm以下となるように設計される。してたがって、上記のような厚さを持つ残膜の存在により、現像工程における現像液等の処理液が基板とレジスト膜との間に浸入することを抑制することができる。さらに、このような残膜は、レジストパターン凸部を横から支える支えとしても機能する。この結果、このような所定の厚さを有する残膜の存在により、アスペクト比が大きい、すなわち基板との接触面積が減少し処理液のキャピラリー応力の影響を受けやすいパターン凸部のパターン倒れを抑制することができる。
【0034】
密着処理の制御により、上記のような残膜の厚さを制御することができることは、以下のように推定される。例えば、本実施形態のように、密着処理剤としてシランカップリング剤を用いた場合、基板1とレジスト膜とは図2aに示すような密着状態であると考えられる。図2aは、基板1上に処理されたシランカップリング剤6が、レジスト材料5と結合する化学結合層を形成し、さらには一部のシランカップリング剤6がレジスト膜中を拡散して複雑に絡み合いながら、レジスト膜を基板1に密着させている様子を示す概略図である。まず、基板1にシランカップリング剤6が塗布されることにより、密着処理層としてシランカップリング処理層が形成される。その後、レジスト材料5が塗布されて、シランカップリング処理層の表面付近にある官能基とレジスト材料5が化学的に結合することにより化学結合層が形成される。本発明では、シランカップリング処理層をある程度厚く設定しているために、化学結合層の形成に寄与しないシランカップリング剤6も存在する。このような化学結合層の形成に寄与しなかったシランカップリング剤6は、その相溶性によって積極的にレジスト膜中を拡散して複雑に絡み合いながら、レジスト膜に組み込まれてレジスト材料5とともに硬化する。本発明において、このレジスト膜中のシランカップリング剤6が拡散した領域(拡散層)の厚さに応じて、所定の厚さを有する残膜が形成されると考えられる。
【0035】
一方、従来使用されているHMDSを使用した密着処理においては、図2bに示すように、密着処理層としてHMDS処理層は形成されるが、HMDSとレジスト材料との結合は疎水性相互作用による物理的結合であるため、シランカップリング剤を用いた場合よりも結合力が弱い。そして、HMDSは相溶性を有しないため、レジスト膜中に積極的に拡散することはない。また、特許文献3のように、極めて薄い有機分子層を密着処理層として形成したとしても、前述したような化学結合層に起因して密着性を向上させることはできても、拡散層の形成による残膜厚の制御を図ることはできない。
【0036】
従来、この残膜は、理想的には全く存在しないことが好ましいと考えられている。残膜が存在すると、残膜が存在する領域の分だけレジストパターンの精度が下がることになり、さらにこの残膜を除去するために残膜の除去工程が必要だからである。しかし、本発明は、そのような通説を覆す新たな技術的思想に基づく。すなわち、本発明は、従来不要とされていた残膜を敢えて残し、かつその厚さがある程度の厚さを有するように制御することで、パターン倒れの発生を抑制する。この結果、近年の微細化の要求を満たすような微細パターンの形成が可能となる。
【0037】
以上より、本発明に係るレジストパターン形成方法は、化学増幅型のレジスト材料の基板への塗布、露光および現像の各工程を経て、アスペクト比ARが1.5以上の所定のレジストパターンをレジスト材料からなるレジスト膜に形成するレジストパターン形成において、基板とレジスト膜との密着性を向上せしめる密着処理を制御して、レジスト膜の残膜の厚さが1nm以上かつ1.83×AR+1.73nm以下となるように制御するから、従来よりも厚めに設計された残膜の存在により現像液等の処理液が基板とレジスト膜の隙間に侵入することを抑制することができる。さらに、上記のように厚めに設計された残膜は、レジストパターン凸部の支えとしても機能する。この結果、化学増幅型のレジスト材料を用いたレジストパターン形成方法において、よりレジストパターン倒れを抑制することが可能となる。
【0038】
「基板の加工方法」
次に、本発明の基板の加工方法の実施形態について説明する。本実施形態では、前述したレジストパターン形成方法を用いて基板の加工を行う。
【0039】
まず、前述した本発明のレジストパターン形成方法を用いて、所定のパターンが形成されたレジスト膜を基板上に形成する。次に、残膜を除去した後、パターン形成されたレジスト膜をマスクにして、ドライエッチングを行い、レジスト膜に形成された凹凸パターンに対応した凹凸パターンを基板上に形成して、所定のパターンを有する基板を得る。
【0040】
一方、基板が積層構造を有しており表面上に金属層を含む場合には、レジスト膜をマスクにして、ドライエッチングを行い、レジスト膜に形成された凹凸パターンに対応した凹凸パターンを当該金属層に形成し、その金属薄層をエッチストップ層にして基板にさらにドライエッチングを行い、凹凸パターンを基板上に形成して、所定のパターンを有する基板を得る。
【0041】
残膜の除去は、酸素プラズマ処理(アッシング処理)することにより実施する。
【0042】
ドライエッチングとしては、基板に凹凸パターンを形成できるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、イオンミリング法、反応性イオンエッチング(RIE)、スパッタエッチング、などが挙げられる。これらの中でも、イオンミリング法、反応性イオンエッチング(RIE)が特に好ましい。
【0043】
イオンミリング法は、イオンビームエッチングとも言われ、イオン源にArなどの不活性ガスを導入し、イオンを生成する。これを、グリッドを通して加速させ、試料基板に衝突させてエッチングするものである。イオン源としては、カウフマン型、高周波型、電子衝撃型、デュオプラズマトロン型、フリーマン型、ECR(電子サイクロトロン共鳴)型などが挙げられる。
【0044】
イオンビームエッチングでのプロセスガスとしては、Arガス、RIEのエッチャントとしては、フッ素系ガスや塩素系ガスを用いることができる。
【0045】
以上のように、本発明の基板の加工方法は、マスクとして、上記に記載のレジストパターン形成方法によりレジストパターン倒れが抑制されたレジスト膜を用いてドライエッチングを行っているから、高精度で歩留まりよく基板を加工することが可能となる。
【実施例】
【0046】
本発明に係るレジストパターンの形成方法の実施例を以下に示す。
【0047】
<実施例1:パターン倒れ抑制効果における材料依存性の評価>
下記に示す樹脂(A〜Cグループ)、酸発生剤(PAグループ)および架橋剤としての塩基性有機物(AMグループ)のそれぞれから適宜組み合わせて、レジスト組成物を作製した。作製したレジスト組成物とその組み合わせは表1の通りである。作製したレジスト組成物のそれぞれに対して下記に示す密着処理剤がパターン倒れ抑制効果を示すか否かを評価した。
【0048】
【化1】

