説明

レーダ信号処理装置

【課題】本発明は、ドップラレーダの信号処理装置に関し、構成の大幅な複雑化と規模の増加を伴うことなく、多様なターゲットを精度よく柔軟に識別できることを目的とする。
【解決手段】時系列i(≧0)の順に連なる複数N(≧N1・N2)回のスイープの異なる組み合わせ毎に得られた複数N個のレーダ信号をレンジの順に周波数分析し、前記周波数分析の下で得られるべきN個のドップラバンクを((k・N1+i)番目(k=0,1,…(N2−1))以降のN2個ずつ得る部分ドップラ解析手段と、前記(k・N1+i)番目以降のN2個のドップラバンク毎に不要波の抑圧を図り、N2個の信号を個別に生成するN2個の物標探知手段と、前記時系列iの順に前記N2個の物標探知手段によってN1回に亘って生成されたN(≧N1・N2)個の信号の瞬時値のピークを前記レンジ毎に検出するピーク検出手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置において、ターゲットの相対速度に基づいて目標を探知するレーダの信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置には、ターゲットからの受信波の雑音に対する電力比を改善するため、従来から受信信号をスイープ方向に積分する技術が適用されている。
このような技術の概要は、以下の通りである。
アンテナにはビーム幅があるので、レーダのアンテナが回転していたとしても、一般に、一つの物標には複数スイープ分の送信パルスが照射される。それらの複数スイープの信号が同一レンジ上で積分されることにより、信号対雑音比の改善が図られる。
【0003】
一方、クラッタを除去するための処理として、CFAR(Constant False Alarm Rate)と呼ばれる方法がしばしば使用されるが、大きなクラッタの中では物標探知のしきい値が増大するので、物標自体もマスクされやすくなる。
【0004】
これに対して、位相情報を用い、ターゲットやクラッタの移動速度に対応するドップラ効果を利用してクラッタを除去する方法がある。
ドップラ効果の影響はビーム幅に相当するスイープにおける受信信号の位相の変化を調べることによって抽出でき、ターゲットやクラッタの相対速度に対応したドップラ周波数成分に分離すれば、クラッタを除去できるくらいしきい値を大きく設定したとしても、異なるドップラ周波数成分に存在するターゲットに対するしきい値は増大しないので、ターゲットがクラッタによってマスクされる事態を回避できる。
【0005】
例えば、航空機を監視するレーダでは、各レンジの信号をスイープ方向に並べ、ドップラ周波数がゼロ付近である信号を低減するフィルタを通すMTI(Moving Target Indication) と呼ばれる方法によって地上からのエコー (グラウンドクラッタ) を除去している。
【0006】
なお、本発明に関連する先行技術としては、例えば、後述する特許文献1および特許文献2に開示されるように、各レンジの信号をフーリエ変換することによって、ドップラ周波数成分を取り出し、得られたドップラ周波数成分を個別にCFAR回路に通して、物標探知をする方法がある。
【0007】
特許文献1には、CA−CFAR(Cell Averaging CAFR) と呼ばれる手法に対して、加算器を削減するための技術の応用例として、ドップラ周波数成分に個別にCFARが適用された例が開示されている。
【0008】
特許文献2には、ドップラ周波数成分が多い場合に、あらかじめ、フィルタによって、注目したいドップラ周波数成分のみが抽出され、抽出された成分のみにCFARを適用することによってCFAR回路の数を削減する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平03−248076号公報
【特許文献2】特許3019820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上述した従来例の内、特許文献2に開示されている技術では、CFAR回路の数は削減されても、その削減は、ターゲットやクラッタのドップラ周波数をあらかじめ想定することができない場合には、以下に記述する背景により、全てのドップラ周波数成分に対して一括してCFARが適用されなければならなかった。
