説明

ロボットハンド装置

【課題】指機構の構造を簡単として軽量コンパクトに構成することができるロボットハンド装置を提供する。
【解決手段】手嘗部1と、指節部材7,9,11を関節軸6,8,10を介して連設してなる指機構2と、指節部材7,9,11を貫通する撓み自在の回転伝達軸18と、指節部材7,9,11の雌ねじ部15,16,17に螺合する雄ねじ部19,20,21と、回転伝達軸18を回転駆動するモータ25とを設ける。回転伝達軸18の回転により、指機構2の曲げ動作及び延ばし動作を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈伸動作する指機構を備えるロボットハンド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒューマノイドロボットの腕体の先端に設けられ、人間の手のようなつかみ動作等を行うようにしたロボットハンド装置が知られている。この種のロボットハンド装置は、手嘗部から延設された指機構を備えている。該指機構は、複数の指節部材が関節を介して回動自在に連結されており、これにより、屈伸動作を行うことができるようになっている(特許文献1参照)。
【0003】
ここで、特許文献1記載のものは、指機構の屈伸動作を駆動する駆動手段として、手嘗部側の指節部材に収容されたモータを備えている。モータの回転は、関節に内蔵されたギヤ群により屈伸運動に変換され、更に、各指節部材同士を連結する各関節にこの屈伸動作を伝達機構により伝達することにより、各指機構が連動して屈伸するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−117873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の従来技術では、指機構を屈伸動作させるための機構の部品点数が多く、構造が複雑であるためにコンパクトに構成することが困難である。
【0006】
本発明は、指機構の構造を簡単として軽量コンパクトに構成することができるロボットハンド装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ロボットの腕体の先端部に取り付けられる手嘗部と、該手嘗部から延設され、複数の指節部材を関節軸を介して順次連設してなる指機構と、該指機構の指腹側への曲げ動作及び指背側への延ばし動作を駆動する駆動手段とを備えたロボットハンド装置において、前記指機構は、各指節部材間の指背側に各関節軸を備え、前記駆動手段は、前記手嘗部から各指節部材を貫通して延びる撓み自在の回転伝達軸と、該回転伝達軸に設けられ、少なくとも指機構の先端に位置する指節部材に形成された雌ねじ部に螺合する雄ねじ部と、前記手嘗部に収容され、前記回転伝達軸を介して雄ねじ部を回転駆動するモータとを備え、前記雄ねじ部を正転させて指先方向に移動させることにより回転伝達軸に引っ張り力を付与して指機構の曲げ動作を行い、前記雄ねじ部を逆転させて回転伝達軸における引っ張り力を解除することにより指機構の延ばし動作を行うことを特徴とする。
【0008】
本発明は、上記構成により、前記回転伝達軸を回転させることで、指腹側への曲げ動作及び指背側への延ばし動作が行える。即ち、回転伝達軸の回転に伴い雄ねじ部が回転する。このとき、雄ねじ部は、前記指節部材の雌ねじ部に螺合していることにより、回転伝達軸の回転方向に応じて前記指節部材の内部を移動する。
【0009】
指節部材の先端方向に向かって雄ねじ部が移動したときには、回転伝達軸に引っ張り力が付与される。これに伴い、各指節部材が各関節軸を介して指腹側へ屈曲し、指機構の指腹側への曲げ動作が行われる。このとき、回転伝達軸は撓み自在であることにより指機構の屈曲形状に沿って撓み、、指機構の曲げ動作を円滑に行うことができる。
【0010】
また、指節部材の基端方向に向かって雄ねじ部が移動したときには、回転伝達軸の引っ張り力が解除され、同時に回転伝達軸による延ばし方向への突っ張り力が指機構の先端に位置する指節部材に付与されることにより、指機構の延ばし動作を行うことができる。
【0011】
このように、撓み自在の回転伝達軸と雄ねじ部とを設けて回転伝達軸を回転させるだけで、指機構の指腹側への曲げ動作及び指背側への延ばし動作を行うことができるので、指機構の構造を簡単として軽量コンパクトなロボットハンド装置を構成することができる。
【0012】