【0049】
【化2】

【0050】
【化3】

【0051】
【化4】

【0052】
【化5】

【0053】
【表1】

【0054】
密着処理剤として、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン(KBE9103:信越化学工業株式会社製)、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(Z6094:東レ・ダウコーニング株式会社製)、アミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン(Z6026:東レ・ダウコーニング株式会社製)、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM573:信越化学工業株式会社製)、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(KBE9007:信越化学工業株式会社製)、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM403:信越化学工業株式会社製)、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン(KBE585:信越化学工業株式会社製)、および3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(KBM803:信越化学工業株式会社製)を使用した。また、参照試料の密着処理剤としてHMDS(富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズ株式会社製)を使用した。
【0055】
パターン倒れ抑制効果の有無の評価は具体的には以下のように行った。
【0056】
(実施例1−1)
まず、密着処理剤として上記KBE9103を用い、これをPGMEで濃度0.1wt%に希釈して希釈溶液を作製した。そして、この希釈溶液を用いて熱酸化膜(50nm)付のSi基板の当該熱酸化膜上に密着処理を実施した。密着処理は、希釈溶液を熱酸化膜上にスピンコートで塗布した後、PGMEをさらにスピンコートして熱酸化膜上を洗い流し、120℃で15分間加熱することにより実施した。
【0057】
次に、表1に示すレジスト組成物それぞれを使用して、下記表2に示すようなアスペクト比を有する40本のライン&スペース型レジストパターンを作製した。それぞれのアスペクト比は、レジスト膜厚hが40nm(ピッチ60nm)、60nm(ピッチ70nm)および80nm(ピッチ80nm)の3パターンのレジスト膜を用意し、パターン凸部の幅wをそれぞれ変えることにより設定した。露光には、XY−EB描画装置(日本電子株式会社製、JBX−6000FS/E)を用いた。
【0058】
【表2】

【0059】
パターン倒れ抑制効果の有無の評価は、レジストパターンを測長可能な走査型電子顕微鏡によって観察し、表1に示すレジスト組成物すべてについてパターン倒れが確認できなかった場合には効果あり(○)と評価し、表1に示すレジスト組成物のうちいずれかについて1箇所でもパターン倒れが確認された場合には効果なし(×)と評価した。そして、アスペクト比が大きくなる場合において、どの値でパターン倒れが起き始めるのかを評価した。
【0060】
(実施例1−2)
密着処理剤としてZ6094を用いた点以外は実施例1−1と同様の評価を行った。
【0061】
(実施例1−3)
密着処理剤としてZ6026を用いた点以外は実施例1−1と同様の評価を行った。
【0062】
(実施例1−4)
密着処理剤としてKBM573を用いた点以外は実施例1−1と同様の評価を行った。
【0063】
(実施例1−5)
密着処理剤としてKBE9007を用いた点以外は実施例1−1と同様の評価を行った。
【0064】
(実施例1−6)
密着処理剤としてKBM403を用いた点以外は実施例1−1と同様の評価を行った。
【0065】
(実施例1−7)
密着処理剤としてKBE585を用いた点以外は実施例1−1と同様の評価を行った。
【0066】
(実施例1−8)
密着処理剤としてKBM803を用いた点以外は実施例1−1と同様の評価を行った。
【0067】
(比較例1)
密着処理剤としてHMDSを用い、150℃で1分間Vaper処理を行うことにより、熱酸化膜(50nm)付のSi基板の当該熱酸化膜上に密着処理を行った。
その後、レジストパターンの形成およびパターン倒れ抑制効果の評価については、実施例1−1と同様に行った。
【0068】
(評価結果)
実施例1−1から1−8および比較例1の結果は下記の表3のようになった。
【0069】
【表3】

