説明

レトルト殺菌装置およびレトルト殺菌方法

【課題】レトルト釜内を急速かつ一様に加熱して、殺菌対象物を短時間で良好に加熱殺菌できるようにする。
【解決手段】底面41にスリット4aを有するトレイ4に殺菌対象物rを載せ、その各トレイ4を多段状に積み重ねてレトルト釜1内に導入した後、そのレトルト釜1内を加熱して殺菌対象物rを加熱殺菌する装置および方法である。トレイ4のスリット4aに対応してその直下となる位置に配置されるスプレー管6と、スプレー管6を挟んでその両側に平行に設けられるスチーム管5,5とを備える。そして、スプレー管6からトレイ4のスリット4aに向けて加熱水を霧状にして噴射しながら、その加熱水に向けてスチーム管5,5から高温高圧の蒸気を噴射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パウチ食品や缶詰などを加熱殺菌する技術に係わり、特にパウチ食品をはじめとする殺菌対象物を短時間で良好に加熱殺菌することのできるレトルト殺菌装置とレトルト殺菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パウチ食品などは常温での長期保存を可能とするため、レトルト釜(加圧殺菌釜)内で加熱殺菌処理が施されるが、係る殺菌処理は加熱媒体として蒸気を用いる蒸気加熱式と熱水を用いる熱水加熱式とに大別される。
【0003】
しかし、蒸気加熱式では、急速加熱に必要な高温高圧の膨大な蒸気をレトルト釜内に導入するため、レトルト釜内の空気が急激に膨張して内圧が過剰に高くなる。従って、レトルト釜内の圧力を低下させるべく大量の排気を行うが、このとき蒸気も一緒に排出されてしまうので、多くの蒸気がレトルト釜内の加熱に使用されずに浪費されてしまうという問題がある。
【0004】
一方、熱水加熱式には、レトルト釜内を熱水で満たす場合と、殺菌対象物に対して熱水を浴びせ掛ける場合とがあるが、前者の場合は殺菌対象物が熱水中に浮遊せぬように、これをトレイに固定する作業が必要となり、後者の場合には殺菌対象物が多段状に積み重ねられるトレイに載せられるため、熱水がトレイ積層体の内側領域まで良好に行き渡らず、均一な殺菌処理が行なえないという問題がある。
【0005】
又、いずれの場合も大量の水を加熱するので装置全体の大型化を招き、しかも熱水の生成に始まってレトルト釜内を所定温度に上昇させるまで多くの時間を費やすという問題がある。
【0006】
そこで、本件出願人は殺菌対象物に向けて高温高圧の蒸気を噴射しながら、その蒸気に沿って熱水を噴射するようにした装置および方法を想起した。その具体的態様は、底面にスリットが形成されるトレイに対応し、レトルト釜の底部に熱水噴射用配管と蒸気噴射用配管とを2つ並列に設け、その両配管からトレイのスリットに向けて蒸気と熱水を同時に噴き上げるというものである(例えば、特許文献1)。
【0007】
【特許文献1】特開平7−184615号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示される装置および方法によれば、蒸気噴射用配管から噴出された高温高圧の蒸気が圧力開放によりレトルト釜内で急激に膨張し、これによって熱水が曲げられてその直進性が失われるために、トレイのスリットに向けて噴射したはずの熱水および蒸気が逸れ、これが最下段のトレイ底面を直撃するという事象を発生する。この結果、蒸気および熱水の多くがスリットを通過せずしてレトルト釜内の底部に滞留してしまうため、レトルト釜内を急速かつ一様に加熱できないという問題があった。因みに、当該従来方式では、レトルト釜内を所定温度(例えば、120℃)まで上昇させるに要する時間(カムアップタイム)は約12分であった。
【0009】
本発明は以上のような事情に鑑みて成されたものであり、その目的はレトルト釜内を急速かつ一様に加熱して、殺菌対象物を短時間で良好に加熱殺菌できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を達成するため、
