説明

レーザー焼結性粉体およびその造形物

【課題】
耐衝撃性、低吸湿性等のスチレン系樹脂の特質を維持しつつ、ガラス転移温度以上において結晶性樹脂と同様の急激な溶融粘度の低下を示すレーザー焼結に好適な樹脂粉体を提供する。
【解決手段】
融点が80℃〜250℃である結晶性樹脂(A)10〜80質量%及びスチレン系樹脂(B)20〜90質量%を含有する熱可塑性樹脂組成物からなり、50%平均粒子径が10〜100μmであるレーザー焼結性粉体。成分(A)は、ポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。成分(B)は、ゴム強化スチレン系樹脂組成物であることが好ましく、ゴム成分は、エチレン−α−オレフィン系共重合ゴム及び/又はジエン系ゴムの水素添加物であることが好ましい。レーザー焼結性粉体のメルトフローレートは、5〜500g/10分であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末焼結造形法における原料粉体として有用なレーザー焼結性樹脂粉体及びそれを用いて得られた造形物に関し、詳しくは、寸法精度に優れ、密度が高く強度に優れ、さらには吸湿性が低い造形物を提供するレーザー焼結性樹脂粉体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、航空機、建造物、家電、玩具、日用雑貨用の各種工業分野における製品や部品の設計・デザイン構成をCAD、CAM、CAE等のコンピュータ上で行う手法が広く普及している。そして、この様なコンピュータ(CAD)上で設計された3次元モデルを具象化した実体モデルを製作する方法は、ラピッドプロトタイピング(RP)システム、ラピッドマニュファクチャリング(RM)システム等と呼ばれている。(以下、これらを纏めて「RPシステム」という)。
【0003】
このRPシステムの中には、3次元造形物のCAD等のデータを変換して得られたスライスデータに基づいてレーザー光線を金属または樹脂粉体の薄層に選択的に照射することにより該粉体を選択的に溶融接着させた後、該層の上に別の金属または樹脂粉体の薄層を形成して同様の操作を繰り返すことにより順次積層して造形物を得る粉末焼結積層造形法(SLS法)があり、このSLS法を利用した粉末焼結積層造形機も既に市販されている(例えば特許文献1及び2)。
【0004】
SLS法では、薄層間の内部応力を低く維持しつつ造形に要する時間を短縮するため、パートシリンダに供給された樹脂粉体の層を樹脂の軟化点Ts付近の温度(パートベッド温度)まで加熱しておき、この層にレーザー光線を選択的に照射して樹脂粉体を軟化点以上の温度(ケーキング温度Tc)まで加熱して相互に融着させることにより造形が行われる。
【0005】
現在SLS法で用いられている樹脂粉体の代表例は、ポリアミド樹脂である。ポリアミド樹脂は結晶性樹脂であり、その軟化点Tsが融点Tmに相当し、また、レーザー光線の吸収性が高いため、ポリアミド樹脂粉体はレーザー光線の照射により容易に融点Tm以上に達して流動化して融着するので、SLS法に好適である。
しかし、SLS法で得られた造形物は一般にポーラスな状態であり、気密性を付与するためには、真空含浸法により造形物の封止処理をする必要があった。しかも、ポリアミド樹脂は吸水性が高いため、例えば、造形物に水溶性ポリウレタンを含浸させる等の後処理が必要であった。
そこで、このような後処理を必要としないレーザー焼結性樹脂粉体が求められている。
【0006】
他方、ABS樹脂などのスチレン系樹脂は、吸水性が低く、耐衝撃性等の機械的強度に優れているだけでなく、塗装やメッキ等の二次加工性にも優れ、さらには、透明な造形物も得られるので、RPシステムの原料として魅力的である。
【0007】
しかし、スチレン系樹脂は、非晶質樹脂で、軟化点(Ts)がガラス転移温度(Tg)に相当する。非晶性樹脂粉体をSLS法の原料樹脂として用いる場合、パートベッド温度をガラス転移温度(Tg)近くの温度に維持し、融着を生じさせるためにはレーザー光線を照射してガラス転移温度(Tg)以上まで加熱する必要がある。しかし、非晶性樹脂は、ガラス転移温度(Tg)以上における温度上昇に対する溶融粘度の低下が小さいため、レーザー光線の照射によって非晶性樹脂粉体の温度をガラス転移温度(Tg)よりも僅かに上昇させただけでは、樹脂の溶融粘度が高すぎ、樹脂粉体全体が均一に溶融するに至らず、造形物がポーラスで密度の低いものとなる傾向がある。これに対して、高出力レーザーを使用することにより、非晶性樹脂粉体の温度をガラス転移温度(Tg)よりも大幅に上昇させることも可能であるが、熱の制御が難しく、レーザーの走査領域外の粉体まで溶融固化して焼結膨らみが生じて寸法精度が悪くなったり、材料が劣化したり、また、溶融固化後の急激な冷却により造形物に内部応力が蓄積され、造形物にそりが生じる可能性がある。また、パートベッド温度を上昇させすぎると、パートシリンダに供給された樹脂粉体がブロッキングする可能性がある。
【0008】
【特許文献1】特開平3−183530号公報
【特許文献2】特許第3477576号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、スチレン系樹脂の高い耐衝撃性、低い吸水性等の特質を維持しつつ、ガラス転移温度以上において結晶性樹脂と同様の急激な溶融粘度の低下を示す、レーザー焼結に好適な樹脂粉体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的の下に鋭意研究した結果、特定の結晶性樹脂とスチレン系樹脂を含有する樹脂粉体を用いれば、軟化点以上の温度において急激な溶融粘度の低下を示し、優れたレーザー焼結性を備え、かつ、高い耐衝撃性、高い密度、低い吸水性及び優れた寸法精度を備えた造形物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
かくして、本発明によれば、下記成分(A)10〜80質量%及び下記成分(B)20〜90質量%を含有する熱可塑性樹脂組成物からなり、50%平均粒子径が10〜100μmであるレーザー焼結性粉体が提供される。
成分(A):融点が80℃〜250℃である結晶性樹脂。
成分(B):スチレン系樹脂。
【0012】
また、本発明の他の局面によれば、上記レーザー焼結性粉体からなる造形物が提供される。該造形物は、代表的には、レーザー焼結性粉体からなる薄層にレーザー光線を照射して該薄層の粉体を選択的に焼結させた後、該薄層上にレーザー焼結性粉体からなる別の薄層を積層し、該薄層にレーザー光線を照射して該薄層の粉体を選択的に焼結させる工程を繰り返すことにより得られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特定の結晶性樹脂とスチレン系樹脂とを併用して樹脂粉体を構成したので、軟化点以上の温度において急激な溶融粘度の低下を示し、優れたレーザー焼結性を備える熱可塑性樹脂粉体が得られる。この樹脂粉体をレーザー焼結して得られた造形物は、スチレン系樹脂に由来する高い耐衝撃性、優れた二次加工性、低い吸水性及び優れた寸法精度等を備える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
