説明

レーザ発振器の出力補正方法およびレーザ発振器

【課題】レーザ発振器の出力を安定化できるレーザ発振器の出力補正方法を提供する。
【解決手段】コントローラ15が、ビームスプリッタ8により分光され、パワーモニタ11と高速AD変換ユニット12経由でフィードバックされるレーザ光の波形をレーザショットごとに求める。そして、レーザショットごとにその波形と目標出力波形を比較して相似比(変動量)を求め、その相似比と補正上限値のいずれか小さいほうの値を基に補正された励起電流I0が励起用光源2へ供給されるよう電圧・電流変換器5を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザ発振器の出力補正方法およびレーザ発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、固体レーザ発振器の利用分野が拡大してきている。例えば半導体の製造分野においては、所定の周期で繰り返し出力されるレーザショットによりトリミングや、スクライビング、マーキング、半田付け、溶接、切断などの加工が行われている。
【0003】
しかし、固体レーザ発振器は、レーザ発振開始初期に、固体レーザ媒質が励起用光源からの光エネルギにより発熱して歪む、いわゆる熱レンズ効果によって出力が変動するという問題がある。また、レーザ媒質の前後に共振ミラーを配置して構成する固体レーザ発振器では、周囲温度の変化による共振ミラーの平行度ずれによっても出力が変動するという問題がある。そこで、従来より、パワーフィードバック制御(例えば、特許文献1参照。)やフィードフォーワード制御(例えば、特許文献2参照。)によって、熱レンズ効果の削減や共振ミラーの平行度ずれの軽減が図られている。
【0004】
まず、従来のパワーフィードバック制御について説明する。図7に従来のレーザ発振器を用いたレーザ加工装置の概略構成を示す。図7において、71はレーザ媒質、72は励起用光源、73は出力ミラー、74は全反射ミラー、75はレーザ電源回路を示す。
【0005】
励起用光源72は、レーザ電源回路75から供給される励起電流の波形に従って、放出する光エネルギを連続的に変化させる。レーザ媒質71は、励起用光源72からの光エネルギにより励起してレーザ光を放出する。共振ミラーを構成する出力ミラー73と全反射ミラー74は、レーザ媒質71から放出されたレーザ光を共振・増幅して出力ミラー73より外部へ出射する。出力ミラー73より出射されるレーザ光(レーザショット)がレーザ発振器の出力となり、その波形は、しきい値以上の励起電流の波形に従う。レーザ電源回路75は所定の波形のレーザショットが所定の周期で繰り返し出力されるように励起電流を供給する。
【0006】
76はビームスプリッタ、77はパワーモニタを示す。ビームスプリッタ76は出力ミラー73より出射されたレーザ光の一部を取り出し、これをパワーモニタ77へ出力する。パワーモニタ77は、ビームスプリッタ76からのレーザ光(反射光)を受けて、そのレーザパワーに応じた電流(光電流)を出力する。
【0007】
78は光電流・電圧変換回路、79はA/D変換回路、80は光強度測定部を示す。光電流・電圧変換回路78は、パワーモニタ77からの光電流を電圧に変換する。A/D変換回路79は、光電流・電圧変換回路78からのアナログ電圧をデジタル値に変換する。光強度測定部80は、A/D変換回路79からのデジタル値を基に、出力ミラー73より出射されたレーザ光のレーザパワー値(光強度)を測定する。
【0008】
レーザ電源回路75には、光強度測定部80により測定された光強度がリアルタイムでフィードバックされる。レーザ電源回路75は、その光強度に応じてその時々のレーザパワーが目標光強度になるように励起電流を増減する。このようにパワーフィードバック制御は、レーザ光の光強度をフィードバックして励起電流を補正することで、レーザ発振器より出射されるレーザ光(レーザショット)の波形を補正する。
【0009】
次に、従来のフィードフォーワード制御について、図8を用いて説明する。
従来のフィードフォーワード制御は、レーザ発振開始時において熱レンズ効果がまだ発生しないか、効果がまだ小さいことにより出力が不足するのを補償するために、予めレーザ発振開始初期のレーザパワーの変動パターンを計測して、補正値を設定する。そして、レーザ発振開始初期のレーザパワーが不足する期間、予め設定した補正値に応じて励起電流を図8(a)に示すように定常時よりも大きくする。これにより、図8(b)に示すように固体レーザ発振器の出力は、初期出力時から定常状態になる。
