説明

レールの溶接部の後熱処理方法

【課題】 レールのフラッシュバット溶接において、ダイバーンにより生じたマルテンサイトを後熱処理により無害化し、溶接部に損傷を生じにくくした。
【解決手段】レール使用時にフラッシュバット溶接部の接合面から100mm〜200mm離れた頭部表面に損傷が生じたり、レール底面から疲労亀裂が発生することがある。これらの損傷の起点部には熱影響部が存在し、マルテンサイト組織が発生していることを把握した。レールの定置式フラッシュバット溶接部の後熱処理方法であって、溶接時に電極が装着されていたレール頭頂部表面を250℃以上600℃以下に再加熱し、溶接時に電極が装着されていたレール足裏面表面を250℃以上、固相線温度以下に再加熱する。また、レールの可動式フラッシュバット溶接部の後熱処理方法であって、溶接時に電極が装着されていたレール柱部表面を250℃以上、固相線温度以下に再加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレール溶接部の信頼性を向上させる方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
レールが鉄道で使用される際に、最も損傷が起こりやすく、保守コストがかかるのはレールの継目部である。また継目部は列車通過時に生じる騒音・振動の主要な発生源となる。旅客鉄道の高速化や貨物鉄道の重積載化が国内外で進められており、上記問題点を有するレール継目を溶接によって連続化するロングレール技術が一般化している。
【0003】
図1を用いてロングレール溶接部およびレール断面呼称について説明する。図1(a)は溶接部の長手方向の側面図である。ロングレールは、少なくとも2本のレールを溶接することにより製造される。このためロングレールには溶接部7が含まれる。溶接部7にはビード8が存在する。
【0004】
図1(b)はレール長手方向に垂直な断面図である。レールは車輪との接触が生じるレール上部の頭部1、枕木に接地するレール下部の足部3、頭部1と足部3の中間の垂直部分である柱部2を有する。また、頭部の最も高い点4は頭頂部、足部の上面5を足表、足部の裏面6は足裏、もしくは底面とも呼ばれる。
【0005】
レールの主な溶接方法として、フラッシュバット溶接(例えば特許文献1)がある。
フラッシュバット溶接法は図2に示すように、対向して設置された被溶接材10に電極9を介して電圧をかけて、端面間にアークを発生させて被溶接材の端面を溶融させ、十分に被溶接材が加熱された時点で、軸方向に材料を加圧して被溶接材を接合する溶接方法である。
【0006】
レールの溶接はまず溶接工場において200〜500mまでレールをつなぎ、長尺レール専用の貨車で敷設現地まで輸送した後に、さらに現地溶接で連続化される。本発明が対象とするフラッシュバット溶接法は工場溶接、現地溶接の双方で利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−219177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
レール使用時に、フラッシュバット溶接部の接合面から100mm〜200mm離れた頭部表面に、図3に示すような表面損傷14Aが生じたり、接合面から同様の距離において、図4に示すような、レール底面もしくは柱部から疲労亀裂14Bが発生することがある。これらの損傷位置は溶接熱影響部のはるかに外側であるため、レール母材部が損傷したかに判断されることがある。本発明はこれら溶接部近傍における損傷を防止する技術を提供する。
【0009】
本発明は従来技術におけるレール損傷を考慮してなされたものであり、その目的は、従来と比較して溶接部の信頼性が向上したロングレールを製作するための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した、接合面から100mm前後の位置に生じる損傷を調べた結果、損傷の起点部には熱影響部が存在し、マルテンサイト組織が発生していることを把握した。
フラッシュバット溶接はレールに電極を装着し、電極を介して電圧を負荷し、レール端面間にアークを発生させるものである。
【0011】
電極とレールの接触が悪い場合、図5に示すように、電極とレール間でアーキングが生じることがある。この現象はダイバーン、エレクトロードバーン、電極焼けなどと呼ばれている。本明細書ではこの現象をダイバーンと呼ぶことにする。アークの発生したレール表面は急速にオーステナイト域まで加熱され、周囲への熱伝導により急速に温度低下する。レール鋼は焼入れ性が高く、このヒートサイクルによりマルテンサイトが生じると考えられる。レール鋼はC量が高く、そのマルテンサイトは極めて硬く、脆い。このためマルテンサイト組織が生じたレール鋼は正常なレール鋼に比較してより軽い負荷により損傷が生じると考えられる。
【0012】
この対策として以下の方法によりマルテンサイトを無害化する。
(1)レールの定置式フラッシュバット溶接部の後熱処理方法であって、溶接時に電極が装着されていたレール頭頂部表面を250℃以上600℃以下に再加熱することを特徴とするフラッシュバット溶接部の後熱処理方法。
(2)レールの定置式フラッシュバット溶接部の後熱処理方法であって、溶接時に電極が装着されていたレール足裏面表面を250℃以上、固相線温度以下に再加熱することを特徴とするフラッシュバット溶接部の後熱処理方法。
