説明

レーダ装置及びその距離測定方法

【課題】 H/Wの増大なくパルス圧縮による距離オフセットを補正し距離精度を向上させる。
【解決手段】 送信パルスの位相分散帯域幅又は幅をある値に設定しN回送信し、また他の値に設定しN回送信する。最初の送信パルスに対応する受信信号の組と、後のN回の送信パルスに対応する受信信号の組とをそれぞれパルス圧縮処理して積分処理する。積分処理後の信号から閾値判定で目標信号を検出する。送信パルスを送信した時刻と目標信号の検出時刻との差から距離を求める。二つの組にそれぞれ対応した目標信号のうち積分処理時のドップラフィルタ番号が所定差以下の目標信号のペアのデータを抽出する。ペアの目標信号の距離データの差を算出し、距離差から目標のドップラ周波数とドップラフィルタ番号との相関を判定し相関データを抽出する。相関のとれた目標のドップラ周波数の送信パルスの諸元からパルス圧縮時に発生する距離オフセットを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーダ装置及びその距離測定方法に関し、特にリニアチャープパルスを送信しパルス圧縮処理を行うレーダ装置及びその距離測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置は、一般に、空間に電波を発射して、目標からの反射信号を受信することにより、目標の存在を探知し、その位置、運動状況などを観測するものである。レーダ装置の主要性能は、探知能力、距離精度、方位精度、追尾性能などである。
【0003】
一般的なレーダ装置においては、アナログのレーダ受信信号がA/D(アナログ/ディジタル)変換器によりディジタル受信信号に変換された後、各種の信号処理が行われる。この信号処理の目的は、S/N改善や、地面、海面、雨雲等からの反射信号や干渉波などの目標信号以外の不要信号を抑圧することなどであるが、代表的な処理の一つとしてパルス圧縮処理がある。
【0004】
このパルス圧縮処理は、送信尖頭電力を低く押さえつつ、探知能力の増大と距離分解能を得るための技術として採用されており、変調を施した広いパルス幅の送信パルスを送信して、受信時に参照信号との相関を取る処理である。送信先頭電力を低くする代わりに、送信時のパルス幅を広くすることによって、探知能力を増大させ、受信時の相関処理において圧縮後のパルス幅を狭くすることで、距離分解能を得ることができる。
【0005】
かかるパルス圧縮処理においては、送信パルスの変調方式として広く使用されている方式の一つにチャープパルスがある。チャープパルスは送信パルス内で周波数変調(FM)を施して送信する方式である。受信信号に対してパルス圧縮を行う場合は、参照信号と受信信号の相関処理を行うことにより、目標の存在する距離に応じた位置にパルス圧縮波形のピーク振幅値が現れる。このピーク振幅値を検出することにより、目標信号を検出すると同時に目標距離を測定することができる。
【0006】
また、チャープパルスには、パルス内でリニアに変化するリニアチャープパルスと、リニアに変化しないノンリニアチャープパルスがある。前者のリニアチャープパルスにおいては、視線方向速度が0(ゼロ)の場合には、真の距離にピーク振幅値が現れるのに対して、視線方向速度が0(ゼロ)でない場合には、視線方向速度に応じてパルス圧縮後のピーク振幅位置がオフセットするという特徴がある。これは、受信パルスが目標の視線方向速度に対応するドップラ周波数により変調を受けるためである。
【0007】
このピーク振幅位置のオフセット距離ΔRは、送信周波数f(Hz)、送信パルス幅τ(s)、位相分散帯域幅Δf(Hz)、目標速度v(m/s)、目標のドップラ周波数fd(Hz)、光速c(m/s)とすると、以下の計算式で表される。
fd=2×v×f/c ……(A)
ΔR=(c/2)×τ×fd/Δf ……(B)
【0008】
上式のとおり、距離オフセットの大きさは、目標速度と送信パルス幅に比例し位相分散帯域幅に反比例している。
【0009】
近年のレーダ装置においては、従来の主な探知対象である航空機の高速化に対処するほか、より高速なミサイルの探知や、より遠距離の目標を探知するため送信パルス幅を増大させることが要求されている。そのために、パルス圧縮方式のレーダにおいて、高速目標探知時のパルス圧縮による距離オフセットが大きくなる傾向がある。
