説明

レトルト白がゆ及びその製造方法

【課題】 レトルト処理による過度の加熱処理を施しているにも拘らず、鍋等で炊飯した手作りの白がゆとほぼ同等あるいはそれ以上の米由来の香味に優れたレトルト白がゆ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 レトルト白がゆの揮発性成分を固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法(SPME−GC−MS法)で分析したとき、該レトルト白がゆの揮発性成分である硫化水素のピーク面積(定量イオンm/z34)に対するヘキサナールのピーク面積(定量イオンm/z56)の比が100以下であるレトルト白がゆ及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レトルト処理による過度の加熱処理を施しているにも拘らず、鍋等で炊飯した手作りの白がゆとほぼ同等あるいはそれ以上の米由来の香味に優れたレトルト白がゆ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レトルト処理を施されたレトルト白がゆは、常温で長期間保存でき単に温めるだけで簡便に喫食することが可能であり、しかも低カロリーであることから、近年の健康志向により、その需要が増加している。これらの代表的な製造方法としては、洗米浸漬した精米と清水をレトルトパウチや缶詰め等の耐熱性容器に充填密封し、炊飯と殺菌を兼ねてレトルト処理を施す方法等が採られいる。
【0003】
しかしながら、このようなレトルト白がゆは、その製造工程にレトルト処理による過度の加熱処理が避けられないことから、単に、洗米浸漬した精米と清水を用い上述の方法で製しただけでは、通常の鍋等で炊飯した手作りの白がゆに比べ風味が劣るという問題があった。
【0004】
従来より、上述の方法で製し、レトルト白がゆの風味を改善することを目的とした製造方法に関する発明がいくつか提案されている。例えば、特許第2986243号公報(特許文献1)には、容器への充填密封時に容器内の酸素量を常温で生米100g当たり2〜10mgとなるようにヘッドスペース中の酸素量及び水中の酸素量を調整した後、初期品温を0〜40℃とし、100℃までの昇温時間を8〜12分とするレトルト白がゆの製造方法が開示されている。
【0005】
また、前記特許文献1には、ヘッドスペースの酸素量の調整方法としてヘッドスペースを窒素置換すること、また水中の酸素量の調整方法として脱酸素水製造装置による脱気水を用いること、水を高温にすること、窒素置換することがそれぞれ例示されている。
【0006】
しかしながら、当該実施例においては、酸素量を減らす具体的な方法として広く食品分野で行なわれているヘッドスペースの窒素置換及び脱気水を用いる方法しか開示されておらず、水中の酸素量の調整方法として水を高温にすることと窒素置換することを組み合わせた方法、並びにヘッドスペースを蒸気置換する方法については何ら記載されていない。
【0007】
また、同出願人は、前記特許文献1の改良として、特許第3224806号公報(特許文献2)において、酸素吸収可能量が米、水及びヘッドスペースに含まれる総酸素量より大きく、レトルト処理直後のヘッドスペース中の酸素が実質的に含まれない酸素吸収層を有するアルミ箔パウチを用いたレトルト白がゆの製造方法を開示しており、これにより製造直後及び保存中のレトルト白がゆの風味を改善している。
【0008】
しかしながら、上記製造方法を工業的規模で製した場合、得られるレトルト白がゆの風味は、白がゆの香気成分である硫黄化合物に由来する風味が弱く、またレトルト処理の過度の加熱処理による米中の油脂成分等の劣化臭が感じられ、依然として手作りの白がゆとほぼ同様の風味とは言い難いものであった。
【0009】
【特許文献1】特許第2986243号公報
