説明

レーザ受光ユニット

【課題】レンズカバーの曲率や厚み、あるいは受光レンズまでの距離などを適切に設定することによって、レンズカバーの受光レンズに対する影響を回避するだけではなく、レンズカバーを受光レンズの補助レンズとして利用することで受光レンズの集光率を向上させることが可能なレーザ受光ユニットを提供する。
【解決手段】一実施形態では、ケース2と、ケース2外部からのレーザ光を内部へ透過させる曲面状のレンズカバー3と、ケース2内部に配置されるとともにレーザ光を受光する受光面5aを有して受光量に応じた信号を出力する受光素子5と、ケース2内部に配置されるとともレンズカバー3を透過したレーザ光を受光面5aに結像させる受光レンズ4とを備え、この受光レンズ4と受光素子5との間の距離間隔を、受光レンズ4の焦点距離とレンズカバー3の曲率および厚みとに基づいて受光量が最大となるように定める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線やレーザ光を利用する測定装置などの受光ユニットに関し、特に、レーザ光を利用するとともに曲面状レンズカバーが使用される測定装置などのレーザ受光ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、赤外線によって侵入者などを検知する赤外線感知器やレーザ光を利用して距離などを測定する距離測定装置などにおいては、それらの筐体の内部に受光素子とその受光素子の受光面への結像を行う受光レンズ(受光光学系)とが配置されるとともに、筐体の前面などに形成された開口部にはレンズカバーがはめ込まれて配置されている。赤外線やレーザ光はこのレンズカバーを透過して筐体の内部へと入り、さらに受光レンズによって受光素子の受光面に結像することになる(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。
【0003】
このようなレンズカバーの主な目的としては、検知や測定に不要な波長成分の光の除去、外部からの衝撃などの防止による内部保護などが挙げられる。また、屋外への設置が想定されるものでは、雨や雪などの水分や風が運んでくる土、砂、埃などの内部への浸入防止も重要な目的となる。
【0004】
赤外線やレーザ光の受光素子の受光面への結像自体はあくまでも受光レンズによって行われるから、受光レンズなどの光学設計においてレンズカバーの存在やその影響が特に厳密に考慮されることはなかった。
【0005】
赤外線を用いる赤外線感知器では、上述したようなレンズカバーの存在によって、不要な波長成分の光が除去されるだけでなく必要な近赤外領域の光も若干減衰するために感度がやや低下することがあるものの、受光レンズの結像性能に直接的な影響を与えることはほとんどないと考えられる。
【0006】
レーザ光を利用する距離測定装置としては、例えば、図6に示すようなレーザエリアセンサ101も挙げられる。このレーザエリアセンサ101は、レーザ投光部110と、受光レンズ124および受光素子125を有するレーザ受光部120と、レーザ投光部110およびレーザ受光部120による距離測定方向を変える走査機構130などを筐体102内に備え、走査機構130によって周期的に測定方向を変えながら距離測定を行うように構成されている。
【0007】
レーザ光は赤外線とは異なり、干渉性の高いコヒーレント光であるという特徴を有している。ただ、レーザエリアセンサ101のレーザ受光部120に使用されている受光レンズカバー123は平板状であるため、上述した赤外線感知器と同様に感度がやや低下することはあり得るものの、受光素子125の受光面に対する受光レンズ124の結像性能にはほとんど影響を与えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−241554号公報