【0010】
例えば、送信周波数10GHz、送信パルス幅1000μs、位相分散帯域幅1MHz、目標速度1km/sの場合、距離オフセットは10kmとなる。このように、距離オフセットは距離誤差の大きな要因となる。
【0011】
これに対して、距離オフセットを補正して距離精度を改善する技術として、特許文献1で示された技術を用いる方法がある。図7はこの特許文献1に開示の技術を示すブロック図である。
【0012】
図7を参照すると、FFT(Fast Fourier Transform)回路201と、乗算器202と、IFFT(Inverse FFT)回路203と、信号検出器204と、測距器205と、ノンリニアFM参照信号発生器206と、最大値検出器207と、セレクタ回路208と、接近速度算出器209とから構成されている。なお、乗算器202と、IFFT回路203と、信号検出器204と、測距器205とは、複数のチャンネルに夫々設けられている。
【0013】
FFT回路201は、レーダ受信信号をディジタル化したディジタル受信信号を入力としてこれを周波数領域に変換し、複数のチャンネルに分けて出力する。乗算器202は、周波数領域に変換された受信信号をノンリニアFM参照信号発生器206からの参照信号と乗算する。IFFT回路203は、乗算後の信号を時間領域の信号に変換する。
【0014】
信号検出器204は、しきい値判定などにより目標信号を検出する。測距器205は、送信パルスの送信時刻と検出された目標信号の検出時刻との差から距離を測定する。ノンリニアFM参照信号発生器206は、一定間隔毎のドップラ周波数で変調された複数のノンリニアチャープ変調の参照信号を発生する。
【0015】
最大値検出器207は、各チャンネルの信号検出器204からの信号の内の最大振幅の信号を検出して、そのチャンネル番号をセレクタ回路208および接近速度算出器209に出力する。セレクタ回路208は、選択されたチャンネルの信号を出力する。接近速度算出器209は、選択されたチャンネルのドップラ周波数から目標速度を算出する。
【0016】
この特許文献1に開示された技術は、送信パルスの変調方式の一つであるノンリニアチャープパルスの特性を利用する技術である。ノンリニアチャープ変調の送信パルスは、リニアチャープ変調の送信パルスに比べて、ドップラ周波数変調に対する感度が高く、参照信号と受信パルスとにおいてドップラ周波数が異なると、パルス圧縮利得が低下し、圧縮後の振幅値が小さくなる。
【0017】
逆に、リニアチャープパルスは、距離のオフセットは大きいが、ノンリニアチャープパルスに比べて、パルス圧縮利得の低下は小さい。このため、想定する目標速度に対応したドップラ周波数で変調を施した参照信号を複数発生させて、パルス圧縮を複数のチャンネルで並列処理して、振幅値が最大となるチャンネルの出力を選択することにより、目標の速度を推定することができるようになっている。かかる技術を用いて目標速度を算出することで、ドップラ周波数による距離オフセットを算出して補正することにより距離精度を改善することが可能である。
【0018】
また、距離精度を改善する第2の技術として、特許文献2に開示の技術がある。図8は特許文献2の技術を示すブロック図であり、チャープ信号発生器301と、送信器302と、送受信切替器303と、空中線304と、受信器305と、パルス圧縮器306と、測距処理器307と、相対距離・相対速度算出器308と、位相補償器309と、第2パルス圧縮器310と、積分処理器311と、速度算出器312とを有している。
【0019】
この技術では、アップチャープ信号とダウンチャープ信号を併用することにより、それぞれの受信信号から測定される距離を用いて、いったん受信信号の位相補償量を位相補償器309で求めた後、再度、第2パルス圧縮器310でパルス圧縮を行うことにより、積分処理器311及び速度算出器312とを用いて正確な相対速度を求める技術である。
【0020】
