説明

レーザー耐性が改良されたフッ化金属単結晶の製造方法

【課題】気体スカベンジャー(スカベンジャーガス)の利点を生かして高いレーザー耐性を有する、ステッパーの光学系レンズとして有用なフッ化金属単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】カーボン製の断熱材壁8を有するフッ化金属単結晶育成炉を使用して、単結晶引上げ法により、フッ化カルシウムやフッ化マグネシウムなどのフッ化金属単結晶を育成するフッ化金属単結晶の製造方法において、前記フッ化金属単結晶育成炉内をアルゴンやヘリウムなどの不活性ガス雰囲気とし、具体的には育成炉内の底部より不活性ガスを炉内に導入しつつ、テトラフルオロメタンなどのスカベンジャーガスを前記フッ化金属の融液12中に供給するか或いは該融液12の液面に吹き付けて、フッ化金属単結晶13を成長せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体リソグラフィー用光学レンズ、特に光源系レンズとして好適な光学材料などに用いられるフッ化金属単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム等の単結晶は、真空紫外から赤外領域までの広範囲の波長帯域にわたって高い透過性と低屈折率・低分散を有し、化学的安定性にも優れていることから、広い領域での光学材料として、窓材、レンズ、プリズムなどに用いられている。とりわけ、光リソグラフィー技術において、次世代の短波長光源として開発が進められているArFレーザ(193nm)やF2レーザー(157nm)光源を使用するステッパー(縮小投影型露光装置)などの装置の、窓材、光源系レンズ、照明系レンズ、投影系レンズとして期待が寄せられている。
【0003】
このような高精細ステッパーに用いるレンズには、高い結像性能(解像度、焦点深度)が求められる。このため、レンズに用いる材料は、残留応力・歪(複屈折分布)が小さい、光線透過率が高い、レーザー耐性が高い、格子欠陥が少ないなど高度の光学特性が要求される。
残留応力・歪が大きい場合は、これに起因して複屈折が大きくなり、ステッパーの投影系レンズなどの極めて厳密な光学特性を要求される用途には適さなくなる。格子欠陥が多いと、光の散乱による透過率の低下、コントラストの低下、フレアやゴーストの発生に繋がり、材料の特性を大きく低下させ、同様に、高度光学特性を要求される光学材料には適さなくなる。また、近年、レーザーのエネルギー強度が増してきており、それに伴い、レンズにおけるレーザーの繰返し照射による透明性の低下防止(レーザー耐性)の要求も高くなってきている。
【0004】
上記フッ化金属単結晶の光学特性を損なわせる原因として、溶融原料や単結晶育成炉内の様々な部材等に付着した、或いはリークに起因する酸素、水、金属不純物の存在が考えられている。これらの不純物は、真空紫外領域の光線透過率の低下やレーザー照射後のカラーセンターの発生を引き起こすとされている。
【0005】
このような不純物を除去する目的でスカベンジャーなるものがフッ化金属単結晶の製造工程において使用され、種々の工夫がなされている。例えば、溶融育成前にフッ化金属原料をフッ素含有ガスと接触させて原料表面に吸着されている不純物をフッ素で置換する技術(特許文献1)、フッ化金属原料の前処理工程およびこの前処理原料を使用して結晶育成する工程において、沸点が比較的低いフッ化銅やフッ化銀をスカベンジャーとして用いる技術(特許文献2)、原料精製、結晶育成およびアニール工程において、固体スカベンジャーと気体スカベンジャー(スカベンジャーガスともいう)を併用する技術(特許文献3)も開発されている。
【0006】
固体含金属スカベンジャーを使用した場合、融液に混入し、スカベンジャー由来の金属が製品のフッ化金属単結晶中に残存し、真空紫外領域の光線透過率の低下やレーザー照射後のカラーセンターを生じさせる傾向がある。カラーセンターの発生により、屈折率等の光学物性の変化が生じ、レーザービームの形成に使用する光学レンズの性能が変化するという不利益が生じる。
【0007】
一方、気体スカベンジャーは、フッ化金属単結晶中に取り込まれにくいという利点を有している。しかしながら、四フッ化炭素などのフッ素化炭化水素系ガスからなる気体スカベンジャーは高温下でヒーターや断熱材を構成するカーボン部材と反応し、この結果、これら部材が損傷し、ヒーター出力や断熱性能が低下し、フッ化金属単結晶の製造に支障をきたすことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−315255
【特許文献2】特開2001−19586
【特許文献3】特開2003−221297
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明者らは、上記スカベンジャーガスの利点を生かして高いレーザー耐性を有するフッ化金属単結晶を製造する方法を追求し、スカベンジャーガスの育成炉内での供給方法、並びに育成炉内の雰囲気に着目して検討した結果、本願発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明により、
カーボン製の断熱材壁を有するフッ化金属単結晶育成炉の内部に、フッ化金属が収容された坩堝を配置し、該フッ化金属を加熱してフッ化金属の融液を形成すると共に、引上げ軸の下端に保持された種結晶を該フッ化金属の融液に浸漬し、該種結晶の下方にフッ化金属単結晶を成長させながら、該引上げ軸を引上げていくことにより、フッ化金属単結晶を育成するフッ化金属単結晶の製造方法において、