成分(A)
本発明で使用する成分(A)は、融点が80℃〜250℃である結晶性樹脂であれば特に制限がなく、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ナイロン6樹脂やナイロン66樹脂などのポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂やボリプチレンテレフタレート樹脂などのポリエステル系樹脂、 ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリイミド系樹脂などを挙げることができる。 これら結晶性樹脂の中でもポリオレフィン系樹脂が最も好適である。
【0015】
上記結晶性樹脂の融点は、80〜250℃、好ましくは、90〜220℃、より好ましくは、100〜200℃、さらに好ましくは、100〜180℃である。上記結晶性樹脂の融点が、80〜250℃の範囲にあると、造形物の密度、強度、寸法精度のバランスが良好となり好ましい。
【0016】
上記ポリオレフィン系樹脂は、代表的には、エチレン及び炭素数3〜10のα−オレフィンからなる群より選ばれた少なくとも1種のオレフィン類を構成単量体単位として含有する重合体である。このポリオレフィン系樹脂としては、X線回折により室温で結晶化度を示すものが好ましく、より好ましくは結晶化度が20%以上であり、JIS K7121に準拠して測定した融点が40℃以上であることが好ましい。
【0017】
上記ポリオレフィン系樹脂の構成単量体単位であるオレフィン類の例としては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、3−メチルブテン−1、4−メチルペンテン−1、3−メチルヘキセン−1等があり、好ましくは、エチレン、プロピレン、ブテン−1、3−メチルブテン−1、4−メチルペンテン−1である。また他に、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、7−メチル−1,6−オクタジエン、1,9−デカジエン等の非共役ジエン等の他の単量体成分を、構成単量体単位の一部として使用することができる。
【0018】
上記ポリオレフィン系樹脂は、単独重合体または共重合体であってよく、該共重合体は、ランダム共重合体またはブロック共重合体のいずれであってもよいが、密度が高く耐衝撃性が高い造形物が得られることからブロック共重合体を用いることが好ましい。また、上記ポリオレフィン系樹脂として、アイオノマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、環状オレフィン共重合体、塩素化ポリエチレン、臭素化ポリエチレン、官能基で変性された変性ポリオレフィン系樹脂等を用いることもできる。該変性ポリオレフィン系樹脂は、公知のものを使用でき、例えば、ポリオレフィン系樹脂に、官能基含有不飽和化合物をグラフト共重合させることによって得ることができる。ここで用いる官能基含有不飽和化合物としては、成分(B)との相溶性を高めるものが好ましく、例えば、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、不飽和カルボン酸及び不飽和酸無水物からなる群より選ばれた少なくとも1種が挙げられる。成分(B)との相溶性の点で好ましい変性ポリオレフィン系樹脂としては、無水マレイン酸で変性されたポリオレフィン系樹脂、スチレン及びアクリロニトリルで変性されたポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上併用して使用することができる。
【0019】
上記ポリオレフィン系樹脂のうち、ポリプロピレン、プロピレン・エチレン共重合体等のプロピレン単位を主として含む重合体であるポリプロピレン系樹脂が好ましく、プロピレン・エチレンランダム共重合体及びプロピレン・エチレンブロック共重合体がより好ましく、プロピレン・エチレンブロック共重合体が特に好ましい。これらは単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。
【0020】
上記ポリオレフィン系樹脂は、例えばポリプロピレン系樹脂の場合、JIS K7210:1999に準拠して230℃、2.16kgの条件で測定したメルトフローレート(MFR)が、0.1〜500g/10分であることが好ましく、より好ましくは0.5〜200g/10分である。
【0021】
上記ポリプロピレン系樹脂は、いわゆる未変性ポリプロピレンであっても、官能基で変性された変性された変性ポリプロピレンであってもよい。該変性ポリプロピレンは、公知のものを使用でき、例えば、ポリプロピレンに、官能基含有不飽和化合物をグラフト共重合させることによって得ることができる。ここで用いる官能基含有不飽和化合物としては、成分(B)との相溶性を高めるものが好ましく、例えば、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、不飽和カルボン酸及び不飽和酸無水物からなる群より選ばれた少なくとも1種が挙げられる。成分(B)との相溶性の点で好ましい変性ポリプロピレンとしては、無水マレイン酸で変性されたポリプロピレン、スチレン及びアクリロニトリルで変性されたポリプロピレンなどが挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上併用して使用することができる。
【0022】
本発明の(A)成分の使用量は、本発明の(A)成分及び(B)成分の合計100質量%中、10〜80質量%、好ましくは20〜80質量%、より好ましくは40〜80質量%、さらに好ましくは60〜80質量%である。成分(A)の使用量が10質量%未満では造形物の密度及び耐衝撃性が低下し、さらには寸法精度も劣る。一方、成分(A)の使用量が80質量%を超えると、造形物の耐衝撃性(ノッチありのシャルピー衝撃強度)、耐吸水性が劣り、さらには、そりも発生する。
【0023】
成分(B)
本発明で使用する成分(B)は、スチレン系樹脂であり、代表的には、ゴム質重合体(a)の存在下に芳香族ビニル単量体及び所望により該芳香族ビニル単量体と共重合可能な他の単量体からなる単量体成分(b)を重合して得られるゴム強化スチレン系樹脂組成物及び/又は前記単量体成分(b)の(共)重合体である。後者の(共)重合体は、ゴム質重合体(a)の非存在下に、前記単量体成分(b)を重合して得られるものである。
