説明

ロッドピン抜き取り孔用充填材およびこれを用いる軽量気泡コンクリートパネルの製造方法

【課題】細長いロッドピン抜き取り孔への充填性が優れると共に、ALCパネルと一体化しやすく、更に取り扱いも良好なロッドピン抜き取り孔用充填材およびこれを用いるALCパネルの製造方法を提供する。
【解決手段】補強鉄筋をロッドピンで吊り下げた型枠内に、珪酸質成分、石灰質成分およびアルミニウム粉末を主材とする水性原料スラリーを流し込み、半硬化状態としてからロッドピンを抜き取ると共に脱型させた半硬化体を、補強鉄筋と対応させて切断後、オートクレーブ養生してALCパネルを製造する際に、水性原料スラリーの半硬化状態時にロッドピンの抜き取り孔へ注入する充填材であって、珪素質成分50〜70重量%および石灰質成分30〜50重量%からなる固形成分合計100重量%の主原料に対し、珪砂粉5〜30重量%、炭酸カルシウム5〜60重量%、減水材0.5〜5.0重量%および水45〜70重量%を添加混合してなるロッドピン抜き取り孔用充填材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に建築物の内外壁や天井などの構造体として使用する軽量気泡コンクリートパネル(以下、ALCパネルと呼ぶ)におけるロッドピン抜き取り孔用充填材およびこれを用いるALCパネルの製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、細長いロッドピン抜き取り孔への充填性が優れると共に、ALCパネルと一体化しやすく、更に、充填時の取り扱い性も良好なロッドピン抜き取り孔用充填材およびこれを用いるALCパネルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ALCパネルは、コンクリートに比べて多孔質であるため、軽量性および断熱性が優れており、これらの特性を活かして建築材料、例えば建物の内外壁などの用途に広く使用されている。
【0003】
そして、従来のALCパネルは、図1〜図2に示したように、まず複数枚の補強鉄筋2をロッドピン3で着脱自在に吊り下げて型枠1内に配置し、この型枠内に珪酸質成分、石灰質成分およびアルミニウム粉末を主材とする水性原料スラリー4を流し込み、この水性原料スラリー4を半硬化状態としてから補強鉄筋と分離したロッドピン3を抜き取ると共に脱型させた半硬化体5を、補強鉄筋2と対応させてピアノ線などで、図2の点線に沿って切断した後、これを高温・高圧でオートクレーブ養生することにより製造されていた。
【0004】
すなわち、補強鉄筋2は、通常直径が3〜8mm程度の金属線材を格子状に溶接して籠状に組み合わせたものや、網状のラス網などであり、これはALCパネルの強度を増すための補強材として機能する。また、この補強鉄筋2は、一般に離型剤を塗布したロッドピン3により、型枠1内に着脱自在かつ吊り下げられた状態で配置されていた。
【0005】
しかるに、この補強鉄筋2を吊り下げていたロッドピン3を、半硬化体5から引き抜いた後には、ロッドピン抜き取り孔(以下、単に抜き取り孔という)6が残ることになり、この抜き取り孔6がALCパネルとなった後にも製品表面に空洞のままで存在することとなり、外観品質の面で好ましいとは言えなかった。
【0006】
そのために、従来からロッドピン3を抜き取った後の抜き取り孔6を塞ぎ込む方法が種々検討されてきており、例えば、水性原料スラリー4の流動性が未だに高い段階でロッドピン3を抜き取ることにより、水性原料スラリー4を自崩壊させて抜き取り孔6を埋める方法や、水性原料スラリーが十分に凝固した状態でロッドピンを抜き取った後に、抜き取り孔へスラリー状のモルタルを充填する方法がある。
【0007】
すなわち、前者の方法の代表的な例としては、ロッドピンで吊り下げられた補強鉄筋を型枠内に載置し、この型枠へ水性原料スラリーを流し込んでから30〜50分後にロッドピンを抜き取ることにより、水性原料スラリーの流動性を利用しその自然に崩れる性能で抜き取り孔を充填する方法(例えば、特許文献1参照)が知られている。
