説明

レーダ画像処理装置、構造物高さ算出方法、レーダ画像識別方法、構造物高さ算出プログラムおよびレーダ画像識別プログラム

【課題】 レーダ画像上の構造物の高さを算出する。また、レーダ画像上の地物を識別する。
【解決手段】 レーダ画像表示部110は観測情報データベース192からレーダ画像データを取得し入出力端末191に画像を表示する。下端線指定処理部120と上端点指定処理部130は表示した画像に基づいて利用者が入出力端末191から指定したレーダ画像上の構造物の下端と上端とを取得する。高さ登録処理部140は、まず、指定された構造物の下端と上端との間の画素数を算出し、画素数に1画素当りの長さを乗じて構造物の画像上の長さを算出する。そして、画像上の長さとレーダ観測時のレーダの高度などの観測情報とに基づいて構造物の実体の長さを算出する。地物識別部160は、既知地物情報データベース193から既知である地物の構造物の高さを取得してレーダ画像上の構造物の高さと比較して構造物を有するレーダ画像上の地物を識別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ画像処理技術において、合成開口レーダ画像に写る航行中の船舶など、レーダ画像の示す地物が有する構造物について高さを算出し、また、レーダ画像の示す地物を識別するレーダ画像処理装置、構造物高さ算出方法、レーダ画像識別方法、構造物高さ算出プログラムおよびレーダ画像識別プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
SAR(Synthetic Aperture Radar:合成開口レーダ)は、サイドルッキング撮影を行うため、フォーショートニング効果が発生するという特性を持つ。このフォーショートニング効果は高さを持つ船上構造物をSAR方向に倒しこんでレーダ画像上に表わすため、従来はSAR画像から構造物の高さが得られずにSAR画像上の船舶の識別を困難にしていた。
【特許文献1】特開2001−221857号公報
【特許文献2】特開2005−106566号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記の課題などを解決するためになされたもので、例えば、船舶構造が対象性を有することを利用して船上構造物の高さを算出することを目的とする。また例えば、船上構造物の高さを算出することでSAR画像上の船舶の識別を容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のレーダ画像処理装置は、レーダ画像に写る構造物の高さを取得するレーダ画像処理装置であり、構造物が写ったレーダ画像を表わすレーダ画像データを記憶機器から取得し、取得したレーダ画像データが表わすレーダ画像における構造物のレンジ方向の長さを構造物の倒れこみ量dとして中央処理装置により算出し記憶機器に記憶する構造物倒れこみ量算出部と、レーダの高度Hとレーダから構造物までの距離Rgとレーダ観測電波のオフナディア角θとを含むレーダ観測データを記憶機器から取得し、前記構造物倒れこみ量算出部が算出した構造物の倒れこみ量dと取得したレーダ観測データに含まれるレーダの高度Hとレーダから構造物までの距離Rgとレーダ観測電波のオフナディア角θとに基づいて構造物の高さZを中央処理装置により算出し記憶機器に記憶する構造物高さ算出部とを備えたことを特徴とする。
【0005】
また、前記構造物倒れこみ量算出部は、レーダ画像データに基づいてレーダ画像における構造物のレンジ方向の画素数とレーダ画像の1画素当りの長さとを算出して記憶機器に記憶し、レーダ画像における構造物のレンジ方向の画素数にレーダ画像の1画素当りの長さを乗算し、乗算した値を構造物の倒れこみ量dとして記憶機器に記憶することを特徴とする。
