説明

レーザ加工によるピアシング加工方法及び付着用具

【課題】レーザ切断加工開始時のピアシング加工時に、スパッタがワーク表面に溶着することを防止できるピアシング加工方法及び付着治具を提供する。
【解決手段】付着用具23の先端部に備えた接触部材59を、ワークのピアシング加工位置へ接触させて、接触部材59に保持されたスパッタ溶着防止剤を、ピアシング加工位置を含む周囲に付着する。そして、レーザ加工ヘッドを移動位置決めして、レーザ加工によるピアシング加工を開始する。付着用具23は、ワークに対して相対的にX、Y、Z軸方向へ移動自在なレーザ加工ヘッドを備えたレーザ加工機における機体の一部に、レーザ加工ヘッドからワークへレーザ光を照射する方向と同方向へ移動可能に支持される筒状の付着具本体27を備え、付着具本体27の長手方向へ移動可能に備えられた接触部材ホルダ57の先端部に、ワークへ付着するスパッタ溶着防止剤を保持した接触部材59を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工機によって板状のワークのレーザ切断加工を開始するときのピアシング加工方法及び同加工方法に使用する付着用具に係り、さらに詳細には、ピアシング加工時に飛散するスパッタなどがピアシング加工位置の周囲に溶着することを防止してピアシング加工を行うピアシング加工方法及び前記スパッタなどの溶着を防止するための付着用具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザ加工機によって板状のワークのレーザ切断加工を行う場合、レーザ切断加工開始位置に、ワークの上面(表面)から下面(裏面)に貫通した貫通孔を形成するためのピアシング加工を行い、このピアシング加工の終了後にレーザ切断加工に移行している。
【0003】
前記のごとく、レーザ切断加工開始位置にピアシング加工を行うとき、ワークの裏面(下面)に貫通孔が達するまでは、レーザ光の照射によって溶融した溶融金属はレーザ切断加工位置へ噴射されている高圧ガスによってスパッタとして周囲に飛散される。そして、飛散されたスパッタはワーク上面に落下してワーク上面に溶着することがある。上述のように、ワーク上面にスパッタが溶着すると前記高圧ガスによって吹き飛ばすことが難しいものである。したがって、ワーク上面とレーザ加工ヘッドとの間隔寸法をギャップセンサによって検出し、上記間隔寸法を一定に保持して倣い加工を行おうとすると、ワーク上面に溶着したスパッタの影響を受けて加工条件が異なり加工品質が低下することがある。
【0004】
そこで、スパッタがワーク表面に溶着することを防止するために、ワーク表面にスパッタ防止剤を塗布することが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−230413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に記載の構成は、被加工物に向けてスパッタ防止剤を吹き付けて、被加工面にスパッタ防止剤を塗布するばかりでなく、発生するスパッタ自体をスパッタ防止剤によってコーティングするものである。したがって、スパッタが被加工物の上面に溶着することを防止することができるものの、スパッタ防止剤の消費量が多いと共に、後工程に移行するときに、ワーク表面に残るスパッタ防止剤を除去することが必要な場合があり、さらなる改善が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前述のごとき従来の問題に鑑みてなされたもので、レーザ加工による板状のワークのピアシング加工方法であって、レーザ加工ヘッドに対してX、Y軸方向へ相対的に移動位置決め自在なワークに対して接近離反する方向であるZ軸方向へ移動可能に備えられた付着用具を、前記ワークに接近する方向へ移動する(a)工程と、前記付着用具の先端部に備えた接触部材を、ワークのピアシング加工位置へ接触させて、当該接触部材に保持されているスパッタ溶着防止剤を、前記ピアシング加工位置を含む周囲に付着する(b)工程と、前記スパッタ溶着防止剤を付着した前記ピアシング加工位置を前記レーザ加工ヘッドに対応した位置へ相対的に移動位置決めして、レーザ加工によるピアシング加工を開始する(c)工程、の各工程を備えていることを特徴とするものである。
【0008】
また、前記レーザ加工によるピアシング加工方法において、前記ピアシング加工位置へのスパッタ溶着防止剤の付着は、前記ワークの付着面に沿っての前記接触部材の相対的な移動を行うことなく接触動作のみによって行うことを特徴とするものである。