この技術の目的は、速度を正確に測定して探知性能を改善することであるが、正確な速度を求めることができるために、結果として、距離オフセットを補正して距離精度を改善することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開平5−107349号公報
【特許文献2】特開2008−020432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
上述した特許文献1の技術における第1の問題点は、対象とする目標の速度が高速であればあるほど、パルス圧縮を行うチャンネル数を増やす必要があり、処理負荷の増大に対応するため処理装置のハードウエア規模が増大することである。その理由は、速度0(ゼロ)から想定する最大目標速度の範囲で一定間隔のドップラ周波数毎に、パルス圧縮を行うチャンネル数が必要となるからである。
【0023】
第2の問題点は、距離精度において量子化誤差が発生することである。その理由は、目標速度の測定値が各チャンネルの参照信号のドップラ周波数に相当する速度の離散値として得られるために、距離の測定値も目標速度の離散値に対応した離散値になるからである。
【0024】
また、特許文献2の技術における問題点は、パルス圧縮をいったん行い、位相補償量を求めた後、再度パルス圧縮を行うようになっているので、処理が複雑となり、処理負荷の増大に対応するため処理装置のハードウエア規模が増大することである。
【0025】
本発明の目的は、上述した問題点を解決するものであり、処理装置のハードウエア規模を大幅に増大させることなく、高速目標におけるパルス圧縮による距離オフセットを補正し、距離精度を向上させることが可能なレーダ装置及びその距離測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明によるレーダ装置は、
送信パルスの諸元である位相分散帯域幅およびパルス幅の一方をある値に設定してN回(Nは2以上の整数)送信し、しかる後に前記一方を他の値に設定してN回送信する送信手段と、
最初のN回の送信パルスに対応する受信信号を第一の組とし、また後のN回の送信パルスに対応する受信信号を第二の組として、これら第一及び第二の組をそれぞれパルス圧縮処理して積分処理する積分手段と、
これら積分処理後の信号からしきい値判定により目標信号を検出する検出手段と、
前記送信パルスを送信した時刻と前記目標信号の検出時刻との差から距離を求める測距手段と、
前記第一及び第二の組にそれぞれ対応した目標信号のうち前記積分処理時のドップラフィルタ番号が所定の差以下の目標信号のペアのデータを抽出する第一の抽出手段と、
前記ペアの目標信号の距離のデータの差を算出する差分算出手段と、
前記距離の差から目標のドップラ周波数とドップラフィルタ番号が相関しているかどうかを判定して相関しているデータのみを抽出する第二の抽出手段と、
相関のとれた目標のドップラ周波数の送信パルスの諸元からパルス圧縮時に発生する距離オフセットを補正した距離値を出力する距離補正手段と、
を含むことを特徴とする。
【0027】
本発明によるレーダ装置における距離測定方法は、
送信パルスの諸元である位相分散帯域幅およびパルス幅の一方をある値に設定してN回(Nは2以上の整数)送信し、しかる後に前記一方を他の値に設定してN回送信する送信ステップと、
最初のN回の送信パルスに対応する受信信号を第一の組とし、また後のN回の送信パルスに対応する受信信号を第二の組として、これら第一及び第二の組をそれぞれパルス圧縮処理して積分処理する積分ステップと、
これら積分処理後の信号からしきい値判定により目標信号を検出する検出ステップと、
前記送信パルスを送信した時刻と前記目標信号の検出時刻との差から距離を求める測距ステップと、
前記第一及び第二の組にそれぞれ対応した目標信号のうち前記積分処理時のドップラフィルタ番号が所定の差以下の目標信号のペアのデータを抽出する第一の抽出ステップと、
前記ペアの目標信号の距離のデータの差を算出する差分算出ステップと、
前記距離の差から目標のドップラ周波数とドップラフィルタ番号が相関しているかどうかを判定して相関しているデータのみを抽出する第二の抽出ステップと、
相関のとれた目標のドップラ周波数の送信パルスの諸元からパルス圧縮時に発生する距離オフセットを補正した距離値を出力する距離補正ステップと、
