説明

レーザ加工装置及びレーザビーム調整方法

【課題】被加工物の位置におけるレーザビームの拡がり角を容易に調整できるレーザ加工装置及びレーザビーム調整方法を得ることを目的とする。
【解決手段】レーザ加工装置10は、レーザ出射部22Aから伝送ファイバー14によって伝送されたレーザビームが出射され、コリメートレンズ24A及び集光レンズ26Aによって、レーザ出射部22Aから出射されたレーザビームが被加工物20へ集光される。そして、レーザ加工装置10は、コリメートレンズ24Aで散乱し、レーザビームの散乱強度が基準範囲内でない場合に、レーザ出射部22A及びコリメートレンズ24Aの少なくとも一方を光軸線方向へ移動させることによって、被加工物20の位置におけるレーザビームの拡がり角を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置及びレーザビーム調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、金属板等の被加工物を加工(切断や溶接)する加工ヘッドに、レーザ発振器から光ファイバーを介してレーザビームが送られ、該レーザビームによって被加工物を加工するレーザ加工装置の開発が進んでいる。この光ファイバーを用いたレーザには、固体レーザ(例えば、YAGレーザ、半導体レーザ、ディスクレーザ、ファイバーレーザ等)がある。
特に、ファイバーレーザは、気体レーザ(例えば、COレーザ)に比較してレーザの生成に要する電気エネルギーが少なく、ロッドタイプの固体レーザに比較して、レーザの生成に要する電気エネルギーが少ない上、レーザビームの品質(レーザの集光性と直進性)が高く、高出力化が可能であるため、普及が進んでいる。
【0003】
なお、被加工物に照射するレーザビームの品質にばらつきが生じると、被加工物に対する加工品質に差異が生じる。そこで、被加工物に照射するレーザビームの品質を保つために、特許文献1には、伝送用光ファイバーから出射されたレーザビームをコリメートするコリメートレンズとコリメートされたレーザビームを被加工物に対して集光照射する集光レンズとを光軸線方向へ移動させることにより、集光レンズにおける集光直径を変換するファイバーレーザ加工機が記載されている。
また、特許文献2には、レーザ発振器から射出されたレーザビームを、光ファイバーを用いて伝送して、被加工物に照射するレーザ加工装置において、レーザ発振器から出射されたレーザビームの拡がり角を調整する調整機構を、光ファイバーの入射側直前に設け、該調整機構を用いて、光ファイバーの許容開口数以下となる拡がり角に、光ファイバーに入射するレーザビームの拡がり角を調整する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−226473号公報
【特許文献2】特開2009−56481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、レーザビームを用いた被加工物の加工において、レーザビームの集光位置で被加工物を加工するのではなく、デフォーカス位置で被加工物を加工する場合がある。
特許文献1に記載の技術は、集光位置における被加工物に照射されるレーザビームの径を調整する技術であるが、デフォーカス位置でレーザビームの径を調整するものではない。また、特許文献2に記載の技術は、レーザ発振器から出射されたレーザビームの拡がり角を調整する調整機構が、光ファイバーの入射側直前のみに設けられているので、レーザビームの拡がり角の調整が容易ではない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、被加工物の位置におけるレーザビームの拡がり角を容易に調整できるレーザ加工装置及びレーザビーム調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のレーザ加工装置は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明に係るレーザ加工装置は、光ファイバーによって伝送されたレーザビームを出射する出射手段と、少なくとも一つのレンズを有し、前記出射手段から出射された前記レーザビームを前記被加工物へ集光させる集光手段と、を備え、前記レーザビームの強度が予め定められた範囲内でない場合に、前記出射手段及び前記レンズの少なくとも一方を光軸線方向へ移動させることで、被加工物の位置における前記レーザビームの拡がり角を調整する。
【0008】
本発明によれば、光ファイバーによって伝送されたレーザビームが出射手段から出射され、少なくとも一つのレンズを有する集光手段によって、出射手段から出射されたレーザビームが被加工物へ集光される。
