説明

レーダ装置

【課題】ある変調区間のピーク周波数をペアリングして算出したターゲットの距離及び相対速度と、別の変調区間ピーク周波数をペアリングして算出したターゲットのペアの距離及び相対速度とから、正確なターゲットの距離及び相対速度を確定するレーダ装置において、ピーク周波数が所定範囲でピーク周波数として抽出されない場合、一方のペアが生成できず、ターゲットの距離及び速度が算出できない課題があった。
【解決手段】ある変調区間ペアの距離及び相対速度から、別の変調区間ペアのピーク周波数を推定し、推定したピーク周波数の一方がピーク周波数として抽出されており、推定したピーク周波数の他方がピークとして抽出されず、0付近である場合に、ペアを生成し、距離及び相対速度を推定することにより、正確なターゲットの距離及び相対速度を確定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、対象物体(以下、「ターゲット」という)に送信信号(電波)を照射して、送信信号に基づくターゲットからの反射信号を受信手段で受信した際に、反射信号に基づいてターゲット情報を算出するレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、連続的に周波数を変調した送信信号をターゲットに対して送信し、ターゲットからの反射信号を受信し、送信信号と反射信号のビート信号のピーク周波数に基づいて、ターゲットとの距離及び相対速度を算出する周波数変調レーダ装置が知られている。
この種のレーダ装置におけるターゲットの距離R及び相対速度Vは、一般的なFM−CW(Frequency Modulation Continuous Wave)レーダの原理に基づいて以下のようにして算出される。
【0003】
送信信号に繰返し周波数fm、変調幅ΔFの三角波の周波数変調を施し、周波数が時間的に線形に増加する上昇区間で得られるビート信号のピーク周波数をfu、周波数が時間的に線形に減少する下降区間で得られるビート信号のピーク周波数をfdとすると、
fu=fr−fp …(1)
fd=fr+fp …(2)
で表される。
【0004】
また、frはターゲットまでの距離Rに比例する量、fpはターゲットの相対速度Vに比例する量で、
fr=(4・fm・ΔF/C)・R …(3)
fp=(2・f0/C)・V …(4)
で表される。ここで、Cは光速を、f0は送信信号の中心周波数を示す。
【0005】
よって、ターゲットの距離R及び相対速度Vは、式(1)、(2)、(3)、(4)から、fu,fdの加減処理を用いて、
fu+fd=2fr …(5)
fu−fd=−2fp …(6)
R=Ml・fr=Ml・(fu+fd)/2 …(7)
V=M2・fp=M2・(fu−fd)/2 …(8)
で表される。ただし、
Ml=C/(4・fm・ΔF) …(9)
M2=C/(2・f0) …(10)
fu=R/Ml+V/M2 …(11)
fd=R/M1−V/M2 …(12)
【0006】
上昇区間のビート信号のピーク周波数fuと下降区間のビート信号のピーク周波数fdが分かれば、式(7)、(8)から、ターゲットの距離R及び相対速度Vを算出することができる。
ところが、上記の周波数変調レーダ装置では、ターゲットが単一の場合、その距離R及び相対速度Vを正確に求めることができるが、路上の他車両を測定する場合など、ターゲットが複数存在する場合、それぞれのターゲットの距離R及び相対速度Vを決定することができないという問題がある。
【0007】
例えば、2つのターゲットaとbにおいて、上昇区間で得られるビート信号のピーク周波数をfua、fub、下降区間で得られるビート信号のピーク周波数をfda、fdbとした場合、ターゲットの距離Ra、Rb及び相対速度Va、Vbを求めるためには、そのターゲットの上昇区間と下降区間におけるビート信号のピーク周波数のペアを見つけ、式(7)、(8)に代入すればよい。
ここで、ピーク周波数をfu、fd、距離R及び相対速度Vにおいて、添字aが付いているものがターゲットaの、添字bが付いているものがターゲットbの、それぞれピーク周波数、距離及び相対速度を表す。
【0008】
しかし、ターゲットが2つ存在する場合、上昇区間と下降区間のビート信号のピーク周波数のペアは{fua,fda}{fua,fdb}{fub,fda}{fub,fdb}の4ペアが存在する。
正しい{fua,fda}と{fub,fdb}の2ペアが生成されれば、ターゲットaの距離Ra及び相対速度Va、ターゲットbの距離Rb及び相対速度Vbが算出されるが、間違った{fua,fdb}{fub,fda}の2ペアが生成されれば、実際のターゲットaとbの距離及び相対速度とは異なる値が算出されてしまう。
【0009】
このように、ターゲットが複数存在する場合、複数のピーク周波数が発生するため、誤ったペアを生成する(誤ペアリングの)可能性が高くなる。
そこで、特許文献1に示された技術では、同じターゲットから反射した受信信号に基づいて得られた距離及び相対速度であれば、変調幅Δf、繰返し周波数fm、送信信号の中心周波数f0(以下、変調信号)が変化してもその値は、変わらないことを利用し、変調信号切り替え前の上昇区間と下降区間のピーク周波数のペア{fu1,fd1}と、切り替え後の上昇区間と下降区間のピーク周波数のぺア{fu2,fd2}に基づいて、夫々距離及び相対速度を算出し、「切り替え前の距離R1及び相対速度V1」と「切り替え後の距離R2及び相対速度V2」が夫々同一である場合、正しいペアであると判定し、ターゲットの距離及び相対速度を確定させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−236170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1の技術に代表されるレーダ装置は、変調信号切り替え前の上昇区間と下降区間のピーク周波数のペア{fu1,fd1}と、切り替え後の上昇区間と下降区間のピーク周波数のペア{fu2,fd2}に基づいて、ターゲットの距離及び速度を確定させているため、ピーク周波数が所定範囲でピーク周波数として抽出されない場合、一方のペアが生成できず、ターゲットの距離及び速度を算出できない課題があった。
【0012】
これは、送受信機やA/D変換器にて発生するノイズ、ばらつきや温度特性によるオフセット電圧、送受信アンテナ間の結合、レドーム等による至近距離からの反射信号、停止物ターゲットからの反射信号、等が受信信号に重畳され、これを周波数解析した場合、周波数が所定範囲の部分に反映され、ピーク周波数として抽出できず、一方のペアが生成できないためである。