【特許文献2】特開2002−286844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、同じくレーザ光を利用する距離測定装置などにおいても、レンズカバーが平板状ではなくて例えば曲面状であって、且つ厚みが一定以上ある場合には、レンズカバーの曲率および厚みなどによって光路が屈折し、内部の受光レンズに対して集光率の大幅な悪化を招くなど、結像性能に明らかに影響を与えることがあることがわかった。なお、これには、レーザ光の受光素子としてよく用いられるアバランシェ・フォトダイオード(APD)の結像点がかなり厳密であることも影響していると考えられる。
【0010】
図7は、レーザ光を利用する距離測定装置などにおいて、曲面状のレンズカバー103の影響を説明するための光学シミュレーションの概略説明図である。この光学シミュレーションでは、レンズカバー103としてはポリカーボネイト素材で厚みが2mm、レンズカバー103から結像点までの距離は500mmとして、レンズカバー103正面からΦ20mmの平行光を当てたときの結像点のX軸方向(水平軸方向)およびY軸方向(鉛直軸方向)それぞれの変位量を求めている。また、図8(a)および図8(b)は、その光学シミュレーション結果の例を示す写真(画像)であって、図8(a)はレンズカバー103の曲率がR50(内径:R48)の場合であり、図8(b)はレンズカバー103の曲率がR30(内径:R28)の場合である。
【0011】
これらの図8(a)および図8(b)で示すように、レンズカバー103の曲率によって平行光のボケが生じているが、ボケ量は図8(b)の方が大きい。平行光の直径に対して、レンズカバー103の曲率が大きいほど平行光の両端(X軸方向)における影響が強くなるからである。X軸方向でのボケはレンズカバー103の曲率の大きさに比例して大きくなり、X軸両端での結像点は本来の結像点よりも外側方向へ離れることになる。
【0012】
このことは、レンズカバー内にてレンズカバーの直径に近いような大口径の集光レンズを使用している場合に、特にレンズカバーの影響が大きいということになり、集光レンズのf値(焦点距離)に基ずいた光学設計値などが最適値から外れてしまい得るということを示す。つまり、レンズカバー内にて光学系を持つ赤外線センサやレーザユニットなどにおいて、このレンズカバー内径に近似のレンズ径を持つ場合には、レンズのf値に従った結像点に受光素子の受光面を配置しても、レンズカバーの影響によるX軸方向のボケが大きく、結果として受光素子の受光面での受光量が減少することになって、赤外線センサやレーザユニットなどの性能に大きく影響を与えてしまう。
【0013】
図9は、レンズカバーの影響によって結像点がずれてしまうことの概略説明図である。この図に示すように、Y軸方向については結像点Pyはレンズのf値に従った本来の位置のままである。ところが、X軸方向については、レンズカバーの曲率および厚みなどによって結像点Pxが変化して移動している。具体的には、X軸方向ではレンズカバーが一種のレンズのような働きをするため、レンズカバーが無い状態に比べて結像点Pxが後方へ一定量(図9のΔPx)ずれることになる。
【0014】
従来技術のこのような課題に鑑み、本発明の目的は、レーザ光を利用したレーザ受光ユニットにおいて、特に受光レンズの直径とそれに組み合わせる曲面状レンズカバーの直径とが近似している場合に、レンズカバーの曲率や厚み、あるいは受光レンズまでの距離などを適切に設定することによって、上述したようなレンズカバーの受光レンズに対する影響を回避するだけではなく、レンズカバーを受光レンズの補助レンズとして利用することによって受光レンズの集光率を向上させることが可能なレーザ受光ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明のレーザ受光ユニットは、開口部が形成された筐体と、前記開口部を覆うように配置されるとともに、前記筐体外部からのレーザ光を前記筐体内部へ透過させる曲面状カバーと、前記筐体の内部に配置されるとともに、レーザ光を受光する受光部位を有し、その受光部位における受光量に応じた信号を出力する受光素子と、前記筐体の内部に配置されるとともに、前記曲面状カバーを透過したレーザ光を前記受光素子の前記受光部位に結像させる受光光学系とを備え、前記受光素子と前記受光光学系との相対的な配置を、前記受光光学系の焦点距離と前記曲面状カバーの曲率および厚みとに基づいて定めることを特徴とする。
