説明

レベルワウンドコイル、レベルワウンドコイルの梱包体

【課題】LWCの質量が大きい場合、LWCが複数積み重ねられている場合、並びにLWCの巻き層数及び1層あたりの巻き数が多い場合においても、ETS方式によるアンコイルの際に管の折れ、変形及び擦り疵が発生せず、引っ掛かりなく巻き解くことができ、更に、あんこ変色が発生しないレベルワウンドコイル、レベルワウンドコイルの梱包体を提供する。
【解決手段】レベルワウンドコイルを構成する銅又は銅合金管は、その外表面にシリコン油を含む油が塗布された後焼鈍されたものである。高周波グロー放電発光分光分析法により分析したときの前記銅又は銅合金管の表面から20nmまでの表層部におけるSi濃度の最大値が0.3乃至30原子%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアコン等の空調冷凍機の伝熱管、及び建築物用の給湯・給水配管等に使用される銅又は銅合金管等のレベルワウンドコイル、このレベルワウンドコイルの梱包体に関し、特に、ETS(Eye To the Sky)方式(登録商標)により巻き解かれるレベルワウンドコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
銅又は銅合金管(以下、単に銅管というときは、銅合金管も含む)はエアコン等の空調機器用の伝熱管(内面溝付管及び平滑管等)、及び建築用の給湯配管及び排水配管等に使用されている。この銅管は、製造工程において、例えば、コイル状に巻き取られてから焼鈍が行われて所定の材質に調質され、LWC(レベルワウンドコイル:Level Wound Coil)の状態で保管され、また搬送される。
【0003】
図11は、従来のレベルワウンドコイルの巻回方法を示す断面図であり、図12は、このLWCの巻き取り及び巻き解きを行う縦型アンコイラーを示す斜視図であり、図13は、このLWCの巻き取り及び巻き解きを行う横型アンコイラーを示す斜視図である。図12に示す縦型アンコイラー(回転装置)103は回転軸が水平方向に延びており、図13に示す横型アンコイラー(回転装置)104は回転軸が垂直方向に延びている。但し、図11においては、図示の簡略化のために、管101の断面を円で示す。図12及び図13に示すように、取り外し可能な内筒102a及び側板102bで構成されるボビン102を、その軸方向を水平又は垂直にして、回転装置(アンコイラー)103又は104に取り付け、この回転装置103,104により、ボビン102を回転方向(巻き取り)の矢印で示す方向に回転駆動する。これにより、銅管101がボビン102に巻き取られる。
【0004】
この場合、図11に示すように、銅管101をボビン102の内筒102aの外周面に、まず、図示の左端の位置を始端111として、図示の右方向に整列巻きする。この整列巻きとは、銅管101の1ターンと隣接する1ターンとが相互に接触するように、即ち隙間が出ないように密に銅管101を巻回していくことをいう。次いで、右端まで銅管101がきて1層目の巻回が終了した後、今度は、右端から左端に向けて2層目を巻回する。従来、2層目の巻始端となる銅管部分112は1層目の最終巻の銅管部分と側板102bとの間の隙間上に位置し、順次、左方に向けて、1層目のコイルにおける隣接する銅管部分間に形成される凹部に嵌まるようにして2層目の銅管部分を巻回していく。
【0005】
その後、3層目のコイルは2層目のコイルの上に積層する。このように、銅管101をボビン102の内筒102aの軸方向に巻回していき、円筒状に1層のコイルを形成した後、その上に銅管101を巻回して円筒状のコイルを形成する巻き方をトラバース巻きという。従来、トラバース巻きされるコイルの巻き数は、各層で同一であった。このように銅管101を巻回することにより、銅管101の長さに比して体積が小さいコイル110を製作することができ、銅管101の保管及び輸送に必要なスペースの低減が可能となる。このLWC110の質量は1コイル当たり100乃至500kgである。
【0006】
このようにして作製されたLWCに、必要に応じて、最外周に銅バンド等による解き止めの処理を施した後、ボビン102を取り外し、例えばローラーハース型の連続焼鈍炉に装入して、所定の調質が施されるように焼鈍する。
【0007】
このように焼鈍されたLWC110を輸送する際には、例えば、再度ボビン102を装着し、又はLWC110のみの状態で、LWC110をそのコイル軸を垂直にしてパレット上に載置する。この場合に、1コイルのみをパレット上に載置する場合と、コイル間に緩衝材を介装して複数のコイルを積み上げて載置する場合がある。更に、運搬時の衝撃で荷崩れ又は当たり疵が付かないように、外面を段ボール等で覆うと共に、パレットの4隅又はパレット各辺の中央部に固定のための支柱を立て、コイルを支柱に固定した状態でエアコン組立工場等の銅管使用先に輸送する(例えば、特許文献1乃至4参照)。図14(a)はこの輸送時のLWC110の一例を示す図であり、(b)は使用先におけるLWC110の一例を示す図である。輸送時においては、図14(a)に示すように、LWC110は例えばボビン102を取り外されており、巻回状態が崩れないように銅バンド106で固定されていると共に、コイル110間に緩衝材として段ボール製のライナー105が介装されている。
【0008】
このようにして、使用先まで輸送されたLWCの梱包を解き、図12及び図13に示すように、LWC110を回転装置103,104の回転軸に装着する。即ち、このLWC110の梱包を解いた後、図14(b)に示すように、1コイルずつ、LWC110の中心に内筒102aを挿入し、内筒102aに側板102bをねじ等により固定してボビン102を組み立てる。但し、ボビン102を付けた状態で輸送されたときは、組み立て不要である。ボビン102に巻回された状態でLWC110を回転装置103,104に装着する。そして、これらの回転装置103,104の回転軸を回転方向(巻き解き)の矢印にて示す方向に回転駆動し、図11に示すコイル巻回時の銅管部分の終端113を握持して引き出すことにより、コイル110をその外周側から巻き解く。
【0009】
このような従来のLWCにおいては、以下に示すような問題点がある。即ち、輸送及び保管時において、コイルの積層方向中央部付近に巻かれている銅管の外面が変色することがある。即ち、このような変色は、コイルの外観には認められないが、コイルをアンコイル(巻き解き)していくと、変色部分が現れてくる。この変色は酸化膜の形成により発生し、あんこ変色といわれる。銅管にこのような変色が発生していると、銅管をろう付けする際の信頼性が低下する虞があると共に、外観上も好ましくないため、使用することができず、廃棄される。特に、例えば夏場の倉庫等の高温多湿な場所、気温及び/又は湿度が一日を通して著しく変動する環境においては、銅管表層部の変性及び親水化が起こりやすいため、あんこ変色が発生しやすく、歩留の低下及び生産性の低下を招く。
【0010】
また、コイルを回転装置に装着する作業が必要である。この場合、LWCの質量が大きいため、安全性の確保及びコイルの変形防止のために十分な注意を払う必要があり、作業能率が低下する原因となる。
【0011】
更に、図12に示す回転装置103を使用して、コイル110をそのコイル軸を水平にして巻き解く際、銅管101の引抜力が大きいと、コイル110を巻き締める状態となる。この巻き締めにより、側板102bに隣接する銅管部分は側板102bと銅管101との隙間に入り込んでしまい、抜け難くなり、この部分が変形してしまうことがしばしば発生し、歩留り及び生産性を低下させる要因になっている。また、図12に示す回転装置103においては、コイルを水平の回転軸により片持ち張りの状態で支持すると共に、この回転軸を回転駆動して銅管を送り出す必要があり、構造上複雑であり、装置コストが高いものとなる。
【0012】
更にまた、図13に示す回転装置104を使用して、コイル110をそのコイル軸を垂直にしてコイル外面側から巻き解く際において、銅管101に作用する張力によりコイルを巻き締める方向の力が作用する。このため、銅管101が相互に擦れて擦り疵又は変形が発生し、歩留及び生産性を低下させる要因になる。
【0013】
また、図13に示すように、LWC110をそのコイル軸を垂直にしてアンコイルする場合は、LWC110を載置するためのターンテーブル107が必要になる。このため、図13に示す回転装置104も、装置コストが高いという難点がある。
【0014】
以上のように、従来、LWC110のアンコイルには、装置導入のために多大の投資が必要となる。特に、巻き解く管の張力を一定に制御しようとすると、ターンテーブルを含む回転装置において、そのターンテーブルの回転速度を複雑に制御する必要があり、装置コストが極めて高くなる。
【0015】
このような問題を解決するために、ETS(Eye To the Sky)といわれるコイルの巻き解き方法が提案されている。図10はETS方式によるアンコイル方法を示す斜視図である。
【0016】
