レンズしるしおよびレンズにしるしを形成する方法
コンタクトレンズ(10)は、モールドツール1にエッチングされたしるし(64)を有して成形される。1つの実施形態では、このツールは、ステンレス鋼から作製され、マスクされ、そして塩化ナトリウムの溶液で電気化学的にエッチングされる。電圧および電流はDCであり、これらおよび時間および温度は、所望の深さのエッチングを提供するように制御される。しるしを有するコンタクトレンズを製造するための、そして該しるし内および該しるし近傍での該コンタクトレンズにおける亀裂および割れを減らすためのプロセスもまた提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、コンタクトレンズ表面の1つまたは複数のしるしの近傍の割れが減少した改良されたコンタクトレンズの製造に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
コンタクトレンズの適切な同定は、重要である。大部分のコンタクトレンズ着用者は、各眼について異なった処方を有するので、各コンタクトレンズの光学倍率はしばしば異なる。さらに、コンタクトレンズ上の1つまたは複数の識別しるしの使用は、着用者によって、レンズを互いに区別するための手段としてのみならず、レンズの片側を他方の側と区別する手段としても用いられ得る。例えば、1つまたは複数のしるしは、レンズが眼に適切に(すなわち、眼に対してレンズの適切な側で)入れられたか否かを決定するための反転指標としても用いられ得る。しるしは、一緒になって、識別目的のためにレンズ上にロット番号およびバッチ番号を形成し得る。
【0003】
品質管理者は、さらなる検査のためにレンズを迅速に識別して方向決めすることができなければならない。レンズ検査者はしばしば、各レンズを検査するために制限された長さの時間しかない。それゆえ、レンズは、検査プロセスを始めるために一貫して方向決めされなければならない。しばしば、レンズ上の1つまたは複数のしるし(例えば、ロゴ)は、レンズを方向決めするために用いられる。各個々のレンズ検査は迅速に行われなければならないので、検査者がレンズを方向決めすることを補助する、非常に明白な1つまたは複数のしるしが重要である。
【0004】
多くの製造者は、コンタクトレンズにしるしを移すために、しるしをモールドツールに化学的にエッチングする。モールドツールは、ステンレス鋼または無電解ニッケルから作製される。このツールは、レンズの前面または後面の湾曲部に成形される。しるしを受ける表面はフォトレジストでマスクされ、そしてレジスト中の開口部はレンズのしるしに対応する。モールドツールは、酸浴においてエッチングされて、ツールの露出表面から材料が除去される。この結果、モールドツールの表面に空洞が形成され、この空洞はしるしに対応する。次に、このモールドツールにモールド本体材料(代表的にはポリプロピレン)が充填される。このモールド本体は、モールドツールおよびしるしのネガティブ画像を受け取る。次いで、このモールド本体にコンタクトレンズ材料が充填され、そしてレンズの表面にしるしが成形される。
【0005】
モールドツール上の化学的エッチングを用いて作製されたしるしを有するレンズは、しるし内またはしるしの近傍のいずれかにおいて多数の割れおよび亀裂を有する。そのため、化学的にエッチングされるモールドツールから作製される多くのレンズは、しばしば、廃棄される。本発明者らは、大部分の割れおよび亀裂の原因が化学的エッチングであることを見出した。実用的に全ての化学的エッチングは等方性である。そのため、しるしは、その側壁に顕著なテーパを伴って、モールドツールにエッチングされる。ポリプロピレンまたは他のモールド材料がモールドツールから除去される場合、モールドツールは、テーパ状のしるしのネガティブレプリカを保有する。さらに、酸は、モールドツールに粗い表面を残す。テーパおよび粗さは、モールド本体が除去された場合にポリプロピレンの一部に保持され得、それにより、モールド本体におけるしるし表面の粗さが悪化する。これらの欠点は、コンタクトレンズがモールド本体から取り出された場合に繰り返され得、そして悪化し得、ここで、テーパおよび粗い表面は、レンズをモールド本体内に保持する傾向がある。機械的力が適用されてレンズが離される場合、レンズ本体は、しるしに対応するテーパ状の粗面部分上の亀裂および割れを発達させる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要旨)
