説明

レンズ送達システム

眼内レンズ送達システムは、内壁に囲まれた貫通穴を有する注入具本体を含んでいる。このシステムはさらに、貫通穴にフィットするように形成されたプランジャを含んでいる。このシステムは、プランジャに接続されていて、プランジャが貫通穴の中に挿入されたときに内壁に接触して撓むように形成された複数の変形可能部材も含んでいる。変形可能部材は、シャフトを中心に配置するとともに、注入具本体の中に挿入されて貫通穴の中で撓んだとき、プランジャの前進に抵抗する所定の力を発生させるのに寄与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年6月9日に出願された米国仮出願シリアル番号第61/185428号の優先権を主張するものであり、その内容は言及することにより本明細書に組み込まれるものとする。
【0002】
本発明は、眼内レンズ(IOL)に関するものであり、より詳細には、IOLを目の中に入れるのに用いる装置に関する。
【背景技術】
【0003】
ヒトの目は、最も簡単に表現すると、角膜と呼ばれる透明な外側部分を通じて光を透過・屈折させ、さらに水晶体によって目の背面にある網膜の上に画像の焦点を合わせることによって視力を提供する機能を持つ。焦点画像の品質は多くの因子に依存し、該因子として、例えば目のサイズ、形状、長さや、角膜と水晶体の形状、透明度などがある。傷、年齢、疾患によって水晶体の透明度が低下すると視力が悪化する。なぜなら網膜まで伝えることのできる光が減少するからである。目の水晶体におけるこの欠陥は、医学では白内障として知られている。この症状の治療法は、水晶体を外科的に除去して人工レンズすなわちIOLを埋め込むというものである。
【0004】
初期のIOLは、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などの硬質プラスチックで作られていたが、シリコーン、軟質アクリル樹脂、ヒドロゲルでできた柔らかい折り曲げ可能なIOLが、ますます一般的になってきている。なぜならそうした柔らかいレンズは折り曲げたり巻いたりでき、しかもより小さな切開部を通じて挿入できるからである。レンズを巻いたり折り曲げたりするのにいくつかの方法が利用されている。一般的な1つの方法は、レンズを折り曲げるとともに比較的小さな直径の隙間を提供する注入用カートリッジである。レンズは、通常は先端部が柔らかいプランジャにより、その隙間を通じて目の中に押し込むことができる。そのようなカートリッジは米国特許第4,681,102号(Bartell)に記載されており、分割されていて長手方向の蝶番になったカートリッジを含んでいる。同様のデザインが、米国特許第5,494,484号と第5,499,987号(Feingold)、第5,616,148号と第5,620,450号(Eagles他)に示されている。カートリッジの別のデザインとして、例えば米国特許第5,275,604号(Rheinish他)と第5,653,715号(Reich他)が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
眼内レンズ送達システムで用いられるカートリッジとハンドピースのどのような組み合わせでも、医師が快適かつ直観的に使用できることが望ましい。医師にとって優れた“感触”の眼内レンズ送達システムは、その眼内レンズ送達システムを用いる外科手術をより容易にして成功率を向上させることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の特有の一実施形態では、眼内レンズ送達システムは、内壁に囲まれた貫通穴を有する注入具本体を含んでいる。このシステムはさらに、貫通穴にフィットするように形成されたプランジャを含んでいる。このシステムは、プランジャに接続されていて、プランジャが貫通穴の中に挿入されたときに内壁に接触して撓むように形成された複数の変形可能部材も含んでいる。変形可能部材は、シャフトを中心に配置するとともに、注入具本体の中に挿入されて貫通穴の中で撓んだとき、プランジャの前進に抵抗する所定の力を発生させるのに寄与する。
【0007】
本発明の別の一実施形態では、眼内レンズ送達システムを製造する方法は、内壁に囲まれた貫通穴を有する注入具本体の中でプランジャが前進するのに抵抗する力を決定することを含んでいる。この方法は、プランジャに接続されていて、注入具本体の貫通穴の中にそのプランジャが収容されたときに撓んで所定の抵抗力を発生させるのに寄与する複数の変形可能部材の形状を決定することも含んでいる。この方法はさらに、注入具本体と、プランジャと、複数の変形可能部材とを含む眼内レンズ送達システムを製造することを含んでいる。
【0008】
本発明の他の目的、特徴、利点は、図面を参照するとともに、図面および請求項に関する以下の説明を参照することで明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の特有の一実施形態による眼内レンズ送達システムを示す図である。