【0016】
ここで、前記受光素子と前記受光光学系との相対的な配置とは、例えば、前記受光素子の前記受光部位と前記受光光学系との間の距離間隔が挙げられる。また、これらを、前記受光光学系の焦点距離と前記曲面状カバーの曲率および厚みとに基づいて前記受光素子の前記受光部位における受光量がほぼ最大となるように定めることが好ましい。
【0017】
この場合、受光量が厳密な最大値に達していなくても、最大値に近づくように極力大きくなっていれば、通常は問題になることはあまりない。また、ここでいう「最大値」とは、変更可能な各パラメータの全範囲の組み合わせなどから唯一定まるような最大値に必ずしも限られない。現実的な製品設計などの制約も考慮した上で各パラメータをそれぞれの所定範囲内で変化させ、そのときの「極大値」を代わりに用いてもよい。
【0018】
あるいは、本発明のレーザ受光ユニットは、開口部が形成された筐体と、前記開口部を覆うように配置されるとともに、前記筐体外部からのレーザ光を前記筐体内部へ透過させる曲面状カバーと、前記筐体の内部に配置されるとともに、レーザ光を受光する受光部位を有し、その受光部位における受光量に応じた信号を出力する受光素子と、前記筐体の内部に配置されるとともに、前記曲面状カバーを透過したレーザ光を前記受光素子の前記受光部位に結像させる受光光学系とを備え、前記曲面状カバーの厚みを、前記受光素子と前記受光光学系との相対的な配置と、前記受光光学系の焦点距離と、前記曲面状カバーの曲率とに基づいて定めることを特徴としてもよい。
【0019】
また、前記曲面状カバーの厚みを、前記受光素子の前記受光部位と前記受光光学系との間の距離間隔と、前記受光光学系の焦点距離と、前記曲面状カバーの曲率とに基づいて前記受光素子の前記受光部位における受光量がほぼ最大となるように定めることが好ましい。
【0020】
あるいは、本発明のレーザ受光ユニットは、開口部が形成された筐体と、前記開口部を覆うように配置されるとともに、前記筐体外部からのレーザ光を前記筐体内部へ透過させる曲面状カバーと、前記筐体の内部に配置されるとともに、レーザ光を受光する受光部位を有し、その受光部位における受光量に応じた信号を出力する受光素子と、前記筐体の内部に配置されるとともに、前記曲面状カバーを透過したレーザ光を前記受光素子の前記受光部位に結像させる受光光学系とを備え、前記受光素子の前記受光部位と前記受光光学系との間の距離間隔、および前記曲面状カバーの厚みを、前記受光光学系の焦点距離と前記曲面状カバーの曲率とに基づいて定めることを特徴としてもよい。
【0021】
また、前記受光素子の前記受光部位と前記受光光学系との間の距離間隔、および前記曲面状カバーの厚みを、前記受光光学系の焦点距離と前記曲面状カバーの曲率とに基づいて前記受光素子の前記受光部位における受光量がほぼ最大となるように定めることが好ましい。
【0022】
あるいは、本発明のレーザ受光ユニットは、開口部が形成された筐体と、前記開口部を覆うように配置されるとともに、前記筐体外部からのレーザ光を前記筐体内部へ透過させる曲面状カバーと、前記筐体の内部に配置されるとともに、レーザ光を受光する受光部位を有し、その受光部位における受光量に応じた信号を出力する受光素子と、前記筐体の内部に配置されるとともに、前記曲面状カバーを透過したレーザ光を前記受光素子の前記受光部位に結像させる受光光学系とを備え、前記受光素子の前記受光部位と前記受光光学系との間の距離間隔、前記受光光学系の焦点距離、および前記曲面状カバーの厚みおよび曲率を、前記受光素子の前記受光部位における受光量がほぼ最大となるように定めることを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明のレーザ受光ユニットによれば、曲面状レンズカバーの受光光学系に対する影響を回避するだけではなく、レンズカバーを受光光学系の補助レンズとして利用することによって受光光学系の集光率を向上させることができて、結果的には全体としての性能向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係るレーザ受光ユニット1の構成を模式的に示す概略図である。
