レーザ溶接方法および装置
【課題】管外に回転機構を配置することなく、管の長さに影響を受けることなくレーザ溶接による二重管の突き合わせ溶接を行えるようにする。
【解決手段】光ファイバー34で導いたレーザ光を反射ミラー33で反射させて溶接対象物の管の内周面に照射する光学系を有するレーザ溶接ヘッド12と、管の管軸に対してレーザ溶接ヘッド12の軸線が偏心した位置にレーザ溶接ヘッド12を支持し、管軸上にある回転軸回りにレーザ溶接ヘッド12を旋回させる回転機構14と、回転機構14と同軸に連結される胴部20に格納される固定用の複数のパッド21を管の内周面に対して押し付け、胴部を20管軸と同軸に固定するとともにレーザ溶接ヘッド12の管軸方向の位置を固定する固定機構16と、からレーザ溶接装置を構成する。
【解決手段】光ファイバー34で導いたレーザ光を反射ミラー33で反射させて溶接対象物の管の内周面に照射する光学系を有するレーザ溶接ヘッド12と、管の管軸に対してレーザ溶接ヘッド12の軸線が偏心した位置にレーザ溶接ヘッド12を支持し、管軸上にある回転軸回りにレーザ溶接ヘッド12を旋回させる回転機構14と、回転機構14と同軸に連結される胴部20に格納される固定用の複数のパッド21を管の内周面に対して押し付け、胴部を20管軸と同軸に固定するとともにレーザ溶接ヘッド12の管軸方向の位置を固定する固定機構16と、からレーザ溶接装置を構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、レーザ溶接に関し、特に、高速増殖炉の蒸気発生器等に使用される二重伝熱管を接合するためのレーザ溶接方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉の蒸気発生器では、伝熱管として二重伝熱管が用いられている。この二重伝熱管は、同軸の内管と外管とから構成されており、内管と外管の隙間には網状の組網線が挟み込まれている。この内管と外管の隙間には内管または外管の破損を検知するためのヘリウムガスが流されており、ヘリウムガス濃度の上昇により破損を検出することができる。
このような二重伝熱管では、単位となる1本の管は、長さ10mから20mという長尺な管である。蒸気発生器に用いるためには、複数本の管を溶接により継ぎ足している。
【0003】
二重伝熱管の溶接では、上述したように内管と外管の隙間に組網線が挟み込まれているので、ヘリウムガスの通気性を確保するためには隙間を塞がないように溶接する必要があり、高度な溶接技術が要求される。
【0004】
また、最近では、二重管の材料にも改良が加えられており、特に、高速増殖炉の蒸気発生器用の二重伝熱管には、改良9Cr−1Mo鋼を材料とする二重伝熱管の適用が検討されている。溶接方法としては、例えば、レーザを用いた接合方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−34373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この種の二重伝熱管のレーザ溶接技術では、以下のような問題点が残されている。
【0007】
まず第1の問題として、二重伝熱管を管延長する実際の溶接接合工程では、一本の管自体が10mから20mという長さがあるため、レーザ溶接ヘッドを回転させるためにヘッド回転機構を管の外に配置しなければならない。従来のレーザ溶接装置では、長い回転軸が必要となり、取り扱い難く、動作精度の保証も困難となる。
【0008】
第2の問題点として、二重伝熱管では、製造上の理由により管の内径には製作誤差(凡そ内径20mmに対して1.5mm程度の誤差)を有しており、この誤差はレーザのデフォーカス余裕度の範囲を超えており、レーザのピントを調整できる機構がなければ溶接できないという問題がある。
【0009】
第3の問題点として、レーザ溶接時にはスパッタが発生し、これがレーザ溶接ヘッドに飛び込み、反射ミラーに付着して、反射ミラーを損傷させるという問題がある。特に、小口径の二重伝熱管の管内溶接では、スパッタによる反射ミラー損傷のリスクが高い。
【0010】
第4の問題点として、二重伝熱管の材料に使用されている改良9Cr−1Mo鋼は、レーザ溶接時に熱影響部が硬化しやすく、溶接開始前に溶接部周辺の温度が250℃程度まで昇温していることが必要となる。このため、予熱を施すことが必要不可欠となる。実際には、二重伝熱管の表面に予熱ヒータを巻き付けて予熱作業を行うことになるが、二重伝熱管の加熱と同時に管内にあるレーザ溶接ヘッドも加熱されてしまう結果、レーザ溶接ヘッドに悪影響を与えるという問題がある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、前記従来技術の有する問題点を解消し、管外に回転機構を配置することなく、しかも管の長さに影響を受けることなく二重管の溶接を行えるようにしたレーザ溶接方法及び装置を提供することにある。
【0012】
また、本発明の他の目的は、溶接時にレーザのピント調整を簡便に行え、また、溶接スパッタのレーザヘッドへの飛び込みを防止できるようにしたレーザ溶接装置を提供することにある。
【0013】
さらに、本発明の目的は、二重管の予熱の際にレーザ溶接ヘッドが加熱されることなく、レーザ溶接ヘッドがほぼ常温の状態での溶接を実現できるようにしたレーザ溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の目的を達成するために、本発明は、管と管の端部を突き合わせ、管の内部から該管の内周面にレーザ光を照射して突き合わせ溶接を行うレーザ溶接装置において、光ファイバーで導いたレーザ光を反射ミラーで反射させて溶接対象物の管の内周面に照射する光学系を有するレーザ溶接ヘッドと、前記管の管軸に対して前記レーザ溶接ヘッドの軸線が偏心した位置に該レーザ溶接ヘッドを支持し、前記管軸上にある回転軸回りに前記レーザ溶接ヘッドを旋回させる回転機構と、前記回転機構と同軸に連結される胴部に格納される固定用の複数のパッドを前記管の内周面に対して押し付け、前記胴部を管軸と同軸に固定するとともに前記レーザ溶接ヘッドの管軸方向の位置を固定する固定機構と、を具備したことを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、管と管の端部同士を突き合わせ、管の内部から該管の内周面にレーザ光を照射して突き合わせ溶接を行うレーザ溶接方法において、光ファイバーで導いたレーザ光を反射ミラーで反射させて溶接対象物の管の内周面に照射する光学系を有するレーザ溶接ヘッドと、前記管の管軸に対して前記レーザ溶接ヘッドの軸線が偏心した位置に該レーザ溶接ヘッドを支持し、前記管軸上にある回転軸回りに前記レーザ溶接ヘッドを旋回させる回転機構と、前記回転機構と同軸に連結される胴部に内蔵される固定用の複数のパッドを前記管の内周面に対して押し付け、前記胴部を管軸と同軸に固定するとともに前記レーザ溶接ヘッドの管軸方向の位置を位置決めする固定機構と、を有するレーザ溶接装置を準備する工程と、前記レーザ溶接装置を一方の管の中の管端部近くに収容し、前記固定機構によって前記レーザ溶接ヘッドの管軸方向の位置を固定する工程と、前記レーザ溶接ヘッドから管の内周面にレーザ光照射の試行を行い、レーザスポットの照射位置、ピント状態を調整する工程と、前記固定機構を開放して前記レーザ溶接装置を他方の管に退避させ、管同士を突き合わせの向きに接近させ、管端部の予熱を行う工程と、前記レーザ溶接装置を他方の管から一方の管に押し込み、前記固定機構によってレーザ溶接ヘッドの管軸方向の位置を位置決めし、両方の管を突き合わせ、前記回転機構により前記レーザヘッドを旋回させながらレーザ光を溶接部の内周面に照射してレーザ溶接を行う工程と、溶接終了後に管内からレーザ溶接装置を回収する工程と、からなることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態によるレーザ溶接装置が二重管の管内に収容されている状態を示す縦断面図である。
【図2】同レーザ溶接装置の構成を示す縦断面図である。
【図3】本発明の一実施形態によるレーザ溶接装置の備える固定機構を示す横断面図である。
【図4】図3のレーザ溶接装置の固定機構が作動した状態を示す横断面図である。
【図5】本発明の一実施形態によるレーザ溶接装置のレーザ溶接ヘッドの構成を示す縦断面図である。
【図6】本発明の一実施形態によるレーザ溶接装置のレーザ溶接ヘッドの他の構成を示す縦断面図である。
【図7】レーザ溶接ヘッドの位置決めに用いる位置決め治具を示す平面図である。