【特許文献2】特許第3224806号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明の目的は、レトルト処理による過度の加熱処理を施しているにも拘らず、鍋等で炊飯した手作りの白がゆとほぼ同等あるいはそれ以上の米由来の香味に優れたレトルト白がゆ及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記目的を達成すべくレトルト粥の原料や充填密封方法等、様々な諸条件について鋭意研究を重ねた結果、特定の米及び清水を用い、且つ充填密封方法を特定の方法で行うことにより意外にも手作りの白がゆとほぼ同等あるいはそれ以上の米由来の香味に優れたレトルト白がゆが得られることを見出し本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)レトルト白がゆの揮発性成分を固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法(SPME−GC−MS法)で分析したとき、該レトルト白がゆの揮発性成分である硫化水素のピーク面積(定量イオンm/z34)に対するヘキサナールのピーク面積(定量イオンm/z56)の比が100以下であるレトルト白がゆ、
(2)レトルト白がゆの揮発性成分を固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法(SPME−GC−MS法)で分析したとき、該レトルト白がゆの揮発性成分である硫化水素のピーク面積(定量イオンm/z34)に対するヘキサナールのピーク面積(定量イオンm/z56)の比が60以下であるレトルト白がゆ、
(3)米と清水を耐熱性容器に充填密封し、レトルト処理を施すレトルト白がゆの製造方法において、前記米として無洗米、及び前記清水として60℃以上の窒素含気水をそれぞれ用いて、13〜20%の水分とした無洗米と前記60℃以上の窒素含気水を耐熱性容器に充填し、ヘッドスペースの大気を蒸気置換した後、密封するレトルト白がゆの製造方法、
(4)前記60℃以上の窒素含気水の酸素濃度が0.2〜2.0mg/Lである(3)のレトルト白がゆの製造方法、
(5)前記蒸気置換がヘッドスペースの大気を実質的に蒸気置換する(3)又(4)のレトルト白がゆの製造方法、
である。
【発明の効果】
【0013】
以上の構成により、本発明のレトルト白がゆ及びその製造方法は、レトルト処理による過度の加熱処理を施しているにも拘らず、鍋等で炊飯した手作りの白がゆとほぼ同等あるいはそれ以上の米由来の香味に優れたレトルト白がゆを提供できることから、レトルト白がゆの更なる需要拡大が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ意味する。
【0015】
本発明は、レトルト白がゆ及びその製造方法に係る発明であるが、説明上、まず、製造方法を中心に詳述する。なお、下記製造方法は、本発明のレトルト白がゆの代表的な製造方法であって、限定するものではない。
【0016】
本発明は、米と清水を原料とし、これらの原料を耐熱性容器、例えば、缶、レトルトパウチ、好ましくはアルミニウム箔、有機樹脂塗工ポリエチレンテレフタレート(呉羽化学工業(株)製、商品名「ベセーラ」)等によるガスバリア層を有した耐熱性パウチ、あるいは自立性を有した耐熱性のスタンディングパウチに充填密封され、当該密封物を炊飯と殺菌を兼ねて食品の中心部の品温を120℃で4分間相当の加熱処理を行なう又はこれと同等以上の効力を有する条件で加熱処理を行なう、いわゆるレトルト処理を施したレトルト白がゆの製造方法である。
【0017】
本発明の製造方法は、まず、使用原料である米が特定のものであり、且つ充填する際の米の状態に特徴を有する。つまり、本発明では、米として無洗米を用い、且つ充填する無洗米の状態を13〜20%の水分とすることに特徴を有し、他の構成要件を併せて、手作りの白がゆとほぼ同等あるいはそれ以上の米由来の香味に優れたレトルト白がゆが得られる。
【0018】
ここで、無洗米とは、糠層が除去され炊飯の準備の際に行う水洗作業を不要にしたいわゆる無洗米のことを言い、具体的には、水分含量が13〜16%、白度が40%以上、濁度が90ppm以下のものをいう。
【0019】
無洗米の製造方法としては、様々な方法が知られている。例えば、特開2000−354773号公報等に記載されているような精米機によりとう精された精米を研磨ブラシで除糠する方法、特許第2615314号公報等に記載されているような精米を極めて短時間に水中とう精した後、脱水乾燥する方法、特許第3206752号公報等に記載されているような精米をタピオカ等の除糠用粘着物質を用いて除糠する方法、あるいは糠からなる除糠用粘着物質を用いて除糠する方法等が挙げられる。
【0020】
