説明

レーザーマーキング用の積層体

【課題】レーザーマーキング用熱可塑性樹脂を巧みに利用し、例えば熱可塑性樹脂のシート状成形品の表面に表示を施す手段として有用なレーザーマーキング用の積層体であって、製造工程における滑り性が改良され、しかも、枚葉式で貯蔵される際におけるブロッキングの問題が解決された、上記の積層体を提供する。
【解決手段】A層の少なくとも片面にB層が積層されたレーザーマーキング用の積層体であって、A層は、白色または黒色の単色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂にて形成され、B層は、透明熱可塑性樹脂にて形成された、単層での光線透過率が70%以上の層であり、B層の透明熱可塑性樹脂がブロッキング防止処理されているレーザーマーキング用の積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザーマーキング用の積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、プリペイドカードの様な、熱可塑性樹脂のシート状成形品の表面に表示(文字、図形、記号、これらの組合せ等)を施す場合、シルク印刷などの印刷手段が採用される。ところが、印刷手段による場合は、表示毎に版を作成しなければならないため、コスト高であり且つ長期の製作日数を要するばかりか、印刷時の版のずれや印刷インクの滲みによって発生した不良品は、リサイクルが困難なため、廃棄せざるを得ないという重大な欠点がある。
【0003】
一方、近時、レーザー光照射によって樹脂表面に白または黒の単色のマーキングを施すことが出来る単色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂が提案されている(例えば特許文献1及び2)。そして、斯かる熱可塑性樹脂により、家庭用品、電気用品、OA機器などのいわゆる肉厚製品を成形し、その表面にレーザーマーキング装置によって表示を刻印する。
【0004】
更にまた、黒色レーザーマーキング用ではあるが、透明な熱可塑性樹脂から成る表層と黒色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂から成る内層から成る多層シート(積層体)が提案されている(特許文献3)。
【0005】
しかしながら、上記の提案においては、その製造に関し、3層マルチダイ方式を採用した旨、簡単に述べられており、製造プロセス上の改良の余地がある。
【0006】
【特許文献1】特許第3180587号公報
【特許文献2】特許第3158947号公報
【特許文献3】特開2002−273822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、レーザーマーキング用熱可塑性樹脂を巧みに利用し、例えば熱可塑性樹脂のシート状成形品の表面に表示を施す手段として有用なレーザーマーキング用の積層体であって、製造工程における滑り性が改良され、しかも、枚葉式で貯蔵される際におけるブロッキングの問題が解決された、上記の積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、A層の少なくとも片面にB層が積層されたレーザーマーキング用の積層体であって、A層は、白色または黒色の単色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂にて形成され、B層は、透明熱可塑性樹脂にて形成された、単層での光線透過率が70%以上の層であり、B層の透明熱可塑性樹脂がブロッキング防止処理されていることを特徴とするレーザーマーキング用の積層体に存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、例えば熱可塑性樹脂のシート状成形品の表面に表示を施す手段として有用であり、しかも、製造工程における滑り性が改良され、しかも、枚葉式で貯蔵される際におけるブロッキングの問題が解決された、レーザーマーキング用の積層体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明のレーザーマーキング用の積層体(以下、単に積層体と略記する)は、A層の少なくとも片面にB層が積層され、A層は白色または黒色の単色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂(a)にて形成され、B層は単層での光線透過率が70%以上の透明熱可塑性樹脂(b)にて形成されている。
【0011】
なお、以下の説明において、「(メタ)アクリル酸エステル」はアクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの両者を意味し、「(ゴム強化)アクリル系熱可塑性樹脂」はアクリル系熱可塑性樹脂およびゴム強化アクリル系熱可塑性樹脂の両者を意味し、「(ゴム強化)スチレン系熱可塑性樹脂」はスチレン系熱可塑性樹脂およびゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂の両者を意味する。
【0012】
<白色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂(1)>
白色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂(1)としては、従来公知の組成物を制限なく使用することが出来るが、(メタ)アクリル酸エステルが共重合されている共重合体、特にゴム強化グラフト共重合体が好ましく、その具体例としては前述の特許第3180587号公報に記載のゴム強化アクリル系熱可塑性樹脂(1)及び(2)が挙げられる。
【0013】
