説明

レーダー装置、レーダー装置の制御方法

【課題】レーダー装置においてフリッカ雑音の影響を効果的に除去すること。
【解決手段】このレーダー装置は、周波数を所定の変化率で周期的に増減させた送信信号を送信する送信部と、送信部が送信した送信信号が探知対象に反射して戻る受信信号および送信信号を乗算してビート信号を生成するミキサと、ビート信号を演算して探知対象までの距離データを生成する演算部と、ビート信号の周波数を検出する周波数検出部と、周波数検出部により検出されたビート信号の周波数が、ミキサに起因するフリッカ雑音のカットオフ周波数以上となるように、送信信号の周波数の変化率を制御する制御部とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダーに関し、特にFMCWレーダーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の安全性が重要視されつつあり、たとえば、衝突防止等を目的としたミリ波帯の車載レーダーが、安全性を向上させる技術の一つとして普及が見込まれている。車載レーダー等に用いられるレーダーとしては、FMCWレーダーがある。
【0003】
FMCWレーダーは、搬送波にFM変調をかけて送信信号とし、受信時は、送信信号を分岐させた信号をダウンコンバージョンのローカル信号に使用して受信を行うレーダーである。レーダーからの送信信号が目標物に当たって反射して当該レーダーが受信すると、目標物までの距離に応じた遅延時間に比例した周波数のビートを得ることができる。FMCWレーダーは、このビート周波数を用いて目標物までの距離および相対速度を測定する。
【0004】
ところで、半導体素子を利用した機器には、低周波のフリッカ雑音という雑音が存在する。これは、半導体内部の結晶界面の不純物によるキャリヤの揺らぎ等に起因する雑音である。通常、フリッカ雑音は、1MHz程度以下で白色熱雑音よりも支配的になり(以下、概ね白色雑音よりもフリッカ雑音の方がが支配的となる周波数を「フリッカ雑音のカットオフ周波数」という。)、その周波数特性から1/f雑音とも呼ばれている。FMCWレーダーにおいて近距離を探知する場合、ビート周波数が比較的低い周波数に発生するため、フリッカ雑音によりS/N比(SNR)が劣化するという問題がある。
【0005】
フリッカ雑音によるSNRの劣化を防ぐ方法としては、ダウンコンバージョンを2回に分けて、高周波側のミキサが発生するフリッカ雑音を回避する技術が知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平10−319113号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のフリッカ雑音の回避技術では、レーダーの中間周波数帯(IF帯:数10GHz帯)に急峻な特性のバンドパスフィルタが必要になること、所望帯域より低周波側の落としきれない雑音が折り返されることにより雑音が付加されてしまうこと、また低周波側のミキサが発生するフリッカ雑音の除去ができないという問題があった。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、高価なIF帯のバンドパスフィルタを必要とせず、フリッカ雑音の影響を効果的に除去することのできるレーダー装置、レーダー装置の制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、本発明の一つの態様に係るレーダー装置は、周波数を所定の変化率で周期的に増減させた送信信号を送信する送信部と、送信部が送信した送信信号が探知対象に反射して戻る受信信号および送信信号を乗算してビート信号を生成するミキサと、ビート信号を演算して探知対象までの距離データを生成する演算部と、ビート信号の周波数を検出する周波数検出部と、周波数検出部により検出されたビート信号の周波数が、ミキサに起因するフリッカ雑音のカットオフ周波数以上となるように、送信信号の周波数の変化率を制御する制御部とを具備している。
【0009】
本発明の他の態様に係るレーダー装置の制御方法は、周波数を所定の変化率で周期的に増減させた送信信号を送信し、送信信号が探知対象に反射して戻る受信信号および送信信号をミキサにより乗算してビート信号を生成し、演算部によりビート信号を演算して探知対象までの距離データを生成し、ビート信号の周波数を検出し、ビート信号の周波数が、ミキサに起因するフリッカ雑音のカットオフ周波数以上となるように、送信信号の周波数の変化率を制御することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、IF帯のバンドパスフィルタを必要とせず、フリッカ雑音を効果的に除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
