説明

レニウムタングステンリボンかしめ部品

【課題】レニウムタングステンリボンの少なくとも一方の端部に溶接によらず、かしめ固定により端子を取り付けたレニウムタングステンリボンかしめ部品において、レニウムタングステンリボンと端子との密着性を向上させ、端子からのレニウムタングステンリボンの脱落を抑制すると共に、かしめ部分におけるレニウムタングステンリボンの断線も抑制すること。
【解決手段】レニウムタングステンリボンの少なくとも一方の端部に溶接によらず、かしめ固定により端子が取り付けられたレニウムタングステンリボンかしめ部品であって、前記レニウムタングステンリボンの光学式表面粗さ測定による算術平均表面粗さRaが0.10μm以上0.80μm以下であるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばコロナ放電用チャージ導体、静電セプタムのセプタム導体およびこれらに類似する部品として用いられるものであって、レニウムタングステンリボンの少なくとも一方の端部に溶接によらず、かしめ固定により端子が取り付けられたレニウムタングステンリボンかしめ部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、コロナ放電用チャージワイヤとして、タングステンにレニウムを添加したレニウムタングステン線が用いられている。また、加速器における遅いビームの取り出しに用いられる静電セプタムのセプタムワイヤとして、レニウムタングステン線が用いられている。
【0003】
例えばコロナ放電用チャージワイヤについては、その線径を60〜120μm程度と細くすることでコロナ放電を起こしやすくしている。この場合、金や白金等でメッキあるいはクラッドの表面処理を行って、異常放電による断線等を防いで長寿命化を図ることが行われている。
【0004】
しかし、このようなレニウムタングステン線については、極微細化に伴う強度低下が著しく、強度および耐久性が十分でないことがある。レニウムタングステン線の製造をより低温で行ったり、製造途中でアニールを施さずに加工硬化を行ったりするなど、製造条件の改良によってある程度強度を向上させることも可能となっているが、伸線中にクラックや断線等の発生があり、必ずしも満足できるものは得られていない。
【0005】
このような極微細化に伴う強度低下を抑制するものとして、例えばレニウムを15〜40重量%含み、残部がタングステンとされ、断面形状における長径Xと短径Yとの比(X/Y)が1.5〜3.5、引張強度が3000N/mm以上とされたレニウムタングステン線が知られている。このようなレニウムタングステン線によれば、断面形状が扁平形状であるために線材の断面積の減少が抑制され、さらに引張強度が特定の値以上であるために十分な機械的強度が維持され、線材の極微細化の要求に応えることが可能となっている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−75059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、コロナ放電用チャージワイヤにおいては、製品の小型化からより線径の細いレニウムタングステン線の使用が検討されており、またレニウムタングステン線の代わりにレニウムタングステンリボンを使用することも検討されている。また、静電セプタムに用いられるセプタムワイヤにおいても、加速器を周回するビームから遅いビームを取り出す際のビームとセプタムワイヤとのヒット回数を減らしてビーム損失を低減させる観点から、より線径の細いレニウムタングステン線の使用が検討されており、またレニウムタングステン線の代わりにレニウムタングステンリボンを使用することが検討されている。
【0007】
ところで、このようなコロナ放電用チャージワイヤ等においては、例えば溶接によってその両端部に端子が取り付けられている。しかし、溶接による端子の取り付けでは、レニウムタングステン線等が溶融、再結晶化するために、特性にバラツキが生じることがある。このため、例えば端子として環状部を有するものを用い、この環状部にレニウムタングステン線等の端部を挿入した後、この環状部を押し潰して端子を取り付ける、いわゆるかしめ固定による端子の取り付けが検討されている。
【0008】
しかし、このようなかしめ固定による端子の取り付けにおいては、上記したようなより線径の細いレニウムタングステン線または厚さの薄いレニウムタングステンリボンを用いた場合、これらレニウムタングステン線またはレニウムタングステンリボンと端子との密着性が低下し、端子からレニウムタングステン線またはレニウムタングステンリボンが脱落しやすいという問題がある。