【0009】
また、前記レーザ加工によるピアシング加工方法に使用する付着用具であって、板状のワークに対して相対的にX、Y、Z軸方向へ移動自在なレーザ加工ヘッドを備えたレーザ加工機における機体の一部に、前記レーザ加工ヘッドからワークへレーザ光を照射する方向と同方向へ移動可能に支持される筒状の付着具本体を備え、当該付着具本体内に当該付着具本体の長手方向へ移動可能に備えられた接触部材ホルダの先端部に、ワークへ付着するスパッタ溶着防止剤を保持した接触部材を備えていることを特徴とするものである。
【0010】
また、前記付着用具において、前記付着具本体は、前記ワークにパンチング加工を行うためのパンチを上下動可能に支持するパンチホルダに備えたリフタースプリングに支持されるフランジ部を備えていることを特徴とするものである。
【0011】
また、前記付着用具において、前記パンチを打圧すべく上下動自在なストライカによって押圧されるヘッド部材を上端部に備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、付着用具の先端部に備えた接触部材を、ワークのピアシング加工位置へ接触させてスパッタ溶着防止剤を付着させるものであるから、ワーク表面に対するスパッタ溶着防止剤の付着量を少なくすることができるものである。したがって、本発明によれば、スパッタが溶着することを防止できると共に、スパッタ溶着防止剤の消費量を少なくすることができ、かつ後処理としてワーク上面からスパッタ溶着防止剤を除去する工程を省略することができ、能率向上を図ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係るレーザ・パンチ複合加工機を概念的、概略的に示した平面説明図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る付着用具の断面説明図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る付着用具の断面説明図である。
【図4】本発明の第3の実施形態に係る付着用具の断面説明図である。
【図5】本発明の第4の実施形態に係る付着用具の断面説明図である。
【図6】本発明の第5の実施形態に係る付着用具の断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明するに、板状のワークにレーザ切断加工を行うレーザ加工機には、レーザ加工機単体としての構成や、例えば板状のワークにパンチング加工を行うパンチプレスとレーザ加工機とを複合化し、ワークにパンチング加工を行った後に、パンチング加工位置を含むように製品の輪郭をレーザ切断する場合などがある。
【0015】
したがって、レーザ加工機の実施形態としては、パンチプレスと複合化したレーザ・パンチ複合加工機の場合について例示し説明する。さて、図面を用いて実施形態に係るレーザ・パンチ複合加工機について説明するに、レーザ・パンチ複合加工機の全体的構成は既に公知であるが、理解を容易にするために、全体的構成について簡単に説明する。
【0016】
平面図として図1に示すように、実施形態に係るレーザ・パンチ複合加工機1は、板状のワークWにパンチング加工を行うためのパンチプレス3とワークWにレーザ切断加工を行うためのレーザ加工機5とを複合化した構成である。前記パンチプレス3は、本実施形態においてはタレットパンチプレスにて例示してある。
【0017】
すなわち、タレットパンチプレス3は、上部フレーム7Uと下部フレーム7Lとを上下に離隔して備えた門型構成のフレーム本体7を備えている。そして、前記フレーム本体7における上部フレーム7Uには、複数のパンチ(上金型)を上下動可能かつ着脱交換可能に備えたパンチホルダとしての上部タレット9Uが水平に回転自在に備えられており、前記下部フレーム7Lには、前記各パンチに対応した複数のダイ(下金型)を着脱交換可能に備えたダイホルダとしての下部タレット9Lが水平に回転自在に備えられている。
【0018】
前記上下のタレット9U,9Lを回転して対をなすパンチ、ダイをパンチング加工位置Pに割出し位置決めしたときに、当該対をなすパンチ、ダイによってワークWにパンチング加工を行うために、パンチを打圧自在なストライカSが上下動自在に備えられている。このストライカSは、パンチの下降位置を調節自在であり、ストライカS自体の上下動位置を調節自在である。すなわちストライカSの上下動位置は、ストライカSを上下動するための上下動用アクチュエータを制御することにより所望の上下動位置が位置調節自在である。
