説明

レーザーアブレーションによる成膜方法、その方法に用いるレーザーアブレーション用ターゲット及びそのレーザーアブレーション用ターゲットの製造方法

【課題】ドロップレットの混入を十分に抑制しながら十分に効率よく成膜することが可能なレーザーアブレーションによる成膜方法を提供すること。
【解決手段】ターゲット1にレーザー光Lを照射して飛散粒子aを発生させ、基材5の表面に飛散粒子aを付着させて基材5の表面上に膜を形成させるレーザーアブレーションによる成膜方法であって、
ターゲット1が支持基板と該支持基板上に形成された無機材料の粒子からなる粒子層とを備えており、前記無機材料の粒子の平均粒子径が5nm〜50μmであり、且つ、前記粒子層の厚みが1〜200μmであることを特徴とするレーザーアブレーションによる成膜方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーアブレーションによる成膜方法、その方法に用いるレーザーアブレーション用ターゲット並びにそのレーザーアブレーション用ターゲットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、樹脂や金属等からなる基材の表面に無機材料を含む膜を成膜する技術として、ターゲットの表面にレーザー光を照射して飛散粒子を発生させて、その飛散粒子を基材の表面に付着させる、いわゆるレーザーアブレーションを利用する成膜方法が注目されている。そして、このようなレーザーアブレーションによる成膜方法においては、形成される膜中に、いわゆるドロップレット(直径0.1μm以上(0.1〜10μm程度)の粒であってレーザーアブレーション中にレーザー光の照射によりターゲットの表面においてターゲットの材料が溶融する等して形成される粒)が混入してしまうという問題があり、ドロップレットの混入を抑制するために種々の方法が検討されてきた。
【0003】
例えば、特開2003−049262号公報(特許文献1)においては、特定の平面吸着板を有する高速回転体をターゲットと基材との間に備えたレーザーアブレーション装置を用い、レーザーアブレーションの際に前記高速回転体を高速で回転させることによりドロップレットを捕捉して、膜中にドロップレットが混入することを防止する技術が開示されている。また、特開2005−113255号公報(特許文献2)においては、両面まで貫通している多数の貫通穴が設けられた円板からなる穴状回転フィルター板をターゲットと基板との間に備えたレーザーアブレーション装置を用い、レーザーアブレーションの際に、その貫通穴を通過した微粒子のみが基板に堆積するようにして、膜中にドロップレットが混入することを防止する技術が開示されている。しかしながら、特許文献1〜2に記載のような成膜方法においては、本来基材に付着させるために発生させた飛散粒子も前記高速回転体又は穴状回転フィルター板に捕捉されてしまい、基材上に目的とする膜を十分な成膜速度で製造することができなかった。そのため、レーザーアブレーションの際に上述の高速回転体や穴状回転フィルター板等のようなフィルター類を利用することなく、ドロップレットの混入を十分に抑制することが可能なレーザーアブレーションによる成膜方法の出現が望まれている。
【0004】
なお、2006年発行のレーザー学会学術講演会第26回年次大会講演予稿集(非特許文献1)の75〜76頁においては、落下させた高温のSnやSnO粉末にレーザー照射して高温のプラズマを形成させて3nmの極端紫外光を発生させる方法が開示されている。しかしながら、かかる非特許文献1においては、レーザー照射により発生する飛散粒子(微粒子)を堆積せしめて膜を製造することについては何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−049262号公報
【特許文献2】特開2005−113255号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】2006年発行,レーザー学会学術講演会第26回年次大会講演予稿集,第75頁〜第76頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ドロップレットの混入を十分に抑制しながら十分に効率よく成膜することが可能なレーザーアブレーションによる成膜方法、その方法に用いるレーザーアブレーション用ターゲット及びそのレーザーアブレーション用ターゲットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ターゲットにレーザー光を照射して飛散粒子を発生させ、基材の表面に前記飛散粒子を付着させて前記基材の表面上に膜を形成させるレーザーアブレーションによる成膜方法に、前記ターゲットとして、支持基板と該支持基板上に形成された無機材料の粒子からなる粒子層とを備えており、前記無機材料の粒子の平均粒子径が5nm〜50μmであり、且つ、前記粒子層の厚みが1〜200μmであるターゲットを用いることにより、ドロップレットの混入を十分に抑制しながら十分に効率よく成膜することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明のレーザーアブレーションによる成膜方法は、ターゲットにレーザー光を照射して飛散粒子を発生させ、基材の表面に前記飛散粒子を付着させて前記基材の表面上に膜を形成させるレーザーアブレーションによる成膜方法であって、
前記ターゲットが支持基板と該支持基板上に形成された無機材料の粒子からなる粒子層とを備えており、前記無機材料の粒子の平均粒子径が5nm〜50μmであり、且つ、前記粒子層の厚みが1〜200μmであることを特徴とする方法である。
【0010】
本発明のレーザーアブレーション用ターゲットは、支持基板と該支持基板上に形成された無機材料の粒子からなる粒子層とを備えており、前記無機材料の粒子の平均粒子径が5nm〜50μmであり且つ前記粒子層の厚みが1〜200μmであることを特徴とするものである。
