説明

レーザ溶接方法

【課題】 重ね合せた被溶接部材間に必要な隙間を確実に形成することができるレーザ溶接方法を提供する。
【解決手段】 重ね合せた部材1,2をレーザ5にて溶接する際に、レーザ5にてフォーミングビード6を形成して一方の部材1を反らせ、部材1,2間に隙間11を形成した後に、レーザ5にて溶接ビード7を形成して溶接する方法において、フォーミングビード6を非直線状に形成する。また、フォーミングビード6を溶接ビード7に対して非平行に形成することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛めっき鋼板などの被溶接部材を重ね合せて、レーザにより溶接するレーザ溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛めっき鋼板を2枚重ねた状態でレーザ溶接すると、鋼板間に急速に発生する亜鉛蒸気が溶融金属を吹き飛ばすためにスパッタが激しく発生し、また溶接ビードにピット、ブローホールが発生して良好な溶接ビードを得ることができないことから、鋼板間に適当な隙間を形成した状態でレーザ溶接することが知られている。このような隙間を形成する方法としては、溶接ビードと平行になる位置にレーザによりフォーミングビードを形成して一方の鋼板を反らせ、鋼板間に隙間を形成した後に、レーザにて溶接ビードを形成するレーザ溶接方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特許第3115456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示されたレーザ溶接方法においては、溶接ビードと平行になる位置にフォーミングビードを形成するため、フォーミングビードを挟んで溶接ビードと反対側にクランプ位置を設ける必要があることから、クランプ位置が制限されてしまい、レーザ溶接の対象となるワークの形状によってはクランプ位置が設けられず、レーザ溶接を行うことができないという問題がある。また、溶接ビードと平行になる位置にのみフォーミングビードを形成するため、十分な隙間を形成することができない場合があるという問題もある。
【0005】
本発明は、従来の技術が有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、重ね合せた被溶接部材間に必要な隙間を確実に形成することができるレーザ溶接方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく請求項1に係る発明は、重ね合せた部材をレーザで溶接する際に、レーザでフォーミングビードを形成して一方の部材を反らせ、前記部材間に隙間を形成した後に、レーザで溶接ビードを形成して溶接する方法において、前記フォーミングビードを非直線状に形成するものである。
【0007】
請求項2に係る発明は、重ね合せた部材をレーザで溶接する際に、レーザでフォーミングビードを形成して一方の部材を反らせ、前記部材間に隙間を形成した後に、レーザで溶接ビードを形成して溶接する方法において、前記フォーミングビードを前記溶接ビードに対して非平行に形成するものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明によれば、クランプ位置が限定的でないため、レーザ溶接の対象となるワークの形状が限定されない。また、非直線状のフォーミングビードにより部材間に必要な隙間を確実に形成することができる。
【0009】
請求項2に係る発明によれば、クランプ位置が限定されず、部材間に必要な隙間を確実に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。ここで、図1は本発明に係るレーザ溶接方法の概要説明図、図2はフォーミングビードと溶接ビードの位置関係についての実施例を示す平面図である。
【0011】
本発明に係るレーザ溶接方法は、図1(a)に示すように、先ず重ね合せた被溶接部材1,2をクランプ冶具3,4でクランプ状態にし、溶接位置(溶接ビード)とクランプ位置を考慮してレーザ5を上側の被溶接部材1に照射し、フォーミングビード6を上側の被溶接部材1のみに形成する。なお、フォーミングビード6とは、上側の被溶接部材1を熱変形させるためのビードである。
【0012】
クランプ冶具3,4によるクランプ位置としては、図1(c)に示すように、被溶接部材1の端部(エッジ)1aと溶接ビード7との位置関係から決定され、第1に溶接位置(溶接ビード7)と略平行な位置8が望ましいが、溶接位置(溶接ビード7)と略同一方向にある位置9,10などでもよい。クランプ位置8の代わりに、クランプ位置9,10で被溶接部材1,2をクランプすることもできる。
【0013】
フォーミングビード6が上側の被溶接部材1に形成されると、レーザ5の照射による熱収縮により被溶接部材1の端部1aが反り上がり、被溶接部材2との間に隙間11が形成される。ここで、フォーミングビード6は、図1(c)に示すように、溶接位置(溶接ビード7)を挟んで被溶接部材1の端部1aの反対側であって、クランプ位置8,9,10と溶接位置(溶接ビード7)の間で溶接位置(溶接ビード7)を囲むよう非直線状に形成される。