FMCWレーダーにおけるビートのフリッカ雑音による影響を抑えるには、ビート周波数がフリッカ雑音のカットオフ周波数よりも高くなるようにすればよい。本発明では、FMCWレーダーの周波数変化率に着目してビート周波数をフリッカ雑音のカットオフ周波数よりも高くすることで、フリッカ雑音による影響を抑えている。
【0012】
以下、本発明の一つの実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明の一つの実施形態に係るレーダー装置の構成を示すブロック図、図2Aおよび図2Bは、図1に示すレーダー装置の動作原理を説明する図である。
【0013】
図1に示すように、この実施形態に係るレーダー装置1は、発振部100、電力増幅部105、送信アンテナANT1、受信アンテナANT2、高周波増幅部110、結合器CPL、ミキサ115、ローパスフィルタ120、増幅部125、アナログデジタル変換部130、バンドパスフィルタ135、周波数変換部140、フーリエ変換部145、周波数検出部150、変調制御部155を備えている。
【0014】
発振部100は、例えば、発振周波数を周波数変調可能な電圧制御発振器であり、発振周波数を周期的に増減させて発振する。また、発振部100は、時間あたりの発振周波数の変化率を制御可能に構成されている。発振部100の発振周波数の時間的な変化率は、あらかじめ設定されてもよいし、外部から制御されるものであっても良い。発振部100の発振周波数の時間的な変化率は、探知対象までの距離をr、フリッカ雑音のカットオフ周波数をfc、光速をCとした場合に、(fc×C)/2r以上となるようにすることが望ましい。
【0015】
電力増幅部105は、発振部100が発振した信号を所定の電力まで増幅する送信用アンプである。送信アンテナANT1は、電力増幅部105が増幅した高周波信号を空間に放射する。送信アンテナANT1は、受信アンテナまで十分な反射信号を到達させる必要があるから、高利得なアンテナであることが望ましい。発振部100から送信アンテナANT1まではレーダー装置1の送信部を構成する。
【0016】
受信アンテナANT2は、送信アンテナANT1から送信されレーダー装置1の探知(あるいは計測)対象物Xが反射した反射信号を受信する。受信アンテナANT2は、微弱な反射信号を捉える必要があるから、高利得なアンテナであることが望ましい。なお、送信アンテナANT1も受信アンテナANT2も、動的に指向性を制御可能なアンテナとしてもよい。この場合、探知対象物Xまでの距離に加えて自位置からの方位も得ることができる。
【0017】
高周波増幅部110は、受信アンテナANT2が受信した反射信号を所定のレベルまで増幅する。レーダー装置に用いられる電波の周波数は非常に高い(例えば数十GHz・ミリ波帯)ので、高周波増幅部110はLNAなど高い周波数に適した増幅器を用いることが望ましい。高周波増幅部110は、通常半導体素子を用いて構成されており、フリッカ雑音の発生源となる。
【0018】
結合器CPLは、発振部100の出力信号(電力増幅部105の入力の前段)を分岐する。なお、結合器CPLに代えて、発振部100の出力を直接分岐してもよいが、ここで分岐する信号は後述するミキサに用いる程度のレベルがあれば足りるから、損失の少ない手法を用いることが望ましい。
【0019】
ミキサ115は、高周波増幅部110が増幅した反射信号と結合器CPLが分岐した発振信号とを乗算する。反射信号の周波数をfr・発振信号の周波数をftとすると、ミキサ115は、fr+ftと|fr−ft|の信号を出力する。ミキサ115は、通常半導体素子を用いて構成されており、フリッカ雑音の発生源となる。ローパスフィルタ120は、ミキサ115の出力のうち、|fr−ft|の周波数のビート信号のみを通過させる。併せて、ローパスフィルタ120は、後段のアナログデジタル変換の折り畳み周波数以上の信号を除去する作用もする。また増幅部125は、後段のアナログデジタル変換に必要なレベルまでビート信号を増幅する。増幅部125は、通常半導体素子を用いて構成されており、フリッカ雑音の発生要因となる。しかしこの実施形態では、後述のとおりミキサ115により出力されるビート信号の時点で既に主要なフリッカ雑音成分が除去されている。
