説明

レーザ溶接方法、被溶接物、及びレーザ溶接装置

【課題】フランジ幅が短い場合であってもローラの脱線がないレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置、並びに当該レーザ溶接方法で溶接された被溶接物を提供すること。
【解決手段】レーザ溶接装置で、長手方向を溶接方向とし当該長手方向において略同一幅を有するフランジ部をステッチ溶接する際、フランジ部の幅方向における端部からの距離が所定値以上となるよう、ステッチごとのレーザ溶接開始点の位置を補正し、ステッチ長をS、フランジ部の長手方向の全長をL、幅方向の中心位置が全長L内においてばらつく幅をσ、溶接目標となる軌跡T0からの実際の溶接線T1のずれをΔxとしたとき、
S≦L・Δx/σ
を満たす長さのステッチ長にてステッチ溶接を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幅が短いフランジ部を有する被溶接物を溶接するのに好適なレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置、並びに当該レーザ溶接方法により溶接された被溶接物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のフランジ部の溶接技術としては、特許文献1に記載のレーザ溶接方法が公知である。このレーザ溶接方法においては、加圧ローラの加圧方向での位置と、溶接部とレーザビームの焦点位置との間のレーザ光軸方向での相対位置との間に相関関係があることに着目し、加圧ローラの位置を検出してこれをフィードバックすることにより被溶接物と焦点位置との相対位置が常に一定になるように制御することを目的とする。この従来の溶接方法においては、金属薄板にて形成された被溶接物の溶接近傍を加圧ローラで加圧拘束する一方、レーザ加工ヘッドから照射されたレーザ光を溶接部に照射して被溶接物とレーザ光とを溶接方向に相対移動させながら溶接を行なう。この場合、ローラの加圧軸線方向での位置を連続的に検出し、レーザ光の焦点が常に被溶接物の表面上に位置するように加圧ローラの位置変化量に基づいて被溶接物とレーザ加工ヘッドのレーザ光軸方向での相対位置を補正しながら溶接している。
【0003】
また、特許文献2には、加工点へレーザ照射する位置に加工ヘッドを移動させ、ローラで押圧しつつステッチ溶接する技術が開示されている。このステッチ溶接においては、ステッチ毎、すなわち、溶接開始毎に加工ヘッドを所定の中立位置まで移動させて溶接を行なう。
【特許文献1】特開平8−90264号公報
【特許文献2】特開2001−219283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の溶接方法においては、フローティング機能にフィードバック制御が必要で複雑である上、溶接進行方向に垂直の方向(X方向)の制御がないため、フランジ幅が短くなると溶接することができないという問題点がある。また、位置を光センサで検出するが、ワークが平面に限られるうえ、溶接プラズマの外乱光の影響を受けて計測が困難であるという問題点がある。
【0005】
また、特許文献2に記載の技術においては、溶接を行なう対象がフランジなどの幅が狭いエリアの場合、所定の中立位置に加工ヘッドを移動させて溶接を行なっても、ステッチの長さが長いと加工ヘッドがフランジから脱線してしまうという問題がある。溶接しながら加工ヘッドの位置を調整することも考えられるが、クランプ力があるため溶接中に位置補正することは困難であるという問題がある。
【0006】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、フランジ幅が短い場合であってもローラの脱線がないレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置、並びに当該レーザ溶接方法で溶接された被溶接物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかるレーザ溶接方法は、長手方向を溶接方向とする溶接対象部において、当該長手方向に直交する幅方向における端部からの距離が所定値以上となるよう、ステッチごとのレーザ溶接開始点の位置を補正する補正工程と、ステッチ長をS、前記溶接対象部の長手方向の全長をL、前記幅方向の中心位置が全長L内においてばらつく幅をσ、溶接目標となる軌跡からの実際の溶接線のずれをΔxとしたとき、