前記フッ化金属単結晶育成炉内を不活性ガス雰囲気とし、スカベンジャーガスを前記フッ化金属の融液中に供給するか或いは該融液の液面に吹き付けて、フッ化金属単結晶を成長せしめることを特徴とするフッ化金属単結晶の製造方法が提供される。
上記製造方法の発明において、
1)不活性ガスを、フッ化金属単結晶育成炉の底部より炉内に導入すること、
2)坩堝が内坩堝と外坩堝からなる二重坩堝であり、スカベンジャーガスを外坩堝内のフッ化金属の融液中に供給すること、
3)坩堝が内坩堝と外坩堝からなる二重坩堝であり、スカベンジャーガスを内坩堝内のフッ化金属の融液液面に吹き付けること、
4)スカベンジャーガスが、フッ素化炭化水素ガスであること、
5)不活性ガスが、アルゴンであること
が好適である。
【0011】
また、本発明により、
カーボン製の断熱材壁を有するフッ化金属単結晶育成炉の内部に、フッ化金属が収容された坩堝を配置し、該フッ化金属を加熱してフッ化金属の融液を形成すると共に、引上げ軸の下端に保持された種結晶を該フッ化金属の融液に浸漬し、該種結晶の下方にフッ化金属単結晶を成長させながら、該引上げ軸を引上げていくことにより、フッ化金属単結晶を育成するフッ化金属単結晶の製造方法において、
前記フッ素系ガスからなるスカベンジャーガスを前記フッ化金属の融液中に供給するか或いは該融液の液面に吹き付けるとともに、断熱材壁により構成される空間よりも内側で、かつ坩堝底部よりも下方の位置から不活性ガスを供給しつつ、フッ化金属単結晶を成長せしめることを特徴とするフッ化金属単結晶の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、育成炉のヒーターや断熱材の損傷が少なく、高いレーザー耐性を有する大口径のフッ化金属単結晶を、単結晶引き上げ法によって安定的に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】従来の二重坩堝を使用してガス導入する単結晶体引上げ装置の模式図である。
【図2】二重坩堝および抵抗加熱型ヒーターを使用した本発明の単結晶体引上げ装置の模式図である。
【図3】二重坩堝および高周波誘導加熱型ヒーターを使用した本発明の単結晶体引上げ装置の模式図である。
【図4】実施例1〜3、比較例1および2のLIAスペクトル図である。
【図5】実施例4〜5、比較例3のLIAスペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔フッ化金属単結晶〕
本発明の製造方法は、単結晶引き上げ法で製造可能な公知のフッ化金属単結晶に適用可能である。該フッ化金属としては、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化リチウム、フッ化アルミニウム、フッ化セリウム、フッ化ランタンなどの単金属からなるフッ化金属;BaLiF、KMgF、LiCaAlF、LiSrAlFなどの複数の金属元素を含むフッ化金属が挙げられる。これらの中で、本発明の効果が顕著に発揮されるという点で、フッ化アルカリ土類金属、なかでもフッ化カルシウムの単結晶の製造に好適に採用される。
【0015】
〔スカベンジャーガス〕
本発明において使用するスカベンジャーガス(常温・常圧で気体状のスカベンジャーを云う)は、製造対象のフッ化金属に合わせて公知のスカベンジャーガスから適宜選択される。
具体的には、四フッ化炭素、三フッ化炭素、六フッ化エタンなどのフッ素化炭化水素ガス、或いはフッ素(F)、フッ化カルボニル等のフッ素系ガスが挙げられる。取扱いの容易さなどからフッ素化炭化水素ガスが好ましく、高純度のものが比較的安価に入手可能な点で四フッ化炭素が特に好ましい。
本発明においては、該スカベンジャーガスの供給方法に特徴があり、結晶育成時に
1)フッ化金属の融液中に直接供給する(以下「融液中供給法」)、或いは
2)フッ化金属の融液の液面に直接吹き付ける(以下「液面吹き付け法」)
ものである。以下具体的に、装置構造および供給方法について説明する。
【0016】
用いる製造装置(結晶育成炉)は、後述するスカベンジャーガス導入管に関する部位を除き、公知の製造装置を用いることができる。好ましくは特開2007−106662号公報、特開2009−102194号公報等に開示されている内坩堝と外坩堝とからなる二重構造坩堝を採用した製造装置である。
図2に、具体的に、加熱装置として抵抗加熱型ヒーターを用いた場合の単結晶引上げ法による単結晶育成炉の模式図を示す。抵抗加熱型ヒーターを用いる場合には、該ヒーターは断熱材壁の内側に設置されるのが一般的である。図3は高周波誘導加熱型ヒーターを用いた場合の単結晶引上げ法による単結晶育成炉である。この場合、加熱装置に相当する高周波コイルは断熱材壁の外部に設置されるのが一般的である。本発明の製造方法は、このような抵抗加熱型あるいは高周波誘導加熱型ヒーターのいずれに対しても適用できる。
【0017】
図2に示した態様では、前者のフッ化金属の融液中に該スカベンジャーガスを直接供給する方法を示している(融液中供給法)。融液中供給法におけるスカベンジャーガス導入管(21)は、チャンバー(4)の側面から断熱材壁(8)およびリッド材(18)を貫通し、外坩堝(1)に収容された融液(12)内に先端が入る位置に設置されている。これは一例であり、チャンバー及び/又は断熱材壁の天井面や下面から導入管を貫通させてもよく、結晶成長炉の稼働部位の構造等に合わせて適宜設定すればよい。