【図8】図7の位置決め治具が開いた状態を示す平面図である。
【図9】レーザ溶接ヘッドに位置決め軸を取り付け、レーザ溶接装置を二重管の中に入れた状態を示す縦断面図である。
【図10】レーザ溶接ヘッドに位置決め軸を取り付け、レーザ溶接装置を二重管の中に入れて固定機構を作動させた状態を示す縦断面図である。
【図11】レーザ溶接ヘッドにおけるピント調整の作用を説明する図である。
【図12】二重管の内面にレーザ光を照射した状況を説明する図である。
【図13】二重管の内面にレーザ光を照射したときの溶融状況を説明する図である。
【図14】二重管を溶接する前に予熱する工程を示す縦断面図である。
【図15】二重管を溶接するために、レーザ溶接装置をセットした状況を示す縦断面図である。
【図16】二重管を溶接するときの状況を示す縦断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明によるレーザ溶接方法および装置の一実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
図1は、二重管内に配置されている本実施形態によるレーザ溶接装置を示す断面図である。この図1において、参照番号1は、二重管を示し、参照番号10は、レーザ溶接装置を示している。図2は、レーザ溶接装置10の構成を示す断面図である。
二重伝熱管1は、外管2と内管3が同軸になった二重管で、外管2と内管3の間には、組網線4が挟さみ込まれている。
【0018】
レーザ溶接装置10は、二重管1を継ぎ足しながら延長して高速増殖炉の蒸気発生器等で使用される二重伝熱管の突き合わせ溶接に用いられる。
【0019】
このレーザ溶接装置10は、大きく分けると、レーザ溶接ヘッド12と、このレーザ溶接ヘッド12を内管3の内周面にそって周方向に旋回させる回転機構14と、レーザ溶接装置10の本体部を二重伝熱管1の管内に固定するための固定機構16と、から構成されている。
【0020】
まず、固定機構16について、図1乃至図4を参照して説明する。
この固定機構16は、駆動源であるエアシリンダ18と、胴部を構成する円筒状の外側フレーム20と、パッド21を含む。エアシリンダ18は、外側フレーム20の内側で、軸線上に配置されているシャフト22と連結されている。このエアシリンダ18は、シャフト22を軸方向に移動させることで、外側フレーム20からパッド21を半径方向に押し出したり、外側フレーム20に引き込んだりすることができる。
【0021】
図3は、固定機構16の横断面を示す。この実施形態では、3つのパッド21が等配に120°ずつ点対称に配置されている。シャフト22には、それぞれパッド21を支持する支持脚24が取り付けられている。この支持脚24は、前側と後ろ側で対をなしており、これらの対は3組分等ピッチに3等配割で取り付けられている。
【0022】
図2に示されるように、支持脚24の先端部には、パッド21を半径方向に押し出し、あるいは引き込むためのカム機構を構成するピン25が取り付けられている。パッド21には、二重伝熱管1の軸方向に対して傾斜する傾斜溝26が前後2箇所に形成されている。ピン25は、傾斜溝26を形成する外側カム面26aと内側カム面26bとの両方の面を摺動可能である。
【0023】
図3では、3個あるパッド21が外側フレーム20の内部に引き込まれた状態を示している。1つ1つのパッド21は対をなす2本の支持脚24に挟まれるようにしてピン25を介して支持されている。外側フレーム20の側面には、長方形の貫通穴28が120°対称に3箇所形成されている。この貫通穴28は、穴の長手方向の寸法がパッド21の長手方向の寸法と対応しており、穴の幅は2本の支持脚24の幅と対応している。
【0024】
図4に示すように、エアシリンダ18が作動してシャフト22が前進すると、ピン25は傾斜溝26の外側カム面26aを摺動するので、パッド21は半径方向に突き出され内管3の内周面に押し付けられることなる。逆に、エアシリンダ18によりシャフト22が後退すると、ピン25は傾斜溝26の内側カム面26bを摺動するので、パッド21は外側フレーム20の内側に引き込まれることになる(図3参照)。
【0025】
次に、図2、図5を参照してレーザ溶接ヘッド12について説明する。
このレーザ溶接ヘッド12は、溶接ヘッドの本体を構成する胴部ケース30を含む。この胴部ケース30の内部には、2枚一組の組レンズ31、32(組レンズ31、32に替えて単体レンズが用いられる場合もある。)と反射ミラー33が設けられている。レーザ光はレーザ溶接ヘッド12に光ファイバー34を用いて導かれ、組レンズ31、32によって集光されてから、反射ミラー33で反射して溶接ノズル35から照射される。光ファイバー34は、外筒ホース36に収納されている。この外筒ホース36は柔軟性の高い材料で形成されて撓むことができるようになっている。外筒ホース36の端部は、外筒コネクタ37を介して胴部ケース30と接続されている。この場合、外筒コネクタ37と胴部ケース30の間に軸受38が介装されており、外筒コネクタ37は回転可能に胴部ケース30に接続されている。
【0026】
図6は、レーザ溶接ヘッド12における光学系をレンズ31、32と反射ミラー33の組み合わせに替えて、非球面反射ミラー39によって構成した例を示す。非球面反射ミラー39を用いることで、レーザ溶接ヘッド12 の長さを短くできる利点がある。
【0027】
以上のようなレーザ溶接ヘッド12は、回転機構14を介して固定機構16と連結されている。
図2において、回転機構14は、レーザ溶接ヘッド12を回転させる駆動源であるサーボモータ40と、レーザ溶接ヘッド12を支持する偏心腕42と、を含む。
図5に示すように、偏心腕42は、軸部43と、この軸部から半径方向に直角に延びるフレーム部44とから構成されている。サーボモータ40と連結されている減速機の出力軸40aは、軸部43に嵌合させて連結されており、この軸部43はサーボモータ40のハウジング41に軸受45を介して回転自在に支持されている。
【0028】
フレーム部44には、レーザ溶接ヘッド12の胴部ケース30が嵌合する円筒部46が設けられている。胴部ケース30の端部付近の外周部には、雄ねじ48が形成されている。固定キャップ50は、レーザ溶接ヘッド12をフレーム部44に固定する部材であって、内径部には、雄ねじ48に螺合する雌ねじ51が形成されている。この場合、円筒部46の外周面にはテーパが形成されている。したがって、レーザ溶接ヘッド12の胴部ケース30を円筒部46に差し込み、固定キャップ50をねじ込むことにより、くさび作用が効いて、レーザ溶接ヘッド12を固定できるようになっている。レーザ溶接ヘッド12がフレーム部44に固定された状態では、レーザ溶接ヘッド12の軸線は、内管3の軸心に対して平行であるが、偏心した位置関係にある。
【0029】
次に、図7、図8は、レーザ溶接ヘッド12の位置決めに用いられる位置決め治具56を示す。この実施形態では、位置決め治具56は、短円柱を半割にした治具本体57a、57bを開閉できるように連結した金具である。
治具本体57a、57bの裏面には、円環状の溝58が形成されており、この円環状の溝58は、二重管1の内管3の端部に嵌合する。そして、治具本体57a、57bには、レーザ溶接ヘッド12の胴部ケース30が嵌合する半割の貫通穴59と、空圧ケーブルや電気ケーブル等が通過する半割穴60が形成されている。治具本体57a、57bは、ヒンジ部32により開閉自在に連結されている。図7は、治具本体57a、57bが閉じている状態を示し、図8は、治具本体57a、57bが開いている状態を示している。
【0030】
治具本体57a、57bを閉じてクランプするために、一方の治具本体57bにはクランプボルト61が回動自在に取り付けられている。治具本体57a、57bには、クランプボルト61が嵌合する締め付け部62が形成され、ナット63をクランプボルト61に螺合させて締め付けることで、位置決め締め治具56を二重管の内管3に取り付けてクランプしてレーザ溶接ヘッド12を位置決めすることができる(図9参照)。
【0031】
本実施形態によるレーザ溶接装置は、以上のように構成されるものであり、次に、このレーザ溶接装置の作用効果について説明する。
まず、図9は、レーザ溶接装置10が長い方の二重管2に収容されて固定されている状態を示す。二重伝熱管を構成する二重管1の溶接部の開先形状の関係は、次のようになっている。突き合わせ溶接される二重管同士では、一方の二重管1の外管2と内管3とでは、内管3の溶接部が少し突き出ており、他方のこれから継ぎ足す二重管1では、逆に、外管2の溶接部が出ているという関係にある(図14参照)。
