説明

ロボット

【課題】角速度センサーのバイアスドリフトの影響を除去するとともに外乱等によるノイズの影響を除去し、高精度な制御を行うことが可能なロボットを提供する。
【解決手段】基体に対して回転運動可能なリンクと、リンクを駆動するアクチュエーターと、アクチュエーターのトルクをリンクに所定の減速比で伝達するトルク伝達機構と、アクチュエーターの回転角度を検出する角度センサーと、基体に対する前記リンクの角速度を検出する角速度センサーと、所定の減速比と回転角度との積のうちカットオフ周波数以下の低周波数成分及び角速度の積分値のうちカットオフ周波数以上の高周波数成分を用いるとともに高周波数成分において特定の周波数特性を有するフィルタを用いてリンクの角度を算出する演算部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
多リンク構造を有するロボットには、各リンクを駆動させるアクチュエーター(例えば、電動モーター)と、各アクチュエーターの回転角度を検出する角度センサー(例えば、エンコーダ)とを備えて構成されている。従来、アクチュエーターの回転角度を制御して、間接的に各リンクの回転角度を制御する技術が用いられている。しかしながら、アクチュエーターのトルクをリンクへ伝達するトルク伝達機構は、一般に剛体ではなくバネ特性を有する。よって、多リンク機構を有するロボットにおいては、アクチュエーターやリンクが機械的な共振特性を有し、互いに振動してしまうという問題がある。
【0003】
このような問題点を解決するための技術が各種開発されており、例えば、特許文献1では、2次モード以上の高周波数成分を除去し1次モード周波数成分及び直流成分を通過させるローパスフィルタを用いている。すなわち、ローパスフィルタにより2次モード以上の加速度信号をカットし、2次モード以上の振動が励起されてアームが振動しまうことを抑制してアームの正確な位置決めを可能にしている。
また、特許文献2では、ワークの掴み部(チャック部)近傍に慣性センサーを設けてチャック部の動作(振れ状態)を検出している。そして、慣性センサー及び各アームの関節となる駆動体に接続された制御回路に指令信号が入力されることにより、各アームの駆動を制御してチャック部の振れの制振を行っている。
【0004】
これら特許文献1及び2では、アクチュエーターやリンクが互いに振動することを防止することができるが、慣性センサーのバイアスドリフトの影響によって速度偏差や位置偏差などの定常偏差(オフセット)が生じる問題がある。これに対して、特許文献3では、角速度の積分値のうちカットオフ周波数以上の高周波数成分と、アクチュエーターの回転角度とトルク伝達機構の所定の減速比との積のうちカットオフ周波数以下の低周波数成分とを用いることで、角速度センサーのバイアスドリフトの影響を除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−173116号公報
【特許文献2】特開平7−9374号公報
【特許文献3】特開2005−242794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜3では、慣性センサーのバイアスドリフトの影響以外のその他外乱等によるノイズの影響が考慮されていない。このため、外乱等によるノイズの影響によって定常偏差(オフセット)が生じ、高精度な制御を行うことができなくなる。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、角速度センサーのバイアスドリフトの影響を除去するとともに外乱等によるノイズの影響を除去し、高精度な制御を行うことが可能なロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明のロボットは、基体に対して回転運動可能なリンクと、前記リンクを駆動するアクチュエーターと、前記アクチュエーターのトルクを前記リンクに所定の減速比で伝達するトルク伝達機構と、前記アクチュエーターの回転角度を検出する角度センサーと、前記基体に対する前記リンクの角速度を検出する角速度センサーと、所定の減速比と前記回転角度との積のうちカットオフ周波数以下の低周波数成分及び前記角速度の積分値のうち前記カットオフ周波数以上の高周波数成分を用いるとともに前記高周波数成分において特定の周波数特性を有するフィルタを用いて前記リンクの角度を算出する演算部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明のロボットによれば、角速度の積分値のうちカットオフ周波数以上の高周波数成分と、アクチュエーターの回転角度とトルク伝達機構の所定の減速比との積のうちカットオフ周波数以下の低周波数成分とを用いているので、角速度センサーのバイアスドリフトの影響を除去することができる。