導入管の材質は、融液の温度で変形、劣化しないものであることが必要であり、グラファイトカーボンなどカーボン系の素材や、白金、モリブデンなどの高融点金属を使用することが好ましい。相対的に安価な点でカーボン系の素材が特に好ましい。
導入管の口径は、スカベンジャーガスの供給量に合わせて適宜設定すればよいが、一般的には先端の断面積が0.5〜7cm程度である。
導入管の挿入深さは特に限定されず、液面直下から坩堝底面近くまで適宜選択できるが、後述するような二重坩堝を用い、外坩堝を徐々に上昇させる方法を採用する場合には、内坩堝最下端部よりも高い位置までとすることが好ましい。
融液中供給法の場合のスカベンジャーガスの導入速度は、有効にその不純物との反応性を発現させ、安定的に育成を行う観点から、好ましくは2〜15mL/min、より好ましくは5〜10mL/minの範囲が採用される。
【0018】
一方、図3に示した態様では、後者のフッ化金属の融液の液面にスカベンジャーガスを直接吹き付ける方法を示している(液面吹き付け法)。液面吹き付け法におけるスカベンジャーガス導入管(22)の先端(吹き出し口)は、内坩堝(2)内の融液液面の上方、液面からの距離が1〜5cm程度、特に2〜4cm程度に位置するように設置して、スカベンジャーガスを下方向の液面に吹き付けることが好ましい。吹き出し口と液面の距離が近すぎると結晶育成中の液面の安定性に対する攪乱要因となる傾向があり、遠すぎると本発明の効果を十分に得られない場合がある。
液面吹き付け法の場合の、導入管の構造、ガスの導入速度などは、融液中供給法に準じて実施されるが、不純物との反応効率が若干落ちるので、ガス導入速度は高めに設定するのが好ましい。好ましくは5〜100mL/min、より好ましくは7〜20mL/minの範囲が採用される。
【0019】
融液中供給法と液面吹き付け法は、各々単独で実施しても良いが、レーザー耐性をより改良する点から、両方法を同時に実施しすることが好ましい。
また、スカベンジャーガスの供給速度を調整しやすくするなどの目的で、スカベンジャーガスは不活性ガスで希釈したものを用いることもできる。この場合、希釈しすぎると本発明の効果が相対的に低下するので、好ましくは2倍希釈以下、より好ましくは1.5倍希釈以下とする。
【0020】
ところで、単結晶引上げ法によるフッ化金属単結晶の製造方法において、融液の自然対流を少なくして品質の良い大型の結晶を育成するために、前記した二重坩堝を使用する製法が開発されている。本願発明においても、以下の点で当該二重坩堝が好適に採用される。
二重坩堝は、外坩堝(1)と、融液(12)が移動可能な連通孔(3)を有する内坩堝(2)から構成される。スカベンジャーガスを融液中に直接供給する場合、図2に示すように、外坩堝(1)内の融液中にスカベンジャーガス導入管を通して導入すれば、内坩堝壁が緩衝壁となって、ガス導入に伴う融液の温度分布の変化や融液の対流の発生を防止でき、この結果高品質の単結晶を安定的に生産できる。また、液面にスカベンジャーガスを吹き付ける場合、図3に示すように、内坩堝(2)内の融液の液面に吹き付ければ、内坩堝壁によりガスがより高温のヒーターのほうに流れず、しかも、、融液と効率よく反応をさせることができる。
尚、二重坩堝の形状、連通孔の数や口径更にはその位置などは、特開2009−40630、特開2006−199577等に詳細に説明されているので、本発明における二重坩堝は、これらに準じて作製され使用される。
【0021】
〔不活性ガス〕
本発明において、単結晶育成炉を構成する断熱材壁の全部またはその一部がカーボン製の部材からなっている。このカーボン製部材は、スカベンジャーガスと反応し前記の通りの問題を生じるので、単結晶育成時には、育成炉内を不活性ガスの雰囲気とすることが重要となる。
使用する不活性ガスとしては、公知のアルゴンガスやヘリウムガスが何ら制限なく使用できる。炉内を不活性ガス雰囲気とするために、好ましくは、上述のスカベンジャーガスの導入を行う前に、炉内雰囲気を不活性ガスで置換しておく。その後、スカベンジャーガスの導入による炉内雰囲気の変化を少なく保つために、スカベンジャーガスの導入と平行して不活性ガスを炉内に導入する。該ガスの導入量は、炉内容積、育成温度等によって適宜決定されるものではあるが、通常は、0.1〜2L/minの範囲から選択される。
カーボン製の断熱材壁をスカベンジャーガスによる損傷から守るという観点から、該不活性ガスは断熱材壁により構成される空間の内側へ直接導入されることが好ましい。さらに一般にスカベンジャーガスの比重は重く炉内底部に溜まりやすいため、不活性ガスの導入は、坩堝底よりも下方、特に図2に示すようにチャンバー底部から上方向に導入するか、或いは図3に示すように支持軸(5)に設けた導入口(25)から不活性ガスを供給するのが好ましい。
【0022】
〔単結晶育成〕
本願発明は、引上げ軸の下端に保持された種結晶を坩堝内のフッ化物金属融液に浸漬し、種結晶の下方に単結晶を成長させながら引上げ軸を引き上げてフッ化金属単結晶を製造する公知の単結晶引上げ法に適用される。