【0010】
しかしながら、上記のようなリアルタイムパワーフィードバック制御では、例えば図2に示すように、レーザショットが短時間で急激な波形制御を必要とする波形である場合、加工対象物(ワーク)が例えばアルミニウムのような高反射率材料であると、ワークからの戻り光による時間遅れな光電流を起因とするハンチングが起こり、レーザ発振器の出力が不安定化するおそれがあった。
【0011】
またフィードフォーワード制御は、フィードバック制御ではないので、周囲環境や使用条件などが変動パターン計測時から変化すると、目論見通りの補正が困難になるという問題があった。また予め計測した変動パターンから補正値を導き出すための考え方に法則性がなく試行錯誤してかなりの手間がかかるという問題もあった。さらに、生産工程の間隔が変化すると熱レンズ効果自体が変化するが、これに対応できずに逆の補正をしてしまうおそれがあり、これを回避するには生産工程を開始するたびに変動パターンを計測して補正値を導き出す必要があった。
【0012】
そこで、レーザショットの所定ショット数分ずつの平均出力波形を求めることを繰り返し、1回の平均出力波形を求める都度、求めた平均出力波形を目標出力波形にする拡大・縮小係数を基に、次の平均出力波形を求めるまでの間の励起電流を補正するフィードバック制御が考えられる。このフィードバック制御は、リアルタイムでフィードバック制御するものではないので、レーザショットが短時間で急激な波形制御を必要とする波形である場合であってもハンチングを起こすおそれがない。
【0013】
しかしながら、このフィードバック制御には、レーザ発振器の出力が定常状態となってから平均出力波形を求めるためのショット数分の空打ちを行う必要があるという問題がある。
【0014】
また、このフィードバック制御は、励起用光源の劣化など経時的に徐々に進行するような変化に対応するのには好適であるが、例えば図9に示すように、外的要因などによってレーザショットの出力波形が目標出力波形から大きく変動した場合、平均出力波形を求めるためのショット数nが少ないと、その間のレーザショット波形から求めた平均出力波形を目標出力波形にする拡大/縮小係数の絶対値が大きくなって制御系が不安定となり、図9に示すようにハンチングを起こしてレーザ発振器の出力の精度が悪化するおそれがある。一方、平均出力波形を求めるためのショット数nを増やせば拡大/縮小係数の絶対値を抑制できるが、上記した空打ちのショット数が増加するという問題がある。
【特許文献1】特開平5−169284号公報
【特許文献2】特開平11−284284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記問題点に鑑み、レーザ発振器から所定の周期で繰り返し出力されるレーザショットの出力波形と予め設定された設定波形を比較して、設定波形に対するレーザショットの出力波形の変動量を求め、その変動量と予め設定された補正上限値のいずれか小さいほうの値を基に次のレーザショットの指令値(例えば励起電流)を補正することにより、レーザ発振器の波形を補正してレーザ発振器の出力を安定化できるレーザ発振器の出力補正方法およびレーザ発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の請求項1記載のレーザ発振器の出力補正方法は、レーザ発振器から所定の周期で出力されるレーザショットの出力波形を検出し、前記検出した出力波形と予め設定された設定波形とを比較して前記設定波形に対する前記出力波形の変動量を求め、前記変動量と予め設定された補正上限値のいずれか小さいほうの値を基に次のレーザショットの指令値を補正することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の請求項2記載のレーザ発振器の出力補正方法は、請求項1記載のレーザ発振器の出力補正方法であって、補正上限値は、レーザ発振開始からの時間経過に応じて変化することを特徴とする。
【0018】
