説明

レーザ照射装置及びレーザ照射方法

【課題】被加工対象物内面との干渉可能性の増大を招くことなく、被加工対象部との距離を一定に保ちつつレーザ加工を実施することのできるレーザ照射装置及びレーザ照射方法を提供する。
【解決手段】レーザ光をレーザ光源から導いてレーザ光出射部から出射するレーザ光伝送機構と、レーザ光を集光する集光機構と、集光機構を内部に収容し保持するともにレーザ光を照射するための開口部を有する筒状の筐体と、流体を筐体内に供給し、開口部から噴出させる流体供給機構と、筺体に配設され、被加工物と当接されることによって集光機構と被加工物との距離を一定に保つ位置決め機構と、開口から噴出された流体が、筐体と被加工物との間を筐体の軸方向に沿って流れるようにガイドし、筐体と被加工物との間にエジェクター効果を発生させるための流体ガイド機構とを具備したレーザ照射装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ照射装置及びレーザ照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光を配管形状の材料表面に照射して加工する技術については、例えば、レーザ光をパルスレーザ光源から導いてレーザ光出射部から出射する光ファイバを収納する光ファイバ収納筒と、この光ファイバ収納筒の先端部に設置され、内部に前記レーザ光出射部から所定の距離を隔てて配置した非球面形状の反射面を有する反射ミラーを収納し、かつ周面に反射レーザ光を照射点に照射するためのレーザ照射窓を設けたミラー収納筒とを有する照射装置と、レーザ光の照射点に清浄用液体を送る送液手段と、前記照射装置を軸線方向に移動させる移動装置を備えた装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この装置によれば、光ファイバから出射されたレーザ光を非球面反射ミラーによって反射し、集光して施工面に照射するので、レーザ光を集光するための集光レンズを照射装置に内蔵する必要がなく、その分照射装置の外径を細くすることができる。また、非球面ミラー収納筒と光ファイバ収納筒とを照射装置の同芯上に配置し、ミラー収納筒を回転駆動装置によりらせん状に回転させることで管内面にレーザ加工を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−313191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した装置において、らせん状に照射装置を移動させてレーザ加工を行うためには、被照射対象部位と非球面ミラーの位置を一定に保たなければならず、また、照射装置と被加工対象物とのクリアランスをレーザ光の焦点距離に応じたものにしなければ加工は成立しない。
【0006】
上記のクリアランスを小さくすれば加工は行えるが、照射装置が被加工対象物内面と干渉して故障するリスクがある。一方、クリアランスが大きくすると回転時に振動等の影響により焦点裕度範囲外になってしまい加工ができない可能性がある。
【0007】
本発明は上記従来の事情に対処してなされたもので、被加工対象物内面との干渉可能性の増大を招くことなく、被加工対象部との距離を一定に保ちつつレーザ加工を実施することのできるレーザ照射装置及びレーザ照射方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のレーザ照射装置の一態様は、レーザ光をレーザ光源から導いてレーザ光出射部から出射するレーザ光伝送機構と、前記レーザ光出射部から出射されたレーザ光を集光する集光機構と、前記集光機構を内部に収容し保持するともに、前記集光機構によって集光されたレーザ光を被加工物に照射するための開口部を有する筒状の筐体と、流体供給源からの流体を前記筐体内に供給し、前記開口部から噴出させる流体供給機構と、前記筺体に配設され、前記被加工物と当接されることによって前記集光機構と前記被加工物との距離を一定に保つ位置決め機構と、前記開口から噴出した流体が、前記筐体と前記被加工物との間を前記筐体の軸方向に沿って流れるようにガイドし、前記筐体と前記被加工物との間にエジェクター効果を発生させるための流体ガイド機構とを具備したことを特徴とする。