【0011】
例えば、9.4GHz帯のレーダでは、相対速度ν[m/s]のターゲットによるドップラ周波数は62.7ν[Hz]となる。また、スイープ積分の対象となるレーダ信号の帯域は、サンプリング周波数fpが「レーダのパルス繰り返し周波数」に等しい場合には、サンプリング定理により±fp/2となる。このようなスイープ積分の下で識別が可能なターゲットの速度の範囲は、例えば、パルス繰り返しが2500Hzである場合には、±19.92m/sとなる。
【0012】
しかし、このような速度の範囲±19.92m/sは、船舶搭載レーダによって識別されるべき他船舶の速度の範囲より狭い。
しかも、ターゲットの速度は、上記範囲外の値である場合には、発生するエリアシング(周波数軸上における折り返し歪み)に阻まれて正常に識別すること(例えば、ターゲットの速度39.84(=19.92×2)m/sと0m/sとの峻別)は困難であった。
【0013】
また、上述したように全てのドップラ周波数成分に対するCFARの一括した適用は、これらのドップラ周波数成分の算出のために所要する記憶領域のサイズや処理量が膨大であるために、コスト、実装、消費電力等の制約に阻まれ、実際には採用され難かった。
【0014】
本発明は、構成の大幅な複雑化と規模の増加とを伴うことなく、多様なターゲットを精度よく柔軟に識別できるレーダ信号処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に記載の発明では、部分ドップラ解析手段は、時系列i(≧0)の順に連なる複数N(≧N1・N2)回のスイープの異なる組み合わせ毎に得られた複数N個のレーダ信号をレンジの順に周波数分析し、前記周波数分析の下で得られるべきN個のドップラバンクを((k・N1+i)番目(k=0,1,…(N2−1))以降のN2個ずつ得る。N2個の物標探知手段は、前記(k・N1+i)番目以降のN2個のドップラバンク毎に不要波の抑圧を図り、N2個の信号を個別に生成する。ピーク検出手段は、前記時系列iの順に前記N2個の物標探知手段によってN1回に亘って生成されたN(≧N1・N2)個の信号の瞬時値のピークを前記レンジ毎に検出する。
【0016】
すなわち、時系列の順に連なる複数N回のスイープ毎に、上記部分ドップラ解析手段とN2個の物標探知手段とが共用されることによって、所望のレンジに亘るドップラレーダ方式の信号処理が実現される。
【0017】
請求項2に記載の発明では、部分ドップラ解析手段は、時系列i(≧0)の順に連なる複数N(≧N1・N2)回のスイープの異なる組み合わせ毎に得られた複数N個のレーダ信号を共通のレンジ毎に前記組み合わせの順に周波数分析し、前記周波数分析の下で得られるべきN個のドップラバンクを((k・N1+i)番目(k=0,1,…(N2−1))以降のN2個ずつ得る。N2個の物標探知手段は、前記(k・N1+i)番目以降のN2個のドップラバンク毎に前記共通のレンジの順に不要波の抑圧を図り、N2個の信号を個別に生成する。ピーク検出手段は、前記時系列iの順に前記N2個の物標探知手段によってN1回に亘って生成されたN(≧N1・N2)個の信号の瞬時値のピークを前記レンジ毎に検出する。
【0018】
すなわち、N2個の物標探知手段によって行われる不要波の抑圧は、時系列の順に連なるN1回のスイープにおける共通のレンジ毎に一括して行われるため、ピーク検出手段によって行われるピークの検出は、レンジ方向に確保されるべき分解能が小さい場合であっても、全てのレンジに個別に対応する記憶領域よりサイズが大幅に小さいN1個の記憶領域を介して実現できる。
【0019】
請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載のレーダ信号処理装置において、前記ピーク検出手段は、前記N2個の物標探知手段によって生成されたN2個の信号毎に、前記瞬時値のピークを検出する。
【0020】
すなわち、所望のレンジに亘る信号処理は、部分ドップラ解析手段およびN2個の物標探知手段だけではなく、時系列の順に連なる複数N回のスイープ毎におけるピーク検出手段の前段部の共用により実現可能となる。
【0021】