(3)レールの定置式フラッシュバット溶接部の後熱処理方法であって、溶接時に電極が装着されていたレール足裏面表面を250℃以上、固相線温度以下に再加熱することを特徴とする上記(1)に記載のフラッシュバット溶接部の後熱処理方法。
(4)レールの可動式フラッシュバット溶接部の後熱処理方法であって、溶接時に電極が装着されていたレール柱部表面を250℃以上、固相線温度以下に再加熱することを特徴とするフラッシュバット溶接部の後熱処理方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ダイバーンにより生じたマルテンサイトが無害化され、溶接部に損傷を生じにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】溶接部、レール断面の呼称の説明図であり、(a)はロングレールを水平方向から見た側面図、(b)は(a)のA−A'断面図。
【図2】フラッシュバット溶接の模式図であり、(a)はフラッシング工程、(b)はアップセット工程、(c)はトリミング工程。
【図3】レール溶接部の頭頂部の表面損傷の模式図である。
【図4】レール溶接部の足裏部もしくは柱部からの表面損傷例である。
【図5】フラッシュバット溶接におけるダイバーンの発生機構を示す模式図である。
【図6】フラッシュバット溶接における電極の配置例を示す。(a)は工場溶接機で多用されるレール頭頂面と足裏面に電極を装着する形式、(b)は現地溶接において多用される、電極を左右から柱部に装着させる形式である。
【図7】車輪とレールの接触状態を示す模式図である。(a)は車輪とレールの接触が接触面を有すること、(b)は接触面において面内の応力が生じている様子を示している。
【図8】列車が通過する際にレールに曲げ応力とせん断応力が作用する説明図である。
【図9】共析鋼の連続冷却線図を示す。
【図10】加熱温度の違いに基づく金属組織、硬度違いの説明図。
【図11】ダイバーンを故意に発生させて、対策効果を調べるための方法を示す。(a)は電極がレールと接触する面に隙間ができるようにした凹部を有する電極の模式図。(b)は上記凹部を有する電極をレールに装着して溶接した際のダイバーンの発生状況を示す模式図。(c)は電極、その凹部の接触位置とマクロ試料の採取位置の関係を示す。(d)は検鏡断面におけるマルテンサイトの生成状況を示す。
【図12】実施例におけるダイバーン部の再加熱範囲を示す模式図である。
【図13】実施例における検鏡位置、硬度測定位置を示す模式図である。
【図14】耐表面損傷性試験の方法を示す模式図である。
【図15】疲労試験の方法を示す模式図である。
【図16】実施例Aにおける凹部を有する電極の配置位置を示す模式図である。
【図17】実施例Bにおける凹部を有する電極の配置位置を示す模式図である。
【図18】実施例Cにおける凹部を有する電極の配置位置を示す模式図である。
【図19】実施例Dに使用した、レール柱部に装着する形式の電極、およびその凹部を有する電極を示す模式図である。(a)図はレールに装着する前の状態であり、(b)図はレールに装着した状態である。
【図20】実施例Dにおける凹部を有する電極の配置位置を示す模式図である。(a)図はレール長手方向軸からみた断面図であり、(b)図は(a)図におけるA-A断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<フラッシュバット溶接方法>
まずフラッシュバット溶接を図2を用いてさらに詳しく説明する。フラッシュバット溶接方法の第1の工程は図2(a)で示した端面間に連続してアークを発生させる工程であり、フラッシング工程と呼ばれる。この工程では電極9を介して印加される電圧により被溶接材の端面間にアークが発生する。アークが発生した部分は局部的に溶かされて、溶けた金属の一部はスパッターとして外部に放出され、残りは端面に残留する。アークによって溶かされた部分にはクレータと呼ばれる凹みが発生する。被溶接材は徐々に近づけられていき、次々に新たな接触部分にアークが発生し、その局部的な溶融、飛散の繰返しにより材料は次第に短くなっていく。この過程では材料間隔がほぼ一定の間隔を保つように被溶接材が相互に近づけられていく。
【0016】
フラッシング工程の途中において、故意に材料端面を接触させ、直接通電による大電流により母材温度を高める工程が採用される場合がある。その目的は、端面近傍の温度分布をなだらかにして、より効率的にアップセット工程に進むためである。この工程は「予熱工程」と呼ばれ、2〜5秒程度の接触通電と、端面を引き離して電流を休止させる繰り返しを数回行われる。
【0017】
フラッシング工程を数10秒から数分間続けることにより、被溶接材の端面の全面が溶融した状態となる。また、端面近傍の材料は温度上昇により軟化する。この状態に到達した時点で、図2(b)に示すように、軸方向への加圧が行われる。このアップセットと呼ばれる加圧により、端面に形成されていたクレータ凹凸面はつぶされ、端面間に存在していた溶融金属は系外に押し出される。軟化した端面近傍は、塑性変形して断面が増大し、溶接面の周囲にはビード11が形成される。
【0018】
このビードは図2(c)に示すように、溶接直後の高温の期間にトリマー12により熱間でせん断、除去される。この工程はトリミングと呼ばれる。トリミング後は溶接部の周囲に高さ数mm、幅10〜30mm程度の薄いビード8が残存する。