該単結晶引上げ法の詳細、即ち、育成装置の構造や部材、引上げ条件や方法などは、前述した公報の他、特開2005−29455号公報、特開2004−231502号公報、特開2004−182588号公報、特開2004−182587号公報、特開2003−183096号公報、特開2003−119095号公報、特開2002−60299号公報、特開2002−234795号公報に具体的に記載されており、本発明の細部はこれらに準じて実施される。
但し、前記の通り、本発明の単結晶育成炉を構成する断熱材壁の全部またはその一部がカーボン製の部材からなっている。カーボン製部材としては、例えば、ピッチ系グラファイト材、ファイバー系グラファイト材、カーボンフェルト系材、ポーラスカーボン系材などが挙げられる。このうち、所望される放熱能力が達成でき、引き上げ時の苛酷な環境への耐性や機械的強度にも優れた材料であることなどからピッチ系グラファイト材を用いることが特に好ましい。
断熱材壁(8)は、壁全体として断熱性に優れるものになるならば、上記の単一素材からなる壁材だけでなく、複数の板状カーボン製部材を積層した構造や、さらには、これら複数の板状カーボン製部材を、気相を介在させて積層したような構造であっても良い。断熱材の厚みは、特に制限されるものではないが、3〜10cmであるのが一般的である。
また、坩堝(外坩堝及び内坩堝)の素材としては、好適には高純度グラファイト製カーボンが使用される。
ヒーターは、抵抗加熱型ヒーター或いは高周波加熱ヒーターを適宜選択して用いることができる。抵抗加熱型ヒーターを採用する場合、高温で不活性であるという観点からカーボン製の抵抗加熱型ヒーターであることが好ましい。この場合、該カーボン製ヒーターは必然的に断熱材壁の内側に設置され、極めて高温の環境下にさらされることになる。そのため、本発明の効果として当該ヒーター並びに上記坩堝を保護するという効果も併せて得ることができる。
一方、高周波加熱ヒーター(コイル)を採用する場合には断熱材壁の外側に配置することが可能であり、このように配置すれば高温でスカベンジャーガスと接して早期に劣化することもない。
【0023】
以下、簡単に前述した二重構造坩堝を用いたフッ化金属単結晶の製造方法を示す。
まず、フッ化亜鉛、フッ化鉛及び/又は四フッ化炭素などの公知のスカベンジャー存在下に加熱溶融して、酸素、水分および酸化物の大部分を除去したフッ化金属原料を育成炉内の外坩堝(1)に投入する。次いで、坩堝内に投入したフッ化金属原料は、溶融に先立って、減圧下で加熱処理を施してさらに吸着水分を除去する。十分に加熱を行って吸着水分を除去した後、フッ化金属原料を溶融させ、該融液から単結晶を引上げる。
具体的には、坩堝内に投入したフッ化金属原料から上記加熱処理により吸着水分を除去する操作としては、溶融に先立って、200℃以上かつ用いるスカベンジャーガスとしての作用を開始する温度未満の温度で真空排気することが好ましい。続いて、スカベンジャーガスを結晶成長炉内に導入するとともに、さらに昇温させてスカベンジャーガスとしての作用を開始する温度以上かつ原料フッ化金属の融点未満の温度として真空排気のみでは除去しきれなかった水分等を除去する。さらに結晶成長炉内を再度真空排気する工程を経た後に、種結晶を接触させるためにフッ化金属原料を溶融(最終溶融)させ、該融液から単結晶を引上げる。
【0024】
ここで、前述の如く炉内を不活性ガス雰囲気とするために、融液から単結晶を引上げるに先だって、上記真空排気後に一旦炉内を不活性ガスのみで充満させておくことが好ましい。当該不活性ガスの導入はフッ化金属原料の最終溶融前に開始しても良いし、最終溶融完了後、種結晶の接触(育成開始)前の時点で行ってもよい。炉内を不活性ガスのみで充満させる際の圧力は大気圧(101kPa)〜20kPa程度の範囲から選択できる。
スカベンジャーガスの供給は、このようにして炉内を不活性ガスで充満(置換)させた後に開始することが好ましい。本発明の実施にあたっては、導入したガス量に相当する分だけ排気することが好ましい。排気はチャンバーの上部、側部或いは底部等の任意の場所から行うことができる。
【0025】
単結晶の引き上げの際の温度は、対象となるフッ化金属に応じて決定され、例えば、坩堝底部の測定温度において、フッ化カルシウムの場合は、1440℃以上、好適には1440〜1520℃の温度で実施することが好ましい。また、該温度への昇温速度は10〜500℃/時間であることが好ましい。
単結晶引上げ法に用いる種結晶は、フッ化金属の単結晶であり、種結晶体の育成面は、製造するアズグロウン単結晶の、結晶の主成長面に応じて、〔111〕面、〔100〕面等から適宜に採択すればよい。
単結晶の育成中において、これら種結晶は、引き上げ軸を中心として回転させることが好ましく、回転速度は1〜20回/分であることが好ましい。また、上記種結晶の回転に併せて坩堝も、上記種結晶の回転方向と反対方向に同様の回転速度で回転させてもよい。このようにして所望の大きさの単結晶を引上げた後、炉内から取り出せる程度の温度まで降温する。あまりに急激に降温すると、得られた単結晶に大きな歪が生じたり極端な場合には熱衝撃によって破損したりするため、結晶成長後の降温速度は、好適には0.1〜3℃/分である。
【0026】
〔後処理〕