これらの方法で製した無洗米は、実際に市販されており、本発明では、これらのいずれの方法で製せられた無洗米を用いても良いが、米由来の香味に優れたレトルト白がゆが得られ易いことから、精米に対し清水10%以下添加あるいは無添加の状態で除糠用粘着物質により糠層が除去された無洗米を用いることが好ましい。前記除糠用粘着物質としては、精米表面の糠層を吸着する性質を有するものであれば、特に限定するものではないが、例えば、粟、稗、蕎麦、高梁、米、麦、タピオカ等の穀粒の粉砕物や米糠等が挙げられる。また、精米に対し清水を10%以下添加あるいは無添加の状態で行った無洗米としては、具体的には、例えば、精米に対し清水を5%程度添加した状態でタピオカにより糠層を除去する(株)サタケ製のネオ・テイスティ・ホワイト・プロセス(NTWP)と称する無洗米製造装置で製せられたもの、あるいは米糠で糠層を除去する(株)東洋精米機製作所製のBG米装置と称する無洗米製造装置で製せられたもの等が挙げられる。
【0021】
なお、無洗米の水分含量は、常法である105℃での乾燥法により蒸発した水分の試料全量に対する質量比を求めた値である。また、白度は、白度計を用いて測定した値である。そして、濁度は、洗米水濁度試験、すなわち、15℃の水200mlに20gの試料米を入れ、10分間振とうし、その液50mlを採取して10倍に希釈した液を濁度計を用いて測定した値である。
【0022】
通常、白がゆを含めた米飯類に無洗米を用いる場合でも、精米と同様に清水で30分間以上(室温の清水を用いた場合)浸漬処理する等、ある程度吸水させた無洗米を用いることが美味しい米飯を炊飯すると言われている。また、特許文献1及び2においても精米に対し約1.1〜1.25倍量となるように吸水させた米(水分含量=約23〜32%)を用いている。これに対し、本発明においては、充填する際の無洗米の状態として水分13〜20%のものを用いることが肝要である。無洗米の水分が20%より多いと、当該水分がレトルト処理による炊飯の際の米粒の状態に影響したり、あるいは充填機で充填する際の物理的な衝撃によって米粒が傷付き易いためか、手作り品とほぼ同等の風味を有するレトルト粥が得られ難く好ましくないからである。
【0023】
無洗米の水分を13〜20%の状態に調整する方法としては、特に限定するものではないが、例えば、無洗米の水分が13〜16%であることから、無洗米を清水に浸漬処理等、吸水させずにそのまま用いる方法、あるいは水分含量が20%を超えない程度に無洗米を清水に短時間浸漬する方法等が挙げられる。特に、無洗米を吸水させずにそのまま用いる方法は、手作り品とほぼ同等あるいはそれ以上の米由来の香味に優れたレトルト白がゆが得られ易く好ましい。
【0024】
更に、本発明の製造方法は、上述した米に特徴を有するばかりでなく、使用原料である清水に特徴を有する。つまり、本発明では、清水として60℃以上の窒素含気水を用いることに特徴を有する。これにより、他の構成要件を併せて、手作りの白がゆとほぼ同等あるいはそれ以上の米由来の香味に優れたレトルト白がゆが得られる。
【0025】
まず、本発明で使用する清水は、食品で一般的に使用されている清水であればいずれのものでも良く、例えば、水道水、イオン交換水、蒸留水、ミネラルウォーター、ナチュラルウォーター、ナチュラルミネラルウォーター又は海洋深層水等が挙げられる。
【0026】
また、本発明で使用する清水は、60℃以上、好ましくは80℃以上の熱水を用いることが肝要である。熱水を用いることにより、本発明の目的である米由来の香味に優れたレトルト白がゆが得られるが、これは、室温下にある米粒が熱水と接触することにより、米粒の表面と芯の部分で温度差が生じ、このことが米粒の部位により糊化速度に差を生じ米由来の香味の発現に何らか影響を与えたのではないかと推察される。また、本発明は、ヘッドスペースの大気を蒸気置換するために蒸気を吹き込むが、60℃以上の熱水を用いるならば、室温の清水に比べ蒸気が水に変換され難く、工業的規模で大量に生産する場合、得られた製品のヘッドスペースをコントロールし易いからである。
【0027】
