説明

レーザー走査型顕微鏡

【課題】本発明では、高速波長走査を行える分光装置を備えたレーザー走査型顕微鏡を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の上記課題は、観察光を分光して検出するレーザー走査型顕微鏡において、前記観察光を分散特性によって分光して射出するKTN結晶と、前記KTN結晶から射出された射出光を検出する検出器と、前記KTN結晶と前記検出器の間に配置される、前記KTN結晶の屈折率傾斜に直交した方向に開口したスリットとを備え、前記KTN結晶に印加する電圧を制御することによって、前記スリットを通過する前記射出光の検出波長を動的に切り換えることによって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザー走査型顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
共焦点レーザー走査顕微鏡は、通常の顕微鏡に比べて、分解能・コントラストが良く、試料の高さ方向にも分解能を持つことから、例えば生体試料や半導体試料の観察・測定等に広く使用されている。これを蛍光顕微鏡と組み合わせた共焦点レーザー走査蛍光顕微鏡は、レーザーによって試料内の蛍光物質の蛍光を観察する顕微鏡である。近年では共焦点レーザー走査蛍光顕微鏡において複数色(複数波長)のレーザーを試料に照射して、試料を複数の蛍光物質を使って多色に染め分けて観測する手法が多く利用される。
【0003】
このとき、多色(多波長)の観察光を正確に測定する方法として、分光装置を用いる方法が知られている。例えば特許文献1では、回折格子(グレーティング)を用いて観察光を分光し、さらに回折格子を傾けるなどして、所望の波長範囲の強度分布を取得するといった方法が取られる。
【0004】
しかし、上記のような回折格子などを駆動させる方法には大きな問題がある。それは回折格子などを物理的に駆動させるためには少なからず時間を要することである。すなわち、多色の観察光を測定できてはいるものの、測定の同時性は確保されていないということである。
【0005】
特に、近年の生体試料観察では生きたままの試料における生体反応や生体活動を観察することが主流になりつつある。このような観察では同時性の確保は非常に重要な要素である。このような状況により、高速駆動する分光装置が求められていた。
【特許文献1】特開2004−212600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、上記の技術的問題に鑑み、高速波長走査を行える分光装置を備えたレーザー走査型顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記課題は、観察光を分光して検出するレーザー走査型顕微鏡において、前記観察光を分散特性によって分光して射出するKTN結晶と、前記KTN結晶から射出された射出光を検出する検出器と、前記KTN結晶と前記検出器の間に配置される、前記KTN結晶の屈折率傾斜に直交した方向に開口したスリットとを備え、前記KTN結晶に印加する電圧を制御することによって、前記スリットを通過する前記射出光の検出波長を動的に切り換えることによって達成される。本構成では検出波長の切り換え時に機械的な駆動を伴わないので、動作が非常に高速である。
【0008】
また、観察光を分光して検出するレーザー走査型顕微鏡において、前記観察光を分散特性によって分光して射出するKTN結晶と、前記KTN結晶から射出された射出光を検出するための前記KTN結晶の屈折率傾斜方向に配列された1次元配列検出器を備え、前記KTN結晶に印加する電圧を制御することによって、前記射出光の検出波長を動的に切り換えることによっても達成される。
【0009】
さらに、前記KTN結晶に入射する観察光は、偏光ビームスプリッターとλ/2板を組み合わせて、前記KTN結晶の有効方向の直線偏光に変換された後に前記KTN結晶に入射されることは望ましい。この構成により、KTN結晶の持つ偏光特性により生じるロスを低減することができる。
【0010】
