説明

レーザ肉盛溶接方法

【課題】材料歩留りを向上させるとともに肉盛層での欠陥の発生を抑制できるレーザ肉盛溶接方法を提供することを目的とする。
【解決手段】レーザ肉盛溶接方法は、レーザの照射断面形状を多角形とし、該多角形の少なくとも一辺を前記レーザの走査方向に沿わせるとともに、前記多角形のレーザで囲まれた内側に粉末状の溶加材6を供給する。このようにすることで、ビード4の端部への入熱を大きくすることができるとともに、溶加材6の飛散を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ肉盛溶接方法、特に、腐食環境に曝される部材に耐食性材料を肉盛溶接する際に適用されるレーザ肉盛溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
火力発電用ボイラの腐食環境に曝される部位は、その表面に耐食性材料を肉盛溶接する必要がある。従来、このような部材への耐食を目的とした肉盛溶接は、MIG溶接、詳細には純アルゴンMIG溶接によって行われている。
【0003】
純アルゴンMIG溶接により肉盛溶接する場合、アークが安定し難く、低電流では溶接品質が低下する。一方、MIG溶接は、消耗電極式溶接であり、溶接電流の値により溶接材料(溶加材)の送給量が決定されるため、溶接電流を高くすると溶加材を多く使用することになる。耐食を目的とした肉盛溶接に使用される溶加材(例えばインコネル系溶加材)は高価であるため、溶加材の使用量が増加すると、材料コストが高くなる。
【0004】
また、MIG溶接で肉盛溶接した場合、母材への入熱量が大きく、母材の変形量も大きくなる。そのため、応力除去に手間がかかるという問題がある。
【0005】
上記問題を解決するために、他の溶接方法を採用することが考えられる。例えば、特許文献1には、リング状に集光させたレーザを用いたレーザ肉盛溶接方法が開示されている。レーザを用いた肉盛溶接では、図9に示すように、レーザの走査方向前方に金属粉体を散布し、散布した金属粉体にレーザを照射して溶融した後、レーザの走査方向後方からシールドガスを供給して肉盛層を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−15632号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図10に、肉盛溶接する対象部位の部分的な断面の概略図を示す。当該部のように曲面を有する部材に金属粉体を散布した場合、曲面では散布された金属粉体が重力に引っぱられて流れ落ちてしまう。そのため水平方向に対して傾斜した曲面に肉盛層を上手く形成することができないという問題がある。また、散布された一部の金属粉体は、レーザによって溶融されずに飛散するため、材料歩留りが悪くなる。
また、照射されるレーザの両端はエネルギー分布が低くなるため、ビードの両端に溶け不良が生じ、金属粉体がダマになって残留する場合がある。このようなビードに隣接して別のビードを重ねた場合、レーザの端部ではダマを溶かすことができないため、肉盛層の欠陥となる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、材料歩留りを向上させるとともに肉盛層での欠陥の発生を抑制できるレーザ肉盛溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、レーザの照射断面形状を多角形とし、該多角形の少なくとも一辺を前記レーザの走査方向に沿わせるとともに、前記多角形のレーザで囲まれた内側に粉末状の溶加材を供給するレーザ肉盛溶接方法を提供する。
【0010】
レーザ溶接を採用することで、MIG溶接に比べ母材への入熱を低減することができるため、拘束治具を簡略化することが可能となる。レーザ進行方向に対する母材へのレーザ照射時間は、レーザの断面形状に依存する。上記発明によれば、レーザの断面形状を多角形とすることで、円形断面を有するレーザを用いた場合よりも、任意の箇所にレーザを長く照射することができる。上記発明によれば、多角形の少なくとも一辺をレーザの走査方向に沿って移動するため、ビードの縁部へのレーザ照射時間が長くなる。これによって、ビードの重ね部に発生しやすい溶け込み不良などによる欠陥を低減させることが可能となる。
【0011】