【0009】
そして、本発明は、レーザビームの強度が予め定められた範囲内でない場合に、出射手段及びレンズの少なくとも一方を光軸線方向へ移動させることによって、被加工物の位置におけるレーザビームの拡がり角を調整するので、被加工物の位置におけるレーザビームの拡がり角を容易に調整できる。
【0010】
また、本発明に係るレーザ加工装置は、前記集光手段が有する前記レンズで散乱された前記レーザビームの強度を計測する計測手段を備え、前記計測手段によって計測された前記レーザビームの強度が予め定められた範囲内でない場合に、前記出射手段及び前記レンズの少なくとも一方を光軸線方向へ移動させることで、被加工物の位置における前記レーザビームの拡がり角を調整してもよい。
【0011】
ここで、被加工物の位置におけるレーザビームの拡がり角は、出射手段から出射されるレーザビームの拡がり角の変化に伴い変化する。また、レンズで散乱されるレーザビームの強度も、レーザビームのレンズへの入射角の変化、すなわち、出射手段から出射されるレーザビームの拡がり角の変化に伴い変化する。そのため、計測手段によって、集光手段が有するレンズで散乱されたレーザビームの強度の変化を計測することは、被加工物の位置におけるレーザビームの拡がり角の変化を計測することとなる。
そして、本発明は、計測手段によって計測されたレーザビームの強度が予め定められた範囲内でない場合に、出射手段及びレンズの少なくとも一方を光軸線方向へ移動させることによって、被加工物の位置におけるレーザビームの拡がり角を調整するので、被加工物の位置におけるレーザビームの拡がり角の変化を容易に把握できると共に、被加工物の位置におけるレーザビームの拡がり角を容易に調整できる。
【0012】
また、本発明に係るレーザ加工装置は、前記被加工物の位置において前記レーザビームの径が所定の大きさとなるように、前記被加工物の位置と前記集光手段の位置とを相対的に光軸線方向へ移動してもよい。
本発明によれば、被加工物の位置におけるレーザビームの拡がり角と共に、レーザビームの径も適正な大きさに調整できる。
【0013】
また、本発明に係るレーザ加工装置は、レーザ発振器で生成された前記レーザビームを出射する第2出射手段と、少なくとも一つのレンズを有し、前記第2出射手段から出射された前記レーザビームを前記光ファイバーへ入射するように集光させる第2集光手段と、を備え、前記第2出射手段及び前記第2集光手段が有するレンズの少なくとも一方を光軸線方向へ移動させることで、前記光ファイバーで該レーザビームの伝送ができなくなる臨界角度と略同等の拡がり角で該光ファイバーへ入射するように、前記レーザビームの拡がり角を調整してもよい。
【0014】
本発明によれば、第2出射手段からレーザ発振器で生成されたレーザビームが出射され、少なくとも一つのレンズを有する第2集光手段によって、第2出射手段から出射されたレーザビームが光ファイバーへ入射するように集光される。
【0015】
そして、光ファイバーから出射されるレーザビームの拡がり角の変化を抑制することができれば、被加工物の位置におけるレーザビームの拡がり角の変化を抑制することができる。
【0016】
一方、光ファイバーに入射したレーザビームは、光ファイバーを構成するコアとクラッドとの境界面で全反射しながら光ファイバー内を伝搬する。レーザビームは、所定の臨界角よりも小さな角度で光ファイバーに入射すると全反射しながら伝搬するが、臨界角よりも大きな角度で光ファイバーに入射する全反射せず、光ファイバー内を伝搬しない。
【0017】
そこで、本発明は、第2出射手段及び第2集光手段が有するレンズの少なくとも一方を光軸線方向へ移動させることで、光ファイバーで該レーザビームの伝送ができなくなる臨界角度と略同等の拡がり角で該光ファイバーへ入射するように、レーザビームの拡がり角を調整する。これによって、臨界角度以上の拡がり角を有するレーザビームが光ファイバーから出射されることがなくなるので、光ファイバーから出射されるレーザビームの拡がり角のばらつきを抑制できる。
【0018】
また、本発明に係るレーザ加工装置は、前記第2集光手段が有する前記レンズで散乱された前記レーザビームの強度を計測する第2計測手段を備え、前記第2計測手段で計測された前記レーザビームの強度が予め定められた範囲内でない場合に、前記第2出射手段及び前記第2集光手段が有するレンズの少なくとも一方を光軸線方向へ移動させることで、前記臨界角度と略同等の拡がり角で該光ファイバーへ入射するように、前記レーザビームの拡がり角を調整してもよい。
【0019】
本発明によれば、第2計測手段によって、第2集光手段が有するレンズで散乱されたレーザビームの強度を計測することは、光ファイバーへ入射するレーザビームの拡がり角の変化を計測することとなる。