【0019】
車輪と接触するレール頭部のトリミング後に残った薄いビードは、グラインダーで平滑化、研磨される。レール柱部、足部のビードは、鉄道会社によりグラインダー研磨による完全な平滑化、グラインダー研磨による薄肉化、無手入れ、などと処置方法が異なる。
【0020】
なお電極9のレールへの装着位置は、図6の(a)に示すような、レール頭部1と底面3を上下から挟む形式と、図6(b)に示すような側面からレール柱部2を挟み込む方式がある。レール頭部1と底面3を上下から挟む形式は工場溶接において多用される。一方レールを左右からはさむ形式はレールの下方に装置スペースが不要であり、現地溶接機として多用される。いずれの方式でも電極9は10トン以上の荷重でレールに密着される。ダイバーンの生成する位置はこれら電極の装着位置である。接合面と電極9の距離LEと電極9のレール長手方向の長さLeはいずれも100mm前後である。なお電極9のレール長手方向と直角方向の幅Wcはレールへの装着部位により異なり、レール頭部1や柱部2であれば40〜80mm、レール足裏3であれば60〜160mm程度である。電極9がレールに接する面は足裏部位3であれば平面、柱部2であれば凸曲面、頭頂部であれば平面、もしくは凹曲面のいずれかが適用されている。
【0021】
<レール損傷の発生形態>
鉄道における軌道は、砕石バラスト、枕木、レールと枕木の締結装置及びレールから構成される。レール上を列車が通過する際には、多数の列車の車輪から分散した荷重がレールに加わる。
【0022】
前述の損傷をひき起す原因を考えるにはレールに対する車輪からの負荷状態を考える必要がある(図7)。
【0023】
車輪15の通過の際には車輪15とレール1は面積をもった接触範囲16が生じる。これは車輪、レールがいずれも弾性体であり、双方が弾性変形するためである。図7における車輪形状はレールとの接触面、いわゆる踏面と呼ばれる円錐面、もしくは曲線回転面を誇張して図示している。車輪15とレール1はその形状の違いにより、接触面16内に接線方向の応力17,18が生じる。その結果、レール表層には塑性流動、いわゆるメタルフローが進んでいく。塑性流動が過大になると、割れや剥離などの表面損傷が引き起こされることがある。また、曲線軌道では軌道の内側レールと外側レールで、車輪との接触軌跡長が異なるにもかかわらず、車輪の周速が同じであることから、接線方向の応力がさらに増える。さらに駅近傍や勾配区間における加・減速区間では車輪がレールを接線方向に押しだす応力が加わる。このような接線方向応力の増加はレール表層の塑性流動を増大させ、摩耗や損傷の原因となる。
【0024】
また車輪の通過により、図8に示すように、レールには曲げ応力分布37が発生し、レール頭部1に長手方向の圧縮、レールの足部3には長手方向の引張が生じる。レール足部3の引張応力は車輪15の通過ごとに発生し、レール足部3には疲労亀裂の発生に対する配慮が必要である。ダイバーンを起点として足裏側から損傷が生じるケースは、多分にこの繰り返し曲げ負荷が影響していると考えられる。
【0025】
また、柱部2では車輪が通過する際に曲げ応力は中立であるが、せん断応力がレール全断面に均等に作用し、繰り返しせん断負荷により、柱部2から疲労亀裂が生じる場合があると考えられる。
【0026】
<レール素材について>
次にレール鋼について説明する。レール鋼はJIS E1101、JIS E1120に規定されているように、炭素を0.5〜0.8質量%含有する亜共析鋼もしくは共析炭素鋼が一般的である。また、最近は海外の鉱山鉄道における重荷重貨物線を対象に、より耐摩耗性を向上させた、炭素を0.8質量%を超えて含有する過共析組成のレール鋼も普及しつつある。
【0027】
以下に本発明が対象とするレール鋼の好ましい成分範囲について述べる。成分の含有量は質量%である。
C:レール鋼における強度、硬度の確保のための必須元素である。0.5%未満では列車重量の保持や耐摩耗性に必要な高強度のパーライト組織が得がたく、また1.2%を超えるとオーステナイト粒界を脆化させる有害な初析セメンタイトを生成させるため好ましくない。
【0028】
Si:鋼の性質に有害な酸素を固定するとともに、パーライト組織中のフェライト相への固溶強化により強度を高める効果がある。0.1%未満ではそれらの効果は少なく、1.2%を超えると脆化をもたらし、溶接性も低下する。
Mn:パーライト変態温度を低下させ、パーライト組織を緻密化させることで強度を高める。しかし、0.1%未満では効果が小さく、1.2%を超えると偏析部にマルテンサイト組織を生成させ易くするため好ましくない。
【0029】
さらに、上記成分の他に必要に応じて1種または2種以上のCr,Mo,Vを添加し、冷却過程における加速冷却によって、より高強度と同時に高靭性を図ることができる。これらの元素の望ましい範囲を以下に説明する。
【0030】
Cr:パーライト変態温度を低下させることによって強度を高めるとともに、溶接継ぎ手部軟化防止の観点で0.05%以上の含有が有効である。一方1.0%を超えて含有すると強制冷却時に元素偏析部や、過冷却されやすいレール頭部のコーナー付近にベイナイトやマルテンサイトが生成し靭性の低下をもたらすため好ましくない。
【0031】
Mo:パーライトの変態速度を抑制し、パーライトブロックサイズを微細化する効果がある。しかし0.005%未満ではこの効果は少ない。一方、Moが0.2%を超えると、偏析部においてパーライト変態が過剰に遅滞し、ベイナイト組織やマルテンサイト組織が生成するため好ましくない。
