レーダ装置の光軸調整方法
【課題】簡素な構成で且つ比較的に容易な方法に光軸調整を行うレーダ装置の光軸調整方法を提供する。
【解決手段】車体11に装着されたレーダ装置10は、車体11の正面方向に沿う基準軸101を有する。レーダ装置10に備えられたアンテナ装置20は光軸201を有する。アンテナ装置20は光軸201に直交し、車体11の正面に略平行な走査軸301に沿ってビーム走査しながら物体検知を行う。また、反射物体1は、基準軸101に直交し、走査軸301に略平行な移動軸100に沿って移動する。そして、光軸201を基準にして、検知結果に基づいて反射物体距離が極小となる方位を算出し、当該算出方位が基準軸101方向(方位0°)と一致するように補正を行う。
【解決手段】車体11に装着されたレーダ装置10は、車体11の正面方向に沿う基準軸101を有する。レーダ装置10に備えられたアンテナ装置20は光軸201を有する。アンテナ装置20は光軸201に直交し、車体11の正面に略平行な走査軸301に沿ってビーム走査しながら物体検知を行う。また、反射物体1は、基準軸101に直交し、走査軸301に略平行な移動軸100に沿って移動する。そして、光軸201を基準にして、検知結果に基づいて反射物体距離が極小となる方位を算出し、当該算出方位が基準軸101方向(方位0°)と一致するように補正を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーダ装置の光軸調整方法、特に、レーダ装置の検知角と実際の方位角との誤差をなくす補正を行う光軸調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、自動車の衝突回避を目的として、被装着体である車体にレーダ装置が設置されているものがある。このレーダ装置は、前方等の検知領域に放射面が向くアンテナ装置を備え、当該アンテナ装置から検知領域に電磁波を送信して、検知領域内の物体(例えば、先行車)からの反射波を受信し、送信波と受信波とを用いて物体の速度および距離を検知している。
【0003】
そして、このようなレーダ装置の基準軸およびこのレーダ装置が装着される車体の基準軸とアンテナの光軸とは一致させなければならず、特許文献1に示すような光軸の調整方法が各種考案されている。
【0004】
特許文献1では、レーダ装置(アンテナ装置)が装着された車体から所定距離(約20m〜40m)だけ離れた基準位置に受信アンテナを設置する。そして、この方法では、アンテナ装置から送信した送信波を受信アンテナで受信し、当該受信信号の電界強度分布に基づいてアンテナ装置の光軸を調整する。
【特許文献1】特開2001−174540公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の光軸調整方法では、光軸調整用の受信アンテナを約20m〜40mの距離でレーダ装置から離間して設置し、さらにこの受信アンテナによる受信強度分布から軸のズレ量を算出する処理装置をも別途設置しなければならなかった。さらには、正確な受信強度を得るためには、電波暗室のような場所で行わなければならなかった。このため、光軸調整のための測定システムが大掛かりなものになり、且つ非常に高価なものとなってしまう。さらには、このように、光軸のズレ量の計測系を別途用意することで、操作が煩雑になってしまう。
【0006】
したがって、この発明の目的は、簡素な構成で且つ比較的に容易な方法にて光軸調整を行うレーダ装置の光軸調整方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) この発明のレーダ装置の光軸調整方法は、検知領域に対して所定の基準軸を有するレーダ装置または該レーダ装置が装着された被装着体に備えられたアンテナ装置の光軸を、基準軸に一致させるものである。この光軸調整方法は、基準軸上でアンテナ装置から所定距離にある一点で基準軸に対して垂直に通過する軌道で反射物体を移動させる。アンテナ装置で反射物体の移動領域内に送信波を送信するとともに、当該送信波に対する反射物体の反射波を受信する。この光軸調整方法は、レーダ装置で得られる反射物体の検出結果の経時的変化に基づいて光軸と基準軸とのズレ量を検出することを特徴としている。
【0008】
この方法では、アンテナ装置から通常の検知と同様に検知領域に対して送信波を送信し、検知領域内からの反射波を受信する。反射物体が検知領域内の基準軸上で基準軸に対して垂直に通過する軌道で移動する(経時的位置変化が生じる)と、反射物体の経時的な位置変化に応じて反射波の信号強度や反射波到来方向(方位)が変化する。この時、レーダ装置で、この変化に応じた反射物体の距離や速度の経時的変化が検出される。この際、反射物体の位置(距離)や速度は送信タイミングと受信タイミングとの差や、送信周波数と受信周波数との差(ドップラ周波数)から算出され、基準軸方向で特徴的な値をとるため、検出値の経時的変化に基づいて光軸と基準軸とのズレ量が算出される。
【0009】
(2) また、この発明のレーダ装置の光軸調整方法は、レーダ装置で送信波と反射波とからアンテナ装置から反射物体までの距離変化を検出し、該検出された距離変化における距離の極小値が得られたときのレーダ装置での角度検出結果に基づいてズレ量を検出することを特徴としている。
【0010】
この方法では、具体的な経時的変化として距離変化を算出する。そして、基準軸上で反射物体がアンテナ装置に最も近づくことを利用し、算出した距離が極小値になる点を基準軸方向として光軸とのズレ量を算出する。
【0011】
(3) また、この発明のレーダ装置の光軸調整方法は、レーダ装置で送信波と反射波とからアンテナ装置に対する反射物体のドップラ速度変化を検出し、該検出されたドップラ速度の絶対値の極小値が得られたときのレーダ装置での角度検出結果に基づいてズレ量を検出することを特徴としている。
【0012】
この方法では、具体的な経時的変化としてドップラ速度変化を算出する。そして、基準軸上でアンテナ装置に対する反射物体のドップラ速度が「0」になることを利用し、算出したドップラ速度が極小値になる点を基準軸方向として光軸とのズレ量を算出する。
【0013】
(4) また、この発明のレーダ装置の光軸調整方法は、レーダ装置で、送信波と受信波とから、アンテナ装置から反射物体までの距離変化を検出し、この検出された距離変化における距離の極小値に対応する反射物体の位置と、反射波の受信強度の極大値に対応する反射物体の位置とを一致させる処理を行うことを特徴としている。
【0014】
この方法では、光軸方向からの受信信号強度が最も強いことを利用し、反射波の受信強度の極大な方向をアンテナ装置の光軸方向として検出する。そして、この受信信号強度により得られる光軸方向と、距離の極小値により得られる基準軸の方向とから、光軸と基準軸とのズレ量を算出する。
【0015】
(5) また、この発明のレーダ装置の光軸調整方法は、レーダ装置で、送信波と受信波とから、アンテナ装置に対する反射物体のドップラ速度変化を検出し、この検出されたドップラ速度の絶対値の極小値に対応する反射物体の位置と、反射波の受信強度の極大値に対応する反射物体の位置とを一致させる処理を行うことを特徴としている。
【0016】
この方法では、光軸方向からの受信信号強度が最も強いことを利用し、反射波の受信強度の極大な方向をアンテナ装置の光軸方向として検出する。そして、この受信信号強度により得られる光軸方向と、ドップラ速度の絶対値の極小値(「0」)により得られる基準軸の方向とから、光軸と基準軸とのズレ量を算出する。
【0017】
(6) また、この発明のレーダ装置の光軸調整方法は、アンテナ装置からビーム走査した送信波を送信し、ビーム走査の走査軸と光軸とを含む平面に平行な面内で反射物体を移動させ、走査軸と光軸とを含む平面に平行な方向に光軸調整を行うことを特徴としている。
【0018】
この方法では、アンテナ装置で送信波をビーム走査するレーダ装置に関して、ビームの走査軸と光軸とを含む平面に対して平行に反射物体を移動させる。これにより、各送信波ビームによりビーム走査軸に沿った反射物体の位置や位置変化すなわちアンテナ装置から反射物体までの距離やアンテナ装置に対する反射物体のドップラ速度が検出される。
【0019】
(7) また、この発明のレーダ装置の光軸調整方法は、アンテナ装置からビーム走査した送信波を送信し、該ビーム走査の走査軸と光軸とを含む平面に垂直な面内で反射物体を移動させ、走査軸と光軸とを含む平面に垂直な方向に光軸調整を行うことを特徴としている。
【0020】
この方法では、アンテナ装置で送信波をビーム走査するレーダ装置に関して、ビームの走査軸と光軸とを含む平面に対して垂直に反射物体を移動させる。これにより、各送信波ビームによりビーム走査軸に垂直な方向に沿った反射物体の位置や位置変化すなわちアンテナ装置から反射物体までの距離やアンテナ装置に対する反射物体のドップラ速度が検出される。
【0021】
(8) また、この発明のレーダ装置の光軸調整方法は、アンテナ装置からビーム走査した送信波を送信し、ビーム走査の走査軸を含む平面に平行な周回面で、円周状で且つ基準軸上で反射物体までの距離が最短となるように反射物体を移動させることを特徴としている。
【0022】
この方法では、ビーム走査軸に沿って反射物体を移動させるよりも円周状に反射物体を移動させる方が、基準軸上の位置から離れるに従い反射物体とアンテナ装置との距離が大きく変化する。
【0023】