本発明者らは、しるしを有するコンタクトレンズにおける亀裂および割れの問題が、モールドツールをエッチングする方法を変更することにより低減または排除され得ることを見出した。本発明者らは、異方性エッチングにより、しるしのテーパ度合いの低いまたはほぼまっすぐな側壁および床が提供され、表面が平滑であることを見出した。異方性エッチングの好ましい方法は、塩化ナトリウム溶液の浴および直流電源を用いた電気化学的エッチングであった。しかし、当業者は、他の異方性エッチング方法が用いられ得ることを理解し、このような異方性エッチング方法としては、反応性イオンエッチングおよびプラズマエッチングが挙げられるがこれらに限定されない。モールドツールをアノードに接続し、そしてこのツールの表面を従来手段によってマスクした。モールドツールにおけるしるしは、ポリプロピレンモールド本体に移され、ここからコンタクトレンズに移された。亀裂および割れの問題は事実上排除された。
【0007】
本発明は、レンズモールドツール、レンズモールドおよびレンズを作製する方法を提供する。本発明はまた、しるし内にもその近傍にも事実上亀裂がない新たなレンズを提供する。本発明はまた、驚くほどに識別可能な明るいしるしを有する新たなレンズを提供する。
【0008】
しるしを有するコンタクトレンズを製造するための、そしてこのしるし内およびこのしるし近傍でのレンズ材料における亀裂および割れを減らすためのプロセスは、金属モールドツールから金属を異方的に除去して、コンタクトレンズに対するしるしに対応するしるしを金属モールドツールに形成する工程で始まる。これにより、比較的平行な側壁および対向する側壁に向かって横断する床を伴うしるしが提供される。次に、モールド本体は、モールドツールにおいてキャスティングされて、金属モールドツールの比較的平滑なしるしを有するネガティブモールドが提供される。モールド本体が調製された後、次いで、このレンズ自体が、モールド本体において従来方法によってキャスティングされる。この方法は、モールドにコンタクトレンズ材料を充填する工程およびこのコンタクトレンズ材料を硬化させて、比較的平滑な表面を有するしるしを有するコンタクトレンズを形成する工程を包含する。このプロセスは、モールドツールおよびレンズを提供し、ここで、このしるしは、このしるしの頂部および底部において実質的に同じ距離の間隔があけられている側壁を有する。
【0009】
本発明は、前面および後面ならびに片側または両側の表面からレンズ本体に延びるしるしを有するコンタクトレンズ材料の本体を備える新たなレンズを提供する。このしるしは、側壁および側壁の端部でかつこの表面の下に配置された床によって規定される。この側壁は、しるしの表面および床において実質的に同じ距離の間隔があけられている。この側壁は、10度未満のわずかなテーパを有し得、そしてこのテーパは1方向または他の方向であり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(発明の詳細な説明)
図1は、プラスチックコンタクトレンズモールドを作製するための本発明の好ましい実施形態によるツールを図示する。ツール1は、ステンレス鋼または無電解ニッケルから構築され、そして円筒状ヘッド3の上端部に形成されたモールディング部分として、光学的に平滑なモールディング表面2を備える。
【0011】
ツール1を異方的にエッチングするためのプロセスを図2〜図4に示す。ツール1には、従来の様式でパターン形成されて所望のしるし(例えば、位置合わせマーク、ロゴなど)に対応する開口部52が形成されたフォトレジスト50がコーティングされる。次いで、ツール1は、塩化ナトリウムおよび水の溶液55を含む反応容器54中に配置される。この容器は、非導電性の耐酸性材料(例えば、ガラス、水晶またはプラスチック)から作製される。一方の電極にはこのツールが接続され、他方には、エッチングされるべき表面の近傍の、容器中に懸垂された電極に接続される。ツール1は、直流電源58のアノード末端に接続され、そして容器または容器中に懸垂された電極は、電源58のカソードに接続される。電流が印加される場合、このツールの表面2は、電気化学的エッチングに供され、この電気化学的エッチングにより、表面が異方性にエッチングされる。言い換えると、エッチングプロセスは、別の方向よりも1つの方向で強い。この場合、このエッチングプロセスは、表面2に対して垂直な方向において、より強い。このプロセスは、側壁および床を有する、プロファイルされた空洞60を作製する。これらの側壁は、互いに側壁が実質的に平行になるように、ほぼ同じ距離の間隔があけられている。これらの側壁は、先行技術の化学的にエッチングされた空洞の対応する側壁と比較して、比較的平滑である。所望の場合、電気エネルギーを増大させて、空洞の床を「粗面」にし得る。粗面にされた床は、レンズ上のしるしの視覚認知を増強する。プラスチックモールドは、エッチングされたヘッド3上にキャスティングされて、図5に示すように、エッチングされた小身(tang)を備えるモールド部分21を提供する。
【0012】
ツール1は、キャスティング成形機または射出成形機内に配置される。ツール1には、適切なモールド材料(例えば、ポリプロピレン)が注入されて、コンタクトレンズのためのモールドが作製される。使い捨てポリプロピレンモールドにおいてコンタクトレンズを成形することは、金属モールドを製造することよりも経済的である。ポリプロピレンモールド21は、表面2および空洞60のネガティブレプリカを受け取って、隆起したしるし62を形成する。