【0011】
また、上記本発明のレーザーアブレーションによる成膜方法及びレーザーアブレーション用ターゲットにおいては、前記粒子層の厚みが2〜50μmであることが好ましく、また、前記無機材料はチタニア、アルミナ、シリカ、酸化スズ、酸化インジウム、酸化ニッケル、ジルコニア、酸化鉄、SiC、チタン酸バリウム、窒化ホウ素、フェライト、チタン酸ジルコン酸鉛、Si、ステアタイト、酸化亜鉛及びYBaCu7−σからなる群から選択される少なくとも1種の金属化合物であることが好ましい。
【0012】
本発明のレーザーアブレーション用ターゲットの製造方法は、分散媒と平均粒子径が5nm〜50μmである無機材料の粒子とを含有するスラリーを、支持基板の表面上に、前記分散媒の除去後に前記無機材料の粒子により形成される粒子層の厚みが1〜200μmとなるように塗布して、前記支持基板の表面上に前記スラリーの塗布膜を形成した後に、前記塗布膜から分散媒を除去し、前記支持基板と前記支持基板上に形成された前記粒子層とを備えるレーザーアブレーション用ターゲットを得ることを特徴とする方法である。
【0013】
このような本発明のレーザーアブレーション用ターゲットの製造方法においては、前記支持基板の表面上に、前記粒子層の厚みが2〜50μmとなるようにスラリーを塗布することが好ましい。また、上記本発明のレーザーアブレーション用ターゲットの製造方法においては、前記無機材料がチタニア、アルミナ、シリカ、酸化スズ、酸化インジウム、酸化ニッケル、ジルコニア、酸化鉄、SiC、チタン酸バリウム、窒化ホウ素、フェライト、チタン酸ジルコン酸鉛、Si、ステアタイト、酸化亜鉛及びYBaCu7−σからなる群から選択される少なくとも1種の金属化合物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ドロップレットの混入を十分に抑制しながら十分に効率よく成膜することが可能なレーザーアブレーションによる成膜方法、その方法に用いるレーザーアブレーション用ターゲット及びそのレーザーアブレーション用ターゲットの製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のレーザーアブレーションによる成膜方法に好適に利用することが可能なレーザーアブレーション装置の好適な一実施形態の基本構成を示す模式図である。
【図2】レーザーアブレーションに用いるターゲットを模式的に示す概略縦断面図である。
【図3】レーザー光照射後のターゲットの粒子層の表面を示す模式図である。
【図4】実施例9〜14で採用したレーザーアブレーションに用いたターゲットの膜厚と、各実施例で形成された膜中のドロップレットの個数(個/cm)との関係を示すグラフである。
【図5】実施例17〜18で採用したレーザーアブレーションに用いたターゲットの膜厚と、各実施例で形成された膜中のドロップレットの個数(個/cm)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のレーザーアブレーションによる成膜方法、レーザーアブレーション用ターゲット、レーザーアブレーション用ターゲットの製造方法の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
図1は、本発明のレーザーアブレーションによる成膜方法に好適に利用することが可能なレーザーアブレーション装置の好適な一実施形態の基本構成を示す模式図である。図1に示すレーザーアブレーション装置は、本発明のレーザーアブレーションによる成膜方法を実施するために、ターゲット1として、支持基板と該支持基板上に形成された無機材料の粒子からなる粒子層とを備えており、前記無機材料の粒子の平均粒子径が5nm〜50μmであり、且つ、前記粒子層の厚みが1〜200μmである本発明のレーザーアブレーション用ターゲットを用いる。そして、このような図1に示すレーザーアブレーション装置は、基本的に、レーザー光源(図示せず)から発せられたレーザー光Lの光路上に配置された集光レンズ2と、レーザー光Lを導入するための窓(本実施形態においては石英製の窓)3Aが設けられた処理容器3と、レーザー光Lの光路上に配置されたターゲット1と、ターゲット1に接続されているターゲット駆動装置4と、ターゲット1から発生した飛散粒子を付着させるための基材5と、基材5を支持するための支持体6と、処理容器3に接続された真空ポンプ7とを備えている。なお、図1中、Pはターゲット1の表面上に発生するプラズマを示し、aは飛散粒子を示す。また、ターゲット1の概略縦断面図を図2に模式的に示す。
【0018】
ターゲット1は、図2に示すように、支持基板1Aと支持基板1A上に形成された無機材料の粒子からなる粒子層1Bとを備えており、前記無機材料の粒子の平均粒子径が5nm〜50μmであり、且つ、粒子層1Bの厚みXが1〜200μmであるレーザーアブレーション用のターゲットである。
【0019】
このような支持基板1Aは、無機材料の粒子からなる粒子層1Bを支持できるものであればよく、その材料等は特に制限されるものではない。このような支持基板1Aとしては、ケイ素、アルミニウム、鉄、ステンレス又は銅を材料として用いるものが好ましい。このような材料は1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、このような支持基板1Aとしては市販のSiウエハ(コマツ電子金属株式会社製の商品名「4インチ・シリコン・ウェーハ」)等を用いてもよい。また、このような支持基板1Aの形状としては特に制限されず、板状、円形状等としてもよい。
【0020】