また、本発明の請求項3記載のレーザ発振器の出力補正方法は、請求項1または2のいずれかに記載のレーザ発振器の出力補正方法であって、補正上限値は、レーザ発振開始からのショット数が予め設定されたショット数に到達する都度小さくなることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の請求項4記載のレーザ発振器の出力補正方法は、請求項1ないし3のいずれかに記載のレーザ発振器の出力補正方法であって、レーザ発振開始後の最初のレーザショットの出力波形または変動量を記憶し、予め設定された時間経過後にレーザ発振開始する際の最初のレーザショットの指令値を、前記記憶した出力波形または変動量を基に補正することを特徴とする。
【0020】
また、本発明の請求項5記載のレーザ発振器は、所定の周期でレーザショットを出力するレーザ出力部と、前記レーザショットの出力波形を検出する検出部と、前記検出した出力波形と予め設定された設定波形とを比較して前記設定波形に対する前記出力波形の変動量を求める変動量算出部と、前記変動量と予め設定された補正上限値のいずれか小さいほうの値を基に次のレーザショットの指令値を補正する補正部とを備えたことを特徴とする。
【0021】
また、本発明の請求項6記載のレーザ発振器は、請求項5記載のレーザ発振器であって、補正上限値を複数登録する登録部を備えたことを特徴とする。
また、本発明の請求項7記載のレーザ発振器は、請求項5または6のいずれかに記載のレーザ発振器であって、レーザ発振開始後の最初のレーザショットの出力波形または変動量を記憶する記憶部を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、レーザ発振器の出力を精度よく安定化できる。つまり、レーザショットごとにその出力波形と設定波形を比較して変動量を求めその変動量を基にレーザショットの指令値を補正することで、レーザショットの波形を補正するので、周囲温度の変化によるミラー平行度の変化や、励起用光源の劣化など経時的に徐々に進行するような変化に対してレーザ発振器の出力を安定化させることができる。また、各ショット毎に設定波形との差をフィードバックするので、リアルタイムパワーフィードバック制御のように制御遅れによるハンチングは起こらない。また、レーザショット波形の変動量が補正上限値を超えた場合には、その補正上限値を基に次のレーザショットの指令値を補正することで次のレーザショット波形を補正するので、レーザ発振器の出力の補正が極端になって制御や機器に悪影響を与える事態を回避できるようになる。
【0023】
さらに、本発明によれば、各ショット毎に設定波形との差をフィードバックするので、平均出力波形を用いたフィードバック制御と比べて空打ちを軽減することができる。また、補正に上限値を設けたことにより、外的要因などによって波形が大きく変動した場合であっても、平均出力波形を用いたフィードバック制御のように空打ちのショット数を増やすことなくレーザ発振器の出力を安定化することができる。
【0024】
また、本発明によれば、レーザ発振開始初期の熱レンズ効果に変化のある過渡期においてもフィードバック制御を行うので、フィードフォーワード制御のように生産工程を開始するたびに変動パターンを計測して補正値を導き出すような手間をかける必要が無くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態に係るレーザ発振器の出力補正方法およびレーザ発振器について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に本実施の形態に係るレーザ発振器を用いたレーザ加工装置の概略構成を示す。
【0026】
図1において、1はレーザ媒質を示す。レーザ媒質としては、例えばYAGレーザ(YAG結晶)等を使用する。2は励起用光源を示す。励起用光源としては、例えばキセノンランプ等を使用する。3は出力ミラー、4は全反射ミラーを示す。
【0027】
励起用光源2は、入力される励起電流の波形に従って、放出する光エネルギを連続的に変化させる。レーザ媒質1は、励起用光源2からの光エネルギを入射吸収して励起し、レーザ光を放出する。共振ミラーを構成する出力ミラー3と全反射ミラー4は、レーザ媒質1が放出したレーザ光を繰り返し反射して共振・増幅させ、出力ミラー3より外部へ出射する。この出力ミラー3より出射されるレーザ光(レーザショット)が当該レーザ発振器の出力となり、その出力波形は、しきい値以上の励起電流の波形に従う。
【0028】
