説明

レーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物及び成形品

【課題】レーザー溶着性に優れ、成形品の溶着強度を向上できる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂(A)と、ポリカーボネート系樹脂(b1)、スチレン系樹脂(b2)、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(b3)、及びアクリル系樹脂(b4)から選択された少なくとも一種の樹脂(B)とでレーザー溶着用PBT系樹脂組成物を構成する。PBT系樹脂(A)は、PBTホモポリエステル、又は30モル%以下の共重合性モノマー(ビスフェノール類又はそのアルキレンオキサイド付加体、非対称芳香族ジカルボン酸など)で変性されたPBT系共重合体であってもよい。前記樹脂(B)とPBT系樹脂(A)との割合(重量比)は、前者/後者=0.1/1〜1.5/1程度である。樹脂組成物はガラス繊維を含んでいてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー溶着性が高く、成形加工性に優れるポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物、及びそれを用いた成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂は、耐熱性、耐薬品性、電気特性、機械的特性、及び成形加工性などの種々の特性に優れるため、多くの用途に利用されている。具体的な用途としては、各種自動車用電装部品(各種コントロールユニット、各種センサー、イグニッションコイルなど)、コネクター類、スイッチ部品、リレー部品、コイル部品などが挙げられる。これらの部品を作製するため、接着剤、ネジ止め、スナップフィット、熱板溶着、超音波溶着などの接合方法を利用して複数の成形部品を接合している。しかし、これらの接合方法について、幾つかの問題点が指摘されている。例えば、接着剤を用いると、接着剤が硬化するまでの工程的な時間のロスや環境への負荷が問題となる。また、ネジ止めでは、締結の手間やコストが増大し、熱板溶着や超音波溶着では、熱や振動などによる製品の損傷が懸念される。
【0003】
一方、レーザー溶着による接合方法は、溶着に伴う熱や振動による製品のダメージが無く、溶着工程も非常に簡易である。そのため、最近、レーザー溶着法は、広く利用されるようになってきており、各種樹脂部品の溶着手法として着目されている。
【0004】
しかし、PBT系樹脂をレーザー溶着で接合する場合、レーザー光の透過性が低いため、炭化などを生じ、実質的に溶着できないことが指摘されている。特開2001−26656号公報(特許文献1)には、特定範囲の融点を有するポリエステル系共重合体で形成された成形品と他の成形品とを溶着加工により一体化させて成形体を製造する方法が開示されている。この文献には、ホモポリアルキレンアリレート樹脂(ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート)はレーザー溶着強度が小さいことが記載されている。
【0005】
特開平10−245481号公報(特許文献2)には、熱可塑性ポリカーボネート樹脂とポリエチレンテレフタレートなどの熱可塑性ポリエステル樹脂とで構成された組成物に、架橋アクリル酸エステル系弾性体の存在下にメタクリル酸エステルを主成分とする単量体をグラフト重合して得られるメタクリル酸エステル系樹脂(グラフト樹脂)を1〜10重量%の割合で配合した熱可塑性樹脂組成物が開示されている。この文献には、前記樹脂組成物において、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂とを1.5/1〜4/1(重量比)の割合で用いた例が記載されている。さらに、前記組成物の熱溶着法として、熱板溶着法、振動溶着法又は超音波溶着法も記載されている。しかし、この組成物では、溶着強度を高めるためには前記グラフト樹脂を必要とすると共に、このグラフト樹脂を用いると、機械的強度や耐熱性などが低下しやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−26656号公報
【特許文献2】特開平10−245481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、PBT系樹脂をベースとしながらもレーザー溶着性に優れ、高い溶着強度を有するレーザー溶着用PBT系樹脂組成物、及びその成形品を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、光線透過率及び溶着強度が高いPBT系樹脂成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、PBT系樹脂と特定の樹脂とを組み合わせると、PBT系樹脂組成物のレーザー溶着性が飛躍的に改善でき、高い融着強度を保持できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明のレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)と、ポリカーボネート系樹脂(b1)、スチレン系樹脂(b2)、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(b3)、及びアクリル系樹脂(b4)から選択された少なくとも一種の樹脂(B)とで構成されている。前記ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)は、ポリブチレンテレフタレート、又は共重合性モノマー(例えば、0.01〜30モル%のモノマー)で変性されたポリブチレンテレフタレート系共重合体であってもよい。前記ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)の融点は、例えば、190℃以上であってもよい。前記共重合性モノマーは、ビスフェノール類又はそのアルキレンオキサイド付加体、非対称芳香族ジカルボン酸、及びこれらのエステル形成可能な誘導体から選択された少なくとも一種(例えば、フタル酸、イソフタル酸、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加体、及びこれらの反応性誘導体など)などであってもよい。前記樹脂(B)とポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)との割合は、前者/後者(重量比)=0.10/1〜1.5/1程度であってもよい。前記樹脂組成物は、さらに、レーザー光を透過可能な補強材(例えば、ガラス繊維など)を含んでもよい。前記樹脂組成物は、射出成形により形成された厚さ3mmの成形品において、800〜1100nmの波長の光線透過率が15%以上であってもよい。
