説明

レーダ信号処理装置

【課題】クラッタおよび妨害を抑圧するとともに、メインローブを保持して高い抑圧性能を得ることができるレーダ信号処理装置を提供する。
【解決手段】主アンテナ11から出力される信号をビーム合成するビーム合成回路2と、ビーム合成回路の出力をフーリエ変換して主チャンネル信号を生成するフーリエ変換回路3と、補助アンテナ12から出力される補助チャンネル信号から、フーリエ変換回路から出力される信号の振幅および位相を、該補助チャンネル信号の振幅および位相に合わせた信号を減算する拘束付補助ビーム形成回路6と、拘束付補助ビーム形成回路から出力される信号を用いてタップドディレイラインによるアダプティブ処理を行うアダプティブ処理回路4と、主チャンネル信号から、アダプティブ処理がなされた信号を減算することにより主チャンネル信号に含まれる不要波を抑圧するキャンセル処理回路5を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置において信号処理を行うレーダ信号処理装置に関し、特に時空間(周波数−角度軸上)でクラッタおよび妨害を抑圧する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図9は、従来のレーダ装置に適用されているSTAP(Space Time Adaptive Processing)処理器の構成を示す図である。このSTAP処理器は、図示しないアンテナ素子または複数のアンテナ素子が配列されて成るサブアレイから送られてくる入力信号X1〜XN(Nは正の整数)を、TDL(Taped Delay Line;タップドディレイライン)によってPRI(Pulse Repetition Interval;パルス繰り返し間隔)単位で遅延させ、TDLの各タップから出力される信号に対して、アダプティブ処理部20の制御の下に2次元のSTAP処理を実施する。
【0003】
なお、TDL型のアダプティブアレイおよびSTAP処理の詳細については、非特許文献4および非特許文献5にそれぞれ記載されている。
【0004】
このようなレーダ信号処理装置に関連する技術として、特許文献1は、レーダ装置や無線通信装置等に用いられて、そのアンテナに入力される不要信号を自動的に抑圧するアダプティブアンテナ装置を開示している。
【0005】
このアダプティブアンテナ装置は、アンテナ素子信号をA/D変換器によってデジタル信号に変換した後ビーム形成を行うDBFを前提として、デジタル信号に変換された各アンテナ素子信号への複素ウェイトによるそれぞれ所定の重み付け、およびこれら重み付けされた信号の加算合成、を行う第1の演算セルアレイのパイプライン処理に基づき主ビーム信号を形成する主ビーム形成手段と、同じくデジタル信号に変換されたアンテナ素子信号の一部または全部を抽出した抽出信号に関してその振幅値の規格かを行う第2の演算セルアレイ、およびこの規格化された信号と各自らのセル出力とを参照信号として各抽出信号に含まれる不要波成分を各該当する参照信号に応じて順次段階的に相関除去する第3の演算セルアレイ、の各共動したパイプライン処理に基づき、主ビーム信号に含まれる不要波成分を、その振幅値の大きい成分から、かつ一定振幅値の信号として、順に分解配列するプリプロセッサ手段と、プリプロセッサ手段により分解配列された成分信号と各自らのセル出力とを参照信号として、形成された主ビーム信号に含まれる不要波成分を各該当する参照信号に応じて順次段階的に相関除去する第4の演算セルアレイのパイプライン処理に基づきアダプティブビーム信号を得るアダプティブビーム形成手段とを備える。
【特許文献1】特開平02−039705号公報
【非特許文献1】菊間信良、“アレーアンテナによる適応信号処理”、科学技術出版(1999) pp.35−37,98−99
【非特許文献2】菊間信良、“アレーアンテナによる適応信号処理”、科学技術出版(1999) pp.67−86
【非特許文献3】菊間信良、“アレーアンテナによる適応信号処理”、科学技術出版(1999) pp.40−49
【非特許文献4】菊間信良、“アレーアンテナによる適応信号処理”、科学技術出版(1999) pp.17−21