【図2A】本発明の特有の一実施形態によるプランジャを異なる位置から見た図である。
【図2B】本発明の特有の一実施形態によるプランジャを異なる位置から見た図である。
【図3】本発明の別の一実施形態による眼内レンズ送達システムを製造する方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明の特有の一実施形態による眼内レンズ送達システム100を示している。この送達システム100は、貫通穴104を有する注入具本体102と、注入具本体102の中で眼内レンズを前進させるプランジャ200を含んでいる。この明細書では、“注入具本体”という用語(その一例が注入具本体102である)は、眼内レンズを押すときにプランジャ200が中を前進する貫通穴104を取り囲む任意の部分、要素、要素群を意味する。“プランジャ”という用語は、眼内レンズを押して注入具本体の中を通過させるために貫通穴104を通って前進する任意の要素を記述している。注入具本体は、送達システム100の他の要素に接続されていてもよい(が、必ずしもそうでなくてもよい)。特に、本発明のさまざまな実施形態のプランジャ200は、Brownらに付与された米国特許第7,156,854号(その内容は言及することにより本明細書に組み込まれるものとする)に詳細に記載されているレンズ送達システムと適合性のあるものにすることができる。
【0011】
特有の実施形態では、注入具本体102の全体は、適切な材料から単一の部材として形成することができる。材料として、例えばポリプロピレンやポリエチレンが挙げられる。別の実施形態では、注入具本体102は、再利用可能なハンドピースのカップリング部によって形成することができ、そのカップリング部が、外科的切開部を通じて眼内レンズを注入するためのノズル部を有する眼内レンズ保持用使い捨てカートリッジに対する連続的な貫通穴104を形成する。さまざまな実施形態には、眼内レンズの前進を容易にするため注入具本体102の貫通穴104の中に配置した潤滑性コーティングも含まれる。しかしこれまでの眼内レンズ送達システムの1つの問題点は、貫通穴104の中でプランジャもあまりに容易に滑る可能性があるため、眼内レンズが前進しているときにリアルな触覚によるフィードバックがなくなることである。本発明の特有の実施形態では、プランジャ200の前進に対する抵抗力を発生させることによってこの問題点に対する1つの解決法が提供される。それについて以下により詳しく説明する。
【0012】
プランジャ200は、貫通穴104の中でそのプランジャ200のシャフト202を前進させることによって眼内レンズを押す。プランジャ200には、そのプランジャ200の互いに反対側に2つの変形可能部材204が取り付けられている。図2Aと図2Bは、図1の変形可能部材204に関する追加の図を示してある。図示した実施形態では、変形可能部材204は、プランジャ200のシャフト202から延長したアーチ形の弾性部である。変形可能部材204の頂部は、プランジャ200が貫通穴104の中に入れられたときに注入具本体102の内壁と接触し、その内壁によって撓むように形成されている。変形可能部材204が撓むことによって生じる力は、貫通穴104の中でのプランジャ200の位置決めに役立つため、眼内レンズに対するプランジャ200のシャフト202の方向が信頼性よく決まる。変形可能部材204は貫通穴104の中に十分にきつく嵌まりもするため、変形可能部材204が注入具本体102の内壁によって圧縮されるとき、内壁に対する摩擦力がプランジャ200の前進に抵抗する。すると貫通穴104の中を滑るプランジャ200に対する触知可能な抵抗力が発生する。すると今度はその両者が、いつプランジャ200が正しく眼内レンズ送達システム100の中に嵌まったかを医師が認識するのを助けるとともに、一定の抵抗力を提供するため、レンズ送達プロセスの間を通じて力を制御して加えることが容易になる。
【0013】
抵抗力は、変形可能部材204の撓みによって生じる力に応じて変化するため、変形可能部材204のデザインを調整して眼内レンズ送達システム100の抵抗力を変化させることが可能である。好ましいことに、力は、医師にとって望ましい“感触”となるように調整できる。例えば抵抗力は、どのような抵抗力が最適であると感じるかを評価するため医師の間で調査した結果に基づいて較正することができる。別の一実施形態では、眼内レンズ送達システムのハンドピースに関してさまざまな医師が好む典型的な抵抗力を指標とし、変形可能部材204を調整して適切な抵抗値を発生させることができる。さらに別の一実施形態では、複数の眼内レンズ送達システム100について複数の異なる抵抗値を選択することができる。すると医師は、相対的に“硬い”(すなわち前進に対する抵抗力が大きい)プランジャ200を選択したり、相対的に“屈曲しやすい”(すなわち前進に対する抵抗力がより小さい)プランジャ200を選択したりすることが可能になる。