S≦L・Δx/σ
を満たす長さのステッチ長にてステッチ溶接を行なう溶接工程とを有し、ステッチ溶接毎に前記補正工程及び溶接工程を繰り返すものである。
【0008】
本発明においては、ステッチごとにレーザ溶接開始点の位置補正をすると共に、S≦L・Δx/σを満たす長さのステッチ長でステッチ溶接することで、溶接対象部におけるクランプ脱線を防止することができる。
【0009】
また、前記溶接対象部は、溶接方向となる長手方向において略同一幅を有するものとすることができ、例えばフランジ部のような細長い溶接対象部における脱線を防止することができる。
【0010】
また、前記溶接開始点は、前記溶接対象部における溶接総板厚をX、前記溶接対象部の前記幅方向における端部からビードの中心位置までの距離をYとしたとき、
Y>−0.357X+2.01X
を満たすことが好ましい。距離Yが上記式を満たすようにすることで、例えば短フランジ部を有するハイテン材であっても溶接部内部割れを抑制することができる。
【0011】
さらに、前記溶接対象部は被溶接物におけるフランジ部であって、前記溶接工程では、当該フランジ部の溶接を行なうことができる。
【0012】
さらにまた、前記ステッチ溶接の長さは50mm以下であることが好ましい。50mm以下のステッチ長とすることでまっすぐ溶接することができ、脱線を防止することができる。
【0013】
本発明にかかる被溶接物は、長手方向を溶接方向とする溶接対象部を有し、ステッチ長をS、前記溶接対象部の長手方向の全長をL、前記幅方向の中心位置が全長L内においてばらつく幅をσ、溶接目標となる軌跡からの実際の溶接線のずれをΔxとしたとき、
S≦L・Δx/σ
を満たす長さのステッチ長でステッチ溶接されたものである。
【0014】
本発明にかかるレーザ溶接装置は、長手方向を溶接方向とする溶接対象部を有する被溶接物に対してレーザを照射するレーザ照射部と、前記被溶接物をクランプするクランプ機構と、前記クランプ機構により前記被溶接物をクランプする際、前記被溶接物の前記溶接対象部の幅方向端部に突き当てられることで、前記溶接対象部の前記幅方向における端部からの距離が所定値以上となるよう溶接開始点の位置決めをする突き当て機構と、ステッチ溶接ごとに、前記被溶接物の前記フランジ部をクランプさせ前記突き当て機構により溶接開始点を位置決めすると共に、ステッチ長をS、前記溶接対象部の長手方向の全長をL、前記幅方向の中心位置が全長L内においてばらつく幅をσ、溶接目標となる軌跡からの実際の溶接線のずれをΔxとしたとき、
S≦L・Δx/σ
を満たす長さのステッチ長にてステッチ溶接を行なわせるよう制御する制御部とを有するものである。
【0015】
本発明においては、突き当て機構を溶接対象部の端部に突き当ててステッチ溶接開始位置を補正し、所定の条件を満たす短いステッチ長でステッチ溶接することができ、簡易な突き当て機構で位置決めを行なうことができると共に溶接中のクランプ脱線を防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、フランジ幅が短い場合であってもローラの脱線がないレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置、並びに当該レーザ溶接方法で溶接された被溶接物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態にかかるレーザ溶接装置を示す図である。図1に示すように、レーザ溶接装置1は、X軸方向(水平方向)ロック機構10と、Z軸方向(垂直方向)ロック機構20と、被溶接物クランプ機構30と、突き当て機構40と、レーザ機構60と、各機構を制御する図示せぬ制御部とを有する。
【0018】
このレーザ溶接装置1は、長手方向を溶接方向とし当該長手方向において略同一幅を有する溶接対象部を有する被溶接物、例えばフランジ部を有する被溶接物70の溶接を行なうのに好適に設計されており、フランジ端に対し、溶接方向に垂直な方向(X軸)の位置決め精度が例えば1.0mm未満を実現可能とする簡易な2軸フローティング機能を備えたクランプ溶接トーチ構成を有する。
【0019】
ここで、レーザ機構60は、被溶接物70に対してレーザを照射するレーザ照射部を備える。クランプ機構30は、被溶接物70をクランプする。突き当て機構40は、クランプ機構30により被溶接物70をクランプする際、被溶接物70のフランジ部の幅方向端部に突き当てられることで、フランジ部の幅方向における端部からの距離が所定値以上となるよう溶接開始点の位置決めをする。制御部は、ステッチ溶接ごとに、被溶接物70のフランジ部をクランプさせ突き当て機構40により溶接開始点を位置決めするよう制御する。さらに、ステッチ長をS、フランジ部の長手方向の全長をL、幅方向の中心位置が全長L内においてばらつく幅をσ、溶接目標となる軌跡からの実際の溶接線のずれをΔxとしたとき、