【0008】
しかし、この方法では、水性原料スラリーがアルミニウム粉末による発泡(膨張)を生じており、それと共に徐々に流動性が低くなり凝固していくことから、ロッドピンを抜き取るタイミングに著しく厳密な管理が要求されるという問題があった。
つまり、ロッドピンを抜き取るタイミングは水性原料スラリーの発泡がほぼ終了した時点であり、その時点において、補強鉄筋がその自重により落ちない程度の凝固が必要とされる。
そのため、原料の配合量、雰囲気温度の影響、原料の品質変動、スラリー凝固の時間的変動および型枠内での凝固温度の差異などの変動要素を考慮しつつ、ロッドピンを抜き取るタイミングを正確に管理・調整することが必要であった。
従って、この作業の適切な実施は、かなりの熟練が必要であるとともに極めて困難なものであった。
【0009】
また、後者の方法の代表的な例としては、型枠内の水性原料スラリー(モルタル)が半硬化状態になった段階でロッドピンを抜き取り、抜き取った後の抜き取り孔へモルタルと同一種類のスラリーを充填する方法(例えば、特許文献2および3参照)が知られている。
【0010】
しかし、この方法でALCパネルを製造する場合には、水性原料スラリーがセメントや生石灰などの石灰質成分を含んでいることから、充填用スラリーは、その製造直後から水和反応による凝縮や温度上昇を生じるため、混練から充填までの時間が著しく限定される。
また、ALC水性原料スラリーの粘性が比較的高いために、細長い抜き取り孔を隙間なく密に充填することが非常に困難であった。
【0011】
この問題に対しては、ALC水性原料スラリーの代わりに、一般的なALCパネルで使用されている補修材を使用する方策が考えられる。しかし、これらの補修材は流動性に乏しいことから、細長い抜き取り孔の奥底まで密に充填することは困難である。
そのため、減水剤や水などの添加により補修材の流動性を高めたとしても、収縮などにより補修材とALCパネルとの界面で剥離を生じてしまい、ALCパネルとの一体化が困難であるという問題が残されていた。
【特許文献1】特開昭56−159115号公報
【特許文献2】特公昭48− 17532号公報
【特許文献3】実公昭51− 46444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0013】
したがって、本発明の目的は、細長いロッドピン抜き取り孔への充填性が優れると共に、ALCパネルと一体化しやすく、更には取り扱い性も良好なロッドピン抜き取り孔用充填材およびこれを用いるALCパネルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために本発明によれば、複数枚の補強鉄筋をロッドピンで吊り下げて型枠内に配置し、この型枠内に珪酸質成分、石灰質成分およびアルミニウム粉末を主材とする水性原料スラリーを流し込み、この水性原料スラリーを半硬化状態としてから前記ロッドピンを抜き取ると共に脱型させた半硬化体を、前記補強鉄筋と対応させて切断した後、これをオートクレーブ養生することにより軽量気泡コンクリートパネルを製造するに際し、前記水性原料スラリーの半硬化状態時に前記ロッドピンの抜き取り孔へ注入する充填材であって、a)珪酸質成分50〜70重量%および石灰質成分30〜50重量%からなる固形成分合計100重量%の主原料に対し、b)珪石粉5〜30重量%、c)炭酸カルシウム5〜60重量%、d)減水材0.5〜5.0重量%およびe)水45〜70重量%を添加混合してなることを特徴とするロッドピン抜き取り孔用充填材が提供される。
【0015】
なお、本発明のロッドピン抜き取り孔用充填材においては、下記項目がいずれも好ましい条件としてとして挙げられる。
1)前記主原料の少なくとも一部がALCパネルの製造における水性原料スラリーの半 硬化体の解砕物からなること、
2)前記主原料がALCパネルの製造における水性原料スラリーの半硬化体の解砕物の みからなること、
3)前記減水材がポリカルボン酸系化合物またはポリエーテル化合物であること