【非特許文献5】Richard Klemm,”SPACE−TIME ADAPTIVE PROCESSING”,IEE RADAR,SONAR,NAVIGATION AND AVIONICS 9,pp.110−118(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来のレーダ信号処理装置では、アンテナ素子またはサブアレイから送られてくる入力信号を用いて2次元のSTAP処理を実施する場合、主チャンネル(以下、「主CH」と略する)のメインローブが崩れる可能性がある。
【0007】
また、アダプティブ処理時にメインローブを保持するためには、拘束条件(非特許文献1参照)をつける手法も知られているが、アンテナのエレベーション方向およびアジマス方向の自由度が少ない場合にはメインローブが乱れやすく、また、拘束演算が必要であるため演算処理負荷が大きくなるという問題がある。
【0008】
本発明は、上述した問題を解消するためになされたものであり、その課題は、クラッタおよび妨害を抑圧するとともに、メインローブを保持して高い抑圧性能を得ることができるレーダ信号処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、複数のアンテナ素子またはサブアレイを備えた主アンテナから出力される信号をビーム合成するビーム合成回路と、ビーム合成回路の出力をフーリエ変換して主チャンネル信号を生成するフーリエ変換回路と、複数のアンテナ素子またはサブアレイの一部または全部を共用して成る補助アンテナから出力される補助チャンネル信号から、フーリエ変換回路から出力される信号の振幅および位相を、該補助チャンネル信号の振幅および位相に合わせた信号を減算する拘束付補助ビーム形成回路と、拘束付補助ビーム形成回路から出力される信号を用いてタップドディレイラインによるアダプティブ処理を行うアダプティブ処理回路と、フーリエ変換回路から送られてくる主チャンネル信号から、アダプティブ処理回路によってアダプティブ処理がなされた信号を減算することにより主チャンネル信号に含まれる不要波を抑圧するキャンセル処理回路とを備えたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、拘束付補助ビーム形成回路は、時空間のメインロ−ブに対する応答レベルを低減させる補助チャンネル信号を選定する場合に、主チャンネル信号の位相中心付近の補助チャンネル信号を選定することを特徴とする。
【0011】
また、請求項3記載の発明は、複数のアンテナ素子またはサブアレイを備えた主アンテナから出力される信号をビーム合成するビーム合成回路と、ビーム合成回路の出力をフーリエ変換して主チャンネル信号を生成するフーリエ変換回路と、複数のアンテナ素子またはサブアレイの一部または全部を共用して成る補助アンテナから出力される補助チャンネル信号から、フーリエ変換回路から出力される信号の振幅および位相を、該補助チャンネル信号の振幅および位相に合わせた信号を減算する拘束付補助ビーム形成回路と、拘束付補助ビーム形成回路から出力される信号のアダプティブ・ウェイトを算出する際に、リカーシブ手法を用いてアダプティブ・ウェイトの振幅値にリミットをかけてタップドディレイラインによるアダプティブ処理を行うアダプティブ処理回路と、フーリエ変換回路から送られてくる主チャンネル信号から、アダプティブ処理回路によってアダプティブ処理がなされた信号を減算することにより主チャンネル信号に含まれる不要波を抑圧するキャンセル処理回路とを備えたことを特徴とする。
【0012】
また、請求項4記載の発明は、請求項1または請求項2記載の発明において、アダプティブ処理回路は、拘束付補助ビーム形成回路から出力される信号を用いてタップドディレイラインによるアダプティブ処理を行う場合に、該信号のアダプティブ・ウェイトを算出する際に、リカーシブ手法を用いてアダプティブ・ウェイトの振幅値にリミットをかけることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、クラッタおよび妨害の両者を抑圧し、かつメインローブの形状を保持することができ、しかも回路規模および演算規模を比較的小さくすることができるレーダ信号処理装置を提供することができる。
【0014】
より詳しくは、請求項1記載の発明によれば、主チャンネル信号のメインローブ形状を変化させず、かつ、時空間のサイドローブ方向からの不要波を抑圧できるように、補助チャンネル信号から、主チャンネル信号の振幅および位相を補助チャンネル信号に合わせた後に減算した信号を用いて、すなわち、メインローブに対する応答の低い補助チャンネル信号を用いて、アダプティブ処理するので、メインローブを保持しやすくなる。