【0032】
二重管1にレーザ溶接装置10をセットするときには、レーザ溶接装置10の固定機構16の方から入れ、図9に示すように、上述した位置決め治具56を用いてレーザ溶接ヘッド12の一部が外に出ている状態になるようにレーザ溶接ヘッド12は位置決めされる。こうして位置決め治具56によって、レーザ溶接ヘッド12の管軸方向の位置を決めてから、固定機構16を作動させる。固定機構16は、パッド21を内管3の内周面に押し付け、固定機構16および回転機構14を内管3と同軸に固定する。この状態では、図10に示されるように、レーザ溶接ヘッド12の軸線は、内管3の中心から偏心した位置にある。
【0033】
レーザ溶接ヘッド12には、光ファイバー34を通じてレーザ光が導かれる。光ファイバー34の端面から一定の広がり角度で投射されたレーザ光は、組レンズ31、32によって一定の距離に集光させられ、集光の途中にある反射ミラー33で90度光路を曲げて、胴部ケース30に開口している溶接ノズル35から外に投射される。
【0034】
回転機構14は、サーボモータ40により駆動してレーザ溶接ヘッド12全体を内管3の管軸を中心に旋回させるので、レーザ光は溶接部の全周に亘って照射される。このとき、光ファイバー34を収納する外筒ホース36は、可撓性のあるホースである上に、外筒コネクタ37に内蔵された軸受38により回転自在となっているので、レーザ溶接ヘッド12の旋回運動で外筒ホース36が過度にねじれることを回避することができる。
【0035】
レーザ溶接ヘッド12では、溶接部に向かって投射されるレーザー光のピントは次のようにして調節することができる。
【0036】
図5に示したように、本実施形態によるレーザ溶接ヘッド12では、その胴部ケース30を偏心腕42の円筒部46に嵌合させ固定キャップ50をねじ込むことで胴部ケース30を固定している。固定キャップ50を緩めると、胴部ケース30は組レンズ31、32の光軸回りに回すことができるようになっている。
【0037】
このため、図11に示すように、固定キャップ50を緩めて胴部ケース30を回すことによって、レーザ溶接ヘッド12を管軸中心から偏心した位置に固定して、レーザ光の照射方向を任意の向きに変えることができるようになっている。向きを調整したら、固定キャップ50を締め付ければよい。
【0038】
図11において、破線で示す円は、胴部ケース30を360°回したときのレーザピントの合っている点の描く軌跡を示す。
【0039】
図11(a)で示す向きにレーザビームを投射したときは、ピントが内管3の内側で結んでしまっている。そこで、さらに胴部ケース30ごと回してレーザビームの投射方向を調整すると、図10(b)に示すように、レーザピントを内管3の内周面に合わせることができる。
【0040】
また、図11(c)に示すように、さらに胴部ケース30を回すと、レーザピント位置は内管3の内周面から外側に合わせることができる。
【0041】
このようにレーザ溶接ヘッド12の偏心位置を固定して、胴部ケース30を左右いずれかに90°の範囲内で回すと、おおむね、30°から60°の範囲で、どこかでピント位置を内管3の内周面に合わせることが可能になっているので、溶接時にレーザのピント調整を簡便に行うことができる。
【0042】
次に、図12は、二重管1の溶接部近傍の溶接状況を模式的に示す図である。溶接している間、溶接点からスパッタ70が発生し周囲に飛散する。通常、スパッタ70の大半は、矢印の方向で示されるように溶接面から垂直に二重管1の中心に向かって飛び出す。従来のレーザ溶接では、レーザ溶接ヘッド12は二重管1の中心に位置決めされており、溶接面に対して垂直方向からレーザ照射を行うため、スパッタ70は容易にレーザ照射ヘッド12の溶接ノズル35から内部に飛び込み、反射ミラー33を損傷してしまうことが頻発した。
【0043】
これに対して、本実施形態によるレーザ溶接ヘッド12は、二重管1の中心から偏心した位置に位置決めされているので、レーザ光軸と管内面とのなす角βは、90度以上の鈍角になり、管内面に対してある角度で傾いた状態にある。この偏心位置からレーザビーム72が管内面に対して斜めに照射されると、スパッタ70の飛ぶ方向には、溶接ノズル35は位置していないので、スパッタ70の飛び込みによる反射ミラー33の損傷リスクを低減させることができる。
【0044】
次に、図13は、レーザ溶接ヘッド12が旋回したときの二重管1の溶接部で溶融状態を示す模式図である。この図13において、参照番号74は既溶接領域、75は未溶接領域である。なお、二重管1は分かりやすくするために直線的に描かれている。
【0045】
レーザ溶接ヘッド12は、二重管1の中心から偏心した位置に固定され、この位置からピントを合わせているので、レーザビーム72は二重管1の内管3の溶接面に対して斜めに入射する。この姿勢で、レーザ溶接ヘッド12が図12において鈍角βの方向に旋回するにしたがって、レーザビーム72は矢印方向に移動しながら二重管1の内面を周方向に溶接していく。
【0046】
レーザビーム72が溶接面に照射されると、まず、内管3の外周面から溶融が始まり、図13に示されるように、溶融池76が内管3の内周面に向かって斜めに拡がるように形成される。この場合、レーザビーム72が傾いているので、溶融する箇所も斜めにレーザビームの移動する方向とは反対側に少しずつずれるようになる。
【0047】
従来のレーザ溶接では、溶接面に対して垂直にレーザビーム72が入射するので、ガスが抜ける方向に溶融する箇所が集中するので、ガスは抜け難くなりやすい。
これに対して、本実施形態のように、溶接面に対して斜めにレーザビーム72を入射させると、溶接部で発生するガス77が抜け易すいように溶融池76は形成されるので、ブローホールの発生リスクを低減させることができる。
【0048】
次に、以上説明したレーザ溶接装置を用いて、二重管を接合するレーザ溶接方法について説明する。
溶接される前の一本の二重管1の長さは、10mから20m程度である。高速増殖炉の蒸気発生器等で使用される伝熱管の製造では、二重管1同士に突き合せ溶接を実施しながら、長尺な伝熱管につなげていく。突き合せ溶接を続けていくと、二重管1はどんどん長くなっていき、最終的には1本が数十、数百mにもなる。
【0049】
以下、レーザ溶接方法の工程を順を追って説明する。
【0050】
レーザ溶接ヘッド12の調整
この調整作業は、レーザ溶接ヘッド12を二重管1に入れる前に実施する。まず最初に、二重管1の内管3の内径を計測する。そして図11に示したように、レーザ溶接ヘッド12の胴部ケース30を手動で回すことにより、反射ミラー33の捻り角度を調整して、内管3の内面面にレーザスポットが正確に合うように、照射ノズル35から照射点までの距離(ワークディスタンス距離)を修正する。
【0051】
レーザスポットの照射位置、ピント確認
次に、図9において、レーザ溶接ヘッド12に位置決め治具56を取り付けておく。そして、溶接する二重管のうち、長い方の二重管1A(継ぎ足される方の管)の中に、固定機構16の方から入れ、レーザ溶接ヘッド12に取り付けてある位置決め治具56を内管3の端面に嵌合させる。
【0052】
そこで、図10に示すように、固定機構16を作動させて、パッド21を内管3の内面に押し付けることで、レーザ溶接ヘッド12の管軸方向の位置を固定することができる。固定が完了した後、位置決め治具56を取り外す。
【0053】
こうしてレーザ溶接装置10全体の固定が終わったら、次のようにして、レーザスポットの照射位置、ピント状態の確認を行う。
回転機構14を作動させサーボモータ40でレーザ溶接ヘッド12を旋回させながら、光ファイバー34に赤色レーザなどの可視光を通し、内管3の内面に向けてレーザ照射を行う。その際、目視によって、レーザスポットの位置が内管3の端部の被溶接部にあるかどうか、ピントが合っているかどうか、を確認する。ピント状態が不整合であれば、レーザ溶接装置10の固定を解除して内管3から取り出し、最初に戻って、反射ミラー33の捻り角度の再調整を行う。レーザスポットの照射位置が不整合であれば、レーザ溶接ヘッド12の胴部ケース30に対する位置決め治具56の取り付け位置を再調整する。
【0054】
レーザスポットの照射位置、ピント状態が正常であることが目視により確認されたら、一旦、レーザ溶接装置10を固定機構14による固定状態から開放し、内管3から取り出す。
【0055】
二重管の予熱