を含むことを特徴とする。
【0028】
本発明によるプログラムは、
レーダ装置における距離測定方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
送信パルスの諸元である位相分散帯域幅およびパルス幅の一方をある値に設定してN回(Nは2以上の整数)送信し、しかる後に前記一方を他の値に設定してN回送信する処理と、
最初のN回の送信パルスに対応する受信信号を第一の組とし、また後のN回の送信パルスに対応する受信信号を第二の組として、これら第一及び第二の組をそれぞれパルス圧縮処理して積分処理する処理と、
これら積分処理後の信号からしきい値判定により目標信号を検出する処理と、
前記送信パルスを送信した時刻と前記目標信号の検出時刻との差から距離を求める処理と、
前記第一及び第二の組にそれぞれ対応した目標信号のうち前記積分処理時のドップラフィルタ番号が所定の差以下の目標信号のペアのデータを抽出する処理と、
前記ペアの目標信号の距離のデータの差を算出する処理と、
前記距離の差から目標のドップラ周波数とドップラフィルタ番号が相関しているかどうかを判定して相関しているデータのみを抽出する処理と、
相関のとれた目標のドップラ周波数の送信パルスの諸元からパルス圧縮時に発生する距離オフセットを補正した距離値を出力する処理と、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、リニアチャープパルス圧縮を行う処理装置のハードウエア規模を大幅に増大させることなく、高速目標に対してパルス圧縮で発生する距離オフセットを補正して距離精度を向上させるという効果がある。
【0030】
その理由は、パルス圧縮処理を複数チャンネルで並列に実施したり、2回実施したりする代わりに、送信パルスの位相分散帯域幅か送信パルス幅のいずれかを異なる2種類で送信して、その結果得られるパルス圧縮処理時の2種類の距離からドップラ周波数を求めて距離オフセットを補正するようにしたためである。
【0031】
また、コヒーレント積分処理により得られるドップラ周波数情報を用いて、相関処理を行うことにより、目標信号のペアのデータを抽出するときに雑音等による誤目標や他目標と誤って相関しないようにしたためである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施の形態のブロック図である。
【図2】送信パルスの位相分散帯域幅を変化させたときの本発明の動作を説明する模式図である。
【図3】送信パルスのパルス幅を変化させたときの本発明の動作を説明する模式図である。
【図4】本発明の実施の形態の動作を示すフローチャートである。
【図5】本発明の他の実施の形態の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の更に他の実施の形態の構成を示すブロック図である。
【図7】特許文献1の技術を説明するためのブロック図である。
【図8】特許文献2の技術を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。図1は本発明の第1の実施の形態のブロック図である。図1に示す本発明の第1の実施の形態によるレーダ装置は、パルス諸元制御器101と、送信器102と、送受切替器103と、空中線104と、受信器105と、パルス圧縮器106と、積分処理器107と、目標検出器108と、測距処理器109と、メモリ110と、ドップラ相関器111と、差分算出器112と、ドップラ算出器113と、ドップラ判定器114と、距離補正器115とを備えている。
【0034】
パルス諸元制御器101は、送信パルスの諸元のうち、位相分散帯域幅または送信パルス幅を制御するものである。送信器102は、パルス諸元制御器101からの制御信号により、位相分散帯域幅または送信パルス幅を設定した送信パルスを発生して電力増幅した後、送受切替器103を経由して空中線104へ出力するものである。
【0035】
送受切替器103は、送信と受信のタイミングで送信信号と受信信号の切替えを行うものである。空中線104は、送信時には空間へ電波を発射し、受信時には空間から供給される電波を受信するものである。受信器105は、空中線104から送受切替器103を経由して入力される受信信号に、周波数変換およびA/D変換を行うものである。