【0019】
前記パンチング加工位置Pに対してワークWをX、Y軸方向へ移動するために、前記パンチプレス3はワークWを支持するワークテーブル11を備えている。また、パンチプレス3は、Y軸モータYMによって前記パンチング加工位置Pに対して接近離反する方向であるY軸方向へ移動位置決め自在なキャリッジベース13を備えている。このキャリッジベース13はX軸方向に長く形成してあり、このキャリッジベース13には、当該キャリッジベース13に装着したX軸モータXMによってX軸方向へ移動位置決めされるキャリッジ15がX軸方向へ移動自在に備えられている。そして、前記キャリッジ15には、ワークWの端縁部をクラング可能な複数のワーククランプ17が互いに接近離反する方向へ移動可能に備えられている。
【0020】
前記レーザ加工機5は、レーザ発振器19を備えると共に、前記パンチング加工位置Pに近接したレーザ加工位置Lに配置したレーザ加工ヘッド21を上下動可能に備えており、前記レーザ発振器19と前記レーザ加工ヘッド21は、前記レーザ発振器19において発振されたレーザビームを前記レーザ加工ヘッド21へ導くための、例えば複数の反射鏡とビームダクトとを組合せた光路や光ファイバーなどのごとき適宜の光路を介して光学的に接続してある。
【0021】
したがって、前記ワーククランクプ17によってクランクプしたワークWを、パンチング加工位置P、レーザ加工位置Lに対して相対的にX、Y軸方向へ移動し、ワークWの加工位置を前記パンチング加工位置Pに対応した位置へ位置決めしてパンチング加工を行うことや、レーザ加工位置Lに対応した位置へ位置決めしてレーザ加工を行うことができるものである。
【0022】
ところで、レーザ・パンチ複合加工機1においては、パンチング加工位置PにおいてワークWにパンチング加工を行った後に、前記パンチング加工位置を内側に含むように、レーザ加工位置Lにおいて製品の輪郭のレーザ切断加工を行うものである。前述のごとくレーザ加工位置LにおいてワークWのレーザ切断を開始すると、レーザ切断加工の開始時におけるピアシング加工時には、ワークの裏面(下面)に貫通した貫通孔が形成されるまではスパッタがワークWの上面に飛散し溶着することがある。
【0023】
したがって、前記スパッタの溶着を防止するために、前記レーザ・パンチ複合加工機1にはスパッタ溶着防止手段が講じられている。より詳細には、前記パンチホルダの一例としての前記上部タレット9Uには、ワークWの上面にスパッタ溶着防止剤を付着するための付着用具23(図2参照)が上下動可能かつ着脱交換可能に備えられている。すなわち、付着用具23は、図2に示されるように、パンチを支持可能なリフタースプリング25を介して前記上部タレット9Uに上下動可能に支持される筒状の付着具本体27を備えている。
【0024】
より詳細には、前記付着用具23における付着具本体27は、前記ワークWに対して相対的にX、Y、Z軸方向へ移動自在な前記レーザ加工ヘッド21を備えた前記レーザ加工機5の機体の一部としての前記上部タレット9Uに上下動自在に支持されているものである。ところで、本実施形態においては、パンチプレス3とレーザ加工機5とを複合化した複合加工機の場合について例示するものであるから、レーザ加工機5を主体として見た場合、パンチプレス3における上部タレット9Uは、レーザ加工機5における機体の一部と見なすことができるものである。
【0025】
なお、レーザ加工機5が単体の場合には、前記レーザ加工ヘッド21に近接した機体の一部に支持ブラケット等の支持部材を備え、この支持部材に付着用具23を上下動可能に備え、適宜の上下動用アクチュエータによって、前記付着用具23の上下動を行うことになるものである。この場合、前記支持部材はレーザ加工機における機体の一部を構成することになるものである。
【0026】
前記付着用具23は、前記レーザ加工ヘッド21からワークWへレーザ光を照射する方向と同方向(本実施形態の場合は上下方向であってワークWの表面(上面)に対して接近離反するZ軸方向)へ往復動可能に備えられているものである。前記付着具本体27は、前記リフタースプリング25によって支持されるフランジ部27Fを上端部に備えた構成である。そして、前記付着具本体27内には、前記フランジ部27F上に着脱可能に備えたリテーナカラー29を上下動自在に貫通した軸状の上下ドライバ31の下端側が上下動自在に嵌入してある。