【0032】
V:パーライト変態核となるV炭窒化物を析出し、オーステナイト粒界および、粒内からの変態核生成の促進によりパーライト組織を微細化する効果がある。しかしVが0.005%未満ではこの効果は弱く、0.07%以上ではV炭窒化物が粗大になって破壊起点となるため好ましくない。
【0033】
Al、N、Ni、Cu、Nb、Mg、Caは素材の溶製工程において不可避的に混入する元素である。これらの元素の一部は、特定の製造条件によっては強度の増加、延・靭性の向上、耐食性の工場に効果が認められている。しかし多量に含有すると悪影響が生じる場合があり、一般的にはレール鋼の材質改善には利用されず、総じて0.2%以下に制御される。
【0034】
なお、P、S、Oは鋼中に不可避的に含まれる。いずれも鋼を脆化させて衝撃特性を低下するため、それぞれ0.025%以下であることが望ましい。
【0035】
<連続冷却線図による組織変化、ダイバーン部のマルテンサイト生成過程の説明>
一般に、冷却過程における相変化は鋼成分、冷却速度により様相が異なる。図9に連続冷却状態における共析鋼の組織変化をCCT図で模式的に示す。
【0036】
冷却速度が曲線(1)で示すような緩やかな場合、Ps線上でパーライト変態が開始し、Pf線上でパーライト変態が完了する。冷却速度が速まると冷却曲線(3)に示すように、温度(B)でパーライト変態が停止し、一部ベイナイト組織を生じることがあるが、未変態部はオーステナイトのまま過冷され、(C)点〜(D)点でマルテンサイト変態を起こす。さらに冷却速度が速い場合は、冷却曲線(5)に示すように、オーステナイト組織のままMs点まで過冷された後、マルテンサイト変態を起こす。
【0037】
ダイバーンが生じた場合、レール表面へのアーキングによりレール表層がオーステナイト域まで加熱された後、(5)の線で示すような急冷となり、マルテンサイト組織が生じると考えられる。
【0038】
ダイバーン発生部位の断面組織の調査から、ダイバーンによるマルテンサイト組織の領域は、レール表層からの深さが最大15mm程度、幅、長さは最大50mmに及ぶ事例もある。その発生領域の大きさはアーク放電の強さ、持続回数によって決まっていると考えられる。
【0039】
<マルテンサイトの焼き戻し過程、ダイバーンの無害化>
マルテンサイトは面心格子であるオーステナイトから直接、鉄原子がずれて正方格子に変態した組織であり、変態の際に転移などの格子欠陥が多量に導入される。また、マルテンサイトは炭化物を含まず、格子中には炭素を固溶しており、炭素量に応じて格子の歪が増大し、炭素量が高いほど硬い。このためレールのような高炭素鋼のマルテンサイト組織は極めて硬くて脆く、レールにおいては使用中の損傷の原因となることが多い。マルテンサイト組織を加熱すると200℃程度でε炭化物が析出し、格子歪が緩和することで硬度が低下し、脆性が緩和されて有害性が下がる。したがってダイバーンによって生じたマルテンサイトを無害化するためには少なくとも200℃以上に加熱することが必要であり、マルテンサイトの組織分率は断面観察による面積率で20%以下にする必要がある。
【0040】
また、ダイバーンを焼き戻す範囲は少なくとも表面から5mm以上の深さに及ぶことが望ましい。表面から加熱を行う場合、内部温度は表面より低いため、内部5mmまでを200℃以上とするためには、表面温度を250℃以上とすることが必要である。
鋼材表面を加熱する領域については、電極がレールに装着される範囲においてはダイバーンが発生する危険性があり、その範囲およびその外側に約10mm程度、余分に加熱することが望ましい。
【0041】
マルテンサイト部の加熱温度を高めていくと、炭化物の組成変化、粒子径の増大、格子欠陥の消失が進み、硬度は単調に低下していく。延靭性も大局的に増加していく傾向にある。
【0042】
<レール母材の加熱による組織、硬度変化>
図10にパーライト鋼母材に対する加熱温度と組織、硬度の関係を模式的に示す。図の左端は熱影響を受けないレール母材であり、右端は固相線温度まで加熱された状態を示している。
【0043】
オーステナイト化完了温度を超えて過熱された領域は、その後の冷却時に全てパーライト変態する。その部分の硬度は冷却時の冷却速度により異なる。
【0044】
加熱温度がオーステナイト化開始温度とオーステナイト化完了温度の間である場合は、加熱時点でオーステナイト相と未変態のフェライト相もしくはセメンタイト相が混在する。オーステナイトに変態した部分はその後の冷却でパーライトに変態するが、未変態のフェライト相や、未溶解で球状化したままのセメンタイトがそのまま室温まで残る。これらの組織はオーステナイト相から変態した通常のパーライト組織に比較して硬度が低い。
【0045】
さらに加熱温度が低く、オーステナイト化開始温度に達しない領域においても、500℃以上に加熱される領域はパーライト中のセメンタイトが球状化し硬度が低下する。加熱温度がさらに低くなると球状化の程度は小さくなり、しだいに母材の硬度に近づいていく。
【0046】
加熱温度500℃〜オーステナイト化開始温度までの球状化域はマクロ組織では母材と大差ないが、オーステナイト化開始温度に達すると、混相領域のため細粒となり硝酸アルコールなどによるエッチングにより、明確に差異を判別できる。オーステナイト化完了温度以上に加熱された領域は高温加熱により結晶粒径が増大する傾向はあるが、マクロ組織的には母材に近い組織を呈する。なお、500℃〜オーステナイト化開始温度までの領域では走査型電子顕微鏡(SEM)により球状化したセメンタイトを確認できる。