上記の方法で得られたアズグロウンの単結晶は、通常、その内部に存在する歪を除去するためにアニール処理される。アニールに際しては上記のようにして育成させた後、炉から取り出したままの状態のインゴットでもよいが、より効率よくアニールするためには、該インゴットを適当な大きさに切断してディスク状とし、これをアニールすることが好ましい。また、切断後、アニール前に切断面等を研磨及び洗浄することも好適である。むろんディスク状以外にも必要に応じた形状に加工したものをアニールしてよい。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。また、実施例の中で説明されている特徴の組み合わせすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
真空紫外領域の光透過率(以下、単にVUV透過率と称す)、およびレーザー耐性の指標となるレーザー誘起吸収(以下、単にLIAと称す)の各評価方法は、以下の通りである。
(1)VUV透過率の測定
表面粗さがRMSで0.5nm以下になるまで表面研磨して、厚さ10mmもしくは25mmの試料を作製した。これをアセトン中で2分間超音波洗浄し、乾燥させた後、低圧水銀ランプを光源とする紫外線オゾン洗浄装置(テクノビジョン社製UV−208)を用いて、出力7mW/cmで15分間の紫外線洗浄を行った。続いて、洗浄した試料をVUV透過率測定装置(日本分光社製 KV−201;酸素含有量0.2ppm以下の窒素雰囲気中で測定)を用い、その透過率を120〜210nmの範囲で測定した。
(2)LIAの測定
上記VUV透過率測定を実施した同じ試料について、再度、上記の紫外線オゾン洗浄処理を行った後、紫外可視分光光度計(島津製作所社製 UV−1800)を用い、レーザー照射前の透過率を200〜800nmの範囲で測定した。続いて、ArFエキシマーレーザーの光源装置(コヒレント社製:LPX Pro 220)を用いて、エネルギー密度30mJ/cmのレーザーを、パルス繰返し周波数100Hzで10万パルス照射し、レーザー照射後の200〜800nmの範囲の透過率を、前記装置を用いて測定した。レーザー照射前後の透過率差を吸光度に変換したものが、LIAスペクトルとなる。LIAスペクトルの小さなものほど、レーザー照射前後の透過率の変化が少ないことを示し、レーザー耐久性に優れたものとなる。
【0028】
実施例1
図2に示された構造の単結晶体製造用引上げ装置を用いて、フッ化カルシウム単結晶体の製造を行った。この単結晶体製造用引上げ装置において、チャンバー(4)内に設置された高純度グラファイト製の外坩堝(1)は、内直径50cm(外直径52cm)であり、高さ24cmのものであった。この外坩堝(1)内に、リッド材(18)に固定された内坩堝(2)は、内直径31cm(外直径32cm)であり、高さ23cmのものであった。
内坩堝(2)の底壁は、水平面に対して下方向への傾斜角度が30度で傾斜する縦断面の形状がV字状(すり鉢状)の形状であった。その下端部に口径が6mmの円筒状の連通孔(3)が1個と、その上方13mmの高さの位置の円周上に、均等間隔で口径が4mmの円筒状の連通孔(3)が4個、さらにその上方15mmの高さの位置の円周上に、均等間隔で口径が2.5mmの円筒状の連通孔(3)が8個、形成されていた。断熱材壁(8)は、ピッチ系グラファイト成型断熱材であり、厚み方向の放熱能力は9W/m・Kのものであり、他方、天井板(16)は、グラファイト製であり、厚み方向の放熱能力は5000W/m・Kのものであった。
【0029】
上記外坩堝(1)内に、四フッ化炭素存在下で、十分な精製処理及び水分除去処理を施した原料フッ化カルシウム塊を計40kg投入した。そして、チャンバー(4)内を油回転ポンプと油拡散ポンプで1×10−3Pa以下になるまで排気した後、加熱を開始した。温度320℃まで昇温した後、この温度で16時間保持した。その後、温度500℃まで昇温後、この温度で16時間保持した。続いて、ガス導入管(22)より、四フッ化炭素20kPa(絶対圧)とアルゴンガス80kPa(絶対圧)を供給した後、1000℃まで昇温した。なお、排気用の電磁バルブを自動で開閉し、炉内圧を大気圧に維持した。該温度で8時間保持した後、油回転ポンプと油拡散ポンプで1×10−3Pa以下になるまで排気し、8時間保持した。該真空排気終了後、ガス導入管(22)より、アルゴンガスを大気圧まで供給し、1520℃まで昇温し、原料フッ化カルシウムを溶融した。この場合も上記のごとく、炉内圧は大気圧に維持した。
原料が完全に溶融し、外坩堝(1)および内坩堝(2)内に、原料フッ化カルシウムの融液(12)が収容された状態で、1時間保持した後、覗き窓(14)より、内坩堝(2)内に収容された融液(12)の表面状態を確認したところ、固体不純物の浮遊が確認されたので、支持軸(5)を下降させて、内坩堝(2)内に収容された融液(12)の全量を外坩堝(1)内に流出させた。その後再度、支持軸(5)を上昇させて、外坩堝(1)内の融液(12)を内坩堝(2)内に供給する操作を実施した。覗き窓(14)より、内坩堝(2)内に収容された融液(12)の表面状態を再度確認したが、このときには固体不純物は確認できなかった。なお、内坩堝(2)内に収容するフッ化金属原料の融液(12)の深さは、8cmとした。
【0030】