【0020】
そこで、本発明は、第2計測手段によって計測されたレーザビームの強度が予め定められた範囲内でない場合に、第2出射手段及び第2集光手段が有するレンズの少なくとも一方を光軸線方向へ移動させることで、臨界角度と略同等の拡がり角で該光ファイバーへ入射するように、レーザビームの拡がり角を調整する。これによって、光ファイバーへ入射するレーザビームの拡がり角の変化を容易に把握できると共に、光ファイバーから出射されるレーザビームの拡がり角のばらつきを抑制できる。
【0021】
一方、課題を解決するために、本発明のレーザビーム調整方法は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明に係るレーザビーム調整方法は、光ファイバーによって伝送されたレーザビームを出射する出射手段と、少なくとも一つのレンズを有し、前記出射手段から出射されたレーザビームを前記被加工物へ集光させる集光手段と、を備えたレーザ加工装置のレーザビーム調整方法であって、前記レーザビームの強度が予め定められた範囲内でない場合に、前記出射手段及び前記レンズの少なくとも一方を光軸線方向へ移動させることで、被加工物の位置における前記レーザビームの拡がり角を調整する。
【0022】
本発明によれば、レーザビームの強度が予め定められた範囲内でない場合に、出射手段及びレンズの少なくとも一方を光軸線方向へ移動させることによって、被加工物の位置におけるレーザビームの拡がり角を調整するので、被加工物の位置におけるレーザビームの拡がり角を容易に調整できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、被加工物の位置におけるレーザビームの拡がり角を容易に調整できる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態に係るレーザ加工装置の構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る出射光学系のレーザ出射部を移動させることによって、被加工物の位置におけるレーザビームの拡がり角を調整する場合を示す模式図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る出射光学系のレーザ出射部及びコリメートレンズを移動させることによってレーザビームの拡がり角を調整する場合を示す模式図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係るレーザ加工装置の構成図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る入射光学系の集光レンズを移動させることによって、伝送ファイバーのレーザ入射部に入射するレーザビームの拡がり角を調整する場合を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明に係るレーザ加工装置及びレーザビーム調整方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0026】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態について説明する。
図1に、本第1実施形態に係るレーザ加工装置10の構成を示す。
レーザ加工装置10は、レーザ発振器12、伝送ファイバー14、及び出射光学系16を備え、出射光学系16から出射されたレーザビームをテーブル18に載置されている被加工物(「ワーク」ともいう。)20に照射することで被加工物20を加工する。なお、本第1実施形態に係るレーザ加工装置10は、伝送ファイバー14とは別に励起用媒質を添加したファイバーによりレーザ発振するファイバーレーザを用いるが、用いるレーザとしてはこの限りではない。
【0027】
また、本第1実施形態に係るレーザ加工装置10は、出射光学系16から出射されたレーザビームを被加工物20の位置でデフォーカスさせて、被加工物20の加工に用いる。
【0028】
さらに、本第1実施形態では、レーザ加工装置10を、テーブル28に載置されている被加工物30に連続的にレーザビームを照射することで被加工物30を切断するレーザ切断装置として用いる場合について説明する。なお、被加工物20は、金属(例えば、鉄(Fe))であり、本第1実施形態に係るレーザ加工装置10は、被加工物20を切断する際に、アシストガスである酸素ガスを切断部分に吹きかけながら切断する。
また、出射光学系16は、3軸方向(xyz軸)に移動できる不図示の3軸アームによって支持され、3軸アームが駆動することによって、被加工物20の切断の進行方向が変化する。