上記発明によれば、粉末状の溶加材は多角形のレーザで囲まれた領域内に供給されるため、粉末状の溶加材が多角形の外側に飛散することなく。母材に溶着させることができる。これによって、粉末状の溶加材の歩留まりが向上する。また、粉末状の溶加材を溶融する前に母材を溶融させることができるため、ビードの重ね部など母材が不安定形状である場合であっても欠陥が発生しにくい溶接を実現することができる。
【0012】
上記発明の一態様において、複数の光源によって、前記多角形の照射断面形状を有するレーザを形成しても良い。
【0013】
複数の光源を用いて多角形を形成させることで、多角形の内部を中空とすることができる。そうすることで、多角形の上側から多角形の内側へと粉末状の溶加材を供給することが可能となる。
【0014】
上記発明の一態様において、レーザの照射断面形状を、前記レーザの走査方向に向けて開口部が形成された多角形とし、前記開口部から前記多角形のレーザで囲まれた内側に粉末状の溶加材を供給しても良い。
【0015】
上記構成とすることで、多角形のレーザで囲まれた領域の内側に粉末状の溶加材を容易に供給することができる。開口部はレーザの走査方向に向いて、すなわち、レーザ断面の走査方向前方に形成されるため、多角形の内側に供給された粉末状の溶加材は、レーザ断面の走査方向後方に位置する辺によって溶融される。
【0016】
上記発明の一態様において、レーザの断面形状を多角形とした後、該多角形の軸中心を移動させて前記レーザの光源の中心軸からずらすとともに、前記軸中心を移動させた多角形の上部から粉末状の溶加材を供給しても良い。
【0017】
上記構成とすることで、単一の光源を用いた場合であっても多角形の断面形状を有するレーザの上部から粉末状の溶加材を供給することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、レーザによって肉盛溶接するため、MGI溶接よりもより少ない材料で所望の肉盛層を形成することができる。レーザによる肉盛溶接は、MIG溶接よりも母材への入熱が少なく、母材の変形量も減少するため、拘束治具を簡易にすることができる。多角形の断面形状を有するレーザを、少なくとも一辺がレーザの走査方向に沿わせることで、ビードの両端に発生する欠陥を発生しにくくさせることができる。また、多角形の内側に溶加材を供給することで、溶加材の飛散を防止することができるため材料歩留りを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】レーザの照射断面形状を下側から見た図である。
【図2】点A乃至点Dの各点においてレーザが照射される時間を示すグラフである。
【図3】被肉盛溶接材の断面および被肉盛溶接材に照射されるレーザの照射断面を示す図である。
【図4】溶接装置例1において、集光レンズを透過した後のレーザを横から見た図である。
【図5】溶接装置例1において、溶加材を供給した後のレーザ照射断面を下側から見た図である。
【図6】溶接装置例2の構成の概略図である。
【図7】溶接装置例3の構成の概略図である。
【図8】溶接装置例3において、溶加材を供給した後のレーザ照射断面を下側から見た図である。
【図9】従来のレーザ肉盛溶接方法を説明する図である。
【図10】肉盛溶接する対象部位の部分的な断面の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施形態に係るレーザ肉盛溶接方法では、断面形状を多角形としたレーザを母材に照射する。このとき多角形の少なくとも一辺を、レーザの走査方向に沿わせて配置する。レーザで囲まれた多角形の内側部分には、粉末状の溶加材を供給する。
【0021】
レーザとしては、YAGレーザ、半導体レーザ、またはファイバーレーザなどが採用され得る。レーザを用いて肉盛溶接することで、溶加材の使用量を低減することができる。例えばMIG溶接で被溶接部材上に所定面積の肉盛溶接(溶接電流:270A程度)をした場合、1.72(g/秒)×11(ビード)=18.92g/秒の溶加材を使用した。一方、レーザを用いて上記と同面積に肉盛溶接した場合、溶加材の使用量は、1g/秒×7(ビード)=7g/秒であった。
【0022】
また、レーザ肉盛溶接は、MIG溶接よりも被肉盛溶接材への入熱を低減することができる。それによって、被肉盛溶接材の変形が少なくなるため、施工時に被肉盛溶接材を拘束する治具を簡略化することが可能となる。
【0023】