また、角速度の積分値のうちカットオフ周波数以上の高周波数成分において特定の周波数特性を有するフィルタを用いているので、外乱等によるノイズの影響を除去することができる。したがって、角速度センサーのバイアスドリフトの影響を除去するとともに外乱等によるノイズの影響を除去し、高精度な制御を行うことが可能なロボットが提供できる。
【0010】
また、このロボットにおいては、前記フィルタが前記高周波数成分において前記リンクと前記アクチュエーターと前記トルク伝達機構とからなる系の固有周波数のうち少なくとも最も低い周波数の固有周波数よりも高い周波数を減衰させる特性を有していてもよい。
【0011】
この構成によれば、リンク、アクチュエーター、トルク伝達機構からなる系の固有周波数のうち少なくとも最も低い周波数の固有周波数よりも高い周波数が減衰されるので、制御に必要な系の固有周波数帯の信号をとりつつ、制御に必要のない外乱等によるノイズの影響の大きい周波数成分を除去することができる。したがって、ノイズの影響の少ない高精度の制御を行うことができる。
【0012】
また、このロボットにおいては、前記フィルタが前記高周波数成分において前記系の固有周波数のうち少なくとも測定対象となる周波数の固有周波数のゲインが相対的に大きい特性を有していてもよい。
【0013】
この構成によれば、リンク、アクチュエーター、トルク伝達機構からなる系の固有周波数のうち少なくとも測定対象となる固有周波数のゲインが相対的に大きいので、系の測定したい部分においてセンサーの感度を高める効果があり、リンクやアクチュエーターの振動を強調して測定を行うことが可能となる。したがって、強調して測定された振動のデータを基に制御を行うことで、リンクやアクチュエーターの振動を確実に抑制することができる。
【0014】
また、このロボットにおいては、前記フィルタが前記高周波数成分において電気的な外乱ノイズのうち少なくとも最もエネルギー強度の大きい周波数の外乱ノイズのゲインが相対的に小さい特性を有していてもよい。
【0015】
この構成によれば、電気的な外乱ノイズのうち少なくとも最もエネルギー強度の大きい周波数の外乱ノイズのゲインが相対的に小さくなる。このため、センサーで検出したくない部分においてセンサーの感度が低くされるので、外乱ノイズなどの制御に必要のない信号を確実に除去することができる。したがって、格段に高精度な制御を行うことが可能となる。
【0016】
また、このロボットにおいては、前記フィルタが前記高周波数成分において外部からの物理的な振動のうち少なくとも最もエネルギー強度の大きい周波数の物理的な振動のゲインが相対的に小さい特性を有していてもよい。
【0017】
この構成によれば、外部からの物理的な振動のうち少なくとも最もエネルギー強度の大きい周波数の物理的な振動のゲインが相対的に小さくなる。このため、センサーで検出したくない部分においてセンサーの感度が低くされる効果があるので、物理的な振動などの制御に必要のない信号を確実に除去することが可能となる。したがって、格段に高精度な制御を行うことが可能となる。
【0018】
また、このロボットにおいては、前記フィルタが前記高周波数成分において前記ロボットの筐体または設置台の固有周波数のうち少なくとも最もエネルギー強度の大きい周波数の固有周波数のゲインが相対的に小さい特性を有していてもよい。
【0019】
この構成によれば、ロボットの筐体または設置台の固有周波数のうち少なくとも最もエネルギー強度の大きい周波数の固有周波数のゲインが相対的に小さくなる。このため、センサーで検出したくない部分においてセンサーの感度が低くされる効果があるので、筐体または設置台の固有周波数などの制御に必要のない信号を確実に除去することが可能となる。したがって、格段に高精度な制御を行うことが可能となる。
【0020】
また、このロボットにおいては、前記角速度センサーに振動型ジャイロを用いる場合であって、前記フィルタが前記高周波数成分において前記振動型ジャイロの駆動周波数、検出周波数、離調周波数、または素子の固有周波数のうち少なくとも最もエネルギー強度の大きい周波数の駆動周波数、検出周波数、離調周波数、または素子の固有周波数のゲインが相対的に小さい特性を有していてもよい。