【0013】
従って、ツール1は、ネガティブ凹モールディング表面を複数のプラスチックコンタクトレンズモールドに形成するように設計される。次いで、従来方法(例えば、スピンキャスティング、静的(static)キャスティング、またはスピンキャスティングした後のレンズ片面の旋盤切断)によって、コンタクトレンズがプラスチックモールド中で生産され得、ここで、コンタクトレンズの凸レンズ表面は、プラスチックコンタクトレンズモールドの凹モールディング表面から形成される。
【0014】
本発明をさらに図示するために、コンタクトレンズを静的キャスティングするための代表的プラスチックモールドアセンブリを図6および図7に図示する。モールドアセンブリ20は、小身62を有するほぼ円筒状の第1モールド21およびほぼ円筒状の第2モールド22を備える。第1モールド21は凹モールディング表面23を備え、そして第2モールド22は凸モールディング表面24を備える。モールド部品が図6に示されるようにアセンブリされる場合、表面23、24は、空洞25を規定し、この空洞25にコンタクトレンズ10がモールドされる。図4に示す実施形態について、凸モールディング表面2を含むツール1は、第1モールド21の射出成形に適切であり、ここで、ツールのモールディング表面2は、第1モールドのモールディング表面23を形成するために用いられる。モールド21および22を分離した場合、レンズ10は、その前面にしるし64を有する。
【0015】
先行技術の化学的エッチングは、しるしの粗面または等方性エッチングをもたらす。コンタクトレンズにおける先行技術のしるしの例を図8a〜図8cに示す。先行技術のレンズは、しるし内にまたはしるしの近傍に亀裂および割れ200を有する。対照的に、異方的にエッチングされたツールから作製されたレンズは、図8dに示されるように、比較的平滑な、まっすぐな側壁および床を有する。これらの側壁はわずかにテーパを有し得、そしてテーパは、表面にある開口部に向かってテーパ状(ポジティブ)または開口部から離れてテーパ状(ネガティブ)であり得る。
【0016】
このプロセスは、エッチングのために塩化ナトリウム溶液を使用するが、HClおよびHNO3を含むがこれらに限定されない、他のニトレート溶液またはハライド溶液が当業者に公知である。例えば、米国特許第5,374,338号および同第4,247,377号に記載される方法を参照のこと。これらの開示は、参考として援用される。エッチングの深さは、エッチング操作の電圧、電流、温度および持続時間に依存する。当業者は、期待される深さを算出してもよく、慣用実験を行ってエッチング操作についてのパラメーターを決定してもよい。本発明のプロセスは、1リットルあたり120g〜130gの濃度範囲を有するNaCl溶液中でエッチングした場合のステンレス鋼および無電解ニッケルについて以下の範囲の操作を有する:
【0017】
【表1】
本発明の方法は、ツールエッチング欠損のないレンズを生産するが、このしるしの平滑表面は、観察することが困難であると考えられた。しかし、この結果は、予想とちょうど反対であった。本発明を用いて作製したレンズを試験した場合、実験者は、本発明のプロセスを用いて作製したレンズが、従来のしるしを有するレンズよりも容易に認知されるしるしを有することを見出した。
【0018】
このプラスチックコンタクトレンズモールドは、当該分野で公知のプラスチック樹脂(ポリプロピレンのような熱可塑性樹脂を包含する)から成形され得る。プラスチックコンタクトレンズモールドを作製するための本発明の方法は当該分野で公知である。例えば、記載された好ましい実施形態のツール1には、このツールが射出成形ピンの形態をとるように、円筒状の下方基部4が提供され得、そしてプラスチックコンタクトレンズモールドを成形するために用いられる射出成形装置にこのツールを取り付けるために、空洞5が提供される。さらなる例として、本発明のツールは、モールドスリーブとともに光学インサートとして用いられ得る。マスターモールドを構成する任意の他のツールは、従来の成形方法と同様に、金属から形成され得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、レンズモールドを作製するためのツールのアセンブリを示す。
【図2】図2は、パターン形成されたレジストを有するレンズモールドツールの一部を示す。
【図3】図3は、ツールをエッチングするための反応容器内にある図2のレンズモールドツールを示す。
【図4】図4は、エッチング後のレンズモールドツールの部分図を示す。
【図5】図5は、静的モールド部材上のエッチングされた小身を示す。
【図6】図6は、レンズの凸面にしるしを成形するためのレンズモールドの断面図である。
【図7】図7は、その表面にしるしが成形されたレンズの断面図である。