【0011】
本発明のレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート及び0.01〜30モル%(例えば、1〜20モル%)の共重合性モノマーで変性されたポリブチレンテレフタレート系共重合体から選択された少なくとも一種のポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)と、ポリカーボネート系樹脂(b1)、スチレン系樹脂(b2)、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(b3)、及びアクリル系樹脂(b4)から選択された少なくとも一種の樹脂(B)とで構成されており、前記樹脂(B) とポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)との割合は、前者/後者=0.10/1〜1.5/1であり、前記共重合性モノマーは、フタル酸、イソフタル酸、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加体、及びこれらの反応性誘導体から選択された少なくとも一種である。
【0012】
本発明には、前記樹脂組成物で形成された成形品、及びこの成形品と相手材の樹脂成形品とがレーザー溶着により接合されている複合成形品も含まれる。
【0013】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)と、スチレン系樹脂(B)と、ガラス繊維とを含み、レーザー光を透過して、相手材の樹脂成形品とレーザー溶着するためのレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物(但し、ポリブチレンテレフタレートホモポリエステルを含まない)であって、前記ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)が、イソフタル酸及びその反応性誘導体から選択された少なくとも一種の共重合性モノマー0.01〜30モル%で変性されたポリブチレンテレフタレート系共重合体であり、スチレン系樹脂(B)が、スチレン−アクリロニトリル共重合体であり、スチレン系樹脂(B)とポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)との割合が、前者/後者(重量比)=0.25/1〜1.2/1であるポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物に関する。
【0014】
この樹脂組成物において、スチレン系樹脂(B)とポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)との割合は、前者/後者(重量比)=0.3/1〜1.1/1であってもよい。また、ガラス繊維の含有量は10〜50重量%であってもよい。樹脂組成物は。射出成形により形成された厚さ3mmの成形品において、800〜1100nmの波長の光線透過率は15%以上であってもよい。さらに、樹脂組成物は、レーザー光に対する吸収剤又は着色剤を含む第2の熱可塑性樹脂成形品に対してレーザー溶着により接合する第1の成形品を形成するための樹脂組成物であってもよい。
【0015】
本発明は、レーザー光を透過し、相手材の樹脂成形品とレーザー溶着するための成形品であって、前記樹脂組成物で形成された成形品も包含する。この成形品は、レーザー光透過部位を有し、この透過部位を相手材の樹脂成形品と接触させて、レーザー溶着により相手材の樹脂成形品と接合するためのレーザー光透過側部材であってもよい。さらに、本発明は、前記樹脂組成物で形成された成形品と、相手材の樹脂成形品とがレーザー溶着により接合されている複合成形品も包含する。さらには、本発明は、第1の成形品から、第2の成形品の方向に向けてレーザー光を照射して、前記第1の成形品と第2の成形品とを溶着により接合して複合成形品を製造する方法であって、前記第1の成形品を請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物で形成し、第2の成形品をレーザー光に対する吸収剤又は着色剤を含む熱可塑性樹脂で形成し、前記第1の成形品と第2の成形品とを接合する複合成形品の製造方法も包含する。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、PBT系樹脂と特定の樹脂とを組み合わせて用いるので、PBT系樹脂をベースとしながらもレーザー溶着性に優れる組成物および成形品や、高い溶着強度で接合した複合成形品を得ることができる。また、高いPBT系樹脂成形品の光線透過率及び溶着強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は実施例でのレーザー溶着を説明するための概略側面図である。
【図2】図2は実施例でのレーザー溶着を説明するための平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物]
(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂
ベース樹脂であるポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂としては、ブチレンテレフタレートを主成分(例えば、50〜100重量%、好ましくは60〜100重量%、さらに好ましくは75〜100重量%程度)とするホモポリエステル又はコポリエステル(ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートコポリエステル)などが挙げられる。特にコポリエステルが好ましい。