底面にスリットを有するトレイに殺菌対象物を載せ、その各トレイを多段状に積み重ねてレトルト釜内に導入した後、そのレトルト釜内を加熱して前記殺菌対象物を加熱殺菌するレトルト殺菌装置において、
前記レトルト釜の底部から前記トレイのスリットに向けて加熱水を霧状にして噴射するスプレー管と、そのスプレー管より噴射される加熱水に向けて高温高圧の蒸気を噴射するスチーム管とを有し、
前記スプレー管は前記トレイのスリットに対応してその直下となる位置に配置され、前記スチーム管は前記スプレー管を挟んでその両側に平行に設けられていることを特徴とするレトルト殺菌装置を提供する。
【0011】
加えて、前記トレイと前記スプレー管との間に、前記スプレー管から噴射された加熱水を通す先細りの第1案内路が設けられると共に、その第1案内路の両側に前記スチーム管から噴射された蒸気を通す第2案内路が設けられていることを特徴とするレトルト殺菌装置を提供する。
【0012】
又、底面にスリットを有するトレイに殺菌対象物を載せ、その各トレイを多段状に積み重ねてレトルト釜内に導入した後、そのレトルト釜内を加熱して前記殺菌対象物を加熱殺菌するレトルト殺菌方法において、
前記レトルト釜の底部から前記トレイのスリットに向けて該スリットの直下に位置するスプレー管から加熱水を霧状にして噴射しながら、その加熱水に向けて前記スプレー管を挟んでその両側に平行に設けられるスチーム管から高温高圧の蒸気を噴射することを特徴とするレトルト殺菌方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、レトルト釜の底部からトレイのスリットに向けてスプレー管より加熱水を霧状にして噴射しながら、その加熱水に向けてスプレー管の両側に平行に設けられるスチーム管より高温高圧の蒸気を噴射する構成としていることから、スプレー管より噴射される加熱水が蒸気圧によって曲げられることを防止できる。このため、加熱水の直進性を保ったまま、これをトレイのスリットに確実に通すことができる。
【0014】
又、スチーム管より噴射された蒸気が加熱水により凝縮されるので多量の蒸気を導入してもレトルト釜内の圧力上昇を抑制でき、しかも加熱水は蒸気の凝縮熱により急速に加熱され、これがスリットを通過し、上段のトレイから抜け出して下方に回り込むようになるので、レトルト釜内を所定温度まで急速加熱することができる。特に、スリットを通過する加熱水の速度エネルギーにより、その周辺の圧力が低下してトレイの内側領域に霧状の加熱水と蒸気とを含む熱気が引き込まれるようになるので、レトルト釜内全域を急速かつ一様に加熱してトレイに載せられた殺菌対象物を短時間で良好に殺菌することができる。
【0015】
加えて、トレイとスプレー管との間に、スプレー管から噴射された加熱水を通す先細りの第1案内路が設けられることから、その第1案内路により加熱水を増速してトレイの内側領域に熱気が引き込まれるエゼクタ効果を上げることができ、しかも第1案内路の両側にスチーム管から噴射された蒸気を通す第2案内路が設けられることから、蒸気の膨張拡散を抑制してこれを加熱水に対し良好に接触混合させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明を詳しく説明する。図1は本発明に係るレトルト殺菌装置の構成例を示す。図1において、1は耐圧性を有するレトルト釜(加圧殺菌釜)であり、その一端は閉鎖され、他の一端は図示せぬ圧力蓋により開閉可能とされている。尚、本例において、レトルト釜1は横長の円筒形であるが、図1にはその長さ方向に直交する断面を示している。
【0017】