S≦L・Δx/σを
満たす長さのステッチ長にてステッチ溶接を行なわせるよう制御する。このようにステッチ長を制御することで、例えば短フランジであっても、レーザ溶接線を略溶接目標となる軌跡上としてクランプ脱線を防止することができる。
【0020】
本実施の形態において、このレーザ溶接装置1は、具体的には以下のように構成される。すなわち、Z軸方向に設けられた支持体51と当該支持体51に垂直に設けられた支持体52とを有し、支持体51にX軸方向ロック機構10が設けられ、支持体52にZ軸方向ロック機構20が設けられている。
【0021】
X軸方向ロック機構10は、支持体51に対して垂直に支持された支持部11、12の間に支持体51をX軸方向に移動可能なバネ機構13及び押圧部材14が設けられてなる。このバネ機構13が伸縮することで支持体51がX軸方向に移動し被溶接物の溶接位置を決定することができる。
【0022】
Z軸方向ロック機構20は、支持体52に対して垂直下方向に支持された支持部21、22の間にバネ機構23及び移動体24を有し、バネ機構がX軸方向に伸縮することで、移動体24がZ軸方向に移動可能に取り付けられている。移動体24には、レーザ機構60が取り付けられ、また、支持部31を介してクランプ機構30が取り付けられている。移動体24がZ軸方向に移動することで、レーザ機構60及びクランプ機構30も共にZ軸方向に移動する。なお、本実施の形態においては、レーザ機構60とクランプ機構30が一緒に移動する機構として説明するが、レーザ機構60とクランプ機構30とが別々に移動するような機構としてもよい。
【0023】
クランプ機構30は、上側クランプ32と、支持部33を介して上側クランプ32と対向して設けられた下側クランプ34とを有する。この上側クランプ32と下側クランプ34はZ軸方向にそれぞれ下側、上側に移動可能に構成され、これらの間に、上側鋼板70a及び下側鋼板70bからなる被溶接物70をクランプすることができる。
【0024】
ここで、本実施の形態にかかるレーザ溶接装置1は、クランプ機構30の支持部33に、X軸方向に逃がし機能付きの突き当て機構40が設けられている。この突き当て機構40により、ステッチ開始点(溶接開始点)においてフランジ端からのレーザ位置(距離)を正確に規定することができる。
【0025】
次に、このレーザ溶接装置のレーザ溶接方法について説明する。図2は、レーザ溶接方法を示すフローチャートである。先ず、Z軸方向をZ軸方向ロック機構20によりロックし、X軸方向はフローティング状態とする(ステップS1)。次に、X軸方向から、被溶接物70をティーチポイントへ押し込む(ステップS2)。被溶接物70は、例えば2枚重ね以上の鋼板で、溶接箇所はそのフランジ部である。このとき、突き当て機構40が被溶接物70のフランジ端に突き当たることにより、フランジ端からのレーザ照射位置を適切な位置に規定することができる。
【0026】
X軸方向に位置が決まったら、X軸方向ロック機構10によりX軸方向をロックし、X軸方向の位置決めを終了する(ステップS3)。ここで、接触位置検出の場合には突き当て機構40を例えば支持体51側へ移動させて検出を阻害しないようにする。
【0027】
次いでZ軸方向をフローティング状態とする(ステップS4)。そして、クランプ機構30により被溶接物70をクランプできるよう移動させると共に、上側クランプ32をZ軸方向下側へ、下側クランプ34をZ軸方向上側へ移動させ被溶接物70をクランプし、Z軸方向ロック機構20によりロックする。これにより、Z軸方向の位置決めが完了する(ステップS5)。そして、上述したように、
S≦L・Δx/σ
を満たす長さのステッチ長にてステッチ溶接を行う(ステップS6)。
【0028】
1ステッチ分の溶接が終了したらクランプを開き(ステップS7)、溶接対象部の全長の溶接が終了していない場合(ステップS8:No)、次のティーチングポイントに移動して(ステップS9)ステップS1からの処理を繰り返し、溶接対象部の溶接が終了したら溶接施工を終了する。すなわち、各ステッチ毎にX軸方向の位置決めをするが、その際、突き当て機構40により、ステッチ溶接開始点をフランジ端から適切な距離に規定すること、及びS≦L・Δx/σを満たす短いステッチ長でステッチ溶接することでクランプの脱線を防止することができる。