【0047】
車輪との接触による磨耗環境にさらされるレール頭部1に対しては、硬度低下が顕著にならない600℃程度までに制約する必要がある。一方。レール足裏部、柱部については、加熱温度の上昇に伴う硬度低下の実質的悪影響はなく、レールが溶融しだす固相線温度まで加熱しても問題ない。ただし、マルテンサイトの無害化という観点からは、600℃まで加熱すれば十分である。
【0048】
<溶接時の電極の装着位置に応じた適正な再加熱温度の範囲について>
電極部にダイバーンによって生じるマルテンサイト組織を無害化処理する場合、以上の説明のとおり、再加熱温度に応じてマルテンサイト組織が変化する。また、マルテンサイトの周囲の母材パーライト組織も再加熱により、その温度に応じて組織変化が起こる。
【0049】
一方、レールは部位ごとに異なる機能を分担しており、その望ましい金属組織は異なる。溶接部においてもレール部位ごとに果たすべき機能は母材と同じである。
たとえばレール頭部には車輪との接触による磨耗、メタルフロー、さらには亀裂発生の環境下にさらされるため、強度、硬度が高いことが好ましい。このため、再加熱によりパーライト組織が球状化し軟化することは好ましくない。このため、溶接時の電極がレール頭部に接触する溶接方法の場合に、電極装着部位を再加熱する際の温度は上記説明のとおり、少なくとも250℃以上であることが必要であるが、パーライト組織が球状化しても強度低下の程度が小さい600℃以下であることが望ましい。
【0050】
さらに詳しく再加熱温度の影響を述べると、250℃〜350℃の範囲はマルテンサイトが固溶炭素を炭化物として析出しているが、依然として多量の転移を含み、高度がレール母材より高い状態にある。この状態はマルテンサイトが焼き戻されて、重大な損傷の危険性は避けられているものの、レールの母材部とは硬度の違いがあり、車輪が通過する際に、両者に生じるひずみ量が異なる現象が生じる。これは長期の使用により亀裂の生成を起こしうる危険性を若干残している。逆に、再加熱温度が550℃を超えてくると、レール母材のパーライトの球状化、硬度の低下が始まり、その程度は小さいものの、母材部より硬度が下がる状態となる。
列車通過時に、レール母材部とマルテンサイトを焼き戻した部分が均等に変形し、亀裂の発生の危険性をさらに小さくするには、焼き戻した部分とレール母材の硬度差がより小さい再加熱条件にすることが望ましい。以上の観点から、再加熱温度は350℃〜550であることが最も望ましい。
【0051】
一方、レール柱部、足部においては車輪との接触が生じないため、レール頭部におけるような高強度は必要ではない。このため、溶接時の電極がレール柱部もしくは底部に接触する場合において、電極装着部位を再加熱する際の温度は、上記説明のとおり少なくとも250℃以上であることが必要であるが、レール鋼が溶融しだす固相線温度まで上げても差し支えない。固相線温度以上まで温度を上げた場合は、レール表面が溶融して表面に凹凸が生じ、使用中に疲労亀裂の発生起点となるため好ましくない。
【0052】
ただし、レール柱部、足部においても、前節のレール頭部の再加熱の項で説明したように、レール母材部と再加熱部の硬度の違いがより少ないことが望ましい。レール柱部、足部においては列車通過時に車輪との接触は起こらないものの、軌道条件によってはこれらの部位に疲労亀裂が生じることがあり、歪、応力状態がレール母材と焼き戻し部で均一になることが望ましいためである。したがってレール柱部、足部においても、再加熱温度は350℃〜550であることが最も望ましい。
【0053】
<ダイバーンの加熱処理方法について>
ダイバーンによって生じたマルテンサイトを加熱によって無害化する手段は特に限定されるべきものではなく、可燃ガスによる加熱、高周波誘導加熱、通電加熱などがいずれも利用できる。
【実施例】
【0054】
以下に本発明の実施例、比較例を示す。
(レール鋼)
表1に本明細書の実施例で使用した3種類のレールを示す。レール鋼Aは通称、普通レールと呼ばれる鋼種で、炭素量0.65〜0.75重量%を含有する亜共析鋼であり、圧延のままの製品で、レール頭部の硬度はビッカース硬度260〜290である。レール鋼Bは圧延後に熱処理された耐摩耗レールで、炭素量0.75〜0.85重量%を含有する共析鋼であり、レール頭部の表面下5mmでの硬度がビッカース硬度360〜400である。レール鋼Cは炭素量0.85〜0.95%を含有する過共析鋼であり、圧延後に熱処理された耐摩耗レールで、レール頭部の表面下5mmでの硬度がビッカース硬度400〜450である。レールサイズはメートル単重70kg/mの重荷重鉄道用サイズを用いた。
【0055】
【表1】

【0056】
(溶接方法)
溶接パターンは、(1)まず0.1mm/sフラッシング速度で60秒間、レール端面間を接近させていき、接触が起こった部位をフラッシングで溶融飛散させていく。この過程で、元々の被溶接レール端面が平行でなかった場合も、凸部が優先的にフラッシングして溶融飛散し、両レールの端面間は60秒間のフラッシングにより平行となる。この過程は次の端面間短絡の際に、端面間の接触を全断面にわたって均一に起こさせるために必要である。次に、(2)レール端面間の2秒間の短絡と1秒間の開放の組み合わせを8回起こさせ、大電流を断続的にレール間に流してレールを加熱し、(3)その後、0.3mm/sの移動速度でレール端面間を接近させる最終フラッシングを120秒間行った後、(4)アップセット工程でレール同士を60トンの荷重で加圧して溶接した。この溶接パターン、溶接条件は以下の全実施例で共通とした。