【0036】
パルス圧縮器106は、パルス諸元制御器101から入力される参照信号を用いて、受信出力に対してパルス圧縮処理を行うものである。積分処理器107は、同じ諸元で送信した複数の送信パルスに対応した複数の受信信号を1組の受信信号として、コヒーレント積分処理するものである。
【0037】
目標検出器108は、積分処理器107から出力される積分処理後の信号からしきい値判定により目標信号を検出するものである。測距処理器109は、送信パルスを発生した時刻と目標信号の検出時刻との時刻差から距離を求めるものである。
【0038】
メモリ110は、2種類の諸元の送信パルスに対応したそれぞれの目標信号の積分処理時のドップラフィルタ番号を記憶するものである。ドップラ相関器111は、2種類の諸元の送信パルスに対応したそれぞれの目標信号のうち、ドップラフィルタ番号が所定の差以下である目標信号のペアのデータを抽出するものである。
【0039】
差分算出器112は、抽出されたペアの目標信号のデータの距離の差を算定するものである。ドップラ算出器113は、距離の差から後述する式(5)または式(9)により、目標のドップラ周波数を算出するものである。
【0040】
ドップラ判定器114は、算出されたドップラ周波数とドップラフィルタ番号が相関しているかどうか判定して、相関しているデータのみ抽出するものである。距離補正器115は、相関のとれた目標のドップラ周波数と送信パルスの諸元から、パルス圧縮時に発生する距離オフセットを補正した距離値を出力するものである。
【0041】
パルス諸元制御器101は、送信パルスの諸元として、位相分散帯域幅または送信パルス幅を以下のように制御する。先ず、送信パルスの位相分散帯域幅を制御する場合について、図2を用いて説明する。図2は、位相分散帯域幅を変化させた場合における本発明の実施の形態の動作を説明する模式図である。
【0042】
パルス諸元制御器101は、送信パルス幅を一定とした上で、位相分散帯域幅をΔf1 とΔf2 の2種類として、1方向に対してそれぞれN回(Nは2以上の整数)のパルス送信を行い、合計で2N回のパルス送信を行うように制御する。
【0043】
同じパルス諸元のN回分の受信信号をパルス圧縮してコヒーレント積分すると、目標信号はそれぞれ距離R1 とR2 として検出される。ここで、R1 及びR2 は、真の距離Rに対してそれぞれ距離オフセットが異なる値となっており、下記の式(1),(2)の関係がある。なお、fdについては、上記の式(A)参照、ΔR1 ,ΔR2 については、式(B)参照。
R1 =R+ΔR1 =R+(c/2)×τ×fd/Δf1 ……(1)
R2 =R+ΔR2 =R+(c/2)×τ×fd/Δf2 ……(2)
【0044】
差分検出器112において、下記の式(3)により距離の差ΔR21を算出し、ドップラ算出器113において、下記の式(4)によりドップラ周波数fdを算出する。
ΔR21=R2 −R1 =ΔR2 −ΔR1 ……(3)
fd=2ΔR21/(cτ(1/Δf2 −1/Δf1 ))……(4)
【0045】
(4)式で求めたfdにより、距離補正器115において、下記の式(5)により距離の補正計算を行い、真の距離Rを算出する。
R=R1 −(c/2)×τ×fd/Δf1 ……(5)
【0046】
次に、送信パルス幅を制御する場合について、図3を用いて説明する。図3は、送信パルスのパルス幅を変化させた場合における本発明の実施の形態の動作を説明する模式図である。パルス諸元制御器101は、位相分散帯域幅を一定とした上で、送信パルス幅をτ1 とτ2 との2種類として、1方向に対してそれぞれN回のパルス送信を行い、合計で2N回のパルス送信を行うように制御する。
【0047】
同じパルス諸元のN回分の受信信号をパルス圧縮して、コヒーレント積分すると、目標信号はそれぞれ距離R1 とR2 として検出される。ここで、R1 とR2 とは、真の距離Rに対してそれぞれ距離オフセットが異なる値となっており、下記の式(6),(7)の関係がある。
R1 =R+ΔR1 =R+(c/2)×τ1 ×fd/Δf……(6)
