説明

レーザ加工方法

【課題】高速加工をも可能とする簡単な構成で、レーザ加工ノズルからワークまでの距離を容易に調整可能とし、レーザ加工の品質を安定させるレーザ加工方法を提供する。
【解決手段】レーザ加工ノズル4から射出するレーザ光LでワークWを加工する際に、レーザ加工ノズル4からアシストガスAGをワークWの加工部位に吹き付けるレーザ加工方法であって、ワークWとレーザ加工ノズル4との間のアシストガス流のベルヌーイ効果による負圧によって、ワークWとレーザ加工ノズル4との少なくとも一方を、両者を近づける方向に引き寄せる作用と、アシストガスAGの吹き付けによって、ワークWとレーザ加工ノズル4との少なくとも一方を、両者を遠ざける方向に引き離す作用と、を利用して、ワークWとレーザ加工ノズル4との間の距離を一定の範囲内に保ちながらワークWを加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工方法に関する。詳しくは、レーザ加工ノズルから射出するレーザ光でワークを加工する際に、レーザ加工ノズルからアシストガスをワークの加工部位に吹き付けるレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザ加工ノズルからアシストガスをワークの加工部位に吹き付けながらレーザ加工ノズルから射出するレーザ光でワークを加工することが行われている(例えば、特許文献1参照)。アシストガスは、レーザ光による加工で瞬間的かつ局所的に入熱して溶融したワークの塵等を除去する。
このようなレーザ加工方法においては、レーザ加工ノズルからワークまでの距離をレーザ光の焦点距離に調整し、レーザ加工の品質を安定させる必要がある。例えば、特許文献1に記載の技術では、レーザ加工ノズルからワークまでの距離をレーザ光の焦点距離に調整するために、レーザ加工ノズルの下部にホルダを設け、下方からワークを弾性部材でホルダに向けて付勢してワークをホルダに押し当てている。これによると、レーザ加工ノズルからワークまでの距離をホルダの長さに合わせて常にレーザ光の焦点距離に一致させ、レーザ加工の品質を安定させることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−103388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載の技術は、ワークをホルダに押し当てる必要があるので、高速加工しようとすればワークとホルダとの接触関係を維持したまま高速駆動するための機構が必要であったり、高速加工するとワークの移動時にワークに接触するホルダによってワークに摺動キズがついてしまったりする等、高速加工に適したものではなかった。このような問題のため、ワークをホルダ等に押し当てずにレーザ加工ノズルからワークまでの距離をレーザ光の焦点距離に調整することが望まれていた。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、高速加工をも可能とする簡単な構成で、レーザ加工ノズルからワークまでの距離を容易に調整可能とし、レーザ加工の品質を安定させるレーザ加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るレーザ加工方法は、レーザ加工ノズル(例えば、後述のレーザ加工ノズル4)から射出するレーザ光(例えば、後述のレーザ光L)でワーク(例えば、後述のワークW)を加工する際に、前記レーザ加工ノズルからアシストガス(例えば、後述のアシストガスAG)を前記ワークの加工部位に吹き付けるレーザ加工方法であって、前記ワークと前記レーザ加工ノズルとの間のアシストガス流のベルヌーイ効果による負圧によって、前記ワークと前記レーザ加工ノズルとの少なくとも一方を、両者を近づける方向に引き寄せる作用を利用して、前記ワークを加工することを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、ワークとレーザ加工ノズルとの間のアシストガス流のベルヌーイ効果による負圧によって、ワークとレーザ加工ノズルとの少なくとも一方を、両者を近づける方向に引き寄せる作用を利用して、ワークを加工する。