次に、図14において、長い方の二重管1Aの内管3の端部から、レーザ溶接装置10の代わりに、予熱器具80として電磁誘導コイルや予熱ヒータなどを差し込み、管内面を約250℃まで予熱するための準備を行う。これと同時に溶接する相手方の短い二重管1Bの端部からも予熱器具82として電磁誘導コイルや予熱ヒータを差し込んでおく。このとき、短い方の二重管1Bの溶接端部とは反対側からレーザ溶接装置10を管内に入れ、溶接端部より1m程度に近づいた位置まで固定機構14を接近させておくことが好ましい。この状態で、二重管1A、1Bのお互いの溶接する管端部を突き合わせの向きにして、Vブロック等を用いて一直線上に並べてお互いに接近させ、この状態で、二重管1A、1Bの溶接部である管端部の予熱を行う。この予熱を効果的に行うために、二重管1A、1Bの外側を断熱材で覆ったり、管端部を断熱ケースで覆うなどして、予熱過程での放熱を防止する措置を併用するようにしてもよい。
【0056】
このようにして二重管1A、1Bの被溶接部を予熱する間、レーザ溶接ヘッド12は、短い方の二重管1Bの内管3の中で予熱器具80、82から退避した位置にあり、二重管1A、1Bの予熱の際にレーザ溶接ヘッド12が加熱されることはない。このため、レーザ溶接ヘッド12をほぼ常温の状態にして、レーザ溶接を行うことができる。
【0057】
こうして二重管の管端部の内面が、この実施形態の場合、約250℃程度まで過熱されたら、素早く予熱器具80、82を取り外す。
レーザ溶接
次に、予熱器具80、82を取り外した後に、直ちに、短い方の二重管1Bの溶接しない方の管端部から外筒ホース36を送り込むことで、外筒ホース36と繋がっているレーザ溶接装置10を長い方の二重管1Aの内管3の中に押し込み、図15に示されるように、位置決め治具56をレーザ溶接ヘッド12に取り付けてから、固定機構16を作動させて、パッド21を内管3の内周面に押し付け、レーザ溶接ヘッド12の管軸方向の位置を固定する。
【0058】
レーザ溶接ヘッド12の管軸方向の位置決めを完了後ただちに、位置決め治具56をレーザ溶接ヘッド12から取り外し、図16に示されるように、二重管1A、1Bのお互いの端部を合わせ、適当な図示しない金具によって固定する。
【0059】
固定完了後、回転機構14のサーボモータ40を起動させ、レーザ溶接ヘッド12を二重管内部で一回転以上旋回させながら、図12、図13に示したようにレーザビームを溶接部に照射し、レーザ溶接を実行する。
【0060】
レーザ溶接が終了したら、固定機構14による固定を解除し、外筒ホース36を手繰り寄せてレーザ溶接装置10を管内から回収する。
【0061】
以上のようにレーザ溶接装置10を利用することにより、レーザ溶接ヘッド12を回転させる機構を二重管の外に配置することなく、また、継ぎ足していく管の長さに影響を受けることなく二重管の溶接を効率良く行うことができる。
【0062】
以上、本発明に係るレーザ溶接装置について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は、高速増殖炉の蒸気発生器等に利用される二重伝熱管だけでなく、原子炉で利用される二重管あるいは管をつなげていく溶接一般に適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1…二重管、2…外管、3…内管、4…組網線、10…レーザ溶接装置、12…レーザ溶接ヘッド、14…回転機構、16…固定機構、21…パッド、30…胴部ケース、31,32…組みレンズ、33…反射ミラー、34…光ファイバー、35…溶接ノズル、36…外筒ホース、37…外筒コネクタ、40…サーボモータ、42…偏心腕、50…固定キャップ、56…位置決め治具
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、レーザ溶接に関し、特に、高速増殖炉の蒸気発生器等に使用される二重伝熱管を接合するためのレーザ溶接方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉の蒸気発生器では、伝熱管として二重伝熱管が用いられている。この二重伝熱管は、同軸の内管と外管とから構成されており、内管と外管の隙間には網状の組網線が挟み込まれている。この内管と外管の隙間には内管または外管の破損を検知するためのヘリウムガスが流されており、ヘリウムガス濃度の上昇により破損を検出することができる。
このような二重伝熱管では、単位となる1本の管は、長さ10mから20mという長尺な管である。蒸気発生器に用いるためには、複数本の管を溶接により継ぎ足している。
【0003】
二重伝熱管の溶接では、上述したように内管と外管の隙間に組網線が挟み込まれているので、ヘリウムガスの通気性を確保するためには隙間を塞がないように溶接する必要があり、高度な溶接技術が要求される。
【0004】
また、最近では、二重管の材料にも改良が加えられており、特に、高速増殖炉の蒸気発生器用の二重伝熱管には、改良9Cr−1Mo鋼を材料とする二重伝熱管の適用が検討されている。溶接方法としては、例えば、レーザを用いた接合方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−34373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この種の二重伝熱管のレーザ溶接技術では、以下のような問題点が残されている。
【0007】
まず第1の問題として、二重伝熱管を管延長する実際の溶接接合工程では、一本の管自体が10mから20mという長さがあるため、レーザ溶接ヘッドを回転させるためにヘッド回転機構を管の外に配置しなければならない。従来のレーザ溶接装置では、長い回転軸が必要となり、取り扱い難く、動作精度の保証も困難となる。
【0008】
第2の問題点として、二重伝熱管では、製造上の理由により管の内径には製作誤差(凡そ内径20mmに対して1.5mm程度の誤差)を有しており、この誤差はレーザのデフォーカス余裕度の範囲を超えており、レーザのピントを調整できる機構がなければ溶接できないという問題がある。
【0009】
第3の問題点として、レーザ溶接時にはスパッタが発生し、これがレーザ溶接ヘッドに飛び込み、反射ミラーに付着して、反射ミラーを損傷させるという問題がある。特に、小口径の二重伝熱管の管内溶接では、スパッタによる反射ミラー損傷のリスクが高い。
【0010】
第4の問題点として、二重伝熱管の材料に使用されている改良9Cr−1Mo鋼は、レーザ溶接時に熱影響部が硬化しやすく、溶接開始前に溶接部周辺の温度が250℃程度まで昇温していることが必要となる。このため、予熱を施すことが必要不可欠となる。実際には、二重伝熱管の表面に予熱ヒータを巻き付けて予熱作業を行うことになるが、二重伝熱管の加熱と同時に管内にあるレーザ溶接ヘッドも加熱されてしまう結果、レーザ溶接ヘッドに悪影響を与えるという問題がある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、前記従来技術の有する問題点を解消し、管外に回転機構を配置することなく、しかも管の長さに影響を受けることなく二重管の溶接を行えるようにしたレーザ溶接方法及び装置を提供することにある。
【0012】
また、本発明の他の目的は、溶接時にレーザのピント調整を簡便に行え、また、溶接スパッタのレーザヘッドへの飛び込みを防止できるようにしたレーザ溶接装置を提供することにある。
【0013】