この方法は、図10に示すように、輸送中にLWC110にボビンが装着されていた場合はそのボビンの内筒及び側板を取り外し、またボビンが装着されていない場合はそのまま、LWC110を台114上に載置する。このとき、LWC110はそのコイル軸を垂直にし、且つ図3に示すようにコイル内面側に存在するコイル巻回時の始端111が上側になるようにして配置される。そして、このコイル巻回時の銅管始端111を引き上げ、台114の上方に設置された湾曲した筒状のガイド115に銅管101を挿入してその進路を変更し、銅管101の使用先に供給する。このように、コイル110が回転することなく、銅管101がコイル110から引き出され、コイル110がその内面側から順次巻き解かれる。また、コイル110から引き出された直後の銅管101は螺旋状にループを形成しているが、ガイド115を通過して引き出されていく間に、徐々にその巻き癖が解消されていく。なお、巻き解きにより、銅管には塑性加工が加わるため、例えば銅管が軟質材である場合には、巻き解き前に比べて0.2%耐力が30〜40N/mm程度上昇する。
【0017】
このように、ETS方式によりアンコイルする場合は、アンコイル前にLWCから内筒及び側板を取り外す手間を省くために、LWCを通常ボビンなしの状態でパレット上に複数個載置して輸送し、使用場所において梱包を解いて、パレットに載置した状態のまま、上段のLWCより順にアンコイルする。
【0018】
即ち、ETS方式においては、側板及び内筒が不要であることから、輸送コストが低減されると共に、梱包及び開梱作業の能率が大幅に向上する。また、アンコイル時には、コイルを回転させる必要がなく、コイル内面側から引出された銅管は螺旋状に上昇して所定の銅管加工場所まで導かれる。このため、アンコイラー(回転装置)又はターンテーブル等の特別な設備が不要となる。また、銅管の使用先においては、LWC受入後、使用場所に運搬して解梱するだけで多段積の状態でも上側のLWCより順にアンコイルできるため、前述の作業能率の問題が大幅に軽減される。
【0019】
また、コイルを内面側から巻き解くので、引き出される銅管に作用している張力は、コイルを開放する方向に作用する。即ち、銅管の張力によりコイルを締め付ける方向に力が作用することがないから、縦型アンコイルにおける管の変形又は横型アンコイルにおける管の擦り疵又は変形が防止され、管の歩留が大幅に向上すると考えられる。
【0020】
しかしながら、上述の従来技術を用いた場合、実際にレベルワウンドコイルをETS方式によりアンコイルすると、周期的に管の折れ、変形、窪み及び擦り疵が発生することがしばしばあり、これが歩留及び生産性の向上の障害となる。即ち、図11に示す従来のLWCの巻回方法において、1層目のコイルの最後の部分が引き上げられた後、2層目のコイルの最下段の銅管は上部に巻回されている銅管とパレットとの間に挟まれる。そして、挟まれた銅管には上部銅管の質量が負荷されるため、管に変形又は窪みが発生する。また、挟まれて引っ掛かった銅管を無理に引き抜くことによって、銅管には過剰な引張力及び摩擦力が負荷され、折れ又は擦り疵が発生する。
【0021】
これらの問題点を解決するために、本願発明者等は、特許文献5、6においてETS方式によりアンコイルしても管の折れ、変形、窪み及び擦り疵が発生しないレベルワウンドコイル、レベルワウンドコイルの梱包体及びレベルワウンドコイルからの管供給方法を提案した。これらの特許文献5、6において、本願発明者等は、LWCの2層目のコイルの巻始端を1層目のコイルの最終巻とその直前巻の管間に配置し、2層目のコイルの最下段の銅管がパレットとの間に隙間を有するようにLWCを巻回し、ETS方式によって引っ掛かりなくLWCを巻き解く技術を提案した。
【0022】
また、上述の如く、ETS方式によるアンコイル時には、特に、LWCの巻き層移行部分において引っ掛かりが発生する。特許文献7には、LWCの巻き層移行部分を層ごとに円周方向にずらして配置することにより、アンコイル時に巻き層移行部分でLWCが引っ掛かることを防止する技術が開示されている。
【0023】
更に、特許文献8には、LWCの巻き層が移行する位置に対応してLWCのパレット載置体の全部分又は一部分に窪み部分を形成し、巻き解かれる銅管がパレットとの接触位置で引っ掛かることを防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】実開平4−91891号公報
【特許文献2】実開平4−19556号公報
【特許文献3】実開平2−124859号公報
【特許文献4】実開平7−21590号公報
【特許文献5】特開2002−370869号公報
【特許文献6】特開2004−2012号公報
【特許文献7】特開2006−282391号公報
【特許文献8】特開2006−290619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
しかしながら、上述の従来技術には、以下に示すような問題点がある。即ち、例えばレベルワウンドコイルの質量が大きい場合、レベルワウンドコイルがパレット上に複数個積み重ねて載置される場合、又はレベルワウンドコイルの1層あたりのコイルの巻き数が巻き層の数に比して多い場合において、コイル軸を垂直にして配置されたレベルワウンドコイルの銅管、特に、レベルワウンドコイルの下方に位置する銅管の層の移り変わり部分には、レベルワウンドコイルの自重、又は上方に積載された他のレベルワウンドコイルの質量によって、大きな圧力が作用する。従って、上記引用文献5乃至8に記載の技術を用いた場合においても、アンコイルの際に、引き抜き力に抗する摩擦力が銅管に負荷され、銅管に曲がり、折れが発生する場合がある。
【0026】
また、銅管が隣接する銅管同士の接触力によって位置を保持することができない場合、例えば銅管が間欠的に送り出されるベンド管の製造工程において、アンコイルされてコイルの内側に生じた空間に銅管が崩れ落ちる場合がある。特に、アンコイルが進んでレベルワウンドコイルの層が少なくなった場合にこの崩れ落ちは顕著に発生する。そして、崩れ落ちによって管の整列が乱れ、崩れ落ちた銅管同士、又は引き出される銅管と崩れ落ちた銅管との接触によって、銅管同士が擦れ合い、表面に疵を生じることがある。
【0027】
そして、引き出される銅管の上に崩れ落ちが生じると、銅管を巻き解く際に引っ掛かりが生じる。そして、引っ掛かりが生じた銅管を無理に引き抜くと、引っ掛かって接触した銅管同士の間には、引き抜き力に抗する摩擦力、コイルの巻き癖を超える捩り力等が負荷される。その結果、銅管に曲がり、折れが発生し、これが例えばエアコン用熱交換器のヘアピン管加工ラインを停止させ、歩留及び生産性を低下させる要因になる。
【0028】
更に、焼鈍温度が高い場合、特に焼鈍時間が長い場合には、銅管内で原子拡散が活発になり、格子欠陥の消滅及び再結晶が生じる。特に、銅管同士の接触部分には荷重が負荷されるため原子拡散が発生しやすく、焼鈍時の加熱によって隣接する銅管同士が接触部分において拡散接合してしまう場合がある。この焼き付きは、レベルワウンドコイルの質量が大きい場合、レベルワウンドコイルの巻き層数及び1層あたりの巻き数が多い場合に顕著に発生する。そして、この焼き付きによって、銅管を速やかに巻き解くことができなくなるという問題点がある。
【0029】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、LWCの質量が大きい場合、LWCが複数積み重ねられている場合、並びにLWCの巻き層数及び1層あたりの巻き数が多い場合においても、ETS方式によるアンコイルの際に管の折れ、変形及び擦り疵が発生せず、引っ掛かりなく巻き解くことができ、更に、あんこ変色が発生しないレベルワウンドコイル、レベルワウンドコイルの梱包体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明に係るレベルワウンドコイルは、コイル軸方向が垂直で且つ巻き始め部位が上側になるように載置され内側から巻き解かれるレベルワウンドコイルにおいて、前記レベルワウンドコイルを構成する銅又は銅合金管は、その外表面にシリコン油を含む油が塗布された後焼鈍されたものであり、高周波グロー放電発光分光分析法により分析したときの前記銅又は銅合金管の表面から20nmまでの表層部におけるSi濃度の最大値が0.3乃至30原子%であり、前記レベルワウンドコイルは、前記銅又は銅合金管を整列巻きして1層目コイルを形成し、その後、この1層目コイルの上に2層目コイルを前記1層目コイルの外面の前記銅又は銅合金管間の凹部に嵌め込んで整列巻きし、以後同様にして、2層目コイルの上に3層目コイル、及びそれ以降のコイルを順次整列巻きして積層した複数層のコイルからなり、奇数層目のコイルの巻き数をnとすると、偶数層目のコイルの巻き数は(n−1)であり、奇数層目のコイルの巻き方向と偶数層目のコイルの巻き方向とが相互に逆であることを特徴とする。
【0031】
