説明

ロボット・シーム溶接方法および装置

【課題】比較的簡単な構成で、湾曲した溶接部位の割れなどを確実に防止することのできるロボット・シーム溶接方法と装置の提供。
【解決手段】ロボット・シーム溶接方法は、多関節ロボット1に搭載した一対の電極輪3,4で被溶接物7を挟み、これら電極輪を回転させるとともに、予め教示された被溶接物の溶接線L上の位置をロボットに周期的に指令して電極輪をこの溶接線に沿って移動させながら溶接電流を通して被溶接物のシーム溶接を行う。この方法では、周期的に算出する指令位置A1,A2,B1,B2に基づいて被溶接物上の各電極輪の移動距離dA,dBを求め、この移動距離に見合う速度で当該電極輪を回転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多関節ロボットを用いるシーム溶接(以下、ロボット・シーム溶接)方法と装置に係り、特に、3次元状に湾曲した溶接線を持つ被溶接物(以下、ワーク)に適したロボット・シーム溶接方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シーム溶接は、回転する一対の電極輪でワークを挟んで加圧し、ワークを電極輪の回転に合わせて移動させつつ、電極輪間に溶接電流を連続的に通電して溶接を行う。このようなシーム溶接は、気密性を要する容器類の接合に適していて、例えば自動車の燃料タンクの製造に用いられる。
【0003】
シーム溶接は、ロボットを用いて自動化が図られている。一般的には、ロボットがワークを把持し、一対の電極輪を有する定置したシーム溶接機に対して、ワークをその溶接線に倣って動かして溶接を行うように構成している。
これとは逆に、電極輪および加圧装置からなる溶接ヘッドをロボットに搭載し、定置したワークに沿って動かして溶接を行うシーム溶接装置がある(例えば、特許文献1を参照)。この構成は、ロボットが上下左右に自由に動くことができるために、ワーク上の3次元状に湾曲した部分を溶接することも容易であり、有利である。
【特許文献1】特開平9−234566号公報
【0004】
しかしながら、上述したようなシーム溶接装置は、3次元状に湾曲したワークを溶接する際に問題が起こる。
例えば、図3に示すようなワーク7の湾曲した溶接部位では、ワークの板厚Wにより、ワークの上側と下側の長さが異なっている。この湾曲部位を溶接する場合、上下の電極輪を同一速度で回転させると、ワークに対して電極輪が動かされる移動速度と電極輪の回転速度とに差が生じ、その速度差のためにワーク表面に引張力が働いて、溶接点に割れなどが生じる。
【0005】
このような問題を解消するために、上下の電極輪はそれぞれ異なる速度で制御することが望ましい。
ロボットによる装置ではないが、シーム溶接機の上下電極をそれぞれ異なる速度で制御することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。この提案は、電極輪の回転制御をプログラミングにより行うものであるが、ロボットを用いる場合には、コーナー部分などでロボットが自動的に加減速する為に、電極輪の回転制御を加えたプログラムを作成するには多大な工数を要する。
【特許文献2】特開平10−99972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、比較的簡単な構成で、湾曲した溶接部位における電極輪の速度差を確実に解消して、溶接部の割れなどを防止することのできるロボット・シーム溶接方法と装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるロボット・シーム溶接方法は、多関節ロボットに搭載した一対の電極輪で被溶接物を挟み、これら電極輪を回転させるとともに、予め教示された被溶接物の溶接線上の位置をロボットに周期的に指令して電極輪をこの溶接線に沿って移動させながら溶接電流を通して被溶接物のシーム溶接を行う。この方法は、周期的に算出する指令位置に基づいて被溶接物上の各電極輪の移動距離を求め、この移動距離に見合う速度で当該電極輪を回転させることを特徴とする。
【0008】