【0013】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、誤ペアリングが無いことはもちろんのこと、ピーク周波数が抽出されず、一方のペアが生成できない場合においても、ターゲットの距離及び速度を算出できるレーダ装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明のレーダ装置は、4つの変調区間を有する送信信号を送信する送信手段と、送信手段からの送信信号がターゲットで反射された反射信号を受信信号として受信する受信手段と、送信信号と受信信号とをミキシングしてビート信号を得るミキシング手段と、ミキシング手段で得たビート信号を周波数解析してピーク周波数を抽出するピーク周波数抽出手段と、ピーク周波数抽出手段で抽出したピーク周波数から、4つの変調区間のうち2つの変調区間のピーク周波数をペアリングして第1ペアを生成する第1ペア生成手段と、ピーク周波数抽出手段で抽出したピーク周波数から、2つの変調区間とは異なる2つの変調区間のピーク周波数をペアリングして第2ペアを生成する第2ペア生成手段と、第1ペア生成手段で生成された第1ペアと第2ペア生成手段で生成された第2ペアのピーク周波数からそれぞれ演算されたターゲットの距離及び相対速度に基づいて、ターゲットの距離及び相対速度を確定するターゲット確定手段とを備え、第1ペア生成手段は、第2ペアから第1ペアのピーク周波数を推定する第1ペアピーク周波数推定手段を有し、この第1ペアピーク周波数推定手段で推定したピーク周波数の一方がピーク周波数として抽出されており、もう一方が所定条件である場合に、第1ペアを生成するようにし、第2ペア生成手段は、第1ペアから第2ペアのピーク周波数を推定する第2ペアピーク周波数推定手段を有し、この第2ペアピーク周波数推定手段で推定したピーク周波数の一方がピーク周波数として抽出されており、もう一方が所定条件である場合に、第2ペアを生成するようにしたものである。
【0015】
この発明のレーダ装置は、4つの変調区間を有する送信信号を送信する送信手段と、送信手段からの送信信号がターゲットで反射された反射信号を受信信号として受信する受信手段と、送信信号と受信信号とをミキシングしてビート信号を得るミキシング手段と、ミキシング手段で得たビート信号を周波数解析してピーク周波数を抽出するピーク周波数抽出手段と、ピーク周波数抽出手段で抽出したピーク周波数から、4つの変調区間のうち2つの変調区間のピーク周波数をペアリングして第1ペアを生成し、この第1ペアのピーク周波数からターゲットの距離及び相対速度を算出する第1ペア距離・相対速度算出手段と、ピーク周波数抽出手段で抽出したピーク周波数から、2つの変調区間とは異なる2つの変調区間のピーク周波数をペアリングして第2ペアを生成し、この第2ペアのピーク周波数からターゲットの距離及び相対速度を算出する第2ペア距離・相対速度算出手段と、第2ペア距離・相対速度算出手段で算出された第2ペアの距離及び相対速度から第1ペアのピーク周波数を推定する第1ペアピーク周波数推定手段と、第1ペアピーク周波数推定手段で推定したピーク周波数の一方がピーク周波数として抽出されており、もう一方が所定条件である場合に、第1ペアを生成してその第1ペアにおける距離及び相対速度を推定する第1ペア距離・相対速度推定手段と、第1ペア距離・相対速度算出手段で算出された第1ペアの距離及び相対速度から第2ペアのピーク周波数を推定する第2ペアピーク周波数推定手段と、第2ペアピーク周波数推定手段で推定したピーク周波数の一方がピーク周波数として抽出されており、もう一方が所定条件である場合に、第2ペアを生成してその第2ペアにおける距離及び相対速度を推定する第2ペア距離・相対速度推定手段と、第1および第2ペア距離・相対速度算出手段で算出されたターゲットの距離及び相対速度と、第1および第2ペア距離・相対速度推定手段で推定されたターゲットの距離及び相対速度から、ターゲットの距離及び相対速度を確定するターゲット確定手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、送受信機やA/D変換器にて発生するノイズ、ばらつきや温度特性によるオフセット電圧、送受信アンテナ間の結合、レドーム等による至近距離からの反射信号、停止物ターゲットからの反射信号、等が受信信号に重畳され、ピーク周波数が所定範囲内で抽出されない場合においても、ある変調区間のペアから別の変調区間のペアのピーク周波数を推定し、推定したピーク周波数の一方がピーク周波数として抽出されており、推定したピーク周波数の他方が所定条件である場合に、ペアを生成するため、ターゲットの距離及び速度を算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る4つの変調区間を有する送信信号の波形例を示す図である。
【図3A】この発明の実施の形態1によるターゲット検出部の動作を示すフローチャートである。
【図3B】図3Aのフローチャートの続きを示すフローチャートである。
【図4】この発明の実施の形態1による変調区間毎における複素スペクトラムの振幅を表す図である。
【図5A】この発明の実施の形態2によるターゲット検出部の動作を示すフローチャートである。
【図5B】図5Aのフローチャートの続きを示すフローチャートである。
【図6】この発明の実施の形態2による変調区間毎における複素スペクトラムの振幅を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置を図1〜図4に基づいて説明する。図1はこの発明の実施の形態1に係るレーダ装置を示すブロック図、図2は送信信号の波形例を示す図、図3A・図3Bはターゲット検出部の動作を示すフローチャート、図4は変調区間毎における複素スペクトラムの振幅を表す図である。
図1において、レーダ装置は、マイクロコンピュータからなるターゲット検出部1と、ターゲット検出部1の制御下で制御電圧を出力する制御電圧発生器2と、制御電圧に基づいて周波数が上昇/下降変調された送信信号を出力する電圧制御発振器VCO(Voltage Controlled Oscillator)3と、送信信号を分配する分配器4と、ターゲット40、41に対して送信信号W1を出射する送信アンテナ5(送信手段)とを備えている。
【0019】
また、レーダ装置は、送信信号W1がターゲット40、41で反射された反射信号W2を受信する受信アンテナ6(受信手段)と、分配器4で分配された送信信号と受信アンテナ6で受信された受信信号とをそれぞれミキシングしてビート信号を得るミキサ7(ミキシング手段)と、ビート信号をA/D変換するA/Dコンバータ8と、A/D変換されたビート信号を周波数解析する高速フーリエ変換器FFT(Fast Fourier Transform)9とを備えている。