【0016】
また、本発明のALCパネルの製造方法は、複数枚の補強鉄筋をロッドピンで吊り下げて型枠内に配置し、この型枠内に珪酸質成分、石灰質成分およびアルミニウム粉末を主材とする水性原料スラリーを流し込み、この水性原料スラリーを半硬化状態としてから前記ロッドピンを抜き取ると共に脱型させた半硬化体を、前記補強鉄筋と対応させて切断した後、これをオートクレーブ養生することにより軽量気泡コンクリートパネルを製造するに際し、前記水性原料スラリーの半硬化状態時に、a)珪酸質成分50〜70重量%および石灰質成分30〜50重量%からなる固形成分合計100重量%の主原料に対し、b)珪石粉5〜30重量%、c)炭酸カルシウム5〜60重量%、d)減水材0.5〜5.0重量%およびe)水45〜70重量%を添加混合してなる充填材を、前記ロッドピン抜き取り孔へ注入し、これを硬化させることを特徴とする。
そして、この場合も下記項目が、いずれも好ましい条件としてとして挙げられる。
1)前記主原料の少なくとも一部がALCパネルの製造における水性原料スラリーの半 硬化体の解砕物からなること、
2)前記主原料がALCパネルの製造における水性原料スラリーの半硬化体の解砕物の みからなること、および
3)前記減水材がポリカルボン酸系化合物またはポリエーテル化合物であること
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、以下に説明するとおり、細長いロッドピン抜き取り孔への充填性が優れると共に、ALCパネルと一体化しやすくて充填材とALCパネルとの界面が強固であり、更には取り扱い性も良好なロッドピン抜き取り孔用充填材およびALCパネルを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について、具体的に説明する。
【0019】
本発明のロッドピン抜き取り孔用充填材(以下、充填材と略称する)は、複数枚の補強鉄筋をロッドピンで吊り下げて型枠内に配置し、この型枠内に珪酸質成分、石灰質成分およびアルミニウム粉末を主材とする水性原料スラリーを流し込み、この水性原料スラリーを半硬化状態としてから前記ロッドピンを抜き取ると共に脱型させた半硬化体を、前記補強鉄筋と対応させて切断した後、これをオートクレーブ養生することにより軽量気泡コンクリートパネルを製造するに際し、前記水性原料スラリーの半硬化状態時に前記ロッドピンの抜き取り孔へ注入する充填材であって、a)珪酸質成分50〜70重量%および石灰質成分30〜50重量%からなる固形成分合計100重量%の主原料に対し、b)珪石粉5〜30重量%、c)炭酸カルシウム5〜60重量%、d)減水材0.5〜5.0重量%およびe)水45〜70重量%を添加混合してなることを特徴としている。
【0020】
すなわち、本発明の充填材は、珪酸質成分と石灰質成分とからなる主原料と、珪石粉と、炭酸カルシウムと、減水材と水とを必須な構成成分とするものであり、充填材が半硬化状態の段階でロッドピン抜き取り孔へと注入されて、半硬化体と共にオートクレーブ養生されることにより、半硬化体と同時にトバモライト結晶を生成し、両者が互いに強固に接合して、界面が強固に結合したALCパネル製品を得ることができる。
【0021】
つまり、本発明の充填材は、ALCパネルの原料である水性原料スラリーとほぼ同様の成分からなっているために、オートクレーブ養生により、トバモライト結晶を生成する。加えて、この充填材とALCパネルの界面でも両者が同一成分であることから完全に一体化され、かつトバモライト結晶が界面を跨いで繋がった状態となるため、充填材とALCパネルとの界面での剥離がなく強固な接合が達成されるのである。
【0022】
まず、本発明の充填材におけるa)主原料について説明する。このa)主原料とは、珪酸質成分50〜70重量%および石灰質成分30〜50重量%からなるものであり、ALCパネルを構成する主材とほぼ同様の成分からなるものである。
【0023】