本発明に係る他のレベルワウンドコイルは、コイル軸方向が垂直で且つ巻き始め部位が下側になるように載置され内側から巻き解かれるレベルワウンドコイルにおいて、前記レベルワウンドコイルを構成する銅又は銅合金管は、その外表面にシリコン油を含む油が塗布された後焼鈍されたものであり、高周波グロー放電発光分光分析法により分析したときの前記銅又は銅合金管の表面から20nmまでの表層部におけるSi濃度の最大値が0.3乃至30原子%であり、前記レベルワウンドコイルは、前記銅又は銅合金管を整列巻きして1層目コイルを形成し、その後、この1層目コイルの上に2層目コイルを前記1層目コイルの外面の前記銅又は銅合金管間の凹部とその両隣に配置して整列巻きし、以後同様にして、2層目コイルの上に3層目コイル、及びそれ以降のコイルを順次整列巻きして積層した複数層のコイルからなり、奇数層目のコイルの巻き数をnとすると、偶数層目のコイルの巻き数は(n+1)であり、奇数層目のコイルの巻き方向と偶数層目のコイルの巻き方向とが相互に逆であることを特徴とする。
【0032】
本発明に係る更に他のレベルワウンドコイルは、コイル軸方向が垂直になるように載置され内側から巻き解かれるレベルワウンドコイルにおいて、前記レベルワウンドコイルを構成する銅又は銅合金管は、その外表面にシリコン油を含む油が塗布された後焼鈍されたものであり、高周波グロー放電発光分光分析法により分析したときの前記銅又は銅合金管の表面から20nmまでの表層部におけるSi濃度の最大値が0.3乃至30原子%であり、前記レベルワウンドコイルは、前記銅又は銅合金管を整列巻きして1層目コイルを形成し、その後、この1層目コイルの上に2層目コイルをその巻始端が前記1層目コイルの最終巻及びその直前巻の前記銅又は銅合金管間の凹部に嵌め込まれるようにして前記1層目コイルの外面の前記銅又は銅合金管間の凹部とその外側に配置して整列巻きし、以後同様にして、2層目コイルの上に3層目コイル、及びそれ以降のコイルを順次整列巻きして積層した複数層のコイルからなり、奇数層目のコイルの巻き数をnとすると、偶数層目のコイルの巻き数はnであり、奇数層目のコイルの巻き方向と偶数層目のコイルの巻き方向とが相互に逆であることを特徴とする。
【0033】
本発明に係るレベルワウンドコイルの梱包体は、パレット上にレベルワウンドコイルがそのコイル軸方向が垂直になるように且つ巻き始め部位が上側になるようにして1段又は多段に載置され、前記1段又は多段のレベルワウンドコイルの全体が樹脂製の袋で包まれ更にその外側を帯状の樹脂フィルムにより緊張巻きされており、前記レベルワウンドコイルを構成する銅又は銅合金管は、その外表面にシリコン油を含む油が塗布された後焼鈍されたものであり、高周波グロー放電発光分光分析法により分析したときの前記銅又は銅合金管の表面から20nmまでの表層部におけるSi濃度の最大値が0.3乃至30原子%であり、前記レベルワウンドコイルは、前記銅又は銅合金管を整列巻きして1層目コイルを形成し、その後、この1層目コイルの上に2層目コイルを前記1層目コイルの外面の前記銅又は銅合金管間の凹部に嵌め込んで整列巻きし、以後同様にして、2層目コイルの上に3層目コイル、及びそれ以降のコイルを順次整列巻きして積層した複数層のコイルからなり、奇数層目のコイルの巻き数をnとすると、偶数層目のコイルの巻き数は(n−1)であり、奇数層目のコイルの巻き方向と偶数層目のコイルの巻き方向とが相互に逆であることを特徴とする。
【0034】
本発明に係る他のレベルワウンドコイルの梱包体は、パレット上にレベルワウンドコイルがそのコイル軸方向が垂直になるように且つ巻き始め部位が下側になるようにして1段又は多段に載置され、前記1段又は多段のレベルワウンドコイルの全体が樹脂製の袋で包まれ更にその外側を帯状の樹脂フィルムにより緊張巻きされており、前記レベルワウンドコイルを構成する銅又は銅合金管は、その外表面にシリコン油を含む油が塗布された後焼鈍されたものであり、高周波グロー放電発光分光分析法により分析したときの前記銅又は銅合金管の表面から20nmまでの表層部におけるSi濃度の最大値が0.3乃至30原子%であり、前記レベルワウンドコイルは、前記銅又は銅合金管を整列巻きして1層目コイルを形成し、その後、この1層目コイルの上に2層目コイルを前記1層目コイルの外面の前記銅又は銅合金管間の凹部とその両隣に配置して整列巻きし、以後同様にして、2層目コイルの上に3層目コイル、及びそれ以降のコイルを順次整列巻きして積層した複数層のコイルからなり、奇数層目のコイルの巻き数をnとすると、偶数層目のコイルの巻き数は(n+1)であり、奇数層目のコイルの巻き方向と偶数層目のコイルの巻き方向とが相互に逆であることを特徴とする。
【0035】
本発明に係る更に他のレベルワウンドコイルの梱包体は、パレット上にレベルワウンドコイルがそのコイル軸方向が垂直になるように且つ巻き始め部位が上側又は下側になるようにして1段又は多段に載置され、前記1段又は多段のレベルワウンドコイルの全体が樹脂製の袋で包まれ更にその外側を帯状の樹脂フィルムにより緊張巻きされており、前記レベルワウンドコイルを構成する銅又は銅合金管は、その外表面にシリコン油を含む油が塗布された後焼鈍されたものであり、高周波グロー放電発光分光分析法により分析したときの前記銅又は銅合金管の表面から20nmまでの表層部におけるSi濃度の最大値が0.3乃至30原子%であり、前記レベルワウンドコイルは、前記銅又は銅合金管を整列巻きして1層目コイルを形成し、その後、この1層目コイルの上に2層目コイルをその巻始端が前記1層目コイルの最終巻及びその直前巻の前記銅又は銅合金管間の凹部に嵌め込まれるようにして前記1層目コイルの外面の前記銅又は銅合金管間の凹部とその外側に配置して整列巻きし、以後同様にして、2層目コイルの上に3層目コイル、及びそれ以降のコイルを順次整列巻きして積層した複数層のコイルからなり、奇数層目のコイルの巻き数をnとすると、偶数層目のコイルの巻き数はnであり、奇数層目のコイルの巻き方向と偶数層目のコイルの巻き方向とが相互に逆であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、レベルワウンドコイルを構成する銅管の表面にシリコン油を含有する混合油を適当な量だけ塗布した後、レベルワウンドコイルに巻き取った銅管を焼鈍すると、管の焼き付き(特に、レベルワウンドコイルのコイル軸方向が垂直になるように載置して焼鈍するときに、荷重を受けることになるレベルワウンドコイルの下面側において焼き付きが発生しやすい。)が防止される。よって、レベルワウンドコイルをETS方式によって巻き解くとき、レベルワウンドコイル下面側における層の移行部からも管を円滑に引き出して巻き解くことができる。また、管の焼き付きが発生しない場合においても、銅管の表面に残存するSi成分が潤滑作用を有するので、レベルワウンドコイル下面側における層の移行部から管を引き出す場合、及びアンコイル時に銅管の崩れ落ちが発生した場合において、管の引き出し抵抗が減少し、曲がり、折れを発生させることなく管の引き出しを行うことができる。従って、例えばエアコン用熱交換器の歩留及び生産性低下を防止することができる。
【0037】
更に、シリコン油を含有する混合油は、焼鈍後に銅管表層部に浸入したSi濃度が適正となるように適量塗布されている。従って、管表面に形成される保護膜が焼鈍後において吸湿性を呈さない。このため、LWCの質量が大きい場合、LWCが複数積み重ねられている場合、並びにLWCの巻き層数及び1層あたりの巻き数が多い場合においても、焼鈍時の銅管の焼き付きの発生を抑制しながら、あんこ変色が発生することを防止することができる。また、LWCの質量、巻き層数及び1層あたりの巻き数を増やすことが可能であるため、LWCの形状設計の自由度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1実施形態に係るLWCの巻回方法を示す断面図である。
【図2】同じくそのLWCの作製方法を説明する模式図である。
【図3】同じくそのLWCの巻き解き方法を説明する模式図である。
【図4】本発明の実施形態に係るLWCの梱包方法をその工程順に示す側面図である。
【図5】(a)乃至(c)は、本実施形態に係るLWCの梱包体の梱包方法をその工程順に示す側面図であり、図4(i)の次の工程を示す。
【図6】本発明の第2実施形態に係るLWCの作製方法を説明する模式図である。
【図7】同じくそのLWCの巻き解き方法を説明する模式図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係るLWCの作製方法を説明する模式図である。
【図9】同じくそのLWCの巻き解き方法を説明する模式図である。
【図10】ETS方式によるアンコイル方法を示す斜視図である。
【図11】従来のLWCの巻回方法を示す断面図である。
【図12】縦型アンコイラー(回転装置)を示す斜視図である。
【図13】横型アンコイラー(回転装置)を示す斜視図である。
【図14】(a)は輸送時のLWCを示す斜視図であり、(b)は使用先におけるLWCを示す斜視図である。
【図15】GD−OES装置による深さ方向の原子濃度の測定結果の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態について添付の図面を参照して具体的に説明する。図1は本発明の第1実施形態に係るレベルワウンドコイル(LWC((n,n−1)巻き))の作製方法を示す断面図、図2はこのLWCの上半部を示す模式図、図3はこのLWCの巻き解き方法を説明する模式図である。また、図4(a)乃至(i)及び図5(a)乃至(c)は、本実施形態に係るLWCの梱包体の梱包方法をその工程順に示す側面図である。なお、図1乃至3においては、図示の簡略化のため、銅管1の断面を円で示している。