さらに、本発明の目的は、二重管の予熱の際にレーザ溶接ヘッドが加熱されることなく、レーザ溶接ヘッドがほぼ常温の状態での溶接を実現できるようにしたレーザ溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の目的を達成するために、本発明は、管と管の端部を突き合わせ、管の内部から該管の内周面にレーザ光を照射して突き合わせ溶接を行うレーザ溶接装置において、光ファイバーで導いたレーザ光を反射ミラーで反射させて溶接対象物の管の内周面に照射する光学系を有するレーザ溶接ヘッドと、前記管の管軸に対して前記レーザ溶接ヘッドの軸線が偏心した位置に該レーザ溶接ヘッドを支持し、前記管軸上にある回転軸回りに前記レーザ溶接ヘッドを旋回させる回転機構と、前記回転機構と同軸に連結される胴部に格納される固定用の複数のパッドを前記管の内周面に対して押し付け、前記胴部を管軸と同軸に固定するとともに前記レーザ溶接ヘッドの管軸方向の位置を固定する固定機構と、を具備したことを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、管と管の端部同士を突き合わせ、管の内部から該管の内周面にレーザ光を照射して突き合わせ溶接を行うレーザ溶接方法において、光ファイバーで導いたレーザ光を反射ミラーで反射させて溶接対象物の管の内周面に照射する光学系を有するレーザ溶接ヘッドと、前記管の管軸に対して前記レーザ溶接ヘッドの軸線が偏心した位置に該レーザ溶接ヘッドを支持し、前記管軸上にある回転軸回りに前記レーザ溶接ヘッドを旋回させる回転機構と、前記回転機構と同軸に連結される胴部に内蔵される固定用の複数のパッドを前記管の内周面に対して押し付け、前記胴部を管軸と同軸に固定するとともに前記レーザ溶接ヘッドの管軸方向の位置を位置決めする固定機構と、を有するレーザ溶接装置を準備する工程と、前記レーザ溶接装置を一方の管の中の管端部近くに収容し、前記固定機構によって前記レーザ溶接ヘッドの管軸方向の位置を固定する工程と、前記レーザ溶接ヘッドから管の内周面にレーザ光照射の試行を行い、レーザスポットの照射位置、ピント状態を調整する工程と、前記固定機構を開放して前記レーザ溶接装置を他方の管に退避させ、管同士を突き合わせの向きに接近させ、管端部の予熱を行う工程と、前記レーザ溶接装置を他方の管から一方の管に押し込み、前記固定機構によってレーザ溶接ヘッドの管軸方向の位置を位置決めし、両方の管を突き合わせ、前記回転機構により前記レーザヘッドを旋回させながらレーザ光を溶接部の内周面に照射してレーザ溶接を行う工程と、溶接終了後に管内からレーザ溶接装置を回収する工程と、からなることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態によるレーザ溶接装置が二重管の管内に収容されている状態を示す縦断面図である。
【図2】同レーザ溶接装置の構成を示す縦断面図である。
【図3】本発明の一実施形態によるレーザ溶接装置の備える固定機構を示す横断面図である。
【図4】図3のレーザ溶接装置の固定機構が作動した状態を示す横断面図である。
【図5】本発明の一実施形態によるレーザ溶接装置のレーザ溶接ヘッドの構成を示す縦断面図である。
【図6】本発明の一実施形態によるレーザ溶接装置のレーザ溶接ヘッドの他の構成を示す縦断面図である。
【図7】レーザ溶接ヘッドの位置決めに用いる位置決め治具を示す平面図である。
【図8】図7の位置決め治具が開いた状態を示す平面図である。
【図9】レーザ溶接ヘッドに位置決め軸を取り付け、レーザ溶接装置を二重管の中に入れた状態を示す縦断面図である。
【図10】レーザ溶接ヘッドに位置決め軸を取り付け、レーザ溶接装置を二重管の中に入れて固定機構を作動させた状態を示す縦断面図である。
【図11】レーザ溶接ヘッドにおけるピント調整の作用を説明する図である。
【図12】二重管の内面にレーザ光を照射した状況を説明する図である。
【図13】二重管の内面にレーザ光を照射したときの溶融状況を説明する図である。
【図14】二重管を溶接する前に予熱する工程を示す縦断面図である。
【図15】二重管を溶接するために、レーザ溶接装置をセットした状況を示す縦断面図である。
【図16】二重管を溶接するときの状況を示す縦断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明によるレーザ溶接方法および装置の一実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
図1は、二重管内に配置されている本実施形態によるレーザ溶接装置を示す断面図である。この図1において、参照番号1は、二重管を示し、参照番号10は、レーザ溶接装置を示している。図2は、レーザ溶接装置10の構成を示す断面図である。
二重伝熱管1は、外管2と内管3が同軸になった二重管で、外管2と内管3の間には、組網線4が挟さみ込まれている。
【0018】
レーザ溶接装置10は、二重管1を継ぎ足しながら延長して高速増殖炉の蒸気発生器等で使用される二重伝熱管の突き合わせ溶接に用いられる。
【0019】
このレーザ溶接装置10は、大きく分けると、レーザ溶接ヘッド12と、このレーザ溶接ヘッド12を内管3の内周面にそって周方向に旋回させる回転機構14と、レーザ溶接装置10の本体部を二重伝熱管1の管内に固定するための固定機構16と、から構成されている。
【0020】
まず、固定機構16について、図1乃至図4を参照して説明する。
この固定機構16は、駆動源であるエアシリンダ18と、胴部を構成する円筒状の外側フレーム20と、パッド21を含む。エアシリンダ18は、外側フレーム20の内側で、軸線上に配置されているシャフト22と連結されている。このエアシリンダ18は、シャフト22を軸方向に移動させることで、外側フレーム20からパッド21を半径方向に押し出したり、外側フレーム20に引き込んだりすることができる。
【0021】
図3は、固定機構16の横断面を示す。この実施形態では、3つのパッド21が等配に120°ずつ点対称に配置されている。シャフト22には、それぞれパッド21を支持する支持脚24が取り付けられている。この支持脚24は、前側と後ろ側で対をなしており、これらの対は3組分等ピッチに3等配割で取り付けられている。
【0022】
図2に示されるように、支持脚24の先端部には、パッド21を半径方向に押し出し、あるいは引き込むためのカム機構を構成するピン25が取り付けられている。パッド21には、二重伝熱管1の軸方向に対して傾斜する傾斜溝26が前後2箇所に形成されている。ピン25は、傾斜溝26を形成する外側カム面26aと内側カム面26bとの両方の面を摺動可能である。
【0023】
図3では、3個あるパッド21が外側フレーム20の内部に引き込まれた状態を示している。1つ1つのパッド21は対をなす2本の支持脚24に挟まれるようにしてピン25を介して支持されている。外側フレーム20の側面には、長方形の貫通穴28が120°対称に3箇所形成されている。この貫通穴28は、穴の長手方向の寸法がパッド21の長手方向の寸法と対応しており、穴の幅は2本の支持脚24の幅と対応している。
【0024】
図4に示すように、エアシリンダ18が作動してシャフト22が前進すると、ピン25は傾斜溝26の外側カム面26aを摺動するので、パッド21は半径方向に突き出され内管3の内周面に押し付けられることなる。逆に、エアシリンダ18によりシャフト22が後退すると、ピン25は傾斜溝26の内側カム面26bを摺動するので、パッド21は外側フレーム20の内側に引き込まれることになる(図3参照)。
【0025】
次に、図2、図5を参照してレーザ溶接ヘッド12について説明する。
このレーザ溶接ヘッド12は、溶接ヘッドの本体を構成する胴部ケース30を含む。この胴部ケース30の内部には、2枚一組の組レンズ31、32(組レンズ31、32に替えて単体レンズが用いられる場合もある。)と反射ミラー33が設けられている。レーザ光はレーザ溶接ヘッド12に光ファイバー34を用いて導かれ、組レンズ31、32によって集光されてから、反射ミラー33で反射して溶接ノズル35から照射される。光ファイバー34は、外筒ホース36に収納されている。この外筒ホース36は柔軟性の高い材料で形成されて撓むことができるようになっている。外筒ホース36の端部は、外筒コネクタ37を介して胴部ケース30と接続されている。この場合、外筒コネクタ37と胴部ケース30の間に軸受38が介装されており、外筒コネクタ37は回転可能に胴部ケース30に接続されている。
【0026】
図6は、レーザ溶接ヘッド12における光学系をレンズ31、32と反射ミラー33の組み合わせに替えて、非球面反射ミラー39によって構成した例を示す。非球面反射ミラー39を用いることで、レーザ溶接ヘッド12 の長さを短くできる利点がある。
【0027】
以上のようなレーザ溶接ヘッド12は、回転機構14を介して固定機構16と連結されている。
図2において、回転機構14は、レーザ溶接ヘッド12を回転させる駆動源であるサーボモータ40と、レーザ溶接ヘッド12を支持する偏心腕42と、を含む。
図5に示すように、偏心腕42は、軸部43と、この軸部から半径方向に直角に延びるフレーム部44とから構成されている。サーボモータ40と連結されている減速機の出力軸40aは、軸部43に嵌合させて連結されており、この軸部43はサーボモータ40のハウジング41に軸受45を介して回転自在に支持されている。
【0028】
