説明

ロボットアームの姿勢保持構造

【課題】ブレーキ機構や減速機構を備えていない関節部の姿勢を保持不能な小型駆動手段を採用しつつ、関節部の姿勢保持が可能なロボットアームの姿勢保持構造を提供する。
【解決手段】一方のアーム部16,18に対して上下方向へ回転し得るよう他方のアーム部18,20が連結された関節部24,26を備えたロボットアームにおいて、関節部24,26は、通電時には両アーム部16,18/18,20の相対位置を保持可能で、非通電時には両アーム部16,18/18,20の相対位置を保持不能な小型駆動手段34により駆動すると共に、関節部22,24,26を構成する両アーム部16,18/18,20は、駆動手段34による両アーム部16,18/18,20の姿勢変化に伴って可撓変形すると共に駆動手段34への通電停止時では当該通電停止時での姿勢を維持する可撓性部材32で連結するよう構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1アーム部に対して上下方向へ回転し得るよう第2アーム部が連結された関節部を備えるロボットアームの姿勢保持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上肢を自分の意思に従って自由に動かせない高齢者や身体障害者等のために、自力で食事動作やその他の日常生活動作等を行なえるように上肢の動きを補助する装置が知られている(例えば特許文献1)。この特許文献1に記載された上肢動作補助装置では、台等にロボットアームの基端部が接続された本体を固定して安定性を高めつつ、該ロボットアームの自由端部側に設けた装具を被補助者の上肢に装着して、被補助者が動いた際に装具に加えられた力情報に基づいて自由端部を移動させることにより、上肢動作を補助するよう構成されている。
【特許文献1】特開平11−253504号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前述した上肢動作補助装置では、被補助者の動きに追従してロボットアームが三次元的に移動することが要求される。このような移動の自由度の高いロボットアームでは、上肢動作補助装置を使用しない場合には通常はロボットアームを所定の支持具等で支持した状態で保管されている。しかしながら、ロボットアームの移動の自由度を高くすると、使用中に停電が発生したり非常停止操作された場合には、該ロボットアームの自重により関節部で屈曲して崩れ落ちるようにアーム部が落下する可能性がある。このような関節部の屈曲動作を防止するため、関節部を駆動する駆動手段としてブレーキ機構を備えたモータを採用したり減速機構を設けることにより、関節部の姿勢を保持することが一般的に行なわれる。しかしながら、ブレーキ機構を備えたモータや減速機構を採用した場合には、装置の大型化、重量化を招来する問題がある。一方で、装置の小型化、軽量化するにはロボットアームを小型化する必要があるものの、ブレーキ機構や減速機構が必要とされる関係上、装置の小型化や軽量化には限界があった。
【0004】
そこで、本発明は、ブレーキ機構や減速機構を備えていない関節部の姿勢を保持不能な小型駆動手段を採用しつつ、関節部の姿勢保持が可能なロボットアームの姿勢保持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するために、本願の請求項1に係るロボットアームの姿勢保持構造は、
一方のアーム部(14,16,18)に対して上下方向へ回転し得るよう他方のアーム部(16,18,20)が連結された関節部(22,24,26)を備えたロボットアーム(12)の姿勢保持構造であって、
前記関節部(22,24,26)は、通電時には前記両アーム部(14,16/16,18/18,20)の相対位置を保持可能で、非通電時には両アーム部(14,16/16,18/18,20)の相対位置を保持不能な小型駆動手段(34)により駆動されると共に、
前記関節部(22,24,26)を構成する両アーム部(14,16/16,18/18,20)は、前記駆動手段(34)による両アーム部(14,16/16,18/18,20)の姿勢変化に伴って可撓変形すると共に駆動手段(34)への通電停止時では当該通電停止時での姿勢を維持する可撓性部材(32)で連結されたことを要旨とする。
【0006】