また、支持基板1A上に形成された粒子層1Bは、無機材料の粒子により形成される層である。このような無機材料としては、無機物質を含んでいるものであればよく特に制限されず、例えば、遷移元素金属、典型元素金属、半金属等の各種金属及びこれらを含む化合物(酸化物、窒化物、炭化物等)が挙げられる。このような無機材料としては、通常のレーザーアブレーションにおいてバルク状のターゲットを形成することが困難である材料の成膜をするという観点から、チタニア、アルミナ、シリカ、酸化スズ、酸化インジウム、酸化ニッケル、ジルコニア、酸化鉄、SiC、チタン酸バリウム、窒化ホウ素、フェライト、チタン酸ジルコン酸鉛、Si、ステアタイト、酸化亜鉛、YBaCu7−σからなる群から選択される少なくとも1種の金属化合物であることが好ましい。また、このような無機材料の中でも、同様の観点から、金属酸化物がより好ましい。このような金属酸化物としては、チタニア、アルミナ、シリカ、酸化スズ、酸化インジウム、酸化ニッケル、ジルコニア、酸化鉄、チタン酸バリウム、フェライト、チタン酸ジルコン酸鉛、ステアタイト、酸化亜鉛、YBaCu7−σが好ましく、チタニア、アルミナ、ジルコニア、シリカがより好ましい。なお、このような金属酸化物は、前記金属酸化物のうちの1種からなるものであってもよく、あるいは2種以上が組み合わされたもの(複合酸化物、固溶体等)であってもよい。
【0021】
また、このような無機材料の粒子は、平均粒子径が5nm〜50μmのものである。このような無機材料の粒子の平均粒子径が前記下限未満では凝集が起こりやすく、その製造も困難である。他方、前記無機材料の粒子の平均粒子径が前記上限を超えると溶媒に溶けにくく、また、塗布も困難となる。また、このような無機材料粒子の平均粒子径としては、同様の観点で、より高い効果が得られることから5nm〜1μmであることがより好ましく、10〜200nmであることが特に好ましい。
【0022】
また、粒子層1Bの厚みXは1〜200μmである。このような粒子層1Bの厚みXが前記下限未満では、レーザーアブレーション時に支持基板もアブレーションしてしまう可能性がでてくることとなる。他方、粒子層1Bの厚みXが前記上限を超えると、得られるターゲット1を用いてレーザーアブレーションを施した際に、ドロップレットが膜中に混入することを十分に抑制できなくなる。また、このような粒子層1Bの厚みXとしては、同様の観点で、より高い効果が得られることから、2〜50μmであることがより好ましく、3〜20μmであることが特に好ましい。
【0023】
なお、本発明においては、5nm〜50μmの無機材料の粒子からなり且つ厚みXが1〜200μmと薄い粒子層1Bが形成されたターゲット1を用いていることで、バルク体であってしかも厚みが厚い従来のターゲット(通常、厚みは1mm以上程度)と比べて、十分に高度な水準でドロップレットの発生及びドロップレットの膜中への混入を防止することができる。
【0024】
また、このようなターゲット1を製造するための方法としては、上記本発明のレーザーアブレーション用ターゲットの製造方法を好適に採用することができる。すなわち、このようなレーザーアブレーション用ターゲットを製造するための方法としては、分散媒と平均粒子径が5nm〜50μmである無機材料の粒子とを含有するスラリーを、支持基板の表面上に、前記分散媒の除去後に前記無機材料の粒子により形成される粒子層の厚みが1〜200μmとなるように塗布して、前記支持基板の表面上に前記スラリーの塗布膜を形成した後に、前記塗布膜から分散媒を除去し、前記支持基板と前記支持基板上に形成された前記粒子層とを備えるレーザーアブレーション用ターゲットを得ることを特徴とする上記本発明のレーザーアブレーション用ターゲットの製造方法を好適に利用することができる。
【0025】
このような分散媒としては、平均粒子径が5nm〜50μmである無機材料の粒子を分散させることが可能な溶媒であればよく特に制限されず、水、有機溶媒及びこれらの2種以上の混合液を適宜用いることができる。このような分散媒としては、溶質と化学反応しないという観点から、アルコール類(より好ましくはターピネオール、イソプロパノール、エチルアルコール、メチルアルコール、更に好ましくはターピネオール、イソプロパノール)を用いることが好ましい。
【0026】
また、このようなスラリーに含有させる無機材料の粒子は、ターゲット1中の粒子層1Bを形成している無機材料の粒子と同様のものである。なお、このような無機材料の粒子としては、市販のものを用いてもよく、あるいは公知の無機材料粒子の製造方法を採用して製造したものを適宜用いてもよい。
【0027】
このようなスラリー中の前記無機材料の粒子の含有量としては特に制限されないが、5〜90質量%であることが好ましく、30〜60質量%であることがより好ましい。このような無機材料の粒子の含有量が前記下限未満では、粒子層の製造効率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、支持基板への塗布が困難となる傾向にある。
【0028】
また、このようなスラリーには、レーザーアブレーションにより成膜する膜の設計等に応じて、適宜バインダ成分を含有させてもよい。このようなバインダ成分としては特に制限されないがポリエステル樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。また、このようなバインダ成分の添加量は、0〜20質量%程度であることが好ましい。なお、このようなバインダ成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲において、スラリーに含有させることが可能な公知の成分(安定化剤等)を適宜用いてもよい。
【0029】
また、このようなスラリーは、作業性等の観点から、粘度が0.5〜10Pa・s程度であることがより好ましい。なお、このようなスラリーの粘度の測定方法としては、回転型粘度計、キャピラリー型粘度計、落下型粘度計等があるが、本発明においては、ビスコテック株式会社製の「ハンディ・デジタル式粘土計 ビスコスティック(超音波式)」を用いて測定する方法を採用する。
【0030】