(ゴム強化)アクリル系熱可塑性樹脂は、以下の1〜4に挙げられる樹脂であり、樹脂がゴム成分を含む場合は、樹脂中のゴム状重合体の含量は、好ましくは3〜40重量%、更に好ましくは4〜30重量%であり、(メタ)アクリル酸エステルの含量は、好ましくは10〜97重量%、更に好ましくは20〜75重量%、他のビニル系単量体の含量は、好ましくは0〜87重量%、更に好ましくは0〜76重量%である。グラフト率は、好ましくは10〜150%、更に好ましくは15〜100%である。そして、アセトン可溶成分の極限粘度[η]は、好ましくは0.2〜1.2dl/g、更に好ましくは0.3〜0.8dl/gである。一方、樹脂がゴム成分を含まない場合は、樹脂中の(メタ)アクリル酸エステルの含量は、好ましくは10〜97重量%、更に好ましくは20〜75重量%、他のビニル系単量体の含量は、好ましくは3〜90重量%、更に好ましくは25〜80重量%である。そして、アセトン可溶成分の極限粘度[η]は、好ましくは0.2〜1.2dl/g、更に好ましくは0.3〜0.8dl/gである
【0014】
【表1】

【0015】
(メタ)アクリル酸エステルの含量が上記範囲未満であると、充分な鮮明の白色マーキングが得られない。一方、(メタ)アクリル酸エステル量が上記範囲を超えると、充分な耐衝撃性が得られない。また、ゴム状重合体量が上記範囲未満であると、耐衝撃性が劣る。一方、上記範囲を超えると、樹脂の表面光沢および成形加工性が低下する。ゴム強化アクリル系熱可塑性樹脂のグラフト率が上記範囲未満では、ゴム成分の添加効果が充分発揮されず、例えば、充分な耐衝撃性が得られない。一方、上記範囲を超えると、成形加工性が劣る。
【0016】
上記のグラフト率(%)は、ゴム強化アクリル系熱可塑性樹脂成分1g中のゴム成分量をx、ゴム強化アクリル系熱可塑性樹脂成分1g中のメチルエチルケトン不溶分量をyとすると、次式により求めた値である。
【0017】
【数1】

【0018】
ゴム強化アクリル系グラフト共重合体(1−1):
この(1−1)は、ゴム状重合体の存在下に、(メタ)アクリル酸エステル、および必要に応じて他のビニル系単量体をグラフト重合して得られる。ゴム状重合体の含量は好ましくは3〜40重量%、(メタ)アクリル酸エステルの含量は好ましくは10〜97重量%、他のビニル系単量体の含量は好ましくは0〜87重量%であり、かつ、グラフト率は好ましくは10〜150%である。
【0019】
(メタ)アクリル酸エステルの含有量は更に好ましくは20〜75重量%、他のビニル系単量体の含有量は更に好ましくは0〜76重量%、ゴム状重合体(グラフトされている成分は含まない)の含有量は更に好ましくは4〜65重量%である。グラフト率は更に好ましくは20〜120%である。
【0020】
アセトン可溶分の極限粘度〔η〕は、メチルエチルケトン中、30℃で測定されたものである。極限粘度〔η〕が上記範囲未満であると、耐衝撃性が充分に発現されず、一方、上記範囲を超えると、成形加工性が低下するので好ましくない。
【0021】
上記のゴム状重合体としては、例えばポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、エチレン−プロピレン−
(非共役ジエン)共重合体、エチレン−ブテン−1−(非共役ジエン)共重合体、イソブチレン−イソプレン共重合体、アクリルゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンブロッ
ク共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンラジアルテレブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、SEBS等の水素添加ジエン系(ブロック、ランダム及びホモ)重合体、ポリウレタンゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。これらの中では、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体、エチレン−プロピレン−(非共役ジエン)共重合体、エチレン−ブテン−1−(非共役ジエン)共重合体、水素添加ジエン系重合体、アクリルゴム及びシリコーンゴムが好ましい。
【0022】
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等が挙げられる。これらの中ではメタクリル酸メチルが好ましい。
【0023】
他のビニル系単量体としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、無水マレイン酸およびマレイミド系化合物などが挙げられる。上記芳香族化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、メチルスチレン、p−ヒドロキシスチレン、α−エチルスチレン、メチル−α−メチルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン等が挙げられる。これらの中では、スチレン、メチルスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。さらに
、上記シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。これらの中では、アクリロニトリルが好ましい。マレイミド化合物としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(4−ヒドロキシフェニル)マレイミド、トリブロモフェニルマレイミド等が挙げられる。これらの中では、N−フェニルマレイミド及びN−シクロヘキシルマレイミドが好ましい。他のビニル系単量体として、好ましくはシアン化ビニル化合物、芳香族ビニル化合物、マレイミド化合物、無水マレイン酸エステルから選ばれた少なくとも2種である。更に好ましくは芳香族ビニル化合物および/またはシアン化ビニル化合物である。シアン化ビニル化合物
の使用量は、白色レーザーマーキング性に影響を与えない範囲で適宜決められる。
【0024】
ゴム強化アクリル系熱グラフト共重合体(1−1)は、例えば、ゴム状重合体の存在下に、(メタ)アクリル酸エステルまたは(メタ)アクリル酸エステルと他のビニル系単量体を公知の重合条件を用いて乳化重合法、溶液重合法、