【0009】
本発明のレーザ照射方法の一態様は、レーザ光をレーザ光源から導いてレーザ光出射部から出射するレーザ光伝送機構と、前記レーザ光出射部から出射されたレーザ光を集光する集光機構と、前記集光機構を内部に収容し保持するともに、前記集光機構によって集光されたレーザ光を被加工物に照射するための開口部を有する筒状の筐体と、流体供給源からの流体を前記筐体内に供給し、前記開口部から噴出させる流体供給機構と、前記筺体に配設され、前記被加工物と当接されることによって前記集光機構と前記被加工物との距離を一定に保つ位置決め機構と、前記開口から噴出した流体が、前記筐体と前記被加工物との間を前記筐体の軸方向に沿って流れるようにガイドする流体ガイド機構とを具備したレーザ照射装置を用い、前記流体供給機構から供給された流体を、前記筺体の開口部から噴出させ前記流体ガイド機構に沿った流体の流れを形成することによって前記筺体を前記被加工物にエジェクター効果によって吸着させ、吸着させた状態で前記被加工物にレーザ光を照射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、被加工対象物内面との干渉可能性の増大を招くことなく、被加工対象部との距離を一定に保ちつつレーザ加工を実施することのできるレーザ照射装置及びレーザ照射方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1実施形態に係るレーザ照射装置の構成を模式的に示す図。
【図2】レーザ光反射・集光機構の他の例の構成を示す図。
【図3】パイプ内面に対するレーザ照射の施工方法を説明するための図。
【図4】第2実施形態に係るレーザ照射装置の構成を模式的に示す図。
【図5】第3実施形態に係るレーザ照射装置の構成を模式的に示す図。
【図6】低圧タービン翼の構成を示す図。
【図7】低圧タービン翼のピン孔に対するレーザ照射の施工方法を説明するための図。
【図8】PWRの炉内計装筒に対するレーザ照射の施工方法を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のレーザ照射装置及びレーザ照射方法の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0013】
図1(a)、(b)は、本発明の一実施形態に係るレーザ照射装置及びレーザ照射方法の実施形態の要部概略構成を模式的に示すものであり、図1(a)は側面側から見た構成を示し、図1(b)は、下面側から見た構成を示している。
【0014】
図1(a)、(b)に示すように、図示しないレーザ発振器に接続されたレーザ光伝送機構としての光ファイバ14の先端部は、筒状(本実施形態では円筒状)に形成された筺体12に接続されている。また、筺体12には、図示しない流体供給源に接続された管状の流体供給機構13の先端が接続されている。筺体12内には、レーザ光反射・集光機構としての非球面ミラー11が収容され保持されている。
【0015】
筺体12の一方の面には、開口18が形成されている。また、筺体12の開口18が形成された面の外側部分には、開口18より先端側(図1中左側)に位置決め機構19が配設され、開口18より後端側(図1中右側)に流体ガイド機構17が配設されている。
【0016】
流体ガイド機構17は、開口18から噴出した流体15(図中矢印で示す。)が、筐体12と被加工物との間を筐体12の軸方向に沿って流れるようにガイドし、筐体12と被加工物との間にエジェクター効果を発生させるためのものである。本実施形態において、流体ガイド機構17は、筺体12の軸方向(長手方向)に沿って形成された溝によって構成されている。しかし、流体ガイド機構17は、流体15の流れをガイドしエジェクター効果を発生できるものであればよく、溝に限らず、例えば、筺体12の軸方向に沿って平行するように形成された複数の堰などによって構成してもよい。
【0017】
上記構成のレーザ照射装置において、図示しないレーザ発振器から照射されたレーザ光51は、光ファイバ14により伝送される。そして、光ファイバ14の端部のレーザ光出射部から照射されたレーザ光51は、非球面ミラー11において反射、集光され、開口18を通って被加工物16の表面に照射される。