(9) また、この発明のレーダ装置の光軸調整方法は、それぞれにアンテナ装置が備えられ各基準軸が平行である複数のレーダ装置を被装着体に装着し、該基準軸の並ぶ方向と平行に反射物体を移動させることを特徴としている。
【0024】
この方法では、複数のアンテナ装置のそれぞれで、移動する1つの反射物体の距離、ドップラ速度の検出が行われるので、それぞれのアンテナ装置に対して個別で且つ全てのアンテナ装置で同時に基準軸と光軸とのズレ量が検出される。
【発明の効果】
【0025】
この発明によれば、単に反射物体を所定方向に移動させるだけで光軸と基準軸とのズレ量が検出されるので、従来技術のような大がかりな測定システムを用いることなく、正確な光軸の調整を安価に行うことができる。
【0026】
また、この発明によれば、距離やドップラ速度のような通常の物体検知に利用する項目を用いて光軸のズレ量を検出するので、光軸ズレ量測定の専用の処理を行う必要がなくなり、簡素な方法で調整を行うことができる。
【0027】
また、この発明によれば、距離やドップラ速度の極小値を算出するとともに受信強度の極大値を算出し、これらに対応する方向を検出することで、光軸と基準軸とのズレ量を検出して光軸調整を行うことができる。
【0028】
また、この発明によれば、特に、ビーム走査軸に沿って反射物体を移動させることで、ビーム走査方向に平行な方向の反射物体の距離やドップラ速度が検出されるので、走査軸に平行な方向の光軸調整を行うことができる。
【0029】
また、この発明によれば、特に、ビーム走査軸に垂直な方向に沿って反射物体を移動させることで、ビーム走査方向に垂直な方向の反射物体の距離やドップラ速度が検出されるので、走査軸に垂直な方向であっても光軸と基準軸とのズレ量を検出して、光軸調整を行うことができる。
【0030】
また、この発明によれば、ビーム走査軸を含む面で円周状に物体を移動させることで、異なる反射物体の位置間での距離差やドップラ速度差が大きくなり、より正確で且つ小型なシステムで光軸と基準軸とのズレ量を検出することができる。
【0031】
また、この発明によれば、それぞれにアンテナ装置を備えた複数のレーダ装置で、光軸と基準軸とのズレ量を同時に検出することができる。これにより、複数のレーダ装置で同時に光軸調整を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の第1の実施形態に係るレーダ装置の光軸調整方法について図を参照して説明する。
図1は本実施形態に係るレーダ装置の光軸調整方法に用いる各装置および物体の関係を示す平面図である。なお、本実施形態では、レーダ装置の基準軸と被装着体である車体の基準軸とが一致しており、レーダ装置の基準軸とアンテナ装置の光軸とがずれている(一致していない)場合を示す。また、本実施形態では、レーダ装置として、FM−CW方式のレーダ装置を例に説明する。
車体11の前方端部付近には、当該車体11とレーダ装置10とが基準軸101を一致させるように設置されている。レーダ装置10の前方端部付近には、車体11の前方の検知領域に、周波数変調を行った連続波を送信して、当該検知領域に存在する反射物体1からの反射波を受信するアンテナ装置20が設置されている。
【0033】
アンテナ装置20は、検知領域に連続波を送信する送信アンテナ22と、検知領域からの反射波をそれぞれ受信する複数の受信アンテナ21A〜21Nとが設置されている。受信アンテナ21A〜21Nは、アンテナ装置20の正面方向に対して垂直な方向で且つ車体11の車幅方向に対して略平行な方向へ直線状に配列されている。これら受信アンテナ21A〜21Nで取得した反射波に基づく受信信号はレーダ装置20に与えられる。レーダ装置20は、各受信アンテナ21A〜21Nの受信信号に対して所定の位相差処理を行うことにより、それぞれに異なる方位を指向性中心軸とする受信ビーム31A〜31Iを形成する。そして、レーダ装置20は、受信ビーム31A〜31Iと送信信号とを用いてビーム毎のビート信号を生成し、検知領域内の反射物体1までの距離およびドップラ速度を検出する。
【0034】
これら受信ビーム31A〜31Iの指向性中心軸はアンテナ装置20に対して設計に応じた等角度間隔で扇形状に設定され、受信ビーム31A〜31Iで形成される扇形状ビーム領域の中心軸がアンテナ装置20の光軸201となる。また、この光軸201に垂直で前記扇形状ビーム領域の弦に平行な方向がビーム走査軸301となる。
【0035】
反射物体1は、金属球、金属板や、コーナリフレクタ等により形成され、アンテナ装置20から車体11の前方に所定距離離れた位置(例えば約5m)で基準軸101に垂直で且つビーム走査軸301に略平行な軸を移動軸100として移動する。この際、反射物体1は、少なくとも基準軸101と移動軸100との交点で、基準軸101に対して垂直に通過するように移動する。なお、反射物体1を移動させる機構は、レールやガイドを用いて反射物体1を搬送する機構や、ベルトコンベアにより搬送する機構等がある。
【0036】
次に、このような状況においてズレ角θを検出する方法を、図を参照して説明する。
図2(A)は、移動軸100上の反射物体1の位置とアンテナ装置20から反射物体1までの距離との関係を示した図であり、図2(B)は、図2(A)に対応した反射物体1の方位角とアンテナ装置20から反射物体1までの距離との関係を示した図である。図2において、実線は基準軸101と光軸201とが一致する場合を示し、破線は基準軸101と光軸201とがズレ角θでずれている場合を示す。また、図2(A)では、基準軸101と移動軸100との交点を移動軸100上での原点に設定し、図2(B)では、基準軸101と移動軸100との交点方向を方位角0°に設定している。また、この結果はアンテナ装置20から基準軸101上で5mの位置で反射物体1が通過するように反射物体1を設置した例を示す。
【0037】
反射物体1を移動軸100上に沿って移動させると、基準軸101に近接するほどアンテナ装置20と反射物体1との距離が短くなる。このため、反射物体距離は、移動軸100と基準軸101との交点の位置で極小になる。したがって、基準軸101と光軸201とが一致していれば、図2(A)の実線に示すように、移動軸100上の原点位置で反射物体距離が極小になり、これに対応する方向が基準軸101方向の位置となる。
【0038】
しかしながら、基準軸101と光軸201とが一致していなければ、このズレ角θに応じて、移動軸100上の原点ではない位置で反射物体距離が極小となる。例えば、図2(A)の破線に示すように、移動軸上の+約0.2m(図1の上側方向)の位置で、反射物体距離が極小になる。したがって、基準軸101と移動軸100との交点は、光軸201を基準(原点方向)とした場合に、移動軸100上の+約0.2mの位置になり、この点が基準軸101の位置となる。
【0039】
この結果、アンテナ装置20から5mの位置で光軸201と基準軸101とが約0.2mずれていることを検出することができる。このような状況での移動軸上のズレ量Lは、次式によりアンテナ装置20からの方位角θに換算することができる。
【0040】
θ=arctan(L/5)
例えば、ズレ量が前述の0.2mであれば、方位角θは、
θ=arctan(0.2/5)≒2.26°
となる。これはまさにレーダ装置10の基準軸101とアンテナ装置20の光軸201とのズレ角である。このような演算処理を行うことで、図2(A)に示すズレ量に関する結果が、図2(B)に示すズレ角に関する結果に変換される。
【0041】
このように算出された基準軸101と光軸201とのズレ角θに基づき、レーダ装置20は、光軸201すなわち全ての受信ビームにより形成される受信ビーム領域の中心方向を基準軸101と一致させるシフト処理を行う。例えば、図1、図2の場合であれば、光軸201を−2.26°(図1における上側方向)にシフトさせる。具体的には、アンテナ21A〜21Nで取得する受信信号からなる各受信ビーム信号に対して、前記ズレ量に対応するオフセット量を付加してから、物体の方位検出処理を行う。
【0042】
このような処理を行うことで、大がかりな測定システムを用いることなく、レーダ装置10の基準軸101と光軸201とを容易に一致させて、光軸補正を行うことができる。そして、基準軸101と光軸102とが一致することで、正確に物体の方位を検出することができる。
【0043】
また、本発明のように移動する反射物体を用いることにより、周囲の静止体との識別が容易であるため、測定用の大規模な施設を必要とすることがない。
【0044】
なお、前述の説明では、連続的な測定結果から極小値を算出する例を示したが、これら測定結果から近似的に二次曲線を算出して極小値を算出してもよい。
【0045】
より具体的には、測定結果は離散的に取得されるので、これらの測定結果から近似的に二次曲線等の偶関数を算出して、当該偶関数の極小値を算出する。このような近似関数による極小値の算出を行うことで、測定結果をそのまま用いた場合よりも高精度に極小値を算出することができ、ひいては、より高精度に光軸調整を行うことができる。さらに、算出した極小値を挟んで略同一距離となる二点の測定結果を抽出してそれぞれの角度を算出し、これら二つの測定結果の平均(中心)を極小点の角度とすることで、ノイズの影響を除去でき、さらに高精度にズレ角を検出することができる。
【0046】