塊状重合法などで重合する方法で得られる。
【0025】
アクリル系(共)重合体(1−2):
この(1−2)は、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体と、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な他のビニル系単量体との共重合体である。アクリル系(共)重合体(1−2)中の(メタ)アクリル酸エステルの含量は、好ましくは10〜99重量%、更に好ましくは20〜98重量%であり、他のビニル系単量体の含量は、好ましくは1〜90重量%、更に好ましくは2〜80重量%である。アクリル系(共)重合体(1−2)のアセトン可溶成分の極限粘度[η]は、好ましくは0.2〜1.2dl/g、更に好ましくは0.3〜0.8dl/gである。
【0026】
(メタ)アクリル酸エステルの好ましい例としては、上記(1−1)で記載したものが挙げられる。他のビニル系単量体としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、無水マレイン酸、マレイミド系化合物などが挙げられる。好ましいビニル系単量体は、香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、マレイミド系化合物の群から選択される少なくとも1種であり、更に好ましいビニル系単量体は、香族ビニル化合物および/またはシアン化ビニル化合物である。このビニル系単量体の好ましい例としては、上述の(1−1)の説明で記載したものが挙げられる。なお、シアン化ビニル化合物の使用量は、白色レーザーマーキング性に影響を与えない範囲で適宜決められる。
【0027】
本発明においては、アクリル系共重合体として、上記の様な硬質アクリル系共重合体の他に、軟質の共重合体も推奨される。斯かる共重合体としては、例えば、メタクリル酸メチル30〜80重量%、メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステル20〜50重量%、他のビニル系単量体0〜50重量%から成る共重合体が挙げられる。メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステル及び他のビニル系単量体としては、上記(1−1)で使用したのと同様の化合物を使用することが出来る。メタクリル酸メチル/アクリル酸ブチル/スチレン系の軟質共重合体の市販品としては、株式会社クラレ製の「パラペレット SA−N」(商品名)がある。
【0028】
上述(1−2)は、公知の重合条件を用いた、塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法などで得られる。
【0029】
ゴム強化スチレン系グラフト共重合体(1−3):
この(1−3)は、ゴム状重合体の存在下、芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合することで得られる[ただし、上述の(1−1)を除く]。(1−3)中のゴム状重合体の含量は、好ましくは10〜70重量%、更に好ましくは10〜65重量%であり、ビニル系単量体の含量は、好ましくは30〜90重量%、更に好ましくは35〜90重量%である。グラフト率は、好ましくは10〜150%、更に好ましくは5〜100%である。アセトン可溶成分の極限粘度[η]は、好ましくは0.2〜1.2dl/g、更に好ましくは0.3〜0.8dl/gである。ゴム状重合体の好ましい例としては、上述の(1−1)の説明に記載したものが挙げられる。
【0030】
芳香族ビニル化合物以外のビニル系単量体としては、シアン化ビニル化合物、無水マレイン酸、マレイミド化合物などが挙げられる。好ましいビニル系単量体は、シアン化ビニル化合物および/またはマレイミド化合物である。芳香族ビニル化合物以外のビニル系単
量体の好ましい例としては、上記(1−1)に記載したものが挙げられる。シアン化ビニル化合物の使用量は、白色レーザーマーキング性に影響を与えない範囲で適宜決められる。上記(1−3)は、公知の重合条件を用いた、塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法などで得られる。
【0031】
スチレン系(共)重合体(1−4):
この(1−4)は、芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合することで得られる[ただし、上述の(1−2)を除く]。極限粘度[η]は、好ましくは0.2〜1.2dl/g、更に好ましくは0.3〜0.8dl/gである。芳香族ビニル化合物以外のビニル系単量体としては、シアン化ビニル化合物、無水マレイン酸、マレイミド化合物などが挙げられる。好ましいビニル系単量体は、シアン化ビニル化合物および/またはマレイミド化合物である。芳香族ビニル化合物以外のビニル系単量体の好ましい例としては、上述の(1−1)の説明に記載したものが挙げられる。シアン化ビニル化合物の使用量は、白色レーザーマーキング性に影響を与えない範囲で適宜決められる。上述の(1−4)は、公知の重合条件を用いた、塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法などで得られる。
【0032】
白色発光レーザーマーキング用熱可塑性樹脂(1)には、必要に応じ、ポリカーボネート、PPS、PPO、POM、ポリアミド、PBT、PET、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリアセタール、エポキシ樹脂、ポリウレタン、フッ化ビニリデン及び熱可塑性エラストマーから選ばれた1種以上のポリマーを配合することも出来る。好ましい配合割合は、上記の熱可塑性樹脂(1)5〜99重量%に対し、上記のポリマー95〜1重量%である。特に、ポリカーボネート、PPS、PPO、POM、ポリアミド、PBT、PET、ポリ塩化ビニル、ポリアセタール、エポキシ樹脂、または、ポリウレタンを使用することにより、レーザーマーキング性の優れた材料を得ることが出来る。