図1示されるように、レトルト釜1内の底部には一点鎖線で示される車輪付の揺動台Dが設けられており、その揺動台D上にはレトルト釜1の長さ方向に沿って左右一対のガイドレール2,2が敷設されており、そのガイドレール2,2に沿ってレトルト釜1内に台車3が導入可能とされている。台車3は、レトルト釜1の内部にトレイ4を搬入するためのもので、トレイ4を支持する枠状の基台3aに車輪3bを取り付けて構成され、その基台3a上にトレイ4が多段状にして積み重ねられるようになっている。
【0018】
トレイ4は、殺菌処理すべき殺菌対象物を載せ置くものであり、その底面にはハの字形のスリット4aが形成され、その各スリット4a,・・が上下方向に連通される。そして、そのスリット4aにレトルト釜1内を加熱すべき流体(加熱媒体)が通され、その加熱媒体によりレトルト釜1内が所定温度まで加熱され、これによりレトルト釜1内に収容した殺菌対象物の加熱殺菌が行われる。尚、図1の矢印は加熱媒体の流れを示している。
【0019】
5は加熱媒体として高温高圧の蒸気(飽和蒸気あるいは過熱蒸気)をレトルト釜1内に噴射するスチーム管、6は加熱冷却用水(レトルト釜1内の加熱に使用する加熱水および冷却に用いる冷却水)をレトルト釜1の底部からその上方に積層状態に配されるトレイ4のスリット4aに向けて霧状に噴射するスプレー管であり、スチーム管5より噴射された蒸気はスプレー管6より噴射された加熱水に接触混合して凝縮され、その加熱水は蒸気の凝縮熱により加熱される。
【0020】
特に、トレイ4とスチーム管5およびスプレー管6との間には、台車3の移動を阻害せぬようにして後述するエゼクタ7が設けられ、そのエゼクタ7内を通じてスチーム管5より噴射された蒸気とスプレー管6より噴射された加熱水とがスリット4aに導入される構成となっている。
【0021】
図1に示されるように、スチーム管5はレトルト釜1の長さ方向に沿ってスプレー管6を挟んでその左右両側に2つ平行に設けられ、その各一端が蒸気発生部(ボイラ8)に蒸気供給管9を介して接続されている。尚、V1は蒸気供給管9に介在させたバルブ(電磁弁などの制御弁)であり、その開度を調節することにより、スチーム管5に供給される蒸気流量を制御することができる。
【0022】
一方、スプレー管6は、スリット4aの直下となる位置でスチーム管5,5の中間に設けられる。又、スプレー管6は、本管10を介してレトルト釜1の外部に設けられる循環ポンプ11に接続され、その循環ポンプ11に給水源12より延びる給水管13が接続されている。給水管13には、給水ポンプ14とバルブV2(電磁弁などの制御弁)が介在され、バルブV2と循環ポンプ11との間には、給水管13とレトルト釜1の内底部とを連通するバイパス管15が設けられている。そして、循環ポンプ11、本管10、バイパス管15、ならびに給水管13の一部は、レトルト釜1の底部に貯まった水(加熱水およびドレン)を循環する循環経路を形成する。
【0023】
尚、図1において、16はレトルト釜1の底部に接続する排水管であり、この排水管16にはバルブV3が介在される。又、17は円弧状を成す一対のガイド板17a,17aにより構成されるデフレクタであり、このデフレクタ17は、スリット4aより抜け出した加熱媒体(蒸気と加熱水との混合物)を下方に転向させるべくレトルト釜1の上部に配置されている。特に、上記スチーム管5、スプレー管6、ならびにエゼクタ7は揺動台Dに固定され、その揺動台Dは図2に示すようレトルト釜1の内周面に沿って左右に揺動可能とされている。
【0024】
図3は揺動台Dを揺動させるための揺動機構を示す。図3において、C1はレトルト釜1の一端中心部を気密的に貫通する中空状の主軸(クランクジャーナル)であり、その一端にはレトルト釜1の内部にてクランクアームC2が固着され、そのクランクアームC2の先端が連結軸C3(クランクピン)を介して揺動台Dに連結されている。主軸C1は回転軸としてレトルト釜1に回転自在に取り付けられており、レトルト釜1の外部に突出する一端には、ギヤG1,G2を介して駆動モータMが連結されている。そして、駆動モータMを正逆に駆動することにより、主軸C1を含むクランク軸を介して揺動台Dを揺動させ得るようになっている。