【0009】
すなわち、レニウムタングステン線については、線径が小さくなるとその2乗に反比例して断面積が低下し、端子との密着性が大幅に低下する。また、かしめ固定については、レニウムタングステン線またはレニウムタングステンリボンをその線径方向または厚さ方向から端子で挟み込むようにして固定しているため、線径または厚さが大きい場合にはその弾力によって容易に固定できるが、線径または厚さが小さくなると弾力が小さくなることから固定しにくくなる。
【0010】
このようなかしめ固定における脱落の問題については、レニウムタングステン線あるいはレニウムタングステンリボンに端子を取り付ける際のかしめ強度を上げることで解決することもできるが、この場合にはレニウムタングステン線またはレニウムタングステンリボンがかしめ部分で断線しやすくなるという問題がある。
【0011】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、溶接によらず、かしめ固定によりレニウムタングステンリボンに端子を取り付けたレニウムタングステンリボンかしめ部品において、レニウムタングステンリボンと端子との密着性に優れ、端子からのレニウムタングステンリボンの脱落が抑制されると共に、かしめ部分におけるレニウムタングステンリボンの断線も抑制されたレニウムタングステンリボンかしめ部品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のレニウムタングステンリボンかしめ部品は、レニウムタングステンリボンの少なくとも一方の端部に溶接によらず、かしめ固定によって端子が取り付けられたレニウムタングステンリボンかしめ部品であって、前記レニウムタングステンリボンの光学式表面粗さ測定による算術平均表面粗さRaが0.10μm以上0.80μm以下であることを特徴としている。
【0013】
前記レニウムタングステンリボンは、幅Wと、この幅方向の中心部分における厚さである中心部厚さTcのアスペクト比(W/Tc)が1.5以上であることが好ましい。また、前記幅Wは300μm以上3mm以下かつ前記中心部厚さTcは10μm以上200μm以下であることが好ましい。さらに、前記レニウムタングステンリボンは、引張り強さが1200N/mm以上、かつ伸び率が1%以上であることが好ましい。
【0014】
また、前記レニウムタングステンリボンは、幅方向の端部における厚さであるエッジ部厚さTeと、前記中心部厚さTcの厚さの比(Te/Tc)が0.2以上0.9以下であることが好ましい。さらに、前記レニウムタングステンリボンは、レニウムを1重量%以上44重量%以下含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、レニウムタングステンリボンの少なくとも一方の端部に溶接によらず、かしめ固定により端子を取り付けたレニウムタングステンリボンかしめ部品において、レニウムタングステンリボンの光学式表面粗さ測定による算術平均表面粗さRaを0.10μm以上0.80μm以下とすることで、レニウムタングステンリボンと端子との密着性を向上させ、端子からのレニウムタングステンリボンの脱落を抑制することができる。また、端子からのレニウムタングステンリボンの脱落が抑制されることから、レニウムタングステンリボンに端子を取り付ける際のかしめ強度を強くする必要もなく、これによりかしめ部分におけるレニウムタングステンリボンの断線も抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
図1は、本発明のレニウムタングステンリボンかしめ部品1(以下、単にかしめ部品と呼ぶ)の一例を示す側面図であり、図2は図1に示すかしめ部品1を上面側から見た上面図である。
【0017】
図1に示されるように、かしめ部品1は、例えばレニウムタングステンリボン2と、このレニウムタングステンリボン2の両端に溶接によらず、かしめ固定によって取り付けられた一対の金属材料からなる端子(かしめ金具)3とから構成されている。端子3は、例えばレニウムタングステンリボン2が取り付けられる側に環状部3aを有するものであって、この環状部3aにレニウムタングステンリボン2を挿入した後、環状部3aを押し潰し、レニウムタングステンリボン2を環状部3aで挟み込むようにすることで取り付けられている(かしめ固定)。また、端子3には、例えば機器への装着に用いられる孔部3bが設けられている。なお、図1、2は、端子3をかしめ固定した後の状態を示したものであり、環状部3aは押し潰された状態を示している。また、図1におけるTcはレニウムタングステンリボン2の厚さを示し、特にレニウムタングステンリボン2の幅方向の中心部分における厚さ(中心部厚さ)を示し、図2におけるWはレニウムタングステンリボン2の幅を示している。