ここでいう珪酸質成分の具体例としては、石英、クリストバライト、珪砂・珪石粉、フライアッシュ、高炉スラグ、シリカフュームなどの二酸化珪素含有化合物の一種または二種以上が挙げられる。
そして、これら珪酸質成分を含有することにより、前述したトバモライト結晶を生成させることが可能となる。
また、この珪酸質成分の主原料中に占める割合は、50〜70重量%とすることが必要であり、50重量%未満では充填材の抜き取り孔への充填性が低下し、70重量%を越えるとトバモライト結晶が生じ難くなるため好ましくない。
【0024】
また、ここでいう石灰質成分の具体例としては、生石灰、消石灰などが挙げられ、これらの石灰質成分を含有する理由は、前述したトバモライト結晶を生成させることと、オートクレーブ養生後の充填材の色合いを調整することにある。
さらには、水和反応の少ないものほど充填材の取り扱い性が優れたものとなることから、なかでも消石灰が好ましく使用される。
製造方法や主材の配合処方により異なるものの、一般的にALCの水性原料スラリーを型枠に流し込んでから約70分以上経過後にロッドピンが抜き取られる。
そして、このロッドピンの抜き取り直後に、ピン抜き取り孔へ充填材スラリーが注入され、水性原料スラリーと半硬化が同時に進行される。
もし、ロッドピンの抜き取り時期が遅れて予め生成された充填材スラリーの注入時期が遅れると、その経過時間が充填材スラリーの水和反応を進行させて粘度をさらに上昇させてしまい、注入された充填材スラリーは抜き取り孔の底部にまで到達し難くなる。
そのため、水和反応が少ない消石灰が好ましく使用されるのである。
これら石灰質成分の主原料中に占める割合は、30〜50重量%とすることが必要であり、30重量%未満ではトバモライト結晶が生じ難くなり、50重量%を越えると充填材の色合い調整が難しくなるため好ましくない。
【0025】
なお、本発明の充填材においては、上記主原料の少なくとも一部または全部を、ALC製造における水性原料スラリーの半硬化体の解砕物(以下、単に解砕物という)と置き換えることが可能である。
ここでいう解砕物とは、ALCパネルの製造から排出されるものであって、一般にクラストと呼ばれているALC製造における水性原料スラリーの半硬化体の切断屑であり、ALCパネルの製造原料と同じ構成成分からなるものである。
そして、この解砕物を使用することにより、切断屑の再利用を図ることが可能となるばかりか、オートクレーブ養生時にこの解砕物が核となって、トバモライト結晶の生成が安定に促進されることになる。
つまり、解砕物は、ALC原料スラリーを型枠に流し込み、これを半硬化体とした後所定の寸法に切断する際に排出され、今までは余剰の半硬化体として廃棄されたり、ALC原料スラリーに添加して再利用されたりしていた。
そこで、これを充填材の主原料として再使用することが可能となるため、ALCパネルの大幅なコストダウンを期待することができるのである。
【0026】
また、充填材の主原料の全てを解砕物で置き換えると、石灰質成分の配合を省略して、解砕物に含まれる石灰質成分のみで主原料を構成することが可能である。しかし、後述するb)珪石粉成分については、解砕物に含まれる珪酸質成分の含有量にかかわらず、その必要量を追添加する必要がある。
【0027】
本発明の充填材は、上記a)主原料の固形成分100重量%に対し、さらにb)珪石粉5〜30重量%、c)炭酸カルシウム5〜60重量%、d)減水材0.5〜5.0重量%およびe)水45〜70重量%を添加混合することにより構成される。
【0028】
ここで用いられるb)珪石粉は、充填材に十分な自重性を与えて、この充填材が細長い抜き取り孔の奥底まで隙間なく充填可能となるように機能する。つまり、この珪石粉は、比重が高いため、充填材における「重り」としての役目を果たし、これを配合することによって充填材の抜き取り孔への充填性が著しく改善されるのである。
