説明

レーザー光学素子とそれを用いた画像投影装置

【課題】波長の異なる複数のレーザー光を色合成して射出する小型のレーザー光学素子と、それを備えたレーザー走査方式の画像投影装置を提供する。
【解決手段】レーザー光学素子P1は、互いに異なる波長のレーザー光を射出する第1,第2レーザー光源11,12と、レーザー光源11,12から射出したレーザー光L1,L2をいずれも平行光又は略平行光とするコリメートレンズ2と、レーザー光源11,12から射出したレーザー光L1,L2のうち、第1波長のレーザー光L1に作用し、第2波長のレーザー光L2に作用しないことにより、第1波長のレーザー光L1と第2波長のレーザー光L2とを同一方向に射出する回折格子DGと、を有する。回折格子DGはコリメートレンズ2の射出面に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザー光学素子とそれを用いた画像投影装置に関するものであり、例えば、複数波長のレーザー光を光路合成して射出する超小型のレーザー光学素子と、それを用いて得られるレーザー光をミラーで2次元的に偏向走査してスクリーン面に画像を投影するレーザー走査方式の画像投影装置(例えば、レーザープロジェクタ)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
小型の画像投影装置として、デジタル・マイクロミラー・デバイス(digital micromirror device),液晶素子等の光変調素子を用いたプロジェクタが従来より知られている。しかし、光変調素子で表示される画像を拡大投影する方式(いわゆるマイクロディスプレイ方式)では、装置の小型化に限界がある。2次元の画像を投影しようとすれば、照明光学系や投影光学系の大型化を避けることが難しいからである。
【0003】
また、レーザープロジェクタ等のレーザー走査型画像投影装置も、小型の画像投影装置として従来より知られている。例えば、レーザープロジェクタに採用されているレーザー走査方式の場合、レーザー光を互いに直交する第1,第2走査方向に偏向させ、スクリーン面上をビームスポットで2次元的に走査することにより、2次元の画像形成が行われる。レーザー光の偏向にはMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラー等の小さな偏向反射ミラーが用いられ、また、偏向走査に追随してレーザー光の輝度変調が行われる。
【0004】
上記レーザー走査型画像投影装置には様々な特長がある。例えば、偏向用の反射ミラーがデジタル・マイクロミラー・デバイス等の光変調素子と比較して小さいこと、光源がレーザー光源であり、レーザー光を偏向反射ミラーに照射するだけなので、そのための入射光学系を小さくできること、スクリーン面上をビームスポットで走査するだけなので、光変調素子の2次元画像を投影する投影光学系と比較すると走査レンズ系を小さくできたり、あるいは走査レンズ系を不要にできたりすること等である。したがって、このレーザー走査方式を採用すると装置の小型化が可能である。
【0005】
上記レーザー走査方式を採用した画像投影装置において、複数波長のレーザー光を1つの偏向反射ミラーに入射させるには、複数波長のレーザー光を光路合成すること(つまり色合成)が必要となる。色合成用の光学素子としては、回折格子,ダイクロイックプリズム,ダイクロイックミラー等が従来より知られている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−294279号公報
【特許文献2】特開2002−15448号公報
【特許文献3】特表2009−533715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1記載の色合成では回折作用を利用しており、特許文献2記載の色合成では偏光による回折作用の切り替えを利用しており、特許文献3記載の色合成ではダイクロイックミラーの波長選択性を利用している。しかし、いずれの構成も色合成に大きなスペースが必要であり、画像投影装置の小型化には不利な構成となっている。