よって、ワークとレーザ加工ノズルとの間を、他の部材を介在させないで空隙とする簡単な構成であるにもかかわらず、レーザ加工ノズルからワークまでの距離をアシストガス流のベルヌーイ効果による負圧によって容易に調整することができる。これにより、レーザ加工ノズルからワークまでの距離をレーザ光の焦点距離に調整することもできる。
このため、高速加工しようとする場合にワークと他の部材との接触関係を維持したまま高速駆動するための機構は必要なく、ワークを移動させて高速加工する場合にワークに接触する他の部材によってワークに摺動キズがついてしまうこともなく、高速加工に適する。
このように、高速加工をも可能とする簡単な構成で、レーザ加工ノズルからワークまでの距離を容易に調整可能とし、レーザ加工の品質を安定させることができる。
【0008】
前記ワークと前記レーザ加工ノズルとの間のアシストガス流のベルヌーイ効果による負圧によって、前記ワークと前記レーザ加工ノズルとの少なくとも一方を、両者を近づける方向に引き寄せる作用と、アシストガスの吹き付けによって、前記ワークと前記レーザ加工ノズルとの少なくとも一方を、両者を遠ざける方向に引き離す作用と、を利用して、前記ワークと前記レーザ加工ノズルとの間の距離を一定の範囲内に保ちながら前記ワークを加工するとよい。
【0009】
本発明によれば、一方で、ワークとレーザ加工ノズルとの間のアシストガス流のベルヌーイ効果による負圧によって、ワークとレーザ加工ノズルとの少なくとも一方を、両者を近づける方向に引き寄せる作用を発揮することができる。また他方で、アシストガスの吹き付けによって、ワークとレーザ加工ノズルとの少なくとも一方を、両者を遠ざける方向に引き離す作用を発揮することができる。この両者の作用によって、ワークとレーザ加工ノズルとの間の距離を一定の範囲内に保ちながらワークを加工する。
よって、ワークとレーザ加工ノズルとの間を、他の部材を介在させないで空隙とする簡単な構成であるにもかかわらず、レーザ加工ノズルからワークまでの距離をアシストガス流のベルヌーイ効果による負圧とアシストガスの吹き付けとによって容易に調整することができる。これにより、レーザ加工ノズルからワークまでの距離を一定の範囲内に保ち、その距離をレーザ光の焦点距離に調整することができる。よって、レーザ加工ノズルからワークまでの距離を調整するためのセンサが必要なく、またラフなティーチングで十分足りる。このため、高速加工しようとする場合にワークと他の部材との接触関係を維持したまま高速駆動するための機構は必要なく、ワークを移動させて高速加工する場合にワークに接触する他の部材によってワークに摺動キズがついてしまうこともなく、高速加工に適する。
このように、高速加工をも可能とする簡単な構成で、レーザ加工ノズルからワークまでの距離を容易に調整可能とし、レーザ加工の品質を安定させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高速加工をも可能とする簡単な構成で、レーザ加工ノズルからワークまでの距離を容易に調整可能とし、レーザ加工の品質を安定させるレーザ加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係るレーザ加工システムを示す概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るレーザ加工ノズル及びワークの加工部位周辺の概要を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るヘッド部がフローティングする場合を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るワークが変形する場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係るレーザ加工システム1を示す概略構成図である。
図1に示すように、レーザ加工システム1は、板状のワークWをレーザ光Lによって加工するためのものであり、多関節ロボット2と、多関節ロボット2の先端にエンドエフェクタとして設けられたレーザ加工ツール3と、全体を統括的に制御する不図示のコントローラと、を備える。