請求項4に記載の発明では、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載のレーダ信号処理装置において、前記Nは、前記レーダ信号の受信に供される空中線系の主ローブの幅に等しい方向に前記スイープが行われる最大の回数以下である。また、前記N1は、前記複数N回のスイープのうち、前記時系列iの順に続けて行われるスイープの過程で得られるレーダ信号の相関性が所望の精度で高く確保される程度に、前記空中線系の主ローブの幅を分割可能な数である。
【0022】
すなわち、ドップラレーダ方式に基づく信号処理は、上記空中線の主ローブの幅に相当する方位の範囲内で繰り返され得るスイープによって得られたレーダ信号が有効に重複して参照されることにより実現される。
【0023】
請求項5に記載の発明では、請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載のレーダ信号処理装置において、前記Nは、前記レーダ信号の受信に供される空中線系の主ローブの幅に等しい方向に前記スイープが行われる最大の回数以下である。また、前記N2は、前記レーダ信号処理装置に搭載可能な前記物標探知手段の最大の数である。
【0024】
すなわち、トップラレーダ方式に基づく信号処理は、物標探知手段の数が(N/N1)以下に制限されることにより、上記空中線系の主ローブの範囲で行われるスイープの内、実装された物標探知手段によって不要波を抑圧可能なスイープの組み合わせに限定されて施される。
【発明の効果】
【0025】
上述したように本発明によれば、構成の大幅な複雑化と規模の増加とを伴うことなく,クラッタに埋もれた小さな物標の識別が可能となる。
本発明では、ハードウェアの規模が削減されるにもかかわらず、精度が低下することなくクラッタに埋もれた小さな物識が柔軟に実現される。
本発明では、性能が低下することなく、ハードウェアの規模の削減が図られる。
【0026】
本発明では、物標探知の精度や確度が高められ、かつ安定に維持される。
本発明では、信号処理の精度が許容される範囲において、ハードウェアの規模の削減が可能となる。
【0027】
したがって、本発明が適用されたレーダ装置では、コスト、実装、消費電力、重量、熱設計その他の制約に阻まれることなく、多様な物標の識別が精度よく柔軟に実現される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施例1の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例1の動作を説明する図である。
【図3】本発明の実施例2の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳細に説明する。
【実施例1】
【0030】
図1は、本発明の実施例1の構成を示す図である。
本実施例は、図1に示すように、以下の要素から構成される。
(1) 初段に配置され、かつ後述する受信信号が入力されるドップラ解析部10
(2) そのドップラ解析部10が有する複数(=N2)の出力に個別に縦属接続された物標探知部20-0〜20-(N2-1)
(3) これらの物標探知部20-1〜20-(N2-1)の出力に個別に接続された複数(=N2)の入力を有し、かつ最終段に配置されたピーク探知部30
【0031】
ドップラ解析部10は、以下の要素から構成される。
(1) 初段に配置されたスイープメモリ11-0〜11-(N+N1-1)
(2) これらのスイープメモリ11-0〜11-(N+N1-1)の内、隣接するN個のスイープメレーの「N1通りの組み合わせ」の何れかの出力に切り替え可能に接続され、かつ複数N2の出力を有するフーリエ変換回路12
【0032】
なお、上記添え番号に含まれる数Nは、例えば、本実施例が適用されたレーダ装置に備えられた空中線の主ローブをスイープ方向に区分可能な最大の数以下の複数に予め設定される。
【0033】
物標探知部20-0は、以下の要素から構成される。
(1) 初段に配置された直並列変換回路21-0
(2) この直並列変換回路21-0の並列出力の内、「注目セル」および注目セル以外のセルに対応する出力に個別に接続された複数の入力を有する加算回路22-0
【0034】
(3) 加算回路22-0の出力に一方の入力が接続され、かつ他方の入力に所定の重みwが入力される乗算器23-0
