説明

ロジウム担持メソポーラスシリカを製造する方法

【課題】メソポーラスシリカの細孔組織にロジウムを均一に担持させたロジウム担持メソポーラスシリカを比較的温和な条件下での反応によって製造する方法を提供する。
【解決手段】珪酸ナトリウム水溶液をカチオン交換樹脂と接触させて活性シリカを調製する第1工程、次いで、上記活性シリカとカチオン界面活性剤とロジウム前駆体とをアルカリ性領域で、好ましくは、100℃を超えて、200℃以下の範囲の温度にて水熱反応させることによって、ロジウムを含有するシリカとカチオン界面活性剤との複合体を生成させる第2工程、上記複合体を焼成する第3工程をこの順序で行って、平均細孔径が10〜100オングストロームのメソポア組織を有すると共に、BET法による窒素吸着比表面積が500m2/g以上であるメソポーラスシリカにロジウムが担持されてなるロジウム担持メソポーラスシリカを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロジウム担持メソポーラスシリカを製造する方法に関し、詳しくは、メソポーラスシリカの多孔質組織にロジウムが均一に担持されており、例えば、過剰酸素の存在下に一酸化炭素による窒素酸化物の還元に高活性を有する触媒として有用なロジウム担持メソポーラスシリカを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、メソポーラスシリカと呼ばれる多孔質組織を有するシリカの製造方法として、用いるシリカ源の種類によって、代表的に次の2つの方法が知られている。第1の方法は、層状の珪酸塩を出発シリカ源とするものであって、例えば、層状の珪酸塩の1つであるカネマイトとアルキルトリメチルアンモニウムの複合体を合成し、これを焼成して、有機物を除去することによって、メソポーラスシリカを得るものである(非特許文献1参照)。しかし、この方法によれば、出発原料として、先ず第1にカネマイトを合成することが必要であるうえに、反応系に多量のNaが存在するので、複合体の焼成時にNa成分がシリカ構造を破壊して、多孔体の表面積を低下させる問題がある。更に、Naは触媒等の用途においては、触媒毒として、触媒活性を減退させる原因となる。
【0003】
第2の方法は、アモルファスシリカ粉末やアルカリシリケート水溶液等の種々のシリカ源を用いるものであって、例えば、沈降性シリカとテトラメチルアンモニウムシリケート水溶液の混合物をアルキルトリメチルアンモニウムと150℃で反応させて複合体とし、前述した方法と同様に、これを焼成し、有機物を除去して、メソポーラスシリカを得、また、珪酸ナトリウムを硫酸で中和してシリカゲルを得、これをアルキルトリメチルアンモニウムと100℃で6日間反応させて複合体とし、これを焼成し、有機物を除去して、メソポーラスシリカを得るものである(非特許文献2参照)。
【0004】
しかし、この方法においても、アモルファスシリカ粉末を原料とする場合には、100℃以上の加熱やオートクレーブ中での長時間の反応が必要であるので、エネルギーコストが嵩むこと、テトラメチルアンモニウムシリケートはアルカリ金属を含まないアルカリシリケート水溶液であるので、好ましい反応材料ではあるが、高価であるほか、原料中のテトラメチルアンモニウムが全て排水中に含まれることから、排水処理が必要となる等、工業的に有利な方法とはいい難い。珪酸ナトリウムを硫酸で中和してシリカゲルを得る方法では、100℃で6日間という長い熟成操作が必要となることや、反応系中にNaが多量に存在するために、シリカの耐熱性が低下する等の問題がある。
【0005】
上記以外にも、種々のシリカ源、例えば、市販のシリカゾルを水酸化ナトリウムの存在下でアルキルトリメチルアンモニウムと95℃で7〜20日間反応させるか、150℃で2日間反応させて、メソポーラスシリカを合成する方法が知られている(特許文献1参照)。しかし、この方法も、反応に長時間を要することや、Na成分が多量に残存することに加えて、得られるメソポーラスシリカの比表面積が比較的小さい等の問題がある。
【0006】