R2 =R+ΔR2 =R+(c/2)×τ2 ×fd/Δf……(7)
【0048】
差分検出器112において、式(3)により距離の差ΔR21を算出し、ドップラ算出器113において、下記の式(8)よりドップラ周波数fdを算出する。 fd=2ΔR21Δf/(c(τ2 −τ1 )) ……(8)
【0049】
この(8)式で求めたfdを用いて、距離補正器115において、下記の式(9)により、距離の補正計算を行い真の距離Rを算出する。
R=R1 −(c/2)×τ1 ×fd/Δf ……(9)
【0050】
ここで、1方向に複数の目標が存在していたり、雑音による誤目標が発生している場合には、2種類の諸元の送信パルスに対応した複数の目標信号のなかから、同じ目標の信号のペアを選択する必要がある。このために、積分処理器107において、コヒーレント積分処理を実施したときに得られるドップラフィルタ番号を、目標信号のドップラ周波数情報としてメモリ110に記憶しておき、ドップラ相関器111において、ドップラフィルタ番号が所定の差以下である目標信号のペアのデータを抽出する。
【0051】
これにより、誤ったペアを低減することができ、更にドップラ判定器114で算出されたドップラ周波数とドップラフィルタ番号とが合致しているデータのみ検出することにより、正しいペアによる距離値を得ることが可能となるのである。
【0052】
上述した本発明の実施の形態における動作をフローチャートとして示したものが図4である。このフローチャートを参照すると、先ず、パルス諸元制御器101は、送信パルスの諸元の位相分散帯域幅または送信パルス幅の一方を制御する。そして、送信器102は、このパルス諸元制御器101からの制御信号により、位相分散帯域幅または送信パルス幅を設定した送信パルスを発生して、電力増幅した後送受切替器103を経由して空中線104へ出力する(ステップS1)。
【0053】
送受切替器103は、送信と受信のタイミングで送信信号と受信信号の切替えを行う。空中線104は、送信時に空間へ電波を発射し受信時に空間から入力される電波を受信する(ステップS2)。受信器105は、空中線104から送受切替器103を経由して入力された受信信号に対して周波数変換処理およびA/D変換処理を行う。
【0054】
パルス圧縮器106は、パルス諸元制御器101から入力される参照信号を用いてパルス圧縮処理を行い、積分処理器107は、同じ諸元で送信した複数の送信パルスに対応した複数の受信信号を1組の受信信号として、コヒーレント積分処理する(ステップS3)。
【0055】
目標検出器108は、積分処理器107から出力される積分処理後の信号から、しきい値判定によって目標信号を検出する(ステップS4)。測距処理器109は、送信パルスを発生した時刻と目標信号の検出時刻の時刻差から距離を求める(ステップS5)。
【0056】
次に、ドップラ周波数fdの算出となるが(ステップS6)、前述した如く、一方向に複数の目標が存在していたり、雑音などにより誤目標が発生している場合に、2種類の諸元の送信パルスに対応した複数の目標信号のなかから、同じ目標のペアを選択する必要があるために、以下の動作を行うことになる。
【0057】
メモリ110は、2種類の諸元の送信パルスに対応したそれぞれの目標信号の積分処理時のドップラフィルタ番号を記憶するようにしておき、ドップラ相関器111は、これら2種類の諸元の送信パルスに対応したそれぞれの目標信号のうち、ドップラフィルタ番号が所定の差以下である目標信号のペアのデータを抽出する。そして、差分算出器112は、抽出されたペアの目標信号のデータの距離の差を算定し、ドップラ算出器113は、距離の差から上記式(5)または(9)により、目標のドップラ周波数fdを算出するのである。
【0058】
ドップラ判定器114は、算出されたドップラ周波数とドップラフィルタ番号とが相関しているかどうかを判定して、相関しているデータのみ抽出する(ステップS7)。そして、距離補正器115は、これら相関のとれた目標のドップラ周波数と送信パルスの諸元とから、パルス圧縮時に発生する距離オフセットを補正した距離値を出力することになる(ステップS8)。
【0059】