【0033】
ところで、上記の(ゴム強化)アクリル系熱可塑性樹脂(1)において、ポリカーボネート樹脂を含有する場合、(メタ)アクリル酸が共重合されている共重合体とポリカーボネート樹脂との屈折率の差異により必然的に特異な真珠光沢が生じる。斯かる真珠光沢は、黒色マトリックス色に白色を発現させるに際しては好ましくない。そこで、本発明においては、上記の様な真珠光沢を防止するため、ポリカーボネート樹脂(A)と(メタ)アクリル酸が共重合されている共重合体(B)との相溶化剤として、特願2004−267602に記載されている以下のリン酸エステル系化合物(C)を使用することが推奨される。「リン酸エステル系化合物(C)」は、下記(C−1)及び/又は下記(C−2)である。
【0034】
【表2】

【0035】
更に、本発明のレーザーマーキング用熱可塑性樹脂(1)には、必要に応じて酸化防止剤、紫外線吸収剤などの安定剤、シリコーンオイル、低分子量のポリエチレンなどの滑剤、炭酸カルシウム、タルク、クレー、酸化チタン、シリカ、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、マイカ、ガラスビーズ、ガラス繊維、金属フィラーなどの充填剤、分散剤、発泡剤、着色剤などを添加することができる。着色剤としては、好ましくは、カーボンブラック、チタンブラック、黒色酸化鉄などが挙げられる。
黒色物質の使用量は、熱可塑性樹脂(1)100重量部に対し、好ましくは0.01〜10重量部、更に好ましくは0.1〜5重量部である。この範囲にあると白色発色性に優れる。また、黒色物質の着色色調の調整に酸化チタン等の白色物質を併用することも出来る。
【0036】
<黒色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂(2)>
上記の熱可塑性樹脂(2)は、以下のゴム強化スチレン系グラフト共重合体(2−1)及び/又はスチレン系共重合体(2−2)から成る。熱可塑性樹脂(2)がゴム状重合体を含む場合、ゴム状重合体の含量は、好ましくは5〜40重量%、更に好ましくは5〜30重量%である。芳香族ビニル化合物(a)の含量は、好ましくは10〜85重量%、更に好ましくは25〜80重量%である。シアン化ビニル化合物(b)の含量は、好ましくは10〜50重量%、更に好ましくは15〜45重量%である。他の単量体(c)の含量は、好ましくは0〜70重量%、更に好ましくは0〜55重量%である。グラフト率は、好ましくは10〜150%、更に好ましくは15〜100%である。アセトン可溶成分の極限粘度[η]は、好ましくは0.2〜1.2dl/g、更に好ましくは0.3〜0.8dl/gである。上記の範囲にあると、耐衝撃性と黒色発色性と成形加工性の物性バランスに優れる。
【0037】
上記の熱可塑性樹脂(2)がゴム状重合体を含まない場合、芳香族ビニル化合物(a)の含量は、好ましくは50〜90重量%、更に好ましくは55〜85重量%である。シアン化ビニル化合物(b)の含量は、好ましくは10〜50重量%、更に好ましくは15〜45重量%である。他の単量体(c)の含量は、好ましくは0〜40重量%、更に好ましくは0〜30重量%である。アセトン可溶成分の極限粘度[η]は、好ましくは0.2〜1.2dl/g、更に好ましくは0.3〜0.8dl/gである。上記の範囲にあると、黒色発色性と成形加工性の物性バランスに優れる。
【0038】
上記の他の単量体(c)としては、(メタ)アクリル酸エステル、無水マレイン酸、マレイミド化合物の群から選ばれた少なくとも1種である。他の単量体(c)の種類、使用量は、黒色発色レーザーマーキング性に支障のない範囲で適宜決められる。
【0039】
ゴム強化スチレン系グラフト共重合体(2−1):
この(2−1)は、ゴム状重合体(d)の存在下に、上述の(a)成分および(b)成分、ならびに必要に応じて(c)成分からなる単量体成分(e)を重合して得られる。(2−1)のグラフト率は、好ましくは10〜150%、更に好ましくは15〜100%である。アセトン可溶成分の極限粘度[η]は、好ましくは0.2〜1.2dl/g、更に好ましくは0.3〜0.8dl/gである。ゴム状重合体、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、他の単量体の種類は、好ましい態様を含め、上記(1−1)の場合と同様である。上記(2−1)は、公知の重合条件を用いた、塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法などで得られる。
【0040】
スチレン系共重合体(2−2):
この(2−2)は、上述の(a)成分および(b)成分、ならびに必要に応じて(c)成分からなる単量体成分(e)を重合して得られる。(2−2)のアセトン可溶成分の極限粘度[η]は、好ましくは0.2〜1.2dl/g、更に好ましくは0.3〜0.8dl/gである。芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、他の単量体の種類は、好ましい態様を含め、上述の(1−1)の場合と同様である。上述の(2−1)は、公知の重合条件を用いた、塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法などで得られる。
【0041】
上述の熱可塑性樹脂(2)は、各種押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールを用いて混練することによって得られる。
【0042】
また、鮮明な黒色発色を得るために、次に掲げる、無機鉛化合物以外の金属含有化合物を添加することができる。好ましい金属の元素としては、ビスマス、ニッケル、亜鉛、カルシウム、銅、チタン、ケイ素、コバルト、鉄などが挙げられ、これらの金属元素の酸化物、水酸化物、有機金属が挙げられる。具体的には、無機化合物の酸化ビスマス、ギ酸ニッケル、ホウ酸亜鉛、ホウ酸カルシウム、リン酸系亜鉛、ケイ酸カルシウム、水酸化ビスマス、塩基性炭酸ビスマス、塩基性酢酸ビスマス、水酸化ニッケル、ショウ酸銅、塩基性炭酸銅、チオシアン酸銅、クエン酸銅、シュウ酸鉄、黒色酸化鉄、酸化チタンなどを配合することでより優れた黒色発色を得ることができる。無機鉛化合物以外の金属含有化合物の好ましい配合量は、熱可塑性樹脂(2)100重量部に対し、通常0.01〜30重量部、好ましくは0.05〜15重量部、更に好ましくは0.1〜10重量部である。無機鉛化合物以外の金属含有化合物の配合量が0.01重量部未満であると、黒色発色の効果が小さく、30重量部を越えると耐衝撃性が劣る。