【0070】
比較例1では、アスペクト比が1.2まではパターン倒れは確認されなかったが、アスペクト比が1.5のときにパターン倒れが確認された。
【0071】
実施例1−1から1−4では、アスペクト比が1.8まではパターン倒れは確認されなかったが、アスペクト比が2.0のときにパターン倒れが確認された。また、実施例1−5から1−8では、比較例1と同等か或いはそれよりも低い値のアスペクト比でパターン倒れが確認された。
【0072】
以上より、密着処理剤としてアミノ系シランカップリング剤を用いた場合に、従来に比してパターン倒れを抑制することができることが分かった。
【0073】
<実施例2:パターン倒れ抑制効果における密着処理剤の濃度依存性の評価>
上記表1に示したレジスト組成物のそれぞれに対して密着処理剤の希釈溶液の濃度を変えて、パターン倒れ抑制効果の有無を評価した。また、希釈溶液のそれぞれの濃度において残膜の厚さを測定した。さらに、RIE(反応性イオンエッチング)による基板加工工程後の基板のパターンの形成性を評価した。使用した密着処理材は、Z6094である。
【0074】
パターン倒れ抑制効果の有無の評価、残膜厚の測定および基板のパターンの形成性の評価は具体的には以下のように行った。
【0075】
(実施例2−1)
まず、密着処理剤として上記Z6094を用い、これをPGMEで濃度0.01wt%に希釈して希釈溶液を作製した。そして、この希釈溶液を用いて実施例1−1と同様に、熱酸化膜(50nm)付のSi基板の当該熱酸化膜上に密着処理を実施した。
【0076】
次に、実施例1−1と同様に上記表1に示すレジスト組成物それぞれを使用して、実施例1−1と同様のレジストパターンを作製した。そして、パターン倒れ抑制効果の有無について実施例1−1と同様に評価した。
【0077】
残膜厚は、断面SEM(走査型電子顕微鏡)と必要に応じて高解像解析が可能な断面TEM(透過型電子顕微鏡)を併用して、レジストパターンの断面形状を確認し、レジストパターンの凹部に存在する残膜の厚みを測長した。
【0078】
さらに、表1のレジスト組成物1、18および39からなるレジスト膜が形成されたSi基板において、残膜を除去した後、パターン形成されたレジスト膜をマスクにして、RIEを行ってパターン高さ50nmを目標に熱酸化膜をエッチングし、レジスト膜に形成された凹凸パターンに対応した凹凸パターンをSi基板上に形成して、所定のパターンを有するSi基板を得た。なお、基板の加工工程は、アスペクト比が1.2、1.8および2.4であるレジストパターンについて行った。また、上記レジスト組成物1、18および39は、上記表1のレジスト組成物1〜39のうちパターン倒れが全く起きなかったものである。上記のようにして得られたパターン付Si基板の表面形状を、断面SEMと必要に応じて高解像解析が可能な断面TEMによって観察してパターン形成性を評価した。
【0079】
パターン形成性は、RIE後の深さ平均が46nm以上かつ深さのばらつき(σ)が3nm以下の場合には形成性が良好である(○)と評価し、上記以外の場合には形成性が良好でない(×)と評価した。なお、それぞれの濃度の密着処理剤において、パターン形成性が良好であってもパターン倒れ抑制効果の評価で、○の評価が得られなかったアスペクト比ARにおけるパターン形成性は、評価対象外として「− 倒れ」という評価結果を示した。
【0080】
(実施例2−2)
希釈溶液中のZ6094の濃度が0.03wt%である点以外は実施例2−1と同様の評価を行った。
【0081】
(実施例2−3)
希釈溶液中のZ6094の濃度が0.05wt%である点以外は実施例2−1と同様の評価を行った。
【0082】
(実施例2−4)
希釈溶液中のZ6094の濃度が0.08wt%である点以外は実施例2−1と同様の評価を行った。
【0083】
(実施例2−5)
希釈溶液中のZ6094の濃度が0.1wt%である点以外は実施例2−1と同様の評価を行った。
【0084】
(実施例2−6)
希釈溶液中のZ6094の濃度が0.25wt%である点以外は実施例2−1と同様の評価を行った。
【0085】
(実施例2−7)
希釈溶液中のZ6094の濃度が0.5wt%である点以外は実施例2−1と同様の評価を行った。
【0086】
(実施例2−8)
希釈溶液中のZ6094の濃度が1.0wt%である点以外は実施例2−1と同様の評価を行った。
【0087】
(実施例2−9)
希釈溶液中のZ6094の濃度が2.0wt%である点以外は実施例2−1と同様の評価を行った。
【0088】
(実施例2−10)
希釈溶液中のZ6094の濃度が3.0wt%である点以外は実施例2−1と同様の評価を行った。
【0089】
(実施例2−11)
希釈溶液中のZ6094の濃度が4.0wt%である点以外は実施例2−1と同様の評価を行った。
【0090】
(実施例2−12)
希釈溶液中のZ6094の濃度が5.0wt%である点以外は実施例2−1と同様の評価を行った。
【0091】
(比較例2)
密着処理剤として上記HMDSを用いた。レジストパターンの形成およびパターン倒れ抑制効果の検討については、比較例1の結果を援用する。
【0092】
実施例1−1と同様に上記表1に示すレジスト組成物それぞれを使用して、実施例1−1と同様のレジストパターンを作製した。
【0093】
残膜厚は、上記のようにして得られた、レジストパターンが形成されたレジスト膜に対して、実施例2−1と同様に測定した。
【0094】
さらに、上記のようにしてレジスト膜が形成されたSi基板において、実施例2−1と同様にSi基板を加工して、所定のパターンを有するSi基板を得た。上記のようにして得られたパターン付Si基板の表面形状を、断面SEMと必要に応じて高解像解析が可能な断面TEMによって観察してパターン形成性を評価した。
【0095】
(評価結果)
実施例2−1から2−12および比較例2の結果は下記の表4のようになった。
【0096】
【表4】