本発明の(B)成分は、耐衝撃性の面から、ゴム質重合体(a)の存在下に前記単量体成分(b)をグラフト重合させた重合体を少なくとも1種含むものが好ましい。
【0024】
上記ゴム質重合体(a)は、特に限定されないが、ポリブタジエン、ブタジエン・スチレンランダム共重合体、ブタジエン・スチレンブロック共重合体、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体などのジエン系ゴム及びその水素添加物、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体、エチレン・ブテン−1共重合体、エチレン・ブテン−1・非共役ジエン共重合体などのエチレン−α−オレフィン系共重合ゴム、アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム、シリコーン・アクリル系複合ゴムなどの非ジエン系ゴムが挙げられ、これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらのうち、成分(A)との相溶性が高い点から、ジエン系ゴムの水素添加物(a1)及びエチレン−α−オレフィン系共重合ゴム(a2)が好ましく、これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
ジエン系ゴムの水素添加物(a1)としては、例えば、下記の構造を有する共役ジエンブロック共重合体の水素添加物が挙げられる。すなわち、芳香族ビニル化合物単位からなる重合体ブロックA、1,2−ビニル結合含量が25モル%を超える共役ジエン系化合物単位からなる重合体の二重結合部分を95モル%以上水素添加してなる重合体ブロックB、1,2−ビニル結合含量が25モル%以下の共役ジエン系化合物単位からなる重合体の二重結合部分を95モル%以上水素添加してなる重合体ブロックC、および芳香族ビニル化合物単位と共役ジエン系化合物単位の共重合体の二重結合部分を95モル%以上水素添加してなる重合体ブロックDのうち、2種以上を組み合わせたものからなるブロック共重合体である。
【0026】
上記重合体ブロックAの製造に用いられる芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、メチルスチレン、ビニルキシレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、フルオロスチレン、p−t−ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルナフタレンなどが挙げられ、これらは、1種単独で、または2種以上を混合して用いることができる。中でも好ましいものは、スチレンである。ブロック共重合体中の重合体ブロックAの割合は、ブロック共重合体中の0〜65質量%が好ましく、さらに好ましくは10〜40質量%である。重合体ブロックAが65質量%を超えると、耐衝撃性が十分でなくなる可能性がある。
【0027】
上記重合体ブロックB、CおよびDは、共役ジエン系化合物の重合体を水素添加することにより得られる。上記重合体ブロックB、CおよびDの製造に用いられる共役ジエン系化合物としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、クロロプレンなどが挙げられるが、工業的に利用でき、物性の優れた水添ジエン系ゴム質重合体を得るには、1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましい。これらは、1種単独で、または2種以上を混合して用いることができる。上記重合体ブロックDの製造に用いられる芳香族ビニル化合物としては、上記重合体ブロックAの製造に用いられる芳香族ビニル化合物と同様のものが挙げられ、これらは、1種単独で、または2種以上を混合して用いることができる。中でも好ましいものは、スチレンである。
【0028】
上記重合体ブロックB、CおよびDの水素添加率は、95モル%以上であり、好ましくは96モル%以上である。95モル%未満であると、重合中にゲルの発生を招き、安定に重合できない可能性がある。重合体ブロックBの1,2−ビニル結合含量は、25モル%を超え90モル%以下が好ましく、30〜80モル%がさらに好ましい。重合体ブロックBの1,2−ビニル結合含量が25モル%以下であると、ゴム的性質が失われ耐衝撃性が十分でなくなる可能性があり、一方、90モル%を超えると、耐薬品性が十分でなくなる可能性がある。また、重合体ブロックCの1,2−ビニル結合含量は、25%モル以下が好ましく、20モル%以下がさらに好ましい。重合体ブロックCの1,2−ビニル結合含量が25モル%を超えると、耐傷つき性および摺動性が十分に発現しない可能性がある。重合体ブロックDの1,2−ビニル結合含量は、25〜90モル%が好ましく、30〜80モル%がさらに好ましい。重合体ブロックDの1,2−ビニル結合含量が25モル%未満であると、ゴム的性質が失われ耐衝撃性が十分でなくなる可能性があり、一方、90モル%を超えると、耐薬品性が十分に得られない可能性がある。また、重合体ブロックDの芳香族ビニル化合物含量は、25質量%以下が好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。重合体ブロックDの芳香族ビニル化合物含量が25質量%を超えると、ゴム的性質が失われ耐衝撃性が十分でなくなく可能性がある。
【0029】
上記ブロック共重合体の分子構造は、分岐状、放射状またはこれらの組み合わせでもよく、さらにブロック構造としては、ジブロック、トリブロック、もしくはマルチブロック、またはこれらの組み合わせでもよい。例えば、A−(B−A)n 、(A−B)n 、A−(B−C)n 、C−(B−C)n 、(B−C)n 、A−(D−A)n 、(A−D)n 、A−(D−C)n 、C−(D−C)n 、(D−C)n 、A−(B−C−D)n 、(A−B−C−D)n 、(ただし、n=1以上の整数)で表されるブロック共重合体であり、好ましくは、A−B−A、A−B−A−B、A−B−C、A−D−C、C−B−Cの構造を有するブロック共重合体である。
【0030】
上記ジエン系ゴムの水素添加物の数平均分子量(Mn)は、4万〜70万が好ましく、5万〜50万がより好ましく、6万〜40万がさらに好ましく、7万〜30万が特に好ましい。Mnが4万未満では、耐衝撃性が十分でなく、一方、70万を超えると、レーザー焼結性が十分でなくなる可能性がある。
【0031】