(4) 直並列変換回路21-0の並列出力の内、上記「注目セル」に対応する並列出力と、乗算機23-0の出力とにそれぞれ接続された2つの入力を有し、かつ最終段として配置された選択回路24-0
【0035】
なお、物標探知部20-1〜20-(N2-1)の構成については、上記物標探知部20-0の構成と基本的に同じであるので、ここでは、その説明および図示を省略し、以下では、対応する構成要素の符号に添え番号「0」に代わる添え番号「1」〜「N2-1」がそれぞれ付加された同じ符号が付与されることとする。
【0036】
ピーク探知部30は、以下の要素から構成される。
(1) 初段に配置され、物標探知部20-0〜20-(N2-1)の出力にそれぞれ接続された複数N2の入力を有する最大値選択回路31p
(2) その最大値選択回路31pの後段に配置されたメモリ選択回路32
【0037】
(3) メモリ選択回路32が有する複数N1(=N/N2)の出力に個別に接続されたファーストイン・ファーストアウト方式のバンクメモリ33-1〜33-(N1-1)
(4) これらのバンクメモリ33-1〜33-(N1-1)の出力に個別に接続された複数N1の入力を有し、かつ最終段として配置された最大値選択回路31s
【0038】
図2は、本発明の実施例1の動作を説明する図である。
以下、図1および図2を参照して本実施例の動作を説明する。
なお、以下では、既述の複数N、N1、N2は以下の通りであると仮定する。
N=32
N1=4
N2=8
【0039】
ドップラ解析部10には、受信信号が入力される。
このような受信信号は、以下のような一連の処理に基づいて生成される。
(1) レーダの受信波をディジタル信号に変換するA/D変換
(2) 上記A/D変換によって得られたディジタル信号の位相情報を抽出する直交検波
(3) その直交検波により得られた信号から、各レンジに存在する物標からの反射強度に応じた振幅と、詳細な距離に対応する位相情報とを得るパルス圧縮
【0040】
ドップラ解析部10は、このようにして生成された受信信号を全レンジ分について時系列の順にスイープメモリ11-0〜11-(N+N1-1)にサイクリックに格納する。
【0041】
フーリエ変換回路12は、上記スイープメモリ11-0〜11-(N+N1-1) の内、図2に示すように、下記のポインタptrおよび添え番号jに対応するスイープメモリ11-(ptr+4j+0)〜11-(ptr+4j+N-1)に格納されている32(=N)回のスイープ分の受信信号を順次読み込み、高速フーリエ変換(FFT)する。
(1) これらのスイープメモリ11-0〜11-(N+N1-1) をサイクリックに示すポインタptr(=0〜(N+N1−1)、0、…)
(2) 時系列の順に行われた4(=N1)回毎のスイープをサイクリックに示す添え番号j(0≦j≦3)
【0042】
したがって、フーリエ変換回路12(ドップラ解析部10)の8(=N2)つの出力(以下、これらの出力端子を示すユニークな連番k(=0〜7(=N2−1))で示す。)には、下表に示すように、フーリエ変換回路12に読み込まれる先頭スイープのスイープ番号iに対して、(k・N1+mod(i、N1))番目のドップラバンクが順次出力される。
【0043】
【表1】

【0044】
したがって、先頭スイープのスイープ番号iが「0」から「3」に変化する4(=N1)スイープの期間には、0番目ないし31番目のドップラバンクが並列の8(=N2)個ずつに分割され、それぞれレンジの昇順に対応した列として物標探知部20-1〜20-(N2-1)に引き渡される。
【0045】
以下では、物標探知部20-0〜20-(N2-1)に関しては、構成および機能が同じであって並行して作動するので、これらの物標探知部20-0〜20-(N2-1)に共通の事項については、添え番号「0」〜「N2−1」の何れにも該当し得ることを示す共通の添え文字「C」を符号「20」に付加して記載する。
【0046】
物標探知部20-Cでは、直並列変換回路21-Cは、上述したようにレンジの昇順に対応したドップラバンクの列をファーストイン・ファーストアウト方式により順次取り込んで直並列変換する。加算回路22-Cは、このような直並列変換の下で得られるドップラバンクの内、図1の上部に示すように、時系列順の中央にある注目セルと、その注目セルの前後にあるガードセル以外のセル(以下、「参照セル」という。)とにそれぞれ対応したドップラバンクの総和Sを求める。乗算器23-Cは、その総和に所定の重みwを乗じることにより閾値thを求める。選択回路24-Cは、既述の注目セルに対応するドップラバンクBtと上記閾値thとを比較し、該当するドップラバンクBtが上記閾値thを上回る場合にはそのドップラバンクBtを出力するが、その他の場合には「0」を出力する。