【0029】
本実施の形態にかかるレーザ溶接方法においては、1枚重ね以上の鋼板フランジ部のレーザ溶接において、そのフランジ部をクランプする際、フランジが短い場合に溶接長が長くなると脱線する場合があるが、ステッチ溶接毎に、そのスタート位置を突き当て機構40により補正する。そして、スタート位置決め後は、ローラ(上側クランプ32、下側クランプ34)が外れない短距離以内、例えば50mm以内でステッチ溶接を行なう。これを各ビードで繰り返すことで、フランジ端から溶接位置までの距離を管理し、溶接中のクランプ脱線を防止する。
【0030】
図3及び図4は、それぞれ従来及び本実施の形態の溶接方法を説明するための図である。図3に示すように、被溶接物103の溶接開始点が規定の場所にあり、ローラ101、102により被溶接物103のフランジがクランプされている場合(A)、及び最初からローラによりクランプされていない場合(B)について説明する。Aの場合、ステッチ長がS≦L・Δx/σより長いと、例えば最初のステッチ104ではレーザ110による溶接が可能であるものの、フランジ部の位置ずれや溶接ロボットのクランプ位置のずれ等により例えばステッチ105ではローラ102がフランジからはずれて脱線してしまう。クランプのずれを直そうとしてもクランプ力があるために、溶接中に位置を補正することはできない。また、スタート位置を補正しないBの場合は、スタート地点からローラ102が空振り状態でビード位置(ステッチ106)もずれて、被溶接物を溶接することはできない。
【0031】
これに対し、図4に示すように、本実施の形態においては、スタート位置決めのみ溶接位置補正を実施し、スタート位置決め後はローラ101、102が外れないS≦L・Δx/σを満たす短いステッチ長、例えば50mm以内でステッチ状の溶接107、108を行い、これを各ビードで繰り返す。溶接部は倣いなしとするが、例えば50mm以下の短距離とすること及び溶接開始点を所定位置に補正設定することでレーザをまっすぐ進ませ脱線を防止することができる。特に、フランジ幅が15mm以下の短フランジになると、クランプ脱線が問題となるが、本実施の形態においては、このような短フランジであっても、クランプ脱線がなく、かつ後述するように割れが生じない溶接方法を提供することができる。
【0032】
次に、溶接開始点について更に詳細に説明する。図5は、被溶接物のフランジ部を示す図である。202は溶接スタート点、T0は溶接したい軌跡を示す。フランジ部201の溶接スタート点202のみ溶接位置を決める。上述したように、ステッチ全長をS、溶接対象部の長手方向を溶接方向としたとき、当該長手方向の全長をL、当該長手方向に直交する方向の中心位置(T0)が全長L内においてばらつく幅をσ、溶接目標の軌跡T0からの実際の溶接線T1のずれをΔxとしたとき、本実施の形態においては、
S≦L・Δx/σ
を満たすステッチ長Sでステッチ溶接する。
【0033】
ここで、ばらつき幅σはフランジ部201における幅方向、すなわち溶接目標軌跡T0とは直交する方向において、その中心位置(=T0)が溶接対象部の全長L内においてばらつく幅を示し、溶接対象部の幅方向中心位置T0は、全長Lにおいて、常にばらつき幅σの間にあるものとする。
【0034】
製品形状(フランジ幅)のばらつきは小さい値であっても、その位置のばらつきが大きい場合には、溶接ロボットとの相対位置ばらつきが問題となる。図6に示すように、ステッチ長が長いと、ロボットが狙う軌跡T0と、実際にロボットが走ってしまう軌跡(溶接線)T1とでは大きなバラツキΔが生じる。
【0035】
また、図7(a)に示すように、被溶接物210a、210bは通常隙間があり、クランプ212a、212bによりこれをクランプしてレーザ211で溶接する。この場合、図7(b)に示すように、隙詰めのため大きな荷重で加圧してクランプする。よって、クランプしたまま移動しようとしても(図7(c))クランプ装置に大きな負担がかかり、溶接中の位置の変更ができず倣いは困難となる。
【0036】
したがって、図5に示したように、溶接したい軌跡T0と溶接ロボットが走ってしまう軌跡(溶接線)T1とはずれが生じるが、溶接したい軌跡T0(溶接対象部の幅方向中心位置)は少なくともバラツキ幅σに収まっているとした場合、ステッチ長Sを、脱線しないために許容できるずれ量をΔxとしたとき、
S≦L・Δx/σ