そこで、これらの問題を解決するために、珪酸ソーダ水溶液をカチオン交換樹脂と接触させて活性シリカを調製し、この活性シリカとカチオン系界面活性剤をアルカリ性領域で混合反応させて、シリカとカチオン系界面活性剤の複合体を生成させ、次いで、この複合体を焼成して、メソポーラスシリカを得る方法が提案されている(特許文献2参照)。この方法によれば、上述した方法と相違して、高温高圧下の反応を必要とせずして、高比表面積を有し、Na含有量の少ないメソポーラスシリカを得ることができる。
【0007】
一方、メソポーラスシリカ等のメソポーラス構造体触媒は、ゼオライト等の結晶構造体触媒に比べて、細孔径が大きいので、反応物の細孔内拡散速度が大きく、その結果、反応速度が大きくなるという長所があるので、様々な用途に用いることが検討されている(例えば、特許文献3及び4参照)。
【0008】
しかし、メソポーラスシリカは、ゼオライトのように、それ自体がイオン交換能をもたないので、メソポーラスシリカに貴金属等の触媒成分を担持させるには、先ず、メソポーラス細孔内に触媒前駆体水溶液を含浸させ、次いで、加熱還元等によって、前駆体を貴金属に変換する方法によらざるを得ない。そこで、上記方法において、メソポーラス細孔内に触媒成分をできる限り均一に担持させるために、メソポーラスシリカに減圧下で触媒前駆体水溶液を含浸するという減圧含浸法が提案されている(特許文献5参照)。
【0009】
このような方法によれば、含浸時に触媒前駆体水溶液がメソポーラス細孔内に比較的均一に含浸されるものの、乾燥と共に、触媒前駆体水溶液がメソポーラス細孔の表面層に移動するので、結果的にメソポーラス細孔内に触媒成分を均一に担持させることができず、触媒成分がメソポーラスシリカの有する細孔の表面層近傍に凝集して担持されることとなるので、触媒機能や耐熱性において、種々の問題がある。
【特許文献1】特表平5−503499号公報
【特許文献2】特開平8−34607号公報
【特許文献3】特開2003−320245号公報
【特許文献4】特開2004−148166号公報
【特許文献5】特開2003−320245号公報
【非特許文献1】T. Yanagisawa., Bull. Chem. Soc. Jpn., Vol. 63, 988-992 (1990)
【非特許文献2】J. S. Beck et al., J. Am. Chem. Soc., Vol. 114, 10834-10843 (1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、従来、メソポーラスシリカの細孔組織に触媒成分、特に、貴金属を均一に担持させる有効な方法は知られていない。そこで、本発明者らは、上述した活性シリカを用いる方法に着目し、鋭意、研究した結果、活性シリカとカチオン界面活性剤とロジウム前駆体とをアルカリ性領域下、所定の温度で反応させるという比較的温和で実用的な条件下での反応によって、比表面積が大きいメソポーラスシリカにロジウムが均一に担持されてなるロジウム担持メソポーラスシリカを容易に得ることができることを見出して、本発明に至ったものである。従って、本発明は、比表面積が大きいメソポーラスシリカにロジウムが均一に担持されてなるロジウム担持メソポーラスシリカを比較的温和で実用的な条件下での反応によって製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、珪酸ナトリウム水溶液をカチオン交換樹脂と接触させて活性シリカを調製する第1工程、次いで、上記活性シリカとカチオン界面活性剤とロジウム前駆体とをアルカリ性領域で50〜200℃の範囲の温度にて反応させて、ロジウムを含有するシリカとカチオン界面活性剤との複合体を生成させる第2工程、上記複合体を焼成する第3工程をこの順序で行って、平均細孔径が10〜100オングストロームのメソポア組織を有すると共に、BET法による窒素吸着比表面積が500m2/g以上であるメソポーラスシリカにロジウムが担持されてなるロジウム担持メソポーラスシリカを製造する方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