次に、本発明の第2の実施の形態について、図5を参照して説明する。図5は本発明の第2の実施形態を示すブロック図であり、図1と同等部分には同一符号をもって示している。本実施の形態においては、図1の実施の形態に対して、アダプティブビーム制御器116を追加した構成となっている。
【0060】
このアダプティブビーム制御器116は、目標検出器108で目標信号が検出された場合にのみ、その方向に位相分散帯域幅または送信パルス幅を変化させた送信パルスを発生させるようにパルス諸元制御器101へ制御信号を出力する。
【0061】
先の第1の実施の形態の場合は、常に2種類の送信パルスで2N回のパルス送信を行うため、所定の空間範囲に電波発射をして捜索する時間が、本発明の技術を採用しない場合の2倍かかることになるが、この第2の実施の形態では、通常は1種類の送信パルスでN回のパルス送信を行い、目標信号が検出されたときにのみ、諸元を変えてN回のパルス送信を追加で行うようにしたので、捜索時間を短縮することが可能となる。
【0062】
更に、本発明の第3の実施の形態について、図6を参照して説明する。図6は本発明の第3の実施形態を示すブロック図であり、図1と同等部分には同一符号をもって示している。本実施の形態では、図1の実施の形態に対して、ノンコーホ積分処理器117としきい値判定器118とを、ドップラ相関器111と差分算出器112との間に追加した構成となっている。
【0063】
ノンコーホ積分処理器117は、ドップラ相関器111で抽出した目標信号のペアのデータの振幅値加算を行い、しきい値判定器118で、加算後の振幅値が所定の値以上のデータを抽出する。
【0064】
目標検出器108において、図1の実施の形態に比べてより低いしきい値で目標信号を検出し、その代わりに、増加した誤目標のデータをしきい値判定器118で除去することにより、結果としてより小さい目標信号を検出することが可能となる。
【0065】
なお、上述した本発明の実施の形態における動作は、予めその動作手順をプログラムとして記録媒体に格納しておき、これをコンピュータに読み取らせて実行させることができることは明白である。
【符号の説明】
【0066】
101 パルス諸元制御器
102 送信器
103 送受切替器
104 空中線
105 受信器
106 パルス圧縮器
107 積分処理器
108 目標検出器
109 測距処理器
110 差分検出器
111 メモリ
112 ドップラ相関器
113 ドップラ算出器
114 ドップラ判定器
115 距離補正器
116 アダプティブビーム制御器
117 ノンコーホ積分処理器
118 しきい値判定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信パルスの諸元である位相分散帯域幅およびパルス幅の一方をある値に設定してN回(Nは2以上の整数)送信し、しかる後に前記一方を他の値に設定してN回送信する送信手段と、
最初のN回の送信パルスに対応する受信信号を第一の組とし、また後のN回の送信パルスに対応する受信信号を第二の組として、これら第一及び第二の組をそれぞれパルス圧縮処理して積分処理する積分手段と、
これら積分処理後の信号からしきい値判定により目標信号を検出する検出手段と、
前記送信パルスを送信した時刻と前記目標信号の検出時刻との差から距離を求める測距手段と、
前記第一及び第二の組にそれぞれ対応した目標信号のうち前記積分処理時のドップラフィルタ番号が所定の差以下の目標信号のペアのデータを抽出する第一の抽出手段と、
前記ペアの目標信号の距離のデータの差を算出する差分算出手段と、
前記距離の差から目標のドップラ周波数とドップラフィルタ番号が相関しているかどうかを判定して相関しているデータのみを抽出する第二の抽出手段と、
相関のとれた目標のドップラ周波数の送信パルスの諸元からパルス圧縮時に発生する距離オフセットを補正した距離値を出力する距離補正手段と、