このようなスラリーを製造するための方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。例えば、前記分散媒中に前記無機材料の粒子を分散させてスラリーを得る方法として、例えば、これらの混合物に対して超音波を印加する方法、これらの混合物を長時間撹拌する方法、これらの混合物を加熱する方法等を適宜採用してもよい。更に、このようにして得られたスラリーに対しては脱気処理等の公知の処理を適宜施してもよい。また、このようなスラリーとしては、市販のもの(例えば、チタニアペースト:日本アエロジル株式会社製の商品名「P−25」等)を適宜利用してもよい。
【0031】
また、このようなスラリーを塗布する前記支持基板は、ターゲット1中の前述の支持基板1Aと同様である。更に、このような支持基板の表面上に前記スラリーを塗布する方法としては特に制限されず、例えば、ドクターブレード法、スピンコート法、ディッピング法、テーブルコート法、スプレー法、アプリケーター法、カーテンコート法、ダイコート法等の公知の方法を適宜利用することができる。
【0032】
さらに、このようなレーザーアブレーション用ターゲットの製造方法においては、支持基板上に前記スラリーを塗布する際に、前記分散媒の除去後に前記無機材料の粒子により形成される粒子層の厚みが1〜200μm(より好ましくは2〜50μm、更に好ましくは3〜20μm)となるように前記スラリーを塗布し、前記支持基板の表面上に前記スラリーの塗布膜を形成する。なお、このような粒子層の厚みを達成する方法は、用いるスラリーの種類や採用する塗布方法等に応じて適宜異なるものであり、一概には言えず、使用するスラリーの種類等に応じて、分散媒を除去した後に形成される粒子層の厚みが上記範囲となるように、その塗布量や塗布方法を適宜選択すればよい。また、このような塗布膜自体の厚みとしては、用いるスラリーの種類等によって前述のような厚みの粒子層を形成するために必要となる塗布膜の厚みが異なることから、一概には言えないが、2〜600μm(より好ましくは4〜150μm、更に好ましくは6〜60μm)とすることが好ましい。
【0033】
また、前記塗布膜から分散媒を除去する方法としては、前記スラリーの塗布膜から分散媒を除去することが可能な方法であればよく特に制限されないが、300〜600℃(より好ましくは400〜500℃)の温度条件で5分間〜2時間(より好ましくは10分間〜30分間)焼成する方法を採用することが好ましい。このような焼成温度及び時間が前記下限未満ではターゲット材が崩壊しやすくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、材料が変質又は変形したり、基板と反応したり、組成変動したり、酸素や窒素と反応したりする傾向にある。このようにして塗布膜を形成した後に前記塗布膜を焼成して分散媒を除去することにより、支持基板1Aと、支持基板1A上に形成された粒子層1Bとを備えるレーザーアブレーション用のターゲット1を効率よく得ることができる。
【0034】
レーザー光Lを照射するためのレーザー光源(図示せず)としては特に制限されず、公知のレーザー光発生装置を適宜用いることができ、例えば、フェムト秒レーザー装置、エキシマレーザー装置、YAGレーザー装置によって構成されていてもよい。また、このようなレーザー光源は、処理容器3の内部に配置されているターゲット1に向かってレーザー光Lを照射することが可能な位置に配置される。さらに、このようなレーザー光源としては、波長が19nm〜10.6μm(より好ましくは248nm〜10.6μm)であり、パルス幅が100フェムト秒〜100ナノ秒(より好ましくは100フェムト秒〜50ナノ秒)であり、且つ、1パルスあたりのエネルギーが50mJ〜5J(より好ましくは200mJ〜2J)であるパルスレーザー光を照射できる装置であることがより好ましい。このようなレーザー光源を用いた場合には、ターゲット1に前記パルスレーザー光Lを照射すると、ターゲット1の粒子層1Bを形成する材料(前記無機材料)からなる飛散粒子を発生させることができ、これにより基材5の表面に飛散粒子aを付着させることが可能となる。
【0035】
また、集光レンズ2は、レーザー光Lをターゲット1に照射した際に、ターゲット1の表面から飛散粒子aが効率的に発生するようにレーザー光Lを集光するため、レーザー光Lの光路上に配置されている。このような集光レンズ2としては、特に制限されず、公知の集光レンズを適宜用いることができる。また、集光レンズ2としては、ターゲット1に照射されるレーザー光Lの1パルスあたりのエネルギー密度を基材5上で0.1J/cm〜50J/cm(より好ましくは1J/cm〜20J/cm)とすることが可能なものがより好ましい。なお、鏡や他のレンズ等を適宜配置してレーザー光のエネルギー密度や照射角度を適宜調整するようにしてもよい。
【0036】
処理容器3は、少なくともターゲット1と基材5とを内部に収容するための容器である。また、処理容器3は、レーザー光Lを処理容器3内に配置されたターゲット1の表面に導入するための窓3Aを備えている。このような処理容器3や処理容器の窓3Aの材質は特に制限されず、レーザーアブレーションに用いることが可能なものを適宜利用できる。本実施形態においては、処理容器3はステンレス製の容器であり、窓3Aは石英製の窓である。なお、処理容器3及び窓3Aの形状は特に制限されず、その設計を適宜変更してもよい。
【0037】
ターゲット駆動装置4は、レーザー光Lがターゲット1の表面の同じ位置に繰り返し照射されて穴が掘れないように、ターゲット1を回転及び平行移動させることを可能とするものである。このように、ターゲット駆動装置4は、レーザー光Lの照射位置にターゲット1の新鮮な面(レーザー光未照射面)が順次繰り出されるようにするために用いる装置である。このようなターゲット駆動装置4としては特に制限されず、公知の装置(例えばパルスモータ等)を適宜用いることができる。
【0038】