また、観察光を分光して検出するレーザー走査型顕微鏡において、前記観察光を分散特性によって分光して射出する第一のKTN結晶と、前記第一のKTN結晶によって分光された射出光を、前記射出光の分光方向と直交する方向にさらに分光して射出する第二のKTN結晶と、前記第二のKTN結晶から射出された前記射出光を検出するための2次元配列検出器を備えることも望ましい。この構成によれば前記観察光の波長分布と偏光の比率を同時に検出することが可能となる。
【0011】
また、観察光を分光して検出するレーザー走査型顕微鏡において、前記観察光を分散特性によって分光して射出する第一のKTN結晶と、前記第一のKTN結晶によって分光された射出光を、前記射出光の分光方向と直交する方向にさらに分光して射出する第二のKTN結晶と、前記第一のKTN結晶の屈折率傾斜方向に配列された第一の1次元配列検出器と、前記第二のKTN結晶の屈折率傾斜方向に配列された第二の1次元配列検出器を備えることも望ましい。この構成によっても前記観察光の波長分布と偏光の比率を同時に検出することが可能となる。
【0012】
さらに、観察光を分光して検出するレーザー走査型顕微鏡において、前記観察光を分散特性によって分光して射出するKTN結晶と、前記KTN結晶から射出された射出光を検出するための2次元配列検出器を備え、前記KTN結晶に印加する電界を回転させることにより、前記KTN結晶から射出される前記射出光の分光方向を回転させることによって波長分布とその時間変化を検出することも望ましい。この構成によれば、分光によって波長分布を取得しながら、分光方向を高速回転させてその時間変化を取得することができる。
【0013】
さらに、観察光を分光して検出するレーザー走査型顕微鏡において、前記観察光を分散特性によって分光して射出するKTN結晶と、前記KTN結晶から射出された射出光を反射する多面鏡と、前記多面鏡から反射された反射光を集光させるレンズと、前記レンズの集光面に配置され、前記観察光の分光方向に配列された1次元配列検出器を備え、前記KTN結晶に印加する電圧を制御することによって、前記観察光の分散を動的に切り換えることも好ましい。
【0014】
また、観察光を分光して検出するレーザー走査型顕微鏡において、前記観察光を分散特性によって分光して射出するKTN結晶と、前記KTN結晶の有効方向の偏光成分を偏向して射出された第一の射出光を反射する第一の多面鏡と、前記KTN結晶の有効方向と直交する偏光成分を偏向せずに射出された第二の射出光の偏光面を90度回転させて再び前記KTN結晶に入射するためのλ/4板と反射部材の組み合わせと、前記反射部材から入射された直線偏光を偏向して射出された第二の射出光を反射する第二の多面鏡と、前記第一の多面鏡から反射された反射光と前記第二の多面鏡から反射された反射光を同時に集光させるレンズと、前記レンズの集光面に配置され、前記観察光の分光方向に配列された1次元配列検出器を備え、前記KTN結晶に印加する電圧を制御することによって、前記観察光の分散を動的に切り換え、波長分布と偏光の比率を同時に検出することもできる。
【0015】
また、観察光を分光して検出するレーザー走査型顕微鏡において、前記観察光を分散特性によって分光して射出するKTN結晶と、前記KTN結晶の有効方向の偏光成分を偏向して射出された第一の射出光を反射する第一の凹面鏡と、前記KTN結晶の有効方向と直交する偏光成分を偏向せずに射出された第二の射出光の偏光面を90度回転させて再び前記KTN結晶に入射するためのλ/4板と反射部材の組み合わせと、前記反射部材から入射された直線偏光を偏向して射出された第二の射出光を反射する第二の凹面鏡と、前記第一の凹面鏡から反射された反射光と前記第二の凹面鏡から反射された反射光の共通光路上に配置され、分光方向に直交した方向に開口したスリットと、前記スリットによって所望の波長を選択して検出する検出器を備え、前記KTN結晶に印加する電圧を制御することによって、前記スリットを通過する前記射出光の検出波長を動的に切り換えることも考えられる。
【0016】