【0097】
表4の結果から、希釈溶液中の密着処理剤の濃度を変えることにより、残膜厚の制御が可能であることが分かった。そして、アスペクト比が大きいレジストパターンに対してもパターン倒れを抑制するためには、少なくとも1nmの残膜が必要であることが分かった。また、残膜は厚ければ厚いほどパターン倒れ抑制効果は高いが、残膜が厚すぎるとエッチング後の基板のパターン形成性が低下することが分かった。表5に、本発明の作用効果が得られる残膜の範囲の下限値および上限値についてまとめた。そして、図3は、表5に基づいて、残膜の範囲の下限値および上限値のそれぞれについてプロットしたグラフを示す図である。図3より、レジスト膜の残膜の厚さが1nm以上かつ1.83×AR+1.73nm以下であれば、アスペクト比が大きいレジストパターンに対してもパターン倒れを抑制できることが分かった。特に、残膜が1〜4nmの場合には、レジストパターンのアスペクト比によらず、パターン倒れを抑制でき、好ましいと言える。
【0098】
【表5】

【符号の説明】
【0099】
1 基板
2 レジスト膜
3 残膜
5 レジスト材料
6 シランカップリング剤
h レジスト膜厚
w パターン凸部の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学増幅型のレジスト材料の基板への塗布、露光および現像の各工程を経て、アスペクト比ARが1.5以上の所定のレジストパターンを前記レジスト材料からなるレジスト膜に形成するレジストパターン形成方法において、
前記基板と前記レジスト膜との密着性を向上せしめる密着処理を制御して、前記レジスト膜の残膜の厚さが1nm以上かつ1.83×AR+1.73nm以下となるように制御することを特徴とするレジストパターン形成方法。
【請求項2】
前記密着処理に用いる密着処理剤として、アミノ基を有するアミノ系シランカップリング剤を用い、
前記アミノ系シランカップリング剤の希釈溶液を塗布して前記密着処理を実施することを特徴とする請求項1に記載のレジストパターン形成方法。
【請求項3】
前記希釈溶液における前記アミノ系シランカップリング剤の濃度を制御して、前記密着処理を制御することを特徴とする請求項1または2に記載のレジストパターン形成方法。
【請求項4】
前記残膜の厚さを、1〜4nmとすることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載のレジストパターン形成方法。
【請求項5】
請求項1から4いずれかに記載のレジストパターン形成方法により、所定のレジストパターンを有するレジスト膜を基板上に形成し、
前記レジスト膜の残膜を除去し、
その後、前記レジスト膜をマスクとしてエッチングを行うことにより、前記レジストパターンに対応した凹凸パターンを前記基板上に形成することを特徴とする基板の加工方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−71516(P2012−71516A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218748(P2010−218748)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】