【0018】
また、図3、4は、本発明のかしめ部品1の他の例を示したものである。図3は、かしめ部品1を示す側面図であり、図4は図3に示すかしめ部品1を上面から見た上面図である。
【0019】
このかしめ部品1は、複数のレニウムタングステンリボン2をその両端部において端子3によってかしめ固定したものである。複数のレニウムタングステンリボン2は、それらの長手方向の両端部に配置されたスペーサ4によって等間隔となるように平行に配置されている。端子3は、両端部におけるレニウムタングステンリボン2とスペーサ4との積層構造部の周囲を覆うようにして固定されている。端子3は、例えば金属材料からなる板状部材であって、レニウムタングステンリボン2とスペーサ4との積層構造部の周囲に変形させながら締め付けるように巻回することで固定されている(かしめ固定)。なお、図1、2と同様、図3におけるTcはレニウムタングステンリボン2の厚さを示し、特にレニウムタングステンリボン2の幅方向の中心部分における厚さ(中心部厚さ)を示し、図4におけるWはレニウムタングステンリボン2の幅を示している。
【0020】
本発明では、このようにレニウムタングステンリボン2の少なくとも一方の端部に溶接によらず、かしめ固定により端子3を取り付けたかしめ部品1において、レニウムタングステンリボン2として光学式表面粗さ測定による算術平均表面粗さRaが0.10μm以上0.80μm以下であるものを用いたことを特徴としている。
【0021】
ここで、本発明における光学式表面粗さ測定による算術平均表面粗さRaは、例えばレーザー顕微鏡を用いて測定面であるレニウムタングステンリボン2の100μm×100μmの領域を走査して得られるものである。なお、表面粗さ測定には光学式と触針式とがあるが、光学式は触針式よりも精度良く測定できることから、本発明では光学式による測定を採用している。また、JIS規格では輪郭曲線に基づく線粗さを表面粗さとしているが、本発明では上記したように100μm×100μmの領域の面粗さとしていることも異なっている。線粗さでは測定する場所により数値が大きく変動することがあるが、面粗さでは領域全体を評価でき、正確に定量化することができる。
【0022】
なお、本発明における算術平均表面粗さRaは、具体的には株式会社キーエンス製の超深度形状測定顕微鏡VK−8500および付属の画像計測・解析ソフトVK−H1Wを用い、該ソフトにおいて、「計測」、「表面粗さ」の順に選択し、100μm×100μmの領域を指定して測定されるものである。また、レニウムタングステンリボン2の光学式表面粗さ測定による算術平均表面粗さRaは全面について0.10μm以上0.80μm以下となっていることが好ましいが、通常、レニウムタングステンリボン2の両主面の中から選ばれる任意の部分における上記大きさの領域を測定したときに0.10μm以上0.80μm以下となっていればよい。
【0023】
レニウムタングステンリボン2の算術平均表面粗さRaが0.10μm未満であると、レニウムタングステンリボン2と端子3との密着性が十分でなく、レニウムタングステンリボン2に荷重が加えられたときに、端子3からレニウムタングステンリボン2が容易に脱落してしまうおそれがある。なお、このような場合、かしめ強度を上げることで端子3からのレニウムタングステンリボン2の脱落を抑制することが考えられるが、かしめ部分でレニウムタングステンリボン2が断線しやすくなるため好ましくない。一方、算術平均表面粗さRaが0.80を超えると、表面の平滑性が少なくなり、コロナ放電用チャージ導体等として用いた場合に特性ムラが発生するおそれがある。
【0024】
本発明では、レニウムタングステンリボン2の算術平均表面粗さRaを0.10μm以上0.80μm以下とすることで、レニウムタングステンリボン2と端子3との密着性を向上させ、端子3からのレニウムタングステンリボン2の脱落を抑制しつつ、特性ムラの発生も抑制することができる。また、端子3からのレニウムタングステンリボン2の脱落が抑制されることから、レニウムタングステンリボン2への端子3の取り付けの際にかしめ強度を強くする必要もなく、これによりレニウムタングステンリボン2のかしめ部分における断線も抑制することができる。なお、レニウムタングステンリボン2の算術平均表面粗さRaは、特性ムラの発生を抑制する観点からは小さい方が好ましく、例えば0.40μm以下が好ましく、より好ましくは0.20μm以下である。
【0025】
表1は、実際にレニウムタングステンリボン2の算術平均表面粗さRaを変化させてかしめ部品1を製造し、端子抜けおよび特性ムラを調べた結果を示したものである。なお、かしめ部品1の製造、端子抜けおよび特性ムラの評価は以下のようにして行った。