【図2】レーザ受光ユニット1内部で受光レンズ4の位置を少しずつ変更してレンズカバー3側へと移動させた場合に、受光素子5の受光レベルがどのように変化するかの測定結果の一例を示すグラフである。
【図3】平板状のレンズカバー3A(厚み:2mm)を使用した場合における受光レンズ4による集光状態の光学シミュレーションの結果の例を示す写真(画像)であって、図3(a)は受光素子5の受光面5aから受光レンズ4までの距離間隔が受光レンズ4の焦点距離f0に等しい場合であり、図3(b)はその位置からの受光レンズ4のレンズカバー3A側への移動距離Δdが0.5mmの場合である。
【図4】曲面状のレンズカバー3(曲率:R50、厚み:2mm)を使用した場合における受光レンズ4による集光状態の光学シミュレーションの結果の例を示す写真(画像)であって、図4(a)は受光素子5の受光面5aから受光レンズ4までの距離間隔が受光レンズ4の焦点距離f0に等しい場合であり、図4(b)はその位置からの受光レンズ4のレンズカバー3側への移動距離Δdが0.5mmの場合であり、図4(c)は受光レンズ4の移動距離Δdが1.0mmの場合であり、図4(d)は受光レンズ4の移動距離Δdが1.5mmの場合である。
【図5】平板状のレンズカバー3Aの場合と曲面状のレンズカバー3の場合とを比較した概略説明図であり、図5(a)は平板状のレンズカバー3Aが使用されている場合を示し、図5(b)は曲面状のレンズカバー3が使用されるとともに受光レンズ4の位置がレンズカバー3側へ移動された場合を示す。
【図6】背景技術におけるレーザエリアセンサ101の概略構成図である。
【図7】レーザ光を利用する距離測定装置などにおいて、曲面状のレンズカバー103の影響を説明するための光学シミュレーションの概略説明図である。
【図8】光学シミュレーション結果の例を示す写真(画像)であって、図8(a)はレンズカバー103の曲率がR50(内径:R48)の場合であり、図8(b)はレンズカバー103の曲率がR30(内径:R28)の場合である。
【図9】レンズカバーの影響によって結像点がずれてしまうことの概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態に係るレーザ受光ユニット1の構成を模式的に示す概略図である。なお、このようなレーザ受光ユニット1は、例えば、背景技術の説明で参照した図6のようなレーザエリアセンサ101などの測定装置に組み込まれるか、あるいは、レーザ光を投光する別体のレーザ投光ユニットなどと組み合わせて使用されるが、それらの構成などは周知であるから、ここでは説明を省略する。
【0027】
図1に示すように、本実施形態に係るレーザ受光ユニット1は、一側面に比較的大きな開口部2aが形成された箱形のケース2と、その開口部2aを覆うようにはめ込まれて配置されるとともにケース2外部からのレーザ光をケース2内部へ透過させるレンズカバー3と、ケース2の内部に配置されるとともにレーザ光を受光する受光面5aを有してその受光面5aにおける受光量に応じた信号を出力する受光素子5と、ケース2の内部に配置されるとともにレンズカバー3を透過したレーザ光を受光素子5の受光面5aに結像させる受光光学系としての受光レンズ4とを備えている。
【0028】
ここで、レンズカバー3としては、例えば、ポリカーボネイト製であって外側凸の曲面状のものが挙げられるが、このようなものに限るわけではない。
【0029】
受光レンズ4は、図1では単一の球面凸レンズとして図示されているが、受光光学系はこのような構成に限るものではなく、例えば、複数のレンズを組み合わせたり、非球面レンズなどを用いたりしてもよい。
【0030】
受光素子5としては、例えば、アバランシェ・フォトダイオード(APD)が挙げられるが、これに限るものではない。
【0031】
受光レンズ4と受光素子5との相対的な配置については、通常は、受光レンズ4によって集光されるレーザ光を受光素子5が最も効率よく受光できるように、受光素子5の受光面5aと受光レンズ4との間の距離間隔がちょうど受光レンズ4の焦点距離f0となるように配置される。ケース2内部における受光素子5の配置が先に決まっていれば、その受光素子5を基準にして受光レンズ4を配置することになる。