【0047】
すなわち、物標探知部20-1〜20-(N2-1)は、既述の通りにフーリエ変換回路12(ドップラ解析部10)からレンジの順に並行して引き渡されたドップラバンクの列に、閾値th以下のドップラバンクを「0」で代替し、その他のドップラバンクについては特別な処理を施すことなくピーク探知部30に引き渡す。
【0048】
ピーク探知部30では、最大値選択回路31pは、このようにしてレンジの昇順(時系列の順)に8(=N2)個のずつ引き渡されたドップラバンク(以下、「一次選択候補ドップラバンク」という。)の内、最大のドップラバンク(以下、「一次最大ドップラバンク」という。)を選択して出力する。
【0049】
メモリ選択回路32は、バンクメモリ33-0〜33-(N1-1)の内、この時点における添え番号j(既述の通りに時系列の順に行われる4(=N1)回毎のスイープをサイクリックに示す。)に対応するバンクメモリ33-iに、上記「一次最大ドップラバンク」の値を書き込む。
【0050】
さらに、フーリエ変換回路12、物標探知部20-0〜20-(N2-1) 、最大値選択回路31pおよびメモリ選択回路32は、上記番号j(=1、2、3、0、…)にそれぞれ対応するスイープに応じて既述の処理を同様に反復する。
【0051】
最大値選択回路31sは、時系列の順に連続する4(=N1)回のスイープ(j=0〜3)が完了する度に、バンクメモリ33-0〜33-(N1-1)に最先に書き込まれたバンクメモリ(以下、「二次選択候補ドップラバンク」という。)の値を並行して順次読み出し、これらの二次選択候補ドップラバンクの値の内、最大であるトップラバンク(以下、「二次最大ドップラバンク」という。)の値を出力する。
【0052】
このように本実施例では、時系列の順に連続する4(=N1)回のスイープ毎にドップラ解析部10が同一のレンジに対応する異なるドップラバンクを出力するので、最大値選択回路31sの出力には、4(=N1)スイープ毎に得られたレンジ毎のドップラバンクの内、最大のレンジの値がレンジの順に出力される。
また、本実施例では、隣接するスイープ間におけるレーダ受信信号の高い相関性が有効に活用されることにより、8(=N2<N(=32))個の物標探知部20-0〜20-(N2-1)が全てのドップラバンクの算出に共用される。
【0053】
さらに、本実施例では、選択回路24-Cに入力される閾値はクラッタの有無、分布等に応じて異なるが、このようなクラッタと小さな物標とから到来した受信信号の成分が異なるドップラバンクに存在するため、クラッタに埋もれた小さな物標であっても確度高く識別できる。
したがって、本実施例によれば、ハードウェアの規模の大幅な増加や構成の複雑化を伴うことなく、受信信号のトップラ成分が全てのレンジに亘って精度よく求められる。
【実施例2】
【0054】
図3は、本発明の実施例2の構成を示す図である。
図において、図1に示す要素と機能および構成が同じ要素については、同じ符号を付与し、ここでは説明を省略する。
【0055】
本実施例と図1に示す実施例1との構成の相違点は、以下の点にある。
(1) ドップラ解析部10には、フーリエ変換回路12に代えてフーリエ変換回路12Aが備えられる。
(2) 物標探知部20-0〜20-(N2-1)に代えて、物標探知部20A-0〜20A-(N2-1)が備えられる。
(3) ピーク探知部30に代えてピーク探知部30Aが備えられる。
【0056】
以下では、物標探知部20A-0〜20A-(N2-1)に共通の事項については、添え番号「0」〜「N2−1」の何れにも該当し得ることを示す添え文字「C」を符号「20A」に付加して記述する。
【0057】
物標探知部20A-Cの構成は、図1に示す物標探知部20-Cとの構成と以下の点で異なる。
(1) 直並列変換回路20-Cに代えて直並列変換回路20A-Cが備えられる。