【0018】
上記のように、レーザ光伝送機構としては、光ファイバ14が一般的に用いられ、光ファイバ端部(レーザ光出射部)から照射されるレーザ光51の広がり角は、用いる光ファイバ14の種類によって規定される。例えば、材質が石英でコア径φ1.0mmの光ファイバ14を用いた場合、一般に開口数NA(Numerical Aperture)は0.2程度となる。この光ファイバ端面から照射されるレーザ光51の開口数NAに応じて、レーザ光反射・集光機構としての非球面ミラー11の大きさ、光ファイバ端部(レーザ光出射部)から非球面ミラー11までの距離、非球面ミラー11から被加工物16の被加工面までの距離が決定する。
【0019】
レーザ光反射・集光機構としては、上記のように非球面ミラー11を用いるのが好ましい。しかし、図2に示すように、レーザ光集光機構(レンズ等)41とレーザ光反射機構(ミラー等)42を組合せた構成のものでもよい。非球面ミラー11を用いる場合、材質としては銅等の金属、石英、BK7等のガラス、等を用いるのが好ましく、非球面ミラー11の表面に特定のレーザ光を反射するための反射膜を設けることによって、レーザ光による非球面ミラー11へのダメージを軽減し、寿命を長期化することが可能となる。
【0020】
また、レーザ光集光機構41としては、石英、BK7等のガラス製の集光レンズを使用することができる。また、レーザ光反射機構42としては、銅等の金属製の反射ミラー、石英やBK7等のガラス製の反射ミラーを用いるのが好ましい。また、集光レンズには必要に応じて特定の波長のレーザ光を透過する反射防止膜を有するものを用いることで、反射光による光ファイバの損傷を防止することが可能となる。さらに、反射ミラーについては、特定の波長のレーザ光を反射するための反射膜を有するものを用いることで、ミラー本体へのダメージを軽減し、ミラーの寿命を長期化することが可能となる。
【0021】
レーザ光反射・集光機構としての非球面ミラー11は、筐体12内に配設され、筐体12により保持されている。また、レーザ光伝送機構としての光ファイバ14は、管状の流体供給機構13の内部に配設され保持されている。しかし、光ファイバ14を筐体12内部においても保持する構成としてもよい。筐体12としては、円筒状の形状とすることが好ましいが、紡錘形状や多角形形状等としてもよい。また、筐体12の大きさについては、被加工物16がパイプ状でその内面に対して加工を行う場合は、パイプ内に入る大きさであればよい。
【0022】
図1に示すように、開口18からは、レーザ光51だけでなく流体供給機構13によって供給された流体15が噴出される。流体15は、流体供給機構13の内部を、図1中右側から筐体12に向けて流れ、非球面ミラー11に衝突することによって図1(a)中下向きに流れの方向を変え、開口18から噴出される。開口18から噴出された流体15は、筐体12の外部に拡散していくが、流体15の流れは流体ガイド機構17によってガイドされ、筐体12と被加工物16との間を、筐体12の長手方向(軸方向)に沿って流れる。
【0023】
このように、流体15が筐体12と被加工物16の間を流れることによって、筐体12と被加工物16との間と、周囲との間に圧力差を生じ、エジェクター効果により筐体12が被加工物16に引き付けられる。そして、筐体12の先端側に配設された位置決め機構19が被加工物16に当接された状態となり、筐体12と被加工物16との距離、つまり、非球面ミラー11と被加工物16との距離が一定に保たれる。
【0024】
なお、流体15としては、レーザピーニングを行う場合には水等の液体を用いることが好ましく、レーザ溶接を行う場合にはAr、N等の不活性なガスを用いることが好ましく、レーザ切断を行う場合には酸素や空気等の支燃性ガスを用いることが好ましい。
【0025】