フレーム部44には、レーザ溶接ヘッド12の胴部ケース30が嵌合する円筒部46が設けられている。胴部ケース30の端部付近の外周部には、雄ねじ48が形成されている。固定キャップ50は、レーザ溶接ヘッド12をフレーム部44に固定する部材であって、内径部には、雄ねじ48に螺合する雌ねじ51が形成されている。この場合、円筒部46の外周面にはテーパが形成されている。したがって、レーザ溶接ヘッド12の胴部ケース30を円筒部46に差し込み、固定キャップ50をねじ込むことにより、くさび作用が効いて、レーザ溶接ヘッド12を固定できるようになっている。レーザ溶接ヘッド12がフレーム部44に固定された状態では、レーザ溶接ヘッド12の軸線は、内管3の軸心に対して平行であるが、偏心した位置関係にある。
【0029】
次に、図7、図8は、レーザ溶接ヘッド12の位置決めに用いられる位置決め治具56を示す。この実施形態では、位置決め治具56は、短円柱を半割にした治具本体57a、57bを開閉できるように連結した金具である。
治具本体57a、57bの裏面には、円環状の溝58が形成されており、この円環状の溝58は、二重管1の内管3の端部に嵌合する。そして、治具本体57a、57bには、レーザ溶接ヘッド12の胴部ケース30が嵌合する半割の貫通穴59と、空圧ケーブルや電気ケーブル等が通過する半割穴60が形成されている。治具本体57a、57bは、ヒンジ部32により開閉自在に連結されている。図7は、治具本体57a、57bが閉じている状態を示し、図8は、治具本体57a、57bが開いている状態を示している。
【0030】
治具本体57a、57bを閉じてクランプするために、一方の治具本体57bにはクランプボルト61が回動自在に取り付けられている。治具本体57a、57bには、クランプボルト61が嵌合する締め付け部62が形成され、ナット63をクランプボルト61に螺合させて締め付けることで、位置決め締め治具56を二重管の内管3に取り付けてクランプしてレーザ溶接ヘッド12を位置決めすることができる(図9参照)。
【0031】
本実施形態によるレーザ溶接装置は、以上のように構成されるものであり、次に、このレーザ溶接装置の作用効果について説明する。
まず、図9は、レーザ溶接装置10が長い方の二重管2に収容されて固定されている状態を示す。二重伝熱管を構成する二重管1の溶接部の開先形状の関係は、次のようになっている。突き合わせ溶接される二重管同士では、一方の二重管1の外管2と内管3とでは、内管3の溶接部が少し突き出ており、他方のこれから継ぎ足す二重管1では、逆に、外管2の溶接部が出ているという関係にある(図14参照)。
【0032】
二重管1にレーザ溶接装置10をセットするときには、レーザ溶接装置10の固定機構16の方から入れ、図9に示すように、上述した位置決め治具56を用いてレーザ溶接ヘッド12の一部が外に出ている状態になるようにレーザ溶接ヘッド12は位置決めされる。こうして位置決め治具56によって、レーザ溶接ヘッド12の管軸方向の位置を決めてから、固定機構16を作動させる。固定機構16は、パッド21を内管3の内周面に押し付け、固定機構16および回転機構14を内管3と同軸に固定する。この状態では、図10に示されるように、レーザ溶接ヘッド12の軸線は、内管3の中心から偏心した位置にある。
【0033】
レーザ溶接ヘッド12には、光ファイバー34を通じてレーザ光が導かれる。光ファイバー34の端面から一定の広がり角度で投射されたレーザ光は、組レンズ31、32によって一定の距離に集光させられ、集光の途中にある反射ミラー33で90度光路を曲げて、胴部ケース30に開口している溶接ノズル35から外に投射される。
【0034】
回転機構14は、サーボモータ40により駆動してレーザ溶接ヘッド12全体を内管3の管軸を中心に旋回させるので、レーザ光は溶接部の全周に亘って照射される。このとき、光ファイバー34を収納する外筒ホース36は、可撓性のあるホースである上に、外筒コネクタ37に内蔵された軸受38により回転自在となっているので、レーザ溶接ヘッド12の旋回運動で外筒ホース36が過度にねじれることを回避することができる。
【0035】
レーザ溶接ヘッド12では、溶接部に向かって投射されるレーザー光のピントは次のようにして調節することができる。
【0036】
図5に示したように、本実施形態によるレーザ溶接ヘッド12では、その胴部ケース30を偏心腕42の円筒部46に嵌合させ固定キャップ50をねじ込むことで胴部ケース30を固定している。固定キャップ50を緩めると、胴部ケース30は組レンズ31、32の光軸回りに回すことができるようになっている。
【0037】
このため、図11に示すように、固定キャップ50を緩めて胴部ケース30を回すことによって、レーザ溶接ヘッド12を管軸中心から偏心した位置に固定して、レーザ光の照射方向を任意の向きに変えることができるようになっている。向きを調整したら、固定キャップ50を締め付ければよい。
【0038】
図11において、破線で示す円は、胴部ケース30を360°回したときのレーザピントの合っている点の描く軌跡を示す。
【0039】
図11(a)で示す向きにレーザビームを投射したときは、ピントが内管3の内側で結んでしまっている。そこで、さらに胴部ケース30ごと回してレーザビームの投射方向を調整すると、図10(b)に示すように、レーザピントを内管3の内周面に合わせることができる。
【0040】
また、図11(c)に示すように、さらに胴部ケース30を回すと、レーザピント位置は内管3の内周面から外側に合わせることができる。
【0041】
このようにレーザ溶接ヘッド12の偏心位置を固定して、胴部ケース30を左右いずれかに90°の範囲内で回すと、おおむね、30°から60°の範囲で、どこかでピント位置を内管3の内周面に合わせることが可能になっているので、溶接時にレーザのピント調整を簡便に行うことができる。
【0042】
次に、図12は、二重管1の溶接部近傍の溶接状況を模式的に示す図である。溶接している間、溶接点からスパッタ70が発生し周囲に飛散する。通常、スパッタ70の大半は、矢印の方向で示されるように溶接面から垂直に二重管1の中心に向かって飛び出す。従来のレーザ溶接では、レーザ溶接ヘッド12は二重管1の中心に位置決めされており、溶接面に対して垂直方向からレーザ照射を行うため、スパッタ70は容易にレーザ照射ヘッド12の溶接ノズル35から内部に飛び込み、反射ミラー33を損傷してしまうことが頻発した。
【0043】
これに対して、本実施形態によるレーザ溶接ヘッド12は、二重管1の中心から偏心した位置に位置決めされているので、レーザ光軸と管内面とのなす角βは、90度以上の鈍角になり、管内面に対してある角度で傾いた状態にある。この偏心位置からレーザビーム72が管内面に対して斜めに照射されると、スパッタ70の飛ぶ方向には、溶接ノズル35は位置していないので、スパッタ70の飛び込みによる反射ミラー33の損傷リスクを低減させることができる。
【0044】
次に、図13は、レーザ溶接ヘッド12が旋回したときの二重管1の溶接部で溶融状態を示す模式図である。この図13において、参照番号74は既溶接領域、75は未溶接領域である。なお、二重管1は分かりやすくするために直線的に描かれている。
【0045】
レーザ溶接ヘッド12は、二重管1の中心から偏心した位置に固定され、この位置からピントを合わせているので、レーザビーム72は二重管1の内管3の溶接面に対して斜めに入射する。この姿勢で、レーザ溶接ヘッド12が図12において鈍角βの方向に旋回するにしたがって、レーザビーム72は矢印方向に移動しながら二重管1の内面を周方向に溶接していく。
【0046】
レーザビーム72が溶接面に照射されると、まず、内管3の外周面から溶融が始まり、図13に示されるように、溶融池76が内管3の内周面に向かって斜めに拡がるように形成される。この場合、レーザビーム72が傾いているので、溶融する箇所も斜めにレーザビームの移動する方向とは反対側に少しずつずれるようになる。
【0047】
従来のレーザ溶接では、溶接面に対して垂直にレーザビーム72が入射するので、ガスが抜ける方向に溶融する箇所が集中するので、ガスは抜け難くなりやすい。
これに対して、本実施形態のように、溶接面に対して斜めにレーザビーム72を入射させると、溶接部で発生するガス77が抜け易すいように溶融池76は形成されるので、ブローホールの発生リスクを低減させることができる。
【0048】
次に、以上説明したレーザ溶接装置を用いて、二重管を接合するレーザ溶接方法について説明する。
溶接される前の一本の二重管1の長さは、10mから20m程度である。高速増殖炉の蒸気発生器等で使用される伝熱管の製造では、二重管1同士に突き合せ溶接を実施しながら、長尺な伝熱管につなげていく。突き合せ溶接を続けていくと、二重管1はどんどん長くなっていき、最終的には1本が数十、数百mにもなる。
【0049】
