説明

レーザー溶接装置

【課題】レーザー溶接作業を高速に行なう。
【解決手段】複数のアームを備えた多軸ロボット110と、アームの作業端に取り付けワークにレーザー光を照射する光学系を備えたスキャナ120と、スキャナ120の座標原点を光学系の構成要素のうち固定している構成要素とレーザー光の光軸との交点に設定し、座標原点が教示経路上を通過するように多軸ロボット110の動作を制御するロボット制御装置140と、レーザー光がワークの加工点上に照射されるようにスキャナ120の光学系の動作を制御するスキャナ制御装置150とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザー溶接作業を高速に行なうことができるレーザー溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車業界ではレーザー溶接を用いて車体の組立を行なっている。レーザー溶接は、多軸ロボットの作業端に取り付けたスキャナからレーザーを照射することによって行なう。一般的に、レーザー溶接には高速性と高い照射位置精度が要求される。この要求に応えるため、下記特許文献1に示すように、多軸ロボットと2軸方向に動くスキャナとを共同して動作させてレーザー溶接を行う技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−187803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された技術によれば、スキャナの光路上で2軸方向に動くスキャナミラーの回転軸中心点にスキャナの座標原点を設定している。多軸ロボットはロボットの座標原点からスキャナの座標原点を常に把握している。多軸ロボットの各アーム、スキャナミラーの角度および焦点距離はロボット制御装置が総合的に制御している。
【0005】
このように、スキャナミラーの回転軸中心点にスキャナの座標原点を設定すると、スキャナミラーを2軸方向に動かすためのガタや組付け精度の影響により、多軸ロボットが把握しているスキャナの座標原点が実際の座標原点とは異なってしまうことがある。このようなことがあると、レーザーの照射位置が実際に狙っている位置からずれてしまい、レーザー溶接の照射位置精度が悪化する。
【0006】
また、多軸ロボットの各アーム、スキャナミラーの角度および焦点距離の全てをロボット制御装置が総合的に制御しているので、レーザー溶接の高速性にも限界があり、レーザー溶接を高速で行うことが難しくなる。
【0007】
本発明では、スキャナの光路上の固定してある要素(たとえばレンズ)にスキャナの座標原点を設定している。また、多軸ロボットとスキャナの動作をそれぞれ専用の制御装置で制御している。
【0008】
したがって、本発明は、レーザー溶接作業を高速に行なうことができるレーザー溶接装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係るレーザー溶接装置は、多軸ロボット、スキャナ、ロボット制御装置、スキャナ制御装置、中央処理装置を備えている。
【0010】
多軸ロボットは複数のアームを備える。スキャナは多軸ロボットの1つのアームの作業端に取り付ける。スキャナはワークにレーザー光を照射する光学系を備える。
【0011】
ロボット制御装置はスキャナの座標原点を光学系の構成要素のうち固定されている構成要素と光軸との交点に設定する。ロボット制御装置は座標原点が教示経路上を通過するように多軸ロボットの動作を制御する。
【0012】
スキャナ制御装置はレーザー光が教示経路上に照射されるようにスキャナの光学系の動作を制御する。
【0013】
したがって、レーザー溶接作業を高速で行なうことができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように構成された本発明のレーザー溶接装置は下記のような効果を奏する。
【0015】
まず、スキャナの座標原点を光学系の構成要素のうち固定されている構成要素とレーザー光の光軸との交点に設定しているので、多軸ロボットの制御が容易になり、多軸ロボットは教示された点を正確にかつ高速にトレースできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態に係るレーザー溶接装置の概略構成図である。
【図2】図1に示したスキャナの具体的な構成図である。
【図3】エキスパンダレンズの移動距離とフォーカスレンズから加工点までの距離との関係を示した図である。
【図4】本実施形態に係るレーザー溶接装置の動作フローチャートである。