これによれば、揺動台D上に積層されるトレイ4を同調して揺動させ、その各トレイ4内に置かれる殺菌対象物(例えばパウチ食品)を揺らしてその内容物を均一に加熱殺菌することができるが、駆動モータMに代えて流体圧シリンダにより主軸C1を所定の揺動角で揺動させることもできる。尚、主軸C1の内部には、スチーム管5に連通する蒸気供給管9、ならびにスプレー管6に連通する本管10が通されるが、主軸C1の内周面と蒸気供給管9および本管10の外周面との間にはシール部材Sが設けられ、これによってレトルト釜1の気密性が確保されている。
【0025】
又、図3から明らかなように、蒸気供給管9と本管10は、それぞれ主軸C1内に通される管部材9a,10aの各一端に、ロータリジョイント9b,10bを介して管部材9c,10cを連結した構成とされ、揺動台Dの揺動時において管部材9c,10cが主軸C1の軸線上に位置するロータリジョイント9b,10bを中心に揺動するようになっている。
【0026】
次に、トレイの構造について言及する。図4はトレイを示した斜視図、図5は同トレイの平面図であり、図6には図5のX−X線における部分拡大断面を示す。これらの図で明らかなように、トレイ4は矩形状を成す底面41の端縁に枠状の周壁42を直角に突設せしめた形態で、その各角部には上段のトレイを支持するための受座43が固着され、底面41と周壁42には円形状を成す複数の通気孔4bが穿設されている。又、トレイ4の底面41には上記の如く加熱媒体を通すためのスリット4aが形成されている。
【0027】
図4に示されるように、係るスリット4aは、底面41の一部を左右一対の側板44,44として上方にハの字形に折り曲げることにより形成される先細りの形態とされる。このため、スリット4aを通過する加熱媒体は増速し、その近傍が減圧状態となるので、レトルト1釜内の雰囲気が減圧箇所すなわち積層状態にあるトレイ4の内側領域に向かうようになる。この結果、トレイ4に載せられる殺菌対象物がより効果的に加熱されるようになる。尚、図4において、rはパウチ食品などの殺菌対象物を示すが、スリット4aを形成する両側板44,44は、トレイ4に載せられる殺菌対象物rの配置領域を区画する仕切板としても機能する。又、スリット4aの長さ方向は、上記スチーム管5およびスプレー管6の軸方向に合致する。
【0028】
次に、図7はスチーム管とスプレー管を上方からみた状態を示す。この図で明らかなように、スチーム管5にはその長さ方向に沿って蒸気を噴出するための噴口51が所定の間隔で穿設されている。特に、噴口51はスチーム管5の頂上部よりも内側(スプレー管6側)に偏った位置に穿設され、その各噴口51より噴射された蒸気がスプレー管6から噴射される加熱水と交差するようになっている。
【0029】
一方、スプレー管6の頂上部にはその長さ方向に沿ってノズル61が所定の間隔で取り付けられ、その各ノズル61から加熱水が霧状にして真上に噴き上げられ、その加熱水が上記エゼクタ7を通じてトレイ4のスリット4aに導入するようになっている。
【0030】
図8はエゼクタの部分を示した拡大図である。この図で明らかなように、エゼクタ7は左右一対の内板71と、その内板71を挟んで対向する左右一対の外板72とにより構成される。その内板71および外板72はスプレー管6の軸方向に沿って延びる湾曲板であり、それらは図示せぬリブにより部分的に連結されて一体構造のエゼクタ7を構成する。特に、一対の内板71,71は、トレイ4とスプレー管6との間においてスプレー管6から噴射された加熱水を通す第1案内路7aを形成する。又、その第1案内路7aの両側において、外板72,72は内板71,71との間にスチーム管5から噴射された蒸気を通す第2案内路7bを形成する。尚、係るエゼクタ7はトレイ4のスリット4aに対応して上記揺動台Dに固設されるが、これを台車3の底部に固設するようにしてもよい。
