説明

レーダ受信機及びパルスレーダ装置

【課題】パルス受信波が目標物の反射波であるのか、欺瞞妨害波であるのかを正確に識別することができるようにする。
【解決手段】パルス送信波のパルス周波数よりサンプリングレートが高い高速A/D変換器12を用いて、パルス受信波をサンプリングして、そのパルス受信波のパルス波形を検出し、反射波抽出器14,15が、そのパルス受信波のパルス波形からパルス受信波の立ち上がり時間T1及びドループdr1を特定し、そのパルス受信波の立ち上がり時間T1及びドループdr1とパルス送信波の立ち上がり時間T2及びドループdr2を比較することで、そのパルス受信波が目標物の反射波であるのか、欺瞞妨害波であるのかを識別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パルスレーダのECCM(Electronic Counter Counter Measures)機能として、欺瞞妨害波を識別する機能を有するレーダ受信機及びパルスレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、以下の特許文献1にはパルスレーダ装置が開示されているが、パルスレーダ装置は、パルス送信波を空間に放射して、そのパルス送信波が目標物に反射されて戻ってきている反射波であるパルス受信波を受信することで、その目標物までの距離と方位を測定する装置である。
【0003】
図10は従来のパルスレーダ装置に搭載されているレーダ受信機を示す構成図である。
従来のパルスレーダ装置では、送信機101がパルス送信波を出力すると、そのパルス送信波が送受切換器102を介してアンテナ103に出力され、アンテナ103からパルス送信波が空間に放射される。
空間に放射されたパルス送信波は、例えば、飛行機などの目標物が存在する場合、その目標物に反射してパルスレーダ装置に戻ってくる。
アンテナ103は、目標物に反射されて戻ってきている反射波であるパルス受信波を受信し、そのパルス受信波を送受切換器102に出力する。
送受切換器102は、アンテナ103により受信されたパルス受信波をIF変換器104に出力する。
【0004】
IF変換器104は、送受切換器102からパルス受信波を受けると、そのパルス受信波の周波数を高周波帯から中間周波数帯に変換し、周波数変換後の信号であるIF変調波(中間周波数帯域の信号)を中間周波増幅器105に出力する。
中間周波増幅器105は、マッチドフィルタの働きを有しており、IF変換器104からIF変調波を受けると、そのIF変調波のS/N比(信号対ノイズ比)を最大にして、S/N比が最大のIF変調波を検波器106に出力する。
検波器106は、中間周波増幅器105からS/N比が最大のIF変調波を受けると、そのIF変調波の包絡線を検波する。
【0005】
パルス圧縮器107は、検波器106により検波された包絡線が示すパルス波形を圧縮してパルス振幅を大きくし、振幅増幅後のパルス波形をA/D変換器108に出力する。
A/D変換器108は、パルス圧縮器107から出力されたパルス波形をアナログ信号からデジタル信号に変換し、そのデジタル信号を信号処理器109に出力する。
信号処理器109は、A/D変換器108からデジタルのパルス波形を受けると、そのパルス波形に含まれているクラッタなどの不要な成分を除去するなどの信号処理を実施し、信号処理後のパルス波形をパルスレーダ装置に搭載されている目標物の測定処理器(図示せぬ)に出力する。
【0006】
これにより、測定処理器(図示せぬ)では、信号処理後のパルス波形から目標物までの距離と方位を測定することができる。
しかしながら、アンテナ103が受信しているパルス受信波が目標物に反射されて戻ってきているパルス送信波の反射波ではなく、欺瞞妨害装置が放射された偽のパルス波である場合、目標物が本来存在している場所と異なる位置に目標物が存在していると判断してしまって、レーダとしての機能を果たせなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3427777号(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のパルスレーダ装置は以上のように構成されているので、欺瞞妨害装置から偽のパルス波が放射されると、目標物が本来存在している場所と異なる位置に目標物が存在していると誤判断してしまうため、欺瞞妨害波を除去する必要がある。しかし、パルスレーダのサイドローブに対する欺瞞妨害波は、SLC(Sidelobe Canceller)によって除去することが可能であるが、パルスレーダのメインローブに対する欺瞞妨害波については、最も近い目標物のエコーの立ち上がりを捉えるリーディングエッジトラッキング程度の対策しかなく、欺瞞妨害装置がレーダのパルスよりも早いタイミングでパルス波を放射すると、欺瞞妨害波を除去することができない課題があった。