図3は、測定結果のみの場合と近似処理を行った場合とにおける検知方位(光軸201に基づく方位)と反射物体方位(基準軸101に基づく方位)との関係を示した図である。図3において、破線は近似結果を表し、細実線は測定結果を表し、検知方位の軸は基準軸101に相当する。図3に示すように、測定結果のみを用いる方式では、他方位の測定値に関係なく、基準軸101と移動軸100との交点での測定値がそのままズレ量に設定されるが、近似を行うことにより、他方位の測定値をも含む複数の測定値により、交点でのズレ量が算出される。これにより、測定による誤差の影響を低減することができるので、より高精度に極小値を算出することができる。
【0047】
また、前述の説明では、レールやベルトコンベア等を用いて、反射物体1を移動軸100に沿って移動させる例を示したが、本実施形態の場合、連続的に移動させる必要はなく、移動軸100に沿って所定間隔で反射物体1を離散的に配置、移動させるようにしてもよい。この場合、図2に示すような連続的な曲線を得ることができないが、測定結果から近似的に二次曲線を算出して、極小値を算出すればよい。
【0048】
また、前述の説明では、反射物体1を移動軸100に沿って一方向に移動させた場合について示したが、移動軸100上を往復運動させる等、複数回に亘り測定を行い、測定結果を平均化することで、より高精度に極小値を算出することができる。さらに、この複数回の測定により得られる結果から近似的に二次関数を算出して極小値を算出すれば、測定による誤差の影響をさらに低減することができるので、より高精度に極小値を算出することができる。
【0049】
また、前述の説明では、レーダ装置の信号処理により基準軸と光軸とのズレを補正する方法を示したが、算出したズレ量に応じて、レーダ取り付け作業者が機構的にアンテナ装置を回動させ、光軸補正を行ってもよい。
【0050】
また、前述の説明では、反射物体1の移動軸100と基準軸101とが空間的に直交する例を示したが、図4に示すように、平面視した状態で直交するように反射物体1を移動させてもよい。図4は、移動軸100と基準軸101とが空間的に直交しない場合の概念図である。このように、移動軸100と基準軸101とが平面的に交差する位置で、双方に対し垂直な方向へ所定量オフセット(yoff)していてもよい。すなわち、移動軸100と基準軸101とが平面的に交差する位置で、反射物体1が基準軸101から所定距離離れた位置を通過するようにしてもよい。
【0051】
次に、第2の実施形態に係るレーダ装置の光軸調整方法について、図を参照して説明する。本実施形態は、第1の実施形態と構成は同じであるが、測定量としてドップラ速度を用いる。
図5は、移動軸100上の反射物体1の位置とアンテナ装置20に対する反射物体1のドップラ速度との関係を示した図である。図5において、実線は基準軸101と光軸201とが一致する場合を示し、破線は基準軸101と光軸201とが走査軸方向に所定角θでずれている場合を示す。また、この結果はアンテナ装置20から基準軸101上で5mの位置で反射物体1が時速10kmで移動する例を示す。
【0052】
第1の実施形態のように、アンテナ装置20の送信アンテナ22から連続波を送信し、各受信アンテナ21A〜21Nで反射波を受信すると、レーダ装置20は、ビート信号を生成し、ビート信号から既知の方法で、各測定位置でのドップラ速度を算出する。ここで、反射物体1が基準軸101に垂直な移動軸100上を移動するので、算出されるドップラ速度は基準軸101に近づくにつれて低くなり、基準軸101上で「0」になる。そして、基準軸101から離れるにつれて高くなる。このため、算出されたドップラ速度が「0」の位置が基準軸101との交点に相当する(図5の実線参照)。ここで、基準軸101と光軸201とが一致しなければ、図5の破線に示すように、所定の移動軸上位置でドップラ速度が「0」になる。この点が本来の基準軸101上の点になるので、この移動軸上位置のズレ量が、アンテナ装置20から5mの位置での基準軸101と光軸201とのズレ量となる。そして、このズレ量を前述の式でズレ角に換算することで、基準軸101と光軸201とのズレ角を算出することができる。これにより、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0053】
なお、本実施形態においても連続的な測定結果から極小値を算出する例を示したが、これら測定結果から近似的に一次関数等の奇関数を算出してゼロクロス点を算出してもよい。
【0054】
また、本実施形態においても、移動軸100上を一定速度で往復動させる等、複数回に亘り測定を行い、測定結果を平均化してからゼロクロス点を算出しても良く、より高精度に極小値を算出することができる。
【0055】
また、基準軸101との交点に対して、対称の位置でのドップラ速度は、絶対値が同じで、符号が異なるだけであるので、符号の異なるドップラ速度となる移動軸上の二つの位置を平均化して得られる位置からズレ量を算出しても良い。
【0056】
また、第1の実施形態のように、平面視した状態で基準軸と移動軸とが直交すれば、基準軸に対して所定のオフセットがあっても良い。
【0057】
次に、第3の実施形態に係るレーダ装置の光軸調整方法について、図を参照して説明する。
図6(A)は、本実施形態に係るレーダ装置の光軸調整方法に用いる各装置および物体の関係を示す平面図であり、図6(B)はその側面図である。
図6に示すように、本実施形態では、移動軸100が基準軸101および光軸201に対して垂直で且つ走査軸301に対しても垂直である場合を示し、他の構成は第1の実施形態の図1と同じである。
【0058】
このような処理の場合でも、受信ビーム31(31A〜31I)は、所定のビーム広がりを有するので、走査軸301および光軸201に対して垂直な方向に移動する反射物体1の距離および速度を検出することができる。したがって、前述の走査軸301と移動軸101とが略平行な場合(図2、図3)と同様に、反射物体距離およびドップラ速度の測定結果を得ることができる。
【0059】
このとき、反射物体からの受信信号強度が極大になる方向は、走査軸を含む平面に対する光軸201に略一致する。そして、反射物体の距離が極小となる方向、またはドップラ速度の絶対値が極小となる方向は、基準軸101方向となる。このため、この受信信号強度が極大となる方向と距離またはドップラ速度の絶対値が極小となる方向とのズレが光軸のズレ量(ズレ角)になる。
【0060】
図7は、移動軸100と走査軸301とが直交する場合で、光軸201と基準軸101とが一致しない場合における、移動軸上位置に対する受信信号強度と反射物体距離との関係を示した図である。図7において、実線が反射物体距離を示し、破線が受信信号強度を示す。
【0061】
図7に示すように、受信信号強度は極大値を有し、反射物体距離は極小値を有する。受信信号強度の極大値は光軸201方向の受信ビームで反射物体1を検知した場合に対応するので、極大値となる移動軸上位置が光軸201方向の受信ビームで検知した時点に対応する。一方、反射物体距離の極小値は基準軸101を通過する時点で反射物体1を検知した場合に対応するので、極小値となる移動軸上位置が基準軸101方向に対応する。したがって、これら受信信号強度の極大値に対応する移動軸上位置と、反射物体距離の極小値に対応する移動軸上位置との差を算出し、角度変換すれば、光軸201と基準軸101とのズレ角を検出することができる。そして、このズレ角を用いて光軸を基準軸に一致させる補正(光軸調整)を行うことができる。そして、図7に示すように、光軸201と基準軸101とが一致しない場合、このズレ角に応じてレーダ取り付け作業者が機械的にアンテナ装置もしくはレーダ装置を回動させて光軸調整を行う。
【0062】
なお、本実施形態でも、前述の各実施形態に示したような、平均化、複数測定等を用いてより高精度にズレ角を算出することができる。
【0063】
また、本実施形態では移動軸方向に対してビームを走査させていない。したがって、本実施形態の方法は、ビーム走査を行わない測距のみを行うレーダ装置に対しても適用することができる。この際、ビーム走査を行わず、或る程度の広がりを有する受信信号で測距を行うが、移動軸上の各位置に対して複数回測定を行ったり、さらに受信信号強度特性や反射物体距離特性を近似する等の処理を行えば、受信信号の広がりによる誤差要因を低減することができ、正確にズレ量を算出することができる。
【0064】
次に、第4の実施形態に係るレーダ装置の光軸調整方法について、図を参照して説明する。
図8(A)は、本実施形態に係るレーダ装置の光軸調整方法に用いる各装置および物体の関係を示す平面図であり、図8(B)はその側面図である。
本実施形態のレーダ装置の光軸調整方法は、走査軸301を含む平面に平行な周回面を有する円軌道からなる移動軌道100’で反射物体1を移動させるものある。この際、反射物体1は移動軌道100’と基準軸101との交点で、基準軸101に対して直交して通過するように配置されている。これにより、基準軸101上で反射物体1までの距離が極小、または反射物体1のドップラ速度の絶対値が極小となる。この反射物体1は、前記円軌道となるように反射物体1を回動自在に支持する取り付け装置の回転軸を回転させることにより移動軌道100’に沿って所定角速度で移動する。そして、この取り付け装置としては、回転するアーム状部材を有するものや、反射物体1を載置可能な円盤状の部材を有するものを利用する。なお、その他の構成は、第1の実施形態に示したレーダ装置の光軸調整方法と同じである。
【0065】
このように、反射物体を円軌道で移動させる場合、アンテナ装置20から反射物体1までの距離X、およびアンテナ装置20に対する基準軸101を基準とした方位φは、図9のような関係になる。
【0066】