【0015】
また、請求項2記載の発明によれば、時空間のメインロ−ブに対する応答レベルを低減させる補助チャンネル信号の選定方式として、主チャンネル信号の位相中心付近の補助チャンネル信号を選定するので、位相パターンの差異を軽減でき、メインローブに対する応答レベルを低減する範囲を広げた補助チャンネルを形成することにより、メインローブを保持しやすくなる。
【0016】
また、請求項3記載の発明によれば、補助チャンネル信号のアダプティブ・ウェイトを算出する際に、リカーシブ手法(例えばMSN、RLS等)を用いて、順次変化するアダプティブ・ウェイトの振幅値にリミットをかけるので、ウェイト値の変化を抑えることができ、メインローブを保持できる。
【0017】
また、請求項4記載の発明によれば、請求項1記載の発明または請求項2記載の発明と、請求項3記載の発明とを組み合わせて構成したので、上述した請求項1ないし請求項3記載の発明に比べて、メインローブを更に保持できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明の実施例1に係るレーダ信号処理装置の構成を示すブロック図である。このレーダ信号処理装置は、主アンテナ11を構成する複数のアンテナ素子にて送受信された信号は、ビーム合成回路2でビーム合成される。
【0020】
なお、複数のアンテナ素子の代わりに、複数のサブアレイ(サブアレイは複数のアンテナ素子が配列されて構成される)を用いることもできる。ビーム合成回路2でビーム合成された信号は、フーリエ変換回路3においてフーリエ変換されることにより、時空間でビーム形成がなされる。時空間でのビーム形成は、次式で表すことができる。
【数1】

【0021】
ここで、
X :入力信号(N×M個、N:補助アンテナ数、M:タップ数)
X=[X1、・・・、XN、M]t
S :時空間のステアリングベクトル
【数2】

【0022】
上記は、リニアアレイの場合である。
【0023】
Xout(θb、b):θb、バンクbのビーム出力
θb:ビーム指向方向
b :周波数バンク番号(b=1〜B)
λ :波長
dn:サブアレイnの位相中心の位置ベクトル(n=1〜N)
t :転置
なお、フーリエ変換回路3は、DFT(Discrete Fourier Transformation;離散フーリエ変換)またはFFT(Fast Fourier Transform;高速フーリエ変換)を行うように構成できる。フーリエ変換回路3により分解されたB個のフィルタバンク信号Xinm_1〜Xinm_Bは、主CH信号としてキャンセル処理回路5に送られるとともに、拘束付補助ビーム形成回路6に送られる。
【0024】
主アンテナ11を構成する複数のアンテナ素子またはサブアレイの一部または全部は補助アンテナ12として共用される。この補助アンテナ12で得られる補助チャンネル(以下、「補助CH」と略する)信号は、拘束付補助ビーム形成回路6に送られる。
【0025】
拘束付補助ビーム形成回路6は、補助アンテナ12からの補助CH信号とフーリエ変換回路3からの主CH信号とに基づき拘束付補助ビームを生成し、アダプティブ処理回路4に送る。図3は、この拘束付補助ビーム形成回路6で行われる処理を概念的に示す図であり、図4は、その処理を説明するための図である。図4(a)は補助CH信号の振幅を時空間軸上、即ち、角度(空間)と周波数(時間)との軸上で角度データと周波数データとで表したものである。図4(b)は主CH信号の振幅を時空間軸上、即ち、角度(空間)と周波数(時間)と振幅との3軸上で角度データと周波数データとで表したものである。なお、図示していないが、位相についても振幅と同様である。
【0026】
すなわち、拘束付補助ビーム形成回路6は、図4(b)に示すような、フーリエ変換回路3から送られてくる主CH信号に所定の演算Wを施すことにより、主CH信号の振幅および位相を、図4(a)に示すような、補助アンテナ12から送られてくる補助CH信号の振幅および位相と合わせる。即ち、主CH信号の角度データ及び周波数データのピーク値を補助CH信号の角度データ及び周波数データのピーク値に合わせる。その後、減算によってこれらの差をとることにより、図4(c)に示すような、時空間軸上でメインローブ方向にシャープなヌルを形成する。この拘束付補助ビーム形成回路6から出力される信号を新たな補助CH信号Xinaとして用いてアダプティブ処理を行うことにより、メインローブ形状を保持したまま、不要波を抑圧できる。