【図5】図4の動作フローチャートの処理の説明に供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明に係る一実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。以下で説明する実施形態は本発明の技術的思想を分かり易く説明するために記載したものである。したがって、以下で説明する実施形態は特許請求の範囲に記載した各発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0018】
図1は本実施形態に係るレーザー溶接装置の概略構成図である。
【0019】
レーザー溶接装置100は、多軸ロボット110、スキャナ120、ロボット制御装置140、スキャナ制御装置150、中央処理装置160から構成される。
【0020】
多軸ロボット110は、図示したように複数のアームを備えている。多軸ロボット110は、具体的には、複数のアームを備えた6軸ロボットであり、各軸をACサーボモータで駆動する。したがって、多軸ロボット110は、ACサーボモータを6台備え6自由度を有している。また、多軸ロボット110は、固有のロボット座標系に基づいて動作する。
【0021】
スキャナ120は、多軸ロボット110のアームの作業端112に取り付けてある。スキャナ120は、図示されていないワーク、たとえば車両用のドア、ボンネット、トランクなどの構成部品の加工点170にレーザー光を照射する。レーザー光が照射された部分は溶融して溶接される。スキャナ120は、固有のスキャナ座標系に基づいて動作する。また、加工点170の座標はロボット系の座標によって特定されている。したがって、スキャナ120は、レーザー光を加工点170に正確に照射するための光学系を備える。光学系の動作によって、レーザー光のX軸、Y軸(ロボット座標系)方向の走査およびZ軸(ロボット座標系)方向の焦点位置調整を行なう。スキャナ120はレーザー光をX軸、Y軸、Z軸(スキャナ座標系)の3方向に動かすために3台のACサーボモータを備えている。これにより、スキャナ120は3次元に集光位置を変えることができる。スキャナ120のロボット座標系とスキャナ座標系間の座標変換方法およびスキャナ120の具体的な構成は後述する。
【0022】
ロボット制御装置140は、スキャナ120の座標原点を、スキャナ120の光学系を構成するレンズなどの要素のうち光学系内で固定している構成要素とレーザー光の光軸との交点に設定する。スキャナ120の座標原点をスキャナ120の光学系で固定している構成要素とレーザー光の光軸との交点に設定し、かつ、焦点距離方向の制御に後述の演算方法を用いることにより、スキャナ120の位置決めが線形的な演算を行うことによってできるようになる。換言すれば、後述するエキスパンダレンズ123の光軸方向の移動量と焦点距離の変化量の演算が線形近似式によって行なえるようになる。したがって、加工点170に対する多軸ロボット110の制御が容易になり高精度の溶接作業を高速で行なうことができる。ロボット制御装置140は、スキャナ120の座標原点が、あらかじめ記憶している多軸ロボット110の教示経路を通過するように、多軸ロボット110の6台のACサーボモータの動作を制御する。
【0023】
スキャナ制御装置150は、スキャナ120から出力されるレーザー光が前述のワークの加工点170上に正確に照射されるようにスキャナ120の光学系の3台のACサーボモータの動作を制御する。
【0024】
中央処理装置160は、ロボット制御装置140とスキャナ制御装置150に同期した(たとえば同一周期同一タイミングで)動作指令を出力する。ロボット制御装置140とスキャナ制御装置150は中央処理装置160から出力された動作指令を同一の制御速度および同一の制御周期で処理する。したがって、多軸ロボット110とスキャナ120はあたかも1台の制御装置で動作しているかのごとく並列に動作する。
【0025】
図2は図1に示したスキャナ120の具体的な構成図である。
【0026】
スキャナ120は、光ファイバ122、エキスパンダレンズ123、焦点位置調整装置126、コリメートレンズ128、反射ミラー130、フォーカスレンズ131、レーザー光スキャン装置136から構成される。
【0027】
焦点位置調整装置126は、エキスパンダレンズ123を駆動するACサーボモータ124およびボールネジ125を備えている。
【0028】
レーザー光スキャン装置136は、第1走査ミラー132、第1走査ミラー132を回動するACサーボモータ133、第2走査ミラー134、第2走査ミラー134を回動するACサーボモータ135を備えている。
【0029】
光ファイバ122は、図示していないレーザー発振器から出力されたレーザー光をエキスパンダレンズ123に向けて照射する。
【0030】