次いで、1480℃まで温度を下げて1時間保持した後、単結晶引上げ棒(11)を垂下させて、種結晶(9)の結晶面が(111)である下端面(単結晶成長面)を原料フッ化カルシウムの融液(12)の表面に接触させ、単結晶の引上げを開始した。引上げの開始と同時に、不活性ガスを供給するためのガス導入管(23)よりアルゴンガスを2L/min、融液中に直接スカベンジャーガスを供給するためのガス導入管(21)より四フッ化炭素ガスを5mL/min、融液面にスカベンジャーガスを吹き付けるためのガス導入管(22)より四フッ化炭素ガスを10mL/min流した。引上げが終了し、冷却を開始するまでガスの導入を行った。なお、排気用の電磁バルブを自動で開閉し、炉内圧は大気圧に維持した。また、種結晶(9)は、3回/分で回転させた状態で引上げを行った。引上げ速度は、2mm/hrとした。上記引上げ中において、支持軸(5)を、内坩堝(2)内の溶融液(12)の深さが前記8cmに維持されるように、連続的に上昇させた。引上げ終了後、冷却速度1℃/minにて常温まで降温した。
以上の操作により、直胴部の直径が約8cm、重量3.0kgであるフッ化カルシウムの(111)アズグロウン単結晶体が得られた。この結晶を育成方向に垂直な面でスライスした後、表面粗さがRMSで0.5mm以下になるまで表面研磨して、厚さ25mmの試料を作製し、VUV透過率およびLIAを測定した。LIAのスペクトルを、図4に示す。また、193nmにおける透過率およびLIAスペクトルの積分値を表1に示す。
【0031】
実施例2
図2に示された構造の単結晶体製造用引上げ装置を用いて、フッ化カルシウム単結晶体の製造を行った。
外坩堝(1)内に、四フッ化炭素存在下で、十分な精製処理及び水分除去処理を施した原料フッ化カルシウム塊を計40kg投入した。原料投入後から引上げを開始するまでの操作は、実施例1と同じであった。引上げの開始と同時に、不活性ガスを供給するためのガス導入管(23)よりアルゴンガスを2L/min、融液中に直接スカベンジャーガスを供給するためのガス導入管(21)より四フッ化炭素ガスを5mL/min流した。引上げが終了し、冷却を開始するまでガスの導入を行った。炉内圧、種結晶(9)の回転数、引上げ速度および引上げ終了後の冷却速度は、実施例1と同じであった。
以上の操作により、直胴部の直径が約12cm、重量6.7kgであるフッ化カルシウムの(111)アズグロウン単結晶体が得られた。この結晶を育成方向に垂直な面でスライスした後、表面粗さがRMSで0.5mm以下になるまで表面研磨して、厚さ25mmの試料を作製し、VUV透過率およびLIAを測定した。LIAのスペクトルを、図4に示す。また、193nmにおける透過率およびLIAスペクトルの積分値を表1に示す。
【0032】
実施例3
図2に示された構造の単結晶体製造用引上げ装置を用いて、フッ化カルシウム単結晶体の製造を行った。
外坩堝(1)内に、四フッ化炭素存在下で、十分な精製処理及び水分除去処理を施した原料フッ化カルシウム塊を計40kg投入した。原料投入後から引上げを開始するまでの操作は、実施例1と同じであった。引上げの開始と同時に、不活性ガスを供給するためのガス導入管(23)よりアルゴンガスを2L/min、融液面にスカベンジャーガスを吹き付けるためのガス導入管(22)より四フッ化炭素ガスを10mL/min流した。引上げが終了し、冷却を開始するまでガスの導入を行った。炉内圧、種結晶(9)の回転数、引上げ速度および引上げ終了後の冷却速度は、実施例1と同じであった。
以上の操作により、直胴部の直径が約8cm、重量2.2kgであるフッ化カルシウムの(111)アズグロウン単結晶体が得られた。この結晶を育成方向に垂直な面でスライスした後、表面粗さがRMSで0.5mm以下になるまで表面研磨して、厚さ10mmの試料を作製し、VUV透過率およびLIAを測定した。LIAのスペクトルを、図4に示す。また、193nmにおける透過率およびLIAスペクトルの積分値を表1に示す。
【0033】
実施例4
図2に示された構造の単結晶体製造用引上げ装置を用いて、フッ化カルシウム単結晶体の製造を行った。
外坩堝(1)内に、四フッ化炭素存在下で、十分な精製処理及び水分除去処理を施した原料フッ化カルシウム塊を計40kg投入した。そして、チャンバー(4)内を油回転ポンプと油拡散ポンプで1×10−3Pa以下になるまで排気した後、加熱を開始した。温度320℃まで昇温した後、この温度で16時間保持した。その後、温度500℃まで昇温後、この温度で16時間保持した。続いて、1000℃まで昇温後、この温度で12時間保持した。該真空排気終了後、ガス導入管(22)より、アルゴンガスを大気圧まで供給し、1520℃まで昇温し、原料フッ化カルシウムを溶融した。溶融後から引上げを開始するまでの操作は、実施例1と同じであった。引上げの開始と同時に、不活性ガスを供給するためのガス導入管(23)よりアルゴンガスを2L/min、融液中に直接スカベンジャーガスを供給するためのガス導入管(21)より四フッ化炭素ガスを5mL/min、融液面にスカベンジャーガスを吹き付けるためのガス導入管(22)より四フッ化炭素ガスを10mL/min流した。引上げが終了し、冷却を開始するまでガスの導入を行った。炉内圧、種結晶(9)の回転数、引上げ速度および引上げ終了後の冷却速度は、実施例1と同じであった。
以上の操作により、直胴部の直径が約8cm、重量2.1kgであるフッ化カルシウムの(111)アズグロウン単結晶体が得られた。この結晶を育成方向に垂直な面でスライスした後、表面粗さがRMSで0.5mm以下になるまで表面研磨して、厚さ25mmの試料を作製し、VUV透過率およびLIAを測定した。LIAのスペクトルを、図5に示す。また、193nmにおける透過率およびLIAスペクトルの積分値を表1に示す。
【0034】
実施例5