図9は円軌道の反射物体1の距離xおよび方位φの概念図である。図9において、Rはアンテナ装置20(レーダ装置10)から円軌道上におけるアンテナ装置20側の基準軸101との交点までの距離を示し、rは円軌道の半径を示し、ψは前記基準軸101との交点方向を基準とした円軌道の中心に対する反射物体の角度を示す。
【0067】
このような場合、反射物体1の距離x、方位θは、それぞれ次式で表すことができる。
【0068】
x=SQRT{(R+r)2+r2−2・(R+r)・r・cosψ}
φ=arcsin(r・sinψ/x)
これに基づいてR=5(m)、r=0.2(m)の場合における反射物体1の角度ψに対する距離xを算出すると図10の関係が得られる。
【0069】
図10は、反射物体1の方位φと距離xとの関係式を示したものである。
【0070】
このように、反射物体1を回動させることにより、少ない角度(方位)変化で距離xの変化量を大きく得られるので、前述の第1の実施形態のように直線状に反射物体1を移動させるよりも、光軸201と基準軸101とのずれ角による距離の変化量を大きくとることができる。これにより、小型の構成で高精度にズレ角を検出することができる。
【0071】
なお、この際、距離xとは別に反射物体1のドップラ速度Vdopを算出して利用することもできる。
【0072】
図11は反射物体1のドップラ速度Vdopおよび方位φの概念図である。なお、図9と同じ要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0073】
このような場合、反射物体1のドップラ速度Vdopは、角速度をωとした場合に、次式で表すことができる。
【0074】
Vdop=ω・r・cos(π/2−ψ−φ)
これに基づいてR=5(m)、r=0.2(m)、ω=2π(rad/s)の場合における反射物体1の方位φに対するドップラ速度Vdopを算出すると図12の関係が得られる。
【0075】
図12は反射物体1の方位φとドップラ速度Vdopとの関係式を示したものである。
このように、反射物体1を回動させることにより、少ない角度(方位)変化でドップラ速度Vdopの変化量を大きく得られるので、前述の第2の実施形態のように直線状に反射物体1を移動させるよりも、光軸201と基準軸101とのずれ角によるドップラ速度の変化量を大きくとることができる。これにより、小型の構成で高精度にズレ角を検出することができる。
【0076】
次に、第5の実施形態に係るレーダ装置の光軸調整方法を、図を参照して説明する。
図13は本実施形態に係る複数のレーダ装置の光軸調整方法の概念図である。
図14は1つの車体に複数のレーダ装置を装着し、これらレーダ装置の光軸調整を行う場合の概念図である。
【0077】
前述の第1の実施形態では、車体に対して1つのレーダ装置(アンテナ装置)を装着した場合について説明したが、本実施形態は、レーダ装置数(アンテナ装置数)を複数として、第1の実施形態に示したレーダ装置(アンテナ装置)の光軸調整を行うものである。
【0078】
図13に示すように、複数のレーダ装置10A〜10Eに対してアンテナ装置の光軸201A〜201Eを調整する場合、全ての装置の基準軸101が平行になるように、全てのレーダ装置10A〜10Eを配置する。そして、これらレーダ装置10A〜10Eの配列方向に平行に移動軸100を設定して、全てのレーダ装置10A〜10Eの受信ビーム領域を通過するように、反射物体1を移動させる。
【0079】
このような構成とすることで、レーダ装置10A〜10Eのそれぞれが第1の実施形態のレーダ装置10に対応するので、それぞれのレーダ装置10A〜10Eで、第1の実施形態のズレ角の補正処理を行えば、全てのレーダ装置10A〜10Eを同時に光軸調整することができる。
【0080】
また、図14に示すように、車体11の正面にレーダ装置10B〜10Dを設置し、側面にレーダ装置10A、10Eを設置する場合には、車体11の正面方向を基準軸101方向に設定する。さらに、車体11の幅方向に平行で、基準軸101に垂直な方向を移動軸100に設定する。そして、この移動軸100に沿って反射物体1を移動させれば、レーダ装置10A〜10Eを同時に光軸調整することができる。
【0081】
なお、前述の各実施形態では、アンテナ装置の光軸をレーダ装置および被装着体の基準軸に一致させる場合を示したが、アンテナ装置とレーダ装置とが固定であり、レーダ装置と被装着体との位置関係を補正するできる場合には、レーダ装置の光軸を被装着体の基準軸に一致させる処理を行えばよい。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】第1の実施形態に係るレーダ装置の光軸調整方法に用いる各装置および物体の関係を示す平面図である。
【図2】移動軸100上の反射物体1の位置とアンテナ装置20から反射物体1までの距離との関係を示した図、反射物体1の方位角とアンテナ装置20から反射物体1までの距離との関係を示した図である。
【図3】測定結果のみの場合と近似処理を行った場合とにおける検知方位(光軸201に基づく方位)と反射物体方位(基準軸101に基づく方位)との関係を示した図である。
【図4】移動軸100と基準軸101とが空間的に直交しない場合の概念図である。
【図5】第2に実施形態に係る移動軸100上の反射物体1の位置とアンテナ装置20に対する反射物体1のドップラ速度との関係を示した図である。
【図6】第3の実施形態に係るレーダ装置の光軸調整方法に用いる各装置および物体の関係を示す平面図および側面図である。
【図7】移動軸100と走査軸301とが直交する場合で、光軸201と基準軸101とが一致しない場合における、移動軸上位置に対する受信信号強度と反射物体距離との関係を示した図である。
【図8】第4の実施形態に係るレーダ装置の光軸調整方法に用いる各装置および物体の関係を示す平面図および側面図である。
【図9】円軌道の反射物体1の距離xおよび方位φの概念図である。
【図10】反射物体1の方位φと距離xとの関係式を示したものである。
【図11】反射物体1のドップラ速度Vdopおよび方位φの概念図である。
【図12】反射物体1の方位φとドップラ速度Vdopとの関係式を示したものである。
【図13】第5の実施形態に係る複数のレーダ装置の光軸調整方法の概念図である。
【図14】1つの車体に複数のレーダ装置を装着し、これらレーダ装置の光軸調整を行う場合の概念図である。
【符号の説明】
【0083】
1−反射物体、10,10A〜10E−レーダ装置、20−アンテナ装置、21,21A〜21N−受信アンテナ、22−送信アンテナ、31,31A〜31I−受信ビーム、
100−移動軸、100’−移動軌道、101−基準軸、201,201A〜201E−光軸、301−走査軸
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーダ装置の光軸調整方法、特に、レーダ装置の検知角と実際の方位角との誤差をなくす補正を行う光軸調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、自動車の衝突回避を目的として、被装着体である車体にレーダ装置が設置されているものがある。このレーダ装置は、前方等の検知領域に放射面が向くアンテナ装置を備え、当該アンテナ装置から検知領域に電磁波を送信して、検知領域内の物体(例えば、先行車)からの反射波を受信し、送信波と受信波とを用いて物体の速度および距離を検知している。
【0003】
そして、このようなレーダ装置の基準軸およびこのレーダ装置が装着される車体の基準軸とアンテナの光軸とは一致させなければならず、特許文献1に示すような光軸の調整方法が各種考案されている。
【0004】
特許文献1では、レーダ装置(アンテナ装置)が装着された車体から所定距離(約20m〜40m)だけ離れた基準位置に受信アンテナを設置する。そして、この方法では、アンテナ装置から送信した送信波を受信アンテナで受信し、当該受信信号の電界強度分布に基づいてアンテナ装置の光軸を調整する。
【特許文献1】特開2001−174540公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の光軸調整方法では、光軸調整用の受信アンテナを約20m〜40mの距離でレーダ装置から離間して設置し、さらにこの受信アンテナによる受信強度分布から軸のズレ量を算出する処理装置をも別途設置しなければならなかった。さらには、正確な受信強度を得るためには、電波暗室のような場所で行わなければならなかった。このため、光軸調整のための測定システムが大掛かりなものになり、且つ非常に高価なものとなってしまう。さらには、このように、光軸のズレ量の計測系を別途用意することで、操作が煩雑になってしまう。
【0006】
したがって、この発明の目的は、簡素な構成で且つ比較的に容易な方法にて光軸調整を行うレーダ装置の光軸調整方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) この発明のレーダ装置の光軸調整方法は、検知領域に対して所定の基準軸を有するレーダ装置または該レーダ装置が装着された被装着体に備えられたアンテナ装置の光軸を、基準軸に一致させるものである。この光軸調整方法は、基準軸上でアンテナ装置から所定距離にある一点で基準軸に対して垂直に通過する軌道で反射物体を移動させる。アンテナ装置で反射物体の移動領域内に送信波を送信するとともに、当該送信波に対する反射物体の反射波を受信する。この光軸調整方法は、レーダ装置で得られる反射物体の検出結果の経時的変化に基づいて光軸と基準軸とのズレ量を検出することを特徴としている。