【0021】
この構成によれば、角速度センサーに振動型ジャイロを用いる場合、振動型ジャイロの駆動周波数、検出周波数、離調周波数、または素子の固有周波数のうち少なくとも最もエネルギー強度の大きい周波数の駆動周波数、検出周波数、離調周波数、または素子の固有周波数のゲインが相対的に小さくなる。このため、センサーで検出したくない部分においてセンサーの感度が低くされる効果があるので、振動型ジャイロの駆動周波数、検出周波数、離調周波数、または素子の固有周波数などの制御に必要のない信号を確実に除去することが可能となる。したがって、格段に高精度な制御を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るロボットを模式的に示す図である。
【図2】リンクの角度を算出する過程を示すフローチャート図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るフィルタの周波数特性を示すグラフである。
【図4】本発明の第2実施形態に係るフィルタの周波数特性を示すグラフである。
【図5】本発明の第3実施形態に係るフィルタの周波数特性を示すグラフである。
【図6】図5に続くフィルタの周波数特性を示すグラフである。
【図7】リンクの角度を算出する過程の変形例を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。かかる実施の形態は、本発明の一態様を示すものであり、この発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等が異なっている。
【0024】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態における角速度センサー12,13が設けられたロボット100の模式断面図である。図1に示すように、ロボット100は、架台(基体)1と、リンク3,8と、モーター(アクチュエーター)4,9と、減速機(トルク伝達機構)5,11と、角度センサー6,10と、角速度センサー12,13と、演算部15と、を備えて構成されている。
【0025】
架台1の上部にはリンク3の一端が取り付けられており、リンク3の他端にはリンク8の一端が取り付けられている。リンク3は、軸2を中心として架台1に対して相対的に回転運動可能になっている。リンク8は、軸7を中心としてリンク3に対して相対的に回転運動可能になっている。
【0026】
モーター4は、減速機5を介してリンク3を駆動するものである。モーター9は、減速機11を介してリンク8を駆動するものである。ここで、減速機5における所定の減速比をN1、減速機11における所定の減速比をN2とする。
【0027】
角度センサー6は、モーター4の頂部に設けられている。角度センサー6は、軸2の回りにおけるモーター4の回転角度Θm1を検出する機能を有する。角度センサー10は、モーター9の頂部に設けられている。角度センサー10は、軸7の回りにおけるモーター9の回転角度Θm2を検出する機能を有する。
【0028】
角速度センサー12は、リンク3の他端に設けられている。角速度センサー12は、架台1に対するリンク3の角速度w1を検出する機能を有する。角速度センサー13は、リンク8の他端に設けられている。角速度センサー13は、架台1に対するリンク8の角速度w2を検出する機能を有する。なお、架台1に対するリンク3の角速度w1は、リンク3の回転面内の角速度成分である。また、架台1に対するリンク8の角速度w2は、リンク8の回転面内の角速度成分である。
【0029】
演算部15は、架台1の近傍に設けられている。演算部15は、モーター4,9の回転角度Θm1,Θm2と所定の減速比N1,N2との積Θm1・N1,Θm2・N2のうちカットオフ周波数以下の低周波数成分及び角速度w1,(w2−w1)の積分値のうちカットオフ周波数以上の高周波数成分を用いるとともに高周波数成分において特定の周波数特性を有するフィルタを用いてリンクの角度ΘA1,ΘA2を算出する機能を有する。
【0030】
なお、本実施形態においては、リンク、モーター、減速機、角度センサー、角速度センサーがそれぞれ2つ設けられているが、これに限らない。例えば、リンク、モーター、減速機、角度センサー、角速度センサーがそれぞれ1つずつ設けられていてもよく、あるいは3つ以上など任意の数が設けられていてもよい。