また、本発明において、前記指機構の各指節部材は、前記回転伝達軸の貫通位置に雌ねじ部が形成され、前記回転伝達軸には、各指節部材の雌ねじ部に夫々螺合する雄ねじ部が設けられ、互いに隣り合う雄ねじ部のピッチは、指先側の雄ねじ部が前記手嘗部側の雄ねじ部よりも大とされていることを特徴とする。
【0013】
これによれば、回転伝達軸の回転により各指節部材毎に雄ねじ部が回転し、各指節部材間で回転伝達軸による引っ張り力を確実に発生させることができるので、関節毎の屈曲動作を確実に得ることができる。
【0014】
また、本発明において、前記指機構を伸ばし動作方向に付勢する付勢手段を備えることが好ましい。これによれば、指節部材の基端方向に向かって雄ねじ部が移動して回転伝達軸の引っ張り力が解除されたとき、回転伝達軸による延ばし方向への突っ張り力が比較的弱くても、付勢手段の付勢により指機構の延ばし動作を迅速に行うことができる。しかも、指機構の延ばし動作に伴う回転伝達軸の撓みをなくすことができるので、延ばし動作を確実に行うことができる。
【0015】
また、本発明においては、前記指機構の曲げ動作時に各指節部材間で前記回転伝達軸に当接して該回転伝達軸を屈曲案内するローラ部材を備えることが好ましい。これによれば、各指節部材が各関節軸を介して指腹側へ屈曲する際に、回転伝達軸を所定の屈曲位置で確実に屈曲させることができるので、指機構の曲げ動作を円滑に行うことができる。
【0016】
また、本発明において、前記指機構が前記手嘗部に複数設けられているとき、前記駆動手段は、前記モータの回転を各指機構の前記回転伝達軸に夫々に分配する回転分配手段を備えることが好ましい。これによれば、複数の指機構の曲げ動作及び延ばし動作を単一のモータで駆動することができ、一層軽量コンパクトにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態のロボットハンド装置の概略構成を示す説明図。
【図2】本実施形態のロボットハンド装置における指機構の構成を模式的に示す説明図。
【図3】図2の指機構の屈曲状態を模式的に示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施形態のロボットハンド装置は、図1に示すように、手嘗部1と、該手嘗部1から延設された複数の指機構とを備えている。各指機構は、夫々、示指に相当する第1指機構2、中指に相当する第2指機構3、環指に相当する第3指機構4、及び小指に相当する第4指機構5からなる。なお、手嘗部1には、拇指に相当する拇指機構が設けられているがこの拇指機構の構成については省略する。手嘗部1は、図示しないロボットの腕体に取り付けられる。
【0019】
第1指機構2は、図2に示すように、手嘗部1に第1関節軸6を介して揺動自在に連設された第1指節部材7と、第1指節部材7の先端側に第2関節軸8を介して揺動自在に連設された第2指節部材9と、第2指節部材9の先端側に第3関節軸10を介して揺動自在に連設された第3指節部材11とを備えている。各関節軸6,8,10は、各指節部材7,9,11の指背側に位置しており、各指節部材7,9,11が各関節軸6,8,10を介して指腹側に揺動することにより、図3に示すように、第1指機構2全体としての屈伸運動が行えるようになっている。また、各関節軸6,8,10には、図示しないが、各指節部材7,9,11を伸ばし動作方向に付勢するばね部材が内蔵されている。
【0020】
図2に示すように、第1〜第3指節部材7,9,11には、夫々、第1指機構2の延設方向に沿って形成された貫通孔12,13,14が形成されている。各貫通孔12,13,14の夫々の内面には、第1〜第3雌ねじ部15,16,17が形成されている。第1〜第3雌ねじ部15,16,17は夫々ねじピッチが異なっており、第1雌ねじ部15より第2雌ねじ部16のピッチが大とされ、第2雌ねじ部16より第3雌ねじ部17のピッチが大とされている。
【0021】
第1〜第3指節部材7,9,11の貫通孔12,13,14には、手嘗部1から延びるフレキシブルワイヤ18(回転伝達軸)が貫通して設けられている。フレキシブルワイヤ18は、鋼線により撓み自在に形成され、その長手方向に所定間隔を存して、第1雌ねじ部15に螺合する第1雄ねじ部19と、第2雌ねじ部16に螺合する第2雄ねじ部20と、第3雌ねじ部17に螺合する第3雄ねじ部21とを備えている。
【0022】
