説明

レトルト食品及びその製造方法

【課題】本発明は低コストで香味立ちのよいレトルト食品及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】とろみ付けの素材として、油脂を使わずに焙焼した焙焼小麦粉を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低コストで香味立ちのよいレトルト食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レトルト食品は常温で長期保存を可能とするため、食品を気密性のある容器に密封した後、
レトルト装置により100℃を超える高温で所定時間加熱されて製造される。このような
高温殺菌をすることにより、常温流通下で増殖する微生物が殺滅され、常温で長期間の保
存に耐えうるものとなるが、一方で高温加熱されたために食品特有の香味が損なわれると
いう問題を生じる。特に香辛料の香りはデリケートなものであり、高温処理によって香味
が損なわれ易い。また、小麦原料を用いてとろみをつける場合、小麦粉の粉臭みを解消す
るため、予め小麦粉を小麦粉とおおよそ同量の油脂とともに加熱して配合するのが一般的
であるが、油脂を配合した場合、喫食時に各々の原料、特に香辛料の香味を弱く感じる傾向
がある。
【0003】
従来、レトルト食品の加熱調理過程の最後に香辛料を添加する方法や、香辛料を粗引き若
しくは粉砕せずに配合するといった方法が香辛料の香味立ちを良くする加工手段として有
効とされているが、加熱工程の最後に香辛料を添加した場合は香辛料の生っぽさが残った
り、香辛料の香味が食品と十分になじまないという問題がある。香辛料を粗引き若しくは
粉砕せずに配合した場合は食感がざらつくという問題がある。
【0004】
また、香辛料の香味立ちを良くする為に香辛料の添加量を増やしたり、香辛料の溶媒抽出
物を添加するなどの方法も一般的にとられる手段であるが、香辛料や香辛料抽出物は高価
なため原料のコストが高くなるという問題が生じる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来のこのような問題点の解決を目的として創出されたものであり、小麦粉に
より十分なとろみが付与されながら、香辛料等の風味原料の香味立ちの良いレトルト食品
を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
香辛料の添加量、抽出法、粉砕法といった、香辛料自身への工夫だけでは限界があると考えた本願発明者は、一見香辛料の香り立ちへの影響は小さいと考えられる原材料の「小麦粉」に着目し、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、レトルトカレーその他のレトルト食品のとろみ付けの素材として用いられる小麦粉を、油脂を使わずに焙焼した焙焼小麦粉におきかえることにより上記課題を解決できることを見出した。
【0007】
このような効果は、油脂の含有量を一定量以下に抑えることにより香味の発現が改善され
るとの知見に基づくものであり、即ち、本発明は、小麦粉及び香辛料を含み、これらが水
に溶解又は分散した液状物又はペースト状物を含むレトルト食品であって、前記液状物又
はペースト状物が500〜10,000Pa・sの粘度(B型粘度計、60℃)を有し、かつ油脂
を使用せずに焙焼した小麦粉を0.5〜5.0重量%の割合で含有することを特徴とする
レトルト食品を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、小麦粉により十分なとろみが付与されながら、香辛料その他の風味原料
の香味の発現が損なわれないレトルト食品を提供することができる。
【0009】
より詳細には、本発明によれば、十分なとろみがありながら、高温のレトルト処理による
香味の損失や油脂による香味発現の減少が抑えられた長期保存可能なレトルト食品を提供
することができる。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は特に言及しない限りその複数形の概念を含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は特に言及しない限り当該分野で通常使用される意味で用いられることが理解されるべきである。
【0011】
<レトルト食品>
本明細書において、「レトルト食品」とは、気密性の容器に食品を密封し、加圧加熱殺菌されたものをいう。気密性容器としては、当然ながら耐熱性を有する、缶・びん等の剛性容器、レトルトパウチのような柔軟性容器、合成樹脂製トレーのような半剛性容器等が挙げられる。加圧加熱殺菌装置としては、レトルト装置が一般的に用いられ、通常100℃〜130℃の高温で殺菌することにより常温流通時に増殖し得る微生物が殺滅され菌的安全性を保つことができる。
【0012】
<液状物を含む食品>
液状物を含む食品としては、例えばカレー、シチュー等の煮込み料理、ハッシュドビーフ、各種スープ、各種ソース等が挙げられるが、これらに限定されない。液状物には、小麦粉、ブイヨン・野菜や果実のペースト・乳製品・調味料・香辛料等の風味原料が含まれる。
【0013】
小麦粉は、小麦の種子をひいて粉状にしたもので、たんぱく質の含有量によって薄力粉、中力粉、強力粉等に分類されるが、これらに限定されない。液状物に適度なとろみを付与するためには、小麦粉を0.5〜5.0重量%含むことが好ましく、より好ましくは1.0〜4.5重量%、より好ましくは1.5〜4.0重量%である。
また、とろみを補強するために、澱粉、小麦以外の穀粉、増粘多糖類等を併用してもよい。
【0014】
一般に小麦粉を用いる場合は、小麦粉の粉臭みを解消するため予め油脂と共に焙焼し小麦粉ルウを調製した後、風味原料を加えて液状物とする。単に小麦粉の粉臭みを解消するという目的のみにとどまるのであれば油脂とともに焙焼することが一般的であり、小麦粉のみを焙焼したものをルウの原材料として用いられることは従来なかったのである。しかし本発明では小麦粉を油脂を使わずに焙焼して使用することが好ましい。即ち、油脂を使わずに焙焼した焙焼小麦粉を使い、液状物を含む食品に対して油脂が1.0重量%以下になるようにすることが重要である。従来は香辛料やその他の風味原料の香味は加熱により損なわれていたが、焙焼小麦粉はそのような、従来損なわれていた香味を引き立て十分発現させることができることを確認した。
【0015】
焙焼小麦粉の焙焼条件は、使用する食品によって焙焼温度や時間を適宜調整すればよい。焙煎機は粉体を加熱できるものであればよく、一般的に撹拌装置のついた直火式、蒸気ジャケット式、電磁加熱式等の焙煎釜もしくはロースターが用いられる。時間は焙焼方法や小麦粉の量によって異なるが、小麦粉の粉臭みや生臭みを低減するという目的を達成するには焙焼温度は80℃以上が好ましく、さらに好ましくは100℃以上である。80℃より低くなると粉臭みは取れない。温度の上限は特にないものの、焦げ臭を発生する可能性があるので100−160℃程度が望ましい。また粉臭みを取るという目的からは焙焼後の小麦粉の水分が10%以下になっていることが好ましい。水分の下限はないものの、やはり焦げ臭を発する可能性があるので2%以上であることが望ましい。予め小麦粉を焙焼することによって、小麦粉の粉臭みや生臭みを低減でき、食品に好ましい香味を付与することができる。もちろん市販の焙焼小麦粉を使用しても問題はない。
【0016】
香辛料としては、単品の香辛料やそれらを混合した複合香辛料を用いることができる。例えば、単品の香辛料としてはターメリック、カルダモン、フェンネル、シナモン、フェヌグリーク、クミン、コリアンダー、クローブ、アニス、ナツメグ、メース、スターアニス、胡椒、唐辛子、ディル、キャラウェイ、タイム、セージ、ローレル、マジョラム、タラゴン、セロリシード、パセリ、花椒、バジル、セボリー、パプリカ、ジンジャー、陳皮、オニオン、ガーリック等が挙げられ、複合香辛料としてはカレー粉、ガラムマサラ、キャトルエピス、五香粉等が挙げられる。
【0017】
本製法では、小麦粉を焙焼するために油脂を使用しないため、香辛料の香味を引き立てるという目的のほか、前記液状物又はペースト状物のカロリーを従来よりも低く抑えるという効果も挙げることができる。従って、レトルト食品に使用する具材としてキノコ、海草、こんにゃく等のカロリ−の低い原料を選択することにより、従来よりも低カロリーのレトルト食品を提供できるという利点もある。例えば、一般的なレトルトカレーが200〜300kcal/食前後であるのに対して、本製法で作った液状物又はペースト状物を含むレトルトカレーの場合、100kcal/食未満に抑えることができる。
【0018】
更に本製法によると、液状物又はペースト状物を製造する際、小麦粉を油脂で焙焼する工程を省くことができるため、製造時間を大幅に削減できるという利点もある。
【0019】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されな
い。
【0020】
(1)カレーソースの調製
<実施例1、比較例1>
ニーダーに表1に記載する原料を加え95℃まで加熱撹拌し、水で重量合わせをした。
なお実施例1に使用した焙焼小麦粉は、市販の水分14%の小麦粉を120℃で水分4%
になるまで焙焼した小麦粉である。
<比較例2、比較例3>
ニーダーに表1に記載するラードと小麦粉を加え120℃まで加熱撹拌後、その他原料
を加え95℃まで加熱撹拌し、水で重量合わせをした。