【0026】
まず、レニウムタングステンリボン2は、レニウムを26重量%含み、残部がタングステンからなるものであって、厚さTcが30μm、幅Wが1mmのものとした。また、その表面の算術平均粗さRaは、エッチング量を変化させて電解エッチングを行うことによって調整した。端子3は、図5に示すような環状部3aを有するものを用いた。端子3は、SUS304からなるものであり、その環状部3aは外径3.0mm、内径1.5mm、長さ10mmであり、その内径側表面の算術平均表面粗さRaはこの種のものに一般的な1.6μmとした。
【0027】
その後、図5に示すように端子3の環状部3a内にレニウムタングステンリボン2を5mm挿入し、環状部3aの厚さ(押し潰し方向における外径)が1.4mmとなるように上下から押し潰してレニウムタングステンリボン2をかしめ固定することでかしめ部品1とした。
【0028】
端子抜けの測定は、このようなかしめ部品1を引っ張り試験機に装着し、クロスヘッドを移動させることによって4kgの荷重をかけ、端子3からのレニウムタングステンリボン2のすべり抜けの有無を確認した。また、特性ムラについては、かしめ部品1を用いて実際にエネルギー効率を測定し、エネルギー効率が理論値の90%以上となったものを特性ムラが無いものとし、理論値の90%未満となったものを特性ムラが有るものとした。なお、レニウムタングステンリボン2の算術平均表面粗さRaが0.05μmのかしめ部品1については、所定の荷重を加える前に端子抜けが発生したため、特性ムラの評価は行わなかった。
【0029】
【表1】

【0030】
表1から明らかなように、レニウムタングステンリボン2の算術平均表面粗さRaが0.05μmの場合、2.5kgの荷重をかけた時点で端子3からレニウムタングステンリボン2がすべり抜けてしまうことがわかる。これに対して、レニウムタングステンリボン2の算術平均表面粗さRaが0.10μm以上の場合、4kgの荷重をかけてもレニウムタングステンリボン2から端子3がすべり抜けないことがわかる。
【0031】
算術平均表面粗さRaは、端子3からのレニウムタングステンリボン2のすべり抜けを抑制する観点からは0.10μm以上であれば特に制限されないが、1.00μm以上となると特性ムラが発生することがわかる。このため、端子3からのレニウムタングステンリボン2のすべり抜けを抑制しつつ、特性ムラの発生も抑制する観点から、算術平均表面粗さRaは0.10μm以上0.80μm以下であることが好ましいことがわかる。
【0032】
このようなレニウムタングステンリボン2については、断面積が同一であれば、幅Wと厚さTcのアスペクト比(W/Tc)が大きいものの方が端子3との接触長さ(外周長)が長くなることから、端子3からのレニウムタングステンリボン2の脱落を抑制できるために好ましい。
【0033】
レニウムタングステンリボン2のアスペクト比はこのような観点から1.5以上とすることが好ましいが、さらに接触長さを増やして端子3の脱落を抑制する観点からは15以上が好ましく、さらには好ましくは30以上である。
【0034】
一方、レニウムタングステンリボン2のアスペクト比が過度に大きくなると、一般にかしめ部品1の大型化に繋がり、結果としてこれを装着する機器の大型化にも繋がることから、用途によって異なるものの通常は500以下のものが用いられる。
【0035】
表2は、一例として半径0.1mmのレニウムタングステン線を基準とし、このレニウムタングステン線と断面積が同一となるようにレニウムタングステンリボン2のアスペクト比を変化させたときの接触長さ(外周長)を示したものである。なお、接触長さは、レニウムタングステン線またはレニウムタングステンリボン2の外周の長さであり、端子3との密着性の向上に寄与するものである。また、接触長さの欄における相対比は、レニウムタングステン線の接触長さを基準である1.00として、レニウムタングステンリボン2の接触長さを相対的に示したものである。
【0036】
【表2】

【0037】
表2から明らかなように、断面積が同一であれば、断面形状が円形状であるレニウムタングステン線に比べ、断面形状が矩形状であるレニウムタングステンリボン2の方が接触長さが長くなることがわかる。また、レニウムタングステンリボン2のアスペクト比(W/Tc)を1.5以上とすることで接触長さを15%以上増やすことができ、これによりレニウムタングステンリボン2からの端子3の脱落を抑制しやすくなることがわかる。
【0038】