このような本発明の方法によれば、平均細孔径が10〜100オングストロームの範囲にあるメソポア組織を備えていると共に、窒素吸着比表面積が500m2/g以上である多孔質組織にロジウムが均一に担持されているロジウム担持メソポーラスシリカを得ることができる。このようなロジウム担持メソポーラスシリカは、例えば、従来の含浸法によってメソポーラスシリカにロジウムを担持させたものよりも、触媒活性においてすぐれている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明によるロジウム担持メソポーラスシリカの製造方法は、珪酸ナトリウム水溶液をカチオン交換樹脂と接触させて活性シリカを調製する第1工程、次いで、上記活性シリカとカチオン界面活性剤とロジウム前駆体とをアルカリ性領域で50〜200℃の範囲の温度にて反応させて、ロジウムを含有するシリカとカチオン界面活性剤との複合体を生成させる第2工程、上記複合体を焼成する第3工程をこの順序で行うものであり、平均細孔径が10〜100オングストロームのメソポア組織を有すると共に、BET法による窒素吸着比表面積が500m2/g以上であるメソポーラスシリカにロジウムが担持されてなるロジウム担持メソポーラスシリカを得ることができる。
【0014】
本発明の方法において、出発原料として用いる活性シリカは、第1工程において、珪酸ナトリウムを水素イオン型カチオン交換樹脂と接触させることによって、ゾルとして得ることができる。珪酸ナトリウムとしては、通常、SiO2/Na2O モル比2〜4のものが用いられるが、3号珪酸ナトリウムはNa含有量が比較的少ないうえに、安価であるので、本発明において有利に用いられる。また、水素イオン型カチオン交換樹脂としては、例えば、スルホン化ポリスチレンジビニルベンゼン系の強酸性カチオン交換樹脂(ローム&ハース社製「アンバーライトIR−120B」)やカルボキシル化ポリアクリル酸系の弱酸性カチオン交換樹脂(ローム&ハース社製「アンバーライトIRC−76」)等が好ましく用いられる。
【0015】
このように、珪酸ナトリウムを水素イオン型カチオン交換樹脂と接触させることによって、珪酸ナトリウム中のNaイオンを実質的に全て除去して、活性シリカをゾルとして得ることができる。但し、この活性シリカのゾルは、組成的には多くのシラノール基(Si−OH)と共に、珪酸が一部縮合して生じたシロキサン結合(Si−O−Si)を有する珪酸オリゴマー(多くの場合、重合度は11以下)を含み、従って、完全に成長した安定なゾル粒子とは異なり、シラノール基の多い不安定なゾル形態のものである。この活性シリカゾルの性状は、粒子径が3nm以下であり、Sears法によるNaOHの吸着量測定によれば、比表面積2000m2/g以上である。また、活性シリカゾル中のNaOH含有量は0.01重量%以下であり、ゾルは酸性を有し、pHは、通常、2〜5の範囲にある。
【0016】
次いで、第1工程で調製したこの活性シリカを用いて、第2工程において、ロジウムを担持したシリカとカチオン界面活性剤との複合体が調製される。即ち、活性シリカとカチオン界面活性剤と硝酸ロジウムのような水溶性のロジウム前駆体とをアルカリ性領域で所定の温度で反応させて、ロジウムを含有するシリカとカチオン界面活性剤との複合体を生成させ、これを濾過、洗浄及び乾燥すれば、上記複合体を粉末として得る。
【0017】
より詳細には、必要に応じて、pH調整用のアルカリ剤をカチオン界面活性剤に加えて、カチオン界面活性剤のアルカリ性水溶液を調製し、これに上記ロジウム前駆体の水溶液を加え、十分に攪拌混合した後、この水溶液に攪拌下、前記活性シリカを滴下して、活性シリカとカチオン界面活性剤とロジウム前駆体とを所定のアルカリ性領域で反応させて、ロジウムを含有する上記両者の複合体を生成させ、これを分離、洗浄及び乾燥して、粉末として回収する。ロジウム前駆体は、通常、メソポーラスシリカへのロジウムの担持量が0.1〜5重量%となる範囲にて用いられる。
【0018】
上記カチオン界面活性剤としては、好ましくは、第4級アンモニウム化合物又はアルキルアミンハロゲン化水素酸塩が用いられる。第4級アンモニウム化合物は、好ましくは、一般式(I)
[Rn(CH3)4-nN] (I)
(式中、Rは長鎖アルキル基を示し、Xはハロゲン原子又は水酸基を示し、nは1〜3の整数である。)
で表される第4級アンモニウムハライド又は第4級水酸化アンモニウムである。
【0019】