【0043】
熱可塑性樹脂(2)には、必要に応じ、HIPS、ポリスチレン、ポリカーボネート、PPS、PPO、POM、ポリアミド、PBT、PET、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリアセタール、エポキシ樹脂、ポリウレタン、フッ化ビニリデンおよび熱可塑性エラストマーから選ばれた1種以上のポリマーを配合することもできる。好ましい配合割合は、上記の熱可塑性樹脂(2)40〜90重量%に対し、上記のポリマー60〜10重量%である。特に、ポリカーボネート、PPS、PPO、POM、ポリアミド、PBT、PET、ポリ塩化ビニル、ポリアセタール、エポキシ樹脂、ポリウレタンなどを用いることにより、レーザーマーキング性の優れた材料を得ることができる。
【0044】
更に、熱可塑性樹脂(2)には、必要に応じ、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの安定剤、シリコーンオイル、低分子量のポリエチレン(酸化ポリエチレンワックスを含む。)などの滑剤、炭酸カルシウム、タルク、クレー、酸化チタン、シリカ、炭酸マグネシウム、カーボンブラック、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、マイカ、ガラスビーズ、ガラス繊維、金属フィラーなどの充填剤、分散剤、発泡剤、着色剤などを添加することができる。
【0045】
着色剤としては、有機顔料、無機鉛化合物を除く無機顔料、染料などが挙げられる。その中でも有機顔料が好ましい。有機顔料として、例えば、アゾ顔料;ピラゾロン系、2,3−オキシナフトイルアリールアミド系、2,4,6−トリアミノ−1,3−ピリミジン系、3−シアノ−4−メチル−ピリドン系のモノアゾまたはジスアゾ化合物ならびにアゾ化合物の金属塩からなる群から選択されるもの。ジアゾ顔料;ピラゾロン系または2,3−オキシナフトイルアリールアミド系から選択されるもの。その他有機顔料;銅フタロシアニン、群青などが使用できる。好ましい無機顔料としては、プルシアンブルー、クロム酸銅、チタンブラック、チタンイエローなどが挙げられる。好ましい染料としては、カーボンブラックを含有する黒色染料などが挙げられる。これらの中では、チタンブラック、ピラゾロン系顔料、アゾ化合物の金属塩、チタンイエロー、群青などが好ましいものとして挙げられる。着色剤の配合量としては、上述のゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂の合計100重量部に対し、通常0.001〜5重量部、好ましくは0.01〜5重量部である。
【0046】
<透明熱可塑性樹脂(b)>
透明熱可塑性樹脂(b)に使用する樹脂としては、積層体として使用する厚さの単層での光線透過率が70%以上の透明熱可塑性樹脂であれば特に制限されないが、ポリエステル樹脂、(メチル)メタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂などが挙げられる。これらの中ではポリエステル樹脂が好ましい。
【0047】
光線透過率の測定は、日本分光株式会社製分光光度計「V−570」を使用し、波長200〜1,100nmの範囲の光線を使用して行う。本発明において、光線透過率が70%以上とは、上記範囲の何れか少なくとも1つの波長の光線で測定した場合の光線透過率が70%以上であることを意味する。光線透過率は好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上である。光線透過率が70%未満の場合は、レーザーマーキングによる発色性が劣る。
【0048】
ポリエステル樹脂としては、全ジカルボン酸成分中の50モル%以上がテレフタル酸成分からなり、全ジオール成分中の50%以上がエチレングリコール成分からなるポリエステル樹脂が好適である。
【0049】
テレフタル酸以外のジカルボン酸成分としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、4,4´−ジフェニルジカルボン酸、4,4´−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4´−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4´−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等の脂環式ジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ジグリコール酸等の脂肪族ジカルボン酸、の一種又は二種以上が挙げられる。
【0050】
エチレングリコール以外のジオール成分としては、例えば、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール等の脂肪族ジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール、ピロカテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン等の芳香族ジオールの一種又は二種以上が挙げられる。
【0051】
更に、例えば、グリコール酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸やアルコキシカルボン酸、並びに、ステアリン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸等の単官能成分、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール等の三官能以上の多官能成分、等の一種又は二種以上を、共重合成分として用いてもよい。