【0027】
そして、前記上下ドライバ31の上端部に上下位置調節可能に螺着したヘッド部材33の下面に当接自在なスプリング座35とリテーナカラー29との間には強力なコイルスプリングなどのごとき弾性部材37が弾装してある。前記スプリング座35の下面には、前記弾性部材37の周囲を覆う筒状のカバー39が備えられている。前記ヘッド部材33は、パンチプレスに上下動自在かつ上下位置調節可能に備えられた前記ストライカSによって押圧されるものである。
【0028】
前記付着具本体27内であって、前記上下ドライバ31と付着具本体27の下端部に備えた板押え部27Eとの間には、ホルダ筒体41が上下動可能に嵌入されており、このホルダ筒体41の上面と前記上下ドライバ31の下部との間にはダンパー用の弾性部材43が弾装してある。そして、ホルダ筒体41の下面と前記板押え部27Eとの間には復帰用の弾性部材45が弾装してある。
【0029】
前記ホルダ筒体41内には、保持部材47が止めねじなどのごとき固定具49によって着脱可能に固定してある。そして、当該保持部材47の先端側(下端側)に着脱交換可能に保持された筒状のホルダ容器51内には、貯留部53が備えられている。この貯留部53内には、スパッタ溶着防止剤が貯留されている。上記スパッタ溶着防止剤としては、例えば前記特許文献1に記載されているスパッタ防止剤と同様な、又はジメチルシリコンオイルなどのごとき適宜なスパッタ溶着防止剤が使用される。なお、前記貯留部53にスパッタ溶着防止剤を貯留する構成としては、例えば貯留部53内にスパッタ溶着防止剤を流し込んだ状態や、スパッタ溶着防止剤を滲み出し可能に含有した例えば綿類などの含有部材を内装した構成など適宜の構成を採ることができる。
【0030】
前記ホルダ容器51の上部には上蓋部材55が取付けてあり、下部には接触部材ホルダ57が備えられている。そして、この接触部材ホルダ57の下面には接触部材59が備えられている。この接触部材59は、前記貯留部53から滲み出るスパッタ溶着防止剤を保持する機能を有する例えば多孔質部材などのごとき適宜の部材から構成してあり、当該接触部材59がワークWの表面に接触したときに、当該接触部材59に保持されているスパッタ溶着防止剤をワーク表面に付着する機能を奏するものである。
【0031】
以上のごとき構成において、パンチプレス3におけるパンチング加工位置Pに対してワークWの加工位置を位置決めして、ワークWにパンチング加工を行なった後、ワークWにおいてパンチング加工された部分を内側に含むように、レーザ加工機5によって製品の輪郭のレーザ切断加工を行うことになる。この際、ワークWにピアシング加工を行うと、ワークWに貫通孔が形成するまではスパッタがワーク表面に飛散し、ピアシング加工位置の周りに溶着することがある。
【0032】
そこで、上部タレット9Uを旋回して、当該上部タレット9Uに支持された付着用具23をパンチング加工位置Pに割出し位置決めする。そして、ワークWをX,Y軸方向へ移動して、ワークWにピアシング加工を行う位置を、前記付着用具23の下方に位置決めする。その後に、パンチプレス3におけるストライカSを下降して、付着用具23に備えたヘッド部材33に当接し下方向へ押圧すると、先ず、リフタースプリング25が圧縮されて付着具本体27が下降され、付着具本体27の板押え部27EがワークWの上面(表面)に当接し、下部タレット9Lに支持されているダイに対してワークWを押圧する。
【0033】
その後、前記ストライカSをさらに下降すると弾性部材37が次第に圧縮されて、上下ドライバ31が次第に下降される。前述のように、上下ドライバ31が下降されると、上側の弾性部材43の方が下側の弾性部材45より強力であるので、下側の弾性部材45が次第に圧縮されてホルダ筒体41が次第に下降される。したがって、前記付着具本体27の下端部に備えた上下方向の貫通穴27H内を接触部材59が下降し、ワークWの上面に接触することになる。よって、接触部材59に含有(保持)されているスパッタ溶着防止剤はワーク上面に付着される。
【0034】
上述のように、接触部材59がワーク上面に接触した状態において、前記ストライカSがさらに下降された場合には、上側の弾性部材43が圧縮されることとなり、前記上下ドライバ31の下降を吸収するものである。その後、ストライカSを上昇復帰すると、付着用具23は元の位置へ上昇復帰され、かつホルダ筒体41等も元の位置へ上昇復帰されるものである。