FFT9からのビート信号の周波数解析結果(ビート周波数スペクトラム)は、ターゲット検出部1に入力される。ターゲット検出部1は、ターゲット40、41の距離及び相対速度を算出して、ターゲット情報として外部装置(図示せず)に出力する。
【0020】
ターゲット40、41の距離及び相対速度等のターゲット情報を得るため、ターゲット検出部1は、ビート信号の周波数解析結果からピーク周波数を検出するピーク検出部10(ピーク周波数抽出手段)と、4つの変調区間(後述する図2で説明)のうち2つの変調区間のピーク周波数をペアリングして第1ペアを生成して、第1ペアの距離R1及び相対速度V1を算出する第1ペア距離・相対速度算出部11と、上記した2つの変調区間とは異なる別の2つの変調区間のピーク周波数をペアリングして第2ペアを生成して、第2ペアの距離R2及び相対速度V2を算出する第2ペア距離・相対速度算出部12とを備えている。
【0021】
また、ターゲット検出部1は、第2ペア距離・相対速度算出部12によって算出された第2ペアの距離R2及び相対速度V2から第1ペアのピーク周波数を推定する第1ペアピーク周波数推定部13(第1ペアピーク周波数推定手段)と、推定したピーク周波数の一方がピーク周波数として抽出されており、もう一方が所定条件である場合に、第1ペアを生成し、距離R1及び相対速度V1を推定する第1ペア距離・相対速度推定部14(第1ペア距離・相対速度推定手段)と、第1ペア距離・相対速度算出部11によって算出された第1ペアの距離R1及び相対速度V1から第2ペアのピーク周波数を推定する第2ペアピーク周波数推定部15(第2ペアピーク周波数推定手段)と、推定したピーク周波数の一方がピーク周波数として抽出されており、もう一方が所定条件である場合に、第2ペアを生成し、距離R2及び相対速度V2を算出する第2ペア距離・相対速度推定部16(第2ペア距離・相対速度推定手段)とを備えている。
【0022】
さらに、第1ペア距離・相対速度算出部11および第1ペア距離・相対速度推定部14でそれぞれ算出および推定された第1ペアの距離R1及び相対速度V1と、第2ペア距離・相対速度算出部12および第2ペア距離・相対速度推定部16でそれぞれ算出および推定された第2ペアの距離R2及び相対速度V2が夫々ほぼ等しい場合に、ターゲット40、41の距離R及び相対速度Vを確定させるターゲット確定部17(ターゲット確定手段)とを備えている。
【0023】
なお、ここで、第1ペア距離・相対速度算出部11、第1ペアピーク周波数推定部13および第1ペア距離・相対速度推定部14で第1ペアを生成する第1ペア生成手段を構成し、第2ペア距離・相対速度算出部12、第2ペアピーク周波数推定部15および第2ペア距離・相対速度推定部16で第2ペアを生成する第2ペア生成手段を構成している。
【0024】
以下、図1に示したこの発明の実施の形態1の動作について説明する。
まず、ターゲット検出部1から制御電圧発生器2に対して変調開始命令が出力されると、制御電圧発生器2から予め設定された図2に示すように4つの変調区間(たとえば、三角状の上昇区間1/下降区間1/上昇区間2/下降区間2)の制御電圧が電圧制御発振器VCO3に印加され、VCO3からは、制御電圧にしたがって変調区間ごとに周波数変調された送信信号が出力される。
ここで、上昇区間1/下降区間1と上昇区間2/下降区間2とでは、繰返し周波数fmと変調幅△Fと中心周波数f0が異なる送信信号が出力される。すなわち、上昇区間1/下降区間1では、繰返し周波数fm1と変調幅△F1と中心周波数f0_1の送信信号が、上昇区間2/下降区間2では、繰返し周波数fm2と変調幅△F2と中心周波数f0_2の送信信号が出力される。
【0025】
電圧制御発振器VCO3からの送信信号は、分配器4を介して送信アンテナ5とミキサ7とに分配され、送信アンテナ5からターゲット40、41に向けて送信信号W1として出射される。一方、ターゲット40、41で反射された反射信号W2は、受信アンテナ6により、受信信号として受信され、ミキサ7により送信信号とミキシングされる。
これにより、ミキサ7からは、ビート信号が生成され、ビート信号は、上昇区間1/下降区間1/上昇区間2/下降区間2のそれぞれについて、A/Dコンバータ8で各々ディジタルデータに変換される。
【0026】
A/Dコンバータ8から生成されたディジタルデータは、高速フーリエ変換器FFT9により、高速フーリエ変換を用いた周波数解析が施される。FFT9により算出された周波数解析結果(ビート周波数スペクトル)は、上昇区間1/下降区間1/上昇区間2/下降区間2のそれぞれについて、ターゲット検出部1に入力される。
【0027】
ターゲット検出部1内において、まず、ピーク検出部10は、周波数解析結果からピーク周波数を抽出する。
次に、第1ペア距離・相対速度算出部11は、ピーク検出部10で抽出された上昇区間1と下降区間1のピーク周波数から第1ペアの距離R1及び相対速度V1を算出し、第2ペア距離・相対速度算出部12は、ピーク検出部10で抽出された上昇区間2と下降区間2のピーク周波数から第2ペアの距離R2及び相対速度V2を算出する。
【0028】
さらに、ターゲット検出部1の第1ペアピーク周波数推定部13は、第2ペア距離・相対速度算出部12によって算出された第2ペアの距離R2及び相対速度V2から第1ペアのピーク周波数を推定する。第1ペア距離・相対速度推定部14は、第1ペアピーク周波数推定部13で推定したピーク周波数の一方がピーク周波数として抽出されており、もう一方が所定条件である場合に、第1ペアを生成し、距離R1及び相対速度V1を推定する。
【0029】
同様に、ターゲット検出部1の第2ペアピーク周波数推定部15は、第1ペア距離・相対速度算出部11によって算出された第1ペアの距離R1及び相対速度V1から第2ペアのピーク周波数を推定する。第2ペア距離・相対速度推定部16は、第2ペアピーク周波数推定部15で推定したピーク周波数の一方がピーク周波数として抽出されており、もう一方が所定条件である場合に、第2ペアを生成し、距離R2及び相対速度V2を推定する。
【0030】
最後に、ターゲット確定部17は、第1ペア距離・相対速度算出手段11と第1ペア距離・相対速度推定手段14で算出・推定(演算)された第1ペアの距離R1及び相対速度V1と、第2ペア距離・相対速度算出手段12と第2ペア距離・相対速度推定手段16で算出・推定(演算)された第2ペアの距離R2及び相対速度V2とが、夫々ほぼ等しい場合に、ターゲット40、41の距離R及び相対速度Vを確定させる。
【0031】