5は電圧・電流変換器を示す。電圧・電流変換器5には、例えばAC200Vの電源がノンヒューズブレーカーNFBと絶縁トランスを介して接続され、電源からの電圧を電流(励起電流)に変換して励起用光源2へ供給する。6はトリガユニットを示す。トリガユニット6は、電圧・電流変換器5から励起用光源2への予備放電用電流が供給されると、励起用光源2を微弱放電させる。電圧・電流変換器5は、レーザスタート(レーザSTART)信号を受けるとトリガユニット6へ予備放電用電流を供給した後、所定の波形のレーザショットが所定の周期で繰り返し出力されるように励起用光源2へ励起電流を供給する。ここでは、レーザ媒質1と励起用光源2と出力ミラー3と全反射ミラー4と電圧・電流変換器5によりレーザ出力部が構成される。
【0029】
7は内部シャッタを示す。電圧・電流変換器5は、インターロック信号を受けると内部シャッタ7を制御して当該レーザ発振器の動作を停止させ、イネーブル(ENABLE)信号を受けると、内部シャッタ7を制御して当該レーザ発振器の動作を再開させる。インターロック信号は当該レーザ発振器の出力が一定値以下に低下すると出力され、イネーブル信号は当該レーザ発振器がその異常状態から解放されたときに出力される。このように、当該レーザ発振器は動作を強制的に停止させるインターロック機能を有し、これにより、レーザ発振器の出力が一定値以下に低下したときに生ずる不良品の混入等を検知したり防止することができるようになる。
【0030】
8はビームスプリッタを示す。ビームスプリッタ8は出力ミラー3より出射されたレーザ光の大部分を透過し一部を反射する分光機能を有する。9は集光レンズ、10は光ファイバを示す。集光レンズ9はビームスプリッタ8が透過したレーザ光を集光して光ファイバ10へ入射する。光ファイバ10へ入射されたレーザ光(レーザショット)は図示しない加工対象物(ワーク)へと導かれる。なお、光ファイバとして、既知の戻り光防止ファイバを使用すれば、ワークからの反射光(戻り光)のレーザ媒質1への入力を低減することができる。
【0031】
レーザ加工装置からワークへ出力されるレーザショットは、ワークや加工の種類に応じた波形をしており、設定された生産タクト周期(所定の周期)にて繰り返し出力される。図2にレーザ発振器の出力(レーザショット)の例を示す。
【0032】
ここで、励起電流I(A)とレーザ発振器の出力P(W)の関係について図3を用いて説明する。図3に模式的に示すように、励起電流Iとレーザ発振器の出力Pは、直線近似した二次曲線的な関係式Fが成り立つ相関性を有する。つまり、関係式Fは、励起電流Iの変化に対して出力Pが全く、又はほとんど変化しない不感帯域Aと直線比例関係が成立する相関域B、Cとからなり、相関域B、Cは相関比率が異なる。この相関域の境界点は、その両側域において直線近似した相関線の交点Dとして求めることができる。なお、図3において、ISは不感帯域Aと相関域Bとのしきい値を表す。
【0033】
このように励起電流Iとレーザ発振器の出力Pは相関域B、Cの範囲において直線的な相関性を有しているので、その相関比率に基づき励起電流Iを制御すれば、目標とする出力Pを得ることができる。つまり、ワークや加工の種類に応じて設定した目標出力P0に見合う実出力Pが得られるように相関域BやCでの相関比率に従って算出した励起電流I0にて励起用光源2を駆動すればよい。
【0034】
しかし、熱レンズ効果に変化のある過渡期では相関性が変化し続け、熱レンズ効果が定常的になって相関性が安定する定常状態となっても、加工時の生産タクト周期(レーザショットの繰り返し周波数)が変更されたり変動するようなことがあると、熱レンズ効果が不安定になって相関性も不安定になる。さらに、励起用光源2は経時的に劣化するので、励起電流Iに対する出力Pの相関比率も経時的に低下していく。また、周囲温度の変化によるミラー平行度の変化、光学系の経時的な汚れなども相関比率の経時的な低下を招く。
【0035】
この相関性自体の変化や相関比率の低下は出力Pの変動につながり、出力Pが安定せず、加工が不安定になる。ところで、このような出力Pの変動は目標出力P0に対する実出力Pの波形の差として評価でき、波形の差は相似的に表れるので双方の違いを相似比(変動量)として簡単に捉えることができる。したがって、目標出力波形(設定波形)に対する実出力波形の差を評価する相似比をレーザショットごとに求めて、図3に示す関係式Fから目標出力P0に対して設定した通常の励起電流I0(レーザショットの指令値)を補正すれば、適切な出力Pを得ることができる。
【0036】
