説明

レーダ装置

【課題】要求覆域に対して各レーダで探知すべき覆域を最適化し、短いデータ更新間隔で要求覆域を探知できるレーダ装置を得る。
【解決手段】要求覆域を保持する要求覆域保持手段7と、レーダ情報を保持するレーダ情報保持手段8と、覆域境界の組を保持する覆域境界保持手段10と、前記要求覆域、レーダ情報、覆域境界の組に基きデータ更新間隔を評価するデータ更新間隔評価手段11と、隣接するレーダのデータ更新間隔を比較し大きい方を出力する隣接レーダデータ更新間隔比較手段13と、隣接する一方のレーダのデータ更新間隔が減少し、隣接する他方のレーダのデータ更新間隔が増加するように、両者の間の覆域境界を修正する覆域境界修正手段14と、前記要求覆域、レーダ情報、修正後の覆域境界の組に基き各レーダのレーダ諸元を算出するレーダ諸元算出手段16と、前記レーダ諸元に基き、各レーダを制御するレーダ制御手段17とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、与えられた要求覆域を複数のレーダを用いて探知するレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のレーダ装置には、複数レーダの覆域が重複する部分で費やしていた時間やエネルギーを、覆域の谷間で使用することにより、全体の覆域の拡大を図るものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平5−297132号公報(第1頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のレーダ装置は、覆域を拡大することを目的としているが、探知すべき覆域を具体的にどのように各レーダで分担すればよいのかについては不明であるという問題点があった。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、与えられた要求覆域に対して、各レーダで探知すべき覆域を最適化し、短いデータ更新間隔で要求覆域を探知することができるレーダ装置を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るレーダ装置は、探知すべき範囲として予め設定された要求覆域を複数のレーダを用いて探知するレーダ装置であって、前記要求覆域を保持する要求覆域保持手段と、前記複数のレーダの設置位置を含むレーダ情報を保持するレーダ情報保持手段と、前記要求覆域内の前記複数のレーダの隣接した覆域の境界である覆域境界の組を保持する覆域境界保持手段と、前記要求覆域、前記レーダ情報、及び前記覆域境界の組に基づいて、前記複数のレーダのそれぞれの覆域を求め、前記覆域を探知するために必要な時間であるデータ更新間隔を評価するデータ更新間隔評価手段と、隣接するレーダの前記データ更新間隔を比較し、どちらのデータ更新間隔が大きいかを出力する隣接レーダデータ更新間隔比較手段と、前記隣接レーダデータ更新間隔比較手段の出力に基づいて、前記データ更新間隔が大きいと判定された隣接する一方のレーダのデータ更新間隔が減少するように、隣接する他方のレーダのデータ更新間隔が増加するように、両者の間の覆域境界を修正して前記覆域境界保持手段に保持する覆域境界修正手段と、前記要求覆域、前記レーダ情報、及び修正された覆域境界の組に基づいて、前記複数のレーダのそれぞれに対するレーダ諸元を算出するレーダ諸元算出手段と、前記レーダ諸元に基づいて、前記複数のレーダを制御するレーダ制御手段とを設けたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明に係るレーダ装置は、与えられた要求覆域に対して、各レーダで探知すべき覆域を最適化し、短いデータ更新間隔で要求覆域を探知することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1に係るレーダ装置について図1から図12までを参照しながら説明する。
【0009】
本実施の形態1で用いるレーダは、空間中に電磁波を放射し、目標からの反射波を受信して、目標を探知するレーダである。異なる位置に設置されているN台のレーダを用いており、第1のレーダ、第2のレーダ、…、第Nのレーダと呼ぶこととする。なお、レーダは固定式でも移動式でも良いが、レーダが移動した場合には、本実施の形態1に基づき、各レーダのレーダ諸元を再計算する必要がある。
【0010】
レーダによって探知すべき範囲は、あらかじめユーザによって設定されており、この領域を「要求覆域」と呼ぶ。この要求覆域は、実際には3次元空間の領域であるが、その高度方向の範囲が水平方向の範囲に対して小さい場合には、近似的に2次元平面の領域と考えてもよい。そこで、以下の説明においては、要求覆域は2次元平面の領域であるものとし、また、その平面内に各レーダが設置されているものとする。
【0011】
この要求覆域は、用途に応じてあらかじめユーザによって設定される。図1は、本発明の実施の形態1における要求覆域及びレーダの位置関係を示した図である。図1において、要求覆域は、長方形形状をしている。
【0012】
ここで、図2のように、各レーダがそれぞれ扇形形状の領域内部を探知する場合を考える。この場合、4台のレーダの探知範囲(すなわちレーダの覆域)を重ねると、要求覆域を覆うこととなり、要求覆域の全領域を探知できる。しかし、それぞれのレーダの覆域において、要求覆域以外の範囲、あるいは他のレーダの覆域と重複している範囲が多くなると、それだけ探知に要する時間が長くなる。
【0013】