【0020】
アナログデジタル変換部130は、増幅部125が増幅したビート信号をA/D変換する。バンドパスフィルタ135は、フリッカ雑音の雑音成分をデジタル的に除去するとともに、アナログ段階のローパスフィルタ120で除去し切れなかった高周波成分をデジタル的に除去する。その結果、バンドパスフィルタ135は、ビート信号の信号成分のみを取り出すことになる。
【0021】
周波数変換部140は、得られたビート信号の信号成分をフーリエ変換に適した周波数に変換する。フーリエ変換部145は、ビート信号の信号成分から送信した発振信号と受信した反射信号との時間差を算出して探知対象までの距離を算出する演算を行う。
【0022】
さらに、周波数検出部150は、ローパスフィルタ120が通過させたビート信号の周波数を検出するとともに、二種類のビート信号(送信周波数の上昇時と下降時)の周波数差に基づいて対象物との間の相対速度の有無をも検出する。変調制御部155は、周波数検出部150が検出したビート信号の周波数に基づいて発振部100の発振周波数の変化率を制御する。すなわち、周波数検出部150および変調制御部155は、それぞれ協働して、ビート信号の周波数がフリッカ雑音のカットオフ周波数以下の場合に、発振部100の発振周波数の変化率を大きくしてビート信号の周波数が大きくなるように動作する。なお、周波数の変化率をフリッカ雑音を除去し得る値にあらかじめ設定しておく場合には、周波数検出部150および変調制御部155は不要である。
【0023】
続いて、図2Aおよび図2Bを参照して、図1に示す実施形態に係るレーダー装置1の動作を説明する。図2Aは、ビート信号が発生する原理を示す図、図2Bは、この実施形態のレーダー装置1におけるビート信号の様子を示す図である。
【0024】
発振部100は、発振周波数を周期的に増減させて送信信号を生成する。結合器CPLは、送信信号の一部をミキサ115の局部発振信号として分岐し、電力増幅部105は、発振部100が生成した送信信号を所定のレベルまで増幅する。増幅された送信信号は送信アンテナANT1から空中に放射される。
【0025】
放射された送信信号は対象物Xによって反射され、再びレーダー装置1へと戻ってくる。対象物Xが反射した反射信号(受信信号)は受信アンテナANT2により受信されて高周波増幅部110に入力される。高周波増幅部110は受信アンテナANT2から受けた受信信号を所定のレベルまで増幅してミキサ115に渡す。ミキサ115は、高周波増幅部110が増幅した受信信号と結合器CPLが分岐した送信信号とを乗算して、受信信号周波数および送信信号周波数の和および差分の信号をそれぞれ出力する。ローパスフィルタ120は、ミキサ115の出力のうち、受信信号周波数および送信信号周波数の差分の信号(=ビート信号)を取り出し、併せて折り畳み周波数以上の信号をカットする。
【0026】
ここで、図2Aを参照してビート信号の様子を説明する。図2Aに示すように送信信号Txが送信されると、反射信号である受信信号Rxは、時間的に送れてミキサ115に到着する。従って、送信信号の周波数が高くなるように変化している場合(送信周波数の上昇時)には周波数fuのビート信号、送信信号の周波数が低くなるように変化している場合(送信周波数の下降時)には周波数fdのビート信号を得ることができる。このとき、周波数fu・fdが、フリッカ雑音の影響を受けない周波数、例えば、1MHz以上の周波数に発生するように、発振部100の発振周波数の変化率を調整しておけば、フリッカ雑音の影響を排除することが可能となる。
【0027】
ローパスフィルタ120から出力されたビート信号は、増幅部125により所定のレベルまで増幅されてアナログデジタル変換部130に入力される。アナログデジタル変換部130は、ビート信号をデジタル信号に変換する。バンドパスフィルタ135は、デジタル信号に変換されたビート信号からフリッカ雑音の雑音成分を除去するとともに、アナログ段階でのローパスフィルタ120で除去しきれない高周波成分の除去を行ってビート成分のみを取り出す。周波数変換部140は、取り出されたビート成分を所定の周波数に変換し、フーリエ変換部145は、変換されたビート成分をFFT処理して送受信信号の時間差を演算し、検知対象までの距離を計算する。
【0028】