すなわち、抜き取り孔は直径が約4〜16mm程度で深さが36〜70cm程度もあり(パネルの厚みが薄い場合でも直径が4〜8mm程度で深さが70cm程度)と細長く、この細長い抜き取り孔の底部深くまで充填材を自重で落下させて、抜き取り孔内に隙間なく充填させるためには、この抜き取り孔の最下部まで充填材が自重で落下するように、充填材のスラリー重量を増加させ、かつスラリー中の材料分離を起こさせない必要がある。
そして、そのために珪石粉を使用することが最適であり、その粉末度は特に限定されないが、他の材料との分離を生じない程度であることが好ましく、プレーン比表面積で1000〜4000cm2/g程度であることが好ましい。
このb)珪石粉の添加量は5〜30重量%とすることが必要であり、さらに、5〜15重量%にするとより好ましい。
添加量が5重量%未満では充填材の充填性の改善効果が不十分であり、逆に30重量%を越えるとトバモライト結晶の生成が阻害される傾向となるため好ましくない。
【0029】
本発明の充填材に添加されるc)炭酸カルシウムは、前記主原料の石灰質成分に含有されるものと同様ではあるが、ここでは充填材とALCパネル本体との色合い調整のために添加される。
すなわち、前記珪石粉はそれ自体が色(薄い灰色など)を有していることがあり、この珪石粉を含有する充填材はALCパネル本体に比べてその珪石粉に近い色調となるため、ALCパネル本体と充填材との間に色差が生じることがある。
そこで、本発明において、白色の炭酸カルシウムを充填材原料に添加しておくことにより、珪石粉が当初持っていた色を薄めてALCパネル本体の色調により近づけるようにした。
これにより、前記の外観不良が改善されて、抜き取り孔に充填された充填材とALCパネル本体とに色差のない外観良好な製品を取得することが可能となる。
この炭酸カルシウムの添加量は5〜60重量%とすることが必要であり、20〜40重量%とすることを好ましい条件とした。
5重量%未満では色差の調整が困難で外観の悪い製品しか得られず、また60重量%を越えるとトバモライト結晶の生成が阻害される傾向となるため好ましくない。
【0030】
本発明の充填材は、その流動性(充填性)を確保するために、さらにd)減水材およびd)水を必須な構成成分として含有する。減水材としては、通常コンクリートモルタル用の減水材として使用されているもの、例えばナフタリンスルフォン酸系化合物、リグニンスルフォン酸系化合物、メラミンスルフォン酸系化合物、ポリカルボン酸系化合物およびポリエーテル化合物などを使用することができる。
その中で、少量の添加で有効な減水効果が得られる点では、ポリカルボン酸系化合物およびポリエーテル化合物の使用が好ましい。これら減水材の添加量は、0.5〜5.0重量%とすることが必要である。
0.5重量%未満では充填材のスラリー粘性が高くて充填性が不十分であり、5.0重量%を越えると、逆にスラリー粘性が低下して固形成分と水との分離が生じるため好ましくない。
【0031】
本発明の充填材が含有するe)水の量は、充填材スラリーの粘性および抜き取り孔へ注入された後の充填材の凝固速度に応じて決められる。
すなわち、注入された充填材は抜き取り孔を下降していくとともに、原料スラリーの半硬化体へその水分が徐々に吸収されて、充填材自体が凝固することになる。
また、この吸水挙動は、ALCパネル自体の配合処方や製造方法、さらにはロッドピンを引き抜くタイミングなどによっても異なることになる。
そこで、これらの点を考慮して、本発明の充填材が含有する水の量は、45〜70重量%とすることが必要であり、さらに、45〜60重量%を好ましい条件とした。
40重量%未満では充填材のスラリー粘性が高くて充填性が不十分となる。
また、十分に充填されたとしてもALC半硬化体への吸水により充填材の水量が不足がちとなり、いわゆるドライアウトを招く結果となり、充填材と抜き取り孔との界面付着性が低下してしまうようになる。
また、70重量%を越えると、逆にスラリー粘性が低下して固形成分と水との分離が生じるばかりか、充填されたとしても充填材の水分が多過ぎて凝固し難くなる。
さらに、オートクレーブ養生において、充填材の水分が蒸気の侵入を妨げて充填材自身の養生を不十分なものとし、その結果、トバモライト結晶が形成されなくなるため好ましくない。