【0008】
この方法では、アンテナ装置から通常の検知と同様に検知領域に対して送信波を送信し、検知領域内からの反射波を受信する。反射物体が検知領域内の基準軸上で基準軸に対して垂直に通過する軌道で移動する(経時的位置変化が生じる)と、反射物体の経時的な位置変化に応じて反射波の信号強度や反射波到来方向(方位)が変化する。この時、レーダ装置で、この変化に応じた反射物体の距離や速度の経時的変化が検出される。この際、反射物体の位置(距離)や速度は送信タイミングと受信タイミングとの差や、送信周波数と受信周波数との差(ドップラ周波数)から算出され、基準軸方向で特徴的な値をとるため、検出値の経時的変化に基づいて光軸と基準軸とのズレ量が算出される。
【0009】
(2) また、この発明のレーダ装置の光軸調整方法は、レーダ装置で送信波と反射波とからアンテナ装置から反射物体までの距離変化を検出し、該検出された距離変化における距離の極小値が得られたときのレーダ装置での角度検出結果に基づいてズレ量を検出することを特徴としている。
【0010】
この方法では、具体的な経時的変化として距離変化を算出する。そして、基準軸上で反射物体がアンテナ装置に最も近づくことを利用し、算出した距離が極小値になる点を基準軸方向として光軸とのズレ量を算出する。
【0011】
(3) また、この発明のレーダ装置の光軸調整方法は、レーダ装置で送信波と反射波とからアンテナ装置に対する反射物体のドップラ速度変化を検出し、該検出されたドップラ速度の絶対値の極小値が得られたときのレーダ装置での角度検出結果に基づいてズレ量を検出することを特徴としている。
【0012】
この方法では、具体的な経時的変化としてドップラ速度変化を算出する。そして、基準軸上でアンテナ装置に対する反射物体のドップラ速度が「0」になることを利用し、算出したドップラ速度が極小値になる点を基準軸方向として光軸とのズレ量を算出する。
【0013】
(4) また、この発明のレーダ装置の光軸調整方法は、レーダ装置で、送信波と受信波とから、アンテナ装置から反射物体までの距離変化を検出し、この検出された距離変化における距離の極小値に対応する反射物体の位置と、反射波の受信強度の極大値に対応する反射物体の位置とを一致させる処理を行うことを特徴としている。
【0014】
この方法では、光軸方向からの受信信号強度が最も強いことを利用し、反射波の受信強度の極大な方向をアンテナ装置の光軸方向として検出する。そして、この受信信号強度により得られる光軸方向と、距離の極小値により得られる基準軸の方向とから、光軸と基準軸とのズレ量を算出する。
【0015】
(5) また、この発明のレーダ装置の光軸調整方法は、レーダ装置で、送信波と受信波とから、アンテナ装置に対する反射物体のドップラ速度変化を検出し、この検出されたドップラ速度の絶対値の極小値に対応する反射物体の位置と、反射波の受信強度の極大値に対応する反射物体の位置とを一致させる処理を行うことを特徴としている。
【0016】
この方法では、光軸方向からの受信信号強度が最も強いことを利用し、反射波の受信強度の極大な方向をアンテナ装置の光軸方向として検出する。そして、この受信信号強度により得られる光軸方向と、ドップラ速度の絶対値の極小値(「0」)により得られる基準軸の方向とから、光軸と基準軸とのズレ量を算出する。
【0017】
(6) また、この発明のレーダ装置の光軸調整方法は、アンテナ装置からビーム走査した送信波を送信し、ビーム走査の走査軸と光軸とを含む平面に平行な面内で反射物体を移動させ、走査軸と光軸とを含む平面に平行な方向に光軸調整を行うことを特徴としている。
【0018】
この方法では、アンテナ装置で送信波をビーム走査するレーダ装置に関して、ビームの走査軸と光軸とを含む平面に対して平行に反射物体を移動させる。これにより、各送信波ビームによりビーム走査軸に沿った反射物体の位置や位置変化すなわちアンテナ装置から反射物体までの距離やアンテナ装置に対する反射物体のドップラ速度が検出される。
【0019】
(7) また、この発明のレーダ装置の光軸調整方法は、アンテナ装置からビーム走査した送信波を送信し、該ビーム走査の走査軸と光軸とを含む平面に垂直な面内で反射物体を移動させ、走査軸と光軸とを含む平面に垂直な方向に光軸調整を行うことを特徴としている。
【0020】
この方法では、アンテナ装置で送信波をビーム走査するレーダ装置に関して、ビームの走査軸と光軸とを含む平面に対して垂直に反射物体を移動させる。これにより、各送信波ビームによりビーム走査軸に垂直な方向に沿った反射物体の位置や位置変化すなわちアンテナ装置から反射物体までの距離やアンテナ装置に対する反射物体のドップラ速度が検出される。
【0021】
(8) また、この発明のレーダ装置の光軸調整方法は、アンテナ装置からビーム走査した送信波を送信し、ビーム走査の走査軸を含む平面に平行な周回面で、円周状で且つ基準軸上で反射物体までの距離が最短となるように反射物体を移動させることを特徴としている。
【0022】
この方法では、ビーム走査軸に沿って反射物体を移動させるよりも円周状に反射物体を移動させる方が、基準軸上の位置から離れるに従い反射物体とアンテナ装置との距離が大きく変化する。
【0023】
(9) また、この発明のレーダ装置の光軸調整方法は、それぞれにアンテナ装置が備えられ各基準軸が平行である複数のレーダ装置を被装着体に装着し、該基準軸の並ぶ方向と平行に反射物体を移動させることを特徴としている。
【0024】
この方法では、複数のアンテナ装置のそれぞれで、移動する1つの反射物体の距離、ドップラ速度の検出が行われるので、それぞれのアンテナ装置に対して個別で且つ全てのアンテナ装置で同時に基準軸と光軸とのズレ量が検出される。
【発明の効果】
【0025】
この発明によれば、単に反射物体を所定方向に移動させるだけで光軸と基準軸とのズレ量が検出されるので、従来技術のような大がかりな測定システムを用いることなく、正確な光軸の調整を安価に行うことができる。
【0026】
また、この発明によれば、距離やドップラ速度のような通常の物体検知に利用する項目を用いて光軸のズレ量を検出するので、光軸ズレ量測定の専用の処理を行う必要がなくなり、簡素な方法で調整を行うことができる。
【0027】
また、この発明によれば、距離やドップラ速度の極小値を算出するとともに受信強度の極大値を算出し、これらに対応する方向を検出することで、光軸と基準軸とのズレ量を検出して光軸調整を行うことができる。
【0028】
また、この発明によれば、特に、ビーム走査軸に沿って反射物体を移動させることで、ビーム走査方向に平行な方向の反射物体の距離やドップラ速度が検出されるので、走査軸に平行な方向の光軸調整を行うことができる。
【0029】
また、この発明によれば、特に、ビーム走査軸に垂直な方向に沿って反射物体を移動させることで、ビーム走査方向に垂直な方向の反射物体の距離やドップラ速度が検出されるので、走査軸に垂直な方向であっても光軸と基準軸とのズレ量を検出して、光軸調整を行うことができる。
【0030】
また、この発明によれば、ビーム走査軸を含む面で円周状に物体を移動させることで、異なる反射物体の位置間での距離差やドップラ速度差が大きくなり、より正確で且つ小型なシステムで光軸と基準軸とのズレ量を検出することができる。
【0031】
また、この発明によれば、それぞれにアンテナ装置を備えた複数のレーダ装置で、光軸と基準軸とのズレ量を同時に検出することができる。これにより、複数のレーダ装置で同時に光軸調整を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の第1の実施形態に係るレーダ装置の光軸調整方法について図を参照して説明する。
図1は本実施形態に係るレーダ装置の光軸調整方法に用いる各装置および物体の関係を示す平面図である。なお、本実施形態では、レーダ装置の基準軸と被装着体である車体の基準軸とが一致しており、レーダ装置の基準軸とアンテナ装置の光軸とがずれている(一致していない)場合を示す。また、本実施形態では、レーダ装置として、FM−CW方式のレーダ装置を例に説明する。
車体11の前方端部付近には、当該車体11とレーダ装置10とが基準軸101を一致させるように設置されている。レーダ装置10の前方端部付近には、車体11の前方の検知領域に、周波数変調を行った連続波を送信して、当該検知領域に存在する反射物体1からの反射波を受信するアンテナ装置20が設置されている。
【0033】
アンテナ装置20は、検知領域に連続波を送信する送信アンテナ22と、検知領域からの反射波をそれぞれ受信する複数の受信アンテナ21A〜21Nとが設置されている。受信アンテナ21A〜21Nは、アンテナ装置20の正面方向に対して垂直な方向で且つ車体11の車幅方向に対して略平行な方向へ直線状に配列されている。これら受信アンテナ21A〜21Nで取得した反射波に基づく受信信号はレーダ装置20に与えられる。レーダ装置20は、各受信アンテナ21A〜21Nの受信信号に対して所定の位相差処理を行うことにより、それぞれに異なる方位を指向性中心軸とする受信ビーム31A〜31Iを形成する。そして、レーダ装置20は、受信ビーム31A〜31Iと送信信号とを用いてビーム毎のビート信号を生成し、検知領域内の反射物体1までの距離およびドップラ速度を検出する。
【0034】