【0040】
まず、LWC110の巻き取り方法について説明する。外表面に油を塗布された銅又は銅合金管を、図12又は図13の回転装置103,104を使用してレベルワウンドコイルに巻き取る。図1に示すように、回転装置103,104の回転軸に装着するボビン2は、円筒状の内筒2bと、この内筒2bの両端部分に取り付けられた側板2aとを有する。
【0041】
本実施形態においては、まず、銅管1を内筒2bの左端に位置させ、これを巻き始め部位111として、ボビン2を回転装置103,104により回転駆動し、銅管1を内筒2bに図2の右方向に巻回して整列巻きする(トラバース巻き)。即ち、銅管1を内筒2bに銅管部分に隙間がなく、常に接触しているように整列巻きで巻き付けていく。
【0042】
図2に示すように、1層目のコイルを巻回し終わると、1層目の終端の銅管部分は側板2aに接触する。従って、内筒2bの軸方向の長さは、銅管1の外径の整数倍であり、この1層目のコイルの巻き数をn、銅管1の外径をDとすると、内筒2bの長さは、実質的にnDとなる。1層目のコイルの巻回が終了すると、2層目のコイルは、その巻始端の銅管部分22を、1層目のコイルの最終巻(n回目)及びその直前巻(n−1回目)の銅管間の凹部に位置させて、順次、図2の左方向に整列巻きで巻回していく。2層目のコイルはその左端の最終巻部分において、側板2aとの間に更に1コイルが入るだけの余裕がないため、側板2aとの間に隙間を残したまま、3層目の巻回に移る。従って、2層目のコイルの巻き数は、1層目のコイルの巻き数nより1回少なく、n−1となる。3層目のコイルは、1層目と同じくn回、図2の右方向に巻回する。この場合に、3層目も1層目と同様に、その左端及び右端の銅管部分は側板2aと接触する。4層目は2層目と同様に、巻始端の銅管部分113を側板2aとの間に隙間があるようにして配置し、図2の左方に銅管を巻回していく。同様に、以降のコイルを順次整列巻きして、複数層のコイルを積層する。
【0043】
このようにして、奇数層目のコイルの巻き数をnとすると、偶数層目のコイルの巻き数は(n−1)であり、奇数層目のコイルの巻き方向と偶数層目のコイルの巻き方向とが相互に逆であるLWC110が得られる。
【0044】
このようにして作製されたLWC110に、最外周に銅バンド等を巻き付けて解き止めの処理をした後、側板2aを内筒2bから取り外すことによりボビン2を分解し、ボビン2をLWC110から取り外す。次に、所定の調質処理が施されるように焼鈍する。管の調質条件については特に制限はないが、一般的には、軟質材又は半硬材とすることが好ましい。
【0045】
以上のように作製されたLWC110は、図10に示すETS方式によって巻き解かれるものである。また、レベルワウンドコイルを構成する銅又は銅合金管は、その外表面にシリコン油を含む油が塗布され、レベルワウンドコイルに巻き取られた後焼鈍されたものである。この焼鈍後のレベルワウンドコイルにおいて、高周波グロー放電発光分光分析法により分析したときの銅又は銅合金管の表面から20nmまでの表層部におけるSi濃度の最大値は0.3乃至30原子%である。
【0046】
本願発明者等は、レベルワウンドコイルを巻き解くときの銅管の引っ掛かりを防止するためには、従来、鋳造鋳型の離型剤として使用されていたシリコン油を銅管の表面に付着させ、LWCに巻き取り、焼鈍した後の銅管の表層部のSi濃度の最大値を0.3原子%以上にし、この量のSiを表面に残存させることにより、銅管の焼き付きが防止され、その潤滑作用によってETS方式により銅管を円滑に巻き解くことが可能になることを見出した。銅管の表面から20nmまでの表層部におけるSi濃度の最大値が0.3原子%未満であると、銅管表面の耐熱性及び焼鈍後の潤滑性が不足し、焼鈍時の銅管の接触部分における焼き付き、及びアンコイル時の銅管の引っ掛かりが発生しやすくなる。一方、シリコン油は、加熱によって親水性を有するケイ酸塩に変性する。そして、シリコン油が銅管の表面でケイ酸塩に変性すると、水分の吸着性が高くなり、あんこ変色が発生しやすくなる。そして、銅管の表面から20nmまでの表層部におけるSi濃度の最大値が30原子%を超えると、焼鈍時に銅管表面に生成するケイ酸塩の量が過多となり、水分の吸着性が高くなるため、あんこ変色が発生しやすくなる。そこで、本発明においては、銅管の表面から20nmまでの表層部におけるSi濃度の最大値を0.3乃至30原子%と規定する。
【0047】
銅又は銅合金管の表層部におけるSi濃度は、レベルワウンドコイルの巻き取り前に管の外表面に塗布する油の組成、混合油中のシリコン油の割合、及び管の外表面に残留させる油の量を調整することによって制御することができる。巻き取り前に銅又は銅合金管の外表面にシリコン油を含む油を塗布する際には、例えばゴムパッキンによって表面をしごいて余剰の油分を除去し、管の外表面に適度な量の油を残留させることによって保護膜を形成する。このとき、管の外表面に残留する油の量は、例えば2.5乃至15.0mg/dmである。管の外表面に残留させる油の量は、管をしごくゴムパッキンの穴径を調整することによって制御することができる。
【0048】
管の外表面に塗布する油は、例えば、ポリブテン、フェニルエチルエーテル、ジフェニルエチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルメチルエーテル、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、シクロパラフィン等の鎖式飽和炭化水素、鎖式不飽和炭化水素、脂環式炭化水素化合物のうち少なくとも1種以上の混合油を基油とし、ポリジメチルシロキサン等のシリコン油を0.2乃至7質量%含有するものである。
【0049】
なお、従来、各層のコイルの巻き数はnで同一であったが、本実施形態では、奇数層がn、偶数層がn−1である。このようなLWC110を製造するための工程の変更は、トラバース巻きの際の巻き付け角の制御方法の変更及び側板2a間の間隔の変更等の方法により、容易に実施可能である。
【0050】
また、本実施形態においては、LWC110のコイル巻層の数、1層当たりのコイル巻き数n(奇数層目)、LWCの質量には特に制限はない。一般に、巻層の数は10乃至200回程度、1層当たりの巻数nは10乃至100回程度、LWC110の質量は50乃至500kg程度である。
【0051】
なお、銅管の材質については、特に制限はなく、本発明は、伝熱管及び給湯・建築配管等に使用する銅又は銅合金管(内面溝付管又は平滑管)のコイルに適用することができる。銅管を形成する材料として、例えば、JIS H3300に規定されているC1020、C1100等の純銅、C1201、C1220等のりん脱酸銅、Cu−Sn−P合金(Cu−0.1〜1.0Sn−0.01〜0.05P等)、Cu−Sn−Zn−P合金(Cu−0.1〜1.0Sn−0.1〜1.0Zn−0.01〜0.05P等)等の銅合金を使用することができる。これらの純銅又は銅合金が含有する組成のうち、Siは溶解鋳造時に酸化して鋳塊に巻き込まれやすく、介在物となる。介在物があると、銅合金管にしたときにSiの酸化膜が生じやすくなり、曲げ加工時の管の割れ、及び表面あれの原因になる。また、Siは微量でもCuに固溶して導電率を低下させる。従って、銅管の組成のうち、Si成分は50ppm未満であり、30ppm未満であることが望ましく、更に15ppm未満であることが望ましい。
【0052】
更にまた、管の寸法についても、特に制限はない。但し、管の肉厚が薄すぎると、後述するアンコイル時に捻じり力が管に作用するので、変形しやすくなる。一般的には、外径が4乃至25mm程度、肉厚が0.15乃至1.5mm程度であることが好ましい。
【0053】
更にまた、管の調質についても、特に制限はない。銅管の場合は、一般的には、軟質材又は半硬材に適用することが好ましいが、硬質材にも適用可能であり、(管底肉厚/管外径)の値が0.03以上であることが好ましい。硬質材によりLWCを作製した後、焼鈍して軟質材又は半硬材とすることもできる。
【0054】
次に、本実施形態に係るレベルワウンドコイルの梱包体について説明する。図5(c)に示すように、本実施形態のレベルワウンドコイルの梱包体においては、木製又は樹脂製等のパレット11が設けられており、このパレット上に膜厚が例えば50μmのポリエチレンシート12が載置されている。そして、このポリエチレンシート12上に中心軸が垂直となるように上述のLWC110が3段縦積みされ、3段コイル16が形成されている。また、パレット11、ポリエチレンシート12、及び3段コイル16を覆うように、厚さが例えば50μmのポリエチレン製の袋17が被せられており、3段コイル16の全体がポリエチレンシート12及び袋17で包まれている。更に、ポリエチレン製の袋17の側面を、伸張状態の樹脂フィルム14が巻回して覆っている。これにより、本実施形態の梱包材が形成されている。なお、ポリエチレンシート12と3段コイル16との間には、例えば厚さが5mmのポリエチレン発泡材からなるクッション材13を載置してもよい。また、各段のLWC110の間及び最上段のLWC110の上部にライナー105が設けられ、3段のLWC110と3カ所に設けられたライナー105とによって3段コイルが形成されていてもよい。そして、クッション材13及びライナー105が設けられることにより、これらは輸送時にLWC110を保護する。