上記一般式(I)で表される第4級アンモニウム化合物において、長鎖アルキル基Rは、炭素数8〜24が好ましい。炭素数が25以上のときは、水に不溶性で扱い難い。また、nは1又は2であることが好ましく、特に、1であることが好ましい。更に、Xがハロゲン原子であるとき、ハロゲン原子は塩素原子又は臭素原子であることが好ましい。
【0020】
従って、本発明によれば、上記一般式(I)で表される第4級アンモニウム化合物は、好ましくは、一般式(II)
[R(CH3)3N] (II)
(式中、R及びXは前記と同じである。)
で表されるアルキルトリメチルアンモニウムハライド又は水酸化アルキルトリメチルアンモニウムである。
【0021】
上記アルキルトリメチルアンモニウムハライドの具体例としては、例えば、オクチルトリメチルアンモニウムクロライド、オクチルトリメチルアンモニウムブロマイド、デシルトリメチルアンモニウムクロライド、デシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロマイド等を挙げることができる。
【0022】
また、水酸化アルキルトリメチルアンモニウムの具体例としては、水酸化オクチルトリメチルアンモニウム、水酸化デシルトリメチルアンモニウム、水酸化ドデシルトリメチルアンモニウム、水酸化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、水酸化オクタデシルトリメチルアンモニウム等を挙げることができる。
【0023】
これら第4級アンモニウム化合物は、単独にて、又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0024】
また、アルキルアミンハロゲン化水素酸塩は、好ましくは、一般式(III)
[RNH3] (III)
(式中、R及びXは前記と同じである。)
で表される。
【0025】
このようなアルキルアミンハロゲン化水素酸塩の具体例として、例えば、トリメチルアミン塩化水素酸塩、トリエチルアミン塩化水素酸塩、トリエチルアミン塩フッ化水素酸塩、2−クロロエチルアミン塩化水素酸塩、3−クロロプロピルアミン塩化水素酸塩、メチルアミン臭化水素酸塩、ドコシルアミン臭化水素酸塩、プロピルアミン臭化水素酸塩等を挙げることができる。
【0026】
本発明においては、カチオン界面活性剤としては、第4級アンモニウム化合物がアルキルアミンハロゲン化水素酸塩よりも塩基度が高く、反応性にすぐれていて、細孔径の均一なメソポーラスシリカを与えることから、第4級アンモニウム化合物が好ましく用いられる。
【0027】
前記pH調整用のアルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、珪酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、第4級アンモニウムシリケート、有機アミン等が用いられるが、特に、水酸化テトラエチルアンモニウムが好ましく用いられる。しかし、本発明において、上記pH調整用のアルカリ剤は、上記例示したものに限定されるものではない。
【0028】
本発明によれば、上記アルカリ性領域下におけるカチオン界面活性剤と活性シリカとロジウム前駆体との反応は、好ましくは、次の方法によって行われる。
(1)必要に応じて、カチオン界面活性剤の水溶液にアルカリ剤を加えて、上記カチオン界面活性剤のアルカリ性水溶液を調製する。
(2)このカチオン界面活性剤のアルカリ性水溶液にロジウム前駆体水溶液を加えて、十分に攪拌する。
(3)次いで、攪拌下に上記(2)で調製した水溶液に活性シリカを滴下して加えて、所定のアルカリ性領域にある混合物を調製する。
(4)上記(3)で得られた混合物を攪拌しながら、50〜200℃の範囲の温度にて反応させる。
【0029】
しかし、アルカリ性領域下におけるカチオン界面活性剤と活性シリカとロジウム前駆体との反応は、ロジウム前駆体及び活性シリカがゲル化せず、均一な複合体が得られるのであれば、上記例示した方法に限定されるものでない。
【0030】