焦点位置調整装置126は、エキスパンダレンズ123をレーザー光の光軸方向(図2では矢印で示す上下方向)に移動させる。エキスパンダレンズ123は、レーザー光の光軸方向に移動して焦点距離を調整するレンズである。光ファイバ122から出力されたレーザー光はエキスパンダレンズ123の位置に応じて広がり角が変化する。その結果、レーザー光の焦点距離が変化して加工点の位置が図示Z軸方向に移動する。エキスパンダレンズ123はACサーボモータ124およびボールネジ125によって移動する。
【0031】
コリメートレンズ128は、エキスパンダレンズ123を通過して角度が広げられたレーザー光を集光する。
【0032】
反射ミラー130は、コリメートレンズ128によって集光されたレーザー光をレーザー光スキャン装置136に向けて照射する。
【0033】
レーザー光スキャン装置136は、反射ミラー130で反射したレーザー光を、まず、第1走査ミラー132で反射し、次に、第2走査ミラー134で反射して加工点に導く。第1走査ミラー132はACサーボモータ133の回転軸に接続されその回転軸を中心に回動する。第1走査ミラー132が回動すると、レーザー光は照射位置が図示X軸方向に移動して加工点の位置が変わる。第2走査ミラー134はACサーボモータ135の回転軸に接続されその回転軸を中心に回動する。第2走査ミラー134が回動すると、レーザー光は照射位置がY軸方向(図2では紙面の手前側と奥側の方向)に移動して加工点の位置が変わる。
【0034】
したがって、エキスパンダレンズ123、第1走査ミラー132、第2走査ミラー134を加工点の3次元座標に応じて動かすことによって、加工点が3次元方向に変化しているワークに対しても正確にレーザー溶接を行うことができる。
【0035】
加工点のZ軸方向の位置が微小に変化していたとしても、加工点に照射されるレーザー光の出力密度がある一定の範囲内の変化に留まるのであれば、エキスパンダレンズ123を動かす必要はない。
【0036】
第1走査ミラー132、第2走査ミラー134は、表面のコーティングの状態の影響により、反射角に応じてレーザー光の反射率が変化する。加工点に必要なレーザー光の出力密度を得るためには、その反射角の範囲がある程度の角度に制限される。その角度は通常は±10°程度である。
【0037】
また、エキスパンダレンズ123を駆動するACサーボモータ124、第1走査ミラー132を駆動するACサーボモータ133、第2走査ミラー134を駆動するACサーボモータ135は、多軸ロボット110の各アームを駆動するACサーボモータよりも低イナーシャ比および高分解能のものを用いる。制御の俊敏性を確保するためである。
【0038】
このため、エキスパンダレンズ123、第1走査ミラー132、第2走査ミラー134を敏速に動かすことができ、レーザー光が加工点に正確に照射できる。したがって、溶接品質を向上させることができる。また、スキャナ120の光学系を小型、軽量、低コストにすることができる。
【0039】
ACサーボモータ124は高減速比の減速機であるボールネジ125で連結したエキスパンダレンズ123を俊敏にかつ高精度に動かさなければならない。したがって、ACサーボモータ124は低イナーシャ比および高分解能が要求される。また、ACサーボモータ133、ACサーボモータ135は、回転軸が図示していないが高減速比の減速機を介して第1走査ミラー132および第2走査ミラー134に連結してある。したがって、第1走査ミラー132および第2走査ミラー134俊敏にかつ高精度に動かすには、ACサーボモータ133、ACサーボモータ135は、低イナーシャ比および高分解能が要求される。
【0040】
エキスパンダレンズ123、第1走査ミラー132、第2走査ミラー134は、ACサーボモータの回転軸と高減速比の減速機で連結されている。このため、ACサーボモータの動作に俊敏に反応することができ、レーザー光が加工点に正確に照射できる。したがって、溶接品質を向上させることができる。また、スキャナの光学系を小型、軽量、低コストにすることができる。
【0041】
具体的には、加工点で10mm〜150mm/secの速度でレーザー光が走査できなければならず、また、加工点間を3000mm/sec〜6000mm/secの速度でレーザー光が移動できなければならない。これらの要求を満たすためには、各ACサーボモータは多軸ロボットのACサーボモータとはかけ離れた加減速性能、高分解能が要求される。
【0042】
このような加減速性能を各ACサーボモータが備えるには、加減速時にほとんどイナーシャがかからないようにする必要がある。通常であれば、イナーシャ比が3:1程度であるのに対して1:1またはそれ以下のイナーシャ比とする必要がある。
【0043】
また、高分解能を各ACサーボモータが備えるには、通常のオプティカルエンコーダのみでは加工点での分解能が不足するため、高減速比の減速機を用いている。このときに、減速機の摩擦の影響をいかに少なくするかが問題となるため、各ACサーボモータの上限の定格回転速度が加工点で3000mm/sec〜6000mm/secの速度で移動できるように減速比を設定する。