【図8a】図8aは、等方性エッチングによって作製されたレンズツールの断面図である。
【図8b】図8bは、等方性エッチングによって作製されたレンズツールの断面図である。
【図8c】図8cは、等方性エッチングによって作製されたレンズツールの断面図である。
【図8d】図8dは、異方性エッチングによって作製されたレンズツールの断面図である。
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、コンタクトレンズ表面の1つまたは複数のしるしの近傍の割れが減少した改良されたコンタクトレンズの製造に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
コンタクトレンズの適切な同定は、重要である。大部分のコンタクトレンズ着用者は、各眼について異なった処方を有するので、各コンタクトレンズの光学倍率はしばしば異なる。さらに、コンタクトレンズ上の1つまたは複数の識別しるしの使用は、着用者によって、レンズを互いに区別するための手段としてのみならず、レンズの片側を他方の側と区別する手段としても用いられ得る。例えば、1つまたは複数のしるしは、レンズが眼に適切に(すなわち、眼に対してレンズの適切な側で)入れられたか否かを決定するための反転指標としても用いられ得る。しるしは、一緒になって、識別目的のためにレンズ上にロット番号およびバッチ番号を形成し得る。
【0003】
品質管理者は、さらなる検査のためにレンズを迅速に識別して方向決めすることができなければならない。レンズ検査者はしばしば、各レンズを検査するために制限された長さの時間しかない。それゆえ、レンズは、検査プロセスを始めるために一貫して方向決めされなければならない。しばしば、レンズ上の1つまたは複数のしるし(例えば、ロゴ)は、レンズを方向決めするために用いられる。各個々のレンズ検査は迅速に行われなければならないので、検査者がレンズを方向決めすることを補助する、非常に明白な1つまたは複数のしるしが重要である。
【0004】
多くの製造者は、コンタクトレンズにしるしを移すために、しるしをモールドツールに化学的にエッチングする。モールドツールは、ステンレス鋼または無電解ニッケルから作製される。このツールは、レンズの前面または後面の湾曲部に成形される。しるしを受ける表面はフォトレジストでマスクされ、そしてレジスト中の開口部はレンズのしるしに対応する。モールドツールは、酸浴においてエッチングされて、ツールの露出表面から材料が除去される。この結果、モールドツールの表面に空洞が形成され、この空洞はしるしに対応する。次に、このモールドツールにモールド本体材料(代表的にはポリプロピレン)が充填される。このモールド本体は、モールドツールおよびしるしのネガティブ画像を受け取る。次いで、このモールド本体にコンタクトレンズ材料が充填され、そしてレンズの表面にしるしが成形される。
【0005】
モールドツール上の化学的エッチングを用いて作製されたしるしを有するレンズは、しるし内またはしるしの近傍のいずれかにおいて多数の割れおよび亀裂を有する。そのため、化学的にエッチングされるモールドツールから作製される多くのレンズは、しばしば、廃棄される。本発明者らは、大部分の割れおよび亀裂の原因が化学的エッチングであることを見出した。実用的に全ての化学的エッチングは等方性である。そのため、しるしは、その側壁に顕著なテーパを伴って、モールドツールにエッチングされる。ポリプロピレンまたは他のモールド材料がモールドツールから除去される場合、モールドツールは、テーパ状のしるしのネガティブレプリカを保有する。さらに、酸は、モールドツールに粗い表面を残す。テーパおよび粗さは、モールド本体が除去された場合にポリプロピレンの一部に保持され得、それにより、モールド本体におけるしるし表面の粗さが悪化する。これらの欠点は、コンタクトレンズがモールド本体から取り出された場合に繰り返され得、そして悪化し得、ここで、テーパおよび粗い表面は、レンズをモールド本体内に保持する傾向がある。機械的力が適用されてレンズが離される場合、レンズ本体は、しるしに対応するテーパ状の粗面部分上の亀裂および割れを発達させる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要旨)
本発明者らは、しるしを有するコンタクトレンズにおける亀裂および割れの問題が、モールドツールをエッチングする方法を変更することにより低減または排除され得ることを見出した。本発明者らは、異方性エッチングにより、しるしのテーパ度合いの低いまたはほぼまっすぐな側壁および床が提供され、表面が平滑であることを見出した。異方性エッチングの好ましい方法は、塩化ナトリウム溶液の浴および直流電源を用いた電気化学的エッチングであった。しかし、当業者は、他の異方性エッチング方法が用いられ得ることを理解し、このような異方性エッチング方法としては、反応性イオンエッチングおよびプラズマエッチングが挙げられるがこれらに限定されない。モールドツールをアノードに接続し、そしてこのツールの表面を従来手段によってマスクした。モールドツールにおけるしるしは、ポリプロピレンモールド本体に移され、ここからコンタクトレンズに移された。亀裂および割れの問題は事実上排除された。