【0035】
既に理解されるように、ワークWのピアシング加工開始位置に対するスパッタ溶着防止剤の付着作用は、ワークWの上面に対して接触部材59をワーク上面に沿って移動すること、すなわちワークWに対して接触部材59を擦ることなく、ワークWの上面に対して接触部材59を接近離反する方向へ移動して接触したときの接触動作のみによって付着するものであるから、ワーク上面のピアシング加工開始位置に付着されるスパッタ溶着防止剤の消費量を少なく抑制することができるものである。そして、ワークWのピアシング加工開始位置にスパッタ溶着防止剤を付着したことにより、ピアシング加工時に飛散したスパッタがワークWの上面に溶着することを防止することができるものである。
【0036】
ところで、前述のごとく接触部材59の下面をワーク上面に接触させてスパッタ溶着防止剤を付着した面積が必要以上に大きい場合には、スパッタ溶着防止剤の消費量が多くなる。そこで、穴径が1.6mm、2.0mm、3.0mmのテンプレートを作成し、このテンプレート上からワーク上面にスパッタ溶着防止剤を付着させてピアシング加工を行ったところ、穴径が1.6mm、2.0mmの場合には、飛散したスパッタがワーク上面に溶着することを防止する効果は、スパッタ溶着防止剤を付着させた領域内において認められたものの、前記穴径の外側においてスパッタがワーク上面に溶着する場合があった。しかし、テンプレートの穴径が3.0mmの場合には、当該穴径の外側においても、スパッタがワーク上面に溶着するようなことはなかった。
【0037】
したがって、前記接触部材59がワークWの上面に接触してスパッタ溶着防止剤をワーク上面に付着させる部分の直径は少なくとも3mmであることが望ましいものである。なお、直径3mmの範囲内にスパッタ溶着防止剤を付着させた場合、直径3.0mmの外側へ飛散されるスパッタは、ワーク上面に落下するまでに冷却されることとなり、ワーク上面に溶着するようなことがないものである。
【0038】
以上のごとき説明より理解されるように、ピアシング加工開始位置へのスパッタ溶着防止剤の付着は、スパッタ溶着防止剤を吹き付けたり、擦り付けたりすることなく、接触部材59を、ワークに対して接近離反する方向へ移動して接触したときに付着するものである。すなわち、接触部材59がワークWの上面に対して接近離反する方向へ動作する接触動作のみによってスパッタ溶着防止剤の付着を行うものであるから、スパッタ溶着防止剤の消費量を抑制することができると共に、スパッタ溶着防止剤の付着量が多過ぎることなく適正量の付着を行うことができ、前述したごとき従来の問題を解消することができるものである。
【0039】
なお、本発明は前述したごとき実施形態のみに限ることなく、適宜の変更を行うことにより、その他の形態でも実施可能である。すなわち、前記実施形態においては、付着用具23を、パンチホルダの一例としての上部タレット9Uに備えた場合について例示したが、パンチホルダに限ることなく、付着用具23をフレーム本体7またはレーザ加工ヘッド21の適宜位置に装着し、適宜に備えた上下動用のアクチュエータによって前記付着用具23を上下動する構成とすることも可能なものである。すなわち適宜変更を行うことにより、種々の形態でもって実施可能なものである。
【0040】
図3は、付着用具の第2の実施形態を示すものである。この第2の実施形態に係る付着用具23Aにおいて、前記付着用具23における構成要素と同一機能を奏する構成要素には同一符号を付することとして、重複した説明は省略する。
【0041】
この第2の実施形態に係る付着用具23Aにおいては、付着具本体27内に上下動可能に嵌入したホルダ筒体61の上端部を、上下ドライバ31の下端部に螺着してある。そして、このホルダ筒体61の下部に上下動可能に嵌入されて下方向への移動を規制されたホルダ容器63と前記上下ドライバ31との間には、ホルダ容器63を常に下方向へ押圧付勢するための弾性部材62が弾装してある。そして、前記ホルダ容器63の下端部は前記ホルダ筒体61から下方向へ突出し、付着具本体27の下端部に備えた貫通穴27Hに臨んで備えられている。
【0042】
前記ホルダ容器63内には中空状の貯留部65が備えられており、この貯留部65の上部に螺着したリング状のスプリング座67と前記ホルダ容器63の先端部から先端が突出した状態に備えられた上下動自在なニードル弁状の接触部材69との間に、コイルスプリング等のごとき弾性部材71が弾装してある。
【0043】