【0055】
本実施形態のレベルワウンドコイル載置用パレット11は、LWC載置面において平面状である。そして、LWC110が載置されたときに、パレット11は奇数層目の最下段に位置する銅管1と接触するが、この銅管1と接触する位置のパレット11に一部凹部が設けられてもよい。そして、このパレット11の凹部の位置で銅管1とパレット11とが非接触となるため、LWC110の奇数層から偶数層への移行部において、アンコイル時に引っ掛かりが発生することが防止される。
【0056】
次に、本実施形態に係るLWCの梱包体の梱包方法について説明する。まず、図4(a)に示すように、木製又は樹脂製等のパレット11を用意する。次に、図4(b)に示すように、パレット11上に膜厚が例えば50μmのポリエチレンシート12を載せる。次いで、図4(c)に示すように、このポリエチレンシート12上に、例えば厚さが5mmのポリエチレン発泡材からなるクッション材13を載置する。そして、図4(d)に示すように、このクッション材13上に、ボビンが取り外された銅又は銅合金管のコイル、即ち、1段目のLWC110をその軸方向を垂直にし、図3に示すように巻き始め部位111が上方になるようにして載置する。このとき、焼鈍前に巻き止め用に巻き付けられた銅バンドを切除する。そして、必要に応じて、ポリプロピレン製のバンド又はポリエチレン製の紐でLWC110を結束する。
【0057】
その後、図4(e)に示すように、この1段目のLWC110上に円形のライナー105を載置する。次に、図4(f)に示すように、このライナー105上に2段目のLWC110を巻き始め部位111が上方になるように載せ、図4(g)に示すように、この2段目のLWC110上にライナー105を載せる。次に、図4(h)に示すように、このライナー105上に3段目のLCW110を巻き始め部位111が上方になるように載せ、図4(i)に示すように、この3段目のLWC110上にライナー105を載せる。これにより、ライナー105を挟んでLWC110を3段に積み重ねる(以下、3段に積み重ねられた銅又は銅合金管コイルを3段コイル16という)。これらのライナー105は、LWC110同士間のクッションとなり、輸送時にLWC110を保護する。
【0058】
次に、図5(a)に示すように、厚さが例えば50μmのポリエチレン製の袋17を3段コイル16に被せて、3段コイル16を覆う。次に、図5(b)に示すように、例えば、幅が500mm、厚さが25μmのポリエチレンからなる帯状の樹脂フィルム14を用意し、この樹脂フィルム14の伸張状態を保ちつつ、3段コイル16の周囲、即ち袋17の外側をその上部から下部まで巻回しながら覆い、更にパレット11まで覆う。
【0059】
次いで、図5(c)に示すように、再度、3段コイル16の周囲をその下部から上部まで、伸張状態の樹脂フィルム14で巻回する。これにより、3段コイル16はパレット11と共に2重の樹脂フィルム14によりストレッチ包装される。この場合、樹脂フィルム14は例えば長さが約2倍になるように張力をかけて伸ばしながら巻く。そうすると、樹脂フィルム14は、幅が伸張前の幅の約7乃至8割程度に細くなる。なお、図5(b)及び(c)においては、図示の便宜上、3段コイル16と袋17との間、及び袋17と樹脂フィルム14との間に隙間が示されているが、実際には、樹脂フィルム14を緊張巻きすることにより、これらの隙間は極めて部分的なものとなり、樹脂フィルム14により3段コイル16の側面が拘束されるようになる。3段コイル16を樹脂フィルム14でストレッチ包装することにより、ポリエチレン製の袋17及び樹脂フィルム14がLWC110を外面側から締め付けるため、レベルワウンドコイルの自重又は上方に積載された他のレベルワウンドコイルの質量等によるコイル軸方向の引き締め力を低減することができる。
【0060】
そして、必要に応じて、輸送時にLWC110が動かないように、LWC110をパレット11に固定する。例えば、パレット11の4辺の各中央部に、その高さが3段コイル16の高さに略等しいLWC固定用の木製支柱(図示せず)を立設し、更に対向する前記支柱同士の上端部を木製の板材で十字状に固定して補強し、パレットの底部から最上段のLWCの上面まで、支柱及び板材に鉄バンドをかけて締め付ける。この状態で、パレット下面から最上段のLWCの上面まで複数層の樹脂フィルムでストレッチ包装し、外部の雰囲気がコイル内部に侵入しにくいようにする。
【0061】
本実施形態においては、前述の如く、3段コイル16をパレット11と共に、ポリエチレン袋17及び樹脂フィルム14によりストレッチ包装するので、3段コイル16をほぼ完全に密閉することができる。このようなストレッチ包装(緊張巻き)により、LWCの外周面は樹脂フィルムから拘束力を受ける。このため、LWC外周面のストレッチ包装を保った状態で銅管を巻き解くことにより、LWC外周側における管のばらけを防止することができる。前述の如く、アンコイルされる管の変形、疵付き等を防止するためには、コイルの巻き層数mを奇数とし、且つ最外層の巻き数をnとすることが望ましい。
【0062】
また、LWC110(3段コイル16)を樹脂フィルム14によりストレッチ包装することにより、保管中及び搬送中にLWC110の内部に湿気が侵入することを防止でき、LWCに変色が発生することを防止することができる。なお、3段コイル16の外面を被覆する袋17及び樹脂フィルム14は、ポリエチレン製のもの等を使用することができる。樹脂は若干の透湿性を有するが、コイル内部に水分が侵入することを防止でき、銅管の変色を防止することができる。また、樹脂フィルムの厚さは特に制限されるものではないが、10乃至100μm程度のものから選べばよい。通常は30乃至70μm程度のものを使用すると良い。シール効果を高めるために、多層巻きにすることが好ましい。
【0063】
また、パレット11とLWC110との間に介装するクッション材13及び複数段にLWC110を積載するときにLWC110間に介装する緩衝材としてのライナー105は、厚さが1mm程度の発泡ポリエチレン製のもの等を使用することができるが、コイル内部の変色の虞がない場合は、これらの緩衝材として段ボール等を使用することができる。そして、この場合、クッション材13及びライナー105は、パレット11とLWC110との相互間が運搬時及び巻き解き時に滑ってずれてしまうことを防止するために、摩擦係数が大きな材質からなることが望ましい。また、パレット11とLWC110との相互間にクッション材13及びライナー105が設置されることにより、LWC110の自重又は上方に積載された他のLWC110の質量がクッション材13及びライナー105に負荷される。この場合、LWC110がクッション材13又はライナー105の厚さ方向に食い込んで巻き解き性を低下させることを防止するために、木製等の合板の両面に樹脂シートを貼り付け、LWC110が載置される部分に合わせてこの樹脂シートに厚さが2mm程度の板状の紙を貼り付けたものをクッション材13及びライナー105として使用してもよい。また、LWC110が載置されない部分においては、樹脂シートの代わりに厚さが2mm程度の板状の紙を貼り付けたものを使用してもよい。そして、これらの場合においても、LWC110が載置される部分に対応してクッション材13又はライナー105の一部を切り欠くか、又はクッション材13又はライナー105に一部凹部を設ければ、LWC110の奇数層から偶数層への移行部において、アンコイル時に引っ掛かりが発生することが防止される。なお、LWC110を梱包するときの雰囲気の露点は低い方が望ましく、この梱包時の露点は22℃以下とすることが好ましい。
【0064】
更に、開梱時に樹脂フィルム14は、ライナー105上でカッター等により切断されるが、このライナー105により、3段コイル16を誤って傷つけてしまうことがない。
【0065】
なお、図4及び図5に示す梱包形態で搬送及び保管されていない場合、即ち、例えば、LWCがボビンに装着された状態で搬送及び保管することも可能であるが、この場合、LWCをアンコイルする場合に、まずこのボビンを取り外す必要がある。しかし、この場合には、内筒及び側板を除去する手間がかかることから、図5(c)に示すように、ボビンなしの状態でパレット11に複数個のLWC110を載置して梱包することが好ましい。このように、ボビンなしの状態でLWC110を梱包することにより、使用場所においては梱包を解くだけで、パレット11上に載置したまま、LWC110をアンコイルすることができる。また、ガイド115は、銅管を挿通させる管状のものに限らず、ろうと状、円錐状、又はロール状のものを使用することができる。
【0066】
また、本実施形態の3段コイル16は、ポリエチレンシート12上からパレット11上に載置し、LWC110が3段に積み重ねた後、3段コイルの全体をポリエチレン製の袋17で覆っているが、巻き止め用の銅バンドを切除した後、夫々のLWCを外面側からポリエチレン製の帯状のフィルムでのり巻きし、フィルムの合わせ目にテープを貼って包装してもよい。