エジェクター効果を用いて筐体12を被加工物16に引き付ける構成とした場合、筐体12の動きに流体供給機構13が追従するように、流体供給機構13を、柔軟性を有する材料、例えば、ポリマー、エンジニアリングプラスチック、硬質ゴム、ガラス等によって構成し、屈曲可能とすることが好ましい。具体的には、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ABS樹脂、AES樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド(ナイロン)、ポリカーボネート、ポリアセタール、PTFE、ピーク材、エボナイト、フロートガラス、溶融石英などが挙げられるが、エジェクター効果による筐体12の動きに追従可能な材質で、かつパイプ状に加工した際に内側に流体15を流すことができるものであれば、この限りではない。
【0026】
図3は、本実施形態のレーザ照射装置を用いて、パイプ状の部材からなる被加工物16の内面に、レーザピーニングを施す例を示している。レーザピーニングの場合、図3に示すように、開口18からレーザ光51を照射するとともに、開口18から流体15として水を噴出する。
【0027】
実施例として、パイプの内径がφ10.0mmに対して、筺体12の外径がφ9.0mmのレーザ照射装置を用いて実験を行った。この場合、筐体12の開口18から1.5〜12.0l/minの流量で水を噴出することにより、筐体12等から構成されたレーザ照射装置を、エジェクター効果により被加工物16の内面に引き付け、被加工物16の内面と筐体12(非球面ミラー11)との距離を一定に保つことが可能であった。
【0028】
また、パイプの内径がφ15.0mm、筺体12の外径がφ14.5mmの場合は、筐体12の開口18から4.5〜16.0l/minの流量で水を噴出することでエジェクター効果による吸着が可能であることを確認できた。このように、被施工対象物の形状、大きさに応じて、レーザ照射装置の筺体12の形状と大きさ、及び、開口18から噴出する流体15の流量を変更することによって、エジェクター効果により、レーザ照射装置の筺体12を位置決めすることが可能である。
【0029】
筺体12の開口18から水流と同時にレーザ光51を被加工物16に照射した場合、レーザ光51は光であり、反力を生じないため、エジェクター効果で筺体12が被加工物16に吸着する。これによって、重力の影響を受けずに上下左右いずれの姿勢においても被加工物16と一定の距離を保ちながらレーザピーニング等の施工を行うことができる。なお、図3に示した例では、パイプ状の部材の内面に対してレーザ照射を行う場合について説明したが、被施工対象物はパイプ状のものに限らず、平板状のものでもよい。平板状の被施工対象物に対してレーザ照射を行う場合であっても、エジェクター効果による吸着が可能な位置関係にあれば筺体12が被加工物16に吸着され、筺体12と被加工物16との距離が一定に保たれる。
【0030】
なお、上記の説明では、レーザピーニングを実施する場合について説明したが、光源としてYAGレーザあるいはファイバレーザを用い、例えば、以下の条件で加工することにより、レーザ溶接に用いることができる。
レーザ発振器:YAGレーザ発振器またはファイバレーザ発振器
レーザ出力:2.0kW
スポット径:φ0.2mm
施工速度:1.0m/min
流体:窒素、アルゴン
流量:30l/min
【0031】
例えば、内径30mm、板厚3mmのステンレス製パイプの溶接を行う場合、レーザ照射を上記の条件で行い、流量30l/minでArガスを流しながらレーザ照射装置を周方向に回転させながら溶接することで、パイプ内面からキーホール溶接を行うことができた。この場合、エジェクター効果を得るために必要な流体15の流量となっているため、レーザ照射装置の筺体12と被加工物16との間の距離を一定に保つことができ、良好なレーザ溶接を行うことができた。
【0032】
ここで、レーザ光伝送機構としての光ファイバ14の端面の位置を、レーザ光反射・集光機構としての非球面ミラー11から徐々に離していくと、キーホール溶接から熱伝導型の溶接ビード形状に変化する。このように、光ファイバ14の端面の位置を移動させ、非球面ミラー11からの距離を変更する機構を有することによって、必要な溶接ビード形状を得ることが可能となる。
【0033】
また、上記のような溶接に用いるレーザ発振器を用い、例えば、以下のような条件で加工を実施することで、レーザ切断も行うことができる。