探知に要する時間を短縮するためには、要求覆域以外の覆域、あるいは複数のレーダで重複している覆域を減らすことが考えられる。以下、複数のレーダで重複している覆域は完全になくすことにする。図3は、本発明の実施の形態1における4台のレーダの覆域を狭めた状態を示す図である。図3では、各レーダによる覆域が、それぞれ異なるハッチングにより示されている。また、図3において、隣接する2台のレーダの覆域の境界となる部分を「覆域境界」と呼ぶ。
【0014】
各レーダについて、その覆域が決まることにより、覆域を一通り探知するために必要な時間、すなわちデータ更新間隔が定まる。第iのレーダのデータ更新間隔をTとしたとき(但し、図1の場合だとi=1,2,3,4)、Tの最大値max(T,T,T,T)を「統合データ更新間隔」と呼ぶ。本発明の目的は、この統合データ更新間隔を小さくするような覆域境界を求め、求まった覆域境界に対応して定まるそれぞれの覆域を探知するように各レーダを制御することである。
【0015】
ここで、例えばT=max(T,T,T,T)である場合を考える。この時、第1のレーダの覆域の一部を第2のレーダに移譲することによって、Tの値(つまり統合データ更新間隔)を下げることができる。このように、データ更新間隔が最大であるレーダの覆域の一部を隣接するレーダに移譲する操作を反復することにより、データ更新間隔が均等化され、また統合データ更新間隔も削減される。従って、統合データ更新間隔が最小となる覆域境界の組に対しては、T=T=T=Tの関係が成り立つこととなる。逆に、T=T=T=Tとなる覆域境界の組を求められれば、その時の統合データ更新間隔の値は最小にはならないまでも、小さくなることが期待される。本発明は、データ更新間隔を均等化する覆域境界の組を求めることにより、統合データ更新間隔を小さくするものである。
【0016】
図4は、本発明の実施の形態1に係るレーダ装置の構成を示す図である。図4において、この実施の形態1に係るレーダ装置は、レーダ1〜6と、要求覆域保持手段7と、レーダ情報保持手段8と、覆域境界初期化手段9と、覆域境界保持手段10と、データ更新間隔評価手段11と、修正対象覆域境界選択手段12と、隣接レーダデータ更新間隔比較手段13と、覆域境界修正手段14と、覆域境界交差対処手段15と、レーダ諸元算出手段16と、レーダ制御手段17とが設けられている。
【0017】
目標を探知するレーダとして第1のレーダ1、第2のレーダ2、第3のレーダ3、第4のレーダ4の計4台のレーダが用いられる(図4では6台のレーダを表示しているが、これは利用可能なレーダに依存するものであり、ここでは4台のレーダを利用するものとする)。これらのレーダが探知すべき要求覆域は、要求覆域保持手段7にあらかじめ保持されている。
【0018】
また、各レーダそれぞれに関する固有のレーダ情報は、レーダ情報保持手段8に保持されている。ここで「レーダ情報」には、例えば、レーダの設置位置、向き、及び探知可能範囲などの情報が含まれている。本実施の形態1では、各レーダの探知可能範囲に関する制約は、特にないものとする。
【0019】
覆域境界保持手段10は、覆域境界の組を保持する。ここで各覆域境界は、1つまたは複数のパラメータ(以下、覆域境界パラメータと呼ぶ)で一意に定まるものであり、覆域境界保持手段10は、具体的には覆域境界パラメータの組を保持する。覆域境界保持手段10が保持する覆域境界の組は、覆域境界初期化手段9によって初期化される。
【0020】
本実施の形態1では覆域境界パラメータの数を1とする。本実施の形態1の場合、各覆域境界を、予め定めた通過点を通る直線に限定する(図5参照)。この時、例えば、直線の向きを表す角度(図5における角度α、α、α)を覆域境界パラメータとすることができる。
【0021】
データ更新間隔評価手段11は、要求覆域保持手段7からの要求覆域、レーダ情報保持手段8からのレーダ情報、及び覆域境界保持手段10からの覆域境界の組に基づいて、それぞれのレーダの覆域を求め、さらにその覆域に対するデータ更新間隔を評価する。
【0022】
ここで、データ更新間隔の評価方法の一例を説明する。但し、ここではパルス圧縮を行うレーダを対象とし、ビームの方向によって利得やビーム幅の変化がない場合を想定する。まず、ある方向に向けたビームについて、レーダ方程式より下式が成り立つ。
【0023】
=K・DH
【0024】
但し、Rは探知距離、Dはパルス圧縮率、Hはコヒーレント積分数(パルスヒット数)を表す。ここで探知距離Rは、ビームの方向によって異なる。また、K(i=1、2、3、・・・)は定数を表す。
【0025】
デューティー比を一定とすると、D=K・PRT(但し、PRTはパルス繰り返し周期であり、Pulse Repetition Timeの略である)であり、データ更新間隔は下式となる。但し、下式における総和は、各ビームに対応して計算するものとする。
【0026】
(データ更新間隔)=Σ(PRT・H)
=K・ΣR
【0027】
実際には「Hが整数」などの制約があるため、上の式には多少の誤差があるが、ここでは無視するものとする。
【0028】
ここで、レーダから覆域を見込む角度を一定角度Δθで区切ることを考える。今、ビーム幅をBWと置くと(ビーム幅が方位にかかわらず一定であることに注意)、Δθの角度範囲内のビーム数をK・(Δθ/BW)と表すことができる。さらにΔθ内ではRがほぼ一定であると考える。すると、データ更新間隔は一定角度刻みΔθで取った各方位θについての総和として整理しなおすことにより、下式で表現できる。
【0029】
(データ更新間隔)=K・Σ(R・Δθ)
【0030】
ここで定数を無視すると、データ更新間隔をθに関する総和ΣRによって評価することができることが結論付けられる。図6に、θに関する総和としてΣRを求める際のΔθとRの関係を示す。
【0031】