【0029】
レーザ発振器12は、レーザ(本第1実施形態では、YAGレーザ)を生成し、生成されたレーザは、伝送ファイバー14で増幅されながら伝送され、伝送ファイバー14の末端に設けられているレーザ出射部22Aから出射光学系16へ出射される。
【0030】
出射光学系16は、上流側から、レーザ出射部22Aから出射される所定の拡がり(開口数NA=sinθ)を有するレーザビームを平行光にするコリメートレンズ24A、及びコリメートレンズ24Aによって平行光とされたレーザビームをテーブル28に載置された被加工物30を切断するために集束させる集光レンズ26Aを有している。なお、コリメートレンズ24A及び集光レンズ26Aは、中心軸線が同軸となるように配置されている。
【0031】
本第1実施形態に係るレーザ加工装置10では、レーザ出射部22A、コリメートレンズ24A、及びテーブル18が、モータ(ステッピングモータ)等の駆動装置によって各々光軸線方向へ移動可能とされている。
【0032】
また、本第1実施形態に係る出射光学系16は、コリメートレンズ24Aで散乱されたレーザビームの強度(以下、「散乱強度」という。)を計測する計測部28A,28Bを備えている。計測部28A,28Bは、例えば、フォトダイオードで構成されており、該フォトダイオードから出力される電流の大きさからレーザビームの散乱強度を計測する。
【0033】
なお、以下の説明において、計測部28A,28Bを区別する場合は、符号の後にA,Bのいずれかを付して説明し、計測部28A,28Bを区別しない場合は、A,Bを省略する。また、本第1実施形態に係る出射光学系16は、2つの計測部28A,28Bを有するが、これに限らず、計測部は一つであってもよいし、3つ以上でもよい。より多くの計測部を有することによって、レーザビームの散乱強度の変化、すなわち、レンズへ入射するレーザビームの拡がり角の変化をより正確に計測することができる。
【0034】
ここで、被加工物20の位置におけるレーザビームの拡がり角は、レーザ出射部22Aから出射されるレーザビームの拡がり角の変化に伴い変化する。また、レーザビームの散乱強度は、レーザビームのコリメートレンズ24Aへの入射角の変化、すなわち、レーザ出射部22Aから出射されるレーザビームの拡がり角の変化に伴い変化する。そのため、計測部28によって、レーザビームの散乱強度を計測することは、被加工物20の位置におけるレーザビームの拡がり角の変化を計測することとなる。
【0035】
次に、本第1実施形態に係る出射光学系16の作用について説明する。
本第1実施形態に係る出射光学系16は、計測部28で計測されたレーザビームの散乱強度が予め定められた範囲(以下、「基準範囲」という。)内でない場合に、レーザ出射部22A及びコリメートレンズ24Aの少なくとも一方を光軸線方向へ移動させることで、被加工物20の位置におけるレーザビームの拡がり角を調整する。
【0036】
図2(A)又は図3(A)に示すように、レーザ出射部22Aから出射されるレーザビームの拡がり角にばらつきが生じる場合がある。このばらつきは、伝送ファイバー14に入射されるレーザビームの拡がり角のばらつき、伝送ファイバー14の個体差、及び伝送ファイバー14の敷設状態に応じて外部から加えられるストレス(応力)等が原因と考えられる。
【0037】
そして、レーザ出射部22Aから出射されるレーザビームの拡がり角の変化に伴い、被加工物20の位置(図2(A)、図3(A)におけるワーク表面想定位置であるデフォーカス位置)におけるレーザビームの径や拡がり角に変化が生じる。すなわち、被加工物20に照射するレーザビームの品質にばらつきが生じる。これによって、レーザ加工装置10による被加工物20に対する加工品質に劣化する可能性がある。
レーザ出射部22Aから出射されるレーザビームの拡がり角に変化が生じると、計測部28で計測されるレーザビームの散乱強度に変化が生じる。そして、レーザ出射部22Aから出射されるレーザビームの拡がり角の変化が大きくなると、計測部28で計測されたレーザビームの散乱強度が基準範囲内からずれる。すなわち、基準範囲とは、被加工物20の位置におけるレーザビームの拡がり角が、被加工物20に対する加工品質を保てる大きさであることを示すレーザビームの散乱強度の範囲を示す。
【0038】
そこで、本第1実施形態に係るレーザ加工装置10は、レーザビームの散乱強度の基準範囲からのずれ量に応じて、レーザ出射部22A及びコリメートレンズ24Aの少なくとも一方を光軸線方向へ移動させる。この移動によって、被加工物20の位置におけるレーザビームの拡がり角を被加工物20に対する加工品質を保てる拡がり角に維持させる。