エチレン−α−オレフィン系共重合ゴム(a2)としては、例えば、エチレン/α−オレフィン共重合体、エチレン/α−オレフィン/非共役ジエン共重合体が挙げられる。該成分(a2)を構成するα−オレフィンとしては、例えば、炭素数3〜20のα−オレフィンが挙げられ、具体的には、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−ヘキサデセン、1−エイコセンなどが挙げられる。これらのα−オレフィンは、1種単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。α−オレフィンの炭素数は、好ましくは3〜20、より好ましくは3〜12、さらに好ましくは3〜8である。炭素数が20を超えると、共重合性が低下し、成形品の表面外観が十分でなくなる可能性がある。エチレン/α−オレフィンの質量比は、好ましくは5〜95/95〜5、より好ましくは50〜90/50〜10、さらに好ましくは60〜88/40〜12、特に好ましくは70〜85/30〜15である。α−オレフィンの質量比が95を超えると、耐候性が十分でなく、一方、5未満になるとゴム質重合体のゴム弾性が十分でなくなるため、十分な耐衝撃性が発現しない可能性がある。尚、本発明において、ゴムとは、室温においてゴム弾性を示すものをいう。
【0032】
非共役ジエンとしては、アルケニルノルボルネン類、環状ジエン類、脂肪族ジエン類が挙げられ、好ましくは5−エチリデン−2−ノルボルネンおよびジシクロペンタジエンである。これらの非共役ジエンは、1種単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。非共役ジエンの、ゴム質重合体全量に対する割合は、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜10質量%である。非共役ジエンの割合が30質量%を超えると、成形外観および耐候性が十分でなくなる可能性がある。尚、成分(a2)における不飽和基量は、ヨウ素価に換算して4〜40の範囲が好ましい。
また、成分(a2)のムーニー粘度(ML1+4、100℃;JIS K6300に準拠)は、好ましくは5〜80、より好ましくは10〜65、さらに好ましくは15〜45である。ムーニー粘度が80を超えると、流動性が不十分に、ムーニー粘度が5未満になると、得られる成形品の耐衝撃性が不十分となる可能性がある。
【0033】
単量体成分(b)は、芳香族ビニル単量体及び所望により該芳香族ビニル単量体と共重合可能な他の単量体からなるビニル系単量体成分である。このうち、芳香族ビニル単量体としては、上記ジエン系ゴムの水素添加物の重合体ブロック(A)の製造に用いられる芳香族ビニル化合物と同様のものが挙げられ、これらは、1種単独で、または2種以上を混合して用いることもできる。好ましい芳香族ビニル化合物は、スチレンまたは芳香族ビニル化合物中にスチレンを50質量%以上含むものである。芳香族ビニル化合物の使用量は、単量体成分(b)全体に対し、好ましくは5〜95質量%、より好ましくは5〜90質量%、さらに好ましくは5〜85質量%である。芳香族ビニル化合物の使用量が5質量%未満では、樹脂の熱安定性が十分でなく、一方、95質量%を超えると、樹脂の靱性が十分に得られない可能性がある。
【0034】
芳香族ビニル単量体と共重合可能な他の単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどシアン化ビニル化合物;メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、アミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、フェニルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレートなどのメタクリル酸アルキルエステル;無水マレイン酸、無水イタコン酸などの不飽和酸無水物;アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和酸;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのα,β−不飽和ジカルボン酸のイミド化合物、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテルなどのエポキシ基含有不飽和化合物などが挙げられ、好ましくはシアン化ビニル化合物、アクリル酸アルキルエステル及びメタクリル酸アルキルエステルが挙げられ、特に好ましくは、アクリロニトリル及びメチルメタクリレートが挙げられる。メチルメタクリレートに代表される(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、レーザー吸収能を向上させる傾向がある。また、エポキシ基含有不飽和化合物は、成分(A)のポリオレフィン系樹脂、特に無水マレイン酸変性ポリプロピレン等との相溶性を高めるために好ましい。なお、本明細書で、(メタ)アクリル酸はアクリル酸及び/又はメタクリル酸を意味する。
これらの他の単量体は、1種単独で、または2種以上を混合して使用できる。これらの他の単量体の使用量は、本発明の効果を損なわない範囲であればよく、単量体成分(b)全体を100質量%とした場合に、好ましくは5〜95質量%、より好ましくは10〜95質量%、さらに好ましくは15〜95質量%である。
【0035】
上記ゴム質重合体(a)の使用量は、成分(a)及び成分(b)の合計100質量%に対して、好ましくは5〜40質量%、さらに好ましくは10〜35質量%である。成分(a)の使用量が5質量%未満では、造形物の耐衝撃性が十分でなく、一方、40質量%を超えると、溶融粘度の低下が十分でなくなる可能性がある。また、熱可塑性樹脂組成物中のゴム量は、熱可塑性樹脂組成物を100質量部として、好ましくは1〜36質量部、さらに好ましくは2〜28質量部である。ゴム量が1質量部未満では、造形物の耐衝撃性が十分でなく、一方、36質量部を超えると、溶融粘度の低下が十分でなくなる可能性がある。
【0036】
上記成分(B)のグラフト率は、通常10〜200%、好ましくは20〜120%、さらに好ましくは30〜90%である。グラフト率が10%未満では、耐衝撃強度が十分でなく、一方、200%を超えると、溶融粘度の低下が十分でなくなる可能性がある。グラフト率は、重合開始剤の種類、量、重合温度、さらには単量体の量などによって容易に調整することができる。
【0037】
また、上記成分(B)のアセトン(アクリル系ゴムの場合、アセトニトリル)可溶分の極限粘度[η](30℃、メチルエチルケトン中で測定)は、0.2〜1.5dl/g、好ましくは0.25〜0.8dl/g、さらに好ましくは0.3〜0.6dl/gである。極限粘度[η]が0.2dl/g未満であると、造形物の耐衝撃強度が十分でなく、一方、1.5dl/gを超えると、溶融粘度の低下が十分でなく、溶融時の流動性が十分でなくなる可能性がある。上記極限粘度[η]は、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤、溶剤などの種類や量、さらには重合時間、重合温度などを変えることにより、容易に制御することができる。