を含むことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記送信手段により前記送信パルスの諸元である位相分散帯域幅およびパルス幅の一方を前記ある値に設設定してN回送信し、前記検出手段により前記目標信号が検出された時のみ、前記一方を前記他の値に設定してN回送信するよう前記送信手段を制御する手段を、更に含むことを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記第一の抽出手段により抽出された前記目標信号のペアのデータの振幅値加算を行いこの加算値のしきい値判定を行って、前記加算値がしきい値以上のデータを抽出して前記差分算出手段へ供給する手段を、更に含むことを特徴とする請求項1または2記載のレーダ装置。
【請求項4】
送信パルスの諸元である位相分散帯域幅およびパルス幅の一方をある値に設定してN回(Nは2以上の整数)送信し、しかる後に前記一方を他の値に設定してN回送信する送信ステップと、
最初のN回の送信パルスに対応する受信信号を第一の組とし、また後のN回の送信パルスに対応する受信信号を第二の組として、これら第一及び第二の組をそれぞれパルス圧縮処理して積分処理する積分ステップと、
これら積分処理後の信号からしきい値判定により目標信号を検出する検出ステップと、
前記送信パルスを送信した時刻と前記目標信号の検出時刻との差から距離を求める測距ステップと、
前記第一及び第二の組にそれぞれ対応した目標信号のうち前記積分処理時のドップラフィルタ番号が所定の差以下の目標信号のペアのデータを抽出する第一の抽出ステップと、
前記ペアの目標信号の距離のデータの差を算出する差分算出ステップと、
前記距離の差から目標のドップラ周波数とドップラフィルタ番号が相関しているかどうかを判定して相関しているデータのみを抽出する第二の抽出ステップと、
相関のとれた目標のドップラ周波数の送信パルスの諸元からパルス圧縮時に発生する距離オフセットを補正した距離値を出力する距離補正ステップと、
を含むことを特徴とするレーダ装置における距離測定方法。
【請求項5】
前記送信ステップにより前記送信パルスの諸元である位相分散帯域幅およびパルス幅の一方を前記ある値に設定してN回送信し、前記検出手段により前記目標信号が検出された時のみ、前記一方を前記他の値に設定してN回送信するよう前記送信手段を制御するステップを、更に含むことを特徴とする請求項4記載の距離測定方法。
【請求項6】
前記第一の抽出ステップにより抽出された前記目標信号のペアのデータの振幅値加算を行いこの加算値のしきい値判定を行って、前記加算値がしきい値以上のデータを抽出して前記差分算出ステップへ供給するステップを、更に含むことを特徴とする請求項4または5記載の距離測定方法。
【請求項7】
レーダ装置における距離測定方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
送信パルスの諸元である位相分散帯域幅およびパルス幅の一方をある値に設定してN回(Nは2以上の整数)送信し、しかる後に前記一方を他の値に設定してN回送信する処理と、
最初のN回の送信パルスに対応する受信信号を第一の組とし、また後のN回の送信パルスに対応する受信信号を第二の組として、これら第一及び第二の組をそれぞれパルス圧縮処理して積分処理する処理と、
これら積分処理後の信号からしきい値判定により目標信号を検出する処理と、
前記送信パルスを送信した時刻と前記目標信号の検出時刻との差から距離を求める処理と、
前記第一及び第二の組にそれぞれ対応した目標信号のうち前記積分処理時のドップラフィルタ番号が所定の差以下の目標信号のペアのデータを抽出する処理と、
前記ペアの目標信号の距離のデータの差を算出する処理と、
前記距離の差から目標のドップラ周波数とドップラフィルタ番号が相関しているかどうかを判定して相関しているデータのみを抽出する処理と、
相関のとれた目標のドップラ周波数の送信パルスの諸元からパルス圧縮時に発生する距離オフセットを補正した距離値を出力する処理と、
を含むことを特徴とするコンピュータ読取り可能なプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−102749(P2011−102749A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257585(P2009−257585)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】