【0007】
本発明は、レンズモールドツール、レンズモールドおよびレンズを作製する方法を提供する。本発明はまた、しるし内にもその近傍にも事実上亀裂がない新たなレンズを提供する。本発明はまた、驚くほどに識別可能な明るいしるしを有する新たなレンズを提供する。
【0008】
しるしを有するコンタクトレンズを製造するための、そしてこのしるし内およびこのしるし近傍でのレンズ材料における亀裂および割れを減らすためのプロセスは、金属モールドツールから金属を異方的に除去して、コンタクトレンズに対するしるしに対応するしるしを金属モールドツールに形成する工程で始まる。これにより、比較的平行な側壁および対向する側壁に向かって横断する床を伴うしるしが提供される。次に、モールド本体は、モールドツールにおいてキャスティングされて、金属モールドツールの比較的平滑なしるしを有するネガティブモールドが提供される。モールド本体が調製された後、次いで、このレンズ自体が、モールド本体において従来方法によってキャスティングされる。この方法は、モールドにコンタクトレンズ材料を充填する工程およびこのコンタクトレンズ材料を硬化させて、比較的平滑な表面を有するしるしを有するコンタクトレンズを形成する工程を包含する。このプロセスは、モールドツールおよびレンズを提供し、ここで、このしるしは、このしるしの頂部および底部において実質的に同じ距離の間隔があけられている側壁を有する。
【0009】
本発明は、前面および後面ならびに片側または両側の表面からレンズ本体に延びるしるしを有するコンタクトレンズ材料の本体を備える新たなレンズを提供する。このしるしは、側壁および側壁の端部でかつこの表面の下に配置された床によって規定される。この側壁は、しるしの表面および床において実質的に同じ距離の間隔があけられている。この側壁は、10度未満のわずかなテーパを有し得、そしてこのテーパは1方向または他の方向であり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(発明の詳細な説明)
図1は、プラスチックコンタクトレンズモールドを作製するための本発明の好ましい実施形態によるツールを図示する。ツール1は、ステンレス鋼または無電解ニッケルから構築され、そして円筒状ヘッド3の上端部に形成されたモールディング部分として、光学的に平滑なモールディング表面2を備える。
【0011】
ツール1を異方的にエッチングするためのプロセスを図2〜図4に示す。ツール1には、従来の様式でパターン形成されて所望のしるし(例えば、位置合わせマーク、ロゴなど)に対応する開口部52が形成されたフォトレジスト50がコーティングされる。次いで、ツール1は、塩化ナトリウムおよび水の溶液55を含む反応容器54中に配置される。この容器は、非導電性の耐酸性材料(例えば、ガラス、水晶またはプラスチック)から作製される。一方の電極にはこのツールが接続され、他方には、エッチングされるべき表面の近傍の、容器中に懸垂された電極に接続される。ツール1は、直流電源58のアノード末端に接続され、そして容器または容器中に懸垂された電極は、電源58のカソードに接続される。電流が印加される場合、このツールの表面2は、電気化学的エッチングに供され、この電気化学的エッチングにより、表面が異方性にエッチングされる。言い換えると、エッチングプロセスは、別の方向よりも1つの方向で強い。この場合、このエッチングプロセスは、表面2に対して垂直な方向において、より強い。このプロセスは、側壁および床を有する、プロファイルされた空洞60を作製する。これらの側壁は、互いに側壁が実質的に平行になるように、ほぼ同じ距離の間隔があけられている。これらの側壁は、先行技術の化学的にエッチングされた空洞の対応する側壁と比較して、比較的平滑である。所望の場合、電気エネルギーを増大させて、空洞の床を「粗面」にし得る。粗面にされた床は、レンズ上のしるしの視覚認知を増強する。プラスチックモールドは、エッチングされたヘッド3上にキャスティングされて、図5に示すように、エッチングされた小身(tang)を備えるモールド部分21を提供する。
【0012】
ツール1は、キャスティング成形機または射出成形機内に配置される。ツール1には、適切なモールド材料(例えば、ポリプロピレン)が注入されて、コンタクトレンズのためのモールドが作製される。使い捨てポリプロピレンモールドにおいてコンタクトレンズを成形することは、金属モールドを製造することよりも経済的である。ポリプロピレンモールド21は、表面2および空洞60のネガティブレプリカを受け取って、隆起したしるし62を形成する。
【0013】