【0031】
また、角速度センサー12,13は、それぞれリンク3,8の先端に配置されているが、これに限らない。例えば、角速度センサー12,13は、それぞれリンク3,8の任意の位置に配置されていてもよい。また、演算部15は、架台1の近傍に配置されているが、これに限らない。例えば、演算部15は、ロボット100の外部など任意の位置に配置されていてもよい。
【0032】
図2は、リンク3の角度ΘA1、リンク8の角度ΘA2を算出する過程を示すフローチャート図である。ステップS1及びS6以外の演算処理は、ロボット100内に配置された演算部15が実行してもよく、または、ロボット100の外部に設けられた演算部15が実行してもよい。
【0033】
先ず、角速度センサー12によって架台1に対するリンク3の角速度w1が検出される。また、角速度センサー13によって架台1に対するリンク8の角速度w2が検出される(S1)。
【0034】
次に、演算部15によって、リンク3の単独の角速度dΘA1/dtが算出される。また、演算部15によってリンク8の単独の角速度dΘA2/dtが算出される。角速度w1及びw2は、それぞれ架台1に対するリンク3及び8の角速度であるので、角速度dΘA1/dt及びdΘA2/dtは、以下の式(1)のように表すことができる。
【0035】
dΘA1/dt=w1, dΘA2/dt=w2−w1 ……(1)
【0036】
次に、演算部15によって、リンクの角速度dΘA1/dt及びdΘA2/dtが積分される(S3)。
【0037】
次に、これらの積分結果がハイパスフィルタFHに通過されるとともに特定の周波数成分を有するフィルタに通過される(S4)。これにより、リンクの角度ΘA1及びΘA2のうちカットオフ周波数1/Tf以上の高周波数成分が得られる。
【0038】
ここで、リンクの角度ΘA1及びΘA2のうち低周波数成分を除去する理由は、リンクの角速度dΘA1/dt及びdΘA2/dtの積分ではバイアスドリフトの影響によりリンクの角度ΘA1及びΘA2を正確に求めることができないので、このバイアスドリフトの影響を除去するためである。また、リンクの角度ΘA1及びΘA2が特定の周波数成分を有するフィルタに通過される理由は、リンクの角速度dΘA1/dt及びdΘA2/dtの積分では外乱等によるノイズの影響によりリンクの角度ΘA1及びΘA2を正確に求めることができないので、この外乱等によるノイズの影響を除去するためである。
【0039】
一方、ロボット100が停止あるいは極低周波帯域で動作している場合には、減速機5,11はほとんど捩れないので以下の式(2)が成り立つ。
【0040】
ΘA1=Θm1・N1,ΘA2=Θm2・N2 ……(2)
【0041】
そこで、角度センサー6によってモーター角度Θm1が検出される。また、角度センサー10によってモーター角度Θm2が検出される(S6)。
【0042】
次に、演算部15によって、所定の減速比N1(N1<1)がモーター角度Θm1に乗算され、Θm1・N1が算出される。また、演算部15によって、所定の減速比N2(N2<1)がモーター角度Θm2に乗算され、Θm2・N2が算出される(S7)。
【0043】
次に、これらの算出結果がローパスフィルタFLに通過される(S8)。これにより、リンクの角度ΘA1及びΘA2のうちカットオフ周波数1/Tf以下の低周波数成分が得られる。ここで、リンクの角度ΘA1及びΘA2の高周波数成分を除去する理由は、高周波数成分では減速機5,11が捩れるため式(2)が成立しなくなるからである。
【0044】
ハイパスフィルタFHのフィルタ係数をHFとし、ローパスフィルタFLのフィルタ係数をLFとすると、以下の式(3)が成り立つ。
【0045】
HF=1−LF ……(3)
【0046】
このように、式(3)の関係を有するハイパスフィルタFH及びローパスフィルタFLを用いることによって、ステップS1〜S4により得られたリンクの角度ΘA1及びΘA2の高周波数成分と、ステップS6〜S8により得られたリンクの角度ΘA1及びΘA2の低周波数成分と、を加算することができる(S10)。この演算によって、架台1に対するリンク3の角度ΘA1及びリンク3に対するリンク8の角度ΘA2を算出することができる。
【0047】