次に、図3〜図4を参照しながら、図1に示したターゲット検出部1の動作について具体的に説明する。図3A、図3Bはターゲット検出部1の動作手順を示すフローチャートである。図4は図3A内のステップS101の処理を示す説明図であり、入力されたビート周波数スペクトラムの振幅を示している。
【0032】
図3Aにおいて、ステップS101は、ピーク検出部10によりビート周波数スペクトラムの振幅に対して、ピーク周波数を検出する。具体的には、図4に示すように、ビート周波数スペクトラムの振幅に対して、検出閾値を設け、検出閾値以上かつ前後のビート周波数の振幅より大きい振幅をピークと判定する。
【0033】
図4において、(a)は上昇区間1のビート周波数スペクトルの振幅を示し、(b)は下降区間1のビート周波数スペクトルの振幅を示し、(c)は上昇区間2のビート周波数スペクトルの振幅を示し、(d)は下降区間2のビート周波数スペクトルの振幅を示しており、それぞれ、横軸はビート周波数、縦軸は振幅である。
また、ピークとなったピーク周波数は、上昇区間1については「fu1_a、fu1_b」で示され、下降区間1については「fd1_a、fd1_b」で示され、上昇区間2については「fu2_b」で示され、下降区間2については「fd2_a、fd2_b」で示さ
れている。
なお、ターゲット40に基づくピーク周波数は、添字にaが付いた「fu1_a」「f
d1_a」「fd2_a」(上昇区間2はピーク周波数が抽出されず)で示され、ターゲット41に基づくピーク周波数は、添字にbが付いた「fu1_b」「fd1_b」「fu2_b」「fd2_b」で示されている。
【0034】
図3Aに戻り、ステップS102は、第1ペア距離・相対速度算出部11により、ステップS101で得られた上昇区間1と下降区間1(繰返し周波数fm1と変調幅ΔF1と中心周波数f0_1)のピーク周波数{fu1、fd1}から、第1ペアを生成し、第1
ペアの距離R1及び相対速度V1を、一般的なFM−CW(Frequency Modulation Continuous Wave)レーダの原理に基づいて算出する。すなわち、式(7)(8)によりピーク周波数{fu1、fd1}から第1ペアの距離R1及び相対速度V1を算出する。
【0035】
図4の例では、第1ペア{fu1_a、fd1_a}から距離R1_aa及び相対速度V
1_aa、第1ペア{fu1_a、fd1_b}から距離R1_ab及び相対速度V1_ab
、第1ペア{fu1_b、fd1_a}から距離R1_ba及び相対速度V1_ba、第1ペア{fu1_b、fd1_b}から距離R1_bb及び相対速度V1_bbが算出される。
また、第1ペア距離・相対速度算出部11は、ステップS103において、算出された第1ペアの個数N1をカウントして記憶する。図4の例では、第1ペアの個数は、「4」である。
【0036】
同様に、ステップS104は、第2ペア距離・相対速度算出部12により、ステップS101で得られた上昇区間2と下降区間2(繰返し周波数fm2と変調幅ΔF2と中心周波数f0_2)のピーク周波数{fu2、fd2}から、第2ペアを生成し、第2ペアの
距離R2及び相対速度V2を、一般的なFM−CWレーダの原理に基づいて算出する。すなわち、式(7)(8)によりピーク周波数{fu2、fd2}から第2ペアの距離R2及び相対速度V2を算出する。
【0037】
図4の例では、第2ペア{fu2_b、fd2_a}から距離R2_ba及び相対速度V
2_ba、第2ペア{fu2_b、fd2_b}から距離R2_bb及び相対速度V2_bb
が算出される。
また、第2ペア距離・相対速度算出部12は、ステップS105において、第2ペアで算出された距離R2及び相対速度V2の個数N2をカウントして記憶する。図4の例では、第2ペアの個数は、上昇区間2でターゲット40に基づいたピーク周波数fu2_aが
抽出されていないため「2」である。
【0038】
次に、ステップS106は、第1ペアピーク周波数推定部13により、第2ペア距離・相対速度算出部12によって算出された第2ペアの距離R2及び相対速度V2から第1ペアのピーク周波数を推定する。すなわち、式(11)(12)により、距離R2及び相対速度V2から上昇区間1と下降区間1(繰返し周波数fm1と変調幅ΔF1と中心周波数f0_1)のピーク周波数{fu1、fd1}を推定する。
【0039】
図4の例では、ステップS104で算出された第2ペアの距離R2_ba及び相対速度
V2_baからピーク周波数{fu1_c、fd1_c}(誤ペアリングのためピークは無
い)、ステップS104で算出された距離R2_bb及び相対速度V2_bbからピーク周波数{fu1_b、fd1_b}(誤ペアリングではないためピークが存在)が推定される。
【0040】
次に、ステップS107は、第1ペア距離・相対速度推定部14により、第1ペアピーク周波数推定部13で推定したピーク周波数の{fu1、fd1}の一方がピーク周波数として抽出されており、{fu1、fd1}のもう一方がピーク周波数として抽出されず、所定範囲(たとえば0付近とする)であるか判定する。推定したピーク周波数の{fu1、fd1}の一方がピーク周波数として抽出されており、{fu1、fd1}のもう一方がピーク周波数として抽出されず、0付近の場合、ステップS108へ、その他の場合はステップS109へ進む。
【0041】
ステップS108では、第1ペア距離・相対速度推定部14により、推定したピーク周波数の{fu1,fd1}より第1ペアを生成し、第1ペアの距離R1及び相対速度V1を推定算出する。すなわち、推定したピーク周波数の{fu1,fd1}より、式(7)(8)に基づいて第1ペアの距離R1及び相対速度V1を算出する。
【0042】
ステップS109では、ステップS105でカウントした第2ペアの距離R2及び相対速度V2の個数N2分(図4の例では「2」個分)の計算が終了したか否かを判定し、計算が終了していない(すなわち、NO)と判定されれば、ステップS106に戻って、ステップS106〜ステップS108の処理を繰り返し実行する。
【0043】
図4の例では、ステップS106で推定したピーク周波数{fu1_c、fd1_c}は、何れもピーク周波数として抽出されていないため、第1ペアが生成されない。
また、ステップS106で推定したピーク周波数{fu1_b、fd1_b}は、何れもピーク周波数として抽出されているため、第1ペアが生成されない。したがって、ステップS108では、第2ペアからは第1ペアにおける距離R1及び相対速度V1は算出推定されない。
【0044】