従って、ツール1は、ネガティブ凹モールディング表面を複数のプラスチックコンタクトレンズモールドに形成するように設計される。次いで、従来方法(例えば、スピンキャスティング、静的(static)キャスティング、またはスピンキャスティングした後のレンズ片面の旋盤切断)によって、コンタクトレンズがプラスチックモールド中で生産され得、ここで、コンタクトレンズの凸レンズ表面は、プラスチックコンタクトレンズモールドの凹モールディング表面から形成される。
【0014】
本発明をさらに図示するために、コンタクトレンズを静的キャスティングするための代表的プラスチックモールドアセンブリを図6および図7に図示する。モールドアセンブリ20は、小身62を有するほぼ円筒状の第1モールド21およびほぼ円筒状の第2モールド22を備える。第1モールド21は凹モールディング表面23を備え、そして第2モールド22は凸モールディング表面24を備える。モールド部品が図6に示されるようにアセンブリされる場合、表面23、24は、空洞25を規定し、この空洞25にコンタクトレンズ10がモールドされる。図4に示す実施形態について、凸モールディング表面2を含むツール1は、第1モールド21の射出成形に適切であり、ここで、ツールのモールディング表面2は、第1モールドのモールディング表面23を形成するために用いられる。モールド21および22を分離した場合、レンズ10は、その前面にしるし64を有する。
【0015】
先行技術の化学的エッチングは、しるしの粗面または等方性エッチングをもたらす。コンタクトレンズにおける先行技術のしるしの例を図8a〜図8cに示す。先行技術のレンズは、しるし内にまたはしるしの近傍に亀裂および割れ200を有する。対照的に、異方的にエッチングされたツールから作製されたレンズは、図8dに示されるように、比較的平滑な、まっすぐな側壁および床を有する。これらの側壁はわずかにテーパを有し得、そしてテーパは、表面にある開口部に向かってテーパ状(ポジティブ)または開口部から離れてテーパ状(ネガティブ)であり得る。
【0016】
このプロセスは、エッチングのために塩化ナトリウム溶液を使用するが、HClおよびHNO3を含むがこれらに限定されない、他のニトレート溶液またはハライド溶液が当業者に公知である。例えば、米国特許第5,374,338号および同第4,247,377号に記載される方法を参照のこと。これらの開示は、参考として援用される。エッチングの深さは、エッチング操作の電圧、電流、温度および持続時間に依存する。当業者は、期待される深さを算出してもよく、慣用実験を行ってエッチング操作についてのパラメーターを決定してもよい。本発明のプロセスは、1リットルあたり120g〜130gの濃度範囲を有するNaCl溶液中でエッチングした場合のステンレス鋼および無電解ニッケルについて以下の範囲の操作を有する:
【0017】
【表1】
本発明の方法は、ツールエッチング欠損のないレンズを生産するが、このしるしの平滑表面は、観察することが困難であると考えられた。しかし、この結果は、予想とちょうど反対であった。本発明を用いて作製したレンズを試験した場合、実験者は、本発明のプロセスを用いて作製したレンズが、従来のしるしを有するレンズよりも容易に認知されるしるしを有することを見出した。
【0018】
このプラスチックコンタクトレンズモールドは、当該分野で公知のプラスチック樹脂(ポリプロピレンのような熱可塑性樹脂を包含する)から成形され得る。プラスチックコンタクトレンズモールドを作製するための本発明の方法は当該分野で公知である。例えば、記載された好ましい実施形態のツール1には、このツールが射出成形ピンの形態をとるように、円筒状の下方基部4が提供され得、そしてプラスチックコンタクトレンズモールドを成形するために用いられる射出成形装置にこのツールを取り付けるために、空洞5が提供される。さらなる例として、本発明のツールは、モールドスリーブとともに光学インサートとして用いられ得る。マスターモールドを構成する任意の他のツールは、従来の成形方法と同様に、金属から形成され得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、レンズモールドを作製するためのツールのアセンブリを示す。
【図2】図2は、パターン形成されたレジストを有するレンズモールドツールの一部を示す。
【図3】図3は、ツールをエッチングするための反応容器内にある図2のレンズモールドツールを示す。
【図4】図4は、エッチング後のレンズモールドツールの部分図を示す。
【図5】図5は、静的モールド部材上のエッチングされた小身を示す。
【図6】図6は、レンズの凸面にしるしを成形するためのレンズモールドの断面図である。
【図7】図7は、その表面にしるしが成形されたレンズの断面図である。
【図8a】図8aは、等方性エッチングによって作製されたレンズツールの断面図である。
【図8b】図8bは、等方性エッチングによって作製されたレンズツールの断面図である。