レーザの照射断面形状は、多角形とされ、溶接する対象に合わせて形状が決定される。上記多角形の少なくとも1辺は、レーザの走査方向に沿って配置される。そのようにすることで、レーザの端部での溶加材の溶け不良の発生を低減することができる。多角形は、偶数の辺を有することが好ましい。そのようにすることで、対向する2辺をレーザの走査方向に沿わせることができる。また、多角形を四角とすると、一辺の長さをより長くすることができる。すなわち、ビードの端部におけるレーザの照射時間を長くすることができるため、ビードの両端に発生しやすい溶加材の溶け不良をさらに確実に低減することが可能となる。ここで、「多角形」とは、実質的に多角形であれば良く、一部に開口部が設けられていても良い。また、「レーザの走査方向に沿わせる」とは、レーザの走査方向に実質的に沿っていることを含む。
【0024】
図1乃至図3を参照して、レーザの照射断面形状と照射時間との関係について説明する。
図1は、レーザの照射断面形状を下側から見た図である。図1(a)はレーザの照射断面形状が円形(断面1)、図1(b)はレーザの照射断面形状が六角形(断面2)の場合を示す。図1において、断面1及び断面2の径は同じとされ、矢印Xはレーザの走査方向を示す。図1(a)及び図1(b)において、点Aを通る破線または点Cを通る破線に重なる各辺がレーザの走査方向に沿って移動する。点Bを通る破線及び点Dを通る破線は各レーザの照射断面の面中心を通る線である。
【0025】
図2に、点A乃至点Dの各点においてレーザが照射される時間を示す。図2によれば、点B及び点Dにおけるレーザの照射時間は、同程度となる。一方、点A及び点Cにおけるレーザの照射時間は、点B及び点Dにおける照射時間よりも長くなる。点Aと点Cを比較すると、点Cの方がより長い時間レーザが照射される。これによって、断面形状を六角形とし、一辺をレーザの走査方向に沿わせることで、一辺が通る任意の点におけるレーザの照射時間を長くできることがわかる。
【0026】
次に、被肉盛溶接材3上に予め形成されたビード4と他のビード4との間に、断面形状が六角形のレーザを照射して新たなビードを形成する場合のレーザ断面の配置について説明する。図3に、被肉盛溶接材3の断面図および被肉盛溶接材3に照射されるレーザの照射断面図を示す。レーザを照射断面形状が六角形(断面2)である場合、図3に示すように、六角形の対向する2辺を、レーザの走査方向(紙面奥向き)に沿わせ、先に形成されたビード4の端部にそれぞれ重ねて配置する。ビードの重ね部5では、供給される溶加材を溶融するだけでなく、先に形成されているビード及び被肉盛溶接材3を溶融しなくてはならず、より多くの入熱が必要となる。ビードの重ね部5に六角形の対向する2辺を重ね、両端のビードに沿わせてレーザを走査することで、ビード重ね部5への入熱を他の部分よりも大きくすることができる。
【0027】
溶加材6は、粉末状の金属、例えば、インコネル(登録商標)などとされる。溶加材6は、多角形のレーザで囲まれた内側部分に供給される。これによって、溶加材6をレーザの外に飛び散らせることなく、被肉盛溶接材3に溶着させることが可能となるため、溶加材6の材料歩留りを向上させることができる。また、レーザの断面形状は多角形をしているため、レーザの走査方向前方に位置する多角形の辺として照射されるレーザが、レーザの内側に供給された溶加材6を溶融する前に被肉盛溶接材3を溶融できる。上記のようにすることによって、ビードの重ね部5などが存在する不安定形状の被肉盛溶接材3上であっても、欠陥の発生を抑制しながら肉盛溶接することが可能となる。
【0028】
以下で、本実施形態に係るレーザ肉盛溶接方法を実現するための溶接装置について説明する。
(溶接装置例1)
溶接装置は、レーザを出力する光源、光源から出力されたレーザを偏向するミラー、偏向されたレーザを平らな像面に集光するレンズ、及び、溶加材を供給する溶加材供給手段を備えている。
【0029】
光源は、4つの半導体レーザとされる。集光レンズとしては、シリンドリカルレンズなどが用いられる。各光源、偏向ミラー、及び集光レンズは、各半導体レーザから出力されたレーザが、適宜ミラーによって偏向され、集光レンズを透過した後に、中空四角形の断面形状で被肉盛溶接材に照射されるよう配置される。図4に、集光レンズを透過した後のレーザを横から見た図を示す。
【0030】
溶加材供給手段は、4つの半導体レーザを組み合わせて形成された中空四角形の上側(レーザ出力側)から中空四角形の中空部内へと溶加材を投入可能に配置される。図5に、溶加材6を供給した後のレーザ照射断面7を下側から見た図を示す。
【0031】
(溶接装置例2)
溶接装置は、レーザを出力する光源、光源から出力されたレーザを偏向するミラー、偏向されたレーザを平らな像面に集光するレンズ、及び、溶加材を供給する溶加材供給手段を備える。図6に溶接装置の構成の概略を示す。