さらに、観察光を分光して検出するレーザー走査型顕微鏡において、前記観察光を分散特性によって分光して射出するKTN結晶と、前記KTN結晶の有効方向の偏光成分を偏向して射出された第一の射出光を反射する第一の凹面鏡と、前記KTN結晶の有効方向と直交する偏光成分を偏向せずに射出された第二の射出光の偏光面を90度回転させて再び前記KTN結晶に入射するためのλ/4板と反射部材の組み合わせと、前記反射部材から入射された直線偏光を偏向して射出された第二の射出光を反射する第二の凹面鏡と、前記第一の凹面鏡から反射された反射光と前記第二の凹面鏡から反射された反射光の共通光路上に配置され、分光方向に配列された1次元配列検出器と、前記スリットによって所望の波長を選択して検出する検出器を備え、前記KTN結晶に印加する電圧を制御することによって、前記スリットを通過する前記射出光の検出波長を動的に切り換えることも考えられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高速波長走査を行える分光装置を備えたレーザー走査型顕微鏡が提供される。
また、本発明によるレーザー走査型顕微鏡の一形態では、偏光異方性と波長分布が同時に取得できる。
【0018】
さらに、本発明によるレーザー走査型顕微鏡の一形態では、波長分布と時間分解測定を同時に実行できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下では、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の実施に利用される一般的な形のレーザー走査型顕微鏡の模式図である。同図における顕微鏡本体1は、ステージ2上の試料3を、対物レンズ4を使って観察する。そして顕微鏡本体1にはスキャンユニット5が接続され、スキャンユニット5にはレーザーユニット6からファイバーケーブル7を通してレーザーが導入され内部でレーザー走査が行われる。上記のような構成をする理由は一般的なレーザーユニットは大型の装置となるので顕微鏡本体に直接備え付けることができないからである。さらにコンピュータ端末8が備えられ、スキャンユニット5やレーザーユニット6の制御と得られた検出結果の可視化に利用される。
【0020】
図2は従来のレーザー走査型顕微鏡の内部構成を説明する概略図である。通常のレーザー走査型顕微鏡ではレーザー光源として例えばアルゴンイオンレーザー(488nm)とHe−Neグリーンレーザー(543nm)とHe−Neレーザー(633nm)などの複数のレーザー光源9を搭載し、ダイクロイックミラー10を組み合わせることによって同一光路に合成することによって一つのレーザーユニット6を構成する。一つの光路に合成されたレーザーはAOTF(Acousto-optic tunable filters)12によって光量調節などを行った後にファイバーカップリング機構13を経由してファイバーケーブル7に導入される。
【0021】
ファイバーケーブル7からスキャンユニット5に導入されたレーザーはダイクロイックミラー15によって、対物レンズ4方向へ反射される。その光路の途中にはガルバノミラー16、瞳投影レンズ17、結像レンズ18が配置され、レーザーを走査する機能が備えられている。
【0022】
試料からの観察光は逆の光路を通り、ダイクロイックミラー15を通過して検出光路に入る。検出光路内には結像レンズ20が配置され、観察光は共焦点ピンホール21に結像され、これを通過した観察光を回折格子(グレーディング)22によって分光した後に、検出器(フォトマルチプライヤ)25によって所望の波長の観察光を検出する。ここで、図中の符号23、24は、それぞれ凹面ミラーとスリットである。このとき、回折格子22と凹面ミラー23の角度を変える、あるはスリット24を可変にすることによって取得波長帯域を変えることができる。
【0023】
なお、図中の符号11、14、19は光路を曲げるためのミラーである。
本発明は、回折格子22や凹面ミラー23あるはスリット24の駆動に伴う時間のロスをKTN(タンタル酸ニオブ酸カリウム)結晶に交換することによって大幅に短縮する。そこで、図3を使ってKTN結晶の働きについて説明する。
【0024】
KTN結晶26は電圧の印加により屈折率の変化(光電効果)する光学素子である。その原理は以下の通りである。2つの電極27によって電圧が印加されることによって電界傾斜28が発生する。その結果、KTN結晶26内に屈折率分布が生じる。そしてこの屈折率分布によって入射光が偏向する仕組みである。
【0025】