【図8c】図8cは、等方性エッチングによって作製されたレンズツールの断面図である。
【図8d】図8dは、異方性エッチングによって作製されたレンズツールの断面図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
しるしを有するコンタクトレンズを製造するための、そして該しるし内および該しるし近傍での該コンタクトレンズにおける亀裂および割れを減らすためのプロセスであって:
金属モールドツールから金属を電気化学的に除去して、異方性しるしを該金属モールドツールに形成する工程であって、該異方性しるしは、該コンタクトレンズに対するしるしに対応する、工程;
該モールドツールを用いてモールドをキャスティングして、該金属モールドツールの該異方性しるしを有するネガティブモールドを提供する工程;および
該モールドにコンタクトレンズ材料を充填し、該コンタクトレンズ材料を硬化させて、異方性しるしを有するコンタクトレンズを形成する工程
を包含する、プロセス。
【請求項2】
以下の工程:
前記モールドツールを、1以上の開口部を有するレジスト材料でマスキングする工程であって、該開口部は、前記コンタクトレンズについての前記しるしの形状に対応する、工程;
該開口部を、ニトレート溶液またはハライド溶液に曝露する工程;および
該開口部にある金属を異方性エッチングするために該溶液にDC電圧を印加する工程
をさらに包含する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記DC電圧が約3ボルトである、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記溶液が、1リットルあたり約120グラム〜約130グラムの濃度を有する塩化ナトリウムである、請求項2に記載のプロセス。
【請求項5】
前記マスク材料がフォトレジストであり、前記しるしが、不透明マスクの透明部分を通って通過する光に曝露される、請求項2に記載のプロセス。
【請求項6】
前記しるしが、マスクなしでの放射線ビームへの曝露によって形成される、請求項2に記載のプロセス。
【請求項7】
請求項1に記載のプロセスによって作製された、コンタクトレンズ。
【請求項8】
前記金属モールドツール内の前記しるしが壁および床を有し、ここで該壁が平滑であり、該床が粗面である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項9】
しるしを有するコンタクトレンズを製造するための、そして該しるし内および該しるし近傍でのレンズ材料における亀裂および割れを減らすためのプロセスであって:
金属モールドツールから金属を異方的に除去して、しるしを該金属モールドツールに形成する工程であって、該しるしは、コンタクトレンズに対するしるしに対応する、工程;
該モールドツールにおいてモールドをキャスティングして、該金属モールドツールの比較的平滑なしるしを有するネガティブモールドを提供する工程;および
該モールドにコンタクトレンズ材料を充填し、該コンタクトレンズ材料を硬化させて、比較的平滑な表面を有するしるしを有するコンタクトレンズを形成する工程
を包含する、プロセス。
【請求項10】
前記しるしが、側壁を有し、該側壁が、該しるしの頂部および底部において実質的に同じ距離の間隔があけられている、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
前面および後面ならびにしるしを有するコンタクトレンズ材料の本体を備えるコンタクトレンズであって、該しるしは、該コンタクトレンズの表面から該レンズ本体内に延びて、側壁および該側壁の端部でかつ該表面の下に配置された床を規定しており、ここで、該側壁は、該しるしの該表面および該床において実質的に同じ距離の間隔があけられている、コンタクトレンズ。
【請求項12】
前記側壁が、約10度未満のテーパ状になっている、請求項11に記載のコンタクトレンズ。
【請求項13】
前記テーパが、ポジティブまたはネガティブである、請求項12に記載のコンタクトレンズ。
【請求項14】
前記側壁が、前記床よりも平滑である、請求項13に記載のコンタクトレンズ。
【請求項1】
しるしを有するコンタクトレンズを製造するための、そして該しるし内および該しるし近傍での該コンタクトレンズにおける亀裂および割れを減らすためのプロセスであって:
金属モールドツールから金属を電気化学的に除去して、異方性しるしを該金属モールドツールに形成する工程であって、該異方性しるしは、該コンタクトレンズに対するしるしに対応する、工程;
該モールドツールを用いてモールドをキャスティングして、該金属モールドツールの該異方性しるしを有するネガティブモールドを提供する工程;および
該モールドにコンタクトレンズ材料を充填し、該コンタクトレンズ材料を硬化させて、異方性しるしを有するコンタクトレンズを形成する工程