これら受信ビーム31A〜31Iの指向性中心軸はアンテナ装置20に対して設計に応じた等角度間隔で扇形状に設定され、受信ビーム31A〜31Iで形成される扇形状ビーム領域の中心軸がアンテナ装置20の光軸201となる。また、この光軸201に垂直で前記扇形状ビーム領域の弦に平行な方向がビーム走査軸301となる。
【0035】
反射物体1は、金属球、金属板や、コーナリフレクタ等により形成され、アンテナ装置20から車体11の前方に所定距離離れた位置(例えば約5m)で基準軸101に垂直で且つビーム走査軸301に略平行な軸を移動軸100として移動する。この際、反射物体1は、少なくとも基準軸101と移動軸100との交点で、基準軸101に対して垂直に通過するように移動する。なお、反射物体1を移動させる機構は、レールやガイドを用いて反射物体1を搬送する機構や、ベルトコンベアにより搬送する機構等がある。
【0036】
次に、このような状況においてズレ角θを検出する方法を、図を参照して説明する。
図2(A)は、移動軸100上の反射物体1の位置とアンテナ装置20から反射物体1までの距離との関係を示した図であり、図2(B)は、図2(A)に対応した反射物体1の方位角とアンテナ装置20から反射物体1までの距離との関係を示した図である。図2において、実線は基準軸101と光軸201とが一致する場合を示し、破線は基準軸101と光軸201とがズレ角θでずれている場合を示す。また、図2(A)では、基準軸101と移動軸100との交点を移動軸100上での原点に設定し、図2(B)では、基準軸101と移動軸100との交点方向を方位角0°に設定している。また、この結果はアンテナ装置20から基準軸101上で5mの位置で反射物体1が通過するように反射物体1を設置した例を示す。
【0037】
反射物体1を移動軸100上に沿って移動させると、基準軸101に近接するほどアンテナ装置20と反射物体1との距離が短くなる。このため、反射物体距離は、移動軸100と基準軸101との交点の位置で極小になる。したがって、基準軸101と光軸201とが一致していれば、図2(A)の実線に示すように、移動軸100上の原点位置で反射物体距離が極小になり、これに対応する方向が基準軸101方向の位置となる。
【0038】
しかしながら、基準軸101と光軸201とが一致していなければ、このズレ角θに応じて、移動軸100上の原点ではない位置で反射物体距離が極小となる。例えば、図2(A)の破線に示すように、移動軸上の+約0.2m(図1の上側方向)の位置で、反射物体距離が極小になる。したがって、基準軸101と移動軸100との交点は、光軸201を基準(原点方向)とした場合に、移動軸100上の+約0.2mの位置になり、この点が基準軸101の位置となる。
【0039】
この結果、アンテナ装置20から5mの位置で光軸201と基準軸101とが約0.2mずれていることを検出することができる。このような状況での移動軸上のズレ量Lは、次式によりアンテナ装置20からの方位角θに換算することができる。
【0040】
θ=arctan(L/5)
例えば、ズレ量が前述の0.2mであれば、方位角θは、
θ=arctan(0.2/5)≒2.26°
となる。これはまさにレーダ装置10の基準軸101とアンテナ装置20の光軸201とのズレ角である。このような演算処理を行うことで、図2(A)に示すズレ量に関する結果が、図2(B)に示すズレ角に関する結果に変換される。
【0041】
このように算出された基準軸101と光軸201とのズレ角θに基づき、レーダ装置20は、光軸201すなわち全ての受信ビームにより形成される受信ビーム領域の中心方向を基準軸101と一致させるシフト処理を行う。例えば、図1、図2の場合であれば、光軸201を−2.26°(図1における上側方向)にシフトさせる。具体的には、アンテナ21A〜21Nで取得する受信信号からなる各受信ビーム信号に対して、前記ズレ量に対応するオフセット量を付加してから、物体の方位検出処理を行う。
【0042】
このような処理を行うことで、大がかりな測定システムを用いることなく、レーダ装置10の基準軸101と光軸201とを容易に一致させて、光軸補正を行うことができる。そして、基準軸101と光軸102とが一致することで、正確に物体の方位を検出することができる。
【0043】
また、本発明のように移動する反射物体を用いることにより、周囲の静止体との識別が容易であるため、測定用の大規模な施設を必要とすることがない。
【0044】
なお、前述の説明では、連続的な測定結果から極小値を算出する例を示したが、これら測定結果から近似的に二次曲線を算出して極小値を算出してもよい。
【0045】
より具体的には、測定結果は離散的に取得されるので、これらの測定結果から近似的に二次曲線等の偶関数を算出して、当該偶関数の極小値を算出する。このような近似関数による極小値の算出を行うことで、測定結果をそのまま用いた場合よりも高精度に極小値を算出することができ、ひいては、より高精度に光軸調整を行うことができる。さらに、算出した極小値を挟んで略同一距離となる二点の測定結果を抽出してそれぞれの角度を算出し、これら二つの測定結果の平均(中心)を極小点の角度とすることで、ノイズの影響を除去でき、さらに高精度にズレ角を検出することができる。
【0046】
図3は、測定結果のみの場合と近似処理を行った場合とにおける検知方位(光軸201に基づく方位)と反射物体方位(基準軸101に基づく方位)との関係を示した図である。図3において、破線は近似結果を表し、細実線は測定結果を表し、検知方位の軸は基準軸101に相当する。図3に示すように、測定結果のみを用いる方式では、他方位の測定値に関係なく、基準軸101と移動軸100との交点での測定値がそのままズレ量に設定されるが、近似を行うことにより、他方位の測定値をも含む複数の測定値により、交点でのズレ量が算出される。これにより、測定による誤差の影響を低減することができるので、より高精度に極小値を算出することができる。
【0047】
また、前述の説明では、レールやベルトコンベア等を用いて、反射物体1を移動軸100に沿って移動させる例を示したが、本実施形態の場合、連続的に移動させる必要はなく、移動軸100に沿って所定間隔で反射物体1を離散的に配置、移動させるようにしてもよい。この場合、図2に示すような連続的な曲線を得ることができないが、測定結果から近似的に二次曲線を算出して、極小値を算出すればよい。
【0048】
また、前述の説明では、反射物体1を移動軸100に沿って一方向に移動させた場合について示したが、移動軸100上を往復運動させる等、複数回に亘り測定を行い、測定結果を平均化することで、より高精度に極小値を算出することができる。さらに、この複数回の測定により得られる結果から近似的に二次関数を算出して極小値を算出すれば、測定による誤差の影響をさらに低減することができるので、より高精度に極小値を算出することができる。
【0049】
また、前述の説明では、レーダ装置の信号処理により基準軸と光軸とのズレを補正する方法を示したが、算出したズレ量に応じて、レーダ取り付け作業者が機構的にアンテナ装置を回動させ、光軸補正を行ってもよい。
【0050】
また、前述の説明では、反射物体1の移動軸100と基準軸101とが空間的に直交する例を示したが、図4に示すように、平面視した状態で直交するように反射物体1を移動させてもよい。図4は、移動軸100と基準軸101とが空間的に直交しない場合の概念図である。このように、移動軸100と基準軸101とが平面的に交差する位置で、双方に対し垂直な方向へ所定量オフセット(yoff)していてもよい。すなわち、移動軸100と基準軸101とが平面的に交差する位置で、反射物体1が基準軸101から所定距離離れた位置を通過するようにしてもよい。
【0051】
次に、第2の実施形態に係るレーダ装置の光軸調整方法について、図を参照して説明する。本実施形態は、第1の実施形態と構成は同じであるが、測定量としてドップラ速度を用いる。
図5は、移動軸100上の反射物体1の位置とアンテナ装置20に対する反射物体1のドップラ速度との関係を示した図である。図5において、実線は基準軸101と光軸201とが一致する場合を示し、破線は基準軸101と光軸201とが走査軸方向に所定角θでずれている場合を示す。また、この結果はアンテナ装置20から基準軸101上で5mの位置で反射物体1が時速10kmで移動する例を示す。
【0052】
第1の実施形態のように、アンテナ装置20の送信アンテナ22から連続波を送信し、各受信アンテナ21A〜21Nで反射波を受信すると、レーダ装置20は、ビート信号を生成し、ビート信号から既知の方法で、各測定位置でのドップラ速度を算出する。ここで、反射物体1が基準軸101に垂直な移動軸100上を移動するので、算出されるドップラ速度は基準軸101に近づくにつれて低くなり、基準軸101上で「0」になる。そして、基準軸101から離れるにつれて高くなる。このため、算出されたドップラ速度が「0」の位置が基準軸101との交点に相当する(図5の実線参照)。ここで、基準軸101と光軸201とが一致しなければ、図5の破線に示すように、所定の移動軸上位置でドップラ速度が「0」になる。この点が本来の基準軸101上の点になるので、この移動軸上位置のズレ量が、アンテナ装置20から5mの位置での基準軸101と光軸201とのズレ量となる。そして、このズレ量を前述の式でズレ角に換算することで、基準軸101と光軸201とのズレ角を算出することができる。これにより、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0053】
なお、本実施形態においても連続的な測定結果から極小値を算出する例を示したが、これら測定結果から近似的に一次関数等の奇関数を算出してゼロクロス点を算出してもよい。