【0032】
ところが、その場合の受光素子5の受光レベルを実際に測定したところ、レンズカバーが無い場合は約820mV、厚みが2mmで平板状のレンズカバーの場合には約731mVであったのに対して、それらより遙かに低い約347mVしか出力されなかった。このように受光レベルがかなり低下したのは、レンズカバー3の曲率の影響によって水平方向のボケが形成され、受光素子5の受光面5aにおけるレーザ光が減衰しているためであろうと考えられる。
【0033】
なお、厚みが2mmで平板状のレンズカバーの場合は、レンズカバーが無い場合と比較して受光レベルが約10%低下しているが、これはレンズカバー3の材料のレーザ光の波長における減衰特性にほぼ合致している。
【0034】
そこで、図9を参照して説明したように、レンズカバーが一種のレンズのような働きをすることでレンズカバーが無い状態に比べて結像点が後方へずれてしまうことなどを考慮して、レーザ受光ユニット1内部で受光レンズ4の位置を少しずつ変更してレンズカバー3側へと移動させた場合(受光レンズ4を基準にすれば、受光素子5までの距離間隔が広がることで受光素子5が後方にずれることと同等)に、受光素子5の受光レベルがどのように変化するかを測定した。この測定では、距離30mで反射率10%の物体に対してパルスレーザ光を照射するようにしており、受光レンズ4の位置を変更する都度、受光素子5の受光レベルを測定した。図2は、その測定結果の一例を示すグラフである。
【0035】
この図2に示すように、受光レンズ4の位置をレンズカバー3側へと移動させると、受光素子5の受光レベルが次第に上昇し、レンズカバー3が無い場合の受光レベル(約820mV)にかなり近い受光レベルが得られることがわかった。受光レベルは、受光レンズ4の元の位置からの移動距離Δdが1.0mmのときにほぼ最大となり、そのときの受光レベルは約818mVであった。
【0036】
このことは、上述したような構成で曲面状のレンズカバー3が使用されているレーザ受光ユニット1において、受光レンズ4によって集光されるレーザ光を最も効率よく受光するためには、受光素子5と受光レンズ4との相対的な配置を、単に受光レンズ4の焦点距離f0のみに基づいて定めるのではなく、焦点距離f0に加えてレンズカバー3の曲率や厚みによる受光レベルへの影響も考慮した上で定めるべきということである。受光素子5と受光レンズ4との相対的配置としては、具体的には、例えば、受光素子5の受光面5aと受光レンズ4との間の距離間隔が挙げられる。この場合、受光素子5の受光面5aと受光レンズ4との間の距離間隔を、受光レンズ4の焦点距離f0とレンズカバー3の曲率および厚みとに基づいて定めるべきということになる。あるいは、まずは受光素子5の受光面5aと受光レンズ4との間の距離間隔の基準値を受光レンズ4の焦点距離f0とした上で、レンズカバー3の曲率および厚みを考慮してその距離間隔を補正すべきということになる。
【0037】
図3(a)および図3(b)は、平板状のレンズカバー3A(厚み:2mm)を使用した場合における受光レンズ4による集光状態の光学シミュレーションの結果の例を示す写真(画像)であって、図3(a)は受光素子5の受光面5aから受光レンズ4までの距離間隔が受光レンズ4の焦点距離f0に等しい場合であり、図3(b)はその位置からの受光レンズ4のレンズカバー3A側への移動距離Δdが0.5mmの場合である。
【0038】
これらの図からわかるように、平板状のレンズカバー3Aでは受光レンズ4の結像にほとんど影響を与えないため、図3(a)の場合には受光レンズ4を通った光がほぼ一点に結像している。
【0039】
図3(b)の場合のように受光素子5の受光面5aから受光レンズ4までの距離間隔と受光レンズ4の焦点距離f0とに差(Δd=0.5mm)があると、それに従ってボケが生じるが、このボケはX軸方向やY軸方向などのいずれにも偏ることなく全方向に均等に生じている。
【0040】