請求項2に係るロボットアームの姿勢保持構造は、前記ロボットアームは、前記関節部を複数箇所に備えた多関節アーム(12)であって、前記各関節部(22,24,26)を構成するアーム部(14,16/16,18/18,20)を前記可撓性部材(32)で連結したことを要旨とする。
【0007】
このように、ロボットアームにおける関節部を構成する2つのアーム部を可撓性部材で連結したことで、駆動手段への通電停止時においては当該通電停止時でのアーム部の相対的な姿勢を可撓性部材が維持できる。従って、関節部を構成するアーム部を駆動する駆動手段として、ブレーキ機構や減速機構を備えていないものを採用した場合であっても、通電停止時にロボットアームが関節部で屈曲してアーム部が崩れ落ちることはない。また、駆動手段としてブレーキ機構や減速機構を備えていない小型のものを採用できるから、装置の小型化、軽量化を実現できる。更に、ロボットアームとして移動の自由度の高い多関節アームを採用した場合でも、その関節部を構成するアーム部を可撓性部材で連結することで、通電停止時でも多関節アームの姿勢を保持できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るロボットアームの姿勢保持構造によれば、ブレーキ機構や減速機を有しない小型駆動手段を採用した場合であっても、可撓性部材によりロボットアームの関節部分の姿勢を保持し得るから、通電停止時にロボットアームの姿勢を保持でき、装置の小型化、軽量化を実現し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係るロボットアームの姿勢保持構造につき好適な実施例を挙げて、添付図面を参照しながら、以下詳細に説明する。
【実施例】
【0010】
図1は、実施例に係るロボットアームの姿勢保持構造を採用した上肢動作補助装置10を示す斜視図である。図1に示すように、実施例に係る上肢動作補助装置10は、設置台TA上に固定された多関節アーム12(ロボットアーム)の自由端部側に、補助器具(図示省略)を設けるよう構成されている。ここで、前記補助器具は、被補助者に対する動作の補助目的に合わせた器具であり、図1にはスプーンが示されている。なお、補助器具としてはスプーンに限られず、フォークや、歯ブラシ、筆記用具等であってもよい。また、前記設置台TAには、前記多関節アーム12を駆動制御する制御装置や電源装置等が収容されている。なお、前記多関節アーム12を設置する設置台TAとしては、例えば、机や作業台が挙げられる。また、前記多関節アーム12を設置台TAに固定的に設置する構成に限らず、設置台TAに対して載置される移動可能な装置本体を設けて、該装置本体に多関節アーム12を設けるようにしてもよい。
【0011】
前記多関節アーム12は、図1に示すように、前記設置台TA上に配設されて鉛直方向に回転軸が延在し、水平方向に回転される第1アーム部14と、該第1アーム部14の上方側端部に対して第1関節部22を介して回転可能に連結された第2アーム部16と、該第2アーム部16の他方の端部に対して第2関節部24を介して回転可能に連結された第3アーム部18と、該第3アーム部18の他方の端部に対して第3関節部26を介して回転可能に連結された第4アーム部20とを備えており、該第4アーム部20の自由端部側に、前記制御装置に接続された力覚センサ40が配設されると共に、前記補助器具が配設されている。すなわち、被補助者が補助器具を移動させた際の力を力覚センサ40が検出し、該力覚センサ40の検出に基づいて制御装置が後述する駆動モータを駆動して多関節アーム12を動作させるよう構成される。なお、前記各アーム部はカバー部材28で覆われて、内部構造を外部から目視し得ないようになっている。
【0012】
前記各関節部22,24,26には、図2に示すように、一方のアーム部に対して、各関節部22,24,26で連結される2つのアーム部14,16/16,18/18,20の延在方向と直交する方向に回転軸が延在する第1の駆動モータ(小型駆動手段)34が配設されると共に、該第1の駆動モータ34の回転軸に他方のアーム部に設けた連結具30が連結されており、当該第1の駆動モータ34の駆動により、連結された2つのアーム部14,16/16,18/18,20が屈曲動作するようになっている。なお、図2では、第2アーム部16、第3アーム部18および第4アーム部20を連結する第2関節部24および第3関節部26を示すが、第1アーム部14と第2アーム部16とを連結する第1関節部22も同様に構成されている。ここで、前記第1の駆動モータ34としては、ブレーキ機構や減速機構を備えておらず、非通電時には連結された2つのアーム部の相対位置を保持不能な小型サーボモータや小型パルスモータ等の駆動手段が採用される。