【0057】
(ダイバーンの発生方法)
溶接機の電極に図11(a)に示すように、深さ0.5mm、レール長手方向に幅20mm、その直角方向に20mmの凹部9Bを作り、レール表層20との接触面に0.5mmの隙間ができるようにした。溶接機には4個の電極があるが、この凹部を有する電極9Aを実施例ごとに溶接機の1か所もしくは2か所に取り付けて、溶接時にこの接触不良部において、確実にダイバーン21を生じさせた。その溶接時の状況を模式的に図11(b)に示す。溶接後に図11(c)に示すように、この凹部を有する電極9Aの装着部分22から長手方向の、レール表面に垂直断面24を切出して確認したところ、電極の凹部が位置していた部分23に相当する位置に、レール長手方向に5〜20mm、その直角方向に5〜20mm、表面からの深さ最大15mmの範囲でマルテンサイト組織部25が生じていることを確認した(図11(d))。マルテンサイト組織部25の周囲には、オーステナイト化開始温度とオーステナイト化完了温度の中間まで加熱された細粒の組織帯26が認められた。
【0058】
(ダイバーン発生部の後熱処理方法)
溶接後のダイバーン発生部の加熱は電磁コイルを用いてレール表面に誘導電流を起こし、そのジュール発熱を起こさせる誘導加熱法を用いた。レール表面に生じる誘導電流、到達温度は使用する電磁コイルの形状、コイルに流す励磁電流、励磁時間により異なる。実験に先立ち、あらかじめ電流、励磁時間とレール表面の到達温度の関係を求めておき、目標とするレール表面温度が得られるよう、励磁電流と励磁時間を変化させた。加熱範囲27は図12に示すように、電極装着範囲22を含む、レール長手方向に100mm、レール長手方向に直角方向に50mmの範囲とした。加熱設定温度にて30秒間保持し、加熱終了後は自然放冷した。その際の冷却速度は約1.0℃/sである。
【0059】
(評価試験方法)
実施例に応じて2ないし3本の溶接部を同一条件で再加熱処理した。1本はダイバーン生成部から鏡面試料を切出して硬度、金属組織を調査し、その他の試験溶接部は耐表面損傷評価試験、もしくは曲げ疲労試験、もしくはその両方を行った。
【0060】
(硬度、金属組織試験)
硬度、金属組織の検査は図11(c)に示したように、電極9Aの凹部9Bが位置していたレール表面に垂直の長手方向断面を切り出しておこなった。この断面を鏡面研磨し、図13に示すようにダイバーン発生位置における、レール表面から2mm位置30でビッカース式硬度計により、測定荷重100Nで測定した。
【0061】
曲線部や重荷重鉄道ではレール頭部の硬度がHv400前後のレール鋼B、Cなどが使用されることが多い。レール頭部に電極を装着する溶接において、電極装着部のダイバーンを熱処理する場合、再加熱温度が過剰であるとパーライトの球状化により軟化が生じる。その結果、使用中に広い範囲で摩耗が著しく進み、摩耗深さも大きくなる。高硬度のレールを用いて頭部を熱処理する場合は、熱処理後の硬度がHv300を下回ると母材との摩耗量の差が大きくなるため望ましくない。
【0062】
金属組織は上記硬度測定試料を3%硝酸アルコール(ナイタール液)でエッチングして観察した。マルテンサイト組織には炭化物が存在しないため、ナイタール液ではエッチングされず、顕微鏡では白く見える。一方、パーライト組織、ベイナイト組織、焼き戻しマルテンサイト組織はナイタール液で炭化物の形態に応じてエッチングされ、マルテンサイトとは明瞭に識別される。
【0063】
金属組織の組織分率は電極凹部の直下、レール表面近傍20×20mmを調査領域とし、倍率50倍で観察し、点算法(ポイントカウント法)で算出した。点算法はJIS G0555の附属書1(規定)に示された、介在物の顕微鏡試験方法を参考にして行った。JISで示される介在物の個数を各組織の個数に置き換え、面積率を算出した。
前述したように組織分率においてマルテンサイト組織が20%を超えると材質の劣化が著しくなり好ましくない。
【0064】
加熱温度がオーステナイト化完了温度を超える場合は、ダイバーンにより生じていたマルテンサイト組織が完全に消失した。この場合も、元々ダイバーンが存在したと思われる、電極の凹部9Bが位置していた付近で組織観察、硬度測定を行った。
【0065】
(耐表面損傷性の試験方法)
耐表面損傷性の評価試験は図14に模式的に示す試験機で行った。この試験において、供試レールはスライドする水平移動台車33に固定されている。水平移動台車33はローラー34を持っており、定盤35の上を水平に往復する。水平移動台車33の水平移動は油圧シリンダーによって行う。
【0066】
溶接時に凹部を有する電極が装着され、ダイバーンの生じた部位を、移動台車33が往復動する際の中間点となるように移動台車33に供試レールを設置し、往復動の範囲をこのダイバーン部から両側各500mmとした。台車33の移動速度は800mm/sとした。
【0067】