【0014】
変形可能部材204は、眼科の用途で用いるのに適した選択した材料(例えばポリプロピレン)から、プランジャ200とは別に形成することや、プランジャ200と一体になった単一部材として同時に形成することができる。変形可能部材204を有するプランジャ200を単一の部材として形成することには、射出成形などの技術を利用した製造ステップが少なくなるという利点がある。すると変形可能部材204によって生み出される抵抗力は、選択する材料が1つであるため変形可能部材204の形状をさまざまに変化させることによって調整できる。その結果、特徴的な抵抗力を持つプランジャ200を製造することができる。あるいは変形可能部材204の形は同じだが弾性の異なるさまざまな材料を選択して用いることもできよう。一般に、前進に対するプランジャ200の抵抗力を変化させるのに適した公知のあらゆる調整法を利用することができる。
【0015】
プランジャ200に沿って複数の変形可能部材204を配置してプランジャ200の安定性を高めることもできよう。例えば一対の変形可能部材204をプランジャ200の遠位端のより近くに配置する一方で(この文脈における“遠位”は、レンズを入れているときに切開部の最も近くに配置されるプランジャ端部を意味する)、別の一対を近位端のより近くに配置する(“近位”は、レンズを入れているときに切開部から最も遠い端部を意味する)。変形可能部材204をこのように配置すると、プランジャ200が前進するときに貫通穴104の中でプランジャ200が揃った状態を維持するのに役立つ。
【0016】
図3は、本発明の特有の一実施形態による眼内レンズ送達システム100を製造する方法の一例を示すフローチャート300である。ステップ302では、眼内レンズ送達システム100のためのプランジャ200の前進に対する望ましい抵抗力を決定する。望ましい抵抗力は、さまざまなデザインを用いて医師の間で調査した結果に基づいて決定すること、または医師が利用するレンズ送達システムの力を測定した結果に基づいて決定すること、またはシステム100のあらゆる抵抗源に基づく理論的計算値に基づいて決定すること、または数値を決定するためのこれらの技術および/または適切な他の任意の技術に基づいて決定することができる。ステップ304では、少なくとも2つの変形可能部材204の形状を決定することで、変形可能部材204が貫通穴104の中にプランジャ200を保持し、プランジャ200の前進に対する所定の抵抗力を提供するようにする。変形可能部材204は、上に説明したさまざまな考慮事項のうちの任意の事項に従ってデザインすることができる。その中には、変形可能部材204の形状を決定する際の変形可能部材204の材料を考慮することが含まれる。ステップ302とステップ304を繰り返すこともできる。例えば個別のいろいろなデザインがなされ、それらを医師が評価してフードバックすると、その結果が次のデザインを繰り返すときに用いられる。最後に、ステップ306では、眼内レンズ送達システム100を製造する。適切な製造技術として、射出成形、プレス形成、旋盤加工や、材料の形成について従来技術で知られている任意の技術が挙げられる。
【0017】
上に示した方法の一変形例では、眼内レンズ送達システム100のための抵抗力の異なる複数のプランジャ200は、ステップ302で異なる力を選択することによって製造できる。この別法の特有の実施形態では、ステップ302は、手術に対する異なる要求を満たすために上に説明したのと似た考察に基づき、複数の抵抗値を選択することを含んでいてもよい。同様に、変形可能部材204の複数のデザインは、異なる抵抗力に対応するように決定できる。するとステップ306は、複数のプランジャ200と注入具本体102を製造することを含むことになろう。そのとき注入具本体102は、さまざまなプランジャ200に共通にすること、または特定の変形可能部材204を有するプランジャ200で動作するようにカスタム化することができる。この特有の変形例を詳細に説明したが、この明細書で説明した眼内レンズ送達システム100のさまざまな実施形態の説明に合致するのであれば、製造方法の別のバリエーションも利用できることを理解されたい。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態を上に記述したが、この記述は例示と説明を目的として与えてある。上に開示した装置と方法のバリエーション、変更、修正や、上に開示した装置と方法からの発展は、請求項に記載した本発明の範囲から逸脱するのでなければ採用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内壁に囲まれた貫通穴を有する注入具本体と、
前記貫通穴にフィットするように形成されたプランジャと、