上記構成においては、付着具本体27の板押え部27EがワークWの上面に当接した状態において、付着具本体27に対してホルダ筒体61が下降されて、ホルダ容器63の先端部(下端部)がワーク上面に当接し、接触部材69が弾性部材71の付勢力に抗して相対的に上昇されたときに、前記貯留部65内のスパッタ溶着防止剤が前記接触部材69の周囲から漏れ出て、ワークWの上面に付着されるものであり、前述した付着用具23と同様の効果を奏し得るものである。
【0044】
図4は、付着用具の第3の実施形態を示すものである。この第3の実施形態に係る付着用具23Bにおいて、前述した付着用具の構成要素と同一機能を奏する構成要素には同一符号を付することとして重複した説明は省略する。
【0045】
この付着用具23Bにおいては、付着具本体27の上部に筒状のタンク部材72を備えた構成である。より詳細には、上記タンク部材72は、スパッタ溶着防止剤を貯留するためのチャンバ73を備えた筒状に形成してあり、このタンク部材72の下面に下方向へ突出して備えた軸部75が前記付着具本体27に着脱可能に螺入固定してある。そして、前記チャンバ73の上部を閉じるために前記タンク部材72の上部に螺着固定した蓋部材77には、ヘッド部材79が上下動可能に、かつ板ばね等の付勢手段によって上方向へ付勢して備えられている。このヘッド部材79の中央部には調整ねじ81が回転自在に備えられており、この調整ねじ81の下部側に備えたねじ部には、前記チャンバ73と前記蓋部材77との間の間隙を開閉自在な開閉弁部材83が上下動可能に螺合してある。
【0046】
したがって、上記構成においては、ストライカSによってヘッド部材79を付勢力に抗して僅かに下降すると、前記蓋部材77と開閉部材83との間の間隙が開かれて、前記チャンバ73は一時的に外気と連通状態となる。よって、チャンバ73内からスパッタ溶着防止剤が次第に流出しても、チャンバ73内が負圧となるようなことはないものである。
【0047】
前記タンク部材72における前記軸部75には前記チャンバ73に連通した上下方向の連通孔75Hが形成してあり、前記軸部75の下端部には、前記連通孔75Hを経て滴下するスパッタ溶着防止剤の滴下量を調節可能な調節弁部材85が上下に調節可能に螺着してある。この調節弁部材85、前記軸部75と調節弁部材85との間の微小間隙を調節することによって、スパッタ溶着防止剤の滴下量を調節し得るものである。
【0048】
前記付着具本体27内には、前記軸部75の下面に当接自在な中空軸部材87が上下動可能に嵌入してある。そして、前記付着具本体27の下部に上下動可能に嵌入したホルダ容器89と前記中空軸部材87との間の貯留室92内には、両方を互いに離反する方向へ付勢するコイルスプリングなどのごとき弾性部材91が弾装してある。前記ホルダ容器89の下端部(先端部)は、前記付着具本体27の下面から下方向へ突出してある。このホルダ容器89は、前述したホルダ容器63と同様の構成であって、先端部(下端部)が前記ホルダ容器89の先端部から突出した接触部材69が上下動自在に備えられていると共に、スプリング座67及び弾性部材71を内装した貯留部65を備えている。
【0049】
上記付着用具23Bにおいては、付着具本体27がストライカSによって下降され、ホルダ容器89の下端部がワークWの上面に接触すると、接触部材69が弾性部材71の付勢力に抗して上昇され、前述した付着用具23Aと同様に、ワークWの上面にスパッタ溶着防止剤を付着することができるものである。付着用具23Bにおいては、チャンバ73が大容量であるから、長時間に亘ってスパッタ溶着防止剤の付着を行うことができるものである。
【0050】
図5は、付着用具の第4の実施形態を示すものである。この第4の実施形態に係る付着用具23Cにおいて、前述した付着用具の構成要素と同一機能を奏する構成要素には、同一符号を付することとして重複する説明は省略する。
【0051】
この第4の実施形態の付着用具23Cにおいては、リング状の固定具93によって付着具本体27内に固定した中空軸部材87と、前記付着具本体27の下端側(先端側)に軸方向へ移動自在に備えた摺動軸部材95との間に弾性部材91が弾装してある。前記摺動軸部材95の下面には、前記接触部材59に相当する接触部材97を埋設した埋設穴99が形成してある。そして、上記埋設穴99には、前記弾性部材91を内装した貯留室92内からスパッタ溶着防止剤を導入する導入孔101が形成してある。前記接触部材97の下面(先端面)は、前記付着具本体27の下面(先端面)から常に突出した状態にある。