更に、本発明では上記熱水の窒素含気水を用いることが肝要である。ここで窒素含気水とは、水中に溶存した気体の大部分を窒素を含気させることにより窒素に置換した清水である。熱水の窒素含気水を調製する方法としては、特に限定するものではないが、例えば、清水に窒素を吹き込み昇温させる方法等により製することができる。窒素含気水はこのように水中に溶存した気体の大部分を窒素に置換したものであるので、窒素が水中に多く含まれた状態であるとともに、相対的に窒素以外の酸素や二酸化炭素等が水中にあまり含まれない状態である。具体的な窒素含気水の窒素による置換の程度は、本発明の効果である手作りの白がゆとほぼ同等あるいはそれ以上の米由来の香味に優れたレトルト白がゆが得られ易いこと、工業的規模での生産性の点で、酸素濃度が0.2〜2.0mg/Lとなるように行なうことが好ましく、0.2〜1.8mg/Lとなるように行なうことがさらに好ましい。
【0028】
なお、上記酸素濃度は、本発明で用いる清水が熱水であることから、採取した熱水を直ちに大気が溶存しないように密封し水温が25℃となるように冷却した後に東亜ディーケーケー(株)製溶存酸素計「DL−40」を用いて測定した値である。
【0029】
一般的に脱気水とは、中空糸膜等で水中に溶存している酸素等の気体を除去した水として知られている。また、前記脱気水に米を浸漬処理すると脱気していない清水に比べ米への吸水が促進されることが知られている。一方、本発明で使用する窒素含気水は、水中に溶存している酸素等の気体を除去する方法と異なり水中に窒素を吹き込め窒素で飽和させて酸素を追い出す方法によるものであり、脱気していない清水と同様に米への吸水が脱気水より遅いことが推察され、このことが、米由来の香味の発現に何らか影響を与えたのではないかと推察される。
【0030】
本発明の製造方法は、上述した特定の米及び清水を耐熱性容器に充填した後に、更に当該容器のヘッドスペースの大気を蒸気で置換することを特徴とする。ここで用いる蒸気は、清水を加熱して蒸気にするスチーム発生装置等で製した蒸気等、常法により製した蒸気を用いれば良い。また、本発明においては、最終的に蒸気は冷却され水となり白がゆの水分の一部となることから、異物等が混入しないように注意する必要がある。ヘッドスペースの大気を蒸気で置換する方法は、窒素置換と同様、ヘッドスペースに蒸気を吹きつけて行なえば良い。また、蒸気の吹きつけの流速は、吹きつけにより内容物の米や清水が飛び散り、密封部に米粒や米由来の微細物等が付着し、その後の密封が不十分となるような問題とならない程度に行なうと良い。
【0031】
また、蒸気置換における蒸気の量は、ヘッドスペースの大気を実質的に蒸気置換する程度に行うことが好ましい。これより、他の構成要件を併せて、手作りの白がゆとほぼ同等あるいはそれ以上の米由来の香味に優れたレトルト白がゆが得られ易い。ここで、ヘッドスペースの大気を実質的に蒸気置換するとは、最終的に蒸気は冷却され水となることから、最終製品において当該ヘッドスペースの容量が0.5mL以下となるように蒸気置換することを意味する。特に、最終製品のヘッドスペースの容量を0.1mL以下となるように蒸気置換するとより好ましい。なお、本発明では、本発明の効果を損わない範囲で、蒸気置換に加え窒素、アルゴン等の不活性ガスによる置換も併用しても良い。
【0032】
本発明の製造方法は、上述した特定の米及び清水を耐熱容器に充填し、ヘッドスペースの大気を蒸気置換し密封した密封物を、最後に炊飯と殺菌を兼ねてレトルト処理を施す。レトルト処理を開始するに当たっては、充填密封後から望ましくは20分以内、より望ましくは15分以内に昇温を開始すると米由来の香味に優れたレトルト白がゆが得られ易い。また、レトルト処理は、従来のレトルト白がゆと同様、食品の中心部の品温を120℃で4分間相当の加熱処理を行なう又はこれと同等以上の効果を有する条件で加熱処理を行なえば良く、具体的には、例えば、食品の中心部の品温110〜130℃で5〜60分程度行なえば良い。
【0033】
以上、本発明の製造方法を詳述したが、本発明の製造方法により、鍋等で炊飯した手作りの白がゆとほぼ同等あるいはそれ以上の米由来の香味に優れたレトルト白がゆが得られる。具体的な米由来の香味の程度としては、レトルト白がゆの揮発性成分を後述の試験例に示す固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法(SPME−GC−MS法)で分析したとき、当該レトルト白がゆの揮発性成分である硫化水素のピーク面積(定量イオンm/z34)に対するヘキサナールのピーク面積(定量イオンm/z56)の比が100以下、好ましくは60以下である。
【0034】