図2Bを参照して、A/D変換前とFFT処理前それぞれのビート信号の様子を説明する。発振部100の発振周波数の変化率を調整してビート周波数がフリッカ雑音のカットオフ周波数以上になるようにした場合、図2Bの上段に示すようにビート信号の周波数fu・fdはフリッカ雑音の成分(図中斜線部)の影響外の位置にある。その後、デジタル信号に変換されたビート信号を、さらにバンドパスフィルタ135および周波数変換部140により処理すると、図2Bの下段に示すようにベースバンドにより近いビート周波数fu・fdのビート信号を得ることができる。
【0029】
ここで、周波数検出部150は、ローパスフィルタ120からビート信号の周波数を検出している。変調制御部155は、周波数検出部150が検出したビート信号の周波数を監視し、対象物Xまでの距離の関係でフリッカ雑音の影響を受けそうな場合(ビート信号の周波数がフリッカ雑音のカットオフ周波数以下となりそうな場合)に、発振部100の発振周波数の時間的な変化率を大きくする。この動作により、図2Aに示すビート周波数fu・fdを大きくすることができるから、フリッカ雑音の影響を防ぐことができる。なお、変調制御部155は、フリッカ雑音の影響を受けそうな場合にのみ発振部100を制御しても、常に動的に発振部100を制御してもかまわない。
【0030】
このように、この実施形態のレーダー装置によれば、ビート周波数をフリッカ雑音のカットオフ周波数よりも高くなるようにしたので、従来の方法で除去し切れなかったフリッカ雑音の影響、例えば、2段目のミキサにおける影響を回避することができ、特に短距離探知等におけるSNRを改善することができる。
【0031】
また、この実施形態のレーダー装置によれば、ビート信号を抽出するバンドパスフィルタをデジタル信号処理段で行うので、レーダー周波数帯では製造が難しく高価なIF帯のバンドパスフィルタを排することができる。また、この実施形態のレーダー装置では、デジタル信号処理段においてバンドパスフィルタ処理および周波数変換処理を行うので、フーリエ変換におけるFFTポイントを抑えてFFT処理回路の回路規模や消費電力を抑えることができる。さらに、この実施形態のレーダー装置によれば、アナログ信号処理段のローパスフィルタに加えてデジタル信号処理段のバンドパスフィルタを用いるので、アナログ信号処理段のローパスフィルタの帯域外減衰量の仕様を緩和することでき、フィルタの次数を下げることができる。このことも、回路規模の簡略化および低消費電力化を可能とする。
【0032】
次に、図3を参照して、図1に示す実施形態に係るレーダー装置の変形例について説明する。図3は、図1に示す実施形態に係るレーダー装置の変形例を示す図である。図3に示すレーダー装置2は、図1に示すレーダー装置のうち、バンドパスフィルタ135をハイパスフィルタ235に置き換えたものである。以下の説明において、図1と共通する要素について共通の符号を付して示し、重複する説明を省略する。
【0033】
ハイパスフィルタ235は、図1に示すバンドパスフィルタ135と対応し、フリッカ雑音の雑音成分をデジタル的に除去する。通常、ローパスフィルタ120は、チャネル選択(受信信号周波数と送信信号周波数の差分のみの抽出)およびアナログデジタル変換部130の折り返し抑圧(アンチエイリアシング)の両方を担っている。ここで、ローパスフィルタ120の設計をより厳密なものとし、ローパスフィルタ120により完全なチャネル選択を可能としておけば、デジタル信号処理段におけるフィルタリングを簡略化することができる。この変形例では、チャネル選択をローパスフィルタ120のみに任せて、デジタル信号処理段のハイパスフィルタ235を備えてフリッカ雑音の雑音成分をデジタル的に除去する構成としたものである。
【0034】
この変形例によれば、特性をさほど劣化させることなくデジタル信号処理段の回路規模および消費電力を低減することができる。
【0035】
次に、図4を参照して、図3に示す変形例に係るレーダー装置の更なる変形例について説明する。図4は、図3に示す変形例に係るレーダー装置の更なる変形例を示す図である。図4に示すレーダー装置3は、図3に示すレーダー装置に、逓倍部360をさらに備えたものである。以下の説明において、図1および図3と共通する要素について共通の符号を付して示し、重複する説明を省略する。
【0036】
逓倍部360は、発振部と電力増幅部105との間に配設され、発振部の発振周波数を、例えば2倍に逓倍する。すなわち、図4に示す発振部300は、図3に示す発振部100の1/2の周波数で発振し、変調制御部355は、図3に示す変調制御部155の1/2の変化率制御を行う。
【0037】
この変形例によれば、発振部の後段に逓倍部を設けたので、発振部の発振周波数を低くすることができ、発振部の構成を簡略化することができる。また、CMOSプロセスのゲート長が長く遮断周波数が十分に取れない場合は、発振部が送信周波数の信号を直接発振することが困難となるが、この変形例によれば、発振周波数を大幅に下げることが可能となる。