ただし、KTN結晶26のこの作用には偏光特性がある。つまり、有効な入射方向の直線偏光のみにしか上述の作用は起こらない。
図4はKTN結晶26にランダム偏光が入射した場合の作用を説明する図である。同図において実線で示されるのは有効直線偏光であり、上述の通り電界方向に偏向される。一方、有効入射方向と直交する成分は異なる振る舞いをする。この直交成分のうち大部分は直行し、残りは有効直線偏光と反対(およそ1/8の振り角)に偏向させる。つまり、KTN結晶26にランダム偏光が入射した場合は電界方向に光線が分離される。
【0026】
次に、KTN結晶26を使って波長選択を行うための基本構成を、図5を使って説明する。一般的な光学素子と同様にKTN結晶26も分散を持つ。すなわち、多波長光線を入射した場合は、波長ごとに分解されて射出される。そこで、射出光の一部をスリット29や開口で抜き出すことにより、所望の波長の光線のみを選択することができる。また、電極27に印加する電圧の制御によりKTN結晶26の屈折率分布は変えることができるので、スリット29を動かすことなく選択波長を変更することができる。この操作は物質的な駆動を伴わないので、作動が高速である。
【0027】
以下では、レーザー走査型顕微鏡においてKTN結晶26を分光に利用した本発明の実施例について説明する。ここでは、スキャンユニット5の内部構成についてのみの説明をするが、それ以外の部位は従来と同様の構成としてよい。
【実施例1】
【0028】
図6は本発明の実施の一形態によるスキャンユニット5の内部構成の概略図である。同図において、レーザーユニットからファイバーケーブルを通じて導入された多波長レーザー光は、ダイクロイックミラー15によって、対物レンズ4方向へ反射される。試料からの観察光は逆にダイクロイックミラー15を通過し、結像レンズ20によって共焦点ピンホール21に集光される。
【0029】
本発明のこの実施例では、共焦点ピンホール21の後段にKTN結晶26を配置した構成をとる。先述のとおり、KTN結晶26は入射光を分光して射出する働きを持つ。分光された観察光を凹面鏡23によって並行化してスリット24に照射する。このとき、凹面鏡23の代わりにレンズなどを使った構成をしてもよいが、分光された光を扱うには色収差が発生しないミラーの方が好ましい。
【0030】
スリット24の開口部に照射される観察光は一定の波長帯域に限られるので、スリット24の後段に配置された検出器25(フォトマルが好ましい)には一定の波長帯域に限られた観察光が検出される。このときに、KTN結晶26に印加する電圧を制御することによって、スリット24の開口部に照射される波長帯域を調節することができる。
【実施例2】
【0031】
図7は本発明の実施の一形態によるスキャンユニット5の内部構成の概略図である。本構成は実施例1の構成において、KTN結晶の偏光特性による光量のロスを防ぐ構成となっている。よって、実施例1と同じ構成部は説明を省く。
【0032】
本発明のこの実施例では、共焦点ピンホール21とKTN結晶26の間に観察光を直線偏光に変換する仕組みを配置した構成をとる。具体的には偏光ビームスプリッター30とλ/2板31を組み合わせた構成が考えられる。まず偏光ビームスプリッター30によってKTN結晶26の有効方向の直線偏光とその直交方向の直線偏光に分離する。その後、有効方向に直交した直線偏光をλ/2板31を使って偏光面を90度回転させる。その後、合成光学部材32によって二つの直線偏光を合成する。なお、偏光ビームスプリッター30から合成光学部材32までの光路はミラーなどによって適切に導かれなければいけないが、図中では省略する。
【0033】
本実施例によれば、KTN結晶の偏光特性による光量のロスを抑えることができる。
【実施例3】
【0034】
図8は本発明の実施の一形態によるスキャンユニット5の内部構成の概略図である。本構成は実施例1の構成において、フォトマルのような検出器25の代わりにラインセンサのような1次元的な検出器33を配置する。この構成によって、分光された観察光の波長分布を一度に取得できる。
【実施例4】
【0035】