【0067】
更に、本実施形態においては、ポリエチレン製の袋17の外側から帯状の樹脂フィルム14でLWC110全体を緊張巻きしているが、帯状の樹脂フィルム14の代わりに、例えば樹脂製のバンドを使用して、パレット11及びLWC110の全体を結束してもよい。
【0068】
3個のLWC110からなる3段コイル16は、図5(c)に示す梱包体の状態で、輸送及び保管される。
【0069】
次に、本実施形態に係るレベルワウンドコイルの梱包体からの銅管の供給方法について説明する。LWCの梱包体を輸送又は保管した後、使用先においてLWC110をアンコイルし、銅管1を熱交換器等の組立場所等に連続的に供給する。この場合、まず、図5(c)に示す梱包された3段コイル16をそのまま使用場所に載置する。そして、最上段のライナー105を裏当材にして、樹脂フィルム14及びポリエチレン製の袋17をカッター等により切断し、除去する。次に、このライナー105を取り外した後、樹脂フィルム14及び袋17を除去し、3段コイル16を開梱する。又は、3段コイル16の載置後、最上段のライナー105を裏当材にして、樹脂フィルム14及びポリエチレン製の袋17をカッター等により切断し、樹脂フィルム14及び袋17における3段コイル16の上面を覆う部分のみを除去する。次に、最上段のライナー105だけを取り外す。即ち、3段コイル16の上面を覆う梱包材のみを除去し、樹脂フィルム14によるLWC最外周面の緊張巻きは解除しないままとする。
【0070】
次に、上述の本発明の実施形態に係るLWCの動作について説明する。上述の如く、LWC110の梱包体は、3段コイルを構成する夫々のLWC110がコイル軸を垂直にし、巻き始め部位が上方になるように梱包されている。このLWC110の梱包体の少なくとも上面を覆う梱包材を除去した後、図10に示すように、使用場所に載置されたLWC110の梱包体から始端を上方に引き出し、ガイド115等を経て銅管101を組立場所に供給する。すると、図3に示すLWC110の内面側のコイル(1層目コイル)が巻き解かれて、コイル内面から離脱していく。そして、1層目コイルの最下端(図1においては最右端)の銅管部分がコイル内面から離脱すると、2層目コイルの最下端(最右端)の巻始端の銅管部分112がコイル内面から離脱を開始する。
【0071】
本実施形態においては、コイル110の内面から銅管1が巻き解かれていき、偶数層のコイル列においては、その最初に巻き解かれる銅管部分112がその上層の銅管部分と側板2aとの間に拘束されていない。従って、奇数層及び偶数層の全てのコイル列がコイル110から円滑に巻き解かれていく。そして、3段コイル16のうち最上段のLWC110がアンコイルされた後、同様にして、2段目及び最下段のLWC110も円滑にアンコイルされる。
【0072】
これに加えて、本実施形態のレベルワウンドコイルは、銅又は銅合金管の外表面に焼鈍後のSi濃度が適正化されたシリコン油を含む油が塗布されている。よって、LWCの質量が大きい場合、LWCが複数積み重ねられている場合、及びLWCの1層あたりの巻き数が多い場合においても、油の潤滑性によって銅管同士の摩擦力が軽減され、アンコイルの際に、銅管に曲がり、折れが発生することがない。従って、LWCの質量、巻き層数及び1層あたりの巻き数を増やすことが可能であるため、LWCの形状設計の自由度を高めることができる。
【0073】
また、ETS方式によるアンコイル時に銅管の崩れ落ちが発生した場合においても、このシリコン油を含む油の潤滑性によって銅管の引っ掛かりが発生せず、銅管の折れ、変形及び擦り疵を生じることがない。従って、例えばエアコン用熱交換器の歩留及び生産性低下を防止することができる。
【0074】
更に、本実施形態のレベルワウンドコイルにおいて、銅管の表面に塗布されたシリコン油を含む油は、焼鈍後のSi濃度が適正化されている。そして、管表面に形成される保護膜が焼鈍後において吸湿性を呈さない。従って、LWCの質量が大きい場合、LWCが複数積み重ねられている場合、並びにLWCの巻き層数及び1層あたりの巻き数が多い場合においても、焼鈍時の銅管の焼き付きの発生を抑制しながら、あんこ変色が発生することを防止することができる。
【0075】
次に、本発明の第2実施形態に係るLWC((n,n+1)巻き)について説明する。図6は本第2実施形態のLWC30の作製方法を示す模式図、図7はこのLWCの巻き解き方法を示す模式図である。本実施形態においては、図6に示すように、1層目のコイルを巻き始め部位31からn回整列巻きし、その後、1層目の最終巻とボビンの側板2aとの間に2層目の巻始端を配置し、1層目コイルの外面の管間の凹部とその両隣に2層目のコイルを配置して、2層目のコイルを整列巻きにより巻回する。そして、この2層目のコイルの最終巻を1層目のコイルの巻き始め部位31と側板2aとの間に配置し、その後、3層目のコイルを、2層目のコイルの互いに隣接する管同士の間に形成された凹部に嵌め込んで整列巻きする。同様に、以降のコイルを順次整列巻きして、複数層のコイルを積層する。従って、1層目のコイルの巻き数をnとすると、2層目のコイルの巻き数はn+1、2層目のコイルの巻き数は、nであり、奇数段目はn回、偶数段目はn+1回の整列巻きとなる。なお、側板2a間の距離は、管の外径の(n+1)倍を基準に設定される。
【0076】
このように構成されたLWC30を、図7に示すように、巻き始め部位31を下方にして、そのコイル軸を垂直にパレット上に載置する。そして、銅管1を巻き始め部位31から上方に引き出すと、矢印で示すように下方から順次上方に向かって、1層目のコイルが引き出されていく。そして、1層目のコイルの最上段が引き出された後、2層目のコイルの最上段が引き出される。次に、2層目のコイルは、上方から順次下方に向かって引き出されていく。2層目のコイルの最下段が引き出された後、3層目のコイルの最下段の銅管1が引き出されるが、この3層目のコイルの最下段の銅管1は、パレットとの間に間隙が存在するため、拘束されていない。このため、3層目のコイルも円滑に引き出される。このように、本実施形態のLWC30も、銅管を円滑に引き出すことができる。
【0077】
本実施形態のレベルワウンドコイルにおいても、銅又は銅合金管の外表面に焼鈍後のSi濃度が適正化されたシリコン油を含む油が塗布されており、LWCの質量が大きい場合、LWCが複数積み重ねられている場合、及びLWCの1層あたりの巻き数が多い場合においても、油の潤滑性によって銅管同士の摩擦力が軽減され、アンコイルの際に、銅管に曲がり、折れが発生することがない。従って、LWCの質量、巻き層数及び1層あたりの巻き数を増やすことが可能であるため、LWCの形状設計の自由度を高めることができる。
【0078】
また、ETS方式によるアンコイル時に銅管の崩れ落ちが発生した場合においても、このシリコン油を含む油の潤滑性によって銅管の引っ掛かりが発生せず、銅管の折れ、変形及び擦り疵を生じることがない。従って、例えばエアコン用熱交換器の歩留及び生産性低下を防止することができる。
【0079】
次に、本発明の第3実施形態に係るLWC((n,n)巻き)について説明する。図8は本第3実施形態のLWCの作製方法を示す模式図、図9はこのLWCの巻き解き方法を示す模式図である。本実施形態においては、図8に示すように、1層目のコイルをn回整列巻きし、2層目のコイルの巻始端を、1層目のコイルの最終巻及びその直前巻の管間に配置し、以後、1層目コイルの外面の管間の凹部とその両隣に2層目のコイルを配置して、2層目のコイルを整列巻きする。そして、2層目のコイルの最終巻を、1層目のコイルの巻き始め部位41と側板2aとの間に配置して、2層目の整列巻きを終了する。次いで、3層目、4層目のコイルを、巻始端がその1層下層のコイルの最終巻及びその直前巻の管間に配置してn回整列巻きする。同様に、以降のコイルを順次整列巻きして、複数層のコイルを積層する。本実施形態においては、奇数段目及び偶数段目のコイルの巻き数は全てn回である。
【0080】
このように構成されたLWC40を、図9に示すように、巻き始め部位41を上方にして、そのコイル軸を垂直にパレット上に載置する。そして、銅管1を巻き始め部位41から上方に引き出すと、矢印で示すように上方から順次下方に向かって、1層目のコイルが引き出されていく。1層目のコイルが最下段まで引き出されると、最初に引き出される2層目の銅管1は最下段であり、この最下段の銅管1はパレットとの間に間隙があるため、容易に離脱し、円滑に引き出される。このように、本実施形態のLWC40も、銅管を円滑に引き出すことができる。
【0081】
本実施形態のレベルワウンドコイルにおいても、第1及び第2実施形態と同様に、銅又は銅合金管の外表面に焼鈍後のSi濃度が適正化されたシリコン油を含む油が塗布されており、LWCの質量が大きい場合、LWCが複数積み重ねられている場合、及びLWCの1層あたりの巻き数が多い場合においても、油の潤滑性によって銅管同士の摩擦力が軽減され、アンコイルの際に、銅管に曲がり、折れが発生することがない。従って、LWCの質量、巻き層数及び1層あたりの巻き数を増やすことが可能であるため、LWCの形状設計の自由度を高めることができる。