【0027】
アダプティブ処理回路4は、拘束付補助ビーム形成回路6から送られてくる補助CH信号Xinaを用いて、タップドディレイライン(以下、「TDL」と略する)によるアダプティブ処理により、不要波を抑圧する。アダプティブ処理回路4において行われるアダプティブ処理の最適ウェイトWoptは、直接解法(非特許文献1参照)の場合は、SMI(Sampled Matrix Inversion)アルゴリズム演算部41において、次式にしたがって行われる。
【数3】

【0028】
ここで、
Rxx:補助CH信号Xの相関行列
Rxx=Xa・Xat*
rxd:補助CH信号Xaとビーム出力Xoutの相関ベクトル
rxd=Xa・Xout*
Rxx−1:Rxxの逆行列
* :複素共役
このSMIアルゴリズム演算部41において計算された最適ウェイトWoptは、アダプティブ処理回路4の内部の演算セルAに設定される。演算セルAは、図2(a)に示すように、SMIアルゴリズム演算部41から設定された最適ウェイトWoptとTDLのタップから送られてくる補助CH信号Xinaとによって所定の演算を実行し、その演算結果を信号Youtとして、外部の加算器8に送る。加算器8は、N個のアダプティブ処理回路4の各々から出力されるM個の演算セルAのYoutを加算し、信号Zとしてキャンセル処理回路5に送る。
【0029】
キャンセル処理回路5においては、図2(b)に示すような演算セルBは、フーリエ変換回路3から送られてくる信号Xinm(主CH信号;信号Xinm_1〜Xinm_B)からアダプティブ処理回路4から送られてくる信号Zを減算し、信号Xoutとして出力する。したがって、キャンセル処理回路5からは、主CH信号に含まれる不要波が抑圧されたバンクbank1〜bankB毎の信号Xout_1〜Xout_Bが出力される。
【0030】
なお、最適ウェイトの演算方法としては、直接解法に限らず、例えばMSN(Maximum Signal to Noise Ratio)法(非特許文献2参照)、RLS(Recursive Least Square)法(非特許文献3参照)またはグラムシュミット法(特許文献1参照)といった他の方法を用いることもできる。
【0031】
以上説明した本発明の実施例1に係るレーダ信号処理装置によれば、主CH信号のメインローブ形状を変化させず、かつ、時空間のサイドローブ方向からの不要波を抑圧できるように、補助CH信号から、主CH信号の振幅および位相を補助CH信号に合わせた後に減算した信号を用いて、すなわち、メインローブに対する応答の低い補助CH信号を用いて、アダプティブ処理するので、メインローブを保持しやすくなる。
【0032】
なお、本願出願人は、先に出願した「レーダ信号処理装置」(特願2006−300240、平成18年11月6日に出願済み)において、補助CH信号のメインローブに対する応答レベルを低減させる技術を開示しているが、この技術は、補助CH信号同士または補助CHから空間(角度)軸上の主CH信号を減算するものであって、空間(角度)軸上に形成したヌルの方向で、周波数軸のサイドローブ領域から不要波が入力した場合には、不要波を抑圧できない。
【0033】
これに対して、実施例1に係るレーダ信号処理道路では、時空間軸(角度軸と周波数軸の両者)上で補助CHにヌルを形成するので、図4に示すように、時空間軸上のメインロ−ブ方向以外のすべてのサイドローブ領域からの不要波を抑圧できる。
【実施例2】
【0034】
本発明の実施例2に係るレーダ信号処理装置は、実施例1に係るレーダ信号処理装置において補助CHを選定する際に、主CHの位相中心に近い位相中心をもつ補助CHを選定するようにしたものである。この実施例2に係るレーダ信号処理装置の構成は、実施例1に係るレーダ信号処理装置の構成と同じである。
【0035】
次に、図5および図6を参照して、実施例2に係るレーダ信号処理装置の動作を説明する。図5は、補助CHの位相中心が主CHの位相中心から離れている場合であり、補助CHの位相パターンの傾きが大きく、補助CH信号から主CH信号を減算する際には、位相も含めると、ある角度方向においてのみ位相をそろえて減算するため、メインローブ全体に渡って補助CHのヌルを形成するのが困難である。