【0006】
また、前記構造物高さ算出部は、倒れこみ量dとレーダの高度Hとレーダから構造物までの距離Rgとレーダ観測電波のオフナディア角θとを使用して以下の式により構造物の高さZを算出することを特徴とする。
【数2】

【0007】
さらに、前記レーダ画像処理装置は、既知の地物の有する構造物の高さを記憶機器から取得し、前記構造物高さ算出部が算出した構造物の高さZを取得した既知の地物の有する構造物の高さと比較し、構造物の高さが適合した既知の地物がレーダ画像における構造物を有する地物であると中央処理装置により判定し、判定した識別結果を記憶機器に記憶する地物識別部を備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明の構造物高さ算出方法は、レーダ画像に写る構造物の高さを取得するレーダ画像処理装置の構造物高さ算出方法であり、構造物倒れこみ量算出部が、構造物の写ったレーダ画像を表わすレーダ画像データを記憶機器から取得し、取得したレーダ画像データが表わすレーダ画像における構造物のレンジ方向の長さを構造物の倒れこみ量dとして中央処理装置により算出し記憶機器に記憶する構造物倒れこみ量算出処理を行い、構造物高さ算出部が、レーダの高度Hとレーダから構造物までの距離Rgとレーダ観測電波のオフナディア角θとを含むレーダ観測データを記憶機器から取得し、前記構造物倒れこみ量算出部が算出した構造物の倒れこみ量dと取得したレーダ観測データに含まれるレーダの高度Hとレーダから構造物までの距離Rgとレーダ観測電波のオフナディア角θとに基づいて構造物の高さZを中央処理装置により算出し記憶機器に記憶する構造物高さ算出処理を行うことを特徴とする。
【0009】
本発明のレーダ画像識別方法は、レーダ画像に写る地物を識別するレーダ画像処理装置のレーダ画像識別方法であり、構造物倒れこみ量算出部が、構造物を有する地物が写ったレーダ画像を表わすレーダ画像データを記憶機器から取得し、取得したレーダ画像データが表わすレーダ画像における地物の有する構造物のレンジ方向の長さを構造物の倒れこみ量dとして中央処理装置により算出し記憶機器に記憶する構造物倒れこみ量算出処理を行い、構造物高さ算出部が、レーダの高度Hとレーダから構造物までの距離Rgとレーダ観測電波のオフナディア角θとを含むレーダ観測データを記憶機器から取得し、前記構造物倒れこみ量算出部が算出した構造物の倒れこみ量dと取得したレーダ観測データに含まれるレーダの高度Hとレーダから構造物までの距離Rgとレーダ観測電波のオフナディア角θとに基づいて構造物の高さZを中央処理装置により算出し記憶機器に記憶する構造物高さ算出処理を行い、地物識別部が、既知の地物の有する構造物の高さを記憶機器から取得し、前記構造物高さ算出部が算出した構造物の高さZを取得した既知の地物の有する構造物の高さと比較し、構造物の高さが適合した既知の地物がレーダ画像における地物であると中央処理装置により判定し、判定した識別結果を記憶機器に記憶する地物識別処理を行うことを特徴とする。
【0010】
本発明の構造物高さ算出プログラムは、上記構造物高さ算出方法をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0011】
本発明のレーダ画像識別プログラムは、上記レーダ画像識別方法をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、例えば、船上構造物の高さ情報を得ることができ、また、信頼度の高い船舶の類識別を容易に実施できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
実施の形態1.
SAR画像上の船舶が有する各構造物の倒れこみから、その構造物の高さを算出し、船舶を識別する方法について以下に説明する。
但し、以下に説明する識別方法において、船舶は識別する地物の一例であり、船舶の代わりに航空機・車両・建造物など他の地物を識別してもよい。また、SAR画像はレーダ画像の一例であり、サイドルッキング撮影を行うレーダの画像であれば他のレーダ画像でもよい。サイドルッキング撮影を行うレーダにはISAR(Inverse Synthetic Aperture Radar:逆合成開口レーダ)、実開口レーダなどがある。
【0014】
図1は、SARのフォーショートニング効果を示す図である。
SARでは、SAR自身の進行方向と直交する方向にマイクロ波(電波の一例)を発射してから構造物で反射した反射波を受信するまでの時間と受信波のドップラ周波数とを観測する。そして、観測した時間に基づいて構造物までのレンジ方向の距離を算出し構造物のレンジ方向の位置を特定する。また、観測したドップラ周波数に基づいて構造物のアジマス方向の位置を特定する。さらに、算出した構造物の位置において受信波を複素数で表わしたときの振幅に対応して画像の輝度を設定し構造物を画像化する。このレーダ観測による画像化をサイドルッキング撮影という。
このため、図1に示すように、海上または甲板からの高さ分、自機(SAR)からの距離が構造物の下端より短くなる構造物の上端は、海上または甲板からの高さ分、構造物の下端より自機方向に近い位置に画像表示される。
つまり、SARが取得した画像には、高さのある物体は自機(SAR)方向に倒れこむように表示されるフォーショートニングという特有の効果が発生する。
【0015】
実施の形態1では、画像上の位置と自機(SAR)から構造物の下端までの距離およびSARの観測情報を使用することで、フォーショートニング効果のあるSAR画像から、構造物の高さを算出する。SAR画像上の構造物の高さの算出は、対象性をもって構造物を有する船舶に特に有効である。
【0016】
図2は、実施の形態1におけるレーダ画像処理装置100の外観を示す図である。
図2において、レーダ画像処理装置100は、システムユニット910、表示装置901、キーボード(K/B)902、マウス903、コンパクトディスク装置(CDD)905、プリンタ装置906、スキャナ装置907を備え、これらはケーブルで接続されている。
さらに、レーダ画像処理装置100は、FAX機932、電話器931とケーブルで接続され、また、ローカルエリアネットワーク(LAN)942、ウェブサーバ941を介してインターネット940に接続されている。
【0017】
図3は、実施の形態1におけるレーダ画像処理装置100のハードウェア構成図である。
図3において、レーダ画像処理装置100は、プログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)911を備えている。CPU911は、バス912を介してROM913、RAM914、通信ボード915、表示装置901、K/B902、マウス903、FDD(Flexible Disk Drive)904、磁気ディスク装置920、CDD905、プリンタ装置906、スキャナ装置907と接続されている。
表示装置901には液晶ディスプレイ、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイなどがある。
RAM914は、揮発性メモリの一例である。ROM913、FDD904、CDD905、磁気ディスク装置920、光ディスク装置は、不揮発性メモリの一例である。これらは、記憶機器、記憶装置あるいは記憶部の一例である。
通信ボード915は、FAX機932、電話器931、LAN942等に接続されている。
例えば、通信ボード915、K/B902、スキャナ装置907、FDD904などは、入力機器、入力装置あるいは入力部の一例である。
また、例えば、通信ボード915、表示装置901などは、出力機器、出力装置あるいは出力部の一例である。
レーダ画像処理装置100はレーダ画像データ、レーダ観測データおよび既知地物データを入力機器から入力し、記憶機器に記憶する。また、レーダ画像処理装置100は利用者の指定情報を入力機器から入力し記憶機器に記憶する。また、レーダ画像処理装置100は算出した構造物の高さおよび識別した地物の識別結果を記憶機器に記憶し出力機器に出力する。
【0018】
ここで、通信ボード915は、LAN942に限らず、直接、インターネット940、或いはISDN等のWAN(ワイドエリアネットワーク)に接続されていても構わない。直接、インターネット940、或いはISDN等のWANに接続されている場合、レーダ画像処理装置100は、インターネット940、或いはISDN等のWANに接続され、ウェブサーバ941は不用となる。
磁気ディスク装置920には、オペレーティングシステム(OS)921、ウィンドウシステム922、プログラム群923、ファイル群924が記憶されている。プログラム群923は、CPU911、OS921、ウィンドウシステム922により実行される。
【0019】
上記プログラム群923には、実施の形態の説明において「〜部」として説明する機能を実行するプログラムが記憶されている。プログラムは、CPU911により読み出され実行される。
ファイル群924には、実施の形態の説明において、「〜情報」として説明するデータ、「〜部」として説明する機能を実行時の判定結果や演算結果を示すデータ、「〜部」として説明する機能を実行するプログラム間で受け渡しするデータなどが「〜ファイル」として記憶されている。また、ファイル群924には、レーダ画像データ、レーダ観測データおよび既知地物データなどが「〜ファイル」として記憶されている。
また、実施の形態の説明において、フローチャートや構成図の矢印の部分は主としてデータの入出力を示し、そのデータの入出力のためにデータは、磁気ディスク装置920、FD(Flexible Disk cartridge)、光ディスク、CD(コンパクトディスク)、MD(ミニディスク)、DVD(Digital Versatile Disk)、その他の記憶媒体に記憶される。あるいは、信号線やその他の伝送媒体により伝送される。
【0020】
また、実施の形態の説明において「〜部」として説明するものは、ROM913に記憶されたファームウェアで実現されていても構わない。或いは、ソフトウェアのみ、或いは、ハードウェアのみ、或いは、ソフトウェアとハードウェアとの組み合わせ、さらには、ファームウェアとの組み合わせで実施されても構わない。
【0021】
また、実施の形態を実施するプログラムは、磁気ディスク装置920、FD、光ディスク、CD、MD、DVD、その他の記憶媒体による記憶装置を用いて記憶されても構わない。
【0022】
図4は、実施の形態1におけるレーダ画像処理装置100の構成図である。
図4に示すように、実施の形態1におけるレーダ画像処理装置100は以下のものを備える。
【0023】
入出力端末191は、キーボード902やマウス903などの入力機器、表示装置901などの出力機器を備える。
【0024】
観測情報データベース192はレーダ画像データおよびレーダ観測データを記憶機器に記憶し管理する。レーダ画像データはSARが観測したデータに基づく画像データであり、レーダ観測データは、SARの高度・SARから構造物までの距離・レーダ観測時のマイクロ波のオフナディア角など、レーダ観測時に測定されたデータである。
【0025】
既知地物情報データベース193は既知の船舶を識別する名称などの識別情報・既知の船舶が有する各構造物の高さを含む既知地物データを記憶機器に記憶し管理する。ここで、構造物の高さとは、構造物の高さの絶対値および構造物間の高さの相対値を意味する。
【0026】
レーダ画像表示部110は、観測情報データベース192からレーダ画像データを取得し、レーダ画像データに基づいて複素数の振幅からパワー(輝度)に変換したSAR画像を入出力端末191の表示装置901に表示する。
【0027】
下端線指定処理部120は、入出力端末191のキーボード902やマウス903により構造物の下端を示す線を利用者に画像上で引かせ、それを下端線としてSAR画像の位置に対応付けて観測情報データベース192に記憶する。
【0028】
上端点指定処理部130は、入出力端末191のキーボード902やマウス903により構造物の上端を示す点を利用者に画像上で打たせ、それを上端点としてSAR画像の位置に対応付けて観測情報データベース192に記憶する。
【0029】
高さ登録処理部140(構造物倒れこみ量算出部と構造物高さ算出部の一例)は、下端線から上端点までの距離を算出し、下端線から上端点までの距離に基づいて構造物の高さを算出する。算出した下端線から上端点までの距離と構造物の高さはレーダ画像データに対応付けて観測情報データベース192に記憶する。
【0030】
結果出力処理部150は、入出力端末191の表示装置901においてSAR画像上に構造物の高さを表示する。
【0031】
地物識別部160は、既知地物情報データベース193から既知地物データを取得し、SAR画像における船舶が有する構造物の高さと既知である船舶が有する構造物の高さとを比較照合し、SAR画像における船舶を識別判定する。識別結果はレーダ画像データに対応付けて観測情報データベース192に記憶する。
【0032】
図5は、実施の形態1におけるレーダ画像処理装置100のレーダ画像識別処理を示すフローチャートである。
実施の形態1におけるレーダ画像処理装置100が実行する、SAR画像上の航行中の船舶の構造物の高さを算出する構造物高さ算出方法および算出した構造物の高さに基づいて船舶を識別するレーダ画像識別方法について、構造物高さ算出処理およびレーダ画像識別処理の流れを図5に基づいて以下に説明する。
【0033】
<レーダ画像データ取得処理>
まず、レーダ画像表示部110は観測情報データベース192からレーダ画像データを取得する。そして、レーダ画像表示部110はレーダ画像データに基づいて複素数の振幅からパワー(輝度)に変換したSAR画像の表示データを生成して入出力端末191に出力する。入出力端末191の表示装置901は表示データに基づいてSAR画像を表示する(S101)。
【0034】
図6は、実施の形態1におけるSAR画像を表示する表示装置901を示す図である。
レーダ画像表示部110は、例えば、図6に示すようなSAR画像を表示装置901に表示する。表示されたSAR画像は、前述のように、構造物をその高さに応じて自機(SAR)方向に倒しこんで表わす。自機がマイクロ波を発射する方向で構造物が倒れこんで表れる方向がレンジ方向であり、レンジ方向に対して垂直で自機が進行する方向がアジマス方向である。
以下、図6に示すSAR画像を例に地物識別処理を説明する。
【0035】
<構造物下端線指定処理>
次に、下端線指定処理部120は、入出力端末191のキーボード902やマウス903により、構造物の下端を示す下端線を利用者に画像上で引かせる。そして、下端線指定処理部120は、入出力端末191から利用者が引いた構造物の下端線を示す画像上の位置データ(以下、下端線指定データとする)を入力し、下端線指定データをレーダ画像データに対応付けて観測情報データベース192に記憶する(S102)。
【0036】
図7は、実施の形態1における下端線の指定を示す図である。
利用者は、SAR画像に写る船舶の形状・縦横の幅に応じて船首・船尾を判定し、船首と船尾を結ぶ線を下端線として指定する。
図7に示すように、利用者は、SAR画像上の船舶において長手方向に下端線を指定する。また、船舶が、重心を中央に保つために、長手方向の直線に対して対称な位置関係に構造物を有する対象性を持つことを考慮し、利用者は船舶において中央を通り長手方向の直線を下端線として指定する。
【0037】
<構造物上端点指定処理>
次に、上端点指定処理部130は、入出力端末191のキーボード902やマウス903により、構造物の上端を示す上端点を利用者に画像上で打たせる。そして、上端点指定処理部130は、入出力端末191から利用者が打った構造物の上端点を示す画像上の位置データ(以下、上端点指定データとする)を入力し、上端点指定データをレーダ画像データに対応付けて観測情報データベース192に記憶する(S103)。
【0038】
図8は、実施の形態1における上端点の指定を示す図である。
利用者は、波が存在する不安定な海上で安定した姿勢を保つために、ほとんど全ての船舶は構造物が対象性を持って配置されていることに着目し、SAR画像に写る船舶の形状に応じて構造物の上端点を指定する。
そこで、利用者は、反対方向に対になるものが無い突き出た部分を自機方向に倒れこんだ構造物と判定し、図8に示すように、構造物の上端点を指定する。
【0039】
<構造物倒れこみ量算出処理>
次に、高さ登録処理部140は観測情報データベース192から下端線指定データと上端点指定データとを取得する。そして、高さ登録処理部140は下端線から上端点までの距離、つまり、SAR画像上の船舶の中心からのオフセット量を構造物の倒れこみ量としてCPU911により算出する。高さ登録処理部140は算出した構造物の倒れこみ量をレーダ画像データに対応付けて観測情報データベース192に記憶する(S104)。
【0040】
図9は、実施の形態1における倒れこみ量を示す図である。
高さ登録処理部140は、例えば、下端線から上端点までの画素数とSAR画像の1画素が示す実物の長さとを算出して画素数に1画素当りの長さを乗算し、図9に示す構造物の倒れこみ量を算出する。
【0041】
<構造物高さ演算処理>
次に、高さ登録処理部140は、観測情報データベース192からレーダ観測データを取得し、構造物の倒れこみ量とレーダ観測データとに基づいて各構造物の高さ(構造物の高さの絶対値および構造物間の高さの相対値)をCPU911により算出する。高さ登録処理部140は算出した各構造物の高さ(以下、構造物高さデータとする)をレーダ画像データに対応付けて観測情報データベース192に記憶する(S105)。
【0042】
図10は、実施の形態1における構造物に対する高さ計測のジオメトリを示す図である。
構造物についてSAR画像での見え方と高さ計測について、図10に基づいて以下に説明する。
自機から構造物の下端までの距離Rg、自機から構造物の上端までの距離Rg’、自機の高度H、オフナディア角θ、構造物の倒れこみ量dおよび構造物の高さ(甲板からの高さ)Zは図10に示すような幾何関係にある。オフナディア角とは垂直方向からレーダ観測における電波の発射方向への角度のことである。
そこで、高さ登録処理部140は、算出した倒れこみ量dとレーダ観測データが示す自機から構造物の下端までの距離Rg・自機の高度H・オフナディア角θを使用して、以下の式1を計算し構造物の高さZを計測する。
【0043】
【数3】

【0044】
高さ登録処理部140が算出する構造物の高さZは船舶が波の影響で揺れて大きく傾く場合には傾いた分その精度が落ちるが、船舶が有する複数の構造物間での相対的な高さについては各構造物が同様に傾くため船舶が大きく傾く場合でもその精度は高い。つまり、高さ登録処理部140が算出する構造物の高さZは、船舶の揺れが大きい場合でも、構造物間の相対高度の判読に用いることができる。
また、SAR画像には、船舶の揺れなど、観測物のレンジ方向の変化に対応してアジマス方向に観測物の大きさ・距離の変化が表れるが、高さ登録処理部140は上記の式1に示すようにレンジ方向の情報しか使用しないため、算出した構造物の高さZの精度はアジマス方向で変化する構造物の大きさ・距離の影響を全く受けない。
【0045】
<構造物高さ出力処理>
次に、結果出力処理部150は、観測情報データベース192から構造物高さデータを取得し、構造物の高さを表わす表示データを生成して入出力端末191に出力する。入出力端末191の表示装置901は表示データに基づいてSAR画像上に構造物の高さを表示する(S106)。
【0046】
以上のS101からS106までの処理が構造物高さ算出方法としてレーダ画像処理装置100の実行する構造物高さ算出処理である。
【0047】
<地物識別処理>
次に、地物識別部160は、観測情報データベース192から構造物高さデータを取得し、既知地物情報データベース193から既知地物データを取得する。そして、地物識別部160は、構造物高さデータが示すSAR画像における船舶の有する各構造物の高さまたは相対高さを既知地物データが示す既知の船舶の有する各構造物の高さまたは相対高さと比較し、適合した高さまたは相対高さの構造物を有する既知の船舶がSAR画像における船舶であるとCPU911により判定する。地物識別部160は、例えば、構造物の高さの差が特定の閾値以内であれば当該構造物が適合すると判定し、適合する構造物の数が当該船舶の有する構造物の数に一致または適合する構造物の数が特定の閾値以上または当該船舶の有する構造物の数に対する適合する構造物の数の割合が特定の閾値以上である場合に、当該既知の地物がSAR画像上の地物であると判定する。地物識別部160は適合した既知の船舶の名称(識別結果の一例)をレーダ画像データに対応付けて観測情報データベース192に記憶する(S107)。
【0048】
<識別結果出力処理>
次に、結果出力処理部150は、観測情報データベース192から識別された結果データを取得し、識別された船舶の名称を表わす表示データを生成して入出力端末191に出力する。入出力端末191の表示装置901は表示データに基づいてSAR画像上に識別された船舶の名称を表示する(S108)。
【0049】
以上のS101からS108までの処理がレーダ画像識別方法としてレーダ画像処理装置100の実行するレーダ画像識別処理である。
【0050】
上記実施の形態1において以下のことを説明した。
SAR画像から船舶の重心を目視で探し、船舶の向きに線を引く。さらに、船舶は、航行中に姿勢を安定させるために艦上構造物のバランスを保つ必要があり、対象性を保った構造物の配置を行っていることに着目する。それにより、引いた線から、自機(SAR)方向にずれた輝度の強い点は、高さを持った構造物と考えることができる。その点は、使用者が目視判定にて入力できるものとし、SAR(合成開口レーダ)観測ジオメトリを考慮して構造物の高さを計測して艦上構造物の高さを得ることにより、信頼度の高い船舶の類識別を実施することができる。
また、海上の波が高い場合は、船舶の揺れが大きいため絶対高さの算出値の誤差も大きいが、構造物間の相対高さの精度は保たれるため、船舶の識別には非常に有効である。
【0051】
上記実施の形態1において、レーダ画像上の構造物は、下端線と上端点とで利用者に指定させたが、線や点による指定方法でなくてもよいし、利用者によらずコンピュータで特定してもよい。例えば、枠線を用いてレーダ画像上の構造物を利用者に指定させてもよいし、画像上の座標値を用いてレーダ画像上の構造物を利用者に指定させてもよい。また例えば、レーダ画像処理装置100が、レーダ画像上の地物において中央を通る長手方向の直線データを下端線として算出し、レーダ画像上の地物において反対方向に対になる部分が無い突き出た部分の点データを上端点として算出する画像処理を行ってもよい。
【0052】
また、レンジ方向に電波を発射して地物の有する構造物からの反射波を受信するレーダ観測を行い画像化するレーダであれば、SAR(合成開口レーダ)に限らず、ISAR(逆合成開口レーダ)でもその他のレーダでも構わない。
また、識別する地物は、船舶に限らず、航空機・車両・建造物など他の地物でもよい。
また、レーダ観測は人工衛星から行ってもよいし、航空機などの飛行体から行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】SARのフォーショートニング効果を示す図。
【図2】実施の形態1におけるレーダ画像処理装置100の外観を示す図。
【図3】実施の形態1におけるレーダ画像処理装置100のハードウェア構成図。
【図4】実施の形態1におけるレーダ画像処理装置100の構成図。
【図5】実施の形態1におけるレーダ画像処理装置100のレーダ画像識別処理を示すフローチャート。
【図6】実施の形態1におけるSAR画像を表示する表示装置901を示す図。
【図7】実施の形態1における下端線の指定を示す図。
【図8】実施の形態1における上端点の指定を示す図。
【図9】実施の形態1における倒れこみ量を示す図。
【図10】実施の形態1における構造物に対する高さ計測のジオメトリを示す図。
【符号の説明】
【0054】
100 レーダ画像処理装置、110 レーダ画像表示部、120 下端線指定処理部、130 上端点指定処理部、140 高さ登録処理部、150 結果出力処理部、160 地物識別部、191 入出力端末、192 観測情報データベース、193 既知地物情報データベース、901 表示装置、902 K/B、903 マウス、904 FDD、905 CDD、906 プリンタ装置、907 スキャナ装置、910 システムユニット、911 CPU、912 バス、913 ROM、914 RAM、915 通信ボード、920 磁気ディスク装置、921 OS、922 ウィンドウシステム、923 プログラム群、924 ファイル群、931 電話器、932 FAX機、940 インターネット、941 ウェブサーバ、942 LAN。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ画像に写る構造物の高さを取得するレーダ画像処理装置であり、
構造物が写ったレーダ画像を表わすレーダ画像データを記憶機器から取得し、取得したレーダ画像データが表わすレーダ画像における構造物のレンジ方向の長さを構造物の倒れこみ量dとして中央処理装置により算出し記憶機器に記憶する構造物倒れこみ量算出部と、
レーダの高度Hとレーダから構造物までの距離Rgとレーダ観測電波のオフナディア角θとを含むレーダ観測データを記憶機器から取得し、前記構造物倒れこみ量算出部が算出した構造物の倒れこみ量dと取得したレーダ観測データに含まれるレーダの高度Hとレーダから構造物までの距離Rgとレーダ観測電波のオフナディア角θとに基づいて構造物の高さZを中央処理装置により算出し記憶機器に記憶する構造物高さ算出部と
を備えたことを特徴とするレーダ画像処理装置。
【請求項2】
前記構造物倒れこみ量算出部は、
レーダ画像データに基づいてレーダ画像における構造物のレンジ方向の画素数とレーダ画像の1画素当りの長さとを算出して記憶機器に記憶し、レーダ画像における構造物のレンジ方向の画素数にレーダ画像の1画素当りの長さを乗算し、乗算した値を構造物の倒れこみ量dとして記憶機器に記憶する
ことを特徴とする請求項1記載のレーダ画像処理装置。
【請求項3】
前記構造物高さ算出部は、
倒れこみ量dとレーダの高度Hとレーダから構造物までの距離Rgとレーダ観測電波のオフナディア角θとを使用して以下の式により構造物の高さZを算出する
ことを特徴とする請求項1〜請求項2いずれかに記載のレーダ画像処理装置。
【数1】

【請求項4】
前記レーダ画像処理装置は、さらに、
既知の地物の有する構造物の高さを記憶機器から取得し、前記構造物高さ算出部が算出した構造物の高さZを取得した既知の地物の有する構造物の高さと比較し、構造物の高さが適合した既知の地物がレーダ画像における構造物を有する地物であると中央処理装置により判定し、判定した識別結果を記憶機器に記憶する地物識別部
を備えたことを特徴とする請求項1〜請求項3いずれかに記載のレーダ画像処理装置。
【請求項5】
レーダ画像に写る構造物の高さを取得するレーダ画像処理装置の構造物高さ算出方法であり、
構造物倒れこみ量算出部が、構造物の写ったレーダ画像を表わすレーダ画像データを記憶機器から取得し、取得したレーダ画像データが表わすレーダ画像における構造物のレンジ方向の長さを構造物の倒れこみ量dとして中央処理装置により算出し記憶機器に記憶する構造物倒れこみ量算出処理を行い、
構造物高さ算出部が、レーダの高度Hとレーダから構造物までの距離Rgとレーダ観測電波のオフナディア角θとを含むレーダ観測データを記憶機器から取得し、前記構造物倒れこみ量算出部が算出した構造物の倒れこみ量dと取得したレーダ観測データに含まれるレーダの高度Hとレーダから構造物までの距離Rgとレーダ観測電波のオフナディア角θとに基づいて構造物の高さZを中央処理装置により算出し記憶機器に記憶する構造物高さ算出処理を行う
ことを特徴とする構造物高さ算出方法。
【請求項6】
レーダ画像に写る地物を識別するレーダ画像処理装置のレーダ画像識別方法であり、
構造物倒れこみ量算出部が、構造物を有する地物が写ったレーダ画像を表わすレーダ画像データを記憶機器から取得し、取得したレーダ画像データが表わすレーダ画像における地物の有する構造物のレンジ方向の長さを構造物の倒れこみ量dとして中央処理装置により算出し記憶機器に記憶する構造物倒れこみ量算出処理を行い、
構造物高さ算出部が、レーダの高度Hとレーダから構造物までの距離Rgとレーダ観測電波のオフナディア角θとを含むレーダ観測データを記憶機器から取得し、前記構造物倒れこみ量算出部が算出した構造物の倒れこみ量dと取得したレーダ観測データに含まれるレーダの高度Hとレーダから構造物までの距離Rgとレーダ観測電波のオフナディア角θとに基づいて構造物の高さZを中央処理装置により算出し記憶機器に記憶する構造物高さ算出処理を行い、
地物識別部が、既知の地物の有する構造物の高さを記憶機器から取得し、前記構造物高さ算出部が算出した構造物の高さZを取得した既知の地物の有する構造物の高さと比較し、構造物の高さが適合した既知の地物がレーダ画像における地物であると中央処理装置により判定し、判定した識別結果を記憶機器に記憶する地物識別処理を行う
ことを特徴とするレーダ画像識別方法。
【請求項7】
請求項5記載の構造物高さ算出方法をコンピュータに実行させることを特徴とする構造物高さ算出プログラム。
【請求項8】
請求項6記載のレーダ画像識別方法をコンピュータに実行させることを特徴とするレーダ画像識別プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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