なお、図示は省略しているが、受光素子5の受光面5aから受光レンズ4までの距離間隔と受光レンズ4の焦点距離f0との差がさらに大きくなれば、それに応じてボケ量も大きくなるものの、そのボケはやはり全方向に均等に生じる。
【0041】
図4(a)〜図4(d)は、曲面状のレンズカバー3(曲率:R50、厚み:2mm)を使用した場合における受光レンズ4による集光状態の光学シミュレーションの結果の例を示す写真(画像)であって、図4(a)は受光素子5の受光面5aから受光レンズ4までの距離間隔が受光レンズ4の焦点距離f0に等しい場合であり、図4(b)はその位置からの受光レンズ4のレンズカバー3側への移動距離Δdが0.5mmの場合であり、図4(c)は受光レンズ4の移動距離Δdが1.0mmの場合であり、図4(d)は受光レンズ4の移動距離Δdが1.5mmの場合である。
【0042】
これらの図と図3(a)および図3(b)との比較から、曲面状のレンズカバー3は受光レンズ4の結像にかなり影響を与えることがわかる。図4(a)に示すように、受光素子5の受光面5aから受光レンズ4までの距離間隔が受光レンズ4の焦点距離f0に等しい場合でも、図3(a)の場合とはかなり異なっている。受光レンズ4を通った光は一点には結像せずにボケが生じており、また、そのボケも方向によって偏りが見られる。
【0043】
受光レンズ4をレンズカバー3側へ移動させて受光面5aから受光レンズ4までの距離間隔と受光レンズ4の焦点距離f0との差を0.5mmにすると、図4(b)に示すように、Y軸方向のボケ量はあまり変化しないものの、X軸方向ではボケ量がむしろ減少する。
【0044】
受光レンズ4をレンズカバー3側へさらに0.5mm移動させて移動距離Δd=1.0mmとすると、図4(c)に示すように、Y軸方向のボケ量はあまり変化しないものの、X軸方向ではボケ量がさらに減少する。
【0045】
しかし、受光レンズ4をレンズカバー3側へさらに0.5mm移動させて移動距離Δd=1.5mmとすると、図4(d)に示すように、ボケ量がX軸方向およびY軸方向の両方で拡大してしまう。
【0046】
このように、図4(a)〜図4(d)の中ではボケ量が最も小さいのは図4(c)であるが、これは図2を参照して説明した実際の測定結果とも概ね一致する。
【0047】
図5は、平板状のレンズカバー3Aの場合と曲面状のレンズカバー3の場合とを比較した概略説明図であり、図5(a)は平板状のレンズカバー3Aが使用されている場合を示し、図5(b)は曲面状のレンズカバー3が使用されるとともに受光レンズ4の位置がレンズカバー3側へ移動された場合を示す。
【0048】
図5(b)に示されるように、受光レンズ4の位置を曲面状のレンズカバー3側へと所定距離Δfだけ移動させたときに受光レンズ4によって集光されるレーザ光が最も効率よく受光されるということは、受光レンズ4の焦点距離f0がレンズカバー3の影響によって実質的にΔfに相当する距離だけ付加された(伸張された)とみることもできる。
【0049】
このとき、レンズカバー3の曲率の影響によってレンズカバー3内での受光レンズ4周辺の光軸が変化し、受光レンズ4のf値に対して遠方方向へ影響を与えていることがわかる。さらに、これによって実質的な光軸面積が増加(増加分をΔSとする)するので、受光レンズ4を透過するレーザ光がより多く集光されて受光素子5の受光面5aに到達することになる。図2を参照して説明したように、受光レンズ4の移動距離Δdが1.0mmのときには、受光レンズ4の透過に伴うレーザ光の減衰があるにも関わらず、レンズカバー3が無い場合の受光レベルにかなり近い受光レベルが得られたこともこれで説明がつくと考えられる。
【0050】
以上のことから、レーザ光を利用する測定装置などのレーザ受光ユニットにおいて、曲面状のレンズカバー3(特に曲率が大きくて厚いもの)が使用されており、且つ、特にレンズカバー3内にてレンズカバー3の直径に比較的近いような大口径(例えば1/3以上)の受光レンズ4が使用されている場合には、レンズカバー3が受光レンズ4の結像性能に与える影響が大きいと考えられるため、受光レンズ4を含む受光光学系全体の光学設計においては、受光レンズ4と受光素子5との相対的な配置を、受光レンズ4の焦点距離だけではなくレンズカバー3の曲率および厚みにも基づいて定める必要がある。