【0052】
上記の中で、テレフタル酸成分以外のジカルボン酸成分としてはイソフタル酸が、また、エチレングリコール以外のジオール成分としては、1,4−シクロヘキサンジメタノール(以下、1,4−CHDMと略記する)が好適であり、更にジカルボン酸成分としてテレフタル酸を主成分とし、ジオール成分として、エチレングリコールと1,4−CHDMとを主成分とし、かつ全ジオール成分中の1,4−CHDM比率が全ジオール成分に対して15〜50モル%であるポリエステル樹脂が特に好適であり、斯かるポリエステル樹脂としては、イーストマンケミカル社製の「EASTAR PETG Copolyester6763」(商品名)が挙げられる。尚、ここで言う主成分とは、各成分中85モル%以上、好ましくは90モル%以上であることを示す。
【0053】
本発明の最大の特徴は、B層の透明熱可塑性樹脂がブロッキング防止処理されている点にある。本発明において、ブロッキング防止処理は不活性粒子を利用した粗面化によって達成される。そして、不活性粒子を利用した粗面化は、積層体の製造工程において透明熱可塑性樹脂(b)に不活性粒子を配合する方法または積層体に不活性粒子含有塗布液を塗布した後に乾燥する方法の何れであってもよい。しかしながら、前者の方法による場合は積層体の製造工程における滑り性の改良効果が顕著である。
【0054】
上記の不活性粒子としては、例えば、酸化ケイ素、酸化チタン、ゼオライト、窒化ケイ素、窒化ホウ素、セライト、アルミナ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸カルシウム、リン酸リチウム、リン酸マグネシム、フッ化リチウム、カオリン、タルク、特公昭59−5216号公報に記載された様な架橋高分子微粉体を挙げることが出来る。
【0055】
上記の不活性粒子の平均粒径は、通常1.0〜10μm、好ましくは2.0〜6.0μmである。平均粒径が1.0μm未満の場合は滑り性改良効果が十分ではなく、10μmを超える場合は透明熱可塑性樹脂層の透明性が損なわれる。また、不活性粒子の含有量は、通常0.05〜2.0重量%、好ましくは0.1〜1.5重量%、更に好ましくは0.2〜1.0重量%である。含有量が0.05重量%未満場合は滑り性改良効果が十分ではなく、2.0重量%を超える場合は透明熱可塑性樹脂層の透明性が損なわれる。
【0056】
透明熱可塑性樹脂層に不活性粒子を配合する方法としては、現在公知である任意の方法を採用することが出来る。例えば、重合時に添加したり、重合後の透明熱可塑性樹脂にブレンダーを使用して混合したり、不活性粒子の高濃度のマスターバッチを作成しておき、希釈して透明熱可塑性樹脂に混合したりして配合することが出来る。
【0057】
透明熱可塑性樹脂層には、上記の不活性粒子の他に、滑り性や透明性を損なわない範囲で、帯電防止剤、安定剤、滑剤、紫外線吸収剤、各種の添加剤を添加することが出来る。更に、透明熱可塑性樹脂層の表面に帯電防止剤や、シリコーン、ワックス等の滑剤を塗布することが出来る。滑剤の塗布により、前記の不活性粒子を利用した粗面化と相まって高度な耐ブロッキング性が付与される。すなわち、枚葉式で貯蔵される際におけるブロッキングの問題が一挙に解決される。
【0058】
上記の滑剤の好適な一例として、ジメチルシロキサンが挙げられる。通常、ジメチルシロキサンはエマルジョンとして使用され、固形分濃度1〜5重量%のエマルジョンとして1〜5ml/mの割合で使用される。
【0059】
<積層体>
本発明の積層体は、A層の少なくとも片面にB層が積層され、A層/B層から成る基本的層構成を有する。他の層構成としてはB層/A層/B層が挙げられる。斯かる3層構成において、2つのB層は、異なる種類の透明熱可塑性樹脂(b)で形成してもよい。更に、他の層構成としては、B層/A層/C層またはB層/A層/C層/B層が挙げられる。C層は例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)等の耐光性に優れる樹脂にて形成することが出来る。本発明の好ましい他態様の積層体はB層/A層/C層から成る層構成を有する。
【0060】
本発明の積層体の製造方法は、特に限定されないが、通常、共押出法が採用される。例えば、各原料樹脂を常法により乾燥した後、別々の押出機に供給し、所定温度で、マルチマニホールドダイやフィードブロックダイより押出して、通常0〜80℃、好ましくは10〜50℃に調節されたキャスティングドラム上で冷却固化させて積層シートを形成する。この際、キャスティングドラムの近傍に1個以上のタッチロールを装備し、シート化時に当該タッチロールを押さえロールとして使用することが均一厚さの積層体が得られる点で好ましい。なお、押出機にベントポートを装着することにより、乾燥工程を省略したり、乾燥時間を短縮化することが出来る。
【0061】
単色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂(a)の溶融温度は、通常200〜260℃である。透明熱可塑性樹脂(b)の溶融温度は樹脂の種類により異なる。ポリエステル樹脂の場合は通常240〜310℃である。ポリカーボネート樹脂の場合は通常280〜320℃、ポリエチレン樹脂の場合は通常180〜220℃、PMMAの場合は通常260〜320℃である。
【0062】
また、各層の厚みは通常それぞれの押出機からの溶融樹脂の吐出量を調節することにより制御する。前記の層構成おける各層の厚さは積層体の使用態様(フイルム使用またはシート使用)により異なるが、A層の厚さは通常40μmないし50mm、B層およびC層の厚さは5μmないし5mmであり、積層体の全体厚さに対するA層の厚さの比率は通常90〜95%である。
【0063】
