説明

ロボットアーム操作システムおよびその操作方法

【課題】ロボットアームの操作に当たり、安全、確実かつ容易に障害物を回避する。
【解決手段】ロボットアーム操作システムは、リアルタイムで受信した操縦指令値に基づいてロボットアーム2を操縦する遠隔操縦部1と、障害物の3次元形状モデルを含む環境データを保存する環境データ保存部4と、障害物との距離が近いほど斥力ベクトルが大きくなるように仮想的な斥力ベクトル場を設定する斥力ベクトル場生成処理部5と、斥力ベクトル場を利用してロボットアームに対して障害物から遠ざかる方向への仮想的な斥力を算出する仮想力生成処理部6と、仮想力生成処理部6により算出された仮想的な斥力と遠隔操縦部1からの操縦指令値とを組み合わせてロボットアームへの動作指令値を生成するロボットコントローラ3と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットアームの遠隔操作時に周辺の障害物などとロボットアームが接触しないように操作を支援する機能を有するロボットアーム操作システムおよびその操作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原子力廃棄物の再処理施設や宇宙空間での作業に用いられるロボットアームにはマスタースレーブ方式やジョイスティックなどの操縦桿を用いた遠隔操縦が行われている。通常の遠隔操縦では、操作者がロボットアームを周囲の障害物との接触を回避しつつ目標位置へ動作させるために、ロボットアームの状況をカメラ画像により把握しながら遠隔で操作する。
【0003】
しかしながら、カメラ画像の情報だけでは、奥行きが不明確であったり照明の影響で影となる部分や構造物の死角があるなどの理由で、慎重な操作が必要とされ操作者へ過大な負荷がかかるとともに作業時間の増大へと繋がっていた。このような背景からこれまでに、仮想環境の画像と実画像を合成して表示画面に呈示することで死角を低減する方法(特許文献1参照)や、仮想環境上に仮想ガイドを設けることでピン挿入作業など穴中心にロボットアームを誘導することができる支援方法(特許文献2参照)などの操作支援技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3924495号公報
【特許文献2】特許第2621803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記の操作支援技術では、ロボットアームが複数の障害物を回避した複雑な姿勢を取らせている状況で何らかのエラーにより停止した場合、ロボットアームの状況を認識できたとしても、ロボットアームを初期姿勢に戻すよう操作することは困難である。また障害物を回避するという毎回異なる状況に対して仮想ガイドを設定することは容易ではない。
【0006】
上述した課題に鑑み、本発明の目的は、ロボットアームの操作に当たり、安全、確実かつ容易に障害物を回避することができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るロボットアーム操作システムの一つの態様は、ロボットアームに対して遠隔からリアルタイムで受信した操縦指令値に基づいて前記ロボットアームを操縦する遠隔操縦部と、前記ロボットアームが動作可能な作業環境内にあって前記ロボットアームの動作の障害となりうる障害物の3次元形状モデルを含む環境データを保存する環境データ保存部と、前記作業環境内で前記障害物との距離が近いほど斥力ベクトルが大きくなるように仮想的な斥力ベクトル場を設定する斥力ベクトル場生成処理部と、前記斥力ベクトル場を利用して前記ロボットアームに対して前記障害物から遠ざかる方向への仮想的な斥力を算出する仮想力生成処理部と、前記仮想力生成処理部により算出された仮想的な斥力と前記遠隔操縦部からの操縦指令値とを組み合わせて前記ロボットアームへの動作指令値を生成するロボットコントローラと、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明に係るロボットアーム操作システムの他の一つの態様は、ロボットアームに対して遠隔からリアルタイムで受信した操縦指令値に基づいて前記ロボットアームを操縦する遠隔操縦部と、前記ロボットアームの複数個所に取り付けられて、前記ロボットアームが動作可能な作業環境内にあって前記ロボットアームの動作の障害となりうる障害物との距離を検出する複数の距離センサと、前記距離センサによって検出された距離に基づいて、前記ロボットアームに対して前記障害物から遠ざかる方向への仮想的な斥力を算出する仮想力生成処理部と、前記仮想力生成処理部によって算出された仮想的な斥力と前記遠隔操縦部からの操縦指令値とを組み合わせて前記ロボットアームへの動作指令値を生成するロボットコントローラと、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明に係るロボットアーム操作方法の一つの態様は、ロボットアームを遠隔から操作するロボットアーム操作方法において、前記ロボットアームを操縦する操縦指令値をリアルタイムで受信する操縦指令値受信ステップと、前記ロボットアームが動作可能な作業環境内にあって前記ロボットアームの動作の障害となりうる障害物の3次元形状モデルを含む環境データを保存する環境データ保存ステップと、前記作業環境内で前記障害物との距離が近いほど斥力ベクトルが大きくなるように仮想的な斥力ベクトル場を設定する斥力ベクトル場生成ステップと、前記斥力ベクトル場を利用して前記ロボットアームに対して前記障害物から遠ざかる方向への仮想的な斥力を算出する仮想力生成ステップと、前記仮想力生成ステップで算出された仮想的な斥力と前記操縦指令値とを組み合わせて前記ロボットアームへの動作指令値を生成する動作指令値生成ステップと、を有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係るロボットアーム操作方法の他の一つの態様は、ロボットアームに対して遠隔からリアルタイムで受信した操縦指令値に基づいて前記ロボットアームを操縦するロボットアーム操作方法において、前記ロボットアームの複数個所に取り付けられた複数の距離センサによって、前記ロボットアームが動作可能な作業環境内にあって前記ロボットアームの動作の障害となりうる障害物との距離を検出する距離検出ステップと、前記距離検出ステップで検出された距離に基づいて、前記ロボットアームに対して前記障害物から遠ざかる方向への仮想的な斥力を算出する仮想力生成ステップと、前記仮想力生成ステップで算出された仮想的な斥力と前記操縦指令値とを組み合わせて前記ロボットアームへの動作指令値を生成する動作指令値生成ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ロボットアームの操作に当たり、安全、確実かつ容易に障害物を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るロボットアーム操作システムの第1の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明に係るロボットアーム操作システムの第1の実施形態において障害物に基づいて設定される斥力ベクトル場の概要を示す模式的斜視図である。
【図3】本発明に係るロボットアーム操作システムの第1の実施形態におけるロボットアームと障害物および斥力ベクトルの概要を示す模式的斜視図である。
【図4】本発明に係るロボットアーム操作システムの第2の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明に係るロボットアーム操作システムの第2の実施形態におけるロボットアームと障害物の概要を示す模式的斜視図である。
【図6】本発明に係るロボットアーム操作システムの第3の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図7】本発明に係るロボットアーム操作システムの第3の実施形態におけるロボットアームと仮想障害物の概要を示す模式的斜視図である。
【図8】本発明に係るロボットアーム操作システムの第4の実施形態におけるロボットアームと目標物の概要を示す模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0014】
[第1の実施形態]
図1は、本発明に係るロボットアーム操作システムの第1の実施形態の構成を示すブロック図である。図2は、本発明に係るロボットアーム操作システムの第1の実施形態において障害物に基づいて設定される斥力ベクトル場の概要を示す模式的斜視図である。図3は、本発明に係るロボットアーム操作システムの第1の実施形態におけるロボットアームと障害物および斥力ベクトルの概要を示す模式的斜視図である。
【0015】