【0039】
なお、本第1実施形態に係るレーザ加工装置10は、計測部28A,28Bを備えているため、一例として、計測部28A,28Bで計測されたレーザビームの散乱強度の平均値が基準範囲からずれた場合に、レーザ出射部22A及びコリメートレンズ24Aの少なくとも一方を光軸線方向へ移動させる。また、これに限らず、計測部28A,28Bで計測されたレーザビームの散乱強度のうち、何れか一方又は両方が基準範囲からずれた場合に、レーザ出射部22A及びコリメートレンズ24Aの少なくとも一方を光軸線方向へ移動させてもよい。
【0040】
図2(B),(C)は、レーザ出射部22Aを光軸線方向へ移動させた場合の一例であり、レーザビームの散乱強度の基準範囲からのずれ量に応じたレーザ出射部22Aの移動量及び移動方向は、例えば実験又はレーザビームの光線追跡計算等によって予め定められる。そして、図2(B),(C)に示されるように、レーザ出射部22Aを移動させることによって、ワーク表面想定位置(デフォーカス位置)におけるレーザビームの径及び拡がり角が一定となる。
また、図3(B),(C)は、レーザ出射部22Aとコリメートレンズ24A共に、光軸線方向へ移動させた場合の一例である。そして、図3(B),(C)に示されるように、レーザ出射部22A及びコリメートレンズ24Aを光軸線に対して移動させることによって、ワーク表面想定位置(デフォーカス位置)におけるレーザビームの径及び拡がり角が一定となる。
これらのように、レーザ出射部22Aと共にコリメートレンズ24Aを移動させることによって、レーザ出射部22Aの移動量を小さくすること、被加工物20の位置におけるレーザビームの拡がり角の調整幅を広げることができる。
【0041】
レーザ出射部22A及びコリメートレンズ24Aの少なくとも一方を光軸線方向へ移動させることによって、被加工物20の位置におけるレーザビームの拡がり角を調整することに伴い、被加工物20の位置におけるレーザビームの径の大きさが変化する。このため、本第1実施形態に係るレーザ加工装置10は、テーブル18を光軸線方向へ移動させることによって、被加工物20におけるレーザビームの径の大きさを所定の大きさとする。なお、テーブル18の移動量及び移動方向も、レーザビームの散乱強度の基準範囲からのずれ量に応じて、例えば実験又はレーザビームの光線追跡計算等によって予め定められる。
【0042】
なお、レーザ出射部22A及びコリメートレンズ24Aの移動は、手動で行ってもよいし、自動で行ってもよい。
【0043】
以下に、上記自動で行う処理(以下、「自動調整処理」という。)を説明する。
自動調整処理は、レーザ加工装置10の全体の動作を司るCPU(Central Processing Unit)によって実行される。また、レーザビームの散乱強度の基準範囲からのずれ量に応じたレーザ出射部22A、コリメートレンズ24A、及びテーブル18の移動量を示す移動量情報が、磁気記憶装置又は半導体記憶装置等で構成される記憶部に記憶されている。
【0044】
そして、CPUは、計測部28で計測されたレーザビームの散乱強度が基準範囲からずれているか否かを判定する。そして該判定が肯定判定となった場合に、CPUは、記憶部から移動量情報を読み出し、該移動量情報によって示される上記ずれ量に応じたレーザ出射部22A、コリメートレンズ24A、及びテーブル18の移動量に基づいて、各々に対応する駆動装置を駆動させる。
【0045】
以上説明したように、本第1実施形態に係るレーザ加工装置10は、伝送ファイバー14によって伝送されたレーザビームがレーザ出射部22Aから出射され、コリメートレンズ24A及び集光レンズ26Aによって、レーザ出射部22Aから出射されたレーザビームが被加工物20へ集光される。そして、レーザ加工装置10は、計測部28によって計測されたレーザビームの散乱強度が基準範囲内でない場合に、レーザ出射部22A及びコリメートレンズ24Aの少なくとも一方を光軸線方向へ移動させることによって、被加工物20の位置におけるレーザビームの拡がり角を調整するので、被加工物20の位置におけるレーザビームの拡がり角の変化を容易に把握できると共に、被加工物20の位置におけるレーザビームの拡がり角を調整できる。
【0046】
また、本第1実施形態に係るレーザ加工装置10は、被加工物20の位置においてレーザビームの径が所定の大きさとなるように、被加工物20の位置を光軸線方向へ移動させるので、被加工物20の位置におけるレーザビームの拡がり角と共に、レーザビームの径を適正な大きさに調整できる。
【0047】