【0054】
また、本実施形態においても、移動軸100上を一定速度で往復動させる等、複数回に亘り測定を行い、測定結果を平均化してからゼロクロス点を算出しても良く、より高精度に極小値を算出することができる。
【0055】
また、基準軸101との交点に対して、対称の位置でのドップラ速度は、絶対値が同じで、符号が異なるだけであるので、符号の異なるドップラ速度となる移動軸上の二つの位置を平均化して得られる位置からズレ量を算出しても良い。
【0056】
また、第1の実施形態のように、平面視した状態で基準軸と移動軸とが直交すれば、基準軸に対して所定のオフセットがあっても良い。
【0057】
次に、第3の実施形態に係るレーダ装置の光軸調整方法について、図を参照して説明する。
図6(A)は、本実施形態に係るレーダ装置の光軸調整方法に用いる各装置および物体の関係を示す平面図であり、図6(B)はその側面図である。
図6に示すように、本実施形態では、移動軸100が基準軸101および光軸201に対して垂直で且つ走査軸301に対しても垂直である場合を示し、他の構成は第1の実施形態の図1と同じである。
【0058】
このような処理の場合でも、受信ビーム31(31A〜31I)は、所定のビーム広がりを有するので、走査軸301および光軸201に対して垂直な方向に移動する反射物体1の距離および速度を検出することができる。したがって、前述の走査軸301と移動軸101とが略平行な場合(図2、図3)と同様に、反射物体距離およびドップラ速度の測定結果を得ることができる。
【0059】
このとき、反射物体からの受信信号強度が極大になる方向は、走査軸を含む平面に対する光軸201に略一致する。そして、反射物体の距離が極小となる方向、またはドップラ速度の絶対値が極小となる方向は、基準軸101方向となる。このため、この受信信号強度が極大となる方向と距離またはドップラ速度の絶対値が極小となる方向とのズレが光軸のズレ量(ズレ角)になる。
【0060】
図7は、移動軸100と走査軸301とが直交する場合で、光軸201と基準軸101とが一致しない場合における、移動軸上位置に対する受信信号強度と反射物体距離との関係を示した図である。図7において、実線が反射物体距離を示し、破線が受信信号強度を示す。
【0061】
図7に示すように、受信信号強度は極大値を有し、反射物体距離は極小値を有する。受信信号強度の極大値は光軸201方向の受信ビームで反射物体1を検知した場合に対応するので、極大値となる移動軸上位置が光軸201方向の受信ビームで検知した時点に対応する。一方、反射物体距離の極小値は基準軸101を通過する時点で反射物体1を検知した場合に対応するので、極小値となる移動軸上位置が基準軸101方向に対応する。したがって、これら受信信号強度の極大値に対応する移動軸上位置と、反射物体距離の極小値に対応する移動軸上位置との差を算出し、角度変換すれば、光軸201と基準軸101とのズレ角を検出することができる。そして、このズレ角を用いて光軸を基準軸に一致させる補正(光軸調整)を行うことができる。そして、図7に示すように、光軸201と基準軸101とが一致しない場合、このズレ角に応じてレーダ取り付け作業者が機械的にアンテナ装置もしくはレーダ装置を回動させて光軸調整を行う。
【0062】
なお、本実施形態でも、前述の各実施形態に示したような、平均化、複数測定等を用いてより高精度にズレ角を算出することができる。
【0063】
また、本実施形態では移動軸方向に対してビームを走査させていない。したがって、本実施形態の方法は、ビーム走査を行わない測距のみを行うレーダ装置に対しても適用することができる。この際、ビーム走査を行わず、或る程度の広がりを有する受信信号で測距を行うが、移動軸上の各位置に対して複数回測定を行ったり、さらに受信信号強度特性や反射物体距離特性を近似する等の処理を行えば、受信信号の広がりによる誤差要因を低減することができ、正確にズレ量を算出することができる。
【0064】
次に、第4の実施形態に係るレーダ装置の光軸調整方法について、図を参照して説明する。
図8(A)は、本実施形態に係るレーダ装置の光軸調整方法に用いる各装置および物体の関係を示す平面図であり、図8(B)はその側面図である。
本実施形態のレーダ装置の光軸調整方法は、走査軸301を含む平面に平行な周回面を有する円軌道からなる移動軌道100’で反射物体1を移動させるものある。この際、反射物体1は移動軌道100’と基準軸101との交点で、基準軸101に対して直交して通過するように配置されている。これにより、基準軸101上で反射物体1までの距離が極小、または反射物体1のドップラ速度の絶対値が極小となる。この反射物体1は、前記円軌道となるように反射物体1を回動自在に支持する取り付け装置の回転軸を回転させることにより移動軌道100’に沿って所定角速度で移動する。そして、この取り付け装置としては、回転するアーム状部材を有するものや、反射物体1を載置可能な円盤状の部材を有するものを利用する。なお、その他の構成は、第1の実施形態に示したレーダ装置の光軸調整方法と同じである。
【0065】
このように、反射物体を円軌道で移動させる場合、アンテナ装置20から反射物体1までの距離X、およびアンテナ装置20に対する基準軸101を基準とした方位φは、図9のような関係になる。
【0066】
図9は円軌道の反射物体1の距離xおよび方位φの概念図である。図9において、Rはアンテナ装置20(レーダ装置10)から円軌道上におけるアンテナ装置20側の基準軸101との交点までの距離を示し、rは円軌道の半径を示し、ψは前記基準軸101との交点方向を基準とした円軌道の中心に対する反射物体の角度を示す。
【0067】
このような場合、反射物体1の距離x、方位θは、それぞれ次式で表すことができる。
【0068】
x=SQRT{(R+r)2+r2−2・(R+r)・r・cosψ}
φ=arcsin(r・sinψ/x)
これに基づいてR=5(m)、r=0.2(m)の場合における反射物体1の角度ψに対する距離xを算出すると図10の関係が得られる。
【0069】
図10は、反射物体1の方位φと距離xとの関係式を示したものである。
【0070】
このように、反射物体1を回動させることにより、少ない角度(方位)変化で距離xの変化量を大きく得られるので、前述の第1の実施形態のように直線状に反射物体1を移動させるよりも、光軸201と基準軸101とのずれ角による距離の変化量を大きくとることができる。これにより、小型の構成で高精度にズレ角を検出することができる。
【0071】
なお、この際、距離xとは別に反射物体1のドップラ速度Vdopを算出して利用することもできる。
【0072】
図11は反射物体1のドップラ速度Vdopおよび方位φの概念図である。なお、図9と同じ要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0073】
このような場合、反射物体1のドップラ速度Vdopは、角速度をωとした場合に、次式で表すことができる。
【0074】
Vdop=ω・r・cos(π/2−ψ−φ)
これに基づいてR=5(m)、r=0.2(m)、ω=2π(rad/s)の場合における反射物体1の方位φに対するドップラ速度Vdopを算出すると図12の関係が得られる。
【0075】
図12は反射物体1の方位φとドップラ速度Vdopとの関係式を示したものである。
このように、反射物体1を回動させることにより、少ない角度(方位)変化でドップラ速度Vdopの変化量を大きく得られるので、前述の第2の実施形態のように直線状に反射物体1を移動させるよりも、光軸201と基準軸101とのずれ角によるドップラ速度の変化量を大きくとることができる。これにより、小型の構成で高精度にズレ角を検出することができる。
【0076】
次に、第5の実施形態に係るレーダ装置の光軸調整方法を、図を参照して説明する。
図13は本実施形態に係る複数のレーダ装置の光軸調整方法の概念図である。
図14は1つの車体に複数のレーダ装置を装着し、これらレーダ装置の光軸調整を行う場合の概念図である。
【0077】
前述の第1の実施形態では、車体に対して1つのレーダ装置(アンテナ装置)を装着した場合について説明したが、本実施形態は、レーダ装置数(アンテナ装置数)を複数として、第1の実施形態に示したレーダ装置(アンテナ装置)の光軸調整を行うものである。
【0078】
図13に示すように、複数のレーダ装置10A〜10Eに対してアンテナ装置の光軸201A〜201Eを調整する場合、全ての装置の基準軸101が平行になるように、全てのレーダ装置10A〜10Eを配置する。そして、これらレーダ装置10A〜10Eの配列方向に平行に移動軸100を設定して、全てのレーダ装置10A〜10Eの受信ビーム領域を通過するように、反射物体1を移動させる。
【0079】
このような構成とすることで、レーダ装置10A〜10Eのそれぞれが第1の実施形態のレーダ装置10に対応するので、それぞれのレーダ装置10A〜10Eで、第1の実施形態のズレ角の補正処理を行えば、全てのレーダ装置10A〜10Eを同時に光軸調整することができる。
【0080】
また、図14に示すように、車体11の正面にレーダ装置10B〜10Dを設置し、側面にレーダ装置10A、10Eを設置する場合には、車体11の正面方向を基準軸101方向に設定する。さらに、車体11の幅方向に平行で、基準軸101に垂直な方向を移動軸100に設定する。そして、この移動軸100に沿って反射物体1を移動させれば、レーダ装置10A〜10Eを同時に光軸調整することができる。