レニウムタングステンリボン2の厚さTcは、製品の小型化や、加速器において遅いビーム取り出しを行うために用いられる静電セプタムにおけるビーム損失の低減等の観点から、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下である。なお、厚さTcが10μm未満のレニウムタングステンリボン2は実際には製造が困難であるため、本発明におけるレニウムタングステンリボン2としては通常厚さTcが10μm以上のものである。
【0039】
また、幅Wは、端子3との接触長さを確保し、端子3からの脱落を抑制する観点や、取り扱い性の観点から、好ましくは15μm以上であり、より好ましくは150μm以上であり、さらに好ましくは300μm以上である。幅Wは、用途によっては10mm程度とされるが、一般には3mm以下である。
【0040】
本発明では、例えば厚さTcが200μm以下といった薄いレニウムタングステンリボン2を用いた場合であっても、その算術平均表面粗さRaを特定の範囲内とし、好ましくはアスペクト比(W/Tc)を特定の範囲内とすることで、レニウムタングステンリボン2と端子3との密着性を高め、端子3からのレニウムタングステンリボン2の脱落を抑制できる。また、本発明では、レニウムタングステンリボン2と端子3との密着性に優れることから、かしめ強度を強くする必要もなく、これにより厚さTcが200μmといった薄いレニウムタングステンリボン2を用いた場合であっても、かしめ部分における断線を抑制できる。
【0041】
図6〜8は、レニウムタングステンリボン2の断面形状を模式的に示したものである。レニウムタングステンリボン2としては、図6に示されるように幅方向に一定の厚さを有するもの、図7に示されるように中心部分が最も厚く、幅方向の端部に向かって徐々に薄くなっているもの、さらには図8に示されるように幅方向の端部の厚さがほぼ0となるものが挙げられる。
【0042】
ここで、Tcは、既に説明したように幅方向の中心部分における中心部厚さである。また、Teは、幅方向の端部における厚さ(エッジ部厚さ)である。なお、図7に示されるように幅方向の端部が丸みがかっているものについては、エッジ部厚さTeを正確に測定することが難しいことから、このような場合には上下のそれぞれの表面についてその表面に沿って幅方向の端部に延びる直線(図中、横方向に延びる2本の波線)を引き、これらが幅方向の端部に接するように垂直に引かれた直線と交わる2つの交点の交点間の距離をエッジ部厚さTeとする。
【0043】
本発明では図6〜8に示されるいずれのものも用いることができるが、好ましくはエッジ部厚さTeと中心部厚さTcの厚さの比(Te/Tc)が0.2以上0.9以下となるもの、例えば図7に示されるようなものが好ましい。図6に示されるような厚さの比がほぼ1となるもの、すなわち厚さがほぼ一定のものは、幅方向の端部に略直角状の角部2aが形成されており、この角部2aから異常放電が発生しやすいため好ましくない。また、図8に示されるように厚さの比が0.2未満となるもの、すなわち幅方向の端部に鋭角部2bがあるものについても、この鋭角部2bから異常放電が発生しやすいため好ましくない。このため、略直角状の角部2aや鋭角部2bが形成されにくく、異常放電が発生しにくい、厚さの比0.2以上0.9以下のものが好ましい。
【0044】
表3は、レニウムタングステンリボン2の厚さの比(Te/Tc)と異常放電の有無との関係を示したものである。なお、レニウムタングステンリボン2の厚さの比は、中心部厚さTcを30μmと一定にして、エッジ部厚さTeを変えることによって調整した。エッジ部厚さTeは、電解研磨を行うことにより調整し、具体的には電解研磨を行う際の加工材の送り速度、通電量を調整することで調整した。また、レニウムタングステンリボン2の幅Wは1mmとした。
【0045】
【表3】

【0046】
表3に示されるように、厚さの比が0.9を超える場合、すなわち図6に示されるように幅方向の端部に略直角状の角部2aが形成されているものの場合、この角部2aを基点として異常放電が発生しやすいことが認められた。そして、エッジ部厚さTeを薄くし、厚さの比を小さくしていくと異常放電の発生は抑えられるものの、厚さの比が0.2未満となると、例えば図8に示されるように鋭い角部2bが形成されることから、この鋭い角部2bを基点として異常放電が発生しやすいことが認められた。このことから、レニウムタングステンリボン2の厚さの比は0.2以上0.9以下であることが好ましいことがわかる。
【0047】