【0014】
次いで、図1(b)に示すように、溶接位置にレーザ5を照射して溶接ビード7を被溶接部材1,2に形成する。この時、被溶接部材1,2が亜鉛めっき鋼板であれば、隙間11から被溶接部材1,2間で発生した亜鉛蒸気が逃げるので、溶接ビード7にピットやブローホールなどが発生することなく良好な溶接品質を得ることができる。
【0015】
フォーミングビード6と溶接ビード7との位置関係を示す各種の実施例を、図2に示す。図2(a)は溶接ビード7と平行な直線部6aと、直線部6aと非平行な2本の直線部6b,6cからなるフォーミングビード6で、被溶接部材1の端部1aと共に溶接ビード7を囲む場合である。図2(b)は溶接ビード7と平行な直線部6aと、直線部6aと非平行な2本の直線部6b,6cからなるフォーミングビード6で、端部1aと反対側に臨む部分の溶接ビード7を囲む場合である。図2(c)は溶接ビード7と平行な直線部6aと、直線部6aと非平行な2本の直線部6b,6cからなるフォーミングビード6で、端部1aと反対側に臨む部分の溶接ビード7の大部分を囲む場合である。
【0016】
図2(d)は溶接ビード7と平行な直線部6aと、直線部6aと非平行で溶接ビード7と交差する2本の直線部6b,6cからなるフォーミングビード6で、端部1aと共に溶接ビード7の大部分を囲む場合である。図2(e)は溶接ビード7と平行な直線部6aと、直線部6aと非平行な1本の直線部6bからなるフォーミングビード6で、溶接ビード7を囲む場合である。図2(f)は溶接ビード7と平行な直線部6aと、直線部6aと直交する2本の直線部6b,6cからなるフォーミングビード6で、端部1aと共に溶接ビード7を囲む場合である。
【0017】
図2(g)は略円弧状なフォーミングビード6で、端部1aと共に溶接ビード7を囲む場合である。図2(h)は溶接ビード7と非平行であって交差する2本の直線部6d,6eからなるフォーミングビード6で、端部1aと反対側に臨む部分の溶接ビード7を囲む場合である。図2(i)は溶接ビード7と非平行である1本の直線部からなるフォーミングビード6で、端部1aと反対側に臨む部分の溶接ビード7に対向する場合である。
【0018】
フォーミングビード6は、従来技術のような単なる直線状の場合に比べて、図2に示すように、複数の直線部6a〜6e又は曲線部で非直線状に形成した場合の方が、被溶接部材1,2間に必要とされる隙間11を確実に形成することができる。その理由は、複数の直線部6a〜6eからなるフォーミングビード6の場合には、各直線部6a〜6eの影響範囲が溶接位置(溶接ビード7)周辺で重なるため、被溶接部材1の変形量をより稼ぐことができるからである。
【0019】
なお、フォーミングビード6と溶接ビード7との位置関係は、上述の実施例(図2(a)〜(i))に限定されず、フォーミングビード6を上側の被溶接部材1に形成した時に、被溶接部材1,2間に必要とされる隙間11が形成されればよい。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明に係るレーザ溶接方法は、レーザ溶接の対象となる部材(ワーク)の形状に影響を受けずに、部材間に必要とされる隙間を確実に形成することができるので、レーザ溶接の適用範囲の拡大に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るレーザ溶接方法の概要説明図で、(a)はフォーミングビードを形成した状態の断面図、(b)は溶接ビードを形成した状態の断面図、(c)はフォーミングビードと溶接ビードとクランプ位置との位置関係を示す平面図
【図2】フォーミングビードと溶接ビードの位置関係についての実施例((a)〜(i))を示す平面図
【符号の説明】
【0022】
1,2…被溶接部材、1a…端部、3,4…クランプ冶具、5…レーザ、6…フォーミングビード、7…溶接ビード、8,9,10…クランプ位置、11…隙間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合せた部材をレーザで溶接する際に、レーザでフォーミングビードを形成して一方の部材を反らせ、前記部材間に隙間を形成した後に、レーザで溶接ビードを形成して溶接する方法において、前記フォーミングビードを非直線状に形成することを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項2】
重ね合せた部材をレーザで溶接する際に、レーザでフォーミングビードを形成して一方の部材を反らせ、前記部材間に隙間を形成した後に、レーザで溶接ビードを形成して溶接する方法において、前記フォーミングビードを前記溶接ビードに対して非平行に形成することを特徴とするレーザ溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−137011(P2008−137011A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−322702(P2006−322702)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】