【0044】
また、多軸ロボット110に用いられているモータをACサーボモータとし、スキャナ120に用いられているモータもACサーボモータとしている。全てをACサーボモータとすることによって、指令の均一化が図れるので、ロボット制御装置140とスキャナ制御装置150を1台の中央処理装置160で同一の制御速度および同一の制御周期で処理することができる。
【0045】
具体的には、中央処理装置160から出力された動作指令に基づいて、ロボット制御装置140はあらかじめ記憶した多軸ロボット110の教示経路を正確にトレースするように多軸ロボット110の動作を制御できる。また、中央処理装置160から出力された動作指令に基づいて、スキャナ制御装置150は、あらかじめ記憶しているスキャナ120の加工点軌跡を正確にトレースするようにレーザー光の照射位置を制御できる。つまり、ロボット制御装置140でスキャナ120の位置決めをし、スキャナ120で加工点のトレースをするというように、役割分担が容易にできる。役割分担ができることで、多軸ロボット110とスキャナ120の役割が明確になり、多軸ロボット110とスキャナ120の性能を絞り込むことができ、最適な装置構成が可能となる。
【0046】
中央処理装置160は、動作指令をロボット制御装置140とスキャナ制御装置150に同一周期同一タイミングで出力するので、多軸ロボット110の教示経路とスキャナ120の加工点軌跡の指令は同期する。したがって、多軸ロボット110を動作させながらスキャナ120も容易に動作させることができ、ワークが複雑な3次元形状であっても、正確にかつ高速にレーザー溶接をすることができる。
【0047】
図3はエキスパンダレンズ123の移動距離とフォーカスレンズ131から加工点までの距離との関係を示した図である。この図において、上側に位置されている曲線は焦点距離が1000mm(f=1000)のエキスパンダレンズ123を用いた場合の関係を示す。下側に位置されている曲線は焦点距離が800mm(f=800)のエキスパンダレンズを用いた場合の関係を示す。
【0048】
この図を見れば明らかなように、エキスパンダレンズ123の移動距離とフォーカスレンズ131から加工点までの距離との関係はほぼ2次曲線近似の関係にあることがわかる。この関係は、焦点距離が1000mm(f=1000)のエキスパンダレンズ123を用いた場合と焦点距離が800mm(f=800)のエキスパンダレンズ123を用いた場合とであまり変わりない。具体的な誤差はいずれの焦点距離のエキスパンダレンズ123に対しても1mm程度である。
【0049】
光ファイバ122から出力されるレーザー光のビーム品質が5mm〜20mm*mradであれば、加工点近辺での焦点深度は2mm〜5mm程度得られる。このため、2次曲線近似による焦点位置の誤差はレーザー溶接にほとんど影響を与えない。
【0050】
つまり、光学系の中で固定されているフォーカスレンズ131にスキャナ120の座標原点を設定しておくと、エキスパンダレンズ123を動かして焦点距離を変化させた場合に、焦点距離を2次曲線近似することができることを示している。本実施形態では、このような事実に着目してフォーカスレンズ131とレーザー光の光軸との交点をスキャナ120の座標原点としているのである。
【0051】
第1走査ミラー132および第2走査ミラー134を動かしたとしても焦点距離を2次曲線近似できることに変わりはない。このように2次曲線近似が可能であるということは、多軸ロボット110を教示経路上に位置決めすることが容易であるということであり、また、スキャナ120から出力されるレーザー光を加工点に位置決めすることが容易であるということである。これは、加工点に対してスキャナ120の3軸が全て線形的に演算できるからである。線形的に演算できると、リアルタイムで容易にフィードバック制御ができるようになる。
【0052】
特に、多軸ロボット110の場合、作業端の現在の位置を知るために、キネマティクス(順運動学)、逆キネマティクス(逆運動学)でフィードバックする必要がある。逆キネマティクスの演算をしたときに、光学系の中で固定されているフォーカスレンズ131にスキャナ120の座標原点を設定してあると、一回の演算で解析解が得られ、作業端の現在の位置を正確に求めることができるので、ロボット制御装置140の演算負担が少なくなる。
【0053】
これとは異なって、光学系の中で固定されていない要素、たとえばエキスパンダレンズ123、第1走査ミラー132、第2走査ミラー134などにスキャナ120の座標原点が設定してあると、一回の演算で解析解を得ることができず、作業端の現在の位置を求めることができなくなる。ロボット制御装置140は何度もキネマティクス、逆キネマティクスの演算をしてフィードバックする必要がある。これでは、ロボット制御装置140の演算負担が大きくなって高速性が犠牲になる。