上述の様にして得られた積層体の表面に帯電防止剤や、シリコーン、ワックス等の滑剤を塗布する場合、キャスティングドラムの後流に設けられた塗布装置で処理した後、例えば、20〜70℃に保持されたドライヤー内で5〜30秒の滞留時間処理されて乾燥された後、カールすることがない様に案内ロールで水平に維持されたまま切断装置に供給されて所定のサイズに切断されて積み上げられる。こうして得られた枚葉品の積層体は、包装された後に出荷される。
【0064】
また、本発明の積層体は、上記の共押出法の他、ドライラミネート法や塗布法によって製造することが出来る。例えば、塗布法の場合、A層に対応するフィルム又はシートを製造し、その表面にB層またはC層に対応させて塗布層を形成する。
【0065】
本発明の積層体に対するレーザーマーキングは次の様に行なうことが出来る。レーザー光の種類としては、CO2レーザー、エキシマレーザー、YAGレーザー等が用いられる。本発明においてはYAGレーザーが好ましい。
【0066】
レーザーの照射により表示が施された本発明の積層体は、各種の用途に供することが出来る。特に、積層体におけるB層は、他の物品に貼り合わせる際、ラミネート層として機能し、接着剤塗布層や融着層として使用することが出来る。従って、本発明の積層体は、プリペイドカードの他、例えば、タクシーの運転者席の後部に貼り合わせて宣伝用プレートとして使用することが出来る。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の諸例で使用した物性の測定方法は次の通りである。
【0068】
<1.試験方法>
(1)光線透過率:
表層と同じ厚さのフィルムを作成し、日本分光株式会社製分光光度計「V−570」を使用し、波長600nmの光線で測定した。
【0069】
(2)積層体シートの評価方法:
(i)シート外観評価:
押出機で得られた幅1000mm、長さ5mのシートについて目視により外観観察を行い、次の基準で評価した。
【0070】
【表3】

【0071】
(ii)レーザー白発色評価:
レーザーマーキング装置として、ロフィンバーゼル社「Power Line−E」(1064nmタイプ)を使用し、出力24.0〜30.0A、周波数4.0〜13.0kHz、スキャン速度400mm/sの条件でシートを発色させて目視観察を行い、次の基準で評価した。
【0072】
【表4】

【0073】
(iii)レーザー黒発色評価:
レーザーマーキング装置として、ロフィンバーゼル社「Power Line−E」(1064nmタイプ)を使用し、出力24.0〜30.0A、周波数4.0〜13.0kHz、スキャン速度400mm/sの条件でシートを発色させて目視観察を行い、次の基準で評価した。
【0074】
【表5】

【0075】
(iv)表面平滑性評価:
押出機で得られた幅1000mm、長さ5mのシートについて触感評価を行い、次の基準で評価した。
【0076】
【表6】

【0077】
(v)耐薬品性評価:
エタノール(1級)をガーゼに1mlしみこませて、1kg荷重で白発色または黒発色を有するマーキング部を200回往復させた後、表層の外観の目視観察を行い、次の基準で評価した。なお、1往復に要する時間は10秒に設定した。
【0078】
【表7】

【0079】
(vi)動摩擦係数(μd)の測定方法:
平滑なガラス板上に、幅15mm、長さ150mmに切り出した後述の積層体同士を2枚重ね、その上にゴム板を載せ、更に、その上に荷重を載せることにより、2枚の積層体接触圧力を2g/cmとし、20mm/minの速度で積層体同士を滑られて摩擦力を測定した。5mm滑らせた点での摩擦係数を動摩擦係数(μd)とした。測定器には、東洋精機社製の摩擦測定器「TR−2」を使用した。
【0080】
(vii)ヒートシール性:
後述の積層体同士を2枚重ね、両外面を厚さ100μmの保護用テフロン(登録商標)製シートで挟み、温度140℃、圧力5kg/cm、時間10秒の条件下、バーシーラーを使用してヒートシールした。次いで、テフロン(登録商標)製シートを取り外し、ヒートシール部分の幅が15mmとなる様に、短冊条のT字型剥離強度測定用サンプルを切り出した。T字型剥離強度は、引張試験機を使用し、温度30℃、相対湿度50%の環境下、チャック間距離100mm、引張速度300mm/分の条件にて測定した。測定は5回繰り返し、その平均値をもって剥離強度とした。
【0081】
(viii)レーザーマーキング処理面の耐久試験評価:
後述の積層体にレーザーマーキング処理を施し、処理面(縦30mm、横30mm)に対し、2kg荷重で繰り返し百万回の打鍵試験を行ない、試験後の外観評について目視観察を行い、次の基準で評価した。
【0082】
【表8】

【0083】
<2.使用材料>
(1)ゴム強化アクリル系グラフト共重合体(A−1):
ポリブタジエンゴム含量30重量%、スチレン含量16重量%、メタクリル酸メチル含量49重量%、アクリロニトリル含量5重量%であり、グラフト率65%、アセトン可溶分の[η](メチルエチルケトン溶媒を使用して30℃で測定した値)0.48dl/gのゴム強化アクリル系グラフト共重合体
【0084】
(2)ゴム強化スチレン系グラフト共重合体(A−2):
ポリブタジエンゴム含量40重量%、スチレン含量45重量%、アクリロニトリル含量15重量%であり、グラフト率60量%、アセトン可溶分の[η](メチルエチルケトン溶媒を使用して30℃で測定した値)0.45dl/gのゴム強化スチレン系グラフト共重合体
【0085】
(3)アクリル系共重合体(A−3):
スチレン含量21重量%、メタクリル酸メチル含量72重量%、アクリロニトリル含量7重量%であり、[η](メチルエチルケトン溶媒を使用して30℃で測定した値)0.49dl/gのアクリル系共重合体
【0086】
(4)スチレン系共重合体(A−4):
スチレン含量70重量%、アクリロニトリル含量30重量%であり、[η](メチルエチルケトン溶媒を使用して30℃で測定した値)0.49dl/gのアスチレン系共重合体
【0087】
(5)黒色物質(カーボンブラック)(A−5):
三菱化学社製「三菱カーボン♯45」
【0088】
(6)ポリエチレンテレフタレート樹脂(B−1):