(2) このような直並列変換回路20A-Cの段数は図1に示す直並列変換回路20-Cの段数の4(=N1)倍であり、これらの段は、既述の注目セル、ガードセルおよび参照セルの全てにそれぞれ対応して縦属接続された4(=N1)段ずつからなる。
(3) 直並列変換回路20A-Cの段の内、既述の参照セルのみにそれぞれ対応して従属接続された4段の末尾は加算回路22-Cの対応する入力に接続される。
【0058】
ピーク探知部30Aの構成は、図1に示すピーク探知部30と以下の点で異なる。
(1) 最大値選択回路31p、31sに代えて最大値選択回路31Ap、31Asが備えられる。
(2) メモリ選択回路32およびバンクメモリ33-0〜33-(N1-1)に代えて、シフトシフトレジスタ34が備えられる。
【0059】
以下、本実施例の動作を説明する。
本実施例では、フーリエ変換回路12Aは、図1に示すフーリエ変換回路12と同様にフーリエ変換を行うが、既述の実施例1とは異なり、レンジより優先して(あるいはレンジ毎に)添え番号jをサイクリックに更新することによって、そのフーリエ変換の対象が高速に切り替えられる。
【0060】
物標探知部20A-0〜20A-(N2-1)の入力には、既述の第一の実施形態と同様に、0番目ないし31番目のドップラバンクの全てが並列の8(=N2)個ずつに分割され、それぞれレンジの昇順に対応した列として物標探知部20-1〜20-(N2-1)にそれぞれ入力される。
【0061】
物標探知部20A-Cでは、直並列変換回路21A-Cは、このようにして入力される0番目ないし31番目のドップラバンクを直並列変換することにより、既述の参照セルに個別に対応する加算回路22-Cの入力に対応する。さらに、このような直並列変換の過程では、直並列変換回路21A-Cは、共通のレンジに対応して隣接する4(=N1)段毎の末尾に、該当するレンジにおけるドップラバンクの値を時系列の順に連続した4(=N1)つずつ出力する。
【0062】
したがって、物標探知部20A-Cは、時系列の順に連なる4(=N1)回のスイープ毎に、既述の0番目ないし31番目のドップラバンクを整理し、これらのドップラバンクの内、参照セルに対応するドップラバンクの値の総和に比例した閾値を下回るドップラバンクを「0」で代替し、その他のドップラバンクについては特別な処理を施すことなく探知部30Aに引き渡す。
【0063】
ピーク探知部30Aでは、最大値選択回路31Apは、物標探知部20A-0〜20A-(N-1)によって既述の通りに並行して4スイープ毎に引き渡されるドップラバンクの内、最大のドップラバンクの値を選択する。
【0064】
シフトレジスタ34は、このようにして選択された最大のドップラバンクの値を、上記4(=N1)スイープ毎に順次直並列変換する。
最大値選択回路31Asは、その直並列変換の下で並行して得られる4(=N1)つのドップラバンクの値の内、最大のドップラバンクの値を出力する。
【0065】
このように本実施形態によれば、既述の実施例1においてメモリ選択回路32およびバンクメモリ33-0〜33-(N1-1)によって行われていた処理は、フーリエ変換回路12Aおよび物標探知部20A-0〜20A-(N-1)によって与えられ、共通のレンジ毎に4(=N2)つずつ連なり、かつ並行してピーク探知部30Aに入力される8(=N2)つのドップラバンクから値が最大であるドップラバンクが選択される処理で代替される。
【0066】
したがって、直並列変換回路21A-Cに搭載されるべき記憶領域の総数は、「4(=N1)」および「8(=N2)」と、加算回路22-Cが行う加算の対象となるべき所望の数の参照セルの確保に必要なセルの総数R(例えば、「256」ないし「512」の小さな値となる。)との積P(=N1・N2・R)として与えられるが、図1に示すバンクメモリ33-0〜33-(N1-1)に備えられるべき記憶領域の総数P′(=「測距や測位の対象となるべき範囲におけるレンジの総数Nr(一般に、数千以上の値となる。)」と、「バンクメモリ33-0〜33-(N1-1)の総数」との積として与えられる。)に比べて大幅に小さな値となる。
【0067】
したがって、本実施例は、既述の実施例1に比べて、ハードウェアの規模に併せて、構成の簡略化が図られ、かつピーク探知部30Aの負荷の軽減と、物標探知部20-Cに対する負荷分散とが図られ、これらの数N、N1、N2の多様な組み合わせに対する柔軟な適応が可能となる。
【0068】