を満たす長さとなるように規定することで、脱線を防止することができる。
【0037】
さらに、このように規定された短距離では大幅なずれがないため、溶接軌跡精度<±Δxmmを実現することができる。次に、この溶接軌跡精度の重要性、すなわち溶接開始点の位置決めの必要性について説明する。本願発明者等は、440MPa級を超えるハイテン材の溶接を行なうと、フランジ端からの距離が短くなったときに割れが発生することを知見した。なお、従来の溶接方法では、このような知見がないため、フランジ端からビードまでの距離を規定することをしていなかった。
【0038】
これに対し、本願発明者等が鋭意実験研究した結果、図8に示すように、溶接対象部における溶接総板厚をX、溶接対象部の幅方向における端部302からビードの中心位置301までの距離をYとすると、
Y>−0.357X+2.01X
を満たせば、割れの発生を抑制し、良好な溶接ビードが得られることを知見した。ここで、被溶接物は2枚重ね以上であり、端部302は、端部のうち、最短の部分をいう。図9に示すように、横軸に鋼板総板厚X(mm)をとり、縦軸にフランジ最短部からビードの中心までの距離Y(mm)をとった場合、
Y<0.3261X+0.7935
で溶け落ちが発生し、
0.3261x+0.7935≦Y<−0.357x+2.01x
で割れが発生することを知見した。
【0039】
よって、
Y>−0.357X+2.01X
を満たすように溶接開始点を規定することが好ましい。上述したように、ハイテン材の溶接を行なうと、フランジ端からの距離が短くなったときに割れが発生する。しかしながら、溶接開始点を上記のように規定することで、ビードをフランジ端から所定距離内側とすることができ、短フランジのハイテン材であっても、脱線を防止すると共に割れを生じることがない被溶接物を得ることができる。
【0040】
本実施の形態においては、ステッチ長をS、フランジ部の長手方向の全長をL、幅方向の中心位置が全長L内においてばらつく幅をσ、溶接目標となる軌跡からの実際の溶接線のずれをΔxとしたとき、S≦L・Δx/σを満たす長さのステッチ長にてステッチ溶接を行なわせること、及びステッチ溶接毎に溶接開始点を補正することでフランジ部など幅が狭い部位を溶接する場合であっても、クランプの脱線を防止することができる。
【0041】
また、特殊な機構でなく簡易な突き当て機構40によりステッチ溶接の溶接開始点の位置決めを行なうことができ、装置の設計、製造が容易である。さらに、フランジ端からの距離を規定することができるため、ハイテン材に適用した場合であっても溶接部内部割れを抑制することができる。そして、フランジ位置のばらつきを無視し、突き当て機構40をフランジ端に突き当てるのみで溶接点のロボットティーチングをすることができるため、簡易なティーチングで高精度の溶接位置保証をすることができる。
【0042】
なお、本発明は上述した実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは勿論である。例えば、本実施の形態においては、被溶接物のフランジ部の溶接について説明したが、フランジに限らず、溶接対象部が長手方向に細長い形状である場合にも、同様に脱線を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施の形態にかかるレーザ溶接装置を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態にかかるレーザ溶接方法を示すフローチャートである。
【図3】従来の溶接方法を説明するための図である。
【図4】本発明の実施の形態にかかる溶接方法を説明するための図である。
【図5】被溶接物のフランジ部を示す図であって、本実施の形態にかかるステッチ長Sを説明するための図である。
【図6】従来のステッチ溶接におけるロボットが狙う軌跡T0と、実際にロボットが走ってしまう軌跡T1とのバラツキΔを説明する図である。
【図7】フランジ部をクランプして溶接する際のクランプ方法を説明するための図である。
【図8】溶接対象部における溶接総板厚をXと溶接対象部の幅方向における端部からビードの中心位置までの距離Yを説明する図である。
【図9】横軸に鋼板総板厚X(mm)をとり、縦軸にフランジ最短部からビードの中心までの距離Y(mm)をとって、溶接内部割れ発生領域を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0044】
1 レーザ溶接装置
10 X軸方向ロック機構