上記方法を実施する為の、本発明によるロボット・シーム溶接装置は、多関節ロボットと、この多関節ロボットに搭載した一対の円形の電極輪と、これらロボットと電極輪の作動を制御する制御ユニットとを含む。制御ユニットは、予め教示された被溶接物の溶接線を記憶し、電極輪で被溶接物を挟み、これら電極輪を回転させるとともに、記憶した溶接線上の位置をロボットに周期的に指令して電極輪をこの溶接線に沿って移動させながら溶接電流を通して被溶接物のシーム溶接を行う。
この装置は、制御ユニットがさらに被溶接物の厚みを記憶し、周期的に算出する指令位置に基づいて被溶接物上の各電極輪の移動距離を求め、この移動距離に見合う速度で当該電極輪を回転させることを特徴とする。
【0009】
上記溶接線は被溶接物の一方の表面上に設定し、被溶接物の他方の表面における電極輪の接触位置を、この溶接線から被溶接物の厚みだけ離れた位置として求めることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
上記した本発明の方法と装置は、被溶接物上の各電極輪の移動距離を周期的に求めて、この距離に応じた速度で電極輪を回転させるものである。そのため、3次元状に湾曲した溶接部位においてそれぞれの電極輪の移動距離に差のある場合でも、各電極輪の回転速度を移動距離に応じて違えて、従来のような引張力をなくし、溶接割れなどの欠陥を防ぐことができる。
このような処理は、ロボットに教示した移動経路の再生から得られる指令値を利用して行うことができるので、本発明は、従来のシステムを大きく変更することなく簡単な構成で、従って比較的安価に、かつ確実に溶接品質を向上させ得る効果がある。
【実施例】
【0011】
続いて、添付図面に示す実施例に基づいて本発明を説明する。
図1は、本発明の実施例によるロボット・シーム溶接装置を示し、この装置は、多関節ロボット1と、ロボット1の手首に取り付けた溶接ヘッド2と、これらロボットおよび溶接ヘッドの運転を制御する制御ユニット8とを有している。
なお、図1では制御ユニット8をロボット1の外に表示しているが、制御ユニットはロボット本体に内蔵してもよい。
【0012】
溶接ヘッド2には、対向して配置した一対の円形の加圧側および固定側電極輪3,4、それぞれの電極輪を回転駆動するモータ5,6、電極輪とモータをつなぐ減速機およびドライブシャフト、そしてワークを電極輪間に挟むように加圧側電極輪3を固定側電極輪4へ向けて押し付けるエアシリンダ等の加圧機構(図示なし)を設けている。
さらに、溶接トランス(図示なし)も溶接ヘッド2に含まれているが、このトランスは溶接ヘッド外に設置してもよい。また、溶接電流を制御する溶接機(図示なし)も、ロボット外に定置している。
【0013】
制御ユニット8は、ワークの溶接条件や溶接部位を含んだ溶接用の作業プログラムを内蔵しており、作業開始指令があると、このプログラムを実行して、ロボット1と溶接ヘッド2の運転をコントロールする。
溶接作業では、ロボット1が溶接ヘッド2を動かして、定置したワーク7(図3)を電極輪3,4の間に位置決めする。次いで、前述した加圧機構の駆動の下に、電極輪3が固定側の電極輪4へ向けて押し付けられ、両電極輪の間にワーク7を挟み込む。この状態で、電極輪3,4がモータ5,6の駆動により互いに反対方向へ回転され、この回転に合わせて、ロボット1が電極輪3,4をワーク7の溶接部位に沿って移動させる。同時に、電極輪3,4に前述の溶接機から溶接電流が印可され、ワーク7の所望部位を溶融させてシーム溶接する。
【0014】
次に、制御ユニット8の作業プログラムとその処理について説明する。
制御ユニット8には、固定側電極輪4のワーク7との接触位置を、多関節ロボットのツール先端(TCP)として登録し、ツール先端における座標系を、図2に示すように設定する。
図3のような板厚Wのワーク7については、ワークの一方の面(図示例では下面)に沿って溶接線Lを設定する。この溶接線Lに対して電極輪3,4の回転中心を結んだ直線Iが直交するようにロボット1の移動軌跡を教示し、溶接用の作業プログラムを作成する。このように教示を行うことによって、ツール先端が固定側電極輪4のワーク7との接触点となり、ツール先端座標においてツール先端からZ方向にワークの板厚W分だけ離れた位置が加圧側電極輪3のワーク7との接触点となる。ロボット1のツール先端速度は溶接速度と等しいため、溶接速度をツール先端速度として教示する。また、制御ユニット7には、ワーク7の板厚Wを予め記憶させておく。
【0015】