なお、本第1実施形態では、コリメートレンズ24Aを移動させる場合について説明したが、これに限らず、コリメートレンズ24Aと共に集光レンズ26Aを移動させてもよいし、コリメートレンズ24Aは移動させずに、集光レンズ26Aのみを移動させてもよい。
【0048】
なお、本第1実施形態では、被加工物20におけるレーザビームの径の大きさを所定の大きさとするために、テーブル18の位置を光軸線方向へ移動させたが、これに限らず、被加工物20におけるレーザビームの径の大きさを所定の大きさとするためには、被加工物20と出射光学系16とが相対的に光軸線方向へ移動すればよいため、3軸アームを用いて出射光学系16の位置を光軸線方向へ移動させてもよい。
【0049】
〔第2実施形態〕
以下、本発明の第2実施形態について説明する。
【0050】
図4に、本第2実施形態に係るレーザ加工装置50の構成を示す。なお、図4における図1と同一の構成部分については図1と同一の符号を付して、その説明を省略する。
レーザ加工装置50は、発振ファイバー52、入射光学系54、伝送ファイバー14、出射光学系16を備え、出射光学系16から出射されたレーザビームをテーブル18に載置されている被加工物20に照射することで被加工物を加工する。なお、本第2実施形態に係るレーザ加工装置50は、伝送ファイバー14とは別に励起用媒質を添加したファイバーによりレーザ発振するファイバーレーザを用いるが、用いるレーザとしてはこの限りではない。
【0051】
レーザ発振器12は、レーザ(本第2実施形態では、YAGレーザ)を生成し、生成されたレーザは、発振ファイバー52で増幅されながら伝送され、発振ファイバー52の末端に設けられているレーザ出射部22Bから入射光学系54へ出射される。
【0052】
入射光学系54は、上流側から、レーザ出射部22Bから出射される所定の拡がり(開口数NA=sinθ)を有するレーザビームを平行光にするコリメートレンズ24B、及びコリメートレンズ24Bによって平行光とされたレーザビームを伝送ファイバー14のレーザ入射部22Cへ入射させる集光レンズ26Bを有している。なお、コリメートレンズ24B及び集光レンズ26Bは、中心軸線が同軸となるように配置されている。
【0053】
また、本第2実施形態に係るレーザ加工装置50では、集光レンズ26Bが、モータ(ステッピングモータ)等の駆動装置によって各々光軸線方向へ移動可能とされている。
【0054】
さらに、本第1実施形態に係る入射光学系54は、出射光学系16が備える計測部28と同様の、コリメートレンズ24Bで散乱されたレーザビームの散乱強度を計測する計測部56A,56Bを備えている。なお、以下の説明において、計測部56A,56Bを区別する場合は、符号の後にC,Dのいずれかを付して説明し、計測部56A,56Bを区別しない場合は、C,Dを省略する。
【0055】
そして、伝送ファイバー14に入射されたレーザビームは、伝送ファイバー14の末端に設けられているレーザ出射部22Aから出射光学系16へ出射される。
【0056】
次に、本第2実施形態に係る出射光学系16の作用について説明する。
本第2実施形態に係るレーザ加工装置50によれば、レーザ発振器12で生成されたレーザビームがレーザ出射部22Bから出射され、コリメートレンズ24B及び集光レンズ26Bによって、レーザ出射部22Bから出射されたレーザビームが伝送ファイバー14へ入射するように集光される。
【0057】
ここで、伝送ファイバー14から出射されるレーザビームの拡がり角の変化を抑制することができれば、被加工物20の位置における出射光学系16で集光されたレーザビームの拡がり角の変化を抑制することができる。
【0058】
一方、伝送ファイバー14は、光ファイバーであり、光ファイバーに入射したレーザビームは、光ファイバーを構成するコアとクラッドとの境界面で全反射しながら光ファイバー内を伝搬する。そして、レーザビームは、所定の臨界角よりも小さな角度で光ファイバーに入射すると全反射しながら伝搬するが、臨界角よりも大きな角度で光ファイバーに入射すると全反射せず、光ファイバー内を伝搬しない。
【0059】
そこで、本第2実施形態に係るレーザ加工装置50は、伝送ファイバー14でレーザビームの伝送ができなくなる臨界角度と略同等の拡がり角で、レーザビームを伝送ファイバー14へ入射させる。これによって、臨界角度以上の拡がり角を有するレーザビームが伝送ファイバー14から出射されることがなくなるので、伝送ファイバー14から出射されるレーザビームの拡がり角のばらつきを抑制できる。本第2実施形態では、伝送ファイバー14へ入射させるレーザビームの拡がり角を、一例として、開口数NA=sinθ=0.19〜0.2の範囲とする。
【0060】