【0032】
本発明の充填材は、上記a)〜e)成分以外にも、必要に応じて凝固遅延剤および凝固促進剤などの他の添加剤を含有することができる。前記凝固遅延剤としては、クエン酸ナトリウムや酒石酸などが例示され、また前記凝固促進剤としては、明礬を主成分とする硬化促進剤が例示される。
【0033】
本発明の充填材は、上記a)〜e)成分の所定量を混合することにより、スラリー状として調整される。この充填材スラリーの粘度は、B型粘度計で測定した粘度で200〜500Pa・sの範囲であることが好ましく、この粘度範囲であれば、抜き取り孔への充填性が極めて良好である。
そして、本発明の充填材は、スラリーとして調整されるため、製造工程でのトラブルへも容易に対応可能であり、取り扱い性にも優れている。
【0034】
次に、本発明の充填材を用いたALCパネルの製造方法について説明する。
この製造方法は、図1〜2をもとに上述した方法と基本的に同一である。すなわち、まず複数枚の補強鉄筋2をロッドピン3で着脱自在に吊り下げて型枠1内に配置し、この型枠内に珪酸質成分、石灰質成分およびアルミニウム粉末を主材とする水性原料スラリー4を流し込み、この水性原料スラリー4を半硬化状態としてから補強鉄筋と分離したロッドピン3を抜き取ると共に脱型させた半硬化体5を、補強鉄筋2と対応させてピアノ線などにより、図2の点線に沿って切断する。
この際に、補強鉄筋2を吊り下げていたロッドピン3を、半硬化体5から引き抜いた後に残った抜き取り孔6に対し、本発明の充填材をドレイン・ホースなどを用いて注入するが、この充填材は充填性および取り扱い性に優れるため、充填材が抜き取り孔の奥底深くまで満遍なく充填される。
そして、半硬化体5を、補強鉄筋2と対応させてピアノ線などで切断した後、これを高温・高圧でオートクレーブ養生することにより、目的とするALCパネルを得ることができる。
なお、上記の製造方法において、充填材を注入するタイミングとしては、ロッドピンを抜き取ってから半硬化体をオートクレーブ養生するまでの間が好ましく、ロッドピンを抜き取ってから半硬化体を切断するまでの間であることがさらに好ましい。
つまり、オートクレーブ養生の前までの間に半硬化体の抜き取り孔へ充填材を注入することにより、充填材もまたALC半硬化体と共に養生されてトバモライト結晶を生成することになり、両者の界面結合がより強固となるからである。
また、半硬化体を切断した後の抜き取り孔に充填材を注入すると、充填材が抜き取り孔以外の部分へ溢れ出てしまうこともあり、その結果として、切断したALC半硬化体同士の隙間へと流れ込んでしまう怖れがある。
また、ALCパネルを構成する水性原料スラリーが未だに流動性がある時点、つまり半硬化体となる以前の段階でロッドピンを抜き取り、この時に形成された抜き取り孔へ充填材を注入すると、水性原料スラリーの流動性により抜き取り孔の形状が維持されず歪んでしまい、充填材が抜き取り孔の最下部までスムーズに充填できないため推奨できない。
【0035】
このようにして得られたALCパネルは、ALCパネル本体と充填材とがほぼ同一成分からなるため、充填材と抜き取り孔との界面剥離を生じることがなく、一体性が極めて優れているばかりか、ALCパネル本体と抜き取り孔に充填された充填材との色調変化が少なく外観が極めて優れかつ安定したものである。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳述する。
【0037】
なお、実施例における各特性の評価は次の方法により実施した。
【0038】
[充填性(粘度)]
充填材スラリーの粘度をB型粘度計により測定した。
(粘度200〜500Pa・sのものを充填性良好と判断)
【0039】
[充填性(目視チェック)]
得られたALCパネルを抜き取り孔の充填部分に沿って切断し、充填材の充填具合を目視チェックして、次の三段階で評価した。
◎ 抜き取り孔の最下部まで充填材の充填率が95%以上、
○ 抜き取り孔の最下部まで充填材の充填率が90%以上95%未満