基材5としては特に制限されず、成膜後の用途等に応じて適切な材料からなる基材を適宜選択して利用すればよい。このような基板5としては、例えば、金属や金属酸化物等からなる基材(例えばシリカガラス、ソーダライムガラス、Siウェハ、サファイア、アルミナ焼結体、Si焼結体、SiC焼結体等からなる基材等)を用いてもよく、あるいは、有機材料からなる基材を用いてもよい。
【0039】
基材5の形状や厚さも特に制限されず、成膜後の用途等に応じて、フィルム状、板状、各種形状の成形体等を適宜選択すればよい。
【0040】
基材5とターゲット1との位置的関係は特に限定されず、基材5の表面にターゲット1の表面から発生した飛散粒子aが効率良く付着するようにターゲット1に対して基材5を適宜配置すればよい。
【0041】
支持体6としては、基材5を支持できるものであればよく、特に制限されるものではなく、公知の支持体を適宜利用することができる。また、このような支持体6としては基材5の表面上に飛散粒子が均一に接触するように、基材6を回転及び平行移動させることを可能とするような装置を用いてもよい。
【0042】
真空ポンプ7としては特に制限されず、容器内から気体を排出して減圧状態とすることが可能な公知の真空ポンプを適宜利用することができる。このような真空ポンプ7により処理容器3の内部を減圧状態とすることが可能となる。また、このような真空ポンプ7により、レーザーアブレーションの際に処理容器3の内部を減圧状態とすることによって飛散粒子aの酸化が防止される傾向にある。更に、このような真空ポンプ7により処理容器3の内部を減圧状態に維持する場合、処理容器3の内部の圧力は1Torr以下とすることが好ましく、1×10−3Torr以下とすることがより好ましい。また、酸素分圧及び/又は窒素分圧が1Torr以下の圧力となるようにすることが好ましい。
【0043】
ここで、図1に示すレーザーアブレーション装置を用いた場合における本発明のレーザーアブレーションによる成膜方法について説明する。
【0044】
図1に示すレーザーアブレーション装置を用いた本発明のレーザーアブレーションによる成膜方法は、先ず、真空ポンプ7を用いて密封容器3内を減圧し、密封容器3内の圧力を減圧する。次いで、レーザー光源からターゲット1の表面にレーザー光Lを照射する。このようにしてターゲット1に対してレーザー光Lが照射されると、ターゲット1の表面に高温のプラズマPが形成され、レーザー光Lが照射されたターゲット1の表面からはターゲット材料を含む原子やクラスタ、中性子等からなる各種飛散粒子(アブレータ)aが高いエネルギーをもって飛散する。そして、基材5に対して飛散粒子aが到達すると、飛散粒子aは高いエネルギーをもっているため、基材5上に強固に付着する。そのため、このようにしてターゲット1の表面にレーザー光Lを照射することにより、基材5の表面上には飛散粒子(微粒子)が堆積された膜が形成される。なお、このような本発明のレーザーアブレーションによる成膜方法においては、ターゲット1に上記本発明のレーザーアブレーション用ターゲットを用いているため、直径0.1μm以上の粒(ドロップレット)の発生及び膜中への混入が十分に抑制される。そして、本発明においては、ターゲットの粒子層中の無機材料の粒子のサイズや無機材料の種類、更には粒子層の厚みを適宜変更することにより、レーザーアブレーションにより形成される膜の表面1cmあたりのドロップレットの個数を25000個/cm(より好ましくは15000個/cm、更に好ましくは10000個/cm)以下とすることができる。このようなドロップレットの個数が前記上限を超えると形成される膜の膜質が低下する傾向にある。
【0045】
このようなターゲット1に照射するレーザー光Lとしては、波長が150nm〜10.6μm(より好ましくは248nm〜10.6μm)のパルスレーザー光が好ましい。このようなレーザー光Lの波長が前記下限未満では大気による吸収が大きくなり、ターゲット1に十分なエネルギーを供給できなくなり、高温のプラズマPが形成できなくなる傾向にあり、他方、上記上限を超えると高温のプラズマPが形成できなくなるため、微細な飛散粒子を形成できなくなる傾向にある。
【0046】
また、レーザー光Lのパルス幅は、100フェムト秒〜100ナノ秒(より好ましくは100フェムト秒〜50ナノ秒)であることが好ましい。このようなレーザー光Lのパルス幅が前記下限未満ではごく短時間にレーザーのエネルギーが集中するため飛散粒子の運動エネルギーが過大となり、飛散粒子が基材5上に到達したときに基材5が破壊されてしまう傾向にあり、他方、上記上限を超えるとエネルギーが時間的に集中しないために十分大きなエネルギーをもった飛散粒子が発生しなくなる傾向にある。
【0047】
また、ターゲット1にレーザー光Lを照射する際には、ターゲット上に照射されるレーザー光Lの1パルスあたりのエネルギー密度を、0.1J/cm〜50J/cm(より好ましくは1J/cm〜20J/cm)とすることが好ましい。このようなレーザー光Lの1パルスあたりのエネルギー密度が前記下限未満ではエネルギー不足で高温のプラズマPが形成されなくなる傾向にあり、他方、上記上限を超えるとターゲット1への投与熱量が多過ぎてターゲット1が溶融し、ドロップレットやスパッターを生じ易くなる傾向にある。
【0048】
また、ターゲット1にレーザー光Lを照射する際のターゲット1の表面上におけるレーザー光Lの集光サイズは特に制限されないが、直径0.5〜5mm程度とすることが好ましい。このような集光サイズが前記下限未満では飛散粒子の量が少なく、飛び出す粒子のエネルギーが高いため、容器内に残留しているガスや基板と反応する等の傾向にあり、他方、前記上限を超えると、レーザー照射部が溶融されるだけで、飛散粒子が形成されない傾向にある。
【0049】