【0008】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、波長の異なる複数のレーザー光を色合成して射出する小型のレーザー光学素子と、それを備えたレーザー走査方式の画像投影装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、第1の発明のレーザー光学素子は、互いに異なる波長のレーザー光を射出する複数のレーザー光源と、前記複数のレーザー光源から射出したレーザー光をいずれも平行光又は略平行光とするコリメートレンズと、前記複数のレーザー光源から射出したレーザー光のうち、第1波長のレーザー光に作用し、第2波長のレーザー光に作用しないことにより、第1波長のレーザー光と第2波長のレーザー光とを同一方向に射出する回折格子と、を有し、前記回折格子が前記コリメートレンズの射出面に設けられていることを特徴とする。
【0010】
第2の発明のレーザー光学素子は、上記第1の発明において、第1波長のレーザー光を射出するレーザー光源を第1レーザー光源とし、第2波長のレーザー光を射出するレーザー光源を第2レーザー光源とすると、以下の条件式(1)を満足することを特徴とする。
0.8<(d・ΔT)/(M・λ・f)<1.2 …(1)
ただし、
d:コリメートレンズの光軸上での格子ピッチ、
ΔT:第2レーザー光源から第1レーザー光源までのシフト量、
M:回折次数、
λ:第1波長、
f:コリメートレンズの焦点距離、
である。
【0011】
第3の発明のレーザー光学素子は、上記第1又は第2の発明において、前記複数のレーザー光源が同一基板に形成された半導体レーザーチップであることを特徴とする。
【0012】
第4の発明のレーザー光学素子は、上記第1〜第3のいずれか1つの発明において、第1波長のレーザー光を射出するレーザー光源を第1レーザー光源とし、第2波長のレーザー光を射出するレーザー光源を第2レーザー光源とすると、第1レーザー光源と第2レーザー光源の並び方向について、前記回折格子が周辺ほど細かい格子ピッチを有することを特徴とする。
【0013】
第5の発明のレーザー光学素子は、上記第1〜第4のいずれか1つの発明において、第1波長のレーザー光を射出するレーザー光源を第1レーザー光源とし、第2波長のレーザー光を射出するレーザー光源を第2レーザー光源とすると、第1レーザー光源が青色発光のレーザー光源であり、第2レーザー光源が緑色発光のレーザー光源であることを特徴とする。
【0014】
第6の発明のレーザー走査方式の画像投影装置は、上記第1〜第5のいずれか1つの発明に係るレーザー光学素子と、前記レーザー光を互いに直交する2方向に偏向させる偏向装置と、を備え、前記レーザー光学素子から射出して前記偏向装置で2次元的に偏向走査されたレーザー光でスクリーン面への画像投影を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、回折格子がコリメートレンズの射出面に設けられた構成になっているため、レーザー光学素子の小型化を達成しながら、波長の異なる複数のレーザー光の色合成が可能である。そして、本発明に係るレーザー光学素子を用いることにより、高品質の画像が得られる小型の画像投影装置を実現することができる。
【0016】
条件式(1)を満たすことにより、色合成を良好に行って、色ズレのない高品質の画像を投影することが可能となる。レーザー光源として、同一基板に形成された複数の半導体レーザーチップを用いることにより、レーザー光学素子の小型化を効果的に達成することが可能となり、また、青色発光と緑色発光のレーザー光源であれば、同一材料の基板での作製が可能となる。第1レーザー光源と第2レーザー光源の並び方向について、回折格子の格子ピッチを周辺ほど細かくすると、コマ収差補正を効果的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】画像投影装置の実施の形態を示す模式図。
【図2】レーザー光学素子の実施の形態における色合成を説明するための模式図。
【図3】回折格子を持たないレーザー光学素子の光路図。