図9は本発明の実施の一形態によるスキャンユニット5の内部構成の概略図である。本構成は実施例2の構成において、フォトマルのような検出器25の代わりにラインセンサのような1次元的な検出器33を配置する。この構成によって、分光された観察光の波長分布を一度に取得でき、かつKTN結晶の偏光特性による光量のロスを抑えることができる。
【実施例5】
【0036】
図10は本発明の実施の一形態によるスキャンユニット5の内部構成の概略図である。本構成はKTN結晶の偏光特性を使うことによって、波長分布と偏光の比率を一度に取得できる。
【0037】
KTN結晶は電圧を印加する方向に入射光を曲げることができ、かつその方向に分光する。しかもKTN結晶は有効方向の直線偏光にのみ作用する。そこで電圧を印加する方向を互いに直交させた2つのKTN結晶26と26’によって直交成分ごとに観察光を分光する。この結果、射出された観察光は2つの方向に分離され、かつ分光される。つまり、CCDのような2次元の検出器34によって検出をすれば、L字型に分光された観察結果が得られる。このとき、縦方向と横方向の光強度は偏光の度合いを表す。
【0038】
本構成によれば、波長分布と偏光の比率を一度に取得できるので蛍光偏光やHomo−FRETなどの生体観察アプリケーションに好適である。
【実施例6】
【0039】
図11(a)は本発明の実施の一形態によるスキャンユニット5の内部構成の概略図である。本構成はKTN結晶に印加する電場を制御することによって、波長分布とその時間変化を一度に取得できる。
【0040】
KTN結晶の構造は立方晶であり、光学異方性を持たない。すなわち、入射光の屈折方向は印加される電場の方向だけで決まる。本構成では図11(b)に示されるように入射面から見たときの上下左右に電極26を配置し、上下の電位差と左右の電位差を制御することによってKTN結晶26内に全方向の電場を発生することができるような構成をとる。例えばこのとき、上下の電位差と左右の電位差を4分の1位相だけずらして振動させれば、入射されたランダム偏光は回転しながら射出される。このとき、射出光は回転の半径方向に分光されている。つまり、図11(a)に示されるようにKTN結晶26の射出側にCCDのような2次元配列検出器34を配置すれば、波長分布とその時間変化を一度に取得できる。
【実施例7】
【0041】
図12はKTN結晶による分光方法の一形態に関して説明する。同図はKTN結晶26の印加電圧を制御することによって射出光の偏向角を変化させたときに、検出面での分散が異なるように構成した実施例を表す。
【0042】
同図に示される構成例では、結像レンズ20と共焦点ピンホール21を通過した観察光はKTN結晶26に入射される。KTN結晶26から射出された分光光線は多面鏡35によって反射され、レンズ36を通じて1次元配列検出器31によって検出される。また、KTN結晶26から射出された分光光線は、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)で代表的に示され、それぞれ実線矢印と破線矢印の2種類で偏向角が異なるときの光路を示している。
【0043】
実線矢印で示される偏向角の射出光と破線矢印で示される偏向角の射出光は多面鏡35の異なる面によって反射される。このとき、中心波長(この例ではGの光線)の反射光は平行になるように多面鏡35の角度を設定しておく。すると、後段のレンズ36によって中心波長の光線は検出器の同じ点に常に集光する。一方、中心波長以外の光線は多面鏡35によって反射されたときの角度が一定に保たれないので、レンズ36によって集光される位置が一定に保たれない。すなわち、KTN結晶26での偏向角の違いによって、検出面での分散が異なる構成となっている。
【0044】
つまり上記構成によれば、1次元配列検出器31の1画素あたりの取得波長領域をKTN結晶26への印加電圧の制御によって行える。
【実施例8】
【0045】
図13は実施例7のKTN結晶による分光方法の発展形について説明する。本実施例では実施例7の効果に加えて、実施例5の効果が得られる。すなわち、検出面での分散量を変化させると同時に偏光の比率も得ることができる。なお、実施例同図においても図12と同様に分光された光線を赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の矢印によって代表的に示す。