【0036】
これに対して、図6は、補助CHの位相中心が主CHの位相中心が近い場合であり、位相パターンの傾きが小さく、メインローブの広い範囲でヌルを形成した補助CHを形成できる。この補助CHを用いて、実施例1のアダプティブ処理を適用することにより、メインローブを保持し易くなる。
【0037】
以上説明した本発明の実施例2に係るレーダ信号処理装置によれば、時空間のメインロ−ブに対する応答レベルを低減させる補助CH信号の選定方式として、主CH信号の位相中心付近の補助CH信号を選定するので、位相パターンの差異を軽減でき、メインローブに対する応答レベルを低減する範囲を広げた補助CHを形成することにより、メインローブを保持しやすくなる。
【実施例3】
【0038】
本発明の実施例3に係るレーダ信号処理装置は、補助CHのアダプティブ・ウェイトを算出する際に、リカーシブ手法(MSN、RLS等)を用いて、更にウェイトの振幅値にリミットをかけることにより、メインローブの乱れを抑圧するようにしたものである。
【0039】
図7は、本発明の実施例3に係るレーダ信号処理装置の構成を示すブロック図である。このレーダ信号処理装置は、実施例1に係るレーダ信号処理装置のアダプティブ処理回路4がMSNアダプティブ処理回路7に変更されて構成されている。MSNアダプティブ処理回路7は、実施例1に係るアダプティブ処理回路4からSMIアルゴリズム演算部41が除去されるとともに、演算セルAの代わりに演算セルCが設けられている。演算セルCには、キャンセル処理回路5から送られてくる信号Xoutが入力される。
【0040】
図8は、演算セルCの詳細な構成を示す図である。この演算セルCは、キャンセル処理回路5から送られてくる信号XoutとTDLのタップから送られてくる補助CH信号Xinaとに基づき所定の演算を実行することにより、振幅値にリミットをかけたウェイトWを算出し、このウェイトWに信号Xinaを乗算した結果を信号Youtとして、外部の加算器8に送る。この演算セルCの詳細は、特許文献1に記述されている。
【0041】
アダプティブ・ウェイトの振幅値にリミットをかける際の振幅リミット値としては、アダプティブ処理時にメインロ−ブに影響を与えないように選定すればよい。ウェイト演算式を次式に示す。
【数4】

【0042】
ここで、
W(i) :ウェイト(i=0〜ITER)
Xout :主CH出力(Xout_1〜Xout_B)
Xina :補助CH入力(m=1〜M、n=1〜N)
g :定数
a :定数
Xinm :主CH入力(Xinm_1〜Xinm_B)
* :複素共役
以上説明した本発明の実施例3に係るレーダ信号処理装置によれば、補助CH信号のアダプティブ・ウェイトを算出する際に、リカーシブ手法(例えばMSN、RLS等)を用いて、順次変化するアダプティブ・ウェイトの振幅値にリミットをかけるようにしたので、ウェイト値の変化を抑えることができ、メインローブを保持できる。
【0043】
なお、ウェイトのリミット方法としては、例えばアダプティブ・ウェイトの振幅値がリミット値を越えた場合に、該リミット値に固定するといった方法等、メインローブを保護するという主旨であれば、他の方法を用いることができる。
【0044】
この実施例3に係るレーダ信号処理装置は、主CHのメインロ−ブの形状を変化させないように、補助CH信号のメインローブに対する応答レベルを低減させた実施例1または実施例2に係るレーダ信号処理装置と組み合わせて構成することもできる。この構成によれば、実施例1〜実施例3に係るレーダ信号処理装置よりも、メインローブを更に保持できるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、クラッタおよび妨害の両方の抑圧が要求されるレーダ装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施例1に係るレーダ信号処理装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例1に係るレーダ信号処理装置で使用される演算セルを示す図である。
【図3】本発明の実施例1に係るレーダ信号処理装置における拘束付補助ビーム形成回路で行われる処理を概念的に示す図である。