【0052】
前記構成において、付着具本体27の先端面をワークWの表面(上面)に近接するように移動し、ワーク表面に前記接触部材97が接触されると、当該接触部材97に含有(保持)されているスパッタ溶着防止剤がワーク表面に付着される。その後、付着具本体27の先端面がワーク表面に接触するように、さらに接近移動すると、摺動軸部材95が没入される。そして、摺動軸部材95に備えた導入孔101が貯留室92に連通し、貯留室92内のスパッタ溶着防止剤を埋設穴99内の接触部材97に導入し補充することになる。
【0053】
したがって、前記接触部材97に必要以上に多くのスパッタ溶着防止剤を含有することがなく、常に適正量のスパッタ溶着防止剤を、ワークWの表面のピアシング加工位置に付着させることができるものである。
【0054】
図6は、付着用具の第5の実施形態を示すものである。この第5の実施形態に係る付着用具23Dにおいて、前述した付着用具の構成要素と同一機能を奏する構成要素には同一符号を付することとして重複した説明は省略する。
【0055】
この第5の実施形態に係る付着用具23Dは、前述したタンク部材72と付着具本体27とを一体に形成した構成である。すなわち、付着用具23Dにおける付着具本体103は、前述したフランジ部27Fに相当する大径底部103Aの上部に、チャンバ73を備えた大径筒部103Bを一体に備えた構成である。そして、前記チャンバ73の底部付近における付着具本体103には、チャンバ73内のスパッタ溶着防止剤の残量を確認するための覗き穴105が形成してあり、この覗き穴105は例えば透明なプラスチックなどの適宜の透明部材によって密閉してある。
【0056】
上記構成により、前記覗き穴105からチャンバ73内のスパッタ溶着防止剤の残量を確認することができる。そして、少なくなったときの補充を行うために、前記チャンバ73の上部開口には、蓋部材107が着脱可能に螺合してある。この蓋部材107には、コイルスプリングなどのごとき弾性部材109によって常に上方向へ付勢されたヘッド部材111が上下動自在に備えられている。そして、前記ヘッド部材111の中央部には調整ねじ113が回転のみ自在に備えられている。
【0057】
前記調整ねじ113の下部には、前記チャンバ73内へ突出した開閉弁部材115が相対的に上下調節可能に螺合してある。そして、前記開閉弁部材115の上面には、前記蓋部材107の下面に対して接触離脱自在なOリングなどのごときシール部材117が備えられている。したがって、前記弾性部材109に抗して前記ヘッド部材111を下降したときには、蓋部材107の下面から前記シール部材117が離れて、前記チャンバ73内と外部とが連通し、チャンバ73内に外気が入り込み可能なものである。なお、前記調整ねじ113と前記開閉弁部材115との螺合状態を調節することにより、前記蓋部材107の上面に対する前記ヘッド部材111の突出高さを調節することができるものである。
【0058】
前記付着具本体103の下面には、摺動軸部材95を上下動自在に備えた軸ホルダ119がボルトなどのごとき複数の固定具(図示省略)によって着脱可能に取付けてある。なお、前記摺動軸部材95においては前記接触部材97に代えて摺動軸部材95が接触部材を兼ねるものであって、摺動軸部材95の下端面には、導入孔101に連通した連通孔121が開口してある。
【0059】
したがって、上記構成においては、ストライカSによってヘッド部材111を押圧すると、弾性部材109に抗してヘッド部材111が僅かに下降されて、チャンバ73は外部に連通される。そして、前記ヘッド部材111の上面と蓋部材107の上面とが等しい高さになると、蓋部材107もストライカSによって押圧される。その後、付着具本体103が下降されて、摺動軸部材95の先端部(下端部)がワークWの上面に当接し、弾性部材91に抗して相対的に上昇されると、導入孔101が貯留室92に連通される。したがって、貯留室92内のスパッタ溶着防止剤が連通孔121から流出される形態となって、ワーク表面に付着されるものである。
【0060】
以上のごとき説明より理解されるように、本実施形態に係る付着用具は、当該付着用具に備えた接触部材を、ワーク表面に対して接近する方向へ移動し、ワーク表面に接触したときに、その接触位置においてスパッタ溶着防止剤をワーク表面に付着するものである。換言すれば、ワーク表面に沿って前記接触部材を擦ることなく付着するものであるから、必要以上に広い範囲に塗布するようなことがないものである。そして、前記接触部材の接触動作によってワーク表面にスパッタ溶着防止剤を付着するものであるから、スパッタ溶着防止剤の粘性によって付着するものであり、必要以上に多量のスパッタ溶着防止剤を付着するようなことはないものである。