多関節ロボット2は、いわゆる産業用ロボットであって、独立的な多軸を有し、移動範囲内でレーザ加工ツール3を任意の位置及び向きに設定することができる。
レーザ加工ツール3は、ワークWに向けてレーザ光Lを射出すると共にアシストガスAGを噴出するレーザ加工ノズル4を有するヘッド部5と、ヘッド部5を微小な力で浮沈可能に吊り下げるスプリング6と、スプリング6を固定するベース部7と、を備える。ヘッド部5には、レーザ光Lを出力するための電力及びアシストガスAGを供給するためのケーブル8が接続されている。このような構成のレーザ加工ツール3は、後述するワークWとレーザ加工ノズル4との間の拡径方向に流れるアシストガス流のベルヌーイ効果による負圧やレーザ加工ノズル4からワークWへのアシストガスAGの吹き付けによって生じる作用で、ヘッド部5をワークWに対して進退方向に移動可能に保持している。つまり、レーザ加工ノズル4を有するヘッド部5は、スプリング6等の付勢部材を介することで、自重よりも微小な力で浮沈可能にフローティングして保持されている。
【0013】
レーザ加工ツール3のヘッド部5は、内部が中空の円筒形状である。ヘッド部5の中空内部には、上方の後端側に不図示のレーザ発振器が設けられている。ケーブル8から電力が供給されたレーザ発振器から出力されるレーザ光Lは、ヘッド部5の中空内部をその中心軸線に沿って直進する。また、ヘッド部5の中空内部には、ケーブル8からアシストガスAGが導入される。
図2は、本実施形態に係るレーザ加工ノズル4及びワークWの加工部位周辺の概要を示す図である。
ヘッド部5のワークWに対向する下方の先端には、図2に示すようなレーザ加工ノズル4が取り付けられる。レーザ加工ノズル4は、逆円錐形の中空内部を有しており、その中空内部はヘッド部5と同一の中心軸線上の先端で開口41となっている。レーザ加工ノズル4は、開口41の中心からは中心軸に沿って直進してきたレーザ光Lを射出すると共にその周りからアシストガスAGを噴出する。レーザ加工ノズル4の逆円錐形の中空内部は、アシストガスAGの流路断面積を徐々に絞ってアシストガスAGの流速を速めている。
レーザ加工ノズル4の開口41を有する先端部には、ワークWに対向する先端対向面42が中心軸に対して直交する平面状に形成されている。レーザ加工ノズル4の平面状の先端対向面42は、後述するワークWとレーザ加工ノズル4との間の拡径方向へ流れるアシストガス流のベルヌーイ効果による負圧を発生させるために、予め設定された所定の面積を有する。
【0014】
以上の構成のレーザ加工システム1では、載置台上に載置等されたワークWに対し、多関節ロボット2によってヘッド部5をある程度の距離に近づけた状態を維持し、ヘッド部5のレーザ加工ノズル4から射出したレーザ光Lを当てると共にヘッド部5のレーザ加工ノズル4から噴出させたアシストガスAGを吹き付けてレーザ加工を行う。
【0015】
ここで、多関節ロボット2は、レーザ加工中において、ヘッド部5のワークWに対する距離を厳密に設定するものではない。しかしながら、レーザ加工ノズル4から射出されるレーザ光Lは焦点距離が合っていないと、ワークWを加工することができない。
このため、本実施形態では、ワークWとレーザ加工ノズル4との間の吹き付け方向とは直交する拡径方向に流れるアシストガス流のベルヌーイ効果による負圧によって、ワークWとレーザ加工ノズル4との少なくとも一方を、両者を近づける方向に引き寄せる作用と、レーザ加工ノズル4からワークWに向かうアシストガスAGの吹き付けによって、ワークWとレーザ加工ノズル4との少なくとも一方を、両者を遠ざける方向に引き離す作用と、を利用して、ワークWとレーザ加工ノズル4との間の距離を一定の範囲内に保ちながらワークWを加工する。
【0016】
ここで、ワークWとレーザ加工ノズル4との間のアシストガス流のベルヌーイ効果による負圧とは、図2に示すように、ワークWとレーザ加工ノズル4の平面状の先端対向面42との間の隙間に中心部から外径側へ拡径方向にアシストガス流が流れると、静圧が低下するベルヌーイ効果が起こり、その結果、大気圧との差による負圧が生じ、ワークWとレーザ加工ノズル4との少なくとも一方を、両者を近づける方向に引き寄せる働きを生じさせるものである。