【0021】
<表1>

【0022】
(2)レトルトカレーの調製
上記(1)で調製したカレーソース170gとボイル処理済みのダイスカット牛肉20g、
ブランチング処理済みのマッシュルーム20gを夫々レトルトパウチに充填密封し、レト
ルト殺菌機で121℃、40分間殺菌処理した後、風味を官能評価した。
【0023】
(3)評価結果
<表2>


<風味評点>
1点:かなり悪い
2点:やや悪い
3点:どちらともいえない
4点:やや良い
5点:かなり良い
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明により、十分なとろみがありながら、高温のレトルト処理による香味の損失や油脂
による香味発現の減少が抑えられた長期保存可能なレトルト食品を提供することができる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉及び香辛料を含み、これらが水に溶解又は分散した液状物又はペースト状物を含
むレトルト食品であって、前記液状物又はペースト状物が500〜10,000Pa・sの粘
度(B型粘度計、60℃)を有し、かつ油脂を使用せずに焙焼した小麦粉を0.5〜5.0重
量%の割合で含有することを特徴とするレトルト食品。
【請求項2】
前記液状物又はペースト状物が油脂を1.0重量%以下の割合で含有する請求項1に記載のレトルト食品。
【請求項3】
前記液状物又はペースト状物がカレーソースである請求項1又は2に記載のレトルト食品。


【公開番号】特開2007−6707(P2007−6707A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−187560(P2005−187560)
【出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】