本発明において、米由来の香味の指標としている揮発性成分は、上記硫化水素とヘキサナールである。これらの成分は、硫化水素等の硫黄化合物は炊飯したときの米由来の風味に大きく寄与している成分で、炊飯したときの香りに柔らかさを付与すると表現される米由来の好ましい揮発性成分である。一方、ヘキサナールは、「古米臭」と表現される成分で、米の脂質の酸化により発生するカルボニル化合物の一種で、米由来の好ましくない揮発性成分である。
【0035】
本発明者らは、まず、官能試験により、上記製造方法で得られたような手作りの白がゆとほぼ同等あるいはそれ以上の米由来の香味に優れたレトルト白がゆとそうでないレトルト白がゆとに区分し、それぞれのレトルト白がゆについて揮発性成分を固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法(SPME−GC−MS法)で分析した。その結果、米の風味に影響すると言われる上記成分において、その比率が官能試験の結果とほぼ相関性を示すことを見出し、レトルト白がゆの揮発性成分である硫化水素のピーク面積(定量イオンm/z34)に対するヘキサナールのピーク面積(定量イオンm/z56)の比が100以下、好ましくは60以下であれば、手作りの白がゆとほぼ同等あるいはそれ以上の米由来の香味に優れたレトルト白がゆであることを見出したのである。なお、硫化水素のピーク面積の定量イオンm/z34、及びヘキサナールのピーク面積の定量イオンm/z56とは、ガスクロマトグラフ質量分析法における各成分の定量イオンの質量である。
【0036】
以下、本発明のレトルト白がゆ及びその製造方法について、実施例及び比較例並びに試験例に基き具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定するものではない。
【実施例】
【0037】
[参考例]
手作りの白がゆ(5分粥)を製した。つまり、精米30gを洗米し1時間水浸漬した吸水米(水分含量約30%)を土鍋に入れ、これに、合計配合量が330gになるように清水を加えた。そして、蓋をして最初強火にかけ、沸騰してきたら弱火にして吹きこぼれないように蓋をずらして約50分間炊いて約300gの白がゆを製した。
【0038】
[実施例1]
精米に対し清水5%程度添加した状態で、タピオカにより糠層が除去された無洗米[(株)サタケ製のNTWPと称される無洗米製造装置で製された無洗米、水分含量約15%]及び窒素吹込み装置[西華産業(株)製OHRラインミキサー]で窒素を含気させ90℃に昇温した酸素濃度1.2mg/Lの窒素含気水を準備した。次に、前記無洗米25gをそのまま前記90℃の熱水の窒素含気水225gと共に耐熱性アルミパウチ(250g容量)に充填し、この容器のヘッドスペースにスチーム発生装置[(株)日阪製作所製]で製した蒸気を、内容物の無洗米や窒素含気水が飛び散らない程度の流速で、最終製品のヘッドスペースの容量が0.1mL以下となるように蒸気を吹き込み蒸気置換した後、直ちに密封した。そして、密封から15分以内に炊飯と殺菌を兼ねてレトルト処理の昇温を開始し、121℃で20分間の条件でレトルト処理を施し、冷却した。
【0039】
得られたレトルト白がゆをパウチのまま沸騰水で5分間温めた後、喫食し官能評価した。その結果、参考例の手作りの白がゆとほぼ同等あるいはそれ以上の米由来の香味に優れたレトルト白がゆであった。
【0040】
[比較例1]
特許文献1記載の実施例の製造方法に準じレトルト白がゆを製した。
【0041】
つまり、精米を丁寧に3回洗米した後、水浸漬し、30分間ザルで自然脱水させ、精米26.5gが約33gとなるように吸水させた。また、清水を脱気水製造装置[大日本インキ化学工業(株)製、SEPAREL KDO−02−5]で脱気させ酸素濃度が4mg/Lの脱気水を準備した。前記吸水米33gと脱気水179gを耐熱性アルミパウチ(250g容量)に充填し、この充填物に内容物の吸水米及び脱気水が飛び散らない程度の流速で窒素ガスを吹き込みヘッドスペースが約4mLとなるように密封した。そして、密封から15分以内に炊飯と殺菌を兼ねてレトルト処理の昇温を開始し、初期品温から100℃までの昇温時間を約10分間とし、121℃で8分間の条件でレトルト処理を施し、冷却した。
【0042】
得られたレトルト白がゆをパウチのまま沸騰水で5分間温めた後、喫食し官能評価した。その結果、参考例の手作りの白がゆとほぼ同等あるいはそれ以上の米由来の香味に優れたレトルト白がゆとはやや言い難いものであった。