この負圧を生じさせるためには、アシストガスAGの流速及びレーザ加工ノズル4の平面状の先端対向面42の面積を、ワークWとレーザ加工ノズル4の平面状の先端対向面42との間の距離を後述の一定の範囲内に保つように設定する必要がある。
【0017】
また、アシストガスAGの吹き付けとは、図2に示すように、レーザ加工ノズル4の先端部の開口41から下方へ噴出するアシストガスAGのワークWへの吹き付けを指し、ワークWとレーザ加工ノズル4との少なくとも一方を、両者を遠ざける方向に引き離す働きを生じさせるものである。
【0018】
これら、ベルヌーイ効果による負圧による作用と、アシストガスの吹き付けによる作用とは、互いに逆向きに働くので、両者の作用がバランスしている範囲では、ワークWとレーザ加工ノズル4との間の距離を一定の範囲内に保つことができる。
例えば、ワークWとレーザ加工ノズル4との間の距離が一定の範囲内で広がると、アシストガスAGの吹き付けによる作用が弱まり、ベルヌーイ効果による負圧による作用が強く働くので、ワークWとレーザ加工ノズル4との間の距離が狭まって行く。また、ワークWとレーザ加工ノズル4との間の距離が一定の範囲内で狭まると、アシストガスAGの吹き付けによる作用が強まり、ベルヌーイ効果による負圧による作用が弱く働くので、ワークWとレーザ加工ノズル4との間の距離が広がって行く。これにより、ワークWとレーザ加工ノズル4との間の距離を一定の範囲内に保つことができる。
よって、この一定の範囲内に保つことができるワークWとレーザ加工ノズル4との間の距離を、レーザ光Lの焦点距離と一致させるように、予めレーザ光Lの焦点距離を調整しておく。これにより、ワークWとレーザ加工ノズル4との間の距離を一定の範囲内に保つと、その距離がレーザ光Lの焦点距離となるので、ワークWの加工を容易に行うことができる。
なお、上記では、一定の範囲内に保つことができるワークWとレーザ加工ノズル4との間の距離を、レーザ光Lの焦点距離と一致させるように、予めレーザ光Lの焦点距離を調整するとした。しかし反対に、一定の範囲内に保つことができるワークWとレーザ加工ノズル4との間の距離における一定の範囲を、アシストガスAGの流速及びレーザ加工ノズル4の平面状の先端対向面42の面積を調整して設定するものでもよい。
【0019】
本実施形態において、ワークWとレーザ加工ノズル4との間の距離は、主に2通りの方法で一定の範囲内に保たれる。以下にそれぞれ説明する。
【0020】
図3は、本実施形態に係るヘッド部5がフローティングする場合を示す図である。
ワークWに硬い材料や厚い材料等が用いられ、波打っているワークWの剛性が高い場合には、図3に示すようにヘッド部5がフローティングする。ヘッド部5がフローティングする場合には、剛性の高いワークWの波打ち形状に合わせて、スプリング6によって吊り下げることでフローティングしたヘッド部5を浮沈させて、ワークWとレーザ加工ノズル4との間の距離を一定の範囲内に保つ。例えば、ワークWが上に凸になっていると、ヘッド部5にはレーザ加工ノズル4から噴出するアシストガスの吹き付けによる作用が強く働き、ヘッド部5がワークWから離れるよう浮き上がる。ワークWが下に凹んでいると、ヘッド部5にはベルヌーイ効果による負圧による作用が強く働き、ヘッド部5がワークWに近づくよう沈み込む。つまり、ヘッド部フローティング手法は、ワークWとレーザ加工ノズル4との間の距離を一定の範囲内に保つために、ヘッド部5を浮沈させてワークWの形状に追従させる。
これは、ワークWの剛性が高くワークWが変形できない場合には、ベルヌーイ効果による負圧による作用と、アシストガスの吹き付けによる作用とがワークW及びヘッド部5に働くと、スプリング6によって吊り下げられたヘッド部5のみを浮沈させることになるためである。