を包含する、プロセス。
【請求項2】
以下の工程:
前記モールドツールを、1以上の開口部を有するレジスト材料でマスキングする工程であって、該開口部は、前記コンタクトレンズについての前記しるしの形状に対応する、工程;
該開口部を、ニトレート溶液またはハライド溶液に曝露する工程;および
該開口部にある金属を異方性エッチングするために該溶液にDC電圧を印加する工程
をさらに包含する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記DC電圧が約3ボルトである、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記溶液が、1リットルあたり約120グラム〜約130グラムの濃度を有する塩化ナトリウムである、請求項2に記載のプロセス。
【請求項5】
前記マスク材料がフォトレジストであり、前記しるしが、不透明マスクの透明部分を通って通過する光に曝露される、請求項2に記載のプロセス。
【請求項6】
前記しるしが、マスクなしでの放射線ビームへの曝露によって形成される、請求項2に記載のプロセス。
【請求項7】
請求項1に記載のプロセスによって作製された、コンタクトレンズ。
【請求項8】
前記金属モールドツール内の前記しるしが壁および床を有し、ここで該壁が平滑であり、該床が粗面である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項9】
しるしを有するコンタクトレンズを製造するための、そして該しるし内および該しるし近傍でのレンズ材料における亀裂および割れを減らすためのプロセスであって:
金属モールドツールから金属を異方的に除去して、しるしを該金属モールドツールに形成する工程であって、該しるしは、コンタクトレンズに対するしるしに対応する、工程;
該モールドツールにおいてモールドをキャスティングして、該金属モールドツールの比較的平滑なしるしを有するネガティブモールドを提供する工程;および
該モールドにコンタクトレンズ材料を充填し、該コンタクトレンズ材料を硬化させて、比較的平滑な表面を有するしるしを有するコンタクトレンズを形成する工程
を包含する、プロセス。
【請求項10】
前記しるしが、側壁を有し、該側壁が、該しるしの頂部および底部において実質的に同じ距離の間隔があけられている、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
前面および後面ならびにしるしを有するコンタクトレンズ材料の本体を備えるコンタクトレンズであって、該しるしは、該コンタクトレンズの表面から該レンズ本体内に延びて、側壁および該側壁の端部でかつ該表面の下に配置された床を規定しており、ここで、該側壁は、該しるしの該表面および該床において実質的に同じ距離の間隔があけられている、コンタクトレンズ。
【請求項12】
前記側壁が、約10度未満のテーパ状になっている、請求項11に記載のコンタクトレンズ。
【請求項13】
前記テーパが、ポジティブまたはネガティブである、請求項12に記載のコンタクトレンズ。
【請求項14】
前記側壁が、前記床よりも平滑である、請求項13に記載のコンタクトレンズ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図8d】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図8d】
【公表番号】特表2007−508170(P2007−508170A)
【公表日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−535629(P2006−535629)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【国際出願番号】PCT/US2004/033792
【国際公開番号】WO2005/037530
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(391008847)ボシュ・アンド・ロム・インコーポレイテッド (137)
【氏名又は名称原語表記】BAUSCH & LOMB INCORPORATED
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【国際出願番号】PCT/US2004/033792
【国際公開番号】WO2005/037530
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(391008847)ボシュ・アンド・ロム・インコーポレイテッド (137)
【氏名又は名称原語表記】BAUSCH & LOMB INCORPORATED
【Fターム(参考)】
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