11、12、21、22、31、33 支持部
13 バネ機構
14 押圧部材
20 Z軸方向ロック機構
23 バネ機構
24 移動体
30 クランプ機構
32 上側クランプ
34 下側クランプ
40 突き当て機構
51、52 支持体
60 レーザ機構
70、103、210a、210b 被溶接物
70a 上側鋼板
70b 下側鋼板
101、102 ローラ
104、105、106 ステッチ
110、211 レーザ
201 フランジ部
202 溶接スタート点
212a、212b クランプ
301 中心位置
302 端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向を溶接方向とする溶接対象部において、当該長手方向に直交する幅方向における端部からの距離が所定値以上となるよう、ステッチごとのレーザ溶接開始点の位置を補正する補正工程と、
ステッチ長をS、前記溶接対象部の長手方向の全長をL、前記幅方向の中心位置が全長L内においてばらつく幅をσ、溶接目標となる軌跡からの実際の溶接線のずれをΔxとしたとき、
S≦L・Δx/σ
を満たす長さのステッチ長にてステッチ溶接を行なう溶接工程とを有し、
ステッチ溶接毎に前記補正工程及び溶接工程を繰り返す、レーザ溶接方法。
【請求項2】
前記溶接対象部は、溶接方向となる長手方向において略同一幅を有する
ことを特徴とする請求項1記載のレーザ溶接方法。
【請求項3】
前記溶接開始点は、前記溶接対象部における溶接総板厚をX、前記溶接対象部の前記幅方向における端部からビードの中心位置までの距離をYとしたとき、
Y>−0.357X+2.01X
を満たす
ことを特徴とする請求項1又は2記載のレーザ溶接方法。
【請求項4】
前記溶接対象部は被溶接物におけるフランジ部であって、前記溶接工程では、当該フランジ部の溶接を行なう
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のレーザ溶接方法。
【請求項5】
前記ステッチ溶接の長さは50mm以下である
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のレーザ溶接方法。
【請求項6】
長手方向を溶接方向とする溶接対象部を有し、
ステッチ長をS、前記溶接対象部の長手方向の全長をL、前記幅方向の中心位置が全長L内においてばらつく幅をσ、溶接目標となる軌跡からの実際の溶接線のずれをΔxとしたとき、
S≦L・Δx/σ
を満たす長さのステッチ長でステッチ溶接された被溶接物。
【請求項7】
前記溶接対象部は、溶接方向となる長手方向において略同一幅を有する
ことを特徴とする請求項6記載の被溶接物。
【請求項8】
前記溶接対象部における溶接総板厚をX、前記溶接対象部の前記幅方向における端部からビードの中心位置までの距離をYとしたとき、
Y>−0.357X+2.01X
を満たす
ことを特徴とする請求項6又は7記載の被溶接物。
【請求項9】
長手方向を溶接方向とする溶接対象部を有する被溶接物に対してレーザを照射するレーザ照射部と、
前記被溶接物をクランプするクランプ機構と、
前記クランプ機構により前記被溶接物をクランプする際、前記被溶接物の前記溶接対象部の幅方向端部に突き当てられることで、前記溶接対象部の前記幅方向における端部からの距離が所定値以上となるよう溶接開始点の位置決めをする突き当て機構と、
ステッチ溶接ごとに、前記被溶接物の前記フランジ部をクランプさせ前記突き当て機構により溶接開始点を位置決めすると共に、ステッチ長をS、前記溶接対象部の長手方向の全長をL、前記幅方向の中心位置が全長L内においてばらつく幅をσ、溶接目標となる軌跡からの実際の溶接線のずれをΔxとしたとき、
S≦L・Δx/σ
を満たす長さのステッチ長にてステッチ溶接を行なわせるよう制御する制御部とを有するレーザ溶接装置。
【請求項10】
前記溶接対象部は、溶接方向となる長手方向において略同一幅を有する
ことを特徴とする請求項9記載の被溶接物。
【請求項11】
前記突き当て機構は、前記溶接対象部における溶接総板厚をX、前記溶接対象部の前記幅方向における端部からビードの中心位置までの距離をYとしたとき、
Y>−0.357X+2.01X
を満たすよう溶接開始点の位置決めをする
ことを特徴とする請求項9又は10記載のレーザ溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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