以下、レーザ溶接方法の工程を順を追って説明する。
【0050】
レーザ溶接ヘッド12の調整
この調整作業は、レーザ溶接ヘッド12を二重管1に入れる前に実施する。まず最初に、二重管1の内管3の内径を計測する。そして図11に示したように、レーザ溶接ヘッド12の胴部ケース30を手動で回すことにより、反射ミラー33の捻り角度を調整して、内管3の内面面にレーザスポットが正確に合うように、照射ノズル35から照射点までの距離(ワークディスタンス距離)を修正する。
【0051】
レーザスポットの照射位置、ピント確認
次に、図9において、レーザ溶接ヘッド12に位置決め治具56を取り付けておく。そして、溶接する二重管のうち、長い方の二重管1A(継ぎ足される方の管)の中に、固定機構16の方から入れ、レーザ溶接ヘッド12に取り付けてある位置決め治具56を内管3の端面に嵌合させる。
【0052】
そこで、図10に示すように、固定機構16を作動させて、パッド21を内管3の内面に押し付けることで、レーザ溶接ヘッド12の管軸方向の位置を固定することができる。固定が完了した後、位置決め治具56を取り外す。
【0053】
こうしてレーザ溶接装置10全体の固定が終わったら、次のようにして、レーザスポットの照射位置、ピント状態の確認を行う。
回転機構14を作動させサーボモータ40でレーザ溶接ヘッド12を旋回させながら、光ファイバー34に赤色レーザなどの可視光を通し、内管3の内面に向けてレーザ照射を行う。その際、目視によって、レーザスポットの位置が内管3の端部の被溶接部にあるかどうか、ピントが合っているかどうか、を確認する。ピント状態が不整合であれば、レーザ溶接装置10の固定を解除して内管3から取り出し、最初に戻って、反射ミラー33の捻り角度の再調整を行う。レーザスポットの照射位置が不整合であれば、レーザ溶接ヘッド12の胴部ケース30に対する位置決め治具56の取り付け位置を再調整する。
【0054】
レーザスポットの照射位置、ピント状態が正常であることが目視により確認されたら、一旦、レーザ溶接装置10を固定機構14による固定状態から開放し、内管3から取り出す。
【0055】
二重管の予熱
次に、図14において、長い方の二重管1Aの内管3の端部から、レーザ溶接装置10の代わりに、予熱器具80として電磁誘導コイルや予熱ヒータなどを差し込み、管内面を約250℃まで予熱するための準備を行う。これと同時に溶接する相手方の短い二重管1Bの端部からも予熱器具82として電磁誘導コイルや予熱ヒータを差し込んでおく。このとき、短い方の二重管1Bの溶接端部とは反対側からレーザ溶接装置10を管内に入れ、溶接端部より1m程度に近づいた位置まで固定機構14を接近させておくことが好ましい。この状態で、二重管1A、1Bのお互いの溶接する管端部を突き合わせの向きにして、Vブロック等を用いて一直線上に並べてお互いに接近させ、この状態で、二重管1A、1Bの溶接部である管端部の予熱を行う。この予熱を効果的に行うために、二重管1A、1Bの外側を断熱材で覆ったり、管端部を断熱ケースで覆うなどして、予熱過程での放熱を防止する措置を併用するようにしてもよい。
【0056】
このようにして二重管1A、1Bの被溶接部を予熱する間、レーザ溶接ヘッド12は、短い方の二重管1Bの内管3の中で予熱器具80、82から退避した位置にあり、二重管1A、1Bの予熱の際にレーザ溶接ヘッド12が加熱されることはない。このため、レーザ溶接ヘッド12をほぼ常温の状態にして、レーザ溶接を行うことができる。
【0057】
こうして二重管の管端部の内面が、この実施形態の場合、約250℃程度まで過熱されたら、素早く予熱器具80、82を取り外す。
レーザ溶接
次に、予熱器具80、82を取り外した後に、直ちに、短い方の二重管1Bの溶接しない方の管端部から外筒ホース36を送り込むことで、外筒ホース36と繋がっているレーザ溶接装置10を長い方の二重管1Aの内管3の中に押し込み、図15に示されるように、位置決め治具56をレーザ溶接ヘッド12に取り付けてから、固定機構16を作動させて、パッド21を内管3の内周面に押し付け、レーザ溶接ヘッド12の管軸方向の位置を固定する。
【0058】
レーザ溶接ヘッド12の管軸方向の位置決めを完了後ただちに、位置決め治具56をレーザ溶接ヘッド12から取り外し、図16に示されるように、二重管1A、1Bのお互いの端部を合わせ、適当な図示しない金具によって固定する。
【0059】
固定完了後、回転機構14のサーボモータ40を起動させ、レーザ溶接ヘッド12を二重管内部で一回転以上旋回させながら、図12、図13に示したようにレーザビームを溶接部に照射し、レーザ溶接を実行する。
【0060】
レーザ溶接が終了したら、固定機構14による固定を解除し、外筒ホース36を手繰り寄せてレーザ溶接装置10を管内から回収する。
【0061】
以上のようにレーザ溶接装置10を利用することにより、レーザ溶接ヘッド12を回転させる機構を二重管の外に配置することなく、また、継ぎ足していく管の長さに影響を受けることなく二重管の溶接を効率良く行うことができる。
【0062】
以上、本発明に係るレーザ溶接装置について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は、高速増殖炉の蒸気発生器等に利用される二重伝熱管だけでなく、原子炉で利用される二重管あるいは管をつなげていく溶接一般に適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1…二重管、2…外管、3…内管、4…組網線、10…レーザ溶接装置、12…レーザ溶接ヘッド、14…回転機構、16…固定機構、21…パッド、30…胴部ケース、31,32…組みレンズ、33…反射ミラー、34…光ファイバー、35…溶接ノズル、36…外筒ホース、37…外筒コネクタ、40…サーボモータ、42…偏心腕、50…固定キャップ、56…位置決め治具
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管と管の端部を突き合わせ、管の内部から該管の内周面にレーザ光を照射して突き合わせ溶接を行うレーザ溶接装置において、
光ファイバーで導いたレーザ光を反射ミラーで反射させて溶接対象物の管の内周面に照射する光学系を有するレーザ溶接ヘッドと、
前記管の管軸に対して前記レーザ溶接ヘッドの軸線が偏心した位置に該レーザ溶接ヘッドを支持し、前記管軸上にある回転軸回りに前記レーザ溶接ヘッドを旋回させる回転機構と、
前記胴部を管軸と同軸に固定するとともに前記レーザ溶接ヘッドの管軸方向の位置を固定する固定機構と、
を具備したことを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項2】
前記回転機構は、前記回転軸に連結され前記レーザ溶接ヘッドを回転軸から偏心した位置に支持する偏心腕と、前記レーザ溶接ヘッドの反射ミラーで反射するレーザ光の反射方向を光学系の光軸回りに回転させて任意の方向に変え、ピントを調整可能なピント調整手段とを備えたことを特徴とする請求項1に記載のレーザ溶接装置。
【請求項3】
前記ピント調整手段は、前記反射ミラー、レンズが収容される胴部ケースの端部に形成した雄ねじと、前記胴部ケースの雄ねじに螺合する雌ねじを有し、偏心腕に前記胴部ケースを固定する固定キャップからなることを特徴とする請求項2に記載のレーザ溶接装置。
【請求項4】
前記胴部ケースに接続される光ファイバーは、可撓性のある外筒に収納され、前記外筒は、軸受を有する継手を介して回転可能に前記胴部ケースに接続されたことを特徴とする請求項3に記載のレーザ溶接装置。
【請求項5】
前記固定機構は、駆動源の直動アクチュエータと、
前記胴部の中心軸に関して等ピッチで等配割りに配置され、それぞ前記パッドが取り付けられた複数の支持脚と、
前記直動アクチュエータの管軸方向の進退運動を前記管軸と垂直の方向に前記支持脚の管内周面に対する進退運動に変換する運動変換部と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載のレーザ溶接装置。
【請求項6】
前記レーザ溶接ヘッドが嵌合する穴を有し、前記レーザ溶接ヘッドを保持する一対の半割構造の治具本体を有し、溶接対象の管の端部に着脱自在に嵌合して前記レーザ溶接ヘッドの管軸方向の位置を位置決めする位置決め治具をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載のレーザ溶接装置。
【請求項7】
前記レーザ溶接ヘッドの光学系には、レンズと反射ミラーの代わりに、1つの非球面反射ミラーによって構成されたことを特徴とする請求項1に記載のレーザ溶接装置。