【図4】レーザー光学素子の実施の形態における回折格子の配置の影響を説明するための模式図。
【図5】レーザー光学素子の実施の形態におけるコマ収差補正を説明するための模式図。
【図6】コマ収差補正機能を持たせる前後の回折格子を示す模式図。
【図7】レーザー光学素子の実施例の光路図。
【図8】レーザー光学素子の実施例及び比較例に用いられている回折格子の位相分布図。
【図9】実施例及び比較例のレンズ上下方向のピッチを示すグラフ。
【図10】レーザー光学素子の実施例及び比較例のスポットダイアグラム。
【図11】一般的なレーザープロジェクタの概略構成例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るレーザー光学素子及び画像投影装置の実施の形態等を、図面を参照しつつ説明する。なお、実施の形態等の相互で同一の部分や相当する部分には同一の符号を付して重複説明を適宜省略する。
【0019】
本発明に係る画像投影装置は、レーザー光の2次元的な偏向走査によりスクリーン面に画像を投影するレーザー走査方式の画像投影装置である。その概略構成を図1に示す。レーザープロジェクタ(画像投影装置)PJは、レーザー光学素子P1と、そのレーザー光学素子P1から射出したレーザー光L1,L2を互いに直交する第1走査方向と第2走査方向とに偏向させるMEMSスキャナ(偏向装置)P2と、で構成されており、MEMSスキャナP2によるレーザー光の2次元的な偏向走査により、スクリーン面(被走査面)SCに2次元画像を形成する。
【0020】
レーザー光学素子P1は、光源装置1,コリメートレンズ2及び回折格子DGを有している。光源装置1は、互いに異なる波長のレーザー光L1,L2を射出する第1レーザー光源11及び第2レーザー光源12を有しており、コリメートレンズ2は、第1,第2レーザー光源11,12から射出したレーザー光L1,L2をいずれも平行光又は略平行光とする。回折格子DGは、コリメートレンズ2の射出面に設けられており、第1,第2レーザー光源11,12から射出したレーザー光L1,L2のうち、第1波長のレーザー光L1に作用し、第2波長のレーザー光L2に作用しないことにより、第1波長のレーザー光L1と第2波長のレーザー光L2とを同一方向に射出する。その結果、第1,第2波長のレーザー光L1,L2が同一方向に光路合成(つまり色合成)される。色合成されたレーザー光L1,L2は、MEMSスキャナP2に内蔵されているMEMSミラー(偏向反射ミラー)MRでの反射により偏向される。
【0021】
したがって、色合成用のダイクロイックプリズムやダイクロイックミラーを用いなくても、コリメートレンズ2の射出面に設けられている回折格子DGによって、波長の異なる2本のレーザー光L1,L2の色合成を小型のレーザー光学素子P1で行うことができる。そして、上記レーザー光学素子P1を用いることにより、高品質の画像が得られる画像投影装置PJの小型化を達成することができる。
【0022】
第1波長及び第2波長とは異なる第3波長のレーザー光を射出する第3レーザー光源を、光源装置1に更に設けてもよい。その場合、第2波長のレーザー光L2(例えば、緑色レーザー光)には作用せず、第1波長のレーザー光L1(例えば、赤色レーザー光)には例えば2次の回折で作用し、第3波長のレーザー光(例えば、青色レーザー光)には例えば3次の回折で作用するように、格子構造を重畳させた回折格子DGをコリメートレンズ2の射出面に設ければよい。このように、異なる次数Mの回折と波長λとを組み合わせた設計にすることにより、コリメートレンズ2から3本以上のレーザー光を同一方向に射出させる、3波長以上の色合成が可能となる。また、回折格子DGが作用しない高さは、後述するレベル数pでも変化するため、最適なレベル数pと回折次数Mと波長λとの組み合わせを考えた設計にすることが好ましい。
【0023】