さらに、ステップS2において得られた角速度dΘA1/dt及びdΘA2/dtを1回近似微分することによって、リンク3及び8の角加速度dΘA1/dt及びdΘA2/dtを算出することができる(S5)。また、ステップS6において得られたモーター角度Θm1及びΘm2を1回近似微分することによって、モーター4及び10のモーター角速度dΘm1/dt及びdΘm2/dtを算出することができる(S9)。
【0048】
このように、1回積分または1回微分によって、モーター角度Θm1及びΘm2、モーター角速度dΘm1/dt及びdΘm2/dt、リンクの角度ΘA1及びΘA2、リンクの角速度dΘA1/dt及びdΘA2/dt、リンクの角加速度dΘA1/dt及びdΘA2/dtを求めることができる。すなわち、バイアスドリフトの影響を受けやすくなる2回積分または2回微分を必要としないので、正確な制御を行うことができる。
【0049】
図3は、本実施形態に係るフィルタの周波数特性を示すグラフである。図3(a)は、リンクとモーターと減速機とからなる系の応答特性、図3(b)は、本実施形態に係るフィルタ特性を示している。図3は、横軸に周波数、縦軸にゲインを示したグラフである。図3において、符号f0はリンクとモーターと減速機とからなる系の固有周波数帯のうちの測定対象部、符号f1は第1カットオフ周波数、符号f2は第2カットオフ周波数である。なお、第1カットオフ周波数f1及び第2カットオフ周波数f2はf1<f2の関係を有している。
【0050】
図3(a)に示すように、リンクとモーターと減速機とからなる系の固有周波数が3箇所に生じている。図3(b)に示すように、本実施形態に係るフィルタは、3箇所に生じている系の固有周波数のうち少なくとも最も低い周波数の固有周波数よりも高い周波数を減衰させる特性を有する。これにより、振動への寄与の大きい最も低い固有振動数を測定しつつ、制御に必要のない外乱等によるノイズの影響の大きい周波数成分を除去することができる。
【0051】
また、第1カットオフ周波数f1と第2カットオフ周波数f2との間の帯域には、制御に必要のない外乱等によるノイズの影響が除かれた系の固有周波数帯となっている。測定対象部f0は第1カットオフ周波数f1と第2カットオフ周波数f2との間の帯域に含まれている。このため、第1カットオフ周波数f1と第2カットオフ周波数f2との間において、制御に必要な系の固有周波数帯の信号をとることができる。
【0052】
本発明のロボット100によれば、リンクの角速度dΘA1/dt及びdΘA2/dtの積分値のうちカットオフ周波数1/Tf以上の高周波数成分と、モーターの回転角度と減速機の所定の減速比との積Θm1・N1及びΘm2・N2のうちカットオフ周波数1/Tf以下の低周波数成分とを用いているので、角速度センサー12,13のバイアスドリフトの影響を除去することができる。また、リンクの角速度dΘA1/dt及びdΘA2/dtの積分値のうちカットオフ周波数1/Tf以上の高周波数成分において特定の周波数特性を有するフィルタを用いているので、外乱等によるノイズの影響を除去することができる。したがって、角速度センサー12,13のバイアスドリフトの影響を除去するとともに外乱等によるノイズの影響を除去し、高精度な制御を行うことが可能なロボット100が提供できる。
【0053】
また、この構成によれば、リンクとモーターと減速機とからなる系の固有周波数のうち少なくとも最も低い周波数の固有周波数よりも高い周波数が減衰されるので、制御に必要な系の固有周波数帯の信号をとりつつ、制御に必要のない外乱等によるノイズの影響の大きい周波数成分を除去することができる。したがって、ノイズの影響の少ない高精度の制御を行うことができる。
【0054】
(第2実施形態)
図4は、本発明の第2実施形態に係るフィルタの周波数特性を示すグラフである。図4は、図3(b)に対応した、第2実施形態におけるフィルタ特性を示したグラフである。図4に示すように、本実施形態のフィルタは特定の帯域においてゲインを大きくする特性を有する点で、上述の第1実施形態で説明したフィルタと異なっている。その他の点は第1実施形態と同様であるので、図3(b)と同様の要素には同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0055】