【0046】
先述のようにKTN結晶26は有効方向の直線偏光を偏向する事ができるが、そうではない偏光成分を透過させてしまう。本実施例では透過してしまった直線偏光を再度KTN結晶26に入射する構成を特徴とする。
【0047】
結像レンズ20と共焦点ピンホール21を通過した観察光はKTN結晶26に入射される。このとき、有効方向の直線偏光の光路に関しては実施例7と同様である。KTN結晶26を射出した分光光線は多面鏡35によって反射され、レンズ36によって1次元配列検出器31上に集光される。ここで、有効方向の直線偏光の光路に関しては図中で破線矢印によって記される。なお、1次元配列検出器31の代わりに2次元配列検出器を利用することも考えられる。
【0048】
一方、有効方向と直交した成分の直線偏光はKTN結晶26を透過した後に、λ/4板に反射膜コーティングを施したλ/4+ミラー37によって反射され、再びKTN結晶26に逆方向から入射される。このとき、有効方向と直交した成分の直線偏光はλ/4を往復で2回通過することにより、偏光が90度回転される。すなわち、今度は有効方向の直線偏光になってKTN結晶26に入射され、KTN結晶26によって分光される。このときの光路は図中で実線矢印によって記され、破線矢印と鏡像の関係となる光路となる。つまり、KTN結晶26を射出した分光光線は多面鏡35によって反射され、レンズ36によって1次元配列検出器31上に集光される。
【0049】
上記の構成によれば、1次元配列検出器31上で分散量を変化させると同時に偏光の比率も得ることができる。なお、1次元配列検出器31の代わりに、スリットと検出器の組み合わせを二組配置してもよい。
【実施例9】
【0050】
図14はKTN結晶による分光方法の異なる形態について説明する。本実施例では実施例1に実施例7のアイデアを加えた構成となっている。そして、本実施例は実施例2と同じ効果を持つ、異なる実施例となっている。つまり、本実施例においてもKTN結晶の持つ偏光特性による光量のロスを防ぐことができる。
【0051】
共焦点ピンホール21を通過した観察光はKTN結晶26に入射される。このとき、有効方向の直線偏光の光路に関しては実施例1と同様である。KTN結晶26を射出した分光光線は凹面鏡23によって反射され、スリット24によって所望の波長を選択され、検出器25によって検出される。ここで、有効方向の直線偏光の光路に関しては図中で実線矢印によって記される。
【0052】
一方、有効方向と直交した成分の直線偏光はKTN結晶26を透過した後に、λ/4板に反射膜コーティングを施したλ/4+ミラー37によって反射され、再びKTN結晶26に逆方向から入射される。このとき、有効方向と直交した成分の直線偏光はλ/4を往復で2回通過することにより、偏光が90度回転される。すなわち、今度は有効方向の直線偏光になってKTN結晶26に入射され、KTN結晶26によって分光される。このときの光路は図中で実線矢印によって記され、破線矢印と鏡像の関係となる光路となる。すなわち、KTN結晶26を射出した分光光線は凹面鏡23によって反射され、スリット24によって所望の波長を選択され、検出器25によって検出される。このとき、スリット24と検出器25は両光路によって共有され、分光された波長が重なり合うように設計することにより、検出器25にはロスの少ない光量が到達される。
【0053】
上記の構成によれば、KTN結晶の持つ偏光特性による光量のロスを防ぐことができる。なお、検出器25とスリット24の代わりに、一次元配列検出器を配置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】一般的な形のレーザー走査型顕微鏡の模式図である。
【図2】従来のレーザー走査型顕微鏡の内部構成を説明する概略図である。
【図3】KTN結晶の働きについて説明する図である。
【図4】KTN結晶にランダム偏光が入射した場合の作用を説明する図である。
【図5】KTN結晶を使って波長選択を行うための基本構成の図である。
【図6】本発明の実施例1によるスキャンユニットの内部構成の概略図である。
【図7】本発明の実施例2によるスキャンユニットの内部構成の概略図である。
【図8】本発明の実施例3によるスキャンユニットの内部構成の概略図である。