上述したレーザー光学素子P1の色合成機能,コンパクト性,収差性能等を更に詳しく説明する。図11に、従来より知られている一般的なレーザー走査型画像投影装置PJの概略構成例を示す。図11(A)に示す画像投影装置PJは、レーザー光源5R,5G,5Bから射出したRGBのレーザー光をコリメートレンズ6R,6G,6Bでそれぞれコリメートし、さらにダイクロイックプリズム7R,7G,7Bで色合成を行う構成になっている。このような構成を採用すると、少なくとも2回の色合成(つまり、少なくともダイクロイックプリズム7G,7Bでの色合成)が必要となる。図11(B)に示すように、クロスダイクロイックプリズム7を用いれば、2回の色合成を1回にすることができる。しかし、その場合においても、全体を小型に保ったまま行うことは難しく、却って大きくなってしまう。例えば、レーザー光源5R,5G,5B間に生じる不要なスペースが全体の大型化を招くことになる。したがって、図11に示すような構成では、仮に非常に小さなレーザー光源が入手できたとしても、色合成部分に占める体積を大きく減らすことはできないので、究極の小型化を行うことは難しい。
【0024】
前述した画像投影装置PJ(図1)のように、複数のレーザー光L1,L2に対して1つのコリメートレンズ2を共用する構成にすれば、究極の小型化を行うことが可能である。つまり、複数のレーザー光源が同一基板に形成された半導体レーザーチップであれば、パッケージ型のレーザー光源5R,5G,5B(図11)よりも遙かに小型化が可能である。しかし、図2(A)に示すように、2つのレーザー光源(つまり、赤色レーザー光源1Rと緑色レーザー光源1G)の前に1つのコリメートレンズ2(ここでは屈折作用のみでコリメートするレンズ)を配置すると、光軸AX上にある緑色レーザー光源1Gからのレーザー光LGは光軸AXに対し平行にコリメートされるが、光軸AX外にある赤色レーザー光源1Rからのレーザー光LRは光軸AXに対し斜めにコリメートされてしまう。したがって、色ズレのない光を得るには、射出方向を同一方向に揃える色合成が必要となる。
【0025】
図1に示す画像投影装置PJのように、色合成機能を有するコリメートレンズ2を用いれば、レーザー光LR,LGの射出方向を揃えることが可能である。例えば、図2(B)に示すように、赤色レーザー光LRのみに作用し緑色レーザー光LGには作用しない回折格子DGを、コリメートレンズ2の射出面に配置すれば、赤色レーザー光LRと緑色レーザー光LGを同一方向に射出させることができる。
【0026】
回折格子DGは、赤色レーザー光LR(射出角度θ)が光軸AXに対して平行になるように作用するものであり、M次回折光の場合は、式:d・sinθ=M・λで計算されるピッチdの1次元回折格子である(λ:波長)。図2(C)に、ピッチdの1次元回折格子DGを模式的に示す。高い回折効率を得るためには、回折格子DGは位相型の回折格子であることが好ましく、ブレーズ型や複数レベル(4レベル以上)のバイナリ型の回折格子が更に好ましい。
【0027】
回折格子DGで色合成を行うには、緑色レーザー光LGには作用せずに赤色レーザー光LRに作用する回折格子DGが必要となる。そのためには、回折格子DGの高さ(言い換えれば、溝深さ)の選択が必要である。バイナリ構造のレベル数をpとすると、1次回折効率が最大となる回折格子DGの高さLtは、式:Lt=((p−1)/p)・(λ/(n−1))で表される(n:屈折率)。例えば、レベル数p=2の場合、Lt/λ=1/2(n−1)で1次回折効率が最大となり、Lt/λ=1/(n−1)で1次回折効率が最小(ゼロ)となる。したがって、屈折率を1.5としたとき、赤色の波長を640nm、緑色の波長を530nmで、赤色に作用させて緑色に作用させないためには、緑色の2波長に相当する位相段差を与える必要がある。
【0028】
仮にコリメートレンズ2の屈折率nを1.5とした場合、1次回折で緑色レーザー光LGに作用しない回折格子DGの高さは、0.53/(1.5−1)=1.06μmとなる。したがって、回折格子DGは緑色レーザー光LGには作用しないが、赤色レーザー光LRには作用する。つまり、1.06μmの段差が1.66波長となるので、赤色レーザー光LRは回折される。レーザー光の色を変えて青色と緑色にした場合、緑色レーザー光LGは上記と同じなので回折されないが、青色(波長445nm)のレーザー光は1.06μmの段差が2.38波長となるので回折される。上記の設定ではレベル数p=2の場合であるが、他のレベル数pでも同様にして設定することができる。つまり、緑色レーザー光LGには作用せずに赤色レーザー光LR又は青色レーザー光に作用するように、回折格子DGを設定することが可能である。また、上記は1次回折の場合の例であるが、回折格子DGの高さを2倍の2.12μmにした場合には、2次回折光が緑色レーザー光LGに作用しない場合をつくることができる。その場合は、青色レーザー光は3次の回折光の影響が強く、赤色レーザー光は2次の回折光が多く出ることになる。