【0082】
また、ETS方式によるアンコイル時に銅管の崩れ落ちが発生した場合においても、このシリコン油を含む油の潤滑性によって銅管の引っ掛かりが発生せず、銅管の折れ、変形及び擦り疵を生じることがない。従って、例えばエアコン用熱交換器の歩留及び生産性低下を防止することができる。
【0083】
なお、本実施形態のLWC40は、巻き始め部位41を下方にしてパレット上に載置してもよい。この場合、奇数列目及び偶数列目の最下段の銅管1は、パレットとの関係で、第2実施形態のLWC30の最下段の銅管と同一に配列されている。よって、本第3実施形態においても、巻き始め部位41を下方にして、第1層目のコイルを下方から上方に順次引き出していくと、2層目のコイルは上方から下方に順次引き出され、この2層目コイルの引き出しがその最下段に達したときに、3層目のコイルの最下段の銅管とパレットとの間には間隙がある。従って、3層目のコイルも円滑に引き出される。以上より、第3実施形態のLWCにおいては、その巻き始め部位41を上方にしてパレット上に載置してもよいし、巻き始め部位41を下方にしてパレット上に載置してもよい。
【実施例】
【0084】
以下、本発明の実施例の特性について、本発明の範囲から外れる比較例と対比して本発明の効果について説明する。
【0085】
この実施例及び比較例のレベルワウンドコイルの製造には、外径7mm、肉厚0.3mmのJIS H3300 C1220に規定されているリン脱酸銅管を使用した。
【0086】
まず、レベルワウンドコイルに巻き取る前に、銅管の表面にシリコン油を含む油を塗布した。この油には、ポリブテン、フェニルエチルエーテル、ジフェニルエチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルメチルエーテル、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、シクロパラフィン等の鎖式飽和炭化水素、鎖式不飽和炭化水素、脂環式炭化水素化合物のうち少なくとも1種以上の混合油を基油とし、ポリジメチルシロキサン等のシリコン油を0.2乃至7質量%含有する油を使用した。銅管表面の余剰の油分は、ゴムパッキン等でしごいて除去し、銅管の表面に残留する油分の量が2.5乃至15.0mg/dmになるように調整した。そして、銅管の外表面に塗布する油の組成、混合油中のシリコン油の割合、及び管の外表面に残留する油分の量を変化させた。銅管表面の残留油分の量は、ゴムパッキンの穴径を変更することによって制御した。また、残留油分の量は、油を塗布後の銅管を小片(バッチ)に切断し、バッチ上に残留した油分の量を測定することによって標準化した。
【0087】
次に、油が塗布された銅管を、図12に示す回転装置によってLWCに巻き取った。LWCは、偶数層の巻き数、及び巻き層数を種々変化させた。
【0088】
そして、LWCに巻き取った銅管に焼鈍を施した。焼鈍は、ローラーハース炉を使用し、還元ガス雰囲気の加熱ゾーンにLWCを通過させて行った。なお、炉中の温度は、LWCの調質が均一となるように、400乃至630℃の範囲で分布するよう1点(例えば炉中温度が500℃の地点)で制御した。LWCをこの加熱ゾーンに15乃至30分通過させた後、冷却ゾーンを20分以上通過させ、LWCの外面温度が50℃以下になるようにして温度制御して出炉させた。
【0089】
巻き層数が異なる焼鈍後のLWCから、焼鈍条件が同一となる最外層から10層目、コイル軸方向中央位置の銅管を試料として採取し、この銅管表面にGD−OES分析を行った。GD−OES分析は、銅管外表面において、分析対象元素をC、O、Si、Cuとし、深さ方向分布をCu発光強度が一定になる深さまで行った。
【0090】
GD−OES装置で原子濃度を測定し、得られた質量濃度を、予め測定した標準試料(C:0.792質量%及び0.394質量%、O:47.07質量%、Si:0.289質量%及び0.96質量%、Cu:0.286質量%及び99.99質量%)の原子濃度及び質量濃度によって、原子濃度に換算した。
【0091】
測定深さは、GD−OES装置で測定し、得られたスパッタ時間を、予め測定した標準試料のスパッタ時間、及び表面粗さ計によって測定したスパッタクレータ深さによって、測定深さに換算した。なお、表面粗さ計は段差標準試料(9090ű5%)により校正されたものを用いた。本実施例で使用したGD−OES装置による、深さ方向のSiの原子濃度の測定結果の一例を図15に示す。図15において、各測定結果は、種々の銅管試料における深さ方向のSiの原子濃度を示す。
【0092】
GD−OES装置による測定条件は以下のとおりである。
分析装置 :堀場製作所製GD−PROFILER2型 GD−OES
分析モード :パルススパッタ
アノード径(分析面積):φ4mm
放電電力 :35W
Arガス圧 :600Pa
【0093】
そして、焼鈍後の銅管表面から20nmまでの表層部におけるSiの原子濃度の最大値、偶数層の巻き数、及び巻き層数が異なる各試料について、巻き解き試験及びあんこ変色試験を行った。
【0094】
(巻き解き試験方法)
試料となるLWCをそのコイル軸を垂直にし、パレット上に載置した。なお、LWCが(n,n−1)方式の場合は巻き始め部位が上方になるように載置し、(n,n+1)方式の場合は巻き始め部位が下方になるように載置し、(n,n)方式の場合は巻き始め部位が上方又は下方になるように載置した。そして、銅管始端部を引き出して、LWC上面より約2m上方に設置したパイプ状ガイドを通し、図10に示すETS方式により1m/秒の速度で連続的に引き出した。なお、パレットの上面に予め厚さが1mm、ポリエチレン製の独立発泡形態の緩衝材を載置した。
【0095】
LWCを1コイル巻き解いて、1度も引っ掛かり又は銅管の変形等が発生しなかった場合を○、引っ掛かりが1回又は2回発生した場合を△、引っ掛かりが3回以上発生した場合を×と判定した。
【0096】
(あんこ変色試験方法)
測定対象のLWCをプレハブ型の恒温恒湿室に入れ、木製パレット上に3段に積み重ねた。そして、室内の温度及び湿度を定期的に変動させた。恒温恒湿条件は、温度40℃、湿度70%と、温度25℃、湿度95%の2点とし、夫々の恒温恒湿点に3時間(恒温恒湿点間の移行時間各3時間)保持した。そして、この12時間を1サイクルとし、各測定対象のLWCについて10サイクル経過させた。10サイクル経過後のLWCを恒温恒湿室から出し、巻き解いたものについて、あんこ変色の有無を確認した。そして、あんこ変色がなかったものを良好と判断した。
【0097】
第1試験例
本第1試験例は、奇数層及び偶数層の巻き数が(n,n−1)方式によるLWCについて、焼鈍後の銅管表面から20nmまでの表層部におけるSiの原子濃度の最大値を種々変化させた試料についての実施例及び比較例である。コイル質量又はコイル巻き数が異なるコイル種別A,B,C及びDについて、LWCの質量及びコイル巻き数を表1に示す。また、これらの試料について、巻き解き試験、あんこ変色試験を行った結果を表2に示す。
【0098】
【表1】

【0099】
【表2】

【0100】
この表2に示すように、実施例No.3乃至8,No.13乃至16,No.19乃至21,及びNo.24乃至26は、高周波グロー放電発光分光分析法によるSi濃度の最大値が本発明の範囲を満足するので、本発明の範囲を下回る比較例No.1,2,11,12,18及びNo.23に比して巻き解き性が優れている。また、実施例No.3乃至8,No.13乃至16,No.19乃至21,及びNo.24乃至26は高周波グロー放電発光分光分析法によるSi濃度の最大値が本発明の範囲を満足するので、本発明の範囲を超える比較例No.9,10,17,22及びNo.27に比してあんこ変色抑制性が優れている。
【0101】
第2試験例
本第2試験例は、質量及び奇数層の巻き数が一定のLWCについて、コイルの巻き方及び偶数層の巻き数を変化させた試料についての実施例である。コイルの巻き方又は偶数層の巻き数が異なるコイル種別E,F及びGについて、LWCの質量及びコイル巻き数を表3に示す。なお、種別Gのコイルは、図11に示す従来の巻回方法によって巻き取ったものである。これらの試料について、巻き解き試験、あんこ変色試験を行った結果を表4に示す。
【0102】
【表3】

【0103】
【表4】

【0104】
この表4に示すように、実施例No.29乃至31,及びNo.34乃至36は、高周波グロー放電発光分光分析法によるSi濃度の最大値が本発明の範囲を満足するので、本発明の範囲を下回る比較例No.28,33及びNo.38に比して巻き解き性が優れている。また、実施例No.29乃至31,No.34乃至36,及び比較例No.39乃至41は、高周波グロー放電発光分光分析法によるSi濃度の最大値が本発明の範囲を満足するので、本発明の範囲を超える比較例No.32,37及び42に比してあんこ変色抑制性が優れている。
【0105】
この表4に示す比較例No.39乃至41は、高周波グロー放電発光分光分析法によるSi濃度の最大値が本発明の範囲を満足するものの、巻き方が本発明にて規定したものではなく、従来の巻回方法によって巻き取られたLWCであるから、巻き方が本発明にて規定したものである実施例No.29乃至31,及びNo.34乃至36に比して巻き解き性が劣るものであった。