【0019】
コポリエステル(ブチレンテレフタレート系共重合体又は変性PBT樹脂)における前記共重合可能なモノマー(以下、単に共重合性モノマーと称する場合がある)としては、テレフタル酸を除くジカルボン酸、1,4−ブタンジオールを除くジオール、オキシカルボン酸、ラクトンなどが挙げられる。共重合性モノマーは一種で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0020】
ジカルボン酸としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸(例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、ダイマー酸などの炭素数4〜40程度のジカルボン酸、好ましくは炭素数4〜14程度のジカルボン酸)、脂環式ジカルボン酸(例えば、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ハイミック酸などの炭素数8〜12程度のジカルボン酸)、テレフタル酸を除く芳香族ジカルボン酸(例えば、フタル酸、イソフタル酸;2,6−ナフタレンジカルボン酸などのナフタレンジカルボン酸;4,4′−ジフェニルジカルボン酸、4,4′−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4′−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4′−ジフェニルケトンジカルボン酸などの炭素数8〜16程度のジカルボン酸)、又はこれらの反応性誘導体[例えば、低級アルキルエステル(ジメチルフタル酸、ジメチルイソフタル酸(DMI)などのフタル酸又はイソフタル酸のC1−4アルキルエステルなど)、酸クロライド、酸無水物などのエステル形成可能な誘導体]などが挙げられる。さらに、必要に応じて、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多価カルボン酸などを併用してもよい。
【0021】
ジオールには、例えば、1,4−ブタンジオールを除く脂肪族アルキレンジオール(例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオールなどの炭素数2〜12程度の脂肪族グリコール、好ましくは炭素数2〜10程度の脂肪族グリコール)、ポリオキシアルキレングリコール[アルキレン基の炭素数が2〜4程度であり、複数のオキシアルキレン単位を有するグリコール、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジテトラメチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなど]、脂環族ジオール(例えば、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールAなど)、芳香族ジオール[例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、ナフタレンジオールなどのC6−14芳香族ジオール;ビフェノール;ビスフェノール類;キシリレングリコールなど]などが挙げられる。さらに、必要に応じて、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトールなどのポリオールを併用してもよい。
【0022】
前記ビスフェノール類としては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールAD)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタンなどのビス(ヒドロキシアリール)C1−6アルカン;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどのビス(ヒドロキシアリール)C4−10シクロアルカン;4,4’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド;4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、及びこれらのアルキレンオキサイド付加体が例示できる。アルキレンオキサイド付加体としては、ビスフェノール類(例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールAD、ビスフェノールFなど)のC2−3アルキレンオキサイド付加体、例えば、2,2−ビス−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ジエトキシ化ビスフェノールA(EBPA)、2,2−ビス−[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]プロパン、ジプロポキシ化ビスフェノールAなどが挙げられる。アルキレンオキサイド付加体において、アルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどのC2−3アルキレンオキサイド)の付加モル数は、各ヒドロキシル基に対して1〜10モル、好ましくは1〜5モル程度である。
【0023】
オキシカルボン酸には、例えば、オキシ安息香酸、オキシナフトエ酸、ヒドロキシフェニル酢酸、グリコール酸、オキシカプロン酸などのオキシカルボン酸又はこれらの誘導体などが含まれる。ラクトンには、プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(例えば、ε−カプロラクトンなど)などのC3−12ラクトンなどが含まれる。
【0024】