次に、図3BのステップS110は、第2ペアピーク周波数推定部15により、第1ペア距離・相対速度算出部11によって算出された第1ペアの距離R1及び相対速度V1から第2ペアのピーク周波数を推定する。すなわち、式(11)(12)により、距離R1及び相対速度V1から上昇区間2と下降区間2(繰返し周波数fm2と変調幅ΔF2と中心周波数f0_1)のピーク周波数{fu2、fd2}を算出する。
【0045】
図4の例では、ステップS102で算出された距離R1_aa及び相対速度V1_aaからピーク周波数{fu2_a、fd2_a}(誤ペアリングではないためピークが存在)、距離R1_ab及び相対速度V1_abからピーク周波数{fu2_d、fd2_d}(誤ペアリングのためピークは無い)、距離R1_ba及び相対速度V1_baからピーク周波数{fd2_e、fu2_e}(誤ペアリングのためピークは無い)、距離R1_bb及び相
対速度V1_bbからピーク周波数{fu2_b、fd2_b}(誤ペアリングではないた
めピークが存在)が推定される。
【0046】
次に、ステップS111は、第2ペア距離・相対速度推定部16により、推定したピーク周波数の{fu2、fd2}の一方がピーク周波数として抽出されており、{fu2、fd2}のもう一方がピーク周波数として抽出されず、所定範囲(たとえば0付近とする)であるか判定する。
推定したピーク周波数の{fu2、fd2}の一方がピーク周波数として抽出されており、{fu2、fd2}のもう一方がピーク周波数として抽出されず、0付近の場合ステップS112へ、その他の場合はステップS113へ進む。
【0047】
ステップS112では、推定したピーク周波数の{fu2、fd2}より第2ペアを生成し、距離R2及び相対速度V2を算出する。すなわち、式(7)(8)によりピーク周波数の{fu2、fd2}から第2ペアの距離R2及び相対速度V2を算出する。
ステップS113では、ステップS103でカウントした第1ペアの距離R1及び相対速度V1の個数N1分(図4の例では「4」個分)の計算が終了したか否かを判定し、計算が終了していない(すなわち、NO)と判定されれば、ステップS110に戻って、ステップS110〜ステップS112の処理を繰り返し実行する。
【0048】
図4の例では、ステップS110で推定したピーク周波数{fu2_d、fd2_d}とピーク周波数{fd2_e、fu2_e}は、何れもピーク周波数として抽出されていないため、第2ペアが生成されない。また、ステップS110で推定したピーク周波数{fu2_b,fd2_b}は、何れもピーク周波数として抽出されているため、第2ペアが生成されない。
また、ステップS110で推定したピーク周波数{fu2_a、fd2_a}は、fd2_aがピーク周波数として抽出されており、fu2_aがピークとして抽出されず、0付近であるため、第2ペアが生成され、ステップS110で推定されたピーク周波数{fu2_a、fd2_a}から、式(7)(8)により距離R2_aa及び相対速度V2_aaが算出される。
【0049】
最後に、ステップS114は、ターゲット確定部17により、第1ペアの距離R1及び相対速度V1と第2ペアの距離R2及び相対速度V2が夫々ほぼ等しい組み合わせを、ターゲット40、41の距離R及び相対速度Vとして確定させ、ターゲット情報として、図示しない外部装置に出力する。
なお、ターゲット40、41の距離Rは、第1ペアの距離R1と第2ペアの距離R2の平均、相対速度Vは、第1ペアの相対速度V1と第2ペアの相対速度V2の平均としてもよいし、第1ペア及び第2ペア何れかの距離及び相対速度としてもよい。
【0050】
図4の例では、第1ペア距離・相対速度算出部11から、第1ペアの距離R1_aa及
び相対速度V1_aa、距離R1_ab及び相対速度V1_ab、距離R1_ba及び相対速度V1_baおよび距離R1_bb及び相対速度V1_bbが算出され、第1ペア距離・相対速度推定部14からは第1ペアの距離R1及び相対速度V1は算出されていない。また、第2ペア距離・相対速度算出部12から、第2ペアの距離R2_ba及び相対速度V2_baと距離R2_bb及び相対速度V2_bbが算出され、第2ペア距離・相対速度推定部16からは第2ペアの距離R2_aa及び相対速度V2_aaが算出されている。
【0051】
したがって、ターゲット確定部17は、第1ペアの距離R1_aa及び相対速度V1_aaと第2ペアの距離R2_aa及び相対速度V2_aa、第1ペアの距離R1_bb及び相対速度V1_bbと第2ペアの距離R2_bb及び相対速度V2_bbがほぼ等しいため、
ターゲット40、41の距離R及び相対速度Vとして確定する。
また、第1ペアの距離R1_ab及び相対速度V1_abと第1ペアの距離R1_ba及
び相対速度V1_baと第2ペアの距離R2_ba及び相対速度V2_baは、距離及び相
対速度の等しいペアがないため、誤ペアリングとして除外される。
【0052】
以上のように、この発明の実施の形態1によれば、ターゲット検出部1は、ある変調区間ペアの距離及び相対速度から、別の変調区間ペアのピーク周波数を推定し、推定したピーク周波数の一方がピーク周波数として抽出されており、推定したピーク周波数の他方がピークとして抽出されず、0付近である場合に、ペアを生成し、距離及び相対速度を算出したため、送受信機やA/D変換器にて発生するノイズ、ばらつきや温度特性によるオフセット電圧、送受信アンテナ間の結合、レドーム等による至近距離からの反射信号が受信信号に重畳され、ピーク周波数が0付近で抽出されない場合においても、誤ペアリングが無くターゲットの距離及び相対速度を正しく算出できる。
【0053】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2に係るレーダ装置を図5および図6に基づいて説明する。図5A・図5Bはターゲット検出部の動作を示すフローチャート、図6は変調区間毎における複素スペクトラムの振幅を表す図である。
実施の形態1では、推定したピーク周波数の一方がピーク周波数として抽出されており、推定したピーク周波数の他方がピーク周波数として抽出されず、0付近である場合にペアを生成し、距離及び相対速度を算出していたが、実施の形態2の発明は、推定したピーク周波数の一方がピーク周波数として抽出されており、推定したピーク周波数の他方がピーク周波数として抽出されず、停止物ターゲットが存在する周波数範囲の場合にペアを生成し、距離及び相対速度を算出するようにしたものである。それ以外の実施の形態2の構成は、実施の形態1で説明した図1に示すブロック図および図2に示す送信信号波形図と同じ構成であるので、詳しい説明は省略する。
【0054】
以下、図5A・図5B〜図6を参照しながら、図1に示したターゲット検出部1の動作について具体的に説明する。