なお、本発明は、既述のレーダ方式に限定されず、例えば、物標から到来した受信波の位相情報が既述の受信信号に含まれるならば、以下の多様なレーダ方式に適用可能である。
(1) 受信信号が受信波の直交検波によって得られるパルスレーダ
(2) 受信信号が受信波の直交検波とパルス圧縮処理とによって得られるパルス圧縮レーダ
(3) 受信信号が受信波のレンジ方向におけるフーリエ変換によって得られるFMCWレーダ
【0069】
また、上述した各実施例では、フーリエ変換回路12は、FFT(Fast Fourier Transform) 処理を行う信号処理回路でなくてもよく、所望の精度および速度でフーリエ変換や周波数分析を行うことができるならば、例えば、並列に配置された周波数弁別フィルタとして構成されてもよい。
【0070】
さらに、上述した各実施例では、物標探知部20-C 、20A-Cに備えられる加算回路22-C、乗算器23-Cおよび選択回路24-Cは、図1および図2に示す構成に限定されず、例えば、CFAR(Constant False Alarm Rate)と呼ばれる多様な物標探知回路として構成されてもよい。
【0071】
また、これらの物標探知部20-C 、20A-Cに備えられる直並列変換回路21-C、21A-Cは、シフトレジスタやFIFO(First-In
First-Out) で構成されなくてもよく、例えば、BIOS、ファイルシステム等のソフトウェアの下でファーストイン・ファーストアウト方式のアドレッシングが実現される主記憶あるいは外部記憶装置で代替されてもよい。
【0072】
さらに、上述した各実施例では、選択回路24-Cに与えられる閾値は、既述の通りに求められなくてもよく、例えば、「参照セルの平均値」、「値の降順に並べ替えられた参照セル」の中央値であってもよい。
【0073】
また、上述した各実施例では、既述の数N、N1、N2は、以下の通りに設定されてもよい。
(1) Nは、フーリエ変換回路12で行われる周波数分析がFFTで行われない場合には、「2」のべき乗値でなくてもよい。
(2) Nは、定数でなくてもよく、例えば、本発明が適用されたレーダ装置により測距や測位が行われるべきレンジその他の稼働条件に応じて、適宜切り替えられてもよい。
(3) N1(搭載されるべきバンクメモリ33-0〜33-(N1-1)、バンクメモリ33A-0〜33A-(N1-1)の台数)、N2(搭載されるべき物標探知部20-0〜20-(N2-1)、20A-0〜20A-(N2-1)の台数)の双方または何れか一方は、両者の積N1・N2が上記N未満となる所望の値に設定されてもよい。
【0074】
したがって、搭載されるべきバンクメモリ33-C、33A-Cの数は、既述のN1に限定されず、ピーク探知部30、30Aによって行われる処理の過程で誤差が生じず、あるいは誤差が生じても許容される程度であるならば、N1未満であってもよく、かつ搭載されるべき物標探知部20-C、20A-Cの数はN2未満であってもよい。
【0075】
さらに、上述した各実施例では、物標探知部20-C、20A-Cが行う不要波の抑圧の処理は、Aスコープとの対応関係が維持されたまま行われなくてもよく、例えば、スイープメモリ11-0〜11-(N+N1-1)に入力されるレーダ信号の形式、あるいは所望の指示方式に適した如何なる受信信号の列にも施すことが可能である。
【0076】
また、ドップラ解析処理部10、物標探知部20-C(20A-C)およびピーク探知部30(30A)で行われる一連の処理は、レンジの昇順と降順との何れで行われてもよい。
さらに、上述した各実施例では、フーリエ変換の対象となる受信信号を与える時系列順の8(=N)回ずつのスイープの4(=N1)通りは、最先に行われたスイープに代えて最新のスイープを含む組み合わせとして順次与えられている。
しかし、このような4(=N1)通りのスイープの組み合わせは、所望の測距や測位の精度および応答性が確保されるならば、相関性が高いと見なし得る如何なるスイープの組み合わせであってもよい。
また、スイープメモリ11-0〜11-(N+N1-1)にサイクリックに書き込まれる受信信号は、時系列の順に行われる個々のスイープによって得られた受信信号でなくてもよく、所望の測距や測位の精度および応答性が確保されるならば、これらのスイープによって得られた受信信号の内、所望の頻度や周期でスイープ単位に間引かれた残りのスイープによって得られた受信信号であってもよい。