【図9】本発明の実施例4によるスキャンユニットの内部構成の概略図である。
【図10】本発明の実施例5によるスキャンユニットの内部構成の概略図である。
【図11】本発明の実施例6によるスキャンユニットの内部構成の概略図である。
【図12】本発明の実施例7による分光の概略図である。
【図13】本発明の実施例8による分光の概略図である。
【図14】本発明の実施例9による分光の概略図である。
【符号の説明】
【0055】
1・・・顕微鏡本体
2・・・ステージ
3・・・試料
4・・・対物レンズ
5・・・スキャンユニット
6・・・レーザーユニット
7・・・ファイバーケーブル
8・・・コンピュータ端末
9・・・レーザー光源
10・・・ダイクロイックミラー
11・・・ミラー
12・・・AOTF
13・・・ファイバーカップリング機構
14・・・ミラー
15・・・ダイクロイックミラー
16・・・ガルバノミラー
17・・・瞳投影レンズ
18・・・結像レンズ
19・・・ミラー
20・・・結像レンズ
21・・・共焦点ピンホール
22・・・ダイクロイックミラー
23・・・凹面ミラー
24・・・スリット
25・・・検出器
26・・・KTN結晶
27・・・電極
28・・・電界傾斜
29・・・スリット
30・・・偏光ビームスプリッター
31・・・λ/2板
32・・・合成光学部材
33・・・1次元配列検出器
34・・・2次元配列検出器
35・・・多面鏡
36・・・レンズ
37・・・λ/4板+ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察光を分光して検出するレーザー走査型顕微鏡において、
前記観察光を分散特性によって分光して射出するKTN結晶と、
前記KTN結晶から射出された射出光を検出する検出器と、
前記KTN結晶と前記検出器の間に配置される、前記KTN結晶の屈折率傾斜に直交した方向に開口したスリットとを備え、
前記KTN結晶に印加する電圧を制御することによって、前記スリットを通過する前記射出光の検出波長を動的に切り換えることを特徴とするレーザー走査型顕微鏡。
【請求項2】
観察光を分光して検出するレーザー走査型顕微鏡において、
前記観察光を分散特性によって分光して射出するKTN結晶と、
前記KTN結晶から射出された射出光を検出するための前記KTN結晶の屈折率傾斜方向に配列された1次元配列検出器を備え、
前記KTN結晶に印加する電圧を制御することによって、前記射出光の検出波長を動的に切り換えることを特徴とするレーザー走査型顕微鏡。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のレーザー走査型顕微鏡において、
前記KTN結晶に入射する観察光は、偏光ビームスプリッターとλ/2板を組み合わせて、前記KTN結晶の有効方向の直線偏光に変換された後に前記KTN結晶に入射されることを特徴とするレーザー走査型顕微鏡。
【請求項4】
観察光を分光して検出するレーザー走査型顕微鏡において、
前記観察光を分散特性によって分光して射出する第一のKTN結晶と、
前記第一のKTN結晶によって分光された射出光を、前記射出光の分光方向と直交する方向にさらに分光して射出する第二のKTN結晶と、
前記第二のKTN結晶から射出された前記射出光を検出するための2次元配列検出器を備え、
前記観察光の波長分布と偏光の比率を同時に検出することを特徴とするレーザー走査型顕微鏡。
【請求項5】
観察光を分光して検出するレーザー走査型顕微鏡において、
前記観察光を分散特性によって分光して射出する第一のKTN結晶と、
前記第一のKTN結晶によって分光された射出光を、前記射出光の分光方向と直交する方向にさらに分光して射出する第二のKTN結晶と、
前記第一のKTN結晶の屈折率傾斜方向に配列された第一の1次元配列検出器と
前記第二のKTN結晶の屈折率傾斜方向に配列された第二の1次元配列検出器を備え、
前記観察光の波長分布と偏光の比率を同時に検出することを特徴とするレーザー走査型顕微鏡。
【請求項6】
観察光を分光して検出するレーザー走査型顕微鏡において、
前記観察光を分散特性によって分光して射出するKTN結晶と、
前記KTN結晶から射出された射出光を検出するための2次元配列検出器を備え、