この実施形態のロボットアーム操作システムは、遠隔操縦部1と、環境データを保存する環境データ保存部4と、仮想的な斥力ベクトル場を設定する斥力ベクトル場生成処理部5と、斥力ベクトル場を利用して仮想的な斥力を算出する仮想力生成処理部6と、ロボットアーム2への動作指令値を生成するロボットコントローラ3と、接近度合呈示部7とを有する。
【0016】
遠隔操縦部1は、ロボットアーム2に対して遠隔から、リアルタイムで受信した操縦指令値に基づいてロボットアーム2を操縦する。環境データ保存部4は、ロボットアーム2が動作可能な作業環境内にあってロボットアーム2の動作の障害となりうる障害物20の3次元形状モデルを含む環境データを保存する。斥力ベクトル場生成処理部5は、作業環境内で障害物20との距離が近いほど斥力ベクトルが大きくなるように仮想的な斥力ベクトル場を設定する。仮想力生成処理部6は、斥力ベクトル場を利用してロボットアーム2に対して障害物20から遠ざかる方向への仮想的な斥力を算出する。ロボットコントローラ3は、仮想力生成処理部6により算出された仮想的な斥力と遠隔操縦部1からの操縦指令値とを組み合わせてロボットアーム2への動作指令値を生成する。
【0017】
図1に示すように、この実施形態のロボットアーム操作システムはさらに、カメラ画像取得部8、画像処理部9、環境データ補正部10および表示部11を有している。これらについては後述する。
【0018】
一般的に、ロボットアーム2は関節とリンク機構で構成される。関節には回転関節や直動関節の他、球体関節などさまざまな種類がある。関節の動作はモータ等で能動的に動作する場合と、動力源を持たずに受動的に動作する場合がある。各関節間はリンク機構により結びつけられ、関節とリンク機構が交互に直列されたシリアルリンク型と、関節とリンクの組合せが並列となったパラレルリンク型などがある。
【0019】
以降では、回転関節を有するシリアルリンク型のロボットアーム2を例に説明する。ロボットアーム2はロボットコントローラ3を介して遠隔操縦部1からの指令により遠隔で操作される。ロボットアーム2を遠隔で操作する形式にはロボットアーム2の手先(ハンド)70の位置と姿勢を指令する場合と、ロボットアーム2の手先70の位置と姿勢に加えてロボットアーム2の各関節の角度を指令する場合がある。
【0020】
前者の場合は、遠隔操縦部1にジョイスティックやゲームパッドやマウスのような装置が用いられる。後者の場合は、ロボットアーム2と同様な構造を持つマスターアーム型の装置や異なる構造のマスターアーム型の装置などが用いられる。
【0021】
つぎに、ロボットアーム2が作業を行う作業空間を環境データとして定義し、環境データ保存部4に保存する処理について説明する。作業空間とは、ロボットアーム2の初期位置や作業位置、および初期位置と作業位置の中間を含む実際の空間の情報に基づいて構築される空間である。この作業空間は、作業を行う施設等の設計情報、たとえば3次元CADのデータを用いて設定する、またはカメラの映像や各種センサによる計測等で収集したデータを用いて設定する、あるいは手動で設定する、といったことが考えられる。
【0022】
具体的には、たとえばロボットアーム2の操作装置が関連付けられ、各種3次元形状モデルを作成、記憶、修正可能な3次元CADシステムを構成する演算装置および入力装置(受信装置)によって行われる。すなわち、上述の入力装置に施設等の設計情報や収集したデータを入力する、あるいは任意に施設情報等を入力して、上述した作業空間に対応する3次元形状モデルを設定することによって行われる。
【0023】
つぎに、環境データ保存部4に保存に保存された環境データを用いて仮想的な斥力ベクトル場を生成する処理を行う斥力ベクトル場生成処理部5について説明する。斥力ベクトル場の生成は、作業空間上に3次元の格子を設定し、各格子点に斥力ベクトル21を定義することで行う。この斥力ベクトル21は作業空間内の障害物20を発生源として設定する。各格子点に設定される斥力ベクトル21の方向は障害物表面の法線方向、すなわち障害物表面に垂直な方向とし、斥力ベクトル21の大きさは障害物に近いほど大きくなるように設定する。作業空間上に複数の障害物20が存在する場合、たとえば各格子点に最も近い障害物20から発生する斥力ベクトル21を、最終的にその格子点の斥力ベクトル21として設定する。
【0024】