【0081】
なお、前述の各実施形態では、アンテナ装置の光軸をレーダ装置および被装着体の基準軸に一致させる場合を示したが、アンテナ装置とレーダ装置とが固定であり、レーダ装置と被装着体との位置関係を補正するできる場合には、レーダ装置の光軸を被装着体の基準軸に一致させる処理を行えばよい。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】第1の実施形態に係るレーダ装置の光軸調整方法に用いる各装置および物体の関係を示す平面図である。
【図2】移動軸100上の反射物体1の位置とアンテナ装置20から反射物体1までの距離との関係を示した図、反射物体1の方位角とアンテナ装置20から反射物体1までの距離との関係を示した図である。
【図3】測定結果のみの場合と近似処理を行った場合とにおける検知方位(光軸201に基づく方位)と反射物体方位(基準軸101に基づく方位)との関係を示した図である。
【図4】移動軸100と基準軸101とが空間的に直交しない場合の概念図である。
【図5】第2に実施形態に係る移動軸100上の反射物体1の位置とアンテナ装置20に対する反射物体1のドップラ速度との関係を示した図である。
【図6】第3の実施形態に係るレーダ装置の光軸調整方法に用いる各装置および物体の関係を示す平面図および側面図である。
【図7】移動軸100と走査軸301とが直交する場合で、光軸201と基準軸101とが一致しない場合における、移動軸上位置に対する受信信号強度と反射物体距離との関係を示した図である。
【図8】第4の実施形態に係るレーダ装置の光軸調整方法に用いる各装置および物体の関係を示す平面図および側面図である。
【図9】円軌道の反射物体1の距離xおよび方位φの概念図である。
【図10】反射物体1の方位φと距離xとの関係式を示したものである。
【図11】反射物体1のドップラ速度Vdopおよび方位φの概念図である。
【図12】反射物体1の方位φとドップラ速度Vdopとの関係式を示したものである。
【図13】第5の実施形態に係る複数のレーダ装置の光軸調整方法の概念図である。
【図14】1つの車体に複数のレーダ装置を装着し、これらレーダ装置の光軸調整を行う場合の概念図である。
【符号の説明】
【0083】
1−反射物体、10,10A〜10E−レーダ装置、20−アンテナ装置、21,21A〜21N−受信アンテナ、22−送信アンテナ、31,31A〜31I−受信ビーム、
100−移動軸、100’−移動軌道、101−基準軸、201,201A〜201E−光軸、301−走査軸
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知領域に対して所定の基準軸を有するレーダ装置または該レーダ装置が装着された被装着体に備えられたアンテナ装置の光軸を、前記基準軸に一致させるレーダ装置の光軸調整方法であって、
前記基準軸上で前記アンテナ装置から所定距離にある一点で前記基準軸に対して垂直に通過する軌道で反射物体を移動させ、
前記アンテナ装置で、前記反射物体の移動領域内に送信波を送信するとともに、当該送信波に対する前記反射物体の反射波を受信し、
前記レーダ装置で得られる前記反射物体の検出結果の経時的変化に基づいて前記光軸と前記基準軸とのズレ量を検出する、
ことを特徴とするレーダ装置の光軸調整方法。
【請求項2】
前記レーダ装置で、前記送信波と前記反射波とから前記アンテナ装置から反射物体までの距離変化を検出し、該検出された距離変化における距離の極小値が得られた時の前記レーダ装置での角度検出結果に基づいて前記ズレ量を検出する請求項1に記載のレーダ装置の光軸調整方法。
【請求項3】
前記レーダ装置で、前記送信波と前記反射波とから前記アンテナ装置に対する反射物体のドップラ速度変化を検出し、該検出されたドップラ速度の絶対値の極小値が得られた時の前記レーダ装置での角度検出結果に基づいて前記ズレ量を検出する請求項1に記載のレーダ装置の光軸調整方法。
【請求項4】
前記レーダ装置で、前記送信波と前記受信波とから、前記アンテナ装置から反射物体までの距離変化を検出し、該検出された距離変化における距離の極小値に対応する前記反射物体の位置と、前記反射波の受信強度の極大値に対応する前記反射物体の位置とを一致させる処理を行う、請求項1に記載のレーダ装置の光軸調整方法。
【請求項5】
前記レーダ装置で、前記送信波と前記受信波とから、前記アンテナ装置に対する前記反射物体のドップラ速度変化を検出し、該検出されたドップラ速度の絶対値の極小値に対応する前記反射物体の位置と、前記反射波の受信強度の極大値に対応する前記反射物体の位置とを一致させる処理を行う、請求項1に記載のレーダ装置の光軸調整方法。
【請求項6】
前記アンテナ装置からビーム走査した送信波を送信し、
該ビーム走査の走査軸と前記光軸とを含む平面に平行な面内で前記反射物体を移動させ、前記走査軸と前記光軸とを含む平面に平行な方向に光軸調整を行う請求項1〜5のいずれかに記載のレーダ装置の光軸調整方法。
【請求項7】
前記アンテナ装置からビーム走査した送信波を送信し、
該ビーム走査の走査軸と前記光軸とを含む平面に垂直な面内で前記反射物体を移動させ、前記走査軸と前記光軸とを含む平面に垂直な方向に光軸調整を行う請求項4または請求項5に記載のレーダ装置の光軸調整方法。
【請求項8】
前記アンテナ装置からビーム走査した送信波を送信し、
該ビーム走査の走査軸を含む平面に平行な周回面で、円周状で且つ基準軸上で最短距離となるように前記反射物体を移動させる請求項1〜7のいずれかに記載のレーダ装置の光軸調整方法。
【請求項9】
それぞれにアンテナ装置が備えられ、各基準軸が平行である複数のレーダ装置を前記被装着体に装着し、
該基準軸の並ぶ方向と平行に前記反射物体を移動させる請求項1〜7に記載のレーダ装置の光軸調整方法。
【請求項1】
検知領域に対して所定の基準軸を有するレーダ装置または該レーダ装置が装着された被装着体に備えられたアンテナ装置の光軸を、前記基準軸に一致させるレーダ装置の光軸調整方法であって、
前記基準軸上で前記アンテナ装置から所定距離にある一点で前記基準軸に対して垂直に通過する軌道で反射物体を移動させ、
前記アンテナ装置で、前記反射物体の移動領域内に送信波を送信するとともに、当該送信波に対する前記反射物体の反射波を受信し、
前記レーダ装置で得られる前記反射物体の検出結果の経時的変化に基づいて前記光軸と前記基準軸とのズレ量を検出する、
ことを特徴とするレーダ装置の光軸調整方法。
【請求項2】
前記レーダ装置で、前記送信波と前記反射波とから前記アンテナ装置から反射物体までの距離変化を検出し、該検出された距離変化における距離の極小値が得られた時の前記レーダ装置での角度検出結果に基づいて前記ズレ量を検出する請求項1に記載のレーダ装置の光軸調整方法。
【請求項3】
前記レーダ装置で、前記送信波と前記反射波とから前記アンテナ装置に対する反射物体のドップラ速度変化を検出し、該検出されたドップラ速度の絶対値の極小値が得られた時の前記レーダ装置での角度検出結果に基づいて前記ズレ量を検出する請求項1に記載のレーダ装置の光軸調整方法。
【請求項4】
前記レーダ装置で、前記送信波と前記受信波とから、前記アンテナ装置から反射物体までの距離変化を検出し、該検出された距離変化における距離の極小値に対応する前記反射物体の位置と、前記反射波の受信強度の極大値に対応する前記反射物体の位置とを一致させる処理を行う、請求項1に記載のレーダ装置の光軸調整方法。
【請求項5】
前記レーダ装置で、前記送信波と前記受信波とから、前記アンテナ装置に対する前記反射物体のドップラ速度変化を検出し、該検出されたドップラ速度の絶対値の極小値に対応する前記反射物体の位置と、前記反射波の受信強度の極大値に対応する前記反射物体の位置とを一致させる処理を行う、請求項1に記載のレーダ装置の光軸調整方法。
【請求項6】
前記アンテナ装置からビーム走査した送信波を送信し、
該ビーム走査の走査軸と前記光軸とを含む平面に平行な面内で前記反射物体を移動させ、前記走査軸と前記光軸とを含む平面に平行な方向に光軸調整を行う請求項1〜5のいずれかに記載のレーダ装置の光軸調整方法。
【請求項7】
前記アンテナ装置からビーム走査した送信波を送信し、
該ビーム走査の走査軸と前記光軸とを含む平面に垂直な面内で前記反射物体を移動させ、前記走査軸と前記光軸とを含む平面に垂直な方向に光軸調整を行う請求項4または請求項5に記載のレーダ装置の光軸調整方法。
【請求項8】
前記アンテナ装置からビーム走査した送信波を送信し、
該ビーム走査の走査軸を含む平面に平行な周回面で、円周状で且つ基準軸上で最短距離となるように前記反射物体を移動させる請求項1〜7のいずれかに記載のレーダ装置の光軸調整方法。
【請求項9】
それぞれにアンテナ装置が備えられ、各基準軸が平行である複数のレーダ装置を前記被装着体に装着し、
該基準軸の並ぶ方向と平行に前記反射物体を移動させる請求項1〜7に記載のレーダ装置の光軸調整方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−248058(P2007−248058A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−67845(P2006−67845)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
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