前記KTN結晶に印加する電界を回転させることにより、前記KTN結晶から射出される前記射出光の分光方向を回転させることによって波長分布とその時間変化を検出することを特徴とするレーザー走査型顕微鏡。
【請求項7】
観察光を分光して検出するレーザー走査型顕微鏡において、
前記観察光を分散特性によって分光して射出するKTN結晶と、
前記KTN結晶から射出された射出光を反射する多面鏡と、
前記多面鏡から反射された反射光を集光させるレンズと、
前記レンズの集光面に配置され、前記観察光の分光方向に配列された1次元配列検出器を備え、
前記KTN結晶に印加する電圧を制御することによって、前記観察光の分散を動的に切り換えることを特徴とするレーザー走査型顕微鏡。
【請求項8】
観察光を分光して検出するレーザー走査型顕微鏡において、
前記観察光を分散特性によって分光して射出するKTN結晶と、
前記KTN結晶の有効方向の偏光成分を偏向して射出された第一の射出光を反射する第一の多面鏡と、
前記KTN結晶の有効方向と直交する偏光成分を偏向せずに射出された第二の射出光の偏光面を90度回転させて再び前記KTN結晶に入射するためのλ/4板と反射部材の組み合わせと、
前記反射部材から入射された直線偏光を偏向して射出された第二の射出光を反射する第二の多面鏡と、
前記第一の多面鏡から反射された反射光と前記第二の多面鏡から反射された反射光を同時に集光させるレンズと、
前記レンズの集光面に配置され、前記観察光の分光方向に配列された1次元配列検出器を備え、
前記KTN結晶に印加する電圧を制御することによって、前記観察光の分散を動的に切り換え、波長分布と偏光の比率を同時に検出することを特徴とするレーザー走査型顕微鏡。
【請求項9】
観察光を分光して検出するレーザー走査型顕微鏡において、
前記観察光を分散特性によって分光して射出するKTN結晶と、
前記KTN結晶の有効方向の偏光成分を偏向して射出された第一の射出光を反射する第一の凹面鏡と、
前記KTN結晶の有効方向と直交する偏光成分を偏向せずに射出された第二の射出光の偏光面を90度回転させて再び前記KTN結晶に入射するためのλ/4板と反射部材の組み合わせと、
前記反射部材から入射された直線偏光を偏向して射出された第二の射出光を反射する第二の凹面鏡と、
前記第一の凹面鏡から反射された反射光と前記第二の凹面鏡から反射された反射光の共通光路上に配置され、分光方向に直交した方向に開口したスリットと、
前記スリットによって所望の波長を選択して検出する検出器を備え、
前記KTN結晶に印加する電圧を制御することによって、前記スリットを通過する前記射出光の検出波長を動的に切り換えることを特徴とするレーザー走査型顕微鏡。
【請求項10】
観察光を分光して検出するレーザー走査型顕微鏡において、
前記観察光を分散特性によって分光して射出するKTN結晶と、
前記KTN結晶の有効方向の偏光成分を偏向して射出された第一の射出光を反射する第一の凹面鏡と、
前記KTN結晶の有効方向と直交する偏光成分を偏向せずに射出された第二の射出光の偏光面を90度回転させて再び前記KTN結晶に入射するためのλ/4板と反射部材の組み合わせと、
前記反射部材から入射された直線偏光を偏向して射出された第二の射出光を反射する第二の凹面鏡と、
前記第一の凹面鏡から反射された反射光と前記第二の凹面鏡から反射された反射光の共通光路上に配置され、分光方向に配列された1次元配列検出器と、
前記スリットによって所望の波長を選択して検出する検出器を備え、
前記KTN結晶に印加する電圧を制御することによって、前記スリットを通過する前記射出光の検出波長を動的に切り換えることを特徴とするレーザー走査型顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図5】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−197178(P2008−197178A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−29758(P2007−29758)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】