第1指機構2は以上の構成により、フレキシブルワイヤ18を回転させることで、指腹側への曲げ動作及び指背側への延ばし動作を行うことができるようになっている。即ち、図2に示す延ばし状態でフレキシブルワイヤ18を正転させると、各雄ねじ部19,20,21が各指節部材7,9,11内を指先方向に移動する。これにより、各雄ねじ部19,20,21のピッチの違いから、各指節部材7,9,11間に張力が生じて第1指機構2の曲げ動作が確実且つ滑らかに行われ、図3に示すように、第1指機構2が屈曲する。また、図3に示す屈曲状態でフレキシブルワイヤ18を逆転させると、各雄ねじ部19,20,21が各指節部材7,9,11内を指基方向に移動し、各指節部材7,9,11間の張力が解除される。そして、各関節軸6,8,10に内蔵された各ばね部材の付勢により延ばし動作中におけるフレキシブルワイヤ18の弛み等が取り除かれて、第1指機構2の延ばし動作が確実に行われ、図1に示すように、第1指機構2が延ばし状態となる。
【0023】
更に、手嘗部1における第1指節部材7側の端部と、第1指節部材7における第2指節部材9側の端部と、第2指節部材9における第3指節部材11側の端部との夫々には、ローラ部材22,23,24が設けられている。各ローラ部材22,23,24により、第1指機構2の曲げ姿勢に対応するようにフレキシブルワイヤ18が屈曲するので、曲げ動作中におけるフレキシブルワイヤ18の弛み等を取り除いて第1指機構2を確実に屈曲させることができる。
【0024】
なお、第1指機構2の構成は上述の通りであるが、第2〜第4指機構3,4,5の各指機構も第1指機構2と同じ構成であるため、その説明を省略する。
【0025】
前記手嘗部1は、単一のモータ25と、モータ25の回転を各指機構2,3,4,5のフレキシブルワイヤ18に分配する回転分配手段26とを備えている。なお、フレキシブルワイヤ18、各雄ねじ部19,20,21、モータ25、及び回転分配手段26は、本発明における駆動手段を構成するものである。
【0026】
回転分配手段26は、モータ25に接続される入力軸27と、各指機構2,3,4,5のフレキシブルワイヤ18に接続される4つの出力軸28,29,30,31と、入力軸27と各出力軸28,29,30,31との間で回転を伝達するギヤ群とを備えている。ここで、ギヤ群の構成の一例について説明する。入力軸27には第1駆動ギヤ32が設けられている。第1駆動ギヤ32には、3つの伝達ギヤ33,34,35を介して第2駆動ギヤ36が噛合する。これにより第1駆動ギヤ32と第2駆動ギヤ36とは同速で同一方向に回転する。なお、本実施形態では第1駆動ギヤ32と第2駆動ギヤ36とに3つの伝達ギヤ33,34,35を介在させているが、伝達ギヤの数及び径は手嘗部1の内部空間の大きさに応じて設定すればよく、第1駆動ギヤ32と第2駆動ギヤ36とを同一回転方向とする場合には伝達ギヤの数は奇数であればよい。第2駆動ギヤ36には第1従動ギヤ37と第2従動ギヤ38とが夫々噛合する。第1従動ギヤ37は第1出力軸28を一体に備え、第1出力軸28は第1指機構2のフレキシブルワイヤ18の基端部に連結されている。第2従動ギヤ38は第2出力軸29を一体に備え、第2出力軸29は第2指機構3のフレキシブルワイヤ18の基端部に連結されている。同じように、第1駆動ギヤ32には第3従動ギヤ39と第4従動ギヤ40とが夫々噛合する。第3従動ギヤ39は第3出力軸30を一体に備え、第3出力軸30は第3指機構4のフレキシブルワイヤ18の基端部に連結されている。第4従動ギヤ40は第4出力軸31を一体に備え、第4出力軸31は第4指機構5のフレキシブルワイヤ18の基端部に連結されている。以上の構成によるギヤ群により入力軸27の回転が各出力軸28,29,30,31に分配される。
【0027】
そして、回転分配手段26を設けたことにより、単一のモータ25であっても、第1〜第4指機構2,3,4,5の曲げ動作及び延ばし動作を確実に駆動することができる。
【0028】
また、本実施形態においては、第1〜第4従動ギヤ37,38,39,40はそのギヤ比(従動ギヤの歯数/駆動ギヤの歯数)が互いに異なっている。即ち、第1従動ギヤ37から第4従動ギヤ40にかけて次第にギヤ比が小となるように、各従動ギヤ37,38,39,40の歯数が設定されている。こうすることにより、第4指機構5の曲げ速度が最も速く、第1指機構2の曲げ速度が最も遅くなるので、人間の握り動作に近い動きを得ることができる。
【0029】
更に、図示しないが、入力軸27又は各出力軸28,29,30にトルクセンサを設けることが好ましい。これによれば、トルクセンサの検出トルクに基づいてモータ25を制御することができ、例えば、各指機構2,3,4,5の曲げ動作に際して何れかの指機構に過大な負荷が生じた時点でモータ25を停止させることができる。