以上のようにヘッド部5がフローティングする場合には、載置台上に載置等されたワークWに対し、多関節ロボット2によってヘッド部5をある程度の距離に近づけた状態を維持し、ワークWの形状に追従させてヘッド部5を浮沈させるので、ワークWとレーザ加工ノズル4との間の距離を一定の範囲内に保つことができる。よって、一定の範囲内に保つワークWとレーザ加工ノズル4との間の距離がレーザ光Lの焦点距離であるので、ワークWの加工を容易に行うことができ、レーザ加工の品質を安定させることができる。
【0021】
図4は、本実施形態に係るワークが変形する場合を示す図である。なお、図4に示す破線のワークWは、載置台上に載置等された波打った変形前の状態を示す。実線のワークWは、均された変形後の状態を示す。
ワークWに軟らかい材料や薄い材料等が用いられ、波打っているワークWの剛性が低い場合には、図4に示すようにワークが変形する。ワークが変形する場合には、ヘッド部5に合わせて、剛性の低いワークWの波打ち形状を変形させて、ワークWとレーザ加工ノズル4との間の距離を一定の範囲内に保つ。例えば、ワークWが上に凸になっていると、ワークWにアシストガスAGの吹き付けによる作用が強く働き、凸状のワークWがヘッド部5から離れるよう下に押し下げられる変形をする。ワークWが下に凹んでいると、ワークWにベルヌーイ効果による負圧による作用が強く働き、凹状のワークWがヘッド部5に近づくよう吸着され上に持ち上げられる変形をする。つまり、ワークが変形する場合には、ワークWとレーザ加工ノズル4との間の距離を一定の範囲内に保つために、ワークWを変形させてヘッド部5に追従させる。
これは、ワークWの剛性が低くワークWが変形する場合には、ベルヌーイ効果による負圧による作用と、アシストガスAGの吹き付けによる作用とがワークW及びヘッド部5に働くと、スプリング6によって吊り下げられたヘッド部5を浮沈させる前に、ワークWが変形することになるためである。
以上のようにワークが変形する場合には、載置台上に載置等されたワークWに対し、多関節ロボット2によってヘッド部5をある程度の距離に近づけた状態を維持し、ヘッド部5に追従させてワークWの形状を変形させるので、ワークWとレーザ加工ノズル4との間の距離を一定の範囲内に保つことができる。よって、一定の範囲内に保つワークWとレーザ加工ノズル4との間の距離がレーザ光Lの焦点距離であるので、ワークWの加工を容易に行うことができ、レーザ加工の品質を安定させることができる。
【0022】
なお、ヘッド部5がフローティングする場合とワークが変形する場合とは、いずれか一方のみが行われるだけでなく、両方が組み合わさって行われる場合もある。
例えば、ワークWに硬度的に中間の材料や厚みが中間の材料等が用いられ、波打っているワークWの剛性が中程度の場合には、ヘッド部がフローティングしつつ、ワークが変形する。すなわち、この場合には、スプリング6によって吊り下げることでフローティングしたヘッド部5を浮沈させると同時にワークWの波打ち形状を変形させて、ワークWとレーザ加工ノズル4との間の距離を一定の範囲内に保つ。例えば、ワークWが上に凸になっていると、ヘッド部5及びワークWの両者にアシストガスAGの吹き付けによる作用が強く働き、ヘッド部5がワークWから離れるよう浮き上がると同時に凸状のワークWがヘッド部5から離れるよう下に押し下げられる変形をする。ワークWが下に凹んでいると、ヘッド部5及びワークWの両者にベルヌーイ効果による負圧による作用が強く働き、ヘッド部5がワークWに近づくよう沈み込むと同時に凹状のワークWがヘッド部5に近づくよう吸着されて上に持ち上げられる変形をする。つまり、この場合は、ワークWとレーザ加工ノズル4との間の距離を一定の範囲内に保つために、ヘッド部5を浮沈させると同時にワークWを変形させる。
これは、ワークWの剛性が中程度でワークWが不完全に変形する場合には、ベルヌーイ効果による負圧による作用と、アシストガスAGの吹き付けによる作用とがワークW及びヘッド部5に作用すると、スプリング6によって吊り下げられたヘッド部5を浮沈させるのと同時にワークWが変形することになるためである。
以上のようにこの場合には、載置台上に載置等されたワークWに対し、多関節ロボット2によってヘッド部5をある程度の距離に近づけた状態を維持し、ヘッド部5を浮沈させるのと同時にワークWの形状を変形させるので、ワークWとレーザ加工ノズル4との間の距離を一定の範囲内に保つことができる。よって、一定の範囲内に保つワークWとレーザ加工ノズル4との間の距離がレーザ光Lの焦点距離であるので、ワークWの加工を容易に行うことができ、レーザ加工の品質を安定させることができる。