【0009】
なお、リーディングエッジトラッキングは追尾レーダの機能であり、捜索レーダはリーディングエッジトラッキングの機能を実装しておらず、欺瞞妨害波を除去する対処法が存在していない状況である。
また、中間周波増幅器105がIF変調波のS/N比を最大にしており、欺瞞妨害波形の分析能力を備えていないため、レーダ受信機において、欺瞞妨害波を検出すること自体困難である。
【0010】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、パルス受信波が目標物の反射波であるのか、欺瞞妨害波であるのかを正確に識別することができるレーダ受信機を得ることを目的とする。
また、この発明は、パルス受信波が目標物の反射波であるのか、欺瞞妨害波であるのかを正確に識別して、真の目標物までの距離と方位を測定することができるパルスレーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係るレーダ受信機は、パルス送信波を空間に放射する一方、そのパルス送信波が目標物に反射されて戻ってきている反射波であるパルス受信波を受信するパルス波送受信手段と、パルス波送受信手段から空間に放射されたパルス送信波のパルス周波数よりサンプリングレートが高いアナログ/デジタル変換器を用いて、パルス波送受信手段により受信されたパルス受信波をサンプリングして、そのパルス受信波のパルス波形を検出するパルス波形検出手段とを設け、受信波識別手段が、パルス波形検出手段により検出されたパルス波形からパルス受信波の立ち上がり時間及びドループを特定し、そのパルス受信波の立ち上がり時間及びドループとパルス送信波の立ち上がり時間及びドループを比較することで、そのパルス受信波が上記目標物の反射波であるのか、欺瞞妨害波であるのかを識別するようにしたものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、パルス送信波を空間に放射する一方、そのパルス送信波が目標物に反射されて戻ってきている反射波であるパルス受信波を受信するパルス波送受信手段と、パルス波送受信手段から空間に放射されたパルス送信波のパルス周波数よりサンプリングレートが高いアナログ/デジタル変換器を用いて、パルス波送受信手段により受信されたパルス受信波をサンプリングして、そのパルス受信波のパルス波形を検出するパルス波形検出手段とを設け、受信波識別手段が、パルス波形検出手段により検出されたパルス波形からパルス受信波の立ち上がり時間及びドループを特定し、そのパルス受信波の立ち上がり時間及びドループとパルス送信波の立ち上がり時間及びドループを比較することで、そのパルス受信波が上記目標物の反射波であるのか、欺瞞妨害波であるのかを識別するように構成したので、パルス波送受信手段により受信されたパルス受信波が目標物の反射波であるのか、欺瞞妨害波であるのかを正確に識別することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1によるパルスレーダ装置を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1によるパルスレーダ装置の処理内容を示すフローチャートである。
【図3】パルスレーダ装置に対して、斜め方向に位置している航空機(目標物)にパルス送信波が照射されている様子を示す説明図である。
【図4】パルスレーダ装置に対して、胴体が垂直に位置している航空機(目標物)にパルス送信波が照射されている様子を示す説明図である。
【図5】パルスレーダ装置から放射されるパルス送信波のパルス波形の一例を示す説明図である。
【図6】各々の表面で反射する反射波及び合成波を示す説明図である。
【図7】各々の表面で反射する反射波及び合成波を示す説明図である。
【図8】欺瞞妨害装置から送信される欺瞞妨害波のパルス波形の一例を示す説明図である。
【図9】パルス受信波の立ち上がり時間及びドループを示す説明図である。
【図10】従来のパルスレーダ装置に搭載されているレーダ受信機を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるパルスレーダ装置を示す構成図である。
図1において、送信機1は例えば高周波帯の変調波であるパルス送信波を発信する機器である。
送受切換器2は送信機1から発信されたパルス送信波をアンテナ3に出力する一方、アンテナ3により受信されたパルス受信波をIF変換器5に出力する機器である。
アンテナ3は送受切換器2から出力されたパルス送信波を空間に放射する一方、そのパルス送信波が目標物に反射されて戻ってきている反射波であるパルス受信波を受信する機器である。
【0015】
図1の例では、送信機1、送受切換器2及びアンテナ3がレーダ受信機4の外部に設けられているが、レーダ受信機4の内部に設けられていてもよい。
IF変換器5は送受切換器2から出力されたパルス受信波の周波数を高周波帯から中間周波数帯に変換し、周波数変換後の信号であるIF変調波(中間周波数帯域の信号)を受信信号検出部6,11に出力する処理を実施する。
なお、送信機1、送受切換器2、アンテナ3及びIF変換器5からパルス波送受信手段が構成されている。
【0016】
第1の受信信号検出部6は中間周波増幅器7、検波器8、パルス圧縮器9及びA/D変換器10から構成されており、IF変換器5から出力されたIF変調波を検波し、その検波結果が示すパルス波形を圧縮してパルス振幅を大きくし、振幅増幅後のパルス波形を出力する処理を実施する。なお、第1の受信信号検出部6はパルス受信波検波手段を構成している。
中間周波増幅器7はマッチドフィルタの働きを有しており、IF変換器5から出力されたIF変調波のS/N比(信号対ノイズ比)を最大にして、S/N比が最大のIF変調波を検波器8に出力する処理を実施する。
【0017】
検波器8は中間周波増幅器7から出力されたIF変調波の包絡線を検波する機器である。
パルス圧縮器9は検波器8により検波された包絡線が示すパルス波形を圧縮してパルス振幅を大きくし、振幅増幅後のパルス波形をA/D変換器10に出力する処理を実施する。
A/D変換器10はパルス圧縮器9から出力されたパルス波形をアナログ信号からデジタル信号に変換し、そのデジタル信号を第1の反射波抽出器14に出力する処理を実施する。
【0018】
第2の受信信号検出部11は高速A/D変換器(アナログ/デジタル変換器)12及びメモリ13から構成されており、アンテナ3から空間に放射されたパルス送信波のパルス周波数よりサンプリングレートが高い高速A/D変換器12を用いて、IF変換器5から出力されたIF変調波をサンプリングして、アンテナ3により受信されたパルス受信波のパルス波形を検出する処理を実施する。なお、第2の受信信号検出部11はパルス波形検出手段を構成している。
高速A/D変換器12は例えばパルス送信波のパルス周波数の2倍以上のサンプリングレートで、IF変換器5から出力されたIF変調波をサンプリングして、アナログ信号であるIF変調波をデジタル信号に変換することで、そのIF変調波のパルス波形を示す波形データをメモリ13に記録する処理を実施する。
メモリ13は波形データを記録する記録媒体である。
【0019】
反射波抽出器14,15は第2の受信信号検出部11のメモリ13に記録されている波形データから、アンテナ3により受信されたパルス受信波の立ち上がり時間及びドループを特定し、そのパルス受信波の立ち上がり時間及びドループと、パルス送信波の立ち上がり時間及びドループとを比較することで、そのパルス受信波が目標物の反射波であるのか、欺瞞妨害波であるのかを識別する処理を実施する。
即ち、第1の反射波抽出器14はパルス受信波の立ち上がり時間がパルス送信波の立ち上がり時間より長い場合、そのパルス受信波が目標物の反射波であると識別し、第1の受信信号検出部6から出力されたパルス波形を信号処理器16に出力する処理を実施する。
【0020】
また、第1の反射波抽出器14はパルス受信波において、立ち上がり時間内に複数のオーバーシュートが発生している場合、あるいは、第1の受信信号検出部6によりパルス波形が検出されているが、第2の受信信号検出部11によりパルス波形が検出されていない場合、そのパルス受信波が目標物の反射波であると識別し、第1の受信信号検出部6から出力されたパルス波形を信号処理器16に出力する処理を実施する。
また、第1の反射波抽出器14はパルス受信波の立ち上がり時間がパルス送信波の立ち上がり時間と同程度で短く、かつ、そのパルス受信波のドループがパルス送信波のドループより大きい場合、そのパルス受信波が欺瞞妨害波であると識別する処理を実施する。
【0021】
第2の反射波抽出器15はパルス受信波の立ち上がり時間がパルス送信波の立ち上がり時間と同程度で短く、かつ、そのパルス受信波のドループがパルス送信波のドループより小さい場合、そのパルス受信波とパルス送信波における立ち上がり部分の相互相関処理を実施して類似性を判定し、立ち上がり部分が似ていることが認められれば、そのパルス受信波が目標物の反射波であると識別して、第1の受信信号検出部6から出力されたパルス波形を信号処理器16に出力する処理を実施する。一方、立ち上がり部分が似ていることが認められなければ、そのパルス受信波が欺瞞妨害波であると識別する処理を実施する。
なお、反射波抽出器14,15は受信波識別手段を構成している。
【0022】
信号処理器16は第1の反射波抽出器14又は第2の反射波抽出器15から出力されたパルス波形に含まれているクラッタなどの不要な成分を除去するなどの信号処理を実施する。
測定処理器17は信号処理器16による信号処理後のパルス波形に基づいて目標物までの距離及び目標物の方位を測定する処理を実施する。なお、測定処理器17は測定手段を構成している。
図2はこの発明の実施の形態1によるパルスレーダ装置の処理内容を示すフローチャートである。
【0023】
次に動作について説明する。
まず、送信機1は、例えば高周波帯の変調波であるパルス送信波を発信する。
送受切換器2は、送信機1がパルス送信波を発信すると、そのパルス送信波をアンテナ3に出力する。
これにより、アンテナ3からパルス送信波が空間に放射され、空間内に目標物が存在する場合には、そのパルス送信波が目標物に反射されて、その反射波がパルスレーダ装置に戻ってくる。
【0024】
図3はパルスレーダ装置に対して、斜め方向に位置している航空機(目標物)にパルス送信波が照射されている様子を示す説明図であり、図4はパルスレーダ装置に対して、胴体が垂直に位置している航空機(目標物)にパルス送信波が照射されている様子を示す説明図である。
ここでは、説明の便宜上、パルスレーダ装置から放射されるパルス送信波は、図5に示すようなパルス波形を有しているものとする。
なお、欺瞞妨害装置におけるパルス送信波の再現を困難にするために、図5に示すパルス送信波の立ち上がり部分は複雑なパルス波形に形成されている。
【0025】
パルスレーダ装置に対して、航空機(目標物)が斜め方向に位置している場合、図3に示すように、航空機のノーズで反射する反射波A、航空機の両翼で反射する反射波B、航空機のテールで反射する反射波Cなど、航空機の異なる表面で反射する複数の反射波が合成されてパルスレーダ装置に戻ってくるが、航空機における各々の表面は、パルスレーダ装置との距離が異なるため、各々の表面で反射する反射波は時間がずれており、複数の同一パルスの合成波がパルスレーダ装置に戻ってくることになる。
図6は各々の表面で反射する反射波及び合成波を示す説明図である。
【0026】
ここでは、目標物が航空機である例を示しているが、目標物は航空機に限るものではなく、例えば、目標物が艦艇などの場合もあるが、艦艇なども航空機と同様に形状が立体的であり、パルスレーダ装置のアンテナ3から見て、目標物の各表面までの距離には違いがある。
そのため、目標物に反射してパルスレーダ装置に戻ってくる複数の反射波の合成波(パルス受信波)のパルス波形は、パルスレーダ装置から放射されたパルス送信波と同様の形状ではなく、目標物のレンジ方向の長さ分だけ時間がずれている複数の反射波が重なり合っているパルス波形となる。
パルス受信波の立ち上がり部分に注目すると、そのパルス受信波の立ち上がり時間は、パルス送信波と比べて長くなり、なだらかな立ち上がりとなる。
例えば、パルスレーダ装置のレンジ方向に30mの長さを有する目標物の場合、0.2μsec程度のパルス遅延が発生する。
【0027】
なお、パルスレーダ装置に対して、航空機(目標物)の胴体が垂直に位置している場合、図4に示すように、航空機の胴体部分で反射する反射波E、航空機の両翼で反射する反射波D,Fなどがあるが、航空機の両翼で反射する反射波D,Fは、胴体部分で反射する反射波Eと比べて非常に小さいため、目標物に反射してパルスレーダ装置に戻ってくる複数の反射波の合成波は、パルスレーダ装置から放射されたパルス送信波と類似しているパルス波形になる。
図7は各々の表面で反射する反射波及び合成波を示す説明図である。
【0028】
一方、欺瞞妨害装置は、通常、パルスレーダ装置から放射されたパルス送信波を受信機で受信し、その受信機の受信波を増幅して、遅延や変調等の処理を実施した後、その受信波と同じパルス波形の欺瞞妨害波をパルスレーダ装置に向けて送信する。
図8は欺瞞妨害装置から送信される欺瞞妨害波のパルス波形の一例を示す説明図であり、欺瞞妨害波のパルス波形は、図5に示すパルス送信波と類似した形状となる。
【0029】
送受切換器2は、アンテナ3が目標物に反射されて戻ってきている合成波であるパルス受信波を受信すると(パルス受信波が欺瞞妨害波である可能性もある)、そのパルス受信波をIF変換器5に出力する(図2のステップST1)。
IF変換器5は、送受切換器2からパルス受信波を受けると、そのパルス受信波の周波数を高周波帯から中間周波数帯に変換し、周波数変換後の信号であるIF変調波(中間周波数帯域の信号)を受信信号検出部6,11に出力する(ステップST2)。
【0030】
第1の受信信号検出部6は、IF変換器5からIF変調波を受けると、そのIF変調波の包絡線を検波し、その包絡線が示すパルス波形を圧縮してパルス振幅を大きくし、振幅増幅後のパルス波形を第1の反射波抽出器14に出力する(ステップST3)。
即ち、第1の受信信号検出部6の中間周波増幅器7は、マッチドフィルタの働きを有しており、IF変換器5からIF変調波を受けると、そのIF変調波のS/N比を最大にして、S/N比が最大のIF変調波を検波器8に出力する。
【0031】
検波器8は、中間周波増幅器7からS/N比が最大のIF変調波を受けると、そのIF変調波の包絡線を検波する。
パルス圧縮器9は、アンテナ3が微弱なパルス受信波を受信している場合でも、目標物の探知を可能にするために、その包絡線が示すパルス波形を圧縮してパルス振幅を大きくし、振幅増幅後のパルス波形をA/D変換器10に出力する。
A/D変換器10は、パルス圧縮器9からパルス波形を受けると、そのパルス波形をアナログ信号からデジタル信号に変換し、そのデジタル信号を第1の反射波抽出器14に出力する。
【0032】
第2の受信信号検出部11は、IF変換器5からIF変調波を受けると、高速A/D変換器12を用いて、そのIF変調波をサンプリングして、アンテナ3により受信されたパルス受信波のパルス波形を検出する(ステップST4)。
即ち、第2の受信信号検出部11の高速A/D変換器12は、パルス受信波のパルス波形を忠実に再現可能な間隔で、IF変換器5から出力されたIF変調波をサンプリングして(例えば、パルス送信波のパルス周波数の2倍以上のサンプリングレートで、IF変換器5から出力されたIF変調波をサンプリングする)、アナログ信号であるIF変調波をデジタル信号に変換することで、そのIF変調波のパルス波形を示す波形データをメモリ13に記録する。
【0033】
第1の反射波抽出器14は、第2の受信信号検出部11のメモリ13に記録されている波形データを参照して、アンテナ3により受信されたパルス受信波の立ち上がり時間T1及びドループdr1を特定する(ステップST5)。
ここで、図9はパルス受信波の立ち上がり時間及びドループを示す説明図である。
パルス受信波の「立ち上がり時間」は、パルス受信波が立ち上がるのに要する時間である。
【0034】
パルス受信波は、立ち上がり後にオーバーシュートが発生し、その後、出力パワーを維持することができないために、出力パワーが低下するドループ現象が発生する。
「ドループ」は、送信機1がパルス送信波を出力する際にパワーを維持することができないために発生するパワーの低下率を示すものである。
第1の反射波抽出器14では、パルス受信波のドループを特定する際、オーバーシュートの歪みに影響されないようにするために、パルス受信波の最初の25%と最後の25%を除いて、ドループを特定するようにする。
即ち、残りの50%部分を例えば最小二乗法によって直線近似して、ドループ測定部分における最大振幅からの低下率を測定することで、ドループを特定する。
【0035】
第1の反射波抽出器14は、アンテナ3により受信されたパルス受信波の立ち上がり時間T1とドループdr1を特定すると、パルス受信波の立ち上がり時間T1とパルス送信波の立ち上がり時間T2を比較する。
ここでは、パルス送信波の立ち上がり時間T2とドループdr2は、既知であることを想定しているが、送信機1がパルス送信波を発信する際、例えば、方向性結合器を用いて、そのパルス送信波の一部を第2の受信信号検出部11に与え、第1の反射波抽出器14が、第2の受信信号検出部11のメモリ13に記録されている波形データを参照して、そのパルス送信波の立ち上がり時間T2及びドループdr2を特定するようにしてもよい。
【0036】
パルスレーダ装置に対して、航空機(目標物)が斜め方向に位置している場合、上述したように、パルスレーダ装置のアンテナ3から見て、目標物の各表面までの距離に違いがあるために、そのパルス受信波の立ち上がり時間がパルス送信波の立ち上がり時間と比べて長くなる。欺瞞妨害波は、パルス送信波を受信して、その受信波をそのまま増幅して送信するものであるため、そのパルス送信波と同様に、立ち上がり時間が短い。
そこで、第1の反射波抽出器14は、パルス受信波の立ち上がり時間T1がパルス送信波の立ち上がり時間T2より長い場合(ステップST6;YES)、そのパルス受信波が目標物の反射波であると識別し、第1の受信信号検出部6から出力されたパルス波形を信号処理器16に出力する(ステップST7)。
【0037】
第1の反射波抽出器14は、パルス受信波の立ち上がり時間T1がパルス送信波の立ち上がり時間T2と同程度で短い場合(ステップST6;NO)、そのパルス受信波のドループdr1とパルス送信波のドループdr2を比較する。
第1の反射波抽出器14は、そのパルス受信波のドループdr1がパルス送信波のドループdr2より大きい場合(ステップST8;NO)、送信機1と異なる送信機から送信されたパルス波であることが想定されるため、そのパルス受信波が欺瞞妨害波であると識別する(ステップST9)。
この場合、第1の受信信号検出部6から出力されたパルス波形は、目標物の探知には使用されない。
【0038】
第1の反射波抽出器14は、そのパルス受信波のドループdr1がパルス送信波のドループdr2より小さい場合(ステップST8;YES)、そのパルス受信波が目標物の反射波である可能性があるため、そのパルス受信波が欺瞞妨害波であると識別せずに、そのパルス受信波の識別を第2の反射波抽出器15に委ねる。
パルス受信波が目標物の反射波である場合、マルチパスの影響でパルス受信波の後半部分が重なったために、パルス受信波のドループdr1がパルス送信波のドループdr2より小さくなることがある。
【0039】
ただし、第1の反射波抽出器14は、パルス受信波において、立ち上がり時間内に複数のオーバーシュートが発生している場合、目標物の各々の表面で反射された反射波の合成波である可能性が高いため、そのパルス受信波が目標物の反射波であると識別し、第1の受信信号検出部6から出力されたパルス波形を信号処理器16に出力する。
また、第1の反射波抽出器14は、第1の受信信号検出部6によりパルス波形が検出されているが、第2の受信信号検出部11によりパルス波形が検出されていない場合も、そのパルス受信波が目標物の反射波であると識別し、第1の受信信号検出部6から出力されたパルス波形を信号処理器16に出力する。
【0040】
第1の受信信号検出部6がパルス圧縮を行うことで、ようやく探知できるレベルのパルス受信波は、圧縮前においては、パルス形状を確認できるほどの振幅がないため、第2の受信信号検出部11では、パルス波形を検出することができない。
しかし、実際の運用では、パルスレーダ装置が確実に受信可能な強さで、欺瞞妨害装置が欺瞞妨害波を送信してくると考えられ、パルス圧縮が必要となる程度の欺瞞妨害波を送信してくることは運用上ほとんどない。
仮に、パルス圧縮が必要となる程度の欺瞞妨害波を送信してきても、遠距離からの妨害であれば、危険度が小さいため、目標物の反射波として扱っても差し支えない。
【0041】
第2の反射波抽出器15は、第1の反射波抽出器14からパルス受信波の識別を委ねられた場合、即ち、パルス受信波の立ち上がり時間T1がパルス送信波の立ち上がり時間T2と同程度で短く、かつ、そのパルス受信波のドループdr1がパルス送信波のドループdr2より小さい場合、そのパルス受信波とパルス送信波における立ち上がり部分の相互相関処理を実施して類似性を判定する。マルチパスによる波形崩れを考慮して、立ち下がり部分は相互相関処理に含めない。
パルス受信波とパルス送信波における立ち上がり部分の相互相関処理は、立ち上がり部分の類似性を判定することができるものであれば、特に限定するものではないが、例えば、パルス受信波の立ち上がり部分とパルス送信波の立ち上がり部分とをFFT処理し、パルス受信波の立ち上がり部分のFFT結果とパルス送信波の立ち上がり部分のFFT結果とを比較することで、立ち上がり部分の類似性を判定することができる。
【0042】
第2の反射波抽出器15は、立ち上がり部分の相関が取れており(例えば、相互相関処理の処理結果を示す相関度が所定の閾値より大きい場合)、立ち上がり部分が似ていることが認められれば(ステップST10;YES)、そのパルス受信波が目標物の反射波であると識別して、第1の受信信号検出部6から出力されたパルス波形を信号処理器16に出力する(ステップST7)。
一方、立ち上がり部分が似ていることが認められなければ(ステップST10;NO)、そのパルス受信波が欺瞞妨害波であると識別する処理を実施する(ステップST9)。
この場合、第1の受信信号検出部6から出力されたパルス波形は、目標物の探知には使用されない。
なお、TWT、クライストロンなどの送信機には、送信機が意図しない立ち上がり、立ち下がり、ドループなど、送信機固有の特性が含まれているため、立ち上がり部分の相互相関処理を実施することで、パルスレーダ装置から送信されたパルス送信波の反射波であるのか、欺瞞妨害装置から送信された欺瞞妨害波であるのかを識別することができる。
【0043】
信号処理器16は、第1の反射波抽出器14又は第2の反射波抽出器15によりパルス受信波が目標物の反射波であると識別されて、第1の受信信号検出部6から出力されたパルス波形を受けると、そのパルス波形に含まれているクラッタなどの不要な成分を除去するなどの信号処理を実施する。この信号処理自体は、公知の技術であるため詳細な説明を省略する。
測定処理器17は、信号処理器16による信号処理後のパルス波形に基づいて目標物までの距離及び目標物の方位を測定する。この測定処理自体は、公知の技術であるため詳細な説明を省略する。
【0044】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、アンテナ3から空間に放射されたパルス送信波のパルス周波数よりサンプリングレートが高い高速A/D変換器12を用いて、アンテナ3により受信されたパルス受信波をサンプリングして、そのパルス受信波のパルス波形を検出する第2の受信信号検出部11を設け、反射波抽出器14,15が、第2の受信信号検出部11により検出されたパルス波形からパルス受信波の立ち上がり時間T1及びドループdr1を特定し、そのパルス受信波の立ち上がり時間T1及びドループdr1とパルス送信波の立ち上がり時間T2及びドループdr2を比較することで、そのパルス受信波が目標物の反射波であるのか、欺瞞妨害波であるのかを識別するように構成したので、アンテナ3により受信されたパルス受信波が目標物の反射波であるのか、欺瞞妨害波であるのかを正確に識別することができる効果を奏する。
【0045】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、第1の反射波抽出器14又は第2の反射波抽出器15によりパルス受信波が欺瞞妨害波であると識別された場合、第1の受信信号検出部6から出力されたパルス波形が目標物の探知には使用されないものを示したが、その欺瞞妨害波を送信している欺瞞妨害装置を特定するようにしてもよい。
【0046】
この場合、既知の欺瞞妨害装置が送信する欺瞞妨害波の特徴を特定し(例えば、欺瞞妨害波の立ち上がり、立ち下がり、ドループなどの送信機固有の特性)、その特徴を示す特徴データと当該欺瞞妨害装置の対応関係を記録しているデータベースを用意する。
そして、第1の反射波抽出器14又は第2の反射波抽出器15によりパルス受信波が欺瞞妨害波であると識別された場合、図示せぬ妨害装置検索手段が、そのパルス受信波の特徴を特定し、そのパルス受信波の特徴を示す特徴データと、そのデータベースに記録されている特徴データとを照合する。
妨害装置検索手段は、そのデータベースに記録されている特徴データの中に、そのパルス受信波の特徴を示す特徴データと一致する特徴データがあれば、その特徴データに対応する欺瞞妨害装置が、その欺瞞妨害波の送信源であると特定する。
この実施の形態2によれば、上記実施の形態1と同様の効果を奏する他に、欺瞞妨害波の送信源を特定することができる効果を奏する。
【0047】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 送信機(パルス波送受信手段)、2 送受切換器(パルス波送受信手段)、3 アンテナ(パルス波送受信手段)、4 レーダ受信機、5 IF変換器(パルス波送受信手段)、6 第1の受信信号検出部(パルス受信波検波手段)、7 中間周波増幅器、8 検波器、9 パルス圧縮器、10 A/D変換器、11 第2の受信信号検出部(パルス波形検出手段)、12 高速A/D変換器(アナログ/デジタル変換器)、13 メモリ、14 第1の反射波抽出器(受信波識別手段)、15 第2の反射波抽出器(受信波識別手段)、16 信号処理器、17 測定処理器(測定手段)、101 送信機、102 送受切換器、103 アンテナ、104 IF変換器、105 中間周波増幅器、106 検波器、107 パルス圧縮器、108 A/D変換器、109 信号処理器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス送信波を空間に放射する一方、上記パルス送信波が目標物に反射されて戻ってきている反射波であるパルス受信波を受信するパルス波送受信手段と、上記パルス波送受信手段から空間に放射されたパルス送信波のパルス周波数よりサンプリングレートが高いアナログ/デジタル変換器を用いて、上記パルス波送受信手段により受信されたパルス受信波をサンプリングして、上記パルス受信波のパルス波形を検出するパルス波形検出手段と、上記パルス波形検出手段により検出されたパルス波形から上記パルス受信波の立ち上がり時間及びドループを特定し、上記パルス受信波の立ち上がり時間及びドループと上記パルス送信波の立ち上がり時間及びドループを比較することで、上記パルス受信波が上記目標物の反射波であるのか、欺瞞妨害波であるのかを識別する受信波識別手段とを備えたレーダ受信機。
【請求項2】
パルス波送受信手段により受信されたパルス受信波を検波し、その検波結果が示すパルス波形を圧縮してパルス振幅を大きくし、振幅増幅後のパルス波形を出力するパルス受信波検波手段を設け、
受信波識別手段は、上記パルス受信波が目標物の反射波であると識別する場合、上記パルス受信波検波手段から出力されたパルス波形をパルスレーダ装置における目標物の測定手段に出力することを特徴とする請求項1記載のレーダ受信機。
【請求項3】
受信波識別手段は、パルス受信波の立ち上がり時間がパルス送信波の立ち上がり時間より長い場合、上記パルス受信波が目標物の反射波であると識別し、
上記パルス受信波の立ち上がり時間が上記パルス送信波の立ち上がり時間と同程度で短く、かつ、上記パルス受信波のドループが上記パルス送信波のドループより小さい場合、上記パルス受信波と上記パルス送信波における立ち上がり部分の相互相関処理を実施して類似性を判定し、立ち上がり部分が似ていることが認められれば、上記パルス受信波が上記目標物の反射波であると識別し、立ち上がり部分が似ていることが認められなければ、上記パルス受信波が欺瞞妨害波であると識別し、
上記パルス受信波の立ち上がり時間がパルス送信波の立ち上がり時間と同程度で短く、かつ、上記パルス受信波のドループが上記パルス送信波のドループより大きい場合、上記パルス受信波が欺瞞妨害波であると識別することを特徴とする請求項1または請求項2記載のレーダ受信機。
【請求項4】
受信波識別手段は、パルス受信波において、立ち上がり時間内に複数のオーバーシュートが発生している場合、上記パルス受信波が目標物の反射波であると識別することを特徴とする請求項1または請求項2記載のレーダ受信機。
【請求項5】
受信波識別手段は、パルス受信波検波手段から振幅増幅後のパルス波形が出力されているが、パルス波形検出手段によりパルス波形が検出されていない場合、パルス受信波が目標物の反射波であると識別することを特徴とする請求項2記載のレーダ受信機。
【請求項6】
欺瞞妨害波の特徴データと妨害装置の対応関係を記録しているデータベースが設けられている場合、
受信波識別手段により欺瞞妨害波であると識別されたパルス受信波の特徴データを抽出し、上記データベースから上記特徴データに対応する妨害装置を検索する妨害装置検索手段を設けたことを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか1項記載のレーダ受信機。
【請求項7】
パルス送信波を空間に放射する一方、上記パルス送信波が目標物に反射されて戻ってきている反射波であるパルス受信波を受信するパルス波送受信手段と、上記パルス波送受信手段により受信されたパルス受信波を検波し、その検波結果が示すパルス波形を圧縮してパルス振幅を大きくし、振幅増幅後のパルス波形を出力するパルス受信波検波手段と、上記パルス波送受信手段から空間に放射されたパルス送信波のパルス周波数よりサンプリングレートが高いアナログ/デジタル変換器を用いて、上記パルス波送受信手段により受信されたパルス受信波をサンプリングして、上記パルス受信波のパルス波形を検出するパルス波形検出手段と、上記パルス波形検出手段により検出されたパルス波形から上記パルス受信波の立ち上がり時間及びドループを特定し、上記パルス受信波の立ち上がり時間及びドループと上記パルス送信波の立ち上がり時間及びドループを比較することで、上記パルス受信波が上記目標物の反射波であるのか、欺瞞妨害波であるのかを識別する受信波識別手段と、上記受信波識別手段により上記パルス受信波が上記目標物の反射波であると識別された場合、上記パルス受信波検波手段から出力されたパルス波形に基づいて上記目標物までの距離及び上記目標物の方位を測定する測定手段とを備えたパルスレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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