【0051】
そのようにして、受光レンズ4と受光素子5との相対的な配置を光学的に最適設計すれば、曲面状のレンズカバー3が受光レンズ4の結像性能に与える悪影響を抑制できるだけでなく、むしろ、レンズカバー3を受光レンズ4の補助レンズとして利用することも可能になって受光レンズの集光率を向上させ、結果的には全体としての性能向上を図ることが可能となる。
【0052】
上述した実施形態では、曲面状のレンズカバー3の仕様(直径、曲率、厚み)および受光レンズ4の仕様(口径、焦点距離)などが予め定まっているものとして、ケース2内部における受光素子5の位置を基準に受光レンズ4を最適に配置する光学設計方法の一例を説明した。
【0053】
ただし、本願発明はこのような最適化方法に限るものではない。赤外線やレーザ光の受光素子の受光面への結像を行う受光レンズなどの光学設計において、レンズカバーの存在も考慮するとともに、むしろ、受光レンズによる結像をレンズカバーが光学的に補完するような働きをさせることも積極的に意図して光学設計を行うというのが本願発明の技術的思想である。
【0054】
したがって、上記のレンズカバー3の仕様や受光レンズ4の仕様が予め定まっていて変更不可と限定する必要はない。それらの仕様の一部も必要に応じて変化させることによって全体として最適化を図ってもよい。
【0055】
例えば、レンズカバー3の厚みを、受光素子5の受光面5aと受光レンズ4との間の距離間隔と、受光レンズ4の焦点距離f0と、レンズカバー3の曲率とに基づいて、最適値(受光素子5の受光レベルが極力大きくなるような値)に設定することが挙げられる。
【0056】
また、レンズカバー3の厚みと、受光素子5の受光面5aと受光レンズ4との間の距離間隔とを、受光レンズ4の焦点距離f0と、レンズカバー3の曲率とに基づいて、それぞれ最適値(受光素子5の受光レベルが極力大きくなるような値)に設定することも挙げられる。
【0057】
また、受光素子5の受光面5aと受光レンズ4との間の距離間隔と、受光レンズ4の焦点距離f0と、レンズカバー3の厚みおよび曲率とを総合して、受光素子5の受光レベルが極力大きくなるように設定することなども挙げられるが、これらに限られるわけではない。さらに、レンズカバー3および受光レンズ4間の距離なども考慮に入れてもよい。
【0058】
このような最適値を求めるには、例えば、図2を参照して説明したように、各パラメータを変更しながら実際に受光レベルを測定し、その測定結果に基づいて最適値を求めてもよい。あるいは、実際の測定を行うのではなく、図3を参照して説明したように、受光レンズ4による集光状態の光学シミュレーションを、各パラメータを変更しながら様々な条件で行い、その結果を総合的に判断して最適値を求めてもよい。
【0059】
なお、本発明は、その主旨または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文にはなんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0060】
1 レーザ受光ユニット
2 ケース
2a ケース開口部
3 レンズカバー(曲面状)
3A レンズカバー(平板状)
4 受光レンズ
5 受光素子
5a 受光面
0 焦点距離
Δd 受光レンズの基準位置からの移動距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部が形成された筐体と、
前記開口部を覆うように配置されるとともに、前記筐体外部からのレーザ光を前記筐体内部へ透過させる曲面状カバーと、
前記筐体の内部に配置されるとともに、レーザ光を受光する受光部位を有し、その受光部位における受光量に応じた信号を出力する受光素子と、
前記筐体の内部に配置されるとともに、前記曲面状カバーを透過したレーザ光を前記受光素子の前記受光部位に結像させる受光光学系と
を備え、