次に、修正対象覆域境界選択手段12が、修正対象とする覆域境界を決定する。この決定のため、修正対象覆域境界選択手段12は、まず、データ更新間隔評価手段11が算出したデータ更新間隔のうち最大となるものに対応するレーダを抽出する(これをレーダAとする)。そして、そのレーダに隣接するレーダのうち、データ更新間隔が小さい方のレーダを抽出する(これをレーダBとする)。修正対象覆域境界選択手段12は、最終的に、レーダAとレーダBとの間の覆域境界を修正対象として選択し、出力する。
【0032】
例えば、図5において、各レーダのデータ更新間隔T,T,T,Tが、それぞれ次のように算出されたものとする。
: 9秒
:11秒
:12秒
:10秒
【0033】
このうちデータ更新間隔が最大のレーダは、第3のレーダである。第3のレーダに隣接するレーダは、第2のレーダと、第4のレーダである。これらのレーダのうち、データ更新間隔が小さいのは第4のレーダである。従って、第3のレーダと第4のレーダとの間の覆域境界が、修正対象として選択される。
【0034】
隣接レーダデータ更新間隔比較手段13は、修正対象として選択された覆域境界の両側のレーダについて、そのどちらのデータ更新間隔がより大きいかを出力する。本実施の形態1の場合、これは修正対象覆域境界選択手段12によって既に求められているので、その結果をそのまま出力すれば良い。上の例の場合、「第3のレーダが第4のレーダよりもデータ更新間隔が大きい」との結果が出力されることになる。
【0035】
覆域境界修正手段14は、隣接レーダデータ更新間隔比較手段13が出力した結果において、データ更新間隔が大きいと判定されたレーダのデータ更新間隔が減少するように、また一方のレーダのデータ更新間隔が増加するように、その間の覆域境界を修正する。本実施の形態1では覆域境界パラメータ数が1つなので、覆域境界パラメータを増減することにより、覆域境界修正を実現する。具体的には、覆域境界パラメータの増減の程度を表す正の実数であるパラメータ(以下、覆域境界修正幅と呼ぶ)に対応して算出された数を、修正対象となる覆域境界パラメータに対して加えたり、掛けたりすれば良い。本実施の形態1では、原則として、修正対象となる覆域境界パラメータに対して、単純に覆域境界修正幅を加算するか、もしくは減算するものとする。
【0036】
しかし、覆域境界パラメータが意味を持つためには、その上限や下限を規定する必要がある場合がある。例えば、図5のような状況下で、第1のレーダと第2のレーダ間の覆域境界は、要求覆域と交差していない場合は、どのように変化しようが意味を持たない。そのためには、その覆域境界パラメータαは、図7に示すmax{α}を上限、min{α}を下限とする範囲内になければならない。従って、覆域境界パラメータαに対して覆域境界修正幅が加算された結果がmax{α}より大きくなった場合には、その値をそのまま修正結果とするのではなく、max{α}を修正結果とする。一方、覆域境界パラメータαに対して覆域境界修正幅が減算された結果がmin{α}より小さくなった場合には、その値をそのまま修正結果とするのではなく、min{α}を修正結果とする。
【0037】
さて、前述のように、隣接レーダデータ更新間隔比較手段13によって「第3のレーダが第4のレーダよりもデータ更新間隔が大きい」との結果が出力された場合、第3のレーダのデータ更新間隔が減少、第4のレーダのデータ更新間隔が増加するように覆域境界が修正される。覆域境界の修正の例を図8に示す。図8の場合、第3のレーダの覆域が減少、第4のレーダの覆域が増加するように覆域境界が修正されるので、それに対応し、第3のレーダのデータ更新間隔が減少、第4のレーダのデータ更新間隔が増加する。これにより、第3のレーダと第4のレーダのデータ更新間隔の差が縮小することが期待される。
【0038】
上記の覆域境界修正処理を反復することにより、各レーダのデータ更新間隔が均等化され、結果的に統合データ更新間隔が小さくなることが期待できる。覆域境界修正が完了した後の覆域境界の組は、覆域境界保持手段10に保持されている。
【0039】
覆域境界交差対処手段15は、覆域境界修正手段14による修正後の覆域境界や覆域境界保持手段10が保持するそれ以外の覆域境界を入力とし、これらの覆域境界が要求覆域内部で交わるかどうかを判定する。そして、要求覆域内部で覆域境界同士が交わると判定した場合は、直前の覆域境界修正結果を破棄し、覆域境界の修正をやり直すよう,覆域境界修正手段14に指示する。
【0040】
例えば、覆域境界修正手段14による覆域境界の修正結果が図9のようであったとする。この場合、第2のレーダと第3のレーダ間の覆域境界と、第3のレーダと第4のレーダ間の覆域境界とが要求覆域内で交わっている。従って、第2のレーダと第4のレーダの覆域が重複する状況となってしまう。これを避けるため、覆域境界交差対処手段15は、覆域境界の修正をやり直すよう,覆域境界修正手段14に指示するのである。
【0041】
レーダ諸元算出手段16は、要求覆域保持手段7からの要求覆域、レーダ情報保持手段8からのレーダ情報、及び覆域境界保持手段10からの覆域境界の組に基づいて、対応する覆域を探知するように、各レーダのレーダ諸元を求める。
【0042】
覆域の形状に合わせて、レーダ設置位置から見た各方向の探知距離を変えるためには、例えばヒット数、パルス幅、ビーム幅などのレーダ諸元を変えることが考えられる。これらのレーダ諸元の適切な値は、レーダ方程式を利用すれば求めることができる。レーダ制御手段17は、レーダ諸元算出手段16で算出されたレーダ諸元に基づいて第1〜第4のレーダを制御する。
【0043】
つぎに、この実施の形態1に係るレーダ装置の動作についてフローチャートを参照しながら説明する。
【0044】
図10は、本発明の実施の形態1に係るレーダ装置のレーダ諸元最適化処理を示すフローチャートである。
【0045】
まず始めに、要求覆域保持手段7に要求覆域を、またレーダ情報保持手段8にレーダ情報を設定しておく(ステップ101)。
【0046】