本発明によれば、上記反応によって、ロジウムを担持させたシリカとカチオン界面活性剤とからなる複合体を得るために好適なアルカリ性頷域は、pH値が8〜12の範囲である。このpH範囲において、水系のシリカ分子は円滑に切断され、重合して、均質な構造に再構築される。しかし、pHが12を超えるときは、シリカの溶解度が大きくなるため好ましくない。
【0031】
本発明において、アルカリ性領域下におけるカチオン界面活性剤と活性シリカとロジウム前駆体との反応は、通常、50〜200℃の範囲の温度であり、好ましくは、70〜200℃の範囲の温度であり、特に好ましくは、100℃を超えて、180℃以下の範囲の温度である。活性シリカが極めて高い反応性を有するので、上記反応は、50℃程度の温度においても容易に進行するが、しかし、本発明によれば、好ましくは、特に、オートクレーブのような圧力反応装置を用いて、加圧下に100℃を超えて、200℃以下の範囲の温度にて水熱反応させることによって、ロジウムの担持効果、換言すれば、ロジウムに基づく触媒活性の高いロジウム担持メソポーラスシリカを得ることができる。但し、200℃を超える加圧下に水熱反応させるときは、用いる界面活性剤が分解して、目的とするメソポーラス構造が形成されないので、得られる生成物はBET比表面積が大幅に低下しており、触媒性能も著しく低下する。
【0032】
反応時間は、反応温度にもよるが、熟成時間を含めて、通常、0.5〜3時間の範囲である。例えば、反応温度を150℃とするとき、約3時間以内の反応によって、均一な複合体が得られる。
【0033】
アルカリ性領域下での活性シリカとカチオン界面活性剤との反応において、活性シリカはカチオン界面活性剤と順次に静電的に結合し、接近したシリカ相互間にもシラノール脱水に伴う重合を生じながら、連続した結合組織の前駆体を形成する。この間、ロジウムは酸化ロジウム(Rh23 又はRhO2)の水和化合物として、上記結合組織の前駆体中に均一に分散される。
【0034】
このようにして、アルカリ性領域下での活性シリカとカチオン界面活性剤との反応によって、反応生成物を含むスラリーを得、これを濾過、水洗して、塩素等の余剰イオン種を除去した後、100〜120℃の温度で乾燥して、酸化ロジウムが分散担持されたシリカとカチオン界面活性剤よりなる複合体を固体粉末として得ることができる。
【0035】
次いで、本発明によれば、第3工程として、上記酸化ロジウムを担持した複合体の粉末を焼成し、前記カチオン界面活性剤を除去して、ロジウム担持メソボーラスシリカを得る。本発明によれば、上記酸化ロジウムを担持した複合体の粉体は、先ず、空気雰囲気下で焼成される。この焼成温度は、界面活性剤成分が消失する温度以上、概ね、500℃以上である。このように、500℃を超える温度で焼成することによって、得られたメソポーラスシリカの構造を安定させて、機械的強度を向上させることができる。しかし、1200℃を超える温度で焼成しても、メソポーラス構造の安定化には寄与がない。本発明において、焼成温度は、好ましくは、500〜800℃の範囲である。
【0036】
また、焼成時間は、上記焼成温度にもよるが、通常、10分から2時間程度である。特に、本発明によれば、上記酸化ロジウムを担持した複合体の粉末を500〜800℃の範囲の温度にて1時間以内の時間にわたって焼成することが好ましい。
【0037】
次に、上述したように、酸化ロジウムを担持した複合体の粉体を空気雰囲気下で焼成した後、その焼成物を更に不活性雰囲気又は還元性雰囲気(例えば、水素濃度5%程度)下に300〜500℃の範囲の温度にて1時間以内の時間にわたって焼成し、酸化ロジウムをロジウムに還元して、かくして、ロジウム担持メソポーラスシリカを粉体として得ることができる。
【0038】
例えば、ロジウム担持メソポーラスシリカを触媒成分として表面に有するハニカム構造体を調製する場合であれば、上記酸化ロジウム担持メソポーラスシリカの粉体を適宜の無機バインダーと混合して、水性のウォッシュ・コート用スラリーを調製し、これをハニカム基体に塗布し、乾燥し、次いで、空気中で焼成した後、更に、還元性雰囲気中で焼成することによって、ロジウム担持メソポーラスシリカをハニカム基体に担持させてなるハニカム構造体を得ることができる。
【0039】