好ましい共重合性モノマーとしては、ジオール類[C2−6アルキレングリコール(エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサンジオールなどの直鎖状アルキレングリコールなど)、繰返し数が2〜4程度のオキシアルキレン単位を有するポリオキシC2−4アルキレングリコール(ジエチレングリコールなど)、ビスフェノール類(ビスフェノール類又はそのアルキレンオキサイド付加体など)など]、ジカルボン酸類[C6−12脂肪族ジカルボン酸(アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸など)、カルボキシル基がアレーン環の非対称位置に置換した非対称芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジメタノールなど]などが挙げられる。これらの化合物のうち、芳香族化合物、例えば、ビスフェノール類(特にビスフェノールA)のアルキレンオキサイド付加体、及び非対称芳香族ジカルボン酸[フタル酸、イソフタル酸、及びその反応性誘導体(ジメチルイソフタル酸(DMI)などの低級アルキルエステル)など]などが好ましい。
【0025】
共重合性モノマーの割合(変性量)は、通常、30モル%以下(0〜30モル%)である。共重合体において、共重合性モノマーの割合は、例えば、0.01〜30モル%程度の範囲から選択でき、通常、1〜30モル%(例えば、1〜20モル%)、好ましくは3〜25モル%、さらに好ましくは5〜20モル%(例えば、5〜15モル%)程度である。
【0026】
レーザー溶着性の観点から、PBT系樹脂の融点は、190℃以上(例えば、190〜270℃程度)、好ましくは200〜260℃、さらに好ましくは210〜250℃程度である。
【0027】
PBT系樹脂は、テレフタル酸又はその反応性誘導体と1,4−ブタンジオールと必要により共重合可能なモノマーとを、慣用の方法、例えば、エステル交換、直接エステル化法などにより共重合することにより製造できる。
【0028】
(B)樹脂(第2の樹脂)
PBT系樹脂との組み合わせにおいて、PBT系樹脂のレーザー溶着性を向上させる樹脂(B)としては、ポリカーボネート(PC)系樹脂(b1)、スチレン系樹脂(b2)、ポリエチレンテレフタレート(PET)系樹脂(b3)、及びアクリル系樹脂(b4)が挙げられる。これらの第2の樹脂(B)は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)と樹脂(B)との組合せにおいて、樹脂組成物はポリマーアロイを形成していてもよい。
【0029】
(b1)ポリカーボネート(PC)系樹脂
ポリカーボネート系樹脂には、ジヒドロキシ化合物と、ホスゲン又はジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとの反応により得られる重合体が含まれる。ジヒドロキシ化合物は、脂環族化合物などであってもよいが、好ましくは芳香族化合物(特にビスフェノール化合物)である。ジヒドロキシ化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0030】
ビスフェノール化合物としては、前記PBT系樹脂の項で例示のビスフェノール類(例えば、ビス(ヒドロキシアリール)C1−6アルカン;ビス(ヒドロキシアリール)C4−10シクロアルカン;4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド;4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトンなど)が挙げられる。好ましいポリカーボネート系樹脂には、ビスフェノールA型ポリカーボネートが含まれる。ポリカーボネート系樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0031】
(b2)スチレン系樹脂
スチレン系樹脂としては、例えば、スチレン系単量体(例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなど)の単独又は共重合体;スチレン系単量体とビニル単量体(例えば、(メタ)アクリロニトリルなどの不飽和ニトリル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸などのα,β−モノオレフィン性不飽和カルボン酸又は酸無水物あるいはそのエステル、マレイミド、N−アルキルマレイミド、N−フェニルマレイミドなどのマレイミド系単量体など)との共重合体;スチレン系グラフト共重合体、スチレン系ブロック共重合体などが挙げられる。ポリスチレン系グラフト共重合体としては、例えば、ポリブタジエン、アクリルゴム、塩素化ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴムなどのゴム成分に、スチレンと、アクリロニトリル及び/又はメタクリル酸メチルをグラフト重合した樹脂(例えば、ABS樹脂、MBS樹脂など)などが例示でき、ブロック共重合体として、例えば、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)ブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン(SIS)ブロック共重合体、水素添加スチレン−ブタジエン−スチレン(SEBS)ブロック共重合体、水素添加スチレン−イソプレン−スチレン(SEPS)ブロック共重合体などが例示できる。これらのスチレン系樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0032】
好ましいスチレン系樹脂としては、ポリスチレン(GPPS)、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体などのスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、ゴム成分に少なくともスチレン系単量体がグラフト重合したグラフト共重合体[例えば、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、ABS樹脂、MBS樹脂など]又はブロック共重合体(例えば、SBSブロック共重合体、SISブロック共重合体、SEBSブロック共重合体、SEPSブロック共重合体など)などが含まれる。
【0033】
(b3)ポリエチレンテレフタレート(PET)系樹脂
ポリエチレンテレフタレート系樹脂としては、エチレンテレフタレートを主成分(例えば、50〜100重量%、好ましくは60〜100重量%、さらに好ましくは75〜100重量%程度)とするホモポリエステル又はコポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートコポリエステル)などが挙げられる。