車輪15は油圧力で下方向に垂直荷重32が加えられる。この試験では重貨物鉄道で一般的な輪重である15トンに設定した。この垂直荷重32が、レールが車輪15から受ける垂直荷重Pyに等しい。垂直負荷は台車が往路方向に動く際にかけ、復路は車輪15を浮かして無負荷とした。すなわちレール表面における塑性流動が一定方向に起こるようにした。
【0068】
また、車輪15の回転はモーター31で駆動されている。そのトルクと台車33の水平移動の駆動力を調整することにより、レールと車輪15の接触面には接線方向力Pxを負荷することができる。この試験ではPxを1トンとした。
【0069】
累積の垂直負荷トン数が1500万トンに達するまで試験片の往復動を行い、その後、レールの表面状態を観察し、損傷が生じていた場合はその幅と長さを記録した。また、車輪15との接触により偏摩耗が生じた場合にはその局部摩耗量を測定した。
【0070】
微細な表面損傷は実軌道の曲線部において生じることがあるが、表面剥離などに至ることは稀である。しかしダイバーンなどマルテンサイトの生成に伴う損傷は表面剥離や折損に至ることがあり、損傷発生自体、好ましくない。
【0071】
また、偏摩耗量が0.5mm以上になると車輪通過時の騒音、振動が著しくなり、その後さらに偏摩耗の進み方が加速度的になることが想定されることや、表面損傷に発展する可能性があり好ましくない。
【0072】
(疲労試験方法)
曲げ疲労強度の評価試験は3点曲げ方式で行った。図15に試験法方を模式的に示す。1mの距離でセットされた台座38の中心にダイバーン発生部を置き、台座38の中間点においてレール頭部から押し治具39で荷重を与えた。台座38および押し治具39のレールに接する部位の曲率半径は100mmRとした。試験応力はレールの足裏中央部で設定した。最低応力を30MPa、最大応力を330MPa、応力変動範囲を300MPaとした。通常のフラッシュバット溶接継ぎ手は応力範囲300MPaで200万回までの疲労寿命を有している。荷重繰返し速度は5Hzとし、溶接部に亀裂が発生した時点で試験を終了した。また、荷重繰返し回数が200万回まで非破断であった場合は試験を終了し、十分な疲労性能を有していると判断した。
【0073】
<実施例1>
フラッシュバット溶接の際に、レール頭部にダイバーンを発生させ、その部分を種々の温度に再加熱した実施例を以下に示す。
【0074】
被溶接レールには表1の鋼Bを用いた。凹部を設けた電極9Aの配置位置を図16に示す。
評価試験として、ダイバーン発生部位の金属組織観察、硬度測定、耐表面損傷試験を行った。再加熱温度条件および耐表面損傷試験の結果を表2に示す。
【0075】
ダイバーン部の温度を250〜600℃の範囲に加熱した実施例A1〜A3はダイバーン部におけるマルテンサイトの組織が20%以下となり、損傷試験の結果、レール頭部における表面損傷は認められなかった。
【0076】
一方、比較例A1はダイバーン部の再加熱を行っておらず、マルテンサイトがそのままレールに残存しており、損傷試験において表面損傷が生じた。
【0077】
比較例A2、A3はダイバーン部の再加熱温度が低く、マルテンサイトが多量にレールに残存しており、損傷試験において表面損傷が生じた。
【0078】
比較例A4はダイバーン部の再加熱温度が高すぎ、炭化物の球状化により硬度Hv300以下となる軟化が生じ、損傷試験において0.5mm以上の局部摩耗が生じた。
【0079】
A5はダイバーン部の再加熱温度がさらに高く、ダイバーン部はパーライト組織になっているものの、加熱部辺縁部の600〜700℃に加熱される領域において、炭化物の球状化による硬度Hv300以下となる軟化により、損傷試験において0.5mm以上の局部摩耗が生じた。
【0080】
【表2】

【0081】
<実施例2>
次にフラッシュバット溶接の際に、レール足裏部にダイバーンを発生させ、その部分を種々の温度に再加熱した実施例を示す。
【0082】
被溶接レールには表1の鋼Aを用いた。凹部を設けた電極9Aの配置位置を図17に示す。評価試験はダイバーン発生部位の金属組織観察、硬度測定、曲げ疲労試験を行った。再加熱温度条件および曲げ疲労試験の結果を表3に示す。
【0083】
ダイバーン部の温度を250℃〜固相線温度以下の範囲に加熱した実施例B1〜B6はダイバーン部におけるマルテンサイトの組織が20%以下となり、疲労試験の結果、荷重繰り返し回数200万回まで疲労損傷は生じなかった。
【0084】
一方、比較例B1はダイバーン部の再加熱を行っておらず、マルテンサイトがそのままレールに残存しており、疲労試験において早期破断した。
【0085】
比較例B2、B3はダイバーン部の再加熱温度が低く、マルテンサイトが多量にレールに残存しており、疲労試験において早期破断した。
【0086】
比較例B4はダイバーン部の再加熱温度が高すぎ、レール足裏の表面が溶損し、磨耗試験において早期破断した。
【0087】
【表3】

【0088】
<実施例3>
レールをフラッシュバット溶接する際に、レール頭部及び、レール足裏部にダイバーンを発生させ、その部分を種々の温度に再加熱した実施例を示す。
【0089】
被溶接レールには表1の鋼Cを用いた。凹部を設けた電極9Aの配置位置を図18に示す。評価試験はダイバーン発生部位の金属組織観察、硬度測定、表面損傷試験を行った。再加熱温度条件および断面組織、硬度試験結果を表4に、耐表面損傷試験、曲げ疲労試験の結果を表5に示す。
【0090】