【0038】
このグラフト率(質量%)は、次式(1)により求められる。
【0039】
グラフト率(質量%)={(T−S)/S}×100・・・(1)
【0040】
上記式(1)中、Tは成分(B)1gをアセトン(アクリル系ゴムの場合、アセトニトリル)20mlに投入し、振とう機により2時間振とうした後、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分の質量(g)であり、Sは該成分(B)1gに含まれる成分(a)の質量(g)である。
【0041】
共重合体の極限粘度[η]の測定は下記方法で行った。まず、共重合体をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度の異なるものを5点作った。ウベローデ粘度管を用い、30℃で各濃度の還元粘度を測定した結果から、極限粘度[η]を求めた。単位はdl/gである。
【0042】
成分(B)は、成分(a)の存在下に、上記成分(b)を乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合などでラジカルグラフト重合を行い、製造することができる。このうち好ましくは乳化重合、溶液重合である。なお、上記ラジカルグラフト重合には、通常使用されている重合溶媒(溶液重合の場合)、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤(乳化重合の場合)などを用いることができる。また、成分(B)を製造するのに用いる単量体成分は、ゴム質重合体全量の存在下に、単量体成分を一括添加して重合してもよく、または分割もしくは連続添加して重合してもよい。また、これらを組み合わせた方法で、重合してもよい。さらに、ゴム質重合体の全量または一部を、重合途中で添加して重合してもよい。
【0043】
溶液重合法で用いられる溶剤は、通常のラジカル重合で使用される不活性重合溶剤であり、例えばエチルベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素、メチルエチルケトン、アセトンなどのケトン類、ジクロロメチレン、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素などの有機溶剤が用いられる。溶剤の使用量は、上記成分(a)及び成分(b)の合計量100質量部に対し、好ましくは20〜200質量部、さらに好ましくは50〜150質量部である。
【0044】
上記重合開始剤は、重合法に合った一般的な開始剤が用いられる。溶液重合の重合開始剤としては、例えばケトンパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートなどの有機過酸化物等を用いることができる。また、重合開始剤は、重合系に、一括または連続的に添加することができる。重合開始剤の使用量は、単量体成分に対し、好ましくは0.05〜2質量%、より好ましくは0.2〜0.8質量%である。
【0045】
また、乳化重合の重合開始剤としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイドなどで代表される有機ハイドロパーオキサイド類と含糖ピロリン酸処方、スルホキシレート処方などで代表される還元剤との組み合わせによるレドックス系、または過硫酸塩、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイドなどの過酸化物等を用いることができる。このうち、好ましくは、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイドなどで代表される有機ハイドロパーオキサイド類と含糖ピロリン酸処方、スルホキシレート処方などで代表される還元剤との組み合わせによるレドックス系がよい。また、開始剤は油溶性でも水溶性でもよく、さらには油溶性と水溶性を組み合わせて用いてもよい。組み合わせる場合の水溶性開始剤の添加比率は、全添加量の好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下である。さらに、重合開始剤は、重合系に一括または連続的に添加することができる。重合開始剤の使用量は、単量体成分に対し、好ましくは0.1〜1.5質量%、より好ましくは0.2〜0.7質量%である。
【0046】
また、連鎖移動剤としては、例えばオクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、t−テトラデシルメルカプタンなどのメルカプタン類、テトラエチルチウラムスルフィド、四塩化炭素、臭化エチレンおよびペンタフェニルエタンなどの炭化水素類、またはアクロレイン、メタクロレイン、アリルアルコール、2−エチルヘキシルチオグリコレート、α−メチルスチレンのダイマーなどが挙げられる。これらの連鎖移動剤は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。連鎖移動剤の使用方法は、一括添加、分割添加、または連続添加のいずれの方法でも差し支えない。連鎖移動剤の使用量は、単量体成分に対し、好ましくは0〜5質量%程度である。
【0047】
乳化剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。このうち、アニオン性界面活性剤としては、例えば高級アルコールの硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪酸スルホン酸塩、リン酸系塩、脂肪酸塩などが挙げられる。また、ノニオン性界面活性剤としては、通常のポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型などが用いられる。さらに、両性界面活性剤としては、アニオン部分としてカルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩を、カチオン部分としてアミン塩、第4級アンモニウム塩などを持つものが挙げられる。乳化剤の使用量は、単量体成分に対し、好ましくは0.3〜5質量%である。なお、グラフト重合の際の重合温度は、好ましくは10〜160℃、より好ましくは30〜120℃である。
【0048】
ゴム質重合体(a)の存在下、単量体成分(b)を重合して得られるゴム強化スチレン系樹脂組成物には、通常単量体成分がゴム質重合体にグラフトした共重合体と、単量体成分がゴム質重合体にグラフトしていない未グラフト成分(すなわち、単量体成分同士の単独及び共重合体)が含まれる。