【0034】
コポリエステル(エチレンテレフタレート系共重合体又は変性PET樹脂)における前記共重合性モノマーとしては、テレフタル酸を除くジカルボン酸、エチレングリコールを除くジオール、オキシカルボン酸、ラクトンなどが挙げられる。これらの共重合性モノマーとしては、ブタンジオールに加えて、前記PBT系樹脂の項で例示の共重合性モノマーがそれぞれ使用できる。共重合性モノマーは一種で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0035】
好ましい共重合性モノマーとしては、前記PBT系樹脂の項で例示のモノマー、例えば、ジオール類[C3−6アルキレングリコール(トリメチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールなどの直鎖状又は分岐鎖状アルキレングリコールなど)、ポリオキシアルキレングリコール、ビスフェノール類又はそのアルキレンオキサイド付加体、ジカルボン酸類(C6−12脂肪族ジカルボン酸、非対称芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジメタノールなど)などが挙げられる。
【0036】
共重合体において、共重合性モノマーの割合(変性量)は、1〜30モル%、好ましくは3〜25モル%、さらに好ましくは5〜20モル%程度である。
【0037】
PET系樹脂は、テレフタル酸とエチレングリコールと必要により共重合性モノマーとを、慣用の方法、例えば、エステル交換、直接エステル化法などにより共重合することにより得られる。
【0038】
(b4)アクリル系樹脂
アクリル系樹脂には、例えば、(メタ)アクリル系単量体((メタ)アクリル酸又はそのエステルなど)の単独又は共重合体、(メタ)アクリル系単量体と他の共重合性単量体との共重合体などが含まれる。
【0039】
前記(メタ)アクリル系単量体としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル[例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシルなどの(メタ)アクリル酸C1−18アルキルエステル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルなどのヒドロキシルアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸グリシジルなど]、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリルなどが挙げられる。
【0040】
他の共重合性単量体としては、スチレン系単量体(例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルナフタリン、ビニルシクロヘキサンなど)、重合性多価カルボン酸(フマル酸、マレイン酸など)、マレイミド系単量体(マレイミド、N−アルキルマレイミド、N−フェニルマレイミドなど)、ジエン系単量体(イソプレン、1,3−ブタジエン、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエンなど)、ビニル系単量体(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;メチルビニルケトン、メチルイソプロペニルケトンなどのビニルケトン類;ビニルイソブチルエーテル、ビニルメチルエーテルなどのビニルエーテル類;N−ビニルカルバゾール、N−ビニルピロリドン、N−ビニルイミダゾールなどの窒素含有ビニル単量体など)などが挙げられる。これらの共重合性単量体は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0041】
好ましいアクリル系樹脂としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル(ポリメタクリル酸メチル(PMMA)など)、メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸共重合体、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体(MS樹脂)などが挙げられる。
【0042】
これらの樹脂(B)のうち、ポリカーボネート系樹脂(b1)及びポリエチレンテレフタレート系樹脂(b3)が好ましく、特に、ポリカーボネート系樹脂(b1)が好ましい。
【0043】
前記樹脂(B)とポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)との割合は、レーザー溶着性を損なわない限り適当に選択でき、例えば、前者/後者(重量比)=0.1/1〜1.5/1、好ましくは0.20/1〜1.2/1、さらに好ましくは0.25/1〜1.2/1(例えば、0.3/1〜1.1/1)程度である。このような樹脂組成物はレーザー光に対する透過性が高く、相手材の成形体と有効に融着できる。
【0044】
樹脂組成物は補強材(C)を含んでいてもよい。このような補強材(C)には、繊維状補強材[例えば、無機質繊維(例えば、ガラス繊維、アスベスト繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、チタン酸カリウム繊維、炭化ケイ素繊維、ウィスカー(炭化ケイ素、アルミナ、窒化珪素などのウイスカーなど)など)、有機質繊維(例えば、脂肪族又は芳香族ポリアミド、芳香族ポリエステル、フッ素樹脂、ポリアクリロニトリルなどのアクリル樹脂、レーヨンなどで形成された繊維など)など]、板状補強材(例えば、タルク、マイカ、ガラスフレーク、グラファイトなど)、粉粒状補強材[例えば、ガラスビーズ、ガラス粉、ミルドファイバー(例えば、ミルドガラスファイバーなど)、ウォラストナイト(珪灰石)など]が含まれる。なお、ウォラストナイトは、板状、柱状、繊維状などの形態であってもよい。繊維状補強材の平均径は、例えば、1〜50μm(好ましくは3〜30μm)程度、平均長は、例えば、100μm〜3mm(好ましくは500μm〜1mm)程度であってもよい。また、板状又は粉粒状補強材の平均粒径は、例えば、0.1〜100μm、好ましくは0.1〜50μm程度であってもよい。これらの補強材は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0045】