【0029】
上記のように回折格子DGを設定することによって、波長選択的なレーザー光の回折が可能となる。その回折作用により、緑色レーザー光LGと赤色レーザー光LR(又は青色レーザー光)とを同一方向に射出するには、所定の条件を満たした回折格子DGを用いることが望ましい。回折格子DGが作用するレーザー光(例えば、赤色レーザー光LR又は青色レーザー光)を第1波長のレーザー光とし、回折格子DGが作用しないレーザー光(例えば、緑色レーザー光LG)を第2波長のレーザー光とし、第1波長のレーザー光を射出するレーザー光源を第1レーザー光源とし、第2波長のレーザー光を射出するレーザー光源を第2レーザー光源とすると、以下の条件式(1)を満足することが望ましい。
0.8<(d・ΔT)/(M・λ・f)<1.2 …(1)
ただし、
d:コリメートレンズの光軸上での格子ピッチ、
ΔT:第2レーザー光源から第1レーザー光源までのシフト量、
M:回折次数、
λ:第1波長、
f:コリメートレンズの焦点距離、
である。
【0030】
回折の条件式:d・sinθ=M・λを考えると、回折角度θは式:sinθ≒tanθ=ΔT/fで表される。したがって、回折格子DGの格子ピッチdは、式:d≒(M・λ・f)/ΔT近辺であることが好ましい。具体的には、(0.8M・λ・f)/ΔT<d<(1.2・M・λ・f)/ΔTを満足すること、つまり条件式(1)を満足することが、第1波長のレーザー光と第2波長のレーザー光を同一方向に射出する上で好ましい。条件式(1)の上限又は下限を越えると、それぞれ回折格子による同一方向への射出度合いが崩れてしまう。例えば、条件式(1)の上限を越えると回折の影響が小さくなりすぎてしまい、条件式(1)の下限を越えると回折の影響が大きくなりすぎてしまう。結果として、スクリーン上での色合成がうまくいかず、色ズレの発生となり、良好な映像を得ることが困難になる。色ズレが無いようにするには、少なくとも1ドットのズレが生じないようにするのが好ましい。
【0031】
回折格子DGが作用するレーザー光を第1波長のレーザー光とし、回折格子DGが作用しないレーザー光を第2波長のレーザー光とし、第1波長のレーザー光を射出するレーザー光源を第1レーザー光源とし、第2波長のレーザー光を射出するレーザー光源を第2レーザー光源とすると、第1レーザー光源が青色発光のレーザー光源であり、第2レーザー光源が緑色発光のレーザー光源であることが望ましい。青色レーザー光源と緑色レーザー光源は、同一材料(例えば、ガリウムナイトライド)の基板からの作製が可能であるため、青色レーザー光源と緑色レーザー光源を同一チップで同時に作製できるというメリットがある。
【0032】
図3は、回折格子DGが設けられていないコリメートレンズ2の光路図である(Z方向:光軸AXに対して平行方向、Y方向:光軸AXに対して垂直方向)。緑色レーザー光源1Gは光軸AX上にあり、青色レーザー光源1Bは光軸AXからY方向に外れた位置にある。回折格子DGが無いので、青色レーザー光LBは下側(Y方向に沿って緑色レーザー光源1G側)の斜め方向に射出される。青色レーザー光源1Bの光軸AXからのズレ量をΔTをすると、青色レーザー光LBのうちコリメートレンズ2の中心の光(主光線に相当する。)の射出角度θは、ΔT=f・tanθで表される。例えば、f=1mm、ΔT=0.1mmのときの射出角度θは5.7度となる。したがって、回折次数M=1次を用いる場合は、d・sinθ=M・λであり、M=1なので、0.445μmの波長だとd=4.47μmのピッチの回折格子DGが必要となる。
【0033】