本発明の好ましい態様において、成分(B)は、(i)上記成分(a1)からなるゴム質重合体(a)の存在下に、ビニル系単量体(b)を重合して得られるグラフト共重合体を含有する態様、(ii) 上記成分(a2)からなるゴム質重合体(a)の存在下に、ビニル系単量体(b)を重合して得られるグラフト共重合体を含有する態様、及び、(iii) 上記成分(a1)及び上記成分(a2)からなるゴム質重合体(a)の存在下に、ビニル系単量体(b)を重合して得られるグラフト共重合体を含有する態様の3態様を少なくとも包含するものである。そして、さらに、上記(i)又は(ii)の態様には、上記(i)又は(ii)のグラフト共重合体に加えて、それぞれ、上記(ii)又は(i)のグラフト共重合体を混合した態様も含まれるものである。
【0049】
成分(B)の使用量は、上記成分(A)と上記成分(B)の合計100質量%に対し、20〜90質量%、好ましくは20〜80質量%、より好ましくは20〜60質量%、さらに好ましくは20〜40質量%である。成分(B)の使用量が20質量部未満では、造形物の耐衝撃性(ノッチありのシャルピー衝撃強度)、耐吸水性が劣り、さらにはそりも発生する。一方、成分(B)の使用量が90質量%を超えると、造形物の密度及び耐衝撃性が低下し、さらには寸法精度も劣る。
【0050】
レーザー焼結性粉体の製造方法、物性及び造形方法
本発明のレーザー焼結性粉体は、所定量の成分(A)及び成分(B)を溶融混練して均一な熱可塑性樹脂組成物を得た後、該組成物を粉砕し、得られた粉体を分級することにより製造することができる。また、成分(A)及び成分(B)をそれぞれ別個に粉砕、分級して粉体を得た後、これらをそのまま所定の割合で混合することにより、本発明のレーザー焼結性粉体を得ることもできる。粉砕方法は特に限定されるものではないが、例えば、凍結粉砕法が挙げられる。分級方法も特に限定されるものではないが、例えば、所定の篩を用いて行うことができる。
【0051】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、成分(A)及び成分(B)を溶融混練する際、両成分の相溶性を高めるために、公知の方法に従って、相溶化剤を添加することもできる。相溶化の方法は、例えば、秋山三郎編、「プラスチックの相溶化剤と開発技術 分類・評価・リサイクル」、株式会社シーエムシー、1992年12月、及び、大柳康編、「実践ポリマーアロイ」、株式会社アグネ承風社、1993年10月に記載の方法を用いることができる。相溶化剤としては、成分(A)としてポリオレフィン系樹脂を使用する場合、例えば、AES樹脂(エチレン−α−オレフィン系共重合ゴムの存在下にスチレン及びアクリロニトリルをグラフト共重合させてなるゴム変性スチレン系樹脂)、ポリオレフィンブロックとスチレンブロックとを備えたブロック共重合体、ポリプロピレン系樹脂の存在下にスチレン及びアクリロニトリルをグラフト共重合させてなる変性ポリプロピレンなどが使用でき、その他、無水マレイン酸変性ポリプロピレンとエポキシ変性アクリロニトリル−スチレン共重合体との併用系も使用できる。相溶化剤の配合量は、成分(A)及び成分(B)の種類と配合量等に応じて、適宜選択することができる。
【0052】
本発明のレーザー焼結性粉体は、50%平均粒子径が10〜100μmを満たす粉体であることが必要であり、50%平均粒子径が20〜90μmを満たすことが好ましく、50%平均粒子径が30〜80μmを満たすこと更に好ましく、50%平均粒子径が30〜70μmを満たすことが特に好ましい。50%平均粒子径が10μm未満の場合、パートベッド上での粉体の流動性が十分でなくなる可能性がある。50%平均粒子径が100μmを超える場合、造形物の寸法精度が十分でなく、また、造形物表面に大きな凹凸が生じる可能性がある。上記所定の粒子径範囲を満たす粉体は、例えば、200メッシュ篩を用いて200メッシュパス品を取得したり、上記粉砕の運転条件を変更することにより得ることができる。
【0053】
本発明のレーザー焼結性粉体は、軟化点以上の温度において急激な溶融粘度の低下を示すものであり、この粉体を構成する成分(A)及び成分(B)からなる熱可塑性樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)(ISO 1133に準拠し、温度180、荷重10kgの条件下に測定)は、5〜500g/10分であることが好ましく、10〜200g/10分であることが更に好ましく、20〜160g/10分であることが特に好ましい。MFRが5g/10分未満の場合、造形物の密度が低下し、緻密な造形物が得られにくくなる傾向がある。一方、MFRが500g/10分を超えると、レーザー焼結性粉体の融点が、低くなりすぎる可能性がある。上記MFRの範囲を満たす熱可塑性樹脂組成物は、成分(A)及び成分(B)の種類や配合割合を適宜調整することにより得ることができる。
また、本発明のレーザー焼結性粉体の安息角は、好ましくは60°以下、より好ましくは55°以下、さらに好ましくは50°以下である。安息角が60°を越えると、パートベッド上での粒子の流動が不均一になり、粒子層の厚さが不均一になる可能性がある。
また、本発明のレーザー焼結性粉体の嵩密度は、好ましくは0.1(g/cm)以上、より好ましくは0.15(g/cm)以上、さらに好ましくは0.20(g/cm)以上である。嵩密度が0.1(g/cm)未満の場合、高密度の造形物が得られ難くなる傾向がある。
【0054】
本発明のレーザー焼結性粉体は、通常のSLS法に従って使用して、造形物を得ることができる。例えば、該粉体の薄層を形成するとともに該薄層を軟化点よりも僅かに低い温度に維持しつつ、3次元造形物のCAD等のデータを変換して得られたスライスデータに基づいてレーザー光線を該薄層に照射して該薄層の粉体を選択的に溶融接着させて焼結した後、該薄層の上に該粉体の別の薄層を積層して該薄層にレーザー光線を照射して該薄層の粉体を選択的に焼結させる前記と同様の工程を繰り返すことにより、溶融接着された粉体からなる造形物が得られる。
【0055】
このようなSLS法による造形は、公知のSLS法造形装置によって実施することができる。このような造形装置は、一般に、レーザー焼結性粉体の薄層が敷設される作業台(パートベッド)と、該作業台を昇降させる昇降手段と、該作業台にレーザー焼結性粉体を供給してその薄層を形成するローラーなどの粉体供給手段と、該薄層を選択的に加熱して焼結するレーザー光線供給手段と、焼結した薄層を冷却する冷却手段とを備えてなる。このような造形装置では、作業台に敷設された薄層をレーザー光線で選択的に加熱して焼結した後、作業台を僅かに降下させ、焼結した薄層の上に別の薄層を敷設して該薄層をレーザー光線で選択的に加熱して焼結させる工程を繰り返すとともに、焼結した薄層の一層または複数層を適宜冷却することにより造形物を形成することができる。このような造形装置としては、例えば、特開2003−305777号公報、特開2005−238488号公報、特開2007−21747号公報、特開2007−30303号公報などに記載の装置が挙げられる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0057】