また、本発明に用いるレニウムタングステンリボン2は、引張り強さが1200N/mm以上であることが好ましい。さらに、レニウムタングステンリボン2は、伸び率が1%以上であることが好ましい。レニウムタングステンリボン2の引張り強さが1200N/mm未満であると、かしめ部品1を製造するための端子3の取り付けの際に機械的強度の不足から断線しやすく、またかしめ部品1を機器に装着する際にも機械的強度の不足から断線しやすいため好ましくない。
【0048】
一方、レニウムタングステンリボン2の伸び率が1%未満である場合についても、かしめ部品1を製造するための端子3の取り付けの際に伸び不足から容易に断線しやすく、またかしめ部品1を機器に装着する際にも伸び不足から容易に断線しやすいため好ましくない。レニウムタングステンリボン2の伸び率が過度に大きくなると、他の部品との不必要な接触を引き起こし、また例えば静電セプタムにおいてはビームとのヒット回数が多くなりビーム損失が増えることから、レニウムタングステンリボン2の伸び率は5%以下であることが好ましい。
【0049】
なお、引張強度は次のようにして測定されるものである。すなわち、評点間距離を50mmとして引張速度10mm/分で引張り荷重を加えたときの最大荷重を断面積で割ったものである。断面積は、レニウムタングステンリボン2を樹脂に埋め込み断面が露出するように研磨し、その断面を電子顕微鏡で1000倍に拡大し、画像解析で面積を出す。また、伸び率は、最大荷重を加えたときの長さから荷重を加える前の長さを引いたものを荷重を加える前の長さで割ったものである。
【0050】
本発明に用いられるレニウムタングステンリボン2は、少なくともレニウムを含み、残部がタングステンからなるものであればよいが、好ましくはレニウムを1重量%以上44重量%以下含むものである。レニウムはタングステンの結晶粒界を強める効果があるが、その含有量が1重量%未満と少ないと上記効果を得にくいため好ましくない。また、レニウムの含有量が少ないと、製造時またはその後の使用時に高温に晒された場合に、引張り強さ等の機械的強度の低下が大きくなるため好ましくない。一方、図9の状態図に示されるように、レニウムの含有量が44重量%を超えるとσ層と呼ばれる非常に硬くて脆い難加工層が析出し、伸線時にクラックが入りやすくなるため好ましくない。レニウムタングステンリボン2におけるレニウム含有量は加工性等の観点から、好ましくは1重量%以上29重量%以下である。
【0051】
図10は、レニウムを3重量%含み、残部がタングステンとされたレニウムタングステン(H30)と、レニウムを含まない一般的なドープタングステン(W30)とを所定の温度で5分間の熱処理を行った後の引張強さを比較したものである。図10に示されるように、レニウムを3重量%含むものは2300℃を超える高温で熱処理を行った後においても1200N/mm以上の引張り強さを維持していることがわかる。これに対して、レニウムを含まないものは、2300℃を超えると引張り強さが1200N/mm未満となってしまうことがわかる。このようにレニウムを含むものは高温で熱処理された後においても引張り強さを維持できることから、例えば静電セプタムのセプタム導体のように、ビームとの衝突により高温となるようなものについて特に好適に用いられる。
【0052】
なお、レニウムタングステンリボン2は、具体的用途に応じ、かつ本発明の趣旨に反しない限りにおいて、第三成分あるいは不可避的に存在する成分を含有していても良い。このようなものとしては、従来よりこの種のものに含有されているものが挙げられ、具体的にはカリウム、アルミニウムおよびシリコンの中から選ばれる少なくとも一種を例えば10ppm以上100ppm程度含有していてもよい。
【0053】
本発明に用いられる端子3としては、例えば図1、2に示されるようなレニウムタングステンリボン2が取り付けられる側に環状部3aを有し、該環状部3aを変形させることでレニウムタングステンリボン2を固定するものや、図3、4に示されるような板状部材であって、レニウムタングステンリボン2の周囲に巻き付けるように環状に変形させて固定するものが挙げられるが、必ずしもこのようなものに限られず、少なくともレニウムタングステンリボン2の端部に自身を変形させることによって固定できるものであればよい。
【0054】
また、端子3は、一般にはSUS304等のステンレス鋼からなるものとされるが、必ずしもこのようなものに限られるものではなく、他の金属材料からなるものであってもよく、例えばコロナ放電用チャージ導体や静電セプタムにおけるセプタム導体の端子として通常用いられているものを特に制限なく用いることができる。
【0055】
本発明のかしめ部品1は、コピー機・ファクシミリ機等の画像形成装置において感光体を帯電させる帯電装置、特にコロナ放電方式を採用した帯電装置におけるコロナ放電用チャージ導体として好適に用いることができる。また、本発明のかしめ部品1は、加速器における遅いビームの取り出しに用いられる静電セプタムのセプタム導体として好適に用いることができる。