そこで、本実施の形態に係るレーザ加工装置では、関係式Fを基に励起電流Iを制御することでレーザ発振器の出力Pを制御しながら加工を行うのに、加工時の繰り返しレーザショットごとに、目標出力波形と実出力波形を比較して相似比(変動量)を求め、この相似比を基に、通常の励起電流I0を拡大又は縮小する拡大/縮小係数Kを設定し、この拡大/縮小係数Kにて補正された励起電流I0を基に次のレーザショットを制御する。
【0037】
このように励起電流I0を補正することにより、レーザ発振器の出力Pを精度よく安定化することができる。特に、周囲温度の変化によるミラー平行度の変化や、励起用光源2の劣化など経時的に徐々に進行するような変化に対応するのに好適である。
【0038】
また、この制御はフィードバック制御となるがリアルタイムに制御するものではないので、制御遅れによるハンチングは起こらない。また、各ショット毎に目標出力波形との差をフィードバックするので、平均出力波形を用いたフィードバック制御と比べて空打ちを軽減することができる。
【0039】
一方、拡大/縮小係数Kを一つ前のレーザショットの変動量に依存して設定するので、外的要因などによって実出力Pの波形が大きく変動すると拡大/縮小係数Kの絶対値が大きくなって制御系が不安定となり、図4(a)に示すようにハンチングを起こしてレーザ発振器の出力Pの精度が悪化するおそれがある。
【0040】
そこで、本実施の形態では、拡大/縮小係数Kを任意の一定値で規制するための補正上限値を設ける。つまり、実出力Pの波形が大きく変動し、相似比(変動量)が補正上限値を超えた場合には、その補正上限値を基に拡大/縮小係数Kを設定して、次以降のレーザショットに影響が及ばないようにする。例えば、熱レンズ効果が定常的になる定常状態において、目標出力波形に対する相似比(変動量)が率にして2%(変動率)を超えないように補正上限値を設定する。このようにすれば、外的要因などによって波形が大きく変動したレーザショットの次のレーザショットの変動量を2%に抑えることができる。したがって、実出力Pの波形と目標出力P0の波形とが大きく違った場合であっても次のレーザショットの変動を抑制できるので、出力Pの補正が極端になって制御や機器に悪影響を与える事態を回避できるようになり、平均出力波形を用いたフィードバック制御のように空打ちのショット数を増やすことなく拡大/縮小係数Kを抑制してレーザ発振器の出力Pを安定化することができる(図4(b)参照。)。
【0041】
また、レーザ発振開始時から定常状態となるまでの熱レンズ効果に変化のある過渡期においては、励起電流Iとレーザ発振器の出力Pとの相関性が変化し続けるので、拡大/縮小係数Kを一つ前のレーザショットの変動量に依存して設定すると、レーザショットの変動が大きくなり、出力Pの補正が極端になって制御や機器に悪影響を与えるおそれがある。
【0042】
そこで、本実施の形態では、レーザ発振開始時から定常状態となるまでの間においても補正上限値を設けてレーザショットの変動を抑制する。しかし、小さな値の補正上限値(例えば2%。)のみを用いると出力Pが目標出力に到達するのに時間がかかるので、時間軸に沿って順次小さな値となっていく複数の補正上限値を設定する。例えば1回目のレーザショットから所定回数分のレーザショットに対しては変動量が率にして10%(変動率)を超えないように規制し、その次のレーザショットから所定回数分までのレーザショットに対しては5%を超えないように規制し、それ以降は2%で規制する。このようにすれば、図5に示すように、熱レンズ効果に変化のある過渡期においても、レーザショットが大きく変動することがなくなり、出力Pの補正が極端になって制御や機器に悪影響を与える事態を回避できるようになる。
【0043】
このように、本実施の形態では、レーザ発振開始初期の熱レンズ効果に変化のある過渡期においてもフィードバック制御を行うので、フィードフォーワード制御のように生産工程を開始するたびに変動パターンを計測して補正値を導き出すような手間をかける必要が無くなる。
【0044】
以下、上記したレーザ発振器の出力補正の手法を具現化する構成について説明する。
図1において、11はパワーモニタを示す。パワーモニタには例えばディテクタ等を使用する。また、12は高速AD変換ユニットを示す。パワーモニタ11は、ビームスプリッタ8により反射されたレーザ光(反射光)を受けて、そのレーザパワーに応じた電流(光電流)を出力する。高速AD変換ユニット12は、パワーモニタ11からの光電流を基に、出力ミラー3より出射されたレーザ光のレーザパワー値を計測する。
【0045】