<評価方法>
(1)密度
SLS造形装置(アスペクト社製)を用い、下記の条件で、寸法80mm×10mm×4mmの試験片を造形した。
・SLS造形条件
レーザー走査速度:6.3m/s
レーザー走査間隔:0.05mm
積層厚さ:0.1mm
レーザー出力:13W
パートベッド温度:表2及び5に記載のとおり
フィードベッド温度:表2及び5に記載のとおり
得られた試験片を用い、ISO1183に準じて測定した。
【0058】
(2)シャルピー衝撃強度(C−IMP)
上記(1)で得られた試験片を用い、ISO179に準じて以下の条件で測定した。
・測定条件
ノッチ : あり(TYPE−A)、なし
荷重 : 2J
【0059】
(3)そり
上記(1)で得られた試験片を水平面に置き、水平面と造形物の間の隙間を計測した。
・評価基準
○ : 水平面と造形物の隙間が1mm以下
× : 水平面と造形物の隙間が1mm以上
【0060】
(4)吸水率
上記(1)で得られた試験片を、23℃、50%RHの恒温室に30日間放置し、放置前と放置後の重量変化を測定し、重量変化を吸水量として吸水率を求めた。
【0061】
(5)寸法精度
SLS造形装置(アスペクト社製)を用い、下記の条件で、寸法20mm(レーザー送り方向)×30mm(レーザー走査方向)×2mm(レーザー照射方向)の試験片を造形した。造形後、試験片の中央部のレーザー照射方向の寸法と、目標寸法(2mm)との差を求めた。
・SLS造形条件
レーザー走査速度:6.3m/s
レーザー走査間隔:0.05mm
積層厚さ:0.1mm
レーザー出力:13W
パートベッド温度:表2及び5に記載のとおり
フィードベッド温度:表2及び5に記載のとおり
【0062】
(6)50%平均粒子径
島津製作所製レーザー回折式粒度分布測定装置「SALD−2100(商品名)」を用いて測定を行った。
【0063】
(7)安息角
JIS R9301−2−2に準じて測定した。
【0064】
(8)嵩密度
JIS K 6721に準じて測定を行った。
【0065】
(9)メルトフローレート(MFR)
ISO1133に準じて以下の条件で測定を行った。
・測定条件
温度 : 180℃
荷重 : 10kg
(10)融点(Tm)
JIS K 7121に準拠して、示差走査熱量計DSC2910型(商品名;TA Instruments社製)を用いて測定を行った。
【0066】
<使用原料>
(A)結晶性樹脂(ポリオレフィン系樹脂)
PP−1:日本ポリケム製ホモPP−MA1B(商品名)。
PP−2:日本ポリケム製ブロックPP−BC03C(商品名)。
(B)スチレン系樹脂
B−1:下記製造例1で得られた水添ゴム強化スチレン系樹脂。
B−2:下記製造例2で得られた水添ゴム強化スチレン系樹脂。
【0067】
製造例1(水添ゴム強化スチレン系樹脂B−1):
(1−1)50Lオートクレーブに脱気・脱水したシクロヘキサン25000g、1,3−ブタジエン800gを仕込んだ後、n−ブチルリチウム1.0gを加えて、重合温度が50℃の等温重合を行なった。転化率がほぼ100%となった後、テトラヒドロフラン30.0g、1,3−ブタジエン2400g、スチレン200gを添加し、50℃から80℃の昇温重合を行った。転化率がほぼ100%となった後、スチレン600gを加え、15分間重合を行った。
(1−2)次に別の容器でチタノセンジクロライド15.0gをシクロヘキサン240mlに分散させて、室温でトリエチルアルミニウム20gと反応させた。得られた暗青色の見かけ上均一な溶液を上記(1−1)で得られたポリマー溶液に加え、50℃で、50kgf/cmの水素圧力下、2時間水素化反応を行った。その後、メタノール・塩酸で脱溶媒し、2,6−ジ−tert−ブチルカテコールを加えて減圧乾燥を行った。得られた水素化(A)−(D)−(C)トリブロック共重合体(水素添加ジエン系ゴム質重合体)の分子特性を表1に示した。
(1−3)リボン型攪拌翼を備えた内容積15リットルのステンレス製オートクレーブに前記(1−2)で得られた水素化トリブロック共重合体(水素添加ジエン系ゴム質重合体)28部、メタクリル酸メチル51部、スチレン11部、アクリロニトリル10部、トルエン100部仕込み、攪拌により溶解させ均一溶液を得た後、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.5部、t−ドデシルメルカプタン0.1部を添加し、攪拌を続けながら昇温し、100℃に達した後は温度一定に制御しながら、攪拌回転数100rpmにて重合反応を行った。反応は6時間行って終了した。重合転化率は90%であった。また、グラフト率は42%、極限粘度[η](メチルエチルケトン、30℃)は0.30dl/gであった。
反応後、100℃まで冷却し、2,2−メチレンビス−4−メチル−6−ブチルフェノール0.2部を添加した後、反応混合物をオートクレーブより抜き出し、水蒸気蒸留により、未反応物と溶媒を留去し、細かく粉砕した後、40mmφの真空ベント付き押出機(220℃、700mmHg真空)にて、実質的に揮発分を脱揮させ、水添ゴム強化スチレン系樹脂B−1のペレットを得た。水素添加ジエン系ゴム質重合体の含有量は31%であった。
【0068】
【表1】

【0069】
製造例2(水添ゴム強化スチレン系樹脂B−2):
リボン型攪拌翼を備えた内容積15リットルのステンレス製オートクレーブに前記(1−1)〜(1−2)で得られた水素化トリブロック共重合体(水素添加ジエン系ゴム質重合体)25部、スチレン52部、アクリロニトリル23部、トルエン120部仕込み、攪拌により溶解させ均一溶液を得た後、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.5部、t−ドデシルメルカプタン0.1部を添加し、攪拌を続けながら昇温し、100℃に達した後は温度一定に制御しながら、攪拌回転数100rpmにて4時間重合反応を行い、その後120℃に昇温して全体で6時間反応を行って終了した。重合転化率は95%であった。また、グラフト率は40%、極限粘度[η](メチルエチルケトン、30℃)は0.40dl/gであった。