図3に示された構造の単結晶体製造用引上げ装置を用いて、フッ化カルシウム単結晶体の製造を行った。この単結晶体製造用引上げ装置において、チャンバー(4)内に設置された高純度グラファイト製の外坩堝(1)は、内直径23cm(外直径24cm)であり、高さ25cmのものであった。この外坩堝(1)内に、リッド材(18)に固定された内坩堝(2)は、内直径20cm(外直径21cm)であり、高さ24cmのものであった。
内坩堝(2)の底壁は、水平面に対して下方向への傾斜角度が30度で傾斜する縦断面の形状がV字状(すり鉢状)の形状であった。その下端部に口径が8mmの円筒状の連通孔(3)が1個、形成されていた。以外は、実施例1と同じ性能の断熱材壁、天井板等の部材を使用した。
上記外坩堝(1)内に、四フッ化炭素存在下で、十分な精製処理及び水分除去処理を施した原料フッ化カルシウム塊を計9kg投入した。そして、チャンバー(4)内を油回転ポンプと油拡散ポンプで1×10−3Pa以下になるまで排気した後、加熱を開始した。温度250℃まで昇温した後、この温度で15時間保持した。その後、支持軸(5)に付けたガス導入口(25)より、四フッ化炭素10kPa(絶対圧)とアルゴンガス40kPa(絶対圧)を供給した後、1050℃まで昇温した。該温度で5時間保持した後、油回転ポンプと油拡散ポンプで1×10−3Pa以下になるまで排気し、8時間保持した。該真空排気終了後、支持軸(5)に付けたガス導入口(25)より、アルゴンガス40kPa(絶対圧)を供給し、1520℃まで昇温し、原料フッ化カルシウムを溶融した。
【0035】
溶融後から引上げを開始するまでの操作は、実施例1と同じであった。引上げの開始と同時に、支持軸(5)に付けたガス導入口(25)より、アルゴンガスを100mL/min、融液面にスカベンジャーガスを吹き付けるためのガス導入管(23)より四フッ化炭素ガスを100mL/min流した。引上げが終了し、冷却を開始するまでガスの導入を行った。なお、排気用の電磁バルブを自動で開閉し、炉内圧を40kPa(絶対圧)に維持した。また、種結晶(9)は、3回/分で回転させた状態で引上げを行った。引上げ速度は、4mm/hrとした。上記引上げ中において、支持軸(5)を、内坩堝(2)内の溶融液(12)の深さが5cmに維持されるように、連続的に上昇させた。引上げ終了後、冷却速度1℃/minにて常温まで降温した。
以上の操作により、直胴部の直径が約8cm、重量3.4kgであるフッ化カルシウムの(111)アズグロウン単結晶体が得られた。この結晶を育成方向に垂直な面でスライスした後、表面粗さがRMSで0.5mm以下になるまで表面研磨して、厚さ10mmの試料を作製し、VUV透過率およびLIAを測定した。LIAのスペクトルを、図5に示す。また、193nmにおける透過率およびLIAスペクトルの積分値を表1に示す。
【0036】
比較例1
図1に示された構造の従来の単結晶体製造用引上げ装置を用いて、フッ化カルシウム単結晶体の製造を行った。ガス導入管(20)以外は、実施例1と同じ部材を使用した。
外坩堝(1)内に、四フッ化炭素存在下で、十分な精製処理及び水分除去処理を施した原料フッ化カルシウム塊を計40kg投入した。アルゴンガスおよび四フッ化炭素ガスを従来のガス導入管(20)を用いて導入する以外は、原料投入後から引上げを開始するまでの操作は、実施例1と同じであった。この場合、引上げ開始後、スカベンジャーガスおよびアルゴンガスの導入は行わなかった。種結晶(9)の回転数、引上げ速度および引上げ終了後の冷却速度は、実施例1と同じであった。
以上の操作により、直胴部の直径が約12cm、重量5.3kgであるフッ化カルシウムの(111)アズグロウン単結晶体が得られた。この結晶を育成方向に垂直な面でスライスした後、表面粗さがRMSで0.5mm以下になるまで表面研磨して、厚さ25mmの試料を作製し、VUV透過率およびLIAを測定した。LIAのスペクトルを、図4に示す。また、193nmにおける透過率およびLIAスペクトルの積分値を表1に示す。
【0037】
比較例2
図1に示された構造の従来の単結晶体製造用引上げ装置を用いて、フッ化カルシウム単結晶体の製造を行った。
外坩堝(1)内に、四フッ化炭素存在下で、十分な精製処理及び水分除去処理を施した原料フッ化カルシウム塊を計40kg投入した。ガス導入管(20)より、アルゴンガス35kPa(絶対圧)および四フッ化炭素5kPa(絶対圧)を供給し、1520℃まで昇温し、原料フッ化カルシウムを溶融した以外は、原料投入後から引上げを開始するまでの操作は、比較例1と同じであった。この場合も、引上げ開始後、スカベンジャーガスおよびアルゴンガスの導入は行わなかった。種結晶(9)の回転数、引上げ速度および引上げ終了後の冷却速度は、実施例1と同じであった。
以上の操作により、直胴部の直径が約8cm、重量3.8kgであるフッ化カルシウムの(111)アズグロウン単結晶体が得られた。この結晶を育成方向に垂直な面でスライスした後、表面粗さがRMSで0.5mm以下になるまで表面研磨して、厚さ25mmの試料を作製し、VUV透過率およびLIAを測定した。LIAのスペクトルを、図4に示す。また、193nmにおける透過率およびLIAスペクトルの積分値を表1に示す。
【0038】
比較例3
図3に示された構造の単結晶体製造用引上げ装置を用いて、フッ化カルシウム単結晶体の製造を行った。