【0054】
次に、本実施形態に係るレーザー溶接装置の動作を図4の動作フローチャートおよび図5の動作説明に供する図を参照して説明する。
【0055】
図4は本実施形態に係るレーザー溶接装置の動作フローチャートであり、図5は図4の動作フローチャートの処理の説明に供する図である。
【0056】
この動作フローチャートは多軸ロボット110の経路とスキャナ120の加工軌跡が教示されていることを前提に記載している。このため、多軸ロボット110の経路とスキャナ120の加工軌跡の教示について簡単に説明しておく。
【0057】
多軸ロボット110の各アームの駆動と、スキャナ120のエキスパンダレンズ123、第1走査ミラー132、第2走査ミラー134の駆動とでは、移動速度、応答性の点で要求される性能が全く異なる。このため、多軸ロボット110には加工点を通過する軌跡を教示経路として教示する。また、スキャナ120には加工点にレーザー光を照射するための軌跡を加工経路として教示する。
【0058】
つまり、多軸ロボット110の教示経路とスキャナ120の加工経路を別々に教示して中央処理装置160に記憶させておく。
【0059】
具体的な教示経路および加工経路の教示について図5を参照して説明すると、まず多軸ロボット110の教示経路の始点のP1点を教示し、スキャナ120の加工経路の始点のW1を教示する。次に、多軸ロボット110の次の移動位置P2点を教示し、P1点からP2点への移動速度V1を教示する。同時に、スキャナ120によって描くべき加工点での軌跡M(図では半円状)および終点のW2並びに加工速度Vを教示する。
【0060】
このときの多軸ロボット110がP1点からP2点まで移動する速度V1はスキャナ120の加工速度Vとは独立に設定する。多軸ロボット110がP1点からP2点まで移動する間にスキャナ120のレーザー溶接が完了するように、移動速度V1と加工速度Vを設定するのが好ましい。
【0061】
次に、図4の動作フローチャートに基づいて本実施形態に係るレーザー溶接装置の動作を説明する。
【0062】
ステップS10
中央処理装置160は、内蔵されている記憶装置から多軸ロボット110とスキャナ120の教示値を入力する。つまり、記憶装置にあらかじめ記憶させておいたロボット110の始点のP1点および終点のP2点、移動速度V1、スキャナ120の始点のW1点および終点のW2点、加工速度Vを入力する。
【0063】
ステップS11
中央処理装置160は、記憶装置から入力した多軸ロボット110の教示値に基づいて、多軸ロボット110の教示経路を作成する。具体的には、ロボット制御装置140の制御周期ごとの通過点(図5のP1〜P2の間で点線が引かれている3点)を作成する。
【0064】
ステップS12
中央処理装置160は、記憶装置から入力したスキャナ120の教示値に基づいて、スキャナ120の教示経路を作成する。具体的には、スキャナ制御装置150の制御周期(ロボット制御装置140の制御周期と同一)ごとの通過点(図5のW1〜W2の間で点線が引かれている3点)を作成する。
【0065】
ステップS13
中央処理装置160は、ステップS12で作成した多軸ロボット110の教示経路および作成したスキャナ120の教示経路を時系列に配列する。
【0066】
ステップS14
中央処理装置160は、時系列に配列した多軸ロボット110の教示経路をロボット制御装置140に出力する一方、時系列に配列したスキャナ120の教示経路をスキャナ制御装置150に出力する。
【0067】
ロボット制御装置140は中央処理装置160から出力された教示経路を同一周期同一タイミングで多軸ロボット110に出力し、教示経路P1とP2との間で位置決めしていく。また、スキャナ制御装置150は中央処理装置160から出力された加工経路同一周期同一タイミングでスキャナ120に出力し、レーザー光を加工経路W1とW2との間で照射していく。
【0068】
図5を見れば明らかなように、レーザー光が加工経路W1からW2まで移動して軌跡Mの溶接が完了した時点では、多軸ロボット110は教示経路P1からP´1まで到達しているに過ぎず、移動位置P2までには少しの距離を残している。
【0069】
ステップS15
次に、全ての教示経路および加工経路の実行が終了したか否かが判断される。
【0070】
全ての教示経路および加工経路の実行が終了していなければ(ステップS15:NO)、ステップS14の処理が継続される。つまり、図5では、レーザー光が加工経路W1からW2まで移動して軌跡Mの溶接が完了し、多軸ロボット110が教示経路P1からP2まで到達していなければ、ステップS14の処理が継続される。
【0071】