【請求項8】
管と管の端部同士を突き合わせ、管の内部から該管の内周面にレーザ光を照射して突き合わせ溶接を行うレーザ溶接方法において、
光ファイバーで導いたレーザ光を反射ミラーで反射させて溶接対象物の管の内周面に照射する光学系を有するレーザ溶接ヘッドと、前記管の管軸に対して前記レーザ溶接ヘッドの軸線が偏心した位置に該レーザ溶接ヘッドを支持し、前記管軸上にある回転軸回りに前記レーザ溶接ヘッドを旋回させる回転機構と、前記胴部を管軸と同軸に固定するとともに前記レーザ溶接ヘッドの管軸方向の位置を位置決めする固定機構と、を有するレーザ溶接装置を準備する工程と、
前記レーザ溶接装置を一方の管の中の管端部近くに収容し、前記固定機構によって前記レーザ溶接ヘッドの管軸方向の位置を固定する工程と、
前記レーザ溶接ヘッドから管の内周面にレーザ光照射の試行を行い、レーザスポットの照射位置、ピント状態を調整する工程と、
前記固定機構を開放して前記レーザ溶接装置を他方の管に退避させ、管同士を突き合わせの向きに接近させ、管端部の予熱を行う工程と、
前記レーザ溶接装置を他方の管から一方の管に押し込み、前記固定機構によってレーザ溶接ヘッドの管軸方向の位置を位置決めし、両方の管を突き合わせ、前記回転機構により前記レーザヘッドを旋回させながらレーザ光を溶接部の内周面に照射してレーザ溶接を行う工程と、
溶接終了後に管内からレーザ溶接装置を回収する工程と、
からなることを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項9】
溶接面と入射するレーザ光とがなす角が鈍角となっている方向に、前記レーザ溶接ヘッドを旋回させながら、突き合わせ溶接を行うことを特徴とする請求項8に記載のレーザ溶接方法。
【請求項10】
前記レーザ溶接装置を管に固定する前に、前記管の内径を計測し、レーザ溶接ヘッドの照射ノズルから照射点までの距離を調整し、前記レーザ溶接ヘッドの反射ミラーで反射するレーザ光の反射方向を光学系の光軸回りに回転させて任意の方向に変えピントをあらかじめ調整しておくことを特徴とする請求項8に記載のレーザ溶接方法。
【請求項11】
前記前記レーザ溶接ヘッドが嵌合する穴を有し、前記レーザ溶接ヘッドを保持する一対の半割構造の位置決め治具を用い、前記レーザ溶接ヘッドからの照射点が溶接部に位置するように管軸方向の位置決めすることを特徴とする請求項8に記載のレーザ溶接方法。
【請求項12】
前記管は、内管と外管の隙間に網状の組網線が挟み込まれた高速増殖炉の蒸気発生器等で使用される二重管であることを特徴とする請求項8乃至11のいずれかの項に記載のレーザ溶接方法。
【請求項1】
管と管の端部を突き合わせ、管の内部から該管の内周面にレーザ光を照射して突き合わせ溶接を行うレーザ溶接装置において、
光ファイバーで導いたレーザ光を反射ミラーで反射させて溶接対象物の管の内周面に照射する光学系を有するレーザ溶接ヘッドと、
前記管の管軸に対して前記レーザ溶接ヘッドの軸線が偏心した位置に該レーザ溶接ヘッドを支持し、前記管軸上にある回転軸回りに前記レーザ溶接ヘッドを旋回させる回転機構と、
前記胴部を管軸と同軸に固定するとともに前記レーザ溶接ヘッドの管軸方向の位置を固定する固定機構と、
を具備したことを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項2】
前記回転機構は、前記回転軸に連結され前記レーザ溶接ヘッドを回転軸から偏心した位置に支持する偏心腕と、前記レーザ溶接ヘッドの反射ミラーで反射するレーザ光の反射方向を光学系の光軸回りに回転させて任意の方向に変え、ピントを調整可能なピント調整手段とを備えたことを特徴とする請求項1に記載のレーザ溶接装置。
【請求項3】
前記ピント調整手段は、前記反射ミラー、レンズが収容される胴部ケースの端部に形成した雄ねじと、前記胴部ケースの雄ねじに螺合する雌ねじを有し、偏心腕に前記胴部ケースを固定する固定キャップからなることを特徴とする請求項2に記載のレーザ溶接装置。
【請求項4】
前記胴部ケースに接続される光ファイバーは、可撓性のある外筒に収納され、前記外筒は、軸受を有する継手を介して回転可能に前記胴部ケースに接続されたことを特徴とする請求項3に記載のレーザ溶接装置。
【請求項5】
前記固定機構は、駆動源の直動アクチュエータと、
前記胴部の中心軸に関して等ピッチで等配割りに配置され、それぞ前記パッドが取り付けられた複数の支持脚と、
前記直動アクチュエータの管軸方向の進退運動を前記管軸と垂直の方向に前記支持脚の管内周面に対する進退運動に変換する運動変換部と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載のレーザ溶接装置。
【請求項6】
前記レーザ溶接ヘッドが嵌合する穴を有し、前記レーザ溶接ヘッドを保持する一対の半割構造の治具本体を有し、溶接対象の管の端部に着脱自在に嵌合して前記レーザ溶接ヘッドの管軸方向の位置を位置決めする位置決め治具をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載のレーザ溶接装置。
【請求項7】
前記レーザ溶接ヘッドの光学系には、レンズと反射ミラーの代わりに、1つの非球面反射ミラーによって構成されたことを特徴とする請求項1に記載のレーザ溶接装置。
【請求項8】
管と管の端部同士を突き合わせ、管の内部から該管の内周面にレーザ光を照射して突き合わせ溶接を行うレーザ溶接方法において、
光ファイバーで導いたレーザ光を反射ミラーで反射させて溶接対象物の管の内周面に照射する光学系を有するレーザ溶接ヘッドと、前記管の管軸に対して前記レーザ溶接ヘッドの軸線が偏心した位置に該レーザ溶接ヘッドを支持し、前記管軸上にある回転軸回りに前記レーザ溶接ヘッドを旋回させる回転機構と、前記胴部を管軸と同軸に固定するとともに前記レーザ溶接ヘッドの管軸方向の位置を位置決めする固定機構と、を有するレーザ溶接装置を準備する工程と、
前記レーザ溶接装置を一方の管の中の管端部近くに収容し、前記固定機構によって前記レーザ溶接ヘッドの管軸方向の位置を固定する工程と、
前記レーザ溶接ヘッドから管の内周面にレーザ光照射の試行を行い、レーザスポットの照射位置、ピント状態を調整する工程と、
前記固定機構を開放して前記レーザ溶接装置を他方の管に退避させ、管同士を突き合わせの向きに接近させ、管端部の予熱を行う工程と、
前記レーザ溶接装置を他方の管から一方の管に押し込み、前記固定機構によってレーザ溶接ヘッドの管軸方向の位置を位置決めし、両方の管を突き合わせ、前記回転機構により前記レーザヘッドを旋回させながらレーザ光を溶接部の内周面に照射してレーザ溶接を行う工程と、
溶接終了後に管内からレーザ溶接装置を回収する工程と、
からなることを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項9】
溶接面と入射するレーザ光とがなす角が鈍角となっている方向に、前記レーザ溶接ヘッドを旋回させながら、突き合わせ溶接を行うことを特徴とする請求項8に記載のレーザ溶接方法。
【請求項10】
前記レーザ溶接装置を管に固定する前に、前記管の内径を計測し、レーザ溶接ヘッドの照射ノズルから照射点までの距離を調整し、前記レーザ溶接ヘッドの反射ミラーで反射するレーザ光の反射方向を光学系の光軸回りに回転させて任意の方向に変えピントをあらかじめ調整しておくことを特徴とする請求項8に記載のレーザ溶接方法。
【請求項11】
前記前記レーザ溶接ヘッドが嵌合する穴を有し、前記レーザ溶接ヘッドを保持する一対の半割構造の位置決め治具を用い、前記レーザ溶接ヘッドからの照射点が溶接部に位置するように管軸方向の位置決めすることを特徴とする請求項8に記載のレーザ溶接方法。
【請求項12】
前記管は、内管と外管の隙間に網状の組網線が挟み込まれた高速増殖炉の蒸気発生器等で使用される二重管であることを特徴とする請求項8乃至11のいずれかの項に記載のレーザ溶接方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−30254(P2012−30254A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172229(P2010−172229)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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