このようにして、本発明の方法によって得られるロジウム担持メソポーラスシリカは、平均細孔径が10〜100オングストロームのメソポア組織を備えると共に、BET法による窒素吸着比表面積が500m2/g以上の多孔質組織に0.1〜5重量%の範囲の担持量にてロジウムが均一に担持されている。
【0040】
特に、本発明によれば、触媒として高活性を有するように、BET法による窒素吸着比表面積が600〜900m2/gの範囲にあることが好ましく、650〜850m2/gの範囲にあることが最も好ましい。本発明によれば、BET法による窒素吸着比表面積は、活性シリカとカチオン界面活性剤とロジウム前駆体とを所定のアルカリ性領域で混合、反応させて、ロジウムを担持させたシリカとカチオン界面活性剤の複合体を生成させる際の反応温度やカチオン界面活性剤のアルキル基鎖長やその使用量等を調整することによって制御することができる。
【0041】
このようにして、本発明の方法に従って得られるロジウム担持メソポーラスシリカは、例えば、前述した含浸法によって得られるロジウム担持メソポーラスシリカに比べて、例えば、酸素過剰下での一酸化炭素による窒素酸化物、特に、一酸化窒素の還元反応に高い触媒活性を有する。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。以下において、得られた酸化ロジウム担持メソポーラスシリカの平均細孔径は吸着等温線に基づくBJH法によって求め、また、比表面積はBET法によって求めた。
【0043】
実施例1
3号珪酸ナトリウム34.4g(シリカ換算で10g)をイオン交換水100gで希釈し、これに水素イオン型イオン交換樹脂アンバーライトIR−120Bを350g投入し、5分間に1回程度攪拌して、3時間イオン交換を行った。このようにして、イオン交換した後、濾過して、活性シリカをゾルとして得た。この活性シリカゾルのpHは3.48であった。
【0044】
別に、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド4.0gとヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド16.1gをイオン交換水200gに溶解し、得られた溶液に水酸化テトラエチルアンモニウムの40%水溶液を加えて、pHを13.02に調節した。次いで、この溶液にロジウム基準で0.5重量%の硝酸ロジウム水溶液10gを滴下した。かくして、得られた水溶液のpHは13.00であった。
【0045】
攪拌下、上記カチオン界面活性剤の水溶液に前記活性シリカゾルを滴下し、全量加えて、 上記界面活性剤を含む活性シリカのスラリーを得た。このスラリーを常温で30分間攪拌したとき、スラリーのpHは9.24であった。このスラリーをホットスターラー上に設置したビーカーに入れ、75℃で3時間反応を行った。反応終了後、スラリーを濾過、水洗し、得られた固体を一晩乾燥させた。得られた乾燥物を空気中、500℃で1時間焼成して、ロジウム基準で0.5重量%の酸化ロジウムを担持したメソポーラスシリカを粉体として得た。この粉体の平均細孔径は34オングストロームであり、比表面積は1033m2/gであった。
【0046】
実施例2
実施例1と同様にして、界面活性剤を含む活性シリカゾルのスラリーを得た。このスラリーをポリテトラフルオロエチレン製ビーカーに入れ、オートクレーブ(オーエムラボテック製MMJ−200)中に据え付けた。60rpmにて攪拌しながら、125℃で3時間、水熱反応を行った。反応終了後、スラリーを濾過、水洗し、一晩乾燥させた。得られた乾燥物を空気中、500℃で1時間焼成して、ロジウム基準で0.5重量%の酸化ロジウムを担持したメソポーラスシリカを粉体として得た。この粉体の平均細孔径は33オングストロームであり、比表面積は899m2/gであった。
【0047】
実施例3
実施例2において、150℃で3時間、水熱反応を行った以外は、同様にして、ロジウム基準で0.5重量%の酸化ロジウムを担持したメソポーラスシリカを粉体として得た。この粉体の平均細孔径は33オングストロームであり、比表面積は853m2/gであった。
【0048】
実施例4
実施例2において、170℃で3時間、水熱反応を行った以外は、同様にして、ロジウム基準で0.5重量%の酸化ロジウムを担持したメソポーラスシリカを粉体として得た。この粉体の平均細孔径は34オングストロームであり、比表面積は708m2/gであった。