図5A・図5Bに示すターゲット検出部1の動作手順を示すフローチャートにおいては、図3のフローチャートと処理が一部共通する。このため、同様の処理に関しては、その説明を簡略する。図6は図5A内のステップS201の処理を示す説明図であり、入力されたビート周波数スペクトラムの振幅を示している。
【0055】
図6において、(a)は上昇区間1のビート周波数スペクトルの振幅を示し、(b)は下降区間1のビート周波数スペクトルの振幅を示し、(c)は上昇区間2のビート周波数スペクトルの振幅を示し、(d)は下降区間2のビート周波数スペクトルの振幅を示しており、それぞれ、横軸はビート周波数、縦軸は振幅である。
また、ピークとなったピーク周波数は、上昇区間1については「fu1_a、fu1_b」で示され、下降区間1については「fd1_b」で示され、上昇区間2については「fu2_a、fu2_b」で示され、下降区間2については「fd2_a、fd2_b」で示されている。
なお、ターゲット40に基づくピーク周波数は、添字aが付いた「fu1_a」「fu
2_a」「fd2_a」(下降区間1はピーク周波数が抽出されず)で示され、ターゲット41に基づくピーク周波数は、添字bが付いた「fu1_b」「fd1_b」「fu2_b」「fd2_b」で示されている。
【0056】
図5Aにおいて、ステップS201〜S206は、実施の形態1のステップS101〜S106と同じである。
まずステップS201は、ピーク検出部10によりビート周波数スペクトラムの振幅に対して、ピーク周波数を検出する。具体的には、図6に示すように、ビート周波数スペクトラムの振幅に対して、検出閾値を設け、検出閾値以上かつ前後のビート周波数の振幅より大きい振幅をピークと判定する。
図6の例では下降区間1のターゲットaでピーク周波数「fd1_a」が抽出されてい
ない。
【0057】
ステップS202は、第1ペア距離・相対速度算出部11により、ステップS101で得られた上昇区間1と下降区間1(繰返し周波数fm1と変調幅ΔF1と中心周波数f0_1)のピーク周波数{fu1、fd1}から、第1ペアを生成し、第1ペアの距離R1
及び相対速度V1を、一般的なFM−CWレーダの原理に基づいて、式(7)(8)により算出する。
図6の例では、第1ペア{fu1_a、fd1_b}から距離R1_ab及び相対速度V
1_ab、第1ペア{fu1_b、fd1_b}から距離R1_bb及び相対速度V1_bb
が算出される。
また、第1ペア距離・相対速度算出部11は、ステップS203において、算出された第1ペアの個数N1をカウントして記憶する。図6の例では、第1ペアの個数は、「2」である。
【0058】
同様に、ステップS204は、第2ペア距離・相対速度算出部12により、ステップS201で得られた上昇区間2と下降区間2(繰返し周波数fm2と変調幅ΔF2と中心周波数f0_2)のピーク周波数{fu2、fd2}から、第2ペアを生成し、第2ペアの
距離R2及び相対速度V2を、一般的なFM−CWレーダの原理に基づいて、式(7)(8)により算出する。
【0059】
図6の例では、第2ペア{fu2_a、fd2_a}から距離R2_aa及び相対速度V
2_aa、第2ペア{fu2_a、fd2_b}から距離R2_ab及び相対速度V2_ab
、第2ペア{fu2_b、fd2_a}から距離R2_ba及び相対速度V2_ba、第2ペア{fu2_b、fd2_b}から距離R2_bb及び相対速度V2_bbが算出される。
また、第2ペア距離・相対速度算出部12は、ステップS205において、算出された第2ペアの個数N2をカウントして記憶する。図6の例では、第2ペアの個数は、「4」である。
【0060】
次に、ステップS206は、第1ペアピーク周波数推定部13により、第2ペア距離・相対速度算出部12によって算出された第2ペアの距離R2及び相対速度V2から第1ペアのピーク周波数を推定する。すなわち、式(11)(12)により、距離R2及び相対速度V2から上昇区間1と下降区間1(繰返し周波数fm1と変調幅ΔF1と中心周波数f0_1)のピーク周波数{fu1、fd1}を推定する。
【0061】
図6の例では、ステップS204で算出された第2ペアの距離R2_ab及び相対速度
V2_abからピーク周波数{fu1_c、fd1_c}(誤ペアリングのためピークは無
い)、距離R2_ba及び相対速度V2_baからピーク周波数{fu1_d、fd1_d}(誤ペアリングのためピークは無い)、距離R2_bb及び相対速度V2_bbからピーク周波数{fu1_b、fd1_b}(誤ペアリングではないためピークが存在)、距離R2_aa及び相対速度V2_aaからピーク周波数{fu1_a、fd1_a}(誤ペアリングではないためピークが存在)が推定される。
【0062】
ステップS207は、上昇区間1/下降区間1の停止物ターゲットが存在する周波数範囲を算出する。停止物ターゲットが存在する周波数範囲は、レーダ方式がFM−パルスドップラー方式の場合、レンジゲート毎に自車速、レンジゲート幅から算出することができる。またレーダ方式がFM−CW方式の場合、自車速、レーダの最大検出距離と最小検出距離から算出することができるが、算出した停止物ターゲットが存在する周波数範囲が、周波数解析で対象とする周波数範囲全てとなってしまう可能性があり、この場合は周波数範囲を限定できない場合がある。したがって、レーダ方式がFM−CW方式の場合、停止物ターゲットが存在する周波数範囲は、設計者が実験値・想定値等により予め設定した所定周波数範囲とすることが望ましい。
図6の例では、停止物ターゲットが存在する周波数範囲は、「□」で示されている。
【0063】
次に、ステップS208は、第1ペア距離・相対速度推定部14により、第1ペアピーク周波数推定部13で推定したピーク周波数の{fu1、fd1}の一方がピーク周波数として抽出されており、{fu1、fd1}のもう一方がピーク周波数として抽出されず、所定範囲(たとえば停止物ターゲットが存在する周波数範囲)であるか判定する。
推定したピーク周波数の{fu1、fd1}の一方がピーク周波数として抽出されており、{fu1、fd1}のもう一方がピーク周波数として抽出されず、停止物ターゲットが存在する周波数範囲の場合ステップS209へ、その他の場合はステップS210へ進む。
【0064】
ステップS209とステップS210は、実施の形態1のステップS108とステップS109と同じである。即ち、ステップS209では、第1ペア距離・相対速度推定部14により、推定したピーク周波数の{fu1,fd1}より第1ペアを生成し、第1ペアの距離R1及び相対速度V1を推定算出する。すなわち、推定したピーク周波数の{fu1,fd1}より、式(7)(8)に基づいて第1ペアの距離R1及び相対速度V1を算出する。