続いて、覆域境界保持手段10、データ更新間隔評価手段11、修正対象覆域境界選択手段12、隣接レーダデータ更新間隔比較手段13、覆域境界修正手段14、及び覆域境界交差対処手段15は、覆域境界の組を、適切な初期値から出発して徐々に修正を加えていくことにより、データ更新間隔が均等化するような覆域境界の組を求め、これにより覆域境界の最適化が行われる(ステップ102)。
【0047】
そして、レーダ諸元算出手段16は、算出された覆域境界の組に合わせてレーダ諸元を導出し(ステップ103)し、それに基づいてレーダ制御手段17は、第1〜第4のレーダを制御する(ステップ104)。
【0048】
ここで、図10のステップ102における覆域境界の最適化処理の詳細について説明する。
【0049】
図11は、本発明の実施の形態1に係るレーダ装置の覆域境界の最適化処理を示すフローチャートである。
【0050】
まず始めに、覆域境界修正手段14は、覆域境界修正幅を適当な値により初期化する(ステップ201)。この値はユーザが外部から与えるようにしても良い。
【0051】
さらに覆域境界初期化手段9が、要求覆域保持手段7が保持する要求覆域と、レーダ情報保持手段8が保持するレーダ情報とに基づいて、覆域境界保持手段10が保持する覆域境界の組(具体的には覆域境界パラメータの組)を初期化する(ステップ202)。その際、各覆域境界パラメータの値は、その取り得る値の範囲内で設定される。また、覆域境界同士が要求覆域内で交差することがないように設定される。
【0052】
続いて、要求覆域、レーダ情報、覆域境界の組に基づいて各レーダの覆域が定まるので、それに基づいて、データ更新間隔評価手段11が、各レーダのデータ更新間隔を評価する(ステップ203)。
【0053】
そして、この時点で、予め定められた終了条件が満たされた場合には、覆域境界最適化処理が終了する(ステップ204)。終了条件としては、例えば「最適化のループ数が一定回数に達した」や、「データ更新間隔の最大値と最小値との差が予め定めた閾値以下になった」などの条件を設定する。
【0054】
一方、終了条件が満たされない場合は、修正対象覆域境界選択手段12、隣接レーダデータ更新間隔比較手段13、覆域境界修正手段14、及び覆域境界交差対処手段15は、覆域境界の組を修正する(ステップ205)。覆域境界の組の修正処理が完了すると、ステップ203に戻る。
【0055】
ここで、図11のステップ205における覆域境界の修正処理の詳細について説明する。
【0056】
図12は、本発明の実施の形態1に係るレーダ装置の覆域境界の修正処理を示すフローチャートである。
【0057】
まず始めに、修正対象覆域境界選択手段12が、全ての覆域境界の中から、修正対象とする覆域境界を選択する(ステップ301)。修正対象とする覆域境界としては、以下の条件を満たす隣接レーダA、Bの間の覆域境界を抽出する。
(1)データ更新間隔のうち最大となるものに対応するレーダ(レーダA)。
(2)レーダAに隣接するレーダのうち、データ更新間隔が小さい方のレーダ(レーダB)。
【0058】
選択された覆域境界の両側のレーダのうち、どちらのデータ更新間隔が大きいかを隣接レーダデータ更新間隔比較手段13が出力し、その結果に基づいて、覆域境界修正手段14は、データ更新間隔が大きいと判定されたレーダのデータ更新間隔が減少するように、また一方のレーダのデータ更新間隔が増加するように、その間の覆域境界を修正する(ステップ302)。これにより、選択された覆域境界の両側のレーダのデータ更新間隔の差が縮小する。
【0059】
続いて、覆域境界交差対処手段15は、覆域境界修正手段14による修正後の覆域境界や覆域境界保持手段10が保持するそれ以外の覆域境界を入力とし、これらの覆域境界が要求覆域内部で交わるかどうかを判定する(ステップ303)。
【0060】
そして、要求覆域内部で覆域境界同士が交わると判定した場合は、直前の覆域境界修正結果を破棄し、覆域境界の修正をやり直すよう、覆域境界修正手段14に指示する(ステップ304)。そうでない場合は、覆域境界修正処理は終了する。
【0061】
この実施の形態1によれば、覆域境界修正処理を隣接レーダのデータ更新間隔の差が縮小する方向に反復することにより、各レーダのデータ更新間隔が均等化され、結果的に統合データ更新間隔が小さいような覆域境界の組を得ることができる。最終的に得られた覆域境界の組に基づいてレーダを動作させることにより、短いデータ更新間隔で要求覆域を探知するレーダ装置が実現できる。
【0062】
また、修正対象とする覆域境界を、データ更新間隔が最大のレーダと、それに隣接し、データ更新間隔が小さいほうのレーダとの間にあるものとして選択するので、データ更新間隔の均等化を高速に実施できる。
【0063】
さらに、各覆域境界を、1つの覆域境界パラメータで表現できるものに限定するので、最適化対象である変数の数が小さくなり、従って、データ更新間隔の均等化を高速に実施できる。
【0064】
さらに、覆域境界の修正の結果、要求覆域内で覆域境界同士が交わる状況になった場合には、覆域境界修正処理をやり直すので、複数レーダの覆域が重複して冗長になっている状況を処理せずに済み、データ更新間隔の均等化を高速に実施できる。
【0065】
さらに、覆域境界の修正を、覆域境界パラメータが取り得る値の範囲内で、覆域境界パラメータに対して覆域境界修正幅を加算または減算することにより行うので、処理を単純に行える。
【0066】
なお、本実施の形態1においては、説明を簡便とするために、要求覆域を2次元平面として説明したが、これに限定されない。要求覆域を3次元空間における領域として考えた場合についても、2次元と全く同様の考え方により、統合データ更新間隔を小さくする覆域境界の組を求めることができる。
【0067】
実施の形態2.