一方、全ての教示経路および加工経路の実行が終了していれば(ステップS15:YES)、レーザー溶接を終了する。
【0072】
本実施形態に係るレーザー溶接装置によれば、次のような効果を得ることができる。
・スキャナの座標原点を光学系の構成要素のうち固定されている構成要素とレーザー光の光軸との交点に設定しているので、多軸ロボットの制御が容易になり、多軸ロボットは教示された点を正確にかつ高速にトレースできる。
・また、ロボット制御装置とスキャナ制御装置に同一周期同一タイミングで動作指令を出力し、多軸ロボットはロボット制御装置により、スキャナはスキャナ制御装置により、それぞれの動作を個別に制御するので、同期を取ることが容易になり、レーザー溶接作業が高速かつ高精度に行なえる。
・エキスパンダレンズ、2枚の走査ミラーのそれぞれを加工点の3次元座標に応じて動かすことによって、加工点が3次元方向に変化しているワークに対しても正確にレーザー溶接を行うことができる。
・エキスパンダレンズと2枚の走査ミラーを駆動するモータを、多軸ロボットのアームを駆動するモータよりも低イナーシャ比および高分解能とすることによって、レーザー光が加工点に正確に照射できる。したがって、溶接品質を向上させることができる。また、スキャナの光学系を小型、軽量、低コストにすることができる。
・全てをACサーボモータとすることによって、指令の均一化が図れるので、ロボット制御装置とスキャナ制御装置を1台の中央処理装置で同一の制御速度および同一の制御周期で処理することができる。
・また、エキスパンダレンズと2枚のそれぞれの走査ミラーを、ACサーボモータの回転軸と高減速比の減速機で連結している。このため、ACサーボモータの動作に俊敏に反応することができるので、レーザー光が加工点に正確に照射できる。したがって、溶接品質を向上させることができる。また、スキャナの光学系を小型、軽量、低コストにすることができる。
【符号の説明】
【0073】
100 レーザー溶接装置、
110 多軸ロボット、
112 作業端、
120 スキャナ、
122 光ファイバ、
123 エキスパンダレンズ、
124 ACサーボモータ、
125 ボールネジ、
126 焦点位置調整装置、
128 コリメートレンズ、
130 反射ミラー、
131 フォーカスレンズ、
132 走査ミラー、
133 ACサーボモータ、
134 走査ミラー、
135 ACサーボモータ、
136 レーザー光スキャン装置、
140 ロボット制御装置、
150 スキャナ制御装置、
160 中央処理装置、
170 加工点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアームを備えた多軸ロボットと、
当該アームの作業端に取り付けワークにレーザー光を照射する光学系を備えたスキャナと、
前記スキャナの座標原点を前記光学系の構成要素のうち固定している構成要素と前記レーザー光の光軸との交点に設定し、前記座標原点が教示経路上を通過するように前記多軸ロボットの動作を制御するロボット制御装置と、
前記レーザー光が前記ワークの加工点上に照射されるように前記スキャナの光学系の動作を制御するスキャナ制御装置と、
を有することを特徴とするレーザー溶接装置。
【請求項2】
前記ロボット制御装置と前記スキャナ制御装置が同期して動作するように動作指令を出力する中央処理装置をさらに有することを特徴とする請求項1に記載のレーザー溶接装置。
【請求項3】
前記多軸ロボットの作業端に取り付けたスキャナの光学系は、
前記レーザー光の光軸方向に移動して焦点距離を調整するエキスパンダレンズと、
当該エキスパンダレンズを通過したレーザー光を集光するコリメートレンズと、
当該コリメートレンズを通過したレーザー光をワーク上で走査する2枚の走査ミラーと、
を有することを特徴とする請求項1に記載のレーザー溶接装置。
【請求項4】
前記エキスパンダレンズと前記2枚のそれぞれの走査ミラーにモータの回転軸が接続され、
前記モータのそれぞれは、前記多軸ロボットのアームを駆動するモータよりも低イナーシャ比および高分解能であることを特徴とする請求項3に記載のレーザー溶接装置。
【請求項5】
前記エキスパンダレンズと前記2枚のそれぞれの走査ミラーを駆動するモータはACサーボモータであり、前記エキスパンダレンズと前記2枚のそれぞれの走査ミラーは、当該ACサーボモータの回転軸と高減速比の減速機で連結されていることを特徴とする請求項3または4に記載のレーザー溶接装置。
【請求項6】
前記エキスパンダレンズの光軸方向の移動量と焦点距離の変化量の演算は線形近似式を使用することを特徴とする請求項3に記載のレーザー溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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