なお、本第2実施形態に係るレーザ加工装置50は、計測部56で計測されたレーザビームの散乱強度が基準範囲内でない場合に、図5(B)に示すように、レーザビームの散乱強度が基準範囲内の場合である図5(A)に対して、集光レンズ26Bをレーザ入射部22Cと共に光軸線方向へ移動させることで、臨界角度と略同等の拡がり角で伝送ファイバー14へ入射するように、レーザビームの拡がり角を調整する。なお、基準範囲は、伝送ファイバー14へ入射するレーザビームの拡がり角が、臨界角度と略同等の拡がり角(一例として、開口数NA=sinθ=0.19〜0.2となる拡がり角)であることを示すレーザビームの散乱強度の範囲を示す。なお、図5(B)の例では、集光レンズ26Bを移動させることによって、レーザ入射部22Cへ入射するレーザビームの拡がり角が臨界角度を略同等の一定値とされ、レーザビームの径は小さくなる。
【0061】
なお、本第2実施形態に係るレーザ加工装置50は、計測部56A,56Bを備えているため、一例として、計測部56A,56Bで計測されたレーザビームの散乱強度の平均値が基準範囲からずれた場合に、集光レンズ26Bを光軸線方向へ移動させる。また、これに限らず、計測部56A,56Bで計測されたレーザビームの散乱強度のうち、何れか一方が基準範囲からずれた場合、又は、予め定めた一方が基準範囲からずれた場合等の条件を満たした場合に、集光レンズ26Bを光軸線方向へ移動させてもよい。
【0062】
なお、集光レンズ26Bの移動は、手動で行われてもよいし、自動で行ってもよい。
以下に、集光レンズ26Bの移動を自動で行う処理(以下、「第2自動調整処理」という。)を説明する。
【0063】
第2自動調整処理は、レーザ加工装置50の全体の動作を司るCPUによって実行される。また、レーザビームの散乱強度の基準範囲からのずれ量に応じた集光レンズ26Bの移動量を示す移動量情報が、磁気記憶装置又は半導体記憶装置等で構成される記憶部に記憶されている。
【0064】
そして、CPUは、計測部56で計測されたレーザビームの散乱強度が基準範囲からずれているか否かを判定する。該判定が肯定判定となった場合に、CPUは、記憶部から移動量情報を読み出し、該移動量情報によって示される上記ずれ量に応じた集光レンズ26Bの移動量に基づいて、集光レンズ26Bに対応する駆動装置を駆動させる。
【0065】
以上説明したように、本第2実施形態に係るレーザ加工装置50は、計測部56A,56Bによって計測されたレーザビームの散乱強度が基準範囲内でない場合に、集光レンズ26Bを光軸線方向へ移動させることで、臨界角度と略同等の拡がり角で該光ファイバーへ入射するように、レーザビームの拡がり角を調整する。これによって、伝送ファイバー14へ入射するレーザビームの拡がり角の変化を容易に把握できると共に、伝送ファイバー14から出射されるレーザビームの拡がり角のばらつきを抑制できる。
【0066】
なお、本第2実施形態では、集光レンズ26Bを移動させる場合について説明したが、これに限らず、集光レンズ26Bと共にコリメートレンズ24Bを移動させてもよいし、集光レンズ26Bは移動させずに、コリメートレンズ24Bのみ、又はレーザ入射部22Cを移動させてもよい。
【0067】
以上、本発明を、上記各実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記各実施形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記各実施形態に多様な変更または改良を加えることができ、該変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0068】
例えば、上記各実施形態では、レーザ加工装置10,50を、被加工物20を切断するレーザ切断装置として用いる場合について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、レーザ加工装置10,50を複数の被加工物を溶接するレーザ溶接装置として用いる形態としてもよい。
【0069】
また、上記各実施形態では、アシストガスとして酸素ガスを用いる場合について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、アシストガスとして窒素ガスやアルゴンガス等、他のガスを用いる形態としてもよい。
【0070】
また、上記実施形態では、レーザ加工装置10,50にファイバーレーザを用いた場合について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、光ファイバー伝送可能なレーザであれば他のレーザを用いる形態としてもよい。
【0071】