【0031】
ここで、以上の構成されるレトルト殺菌装置を用いて殺菌対象物を殺菌処理する方法を説明する。先ず、トレイ4に殺菌対象物rを載せ、そのトレイ4を台車3上に多段状にして積み重ねる。そして、そのトレイ4を台車3ごとレトルト釜1の一端開口部よりその内部に導入して揺動台D上に固定する。その後、レトルト釜1の一端開口部を閉じ、図1に示したバルブV2を開放しながら給水ポンプ14を起動し、給水源12から給水管13およびバイパス管15を通じてレトルト釜1の底部に加熱水(常温水)を供給する。
【0032】
尚、レトルト釜1内への加熱水の供給は、スチーム管5やスプレー管6が水没しない程度とし、その供給が完了したら、バルブV2を閉じて給水ポンプ14を停止しながら循環ポンプ11を起動する。すると、未だ低温(常温状態)の加熱水がバイパス管15を通じてレトルト釜1から抜き出され、これが循環ポンプ11から本管10を通じてスプレー管6に供給され、そのスプレー管6(詳しくはスプレー管6に取り付けたノズル61)から霧状にして噴射される。
【0033】
又、これと同時に揺動台Dを揺動させながら、バルブV1を開放してボイラ8から蒸気供給管9を通じてスチーム管5,5に蒸気(例えば、150℃/0.5MPa)を供給し、その蒸気をスプレー管6より噴射される加熱水に向けてスチーム管5,5から噴射する。
【0034】
ここに、スチーム管5,5から噴射された蒸気は、エゼクタ7内(第2案内路7b)に流入して圧力開放による膨張を抑制されながら、スリット4aの入口付近に開通する第2案内路7bの出口部分で加熱水に接触して凝縮されるのであり、このため蒸気の導入によるレトルト釜1内の圧力上昇は抑制される。
【0035】
一方、スプレー管6から噴射された加熱水は、蒸気の凝縮熱により加熱されるので、噴射初期において常温の加熱水も噴射開始直後に高温(120〜130℃程度)となり、これがエゼクタ7(第1案内路7a)内を通じてトレイ4のスリット4aに導入するようになる。特に、加熱水にはその両側から蒸気圧が均等に作用するため、スプレー管6からスリット4aに向かって真直ぐ噴き上げられた加熱水は、蒸気により曲げられることなく直進性を保ってスリット4aを通過する。又、加熱水はエゼクタ7の第1案内路7aにより増速され、更に各トレイ4,・・のスリット4aにより増速される。
【0036】
そして、最上段のトレイ4から抜け出した蒸気および加熱水は、デフレクタ17により下方に転向され、このうち液体成分はレトルト釜1の底部に溜まり、これが加熱水としてスプレー管6から噴射されることが繰り返される。このような加熱水の循環によりレトルト釜1内は急速に加熱され、その内部雰囲気が高温の熱気と化し、これが加熱水の流れに沿ってレトルト釜1内で回流し、しかもスリット4a内を高速で流れる加熱水によりレトルト釜1内の熱気がトレイ4の内側領域に引き込まれるようになるので、レトルト釜1内の全域が一様に加熱される。このため、トレイ4に載せられた殺菌対象物rをその配置位置に関係なく短時間で一様に加熱殺菌することができる。特に、揺動台Dの揺動により、スチーム管5、スプレー管6、ならびにトレイ4を同調して揺動させることから、殺菌対象物がカレールーなどを内容物とするパウチ食品であっても、その内容物を均一、良好に加熱殺菌することができる。
【0037】
ここで、特許文献1に開示される従来方式において、カムアップタイム(目標温度120℃)が約12分であったところ、本発明ではカムアップタイム(目標温度120℃)を約3分に短縮することができた。
【0038】
尚、以上のような加熱殺菌処理中において、レトルト釜1内は一定の圧力(0.2〜0.3MPa程度)に維持されるが、レトルト釜1内が所定の目標温度に達した場合には、レトルト釜1に導入する蒸気量を制御してレトルト釜1内を目標温度に一定時間維持する。
【0039】