【0023】
上記のように、ワークWとレーザ加工ノズル4との間の距離は、上記の方法で一定の範囲内に保たれる。ここで上記では、ワークWの剛性の度合いによって、ヘッド部5がフローティングする場合やワークが変形する場合が異なっていた。しかしこれに限られず、他の種々の要因によって、ヘッド部5がフローティングする場合やワークが変形する場合が異なることもある。例えば、ワークWの把持の方法、ワークWの大きさや重さが考えられる。
【0024】
本実施形態に係るレーザ加工システム1によれば、以下の効果が奏される。
本実施形態によれば、一方で、ワークWとレーザ加工ノズル4との間のアシストガス流のベルヌーイ効果による負圧によって、ワークWとレーザ加工ノズル4との少なくとも一方を、両者を近づける方向に引き寄せる作用を発揮することができる。また他方で、アシストガスAGの吹き付けによって、ワークWとレーザ加工ノズル4との少なくとも一方を、両者を遠ざける方向に引き離す作用を発揮することができる。この両者の作用によって、ワークWとレーザ加工ノズル4との間の距離を一定の範囲内に保ちながらワークWを加工する。
よって、ワークWとレーザ加工ノズル4との間を、他の部材を介在させないで空隙とする簡単な構成であるにもかかわらず、レーザ加工ノズル4からワークWまでの距離をアシストガス流のベルヌーイ効果による負圧とアシストガスAGの吹き付けとによって容易に調整することができる。これにより、レーザ加工ノズル4からワークWまでの距離を一定の範囲内に保ち、その距離をレーザ光Lの焦点距離に調整することができる。よって、レーザ加工ノズル4からワークWまでの距離を調整するためのセンサが必要なく、またラフなティーチングで十分足りる。このため、高速加工しようとする場合にワークWと他の部材との接触関係を維持したまま高速駆動するための機構は必要なく、ワークWを移動させて高速加工する場合にワークWに接触する他の部材によってワークWに摺動キズがついてしまうこともなく、高速加工に適する。
このように、高速加工をも可能とする簡単な構成で、レーザ加工ノズル4からワークWまでの距離を容易に調整可能とし、レーザ加工の品質を安定させることができる。
【0025】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成することができる範囲で変形、改良等を行っても、本発明の範囲に包含されるものである。
【符号の説明】
【0026】
1…レーザ加工システム
2…多関節ロボット
3…レーザ加工ツール
4…レーザ加工ノズル
41…開口
42…先端対向面
5…ヘッド部
6…スプリング
7…ベース部
8…ケーブル
L…レーザ光
AG…アシストガス
W…ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ加工ノズルから射出するレーザ光でワークを加工する際に、前記レーザ加工ノズルからアシストガスを前記ワークの加工部位に吹き付けるレーザ加工方法であって、
前記ワークと前記レーザ加工ノズルとの間のアシストガス流のベルヌーイ効果による負圧によって、前記ワークと前記レーザ加工ノズルとの少なくとも一方を、両者を近づける方向に引き寄せる作用を利用して、前記ワークを加工することを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項2】
前記ワークと前記レーザ加工ノズルとの間のアシストガス流のベルヌーイ効果による負圧によって、前記ワークと前記レーザ加工ノズルとの少なくとも一方を、両者を近づける方向に引き寄せる作用と、
アシストガスの吹き付けによって、前記ワークと前記レーザ加工ノズルとの少なくとも一方を、両者を遠ざける方向に引き離す作用と、
を利用して、前記ワークと前記レーザ加工ノズルとの間の距離を一定の範囲内に保ちながら前記ワークを加工することを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate