説明

レーダ装置およびセンサインタフェース装置

【課題】本発明は、速度センサまたは加速度センサと共に同じ移動体に搭載されたレーダ装置と、これらのセンサの何れかとレーダ装置とのインタフェースをとるセンサインタフェース装置に関し、構成が大幅に複雑化することなく、目標との相対距離が広範かつ急激に増減する状態であっても性能を高く安定に維持できることを目的とする。
【解決手段】波動信号に応じて目標から到来した到来波に基づいて前記目標の速度、距離、位置、性質の何れかの識別を行うレーダ装置であって、前記レーダ装置と共に同じ移動体に搭載された速度センサまたは加速度センサを用いて前記波動信号が送信される方向における前記移動体または前記レーダ装置の速度を特定し、前記速度に応じて前記波動信号に生じるドップラシフトを特定するドップラシフト特定手段を備え、前記レーダ装置は、前記波動信号の周波数を前記ドップラシフトに亘って補正する補正手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、速度センサまたは加速度センサと共に同じ移動体に搭載され、かつ目標の速度、距離、位置、性質の何れかの識別を行うレーダ装置と、これらのセンサの何れかとレーダ装置とのインタフェースをとるセンサインタフェース装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置は、地表や海面のように面的に分布する目標の種類や距離を観測するために様々な分野で用いられている。このようなレーダ装置の内、例えば、FM−CW方式のレーダ装置は、目標の位置が変化し得る範囲が既知である場合にレンジ幅を無用に大きく設定することなく、効率的に測距や測位を反復できるために、航空用の電波高度計や船舶用の接岸距離計等に採用されている。
【0003】
図9は、FM−CW方式が適用されたレーダ装置の構成例を示す図である。
図において、可変周波発振器41の出力は方向性結合器42の入力に接続され、その方向性結合器42の一方の出力は電力制御器43を介して送信アンテナ44Tの給電点に接続される。方向性結合器42の他方の出力は周波数変換器45の局発入力に接続され、その周波数変換器45の入力には受信アンテナ44Rの給電点が接続される。周波数変換器45の出力は中間周波増幅器46を介してディスクリミネータ47および検波器48の入力に接続され、その検波器48の出力は電力制御器43の第一の制御入力に接続される。ディスクリミネータ47の出力は、積分器50を介して鋸波発生器51の入力に接続される。鋸波発生器51の一方の出力は可変周波発振器41の変調入力に接続され、その鋸波発生器51の他方の出力はプロセッサ52の対応する入力ポートに接続される。プロセッサ52の第一の出力ポートは電力制御器43の第二の制御入力に接続され、そのプロセッサ52の第二の出力ポートには、高度データが出力される。
【0004】
このような構成のレーダ装置では、可変周波発振器41は、鋸波発生器51によって生成された鋸波の瞬時値に応じて周波数が直線的に変化する無線周波信号を生成する。その無線周波信号は、方向性結合器42を介して電力制御器43に引き渡され、この電力制御器43によって設定されるレベルの送信波として送信アンテナ44Tから地表に向けて放射される。さらに、このような送信波は、地表で反射し、受信アンテナ44Rに受信波として到来する。
【0005】
周波数変換器45は、受信アンテナ44Rに到来した受信波を取り込み、可変周波発振器41から方向性結合器42を介して与えられる無線周波信号(既述の送信波に相当する。)に基づいてこの受信波を周波数変換することにより、周波数が送信波と受信波とのビート周波数fbに等しい中間周波信号を生成する。ディスクリミネータ47は、中間周波増幅器46を介して与えられる中間周波信号の周波数を弁別することにより、地表に対する送信アンテナ44T(受信アンテナ44R)の高度に比例した瞬時値の復調信号を生成する。この復調信号は、積分器50によって瞬時値が平滑(積分)されつつ鋸波発生器51に帰還される。鋸波発生器51は、このようにして帰還される復調信号の瞬時値の平均値に応じて既述の鋸波の周期を可変することにより、その鋸波の瞬時値の先頭値pを上記中間周波信号の周波数fbに比例した値に維持し、かつ上記高度の変化に対する応答の高速性や測定精度を確保する。
【0006】
プロセッサ52は、上記鋸波の瞬時値の先頭値pを既述の高度に換算して電力制御器43に引き渡し、その高度を示す高度データを出力する。
一方、検波器48は、上記中間周波信号を平滑することによりその中間周波信号のレベルの平均値を求め、その平均値を電力制御器43に引き渡す。
【0007】
電力制御器43は、このような平均値と、既述の通りにプロセッサ52によって引き渡された高度との双方に適した値に、送信アンテナ44Tから放射される送信波のレベルを維持する。
したがって、上述したレーダ装置によれば、広範な高度で飛行する航空機や飛翔体において、地表に対する高度の計測が実現される。
【0008】
なお、本発明に関連する先行技術としては、以下に列記する特許文献1〜特許文献4がある。
【0009】
(1) 「水圧の大小に応じて周波数が変化する周波数変調超音波パルスと周波数が既知固定の同期用超音波パルスを定められた周期で水中へ送波する水中送信器と、該水中送信器の発する前記超音波パルスを受波する受波器と、該受波器から、同期用超音波パルス信号を受信して同期をとり、周波数変調超音波パルス信号を受信してその周波数を検出することにより水中送信器の位置する深度を知る受信器と、からなるパルス式漁網深度計において、前記同期用超音波パルス信号からドップラ周波数を検出して、漁網に取り付けられた水中送信器と前記受波器間の相対速度を算出する相対速度算出手段と、前記相対速度と水中音速とで前記周波数変調超音波パルス信号の周波数を補正する演算を行う補正演算手段とを有する」ことにより、「ドップラシフトを補正して精度のよい漁網深度測定が可能な漁網深度計」点に特徴がある …特許文献1
【0010】
(2) 「速度計測モードで目標のドップラ周波数を計測し、ドップラ周波数から位相を演算する。距離計測モードに切り換え、距離系受信部で周波数変換するローカル信号をこの位相を用いて補正する」ことにより、「移動目標の正確な距離とそのレンジプロフィールを表示する」点に特徴がある …特許文献2
【0011】
(3) 「周波数変調されたFM信号を物標に向けて送信し、物標からの反射信号を受信し、この受信信号と送信信号に関連する信号とを混合して得られるビート信号に基づいて物標の位置を検知するFMレーダ装置において、ビート信号を周波数に応じて変化する増幅率で増幅する増幅器と、この増幅器からの増幅信号またはこの増幅信号に基づく信号のスペクトルレベルを、物標の速度によるドップラシフトがない場合のビート信号を増幅したときのスペクトルレベルに補正する補正手段とを備える」ことにより、「物標が高速移動している場合にも、物標の位置を正確に検知できる」点に特徴がある …特許文献3
【0012】
(4) 「電波を生成する送信機と、電波を送信する送信アンテナと、前記送信アンテナから送信されて目標で反射された電波を受信波として受信する受信アンテナと、前記受信波の帯域制限および位相検波を行い前記目標に対応した目標信号を生成する受信機と、前記目標の移動に起因したドップラー効果による前記目標信号のドップラー周波数を推定して、ドップラー周波数推定値を求めるドップラー推定処理部と、前記ドップラー効果による前記目標信号の位相回転を補正して前記目標信号の時間遅延を推定する時間遅延推定処理部とを備える」ことにより、「推定精度を劣化させることなく遅延時間を推定して、高精度に目標を検出できる」点に特徴がある …特許文献4
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平6−341838号公報
【特許文献2】特開平11−231047号公報
【特許文献3】特許第2935419号公報
【特許文献4】特開2008−304220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、上述した従来のFM−CW方式のレーダ装置では、そのレーダ装置が搭載された航空機や飛翔体の地表に対する高度が変化している期間には、これらの航空機や飛翔体の地表に対する相対速度に応じて送信波や受信波に生じるドップラシフトにより、計測された高度に誤差が生じる。
【0015】
このような誤差は、特に、レーダ装置が搭載された飛翔体が上昇し、あるいは下降する速度が超音速等の高い速度であるほど大きくなるために、何らかの補正が施されなければならなかった。
【0016】
特に、FM−CW方式のレーダ装置に併せて自立航法システムその他の航法システムが搭載された航空機や飛翔体では、両者によって得られた目標の測距や測位の結果に大きな差が生じるため、上記ドップラシフトに起因する誤差の圧縮や解消が強く要望されていた。
【0017】
しかし、このような誤差の圧縮や解消は、上記航空機や飛翔体の低廉化、小型化および軽量化にかかわる厳しい制約の下で実現されなければならないために、容易には実現されなかった。
【0018】
本発明は、構成が大幅に複雑化することなく、目標との相対距離が広範かつ急激に増減する状態であっても性能を高く安定に維持できるレーダ装置およびセンサインタフェース装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
請求項1に記載の発明では、波動信号に応じて目標から到来した到来波に基づいて前記目標の速度、距離、位置、性質の何れかの識別を行う。ドップラシフト特定手段は、本発明に係るレーダ装置と共に同じ移動体に搭載された速度センサまたは加速度センサを用いて前記波動信号が送信される方向における前記移動体または前記レーダ装置の速度を特定し、前記速度に応じて前記波動信号に生じるドップラシフトを特定する。前記レーダ装置に備えられた補正手段は、前記波動信号の周波数を前記ドップラシフトに亘って補正する。
【0020】
すなわち、本発明に係るレーダ装置が搭載された移動体の移動に応じて上記波動信号の周波数に生じるドップラシフトは、この移動体に搭載されている速度センサまたは加速度センサを用いて得られる目標方向の速度に基づいて特定され、かつ補正される。
【0021】
請求項2に記載の発明では、波動信号に応じて目標から到来した到来波に基づいて前記目標の速度、距離、位置、性質の何れかの識別を行う。ドップラシフト特定手段は、本発明に係るレーダ装置と共に同じ移動体に搭載された速度センサまたは加速度センサを用いて前記波動信号が送信される方向における前記移動体または前記レーダ装置の速度を特定し、前記速度に応じて前記波動信号に生じるドップラシフトを特定する。前記レーダ装置に備えられた補正手段は、前記到来波の周波数を前記ドップラシフトに亘って補正し、前記補正の下で得られた到来波を前記識別に用いる。
【0022】
すなわち、本発明に係るレーダ装置が搭載された移動体の移動に応じて上記到来波の周波数に生じるドップラシフトは、この移動体に搭載されている速度センサまたは加速度センサを用いて得られる目標方向の速度に基づいて特定され、かつ補正される。
【0023】
請求項3に記載の発明では、波動信号に応じて目標から到来した到来波に基づいて前記目標の速度、距離、位置、性質の何れかの識別を行う。ドップラシフト特定手段は、本発明に係るレーダ装置と共に同じ移動体に搭載された速度センサまたは加速度センサを用いて前記波動信号が送信される方向における前記移動体または前記レーダ装置の速度を特定し、前記速度に応じて前記波動信号に生じるドップラシフトを特定する。前記レーダ装置に備えられた補正手段は、前記ドップラシフトの所定の比率で前記波動信号と前記到来波との周波数をそれぞれ補正し、前記補正の下で得られた到来波を前記識別に用いる。
【0024】
すなわち、本発明に係るレーダ装置が搭載された移動体の移動に応じて上記波動信号および到来波の周波数に生じるドップラシフトは、この移動体に搭載されている速度センサまたは加速度センサを用いて得られる目標方向の速度に基づいて特定され、かつ補正される。
【0025】
請求項4に記載の発明では、波動信号に応じて目標から到来した到来波に基づいて前記目標の速度、距離、位置、性質の何れかの識別を行う。ドップラシフト特定手段は、本発明に係るレーダ装置と共に同じ移動体に搭載された速度センサまたは加速度センサを用いて前記波動信号が送信される方向における前記移動体または前記レーダ装置の速度を特定し、前記速度に応じて前記波動信号に生じるドップラシフトを特定する。前記レーダ装置に備えられた補正手段は、既定の係数(≠0)と前記ドップラシフトとの積に亘って前記波動信号の周波数を補正し、「1」と前記係数との差と前記ドップラシフトとの積に亘って前記到来波の周波数を補正し、前記補正の下で得られた到来波を前記識別に用いる。
【0026】
すなわち、本発明に係るレーダ装置が搭載された移動体の移動に応じて上記波動信号および到来波の周波数に生じるドップラシフトは、この移動体に搭載されている速度センサまたは加速度センサを用いて得られる目標方向の速度に基づいて特定され、かつ補正される。さらに、その補正は、上記既定の係数で定まる多様な周波数帯域で実現可能である。
【0027】
請求項5に記載の発明では、請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載のレーダ装置に備えられたドップラシフト特定手段に、前記レーダ装置と共に同じ移動体に搭載された速度センサまたは加速度センサが与える速度または加速度を引き渡す。
【0028】
すなわち、請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載のレーダ装置と共に同じ移動体に搭載された速度センサまたは加速度センサと、そのレーダ装置に備えられたドップラシフト特定手段との間における連係は、このようなレーダ装置とは別体に構成されたセンサインタフェースを介して実現される。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、ドップラシフトに起因して目標の速度、距離、位置、性質に生じる誤差は、速度センサや加速度センサに相当するハードウェアを備えることなく、安定に精度よく圧縮される。
また、本発明によれば、上記誤差は、送信系の各段と受信系の各段との間における周波数軸上の制約に阻まれることなく、安定に精度よく圧縮される。
【0030】
さらに、本発明に係るレーダ装置は、センサインタフェースが予め組み込まれ、あるいは一体化されることに伴うコストや消費電力の増加が開始され、そのレーダ装置と共に同じ移動体に搭載され得る多様な速度センサや加速度センサとの連係が可能となる。
したがって、本発明が適用されたレーダ装置は、価格性能比および付加価値が高められ、かつ超高速で多様に移動する移動体に備えられた場合であっても、所望の目標の速度、距離、位置、性質の何れも高い精度で確度高く識別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第一の実施形態を示す図である。
【図2】本発明の第二の実施形態を示す図である。
【図3】本発明の第三の実施形態を示す図である。
【0032】
【図4】第一の実施形態の他の態様を示す図(1) である。
【図5】第一の実施形態の他の態様を示す図(2) である。
【図6】第二の実施形態の他の態様を示す図(1) である。
【図7】第二の実施形態の他の態様を示す図(2) である。
【図8】第二の実施形態の他の態様を示す図(3) である。
【図9】FM−CW方式が適用されたレーダ装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の第一の実施形態を示す図である。
図において、図9に示す従来例と機能および構成が同じ要素については、同じ符号を付与し、ここではその説明を省略する。
【0034】
本実施形態と図9に示す従来例との構成の相違点は、以下の要素が備えられた点にある。
(1) 方向性結合器42と電力制御器43との段間に配置された周波数変換器11
(2) 本実施例に係るレーダ装置が搭載された飛翔体にそのレーダ装置とは別体に備えられた加速度センサ(図示されない。)から加速度が与えられる誤差予測部12
(3) その誤差予測部12の出力に縦続接続され、かつ出力が上記周波数変換器11の局発入力に接続された可変周波発振器13
【0035】
以下、本実施形態の動作を説明する。
誤差予測部12は、地表の方向(以下、「地表方向」という。)と、その地表方向に送信アンテナ44Tから放射される送信波の周波数の公称値(以下、「公称周波数」という。)ftとが予め既知の情報として与えられ、以下の処理を行う。
【0036】
(1) 上記加速度センサによって与えられる加速度の成分の内、上記地表方向の成分を抽出して積分(例えば、移動平均法や指数平滑法に基づいて行われる。)することにより、地表方向における送信アンテナ44Tの速度vを時系列の順に求める。
(2) その速度vと上記公称周波数ftとに基づいて、送信波に生じるドップラシフトΔftを算出し、そのドップラシフトΔftを示す制御電圧を生成する。
【0037】
可変周波発振機器13は、この制御電圧に応じて上記Δftに等しい周波数の局発信号(以下、「補正用局発信号」という。)を生成する。
周波数変換器11は、方向性結合器42を介して与えられる送信波を上記補正用局発信号に基づいて周波数変換することにより、その送信波の周波数ftを(ft−Δft)に補正する。
【0038】
電力制御器43は、送信アンテナ44Tを介して地表の方向に、このようにして周波数が補正された送信波を送信する。
すなわち、送信波の周波数は、地表の方向に対する送信アンテナ44T(本発明に係るレーダ装置)の速度が急激に増減する場合であっても、その速度に応じて生じるドップラシフトが柔軟に差し引かれた値に維持される。
【0039】
したがって、本実施形態に係るレーダ装置が搭載された飛翔体の高度は、広範にあるいは多様に増減する期間においても、その飛翔体に搭載された加速度センサの活用により、安価に、かつ精度よく安定に求められる。
【0040】
図2は、本発明の第二の実施形態を示す図である。
図において、図1に示す要素と機能および構成が同じ要素については、同じ符号を付与し、ここではその説明を省略する。
【0041】
本実施形態と既述の第一の実施形態との構成の相違点は、以下の点にある。
(1) 受信アンテナ44Rの給電点と周波数変換器45との間に配置された周波数変換器21が周波数変換器11に代えて備えられる。
(2) 誤差予測部12に代えて誤差予測部22が備えられ、プロセッサ52によって出力された高度データがその誤差予測部22の制御端子に与えられる。
【0042】
以下、本実施形態の動作を説明する。
誤差予測部22には、地表方向と、地表から送信アンテナ44Tに到来する受信波の周波数の公称値(以下、「公称周波数」という。)frとが予め既知の情報として与えられ、以下の処理を行う。
【0043】
(1) 第一の実施形態における誤差予測部12と同様に、加速度センサによって与えられる加速度の地表方向の成分を抽出して積分することにより、地表方向における送信アンテナ44Tの速度vを時系列の順に求める。
(2) このような速度vをファーストイン・ファーストアウト方式のメモリ(図示されない。)に順次蓄積する。
【0044】
(3) 上記処理(1)、(2)に並行して、上記高度データを時系列の順に積分(例えば、指数平滑法に基づいて行われる。)することにより、地表に対する送信アンテナ44Tおよび受信アンテナ44Rの平均高度Havを求める。
(4) その平均高度Havの距離を既述の送信波と受信波とがそれぞれ伝搬するために所要する時間dを求め、上記メモリに蓄積された速度の内、その時間dに亘って先行して蓄積された速度vdを求めると共に、その速度vdと公称周波数frとに基づいて、送信波に生じるドップラシフトΔfrを算出し、そのドップラシフトΔfrを示す制御電圧を生成する。
【0045】
可変周波発振器13は、この制御電圧に応じて上記Δfrに等しい周波数の「補正用局発信号」を生成する。
周波数変換器21は、受信アンテナ44Rに到来した受信波を上記補正用局発信号に基づいて周波数変換することにより、その受信波の周波数frを(fr−Δfr)に補正して周波数変換器45に引き渡す。
【0046】
すなわち、受信波の周波数は、地表方向に対する送信アンテナ44T(本発明に係るレーダ装置)の速度が急激に増減する場合であっても、その速度に応じて生じるドップラシフトが柔軟に差し引かれた値に維持される。
したがって、本実施形態に係るレーダ装置が搭載された飛翔体の高度は、広範にあるいは多様に増減する期間においても、既述の第一の実施形態と同様に、その飛翔体に搭載された加速度センサの活用により、安価に、かつ精度よく安定に求められる。
【0047】
図3は、本発明の第三の実施形態を示す図である。
図において、図1に示す要素と機能および構成が同じ要素については、同じ符号を付与し、ここではその説明を省略する。
【0048】
本実施形態と既述の第一の実施形態との構成の相違点は、以下の点にある。
(1) 図1に示す可変周波発振器13および周波数変換器11が備えられず、方向性結合器42の出力が電力制御器43の入力に直接接続される。
(2) 誤差予測部12に代えて誤差予測部31が備えられる。
(3) 図1に示すプロセッサ52に代えてプロセッサ52Aが備えられ、そのプロセッサ52Aの特定の入力ポートに誤差予測部31の出力が接続される。
【0049】
以下、本実施形態の動作を説明する。
誤差予測部31は、地表方向と、公称周波数ftとが予め既知の情報として与えられ、第一の実施形態に備えられた誤差予測部11と同様に以下の処理を行う。
(1) 加速度センサによって与えられる加速度の地表方向の成分を抽出して積分することにより、地表方向における送信アンテナ44Tの速度vを時系列の順に求める。
(2) その速度vと上記公称周波数ftとに基づいて、送信波に生じるドップラシフトΔftを算出し、そのドップラシフトΔftをプロセッサ52Aに引き渡す。
【0050】
一方、鋸波発生器51は、従来例と同様に、既述の鋸波の瞬時値の先頭値pを「送信波と受信波とのビート周波数fbに比例した値に維持することにより、地表に対する送信アンテナ44T(受信アンテナ44R)の高度の変化に対する応答の高速性や測定精度を確保する。
【0051】
プロセッサ52Aは、以下の処理を行う。
(1) 上記ドップラシフトΔftを上記鋸波の瞬時値の偏差δに換算する。
(2) 上記鋸波の瞬時値の先頭値pと偏差δとの差(=p−δ)を既述の高度に換算して電力制御器43に引き渡し、その高度を示す高度データを生成する。
【0052】
すなわち、プロセッサ52Aの余剰の処理量が活用されることにより、図1に示す構成に比べて、可変周波発信器13および周波数変換器11が搭載されないことによる構成の簡略化が図られ、かつ誤差予測部31で行われるべき処理が誤差予測部12で行われる処理に比べて簡略化される。
【0053】
したがって、本実施形態によれば、既述の第一の実施形態に比べて、ハードウエアの規模およびコストの削減が図られる。
【0054】
なお、上述した第一の実施形態では、周波数変換器11は、以下の周波数変換器の何れで代替されてもよい。
(1) 図4に示すように、電力制御器43の出力と送信アンテナ44Tの給電点との間に配置された周波数変換器11A
(2) 図5に示すように、可変周波発振器41と方向性結合器42との段間に配置された周波数変換器11Bと、方向性結合器42と周波数変換器45との断簡に配置され、かつ上記周波数変換器11Bによって行われる周波数変換と逆の周波数変換を行う周波数変換器11Cとの対
【0055】
また、上述した第二の実施形態では、周波数変換器21は、以下の周波数変換器の何れで代替されてもよい。
(1) 図6に示すように、周波数変換器45と中間周波増幅器46との段間に配置された周波数変換器21A
【0056】
(2) 図7に示すように、方向性結合器42と周波数変換器45との段間に配置され、かつ上記周波数変換器21によって行われる周波数変換と逆の周波数変換を行う周波数変換器21B
(3) 図8に示すように、中間周波増幅器46の後段であって、ディスクリミネータ47および検波器48の前段に配置された周波数変換器21C
【0057】
さらに、上述した第一の実施形態および第二の実施形態では、送信波と受信波との何れか一方のみの周波数を調整することによって、既述のドップラシフトの補正が行われている。
【0058】
しかし、本発明は、このような構成に限定されず、例えば、第一の実施形態と第二の実施形態とが以下の何れかの形態で組み合わせられることにより構成されてもよい。
(1) ドップラシフトの補正のために行われる周波数変換が、送信波と受信波とにそれぞれ対応した以下の局発信号の周波数ftLOCAL 、frLOCALにより行われる。ただし、Kは、不等式(0<K<1)を満たす正数である。
ftLOCAL =K・Δft(または K・Δfr)
frLOCAL=(1−K)・Δft(または K・Δfr)
【0059】
(2) 上記局発信号の周波数ftLOCAL 、frLOCALが所望の実数R(≠0)に対して下式で与えられる。
ftLOCAL =R・Δft(またはR・Δfr)
frLOCAL=(1−R)・Δft(または(1−R)・Δfr)
【0060】
また、本発明は、FM−CWレーダに限定されず、例えば、スキャンが行われ、あるいは識別されるべき目標が位置し得る方向が自動または手動により切り替えられる可能性があるレーダ装置であっても、その方向が既知の情報として与えられるならば、同様に適用可能である。
【0061】
さらに、本発明は、例えば、二次レーダのように、送信波と受信波との周波数が異なるレーダ装置であっても、これらの送信波と受信波との双方もしくは何れか一方に生じるドップラシフトの絶対値の算出が可能であるならば、同様に適用可能である。
【0062】
また、本発明は、誤差予測部12、22、31は、レーダに組み込まれなくてもよく、例えば、図1〜図3に破線の枠で示すように、飛翔体に搭載された加速度センサと、本発明に係るレーダ装置とのインタフェースをとる別体の装置(以下、「センサインタフェース装置」という。)として構成されてもよい。
【0063】
さらに、このようなセンサインタフェース装置は、以下の何れの態様またはこれらの態様の組み合わせとして構成されてもよい。
(1) 既述の可変周波発振器13を含まない。
(2) 周波数変換器11(21)を有する。
【0064】
(3) 飛翔体に搭載された加速度センサとの物理的なインタフェースを実現する接続用部品を有する。
(4) 本発明に係るレーダ装置に対してアダプタとして装着可能もしくは着脱可能な機構を有する。
【0065】
また、上述した各実施形態では、誤差予測部11、21、31は、飛翔体や航空機に搭載された加速度センサではなく、これらの飛翔体や航空機に搭載された速度センサであってもよい。
【0066】
さらに、このような加速度センサや速度センサは、目標の方向のみの加速度や速度を計測するものであってもよい。
【0067】
また、本発明は、目標の速度、距離、位置、性質の何れかの識別のために用いられる波動信号は、電波でなくてもよく、例えば、(超)音波あるいは光信号であってもよい。
さらに、本発明は、目標の方向に送信波を送信するハードウェアは、必ずしも備えられなくてもよく、例えば、本発明に係るレーダ装置とは別体の装置に備えられ、あるいは異なるサイトに配置されてもよい。
【0068】
また、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の範囲において多様な実施形態の構成が可能であり、構成要素の全てまたは一部に如何なる改良が施されてもよい。
【0069】
以下、本願に開示された発明を整理し、「特許請求の範囲」および「課題を解決するための手段」の欄の記載に準じた様式により列記する。
【0070】
[請求項6] 請求項2ないし請求項4の何れか1項に記載のレーダ装置において、
前記波動信号と前記到来波との周波数が異なり、
前記補正手段は、
前記波動信号と前記到来波との周波数の相違を加味して前記到来波の周波数を補正する
ことを特徴とするレーダ装置。
【0071】
このような構成のレーダ装置では、請求項2ないし請求項4の何れか1項に記載のレーダ装置において、前記波動信号と前記到来波との周波数が異なる。前記補正手段は、前記波動信号と前記到来波との周波数の相違を加味して前記到来波の周波数を補正する。
【0072】
すなわち、本発明に係るレーダ装置は、二次レーダにも適用可能となる。
したがって、本発明は、多様な目標の測距および測位を柔軟に実現できる。
【0073】
[請求項7] 請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載のレーダ装置において、
前記ドップラシフト特定手段は、
前記方向の変更または変化に応答して前記速度を特定する
ことを特徴とするレーダ装置。
【0074】
このような構成のレーダ装置では、請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載のレーダ装置において、前記ドップラシフト特定手段は、前記方向の変更または変化に応答して前記速度を特定する。
【0075】
すなわち、本発明に係るレーダ装置は、必ずしも一定の方向には位置しない目標についても、速度、距離、位置、性質の識別を可能となる。