レーザ発振器:YAGレーザ発振器またはファイバレーザ発振器
レーザ出力:2.0kW
スポット径:φ0.3mm
施工速度:1.0m/min
流体:空気
流量:50l/min
【0034】
レーザ切断は、レーザ光を熱源として局部的に溶融させた金属を流体(アシストガス)により吹き飛ばすことにより達成される。上記のようにアシストガスとして圧縮空気を用いることにより、酸素で被施工物の溶融を加速し、その他の窒素等の圧力により溶融金属を吹き飛ばせば効果的な切断が可能となる。パイプ内面の切断においては、パイプの円周方向に移動させるようにすればエジェクター効果によりレーザ照射装置の筺体12をパイプ内面に追従させながらパイプ切断を行うことが可能となる。また、流体として窒素を用いれば、切断面を酸化させずに切断することが可能となる。
【0035】
また、窒素ガスを用いてレーザ溶接あるいはレーザ切断を行うことにより、レーザ照射により溶融した金属と窒素が反応し、窒化物を形成することが可能である。例えば、Ti合金の表面に熱伝導型の溶融池を形成するモードでレーザ溶接を行えば、冷却過程において表面にTiN層やTiAlN層が形成される。表面に窒化物層を形成することにより、表層の耐食性が向上し、適用する部材によっては寿命を延命化する効果が得られる。他にもAl合金ではAlNが形成される他、流体として酸素や空気を用いればAl層の形成も可能である。
【0036】
次に、図4を参照して第2実施形態について説明する。なお、図1に示したレーザ照射装置と対応する部分には同一符号を付して重複した説明は省略する。第2実施形態に係るレーザ照射装置では、筺体12の開口18と対向する位置に、流体15を外部に向けて噴出するための噴出口20が配設されている。
【0037】
このように構成された第2実施形態のレーザ照射装置では、レーザ照射ヘッドを構成する筺体12が、パイプ状の被加工物16内に配置され、その内面にレーザ照射を行う際に、流体供給機構13から筐体12に供給された流体15は、開口18から噴出されるとともに、噴出口20からも噴出される。
【0038】
開口18から噴出された流体15は、ガイド機構17によってガイドされ、筐体12と被加工物16との間を、筐体12の長手方向(軸方向)に沿って流れる。これによって、筐体12と被加工物16との間と、周囲との間に圧力差を生じ、エジェクター効果により筐体12が被加工物16に引き付けられる。そして、筐体12の先端側に配設された位置決め機構19が被加工物16に当接された状態となる。
【0039】
これに加えて、噴出口20から被加工物16の内壁に向けて噴出される流体15によって、筺体12を開口18側(図4中下側)に押し付ける力が作用する。この押圧力と上記のエジェクター効果による吸引力とによって、筐体12と被加工物16との距離、つまり、非球面ミラー11と被加工物16との距離が、より安定的に一定に保たれる。なお、噴出口20の大きさ、筐体12と被加工物16との距離、流体15の流量を調整することによって、安定した位置決めを行うことができる。
【0040】
次に、図5を参照して第3実施形態について説明する。なお、図1に示したレーザ照射装置と対応する部分には同一符号を付して重複した説明は省略する。図5に示すように、第3実施形態に係るレーザ照射装置では、流体供給機構13が、第1流体供給機構31と、第2流体供給機構32と、これらを連結する連結機構33とを具備する構成となっている。連結機構33は、屈曲可能とされており、ベローズ構造又はゴムなどの伸縮性のある材質の管状部材から構成されている。
【0041】
流体15は、図中矢印で示すように流れるため、エジェクター効果により筐体12と被加工物16との間には引付力が発生するが、流体供給機構13を構成する部材として、ステンレスパイプのように剛性のある材料を用いた場合には、筐体12の動きが引付力に対して十分に追従しないことがあったり、また仮に引き付けられたとしても筐体12が被加工物16に対して平行にならずレーザ加工姿勢が取れなかったりと、必要な仕様が満たせない場合も考えられる。
【0042】