【0043】
[比較例2]
特許文献2記載の実施例1において、下記の酸素吸収剤を含有した耐熱性アルミパウチを用いた他は特許文献2記載の実施例1の製造方法に準じレトルト白がゆを製した。
【0044】
<パウチ>
使用した耐熱性アルミパウチは、250g容量の酸素吸収剤含有した耐熱性アルミパウチであって、パウチの層構成がPET/アルミ箔/鉄粉含有の酸素吸収層/ポリプロピレンである。また、当該パウチの酸素吸収量は、特許文献2の段落[0030]の方法で処理したときの酸素吸収量、つまりパウチに1gの清水及びヘッドスペースに50ccの空気を充填して密封した後、初期品温から121℃までの昇温時間を約10分間とし、次いで121℃にて8分レトルト処理したときの酸素吸収量が15mg/袋である。
【0045】
<レトルト白がゆの製造>
精米を丁寧に3回洗米した後、30分間ザルで自然脱水した。これにより精米26.5gが約30gに吸水されていた。また、清水を脱気水製造装置[大日本インキ化学工業(株)製、SEPAREL KDO−02−5]で脱気させ酸素濃度が1mg/Lの脱気水を準備した。前記吸水米30gと脱気水209gを上記耐熱性アルミパウチ(250g容量)に充填し、ヘッドスペースがなくなるように密封した。密封後パウチの端を少し切り取り、容器内へ空気が入らないようにシリンジにて空気を20mL注入して再度密封した。そして、再密封から15分以内に炊飯と殺菌を兼ねてレトルト処理の昇温を開始し、初期品温から100℃までの昇温時間を約10分間とし、121℃で8分間の条件でレトルト処理を施し、冷却した。
【0046】
得られたレトルト白がゆをパウチのまま沸騰水で5分間温めた後、喫食し官能評価した。その結果、参考例の手作りの白がゆとほぼ同等あるいはそれ以上の米由来の香味に優れたレトルト白がゆとはやや言い難いものであった。なお、得られたレトルト白がゆのヘッドスペースの酸素濃度を測定したところ、0.1%であった。
【0047】
[試験例]
官能試験で手作りの白がゆとほぼ同等あるいはそれ以上の米由来の香味に優れたレトルト白がゆであると評価した実施例1のレトルト白がゆが、そうでない比較例1及び2に比べ、固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法(SPME−GC−MS法)による揮発性成分の分析結果においても手作りの白がゆとほぼ同等あるいはそれ以上に優れていることを立証するため試験を行なった。
【0048】
<分析方法>
参考例の手作りの白がゆ、並びに実施例1、並びに比較例1及び2で得られたレトルト白がゆについて揮発性成分を下記に示す固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法(SPME−GC−MS法)にて3回分析した。次に各白がゆの揮発性成分のピーク面積の平均値を求め、硫化水素のピーク面積(定量イオンm/z34)に対するヘキサナールのピーク面積(定量イオンm/z56)の比を算出し、このピーク面積の比により評価した。その結果を表1に示す。
【0049】
まず、参考例の手作り白がゆは、そのまま、また各レトルト白がゆはパウチのまま沸騰水で5分間温め喫食できる状態にしたものを分析試料とした。分析試料3.00±0.03gをヘッドスペース用バイアル(10mL容量)に直接採取し、セプタム付キャップにて密栓した。そして、下記に示す全自動揮発性成分抽出導入装置にて、抽出した揮発性成分をガスクロマトグラフ/質量分析計に導入し、分析を行なった。
【0050】
<固相マイクロ抽出(SPME)条件>
・SPMEファイバー :StableFlex50/30μm,DVB/Carboxen/PDMS,(スペルコ社製:Supelco,Inc.,Bellefonte,PA)
・全自動揮発性成分抽出導入装置:Combi PAL(シーティーシーアナリティクス社製:CTC Analitics)
・予備加温 :55℃で5分間
・攪拌速度 :300rpm(アジテータon5秒間、off2秒間)
・揮発性成分抽出 :55℃で15分間
・揮発性成分の脱着時間:10分間
【0051】
<ガスクロマトグラフ質量分析法(GC−MS)条件>
・GCオーブン :Agilent 6890N(アジレントテクノロジーズ社製:Agilent Technologies)