また、このようにしてターゲット1にレーザー光Lを照射する際には、レーザー光Lがターゲット1の粒子面1Bの表面の同じ位置に繰り返し照射されて穴が掘れないようにするため、ターゲット1を回転及び平行移動させながらレーザー光Lを照射することが好ましい。このようなレーザー光Lの照射方法としては特に制限されないが、例えば、図3に示すように、ターゲット1の粒子層1Bの面上にレーザー光Lの照射痕Sが同心円状となるように、ターゲット1を回転及び平行移動させながらレーザー光を照射すること等が挙げられる。
【0050】
このようにしてレーザーアブレーションにより形成される膜は、ターゲット1を構成するターゲット材料を含む微粒子(飛散粒子a)が堆積して形成される膜である。このような膜は、処理時間等を適宜調整することで、10μm以下(好ましくは100nm〜5000nm)の薄膜とすることも可能である。また、このようにして形成される膜を、結晶または非結晶のいずれの微粒子からなる膜とすることも可能である。
【0051】
また、このような本発明のレーザーアブレーションによる成膜方法は、上述のように、ドロップレットが十分に低減された十分に膜質の高い無機材料からなる膜を基材上に形成できることから、例えば、圧電材料、熱電材料及び電池材料等として機能させるための膜を形成するための方法等に有用であり、かかる方法により得られる膜は、その均質性が高いことから、これらの機能性を有する膜として使用した場合に十分に高度な性能を発現させることが可能である。
【0052】
以上、図1に示すレーザーアブレーション装置を用いた場合における本発明のレーザーアブレーションによる成膜方法、レーザーアブレーション用ターゲット及びその製造方法の好適な一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0053】
例えば、上記実施形態では処理容器3が真空ポンプ7に接続されていたが、本発明においては、処理容器3が真空ポンプ7の代わりに、水素ガス、ヘリウムガス、ネオンガス及びアルゴンガスからなる群から選択される少なくとも一種のシールドガスを導入するためのガスボンベに接続されていてもよい。このようなガスボンベを用いた場合には、処理容器3の内部を所定のシールドガス雰囲気に維持することが可能となる。そして、処理容器3の内部がシールドガス雰囲気となっている場合には、処理容器3内を減圧状態とせずとも真空紫外光が発生した際に、真空紫外光が空気中の酸素等に吸収されなくなるため、真空紫外光をより効率よく利用して、基材5の表面を活性化しながらその基材5の表面に飛散粒子を付着させることができると共に、飛散粒子の酸化をより十分に防止することも可能となる。また、真空ポンプ7及びガスボンベの双方を接続し、処理容器3の内部を所定のシールドガス雰囲気にすると共に所定の圧力条件に維持してもよい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
分散媒としてのターピネオール中に酸化ケイ素(SiO)の粒子(平均粒子径25nm)と酸化鉄(Fe)の粒子(平均粒子径100nm)とを分散させたスラリー(スラリー中の無機材料におけるSiOの含有量:50質量%、Feの含有量:50質量%)を、支持基板1AとしてのSiウエハ(直径10cm、厚み0.6mmの円形状のもの:コマツ電子金属株式会社製の商品名「4インチ・シリコン・ウェーハ」」)の表面上に、ドクターブレード法で塗布膜の厚みが10μmとなるようにして塗布した後、450℃の温度条件で30分間焼成せしめて、支持基板1A上に膜厚Xが5μmの粒子層1Bが形成されたレーザーアブレーション用のターゲット(i)を製造した。なお、このようなターゲットの膜厚の値は、ターゲットを縦に割って断面を走査形電子顕微鏡(SEM)により観測して測定した値である(なお、以下の各実施例等で製造したターゲットにおいても同様にして膜厚を測定する。)。
【0056】
(実施例2)
上述のような図1に示すレーザーアブレーション装置を利用して、レーザーアブレーション処理を施して、基材5上に薄膜を成膜した。ここで、レーザー光源としてはNd−YAGレーザー装置(スペクトラ・フィジックス株式会社製の商品名「PRO290−10」を用い、ターゲット1としては、実施例1で得られたターゲット(i)を用いた。また、集光レンズ2としては焦点距離が500mmのレンズを用い、処理容器3としては石英窓付の真空容器(ステンレス鋼製、容量:350cc)を用い、また、ターゲット駆動装置4としてはパルスモータを用い、基材5としてはシリコン製の基材(縦1cm、横1cm、厚み0.6mm:コマツ電子金属株式会社製の商品名「4インチ・シリコン・ウェーハ」を切断したもの)を用い、支持体6としてはアルミニウム基板を用いた。
【0057】
次に、ターゲット1の粒子層1Bの表面上のレーザー光Lの照射痕Sが図3に示すような同心円状となるようにターゲット駆動装置4によりターゲット1を回転及び平行移動させて、レーザー光Lの照射位置にターゲット1の新鮮な面(レーザー光未照射面)が順次繰り出されるようにしながら、ターゲット1に対してNd−YAGレーザー装置を用いてレーザー光Lを照射した。また、このようにしてターゲット1に照射するレーザー光Lは、3倍高周波(3ω光:波長355nm)、エネルギー:400mJ/パルス、パルス幅:8n秒、繰返し:10Hzのパルスレーザー光とした。また、このようなレーザー光Lの照射に際しては、集光レンズ2によりターゲット1の表面上のレーザー光の集光サイズが直径1.8mmとなるようにし、ターゲット1の表面上のレーザー光Lのエネルギー密度が16J/cmとなるようにした。また、レーザー光Lの照射時間は54秒間とした(なお、このようなレーザー光Lの照射時間は、具体的には、9秒ごとにレーザー光Lの照射を止めて、再度レーザー光を照射する作業を6回繰り返すことにより54秒間(9秒×6回))とした。)。このように、ターゲット1の粒子層1Bの表面上にレーザー光を照射することにより、飛散粒子aを基材5上に堆積させることによって、基材の表面上にSiOとFeが混合した膜(膜厚:20nm)を成膜した。
【0058】
[実施例2で形成された膜の特性の評価]
〈SEMによる表面状態の測定〉