これらの補強材のうち、レーザー光を透過可能な補強材が好ましい。このような補強材はレーザー光の波長に応じて選択できる。このような補強材としては、例えば、ガラス系又はガラス質補強材(ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラス粉など)などが例示でき、特に、ガラス繊維、例えば、高い強度・剛性を有するガラス繊維(チョップドストランドなど)などが好ましい。
【0046】
樹脂組成物中の補強材(C)の割合は、例えば、1〜60重量%程度、好ましくは5〜50重量%程度、さらに好ましくは10〜45重量%程度である。
【0047】
樹脂組成物には、種々の添加剤、例えば、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤など)、難燃剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、充填剤(無機充填剤など)、染顔料などの着色剤、分散剤、可塑剤などを添加してもよい。また、必要であれば、他の樹脂(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂など)と組合せて用いてもよい。
【0048】
本発明のPBT系樹脂組成物は、粉粒体混合物や溶融混合物(ペレットなど)であってもよい。本発明の樹脂組成物は、成形性が高く、機械的強度や耐熱性の高い成形体又は成形品を製造できる。特に、本発明の樹脂組成物で形成した成形品は、PBT系樹脂組成物で形成されているにも拘わらず、光線透過性(特に、レーザー光に対する光線透過性)が高く、レーザー溶着に適している。例えば、ガラス繊維を含有するPBT系樹脂組成物を射出成形(金型温度40℃)することにより形成された厚さ3mmの成形品において、800〜1100nmの波長の光線透過率は15%以上(例えば、17〜70%程度)、好ましくは18%以上(例えば、20〜60%)、さらに好ましくは22%以上(例えば、25〜50%)程度である。しかも、本発明の樹脂組成物は、レーザー光による溶着性が高いので、レーザー光を利用して溶着するための成形体を製造するのに有用である。
【0049】
[成形体]
成形体は、PBT系樹脂(A)と、樹脂(B)と、好ましくは補強材(C)とで構成された樹脂組成物を慣用の方法、例えば、(1)各成分を混合して、一軸又は二軸の押出機により混練し押出してペレットを調製した後、成形する方法、(2)一旦、組成の異なるペレット(マスターバッチ)を調製し、そのペレットを所定量混合(希釈)して成形に供し、所定の組成の成形品を得る方法、(3)成形機に各成分の1又は2以上を直接仕込む方法などで製造できる。なお、ペレットは、例えば、脆性成分(ガラス系補強材など)を除く成分を溶融混合した後に、脆性成分を混合することにより調製してもよい。
【0050】
成形体は、前記PBT系樹脂組成物を溶融混練し、押出成形、射出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形、回転成形、ガスインジェクションモールディングなどの慣用の方法で成形してもよいが、通常、射出成形により成形される。なお、射出成形時の金型温度は、23〜90℃、好ましくは23〜60℃、さらに好ましくは30〜50℃程度である。
【0051】
成形品の形状は特に制限されないが、成形品をレーザー溶着により相手材(他の樹脂成形品)と接合して用いるため、通常、少なくとも接触面(平面など)を有する形状(例えば、板状)である。また、本発明の成形体はレーザー光に対する透過性が高いので、レーザー光が透過する部位の成形品の厚み(レーザー光が透過する方向の厚み)は、広い範囲から選択でき、例えば、0.1〜5mm、好ましくは0.1〜3mm(例えば、0.5〜2mm)程度であってもよい。
【0052】
レーザー光源としては、特に制限されず、例えば、色素レーザー、気体レーザー(エキシマレーザー、アルゴンレーザー、クリプトンレーザー、ヘリウム−ネオンレーザーなど)、固体レーザー(YAGレーザーなど)、半導体レーザーなどが利用できる。レーザー光としては、通常、パルスレーザーが利用される。
【0053】
なお、レーザー走査速度(サンプル上をレーザー照射位置が移動する速度)は任意に選択できる。但し、十分な溶着が必要な場合は、走査速度が早いと溶着不良が起こる虞があるため、レーザー走査速度は、0〜150mm/秒、好ましくは0〜100mm/秒、さらに好ましくは0〜50mm/秒程度である。
【0054】
前記成形品は、レーザー溶着性に優れているため、通常、レーザー溶着により相手材の樹脂成形品と溶着させるのが好ましいが、必要であれば、他の熱溶着法、例えば、振動溶着法、超音波溶着法、熱板溶着法などにより他の樹脂成形品と溶着させることもできる。
【0055】
本発明の複合成形品は、前記PBT系樹脂組成物で形成された成形品(第1の成形品)と、相手材の樹脂成形品(第2の成形品、被着体)とがレーザー溶着により接合され、一体化されている。例えば、第1の成形品と第2の成形品とを接触(特に少なくとも接合部を面接触)させ、レーザー光を照射することにより、第1の成形品と第2の成形品との界面を部分的に溶融させて接合面を密着させ、冷却することにより二種の成形品を接合、一体化して1つの成形体とすることができる。このような複合成形体において、本発明の成形体を用いると、融着により高い接合強度が得られ、レーザー光の照射により融着していない非融着部材と同等の高い融着強度を保持できる。そのため、レーザー融着しても接合強度を実質的に低下させることがなく、強固に接合した複合成形体を得ることができる。例えば、非融着部材の強度を「100」とすると、融着強度80〜100程度で接合した複合成形体を得ることができる。
【0056】