前記受光素子と前記受光光学系との相対的な配置を、前記受光光学系の焦点距離と前記曲面状カバーの曲率および厚みとに基づいて定めることを特徴とするレーザ受光ユニット。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ受光ユニットにおいて、
前記受光素子の前記受光部位と前記受光光学系との間の距離間隔を、前記受光光学系の焦点距離と前記曲面状カバーの曲率および厚みとに基づいて定めることを特徴とするレーザ受光ユニット。
【請求項3】
請求項2に記載のレーザ受光ユニットにおいて、
前記受光素子の前記受光部位と前記受光光学系との間の距離間隔を、前記受光光学系の焦点距離と前記曲面状カバーの曲率および厚みとに基づいて前記受光素子の前記受光部位における受光量がほぼ最大となるように定めることを特徴とするレーザ受光ユニット。
【請求項4】
開口部が形成された筐体と、
前記開口部を覆うように配置されるとともに、前記筐体外部からのレーザ光を前記筐体内部へ透過させる曲面状カバーと、
前記筐体の内部に配置されるとともに、レーザ光を受光する受光部位を有し、その受光部位における受光量に応じた信号を出力する受光素子と、
前記筐体の内部に配置されるとともに、前記曲面状カバーを透過したレーザ光を前記受光素子の前記受光部位に結像させる受光光学系と
を備え、
前記曲面状カバーの厚みを、前記受光素子と前記受光光学系との相対的な配置と、前記受光光学系の焦点距離と、前記曲面状カバーの曲率とに基づいて定めることを特徴とするレーザ受光ユニット。
【請求項5】
請求項4に記載のレーザ受光ユニットにおいて、
前記曲面状カバーの厚みを、前記受光素子の前記受光部位と前記受光光学系との間の距離間隔と、前記受光光学系の焦点距離と、前記曲面状カバーの曲率とに基づいて前記受光素子の前記受光部位における受光量がほぼ最大となるように定めることを特徴とするレーザ受光ユニット。
【請求項6】
開口部が形成された筐体と、
前記開口部を覆うように配置されるとともに、前記筐体外部からのレーザ光を前記筐体内部へ透過させる曲面状カバーと、
前記筐体の内部に配置されるとともに、レーザ光を受光する受光部位を有し、その受光部位における受光量に応じた信号を出力する受光素子と、
前記筐体の内部に配置されるとともに、前記曲面状カバーを透過したレーザ光を前記受光素子の前記受光部位に結像させる受光光学系と
を備え、
前記受光素子と前記受光光学系との相対的な配置、および前記曲面状カバーの厚みを、前記受光光学系の焦点距離と前記曲面状カバーの曲率とに基づいて定めることを特徴とするレーザ受光ユニット。
【請求項7】
請求項6に記載のレーザ受光ユニットにおいて、
前記受光素子の前記受光部位と前記受光光学系との間の距離間隔、および前記曲面状カバーの厚みを、前記受光光学系の焦点距離と前記曲面状カバーの曲率とに基づいて前記受光素子の前記受光部位における受光量がほぼ最大となるように定めることを特徴とするレーザ受光ユニット。
【請求項8】
開口部が形成された筐体と、
前記開口部を覆うように配置されるとともに、前記筐体外部からのレーザ光を前記筐体内部へ透過させる曲面状カバーと、
前記筐体の内部に配置されるとともに、レーザ光を受光する受光部位を有し、その受光部位における受光量に応じた信号を出力する受光素子と、
前記筐体の内部に配置されるとともに、前記曲面状カバーを透過したレーザ光を前記受光素子の前記受光部位に結像させる受光光学系と
を備え、
前記受光素子の前記受光部位と前記受光光学系との間の距離間隔、前記受光光学系の焦点距離、および前記曲面状カバーの厚みおよび曲率を、前記受光素子の前記受光部位における受光量がほぼ最大となるように定めることを特徴とするレーザ受光ユニット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−13074(P2011−13074A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156891(P2009−156891)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(000103736)オプテックス株式会社 (116)
【Fターム(参考)】