【図4】本発明の実施例1に係るレーダ信号処理装置における拘束付補助ビーム形成回路で行われる処理を説明するための図である。
【図5】本発明の実施例2係るレーダ信号処理装置の動作を説明するための図である。
【図6】本発明の実施例2係るレーダ信号処理装置の動作を説明するための図である。
【図7】本発明の実施例3に係るレーダ信号処理装置の構成を示す図である。
【図8】本発明の実施例3に係るレーダ信号処理装置で使用される演算セルの詳細な構成を示す図である。
【図9】従来のレーダ信号処理装置を説明するための図である。
【符号の説明】
【0047】
11 主アンテナ
12 補助アンテナ
2 ビーム合成回路
3 フーリエ変換回路
4 アダプティブ処理回路
41SMIアルゴリズム演算部
5 キャンセル処理回路
6 拘束付補助ビーム形成回路
7 MSNアダプティブ処理回路
8 加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナ素子またはサブアレイを備えた主アンテナから出力される信号をビーム合成するビーム合成回路と、
前記ビーム合成回路の出力をフーリエ変換して主チャンネル信号を生成するフーリエ変換回路と、
前記複数のアンテナ素子またはサブアレイの一部または全部を共用して成る補助アンテナから出力される補助チャンネル信号から、前記フーリエ変換回路から出力される信号の振幅および位相を、該補助チャンネル信号の振幅および位相に合わせた信号を減算する拘束付補助ビーム形成回路と、
前記拘束付補助ビーム形成回路から出力される信号を用いてタップドディレイラインによるアダプティブ処理を行うアダプティブ処理回路と、
前記フーリエ変換回路から送られてくる主チャンネル信号から、前記アダプティブ処理回路によってアダプティブ処理がなされた信号を減算することにより前記主チャンネル信号に含まれる不要波を抑圧するキャンセル処理回路と、
を備えたことを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項2】
前記拘束付補助ビーム形成回路は、時空間のメインロ−ブに対する応答レベルを低減させる補助チャンネル信号を選定する場合に、主チャンネル信号の位相中心付近の補助チャンネル信号を選定することを特徴とする請求項1記載のレーダ信号処理装置。
【請求項3】
複数のアンテナ素子またはサブアレイを備えた主アンテナから出力される信号をビーム合成するビーム合成回路と、
前記ビーム合成回路の出力をフーリエ変換して主チャンネル信号を生成するフーリエ変換回路と、
前記複数のアンテナ素子またはサブアレイの一部または全部を共用して成る補助アンテナから出力される補助チャンネル信号から、前記フーリエ変換回路から出力される信号の振幅および位相を、該補助チャンネル信号の振幅および位相に合わせた信号を減算する拘束付補助ビーム形成回路と、
前記拘束付補助ビーム形成回路から出力される信号のアダプティブ・ウェイトを算出する際に、リカーシブ手法を用いてアダプティブ・ウェイトの振幅値にリミットをかけてタップドディレイラインによるアダプティブ処理を行うアダプティブ処理回路と、
前記フーリエ変換回路から送られてくる主チャンネル信号から、前記アダプティブ処理回路によってアダプティブ処理がなされた信号を減算することにより前記主チャンネル信号に含まれる不要波を抑圧するキャンセル処理回路と、
を備えたことを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項4】
前記アダプティブ処理回路は、前記拘束付補助ビーム形成回路から出力される信号を用いてタップドディレイラインによるアダプティブ処理を行う場合に、該信号のアダプティブ・ウェイトを算出する際に、リカーシブ手法を用いてアダプティブ・ウェイトの振幅値にリミットをかけることを特徴とする請求項1または請求項2記載のレーダ信号処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−157679(P2008−157679A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−344673(P2006−344673)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】