ステップS210では、ステップS205でカウントした第2ペアの距離R2及び相対速度V2の個数N2分(図6の例では「4」個分)の計算が終了したか否かを判定し、計算が終了していない(すなわち、NO)と判定されれば、ステップS206に戻って、ステップS206〜ステップS209の処理を繰り返し実行する。
【0065】
図6の例では、ピーク周波数{fu1_c、fd1_c}とピーク周波数{fd1_d、fu1_d}は、何れもピーク周波数として抽出されていないため、第1ペアが生成され
ない。
また、ピーク周波数{fu1_b,fd1_b}は、何れもピーク周波数として抽出されているため、第2ペアが生成されない。
また、ピーク周波数{fu1_a,fd1_a}は、fu1_aがピーク周波数として抽
出されており、fd1_aがピークとして抽出されず、停止物ターゲットが存在する周波
数範囲であるため、第1ペアが生成され、推定したピーク周波数{fu1_a,fd1_a}から式(7)(8)により距離R1_aa及び相対速度V1_aaが算出される。
【0066】
次に、図5BのステップS211は、実施の形態1のステップS110と同じであり、ステップS211は、第2ペアピーク周波数推定部15により、第1ペア距離・相対速度算出部11によって算出された第1ペアの距離R1及び相対速度V1から第2ペアのピーク周波数を推定する。すなわち、式(11)(12)により、距離R1及び相対速度V1から上昇区間2と下降区間2(繰返し周波数fm2と変調幅ΔF2と中心周波数f0_1
)のピーク周波数{fu2、fd2}を算出する。
【0067】
図6の例では、距離R1_ba及び相対速度V1_baからピーク周波数{fu2_e、
fd2_e}(誤ペアリングのためピークは無い)、距離R1_bb及び相対速度V1_b
bからピーク周波数{fu2_b、fd2_b}(誤ペアリングではないためピークが存在)が推定される。
【0068】
ステップS212は、上昇区間2/下降区間2の停止物ターゲットが存在する周波数範囲を算出する。停止物ターゲットが存在する周波数範囲の算出の仕方はステップS207と同様であり、レーダ方式がFM−パルスドップラー方式の場合、レンジゲート毎に自車速、レンジゲート幅から算出することができる。
図6の例では、停止物ターゲットが存在する周波数範囲は、「□」で示されている。
【0069】
次に、ステップS213は、ステップS211で推定したピーク周波数のfu2とfd2の一方がピーク周波数として抽出されており、fu2とfd2のもう一方がピークとして抽出されず、所定範囲(たとえば停止物ターゲットが存在する周波数範囲)であるか判定する。
推定したピーク周波数のfu2とfd2の一方がピーク周波数として抽出されており、fu2とfd2のもう一方がピークとして抽出されず、停止物ターゲットが存在する周波数範囲の場合ステップS214へ、その他の場合はステップS215へ進む。
【0070】
ステップS214〜S215は、実施の形態1のステップS112〜S113と同じである。即ち、ステップS214では、推定したピーク周波数の{fu2、fd2}より第2ペアを生成し、距離R2及び相対速度V2を算出する。すなわち、式(7)(8)によりピーク周波数の{fu2、fd2}から第2ペアの距離R2及び相対速度V2を算出する。
ステップS215では、ステップS203でカウントした第1ペアの距離R1及び相対速度V1の個数N1分(図6の例では「2」個分)の計算が終了したか否かを判定し、計算が終了していない(すなわち、NO)と判定されれば、ステップS211に戻って、ステップS211〜ステップS214の処理を繰り返し実行する。
【0071】
図6の例では、ピーク周波数{fu2_e,fd2_e}は、何れもピーク周波数として抽出されていないため、第2ペアが生成されない。
また、ピーク周波数{fu2_b,fd2_b}は、何れもピーク周波数として抽出されているため、第2ペアが生成されない。したがって、ステップS214では、第1ペアからは第2ペアにおける距離R2及び相対速度V2は算出推定されない。
【0072】
最後に、ステップS216は実施の形態1のステップS114と同じで、ターゲット確定部17により、第1ペアの距離R1及び相対速度V1と第2ペアの距離R2及び相対速度V2が夫々ほぼ等しい組み合わせを、ターゲット40、41の距離R及び相対速度Vとして確定させ、ターゲット情報として、図示しない外部装置に出力する。
なお、ターゲット40、41の距離Rは、実施の形態1と同様に、第1ペアの距離R1と第2ペアの距離R2の平均、相対速度Vは、第1ペアの相対速度V1と第2ペアの相対速度V2の平均としてもよいし、第1ペア及び第2ペア何れかの距離及び相対速度としてもよい。
【0073】
図6の例では、第1ペア距離・相対速度算出部11から、第1ペアの距離R1_ab及
び相対速度V1_abと距離R1_bb及び相対速度V1_bbが算出され、第1ペア距離
・相対速度推定部14からは第1ペアの距離R1_aa及び相対速度V1_aaが算出されている。また、第2ペア距離・相対速度算出部12から、距離R2_aa及び相対速度V2_aa、距離R2_ab及び相対速度V2_ab、距離R2_ba及び相対速度V2_baおよび距離R2_bb及び相対速度V2_bbが算出され、第2ペア距離・相対速度推定部16からは第2ペアの距離R2及び相対速度V2は算出されていない。
【0074】
したがって、ターゲット確定部17は、第1ペアの距離R1_aa及び相対速度V1_aaと第2ペアの距離R2_aa及び相対速度V2_aa、第1ペアの距離R1_bb及び相対速度V1_bbと第2ペアの距離R2_bb及び相対速度V2_bbがほぼ等しいため、
ターゲット40、41の距離R及び相対速度Vとして確定する。
また、第1ペアの距離R1_ab及び相対速度V1_abと第2ペアの距離R2_ab及
び相対速度V2_abと第2ペアの距離R2_ba及び相対速度V2_baは、距離及び相
対速度の等しいペアがないため、誤ペアリングとして除外される。
【0075】
以上のように、この発明の実施の形態2によれば、ターゲット検出部1は、ある変調区間ペアの距離及び相対速度から、別の変調区間ペアのピーク周波数を推定し、推定したピーク周波数の一方がピーク周波数として抽出されており、推定したピーク周波数の他方がピーク周波数として抽出されず、停止物ターゲットが存在する周波数範囲である場合に、ペアを生成し、距離及び相対速度を算出したため、停止物ターゲットからの反射信号が受信信号に重畳され、ピーク周波数が抽出されない場合においても、誤ペアリングが無くターゲットの距離及び相対速度を正しく算出できる。