前記相手材の樹脂成形品を構成する樹脂としては、特に制限されず、種々の熱可塑性樹脂、例えば、オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂などが挙げられる。これらの樹脂のうち、前記PBT系樹脂組成物を構成する樹脂と同種類又は同系統の樹脂(PBT系樹脂、PET系樹脂などのポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂など)又はその組成物で相手材を構成してもよい。例えば、第1の成形体と第2の成形体とを、それぞれ、本発明のPBT系樹脂組成物で形成してもよい。
【0057】
被着体は、レーザー光に対する吸収剤又は着色剤を含んでいてもよい。前記着色剤は、レーザー光の波長に応じて選択でき、無機顔料[カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックなど)などの黒色顔料、酸化鉄赤などの赤色顔料、モリブデートオレンジなどの橙色顔料、酸化チタンなどの白色顔料など]、有機顔料(黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、緑色顔料など)などが挙げられる。これらの吸収剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。吸収剤としては、通常、黒色顔料又は染料、特にカーボンブラックが使用できる。カーボンブラックの平均粒子径は、通常、10〜1000nm、好ましくは10〜100nm程度であってもよい。着色剤の割合は、被着体全体に対して0.1〜10重量%、好ましくは0.3〜5重量%(例えば、0.3〜3重量%)程度である。
【0058】
レーザー光の照射は、通常、第1の成形体から第2の成形体の方向に向けて行われ、吸収剤又は着色剤を含む第2の成形体の界面で発熱させることにより、第1の成形体と第2の成形体とを融着させる。なお、必要によりレンズ系を利用して、第1の成形品と第2の成形品との界面にレーザー光を集光させ接触界面を融着してもよい。
【0059】
本発明の好ましい態様には、PBT系樹脂(A)とポリカーボネート(PC)系樹脂(B)と(必要によりレーザー光を透過可能な補強材(C)と)で構成されたレーザー溶着用PBT系樹脂組成物が含まれる。PC系樹脂(B)とPBT系樹脂(A)との割合(重量比)は、0.1/1〜1.5/1程度であってもよい。前記PBT系樹脂(A)としては、PBT又は約30モル%以下の共重合性モノマー(ビスフェノール類又はそのアルキレンオキサイド付加体、非対称芳香族ジカルボン酸、及びこれらのエステル形成可能な誘導体など)で変性されたPBT系共重合体が挙げられる。前記樹脂組成物は、射出成形により形成された厚さ3mmの成形品において、800〜1100nmの波長の光線透過率が15%以上であってもよい。
【0060】
本発明のさらに好ましい態様には、PBT、及び1〜20モル%の共重合性モノマーで変性されたPBT系共重合体から選択された少なくとも一種のPBT系樹脂(A)とPC系樹脂(B)と(必要によりガラス繊維(C)と)で構成され、前記樹脂(B) とPBT系樹脂(A)との割合(重量比)が0.1/1〜1.5/1であり、前記共重合性モノマーが、フタル酸、イソフタル酸、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加体、及びこれらの反応性誘導体から選択された少なくとも一種であるレーザー溶着用PBT系樹脂組成物も含まれる。
【0061】
本発明の好ましい態様には、前記樹脂組成物で形成された成形品、この成形品と相手材の樹脂成形品とがレーザー溶着により接合されている複合成形品も含まれる。
【実施例】
【0062】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0063】
実施例及び比較例では、以下のPBT系樹脂(A)、樹脂(B)及びガラス繊維(C)を用いた。
【0064】
PBT系樹脂(A)
(A-1)ポリブチレンテレフタレート(ウィンテックポリマー(株)製,DX2000)
(A-2)ジメチルイソフタル酸(DMI)変性PBT樹脂
テレフタル酸と1,4−ブタンジオールとの反応において、テレフタル酸の一部(12.5mol%)を、共重合成分としてのDMI 12.5mol%に代え、変性ポリブチレンテレフタレートを調製した。
【0065】
(A-3)ジエトキシビスフェノールA(EBPA)変性PBT樹脂
テレフタル酸と1,4−ブタンジオールとの反応において、1,4−ブタンジオールの一部10.0mol%に代えて、共重合成分としてEBPA 10.0mol%を用いて変性ポリブチレンテレフタレートを調製した。
【0066】
樹脂(B)
(B-1)ポリカーボネート(PC)樹脂(帝人化成(株)製,パンライトL−1225)
(B-2)アクロリニトリル−スチレン(AS)樹脂(ダイセル化学工業(株)製,セビアンN AP−20)
(B-3)ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂(帝人(株)製,TR8580HP)
ガラス繊維(C)
平均繊維径11μm、平均繊維長3mmのガラス繊維を用いた。
【0067】
実施例1〜24及び比較例1〜13
表1〜4に示す割合で、PBT系樹脂(A)と樹脂(B)とガラス繊維(C)とを用いて、2軸押出機(日本製鋼所製,30mmφ)により250℃にて混錬を行い、ペレットを作製した。得られたペレットを用いて射出成形機((株)東芝製)により、シリンダー温度250℃及び表に示す金型温度の条件で試験片A(縦7cm×横1cm×厚さ3mm)を成形した。
【0068】
また、前記試験片Aと溶着させる試験片Bを、前記ペレット100重量部と黒色着色用カーボンブラック(ウィンテックポリマー(株)製,商品名「2020B」)3重量部を用いて着色する以外は試験片Aと同様にして試験片Bを作製した。なお、試験片Bはレーザー光による発熱体として作用する。
【0069】
図1及び図2に示すように、試験片B(4)に対して試験片A(3)を、一部を重ねて接触させた状態で、試験片A及びBをアクリル板(5)と金属板(6)とで挟んで固定し、(株)日本レーザー製レーザー溶着機(FLS iron)を用いて、焦点を調整して、光源(1)からレーザー光(2)を試験片AとBとの接触面に線幅W(2mm)で集光させ、試験片A(3)側から、表に示すレーザー出力及び走査速度の条件でレーザー光を照射して溶着を行った。
【0070】
なお、表1に示す実施例及び比較例では、波長810nmのレーザー光で照射を行った。