【0030】
以上のように、本実施形態によれば、フレキシブルワイヤ18及び各雄ねじ部19,20,21の回転により各指節部材7,9,11の曲げ動作が円滑に行えるだけでなく、部品転数も少なくすることができ、軽量コンパクトなロボットハンド装置を得ることができる。
【0031】
なお、本実施形態においては、第1〜第3指節部材7,9,11の全てに雌ねじ部15,16,17を設け、フレキシブルワイヤ18に各雌ねじ部15,16,17に螺合する雄ねじ部19,20,21を設けて、各指節部材7,9,11毎に確実に連動して滑らかに屈曲するように構成した例を示したが、それ以外に、図示しないが、指機構2(3,4,5)の曲げ動作及び延ばし動作を行うのみであれば、第3指節部材11のみに雌ねじ部21を設け、フレキシブルワイヤ18にはこの雌ねじ部21に螺合する雄ねじ部21を設けておけばよい。これによれば、指機構2(3,4,5)を一層構造簡単として軽量コンパクトに構成することができる。
【0032】
また、本実施形態においては、撓み自在の回転伝達軸として鋼線によるフレキシブルワイヤ18を採用した例を示したが、回転伝達軸として採用できるものとして、図示しないが、複数のユニバーサルジョイントを連設してなるフレキシブルシャフト等を挙げることができる。
【0033】
また、本実施形態においては、回転分配手段26を設けて単一のモータ25により各指機構2,3,4,5のフレキシブルワイヤ18を回転させることができる構成を示したが、それ以外に、図示しないが、4つのモータを設けて、その夫々に各指機構2,3,4,5のフレキシブルワイヤ18を接続してもよい。こうすることにより、各指機構2,3,4,5を独立して駆動することができ、各指機構2,3,4,5毎に曲げ動作及び延ばし動作を行って、複雑な動作を得ることができる。
【符号の説明】
【0034】
1…手嘗部、2,3,4,5…指機構、6,8,10…関節軸、7,9,11…指節部材、15,16,17…雌ねじ部、18…フレキシブルワイヤ(回転伝達軸)、19,20,21…雄ねじ部、22,23,24…ローラ部材、25…モータ、26…回転分配手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットの腕体の先端部に取り付けられる手嘗部と、該手嘗部から延設され、複数の指節部材を関節軸を介して順次連設してなる指機構と、該指機構の指腹側への曲げ動作及び指背側への延ばし動作を駆動する駆動手段とを備えたロボットハンド装置において、
前記指機構は、各指節部材間の指背側に各関節軸を備え、
前記駆動手段は、前記手嘗部から各指節部材を貫通して延びる撓み自在の回転伝達軸と、
該回転伝達軸に設けられ、少なくとも指機構の先端に位置する指節部材に形成された雌ねじ部に螺合する雄ねじ部と、前記手嘗部に収容され、前記回転伝達軸を介して雄ねじ部を回転駆動するモータとを備え、
前記雄ねじ部を正転させて指先方向に移動させることにより回転伝達軸に引っ張り力を付与して指機構の曲げ動作を行い、前記雄ねじ部を逆転させて回転伝達軸における引っ張り力を解除することにより指機構の延ばし動作を行うことを特徴とするロボットハンド装置。
【請求項2】
前記指機構の各指節部材は、前記回転伝達軸の貫通位置に雌ねじ部が形成され、
前記回転伝達軸には、各指節部材の雌ねじ部に夫々螺合する雄ねじ部が設けられ、
互いに隣り合う雄ねじ部のピッチは、指先側の雄ねじ部が前記手嘗部側の雄ねじ部よりも大とされていることを特徴とする請求項1記載のロボットハンド装置。
【請求項3】
前記指機構を伸ばし動作方向に付勢する付勢手段を備えることを特徴とする請求項1又は2記載のロボットハンド装置。
【請求項4】
前記指機構の曲げ動作時に各指節部材間で前記回転伝達軸に当接して該回転伝達軸を屈曲案内するローラ部材を備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載のロボットハンド装置。
【請求項5】
前記指機構は、前記手嘗部に複数設けられており、
前記駆動手段は、前記モータの回転を各指機構の前記回転伝達軸に夫々に分配する回転分配手段を備えことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載のロボットハンド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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