頭部のダイバーン部の温度を250〜600℃の範囲に加熱し、足裏部のダイバーン部の温度を250℃〜固相線温度の範囲に加熱した実施例C1〜C9はダイバーン部におけるマルテンサイトの組織が20%以下となった。損傷試験の結果、レール頭部における表面損傷、異常摩耗は認められなかった。また、疲労試験においても荷重繰り返し回数200万回まで破断しなかった。
【0091】
一方、比較例C1は頭部のダイバーン部の加熱温度が高く、炭化物の球状化による軟化により、損傷試験において局部摩耗が生じた。
【0092】
比較例C2は足裏のダイバーン部の再加熱温度が低く、マルテンサイトが多量にレールに残存しており、疲労試験において早期破断した。
【0093】
比較例C3は足裏のダイバーン部の再加熱温度が高すぎ、レール足裏の表面が溶損し、磨耗試験において早期破断した。
【0094】
比較例C4はダイバーン部の再加熱温度が低く、マルテンサイトが多量にレールに残存しており、損傷試験において表面損傷が生じた。また、足裏のダイバーン部の再加熱温度も低く、マルテンサイトが多量にレールに残存しており、疲労試験において早期破断した。
【0095】
【表4】

【0096】
【表5】

【0097】
<実施例4>
次にレール柱部に電極を装着する現地溶接用の可動式フラッシュバット溶接機を用いる溶接において、溶接の際にレール柱部にダイバーンを発生させ、その部分を種々の温度に再加熱した実施例を示す。被溶接レールには表1の鋼Cを用いた。
【0098】
柱部用電極40、凹部を有する柱部用電極40Aを図19に模式的に示す。凹部を設けた電極40Aの配置位置を図20に示す。評価試験はダイバーン発生部位の金属組織観察、硬度測定、曲げ疲労試験を行った。再加熱温度条件および曲げ疲労試験の結果をまとめて表6に示す。
【0099】
ダイバーン部の温度を250℃〜固相線温度以下の範囲に加熱した実施例D1〜D6はダイバーン部におけるマルテンサイトの組織が20%以下となり、疲労試験の結果、荷重繰り返し回数200万回まで疲労損傷は生じなかった。
【0100】
一方、比較例D1はダイバーン部の再加熱を行っておらず、マルテンサイトがそのままレールに残存しており、疲労試験において早期破断した。
【0101】
比較例D2、D3はダイバーン部の再加熱温度が低く、マルテンサイトが多量にレールに残存しており、疲労試験において早期破断した。
【0102】
比較例D4はダイバーン部の再加熱温度が高すぎ、レール柱の表面が一部、溶け、疲労試験において早期破断した。
【0103】
【表6】

【符号の説明】
【0104】
1・・・レールの頭部、2・・・レールの柱部、3・・・レールの足部、4・・・レールの頭頂部、5・・・レールの足表、6・・・レール足裏、7・・・溶接部、8・・・溶接ビード、9・・・電極、9A・・・凹部を有する電極、9B・・・凹部を有する電極の凹部、10・・・被溶接レール、11・・・アップセットによる溶接ビード、12・・・トリマー、13・・・電源、14A・・・表面損傷、14B・・・疲労亀裂、15・・・車輪、16・・・車輪とレールの接触面、17、18・・・接触面内の接線方向の応力、19・・・枕木、20・・・電極が装着されるレールの表層部分、21・・・ダイバーンによるアーク、22・・・電極の接触範囲、23・・・電極の凹部が存在した相当位置、24・・・組織検査断面、25・・・ダイバーンによって生じたマルテンサイト組織、26・・・ダイバーンによって生じたマルテンサイト組織周囲の細粒組織帯、27・・・実施例における再加熱範囲、28・・・再加熱による熱影響組織、29・・・検鏡範囲,30・・・硬度測定位置、31・・・損傷評価試験機の車輪駆動モーター、32・・・垂直荷重、33・・・水平移動台車、34・・・ローラー、35・・・定盤、36・・・移動台車を往復動方向を示す矢印、37・・・曲げ応力の分布、38・・・試験片支持台、39・・・加圧治具、P・・・試験荷重、40・・・水平方向に柱に装着する形式の電極、40A・・・水平方向に柱に装着する形式で、凹部を有する電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レールのフラッシュバット溶接部の後熱処理方法であって、溶接時に電極が装着されていたレール頭頂部表面を250℃以上600℃以下に再加熱することを特徴とするフラッシュバット溶接部の後熱処理方法。
【請求項2】
レールのフラッシュバット溶接部の後熱処理方法であって、溶接時に電極が装着されていたレール足裏面表面を250℃以上、固相線温度以下に再加熱することを特徴とするフラッシュバット溶接部の後熱処理方法。
【請求項3】
レールのフラッシュバット溶接部の後熱処理方法であって、溶接時に電極が装着されていたレール足裏面表面を250℃以上、固相線温度以下に再加熱することを特徴とする請求項1に記載のフラッシュバット溶接部の後熱処理方法。
【請求項4】
レールのフラッシュバット溶接部の後熱処理方法であって、溶接時に電極が装着されていたレール柱部表面を250℃以上、固相線温度以下に再加熱することを特徴とするフラッシュバット溶接部の後熱処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−30242(P2012−30242A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170529(P2010−170529)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】