【0106】
第3試験例
上記第1試験例において使用したコイル種別AのLWCのうち、高周波グロー放電発光分光分析法によるSi濃度の最大値が1.5原子%である実施例No.5のLWCについて、木製パレット上に3段に積み上げ、上段、中段、下段の順に巻き解き試験を実施した。
【0107】
この第3試験例において、下段に位置するコイルは、上方に積載された他のレベルワウンドコイルの質量が負荷されて緩衝材との間に生じる接触荷重が大きく、巻き解き性は不利となる。しかしながら、実施例No.5のLWCは、高周波グロー放電発光分光分析法によるSi濃度の最大値が本発明の範囲を満足するものであるため、上段、中段及び下段のLWCともに巻き解き性は良好であった。従って、本発明のLWCは、3段コイルとして積み重ねられた場合においても巻き解き性が良好である。
【符号の説明】
【0108】
1,101:銅管、2,102:ボビン、2a,102b:側板、2b,102a:内筒、11:パレット、12:ポリエチレンシート、13:クッション材、14:樹脂フィルム、16:3段コイル、17:(ポリエチレン)袋、110:LWC(コイル)、21::始端、22、112:銅管部分、23,113:終端、103:回転装置(縦型アンコイラー)、104:回転装置(横型アンコイラー)、105:ライナー、106:銅バンド、107:ターンテーブル、111,31,41:巻き始め部位、114:台、115:ガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル軸方向が垂直で且つ巻き始め部位が上側になるように載置され内側から巻き解かれるレベルワウンドコイルにおいて、前記レベルワウンドコイルを構成する銅又は銅合金管は、その外表面にシリコン油を含む油が塗布された後焼鈍されたものであり、高周波グロー放電発光分光分析法により分析したときの前記銅又は銅合金管の表面から20nmまでの表層部におけるSi濃度の最大値が0.3乃至30原子%であり、前記レベルワウンドコイルは、前記銅又は銅合金管を整列巻きして1層目コイルを形成し、その後、この1層目コイルの上に2層目コイルを前記1層目コイルの外面の前記銅又は銅合金管間の凹部に嵌め込んで整列巻きし、以後同様にして、2層目コイルの上に3層目コイル、及びそれ以降のコイルを順次整列巻きして積層した複数層のコイルからなり、奇数層目のコイルの巻き数をnとすると、偶数層目のコイルの巻き数は(n−1)であり、奇数層目のコイルの巻き方向と偶数層目のコイルの巻き方向とが相互に逆であることを特徴とするレベルワウンドコイル。
【請求項2】
コイル軸方向が垂直で且つ巻き始め部位が下側になるように載置され内側から巻き解かれるレベルワウンドコイルにおいて、前記レベルワウンドコイルを構成する銅又は銅合金管は、その外表面にシリコン油を含む油が塗布された後焼鈍されたものであり、高周波グロー放電発光分光分析法により分析したときの前記銅又は銅合金管の表面から20nmまでの表層部におけるSi濃度の最大値が0.3乃至30原子%であり、前記レベルワウンドコイルは、前記銅又は銅合金管を整列巻きして1層目コイルを形成し、その後、この1層目コイルの上に2層目コイルを前記1層目コイルの外面の前記銅又は銅合金管間の凹部とその両隣に配置して整列巻きし、以後同様にして、2層目コイルの上に3層目コイル、及びそれ以降のコイルを順次整列巻きして積層した複数層のコイルからなり、奇数層目のコイルの巻き数をnとすると、偶数層目のコイルの巻き数は(n+1)であり、奇数層目のコイルの巻き方向と偶数層目のコイルの巻き方向とが相互に逆であることを特徴とするレベルワウンドコイル。
【請求項3】
コイル軸方向が垂直になるように載置され内側から巻き解かれるレベルワウンドコイルにおいて、前記レベルワウンドコイルを構成する銅又は銅合金管は、その外表面にシリコン油を含む油が塗布された後焼鈍されたものであり、高周波グロー放電発光分光分析法により分析したときの前記銅又は銅合金管の表面から20nmまでの表層部におけるSi濃度の最大値が0.3乃至30原子%であり、前記レベルワウンドコイルは、前記銅又は銅合金管を整列巻きして1層目コイルを形成し、その後、この1層目コイルの上に2層目コイルをその巻始端が前記1層目コイルの最終巻及びその直前巻の前記銅又は銅合金管間の凹部に嵌め込まれるようにして前記1層目コイルの外面の前記銅又は銅合金管間の凹部とその外側に配置して整列巻きし、以後同様にして、2層目コイルの上に3層目コイル、及びそれ以降のコイルを順次整列巻きして積層した複数層のコイルからなり、奇数層目のコイルの巻き数をnとすると、偶数層目のコイルの巻き数はnであり、奇数層目のコイルの巻き方向と偶数層目のコイルの巻き方向とが相互に逆であることを特徴とするレベルワウンドコイル。
【請求項4】
パレット上にレベルワウンドコイルがそのコイル軸方向が垂直になるように且つ巻き始め部位が上側になるようにして1段又は多段に載置され、前記1段又は多段のレベルワウンドコイルの全体が樹脂製の袋で包まれ更にその外側を帯状の樹脂フィルムにより緊張巻きされており、前記レベルワウンドコイルを構成する銅又は銅合金管は、その外表面にシリコン油を含む油が塗布された後焼鈍されたものであり、高周波グロー放電発光分光分析法により分析したときの前記銅又は銅合金管の表面から20nmまでの表層部におけるSi濃度の最大値が0.3乃至30原子%であり、前記レベルワウンドコイルは、前記銅又は銅合金管を整列巻きして1層目コイルを形成し、その後、この1層目コイルの上に2層目コイルを前記1層目コイルの外面の前記銅又は銅合金管間の凹部に嵌め込んで整列巻きし、以後同様にして、2層目コイルの上に3層目コイル、及びそれ以降のコイルを順次整列巻きして積層した複数層のコイルからなり、奇数層目のコイルの巻き数をnとすると、偶数層目のコイルの巻き数は(n−1)であり、奇数層目のコイルの巻き方向と偶数層目のコイルの巻き方向とが相互に逆であることを特徴とするレベルワウンドコイルの梱包体。
【請求項5】
パレット上にレベルワウンドコイルがそのコイル軸方向が垂直になるように且つ巻き始め部位が下側になるようにして1段又は多段に載置され、前記1段又は多段のレベルワウンドコイルの全体が樹脂製の袋で包まれ更にその外側を帯状の樹脂フィルムにより緊張巻きされており、前記レベルワウンドコイルを構成する銅又は銅合金管は、その外表面にシリコン油を含む油が塗布された後焼鈍されたものであり、高周波グロー放電発光分光分析法により分析したときの前記銅又は銅合金管の表面から20nmまでの表層部におけるSi濃度の最大値が0.3乃至30原子%であり、前記レベルワウンドコイルは、前記銅又は銅合金管を整列巻きして1層目コイルを形成し、その後、この1層目コイルの上に2層目コイルを前記1層目コイルの外面の前記銅又は銅合金管間の凹部とその両隣に配置して整列巻きし、以後同様にして、2層目コイルの上に3層目コイル、及びそれ以降のコイルを順次整列巻きして積層した複数層のコイルからなり、奇数層目のコイルの巻き数をnとすると、偶数層目のコイルの巻き数は(n+1)であり、奇数層目のコイルの巻き方向と偶数層目のコイルの巻き方向とが相互に逆であることを特徴とするレベルワウンドコイルの梱包体。
【請求項6】
パレット上にレベルワウンドコイルがそのコイル軸方向が垂直になるように且つ巻き始め部位が上側又は下側になるようにして1段又は多段に載置され、前記1段又は多段のレベルワウンドコイルの全体が樹脂製の袋で包まれ更にその外側を帯状の樹脂フィルムにより緊張巻きされており、前記レベルワウンドコイルを構成する銅又は銅合金管は、その外表面にシリコン油を含む油が塗布された後焼鈍されたものであり、高周波グロー放電発光分光分析法により分析したときの前記銅又は銅合金管の表面から20nmまでの表層部におけるSi濃度の最大値が0.3乃至30原子%であり、前記レベルワウンドコイルは、前記銅又は銅合金管を整列巻きして1層目コイルを形成し、その後、この1層目コイルの上に2層目コイルをその巻始端が前記1層目コイルの最終巻及びその直前巻の前記銅又は銅合金管間の凹部に嵌め込まれるようにして前記1層目コイルの外面の前記銅又は銅合金管間の凹部とその外側に配置して整列巻きし、以後同様にして、2層目コイルの上に3層目コイル、及びそれ以降のコイルを順次整列巻きして積層した複数層のコイルからなり、奇数層目のコイルの巻き数をnとすると、偶数層目のコイルの巻き数はnであり、奇数層目のコイルの巻き方向と偶数層目のコイルの巻き方向とが相互に逆であることを特徴とするレベルワウンドコイルの梱包体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−235234(P2010−235234A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83715(P2009−83715)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(504136753)株式会社コベルコ マテリアル銅管 (79)
【Fターム(参考)】