【0076】
なお、ターゲット40、41の距離R及び相対速度Vを検出する方式として、FM−CW方式を用いた場合を例示したが、送信信号をパルス状に区切って変調したFM−パルスドップラー方式レーダ装置や、その他のレーダ方式レーダ装置にもこの発明を適用することができる。
【0077】
また、4つの変調区間として、三角状の上昇区間1/下降区間1/上昇区間2/下降区間2(上昇区間1/下降区間1と上昇区間2/下降区間2は繰返し周波数と変調幅と中心周波数が異なる)を用いた場合を例示したが、区間毎に上昇または下降、繰返し周波数fmまたは変調幅ΔFまたは中心周波数f0が異なる場合にも、この発明を適用することが出来る。
【符号の説明】
【0078】
1 ターゲット検出部、 2 制御電圧発生器、
3 VCO、 4 分配器、
5 送信アンテナ、 6 受信アンテナ、
7 ミキサ、 8 A/Dコンバータ、
9 FFT、 10 ピーク検出部、
11 第1ペア距離・相対速度算出部、 12 第2ペア距離・相対速度算出部、
13 第1ペアピーク周波数推定部、 14 第1ペア距離・相対速度算出部、
15 第2ペアピーク周波数推定部、 16 第2ペア距離・相対速度算出部、
17 ターゲット確定部、 40、41 ターゲット、
W1 送信信号、 W2 反射信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4つの変調区間を有する送信信号を送信する送信手段と、
前記送信手段からの送信信号がターゲットで反射された反射信号を受信信号として受信する受信手段と、
前記送信信号と前記受信信号とをミキシングしてビート信号を得るミキシング手段と、
前記ミキシング手段で得たビート信号を周波数解析してピーク周波数を抽出するピーク周波数抽出手段と、
前記ピーク周波数抽出手段で抽出したピーク周波数から、前記4つの変調区間のうち2つの変調区間のピーク周波数をペアリングして第1ペアを生成する第1ペア生成手段と、
前記ピーク周波数抽出手段で抽出したピーク周波数から、前記2つの変調区間とは異なる2つの変調区間のピーク周波数をペアリングして第2ペアを生成する第2ペア生成手段と、
前記第1ペア生成手段で生成された第1ペアと前記第2ペア生成手段で生成された第2ペアのピーク周波数からそれぞれ演算された前記ターゲットの距離及び相対速度に基づいて、前記ターゲットの距離及び相対速度を確定するターゲット確定手段とを備え、
前記第1ペア生成手段は、前記第2ペアから第1ペアのピーク周波数を推定する第1ペアピーク周波数推定手段を有し、この第1ペアピーク周波数推定手段で推定したピーク周波数の一方がピーク周波数として抽出されており、もう一方が所定条件である場合に、第1ペアを生成するようにし、
前記第2ペア生成手段は、前記第1ペアから第2ペアのピーク周波数を推定する第2ペアピーク周波数推定手段を有し、この第2ペアピーク周波数推定手段で推定したピーク周波数の一方がピーク周波数として抽出されており、もう一方が所定条件である場合に、第2ペアを生成するようにしたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
4つの変調区間を有する送信信号を送信する送信手段と、
前記送信手段からの送信信号がターゲットで反射された反射信号を受信信号として受信する受信手段と、
前記送信信号と前記受信信号とをミキシングしてビート信号を得るミキシング手段と、
前記ミキシング手段で得たビート信号を周波数解析してピーク周波数を抽出するピーク周波数抽出手段と、
前記ピーク周波数抽出手段で抽出したピーク周波数から、前記4つの変調区間のうち2つの変調区間のピーク周波数をペアリングして第1ペアを生成し、この第1ペアのピーク周波数から前記ターゲットの距離及び相対速度を算出する第1ペア距離・相対速度算出手段と、
前記ピーク周波数抽出手段で抽出したピーク周波数から、前記2つの変調区間とは異なる2つの変調区間のピーク周波数をペアリングして第2ペアを生成し、この第2ペアのピーク周波数から前記ターゲットの距離及び相対速度を算出する第2ペア距離・相対速度算出手段と、
前記第2ペア距離・相対速度算出手段で算出された第2ペアの距離及び相対速度から第1ペアのピーク周波数を推定する第1ペアピーク周波数推定手段と、
前記第1ペアピーク周波数推定手段で推定したピーク周波数の一方がピーク周波数として抽出されており、もう一方が所定条件である場合に、第1ペアを生成してその第1ペアにおける距離及び相対速度を推定する第1ペア距離・相対速度推定手段と、
前記第1ペア距離・相対速度算出手段で算出された第1ペアの距離及び相対速度から第2ペアのピーク周波数を推定する第2ペアピーク周波数推定手段と、
前記第2ペアピーク周波数推定手段で推定したピーク周波数の一方がピーク周波数として抽出されており、もう一方が所定条件である場合に、第2ペアを生成してその第2ペアにおける距離及び相対速度を推定する第2ペア距離・相対速度推定手段と、
前記第1および第2ペア距離・相対速度算出手段で算出された前記ターゲットの距離及び相対速度と、前記第1および第2ペア距離・相対速度推定手段で推定された前記ターゲットの距離及び相対速度から、前記ターゲットの距離及び相対速度を確定するターゲット確定手段とを備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
前記所定条件は、ピーク周波数として抽出されず、ピーク周波数が所定範囲であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記所定範囲は、ピーク周波数が0付近であることを特徴とする請求項3に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記所定範囲は、ピーク周波数が停止物ターゲットの存在する周波数範囲であることを特徴とする請求項3に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記停止物ターゲットが存在する周波数範囲は、レーダ方式をFM−パルスドップラー方式とし、レンジゲートごとに自車速、レンジゲート幅から算出される周波数範囲であることを特徴とする請求項5に記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−75500(P2011−75500A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229665(P2009−229665)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】