コリメートレンズ2と回折格子DGとを一体化することは、レーザー光学素子P1を小型化する上で好ましいが、回折格子DGが配置されるレンズ面の選択も重要である。コリメートレンズ2の入射面と射出面のいずれに回折格子DGを配置するかによって、回折格子DGに対するレーザー光の入射角度が異なってくるからである。図4(A)はコリメートレンズ2の入射面に回折格子DGを設けたときの光路を示しており、図4(B)はコリメートレンズ2の射出面に回折格子DGを設けたときの光路を示している。図4の(A)と(B)を比較すると分かるように、コリメートレンズ2の射出面に回折格子DGを設けると、コリメートレンズ2の入射面に回折格子DGを設けた場合よりも回折角度θを小さくすることができるため、波長変動等に有利になる。
【0034】
コリメートレンズ2の光軸AX外にレーザー光源が位置すると、軸外収差が発生する。つまり、図5(A)に示すように、2つのレーザー光源(青色レーザー光源1Bと緑色レーザー光源1G)の前に1つのコリメートレンズ2を配置すると、コリメートレンズ2の軸外を用いることになるので、軸外収差が発生する。なかでもコマ収差の影響が大きいので、コマ収差を低減することが好ましい。緑色レーザー光LGは軸上光であるため、光軸AXに対して平行な平行光束として射出するが、軸外にシフトしている青色レーザー光源1Bからの青色レーザー光LBに関してはコマ収差が発生してしまう。したがって、図5(B)に示すように、回折格子DGで主光線が光軸AXに対して平行になるようにしても、周辺光線はシフト方向(図5中の上方向:緑色レーザー光源1Gを基準として青色レーザー光源1Bが位置する方向)とは逆方向(図5中の下方向)に射出するため、シフト方向とは逆方向に尾を引くコマ収差が発生してしまう。
【0035】
コマ収差を補正するには、図5(B)中の白抜き矢印で示すように、青色レーザー光源1Bの周辺光線をシフト方向(図5中の上方向)に偏向させればよい。例えば、回折格子DGの格子ピッチdを上側と下側の周辺光線に対して少しだけ変化させればよい。そうすると、図5(C)に示すように、青色レーザー光LBがコマ収差無く光軸AXに対して平行な平行光束として射出するように、青色レーザー光源1Bの周辺光線を偏向させることが可能である。
【0036】
図6(A)に等間隔のピッチを有する回折格子DGを示し、図6(B)にコマ収差補正に対応するように間隔が変化したピッチを有する回折格子DGを示す。レンズ上下方向(緑色レーザー光源1Gと青色レーザー光源1Bの配列方向)に関し、青色レーザー光源1B側でピッチが最大となる位置dmaxがあり、その位置dmaxからレンズ上下方向に離れるほどピッチが細かくなっている。上側のピッチ間隔と下側のピッチ間隔とでは異なっており、最上端でのピッチd’よりも最下端でのピッチd”の方が細かくなっている。
【0037】
上記のように、コリメートレンズ2の光軸AXに関して非対称にピッチが変化する回折格子DGを用いることにより、青色レーザー光LBのコマ収差を補正することができる。したがって、回折格子DGが作用するレーザー光(例えば、青色レーザー光LB又は赤色レーザー光)を第1波長のレーザー光とし、回折格子DGが作用しないレーザー光(例えば、緑色レーザー光LG)を第2波長のレーザー光とし、第1波長のレーザー光を射出するレーザー光源を第1レーザー光源とし、第2波長のレーザー光を射出するレーザー光源を第2レーザー光源とすると、第1レーザー光源と第2レーザー光源の並び方向について、回折格子DGが周辺ほど細かい格子ピッチを有することが好ましく、その構成を採用することによってコマ収差を容易に補正することが可能となる。また、コマ収差の尾を引く方向(シフト方向とは逆方向)のピッチが細かくなるように、光軸AXに関して非対称にピッチが変化する回折格子DGを用いることが好ましい。
【0038】