× 抜き取り孔の最下部まで充填材の充填率が90%未満
【0040】
[トバモライトピークの有無]
オートクレーブ後の充填材の一部をサンプリングして、それを105℃で絶乾状態となるまで乾燥機で乾燥させて試材を得る。そして、その試材を乳鉢を用いて粉末化させたのち、その粉体をX線回析によりトバモライトのピークの有無を測定した。
【0041】
[境界面剥離]
得られたALCパネルを抜き取り孔の充填部分に沿って切断し、抜き取り孔と充填材との界面の具合を目視チェックして、界面での剥離のないものを「良好」と評価した。
【0042】
[色の差]
ALCパネル表面の色と充填材を充填した抜き取り孔部分の色とを目視で比較対照し、色差が全くないものを◎、色差が著しいものを×と評価した。
【0043】
[実施例1〜6]
主原料として珪酸質成分(珪砂)、石灰質成分(消石灰、セメント)、クラスト、および、添加する原料として、珪石粉、炭酸カルシウム、減水材、そして、水を表1に示した割合で混合することにより、スラリー状の充填材を調製した。
なお、減水材は、有効固形成分が40%のポリカルボン酸系のポイズ530(花王株式会社製)を使用した。
【0044】
一方、珪砂60重量%、生石灰24重量%、セメント10重量%、石膏6重量%から成る固形成分にアルミニウム粉0.06重量%を添加して、さらに、水68重量%を加えた原料スラリーを、複数枚の補強鉄筋をロッドピンで吊り下げた型枠に注入し、半硬化体となした2時間30分後に、ロッドピンを半硬化体から抜き取った。
ロッドピンを抜き取った後に生じた直径6mm、深さ700mmの抜き取り孔へドレイン・ホースを用いて、上記各充填材を注入し、7分間経過後に型枠から脱型した半硬化体を、補強鉄筋に沿ってピアノ線により切断し、この切断した半硬化体をオートクレーブ釜内に搬送して180℃、10気圧の条件下で5時間養生することにより、長さ1800mm、幅600mm、厚み50mmのALCパネルを得た。得られたALCパネルについて各特性を評価した結果を表3に示した。
【0045】
[実施例7〜12]
実施例1〜6において使用した各成分の一部または全部を、下記成分組成からなるALCパネルの製造における水性原料スラリーの半硬化体の解砕物(以下、クラストと呼ぶ)に置き換え、他は表1記載の割合で混合することにより調製したスラリー状の充填材を使用した以外は、実施例1〜6と同様にしてALCパネルを製造し、それらを評価した結果を表3に示した。
【0046】
(クラスト成分内容)
珪砂(α2)=50〜70重量%
消石灰(β2):セメント(γ2)=30〜50重量%(1:0.5〜2.0)
【0047】
[比較例1〜12]
実施例で使用したものと同じ珪砂、生石灰、セメント、珪石粉、炭酸カルシウム、減水材、クラストおよび水を、表2に示した割合で混合することにより、スラリー状の充填材を調製した。
これらの充填材を使用した以外は、実施例1〜6と同様にしてALCパネルを製造し、それらを評価した結果を表に示した。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【0052】
表1の結果から明らかなように、本発明の充填材(実施例1〜12)は、ロッドピン抜き取り孔への充填性が優れると共に、ALCパネルと一体化しやすくて充填材とALCパネルとの界面が強固であり、更には取り扱い性も良好で、性能の優れたALCパネルを与えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上説明したように、本発明の充填材は、ロッドピン抜き取り孔への充填性が優れると共に、ALCパネルと一体化しやすくて充填材とALCパネルとの界面が強固であり、更には取り扱い性も良好で、性能の優れたALCパネルを与えることができる。
そして、本発明で得られたALCパネルは、その優れた性能を活かして、建築物の内外壁や天井などの構造体として有効に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】型枠内において、ロッドピンによって補強鉄筋が吊り下げられた状態を示す正面図。