図4に示すように、本実施形態に係るフィルタは、第1カットオフ周波数f1以上の高周波数成分において系の固有周波数のうち少なくとも測定対象となる周波数の固有周波数のゲインが相対的に大きい特性を有する。言い換えると、フィルタは第1カットオフ周波数f1以上の高周波数成分における特定の帯域においてゲインを相対的に大きくし、このゲインが相対的に大きくなった帯域に測定対象部f0が含まれるようにしている。なお、特定の帯域においてゲインを大きくすることは、特定の帯域でセンサーの感度を高くすることと等価である。
【0056】
本実施形態の構成によれば、系の固有周波数のうち少なくとも測定対象となる固有周波数のゲインが相対的に大きいので、系の測定したい部分においてセンサーの感度を高める効果があるため、リンク3,8やモーター4,10の振動を強調して測定を行うことが可能となる。したがって、強調して測定された振動のデータを基に制御を行うことで、リンク3,8やモーター4,10の振動を確実に抑制することができる。
【0057】
(第3実施形態)
図5及び図6は、本発明の第3実施形態に係るフィルタの周波数特性を示すグラフである。図5(a)は、ノイズのエネルギー強度、図5(b)は、本実施形態に係るフィルタ特性を示している。図5(b)及び図6は、図3(b)に対応した、第3実施形態におけるフィルタ特性を示したグラフである。図5及び図6に示すように、本実施形態のフィルタは特定の帯域においてゲインを小さくする特性を有する点で、上述の第1実施形態で説明したフィルタと異なっている。その他の点は第1実施形態と同様であるので、図3(b)と同様の要素には同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0058】
図5(b)及び図6に示すように、本実施形態に係るフィルタは、第1カットオフ周波数f1以上の高周波数成分において電気的な外乱ノイズのうち少なくとも最もエネルギー強度の大きい周波数の外乱ノイズのゲインが相対的に小さい特性を有する。本実施形態では、フィルタは第2カットオフ周波数f2の帯域においてゲインを相対的に小さくし、このゲインが相対的に小さくなった帯域に外乱ノイズが含まれるようにしている。なお、特定の帯域においてゲインを小さくすることは、特定の帯域でセンサーの感度を低くすることと等価である。
【0059】
つまり、図5に示すように、本実施形態のフィルタにより、電気的な外乱ノイズはゲインが相対的に小さくされた第2カットオフ周波数f2の帯域近傍に含まれる。これにより、電気的な外乱ノイズをゲインが相対的に小さくなった帯域にもっていくことができる。
【0060】
本実施形態の構成によれば、電気的な外乱ノイズのうち少なくとも最もエネルギー強度の大きい周波数の外乱ノイズのゲインが相対的に小さくなる。このため、センサーで検出したくない部分においてセンサーの感度が低くされるので、外乱ノイズなどの制御に必要のない信号を確実に除去することができる。したがって、格段に高精度な制御を行うことが可能となる。
【0061】
なお、本実施形態においては、フィルタの電気的な外乱ノイズのゲインが相対的に小さい例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、電気的な外乱ノイズに替えて、外部からの物理的な振動、ロボットの筐体または設置台の固有周波数、などのセンサーで検出したくない信号においても適用可能である。また、角速度センサーに振動型ジャイロを用いる場合にあっては、振動型ジャイロの駆動周波数、検出周波数、離調周波数、または素子の固有周波数、などのセンサーで検出したくない信号においても適用可能である。
【0062】
(変形例)
図7は、リンクの角度を算出する過程の変形例を示すフローチャート図である。図7は、図2に対応した、リンクの角度の算出過程の変形例を示したフローチャート図である。図7に示すように、本変形例のリンクの角度の算出過程は、リンクの角速度dΘA1/dt及びdΘA2/dtの積分値のうちカットオフ周波数1/Tf以上の高周波数成分と、モーターの回転角度と減速機の所定の減速比との積Θm1・N1及びΘm2・N2のうちカットオフ周波数1/Tf以下の低周波数成分とを用いた後に、特定の周波数特性を持ったフィルタを用いる点で、上述の第1実施形態で説明したリンクの角度の算出過程と異なっている。その他の点は第1実施形態と同様であるので、図2と同様の要素には同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0063】