この発明の実施の形態2に係るレーダ装置について図13から図25までを参照しながら説明する。
【0068】
この実施の形態2は、後で説明する図19に示すように、修正対象覆域境界選択手段12が存在しない点、また、過去覆域境界保持手段18と覆域境界比較手段19を新たに備えた点が、上記の実施の形態1と異なる。また、レーダの性質および要求覆域については、上記の実施の形態1とは異なるものを考える。
【0069】
本実施の形態2では、以下の性質を持つレーダを考える。
(1)レーダは、その正面方向を基準とし、予め定められた方位角の範囲内のみを探知可能である。
(2)レーダには送信パルス幅およびデューティー比の制約があるため、予め定められた距離(以下、最適処理距離と呼ぶ)以上を探知する際には余計な損失が発生する。
【0070】
従って、上記実施の形態1と同様に検討対象を2次元平面に限定した場合、レーダが余計な損失なしに探知可能な領域は扇形形状となる。以上の性質を持つレーダの探知範囲の状況を図13に示す。図13において、領域1は、レーダを中心とし、最適処理距離を半径とする扇形である。そして、領域1は余計な損失なしに探知可能な領域、領域2は探知可能ではあるが余計な損失が発生する領域、また、領域3は探知不可能な領域を表す。
【0071】
上述の「送信パルス幅およびデューティー比の制約」は、レーダのハードウェアなどの制約に起因するものであり、具体的には以下のものである。
(1)送信パルス幅は一定量pwmax以上には上げられない。
(2)デューティー比は一定量Dutymax以上には上げられない。
【0072】
そして、レーダの探知距離Rが最適処理距離Rmax以下である場合には、デューティー比をDutymaxに固定し、送信パルス幅はRとデューティー比に応じて変化させる。また、探知距離Rが最適処理距離Rmax以上である場合には、送信パルス幅をpwmaxに固定する。この時、デューティー比はRに応じて変化することになる。デューティー比は最大値Dutymaxに固定している場合が最も効率良く電力を照射できるので、それ以下の値である場合には、損失が発生していることになる。
【0073】
(a)探知距離RがRmaxより小さい場合、(b)探知距離RがRmaxと等しい場合、(c)探知距離RがRmaxより大きい場合、のそれぞれについて、レーダが照射するパルスの状況を図14に示す。図14では、パルス幅をpw、パルス繰り返し周期をPRT、また、パルス立下り時点から次のパルス立ち上がり時点までの時間間隔をXで表している。ここで、各変数に対し、下付き文字A、B、Cを、上の3つの状況に対応して付している。
【0074】
以下、上記制約を満たすレーダに関するデータ更新間隔の評価方法の一例について述べる。但し、ここではパルス圧縮を行うレーダを対象とし、ビームの方向によって利得やビーム幅の変化がない場合を想定する。この時、レーダ方程式より下記式が成り立つ。
【0075】
=L・DH=L・pw・H
【0076】
但し、Rは探知距離、Dはパルス圧縮率、Hはコヒーレント積分数(パルスヒット数)、pwはパルス幅を表す。ここで探知距離Rは、ビームの方向によって異なる。また、L(i=1、2、3、・・・)は定数を表す。
【0077】
従って、データ更新間隔は下式となる。但し、下式における総和は、各ビームに対応して計算するものとする。但し、PRTはパルス繰り返し周期である。
【0078】
(データ更新間隔)=Σ(PRT・H)
=(1/L)・Σ{PRT・(R/pw)}
【0079】
デューティー比をDutyと置くとDuty=pw/PRTなので、上式は以下のようになる。
【0080】
(データ更新間隔)=(1/L)・Σ(R/Duty)
【0081】
ここでレーダから覆域を見込む角度を一定角度Δθで区切ることを考えると、実施の形態1における議論と同様にして、データ更新間隔は以下のように表現できる。但し、下式の総和は、一定角度刻みΔθで取った各方位θに関する総和である。
【0082】
(データ更新間隔)=L・Σ(R・Δθ/Duty)
【0083】
ここで、R=a・Rmax(但しa>1)の時、デューティー比がどう変化するかを考える。R=a・Rmaxの時のデューティー比をDuty’と置くと、これは以下の式で表せる。但し、Xは、R=Rmaxの場合の、パルス立下り時点から次のパルス立ち上がり時点までの時間間隔を表す(図14参照)。
【0084】
Duty’=pwmax/(pwmax+a・X
【0085】
一方、R=Rmaxの時のデューティー比Dutymaxは、以下の式で表せる。
【0086】
Dutymax=pwmax/(pwmax+X
【0087】
よって、Duty’は下記のように計算できる。
【0088】
Duty’=Dutymax/{Dutymax+a・(1−Dutymax)}
【0089】
従って、データ更新間隔は以下のようになる。
【0090】
R≦Rmaxの時:
(データ更新間隔)=L・Σ(R・Δθ)
【0091】
a>1に対してR=a・Rmaxの時:
(データ更新間隔)=L・Σ[{Dutymax+a・(1−Dutymax)}R・Δθ]
【0092】
ここで、f(a)を以下のように定義する。
【0093】
a≦1の場合:
f(a)=1
【0094】
a>1の場合:
f(a)=Dutymax+a・(1−Dutymax
【0095】
すると、データ更新間隔は下記式で表される。
【0096】
(データ更新間隔)=L・Σ(f(R/Rmax)・R・Δθ)
【0097】
ここで定数を無視すると、データ更新間隔は下記式で評価できることになる。
【0098】
(データ更新間隔)=Σ(f(R/Rmax)・R
【0099】
次に、本実施の形態2で対象とする要求覆域について説明する。前述の性質を持つ2台以上のレーダがあり、隣接レーダの「余計な損失なしに探知可能な領域」間に重複部分が存在することを前提とする。レーダの隣接関係がループしていない場合とループしている場合の例を、それぞれ図15および図16に示す。これらの図における扇形形状の破線は、それぞれのレーダが余計な損失なしに探知可能な領域を表す。これらのレーダの「余計な損失なしに探知可能な領域」の和集合が要求覆域となっている状況を考える。また、以下、この「余計な損失なしに探知可能な領域」のことを通常探知領域と呼ぶ。
【0100】