【0049】
参考例1
実施例2において、250℃で3時間、水熱反応を行った以外は、同様にして、ロジウム基準で0.5重量%の酸化ロジウムを担持したメソポーラスシリカを粉体として得た。
【0050】
参考例2
日本化学工業(株)製メソポーラスシリカ(SILFAM)5gとロジウム基準で0.05重量%の硝酸ロジウム水溶液50gを混合し、ホットスターラー上で攪拌しながら、蒸発乾固させた。一晩乾燥させて、得られた乾固物を空気中、500℃で1時間焼成して、ロジウム基準で0.5重量%の酸化ロジウムを担持したメソポーラスシリカを粉体として得た。
【0051】
参考例3
(ハニカム触媒構造体の調製)
上記実施例1〜4、参考例1及び2で得られた酸化ロジウム担持メソポーラスシリカの粉体をそれぞれ用いて、ハニカム触媒構造体A1〜A4、B1及びB2を調製した。即ち、上記粉体3g、日産化学(株)製アルミナゾル(#520)0.8gと日産化学(株)製シリカゾル(スノーテックスO)0.4gと適量の水を混合した。アルミナボール数gを粉砕媒体として用いて、手で振盪し、凝集した粉体をほぐして、ウォッシュ・コート用スラリーを得た。1平方インチ当りのセル数400のコージーライト製ハニカム基体に上記ウォッシュ・コート用スラリーを塗布し、乾燥させた後、空気中、500℃で1時間焼成し、更に、5容量%の水素と95容量%の窒素からなる気流中、500℃で10分間焼成して、ハニカム基体1L当たりにロジウム担持メソポーラスシリカ触媒100gを有するハニカム触媒構造体を得た。
【0052】
(触媒の窒素酸化物除去性能試験)
100ppmのNO、1ppmのSO2、9%のO2、1.5%のCO及び6%のH2Oからなる窒素酸化物を含む混合ガスを温度250℃、300℃、350℃又は400℃、空間速度50000h-1の条件下に上記ハニカム触媒構造体に接触させて、触媒の窒素酸化物除去性能を調べた。窒素酸化物から窒素への変換率(除去率)は、ガスメット社製FT−IRガス分析計にてNO、NO2 及びN2O の濃度分析を行い、それに基づいて算出した。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪酸ナトリウム水溶液をカチオン交換樹脂と接触させて活性シリカを調製する第1工程、次いで、上記活性シリカとカチオン界面活性剤とロジウム前駆体とをアルカリ性領域で50〜200℃の範囲の温度にて反応させて、ロジウムを含有するシリカとカチオン界面活性剤との複合体を生成させる第2工程、上記複合体を焼成する第3工程をこの順序で行って、平均細孔径が10〜100オングストロームのメソポア組織を有すると共に、BET法による窒素吸着比表面積が500m2/g以上であるメソポーラスシリカにロジウムが担持されてなるロジウム担持メソポーラスシリカを製造する方法。
【請求項2】
活性シリカとカチオン界面活性剤とロジウム前駆体とをアルカリ性領域で100℃を超えて、200℃以下の範囲の温度にて水熱反応させる請求項1に記載のロジウム担持メソポーラスシリカを製造する方法。
【請求項3】
pH8〜12のアルカリ性領域で活性シリカとカチオン界面活性剤とロジウム前駆体とを反応させる請求項1又は2に記載のロジウム担持メソポーラスシリカを製造する方法。
【請求項4】
ロジウムの担持量が0.1〜5重量%の範囲となるようにロジウム前駆体を用いる請求項1に記載のロジウム担持メソポーラスシリカを製造する方法。
【請求項5】
カチオン界面活性剤が一般式(II)
[R(CH3)3N] (II)
(式中、Rは長鎖アルキル基を示し、Xはハロゲン原子又は水酸基を示す。)
で表されるアルキルトリメチルアンモニウムハライド又は水酸化アルキルトリメチルアンモニウムである請求項1に記載のロジウム担持メソポーラスシリカを製造する方法。


【公開番号】特開2009−29684(P2009−29684A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−197276(P2007−197276)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】