そこで、第3実施形態では、流体供給機構13を、第1流体供給機構31と、第2流体供給機構32と、これらを連結する屈曲可能な連結機構33とを具備する構成とすることにより、仮に第1流体供給機構31と、第2流体供給機構32をステンレスパイプのように剛性の高い材料で構成した場合でも、連結機構33が屈曲することによって、エジェクター効果で得られた引付力に応じて筐体12が被加工物16と水平になるように姿勢を保つことが可能となる。
【0043】
次に、図6、7を参照して、フォーク型植込み部を有する低圧タービン翼及びディスクのピン孔内にレーザピーニングを施す場合について説明する。図6はフォーク型植込み部を有する低圧タービン翼の構成を示す図である。フォーク型植込み部を有する低圧タービン翼61は、ディスク62のフォークに挿入され、ピン63で固定される構造となっている。
【0044】
材質は、低圧タービン翼61として例えば12Cr鋼やチタン合金、ディスク62の材料材として3.5%NiCrMoV鋼、ピン63の材料としては5CrMoV鋼が挙げられる。ピン63とピン孔の公差としては、ピン径に対して0.2〜0.6%が望ましいがその限りではない。
【0045】
低圧タービン翼61は、運転中に軸方向に遠心力を受けるため、応力集中が高い低圧タービン翼61とディスク62との結合部においては、起動停止に伴う低サイクル疲労、高い平均応力と腐食環境下での高サイクル疲労に対して十分な強度を有した構造でなければならない。
【0046】
図7は、レーザ照射装置を用いて低圧タービン翼61のピン孔表面にレーザピーニング施工を行う場合の構成を模式的に示す図である。レーザ発振器101から照射されたレーザ光51は、レーザ光調整機構102において光ファイバに入射伝送可能な状態に調整され、集光レンズ103、反射ミラー104を介してレーザ光伝送機構としての光ファイバ14に入射される。光ファイバ14内に入射したレーザ光51は、筺体12内に固定されたレーザ光反射・集光機構としての非球面ミラー11で反射され、集光されて低圧タービン翼61のピン孔表面に照射される。レーザ発振器101としては、ジャイアントパルスYAGレーザ発振器を好適に使用することができるが、パルスレーザを照射した際にプラズマが発生するようなエネルギーを発生することができるレーザ発振器であれば、他のレーザ発振器を用いてもよい。
【0047】
内部に非球面ミラー11が固定されるとともに開口18を有する筐体12は、流体供給機構13を介して軸方向移動機構112と回転機構111に連結されている。また、流体供給機構13には、送液機構110が接続されている。非球面ミラー11からピン孔内面に照射されるレーザ光51は、回転機構111及び軸方向移動機構112を用いて筺体12を回転及び移動させることによって、ピン孔内面の所望の領域に照射できるようになっている。
【0048】
上記レーザ照射の際、送液機構110から流体供給機構13に供給され流体15は、筐体12の開口18を介してピン孔内面に向けて噴出される。ピン孔内面に噴出された流体15は、筐体12に設けられた流体ガイド機構17によってガイドされ筺体12の長手方向(軸方向)に沿って流れる。この流体15の流れによって、筐体12はエジェクター効果を受け、ピン孔内面に引き付けられる。したがって、流体15の流量を一定に保つことによって、筐体12(非球面ミラー11)とピン孔内面との距離を一定に保つことが可能となる。
【0049】
レーザ光51をピン孔内面に走査して照射する場合、例えば、軸方向移動機構112と回転機構111を同時に駆動することにより、スパイラル状の軌道を描くように、ピン孔内面にレーザ光51を照射することができる。また、軸方向移動機構112、あるいは回転機構111のいずれか一方の駆動機構のみを駆動してレーザ光51を照射し、必要な一定距離、例えばピン孔フォーク長さ分、あるいはピン孔一周分を施工した後に、他方の駆動機構を駆動して一定距離レーザ光51の照射位置を移動させ、同様の動作を繰り返すことによって、ピン孔内面へのレーザ光51の走査、照射を行うことができる。
【0050】
送液機構110から送出する流体15として水を用いることで、ピン孔内のレーザ光照射位置の近傍を清浄しながらレーザ光51を照射することができる。また、送液機構110から送出する流体15として、例えば、アルカリイオン水やアンモニア水といったアルカリ性の液体を用いることにより、タービン動翼61やディスク62に錆が発生することを防止することができる。