上記実施の形態1と同様に、データ更新間隔を短縮するために、複数のレーダで重複している覆域をなくすことを考える。本実施の形態2では、要求覆域以外の覆域も完全になくす。図15に関してレーダの覆域を狭めた状況を図17に、また、図16に関してレーダの覆域を狭めた状況を図18に示す。実施の形態1と同様に、各レーダについて、その覆域が決まることにより、データ更新間隔が定まる。さらに、データ更新間隔の最大値として、統合データ更新間隔が定まる。本実施の形態2でも、実施の形態1と同様に、データ更新間隔を均等化する覆域境界の組を求めることにより、統合データ更新間隔を小さくすることを目的とする。
【0101】
以下、覆域境界に関する具体的な説明は、レーダ装置を構成する複数レーダのうち、隣接する2つのレーダ(必要な場合は3つのレーダ)を取り出して行うことにする(それ以外のレーダの表示は省略する)。これらのレーダを、それぞれ「第iのレーダ」、「第i+1のレーダ」(および必要な場合は「第i+2のレーダ」)と呼ぶ。
【0102】
図19は、本発明の実施の形態2に係るレーダ装置の構成を示す図である。図19において、修正対象覆域境界選択手段12が存在しない点、また、過去覆域境界保持手段18および覆域境界比較手段19を新たに備えた点が、図4に示す実施の形態1に係るレーダ装置の構成と異なる。それ以外の構成は、基本的に図4に示す実施の形態1の構成と同じである。
【0103】
覆域境界保持手段10に保持される覆域境界の形式について説明する。実施の形態1と同様、各覆域境界は、それぞれ1つの覆域境界パラメータで定められるものとする。さらに、覆域境界は、隣接レーダの通常探知領域を表す2つの扇形の半径部分の交点を通り、扇形の重複部分を通過する直線に限定するものとする(図20参照)。覆域境界をこの形式に限定することにより、覆域が要求覆域からはみ出す状況が生じないため、効率的に適切な覆域境界の組の探索を行える。また、覆域境界の可動範囲が広いため、隣接レーダのデータ更新間隔の調整を柔軟に行える。
【0104】
図20に示す覆域境界の場合、図21に示す方位θによって一意に定まる。上述のように覆域境界の可動範囲が決まっているので、θは図21に示すmax{θ}を上限、min{θ}を下限とする範囲内になければならない。従って、θを0≦t≦1なるtをパラメータとして、以下の式により表現することができる。
【0105】
θ=(1−t)・max{θ}+t・min{θ}
【0106】
そこで、tを覆域境界パラメータとして覆域境界を表すことにする。
【0107】
隣接レーダデータ更新間隔比較手段13は、全ての覆域境界について、逐次、その両側のレーダのどちらのデータ更新間隔がより大きいかを出力する。覆域境界修正手段14は、全ての覆域境界について、隣接レーダデータ更新間隔比較手段13が出力した結果において、データ更新間隔が大きいと判定されたレーダのデータ更新間隔が減少するように、また一方のレーダのデータ更新間隔が増加するように、その間の覆域境界を修正する。覆域境界修正幅をΔtと置いた場合、覆域境界の修正は、tをmin(1,t+Δt)もしくはmax(0,t−Δt)に置き換えることによって実現する(0≦t≦1なる制約を満たすようにtを修正していることに注意)。
【0108】
覆域境界の修正方法について具体的な例に基づいて説明する。第iのレーダと第i+1のレーダ、またその間の覆域境界の位置関係が図22(a)のようであり、隣接レーダデータ更新間隔比較手段13によって、「第i+1のレーダが第iのレーダよりもデータ更新間隔が大きい」と判定されたという状況を考える。すると、覆域境界の修正は、覆域境界パラメータtをmax(0,t−Δt)に置き換えることにより行われる(図22(b)参照)。これにより、第iのレーダの覆域が増加、第i+1のレーダの覆域が減少するように覆域境界が修正されるので、それに対応し、第iのレーダのデータ更新間隔が増加、第i+1のレーダのデータ更新間隔が減少する。これにより、第iのレーダと第i+1のレーダのデータ更新間隔の差が縮小することが期待される。
【0109】
覆域境界交差対処手段15は、実施の形態1と同様、修正後の覆域境界の組を入力とし、覆域境界同士が要求覆域内で交わるかどうかを判定する(但し、実施の形態1と異なり、覆域境界修正手段14によって全ての覆域境界が修正されるので、覆域境界保持手段10の内容を入力として取る必要はない)。そして、要求覆域内部で覆域境界同士が交わると判定した場合は、直前の覆域境界修正結果を破棄し、覆域境界の修正をやり直すよう,覆域境界修正手段14に指示する。要求覆域内部で覆域境界同士が交わる場合の例を図23に示す。図23の状況は、第iのレーダと第i+2のレーダの覆域が重複して冗長になっているので、これを避けるため、覆域境界の修正をやり直すのである。
【0110】
覆域境界の修正のやり直しは、覆域境界修正幅Δtを減少し、新たなΔtに対してtをmin(1,t+Δt)もしくはmax(0,t−Δt)に置き換えることによって実現する。覆域境界修正幅の減少は、例えば1より小さい正の定数(例えば0.5)を覆域境界修正幅に掛けることにより行う。
【0111】
過去覆域境界保持手段18は、覆域境界保持手段10が、その内容が修正される直前に保持していた覆域境界の組を保持する。覆域境界比較手段19は、覆域境界修正手段14が出力する修正後の覆域境界の組と(本実施の形態2では、覆域境界修正手段14は、全ての覆域境界を修正することに注意)、過去覆域境界保持手段18が保持する覆域境界の組とを比較し、それらが同一であるか否かを判定する。そして、同一と判定した場合は覆域境界修正手段14が保持する覆域境界修正幅を減少する。覆域境界修正幅の減少は、上で述べたのと同様に、例えば1より小さい正の定数を覆域境界修正幅に掛けることにより行う。
【0112】
ここで、上の処理の意味を説明する。覆域境界修正手段14によって、全ての覆域境界が、固定された覆域境界修正幅によって同時に修正される、との処理が反復されることを考える。すると、最終的には、覆域境界の組が2つの状態の間で振動する、という現象が起こる(図24参照)。覆域境界比較手段19は、上述の処理により、この振動現象が生じたことを検知する。そして、振動現象を終了し、より細かいスケールで覆域境界修正処理を続けるため、覆域境界修正幅を減少するのである。この処理により、覆域境界修正幅は徐々に減少していき、覆域境界の修正も、より細かな範囲で行われるようになっていく。
【0113】
つぎに、この実施の形態2に係るレーダ装置の動作についてフローチャートを参照しながら説明する。
【0114】