制御ユニット8は、教示された作業プログラムを再生する場合、一定周期毎に多関節ロボット1のサーボ制御部に指令する指令位置を計算する。
同時に、計算した指令位置に基づいて、ツール先端位置A2(固定側電極輪4の接触位置)、そしてツール先端座標のツール先端からワーク7の板厚WだけZ方向に離れた位置B2(加圧側電極輪3の接触位置)を求める。これらの位置を、前回周期で計算した同様な固定側電極輪の接触位置A1および加圧側電極輪の接触B1と比較して、A2とA1の距離dA、B2とB1の距離dBを求める。距離dAが固定側電極輪4のワーク7上の移動量となり、距離dBが加圧側電極輪3の移動量となる。
【0016】
制御ユニット8は、上記のように計算した移動量に見合う回転量を算出し、電極輪3,4の回転指令としてサーボモータに指令する。こうして、3次元状に湾曲したワーク部分を溶接する場合であっても、各電極輪3,4はワーク上の移動距離に見合った回転で駆動され、前述したような引張力を生ずることなく、割れなどの無い良好なシーム溶接を行うことができる。
【0017】
以上、本発明を図示の実施例に基づいて説明したが、本発明はこの特定の形態のみに限定されず、添付した特許請求の範囲に記載する定義内で、説明した形態に種々の変更を施すことができ、或いは本発明は別の形態を採り得るものである。
例えば、電極輪の摩耗に備えて、摩耗量を検知して制御ユニット8に取り込むようにしてもよい。このような構成により、電極輪の摩耗量がわかるために、摩耗した回転半径とワークの移動量に基づいて、摩耗に見合った回転指令を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例によるロボット・シーム溶接装置を概略的に示す図。
【図2】図1の装置の制御ユニットに設定するツール先端座標系を示す略図。
【図3】図1の装置の制御ユニットによる電極輪の回転制御を説明するための略図。
【符号の説明】
【0019】
1 多関節ロボット
2 溶接ヘッド
3,4 電極輪
7 被溶接物(ワーク)
8 制御ユニット
A1,A2,B1,B2 指令位置
dA,dB 移動距離
L 溶接線
W 被溶接物の厚み


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多関節ロボットに搭載した一対の電極輪で被溶接物を挟み、これら電極輪を回転させるとともに、予め教示された被溶接物の溶接線上の位置をロボットに周期的に指令して電極輪をこの溶接線に沿って移動させながら溶接電流を通して被溶接物のシーム溶接を行うロボット・シーム溶接方法において、
周期的に算出する指令位置に基づいて被溶接物上の各電極輪の移動距離を求め、この移動距離に見合う速度で当該電極輪を回転させることを特徴とするロボット・シーム溶接方法。
【請求項2】
請求項1による方法において、前記溶接線は被溶接物の一方の表面上に設定し、被溶接物の他方の表面における電極輪の接触位置を、この溶接線から被溶接物の厚みだけ離れた位置として求める、ロボット・シーム溶接方法。
【請求項3】
多関節ロボットと、この多関節ロボットに搭載した一対の円形の電極輪と、これらロボットと電極輪の作動を制御する制御ユニットとを含み、この制御ユニットは、予め教示された被溶接物の溶接線を記憶し、電極輪で被溶接物を挟み、これら電極輪を回転させるとともに、記憶した溶接線上の位置をロボットに周期的に指令して電極輪をこの溶接線に沿って移動させながら溶接電流を通して被溶接物のシーム溶接を行うロボット・シーム溶接装置において、
前記制御ユニットはさらに被溶接物の厚みを記憶し、周期的に算出する指令位置に基づいて被溶接物上の各電極輪の移動距離を求め、この移動距離に見合う速度で当該電極輪を回転させることを特徴とする、ロボット・シーム溶接装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−82087(P2006−82087A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−266275(P2004−266275)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(000005197)株式会社不二越 (625)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】