【0051】
レーザ発振器101から射出されたレーザ光51を反射して光ファイバ14に入射させるための反射ミラー104として、表面にレーザ光を反射するコーティングを施したものを用いれば、レーザ発振器101から射出されたレーザ光51のエネルギーの大部分を光ファイバ14に入射することができる。しかし、コーティングの種類を変え、例えば、レーザ光51を数%透過するコーティングを施したものを用いることによって、光ファイバ14に入射するレーザ光51のエネルギーを調整することができる。例えば、レーザ光51の出力が100mJ/パルスの場合、99%反射して1%透過するコーティングを施した反射ミラー104を用いれば、光ファイバ14に99mJ/パルスが入射し、1mJ/パルスが透過することになる。
【0052】
光ファイバ14内に入射したレーザ光51は、光ファイバ14内を伝播して出射端より出射されるが、実際には光ファイバ14の入射端面で反射するため100%は伝播されない。例えば、石英製の光ファイバ14では端面で約3.5%反射されることが知られている。上記のように、反射ミラー104に意図的に数%のレーザ光が透過するようなコーティングを施した場合、光ファイバ14の端面で反射したレーザ光51の一部は反射ミラー104を透過して裏面へと抜けていく。
【0053】
ここで、光ファイバ14、反射ミラー104を抜けてきたレーザ光51について、集光レンズ113を介して画像データ収集機構114に取り込む構成とすることで、光ファイバ14端面から反射されたレーザ光の状態を観察することが可能となる。画像データ収集機構114としては、CCDカメラなど映像情報が得られるものを用いればよい。またゲートICCDカメラを用いれば、時間分解機能によりレーザ光51が光ファイバ14内部を伝播する時間を加算した画像データを得ることで光ファイバ14の出射端における状態も確認することが可能となる。このような機能を活用すれば、レーザ照射中の光ファイバ14とレーザ光51の状況に関する情報をリアルタイムに得ることができ、装置の健全性が確認することができる。
【0054】
上述のように、レーザ照射装置を用いてフォーク型植込み部を有する低圧タービン翼ピン孔内面に対してレーザピーニングを行うことにより、表層から深さ方向に対して0.1mm〜2.0mm程度の圧縮残留応力が付与された状態とすることができ、運転時にピン孔内面にかかる引張残留応力が抑えられ、応力腐食割れの発生を抑制することができる。
【0055】
次に、図8を参照してレーザ照射装置によりPWRプラントの炉内計装筒(BMI:Bottom Mounted Instruments)の内面にレーザピーニングを施す場合について説明する。図8(a)は、配管形状を有し、PWRプラントの炉底部72を貫通するように配設された炉内計装筒(BMI:Bottom Mounted Instruments)71の構成を模式的に示す図である。このような炉内計装筒71の内面にレーザピーニングを施す場合には、図8(b)に示すように、内部に非球面ミラー11を収容した筺体(照射ヘッド)12を炉内計装筒71内に配置する。そして、光ファイバ14によって伝送されたレーザ光を非球面ミラー11で反射させ、集光して炉内計装筒71の内面に照射する。
【0056】
また、流体供給機構31によって筺体12内に供給された水等の流体15を、筺体12に配設された開口18から噴出させる。筺体12と炉内計装筒71の内面との間に噴出した流体15は、筺体12に設けられた流体ガイド機構17によってガイドされ筺体12の長手方向(軸方向)に沿って流れる。この流体15の流れによって、筺体12はエジェクター効果を受け、炉内計装筒71の内面に引き付けられる。したがって、流体15の流量を一定に保つことによって、筺体12(非球面ミラー11)と炉内計装筒71の内面との距離を一定に保つことが可能となる。
【0057】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0058】