前記プランジャに接続されていて、該プランジャが前記貫通穴の中に挿入されたときに前記内壁に接触して撓むように形成された複数の変形可能部材とを備えていて、
前記変形可能部材は、シャフトを中心に配置するとともに、前記注入具本体の中に挿入されて前記貫通穴の中で撓んだとき、前記プランジャの前進に抵抗する所定の力を発生させるのに寄与する、眼内レンズ送達システム。
【請求項2】
前記変形可能部材はアーチ形であり、該アーチ形をしたそれぞれの変形可能部材の頂部は前記内壁に接触するように形成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記プランジャの前進に抵抗する前記所定の力は、複数の医師の間での調査結果に基づいている、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記複数の変形可能部材は、変形可能部材の第1のペアと変形可能部材の第2のペアを含んでいて、前記第1のペアが前記第2のペアよりも前記プランジャの遠位端により近い、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記プランジャと前記複数の変形可能部材とが1つの材料から単一の部材として形成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記材料はポリプロピレンとポリエチレンとの中から選択される、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
眼内レンズ送達システムを製造する方法であって、
内壁に囲まれた貫通穴を有する注入具本体の中をプランジャが前進することに対する抵抗力を決定するステップと、
前記プランジャに接続されていて、前記注入具本体の前記貫通穴の中に該プランジャが収容されるときに撓んで所定の抵抗力を発生させるのに寄与する複数の変形可能部材の形状を決定するステップと、
前記注入具本体と、前記プランジャと、前記複数の変形可能部材とを含む眼内レンズ送達システムを製造するステップとを有する、方法。
【請求項8】
前記変形可能部材はアーチ形であり、該アーチ形をしたそれぞれの変形可能部材の頂部は前記内壁に接触するように形成されている、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記プランジャが前進することに対する前記所定の抵抗力は、複数の医師の間での調査結果に基づいている、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
眼内レンズ送達システムを製造する前記ステップは、前記プランジャと前記複数の変形可能部材とを1つの材料から単一の部材として形成することを有する、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記材料はポリプロピレンとポリエチレンとの中から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記所定の力は第1の所定の力であり、
前記眼内レンズ送達システムは、第1の複数の変形可能部材を有する第1の眼内レンズ送達システムであり、
前記第1の所定の力とは異なる第2の所定の力を決定するステップと、
前記プランジャに接続されていて、前記注入具本体の前記貫通穴の中に該プランジャが収容されるときに撓んで所定の抵抗力を発生させるのに寄与する第2の複数の変形可能部材の形状を決定するステップと、
前記注入具本体と、前記プランジャと、前記第2の複数の変形可能部材とを含む第2の眼内レンズ送達システムを製造するステップとを有する、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の眼内レンズ送達システムのためのプランジャは、前記第1の複数の変形可能部材とともに1つの材料から単一の部材として形成され、
前記第2の複数の変形可能部材のためのプランジャは、前記第2の複数の変形可能部材とともに前記材料から単一の部材として形成される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記材料はポリプロピレンとポリエチレンとの中から選択される、請求項13に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−529350(P2012−529350A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515004(P2012−515004)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【国際出願番号】PCT/US2010/037374
【国際公開番号】WO2010/144318
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】