【0071】
また、表2〜4に示す実施例及び比較例では、前記アクリル板に代えて、石英ガラス板を用いるとともに、レーザー溶着機として、ライスター社製レーザー溶着機(MODULAS溶着システムCタイプ)を用い、波長940nmのレーザー光で照射を行った。
【0072】
(1)溶着強度の測定
引張試験機(東洋ボールドウィン製,UTM−2.5T)を用いてレーザー溶着した試験片Aと試験片Bとを5mm/分で引張せん断し、溶着強度を測定した。
【0073】
(2)光線透過率
分光光度計(日本分光(株)製,V570)を用いて、波長940nmでの試験片Aの光線透過率を測定した。
【0074】
実施例及び比較例の結果を表1〜4に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【0078】
【表4】

【0079】
実施例では、レーザー光に対する透過率及び溶着強度が高く、溶着強度を向上できた。これに対して、比較例では、いずれのサンプルもレーザー溶着できないか、レーザー溶着性を示しても、著しく低かった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の樹脂組成物は、レーザー光による溶着性が高いので、レーザー光を利用して溶着するための成形体を製造するのに有用である。また、本発明の成形品は、レーザー溶着性に優れているため、レーザー溶着により相手材の樹脂成形品と溶着させるのに有用である。得られた複合成形品は、高い溶着強度を有し、レーザー光照射によるPBT系樹脂の損傷も少ないため、種々の用途、例えば、電気・電子部品、オフィスオートメーション(OA)機器部品、家電機器部品、機械機構部品、自動車機構部品などに適用できる。特に、自動車電装部品(各種コントロールユニット、イグニッションコイル部品など)、モーター部品、各種センサー部品、コネクター部品、スイッチ部品、リレー部品、コイル部品、トランス部品、ランプ部品などに好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0081】
1…光源
2…レーザー光
3…試験片A
4…試験片B
5…アクリル板
6…金属板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)と、スチレン系樹脂(B)と、ガラス繊維とを含み、レーザー光を透過して、相手材の樹脂成形品とレーザー溶着するためのレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物(但し、ポリブチレンテレフタレートホモポリエステルを含まない)であって、
前記ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)が、イソフタル酸及びその反応性誘導体から選択された少なくとも一種の共重合性モノマー0.01〜30モル%で変性されたポリブチレンテレフタレート系共重合体であり、
スチレン系樹脂(B)が、スチレン−アクリロニトリル共重合体であり、
スチレン系樹脂(B)とポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)との割合が、前者/後者(重量比)=0.25/1〜1.2/1であるポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物。
【請求項2】
スチレン系樹脂(B)とポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)との割合が、前者/後者(重量比)=0.3/1〜1.1/1である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
ガラス繊維の含有量が10〜50重量%である請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
射出成形により形成された厚さ3mmの成形品において、800〜1100nmの波長の光線透過率が15%以上である請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
レーザー光に対する吸収剤又は着色剤を含む第2の熱可塑性樹脂成形品に対してレーザー溶着により接合する第1の成形品を形成するための樹脂組成物である請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
レーザー光を透過し、相手材の樹脂成形品とレーザー溶着するための成形品であって、請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物で形成された成形品。
【請求項7】
レーザー光透過部位を有し、この透過部位を相手材の樹脂成形品と接触させて、レーザー溶着により相手材の樹脂成形品と接合するためのレーザー光透過側部材である請求項6記載の成形品。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物で形成された成形品と、相手材の樹脂成形品とがレーザー溶着により接合されている複合成形品。
【請求項9】
第1の成形品から、第2の成形品の方向に向けてレーザー光を照射して、前記第1の成形品と第2の成形品とを溶着により接合して複合成形品を製造する方法であって、前記第1の成形品を請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物で形成し、第2の成形品をレーザー光に対する吸収剤又は着色剤を含む熱可塑性樹脂で形成し、前記第1の成形品と第2の成形品とを接合する複合成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−52223(P2011−52223A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236598(P2010−236598)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【分割の表示】特願2003−582230(P2003−582230)の分割
【原出願日】平成15年4月8日(2003.4.8)
【出願人】(501183161)ウィンテックポリマー株式会社 (54)
【Fターム(参考)】