図2で、斥力ベクトル場については、斥力ベクトル21のおおよその方向のみ示しており、作業空間上に設定される3次元格子は省略している。作業空間中に円筒形状の障害物20が設定されており、この障害物20から遠ざかる方向の斥力ベクトル21が設定されている。
【0025】
斥力ベクトル場を設定する際、障害物20が複雑な形状で、突起や極端な狭隘部を有する等のロボットアーム2の手先70が通過しにくい形状や配置を取る場合は、該当箇所付近の斥力ベクトル21を大きくする等の重み付けを行ってもよい。
【0026】
つぎに、仮想力生成処理部6について説明する。仮想力生成処理部6ではロボットアーム2からの関節角度情報をロボットコントローラ3を介して取得し、順運動学計算によりロボットアームの設置点からロボットアーム2の手先70および各関節位置の絶対位置と絶対姿勢を算出する。
【0027】
さらに、ロボットアーム2のモデル設定を行う。モデル設定の例を、図3を用いて説明する。図3ではロボットアーム2の3次元形状モデル30を上述した環境データ保存部4に保存された環境データ内に設定し、設定した3次元形状モデル30上に斥力ベクトル場から受ける斥力を作用させる代表点31を複数点定義している。
【0028】
この代表点31は、障害物20との干渉を避けるために、ロボットアーム2の外形や内部に設定する。代表点31の設定箇所は任意であるが、たとえば図3のようなロボットアーム2の3次元形状モデル30の場合、モデルの構成要素である直方体や円柱部分の外形表面上に均等に設定する。なお、図が煩雑になるのを避けるために、図3では代表点31を一部省略して図示している。また、移動体の一部分である手先70が作業ツールを持っている場合等、障害物との干渉が懸念される程度の大きさがある場合には手先70にも代表点31を設定する。
【0029】
代表点31も同様にロボットアームの設置点からの順運動学計算により絶対位置を算出する。
【0030】
つぎに、上述したロボットアーム2の3次元形状モデル30の代表点31に、斥力ベクトル場生成処理部5で生成した斥力ベクトル21の大きさと方向の斥力を作用させ、ロボットアーム2の各リンクごとに斥力の合計と各リンクに付随した関節軸に作用するモーメントの合計を算出する。
【0031】
つぎに、算出したロボットアーム2に作用する斥力とモーメントを、各リンクに設定された代表点31の数で除算して、関節軸を基準位置としてそれぞれの平均を各リンクごとに算出する。
【0032】
さらに現在のロボットアーム2の関節角速度をデカルト座標での手先70の速度へと変換するヤコビ行列Jを用いることで、手先70と各リンクごとに算出した斥力の平均(Fx,Fy,Fz)とモーメントの平均(Mx,My,Mz)から各関節軸に働くトルクτを、次の式(1)〜式(3)により求める。
【0033】
τ=JF ・・・(1)
τ=(τ,τ,τ,・・・,τn−1 ・・・(2)
F=(F,F,F,M,M,M ・・・(3)
ただし、nは関節軸のベース側から数えた番号である。
【0034】
たとえば、ある関節軸に働くFから求まる。トルクτはその関節軸よりもロボットアーム2の設置点側(手先70から遠い側)にある関節軸のトルクτであり、手先70に働くFの場合はすべての関節軸に働くトルクτとなる。算出したトルクτを各関節軸ごとに合算したものが最終的な関節軸に働くトルクτとなる。
【0035】
最終的に、遠隔操縦部1からの指令を受けてロボットアーム2が動作する時に、ロボットコントローラ3にて操縦指令値に上述の仮想力生成処理部6で算出したトルクτやトルクτから算出した関節速度を足し合わせる。ここで、関節速度はトルクτと比例関係があるものとして算出する。
【0036】
以上説明したように、仮想力生成処理部6では、ロボットアーム2に作用する斥力からトルクτや関節速度を算出して、ロボットアーム2の遠隔操作時に障害物20に近づく方向への動作を抑制するように、ロボットコントローラ3にて遠隔操縦部1からの操縦指令値にトルクτや関節速度を付加する。
【0037】
また、遠隔操縦部1からの操縦指令値へ付加するトルクτや関節速度は、ロボットアーム2の手先70の位置や姿勢の操縦指令値にのみ作用させても良いし、ロボットアーム2の各関節軸の操縦指令値に対して作用させても良い。ロボットアーム2の手先70の位置・姿勢にのみ作用させる場合は、ロボットアーム2の全体の姿勢は仮想力生成処理部6で算出したトルクτや関節速度を用いて自動で生成することもできる。
【0038】