このように、ビームスプリッタ8を出力ミラー3の前方に配置してパワーモニタ11を加工用レーザ光の経路から外すことで、レーザパワー計測に対するワークからの戻り光の影響を削減することができる。
【0046】
また、13は外乱光カットフィルタ、14は水冷ブロックを示す。外乱光カットフィルタ13は、ビームスプリッタ8により反射されたレーザ光、すなわちレーザ媒質1が放出したレーザ光のみを通過させ、励起用光源等からの外乱光がパワーモニタ11へ入射しないようにして、パワーモニタ11へ入射するレーザ光のノイズ成分をカットする。水冷ブロック14は、例えば温度変動を軽減するためのレーザ発振器の冷却水でパワーモニタ11を温調するためのものであり、パワーモニタ11の動作の安定化に寄与する。外乱光カットフィルタ13と水冷ブロック14を設けることで、レーザパワー計測の正確性を向上させることができる。なお、ビームスプリッタ8からの反射光を集光してパワーモニタ11へ入射する集光用の光学系を設けるようにしてもよい。このようにすれば、より正確にレーザパワーを計測できるようになる。
【0047】
15はコントローラを示す。コントローラ15は、励起電流Iと出力Pの関係式Fと、目標出力波形(設定波形)と、上記した時間軸に沿って順次小さな値となっていく複数の補正上限値とが予め登録される登録部を有する。
【0048】
16は出力算出手段を示す。出力算出手段16はコントローラ15に内蔵され、パワーモニタ11および高速AD変換ユニット12によって計測されたレーザパワーの計測データを積算して、出力ミラー3より出射されたレーザ光の波形をレーザショットごとに求める。ここでは、ビームスプリッタ8とパワーモニタ11と高速AD変換ユニット12と出力算出手段16により、レーザショットの出力波形を検出する検出部が構成される。
【0049】
17は制御手段を示す。制御手段17はコントローラ15に内蔵され、予め登録された関係式Fおよび目標出力波形から通常の励起電流I0の波形(レーザショットの指令値)を予め求める。そして、制御手段17は、目標出力波形を出力算出手段16により算出される実出力Pの波形と比較して、目標出力波形に対する出力波形の相似比(変動量)をレーザショットごとに求め、この相似比を基に拡大/縮小係数Kを設定し、この拡大縮小係数Kにて補正された励起電流I0が励起用光源2へ供給されるよう電圧・電流変換器5を制御してレーザショット波形を補正する。また、制御手段17は、求めた相似比(変動量)が補正上限値を超える場合には、その補正上限値を基に拡大/縮小係数Kを設定し、電圧・電流変換器5を制御してレーザショット波形を補正する。ここでは、制御手段17によりレーザショットの出力波形と予め設定された目標出力波形(設定波形)を比較して、目標出力波形に対する出力波形の相似比(変動量)を求める変動量算出部と、相似比と予め設定された補正上限値のいずれか小さいほうの値を基に通常の励起電流I0(次のレーザショットの指令値)を補正する補正部が構成される。
【0050】
なお、レーザ発振開始後の1ショット目のレーザショット波形を学習するか、又はその出力波形の目標出力波形(設定波形)に対する相似比(変動量)を学習して記憶部へ記憶させる学習機能をコントローラ15に有せしめ、予め設定された時間経過後にレーザ発振開始する際に、学習した出力波形と目標出力波形を比較して相似比を求めその相似比と補正上限値を用いて1ショット目に対する励起電流I0(レーザショットの指令値)を補正するか、又は学習した相似比と補正上限値を用いて1ショット目に対する励起電流I0(レーザショットの指令値)を補正するようにしてもよい。また、この学習機能を有効/無効に設定できる機能を持たせるようにしてもよい。
【0051】
以上のように、本実施の形態では、生産タクト周期(所定の周期)で繰り返し出力されるレーザショットの出力波形を検出し、その検出した出力波形と予め設定された目標出力波形(設定波形)を比較して目標出力波形に対する出力波形の相似比(変動量)を求め、その変動量と予め設定された補正上限値のいずれか小さいほうの値を基に通常の励起電流I0(次のレーザショットの指令値)を補正することで、レーザショットの波形を補正してレーザ発振器の出力を安定化させる。
【0052】