レーダ装置全体の動作は、上記実施の形態1における図10のフローチャートと同じで、ここでは説明を省略する。さらに、図10の覆域境界最適化(ステップ102)についても、上記実施の形態1における図11のフローチャートと同じであり、説明を省略する。ここでは、図11のステップ205の覆域境界修正処理の詳細について説明する。
【0115】
図25は、本発明の実施の形態2に係るレーダ装置の覆域境界の修正処理を示すフローチャートである。
【0116】
まず、全ての覆域境界について、覆域境界の両側のレーダのうち、どちらのデータ更新間隔が大きいかを隣接レーダデータ更新間隔比較手段13が出力し、その結果に基づいて、覆域境界修正手段14は、データ更新間隔が大きいと判定されたレーダのデータ更新間隔が減少するように、また一方のレーダのデータ更新間隔が増加するように、その間の覆域境界を修正する(ステップ401)。これにより、全ての覆域境界について、その両側のレーダのデータ更新間隔の差が縮小する。
【0117】
続いて、覆域境界交差対処手段15は、覆域境界修正手段14による修正後の覆域境界を入力とし、これらの覆域境界が要求覆域内部で交わるかどうかを判定する(ステップ402)。
【0118】
そして、要求覆域内部で覆域境界同士が交わると判定した場合は、直前の覆域境界修正結果を破棄するよう、覆域境界修正手段14に指示する(ステップ403)。その場合、覆域境界交差対処手段15はさらに、覆域境界修正幅を減少して覆域境界の修正をやり直すよう、覆域境界修正手段14に指示する(ステップ404)。
【0119】
ステップ402において、要求覆域内部で覆域境界同士が交わると判定されなかった場合、覆域境界比較手段19は、覆域境界修正手段14が出力する修正後の覆域境界の組と、過去覆域境界保持手段18が保持する覆域境界の組とを比較し、それらが同一であるか否かを判定する(ステップ405)。ここで過去覆域境界保持手段18には、覆域境界保持手段10が、その内容が修正される直前に保持していた覆域境界の組が保持されている。
【0120】
そして、同一と判定した場合、つまり、覆域境界の組の振動現象が生じていると判定した場合には、覆域境界修正手段14が保持する覆域境界修正幅を減少して(ステップ406)、覆域境界修正処理を終了する。一方、ステップ405において同一と判定されなかった場合には、覆域境界修正幅を変えずに覆域境界修正処理を終了する。
【0121】
この実施の形態2によれば、覆域境界最適化の各ループにおいて、全ての覆域境界を同時に修正するので、1ループあたりの覆域境界の修正量が大きく、データ更新間隔の均等化を高速に実施できる。
【0122】
また、覆域境界パラメータの増減の幅を表す覆域境界修正幅を初期は大きく設定し、徐々に縮小していくことにより、適切な覆域境界の組の探索を初めは粗く、徐々に細かく実行していくので、データ更新間隔の均等化をより効率的に実施できる。
【0123】
さらに、レーダが余計な損失なしに探知可能な領域(通常探知領域)が扇形形状であり、その和集合が要求覆域となっている場合について、それぞれの隣接する2台のレーダに関する覆域境界を、扇形形状通常探知領域の半径部分の交点を通り、2つの扇形の重複部分を通過する直線に限定することにより、データ更新間隔の均等化を効率的に実施できる。
【0124】
さらに、一定の覆域境界修正幅により覆域境界の修正を反復し、2つの状態の間での覆域境界の組の振動現象を検知した際に、覆域境界修正幅を減少して覆域境界の修正処理を続行することにより、探索の粗さを自動的に適切な値に設定するので、データ更新間隔の均等化をより効率的に実施できる。
【0125】
さらに、要求覆域内で覆域境界同士が交わると判定した場合、覆域境界修正幅を減少して覆域境界の修正をやり直すことにより、覆域境界の修正をやり直した後の覆域境界の組について、要求覆域内で覆域境界同士が交わる可能性が低くなるため、データ更新間隔の均等化をより効率的に実施できる。
【0126】
なお、本実施の形態2においては、説明を簡便とするために、レーダの探知領域および要求覆域を2次元平面として説明したが、これに限定されない。レーダの探知領域および要求覆域を3次元空間における領域として考えた場合についても、2次元と全く同様の考え方により、統合データ更新間隔を小さくする覆域境界の組を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】この発明の実施の形態1における要求覆域及びレーダの位置関係を示した図である。
【図2】この発明の実施の形態1における要求覆域及びレーダの探知範囲(覆域)の位置関係を示した図である。
【図3】この発明の実施の形態1における4台のレーダの覆域を狭めた状態を示す図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図5】この発明の実施の形態1における覆域境界パラメータを示す図である。
【図6】この発明の実施の形態1における方位θに関する総和としてΣRを求める際の一定角度Δθと探知距離Rの関係を示す図である。
【図7】この発明の実施の形態1における覆域境界パラメータの上限と下限を示す図である。
【図8】この発明の実施の形態1における覆域境界の修正例を示す図である。
【図9】この発明の実施の形態1における覆域境界の修正例を示す図である。
【図10】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置のレーダ諸元最適化処理を示すフローチャートである。
【図11】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置の覆域境界の最適化処理を示すフローチャートである。
【図12】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置の覆域境界の修正処理を示すフローチャートである。
【図13】この発明の実施の形態2におけるレーダの探知範囲の状況を示す図である。
【図14】この発明の実施の形態2におけるレーダが照射するパルスの状況を示す図である。
【図15】この発明の実施の形態2におけるレーダの隣接関係がループしていない例を示す図である。
【図16】この発明の実施の形態2におけるレーダの隣接関係がループしている例を示す図である。
【図17】この発明の実施の形態2における図15に関してレーダの覆域を狭めた状況を示す図である。
【図18】この発明の実施の形態2における図16に関してレーダの覆域を狭めた状況を示す図である。