また、仮想力生成処理部6でヤコビ行列を用いて各関節軸に作用するトルクを算出する利点は、順運動学から算出することができるため計算が容易であることにある。一般的にロボットアーム2の手先70の位置・姿勢からロボットアーム2の姿勢つまり各関節角度を算出するには逆運動学を解く必要があるが、逆運動学による解法は順運動学に比べて計算負荷が大きいといった問題がある。
【0039】
また、仮想力生成処理部6で算出したトルクτを参照することでロボットアーム2と障害物20との距離がある一定距離以下となったことを判定することができ、接近度合呈示部7にて画像表示や警告ランプ、警告音などで呈示する。
【0040】
また、表示部11では環境データ保存部4に保存に保存された環境データ内にロボットアーム2の姿勢情報から構成したロボットアーム2のモデルを表示することができる。さらに、ロボットアーム2の設置位置に取り付けたカメラやロボットアーム2の手先70に取り付けたカメラなどのカメラ画像を、カメラ画像取得部8を通じて取得し、画像処理部9にて処理した後に表示部11に表示することができる。操作者は表示部11を見ながら操作することで、ロボットアーム2の周辺の障害物20との位置関係や姿勢の状況を把握することができる。
【0041】
また、斥力ベクトル場の設定に関して、移動する障害物20を設定する場合は、リアルタイムに斥力ベクトル場を更新する処理を行うことも可能である。また、障害物20の移動範囲が決まっている場合は、障害物20の移動範囲全体を一つの障害物20として設定することも可能である。また、構造物の設計情報や、実際の作業環境の情報を収集して斥力ベクトル場を設定することができるため、設計・計画段階の施設、建設済みの施設の何れについても適用することが可能である。
【0042】
また、各関節軸に働くトルクに基づいて関節軸角度の変化量を算出する際に、関節ごとに重み係数を設定することで、各関節ごとの動き易さを設定することができる。
【0043】
さらに、この重み係数が可変であることにより、ロボットアーム2の姿勢が特異姿勢に近づいた場合は、特異姿勢に関係する関節軸の角度の変化のし易さを変動させることで特異姿勢を回避することができる。
【0044】
また、力帰還型ロボットアームの場合は仮想力生成処理部6で算出したトルクτをロボットコントローラ3から遠隔操縦部1へ帰還することで、操作者はロボットアーム2を障害物20へ近づけるほど大きな反力を遠隔操縦部1にて受ける。よって、力帰還型ロボットアームの方が遠隔操縦部1に帰ってくる仮想反力情報を基に操作が行えるため、対称型ロボットアームよりも良好な操作感が得られる。
【0045】
また、3次元CADデータ等で設定されて環境データ保存部4に保存に保存された環境データが実際の環境とずれてしまっている場合には、環境データ補正部10により補正することができる。環境データ補正部10では、環境データをたとえばカメラにより取得した画像データを用いて、周辺に存在する障害物20の位置・姿勢および形状を補正する。
【0046】
以下で具体的な例を説明する。まず、カメラは立体的に障害物20の形状を捉えることができるステレオカメラである場合や、カメラ自体が移動することで立体的に障害物20の形状を捉えることができる移動カメラである場合や、カメラをロボットアーム2の手先70に取り付けてロボットアームを移動させることで立体的に障害物20の形状を捉えることができる能動カメラである場合が考えられる。上述したカメラの構成により障害物20のステレオ画像を得ることができ、ステレオ画像の2枚の画像上での対応点を決定してやることで3次元形状が復元できる。得られた3次元形状と環境データ上の障害物20の3次元形状との3次元モデルマッチングを行い、障害物20の位置・姿勢および形状を補正する。
【0047】
以上の構成からなるロボットアーム操作システムにより、ロボットアーム2が障害物20に接近した場合に斥力ベクトル場からロボットアーム2に作用する仮想反力により障害物20方向への動作が徐々に抑制されるため、障害物20との干渉を防止することができる。これにより操作者は目標の位置までロボットアーム2を干渉させることなく容易に操作することが可能となる。
【0048】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態について、図面を用いて以下に説明する。なお、第1の実施形態と同じ構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。図4は、本発明に係るロボットアーム操作システムの第2の実施形態の構成を示すブロック図である。図5は、本発明に係るロボットアーム操作システムの第2の実施形態におけるロボットアームと障害物の概要を示す模式的斜視図である。