【図2】同じく、ロッドピンの抜き取り孔が残ったALC半硬化体の斜視図。
【符号の説明】
【0055】
1 型枠
2 補強鉄筋
3 ロッドピン
4 水性原料スラリー
5 ALC半硬化体
6 抜き取り孔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の補強鉄筋をロッドピンで吊り下げて型枠内に配置し、この型枠内に珪酸質成分、石灰質成分およびアルミニウム粉末を主材とする水性原料スラリーを流し込み、この水性原料スラリーを半硬化状態としてから前記ロッドピンを抜き取ると共に脱型させた半硬化体を、前記補強鉄筋と対応させて切断した後、これをオートクレーブ養生することにより軽量気泡コンクリートパネルを製造するに際し、前記水性原料スラリーの半硬化状態時に前記ロッドピンの抜き取り孔へ注入する充填材であって、a)珪酸質成分50〜70重量%および石灰質成分30〜50重量%からなる固形成分合計100重量%の主原料に対し、b)珪石粉5〜30重量%、c)炭酸カルシウム5〜60重量%、d)減水材0.5〜5.0重量%およびe)水45〜70重量%を添加混合してなることを特徴とするロッドピン抜き取り孔用充填材。
【請求項2】
前記主原料の少なくとも一部が、軽量気泡コンクリートパネルの製造における水性原料スラリーの半硬化体の解砕物からなることを特徴とする請求項1記載のロッドピン抜き取り孔用充填材。
【請求項3】
前記主原料が、軽量気泡コンクリートパネルの製造における水性原料スラリーの半硬化体の解砕物のみからなることを特徴とする請求項1記載のロッドピン抜き取り孔用充填材。
【請求項4】
前記減水材が、ポリカルボン酸系化合物またはポリエーテル化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のロッドピン抜き取り孔用充填材。
【請求項5】
複数枚の補強鉄筋をロッドピンで吊り下げて型枠内に配置し、この型枠内に珪酸質成分、石灰質成分およびアルミニウム粉末を主材とする水性原料スラリーを流し込み、この水性原料スラリーを半硬化状態としてから前記ロッドピンを抜き取ると共に脱型させた半硬化体を、前記補強鉄筋と対応させて切断した後、これをオートクレーブ養生することにより軽量気泡コンクリートパネルを製造するに際し、前記水性原料スラリーの半硬化状態時に、a)珪酸質成分50〜70重量%および石灰質成分30〜50重量%からなる固形成分合計100重量%の主原料に対し、b)珪石粉5〜30重量%、c)炭酸カルシウム5〜60重量%、d)減水材0.5〜5.0重量%およびe)水45〜70重量%を添加混合してなる充填材を、前記ロッドピン抜き取り孔へ注入し、これを硬化させることを特徴とする軽量気泡コンクリートパネルの製造方法。
【請求項6】
前記主原料の少なくとも一部が、軽量気泡コンクリートパネルの製造における水性原料スラリーの半硬化体の解砕物からなることを特徴とする請求項5記載の軽量気泡コンクリートパネルの製造方法。
【請求項7】
前記主原料が、軽量気泡コンクリートパネルの製造における水性原料スラリーの半硬化体の解砕物のみからなることを特徴とする請求項5記載の軽量気泡コンクリートパネルの製造方法。
【請求項8】
前記減水材が、ポリカルボン酸系化合物またはポリエーテル化合物であることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項記載の軽量気泡コンクリートパネルの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−58998(P2010−58998A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224260(P2008−224260)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(000185949)クリオン株式会社 (105)
【Fターム(参考)】