イーストマンケミカル社製「EASTAR PETG Copolyester6763」(商品名)
【0089】
(7)ポリエチレンテレフタレート樹脂(B−2):
日本ユニペット社製「UNIPET RT523」
【0090】
(8)ポリカーボネート樹脂(B−3):
三菱エンジニアリングプラスチックス社製「NOVAREX 7022A」
【0091】
(9)アクリル樹脂(B−4)
三菱レーヨン社製「アクリペット VH001」
【0092】
(10)白色ポリエチレンテレフタレート樹脂(B−5):
日本ユニペット社製のポリエチレンテレフタレート樹脂「UNIPET RT523」に平均粒径0.3μmのアナターゼ型酸化チタンを酸化チタンとして3重量%となる量で混合し、内径30mmの二軸押出機を使用し、シリンダー温度270℃で溶融混練して調製した。
【0093】
実施例1:
(A−1)成分50重量部、(A−3)成分40重量部、(A−4)成分10重量部および(A−5)成分0.05重量部の混合物を、内径50mmの押出機を使用して、シリンダー温度190〜260℃で溶融混練し、主として、中間層に使用するペレット(1)を得た。
【0094】
上記のペレット(1)とポリエチレンテレフタレート樹脂(B−1)をそれぞれベント
ポート付き120mmφ二軸押出機(A層用)とベントポート付き65mmφ二軸押出機(B層用)に供給した。更に、B層用押出機には、ポリエチレンテレフタレート樹脂(B−1)に対して5重量%の不定形シリカ(平均粒径4μm)を混合したマスターバッチを、混合後の粒子濃度がB層を形成するポリエチレンテレフタレート樹脂(B−1)に対して0.2重量%となる様に供給した。
【0095】
ペレット(1)及びポリエチレンテレフタレート樹脂(B−1)の各樹脂温度を250℃とし、両者をフィードブロック付きTダイより押し出し、温度40℃のキャスティングドラム上で急冷した。各押出機の吐出量を制御することにより、B層厚みが20μm、A層厚みが260μmの2種3層(B/A/B)の積層体を得た(B層の合計厚みはシート全体の厚みの13%に相当)。
【0096】
次いで、上記の積層体の表面に、固形分濃度が30重量%のジメチルシロキサンエマルジョンを3重量%となる様に希釈した水溶液を、2ml/mとなる量で塗布した後、乾燥し、一定長さにカッティングして、枚葉体として得た。得られた積層体シートを前述の方法で評価し、その結果を表9に示す。
【0097】
実施例2〜4及び比較例1〜3:
表9に示す成形材料を使用した以外は実施例1と同様にして積層体シートを得て評価した。結果を表9に示す。
【0098】
【表9】

【0099】
実施例1〜4は、本発明に係る白色発色積層体であり、目的の性能を有している。一方、比較例1及び2は、表層に本発明の規定外の材料を使用しており、比較例1の場合は、レーザー発色性、表面平滑性、耐薬品性、動摩擦係数およびレーザーマーキング処理面の耐久性に劣り、比較例2の場合は、レーザー発色性、表面平滑性および接着性に劣り、比較例3の場合はレーザー発色性が劣る。
【0100】
実施例5〜8及び比較例4〜6:
(A−2)成分40重量部および(A−4)成分60重量部の混合物を、内径50mmの押出機を使用して、シリンダー温度190〜260℃で溶融混練し、主として、中間層に使用するペレット(2)を得た。そして、表10に示す成形材料を使用した以外は実施例1と同様にして積層体シートを得て評価した。結果を表10に示す。
【0101】
【表10】

【0102】
実施例5〜8は、本発明に係る黒白色発色積層体であり、目的の性能を有している。一方、比較例4及び5は、表層に本発明の規定外の材料を使用しており、比較例4の場合は、レーザー発色性、表面平滑性、耐薬品性、動摩擦係数およびレーザーマーキング処理面の耐久性に劣り、比較例5の場合は、レーザー発色性、表面平滑性および接着性に劣り、比較例6の場合はレーザー発色性が劣る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A層の少なくとも片面にB層が積層されたレーザーマーキング用の積層体であって、A層は、白色または黒色の単色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂にて形成され、B層は、透明熱可塑性樹脂にて形成された、単層での光線透過率が70%以上の層であり、B層の透明熱可塑性樹脂がブロッキング防止処理されていることを特徴とするレーザーマーキング用の積層体。
【請求項2】
A層が白色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂から形成された層であり、且つ、当該熱可塑性樹脂が(メタ)アクリル酸エステルが共重合されている共重合体である請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
A層が黒色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂から形成された層であり、且つ、当該熱可塑性樹脂がシアン化ビニル化合物が共重合されている共重合体である請求項1に記載の積層体。
【請求項4】
共重合体がゴム強化グラフト共重合体である請求項2又は3に記載の積層体。
【請求項5】
B層の透明熱可塑性樹脂がポリエステル樹脂である請求項1〜4の何れかに記載の積層体。
【請求項6】
ポリエステル樹脂が、全ジオール成分中の1,4−シクロヘキサンジメタノール比率が全ジオール成分に対して15〜50モル%であるポリエステル樹脂である請求項5に記載の積層体。
【請求項7】
フィルム又はシート状である請求項1〜6の何れかに記載の積層体。
【請求項8】
レーザー光の照射により白色または黒色の表示が施されている請求項1〜7の何れかに記載の積層体。

【公開番号】特開2006−256307(P2006−256307A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−32683(P2006−32683)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】