【0061】
したがって、スパッタ溶着防止剤の消費量を抑制することができると共に、レーザ切断加工後にスパッタ溶着防止剤を除去する後工程等が不要であって、前述したごとき従来の問題を解消し得るものである。
【0062】
また、前述したように、レーザ・パンチ複合加工機1の適宜位置、例えばパンチを支持したパンチホルダなどや機体の一部などに付着用具を備えて使用することが可能である。この場合には、ワークに対してパンチング加工を行った後、レーザ切断加工を行う直前に、ピアシング加工位置に対応してスパッタ溶着防止剤を付着することができるものである。したがって、パンチング加工時のワークの振動によってスパッタ溶着防止剤が周囲に薄く広がるようなことがなく、パンチング加工位置を含む製品の輪郭のレーザ切断加工を行うとき、ピアシング加工時に飛散する傾向にあるスパッタの溶着を効果的に防止することができるものである。
【0063】
また、前記付着用具はレーザ加工機のレーザ加工ヘッドやその近くに配置して使用することが可能であり、レーザ切断加工開始時のピアシング加工時にスパッタの溶着を効果的に防止することができるものである。
【符号の説明】
【0064】
1 レーザ・パンチ複合加工機
3 パンチプレス(タレットパンチプレス)
5 レーザ加工機
19 レーザ発振器
21 レーザ加工ヘッド
23 付着用具
27 付着具本体
27F フランジ部
31 上下ドライバ
41 ホルダ筒体
43,45 弾性部材
47 保持部材
51 ホルダ容器
53 貯留部
57 接触部材ホルダ
59 接触部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ加工による板状のワークのピアシング加工方法であって、
(a)レーザ加工ヘッドに対してX、Y軸方向へ相対的に移動位置決め自在なワークに対して接近離反する方向であるZ軸方向へ移動可能に備えられた付着用具を、前記ワークに接近する方向へ移動する工程、
(b)前記付着用具の先端部に備えた接触部材を、ワークのピアシング加工位置へ接触させて、当該接触部材に保持されているスパッタ溶着防止剤を、前記ピアシング加工位置を含む周囲に付着する工程、
(c)前記スパッタ溶着防止剤を付着した前記ピアシング加工位置を前記レーザ加工ヘッドに対応した位置へ相対的に移動位置決めして、レーザ加工によるピアシング加工を開始する工程、
の各工程を備えていることを特徴とするレーザ加工によるピアシング加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ加工によるピアシング加工方法において、前記ピアシング加工位置へのスパッタ溶着防止剤の付着は、前記ワークの付着面に沿っての前記接触部材の相対的な移動を行うことなく接触動作のみによって行うことを特徴とするレーザ加工によるピアシング加工方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のレーザ加工によるピアシング加工方法に使用する付着用具であって、板状のワークに対して相対的にX、Y、Z軸方向へ移動自在なレーザ加工ヘッドを備えたレーザ加工機における機体の一部に、前記レーザ加工ヘッドからワークへレーザ光を照射する方向と同方向へ移動可能に支持される筒状の付着具本体を備え、当該付着具本体内に当該付着具本体の長手方向へ移動可能に備えられた接触部材ホルダの先端部に、ワークへ付着するスパッタ溶着防止剤を保持した接触部材を備えていることを特徴とする付着用具。
【請求項4】
請求項3に記載の付着用具において、前記付着具本体は、前記ワークにパンチング加工を行うためのパンチを上下動可能に支持するパンチホルダに備えたリフタースプリングに支持されるフランジ部を備えていることを特徴とする付着用具。
【請求項5】
請求項4に記載の付着用具において、前記パンチを打圧すべく上下動自在なストライカによって押圧されるヘッド部材を上端部に備えていることを特徴とする付着用具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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