【0013】
また、前記各関節部22,24,26は、前記第1の駆動モータ34のケーシング36と、前記連結具30とを、可撓変形可能な可撓性部材32で連結している。この可撓性部材32としては、例えばステンレス製の薄いパイプに波付加工し、外装にステンレスのワイヤーを編み込んだホース状のもので、曲げたままの状態を保持可能なスタンドチューブ等と称されるフレキシブルチューブが採用される。そして、前記各可撓性部材32の長さは、対応する各関節部22,24,26において連結された2つのアーム部14,16/16,18/18,20が必要な範囲で屈曲動作し得る長さに設定されて、図1または図3(a)に示すように、常には湾曲した状態で2つのアーム部14,16/16,18/18,20に連結されている。すなわち、各関節部22,24,26において連結された2つのアーム部14,16/16,18/18,20は、前記第1の駆動モータ34による両アーム部14,16/16,18/18,20の角度変化に伴って可撓性部材32が可撓変形し、第1の駆動モータ34への通電停止時では当該通電停止時での両アーム部14,16/16,18/18,20の相対的な姿勢を可撓性部材32が保持するよう構成されている。
【0014】
また、前記第1〜第4アーム部14,16,18,20の夫々は、図2に示すように、前記連結具30に対して第2の駆動モータ38が固定されている。この第2の駆動モータ38は、対応するアーム部の長手方向に沿って回転軸が延在するよう配設されると共に、該第2の駆動モータ38の駆動により回転される軸部39の端部が、前記第1の駆動モータ34を支持する支持具31に連結されている。すなわち、前記第2の駆動モータ38の駆動により、各アーム部は、軸部39を中心として回転し得るようになっている。そして、前記第1および第2の駆動モータ34,38の夫々が前記制御装置に接続されており、制御装置からの制御信号に基づいて各モータ34,38を独立して駆動させ得るようになっている。すなわち、各第1および第2の駆動モータ34,38の夫々を駆動することで、自由端部(補助器具)が三次元移動されるようになっている。また、前記上肢動作補助装置10は、前記第1および第2の駆動モータ34,38への電源供給を停止する非常停止釦(図示せず)が設けられており、緊急時等に非常停止釦を操作することで、上肢動作補助装置10の動作を停止させ得るようになっている。
【0015】
次に、前述のように構成した実施例に係るロボットアームの姿勢保持構造の作用につき説明する。前記上肢動作補助装置10は、多関節アーム12の自由端部側に設けた補助器具を被補助者が把持して動かした際に、該多関節アーム12の自由端部に設けた力覚センサ40で当該被補助者の動作を検知して第1および第2の駆動モータ34,38を駆動制御し、被補助者の動作意図に基づいて補助器具が移動するよう多関節アーム12を動作させる。すなわち、被補助者に自己の意思により動作している感覚を与えることで、被補助者の自発的な動作が促され、高いリハビリ効果が期待できる。
【0016】
また、前記上肢動作補助装置10の動作時に、停電の発生や装置の故障、その他非常停止釦の操作があった場合には、前記第1の駆動モータ34への電源供給が停止する。このとき、前記多関節アーム12における各関節部22,24,26に設けた可撓性部材32が、各関節部22,24,26を構成する2つのアーム部14,16/16,18/18,20に連結されているから、該通電停止時点での両アーム部14,16/16,18/18,20の相対的な姿勢が可撓性部材32で保持される(図3(b)参照)。従って、急な電源供給停止時であっても、多関節アーム12のアーム部14,16/16,18/18,20が自重で落下するように関節部22,24,26が屈曲することはなく、各アーム部14,16/16,18/18,20が設置台TA等に接触して損傷するのを防止し得る。また、身体障害者や高齢者等のように自己意思に基づいて自由な動作を行なうのが困難な者が前記上肢動作補助装置10を使用している場合であっても、停電等で電源供給の停止が急に起きたとしても多関節アーム12がその姿勢で保持されるから、被補助者に対して急な回避動作が求められず、被補助者が安心感を持って装置を使用することができる。