【図19】この発明の実施の形態2に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図20】この発明の実施の形態2における覆域境界パラメータを示す図である。
【図21】この発明の実施の形態2における覆域境界パラメータの上限と下限を示す図である。
【図22】この発明の実施の形態2における覆域境界の修正例を示す図である。
【図23】この発明の実施の形態2における要求覆域内部で覆域境界同士が交わる例を示す図である。
【図24】この発明の実施の形態2における覆域境界の組が2つの状態の間で振動する現象を示す図である。
【図25】この発明の実施の形態2に係るレーダ装置の覆域境界の修正処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0128】
1、2、3、4、5、6 レーダ、7 要求覆域保持手段、8 レーダ情報保持手段、9 覆域境界初期化手段、10 覆域境界保持手段、11 データ更新間隔評価手段、12 修正対象覆域境界選択手段、13 隣接レーダ更新間隔比較手段、14 覆域境界修正手段、15 覆域境界交差対処手段、16 レーダ諸元算出手段、17 レーダ制御手段、18 過去覆域境界保持手段、19 覆域境界比較手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
探知すべき範囲として予め設定された要求覆域を複数のレーダを用いて探知するレーダ装置であって、
前記要求覆域を保持する要求覆域保持手段と、
前記複数のレーダの設置位置を含むレーダ情報を保持するレーダ情報保持手段と、
前記要求覆域内の前記複数のレーダの隣接した覆域の境界である覆域境界の組を保持する覆域境界保持手段と、
前記要求覆域、前記レーダ情報、及び前記覆域境界の組に基づいて、前記複数のレーダのそれぞれの覆域を求め、前記覆域を探知するために必要な時間であるデータ更新間隔を評価するデータ更新間隔評価手段と、
隣接するレーダの前記データ更新間隔を比較し、どちらのデータ更新間隔が大きいかを出力する隣接レーダデータ更新間隔比較手段と、
前記隣接レーダデータ更新間隔比較手段の出力に基づいて、前記データ更新間隔が大きいと判定された隣接する一方のレーダのデータ更新間隔が減少するように、隣接する他方のレーダのデータ更新間隔が増加するように、両者の間の覆域境界を修正して前記覆域境界保持手段に保持する覆域境界修正手段と、
前記要求覆域、前記レーダ情報、及び修正された覆域境界の組に基づいて、前記複数のレーダのそれぞれに対するレーダ諸元を算出するレーダ諸元算出手段と、
前記レーダ諸元に基づいて、前記複数のレーダを制御するレーダ制御手段と
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記データ更新間隔評価手段が算出したデータ更新間隔のうち最大のデータ更新間隔に対応するレーダと、このレーダに隣接するレーダのうちデータ更新間隔が小さい方のレーダとを抽出し、両者の間の覆域境界を修正対象として選択して前記隣接レーダデータ更新間隔比較手段に出力する修正対象覆域境界選択手段
をさらに備えたことを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記覆域境界修正手段による修正後の覆域境界が、前記覆域境界保持手段が保持する覆域境界と前記要求覆域内部で交わるかどうかを判定し、両者が前記要求覆域内部で交わる場合には前記修正後の覆域境界を破棄し、前記覆域境界修正手段に覆域境界の修正をやり直すよう指示する覆域境界交差対処手段
をさらに備えたことを特徴とする請求項1又は2記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記覆域境界は、予め定めた通過点を通る直線の向きを表す角度である覆域境界パラメータとし、
前記覆域境界修正手段は、前記覆域境界パラメータを増減することにより、覆域境界の修正を実現する
ことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記覆域境界修正手段は、修正対象となる覆域境界パラメータに対して、前記覆域境界パラメータの増減の程度を表す正の実数である覆域境界修正幅を加減算することにより、覆域境界の修正を実現する
ことを特徴とする請求項4記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記隣接レーダデータ更新間隔比較手段は、全ての覆域境界について、隣接するレーダの前記データ更新間隔を比較し、どちらのデータ更新間隔が大きいかを出力し、
前記覆域境界修正手段は、全ての覆域境界について、前記隣接レーダデータ更新間隔比較手段の出力に基づいて、前記データ更新間隔が大きいと判定された隣接する一方のレーダのデータ更新間隔が減少するように、隣接する他方のレーダのデータ更新間隔が増加するように、両者の間の覆域境界を修正して前記覆域境界保持手段に保持し、
前記覆域境界修正手段による修正後の覆域境界同士が前記要求覆域内部で交わるかどうかを判定し、前記覆域境界同士が前記要求覆域内部で交わる場合には直前の修正後の覆域境界を破棄し、前記覆域境界修正手段に覆域境界の修正をやり直すよう指示する覆域境界交差対処手段
をさらに備えたことを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項7】
覆域境界が修正される直前に前記覆域境界保持手段が保持していた覆域境界の組を保持する過去覆域境界保持手段と、
前記覆域境界修正手段が出力する修正後の覆域境界の組と、前記過去覆域境界保持手段が保持する覆域境界の組とを比較し両者が同一である場合には、前記覆域境界修正手段の覆域境界修正量を減少する覆域境界比較手段と
をさらに備えたことを特徴とする請求項1又は6記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記覆域境界は、隣接レーダの探知領域を表す2つの扇形の半径部分の交点を通り、扇形の重複部分を通過する直線の向きを表す角度である覆域境界パラメータとし、
前記覆域境界修正手段は、前記覆域境界パラメータを増減することにより、覆域境界の修正を実現する
ことを特徴とする請求項1、6又は7記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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