本変形例のステップS4においては、バイアスドリフトを除去するために、演算部15によって、リンクの角速度dΘA1/dt及びdΘA2/dtの積分結果がハイパスフィルタFHに通過される。これにより、リンクの角度ΘA1及びΘA2のうちカットオフ周波数1/Tf以上の高周波数成分が得られる。ステップS1〜S4により得られたリンクの角度ΘA1及びΘA2の高周波数成分と、ステップS6〜S8により得られたリンクの角度ΘA1及びΘA2の低周波数成分とが加算され、外乱等によるノイズの影響を除去するために、特定の周波数特性を持ったフィルタに通過される(S10)。この演算によって、架台1に対するリンク3の角度ΘA1及びリンク3に対するリンク8の角度ΘA2が算出される(S11)。
【0064】
このように、ハイパスフィルタFH及びローパスフィルタFLを用いることによって、ステップS1〜S4により得られたリンクの角度ΘA1及びΘA2の高周波数成分と、ステップS6〜S8により得られたリンクの角度ΘA1及びΘA2の低周波数成分と、が加算された後に、特定の周波数特性を持ったフィルタを用いる場合であっても、角速度センサー12,13のバイアスドリフトの影響を除去するとともに外乱等によるノイズの影響を除去し、高精度な制御を行うことができる。
【符号の説明】
【0065】
1…架台(基体)、3,8…リンク、4,9…モーター(アクチュエーター)、5,11…減速機(トルク伝達機構)、6,10…角度センサー、12,13…角速度センサー、100…ロボット、w1,w2…リンクの角速度、ΘA1,ΘA2…リンクの角度、Θm1,Θm2…モーターの回転角度、1/Tf…カットオフ周波数、N1,N2…減速比

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体に対して回転運動可能なリンクと、
前記リンクを駆動するアクチュエーターと、
前記アクチュエーターのトルクを前記リンクに所定の減速比で伝達するトルク伝達機構と、
前記アクチュエーターの回転角度を検出する角度センサーと、
前記基体に対する前記リンクの角速度を検出する角速度センサーと、
前記所定の減速比と前記回転角度との積のうちカットオフ周波数以下の低周波数成分及び前記角速度の積分値のうち前記カットオフ周波数以上の高周波数成分を用いるとともに前記高周波数成分において特定の周波数特性を有するフィルタを用いて前記リンクの角度を算出する演算部と、を備えることを特徴とするロボット。
【請求項2】
前記フィルタが前記高周波数成分において前記リンクと前記アクチュエーターと前記トルク伝達機構とからなる系の固有周波数のうち少なくとも最も低い周波数の固有周波数よりも高い周波数を減衰させる特性を有することを特徴とする請求項1に記載のロボット。
【請求項3】
前記フィルタが前記高周波数成分において前記系の固有周波数のうち少なくとも測定対象となる周波数の固有周波数のゲインが相対的に大きい特性を有することを特徴とする請求項2に記載のロボット。
【請求項4】
前記フィルタが前記高周波数成分において電気的な外乱ノイズのうち少なくとも最もエネルギー強度の大きい周波数の外乱ノイズのゲインが相対的に小さい特性を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のロボット。
【請求項5】
前記フィルタが前記高周波数成分において外部からの物理的な振動のうち少なくとも最もエネルギー強度の大きい周波数の物理的な振動のゲインが相対的に小さい特性を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のロボット。
【請求項6】
前記フィルタが前記高周波数成分において前記ロボットの筐体または設置台の固有周波数のうち少なくとも最もエネルギー強度の大きい固有周波数のゲインが相対的に小さい特性を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のロボット。
【請求項7】
前記角速度センサーに振動型ジャイロを用いる場合であって、前記フィルタが前記高周波数成分において前記振動型ジャイロの駆動周波数、検出周波数、離調周波数、または素子の固有周波数のうち少なくとも最もエネルギー強度の大きい駆動周波数、検出周波数、離調周波数、または素子の固有周波数のゲインが相対的に小さい特性を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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