コリメートレンズ2は両凸形状を有することが好ましい。回折格子DGが作用しないレーザー光に関してはコリメートのための収差補正が必要なので、平凸形状に比べて収差補正の自由度が高い両凸形状が好ましい。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施したレーザー光学素子P1及び画像投影装置PJの光学構成等を、実施例のコンストラクションデータ等を挙げて更に具体的に説明する。ここで挙げる実施例は、前述した実施の形態(図5(C)等)に対応する数値実施例である。図7(A)に実施例の光路図を示し、図7(B)にその要部を拡大して示す。実施例のコンストラクションデータでは、面データとして、左側の欄から順に、面番号i,曲率半径r(mm),軸上での面間隔d(mm),d線(波長587.56nm)に関する屈折率ndを示す。
【0040】
コリメートレンズ2の射出面(i=3)は非球面であり、その面形状は面頂点を原点とする直交座標系(X,Y,Z)を用いた以下の式(AS)で定義される。非球面データとして円錐定数を示す(表記の無い項の係数は0である。)。
Z=(c・h2)/[1+√{1−(1+K)・c2・h2}]+Σ(Aj・hj) …(AS)
ただし、
h:Z軸(光軸AX)に対して垂直な方向の高さ(h2=X2+Y2)、
z:高さhの位置での光軸AX方向のサグ量(面頂点基準)、
c:面頂点での曲率(曲率半径rの逆数)、
K:円錐定数、
Aj:j次の非球面係数、
である。
【0041】
また、コリメートレンズ2の射出面(i=3)には回折格子DGが設けられており、その回折格子構造は直交座標系(X,Y,Z)を用いた以下の式(DS)で定義される。回折面データとして回折次数及び位相係数を示す。
Φ=M・ΣΣAmn・Xm・Yn …(DS)
ただし、
Φ:位相差(Z軸方向)、
M:回折次数、
Amn:位相係数(ラジアン)、
である。
【0042】
各種データとして、全系の焦点距離f(mm)、物体側の開口数(NA)、青色レーザー光LBの波長(nm)、緑色レーザー光LGの波長(nm)、青色レーザー光源1Bの位置(mm;Y方向),緑色レーザー光源1Gの位置(mm;Y方向)、条件式(1)の対応値及びその関連データを示す。
【0043】
図8(A)に実施例の回折格子DG(i=3)の位相分布を示し、図8(B)に回折格子DGを等間隔ピッチとした場合の位相分布を示す。線の間隔は1位相(2π)であり、図8(A)に示すように、実施例の回折格子DGの位相分布では上側の間隔と下側の間隔とが異なっている。実施例の回折格子DGを、図8(B)の位相分布に示す等間隔ピッチとした場合(実施例のYの1乗以外の係数をゼロにして、均等な格子とした場合)を比較例とすると、実施例及び比較例の回折格子DGのピッチは、図9のグラフに示すようになる。図9のグラフは、図8(A),(B)の位相分布の中央断面の微分値をプロットしたものであり、位相分布の中心での微分値で正規化したものである(E−n=×10-n)。図9のグラフから分かるように、レンズ上下方向(Y方向)に関し、青色レーザー光源1B側でピッチが最大となる位置があり、緑色レーザー光源1G側の最下端でピッチが最も細かくなる。
【0044】
図10(A)に実施例の光学性能をスポットダイアグラムで示し、図10(B)に比較例の光学性能をスポットダイアグラムで示す。図10(A),(B)に示すスポットダイアグラムは、青色レーザー光LBと緑色レーザー光LG(光軸AX中心の場合)のスクリーン面(焦点面)SCでの結像特性(スケール:10mm)をそれぞれ示している。図10(A)に示す実施例の場合、レーザー光LB,LGのどちらも同様に小さくなっているのが分かる。それに対して、図10(B)に示す比較例の場合、500mm先(スクリーン面SCの位置)では非常に大きな点になり映像品質が悪化してしまうのが分かる。また、青色レーザー光源1Bが上方向(Y+方向)にシフトしているため、コマが下方向(Y−方向)に尾を引く形となっている。
【0045】
実施例
単位:mm
面データ
i r d nd
1(レーザー面) ∞ 0.5
2(レンズ入射面) 13.48709 3.963726 1.618728
3(レンズ射出面) -1.79587 500
4(焦点面) ∞
【0046】
第3面の非球面データ
K= -0.46487
【0047】
第3面の回折面データ
M=2
A01=244.00213
A20=14.959611
A02=15.970044
A21=8.9849254
A03=7.7153871