【0017】
また、前述のように、各関節部22,24,26を構成する2つのアーム部14,16/16,18/18,20を、可撓性部材32で連結するだけの簡単な構成で姿勢を保持し得るから、装置の製造コストを抑制できる。更に、各関節部22,24,26を屈曲動作させる駆動モータ34として、ブレーキ機構や減速機構を備えていない小型の駆動モータを採用できるから、装置全体の小型化、軽量化を図り得ると共に、装置を小型化、軽量化することで、該多関節アーム12を移動可能な装置本体に設けることで、装置自体の移動を簡単に行なうことができ、装置利用の幅が格段に拡がり、被補助者の利便性向上に寄与し得る。例えば、リハビリ施設と自宅との間で移動させて使用することで、被補助者の都合に合わせて自由にリハビリを行なうことが可能となる。
【0018】
なお、実施例に係るロボットアームの姿勢保持構造は、前述した構成に限られず種々の変更が可能である。例えば、実施例では、複数の関節部を有する多関節アームに対して本発明に係る姿勢保持構造を採用したが、関節部を1つ備えたロボットアームに対しても採用し得ることは当然である。また、関節部の構成は、実施例に示したものに限られず、2つのアーム部を屈曲動作し得るよう回転可能に連結した構成とすればよい。また、2つのアーム部に対する可撓性部材の連結位置は、実施例のものに限られず、関節部を挟む2つのアーム部に対して可撓性部材を連結するよう構成すればよい。なお、実施例では、被補助者の上肢動作を補助可能な上肢動作補助装置に本発明に係る姿勢保持構造を採用した例を示したが、これに限られるものではなく、関節部を有するロボットアーム全般に対して採用することができる。すなわち、例えば産業用ロボットや医療用ロボットのように、アーム部をモータの駆動力で屈曲動作させるロボットアームの関節部に対して、本発明に係る姿勢保持構造を採用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例に係る姿勢保持構造を採用した上肢動作補助装置を示す斜視図である。
【図2】実施例に係る姿勢保持構造を示す斜視図である。
【図3】実施例に係る多関節アームの第3関節部が屈曲動作する状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0020】
12 多関節アーム(ロボットアーム)
14 第1アーム部(アーム部)
16 第2アーム部(アーム部)
18 第3アーム部(アーム部)
20 第4アーム部(アーム部)
22 第1関節部(関節部)
24 第2関節部(関節部)
26 第3関節部(関節部)
32 可撓性部材
34 第1の駆動モータ(小型駆動手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方のアーム部に対して上下方向へ回転し得るよう他方のアーム部が連結された関節部を備えたロボットアームの姿勢保持構造であって、
前記関節部は、通電時には前記両アーム部の相対位置を保持可能で、非通電時には両アーム部の相対位置を保持不能な小型駆動手段により駆動されると共に、
前記関節部を構成する両アーム部は、前記駆動手段による両アーム部の姿勢変化に伴って可撓変形すると共に駆動手段への通電停止時では当該通電停止時での姿勢を維持する可撓性部材で連結された
ことを特徴とするロボットアームの姿勢保持構造。
【請求項2】
前記ロボットアームは、前記関節部を複数箇所に備えた多関節アームであって、前記各関節部を構成するアーム部を前記可撓性部材で連結した請求項1記載のロボットアームの姿勢保持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−226566(P2009−226566A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78031(P2008−78031)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16〜20年度、文部科学省、地域科学技術振興施策、委託研究(知的クラスター創成事業、岐阜・大垣地域ロボティック先端医療クラスター)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【出願人】(508090376)リーフ株式会社 (3)
【Fターム(参考)】