また、コントローラ15には、レーザ発振開始からの時間経過に応じて順次小さな値へ変化する複数の補正上限値、具体的には、レーザショット発振開始からのショット数が予め設定されたショット数に達する都度小さな値となっていき、所定のショット数分のレーザショットが出力された後は不変となる複数の補正上限値が登録されており、レーザ発振開始初期の熱レンズ効果に変化のある過渡期においても、レーザショットが大きく変動せず、出力Pの補正が極端になって制御や機器に悪影響を与える事態を回避でき、レーザ発振器の出力Pを安定化することができる。
【0053】
次に、本実施の形態に係るレーザ加工装置(レーザ発振器)の動作について、図6に示すフローチャートを用いて説明する。まず、レーザ発振開始前に目標出力波形(設定波形)と関係式Fと補正上限値の登録がユーザにより当該装置に対して行われる(ステップS601)。コントローラ15は、登録された目標出力波形と関係式Fより通常の励起電流I0の波形(レーザショットの指令値)を求め(ステップS602)、補正上限値の初期値を設定する(ステップS603)。
【0054】
レーザスタート信号が入力されると(ステップS604)、電圧・電流変換器5は、トリガユニット6へ予備放電用電流を供給し、トリガユニット6による励起用光源2の予備放電が行われた後、コントローラ15の制御に従い励起電流I0を励起用光源2へ供給する。これにより、レーザ発振器が発振する(ステップS605)。
【0055】
一方、当該レーザ発振器は、レーザ発振開始時からの時間をカウントするためのカウンタ手段として、レーザスタート信号が入力されると起動するタイマを具備しており、レーザスタート信号が入力されると当該タイマを起動させる(ステップS606)。
【0056】
レーザ発振後、コントローラ15は、レーザショットの実出力波形と目標出力波形(設定波形)を比較して相似比(変動量)を求め(ステップS607)、相似比と予め設定された補正上限値のいずれか小さい値を基に励起電流I0を補正することで次のレーザショットの波形を補正する(ステップS608)。
【0057】
次に、コントローラ15は、タイマのカウント値を確認して、予め設定されたカウント値であった場合には次の補正上限値を設定して(ステップS609、S610)、ステップS607へ戻り、次のレーザショット波形の目標出力波形に対する相似比を求める。
【0058】
補正上限値の設定は、カウント値が大きくなるに従って順次値が小さくなるように設定していく。具体的には、レーザ発振開始からのショット数が予め設定されたショット数に到達する都度小さくなり、所定のショット数分のレーザショットが出力された後は不変となるように設定していく。
【0059】
一方、予め設定されたカウント値でない場合には、生産工程の終了か否かを判断して(ステップS611)、終了を判断すると動作を終了し、そうでなければステップS607へ戻り、次のレーザショット波形の目標出力波形に対する相似比を求める。
【0060】
当該レーザ加工装置は、レーザスタート信号入力後、上記のステップS607〜S611の処理を生産タクト周期にて繰り返し出力されるレーザショットごとに実行し、出力波形の安定したレーザ光を用いてワークを加工する。
【0061】
なお、レーザ発振開始後の1ショット目のレーザショットの出力波形を学習するか、又はその波形の目標出力波形(設定波形)に対する相似比(変動量)を学習して記憶する工程と、予め設定された時間経過後にレーザ発振が開始されると、学習した出力波形と目標出力波形を比較して相似比を求めその相似比と補正上限値を用いて1ショット目に対する励起電流I0(レーザショットの指令値)を補正するか、又は学習した相似比と補正上限値を用いて1ショット目に対する励起電流I0(レーザショットの指令値)を補正する工程と、を有せしめるようにしてもよい。
【0062】
以上のように、本実施の形態では、レーザショットごとに、実出力波形の目標出力波形に対する変動量を求め、この変動量を基に次のレーザショットの指令値(励起電流I0)を補正することで次のレーザショット波形を補正するので、当該レーザ発振器の出力Pの安定化を自動的に高速度で正確に達成できるようになる。
【0063】