【0032】
光源は、ファイバーレーザとされる。
偏光ミラーは、円錐外面鏡8、第1平面鏡9、第2平面鏡10、及び第3平面鏡11から構成される。円錐外面鏡8は、円錐の外面上に反射面を有し、光源から出力されたレーザの光軸とその反射面の中心とが一致するように配置される。
【0033】
第1平面鏡9は、円錐外面鏡8の反射面で反射されたレーザを第2平面鏡10へ向けて偏向可能に配置される。第1平面鏡9は、レーザの照射断面形状合わせて複数配置される。例えば、レーザの照射断面形状を四角とする場合、第1平面鏡は、4枚の平面鏡を四角錐台の側面の形状となるよう並べられ、円錐外面鏡8の反射面の中心と同軸に円錐外面鏡8の外側に配置される。なお、第1平面鏡9は、レーザの照射断面形状に対応する面を有する一体型の平面鏡であっても良い。
【0034】
第2平面鏡10は、第1平面鏡9で反射されたレーザを第3平面鏡11へと偏向可能に配置される。第2平面鏡10には、レーザの反射を遮らないよう円錐外面鏡8を支持する支持棒12が設けられる。
【0035】
第3平面鏡11は、第2平面鏡10で反射されたレーザを被肉盛溶接材へ向けて偏向可能に配置される。第3平面鏡11の中央にはレーザの反射を妨げないよう貫通孔が設けられる。貫通孔にはレーザの中空内部に溶加材を供給可能に溶加材供給手段13が接続される。溶加材供給手段13は、粉体投入筒などとされる。
【0036】
(溶接装置例3)
溶接装置は、レーザを出力する光源、光源から出力されたレーザを偏向するミラー、偏向されたレーザを平らな像面に集光するレンズ、及び、溶加材を供給する溶加材供給手段を備えている。図7に溶接装置の構成を示す。図8にレーザの照射断面を下側から見た図を示す。
【0037】
光源は、ファイバーレーザとされる。
偏光ミラーは、円錐外面鏡18及び第1平面鏡19から構成される。円錐外面鏡18は、円錐の外面上に反射面を有し、光源から出力されたレーザの光軸とその反射面の中心とが一致するように配置される。
【0038】
第1平面鏡19は、円錐外面鏡の反射面で反射されたレーザを被肉盛溶接材へ向けて偏向可能に配置される。第1平面鏡19は、レーザの照射断面形状に合わせ、且つ、レーザの走査方向に向けて開口するよう配置される。例えば、レーザの照射断面20を略四角とする場合、第1平面鏡19は、5枚の平面鏡を四角錐台の側面の形状となるよう配置されると良い。図8に示すように、5枚のうち2枚はレーザの走査方向前方に位置する面に、間隔を空けて配置される。第1平面鏡19は、円錐外面鏡18の反射面の中心と同軸に円錐外面鏡18の外側に配置される。なお、第1平面鏡19は、レーザの照射断面形状に対応する面を有する一体型の平面鏡であっても良い。
【0039】
第1平面鏡19に設けられた開口には、溶加材供給手段23がレーザの中空内部に溶加材6を供給可能に接続される。溶加材供給手段23は、粉体投入筒などとされる。また、第1平面鏡に設けられ開口には、円錐外面鏡を支持する支持板22が接続される。
【符号の説明】
【0040】
1 断面(円形)
2 断面(六角形)
3 被肉盛溶接材
4 ビード
5 ビード重ね部
6 溶加材
7,20 断面(四角形)
8,18 円錐外面鏡
9,19 第1平面鏡
10 第2平面鏡
11 第3平面鏡
12 支持棒
13,23 溶加材供給手段
24 支持板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザの照射断面形状を多角形とし、該多角形の少なくとも一辺を前記レーザの走査方向に沿わせるとともに、前記多角形のレーザで囲まれた内側に粉末状の溶加材を供給するレーザ肉盛溶接方法。
【請求項2】
複数の光源によって、前記多角形の照射断面形状を有するレーザを形成する請求項1に記載のレーザ肉盛溶接方法。
【請求項3】
レーザの照射断面形状を、前記レーザの走査方向に向けて開口部が形成された多角形とし、前記開口部から前記多角形のレーザで囲まれた内側に粉末状の溶加材を供給する請求項1または請求項2に記載のレーザ肉盛溶接方法。
【請求項4】
レーザの断面形状を多角形とした後、該多角形の軸中心を移動させて前記レーザの光源の中心軸からずらすとともに、前記軸中心を移動させた多角形の上部から粉末状の溶加材を供給する請求項1に記載のレーザ肉盛溶接方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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