また、上記各実施形態では、3軸アームによって被加工物20の切断の進行方向を変化させる場合について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、縦(x)及び横(y)に移動する2軸アームに支持される形態としてもよい。さらに、3軸アームを用いずに、被加工物20を載置したテーブル18を3軸方向へ移動可能とし、テーブル18を移動させることによって、被加工物20の切断の進行方向を変化させる形態としてもよい。
【0072】
また、上記各実施形態では、計測部28A,28Bや計測部56A,56Bによって計測されたレーザビームの強度が予め定められた範囲内でない場合に、レーザビームの拡がり角を調整する場合について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、例えば、レーザ加工装置10が計測部28A,28Bや計測部56A,56Bを備えず、被加工物20におけるレーザビームの強度を測定し、該強度が予め定められた範囲内でない場合に、レーザビームの拡がり角を調整する形態としてもよい。
【符号の説明】
【0073】
10 レーザ加工装置
16 出射光学系
20 被加工物
22A レーザ出射部
24A,24B コリメートレンズ
26A,26B 集光レンズ
28A,28B 計測部
50 レーザ加工装置
54 入射光学系
56A,56B 計測部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバーによって伝送されたレーザビームを出射する出射手段と、
少なくとも一つのレンズを有し、前記出射手段から出射された前記レーザビームを前記被加工物へ集光させる集光手段と、
を備え、
前記レーザビームの強度が予め定められた範囲内でない場合に、前記出射手段及び前記レンズの少なくとも一方を光軸線方向へ移動させることで、被加工物の位置における前記レーザビームの拡がり角を調整するレーザ加工装置。
【請求項2】
前記集光手段が有する前記レンズで散乱された前記レーザビームの強度を計測する計測手段を備え、
前記計測手段によって計測された前記レーザビームの強度が予め定められた範囲内でない場合に、前記出射手段及び前記レンズの少なくとも一方を光軸線方向へ移動させることで、被加工物の位置における前記レーザビームの拡がり角を調整する請求項1記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記被加工物の位置において前記レーザビームの径が所定の大きさとなるように、前記被加工物の位置と前記集光手段の位置とを相対的に光軸線方向へ移動させる請求項1又は請求項2記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
レーザ発振器で生成された前記レーザビームを出射する第2出射手段と、
少なくとも一つのレンズを有し、前記第2出射手段から出射された前記レーザビームを前記光ファイバーへ入射するように集光させる第2集光手段と、
を備え、
前記第2出射手段及び前記第2集光手段が有するレンズの少なくとも一方を光軸線方向へ移動させることで、前記光ファイバーで該レーザビームの伝送ができなくなる臨界角度と略同等の拡がり角で該光ファイバーへ入射するように、前記レーザビームの拡がり角を調整する請求項1から請求項3の何れか1項記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記第2集光手段が有する前記レンズで散乱された前記レーザビームの強度を計測する第2計測手段を備え、
前記第2計測手段で計測された前記レーザビームの強度が予め定められた範囲内でない場合に、前記第2出射手段及び前記第2集光手段が有するレンズの少なくとも一方を光軸線方向へ移動させることで、前記臨界角度と略同等の拡がり角で該光ファイバーへ入射するように、前記レーザビームの拡がり角を調整する請求項4記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
光ファイバーによって伝送されたレーザビームを出射する出射手段と、
少なくとも一つのレンズを有し、前記出射手段から出射されたレーザビームを前記被加工物へ集光させる集光手段と、
を備えたレーザ加工装置のレーザビーム調整方法であって、
前記レーザビームの強度が予め定められた範囲内でない場合に、前記出射手段及び前記レンズの少なくとも一方を光軸線方向へ移動させることで、被加工物の位置における前記レーザビームの拡がり角を調整するレーザビーム調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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