【0038】
さらに、図5を参照して、図4に示す変形例に係るレーダー装置の更なる変形例について説明する。図5は、図4に示す変形例に係るレーダー装置の更なる変形例を示す図である。図5に示すレーダー装置4は、図4に示すレーダー装置に、逓倍部465をさらに備えたものである。以下の説明において、図1、図3および図4と共通する要素について共通の符号を付して示し、重複する説明を省略する。
【0039】
逓倍部465は、結合器CPLとミキサ115との間に配設され、発振部の発振周波数を、例えば2倍に逓倍する。このとき、結合器CPLは、図5に示すように発振部300と逓倍部360との間から送信信号を分岐するようにする。この変形例によれば、周波数の高い最終的な送信信号が通過する高周波信号線路を短縮することが可能となり、信号の減衰を抑えることができる。
【0040】
続いて、図6Aないし図6Dを参照して、この実施形態および変形例のレーダー装置1ないし4における発振部の発振周波数の変化率制御について詳細に説明する。図6Aは、対象物Xとの間に相対速度がある場合のビート信号が発生する原理を示す図、図6Bは、図6Aに示す場合のビート信号とフリッカ雑音との関係を示す図、図6Cは、対象物Xとの間に相対速度がある場合のこの実施形態および変形例のレーダー装置の動作を示す図、図6Dは、図6Cに示す場合のビート信号とフリッカ雑音との関係を示す図である。
【0041】
図6Aに示すように、この実施形態および変形例のレーダー装置1ないし4と対象物との相対速度Vに対し、送信信号の波長をλとすると、ビート周波数の上り側および下り側のfus、fdsは、それぞれfu+2V/λ、fd−2V/λに発生する。このとき相対速度Vの絶対値が大きいと、図6Bに示すように、fds(=fd−2V/λ)がフリッカ雑音の影響が大きい低周波領域(図中斜線部)に発生してしまう。例えば、相対速度Vが100km/h、送信周波数が77GHz、fu、fdを1MHzとすると、fds(=fd−2V/λ)は、フリッカ雑音のカットオフ周波数から約14kHz低周波側に発生することになる。
【0042】
そこで、相対速度Vの存在を周波数検出部150が検出した場合(これはfusとfdsとが大幅に異なることを検出すればよい)、この実施形態および変形例に係るレーダー装置の変調制御部155は、図6Cに示すように、送信周波数が増加する時と低下する時のそれぞれの変化率の絶対値を個別に変更して、ビート信号の周波数fus・fdsが同じくらいになるように制御する。その結果、発振周波数の変化率の小さくなる周波数上昇側のfusが小さくなる代わりに、発振周波数の変化率の大きくなる周波数下降側のfdsを大きくすることができる。すなわち、fus(=fu+2V/λ)およびfds(=fd−2V/λ)を、それぞれ相対速度が0の場合のfu、fdに近い周波数に発生させることができる。
【0043】
図6Aないし図6Dは相対速度が負の場合の例であるが、正の場合も同様にfu−2V/λ、fd+2V/λをそれぞれfu、fdに近い周波数に発生させることができる。
【0044】
このように、この実施形態および変形例に係るレーダー装置1ないし4によれば、対象物とレーダー装置との間の相対速度に応じて、発振部の周波数上昇と下降の変化率を個別に変化させるので、フリッカ雑音の影響を回避できるとともに、探索可能な相対速度の範囲を拡大することができる。またローパスフィルタなどの受信側フィルタやミキサ、アナログデジタル変換部などの通過帯域が拡大するのを防ぐことができるので、回路構成の簡略化および低消費電力化が可能となる。
【0045】
なお、本発明は上記実施形態およびその変形例のみに限定されるものではない。上記変形例は、図3に示す変形例の構成を元にさらに構成を変更しているが、図1に示す実施形態の構成を元に変更してもよい。同様に、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、FMCWレーダーに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施形態に係るレーダー装置の構成を示すブロック図である。
【図2A】図1に示すレーダー装置の動作原理を説明する図である。
【図2B】図1に示すレーダー装置の動作原理を説明する図である。
【図3】図1に示す実施形態に係るレーダー装置の変形例を示す図である。