【0049】
図4に示すように、このロボットアーム操作システムは、遠隔操縦部1と、仮想的な斥力を算出する仮想力生成処理部6と、ロボットアーム2への動作指令値を生成するロボットコントローラ3と、接近度合呈示部7と、距離センサ部40と検出回路部41とを有する。
【0050】
距離センサ部40は図5に示すようにロボットアーム2の表面に多数配置した距離センサ42により構成される。距離センサ42により検出した距離センサ42から最近傍の障害物20との距離情報は検出回路部41で処理され、距離センサ42を配置した場所での斥力を仮想力生成処理部6にて算出し、ロボットアーム2に作用する斥力からトルクτや関節速度を算出して、ロボットアーム2の遠隔操作時に仮想障害物51に近づく方向への動作を抑制するように、ロボットコントローラ3にて遠隔操縦部1からの操縦指令値にトルクτや関節速度を付加する。
【0051】
距離センサ42は、ロボットの表面に多数配置しなければならないことや、配線数を減らすこと、無線での信号や動力の伝達を行うことが望ましいためMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術等により作成したチップ状の受動センサなどが考えられる。
【0052】
以上の構成からなるロボットアーム操作システムにより、ロボットアーム2が障害物20に接近した場合に距離センサ42により計測した距離情報からその場所における斥力を算出し、斥力を基にロボットアーム2にトルクτや関節速度を作用させることで、障害物20方向への動作が徐々に抑制されるため、障害物20との干渉を防止することができる。これにより操作者は目標の位置までロボットアーム2を干渉させることなく容易に操作することが可能となる。
【0053】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態について、図面を用いて以下説明する。なお、第1の実施形態と同じ構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0054】
図6は、本実施形態によるロボットアーム操作システムの主要な構成を示すブロック図である。図7は本実施形態によるロボットアーム操作システムの概要を示す図である。
【0055】
図6に示すように、第3の実施形態のロボットアーム操作システムは、遠隔操縦部1と、斥力ベクトル場生成処理部5と、仮想的な斥力を算出する仮想力生成処理部6と、ロボットアーム2への動作指令値を生成するロボットコントローラ3と、接近度合呈示部7と、仮想障害物設定処理部50とを有する。
【0056】
本実施形態のロボットアーム操作システムにおいて行われる処理について、図6および図7を用いて説明する。
【0057】
第1の実施形態において、環境データ保存部4に保存に保存された環境データは作業空間に対応する3次元形状モデルを設定したものであったが、仮想障害物設定処理部50では作業空間に実際に存在しない仮想的な障害物を設定する。仮想的な障害物とは、たとえば、ロボットアーム2が近づく場合にロボットアーム2の電子回路やフレームに悪影響を及ぼす熱、放射線、磁場などである。熱、放射線、磁場は強度分布を持つため、斥力ベクトル場生成処理部5ではこの強度分布を用いて斥力を設定することができる。熱、放射線、磁場はそれぞれ赤外線センサ、放射線センサ、磁場センサなどの各種計測装置を用いて強度分布を測ることができる。
【0058】
仮想障害物51の強度分布から設定した斥力を用いて仮想力生成処理部6ではロボットアーム2に作用する斥力からトルクτや関節速度を算出して、ロボットアーム2の遠隔操作時に仮想障害物51に近づく方向への動作を抑制するように、ロボットコントローラ3にて遠隔操縦部1からの操縦指令値にトルクτや関節速度を付加する。
【0059】
また、本実施形態の仮想障害物設定処理部50は第1の実施形態の環境データと組み合わせることも可能であり、環境データの3次元形状モデル上に強度分布のある熱、放射線、磁場などの情報を重ね合わせることで、障害物および仮想障害物の両者を回避するような操作支援を行うことができる。
【0060】
[第4の実施形態]