又、加熱殺菌処理が完了したら、揺動台Dを揺動させたまま、バルブV1を閉じて蒸気の供給を停止する一方、バルブV3を開放してレトルト釜1の底部から加熱水を排出しながら、循環ポンプ11を起動したままバルブV2を開放して給水ポンプ14を起動する。これにより、給水源12からレトルト釜1内に冷却水(常温水)を供給し、その冷却水をスプレー管6よりトレイ4のスリット4aに向けて霧状に噴射するのであり、これを一定時間続けることでレトルト釜1内を外気温程度まで冷却して殺菌対象物rを取り出すことが可能とされる。
【0040】
以上、本発明について説明したが、係る装置および方法は図4のようなトレイ4に限らず、例えば図9のようにスリット4aが二列平行に形成されるトレイ4にも適用することができる。尚、図9のようなトレイ4に対しては、図10のように二列のスリット4a,4aに対応して、それぞれその直下となる位置にスプレー管6が配置されると共に、それらスプレー管6の両側にそれぞれスチーム管5,5が2つ平行に配置される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係るレトルト殺菌装置を示す正面概略図
【図2】レトルト釜内で揺動台上のトレイを揺動させる状態を示す説明図
【図3】揺動台の揺動機構を示す部分断面図
【図4】トレイの構造を示す斜視図
【図5】同トレイの平面図
【図6】図3のX−X線に沿う部分拡大断面図
【図7】スプレー管とスチーム管の配列パターンを示す平面図
【図8】スリットに加熱水と蒸気が導入する状態を示した説明図
【図9】トレイの変更例を示す斜視図
【図10】図7のトレイに対応するスプレー管とスチーム管の配列パターンを示す説明図
【符号の説明】
【0042】
1 レトルト釜
4 トレイ
4a スリット
5 スチーム管
6 スプレー管
7 エゼクタ
7a 第1案内路
7b 第2案内路
8 ボイラ
12 給水源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面にスリットを有するトレイに殺菌対象物を載せ、その各トレイを多段状に積み重ねてレトルト釜内に導入した後、そのレトルト釜内を加熱して前記殺菌対象物を加熱殺菌するレトルト殺菌装置において、
前記レトルト釜の底部から前記トレイのスリットに向けて加熱水を霧状にして噴射するスプレー管と、そのスプレー管より噴射される加熱水に向けて高温高圧の蒸気を噴射するスチーム管とを有し、
前記スプレー管は前記トレイのスリットに対応してその直下となる位置に配置され、前記スチーム管は前記スプレー管を挟んでその両側に平行に設けられていることを特徴とするレトルト殺菌装置。
【請求項2】
前記トレイと前記スプレー管との間に、前記スプレー管から噴射された加熱水を通す先細りの第1案内路が設けられると共に、その第1案内路の両側に前記スチーム管から噴射された蒸気を通す第2案内路が設けられていることを特徴とする請求項1記載のレトルト殺菌装置。
【請求項3】
底面にスリットを有するトレイに殺菌対象物を載せ、その各トレイを多段状に積み重ねてレトルト釜内に導入した後、そのレトルト釜内を加熱して前記殺菌対象物を加熱殺菌するレトルト殺菌方法において、
前記レトルト釜の底部から前記トレイのスリットに向けて該スリットの直下に位置するスプレー管から加熱水を霧状にして噴射しながら、その加熱水に向けて前記スプレー管を挟んでその両側に平行に設けられるスチーム管から高温高圧の蒸気を噴射することを特徴とするレトルト殺菌方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−12001(P2010−12001A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−174174(P2008−174174)
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(390033569)株式会社神垣鉄工所 (1)
【Fターム(参考)】