上記外坩堝(1)内に、四フッ化炭素存在下で、十分な精製処理及び水分除去処理を施した原料フッ化カルシウム塊を計9kg投入した。原料投入後から引上げを開始するまでの操作は、実施例5と同じであった。この場合も比較例1と同様、引上げ開始後、スカベンジャーガスおよびアルゴンガスの導入は行わなかった。また、種結晶(9)の回転数、引上げ速度および引上げ終了後の冷却速度は、実施例5と同じであった。
以上の操作により、直胴部の直径が約8cm、重量3.3kgであるフッ化カルシウムの(111)アズグロウン単結晶体が得られた。この結晶を育成方向に垂直な面でスライスした後、表面粗さがRMSで0.5mm以下になるまで表面研磨して、厚さ25mmの試料を作製し、VUV透過率およびLIAを測定した。LIAのスペクトルを、図5に示す。また、193nmにおける透過率およびLIAスペクトルの積分値を表1に示す。
【0039】
実施例1〜5、および比較例1〜3で得られた193nmにおける透過率およびLIAスペクトルの積分値を比較することにより、以下のことが確認でき、本発明の製造法方法が高い光学特性を有するフッ化金属単結晶の製法に好適であることが分かる。
透過率:
VUV透過率に関しては、実施例と比較例に大きな違いはなく、いずれもVUV透過率の良好なものが得られた。
LIA:
本発明、すなわちスカベンジャーガスをフッ化金属の融液中に供給するか或いは融液の液面に吹き付けるとともに、単結晶育成炉内をアルゴンガスなどで不活性ガス雰囲気とすることにより、LIAスペクトルの積分値を大きく低減することができた。この値の低減は、レーザー照射後のカラーセンターの発生を抑制できたことを示す。本発明により、カラーセンターの原因となる不純物を、より徹底的に除去することができたと推察される。スカベンジャーガスの融液中供給法と液面吹き付け法の両方を、同時に行った実施例1と実施例4のLIAスペクトルの積分値は、特に低く、その効果が大きい。
【0040】
【表1】

【符号の説明】
【0041】
1;外坩堝
2;内坩堝
3;連通孔
4;チャンバー
5;支持軸
6;受け台
7;抵抗加熱ヒーター
8;断熱材壁
9;種結晶体
10;保持具
11;単結晶引上げ棒
12;フッ化金属原料の融液
13;フッ化金属単結晶インゴット
14;覗き窓
15;単結晶引上げ棒の挿入孔
16;天井板
17;隔離壁
18;リッド材
19;底部断熱材
20;従来位置の不活性ガスおよびスカベンジャーガスの導入管
21;融液中に直接スカベンジャーガスを供給するためのガス導入管
22;融液面にスカベンジャーガスを吹き付けるためのガス導入管
23;不活性ガスを供給するためのガス導入管
24;高周波誘導加熱ヒーター
25;不活性ガスを供給するための導入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン製の断熱材壁を有するフッ化金属単結晶育成炉の内部に、フッ化金属が収容された坩堝を配置し、該フッ化金属を加熱してフッ化金属の融液を形成すると共に、引上げ軸の下端に保持された種結晶を該フッ化金属の融液に浸漬し、該種結晶の下方にフッ化金属単結晶を成長させながら、該引上げ軸を引上げていくことにより、フッ化金属単結晶を育成するフッ化金属単結晶の製造方法において、
前記フッ化金属単結晶育成炉内を不活性ガス雰囲気とし、スカベンジャーガスを前記フッ化金属の融液中に供給するか或いは該融液の液面に吹き付けて、フッ化金属単結晶を成長せしめることを特徴とするフッ化金属単結晶の製造方法。
【請求項2】
不活性ガスを、フッ化金属単結晶育成炉の底部より炉内に導入することを特徴とする請求項1に記載のフッ化金属単結晶の製造方法。
【請求項3】
坩堝が内坩堝と外坩堝からなる二重坩堝であり、スカベンジャーガスを外坩堝内のフッ化金属の融液中に供給することを特徴とする請求項1または2に記載のフッ化金属単結晶の製造方法。
【請求項4】
坩堝が内坩堝と外坩堝からなる二重坩堝であり、スカベンジャーガスを内坩堝内のフッ化金属の融液液面に吹き付けることを特徴とする請求項1または2に記載のフッ化金属単結晶の製造方法。
【請求項5】
スカベンジャーガスが、フッ素化炭化水素ガスであることを特徴とする請求項1〜4に記載のフッ化金属単結晶の製造方法。
【請求項6】
不活性ガスが、アルゴンであることを特徴とする請求項1〜5に記載のフッ化金属単結晶の製造方法。
【請求項7】
カーボン製の断熱材壁を有するフッ化金属単結晶育成炉の内部に、フッ化金属が収容された坩堝を配置し、該フッ化金属を加熱してフッ化金属の融液を形成すると共に、引上げ軸の下端に保持された種結晶を該フッ化金属の融液に浸漬し、該種結晶の下方にフッ化金属単結晶を成長させながら、該引上げ軸を引上げていくことにより、フッ化金属単結晶を育成するフッ化金属単結晶の製造方法において、
前記フッ素系ガスからなるスカベンジャーガスを前記フッ化金属の融液中に供給するか或いは該融液の液面に吹き付けるとともに、断熱材壁により構成される空間よりも内側で、かつ坩堝底部よりも下方の位置から不活性ガスを供給しつつ、フッ化金属単結晶を成長せしめることを特徴とするフッ化金属単結晶の製造方法。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−12258(P2012−12258A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151019(P2010−151019)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】