A05=0.50185094
【0048】
各種データ
青色レーザー光LBの波長:445(nm)
緑色レーザー光LGの波長:532(nm)
青色レーザー光源1Bの位置:0.1(mm)
緑色レーザー光源1Gの位置:0.0(mm)
f=2.87(mm)
NA(物体側)=0.5
条件式(1)の対応値:(d・ΔT)/(M・λ・f)=1.00847
d=0.02576(mm)
ΔT=0.1(mm)
M=2
λ=0.00045(mm)
θ=1.98
sinθ=0.03455
tanθ=0.03484
【符号の説明】
【0049】
PJ レーザープロジェクタ(画像投影装置)
P1 レーザー光学素子
1 光源装置
11 第1レーザー光源
12 第2レーザー光源
L1 第1波長のレーザー光
L2 第2波長のレーザー光
1R 赤色レーザー光源
1G 緑色レーザー光源
1B 青色レーザー光源
LR 赤色レーザー光
LG 緑色レーザー光
LB 青色レーザー光
2 コリメートレンズ
P2 MEMSスキャナ(偏向装置)
MR MEMSミラー(偏向反射ミラー)
DG 回折格子
SC スクリーン面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる波長のレーザー光を射出する複数のレーザー光源と、前記複数のレーザー光源から射出したレーザー光をいずれも平行光又は略平行光とするコリメートレンズと、前記複数のレーザー光源から射出したレーザー光のうち、第1波長のレーザー光に作用し、第2波長のレーザー光に作用しないことにより、第1波長のレーザー光と第2波長のレーザー光とを同一方向に射出する回折格子と、を有し、前記回折格子が前記コリメートレンズの射出面に設けられていることを特徴とするレーザー光学素子。
【請求項2】
第1波長のレーザー光を射出するレーザー光源を第1レーザー光源とし、第2波長のレーザー光を射出するレーザー光源を第2レーザー光源とすると、以下の条件式(1)を満足することを特徴とする請求項1記載のレーザー光学素子;
0.8<(d・ΔT)/(M・λ・f)<1.2 …(1)
ただし、
d:コリメートレンズの光軸上での格子ピッチ、
ΔT:第2レーザー光源から第1レーザー光源までのシフト量、
M:回折次数、
λ:第1波長、
f:コリメートレンズの焦点距離、
である。
【請求項3】
前記複数のレーザー光源が同一基板に形成された半導体レーザーチップであることを特徴とする請求項1又は2記載のレーザー光学素子。
【請求項4】
第1波長のレーザー光を射出するレーザー光源を第1レーザー光源とし、第2波長のレーザー光を射出するレーザー光源を第2レーザー光源とすると、第1レーザー光源と第2レーザー光源の並び方向について、前記回折格子が周辺ほど細かい格子ピッチを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーザー光学素子。
【請求項5】
第1波長のレーザー光を射出するレーザー光源を第1レーザー光源とし、第2波長のレーザー光を射出するレーザー光源を第2レーザー光源とすると、第1レーザー光源が青色発光のレーザー光源であり、第2レーザー光源が緑色発光のレーザー光源であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のレーザー光学素子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のレーザー光学素子と、前記レーザー光を互いに直交する2方向に偏向させる偏向装置と、を備え、前記レーザー光学素子から射出して前記偏向装置で2次元的に偏向走査されたレーザー光でスクリーン面への画像投影を行うことを特徴とするレーザー走査方式の画像投影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−186175(P2011−186175A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51207(P2010−51207)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】