さらに、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の範囲において多様な実施形態の構成が可能であり、構成要素の全てまたは一部に如何なる改良が施されてもよい。
【符号の説明】
【0077】
10 ドップラ解析部
11 スイープメモリ
12,12A フーリエ変換回路
20,20A 物標探知部
21,21A 直並列変換回路
22 加算回路
23 乗算器
24 選択回路
30,30A ピーク探知部
31p,31s,31Ap,31As 最大値選択回路
32 メモリ選択回路
33 バンクメモリ
34 シフトレジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
時系列i(≧0)の順に連なる複数N(≧N1・N2)回のスイープの異なる組み合わせ毎に得られた複数N個のレーダ信号をレンジの順に周波数分析し、前記周波数分析の下で得られるべきN個のドップラバンクを((k・N1+i)番目(k=0,1,…(N2−1))以降のN2個ずつ得る部分ドップラ解析手段と、
前記(k・N1+i)番目以降のN2個のドップラバンク毎に不要波の抑圧を図り、N2個の信号を個別に生成するN2個の物標探知手段と、
前記時系列iの順に前記N2個の物標探知手段によってN1回に亘って生成されたN(≧N1・N2)個の信号の瞬時値のピークを前記レンジ毎に検出するピーク検出手段と
を備えたことを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項2】
時系列i(≧0)の順に連なる複数N(≧N1・N2)回のスイープの異なる組み合わせ毎に得られた複数N個のレーダ信号を共通のレンジ毎に前記組み合わせの順に周波数分析し、前記周波数分析の下で得られるべきN個のドップラバンクを((k・N1+i)番目(k=0,1,…(N2−1))以降のN2個ずつ得る部分ドップラ解析手段と、
前記(k・N1+i)番目以降のN2個のドップラバンク毎に前記共通のレンジの順に不要波の抑圧を図り、N2個の信号を個別に生成するN2個の物標探知手段と、
前記時系列iの順に前記N2個の物標探知手段によってN1回に亘って生成されたN(≧N1・N2)個の信号の瞬時値のピークを前記レンジ毎に検出するピーク検出手段と
を備えたことを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のレーダ信号処理装置において、
前記ピーク検出手段は、
前記N2個の物標探知手段によって生成されたN2個の信号毎に、前記瞬時値のピークを検出する
ことを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載のレーダ信号処理装置において、
前記Nは、
前記レーダ信号の受信に供される空中線系の主ローブの幅に等しい方向に前記スイープが行われる最大の回数以下であり、
前記N1は、
前記複数N回のスイープのうち、前記時系列iの順に続けて行われるスイープの過程で得られるレーダ信号の相関性が所望の精度で高く確保される程度に、前記空中線系の主ローブの幅を分割可能な数である
ことを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載のレーダ信号処理装置において、
前記Nは、
前記レーダ信号の受信に供される空中線系の主ローブの幅に等しい方向に前記スイープが行われる最大の回数以下であり、
前記N2は、
前記レーダ信号処理装置に搭載可能な前記物標探知手段の最大の数である
ことを特徴とするレーダ信号処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−153958(P2011−153958A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16432(P2010−16432)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度、総務省、電波資源拡大のための研究開発における委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】