実施例2で形成された膜の表面の状態を走査形電子顕微鏡(SEM)により観測し、膜の表面1cmあたりに混入している直径が0.1μm以上の粒(ドロップレット)の個数を測定した。このような測定の結果、実施例2で形成された膜中に混入しているドロップレットの個数は19000個/cmであった。このような結果から、本発明のレーザーアブレーションによる成膜方法(実施例2)によれば、形成する膜中へのドロップレットの混入を十分に防止して効率よく成膜できることが分かった。
【0059】
(実施例3)
前記スラリーを、ターピネオール中に酸化チタン(TiO)の粒子(平均粒子径20nm)が分散されたスラリー(TiOの含有量:50質量%以上、TiOペースト:日本アエロジル株式会社製の商品名「P−25」)に変更し、かかるスラリーをSiウエハ上の塗布膜の厚みが7μmとなるようにして塗布した以外は、実施例1と同様にして、支持基板1A上に膜厚Xが3.5μmの粒子層1Bが形成されたレーザーアブレーション用のターゲット(ii)を製造した。
【0060】
(実施例4)
Siウエハ上の塗布膜の厚みが10μmとなるように変更した以外は、実施例3と同様にして、支持基板1A上に膜厚Xが5μmの粒子層1Bが形成されたレーザーアブレーション用のターゲット(iii)を製造した。
【0061】
(実施例5)
Siウエハ上の塗布膜の厚みが12μmとなるように変更した以外は、実施例3と同様にして、支持基板1A上に膜厚Xが6μmの粒子層1Bが形成されたレーザーアブレーション用のターゲット(iv)を製造した。
【0062】
(実施例6)
Siウエハ上の塗布膜の厚みが20μmとなるように変更した以外は、実施例3と同様にして、支持基板1A上に膜厚Xが10μmの粒子層1Bが形成されたレーザーアブレーション用のターゲット(v)を製造した。
【0063】
(実施例7)
Siウエハ上の塗布膜の厚みが45μmとなるように変更した以外は、実施例3と同様にして、支持基板1A上に膜厚Xが21μmの粒子層1Bが形成されたレーザーアブレーション用のターゲット(vi)を製造した。
【0064】
(実施例8)
Siウエハ上の塗布膜の厚みが100μmとなるように変更した以外は、実施例3と同様にして、支持基板1A上に膜厚Xが48μmの粒子層1Bが形成されたレーザーアブレーション用のターゲット(vii)を製造した。
【0065】
(実施例9〜14)
ターゲット(i)の代わりに、実施例3〜8で得られたターゲット(ii)〜(vii)をそれぞれ用いた以外は、実施例2と同様にして、基材の表面上にTiOの膜(膜厚:6nm(実施例9)、6nm(実施例10)、5nm(実施例11)、6nm(実施例12)、5nm(実施例13)、5nm(実施例14))を、それぞれ成膜した。
【0066】
(比較例1)
ターゲット(i)の代わりに、支持基板1A上に厚み5mmのバルク状のTiOの層が形成された比較用ターゲット(I)を用いた以外は、実施例2と同様にして、基材の表面上にTiOの膜(膜厚:6nm)を成膜した。なお、このような比較用ターゲット(I)は、株式会社高純度化学研究所 酸化チタンターゲット、純度99.9%、直径50mm、厚み5mmを使用した。
【0067】
[実施例9〜14及び比較例1で形成された膜の特性の評価]
〈SEMによる表面状態の測定〉
上述の実施例2で得られた膜に対して行った「SEMによる表面状態の測定」と同様の方法を採用して、実施例9〜14及び比較例1で形成された膜中に混入しているドロップレットの個数を測定した。得られた結果を表1に示す。また、実施例9〜14で形成された膜中のドロップレットの個数(個/cm)と、各実施例において成膜に用いたターゲットの膜厚との関係を示すグラフを図4に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
表1に示す結果からも明らかなように、本発明のレーザーアブレーションによる成膜方法(実施例9〜14)によれば、膜中へのドロップレットの混入を十分に抑制することが可能となることが確認された。また、表1並びに図4に示す膜中のドロップレットの個数とターゲットの膜厚との関係のグラフからも明らかなように、本発明のレーザーアブレーション用ターゲット(実施例3〜8)においては、膜の厚みを30μm以下(より好ましくは10μm以下)とすることにより、より高い水準で膜中へのドロップレットの混入を抑制することが可能となることが確認された。
【0070】
(実施例15)
前記スラリーを、ターピネオール中に酸化スズ(SnO)の粒子(平均粒子径1μm)と、酸化インジウム(In)の粒子(平均粒子径1μm)と、酸化ニッケル(NiO)の粒子(平均粒子径0.5μm)とが分散されたスラリー(スラリー中の無機材料におけるSnOの含有量:50質量%、Inの含有量:20質量%、NiOの含有量:30質量%)に変更し、かかるスラリーをSiウエハ上の塗布膜の厚みが20μmとなるようにして塗布した以外は、実施例1と同様にして、支持基板1A上に膜厚Xが10μmの粒子層1Bが形成されたレーザーアブレーション用のターゲット(viii)を製造した。
【0071】
(実施例16)
Siウエハ上の塗布膜の厚みを100μmとした以外は、実施例15と同様にして、支持基板1A上に膜厚Xが50μmの粒子層1Bが形成されたレーザーアブレーション用のターゲット(ix)を製造した。
【0072】
(実施例17〜18)
ターゲット(i)の代わりに実施例15〜16で得られたターゲット(viii)〜(ix)をそれぞれ用い、レーザー光Lの種類を、2倍高周波(2ω光:波長532nm)、エネルギー:930mJ/パルス、パルス幅:8n秒、繰り返し:10Hzのパルスレーザー光に変更し、レーザー光の集光サイズを直径3.0mmに変更し、レーザー光の照射時間を30分間に変更した以外は、実施例2と同様にして、基材の表面上に、SnOとInとNiOの膜(膜厚:160nm)をそれぞれ成膜した。
【0073】
(比較例2)