なお、本実施の形態ではレーザショットの指令値として励起電流I0を例に説明したが、レーザショット波形を電圧制御する場合には、レーザショットの指令値としてレーザショット波形を目標出力波形にする電圧値を予め求めて登録すればよい。また、制御相似比(変動量)と補正上限値を比較したが、無論、拡大/縮小係数Kに対する上限値を登録して、拡大/縮小係数Kと上限値を比較するようにしても同様に実施可能である。また、学習機能についても、レーザ発振開始後の1ショット目のレーザショット波形から求めた拡大/縮小係数Kを学習するよう構成することで同様に実施できる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明にかかるレーザ発振器の出力補正方法およびレーザ発振器はレーザ発振器の出力を精度よく安定化でき、繰り返し出力されるレーザショットを利用したワーク加工などに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施の形態に係るレーザ発振器を用いたレーザ加工装置の概略構成を示す図
【図2】本発明の実施の形態に係るレーザ加工装置(レーザ発振器)の出力(レーザショット)の一例を示す波形図
【図3】励起電流とレーザ発振器の出力の相関性を模式的に表すグラフを示す図
【図4】本発明の実施の形態に係るレーザ加工装置(レーザ発振器)の動作を説明するための波形図
【図5】本発明の実施の形態に係るレーザ加工装置(レーザ発振器)の動作を説明するための波形図
【図6】本発明の実施の形態に係るレーザ加工装置(レーザ発振器)の動作を説明するためのフローチャートを示す図
【図7】従来のパワーフィードバック制御を行うレーザ発振器を用いたレーザ加工装置の概略構成を示す図
【図8】従来のフィードフォーワード制御を行うレーザ発振器の動作を説明するための波形図
【図9】従来のレーザ発振器の問題点を説明するための波形図
【符号の説明】
【0066】
1、71 レーザ媒質
2、72 励起用光源
3、73 出力ミラー
4、74 全反射ミラー
5 電圧・電流変換器
6 トリガユニット
7 内部シャッタ
8、76 ビームスプリッタ
9 集光レンズ
10 光ファイバ
11、77 パワーモニタ
12 高速AD変換ユニット
13 外乱光カットフィルタ
14 水冷ブロック
15 コントローラ
16 出力算出手段
17 制御手段
75 レーザ電源回路
78 光電流・電圧変換回路
79 A/D変換回路
80 光強度測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ発振器から所定の周期で出力されるレーザショットの出力波形を検出し、前記検出した出力波形と予め設定された設定波形とを比較して前記設定波形に対する前記出力波形の変動量を求め、前記変動量と予め設定された補正上限値のいずれか小さいほうの値を基に次のレーザショットの指令値を補正することを特徴とするレーザ発振器の出力補正方法。
【請求項2】
補正上限値は、レーザ発振開始からの時間経過に応じて変化することを特徴とする請求項1記載のレーザ発振器の出力補正方法。
【請求項3】
補正上限値は、レーザ発振開始からのショット数が予め設定されたショット数に到達する都度小さくなることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のレーザ発振器の出力補正方法。
【請求項4】
レーザ発振開始後の最初のレーザショットの出力波形または変動量を記憶し、予め設定された時間経過後にレーザ発振開始する際の最初のレーザショットの指令値を、前記記憶した出力波形または変動量を基に補正することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のレーザ発振器の出力補正方法。
【請求項5】
所定の周期でレーザショットを出力するレーザ出力部と、前記レーザショットの出力波形を検出する検出部と、前記検出した出力波形と予め設定された設定波形とを比較して前記設定波形に対する前記出力波形の変動量を求める変動量算出部と、前記変動量と予め設定された補正上限値のいずれか小さいほうの値を基に次のレーザショットの指令値を補正する補正部とを備えたことを特徴とするレーザ発振器。
【請求項6】
補正上限値を複数登録する登録部を備えたことを特徴とする請求項5記載のレーザ発振器。
【請求項7】
レーザ発振開始後の最初のレーザショットの出力波形または変動量を記憶する記憶部を備えたことを特徴とする請求項5または6のいずれかに記載のレーザ発振器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−216867(P2006−216867A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−29905(P2005−29905)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】