したがって、本発明は、電波高度計や接岸距離系だけではなく、スイープ動作を行う多様な方式のレーダにも適用できる。
【符号の説明】
【0076】
11,11A,11B,11C,21,21A,21B,21C,45 周波数変換器
12,22,31 誤差予測部
13,41 可変周波発振器
42 方向性結合器
43 電力制御器
44R 受信アンテナ
44T 送信アンテナ
46 中間周波増幅器
47 ディスクリミネータ
48 検波器
50 積分器
51 鋸波発生器
52,52A プロセッサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波動信号に応じて目標から到来した到来波に基づいて前記目標の速度、距離、位置、性質の何れかの識別を行うレーダ装置であって、
前記レーダ装置と共に同じ移動体に搭載された速度センサまたは加速度センサを用いて前記波動信号が送信される方向における前記移動体または前記レーダ装置の速度を特定し、前記速度に応じて前記波動信号に生じるドップラシフトを特定するドップラシフト特定手段を備え、
前記レーダ装置は、
前記波動信号の周波数を前記ドップラシフトに亘って補正する補正手段を有する
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
波動信号に応じて目標から到来した到来波に基づいて前記目標の速度、距離、位置、性質の何れかの識別を行うレーダ装置であって、
前記レーダ装置と共に同じ移動体に搭載された速度センサまたは加速度センサを用いて前記波動信号が送信される方向における前記移動体または前記レーダ装置の速度を特定し、前記速度に応じて前記波動信号に生じるドップラシフトを特定するドップラシフト特定手段を備え、
前記レーダ装置は、
前記到来波の周波数を前記ドップラシフトに亘って補正し、前記補正の下で得られた到来波を前記識別に用いる補正手段を有する
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
波動信号に応じて目標から到来した到来波に基づいて前記目標の速度、距離、位置、性質の何れかの識別を行うレーダ装置であって、
前記レーダ装置と共に同じ移動体に搭載された速度センサまたは加速度センサを用いて前記波動信号が送信される方向における前記移動体または前記レーダ装置の速度を特定し、前記速度に応じて前記波動信号に生じるドップラシフトを特定するドップラシフト特定手段を備え、
前記レーダ装置は、
前記ドップラシフトの所定の比率で前記波動信号と前記到来波との周波数をそれぞれ補正し、前記補正の下で得られた到来波を前記識別に用いる補正手段を有する
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
波動信号に応じて目標から到来した到来波に基づいて前記目標の速度、距離、位置、性質の何れかの識別を行うレーダ装置であって、
前記レーダ装置と共に同じ移動体に搭載された速度センサまたは加速度センサを用いて前記波動信号が送信される方向における前記移動体または前記レーダ装置の速度を特定し、前記速度に応じて前記波動信号に生じるドップラシフトを特定するドップラシフト特定手段を備え、
前記レーダ装置は、
既定の係数(≠0)と前記ドップラシフトとの積に亘って前記波動信号の周波数を補正し、「1」と前記係数との差と前記ドップラシフトとの積に亘って前記到来波の周波数を補正し、前記補正の下で得られた到来波を前記識別に用いる補正手段を有する
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載のレーダ装置に備えられたドップラシフト特定手段に、前記レーダ装置と共に同じ移動体に搭載された速度センサまたは加速度センサが与える速度または加速度を引き渡すことを特徴とするセンサインタフェース装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−185661(P2011−185661A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49398(P2010−49398)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】