本発明の第4の実施形態について、図面を用いて以下説明する。なお、第1の実施形態と同じ構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0061】
本実施形態のロボットアーム操作システムにおいて行われる処理について、図8を用いて説明する。本実施形態では基本的な構成は第1の実施形態と同様であるが、仮想力生成処理部6において、ロボットアーム2の手先70の現在位置と、目標点60の位置偏差に基づく目標点60方向の引力ベクトル61をロボットアーム2の手先70に作用させる。このとき、引力ベクトル61の大きさは、たとえば位置偏差量に比例する成分から算出して設定する。
【0062】
さらに、ロボットアーム2の手先70に作用させる引力ベクトル61から第1の実施形態と同様な方法によりトルクτや関節速度を算出して、ロボットアーム2の遠隔操作時に目標点60に近づく方向への動作を誘導するように、ロボットコントローラ3にて遠隔操縦部1からの操縦指令値にトルクτや関節速度を付加する。
【0063】
以上の構成からなるロボットアーム操作システムにより、ロボットアーム2が障害物20に接近した場合に斥力ベクトル場からロボットアーム2に作用する仮想反力により障害物20方向への動作が徐々に抑制されるため、障害物20との干渉を防止することができる。さらにロボットアーム2の手先70には目標点60へ向けた引力が作用することにより操作者は目標の位置までロボットアーム2を干渉させることなく、目標点60方向への操作時に誘導されるような感覚で操作することが可能となる。
【0064】
また、遠隔操縦部1により操作されるロボットアーム2の手先70の姿勢を上述した引力ベクトル61方向にロックさせることにより、操作者は目標点60がどちらの方向にあるのかをロボットアーム2の手先70を見ることで理解できる。
【0065】
以上、本発明によるロボットアーム操作システムについて複数の実施形態を用いて説明してきたが、上述したロボットアーム操作システムは、各処理を行う機能が実装された入力装置、演算装置、出力装置からなるシステムで実行することが可能であり、たとえば各処理を行うためのプログラムを組み込んだ一般的なパーソナルコンピュータを用いることができる。
【0066】
また、以上説明した実施形態は単なる例示であって、本発明はこれらに限定されるものではない。実施形態は、特許請求の範囲内またはその均等の範囲内で、種々に変形したり部分的に省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0067】
1 遠隔操縦部
2 ロボットアーム
3 ロボットコントローラ
4 環境データ保存部
5 斥力ベクトル場生成処理部
6 仮想力生成処理部
7 接近度合呈示部
8 カメラ画像取得部
9 画像処理部
10 環境データ補正部
11 表示部
20 障害物
21 斥力ベクトル
30 ロボットアーム3次元形状モデル
31 代表点
40 距離センサ部
41 検出回路部
42 距離センサ
50 仮想障害物設定処理部
51 仮想障害物
60 目標点
61 引力ベクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットアームに対して遠隔からリアルタイムで受信した操縦指令値に基づいて前記ロボットアームを操縦する遠隔操縦部と、
前記ロボットアームが動作可能な作業環境内にあって前記ロボットアームの動作の障害となりうる障害物の3次元形状モデルを含む環境データを保存する環境データ保存部と、
前記作業環境内で前記障害物との距離が近いほど斥力ベクトルが大きくなるように仮想的な斥力ベクトル場を設定する斥力ベクトル場生成処理部と、
前記斥力ベクトル場を利用して前記ロボットアームに対して前記障害物から遠ざかる方向への仮想的な斥力を算出する仮想力生成処理部と、
前記仮想力生成処理部により算出された仮想的な斥力と前記遠隔操縦部からの操縦指令値とを組み合わせて前記ロボットアームへの動作指令値を生成するロボットコントローラと、
を有することを特徴とするロボットアーム操作システム。
【請求項2】
前記障害物は物体として実在しない仮想的障害物を含むことを特徴とする請求項1に記載のロボットアーム操作システム。
【請求項3】
ロボットアームに対して遠隔からリアルタイムで受信した操縦指令値に基づいて前記ロボットアームを操縦する遠隔操縦部と、
前記ロボットアームの複数個所に取り付けられて、前記ロボットアームが動作可能な作業環境内にあって前記ロボットアームの動作の障害となりうる障害物との距離を検出する複数の距離センサと、