【0056】
例えば多くのコピー機やファクシミリ機等は、原稿から読み取った画像データやファクシミリ受信した画像データに基づいて記録紙に画像を形成する画像形成装置として機能する。この画像形成装置では、一様に帯電された感光体の表面に画像データに基づく潜像を形成し、該潜像をトナーで現像して記録紙に転写することにより画像形成が行われる。ここで、感光体を帯電させる手段として、いわゆるコロナ放電方式が多く用いられている。このコロナ放電 方式では、チャージ導体をケーシングで包囲してなる帯電装置が感光体に近接して配置され、チャージ導体に対して高電圧が印加される。この時、チャージ導体近傍の空気が電離してイオンが発生し、該イオンが感光体へ移動することで感光体表面が帯電されるものとなっている。本発明のかしめ部品1は、例えばこのようなコロナ放電方式の帯電装置におけるチャージ 導体として好適に用いることができる。
【0057】
また、例えば加速器においては、遅いビームの取り出しに静電セプタムが用いられている。この静電セプタムにはセプタム導体が配置され、セプタム導体に高電界を起こすことで、ビームを曲げることができる。このような静電セプタムにおけるセプタム導体については、ビーム損失の低減から薄いものが望まれており、また断線等がなく信頼性に優れていることが求められている。本発明のかしめ部品1については、レニウムタングステンリボン2が薄い場合であっても端子3が確実に固定されるため、このようなセプタム導体として好適に用いることができる。
【0058】
次に、本発明のかしめ部品1の製造方法について説明する。まず、レニウムタングステンリボン2の製造方法について説明する。
【0059】
まず、レニウム粉体とタングステン粉体とを、レニウムが1重量%以上44重量%以下となるように混合する(混合工程)。レニウム粉体は、粒径が0.5μm以上5μm以下のものが好ましく、より好ましくは1μm以上5μm以下、さらに好ましくは1μm以上3μm以下のものが好ましい。両粉体の添加方法および混合方法は合目的的な任意のものを採用可能である。本発明では、好ましくは、例えばタングステン粉末にレニウム粉末を1重量%以上44重量%以下となるように添加して、適当な混合装置(例えば、ボールミル)を用いて均一に混合することができる。
【0060】
この混合粉末は、例えば成形圧力1ton/cm以上3ton/cm以下で成形し、縦および横が各15mm以上25mm以下、長さが500mm以上700mm以下の成形体とする(成形工程)。成形体は、取り扱いを容易にするため例えば1300℃以上1400℃以下で仮焼結を行い、その後通電焼結により例えば2800℃以上3100℃以下で本焼結を行い焼結体を得る(焼結工程)。
【0061】
得られた焼結体は、鍛造、圧延等の塑性加工およびアニール等の歪み取り加工を適宜組み合わせて所定の厚さTcとなるまで加工を行う(塑性加工工程)。その後、この所定の厚さTcとされた加工材を所定の幅Wに切断することでレニウムタングステンリボン2とする。この際、切断する幅Wを調整することで、所定のアスペクト比(W/Tc)とすることができる。
【0062】
レニウムタングステンリボン2の算術平均表面粗さRaは、圧延加工時に用いる圧延ロールの表面粗さあるいは電解加工時の電解加工率の調整により、また塑性加工後に研磨、ブラスト処理を行うことにより調整することができる。また、レニウムタングステンリボン2の引張り強さや伸びは、塑性加工時のアニール温度、時間を調整することによって調整することができる。
【0063】
さらに、レニウムタングステンリボン2の断面形状、すなわちエッジ部厚さTeと中心部厚さTcとの厚さの比(Te/Tc)は、電解研磨を行うことにより調整でき、具体的には電解研磨時の加工材の送り速度、通電量、電解液濃度を調整することによって調整することができる。
【0064】
次に、レニウムタングステンリボン2への端子3の取り付けについて説明する。例えば図5に示されるように、端子3の環状部3aに少なくとも所定の算術平均表面粗さRaとされたレニウムタングステンリボン2の一方の端部を挿入する。その後、端子3の環状部3aを適当なかしめ装置を用いて一定の荷重をかけて押し潰す。同様にして、レニウムタングステンリボン2の他方の端部についても、別途用意された端子3の環状部3aに挿入した後、一定の荷重をかけて環状部3aを押し潰す。このようにすることで、図1、2に示されるようなかしめ部品1を得ることができる。
【0065】