実施例15で得られたターゲットの代わりに、支持基板1A上に厚み5mmのバルク状のSnOとInとNiOの層が形成された比較用ターゲット(II)を用いた以外は、実施例17と同様にして、基材の表面上にSnOとInとNiOの膜(膜厚:160nm)を成膜した。なお、このような比較用ターゲット(II)は、圧粉成形することにより調製した。
【0074】
[実施例17〜18及び比較例2で形成された膜の特性の評価]
〈SEMによる表面状態の測定〉
上述の実施例2で得られた膜に対して行った「SEMによる表面状態の測定」と同様の方法を採用して、実施例17〜18及び比較例2で形成された膜中に混入しているドロップレットの個数を測定した。得られた結果を表2に示す。また、実施例17〜18で形成された膜中のドロップレットの個数(個/cm)と、各実施例において成膜に用いたターゲットの膜厚との関係を示すグラフを図5に示す。
【0075】
【表2】

【0076】
表2に示す結果からも明らかなように、本発明のレーザーアブレーションによる成膜方法(実施例17〜18)によれば、膜中へのドロップレットの混入を十分に抑制することが可能となることが確認された。また、表2並びに図5に示す膜中のドロップレットの個数とターゲットの膜厚との関係のグラフからも明らかなように、ターゲット(viii)〜(ix)とを利用した場合について比較すると、膜厚が10μmのターゲット(viii)を用いた場合に、膜中へのドロップレットの混入をより高い水準で抑制できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上説明したように、本発明によれば、ドロップレットの混入を十分に抑制しながら十分に効率よく成膜することが可能なレーザーアブレーションによる成膜方法、その方法に用いるレーザーアブレーション用ターゲット及びそのレーザーアブレーション用ターゲットの製造方法を提供することが可能となる。したがって、本発明のレーザーアブレーションによる成膜方法は、これを利用することで十分にドロップレットの混入が抑制された質の高い薄膜を形成できることから、例えば、圧電材料、熱電材料及び電池材料等に用いる膜を製造するための方法等として特に有用である。
【符号の説明】
【0078】
1…ターゲット、1A…支持基板、1B…粒子層、2…集光レンズ、3…処理容器、3A…処理容器の窓、4…ターゲット駆動装置、5…基材、6…支持体、7…真空ポンプ、P…プラズマ、a…飛散粒子、L…レーザー光、X…粒子層の厚み、S…レーザーの照射痕。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットにレーザー光を照射して飛散粒子を発生させ、基材の表面に前記飛散粒子を付着させて前記基材の表面上に膜を形成させるレーザーアブレーションによる成膜方法であって、
前記ターゲットが支持基板と該支持基板上に形成された無機材料の粒子からなる粒子層とを備えており、前記無機材料の粒子の平均粒子径が5nm〜50μmであり、且つ、前記粒子層の厚みが1〜200μmであることを特徴とするレーザーアブレーションによる成膜方法。
【請求項2】
前記粒子層の厚みが2〜50μmであることを特徴とする請求項1に記載のレーザーアブレーションによる成膜方法。
【請求項3】
前記無機材料がチタニア、アルミナ、シリカ、酸化スズ、酸化インジウム、酸化ニッケル、ジルコニア、酸化鉄、SiC、チタン酸バリウム、窒化ホウ素、フェライト、チタン酸ジルコン酸鉛、Si、ステアタイト、酸化亜鉛及びYBaCu7−σからなる群から選択される少なくとも1種の金属化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザーアブレーションによる成膜方法。
【請求項4】
支持基板と該支持基板上に形成された無機材料の粒子からなる粒子層とを備えており、前記無機材料の粒子の平均粒子径が5nm〜50μmであり且つ前記粒子層の厚みが1〜200μmであることを特徴とするレーザーアブレーション用ターゲット。
【請求項5】
前記粒子層の厚みが2〜50μmであることを特徴とする請求項4に記載のレーザーアブレーション用ターゲット。
【請求項6】
前記無機材料がチタニア、アルミナ、シリカ、酸化スズ、酸化インジウム、酸化ニッケル、ジルコニア、酸化鉄、SiC、チタン酸バリウム、窒化ホウ素、フェライト、チタン酸ジルコン酸鉛、Si、ステアタイト、酸化亜鉛及びYBaCu7−σからなる群から選択される少なくとも1種の金属化合物であることを特徴とする請求項4又は5に記載のレーザーアブレーション用ターゲット。
【請求項7】
分散媒と平均粒子径が5nm〜50μmである無機材料の粒子とを含有するスラリーを、支持基板の表面上に、前記分散媒の除去後に前記無機材料の粒子により形成される粒子層の厚みが1〜200μmとなるように塗布して、前記支持基板の表面上に前記スラリーの塗布膜を形成した後に、前記塗布膜から分散媒を除去し、前記支持基板と前記支持基板上に形成された前記粒子層とを備えるレーザーアブレーション用ターゲットを得ることを特徴とするレーザーアブレーション用ターゲットの製造方法。
【請求項8】
前記支持基板の表面上に、前記粒子層の厚みが2〜50μmとなるようにスラリーを塗布することを特徴とする請求項7に記載のレーザーアブレーション用ターゲットの製造方法。
【請求項9】
前記無機材料がチタニア、アルミナ、シリカ、酸化スズ、酸化インジウム、酸化ニッケル、ジルコニア、酸化鉄、SiC、チタン酸バリウム、窒化ホウ素、フェライト、チタン酸ジルコン酸鉛、Si、ステアタイト、酸化亜鉛及びYBaCu7−σからなる群から選択される少なくとも1種の金属化合物であることを特徴とする請求項7又は8に記載のレーザーアブレーション用ターゲットの製造方法。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図3】
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