前記距離センサによって検出された距離に基づいて、前記ロボットアームに対して前記障害物から遠ざかる方向への仮想的な斥力を算出する仮想力生成処理部と、
前記仮想力生成処理部によって算出された仮想的な斥力と前記遠隔操縦部からの操縦指令値とを組み合わせて前記ロボットアームへの動作指令値を生成するロボットコントローラと、
を有することを特徴とするロボットアーム操作システム。
【請求項4】
前記ロボットアームの先端部は手先を構成し、
前記仮想力生成処理部は、前記仮想的な斥力を算出するとともに、前記手先に対して目標位置方向への仮想的な引力を算出し、
前記ロボットコントローラは、前記仮想力生成処理部によって算出された仮想的な斥力および仮想的な引力と前記遠隔操縦部からの操縦指令値とを組み合わせて前記ロボットアームへの動作指令値を生成することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のロボットアーム操作システム。
【請求項5】
前記ロボットアームの先端部は手先を構成し、
前記仮想力生成処理部は、前記仮想的な斥力を算出するとともに、前記手先が目標位置方向を向くような仮想的な引力を算出し、
前記ロボットコントローラは、前記仮想力生成処理部によって算出された仮想的な引力と前記遠隔操縦部からの操縦指令値とを組み合わせて前記手先が前記目標位置方向を向くようにロボットアームへの動作指令値を生成することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のロボットアーム操作システム。
【請求項6】
前記仮想力生成処理部により算出された仮想的な斥力に基づいて、前記ロボットアームと前記障害物との接近度合を前記遠隔操縦部に呈示する接近度合呈示部をさらに有すること、を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のロボットアーム操作システム。
【請求項7】
前記障害物を撮影して画像データを取得するカメラ画像取得部と、
前記カメラ画像取得部によって取得された画像データに基づいて前記障害物の位置および形状を計算する画像処理部と、
を有し、
前記環境データは、前記画像処理部で得た前記障害物の位置および形状に基づいて生成されること、を特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載のロボットアーム操作システム。
【請求項8】
ロボットアームを遠隔から操作するロボットアーム操作方法において、
前記ロボットアームを操縦する操縦指令値をリアルタイムで受信する操縦指令値受信ステップと、
前記ロボットアームが動作可能な作業環境内にあって前記ロボットアームの動作の障害となりうる障害物の3次元形状モデルを含む環境データを保存する環境データ保存ステップと、
前記作業環境内で前記障害物との距離が近いほど斥力ベクトルが大きくなるように仮想的な斥力ベクトル場を設定する斥力ベクトル場生成ステップと、
前記斥力ベクトル場を利用して前記ロボットアームに対して前記障害物から遠ざかる方向への仮想的な斥力を算出する仮想力生成ステップと、
前記仮想力生成ステップで算出された仮想的な斥力と前記操縦指令値とを組み合わせて前記ロボットアームへの動作指令値を生成する動作指令値生成ステップと、
を有することを特徴とするロボットアーム操作方法。
【請求項9】
ロボットアームに対して遠隔からリアルタイムで受信した操縦指令値に基づいて前記ロボットアームを操縦するロボットアーム操作方法において、
前記ロボットアームの複数個所に取り付けられた複数の距離センサによって、前記ロボットアームが動作可能な作業環境内にあって前記ロボットアームの動作の障害となりうる障害物との距離を検出する距離検出ステップと、
前記距離検出ステップで検出された距離に基づいて、前記ロボットアームに対して前記障害物から遠ざかる方向への仮想的な斥力を算出する仮想力生成ステップと、
前記仮想力生成ステップで算出された仮想的な斥力と前記操縦指令値とを組み合わせて前記ロボットアームへの動作指令値を生成する動作指令値生成ステップと、
を有することを特徴とするロボットアーム操作方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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