・カラム:SOLGEL−WAX;30m,0.25mm i.d.,0.25μm(エスジーイー社製:SGE)
・GC温度条件 :35℃(5分間)→5℃/分→120℃→15℃/分→220℃(6分間)
・キャリアー :ヘリウム,1.0ml/分,流量一定モード
・インジェクション:パルスド・スプリットレス法で注入した。 1.5分間スプリットレスした後、パージ流量を50mL/分とした。パルス圧力は1.6分間100kPaとし、その後、初期条件に戻した。
・インレット温度 :250℃
・解析ソフト :MDS ChemStation Build 75(アジレントテクノロジーズ社製:Agilent Technologies)
・質量分析計 :Agilent 5973inert(アジレントテクノロジーズ社製:Agilent Technologies)
・スキャン質量 :m/z29.0〜350.0
・イオン化方式 :EI(70eV)
【0052】
【表1】

【0053】
表1より、実施例1で得られたレトルト白がゆは、参考例の手作りの白がゆと比べて米由来の好ましい揮発性成分である硫化水素の量が多く、好ましくない揮発性成分であるヘキサナールの量が少なかった。また、硫化水素のピーク面積(定量イオンm/z34)に対するヘキサナールのピーク面積(定量イオンm/z56)の比も参考例の手作りの白がゆと比べて低くく、その値は、本発明で規定する100以下、好ましい範囲である60以下を満たしていた。
【0054】
一方、比較例1及び2で得られたレトルト白がゆは、参考例の手作りの白がゆと比べて米由来の好ましい揮発性成分である硫化水素の量が明らかに少なく、好ましくない揮発性成分であるヘキサナールの量が明らかに多かった。また、硫化水素のピーク面積(定量イオンm/z34)に対するヘキサナールのピーク面積(定量イオンm/z56)の比も参考例の手作りの白がゆに比べて高く、その値は、本発明で規定する値より明らかに高い値であった。
【0055】
したがって、本発明である実施例1のレトルト白がゆは、官能試験による結果及び固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法(SPME−GC−MS法)による結果においても、レトルト処理による過度の加熱処理を施しているにも拘らず、鍋等で炊飯した手作りの白がゆとほぼ同等あるいはそれ以上の米由来の香味に優れたレトルト白がゆであることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レトルト白がゆの揮発性成分を固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法(SPME−GC−MS法)で分析したとき、該レトルト白がゆの揮発性成分である硫化水素のピーク面積(定量イオンm/z34)に対するヘキサナールのピーク面積(定量イオンm/z56)の比が100以下であることを特徴とするレトルト白がゆ。
【請求項2】
レトルト白がゆの揮発性成分を固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法(SPME−GC−MS法)で分析したとき、該レトルト白がゆの揮発性成分である硫化水素のピーク面積(定量イオンm/z34)に対するヘキサナールのピーク面積(定量イオンm/z56)の比が60以下であることを特徴とするレトルト白がゆ。
【請求項3】
米と清水を耐熱性容器に充填密封し、レトルト処理を施すレトルト白がゆの製造方法において、前記米として無洗米、及び前記清水として60℃以上の窒素含気水をそれぞれ用いて、13〜20%の水分とした無洗米と前記60℃以上の窒素含気水を耐熱性容器に充填し、ヘッドスペースの大気を蒸気置換した後、密封することを特徴とするレトルト白がゆの製造方法。
【請求項4】
前記60℃以上の窒素含気水の酸素濃度が0.2〜2.0mg/Lである請求項3記載のレトルト白がゆの製造方法。
【請求項5】
前記蒸気置換がヘッドスペースの大気を実質的に蒸気置換する請求項3又は4記載のレトルト白がゆの製造方法。

【公開番号】特開2006−180869(P2006−180869A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−262227(P2005−262227)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】