【図4】図3に示す変形例に係るレーダー装置の変形例を示す図である。
【図5】図4に示す変形例に係るレーダー装置の変形例を示す図である。
【図6A】対象物Xとの間に相対速度がある場合のビート信号が発生する原理を示す図である。
【図6B】図6Aに示す場合のビート信号とフリッカ雑音との関係を示す図である。
【図6C】対象物Xとの間に相対速度がある場合の実施形態および変形例のレーダー装置の動作を示す図である。
【図6D】図6Cに示す場合のビート信号とフリッカ雑音との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1…レーダー装置、100…発振部、105…電力増幅部、ANT1…送信アンテナ、ANT2…受信アンテナ、110…高周波増幅部、CPL…結合器、115…ミキサ、120…ローパスフィルタ、125…増幅部、130…アナログデジタル変換部、135…バンドパスフィルタ、140…周波数変換部、145…フーリエ変換部、150…周波数検出部、155…変調制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数を所定の変化率で周期的に増減させた送信信号を送信する送信部と、
前記送信部が送信した送信信号が探知対象に反射して戻る受信信号および前記送信信号を乗算してビート信号を生成するミキサと、
前記ビート信号を演算して前記探知対象までの距離データを生成する演算部と、
前記ビート信号の周波数を検出する周波数検出部と、
前記周波数検出部により検出された前記ビート信号の周波数が、前記ミキサに起因するフリッカ雑音のカットオフ周波数以上となるように、前記送信信号の周波数の変化率を制御する制御部と
を具備したことを特徴とするレーダー装置。
【請求項2】
前記ミキサにより生成されたビート信号をA/D変換するA/D変換部と、
前記A/D変換部によりデジタル信号に変換されたビート信号に含まれる前記フリッカ雑音のカットオフ周波数以下の成分を除去するフィルタとをさらに備え、
前記演算部は、前記フィルタから出力されたビート信号を演算すること
を特徴とする請求項1記載のレーダー装置。
【請求項3】
前記周波数検出部は、前記探知対象との間の相対速度の有無をさらに検出し、
前記制御部は、前記周波数検出部により前記相対速度が検出された場合、前記送信信号の周波数の上昇時と下降時とで異なる変化率となるように前記周波数の変化率を制御すること
を特徴とする請求項1または2に記載のレーダー装置。
【請求項4】
前記送信信号の周波数の変化率は、前記探知対象までの距離をr、前記フリッカ雑音のカットオフ周波数をfc、光速をCとした場合に、(fc×C)/2r以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のレーダー装置。
【請求項5】
前記ミキサは、CMOS半導体素子により構成されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のレーダー装置。
【請求項6】
周波数を所定の変化率で周期的に増減させた送信信号を送信し、
前記送信信号が探知対象に反射して戻る受信信号および前記送信信号をミキサにより乗算してビート信号を生成し、
演算部により前記ビート信号を演算して前記探知対象までの距離データを生成し、
前記ビート信号の周波数を検出し、
前記ビート信号の周波数が、前記ミキサに起因するフリッカ雑音のカットオフ周波数以上となるように、前記送信信号の周波数の変化率を制御すること
を特徴とするレーダー装置の制御方法。
【請求項7】
周波数を所定の変化率で周期的に増減させた送信信号を発振する発振部と、
前記送信信号を送信する送信部と、
前記送信部が送信した送信信号が探知対象に反射して戻る受信信号および前記送信信号を乗算してビート信号を生成するミキサと、
前記ビート信号を演算して前記探知対象までの距離データを生成する演算部と、
を具備し、
前記発振部は、前記ビート信号の周波数が前記ミキサに起因するフリッカ雑音のカットオフ周波数以上となるような変化率で前記送信信号を発振すること
を特徴とするレーダー装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【公開番号】特開2009−229419(P2009−229419A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78664(P2008−78664)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】