反応後、100℃まで冷却し、2,2−メチレンビス−4−メチル−6−ブチルフェノール0.2部を添加した後、反応混合物をオートクレーブより抜き出し、水蒸気蒸留により、未反応物と溶媒を留去し、細かく粉砕した後、40mmφの真空ベント付き押出機(220℃、700mmHg真空)にて、実質的に揮発分を脱揮させ、水添ゴム強化スチレン系樹脂B−1のペレットを得た。水素添加ジエン系ゴム質重合体の含有量は26%であった。
【0070】
実施例1〜6
表2に示す配合割合でポリオレフィン系樹脂とスチレン系樹脂とをナカタニ機械社製DMG−50型押出機を用いて、220℃、100rpmで溶融混練りした後、東邦冷熱社製CM−11型凍結粉砕機を用いて、凍結粉砕を行い、粉体を得た。この粉体を分級して200メッシュパス品を上記評価に供した。結果を表2に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
製造例3(対照:懸濁重合で得られたABS樹脂)
棒状バッフルとアンカー型攪拌翼を備えたステンレス製オートクレーブ(内径140mm)に以下の表3に示す成分を仕込んだ。
【0073】
【表3】

【0074】
オートクレーブ内を窒素置換した後、100rpmで攪拌しながら昇温し、85℃で3時間ラバーの溶解を行った。3時間経過後、30gのSTにt−ブチルパーオキシアセテート(TBPA)0.3gとジ−t −ブチルパーオキサイド(DTBPO)0.87gを溶解して窒素で圧入添加し、共重合反応を開始した。引き続き30分かけて100℃まで昇温し、100℃で4時間30分間共重合反応を行った。途中、TBPA、DTBPO添加後、15分、1時間、2時間経過後において、それぞれ、ST33gにターピノレン(TERP)3.7gを溶解して圧入した。更に、3時間30分経過後において、ST19g、AN84g、TERP2.6g、水80gを添加した後、冷却し予備重合混合物を得た。
【0075】
続いて、棒状バッフルと後退翼(直径55mm、翼幅10mm)を備えたステンレス製オートクレーブ(内容量5L、内径170mm)に以下の表4に示す成分を仕込んだ。
【0076】
【表4】

【0077】
更に、上記の予備重合混合物を加え、窒素置換した後、600rpmで攪拌しながら150℃へ昇温を開始した。途中120℃から30分経過後から50分かけて、ST86gを連続的に添加した。150℃に到達後、更に、40分重合を行い、未反応モノマーをストリッピング法により反応系から除去しながら、150℃で保持し、未反応モノマーの回収量がほとんど増加しなくなるまで約2時間反応を継続した。その後、反応系を冷却し、分離、洗浄後乾燥し約1.1kgの共重合体粒子B−3を得た。得られた共重合体のゴム質重合体含有率は14.1重量%、ゴム質重合体以外の樹脂相のAN含有率は26重量%、MFR(220℃、10Kg荷重)は13(g/10min)であった。
【0078】
比較例1
製造例3で得られた共重合体粒子B−3を、東邦冷熱社製CM−11型凍結粉砕機を用いて、凍結粉砕を行い、粉体を得た。この粉体を分級して200メッシュパス品を上記評価に供した。結果を表5に示す。
【0079】
比較例2
透明ABS樹脂(テクノポリマー株式会社製ABS810)(以下、「B−4」)を、東邦冷熱社製CM−11型凍結粉砕機を用いて、凍結粉砕を行い、粉体を得た。この粉体を分級して200メッシュパス品を上記評価に供した。結果を表5に示す。
【0080】
比較例3
前記結晶性樹脂(ポリオレフィン系樹脂)PP−1を、東邦冷熱社製CM−11型凍結粉砕機を用いて、凍結粉砕を行い、粉体を得た。この粉体を分級して200メッシュパス品を上記評価に供した。結果を表5に示す。
【0081】
比較例4
宇部興産社製ナイロン12UBESTA(登録商標)3024NUX(以下、「PA−1」)を、東邦冷熱社製CM−11型凍結粉砕機を用いて、凍結粉砕を行い、粉体を得た。この粉体を分級して200メッシュパス品を上記評価に供した。結果を表5に示す。
【0082】
【表5】

【0083】
表2及び表5に示す結果から、以下のことがわかる。
本発明のレーザー焼結用樹脂粉体から得られる造形物は、高い密度及び高い耐衝撃性を備えるとともに、そりの発生が少なく、吸水性も低かった。
比較例1及び2は、ABS樹脂の懸濁重合品の凍結粉砕品及び透明ABSの凍結粉砕品を使用した例であるが、いずれの場合も寸法精度が悪く、造形物の密度が低く、衝撃強度も低かった。
比較例3は、実施例1で配合した結晶性樹脂(ポリオレフィン系樹脂)を単独で凍結粉砕して使用した例であるが、そりの発生が大きく、ノッチありのシャルピー衝撃強度が低かった。
比較例4は、ポリアミドエラストマーを使用した例であるが、そりの発生が大きく、ノッチありのシャルピー衝撃強度が低く、造形物の吸水性が高かった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のレーザー焼結性粉体は、粉末焼結造形法における原料粉体として有用であり、RPシステムにおける試作品の他、実製品の造形に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)10〜80質量%及び下記成分(B)20〜90質量%を含有する熱可塑性樹脂組成物からなり、50%平均粒子径が10〜100μmであるレーザー焼結性粉体。
成分(A):融点が80℃〜250℃である結晶性樹脂。
成分(B):スチレン系樹脂。
【請求項2】
上記成分(A)が、ポリオレフィン系樹脂である請求項1記載のレーザー焼結性粉体。
【請求項3】
上記成分(B)が、ゴム質重合体(a)の存在下、芳香族ビニル単量体及び所望により該芳香族ビニル単量体と共重合可能な他の単量体からなる単量体成分(b)を重合して得られるゴム強化スチレン系樹脂組成物である請求項1または2に記載のレーザー焼結性粉体。
【請求項4】
上記成分(a)が、エチレン−α−オレフィン系共重合ゴム及び/又はジエン系ゴムの水素添加物である請求項3に記載のレーザー焼結性粉体。
【請求項5】
ISO 1133に準拠し、温度180℃、荷重10kgの条件下に測定したメルトフローレートが、5〜500g/10分である請求項1乃至4の何れか1項に記載のレーザー焼結性粉体。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載のレーザー焼結性粉体からなる造形物。
【請求項7】
レーザー焼結性粉体からなる薄層にレーザー光線を照射して該薄層の粉体を選択的に焼結させた後、該薄層上にレーザー焼結性粉体からなる別の薄層を積層し、該薄層にレーザー光線を照射して該薄層の粉体を選択的に焼結させる工程を繰り返すことにより得られた請求項6に記載の造形物。

【公開番号】特開2009−40870(P2009−40870A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−206895(P2007−206895)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】