また、図3、4に示されるようなかしめ部品1については、同様なレニウムタングステンリボン2を複数用意し、まず複数のレニウムタングステンリボン2を平行に配置すると共に、隣接するレニウムタングステンリボン2どうしの端部間にスペーサ4を配置する。スペーサ4としては、例えば端子3と同様にSUS304等のステンレス鋼からなるものとすることができるが、必ずしもこのようなものに限られるものではない。そして、この積層体が崩れないように治具等で仮固定しつつ、その両端部の周囲に端子3となる例えばSUS304等のステンレス鋼からなる板状部材を変形させながら締め付けるように巻回して固定する。このようにすることで、図3、4に示されるようなかしめ部品1を得ることができる。
【0066】
以上、本発明について説明したが、本発明のかしめ部品1は必ずしも図1、2や図3、4に示されるようにレニウムタングステンリボン2の両端部に端子3が設けられているものに限られず、一方の端部のみに端子3が設けられたものであってもよい。また、端子3の形状についても必ずしも限定されるものではなく、図1、2に示されるような環状部3aを有するものや、図3、4に示されるような板状のものを環状に巻回したようなものの他にも、自身を変形させることによってレニウムタングステンリボン2を有効に固定できるものであればよい。さらに、レニウムタングステンリボン2の本数についても必ずしも限られるものではなく、例えば図3、4に示されるようなものにおいてはレニウムタングステンリボン2の本数を4本以外の複数本としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明のかしめ部品の一例を示す側面図。
【図2】図1に示すかしめ部品の上面図。
【図3】本発明の他のかしめ部品を示す側面図。
【図4】図3に示すかしめ部品の上面図。
【図5】端子の取り付け方法(かしめ固定)の一例を示す模式図。
【図6】レニウムタングステンリボンの断面形状の一例を示す模式図。
【図7】レニウムタングステンリボンの断面形状の他の例を示す模式図。
【図8】レニウムタングステンリボンの断面形状の他の例を示す模式図。
【図9】レニウムタングステン合金の状態図。
【図10】レニウムタングステンリボンの熱処理後の引張強さを示す図。
【符号の説明】
【0068】
1…かしめ部品、2…レニウムタングステンリボン、3…端子、4…スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レニウムタングステンリボンの少なくとも一方の端部に溶接によらず、かしめ固定によって端子が取り付けられたレニウムタングステンリボンかしめ部品であって、
前記レニウムタングステンリボンの光学式表面粗さ測定による算術平均表面粗さRaが0.10μm以上0.80μm以下であることを特徴とするレニウムタングステンリボンかしめ部品。
【請求項2】
前記レニウムタングステンリボンは、幅Wと、この幅方向の中心部分における厚さである中心部厚さTcのアスペクト比(W/Tc)が1.5以上であることを特徴とする請求項1記載のレニウムタングステンリボンかしめ部品。
【請求項3】
前記レニウムタングステンリボンは、前記幅Wが300μm以上3mm以下かつ前記中心部厚さTcが10μm以上200μm以下であることを特徴とする請求項1または2記載のレニウムタングステンリボンかしめ部品。
【請求項4】
前記レニウムタングステンリボンは、引張り強さが1200N/mm以上、かつ伸び率が1%以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のレニウムタングステンリボンかしめ部品。
【請求項5】
前記レニウムタングステンリボンは、幅方向の端部における厚さであるエッジ部厚さTeと、前記中心部厚さTcの厚さの比(Te/Tc)が0.2以上0.9以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のレニウムタングステンリボンかしめ部品。
【請求項6】
前記レニウムタングステンリボンは、レニウムを1重量%以上44重量%以下含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載のレニウムタングステンリボンかしめ部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−4269(P2009−4269A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−165372(P2007−165372)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(303058328)東芝マテリアル株式会社 (252)
【Fターム(参考)】