11……非球面ミラー(レーザ光反射・集光機構)、12……筺体、13……流体供給機構、14……光ファイバ(レーザ光伝送機構)、15……流体、16……被加工物、17……流体ガイド機構、18……開口、19……位置決め機構、51……レーザ光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光をレーザ光源から導いてレーザ光出射部から出射するレーザ光伝送機構と、
前記レーザ光出射部から出射されたレーザ光を集光する集光機構と、
前記集光機構を内部に収容し保持するともに、前記集光機構によって集光されたレーザ光を被加工物に照射するための開口部を有する筒状の筐体と、
流体供給源からの流体を前記筐体内に供給し、前記開口部から噴出させる流体供給機構と、
前記筺体に配設され、前記被加工物と当接されることによって前記集光機構と前記被加工物との距離を一定に保つ位置決め機構と、
前記開口から噴出した流体が、前記筐体と前記被加工物との間を前記筐体の軸方向に沿って流れるようにガイドし、前記筐体と前記被加工物との間にエジェクター効果を発生させるための流体ガイド機構と
を具備したことを特徴とするレーザ照射装置。
【請求項2】
請求項1記載のレーザ照射装置であって、
前記流体ガイド機構は、前記筺体に配設された溝、又は、前記筺体に間隔を設けて平行するように配設された複数の堰によって構成されたことを特徴とするレーザ照射装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のレーザ照射装置であって、
前記筺体の前記開口部とは対向する側に、前記流体供給機構によって供給された流体を噴出するための噴出口が配設されていることを特徴とするレーザ照射装置。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項記載のレーザ照射装置であって、
前記レーザ光伝送機構は、前記レーザ光出射部の前記集光機構に対する位置を変更可能とされていることを特徴とするレーザ照射装置。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項記載のレーザ照射装置であって、
前記流体供給機構が、屈曲可能な管状体を通じて流体を供給するよう構成されたことを特徴とするレーザ照射装置。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項記載のレーザ照射装置であって、
前記流体供給機構が、内部に流体が流通される第1環状部材と、内部に流体が流通される第2環状部材と、前記第1環状部材と前記第2環状部材とを連結する連結機構とを有することを特徴とするレーザ照射装置。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか1項記載のレーザ照射装置であって、
前記レーザ光伝送機構の手前に配設され、前記レーザ光伝送機構を介して伝送される反射光をモニターするための機構を有することを特徴とするレーザ照射装置。
【請求項8】
レーザ光をレーザ光源から導いてレーザ光出射部から出射するレーザ光伝送機構と、
前記レーザ光出射部から出射されたレーザ光を集光する集光機構と、
前記集光機構を内部に収容し保持するともに、前記集光機構によって集光されたレーザ光を被加工物に照射するための開口部を有する筒状の筐体と、
流体供給源からの流体を前記筐体内に供給し、前記開口部から噴出させる流体供給機構と、
前記筺体に配設され、前記被加工物と当接されることによって前記集光機構と前記被加工物との距離を一定に保つ位置決め機構と、
前記開口から噴出した流体が、前記筐体と前記被加工物との間を前記筐体の軸方向に沿って流れるようにガイドする流体ガイド機構とを具備したレーザ照射装置を用い、
前記流体供給機構から供給された流体を、前記筺体の開口部から噴出させ前記流体ガイド機構に沿った流体の流れを形成することによって前記筺体を前記被加工物にエジェクター効果によって吸着させ、吸着させた状態で前記被加工物にレーザ光を照射する
ことを特徴とするレーザ照射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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